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特開2024-146117無人航走体の自己位置測位方法、無人航走体による水中点検方法、及び無人航走体による水中点検システム
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  • 特開-無人航走体の自己位置測位方法、無人航走体による水中点検方法、及び無人航走体による水中点検システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146117
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】無人航走体の自己位置測位方法、無人航走体による水中点検方法、及び無人航走体による水中点検システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/00 20240101AFI20241004BHJP
   G21C 17/013 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G05D1/00 A
G21C17/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058840
(22)【出願日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業(委託研究)、「無人航走体を用いた燃料デブリサンプルリターン技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 創
(72)【発明者】
【氏名】西村 和哉
【テーマコード(参考)】
2G075
5H301
【Fターム(参考)】
2G075CA10
2G075EA01
2G075FA12
2G075FC03
5H301AA05
5H301AA10
5H301BB10
5H301CC04
5H301CC07
5H301CC10
5H301DD07
5H301GG08
5H301GG10
5H301GG17
(57)【要約】
【課題】衛星測位システムが適用できない空間において無人航走体の自己位置を測位する、無人航走体の自己位置測位方法、無人航走体による水中点検方法、及び無人航走体による水中点検システムを提供する。
【解決手段】無人航走体の自己位置測位方法においては、無人航走体3に建築構造物1の設計上の基準又は設置現場における基準となる基準方位及び基準深度を設定する基準設定ステップS2と、無人航走体を建築構造物の滞留水の中に投入する投入ステップS3と、無人航走体を滞留水の中で航走させる航走ステップS4と、無人航走体で計測した計測方位及び計測深度と基準方位及び基準深度とに基づいて無人航走体の自己位置を測位する計測・測位ステップS5とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
滞留水を有した建築構造物の水面下を無人航走体により点検するための前記無人航走体の自己位置を測位する方法であって、前記無人航走体に前記建築構造物の設計上の基準又は設置現場における基準となる基準方位及び基準深度を設定する基準設定ステップと、前記無人航走体を前記建築構造物の前記滞留水の中に投入する投入ステップと、前記無人航走体を前記滞留水の中で航走させる航走ステップと、前記無人航走体で計測した計測方位及び計測深度と前記基準方位及び基準深度とに基づいて前記無人航走体の自己位置を測位する計測・測位ステップとを有することを特徴とする無人航走体の自己位置測位方法。
【請求項2】
前記基準方位が前記建築構造物の前記設計上の基準としてのプラントノースであり、前記基準深度が前記設置現場における前記基準としての前記滞留水の水面位置であることを特徴とする請求項1に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
【請求項3】
前記プラントノースを前記無人航走体の姿勢を計測するジャイロ計に設定し、前記基準深度を前記水面位置が前記建築構造物の相当する構造部位置と関連付けて深度計に設定することを特徴とする請求項2に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
【請求項4】
前記滞留水の前記水面位置を前記計測深度のゼロ位置として前記深度計を校正することを特徴とする請求項3に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
【請求項5】
前記建築構造物の外郭が円筒状である場合、前記無人航走体の自己位置を円筒座標系(r,θ,z)で表現し、rを距離計測データ又は距離推定データより求め、θを前記ジャイロ計で計測された前記姿勢データと前記プラントノースに基づいて求め、zを前記計測深度とすることを特徴とする請求項4に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
ここで、
r: 無人航走体の円筒中心からの距離
θ: プラントノースから無人航走体の位置する角度
z: 無人航走体の鉛直方向の位置
である。
【請求項6】
前記建築構造物が2重の円筒状を成し、前記外郭と内側の円筒状を成す内郭との間に前記滞留水を有する場合、前記無人航走体と前記内郭との距離(S)を計測する、又は前記内郭の位置を推定して前記無人航走体と前記内郭との距離(S)を導出することを特徴とする請求項5に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
【請求項7】
前記内郭の半径(R)を求め、式(1)に基づいて前記無人航走体の円筒中心からの距離(r)を求め、式(2)と式(3)に基づいて、前記プラントノースから前記無人航走体の位置する角度(θ)を求めることを特徴とする請求項6に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
r=S+R ・・・(1)
θ=φ-α ・・・(2)
sinα=d/S ・・・(3)
ここで、
r: 無人航走体の円筒中心からの距離
S: 無人航走体と内郭との距離
R: 内郭の半径
φ: ジャイロ計で計測された無人航走体の姿勢
θ: プラントノースから無人航走体の位置する角度
α: 円筒中心から無人航走体に引いた線と姿勢(φ)の成す角度
d: 円筒中心から無人航走体に引いた線の内郭との交点から無人航走体の方位線への垂線の距離
である。
【請求項8】
