(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146120
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】オレフィン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 4/654 20060101AFI20241004BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20241004BHJP
C08F 4/656 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08F4/654
C08F210/02
C08F4/656
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058846
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西埜 文晃
(72)【発明者】
【氏名】上野 篤史
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AA02P
4J100AA04Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA09
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4J128GA16
4J128GA19
4J128GA21
(57)【要約】
【課題】分子量が106.5以上の様な高い分子量の重合体成分を比較的多く含むオレフィン重合体を効率よく製造できる好適な方法を提供すること。前記の高分子量重合体成分が、炭素原子数3以上オレフィン由来の構造単位を比較的多く含むことが好ましい。
【解決手段】固体状チタン触媒成分(A)と、分子量が30以上の置換基を有する有機アルミニウム化合物(B)とを含むオレフィン重合触媒の存在下にオレフィンを重合させ、オレフィン重合体を製造する方法。前記固体状チタン触媒成分(A)は、ケイ素含有化合物を含む態様であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを含み、
マグネシウムを10~25質量%、
チタンを2~12質量%、
ORa基を1~12質量%(但しRaは炭素原子数1~20の炭化水素基)、および、
(α)ケイ素含有化合物、有機酸化合物、有機酸エステル化合物、ケトン化合物、アルデヒド化合物、窒素含有化合物、リン含有化合物から選ばれる化合物が0~12質量%
を含有する固体状チタン触媒成分と、
(B)下記式(1)で規定される有機アルミニウム化合物と
R3Al・・・(1)
(但し、Rは炭素、水素、ヘテロ原子を含む置換基であり、その1つ以上は分子量が30以上の置換基である。)
を含むオレフィン重合触媒の存在下にオレフィンの重合を行い、下記要件(PE1)、(PE2)、(D)、および(H)を満たすオレフィン重合体の製造方法:
(PE1)エチレン由来の構造単位含有率が90モル%以上、99.8モル%以下;
(PE2)炭素原子数3~20のオレフィン由来構造単位含有率が0.2モル%以上、10モル%以下(ただし、エチレン由来の構造単位と炭素原子数3~20のオレフィン由来構造単位の合計が100モル%である。);
(D)密度が900~960kg/m3;
(H)GPC測定で決定される分子量が106.5以上の成分の含有率が、1.5質量%以上である。
【請求項2】
前記式(1)のRの1つ以上が、分子量35以上、300以下である、請求項1に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)のRの1つ以上が、炭素原子と水素原子からなる炭化水素基である、請求項1に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記(A)固体状チタン触媒成分が、(a)液状マグネシウム化合物と、(b)液状チタン化合物とを、該マグネシウム化合物(a)1モルに対して0.25~0.35モルの量の(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物の存在下に接触させ、得られた接触物(i)を105~115℃の範囲内の温度に昇温し、この温度に保持して得られる固体状チタン触媒成分である、請求項1に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンを含むオレフィン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン単独重合体、直鎖状低密度エチレン重合体(LLDPE)などのオレフィン重合体は、透明性、機械的強度などに優れ、フィルムやボトルなどの包材や容器などの用途の原料として広く利用されている。このようなエチレン重合体の製造方法は、様々な方法が開示されており、チタン、マグネシウム、ハロゲンおよび任意成分としての電子供与体を含む固体状チタン触媒成分を含むオレフィン重合用触媒を用いると、エチレン重合体を高い重合活性で製造できることが知られている(例えば、特許文献1)。
前記固体状チタン触媒の粒子性状は、製造プロセスの安定運転や効率的な生産に大きく影響する傾向があり、粒子性状に優れた固体状チタン触媒成分は、電子供与体の様な成分を含む態様であることが多い。
【0003】
オレフィン重合体は、前記の通り、ガラスなどの代替材料として容器の原料として好適に使用されている。一方、近年、環境問題意識の高まりから、オレフィン重合体を用いた容器の耐久性を更に高めることが求められつつあり、耐環境応力試験等での高い性能を示すようなオレフィン重合体が求められることがある(例えば、特許文献2)。この動きに対応して、PE100、PE125等の種々の規格も制定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-328514号公報
【特許文献2】特開2004-269864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の様な耐久性に優れたオレフィン重合体は、極めて分子量の高い成分を含む態様であることが多い。また、適度な靭性も求められる。この様なオレフィン重合体としては、炭素原子数3以上のオレフィン由来構造単位を比較的多く含む高分子量成分を含むエチレン共重合体が好適と考えられる。
一方、炭素原子数3以上のオレフィンは、オレフィン重合触媒の種類にもよるが、エチレンに比して重合速度がかなり遅い傾向があり、連鎖移動反応の影響が相対的に高まるなどの理由で、前記の様なエチレン共重合体を製造することは比較的困難な傾向がある。
【0006】
よって、本発明は、固体状チタン触媒成分を用いたオレフィン重合触媒用い、高い分子量成分であっても炭素数3以上のオレフィン由来構造単位を比較的多く含むエチレン重合体を生産し易いオレフィン重合体の製造方法を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題を解決するために検討した結果、特定の成分を含む固体状チタン触媒と、特定の要件を満たす置換基を含む有機アルミニウム化合物を含むオレフィン重合触媒の存在下にオレフィンの重合を行う方法好適であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、下記の要件により特定されるものである。
[1]
(A)マグネシウム、チタン、およびハロゲンを含み、
マグネシウムを10~25質量%、
チタンを2~12質量%、
ORa基を1~12質量%(但しRaは炭素原子数1~20の炭化水素基)、および、
(α)ケイ素含有化合物、有機酸化合物、有機酸エステル化合物、ケトン化合物、アルデヒド化合物、窒素含有化合物、リン含有化合物から選ばれる化合物を0~12質量%
を含有する固体状チタン触媒成分と、
(B)下記式(1)で規定される有機アルミニウム化合物と
R3Al・・・(1)
(但し、Rは炭素、水素、ヘテロ原子を含む置換基であり、その1つ以上は分子量が30以上の置換基である。)
を含むオレフィン重合触媒の存在下にオレフィンの重合を行い、下記要件(PE1)、(PE2)、(D)、および(H)を満たすオレフィン重合体製造方法:
(PE1)エチレン由来の構造単位含有率が90モル%以上、99.8モル%以下;
(PE2)炭素原子数3~20のオレフィン由来構造単位含有率が0.2モル%以上、10モル%以下(ただし、エチレン由来の構造単位と炭素原子数3~20のオレフィン由来構造単位の合計が100モル%である。);
(D)密度が900~960kg/m3;
(H)GPC測定で決定される分子量が106.5以上の成分の含有率が、1.5質量%以上である。
【0009】
[2]
