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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146111
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】バインダー樹脂及び電池
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/02 20060101AFI20241004BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20241004BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08F299/02
C08G64/02
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058831
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 康貴
(72)【発明者】
【氏名】橋本 紗英
(72)【発明者】
【氏名】森岡 孝至
(72)【発明者】
【氏名】合田 英生
【テーマコード(参考)】
4J029
4J127
5H050
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB07
4J029AE18
4J029GA02
4J029GA04
4J029HC07
4J029JB252
4J029JB262
4J029JB302
4J029KH01
4J127AA01
4J127AA03
4J127BB041
4J127BB081
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD111
4J127BE311
4J127BE31Y
4J127BF261
4J127BF26Y
4J127BF271
4J127BF27Y
4J127BG04Y
4J127BG101
4J127BG10Y
4J127BG121
4J127BG12X
4J127FA00
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CB07
5H050CB09
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA28
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れたバインダー樹脂の提供。
【解決手段】バインダー樹脂であって、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶媒に対する膨潤度が、200%以上1000%未満である、バインダー樹脂。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂であって、
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶媒に対する膨潤度が、200%以上1000%未満である、
バインダー樹脂。
【請求項2】
請求項1に記載のバインダー樹脂において、
前記バインダー樹脂を含むバインダー樹脂含有組成物を調製し、金属箔上に前記バインダー樹脂含有組成物からなる被覆層を設けた積層体を作製した後、前記積層体を前記混合溶媒に、撹拌せずに、温度23℃で、24時間浸漬したとき、前記被覆層が、破壊する現象及び前記金属箔から剥離する現象が発生しない、
バインダー樹脂。
【請求項3】
請求項2に記載のバインダー樹脂において、
前記金属箔が、銅箔又はアルミニウム箔であり、
前記混合溶媒に浸漬したとき、前記被覆層が、前記金属箔から剥離する現象が発生しない、
バインダー樹脂。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバインダー樹脂において、
下記一般式(1)で表される構成単位、及び、1.0モル%超20.0モル%以下の下記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体を含む、
バインダー樹脂。
【化1】

(前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、Rは、水素原子、炭素数1以上8以下のアルキル基、又は炭素数1以上8以下のアルコキシアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(2-1)、下記構造式(2-2)、及び下記構造式(2-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。)
【化2】
【請求項5】
請求項4に記載のバインダー樹脂において、
前記一般式(2)における-L-Xが、下記構造式(2-4)、下記構造式(2-5)、及び下記構造式(2-6)で表される基のうちのいずれかの反応性基である、
バインダー樹脂。
【化3】
【請求項6】
請求項4に記載のバインダー樹脂において、
前記共重合体が、0.1モル%以上30.0モル%以下の下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位をさらに含む、
バインダー樹脂。
【化4】

(前記一般式(3)及び前記一般式(4)において、Rは、水素原子、炭素数1以上8以下のアルキル基、又は炭素数1以上8以下のアルコキシアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(4-1)、下記構造式(4-2)、及び下記構造式(4-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。)
【化5】
【請求項7】
請求項4に記載のバインダー樹脂において、
前記共重合体に対し、下記一般式(5-1)及び下記一般式(5-2)からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸基含有(メタ)アクリレート化合物をさらに共重合させてなる、
バインダー樹脂。
【化6】

【化7】

(前記一般式(5-1)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基であり、前記一般式(5-2)において、Rは、水素原子又はメチル基であり、Lは、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。)
【請求項8】
請求項7に記載のバインダー樹脂において、
前記共重合体100モル部に対して、0.2モル部以上15.0モル部以下の前記リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物を共重合させてなる、
バインダー樹脂。
【請求項9】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバインダー樹脂を含む、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー樹脂及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
バインダー樹脂は、有機材料及び無機材料等の材料と混合させることで、有機材料及び無機材料等の材料を結着させることが可能である。
【0003】
特許文献1には、特定の化学式で表される繰り返し単位を含むポリアルキレンカーボネート樹脂が記載されている。
【0004】
特許文献2には、蓄電デバイスに使用される電極を作製するためのバインダー組成物が記載されている。特許文献2に記載されるバインダー組成物は、重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、前記重合体(A)が重合体粒子であり、前記重合体粒子の動的光散乱法により測定された平均粒子径(DA)と、前記重合体粒子のTEM観察により測定された平均粒子径(DB)と、の比(DA/DB)の値が2~10である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6023893号公報
【特許文献2】国際公開第2016/039067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バインダー樹脂は、様々な用途に使用されており、例えば、電池分野の材料にも使用されている。バインダー樹脂は、例えば、二次電池の電極を構成する合材層に用いられている。二次電池の電極は、一般的に、集電体と合材層とを備えており、合材層は、例えば、活物質とバインダー樹脂とを含有している。合材層にバインダー樹脂が含有されていることにより、合材層と集電体との密着性及び合材層に含まれる活物質の結着性等の特性が得られる。
【0007】
特許文献1に開示されるポリアルキレンカーボネート樹脂は、熱硬化又は使用過程で熱に露出したとき、高分子鎖のバックバイティングなどにより分解されることを抑制することができるため、より向上した熱的安定性を示すことができるとされている。
しかしながら、特許文献1に開示されるポリアルキレンカーボネート樹脂は、バインダー樹脂として機能することは記載されておらず、金属箔との密着性及び無機材料等の材料を結着させるためのバインダー樹脂として用いられることも記載されていない。さらに、特許文献1に開示されるポリアルキレンカーボネート樹脂は、二次電池の電極に用いられる材料として適した材料であることも記載されていない。
【0008】