前記内郭との距離(S)を計測するに当り、前記内郭表面をレーザ光を用いたライダー(LIDAR)でスキャンし得られた前記内郭の3次元点群データを処理して前記内郭との前記距離(S)を計測することを特徴とする請求項6に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
【請求項9】
前記内郭との距離(S)を推定するに当り、前記建築構造物の設計データに基づいて再現したCG画像を用いて学習させたディープクラック(DeepCrack)モデルに、前記無人航走体で取得した輪郭データを適用し、前記内郭の位置を推定し、前記内郭との距離(S)を導出することを特徴とする請求項6に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
【請求項10】
前記輪郭データを前記無人航走体に設けた回転式ビームソナーにより取得することを特徴とする請求項9に記載の無人航走体の自己位置測位方法。
【請求項11】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の無人航走体の自己位置測位方法を用いた滞留水を有した建築構造物の水面下の水中点検方法であって、
基準設定ステップ、投入ステップ、航走ステップ、及び計測・測位ステップを実行するとともに、前記滞留水を有した前記建築構造物の前記水面下の点検対象をモニタリングして探査する探査ステップと、前記点検対象の点検対象部又は点検対象物を発見した場合に前記無人航走体を停止させる停止ステップと、前記探査ステップで取得した前記点検対象部又は前記点検対象物の探査データを前記無人航走体の測位した自己位置と関連付けて記録するデータ記録ステップをさらに有し、点検が完了していない場合は前記航走ステップ、前記計測・測位ステップ、前記探査ステップ、前記停止ステップ、及び前記データ記録ステップを繰り返すことを特徴とする無人航走体による水中点検方法。
【請求項12】
前記点検が完了した場合、前記無人航走体を前記建築構造物の前記滞留水の水面にまで浮上させた後、前記無人航走体を揚収する揚収ステップをさらに有することを特徴とする請求項11に記載の無人航走体による水中点検方法。
【請求項13】
少なくとも前記投入ステップ、前記探査ステップ、前記停止ステップ、及び前記揚収ステップを遠隔操作により行うことを特徴とする請求項12に記載の無人航走体による水中点検方法。
【請求項14】
前記建築構造物が原子炉格納容器であり、前記点検対象物がデブリであることを特徴とする請求項11に記載の無人航走体による水中点検方法。
【請求項15】
滞留水を有した建築構造物の水面下を無人航走体により点検する水中点検システムであって、
前記無人航走体に前記建築構造物の設計上の基準又は設置現場における基準となる基準方位及び基準深度を設定する基準設定手段と、前記無人航走体を前記建築構造物の前記滞留水の中に投入する投入手段と、前記無人航走体を前記滞留水の中で航走させる航走手段と、前記無人航走体で計測した計測方位及び計測深度と前記基準方位及び前記基準深度とに基づいて前記無人航走体の自己位置を測位する計測・測位手段と、前記水面下の点検対象をモニタリングして探査する探査手段と、前記無人航走体を停止させる停止手段と、前記探査手段で取得した前記点検対象の点検対象部又は点検対象物の探査データを前記無人航走体の測位した自己位置と関連付けて記録するデータ記録手段と、前記無人航走体を揚収する揚収手段を備えたことを特徴とする無人航走体による水中点検システム。
【請求項16】
前記無人航走体が、前記計測・測位手段として前記計測方位を得るジャイロ計及び前記計測深度を得る深度計を有することを特徴とする請求項15に記載の無人航走体による水中点検システム。
【請求項17】
少なくとも前記投入手段、前記探査手段、前記停止手段、及び前記揚収手段の操作を遠隔操作により行う遠隔操作手段を備えたことを特徴とする請求項15に記載の無人航走体による水中点検システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滞留水を有した建築構造物の水面下を点検する無人航走体の自己位置測位方法、無人航走体による水中点検方法、及び無人航走体による水中点検システムに関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所の廃炉作業において、燃料デブリの取り出しは最も重要な課題の1つであるが、デブリの詳細な炉内状況が把握できていない。原子炉格納容器(Primary Containment Vessel:PCV)内のデブリを多地点で少量サンプリングし、それらの物性や化学特性を明らかにすることができれば廃炉作業を加速できる。
ここで、非特許文献1には、福島第一原子力発電所の廃炉作業において、原子炉格納容器内部をロボット等により調査していることが記載されている。
また、特許文献1には、注視対象位置を指示すると、カメラと注視対象位置の位置関係を計測し、カメラの動きを注視対象位置を原点とする球座標系で規定する注視機能を付与した遠隔視覚提示装置が開示されている。
また、特許文献2には、多数の教師画像データと、各教師画像データに対応するひび割れの位置及び幅を特定するアノテーションデータによる学習処理を利用して、検出画像データにおけるひび割れ位置とひび割れ幅を同時に評価して、検出画像データの解像度よりも小さな幅であっても高精度にひび割れ部を検出することができるひび割れ検出システムが開示されている。
また、特許文献3には、亀裂等の検出対象の領域と検出対象と類似する第1の非検出対象(目地)の領域と第1の非検出対象と異なる第2の非検出対象(タイル等)の領域とを少なくとも有する学習用画像と、検出対象の領域に検出対象ラベルを有し第1の非検出対象の領域と第2の非検出対象の領域に背景ラベルを有する教師データと、をそれぞれ有する複数の学習データを用いてニューラルネットワークモデルを生成する、ニューラルネットワークの演算プログラムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-315166号公報
【特許文献2】特開2022-54793号公報