前記式(1)のRの1つ以上が、分子量35以上、300以下である、[1]に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【0010】
[3]
前記式(1)のRの1つ以上が、炭素原子と水素原子からなる炭化水素基である、[1]または[2]に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【0011】
[4]
前記(A)固体状チタン触媒成分が、(a)液状マグネシウム化合物と、(b)液状チタン化合物とを、該マグネシウム化合物(a)1モルに対して0.25~0.35モルの量の(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物の存在下に接触させ、得られた接触物(i)を105~115℃の範囲内の温度に昇温し、この温度に保持して得られる固体状チタン触媒成分である、請求項1に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
上記の方法を用いると、分子量が106.5を超えるような高分子量成分を含む重合体を製造することが容易であり、また前記の高分子量成分に炭素原子数3以上オレフィン由来と考えられる分岐構造を比較的多く有する重合体を得易い傾向がある。好ましくは分岐構造含有率の分子量依存性も少ない傾向がある。このため、広い分子量領域において適度な分岐構造を有するオレフィン重合体を工業的に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は実施例1と比較例1のGPC-IR測定チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る固体状チタン触媒成分、これを含むエチレン重合用触媒およびエチレンの重合方法について説明する。なお本発明において「重合」という語は、単独重合のみならず共重合を包含した意味で用いられることがあり、また「重合体」という語は、単独重合体のみならず共重合体を包含した意味で用いられることがある。
【0015】
<(A)固体状チタン触媒成分>
本発明の(A)固体状チタン触媒成分は、
マグネシウム、チタン、およびハロゲンを含み、
マグネシウムを10~25質量%、
チタンを2~12質量%、
ORa基を1~12質量%(但しRaは炭素原子数1~20の炭化水素基)、および
(α)ケイ素含有化合物、有機酸化合物、有機酸エステル化合物、ケトン化合物、アルデヒド化合物、窒素含有化合物、リン含有化合物から選ばれる化合物を0~12質量%
を含有する。
【0016】
この様な固体状チタン触媒成分は、公知の固体状チタン触媒成分から選ぶことができる。例えば、前記特許文献1の他、国際公開第2009/125729号公報に開示された脂環族ジカルボン酸エステルを含む固体状チタン触媒成分等を挙げることができる。
【0017】
前記のマグネシウムの含有率の好ましい下限値は11質量%、より好ましくは12質量%、さらに好ましくは13質量%である。一方好ましい上限値は23質量%、より好ましくは22質量%、さらに好ましくは21質量%である。
前記のチタンの含有率の好ましい下限値は3質量%、より好ましくは5質量%である。一方、好ましい上限値は11質量%、より好ましくは10質量%、さらに好ましくは9質量%である。
ORa基の好ましい下限値は1.2質量%、より好ましくは2質量%である。一方好ましい上限値は11質量%、より好ましくは10質量%、さらに好ましくは9質量%である。
上記の様な範囲内であれば、エチレンを含むオレフィンを高い活性で重合させ、高分子のオレフィン重合体を得られる他、粒子性状に優れた固体状チタン触媒成分として好適である。
【0018】
前記Raは炭素原子数1~20の置換基である。好ましくは炭素と水素とから成る炭化水素基であることが好ましい。この様なRa置換基の好ましい例としては、例えば、後述するマグネシウム化合物と併用するアルコール類に対応する構造である。それらの中でも好ましい具体例は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、へキシル基、オクチル基、2-エチルへキシル基、デシル基、ウンデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などの脂肪族炭化水素;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基の様な脂環族炭化水素基、フェニル基、トリル基、ベンジル基等の芳香族置換基を挙げることができる。これらの中でも脂肪族炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素原子数1~10の炭化水素基であり、さらに好ましくはエチル基、ブチル基、へキシル基、2-エチルへキシル基、オクチル基、デシル基である。特にエチル基を含む態様であることが好ましく、またエチル基と2-エチルへキシル基の組み合わせの様な炭素原子数5以下の置換基と、炭素原子数6~10の置換基との組み合わせの態様であることが好ましい。
【0019】
前記の炭素原子数5以下のアルコキシ基(ORaL)の含有率は、好ましくは0.5~5質量%である。
このような置換基は、例えば後述する液状マグネシウム化合物の調製に用いられるアルコール化合物由来で、固体状チタン触媒成分に導入されることがある。
【0020】
(α)ケイ素含有化合物等の化合物
本発明に使用される固体状チタン触媒成分は、ケイ素含有化合物、有機酸化合物、有機酸エステル化合物、ケトン化合物、アルデヒド化合物、窒素含有化合物、リン含有化合物から選ばれる化合物を0~12質量%含むことを特徴とする。その好ましい下限値は0.2質量%であり、その好ましい上限値は10質量%、より好ましくは9質量%、さらに好ましくは8質量%である。この様な化合物は、後述する固体状チタン触媒成分の例で紹介する(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物や、(d)他の電子供与体由来の成分を例示できる。
【0021】
上記の様な要件を満たす固体状チタン触媒成分の中でも、本発明において好ましいのは、前記特許文献1に開示された固体状チタン触媒成分を挙げることができる。以下、その好適例を紹介する。
【0022】
本発明に係る固体状チタン触媒成分(A)は、(a)液状マグネシウム化合物と、(b)液状チタン化合物と、該マグネシウム化合物(a)1モルに対して特定量の(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物とを後述するようにして接触させて得られ、マグネシウム、チタン、ハロゲン、および(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物を含有している。
以下まず本発明において、固体状チタン触媒成分(A)を調製する際に用いられる各成分について説明する。
【0023】
(a)液状マグネシウム化合物
本発明では、固体状チタン触媒成分を調製するに際してマグネシウム化合物は液状状態で用いられ、マグネシウム化合物が固体状であるときには液状化して用いられる。マグネシウム化合物としては、還元能を有するマグネシウム化合物(a-1)および還元能を有さないマグネシウム化合物(a-2)を用いることができる。
【0024】
(a-1)還元能を有するマグネシウム化合物としては、たとえば下式で表わされる有機マグネシウム化合物を挙げることができる。
XnMgR2-n
(式中、nは0≦n<2であり、Rは水素または炭素数1~20のアルキル基、アリール基またはシクロアルキル基であり、nが0である場合2個のRは同一でも異なっていてもよい。Xはハロゲンである。)
【0025】
このような還元能を有する有機マグネシウム化合物としては、具体的には、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジアミルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウム、オクチルブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどのジアルキルマグネシウム化合物、エチル塩化マグネシウム、プロピル塩化マグネシウム、ブチル塩化マグネシウム、ヘキシル塩化マグネシウム、アミル塩化マグネシウムなどのアルキルマグネシウムハライド、ブチルエトキシマグネシウム、エチルブトキシマグネシウム、オクチルブトキシマグネシウムなどのアルキルマグネシウムアルコキシド、その他ブチルマグネシウムハイドライドなどが挙げられる。
【0026】