特許文献2に記載されるバインダー組成物は、電解液膨潤度が100%から130%までの範囲であれば、当該バインダー組成物に含まれる重合体粒子が電解液に対して適度な膨潤性が得られる結果、効果的に電極抵抗を低下させて、より良好な充放電特性を実現できるとともに、結着性に優れるとされている。一方で、特許文献2に記載されるバインダー組成物は、電解液膨潤度が130%よりも高い場合には、合材層に含まれる活物質の結着性に劣り、さらに、合材層と集電体との密着性にも劣ることが開示されている。
【0009】
高性能な二次電池の一つとして、リチウムイオン等を用いた二次電池が注目されている。リチウムイオン等を用いた二次電池は、例えば、正極と、負極と、電解液と、正極及び負極の間に配置されたセパレータとを備えている。リチウムイオン等を用いた二次電池には、さらなる高性能化が要求されており、当該二次電池に用いられる材料は、種々の検討がなされている。二次電池の電極に用いられる材料も様々な検討がなされている。
【0010】
バインダー樹脂が、例えば、二次電池の合材層に用いられる場合、電解液に対してより優れた膨潤性が求められる。その一方で、バインダー樹脂は、集電体としての金属箔との密着性及び合材層中に含まれる活物質としての無機材料の結着性も求められる。このため、バインダー樹脂には、さらなる改善が求められている。
【0011】
本発明の目的は、金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れたバインダー樹脂、及び、当該バインダー樹脂を含む電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1] バインダー樹脂であって、
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶媒に対する膨潤度が、200%以上1000%未満である、
バインダー樹脂。
【0013】
[2] [1]に記載のバインダー樹脂において、
前記バインダー樹脂を含むバインダー樹脂含有組成物を調製し、金属箔上に前記バインダー樹脂含有組成物からなる被覆層を設けた積層体を作製した後、前記積層体を前記混合溶媒に、撹拌せずに、温度23℃で、24時間浸漬したとき、前記被覆層が、破壊する現象及び前記金属箔から剥離する現象が発生しない、
バインダー樹脂。
【0014】
[3] [2]に記載のバインダー樹脂において、
前記金属箔が、銅箔又はアルミニウム箔であり、
前記混合溶媒に浸漬したとき、前記被覆層が、前記金属箔から剥離する現象が発生しない、
バインダー樹脂。
【0015】
[4] [1]から[3]のいずれか一項に記載のバインダー樹脂において、
下記一般式(1)で表される構成単位、及び、1.0モル%超20.0モル%以下の下記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体を含む、
バインダー樹脂。
【0016】
【化1】
【0017】
(前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、Rは、水素原子、炭素数1以上8以下のアルキル基、又は炭素数1以上8以下のアルコキシアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(2-1)、下記構造式(2-2)、及び下記構造式(2-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。)
【0018】
【化2】
【0019】
[5] [4]に記載のバインダー樹脂において、
前記一般式(2)における-L-Xが、下記構造式(2-4)、下記構造式(2-5)、及び下記構造式(2-6)で表される基のうちのいずれかの反応性基である、
バインダー樹脂。
【0020】
【化3】
【0021】
[6] [4]又は[5]に記載のバインダー樹脂において、
前記共重合体が、0.1モル%以上30.0モル%以下の下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位をさらに含む、
バインダー樹脂。
【0022】
【化4】
【0023】
(前記一般式(3)及び前記一般式(4)において、Rは、水素原子、炭素数1以上8以下のアルキル基、又は炭素数1以上8以下のアルコキシアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(4-1)、下記構造式(4-2)、及び下記構造式(4-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。)
【0024】
【化5】
【0025】
[7] [4]~[6]のいずれか一項に記載のバインダー樹脂において、
前記共重合体に対し、下記一般式(5-1)及び下記一般式(5-2)からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸基含有(メタ)アクリレート化合物をさらに共重合させてなる、
バインダー樹脂。
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
(前記一般式(5-1)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基であり、前記一般式(5-2)において、Rは、水素原子又はメチル基であり、Lは、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。)
【0029】
[8] [7]に記載のバインダー樹脂において、
前記共重合体100モル部に対して、0.2モル部以上15.0モル部以下の前記リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物を共重合させてなる、
バインダー樹脂。
【0030】
[9] [1]から[8]のいずれか一項に記載のバインダー樹脂を含む、
電池。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れたバインダー樹脂、及び、当該バインダー樹脂を含む電池が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本実施形態に係る電池の要部の一例を模式的に表す断面図である。
図2】実施例1で製造した共重合体におけるH-NMRの測定結果を示すチャートである。
図3】実施例2で製造した共重合体におけるH-NMRの測定結果を示すチャートである。
図4】実施例3で製造した共重合体におけるH-NMRの測定結果を示すチャートである。
図5】実施例4で製造した共重合体におけるH-NMRの測定結果を示すチャートである。
図6】実施例5で製造した共重合体におけるH-NMRの測定結果を示すチャートである。
図7】実施例6で製造した共重合体におけるH-NMRの測定結果を示すチャートである。
図8】実施例7で製造した共重合体におけるH-NMRの測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について実施形態を例に挙げて説明する。本発明は実施形態の内容に限定されない。
【0034】
[バインダー樹脂]
本実施形態に係るバインダー樹脂の好ましい一例について説明する。
【0035】
本実施形態に係るバインダー樹脂は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶媒に対する膨潤度が、200%以上1000%未満である。本実施形態に係るバインダーによれば、上記構成を有することにより、金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れる。具体的には、本実施形態に係るバインダー樹脂を二次電池の電極における合材層の材料として使用したときに、本実施形態に係るバインダー樹脂は、電解液に対して優れた膨潤性を有するとともに、金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0036】
従来のバインダー樹脂は、リチウムイオン等の二次電池の合材層に使用される場合、電解液に対する膨潤性を低く抑えることによって、当該バインダー樹脂が電解液によって膨潤しても、合材層と集電体との密着性、及び合材層中の活物質同士の結着性を獲得していた。
電解液と接触した合材層は、合材層に電解液が浸透することによって、バインダー樹脂と活物質との接触領域、及び、活物質と電解液との接触領域を有すると考えられる。従来のバインダー樹脂は、電解液に対する膨潤性が低いため、イオン伝導性が発現し難い。このため、バインダー樹脂と活物質との接触領域では、電解液中に含まれるリチウムイオン等のイオン伝導性が低い。一方で、活物質と電解液との接触領域では、電解液中に含まれるリチウムイオン等のイオン伝導性が向上する。また、従来のバインダー樹脂は、電解液に対する膨潤性が低いため、当該バインダー樹脂と活物質との接触領域の面積はさほど広がらず、当該接触領域の面積は小さい。その一方で、活物質と電解液との接触領域の面積は大きい。
バインダー樹脂と活物質との接触領域では、電解液が分解し難いと考えられる。このため、活物質と電解液との接触領域では、SEI(Solid Electrolyte Interphase)層と呼ばれる電解液の分解層が形成されやすい。
従来のバインダー樹脂を合材層に用いた場合、上記のように、活物質と電解液との接触領域の面積が大きいことで、SEI層が形成される面積も大きくなるため、電解液の寿命が低下しやすい。
【0037】