【特許文献3】特開2021-81953号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】奥住直明,“福島第一原子力発電所の「廃炉」の現状”,国際廃炉研究開発機構(IRID),地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC) 平成30年度 教育講座 「廃炉の途上で」along the way ~何を見、何をしてきたか/技術開発のいまとこれから,平成31年3月13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高放射線量環境で作業員が直接アクセスできない作業現場において、水中内のデブリを調査するためには無人航走体(Unmanned Underwater Vehicle:UUV)の利用が考えられる。
無人航走体は自己測位が必要である。地上や空中の位置計測ではGPS(Global Positioning System)の利用が普及しているが、電波の特性により、建屋や水中といった閉じた領域でのGPSの使用は困難である。
海洋での無人航走体の位置測定は、音波を用いた音響測位が一般的である。音響測位の基本的な原理はGPSと同様に、基準点を設置し、音の伝搬時間や音波の到達位相差を用いて測位する。海洋調査ではこれらの音響測位の予測精度は10~15%程度と言われているが、原子炉格納容器や港湾の水面下などの狭い空間においては、音波と周辺構造物との多重散乱によるノイズが発生し、予測精度が急激に悪化する問題がある。
また、本件出願人が英国マンチェスター大学と共同開発した光学式測位システム(EVLS:External Vision Localization System Characterization)は、ロボット試験水槽の頂上に設置したカメラで撮影する鳥瞰図と、ROV(Remotely Operated Vehicle)搭載の有色LEDマーカーと、水槽のリングに沿って設置したマーカー及びROVの深度を使用してROVの3次元位置と姿勢を評価するものであり、水槽を用いた実証試験の結果、ROVの位置を確認して、予測精度~150mmで測位できた。しかし、この光学式測位システムは、天頂カメラやマーカー、光学的なセンサーを予め設置する必要があるため、福島第一原子力発電所の原子炉格納容器内のような人が立ち入ることができない環境条件への適用は困難である。
また、特許文献1~3は、無人航走体の自己位置を測位しようとするものではない。
そこで本発明は、GPS等の衛星測位システムが適用できない空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を測位する、無人航走体の自己位置測位方法、無人航走体による水中点検方法、及び無人航走体による水中点検システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した無人航走体の自己位置測位方法においては、滞留水を有した建築構造物の水面下を無人航走体により点検するための無人航走体の自己位置を測位する方法であって、無人航走体に建築構造物の設計上の基準又は設置現場における基準となる基準方位及び基準深度を設定する基準設定ステップと、無人航走体を建築構造物の滞留水の中に投入する投入ステップと、無人航走体を滞留水の中で航走させる航走ステップと、無人航走体で計測した計測方位及び計測深度と基準方位及び基準深度とに基づいて無人航走体の自己位置を測位する計測・測位ステップとを有することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、GPS等の衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を精度よく測位することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、基準方位が建築構造物の設計上の基準としてのプラントノースであり、基準深度が設置現場における基準としての滞留水の水面位置であることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、プラントノースや水面位置を基準として無人航走体の自己位置を測位することができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、プラントノースを無人航走体の姿勢を計測するジャイロ計に設定し、基準深度を水面位置が建築構造物の相当する構造部位置と関連付けて深度計に設定することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、無人航走体の自己位置を測位するための姿勢や深度を、ジャイロ計や深度計を用いて精度よく取得することができる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、滞留水の水面位置を計測深度のゼロ位置として深度計を校正することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、圧力により影響を受ける水面位置を考慮して校正することにより、無人航走体の深度をより精度よく取得することができる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、建築構造物の外郭が円筒状である場合、無人航走体の自己位置を円筒座標系(r,θ,z)で表現し、rを距離計測データ又は距離推定データより求め、θをジャイロ計で計測された姿勢データとプラントノースに基づいて求め、zを計測深度とすることを特徴とする。ここで、rは無人航走体の円筒中心からの距離、θはプラントノースから無人航走体の位置する角度、zは無人航走体の鉛直方向の位置である。
請求項5に記載の本発明によれば、建築構造物の外郭が円筒状である場合に、無人航走体の自己位置の測位を円筒座標系を用いて的確に行うことができる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、建築構造物が2重の円筒状を成し、外郭と内側の円筒状を成す内郭との間に滞留水を有する場合、無人航走体と内郭との距離(S)を計測する、又は内郭の位置を推定して無人航走体と内郭との距離(S)を導出することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、建築構造物が2重の円筒状を成し、外郭と内側の円筒状を成す内郭との間に滞留水を有する場合に、無人航走体の自己位置の測位を、内郭との距離(S)を計測するか導出することにより精度よく行うことができる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、内郭の半径(R)を求め、式(1)に基づいて無人航走体の円筒中心からの距離(r)を求め、式(2)と式(3)に基づいて、プラントノースから無人航走体の位置する角度(θ)を求めることを特徴とする。