(a-2)還元能を有さないマグネシウム化合物としては、具体的に、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、フッ化マグネシウムなどのハロゲン化マグネシウム、メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウム、オクトキシ塩化マグネシウムなどのアルコキシマグネシウムハライド、フェノキシ塩化マグネシウム、メチルフェノキシ塩化マグネシウムなどのアリロキシマグネシウムハライド、エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、n-オクトキシマグネシウム、2-エチルヘキソキシマグネシウムなどのアルコキシマグネシウム、フェノキシマグネシウム、ジメチルフェノキシマグネシウムなどのアリロキシマグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムなどのマグネシウムのカルボン酸塩、マグネシウム金属、水素化マグネシウムなどを用いることもできる。
【0027】
これら還元能を有さないマグネシウム化合物(a-2)は、上述した還元能を有するマグネシウム化合物(a-1)から誘導した化合物、あるいは触媒成分の調製時に誘導した化合物であってもよい。還元能を有さないマグネシウム化合物(a-2)を、還元能を有するマグネシウム化合物(a-1)から誘導するには、たとえば還元能を有するマグネシウム化合物(a-1)を、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、シロキサン化合物、ハロゲン含有シラン化合物、ハロゲン含有アルミニウム化合物、酸ハライドなどのハロゲン含有化合物、あるいはOH基や活性な炭素-酸素結合を有する化合物と接触させればよい。
【0028】
さらに本発明では、後述するような活性水素を有さない有機ケイ素化合物(c)を用いて、還元能を有するマグネシウム化合物(a-1)から還元能を有さない化合物(a-2)を誘導することもできる。マグネシウム化合物は2種以上組合わせて用いることもできる。
【0029】
なお上記のようなマグネシウム化合物は、アルミニウム、亜鉛、ホウ素、ベリリウム、ナトリウム、カリウムなどのマグネシウム以外の金属化合物たとえば後述する有機アルミニウム化合物との錯化合物、複化合物を形成していてもよく、あるいはこれら他の金属化合物と混合して用いることもできる。
【0030】
固体状チタン触媒成分(A)調製時には、上述した以外のマグネシウム化合物を使用することもできるが、最終的に得られる固体状チタン触媒成分(A)中において、ハロゲン含有マグネシウム化合物の形で存在することが好ましく、従ってハロゲンを含まないマグネシウム化合物を用いる場合には、触媒成分調製の過程でハロゲン含有化合物と接触反応させることが好ましい。
【0031】
上記化合物の中でも、還元能を有さないマグネシウム化合物が好ましく、特にハロゲン含有マグネシウム化合物が好ましく、さらにこれらの中でも塩化マグネシウム、アルコキシ塩化マグネシウム、アリロキシ塩化マグネシウムが好ましく用いられる。
【0032】
本発明では上記のようなマグネシウム化合物が固体であるときには、電子供与体(d-1)を用いてマグネシウム化合物を液状化することができる。このような電子供与体(d-1)としては、アルコール類、カルボン酸類、アルデヒド類、アミン類、金属酸エステル類などを用いることができる。アルコール類としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、2-メチルペンタノール、2-エチルブタノール、ヘプタノール、2-エチルヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデシルアルコール、オクタデシルアルコール、ウンデセノール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、エチレングリコールなどの脂肪族アルコール類、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールなどの脂環族アルコール類、ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール、イソプロピルベンジルアルコール、α-メチルベンジルアルコール、α,α-ジメチルベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、クミルアルコール、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ノニルフェノール、ナフトールなどの芳香族アルコール類、n-ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1-ブトキシ-2-プロパノール、メチルカルビトールなどのアルコキシ基含有アルコール類、トリクロロメタノール、トリクロロエタノール、トリクロロヘキサノールなどのハロゲン含有アルコール類などが挙げられる。
【0033】
カルボン酸類としては、炭素数7以上のカルボン酸が好ましく、たとえばカプリル酸、2-エチルヘキサノイック酸、ノニリック酸、ウンデシレニック酸などが挙げられる。アセトアルデヒド類としては、炭素数7以上のアセトアルデヒドが好ましく、たとえばカプリルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、ナフトアルデヒドなどが挙げられる。アミン類としては、炭素数6以上のアミン類が好ましく、たとえばヘプチルアミン、オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ラウリルアミンなどが挙げられる。
【0034】
金属酸エステル類としては、テトラエトキシチタン、テトラ-n-プロポキシチタン、テトラ-i-プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラヘキソキシチタン、テトラブトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウムなどが挙げられる。なおこの金属酸エステル類中には、(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物として後述するようなケイ酸エステルは含まれない。これらは2種以上併用することもでき、また後述するような上記以外の電子供与体(d)を併用することもできる。これらのうちでも、アルコール類、金属酸エステル類が好ましく特に炭素数6以上のアルコール類が好ましく用いられる。
【0035】
上記のような電子供与体(d-1)を用いてマグネシウム化合物を液状化する際には、電子供与体(d-1)として炭素数6以上の電子供与体を用いる場合には、マグネシウム化合物1モルに対して通常約1モル以上好ましくは1~40モルさらに好ましくは1.5~12モルの量で用いられる。また炭素数5以下の電子供与体を用いる場合には、マグネシウム化合物1モルに対して通常約15モル以上必要である。
【0036】
固体状マグネシウム化合物と電子供与体(d-1)との接触時には、炭化水素溶媒を用いることができる。このような炭化水素溶媒としては、たとえばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、灯油などの脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、シクロヘキセンなどの脂環族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、シメンなどの芳香族炭化水素類、四塩化炭素、ジクロロエタン、ジクロロプロパン、トリクロロエチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類などを用いることができる。
【0037】
このような溶媒のうち芳香族炭化水素を用いる場合には、電子供与体(d-1)としてのたとえばアルコール類は、その種類(炭素数)にかかわらず上記の炭素数6以上の電子供与体の使用量として示した量で用いればマグネシウム化合物を溶解することができる。また脂肪族炭化水素および/または脂環族炭化水素を用いる場合には、電子供与体(d-1)としてのアルコール類は、上述したような炭素数に応じた量で用いられる。
【0038】
本発明では、炭化水素溶媒中で固体状マグネシウム化合物と電子供与体(d-1)とを接触させることが好ましい。固体状マグネシウム化合物を電子供与体(d-1)に溶解するには、固体状マグネシウム化合物と電子供与体(d-1)とを好ましくは炭化水素溶媒の共存下に接触させ、必要に応じて加熱する方法が一般的である。この接触は、通常0~300℃好ましくは20~180℃より好ましくは50~150℃の温度で、15分間~20時間程度好ましくは30分間~10時間程度で行なわれる。
【0039】
(b)液状チタン化合物
本発明では、液状チタン化合物としては特に4価のチタン化合物が好ましく用いられる。このような4価のチタン化合物としては、次式で示される化合物を挙げることができる。