これに対し、本実施形態に係るバインダー樹脂を、リチウムイオン等の二次電池の合材層に使用した場合、本実施形態に係るバインダー樹脂は、主ポリマー骨格をカーボネート骨格とする共重合体を含むことで、電解液との相溶性が向上するため、電解液に対して高い膨潤性を有する。そして、本実施形態に係るバインダー樹脂が、電解液と接触して大きく膨潤することにより、イオン伝導性が発現する。また、本実施形態に係るバインダー樹脂は、電解液に対して高い膨潤性を有するため、当該バインダー樹脂と活物質との接触領域の面積が大きくなる一方で、活物質と電解液との接触領域の面積が小さくなる。このため、本実施形態に係るバインダー樹脂を用いた場合、当該バインダー樹脂と活物質との接触領域では、イオン伝導性が発現されるとともに、電解液が分解し難いと考えられ、活物質と電解液との接触領域では、SEI層が形成される面積が抑えられると考えられる。これによって、本実施形態に係るバインダー樹脂を、リチウムイオン等の二次電池の合材層に使用した場合、本実施形態に係るバインダー樹脂は、電解液の寿命向上に寄与すると考えられ、結果として、本実施形態に係るバインダー樹脂を用いた二次電池における電池性能の向上につながると考えられる。ただし、電解液に対する膨潤性が高すぎる場合は、金属箔との密着性及び無機材料の結着性が低下しやすい。このため、本実施形態に係るバインダー樹脂は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶媒に対する膨潤度を1000%以下に抑えることで、電解液に対して膨潤し過ぎないために、金属箔との優れた密着性が得られ、無機材料同士の優れた結着性が得られる。結果として、本実施形態に係るバインダー樹脂は、リチウムイオン等の二次電池の合材層に使用された場合、電解液に対して優れた膨潤性を示しながらも、集電体との密着性及び合材層中の活物質同士の結着性に優れる。
【0038】
本実施形態に係るバインダー樹脂は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶媒に対する膨潤度が、200%以上1000%未満であることを満たせば、当該バインダー樹脂に含まれる樹脂は、特に制限されず、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。本実施形態に係るバインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、アクリルゴム、フッ素ゴム、及び多糖類高分子等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上が用いられる。これらの中でも、本実施形態に係るバインダー樹脂は、金属箔との優れた密着性が得られ、無機材料同士の優れた結着性が得られやすくなる観点で、ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましく、カーボネート骨格を有する共重合体を含むことがより好ましく、後述する一般式(1)で表される構成単位及び一般式(2)で表される構成単位を含むカーボネート骨格を有する共重合体を含有することがさらに好ましい。
【0039】
(共重合体)
以下、本実施形態に係るバインダー樹脂として適用される好ましい樹脂である、カーボネート骨格を有する共重合体の一例について説明する。
本実施形態に係るバインダー樹脂は、一態様として、下記一般式(1)で表される構成単位、及び、1.0モル%超、20.0モル%以下の下記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体を含む。前記共重合体は、下記一般式(1)で表される構成単位及び下記一般式(2)で表される構成単位の合計が、前記共重合体を構成する構成単位の全体に対して、50.0モル%以上であることが好ましい。本明細書において、下記一般式(1)で表される構成単位及び下記一般式(2)で表される構成単位を、カーボネート構造単位と称する場合がある。
【0040】
【化8】
【0041】
前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、Rは、水素原子、炭素数1以上8以下のアルキル基、又は炭素数1以上8以下のアルコキシアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(2-1)、下記構造式(2-2)、及び下記構造式(2-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。下記構造式(2-1)、下記構造式(2-2)及び下記構造式(2-3)において、波線は、Lとの結合位置を表す。
【0042】
【化9】
【0043】
前記一般式(1)において、Rは、水素原子、炭素数1以上7以下のアルキル基、又は炭素数1以上7以下のアルコキシアルキル基であることが好ましく、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、又は炭素数1以上6以下のアルコキシアルキル基であることがより好ましく、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数1以上6以下のアルコキシアルキル基であることがさらに好ましく、炭素数1以上5以下のアルキル基又は炭素数1以上5以下のアルコキシアルキル基であることが特に好ましい。
【0044】
前記一般式(1)において、Rが、炭素数1以上8以下のアルキル基である場合、当該アルキル基は、直鎖状でもよく、分岐状でもよく、脂環状でもよい。
【0045】
前記一般式(1)において、Rが、炭素数1以上8以下のアルコキシアルキル基である場合、当該アルコキシアルキル基は、-L11-O-R11で表される基である。-L11-O-R11で表される基において、L11は、単結合又は炭素数1以上7以下のアルキレン基であり、R11は、炭素数1以上8以下のアルキル基である。ただし、L11と、R11との合計炭素数が1以上8以下である。
-L11-O-R11で表される基中のL11は、単結合又は炭素数1以上6以下のアルキレン基であることが好ましく、単結合又は炭素数1以上5以下のアルキレン基であることがより好ましく、単結合又はメチレン基であることがさらに好ましい。-L11-O-R11で表される基中のL11は、直鎖状、分岐状、又は脂環状のいずれでもよい。
-L11-O-R11で表される基中のR11は、炭素数1以上7以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数1以上6以下のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1以上5以下のアルキル基であることがさらに好ましい。-L11-O-R11で表される基中のR11は、直鎖状、分岐状、又は脂環状のいずれでもよい。
【0046】
前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、L及びLは、それぞれ独立に、メチレン基又はエチレン基であることが好ましく、メチレン基であることがより好ましい。
【0047】
前記一般式(2)において、Lは、単結合、炭素数1以上4以下のアルキレン基、又は炭素数1以上4以下のオキシアルキレン基であることが好ましく、単結合、炭素数2以上4以下のアルキレン基、又は炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基であることも好ましく、単結合、炭素数1以上3以下のアルキレン基、又は炭素数1以上3以下のオキシアルキレン基であることも好ましい。
【0048】
合成の容易性の観点から、前記一般式(2)における-L-Xは、下記構造式(2-4)、下記構造式(2-5)、及び下記構造式(2-6)で表される基のうちのいずれかの反応性基であることが好ましい。下記構造式(2-4)、下記構造式(2-5)、及び下記構造式(2-6)において、波線は、下記構造式(2-4)、下記構造式(2-5)及び下記構造式(2-6)のいずれかが結合するメチレン基との結合位置を表す。
【0049】
【化10】
【0050】
前記共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。合成の容易性の観点から、前記共重合体は、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0051】
前記共重合体は、例えば、前記一般式(1)で表される構成単位と、前記一般式(2)で表される構成単位とからなる共重合体の場合には、前記一般式(1)で表される構成単位と、前記一般式(2)で表される構成単位との合計が、100モル%である。この場合、共重合体中の前記一般式(1)で表される構成単位と、前記一般式(2)で表される構成単位との比率は、以下のような構成比率となる。
【0052】
前記一般式(2)で表される構成単位の比率は、全ての構成単位に対して、1.0モル%超20.0モル%以下である。前記一般式(2)で表される構成単位の含有比率が1.0モル%を超えると、前記共重合体中に占める前記一般式(1)で表される構成単位の割合が高くなりすぎないため、電解液に対して膨潤し過ぎず、結果として、金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れる。前記一般式(2)で表される構成単位の含有比率が20.0モル%以下であると、前記共重合体の架橋密度が高くなりすぎないため、電解液に対する膨潤性が向上する。
同様の観点から、前記一般式(2)で表される構成単位の比率は、1.1モル%以上であることが好ましく、1.5モル%以上であることがより好ましく、1.8モル%以上であることがさらに好ましく、2.0モル%以上であることがよりさらに好ましい。前記一般式(2)で表される構成単位の比率は、19.0モル%以下であることが好ましく、18.0モル%以下であることがより好ましく、15.0モル%以下であることがさらに好ましく、12.0モル%以下であることがよりさらに好ましく、10.0モル%以下であることがよりさらに好ましく、6.0モル%以下であることがよりさらに好ましく、5.0モル%以下であることがさらになお好ましい。