r=S+R ・・・(1)
θ=φ-α ・・・(2)
sinα=d/S ・・・(3)
ここで、rは 無人航走体の円筒中心からの距離、Sは無人航走体と内郭との距離、Rは内郭の半径、φはジャイロ計で計測された無人航走体の姿勢、θはプラントノースから無人航走体の位置する角度、αは円筒中心から無人航走体に引いた線と姿勢(φ)の成す角度、dは円筒中心から無人航走体に引いた線の内郭との交点から無人航走体の方位線への垂線の距離である。
請求項7に記載の本発明によれば、建築構造物が2重の円筒状を成し、外郭と内側の円筒状を成す内郭との間に滞留水を有する場合に、無人航走体の自己位置の測位を、式(1)から式(3)に基づいて的確に行うことができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、内郭との距離(S)を計測するに当り、内郭表面をレーザ光を用いたライダー(LIDAR)でスキャンし得られた内郭の3次元点群データを処理して内郭との距離(S)を計測することを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、ライダー(LIDAR)により直接、内郭との距離(S)を計測するため、音波を2重の円筒状部に適用した際の多重散乱によるノイズが発生せず、自己測位の予測精度を向上させることができる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、内郭との距離(S)を推定するに当り、建築構造物の設計データに基づいて再現したCG画像を用いて学習させたディープクラック(DeepCrack)モデルに、無人航走体で取得した輪郭データを適用し、内郭の位置を推定し、内郭との距離(S)を導出することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、設計データに基づいたCG画像を学習させたAIを用いた手法により、ノイズ混じりの画像から真の画像情報を抽出して内郭との距離(S)の予測精度を向上させることができる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、輪郭データを無人航走体に設けた回転式ビームソナーにより取得することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、建築構造物の輪郭の二次元画像を精度よく認識することができる。
【0016】
請求項11記載に対応した無人航走体による水中点検方法においては、無人航走体の自己位置測位方法を用いた滞留水を有した建築構造物の水面下の水中点検方法であって、基準設定ステップ、投入ステップ、航走ステップ、及び計測・測位ステップを実行するとともに、滞留水を有した建築構造物の水面下の点検対象をモニタリングして探査する探査ステップと、点検対象の点検対象部又は点検対象物を発見した場合に無人航走体を停止させる停止ステップと、探査ステップで取得した点検対象部又は点検対象物の探査データを無人航走体の測位した自己位置と関連付けて記録するデータ記録ステップをさらに有し、点検が完了していない場合は航走ステップ、計測・測位ステップ、探査ステップ、停止ステップ、及びデータ記録ステップを繰り返すことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、GPS等の衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を精度よく測位しつつ、探査データを自己位置と関連付けて記録することにより、点検作業を円滑に遂行することができる。
【0017】
請求項12記載の本発明は、点検が完了した場合、無人航走体を建築構造物の滞留水の水面にまで浮上させた後、無人航走体を揚収する揚収ステップをさらに有することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、点検の役割を終えた無人航走体を確実に回収することができる。
【0018】
請求項13記載の本発明は、少なくとも投入ステップ、探査ステップ、停止ステップ、及び揚収ステップを遠隔操作により行うことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、点検対象が危険である場合に点検者の安全性や点検効率を高めることができる。
【0019】
請求項14記載の本発明は、建築構造物が原子炉格納容器であり、点検対象物がデブリであることを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、デブリの状況を無人航走体を用いて把握することができる。
【0020】
請求項15記載に対応した無人航走体による水中点検システムにおいては、滞留水を有した建築構造物の水面下を無人航走体により点検する水中点検システムであって、無人航走体に建築構造物の設計上の基準又は設置現場における基準となる基準方位及び基準深度を設定する基準設定手段と、無人航走体を建築構造物の滞留水の中に投入する投入手段と、無人航走体を滞留水の中で航走させる航走手段と、無人航走体で計測した計測方位及び計測深度と基準方位及び基準深度とに基づいて無人航走体の自己位置を測位する計測・測位手段と、水面下の点検対象をモニタリングして探査する探査手段と、無人航走体を停止させる停止手段と、探査手段で取得した点検対象の点検対象部又は点検対象物の探査データを無人航走体の測位した自己位置と関連付けて記録するデータ記録手段と、無人航走体を揚収する揚収手段を備えたことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、GPS等の衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を精度よく測位しつつ、探査データを自己位置と関連付けて記録することにより、点検作業を円滑に遂行することができる。
【0021】
請求項16記載の本発明は、無人航走体が、計測・測位手段として計測方位を得るジャイロ計及び計測深度を得る深度計を有することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、無人航走体の自己位置を測位するための姿勢や深度を、ジャイロ計や深度計を用いて精度よく取得することができる。
【0022】