Ti(OR)gX4-g
(式中、Rは炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、0≦g≦4である。)
【0040】
このような化合物としては、具体的には、TiCl4、TiBr4、TiI4などのテトラハロゲン化チタン、Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC2H5)Cl3、Ti(On-C4H9)Cl3、Ti(OC2H5)Br3、Ti(O-iso-C4H9)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン、Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC2H5)2Cl2、Ti(On-C4H9)2Cl2、Ti(OC2H5)2Br2などのジハロゲン化ジアルコキシチタン、Ti(OCH3)3Cl、Ti(OC2H5)3Cl、Ti(On-C4H9)3Cl、Ti(OC2H5)3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン、Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(On-C4H9)4、Ti(O-iso-C4H9)4、Ti(O-2-エチルヘキシル)4などのテトラアルコキシチタンなどが挙げられる。これらの中でもテトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタンが好ましい。これらのチタン化合物は、2種以上組み合わせて用いることもできる。また(a)マグネシウム化合物を液状化する際に示したような炭化水素溶媒に希釈して用いてもよい。
【0041】
(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物
本発明で用いられる活性水素を有さない有機ケイ素化合物は、たとえばR1
xR2
ySi(OR3)z(R1、R2はそれぞれ独立して炭化水素基またはハロゲンであり、R3は炭化水素基であり、0≦x<2、0≦y<2、0<z≦4である。)で示される。
【0042】
このような式で示される有機ケイ素化合物としては、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(2-エチルヘキシロキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、2-メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、2,3-ジメチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、2-ノルボルナントリメトキシシラン、2-ノルボルナンメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-クロルプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、iso-ブチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、2-ノルボルナントリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、クロルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、トリメチルフェノキシシラン、メチルトリアリロキシ(allyoxy)シラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシシラン)、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ビス(2-メチルシクロペンチル)ジメトキシシラン、ビス(2,3-ジメチルシクロペンチル)ジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビスo-トリルジメトキシシラン、ビスm-トリルジメトキシシラン、ビスp-トリルジメトキシシラン、ビスエチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、t-ブチルメチルジエトキシシラン、t-アミルメチルジエトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビスp-トリルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリシクロペンチルメトキシシラン、トリシクロペンチルエトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、シクロペンチルジメチルメトキシシラン、シクロペンチルジエチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルエトキシシラン、シクロペンチルジメチルエトキシシラン、ジメチルテトラエトキシジシロキサンなどが挙げられる。
【0043】
これらのうち、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシランなどが好ましく用いられる。触媒活性の点からテトラエトキシシランが、特に好ましく用いられる。
【0044】
なお上記の様な態様の場合、最終的に得られる固体状チタン触媒成分中に活性水素を有さない有機ケイ素化合物(c)が含まれていればよい。したがって固体状チタン触媒成分を調製する際には必ずしも上記のような活性水素を有さない有機ケイ素化合物(c)そのものを用いなくても、固体状チタン触媒成分を調製する過程で活性水素を有さない有機ケイ素化合物を生成しうる他の化合物を用いることもできる。
【0045】
(d)他の電子供与体
本発明では、固体状チタン触媒成分を調製するに際して、上記の活性水素を有さない有機ケイ素化合物(c)を用いることが好ましいが、他の活性水素を有さない他の電子供与体(d)を用いることもできる。
【0046】
本発明では、このような他の電子供与体(d)としては、たとえば有機酸エステル、有機酸ハライド、有機酸無水物、エーテル、ケトン、第3アミン、亜リン酸エステル、リン酸エステル、カルボン酸アミド、ニトリル、脂肪族カーボネート、ピリジン類などが挙げられる。より具体的には、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸i-ブチル、酢酸t-ブチル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、クロル酢酸メチル、ジクロル酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ピルビン酸エチル、ピバリン酸エチル、酪酸メチル、吉草酸エチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸シクロヘキシル、安息香酸フェニル、安息香酸ベンジル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、トルイル酸アミル、エチル安息香酸エチル、アニス酸メチル、アニス酸エチル、エトキシ安息香酸エチルなどの炭素数2~18の有機酸エステル類、アセチルクロリド、ベンゾイルクロリド、トルイル酸クロリドなどの炭素数2~15の酸ハライド類、無水酢酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水安息香酸、無水トリメリット酸、無水テトラヒドロフタル酸などの酸無水物、メチルエーテル、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、アミルエーテル、テトラヒドロフラン、エチルベンジルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、アニソール、ジフェニルエーテルなどの炭素数2~20のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルn-ブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾキノン、シクロヘキサノンなどの炭素数3~20のケトン類、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどの第3アミン類、亜リン酸トリメチル、トリエチルホスファイト、トリn-プロピルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリn-ブチルホスファイト、トリイソブチルホスファイト、ジエチルn-ブチルホスファイト、ジエチルフェニルホスファイトなどの亜リン酸エステル類、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリトリルなどのリン酸エステル類、酢酸N,N-ジメチルアミド、安息香酸N,N-ジエチルアミド、トルイル酸N,N-ジメチルアミドなどの酸アミド類、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トルニトリルなどのニトリル類、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレンなどの脂肪族カーボネート、ピリジン、メチルピリジン、エチルピリジン、ジメチルピリジンなどのピリジン類などを挙げることができる。これらの化合物は、2種以上併用することもできる。