【0053】
前記一般式(1)で表される構成単位の比率は、全ての構成単位に対して、80.0モル%以上、99.0モル%未満である。前記一般式(1)で表される構成単位の比率は、81.0モル%以上であることが好ましく、82.0モル%以上であることがより好ましく、85.0モル%以上であることがさらに好ましく、88.0モル%以上であることがよりさらに好ましく、90.0モル%以上であることがよりさらに好ましく、94.0モル%以上であることがよりさらに好ましく、95.0モル%以上であることがさらになお好ましい。前記一般式(1)で表される構成単位の比率は、98.9モル%以下であることが好ましく、98.5モル%以下であることがより好ましく、98.2モル%以下であることがさらに好ましく、98.0モル%以下であることがよりさらに好ましい。
【0054】
前記共重合体は、0.1モル%以上30.0モル%以下の下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位をさらに含むことも好ましい。すなわち、下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位が、0.1モル%以上30.0モル%以下であることも好ましい。つまり、下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位の合計が、前記共重合体を構成する構成単位の全体に対して、0.1モル%以上30.0モル%以下であることも好ましい。本明細書において、下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位を、エーテル構造単位と称する場合がある。
【0055】
前記共重合体は、例えば、前記一般式(1)で表される構成単位と、前記一般式(2)で表される構成単位と、下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位とからなる共重合体である場合、前記共重合体は、前記一般式(1)で表される構成単位と、前記一般式(2)で表される構成単位と、下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群から選択される少なくとも1つの構成単位との合計が、100モル%である。
【0056】
【化11】
【0057】
前記一般式(3)及び前記一般式(4)において、Rは、水素原子、炭素数1以上8以下のアルキル基、又は炭素数1以上8以下のアルコキシアルキル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、単結合又は炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、Lは、単結合、炭素数1以上5以下のアルキレン基、又は炭素数1以上5以下のオキシアルキレン基であり、Xは、下記構造式(4-1)、下記構造式(4-2)、及び下記構造式(4-3)で表される基のうちのいずれかの反応性基である。下記構造式(4-1)、下記構造式(4-2)、及び下記構造式(4-3)で表される基において、波線は、Lとの結合位置を表す。
【0058】
【化12】
【0059】
前記一般式(3)において、Rは、水素原子、炭素数1以上7以下のアルキル基、又は炭素数1以上7以下のアルコキシアルキル基であることが好ましく、水素原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、又は炭素数1以上6以下のアルコキシアルキル基であることがより好ましく、炭素数1以上6以下のアルキル基又は炭素数1以上6以下のアルコキシアルキル基であることがさらに好ましい。
【0060】
前記一般式(3)において、Rが、炭素数1以上8以下のアルキル基である場合、当該アルキル基は、直鎖状でもよく、分岐状でもよく、脂環状でもよい。
【0061】
前記一般式(3)において、Rが、炭素数1以上8以下のアルコキシアルキル基である場合、当該アルコキシアルキル基は、-L21-O-R21で表される基である。-L21-O-R21で表される基において、L21は、単結合又は炭素数1以上7以下のアルキレン基であり、R21は、炭素数1以上8以下のアルキル基である。ただし、L21と、R21との合計炭素数が1以上8以下である。
-L21-O-R21で表される基中のL21は、単結合又は炭素数1以上6以下のアルキレン基であることが好ましく、単結合又は炭素数1以上5以下のアルキレン基であることがより好ましく、単結合又はメチレン基であることがさらに好ましい。-L21-O-R21で表される基中のL21は、直鎖状、分岐状、又は脂環状のいずれでもよい。
-L21-O-R21で表される基中のR21は、炭素数1以上7以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数1以上6以下のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1以上5以下のアルキル基であることがさらに好ましい。-L21-O-R21で表される基中のR21は、直鎖状、分岐状、又は脂環状のいずれでもよい。
【0062】
前記一般式(3)及び前記一般式(4)において、L及びLは、それぞれ独立に、は、メチレン基又はエチレン基であることが好ましく、メチレン基であることがより好ましい。
【0063】
前記一般式(4)において、Lは、単結合、炭素数1以上4以下のアルキレン基、又は炭素数1以上4以下のオキシアルキレン基であることが好ましく、単結合、炭素数2以上4以下のアルキレン基、又は炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基であることが好ましく、単結合、炭素数1以上3以下のアルキレン基、又は炭素数1以上3以下のオキシアルキレン基であることも好ましい。
【0064】
合成の容易性の観点から、前記一般式(4)における-L-Xは、下記構造式(4-4)、下記構造式(4-5)及び下記構造式(4-6)で表される基のうちのいずれかの反応性基であることが好ましい。下記構造式(4-4)、下記構造式(4-5)及び下記構造式(4-6)において、波線は、下記構造式(4-4)、下記構造式(4-5)及び下記構造式(4-6)のいずれかが結合するメチレン基との結合位置を表す。
【0065】
【化13】
【0066】
本実施形態に係るバインダー樹脂における共重合体は、前記一般式(1)で表される構成単位、及び、前記一般式(2)で表される構成単位に、さらに、前記一般式(3)又は下記一般式(4)で表される構成単位のようなエーテル骨格を含む場合、共重合体のガラス転移温度が低下し、共重合体が柔軟化するため、高イオン伝導度化が期待できる。
【0067】
前記共重合体は、例えば、前記一般式(1)で表される構成単位と、前記一般式(2)で表される構成単位と、前記一般式(3)で表される構成単位と、前記一般式(4)で表される構成単位とからなる共重合体の場合には、以下のような構成比率となる。
【0068】
前記一般式(3)で表される構成単位と、前記一般式(4)で表される構成単位との合計の比率は、エーテル骨格による作用効果が十分に発揮しやすくなる観点で、共重合体を構成する全ての構成単位に対して、0.1モル%以上、30.0モル%以下であることが好ましい。一般式(3)で表される構成単位と、一般式(4)で表される構成単位との合計が、共重合体を構成する全ての構成単位に対して、30.0モル%以下であれば、エーテル骨格はカーボネート骨格に比べ電解液との相溶性が低下しやすくなる傾向にあるため、共重合体の膨潤度の低下が抑制され、イオン伝導度の低下が抑制されやすい。
同様の観点から、前記一般式(3)で表される構成単位と、前記一般式(4)で表される構成単位との合計の比率は、共重合体を構成する全ての構成単位に対して、1.0モル%以上であることが好ましく、2.0モル%以上であることがより好ましく、3.0モル%以上であることが好ましい。前記一般式(3)で表される構成単位と、前記一般式(4)で表される構成単位との合計の比率は、共重合体を構成する全ての構成単位に対して、29.0モル%以下であることより好ましく、25.0モル%以下であることがさらに好ましく、15.0モル%以下であることが特に好ましい。
【0069】
前記一般式(2)で表される構成単位の比率は、前述のとおりである。
一般式(1)で表される構成単位の比率は、全ての構成単位に対して、50.0モル%以上であることが好ましく、55.0モル%以上であることがより好ましく、60.0モル%以上であることがさらに好ましく、65.0モル%以上であることがよりさらに好ましい。一般式(1)で表される構成単位の比率は、98.9モル%未満であることが好ましく、98.9モル%以下であることがより好ましく、98.5モル%以下であることがさらに好ましく、98.0モル%以下であることがよりさらに好ましく、97.5モル%以下であることがよりさらに好ましく、97.0モル%以下であることがよりさらに好ましく、96.0モル%以下であることがよりさらに好ましく、95.0モル%以下であることがよりさらに好ましく、94.0モル%以下であることがよりさらに好ましく、92.0モル%以下であることがさらになお好ましい。
【0070】
本実施形態に係る共重合体の測定例に示す方法で測定した分子量は、重量平均分子量(Mw)で表す場合、5,000以上5,000,000以下であることが好ましく、10,000以上1,000,000以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る共重合体の測定例に示す方法で測定した分子量は、数平均分子量(Mn)で表す場合、3,000以上3,000,000以下であることが好ましく、5,000以上500,000以下であることがより好ましい。