請求項17記載の本発明は、少なくとも投入手段、探査手段、停止手段、及び揚収手段の操作を遠隔操作により行う遠隔操作手段を備えたことを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、点検対象が危険である場合に点検者の安全性や点検効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の無人航走体の自己位置測位方法によれば、GPS等の衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を精度よく測位することができる。
【0024】
また、基準方位が建築構造物の設計上の基準としてのプラントノースであり、基準深度が設置現場における基準としての滞留水の水面位置である場合には、プラントノースや水面位置を基準として無人航走体の自己位置を測位することができる。
【0025】
また、プラントノースを無人航走体の姿勢を計測するジャイロ計に設定し、基準深度を水面位置が建築構造物の相当する構造部位置と関連付けて深度計に設定する場合には、無人航走体の自己位置を測位するための姿勢や深度を、ジャイロ計や深度計を用いて精度よく取得することができる。
【0026】
また、滞留水の水面位置を計測深度のゼロ位置として深度計を校正する場合には、圧力により影響を受ける水面位置を考慮して校正することにより、無人航走体の深度をより精度よく取得することができる。
【0027】
また、建築構造物の外郭が円筒状である場合、無人航走体の自己位置を円筒座標系(r,θ,z)で表現し、rを距離計測データ又は距離推定データより求め、θをジャイロ計で計測された姿勢データとプラントノースに基づいて求め、zを計測深度とする場合には、建築構造物の外郭が円筒状である場合に、無人航走体の自己位置の測位を円筒座標系を用いて的確に行うことができる。
【0028】
また、建築構造物が2重の円筒状を成し、外郭と内側の円筒状を成す内郭との間に滞留水を有する場合、無人航走体と内郭との距離(S)を計測する、又は内郭の位置を推定して無人航走体と内郭との距離(S)を導出する場合には、建築構造物が2重の円筒状を成し、外郭と内側の円筒状を成す内郭との間に滞留水を有する場合に、無人航走体の自己位置の測位を、内郭との距離(S)を計測するか導出することにより精度よく行うことができる。
【0029】
また、内郭の半径(R)を求め、式(1)に基づいて無人航走体の円筒中心からの距離(r)を求め、式(2)と式(3)に基づいて、プラントノースから無人航走体の位置する角度(θ)を求める場合には、建築構造物が2重の円筒状を成し、外郭と内側の円筒状を成す内郭との間に滞留水を有する場合に、無人航走体の自己位置の測位を、式(1)から式(3)に基づいて的確により精度よく行うことができる。
【0030】
また、内郭との距離(S)を計測するに当り、内郭表面をレーザ光を用いたライダー(LIDAR)でスキャンし得られた内郭の3次元点群データを処理して内郭との距離(S)を計測する場合には、ライダー(LIDAR)により直接、内郭との距離(S)を計測するため、音波を2重の円筒状部に適用した際の多重散乱によるノイズが発生せず、自己測位の予測精度を向上させることができる。
【0031】
また、内郭との距離(S)を推定するに当り、建築構造物の設計データに基づいて再現したCG画像を用いて学習させたディープクラック(DeepCrack)モデルに、無人航走体で取得した輪郭データを適用し、内郭の位置を推定し、内郭との距離(S)を導出する場合には、設計データに基づいたCG画像を学習させたAIを用いた手法により、ノイズ混じりの画像から真の画像情報を抽出して内郭との距離(S)の予測精度を向上させることができる。
【0032】
また、輪郭データを無人航走体に設けた回転式ビームソナーにより取得する場合には、建築構造物の輪郭の二次元画像を精度よく認識することができる。
【0033】
また、本発明の無人航走体による水中点検方法によれば、GPS等の衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を精度よく測位しつつ、探査データを自己位置と関連付けて記録することにより、点検作業を円滑に遂行することができる。
【0034】
また、点検が完了した場合、無人航走体を建築構造物の滞留水の水面にまで浮上させた後、無人航走体を揚収する揚収ステップをさらに有する場合には、点検の役割を終えた無人航走体を確実に回収することができる。
【0035】
また、少なくとも投入ステップ、探査ステップ、停止ステップ、及び揚収ステップを遠隔操作により行う場合には、点検対象が危険である場合に点検者の安全性や点検効率を高めることができる。
【0036】
また、建築構造物が原子炉格納容器であり、点検対象物がデブリである場合には、デブリの状況を無人航走体を用いて把握することができる。
【0037】
また、本発明の無人航走体による水中点検システムによれば、GPS等の衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を精度よく測位しつつ、探査データを自己位置と関連付けて記録することにより、点検作業を円滑に遂行することができる。
【0038】
また、無人航走体が、計測・測位手段として計測方位を得るジャイロ計及び計測深度を得る深度計を有する場合には、無人航走体の自己位置を測位するための姿勢や深度を、ジャイロ計や深度計を用いて精度よく取得することができる。
【0039】
また、少なくとも投入手段、探査手段、停止手段、及び揚収手段の操作を遠隔操作により行う遠隔操作手段を備えた場合には、点検対象が危険である場合に点検者の安全性や点検効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の実施形態による無人航走体の自己位置測位方法のフロー図
図2】同ディープクラック法の機械学習プロセスの概略図
図3】同無人航走体の姿勢補正の説明図
図4】同無人航走体の自己測位の説明図
図5】同無人航走体による水中点検方法のフロー図
図6】同無人航走体による水中点検システムの構成図
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態による無人航走体の自己位置測位方法、無人航走体による水中点検方法、及び無人航走体による水中点検システムについて説明する。
図1は無人航走体の自己位置測位方法のフロー図である。
無人航走体の自己位置測位方法は、滞留水を有した建築構造物の水面下を無人航走体により点検する際において、当該無人航走体の自己位置の測位に用いる。
本実施形態では、建築構造物が福島第一原子力発電所の原子炉格納容器、点検対象物が燃料デブリであるとして説明する。