【0047】
(固体状チタン触媒成分(A)の調製)
本発明における、上記のような各成分を用いた具体的な方法を紹介する。具体的には、下記の方法により固体状チタン触媒成分(A)を調製するのが好適例である。
(1)(a)液状マグネシウム化合物と、(b)液状チタン化合物とを、該マグネシウム化合物(a)1モルに対して0.25~0.35モルの量の(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物(以下、単に有機ケイ素化合物(c)という。)の存在下に接触させ、得られた接触物(i)を105~115℃の範囲内の温度に昇温して、この温度に保持する。
(2)上記のように接触物(i)を昇温して105~115℃の範囲内の温度に保持する過程において、保持温度よりも10℃低い温度から昇温終了時までの間または昇温終了後に、前記マグネシウム化合物(a)1モルに対して0.5モル以下の量の有機ケイ素化合物(c)を添加して接触物(i)と接触させる。
本発明では、上記方法のうちでも方法(2)は得られる固体状チタン触媒成分の触媒活性の点で好ましい場合がある。
【0048】
本発明では、各成分を接触させる際には、有機ケイ素化合物(c)はマグネシウム化合物(a)に対して上記のように特定された量で用いられる。チタン化合物(b)は、接触により特別な析出手段を加えなくとも固体状物を析出させうる充分な量で用いられることが好ましい。チタン化合物(b)の使用量は、その種類、接触条件、有機ケイ素化合物(c)の使用量などによっても異なるが、マグネシウム化合物(a)1モルに対しては、通常約1モル以上であることが好ましく、さらには約5~約200モル特に約10~約100モルであることがより好ましい。またチタン化合物(b)は、有機ケイ素化合物(c)1モルに対しては、1モルを超える量で用いることが好ましく、さらには5モル以上の量で用いることがより好ましい。
【0049】
上記の各接触方法についてより具体的に説明する。液状マグネシウム化合物(a)とチタン化合物(b)との接触に用いられる液状マグネシウム化合物(a)および/またはチタン化合物(b)は、予め有機ケイ素化合物(c)を含んでいてもよい。この場合、マグネシウム化合物(a)とチタン化合物(b)との接触時に、有機ケイ素化合物(c)を新たに添加する必要はないが、添加してもよい。いずれの場合においてもマグネシウム化合物(a)に対する有機ケイ素化合物(c)合計量が上記の範囲内であればよい。
【0050】
本発明では、有機ケイ素化合物(c)の存在下、液状マグネシウム化合物(a)と液状チタン化合物(b)との接触を、この接触によって急速に固体状物が生じないような低い温度で行うことが好ましく、具体的に-70~+50℃好ましくは-50~+30℃さらに好ましくは-40~+20℃の温度で行うことが望ましい。接触に用いられる各溶液の温度は異なっていてもよい。なお接触当初、接触温度が低すぎて接触物(i)中に固体状物が析出しない時には、低温での接触を長時間行なって固体状物を析出させることもできる。
【0051】
本発明では、上記で得られた接触物(i)を、次いで105~115℃の範囲内の温度まで徐々に昇温して固体状物を徐々に析出させ、この温度を保持する。保持時間は通常0.5時間~6時間好ましくは1時間~4時間程度である。また昇温に要する時間は、反応器のスケールなどにより大きく異なる。
【0052】
このような条件で、活性水素を有さない有機ケイ素化合物(c)の存在下に、液状マグネシウム化合物(a)と液状チタン化合物(b)とを接触させると、比較的粒径が大きく、粒度分布の良好な顆粒状または球状の固体状チタン触媒成分を得ることができる。そしてこのように粒子性状に優れた固体状チタン触媒成分を用いてエチレンをスラリー重合させると、顆粒状または球状で粒度分布に優れ、嵩密度が大きく流動性も良好なエチレン重合体を得ることができる。
【0053】
接触方法(2)では、上記のような(1)において、接触物(i)を105~115℃の範囲内の温度に昇温し、この温度を通常0.5時間~6時間好ましくは1時間~4時間保持する過程において、保持温度よりも10℃低い温度から昇温終了時までの間か、または昇温終了後(好ましくは直後)に、さらに前記マグネシウム化合物(a)1モルに対して0.5モル以下の量の有機ケイ素化合物(c)を添加して接触物(i)と接触させる。
【0054】
上記のように調製される本発明に係る固体状チタン触媒成分は、マグネシウム、チタン、ハロゲン、および(c)活性水素を有さない有機ケイ素化合物を含有している。この固体状チタン触媒成分では、マグネシウム/チタン(原子比)は、0.5~50好ましくは1~40さらに好ましくは2~約30であり、ハロゲン/チタン(原子比)は、4~50好ましくは5~40さらに好ましくは6~30であり、有機ケイ素化合物(c)/チタン(モル比)は、0.01~50好ましくは0.02~10さらに好ましくは0.03~6であることが望ましい。有機ケイ素化合物(c)/マグネシウム(モル比)は、約0.001~1好ましくは約0.002~約0.5、特に好ましくは0.005~0.1であることが望ましい。
【0055】
固体状チタン触媒成分は、これら成分以外にも他の成分たとえば担体などを含有してもよく、具体的に他の成分を、50質量%以下好ましくは40質量%以下より好ましくは30質量%以下さらに好ましくは20質量%以下の量で含有していてもよい。触媒成分の組成は、固体状チタン触媒成分を大量のヘキサンで充分洗浄した後、0.1~1Torr、室温の条件下で2時間以上乾燥した後、ICP(原子吸光分析)、ガスクロマトグラフィーなどにより測定することができる。
【0056】
本発明に係る固体状チタン触媒成分の形状は、顆粒状またはほぼ球状であることが望ましく、その比表面積は、約10m2/g以上好ましくは約100~1000m2/gであることが望ましい。本発明では、固体状チタン触媒成分は、通常炭化水素溶媒で洗浄した後用いられる。
【0057】
(オレフィン重合用触媒)
本発明に係るオレフィン重合用触媒は、上記のような(A)固体状チタン触媒成分と、(B)有機アルミニウム化合物と、から形成される。本発明で用いられる有機アルミニウム化合物は、下記式(1)で特定される。
R3Al・・・(1)
(前記のRは、炭素数1~20の炭化水素基たとえばアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基の他、ハロゲン原子を含む群から選ばれる置換基である。)
【0058】
なお、本発明でハロゲン原子とは、例えば塩素原子の場合、「Cl-」と言う様に表すことができる置換基としての態様を含む(前記の「-」は共有結合を表す記号である。)。
【0059】
本発明においてRの少なくとも1つは、分子量(ハロゲン原子の場合は原子量が該当する。)が30以上の置換基である。前記分子量の好ましい下限値は32、より好ましくは35、特に好ましくは37である。前記分子量の上限値に特に制限はないが、好ましくは300、より好ましくは250、さらに好ましくは200、特に好ましくは150、殊に好ましくは100である。
好ましくは全てのRが分子量30以上の置換基である。
【0060】
具体的な置換基の例としては、n-プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等などであり、必須の置換基としてはn-プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを挙げることができる。上記の置換基の他、メチル基、エチル基が含まれていてもよい。
【0061】