また、重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は、1以上10以下であることが好ましく、1.1以上5以下であることがより好ましい。前記共重合体をバインダーとして用いた場合には前記共重合体の分子量及び分子量分布が上記範囲であることで、電極スラリー作製時にスラリーの粘度が適正となり、活物質及び導電助剤の沈降を抑制し、かつ活物質及び導電助剤の十分な分散性を得ることができる。
【0071】
前記共重合体は、金属箔との密着性及び無機材料の結着性により優れたバインダー樹脂が得られやすくなる点で、2-ヒドロキアルキル(メタ)アクリレートアシッドホスフェート及びビス(2-メタクリロイルオキシアルキル)アシッドホスフェートなどのリン酸基含有(メタ)アクリレート化合物をさらに共重合させることも好ましい。具体的には、前記共重合体は、下記一般式(5-1)及び下記一般式(5-2)からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸基含有(メタ)アクリレート化合物をさらに共重合させることも好ましい。前記共重合体に対して、前記リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物が共重合されると、前記共重合体の側鎖に、前記リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物に由来する構造が導入される。
【0072】
【化14】
【0073】
【化15】
【0074】
前記一般式(5-1)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、L及びLは、それぞれ独立に、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。前記一般式(5-2)において、Rは、水素原子又はメチル基であり、Lは、炭素数2以上4以下のアルキレン基である。
【0075】
前記一般式(5-1)において、R及びRは、メチル基であることが好ましい。L及びLは、それぞれ独立に、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。
前記一般式(5-2)において、Rは、メチル基であることが好ましい。Lは、エチレン基又はプロピレン基であることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。
【0076】
前記一般式(5-1)及び前記一般式(5-2)で表されるリン酸基含有(メタ)アクリレート化合物は、合成してもよく、市販品を用いてもよい。
【0077】
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」の双方を表す場合に用いる表記であり、「(メタ)アクリロイル」は、「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の双方を表す場合に用いる表記であり、他の類似用語についても同様である。
【0078】
本実施形態に係るバインダー樹脂は、膨潤度が高く、金属箔との密着性及び無機材料の結着性により優れたバインダー樹脂が得られやすくなる観点で、前記共重合体100モル部に対して、0.2モル部以上15.0モル部以下の前記リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物を共重合させてなる共重合体であることも好ましい。本実施形態に係るバインダー樹脂は、前記共重合体100モル部に対して、前記リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物を、0.3モル部以上で共重合させることが好ましく、0.5モル部以上で共重合させることがより好ましい。本実施形態に係るバインダー樹脂は、前記共重合体100モル部に対して、前記リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物を、10.0モル部以下で共重合させることが好ましく、8.0モル部以下で共重合させることがより好ましく、5.0モル部以下で共重合させることがさらに好ましく、3.0モル部以下で共重合させることが特に好ましい。
【0079】
本実施形態に係るバインダー樹脂は、前記一般式(1)で表される構成単位、及び、1.0モル%超、20.0モル%以下の前記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体、又は、前記共重合体に前記一般式(5-1)及び前記一般式(5-2)からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸基含有(メタ)アクリレート化合物をさらに共重合させてなる共重合体の他に、金属箔との密着性及び無機材料の結着性を阻害しない範囲であれば、他の重合体を含んでいてもよい。金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れたバインダー樹脂を得る観点で、本実施形態に係るバインダー樹脂は、前記一般式(1)で表される構成単位、及び、1.0モル%超、20.0モル%以下の前記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合体、又は、前記共重合体に前記一般式(5-1)及び前記一般式(5-2)からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸基含有(メタ)アクリレート化合物をさらに共重合させてなる共重合体であることが好ましい。
【0080】
(共重合体の製造方法)
前記共重合体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により得られる。前記共重合体の好ましい製造方法は、例えば、次のような方法が挙げられる。
【0081】
前記共重合体は、後述の実施例に記載のように、重合触媒の存在下、エポキシドモノマーと、二酸化炭素とを、共重合させることにより、製造することができる。具体的には、エポキシドモノマーは開環することにより、一般式(3)で表される構成単位及び一般式(4)で表される構成単位となるが、プロピレンオキシドの一部が、開環しながら二酸化炭素と重合することにより、一般式(1)で表される構成単位及び一般式(2)で表される構成単位となる。
【0082】
共重合体を製造する際に使用する重合触媒としては、特に限定されず、コバルトサレン錯体触媒等の金属サレン錯体触媒及び有機亜鉛系触媒等の複合金属シアン化物錯体触媒が例示できる。
【0083】
エポキシドモノマーと二酸化炭素との共重合反応に使用する重合触媒の使用量は、例えば、金属サレン錯体触媒を用いた場合には、エポキシドモノマー1モルに対して、0.05モル以下であることが好ましく、0.01モル以下であることがより好ましく、0.001モル以下であることが特に好ましい。
さらに、金属サレン錯体触媒を使用する場合には助触媒を使用することができる。助触媒としては、例えばオニウム塩化合物が好ましい。前記オニウム塩化合物の具体例として、特に限定されないが、高い反応活性を有する観点から、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド、ピペリジン、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムフルオリド、アンモニウムペンタフルオロベンゾエート、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムクロリドなどが好ましい。
【0084】
エポキシドモノマーと二酸化炭素との共重合反応に使用する重合触媒の使用量は、例えば、複合金属シアン化物錯体触媒(以下、DMC触媒と称する(DMC触媒:Double Metal Cyanide Complex)触媒)を用いた場合には、エポキシドモノマー1質量部に対して、0.01質量部以下であることが好ましく、0.005モル以下であることがより好ましく、0.003質量部以下であることが特に好ましい。
【0085】
なお、重合条件は、触媒の種類によっても最適条件が異なる。例えば、反応容器内の二酸化炭素の圧力は、0.1MPa以上、10MPa以下、好ましくは、0.5MPa以上、5MPa以下である。
また、重合温度は、例えば、コバルトサレン錯体触媒の場合には、触媒作用が良好に働き、反応速度が促進されるという観点から、室温(例えば、25℃以上、35℃以下)程度であることが好ましい。重合温度は、例えば、DMC触媒の場合には、40℃以上100℃以下程度であることが好ましく、50℃以上80℃以下程度であることがより好ましい。
【0086】
エポキシドモノマーと二酸化炭素とを共重合させる方法において、出発原料として用いられるエポキシドモノマーとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,2-ペンチレンオキシド、1,2-へキシレンオキシド、1,2-ヘプチレンオキシド、1,2-オクチレンオキシド、1,2-デシレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、及び4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルなどが挙げられる。なお、共重合体における一般式(1)で表される構成単位と、一般式(2)で表される構成単位とのモル比は、反応性の違いにより、一般式(1)で表される構成単位の出発原料となるエポキシドモノマーと、一般式(2)で表される構成単位の出発原料となるエポキシドモノマーとのモル基準の混合比と一致しない場合がある。