まず、無人航走体による点検を行う建築構造物(原子炉格納容器等)の設計情報と現場情報を取得する(S1:情報取得ステップ)。設計情報は例えば寸法や形状、また設計上のプラントノース等であり、現場情報は例えば現場で確認したプラントノースや滞留水の水面位置、また水深等である。なお、原子炉格納容器の内壁は直径13m程度、原子炉格納容器内のペデスタルの外壁は直径7m以上である。
【0042】
次に、無人航走体の航走前の事前調整として、基準設定ステップS2と投入ステップS3を行う。無人航走体には、ジャイロ計、水中カメラ、深度計、回転式ビームソナー、及びライダー(LIDAR:Light Detection And Ranging)等が搭載されている。
基準設定ステップS2においては、無人航走体に建築構造物の設計上の基準又は設置現場における基準となる基準方位及び基準深度を設定する。
また、無人航走体に搭載されているジャイロ計の校正として、現場において予め定められているプラントノースの方向に無人航走体(ジャイロ計)を向け、点検者が遠隔操作室でパソコンにより設定を行う。
また、水位レベルの確認として、原子炉格納容器の滞留水に設置されている水位計の出力を確認し、水位レベルがプラントのz座標で、どこに該当するかを確認する。
【0043】
投入ステップS3においては、無人航走体を建築構造物の滞留水の中に投入する。
点検者は、遠隔操作室で、無人航走体に搭載された水中カメラによる映像をモニターで観ながら無人航走体を操作し、滞留水に着水した時点で投入作業を停止する。
また点検者は、遠隔操作室において、パソコンによる深度をゼロとする深度計の較正を実施する。この較正を実施した以降、無人航走体の深度よりプラント座標に変換できる。
【0044】
次に、無人航走体を滞留水の中で航走させる(S4:航走ステップ)。
航走中においては、無人航走体で計測した計測方位及び計測深度と基準方位及び基準深度とに基づいて無人航走体の自己位置を測位する(S5:計測・測位ステップ)。これにより、衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を精度よく測位することができる。
計測・測位ステップS5においては以下の計測を行う。
(1)ジャイロ計の出力から、無人航走体の姿勢データを確認する。
(2)無人航走体に搭載した回転式ビームソナーによる画像を取得する。また、ライダーによる3D点群データを取得する。
(3)無人航走体の深度を深度計で測定する。
そして、計測で得られたデータより、無人航走体から原子炉格納容器に対して最近接の距離を評価し、無人航走体の位置を記録する。無人航走体の位置を確認した後、再び無人航走体を航走させて点検作業(探査作業)を継続する。
【0045】
基準設定ステップS2において、設定する基準方位は、建築構造物の設計上の基準としてのプラントノースとし、基準深度は、設置現場における基準としての滞留水の水面位置とする。これにより、プラントノースや水面位置を基準として無人航走体の自己位置を測位することができる。
また、上述のようにプラントノースを無人航走体の姿勢を計測するジャイロ計に設定し、基準深度を水面位置が建築構造物の相当する構造部位置と関連付けて深度計に設定することにより、無人航走体の自己位置を測位するための姿勢や深度を、ジャイロ計や深度計を用いて精度よく取得することができる。
また、滞留水の水面位置を計測深度のゼロ位置として深度計を校正する。原子炉格納容器の内部圧力に変動がある場合、圧力により影響を受ける水面位置を考慮して校正することにより、無人航走体の深度をより精度よく取得することができる。
【0046】
計測・測位ステップS5において、原子炉格納容器のように建築構造物の外郭が円筒状である場合は、無人航走体の自己位置を円筒座標系(r,θ,z)で表現する。
「r」は、無人航走体の円筒中心からの距離であり、距離計測データ又は距離推定データより求める。
「θ」は、プラントノースから無人航走体の位置する角度であり、ジャイロ計で計測された姿勢データとプラントノースに基づいて求める。
「z」は、無人航走体の鉛直方向の位置であり、深度計で取得した計測深度とする。
これにより、建築構造物の外郭が円筒状である場合に、無人航走体の自己位置の測位を円筒座標系を用いて的確に行うことができる。
【0047】
また、内側にペデスタルを有する原子炉格納容器のように、建築構造物が2重の円筒状を成し、外郭(原子炉格納容器の内壁)と内側の円筒状を成す内郭(ペデスタルの外壁)との間に滞留水を有する場合は、計測・測位ステップS5において、無人航走体と内郭との距離(S)を計測するか、又は内郭の位置を推定して、無人航走体と内郭との距離(S)を導出する。これにより、無人航走体の自己位置の測位を、内郭との距離(S)を計測するか導出することにより精度よく行うことができる。
【0048】
計測・測位ステップS5において、内郭との距離(S)を計測する場合は、以下の手順とする。
(1)ライダーによりペデスタルの外壁をスキャンして、ペデスタルの外壁の3D点群データに変換する。
(2)ペデスタルの外壁の3D点群データを処理して、無人航走体-ペデスタルの外壁間の最短距離と、その最短点のスキャン角度(無人航走体の進行方向とレーダーの発射方向の間)を抽出する。
(3)無人航走体の姿勢データとスキャン角度より、無人航走体のペデスタル中心を基準とした角度を評価する。
このように、計測・測位ステップS5において、内郭との距離(S)を計測する場合は、内郭表面をレーザ光を用いたライダーでスキャンし得られた内郭の3次元点群データを処理して内郭との距離(S)を計測する。この手法ではライダーにより直接、内郭との距離(S)を計測するため、音波を2重の円筒状部に適用した際の多重散乱によるノイズが発生せず、自己測位の予測精度を向上させることができる。
【0049】
計測・測位ステップS5において、内郭との距離(S)を推定する場合は、以下の手順とする。
(1)回転式ビームソナーにより2次元画像データ(輪郭データ)を取得する。輪郭データを無人航走体に設けた回転式ビームソナーにより取得することにより、建築構造物の輪郭の二次元画像を精度よく認識することができる。このとき、ソナー出力の他に、無人航走体の姿勢データφ(ヨー)、θ(ピッチ)、ψ(ロール)もジャイロ計から取得する。
(2)ディープクラック(DeepCrack)法を用いて、ペデスタル外の周辺に存在する構造物などに起因するノイズを除去してペデスタル画像のみ抽出する。
(3)ペデスタル画像より、超音波の到達距離(range)から無人航走体-ペデスタルの外壁間の最短距離を評価する。