このような有機アルミニウム化合物の内の必須となる有機アルミニウム化合物として具体的には、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリ2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニム、イソプレニルアルミニウムなどのアルケニルアルミニウム、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジメチルアルミニウムブロミドなどのジアルキルアルミニウムハライド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、イソプロピルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライドなどが挙げられる。上記の様な有機アルミニウム化合物と、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムハイドライドの様な分子量が30未満の置換基のみを含む有機アルミニウム化合物とを併用することもできる。
【0062】
上記の様な有機アルミニウム化合物が、本発明においては好適な例である。上記の中でもトリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド等の比較的小さな置換基を有する有機アルミニウム化合物が好ましい。
【0063】
また有機アルミニウム化合物として、下記式で示される化合物も例示できる。
Ra
nAlY3-n
上記式において、Raは上記と同様であり、Yは-ORb基、-OSiRc
3基、-OAlRd
2基、-NRe
2基、-SiRf
3基または-N(Rg)AlRh
2基であり、nは1~2であり、Rb、Rc、RdおよびRhはメチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基などであり、Reは水素、メチル基、エチル基、イソプロピル基、フェニル基、トリメチルシリル基などであり、RfおよびRgはメチル基、エチル基などである。
【0064】
このような有機アルミニウム化合物としては、具体的には、以下のような化合物が用いられる。
(i)Ra
nAl(ORb)3-n
ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムメトキシドなど、
(ii)Ra
nAl(OSiRc
3)3-n
Et2Al(OSiMe3)、(iso-Bu)2Al(OSiMe3)、(iso-Bu)2Al(OSiEt3)など、
(iii)Ra
nAl(OAlRd
2)3-n
Et2AlOAlEt2、(iso-Bu)2AlOAl(iso-Bu)2など、
(iv)Ra
nAl(NRe
2)3-n
Me2AlNEt2、Et2AlNHMe、Me2AlNHEt、Et2AlN(Me3Si)2、(iso-Bu)2AlN(Me3Si)2など、
(v)Ra
nAl(SiRf
3)3-n
(iso-Bu)2AlSiMe3など、
(vi)Ra
nAl〔N(Rg)-AlRh
2〕3-n
Et2AlN(Me)-AlEt2、(iso-Bu)2AlN(Et)-Al(iso-Bu)2など。
【0065】
また、これに類似した化合物、たとえば酸素原子、窒素原子を介して2以上のアルミニウムが結合した有機アルミニウム化合物を挙げることができる。より具体的に、(C2H5)2AlOAl(C2H5)2、(C4H9)2AlOAl(C4H9)2、(C2H5)2AlN(C2H5)Al(C2H5)2、など、さらにメチルアルミノキサンなどのアルミノキサン類を挙げることができる。
【0066】
第I族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物としては、下記一般式で表される化合物を例示できる。
M1AlRj
4
(M1はLi、Na、Kであり、Rjは炭素数1~15の炭化水素基である。)
【0067】
このような化合物としては、具体的にLiAl(C2H5)4、LiAl(C7H15)4などが挙げられる。
これらの化合物は、2種以上併用することもできる。
上記のRjは、特に炭素と水素のみを含む所謂炭化水素基であることが好ましい。
【0068】
本発明においては、上記の様な有機アルミニウム化合物と、必要に応じて他の有機金属化合物を併用することもできる。例えば、トリメチルアルミニウムやトリエチルアルミニウムの他、第2族金属の有機金属化合物としては、下記一般式で表される化合物を例示できる。
RkRlM2
(Rk、Rlは炭素数1~15の炭化水素基あるいはハロゲンであり、互いに同一でも異なっていてもよいが、いずれもハロゲンである場合は除く。M2はMg、Zn、Cdである。)
【0069】
具体的には、ジエチル亜鉛、ジエチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどが挙げられる。
この場合、他のアルミニウム化合物の割合は、アルミニウムやマグネシウム等の金属原子換算で、好ましくは前記R3Alの50モル%以下、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下である。
【0070】
本発明に係るエチレン重合用触媒は、オレフィン類が予備重合されていてもよい。なお本発明に係るエチレン重合用触媒は、上記のような各成分以外にも、エチレンの重合に有用な他の成分を含むことができる。
【0071】
<オレフィンの重合方法>
本発明に係るエチレンの重合方法(本重合)では、上記のような固体状チタン触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(B)とからなるエチレン重合用触媒の存在下にオレフィンを重合させる。具体的には、エチレンと炭素原子数3以上オレフィンとを共重合させる態様が好ましい。
【0072】
前記の炭素原子数3以上のオレフィン類としては、具体的に、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられ、具体的に、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。さらにはビニル化合物、他の不飽和化合物、ポリエン化合物などを共重合させることもでき、たとえばスチレン、置換スチレン類、アリルベンゼン、置換アリルベンゼン類、ビニルナフタレン類、置換ビニルナフタレン類、アリルナフタレン類、置換アリルナフタレン類などの芳香族ビニル化合物、ビニルシクロペンタン、置換ビニルシクロペンタン類、ビニルシクロヘキサン、置換ビニルシクロヘキサン類、ビニルシクロヘプタン、置換ビニルシクロヘプタン類、アリルノルボルナンなどの脂環族ビニル化合物、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2-メチル-1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロナフタレンなどの環状オレフィン、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン、4-トリメチルシリル-1-ブテン、6-トリメチルシリル-1-ヘキセン、8-トリメチルシリル-1-オクテン、10-トリメチルシリル-1-デセンなどのシラン系不飽和化合物などを共重合させることもできる。
【0073】
また上記の炭素原子数3以上のオレフィンを2種以上用いてエチレンと共重合させることもできる。本発明において、エチレンの重合では、固体状チタン触媒成分(A)(または予備重合触媒)は、重合容積1リットル当りチタン原子に換算して、通常は約0.0001~1.0ミリモルの量で用いることが望ましい。有機アルミニウム化合物(B)は、該触媒成分(B)中のアルミニウム原子が、重合系中の固体状チタン触媒成分(A)中のチタン原子1モルに対し、通常約1~2,000モル好ましくは約5~500モルとなるような量で用いることが望ましい。
【0074】
重合は溶解重合、懸濁重合などの液相重合法あるいは気相重合法いずれにおいても実施することができる。重合がスラリー重合の反応形態を採る場合には、重合溶媒として通常重合不活性な有機溶媒を用いられる。この有機溶媒としては、具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、エチレンクロリド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素などを用いることができる。これらは組み合わせて用いてもよい。また有機溶媒とともに反応温度において液状である共重合モノマーを用いることもできる。
【0075】
重合条件は重合の形態あるいは得られるエチレン重合体の種類などによっても異なるが、重合は、通常、約20~300℃好ましくは約50~150℃の温度で、常圧~100kg/cm2好ましくは約2~50kg/cm2の圧力下に行われる。
【0076】
重合時に水素を用いて得られる重合体の分子量を調節することができる。上記のような重合は、バッチ式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行なうことができる。さらに重合を、反応条件を変えて2段以上に分けて行うこともできる。
【0077】