【0087】
本実施形態に係るバインダー樹脂に用いられる共重合体が、前記一般式(5-1)及び前記一般式(5-2)からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸基含有(メタ)アクリレート化合物をさらに共重合させてなる共重合体である場合、エポキシドモノマーと二酸化炭素とを共重合させることによって得られた共重合体に対して、当該リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物を共重合させる。具体的には、例えば、エポキシドモノマーと二酸化炭素とを共重合させることによって得られた共重合体100モル部に対し、0.2モル部以上15.0モル部以下の割合で、リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物を共重合させる。当該共重合体と、当該リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物との重合方法は、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等の公知の重合方法を採用すればよく、重合適性の観点からラジカル重合が好ましい。
【0088】
ラジカル重合のためには熱ラジカル開始剤を添加することが好ましく、熱ラジカル開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、及びベンゾイルペルオキシド等の有機過酸化物が挙げられる。
【0089】
(バインダー樹脂の特性)
本実施形態に係るバインダー樹脂は、前述のように、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶媒に対する共重合体の膨潤度が、200以上1000%未満である。前記混合溶媒に対する共重合体の膨潤度は、240%以上であることが好ましく、280%以上であることがより好ましく、300%以上であることがさらに好ましい。前記混合溶媒に対する共重合体の膨潤度は、999%以下であることが好ましく、990%以下であることがより好ましく、900%以下であることがさらに好ましく、700%以下であることがよりさらに好ましく、500%以下であることがさらになお好ましい。前記混合溶媒に対する共重合体の膨潤度は、23℃に調整した電解液に、23℃で、24時間浸漬後の膨潤度である。なお、前記混合溶媒に対する共重合体の膨潤度は、前記共重合体の架橋物における膨潤度である。
【0090】
本実施形態に係るバインダー樹脂を電池の電極材料に用いた場合、本実施形態に係るバインダー樹脂は、上記の混合溶媒とリチウムイオン等とを含む電解液を付与すると、共重合体を含む薄膜は膨潤する。本実施形態に係るバインダー樹脂は、電解液によって膨潤することにより、イオン伝導性を発現する。本実施形態に係るバインダー樹脂を用いて電池の性能を向上させるためには、バインダー樹脂のイオン伝導性が高いほうが好ましいため、前記混合溶媒に対する共重合体の膨潤度は、高いほうが好ましい。一方で、前記混合溶媒に対する共重合体の膨潤度は、高すぎる場合は、金属箔との密着性及び無機材料の結着性が低下する。このため、前記混合溶媒に対する共重合体の膨潤度は、1000%未満であれば、金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れる。
【0091】
本実施形態に係るバインダー樹脂は、金属箔との密着性及び無機材料の結着性により優れる。当該バインダー樹脂を含むバインダー樹脂含有組成物を調製し、金属箔上に前記バインダー樹脂含有組成物からなる被覆層を設けた積層体を作製した後、前記積層体をエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の前記混合溶媒に、撹拌せずに、温度23℃で、24時間浸漬したとき、前記被覆層が、破壊する現象及び前記金属箔から剥離する現象が発生しないことが好ましい。本実施形態に係るバインダー樹脂がこのような特性を有する場合、本実施形態に係るバインダー樹脂は、電解液に対して高い膨潤性を有するにも関わらず、本実施形態に係るバインダー樹脂を含む前記被覆層が、破壊する現象及び前記金属箔から剥離する現象が発生しない。このため、本実施形態に係るバインダー樹脂を電池の電極材料に適用した場合、電池の性能が向上する。
【0092】
また、上記で作製した、金属箔上に前記バインダー樹脂含有組成物からなる被覆層を設けた積層体において、金属箔は、銅箔又はアルミニウム箔であることが好ましい。銅箔又はアルミニウム箔の上に、前記バインダー樹脂含有組成物からなる被覆層を設けた積層体を作製した後、前記積層体をエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比が1:1の前記混合溶媒に、撹拌せずに、温度23℃で、24時間浸漬したとき、前記被覆層が、前記金属箔から剥離する現象が発生しないことが好ましい。本実施形態に係るバインダー樹脂がこのような特性を有する場合、本実施形態に係るバインダー樹脂は、電解液に対して高い膨潤性を有するにも関わらず、本実施形態に係るバインダー樹脂を含む前記被覆層が、正極集電体又は負極集電体から剥離する現象が発生しない。このため、本実施形態に係るバインダー樹脂を電池の電極材料に適用した場合、電池の性能が向上する。
【0093】
[バインダー樹脂の使用方法]
本実施形態に係るバインダー樹脂は、金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れるため、このような特性が求められる用途に適用できる。本実施形態に係るバインダー樹脂は、例えば、電池の用途に適用されることが好ましい。この場合、本実施形態に係るバインダー樹脂は、例えば、電池電極用バインダー樹脂であることが好ましく、リチウムイオン等の二次電池の電極用バインダー樹脂であることも好ましい。本実施形態に係るバインダー樹脂は、正極における合材層に用いられるバインダー樹脂として適用されてもよく、負極における合材層に用いられるバインダー樹脂として適用されてもよい。
【0094】
[電池]
次に、本実施形態に係る電池の好ましい一例について説明する。
【0095】
本実施形態に係る電池は、本実施形態に係るバインダー樹脂が適用された電池である。本実施形態に係る電池は、電池の電極を構成する材料として、本実施形態に係るバインダー樹脂を含む。電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に配置される電解質層とにより構成される。このような構成とすることで、各特性に優れた電池を得ることができる。また、電池としては、二次電池であることが好ましく、リチウムイオン等の二次電池であることがより好ましい。本実施形態に係る電池の構造は、特に限定されず、積層型の構造であっても、巻回型の構造であってもよい。
【0096】
ここで、本実施形態に係るバインダー樹脂を用いた電池の一例について、図面を参照して説明する。図面においては、説明を容易にするために拡大又は縮小をして図示した部分がある。
【0097】
図1には、本実施形態に係るバインダー樹脂が用いられた例としての電池の一例が示されている。図1に示される電池100は、リチウムイオン二次電池である。図1に示されるように、電池100は、正極10と、負極20と、正極10と負極20との間に、電解質層30とを備えている。正極10は、正極集電体13と、正極集電体13の上に積層された正極合材層11とから構成されており、負極20は、負極集電体23と、負極集電体23の上に積層された負極合材層21とから構成されている。電解質層30は、電解液33と、電解液33が含浸されたセパレータ31とにより構成されており、セパレータ31により、正極10側と負極20側とを互いに隔てている。電池100は、正極集電体13、正極合材層11、電解質層30、負極合材層21、及び負極集電体23が、正極集電体13から負極集電体23に向かって、この順で積層された積層構造を備えており、当該積層構造が図示しない容器の内部に収容されている。電池100において、正極合材層11と負極合材層21とは、本実施形態に係るバインダー樹脂(不図示)を含んでいる。正極合材層11及び負極合材層21は、電解質層30の電解液33が浸透することによって、電解液33を含んでおり、図示しない本実施形態に係るバインダー樹脂が、電解液33によって膨潤している。
【0098】
以上、図1を参照して、本実施形態に係る電池の一例を説明したが、本実施形態に係る電池の例は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る電池は、本実施形態に係るバインダー樹脂が用いられていれば、種々の形態を採用し得る。
【0099】
本実施形態に係る電池が、リチウムイオン二次電池である場合、本実施形態に係る電池における電極の合材層にバインダー樹脂が用いられていれば、リチウムイオン二次電池が備える各種部材は、特に限定されず、例えば、リチウムイオン二次電池に一般的に使用される材料を用いることができる。
【0100】
正極集電体及び負極集電体に用いられる材質は、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、及びステンレス鋼等の金属箔又は金属板、並びに、カーボンシート、及びカーボンナノチューブシート等が挙げられる。これらの中でも、正極集電体及び負極集電体に用いられる材質は、例えば、銅及びアルミニウムが用いられることが好ましい。銅及びアルミニウムは、銅箔及びアルミニウム箔であることがより好ましい。
【0101】
正極合材層は、例えば、リチウム含有複合酸化物等の正極活物質、炭素系材料等の導電助剤、及び本実施形態に係るバインダー樹脂等により構成されることが好ましい。