(4)無人航走体の姿勢データとペデスタル画像より、無人航走体のペデスタル中心を基準とした角度を評価する。
【0050】
ここで、図2はディープクラック法の機械学習プロセスの概略図である。
ディープクラック法の機械学習は、例えば、ペデスタルを含む原子炉格納容器内の再現CG画像からソナー画像に近いと思われる断面画像を生成し、それを二値化してランダムに切り抜いたものと、対になる円弧の正解画像を300セット作成し、それらを用いてペデスタルの外壁のみを抽出できるようにディープクラックモデルに学習させる。
なお、原子炉格納容器内の再現CG画像は、原子炉格納容器の設計図に基づいてCADデータを制作することにより得られる。
【0051】
このように、計測・測位ステップS5において、内郭との距離(S)を推定する場合は、建築構造物の設計データに基づいて再現したCG画像を用いて学習させたディープクラック(DeepCrack)モデルに、無人航走体で取得した輪郭データを適用し、内郭の位置を推定し、内郭との距離(S)を導出する。設計データに基づいたCG画像を学習させたAI(人工知能)を用いた手法により、ソナー画像のノイズ混じりの画像から真の画像情報を抽出して内郭との距離(S)の予測精度を向上させることができる。
【0052】
計測・測位ステップS5においては、無人航走体の姿勢の補正も行う。無人航走体は、船や飛行機と同様に常に姿勢が傾くため、原子炉格納容器やペデスタルの水平断面と並行面の2次元画像を作成することを目的として、姿勢を補正する。
ここではz軸周りにγ(ヨー)、y軸周りにβ(ピッチ)、x軸周りにα(ロール)回転した場合の補正を説明する。図3は無人航走体の姿勢補正の説明図であり、図3(a)はz軸周りのγ(ヨー)、図3(b)はy軸周りのβ(ピッチ)、図3(c)はx軸周りのα(ロール)を示している。
回転式ビームソナーのヘッド上部に取り付けられた方向指示が正面に向いた方向は、無人航走体の進行方向に向けられるものとする。ヘッドが向く方向はヨーイングの角度で示され、プラントノースからの角度を表す。
無人航走体に搭載されているジャイロ計からヨーイング、ピッチング、及びローリングのデータが得られ、深度計から無人航走体の深度データが得られる。
z軸回転の回転角度γをヨーイング、y軸回転の回転角度βをピッチング、x軸回転の回転角度αをローリングとする。r,r,rを回転前の座標値とし下式(4)を用いて補正処理を行うと、回転補正後の座標値r´´´,r´´´,r´´´が得られる。
【数4】
しかしながら、回転式ビームソナーで得られる2次元画像は、無人航走体の姿勢を反映した2次元(r,r)座標となっており、r座標のデータは含まれていないので、水平断面にするための補正はx座標とy座標に適用する。従って補正処理は、y軸回転の回転角度β(ピッチング)とx軸回転の回転角度α(ローリング)に対して行うものとする。
まず、y軸を軸としてβ回転させた場合の変換は下式(5)となる。
【数5】
次にx軸を軸としてα回転させた場合の変換は下式(6)となる。
【数6】
従って、最初の座標からの変換は下式(7)となる。
【数7】
【0053】
また、上述のディープクラック(DeepCrack)法を用いたペデスタル画像の抽出においては、無人航走体の姿勢補正済の2次元画像の二値化とエッジ処理を行う。具体的には、内郭(ペデスタルの外壁)や、外郭(原子炉格納容器の内壁)の水平断面である円やその一部が明確に認識できるようにするため、回転式ビームソナーにより得られた無人航走体の姿勢補正済の2次元画像データに対して二値化とエッジ処理を行う。
そして、ディープクラック法に、二値化した回転式ビームソナーの2次元画像を入力して、余分な構造物等のノイズ除去を実施し、内郭(ペデスタル外壁)の円のみを抽出した画像を作成する。
【0054】
2次元画像データの取得に用いる回転式ビームソナーは、MHz級周波数帯を使用するものであってもよいが、kHz級の周波数帯を使用するものであることが好ましい。MHz級周波数帯のソナーは、比較的反射率は高いものの、水中や物質中において減衰し易い性能を有する。これに対してkHz級周波数帯のソナーは、反射率は低下するものの、減衰しにくい性能である。ペデスタル外の周辺に存在する構造物などからの多重散乱の影響を低減するには反射率がある程度低い方が望ましいが、ペデスタルからの反射波を検知できることが重要である。そのため、反射率がさほど高くも低くもなく、減衰が比較的少ないkHz級の周波数帯が望ましい。
【0055】
図4は無人航走体の自己測位の説明図である。
図4に示す円やデータ等は上述した2次元画像の二値化とエッジ処理により得られる。
無人航走体の位置はペデスタルを中心にした円筒座標系(r,θ,z)で表されるところ、無人航走体に搭載した深度計により水面からの深度を計測することで、無人航走体のz座標が得られる。従って、残りのr座標及びθ座標を導出することで無人航走体の位置座標を求めることができる。
無人航走体のr座標値とθ座標値に関しては、無人航走体に搭載したジャイロ計の姿勢データ(φ)と、回転式ビームソナーによる2次元画像データと超音波の到達距離(range)に基づき、無人航走体-ペデスタルの外壁間の最短距離(S)と無人航走体の進行方向からの垂直距離(d)を用いて求めることができる。
即ち、無人航走体のr座標は、ペデスタルの外壁の半径をRとすると、下式(1)より求まる。
r=S+R ・・・(1)
次に、無人航走体のθ座標は、ジャイロ計の姿勢データ(φ)、及び図2に示したαと下式(2)より求まる。
θ=φ-α ・・・(2)
αは、無人航走体-ペデスタルの外壁間の最短距離(S)と無人航走体の進行方向からの垂直距離(d)から、下式(3)によって求まる。
sinα=d/S ・・・(3)
ここで、rは無人航走体の円筒(ペデスタル)中心からの距離、Sは無人航走体と内郭(ペデスタルの外壁)との距離、Rは内郭の半径、φはジャイロ計で計測された無人航走体の姿勢、θはプラントノースから無人航走体の位置する角度、αは円筒中心から無人航走体に引いた線と姿勢(φ)の成す角度 、dは円筒中心から無人航走体に引いた線の内郭との交点から無人航走体の方位線への垂線の距離である。
このように、内郭の半径(R)を求め、式(1)に基づいて無人航走体の円筒中心からの距離(r)を求め、式(2)と式(3)に基づいて、プラントノースから無人航走体の位置する角度(θ)を求めることにより、建築構造物が2重の円筒状を成し、外郭と内側の円筒状を成す内郭との間に滞留水を有する場合に、無人航走体の自己位置の測位を、式(1)から式(3)に基づいて的確に行うことができる。
【0056】