本発明では、オレフィンを重合させる際に、上記したような特定の(A)固体状チタン触媒成分を用いて触媒を形成しており、これによって後述する様な特定のオレフィン重合体を極めて高い重合活性で製造することができる。このため得られるエチレン重合体は、重合体単位当りの触媒含量とくにハロゲン含量が少なく、成形時に金型発錆を生じにくい。また微粉含量が少なく、粒子性状に優れたエチレン重合体が得られるので、特にペレタイズせずに使用することもある。
【0078】
<オレフィン重合体>
本発明のオレフィン重合体の製造方法において得られるオレフィン重合体は、下記の要件を満たすことを特徴とする。
(PE1)エチレン由来の構造単位含有率が90モル%以上、99.8モル%以下、
(PE2)炭素原子数3~20のオレフィン由来構造単位含有率が0.2モル%以上、10モル%以下(ただし、エチレン由来の構造単位と炭素原子数3~20のオレフィン由来構造単位の合計が100モル%である。)
(D)密度が900~960kg/m3
(H)GPC測定で決定される分子量が106.5以上の成分の含有率が、1.5質量%以上である。
【0079】
(PE1)エチレン由来の構造単位含有率の好ましい下限値は93質量%、より好ましくは95質量%、さらに好ましくは97質量%である。一方、好ましい上限値は99.5質量%である。
【0080】
(PE2)炭素原子数3~20のオレフィン由来構造単位含有率の好ましい下限値は0.5質量%である。一方、好ましい上限値は8質量%、より好ましくは6質量%、さらに好ましくは5質量%である。
【0081】
上記の様なオレフィン由来の構造単位の含有率は、13C NMR装置でNMR測定を行い、常法によって該当するオレフィンに特徴な部位のピークをアサインし、面積定量法によって決定する。あるいは、組成の異なる種々のオレフィン重合体のIR測定を行い、検量線を作成しておけば、IR測定によってもオレフィン由来の構造単位の含有率を決定することができる。本発明の実施例においては、後者のIR測定を用いた方法で、前記のオレフィン由来の構造単位の含有率を決定している。
【0082】
(H)GPC測定で決定される分子量が106.5以上の成分の含有率の好ましい下限値は、2.0質量%、より好ましくは2.2質量%、さらに好ましくは2.5質量%、特に好ましくは2.8質量%、殊に好ましくは3質量%である。一方、その上限値として好ましくは30質量%、より好ましくは25質量%、更に好ましくは22質量%、特に好ましくは20質量%である。
【0083】
本発明におけるGPC測定条件は下記の通りである。
装置:GPC-IRR型 ゲル浸透クロマトグラフ(Polymer Char)
検出器(内蔵):IR6 MCT 赤外線検出器(Polymer Char)
検出波長:メチレンセンサー(2,920cm-1)、メチルセンサー(2,960cm-1)
カラム:2× TSKgel GMH6-HT+2× TSKgel GMH6-HTL(7.5mmI.D.×30cm,東ソー)
カラム温度:150℃
移動相:o-ジクロロベンゼン(ODCB)、BHT添加
流 量:1.0mL/min
試料濃度:10mg/20mL(0.5mg/mL)
溶解条件:145℃,120min
試料ろ過:1.0μm焼結フィルター
注入量:0.4mL
カラム較正:単分散ポリスチレン(TSKgel 標準ポリスチレン;東ソー)
の条件で測定し、得られたクロマトグラムを公知の方法によって解析して、前記の含有率を得ることができる。
また、上記の方法ではFT-IR装置を併用しているので、各分子量成分における分岐などの情報を得ることができる。
【0084】
本発明のオレフィン重合体の製造方法を用いれば、分子量106.5を超える領域の高分子量体でも、炭素原子数3以上のオレフィン由来の構造単位含有率が比較的高い重合体を得ることができる。また、分子量による炭素原子数3以上のオレフィン由来の構造単位含有率の変動(バラつき)が比較的少ない。このことは、前記のGPCとFT-IRとを組み合わせる方法で確認することができる。
【0085】
分子量が106.5を超える領域の高分子量体成分は、「耐衝撃性」等、変形に対する耐久性に優れていることが知られているが、炭素原子数3以上のオレフィンはエチレンに比して反応速度が遅い傾向があるので、従来公知の固体状チタン触媒成分を含むオレフィン重合触媒を用いたオレフィン重合体の製法では、炭素原子数3以上のオレフィン由来構造単位含有率が比較的高い、および/または、分子量による同含有率のバラツキの少ない前記の様な分子量が100万を超えるような領域の高分子量オレフィン重合体成分を得ることは難しい傾向があったようである(後述する比較例参照)。
【0086】
炭素原子数3以上のオレフィン由来構造単位を含むオレフィン重合体は、分岐構造を有すると考えられ、結晶性化度がやや低い重合体となるので、靭性の向上に寄与することが期待できる。よって前記の様な高い分子量を有し、分岐も比較的多い成分は、耐衝撃性、靭性などの複数の優れた性能を併せ持つことが期待できる好ましい成分である。以後、この様な成分を、成分(HB)と記載することがある。
さらには、オレフィン重合体の分子量によらず、比較的分岐の量が安定していれば好ましい。このような傾向は、例えば、
図1のGPC-IR測定チャートの分子量と分岐との関係を示す曲線が、比較的なだらかかどうかで、判断することができる。
【0087】
本発明者らの検討によれば、特定の有機アルミニウム化合物を含むオレフィン重合触媒を用いることで、前記の様な成分(HB)を含む重合体を与えやすい傾向がある。
この様な特徴を持つオレフィン重合体が得られる明確な理由は不明であるが、本発明者は以下のように推測している。
【0088】
上記の様なORa置換基や、ケイ素含有成分などを有する様な固体状チタン触媒成分は、有機アルミニウム化合物による固体状チタン触媒成分のチタンの還元速度が比較的遅いので、活性点を形成するチタンが、共重合性が比較的良いとされる3価や4価の状態を比較的維持し易いと考えられるが、恐らく十分ではないのであろう。(特許文献1に開示された触媒はその傾向が強かった可能性がある。)
【0089】
本発明の様な有機アルミニウム化合物を固体状チタン触媒成分と組み合わせて用いる、前記の様なチタンの還元速度がより低下するので、共重合性の高い活性点がより安定的に存在できるため、前記の様な成分(HB)を含むオレフィン重合体を与えやすいのであろう。また、活性点の価数に変化が少ないことは、重合反応が安定して進行すると考えられるので、高分子量化し易い傾向を示すのかもしれない。
【0090】
本発明で得られるオレフィン重合体のそのほかの好ましい物性は以下のような内容を例示することができる。
嵩比重は、0.20~0.60g/cc好ましくは0.25~0.60g/ccであることが望ましい。
メルトフローレートMFR(ASTS D1238Eに準拠、190℃)は、0.01~100g/10分であることが望ましい。
デカリン中、135℃にて測定した極限粘度[η]は、1.5~10dl/g、より好ましくは2.0~8dl/gである。
【0091】
本発明で得られるオレフィン重合体、特にエチレン共重合体は、上記の様な構造上の特徴を有するので、炭素原子数3以上のオレフィンの含有率が類似であっても、低温で融解する成分の含有率が多い傾向がある。この様な傾向は、後述する実施例に記載のDSC法により、雰囲気温度と融解熱との関係を測定し、
(β)100℃以下での融解熱量
(γ)125℃以上での融解熱量
を指標として確認することができる。
【0092】
本発明の方法で製造されるエチレン共重合体は、上記(β)の値が相対的に大きく、上記(γ)の値が相対的に小さい傾向がある。これは、炭素原子数3以上のオレフィン由来の構造単位が、比較的分散してエチレン共重合体中に存在する(組成分布が狭い傾向がある事に相当する)ためであろうと考えられる。
【0093】
上記のような本発明で得られるエチレン重合体には、必要に応じて耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤、核剤、顔料、染料、無機あるいは有機充填剤などを配合することもできる。
【0094】
上記の様な範囲内であれば、フィルム、容器等の原料重合体として好適に使用することができる。特にブロー成形体等で得られる容器の原料重合体として好適である。
【実施例0095】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、固体状チタン触媒成分の組成、エチレン重合体の極限粘度[η]、嵩比重、密度、ブテン含量は下記のように測定した。
【0096】
(1)Mg、Ti含有量
ICP分析(島津製作所、ICPF 1000TR)により測定した。
【0097】
(2)Cl含有量
硝酸銀滴定法により測定した。
【0098】
(3)OR基含有量
10重量%の水を加えたアセトン溶液に十分乾燥した触媒を加え、加水分解して得られたROHをガスクロマトグラフィーで定量した。
【0099】
(4)極限粘度[η]