【0102】
負極合材層は、例えば、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、及びグラフェン等の負極活物質、及び本実施形態に係るバインダー樹脂等により構成されることが好ましい。
【0103】
電解質層は、例えば、電解液及びセパレータにより構成される。セパレータが用いられる場合、セパレータの材質は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、及びポリアミド等の樹脂を含む多孔質樹脂シートが挙げられる。
【0104】
本実施形態に係る電池において、電解液は、リチウム塩と、カーボネート系溶媒とを含むことが好ましい。
【0105】
リチウム塩は、例えば、具体的には、ヘキサフルオロリン酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾレート、リチウム4,5-ジシアノ-1,2,3-トリアゾレート、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、ホウフッ化リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、及びフッ化リチウム等が挙げられる。リチウム塩は、これら例示したリチウム塩のうちの1種、又は2種以上を用いることができる。
【0106】
カーボネート系溶媒は、例えば、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びブチレンカーボネート等が挙げられる。カーボネート系溶媒は、これら例示したリチウム塩のうちの1種、又は2種以上を用いることができる。ここで、本実施形態におけるカーボネート系溶媒は、分子構造中にカーボネート骨格を有する化合物を表す。
【0107】
なお、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0108】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されない。
【0109】
以下の実施例及び比較例における測定又は評価は、以下に示す方法により行った。
【0110】
[重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定]
ゲル浸透クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製、製品名「HLC-8320GPC」)を用いて、下記の条件で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「TSKgel guardcolumn SuperH-H」、「TSKgel SuperHM-H」、「TSKgel SuperHM-H」、及び「TSKgel SuperH2000」(いずれも東ソー株式会社製)を順次連結したカラム
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:テトラヒドロフラン(共重合体濃度1質量%)
・標準物質:ポリスチレン
・注入量:20μL
・流量:0.60mL/min
・検出器:示差屈折計
【0111】
[膨潤度測定]
後述の各実施例及び各比較例で得られた共重合体100モル部に対して、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社製、製品名「ライトエステルP-2M」)を1モル部共重合させて、共重合体Xを作製した。作製した共重合体Xに、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを、共重合体:開始剤=97:3質量%となるように添加し、さらに酢酸エチルで希釈した後に撹拌して、固形分濃度30質量%の薄膜形成用の溶液を調整した。第一の剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET381031」)を用意し、この剥離フィルムの剥離処理面に、調整した薄膜形成用の溶液を塗布し、120℃で、1分間乾燥させ、厚さ10μmの薄膜層を形成した。さらに、第二の剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET382150」)を用意し、この剥離フィルムの剥離処理面を薄膜層の表面に貼合した。その後、第一の剥離フィルムと第二の剥離フィルムとの間に挟み込んだ薄膜の積層物を、ステンレス板に載置して、50℃加温下で紫外線照射[照度:200mW/cm、積算光量:1000mJ/cm、アイグラフィックス株式会社製照度光量計(制御部:EYE UV METER UVPF-A2、受光部:EYE UV METER PD-365A2)を用いて測定]を行うことで、厚さ10μmの薄膜を得た。
【0112】
上記で得られた薄膜を、約3cm(縦)×約3cm(横)に裁断し、得られた薄膜片を約1gになるように秤量した。このときの質量をWとする。この薄膜片をポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)で包み、ポリエステル製メッシュに包んだ薄膜片の質量を秤量し、薄膜片の質量を差し引くことで、ポリエステル製メッシュ単独の質量を算出した。温度23℃に調整したカーボネート系溶媒[組成:エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1(体積比)の混合溶媒]に、温度23℃で、24時間浸漬し、膨潤させた。その後、上記ポリエステル製メッシュに包んだ薄膜片を引き上げ、表面の溶媒を紙ワイパーで拭いた後、質量を測定し、上記ポリエステル製メッシュ単独の質量を差し引くことで、膨潤後の薄膜片の質量を算出した。このときの質量をWとする。そして、以下の数式(F2)を用いて膨潤度を算出した。
膨潤度(%)={(W-W)/W}×100 ・・・(F2)
数式(F2)中、Wはポリエステル製メッシュに包む前に秤量した薄膜片の質量、Wは膨潤後の薄膜片のみの質量を示す。
【0113】
[金属箔密着性及び結着性]
金属箔密着性及び結着性の評価用試料として、下記の積層体A及び積層体Bを作製した。積層体A及び積層体Bのそれぞれについて、金属箔密着性及び結着性の評価を行った。
【0114】
(積層体Aの作製)
後述の各実施例及び各比較例で得られた共重合体をN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)に溶解した。次いで、NMPに溶解させた共重合体に対して、導電助剤としてアセチレンブラックと、熱ラジカル発生剤としてアゾビスイソブチロニトリルと、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社製、製品名「ライトエステルP-2M」、表3中、リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物と表記)とを加えて、ディスパーを用いて2000rpmの条件で30分間分散した。次いで、活物質としてのリン酸鉄リチウム(LFP)を加えて、自転・公転方式ミキサー(株式会社シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)で2000rpm、10分間分散して、バインダー樹脂含有組成物Aを調製し、固形分濃度50質量%の塗工液Aとした。
この塗工液Aを、アプリケーターで、厚さ20μmのアルミニウム箔に塗工し、120℃で10分間乾燥して、厚さ120μmの被覆層を形成して、厚さ140μmの積層体Aを作製した。この積層体Aをリチウムイオン等の二次電池における電極として適用した場合、積層体Aは正極となり、被覆層は、合材層であり、アルミニウム箔は、集電体である。
【0115】
(積層体Bの作製)
後述の各実施例及び各比較例で得られた共重合体をNMPに溶解した。次いで、NMPに溶解させた共重合体に対して、導電助剤としてアセチレンブラックと、熱ラジカル発生剤としてアゾビスイソブチロニトリルと、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート(共栄社化学株式会社製、製品名「ライトエステルP-2M」、表3中、リン酸基含有(メタ)アクリレート化合物と表記)とを加えて、ディスパーを用いて2000rpmの条件で30分間分散した。次いで、活物質としてグラフェンを加えて、自転・公転方式ミキサー(株式会社シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)で2000rpm、10分間分散して、バインダー樹脂含有組成物Bを調製し、固形分濃度50質量%の塗工液Bとした。
この塗工液Bを、アプリケーターで、厚さ10μmの銅箔に塗工し、120℃で10分間乾燥して、厚さ150μmの被覆層を形成して、厚さ160μmの積層体Bを作製した。この積層体Bをリチウムイオン等の二次電池における電極として適用した場合、積層体Bは負極となり、被覆層は、合材層であり、銅箔は、集電体である。
【0116】
(金属箔密着性及び結着性の評価(電解液浸漬))
各積層体A及び各積層体Bを直径10mmΦに打ち抜いた。
リチウム塩として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを準備し、カーボネート系溶媒として、エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートとの体積比が1:1の混合溶媒を準備した。リチウム塩の濃度が1moL/Lとなるように混合溶媒に加え、よく撹拌して、温度23℃の電解液を調製した。調整した電解液に、積層体A又は積層体Bを投入し、撹拌せずに、温度23℃で、24時間浸漬した。浸漬後、電解液から積層体A又は積層体Bを取り出した。積層体Aについては、被覆層からのアルミニウム箔の剥離及び被覆層の崩壊の有無について、積層体Bについては、被覆層からの銅箔の剥離及び被覆層の崩壊の有無について、それぞれ、目視にて確認し、下記の評価基準にしたがって評価を行った。