図5は無人航走体による水中点検方法のフロー図である。
無人航走体による水中点検方法は、滞留水を有した建築構造物の水面下の点検に用いる。
水中点検方法は、上述した無人航走体の自己位置測位方法の情報取得ステップS1、基準設定ステップS2、投入ステップS3、航走ステップS4、及び計測・測位ステップS5を実行すると共に、滞留水を有した建築構造物の水面下の点検対象をモニタリングして探査して探査データを取得する(S6:探査ステップ)。
探査ステップS6においては、無人航走体を航走させて、無人航走体に搭載した水中カメラやセンサー(ソナー、ライダー、放射線検出器など)を使用した点検(デブリ探査)を実施する。
点検者は、センサーによる出力を遠隔操作室でモニタリングし、点検対象の点検対象部若しくは点検対象物を発見した場合、又はデブリが存在すると推察される時点で、無人航走体の航走を停止させる(S7:停止ステップ)。
【0057】
次に、探査ステップで取得した点検対象の点検対象部又は点検対象物の探査データを無人航走体の測位した自己位置と関連付けて記録する(S8:データ記録ステップ)。
次に、点検対象の点検が完了したか否かを判断する(S9:点検完了判断ステップ)。
そして、点検が完了していないと判断した場合は、航走ステップS4、計測・測位ステップS5、探査ステップS6、停止ステップS7、及びデータ記録ステップS8を繰り返す。
これにより、衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体の自己位置を精度よく測位しつつ、探査データを自己位置と関連付けて記録することにより、点検作業を円滑に遂行することができる。
【0058】
点検完了判断ステップS9において、点検が完了したと判断した場合は、無人航走体を投入個所まで移動させ建築構造物の滞留水の水面にまで浮上させる。そして、無人航走体を引き上げて無人航走体を揚収する(S10:揚収ステップ)。
これにより、点検の役割を終えた無人航走体を確実に回収することができる。
【0059】
少なくとも投入ステップS3、探査ステップS6、停止ステップS7、及び揚収ステップS10は、遠隔操作により行うことが好ましい。これにより、点検対象が危険である場合に、点検者の被曝量低減などの安全性や、点検効率を高めることができる。
また、建築構造物が原子炉格納容器であり、点検対象物をデブリとすることで、デブリの状況を無人航走体を用いて把握することができる。
【0060】
図6は無人航走体による水中点検システムの構成図である。
無人航走体による水中点検システムは、滞留水2を有した建築構造物1の水面下を無人航走体3により点検するのに用いる。
無人航走体3による水中点検システムは、無人航走体3に建築構造物1の設計上の基準又は設置現場における基準となる基準方位及び基準深度を設定する基準設定手段10と、無人航走体3を建築構造物1の滞留水2の中に投入する投入手段20と、無人航走体3を滞留水2の中で航走させる航走手段30と、無人航走体3で計測した計測方位及び計測深度と基準方位及び基準深度とに基づいて無人航走体3の自己位置を測位する計測・測位手段40と、水面下の点検対象をモニタリングして探査する探査手段50と、無人航走体3を停止させる停止手段60と、探査手段50で取得した点検対象の点検対象部又は点検対象物の探査データを無人航走体3の測位した自己位置と関連付けて記録するデータ記録手段70と、無人航走体3を揚収する揚収手段80を備える。
航走手段30は例えば推進プロペラ等により構成され、停止手段60は例えば推進プロペラの停止機能等により構成される。
【0061】
基準設定手段10は上述した無人航走体による水中点検方法の基準設定ステップS2に対応する処理の実行に用い、投入手段20は投入ステップS3に対応する処理の実行に用い、航走手段30は航走ステップS4に対応する処理の実行に用い、計測・測位手段40は、計測・測位ステップS5に対応する処理の実行に用いる。
また、探査手段50は上述した無人航走体による水中点検方法の探査ステップS6に対応する処理の実行に用い、停止手段60は停止ステップS7に対応する処理の実行に用い、データ記録手段70はデータ記録ステップS8に対応する処理の実行に用い、揚収手段80は揚収ステップS10に対応する処理の実行に用いる。
これにより、衛星測位システムによる測位が困難な空間や音波の多重散乱によるノイズが発生し易い空間において無人航走体3の自己位置を精度よく測位しつつ、探査データを自己位置と関連付けて記録することにより、点検作業を円滑に遂行することができる。
【0062】
無人航走体3は、計測・測位手段40として計測方位を得るジャイロ計及び計測深度を得る深度計を有する。これにより、無人航走体3の自己位置を測位するための姿勢や深度を、ジャイロ計や深度計を用いて精度よく取得することができる。
また、無人航走体3は、計測・測位手段40としてライダー又は回転式ビームソナーも備えている。
【0063】
無人航走体3による水中点検システムは、少なくとも投入手段20、探査手段50、停止手段60、及び揚収手段80の操作を遠隔操作により行う遠隔操作手段90を備える。これにより、点検対象が危険である場合に、点検者の被曝量低減などの安全性や、点検効率を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、福島第一原子力発電所の廃炉作業のような、狭い水中空間での無人航走体の炉内での自己測位に対して適用することができる。
また、本発明は、管路、ダム、又は風力発電施設等の滞留水を有した建築構造物における水中点検・探査にも適用することができる。「滞留水を有した」とは、建築構造物の内部に水を有する場合、建築構造物の外部と接するように水を有する場合、建築構造物の外部を取り囲むように水を有する場合等も含まれる。また、建築構造物が水と常に接していて流動している場合も滞留水を有することに含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1 建築構造物
2 滞留水
3 無人航走体
10 基準設定手段
20 投入手段
30 航走手段
40 計測・測位手段
50 探査手段
60 停止手段
70 データ記録手段
80 揚収手段
90 遠隔操作手段
S1 情報取得ステップ
S2 基準設定ステップ
S3 投入ステップ
S4 航走ステップ
S5 計測・測位ステップ
S6 探査ステップ
S7 停止ステップ
S8 データ記録ステップ
S9 点検完了判断ステップ
S10 揚収ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6