極限粘度[η]は、エチレン系重合体をデカリンに溶解させ、全自動粘度測定装置(離合社、VMR-053UPC)を用いて、135℃のデカリン中で測定した。
【0100】
(5)嵩比重
JIS K 6721で測定した。
【0101】
(6)密度
190℃に設定した油圧式熱プレス機を用い、試料を圧力5MPaで加熱溶融した後、圧力15MPa、平均冷却速度15±5℃/minで冷却してプレスシートを作製した。(スペーサー形状:200×200×2(mm)厚の板に65×12×2(mm)、4個取り)
このプレスシートを30分間沸騰処理し、沸水ごと実験室雰囲気下で1時間以上放冷した後、密度勾配管で測定した。
【0102】
(7)ブテン由来構造単位含量率
共重合体のコモノマーの含量は、FT-IR(日本分光製FT-IR4100型赤外分光光度計)によって測定した。
FT-IRは、実施例で得られた共重合体生成ポリマーを、180℃に加熱したホットプレスにて溶解延伸後、室温下加圧冷却することで得られたフィルムを測定サンプルとして用い、光源波長5000cm-1~400cm-1間で測定した。ブテン含量は、ブテンに基づくC-CH2CH3骨格振動(1378cm-1)をキーバンドとし、キーバンドの吸光度(D1378)と内部標準バンド(4321cm-1:C-H伸縮振動とメチレン、メチル変角振動の結合音)の吸光度(D4321)との比[D1378/D4321]を求めた。
一方、事前にブテン由来構造単位含有率が13C NMR等の方法で判明している複数種のエチレン/ブテン共重合体について、上記の方法で[D1378/D4321]の値を得、それを基にして、[D1378/D4321]値とブテン含有率との関係に関する検量線を作成しておいた。
この検量線と、実施例、比較例の重合体を用いた[D1378/D4321]測定値から、ブテン由来構造単位含有率を求めた。
【0103】
また、下記の方法に拠ってエチレン重合体のDSC測定及びGPC-IR測定を実施した。
<DSC測定>
示査走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC8000)を使用し、European Polymer Journal 65 (2015) 132-154に記載のSSA(Successive Self-Nucleation/Annealing)法を用いた。
「Ts(Self-seeding and annealing)温度の設定」
20℃から200℃まで25℃/分で昇温し、200℃で5分間保持後、200℃から30℃まで25℃/分で降温し、30℃で2分間保持して20℃から150℃まで10℃/分で昇温した。融点を超えて吸熱ピークがゼロになる温度をTs温度と設定した。
「SSA(Successive Self-Nucleation/Annealing)法」
Ts温度測定後のサンプルを20℃から200℃まで25℃/分で昇温し、200℃で5分間保持後、200℃から30℃まで25℃/分で降温し、30℃で2分間保持して30℃からTs温度まで10℃/分で昇温し、Ts温度で5分間保持した。Ts温度からTs-35℃まで10℃/分で降温し、Ts-35℃で2分間保持後、Ts-35℃からTs-5℃まで10℃/分で昇温し、Ts-5℃で5分間保持した。次にTs-5℃からTs-40℃まで10℃/分で降温し、Ts-40℃で2分間保持後、Ts-40℃からTs-10℃まで10℃/分で昇温し、Ts-10℃で5分間保持した。このような操作を5℃刻みで計11回繰り返した。最後にTs-55℃から30℃まで10℃/分で降温し、30℃で2分間保持後、30℃から200℃まで10℃/分で昇温した。
得られた融解吸熱ピークから算出した全融解熱量をΔHとし、125℃以上の融解熱量をΔH125、100℃以下の融解熱量をΔH100とすると、
125℃以上の結晶成分率=(ΔH125/ΔH)×100%
100℃以下の結晶成分率=(ΔH100/ΔH)×100%
として算出した。
【0104】
<GPC-IR測定>
装置:GPC-IRR型 ゲル浸透クロマトグラフ(Polymer Char)
検出器(内蔵):IR6 MCT 赤外線検出器(Polymer Char)
検出波長:メチレンセンサー(2,920cm-1)、メチルセンサー(2,960cm-1)
カラム:2× TSKgel GMH6-HT+2× TSKgel GMH6-HTL(7.5mmI.D.×30cm,東ソー)
カラム温度:150℃
移動相:o-ジクロロベンゼン(ODCB)、BHT添加
流 量:1.0mL/min
試料濃度:10mg/20mL(0.5mg/mL)
溶解条件:145℃,120min
試料ろ過:1.0μm焼結フィルター
注入量:0.4mL
カラム較正:単分散ポリスチレン(TSKgel 標準ポリスチレン;東ソー)
【0105】
[合成例1]
「固体状チタン触媒成分(A)の調製」
固体状チタン触媒成分(A)は、特開平9-328514号公報の実施例と同様の方法で調製した。得られた固体状チタン触媒成分(A)の組成を表1に示す。
【0106】
[実施例1]
内容積1リットルのオートクレーブ中に、窒素雰囲気下、精製n-ヘプタン500mlを装入し、トリイソブチルアルミニウム(イソブチル基の分子量:57.12)0.78ミリモル、および上記で得られた固体状チタン触媒成分(A)のデカン懸濁液をチタン原子換算で0.03ミリモル相当量加えた後、攪拌しながら72℃に昇温し、水素濃度5mol%になるように窒素で希釈した水素を0.01MPa供給し、次いで全圧が0.10MPaGとなるようにブテン濃度2mol%のエチレンブテン混合ガスを連続的に供給した。重合温度は72℃に保った。
重合終了後、エチレン重合体をn-ヘプタン溶媒から分離して、乾燥した。乾燥後、24.2gのパウダー状重合体が得られた。このパウダー状重合体の極限粘度[η]は7.6dl/g、密度926kg/m
3、ブテン含量6.9個/1000C、見かけ嵩比重は0.29g/ccであった。この結果を表2に示す。またこのパウダー状重合体DSC分析結果、GPC-IR分析結果を表2に示し、GPC-IR測定チャートを
図1に示す。
【0107】
[実施例2]
実施例1において、重合時のトリイソブチルアルミニウムをジエチルアルミニウムクロリド(塩素の原子量:35.453)に変えた以外は、実施例1と同様にして重合を行なった。結果を表2に示す。
【0108】
[実施例3]
実施例1において、水素濃度5mol%になるように窒素で希釈した水素を0.05MPa供給し、次いで全圧が0.14MPaGとなるようにブテン濃度2mol%のエチレンブテン混合ガスを連続的に供給したこと以外は、実施例1と同様にして重合を行なった。結果を表2に示す。
【0109】
[実施例4]
実施例2において、水素濃度5mol%になるように窒素で希釈した水素を0.10MPa供給し、次いで全圧が0.19MPaGとなるようにブテン濃度2mol%のエチレンブテン混合ガスを連続的に供給したこと以外は、実施例2と同様にして重合を行なった。結果を表2に示す。
【0110】
[比較例1]
実施例1において、重合時のトリイソブチルアルミニウムをトリエチルアルミニウムに変えた以外は、実施例1と同様にして重合を行なった。結果を表2に示し、GPC-IR測定チャートを
図1に示す。
【0111】
[合成例2]
「固体状チタン触媒成分(B)の調製」
固体状チタン触媒成分(B)は、国際公開第2009/125729号公報の実施例と同様の方法で調製した。得られた固体状チタン触媒成分(B)の組成を表1に示す。
【0112】
[実施例5]
実施例1において、重合時の固体状チタン触媒成分(A)を固体状チタン触媒成分(B)に変えた以外は、実施例1と同様にして重合を行なった。結果を表2に示す。
【0113】
[比較例2]
実施例5において、重合時のトリイソブチルアルミニウムをトリエチルアルミニウム(エチル基の分子量:29.06)に変えた以外は、実施例5と同様にして重合を行なった。結果を表2に示す。
【0114】
[合成例3]
「固体状チタン触媒成分(C)の調製」
固体状チタン触媒成分(C)は、国際公開第2008/013144号公報の実施例と同様の方法で調製した。得られた固体状チタン触媒成分(C)の組成を表1に示す。
【0115】
[実施例6]
実施例1において、重合時の固体状チタン触媒成分(A)を固体状チタン触媒成分(C)に変えた以外は、実施例1と同様にして重合を行なった。結果を表2に示す。
【0116】
[比較例3]
実施例6において、重合時のトリイソブチルアルミニウムをトリエチルアルミニウムに変えた以外は、実施例6と同様にして重合を行なった。結果を表2に示す。
【0117】
【0118】
【0119】
別添の
図1から、本発明のオレフィン重合用触媒を用いて得られるオレフィン系重合体は、分子量が10
6.5以上の高分子量領域においても比較的高い炭素原子数3以上の構造単位を有し、しかも分子量に依存せずに、比較的その含有率が一定な重合体であることが分かる。