【0117】
(評価基準)
A:被覆層が、アルミニウム箔又は銅箔から剥離せず、かつ、被覆層の崩壊が発生しない。
F:被覆層が、アルミニウム箔又は銅箔から剥離、及び、被覆層の崩壊の一方又は両方の現象が発生する。
【0118】
[実施例1]
(重合触媒の合成:コバルトサレン触媒)
(R,R)-N,N’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1.2-ジアミノシクロヘキサンコバルト(II)と、ペンタフルオロ安息香酸とをモル比で1:1.1になるように秤量し、フラスコに入れ、そこに脱水トルエンを加えた。フラスコをアルミホイルで遮光し、室温で20時間反応させた(化学反応式は、以下のとおりである)。反応終了後、減圧下で溶媒を除去し、過剰量のヘキサンで数回洗浄した。その後、室温で真空乾燥を行い、コバルトサレン錯体を得た。
【0119】
【化16】
【0120】
(共重合体の作製)
エポキシドモノマーとして、プロピレンオキシド(表1中のエポキシドモノマー(1))と、グリシジルメタクリレート(表1中のエポキシドモノマー(2))とを準備した。プロピレンオキシドとグリシジルメタクリレートとを、モル比で、97:3になるように混合した。さらに、上記で合成したコバルトサレン錯体(重合触媒)と、助触媒としてビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリドを準備した。次いで、モル比で、全エポキシドモノマー:触媒:助触媒=2000:1:1になるように秤量し、耐圧容器に入れた。さらに、フェノチアジンを200ppm添加した後、全エポキシドモノマー:酢酸エチル=50:50(質量比)になるように、酢酸エチルを加えた。これらの作業はすべて、圧力容器内をアルゴンで置換して行った。続いて、圧力容器内を二酸化炭素でパージした後、送液ポンプにより二酸化炭素を圧力容器内に導入し、圧力容器内の圧力を2.0MPaにし、30℃で18時間、重合反応を行った。
反応終了後、圧力容器の内容物にクロロホルムを加えてクロロホルム溶液を調製し、1M塩酸を加えて撹拌した。次に、クロロホルム溶液を撹拌しているメタノール中に滴下し、生成物を沈殿させた。その後、生成物は、50℃で真空乾燥を行って、共重合体を得た。
得られた共重合体の構造を核磁気共鳴分光法(H-NMR、Biospin Avance 500、Bruker社製)により、溶媒として、CDCl(0.03体積%テトラメチルシラン含有)を用いて確認したところ、共重合体における一般式(1)で表される構成単位(以下、構成単位(1)とも称する)と、一般式(2)で表される構成単位(以下、構成単位(2)とも称する)、一般式(3)で表される構成単位(以下、構成単位(3)とも称する)と、一般式(4)で表される構成単位(以下、構成単位(4)とも称する)とのモル比は、構成単位(1):構成単位(2):構成単位(3):構成単位(4)=95.7:4.2:0.1:0であった(図2参照)。
また、共重合体における重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は表2に示すとおりであった。
【0121】
[実施例2]
エポキシドモノマーとして、プロピレンオキシド(表1中のエポキシドモノマー(1))と、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(表1中のエポキシドモノマー(2))とを準備した。プロピレンオキシドと、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルとを、モル比で、97:3になるように混合した以外は、実施例1と同様の方法で共重合体を得た。また、実施例1と同様に、得られた共重合体の構造をH-NMRにて確認したところ、得られた共重合体中における構成単位(1):構成単位(2):構成単位(3):構成単位(4)のモル比は、表2に示すとおりであった(図3参照)。
また、得られた共重合体における重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は表2に示すとおりであった。
【0122】
[実施例3]
(重合触媒の合成:DMC触媒)
ヘキサシアノコバルト(III)酸カリウム(K[Co(CN)];富士フイルム和光純薬株式会社製)1.33gを20mLの脱イオン水に溶解し、激しく撹拌した50℃の塩化亜鉛溶液(ZnClの11.42gを、60mLの脱イオン水と30mLのt-ブチルアルコールとの混合溶液中に溶解した溶液)に45分かけて滴下した。その後、混合物を60分間激しく撹拌した。得られた白色懸濁液を5000rpmで遠心分離し、白色固体を単離した。単離した白色固体を、t-ブチルアルコール及び脱イオン水の溶液(体積比で、t-ブチルアルコール:脱イオン水=5:5)中で激しく30分間撹拌しながら再懸濁した。その後、水に対してt-ブチルアルコール量を徐々に増加させつつ(t-ブチルアルコール:脱イオン水を、体積比で6:4から7:3、8:2、9:1と変化させる)、遠心分離による単離及び再懸濁を数回繰り返した。最後に、白色固体をt-ブチルアルコール中に再懸濁した後に、遠心分離によって単離した。その後、所定の質量になるまで50℃、真空下で乾燥させることによって、DMC触媒であるZn(Cо[CN]を得た。
【0123】
(共重合体の合成)
エポキシドモノマーとして、プロピレンオキシド(表1中のエポキシドモノマー(1))と、グリシジルメタクリレート(表1中のエポキシドモノマー(2))とを準備した。プロピレンオキシドとグリシジルメタクリレートとを、モル比で、97:3になるように混合した。さらに、上記で合成したDMC触媒(重合触媒)を準備した。次いで、質量比で、全エポキシドモノマー:DMC触媒=1000:1になるように秤量し、耐圧容器に入れた。さらに、フェノチアジンを200ppm添加した後、全エポキシドモノマー:酢酸エチル=50:50(質量比)になるように、酢酸エチルを加えた。これらの作業はすべて、圧力容器内をアルゴン雰囲気下に置換して行った。続いて、圧力容器内を二酸化炭素でパージした後、送液ポンプにより二酸化炭素を圧力容器内に導入し、圧力容器内の圧力を4.0MPaにし、60℃で18時間、重合反応を行った。
反応終了後、圧力容器の内容物にクロロホルムを加えてクロロホルム溶液を調製し、撹拌しているメタノール中に滴下し、生成物を沈殿させた。その後、生成物は、50℃で真空乾燥を行って、共重合体を得た。
実施例1と同様に、得られた共重合体の構造をH-NMRにて確認したところ、得られた共重合体中における構成単位(1):構成単位(2):構成単位(3):構成単位(4)のモル比は、表2に示すとおりであった(図4参照)。
また、得られた共重合体における重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は表2に示すとおりであった。
【0124】
[実施例4~実施例7]
重合溶媒としてトルエンを用い、表1にしたがって、エポキシドモノマーの種類と量を変更した以外は、実施例3と同様の方法で共重合体を得た。また、実施例1と同様に、得られた共重合体の構造をH-NMRにて確認したところ、得られた共重合体中における構成単位(1):構成単位(2):構成単位(3):構成単位(4)のモル比は、表2に示すとおりであった(図5図8参照)。
また、実施例4~実施例7で得られた共重合体における重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は表2に示すとおりであった。
【0125】
表1中、エポキシドモノマーの種類の説明は以下のとおりである。
PO:酸化プロピレン
Ehex:1,2-エポキシヘキサン
Edec:1,2-エポキシデカン
BGE:ブチルグリシジルエーテル
Echex:1,2-エポキシシクロヘキサン
GMA:メタクリル酸グリシジル
4HBAGE:4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル
【0126】
[比較例1]
プロピレンオキシドとグリシジルメタクリレートとを、モル比で、99:1で混合したエポキシドモノマーに変更した以外は、実施例1と同様の方法で共重合体を得た。実施例1と同様に、得られた共重合体の構造をH-NMRにて確認したところ、得られた共重合体中における構成単位(1):構成単位(2):構成単位(3):構成単位(4)のモル比は、表2に示すとおりであった。
また、得られた共重合体における重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は表2に示すとおりであった。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
以上の結果から、実施例1~7で得られたバインダー樹脂は、高い膨潤度を示し、金属箔との密着性及び無機材料の結着性に優れることが分かる。このことから、本実施形態に係るバインダー樹脂は、二次電池の電極における合材層に用いた場合、高い膨潤度を示すにも関わらず、集電体との密着性及び活物質の結着性に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0131】
10…正極、11…正極合材層、13…正極集電体、20…負極、21…負極合材層、23…負極集電体、30…電解質層、31…セパレータ、33…電解液、100…電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8