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特開2024-146147異種金属材の接合方法及び異種金属接合構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146147
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】異種金属材の接合方法及び異種金属接合構造体
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/23 20060101AFI20241004BHJP
   B23K 9/007 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058879
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】大志田 達郎
(72)【発明者】
【氏名】下田 陽一朗
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB09
4E001CA01
4E001CB01
4E001CC02
4E001DD04
4E001EA01
4E001EA03
4E001EA04
4E001EA08
(57)【要約】
【課題】第1部材と第2部材との間に絶縁層が介在している場合に、接合不良を発生させることなく、容易な工程で第1部材と第2部材とを接合することができる、異種金属材の接合方法を提供する。
【解決手段】鋼製の第1部材1の上に、第1穴2aを有し第1部材1とは異なる材料からなる第2部材2を配置する第1工程と、第1穴2aの内部又は底部に、第2部材に通電される導電性の底部材(通電部材)5を配置し、第2穴4cを有し第1部材1と等しい主成分を有する接合補助部材4を第1穴2aに挿入する第2工程と、第2穴4cの内部に第1部材1と等しい主成分を有する溶接金属9を形成する第3工程と、を有する。第1部材1と第2部材2との間には、絶縁層3が介在している。第3工程では、溶接ワイヤ7の先端を底部材に接触させ、溶接ワイヤ7と第2部材2とを底部材5を介して通電させて、アークを発生させる。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の第1部材の上に、板厚方向に貫通する第1穴を有し前記第1部材とは異なる材料からなる第2部材を配置する第1工程と、
前記第1穴の内部又は底部に、前記第2部材に通電される導電性の通電部材を配置するとともに、第2穴を有し前記第1部材と等しい主成分を有する接合補助部材を前記第1穴に挿入する第2工程と、
アーク溶接により、前記第2穴の内部に、前記第1部材と等しい主成分を有する溶接金属を形成する第3工程と、を有する異種金属材の接合方法であって、
前記第1部材と前記第2部材との間には、絶縁層が介在し、
前記接合補助部材は、前記第2部材における前記第1部材との接触面と反対側の面上に配置されるフランジ部と、前記第1穴内に挿入される軸部と、を備え、前記第2穴は前記軸部の軸方向に延びるように形成されており、
前記第3工程において、溶接ワイヤの先端を前記通電部材に接触させ、前記溶接ワイヤと前記第2部材とを前記通電部材を介して通電させて、アークを発生させることを特徴とする、異種金属材の接合方法。
【請求項2】
前記絶縁層は、前記第1部材の表面に形成された電着塗装被膜であることを特徴とする、請求項1に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項3】
前記通電部材は前記接合補助部材に一体化され、前記第2穴が有底形状に形成されており、前記通電部材及び前記接合補助部材の少なくとも一方が、前記第2部材に接触していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項4】
前記通電部材と前記接合補助部材とは、離隔して配置されており、
前記通電部材は前記第2部材に接触していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項5】
前記通電部材の厚さは、前記接合補助部材の前記フランジ部の厚さよりも薄いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項6】
前記通電部材の厚さは、0.5mm以下であることを特徴とする、請求項5に記載の異種金属材の接合方法。
【請求項7】
鋼製の第1部材と、
前記第1部材の上に配置され、板厚方向に貫通する第1穴を有し、前記第1部材とは異なる材料からなる第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に介在する絶縁層と、
前記第1穴の内部又は底部に配置され、導電性を有する通電部材と、
前記第2部材における前記第1部材との接触面と反対側の面上に配置されるフランジ部と、前記第1穴内に挿入される軸部と、前記軸部の軸方向に平行な第2穴と、を有し、前記第1部材と等しい主成分を有する接合補助部材と、
前記第2穴の内部に形成され、前記第1部材と等しい主成分を有する溶接金属と、を有することを特徴とする、異種金属接合構造体。
【請求項8】
前記絶縁層は、前記第1部材の表面に形成された電着塗装被膜であることを特徴とする、請求項7に記載の異種金属接合構造体。
【請求項9】
前記通電部材は前記接合補助部材に一体化され、前記第2穴が有底形状に形成されており、前記通電部材及び前記接合補助部材の少なくとも一方が、前記第2部材に接触していることを特徴とする、請求項7又は8に記載の異種金属接合構造体。
【請求項10】
前記通電部材と前記接合補助部材とは、離隔して配置されており、
前記通電部材は前記第2部材に接触していることを特徴とする、請求項7又は8に記載の異種金属接合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる材料からなる板材を高強度で接合することができる異種金属材の接合方法、及び上記接合方法により接合された異種金属接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を代表とする輸送機器には、(1)有限資源である石油燃料消費、(2)燃焼に伴って発生する地球温暖化ガスであるCO、(3)走行コストといった各種の抑制を目的として、走行燃費の向上が常に求められている。その手段としては、電気駆動の利用など動力系技術の改善の他に、車体重量の軽量化も改善策の一つである。軽量化には現在の主要材料となっている鋼を、軽量素材であるアルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金、炭素繊維、樹脂、炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等に置換する手段がある。しかし、全てをこれら軽量素材に置換するには、高コスト化や強度不足になる、といった課題があり、解決策として鋼と軽量素材を適材適所に組み合わせた、いわゆるマルチマテリアルと呼ばれる設計手法が注目を浴びている。
【0003】
特許文献1には、例えば鋼材と、鋼材と溶接困難な非鉄金属材とが接合された接合構造が開示されている。上記接合構造は、突起部を有する第1の同種系金属材と、第2の同種系金属材と、第1の貫通部が設けられ、第1の同種系金属材と第2の同種系金属材との間に挟まれた異種材と、を備える。また、第1の同種系金属材の第1の突起部に対して、板厚方向からアーク溶接され、第1の同種系金属材と第2の同種系金属材とが第1の貫通部を介して互いに溶融結合して前記異種材が圧縮固定されている。これにより、異種材と第1の同種系金属材および第2の同種系金属材とが固定されている。
【0004】
また、特許文献2には、アルミニウム合金もしくはマグネシウム合金製の第1の板と、鋼製の第2の板と、を接合する異材接合用アークスポット溶接法が開示されている。上記特許文献2に記載の溶接法は、第1の板に穴を空ける工程と、第1の板と前記第2の板を重ね合わせる工程と、挿入部と非挿入部とを持った段付きの外形形状を有し、且つ、挿入部及び非挿入部を貫通する中空部が形成される鋼製の接合補助部材を、第1の板に設けられた穴に挿入する工程と、特定の方法によって、接合補助部材の中空部を溶接金属で充填すると共に、前記溶接金属を前記第2の板に裏波が出る状態まで溶け込ませ、且つ、接合補助部材の挿入部は、その外周面を溶融させずに、部分的に溶融して、第2の板及び前記接合補助部材を溶接する工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6811380号公報
【特許文献2】特許第6461056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車の製造工程では、車体素材の表面に防錆を目的とした電着塗装を行う工程がある。この塗装膜は絶縁性であるため、塗装が施された鋼板においてはアーク溶接に必須となる通電が不可能となる。したがって、上記特許文献1に記載の接合構造において、電着塗装被膜が形成された鋼板を適用しようとしても、電着塗装被膜が絶縁性であるため通電できず、アークを発生させることができない。上記特許文献2に記載の接合補助部材を用いる方法によっても、鋼製の第2の板に対して電着塗装を施した後にアーク溶接を実施しようとすると、絶縁性の電着塗装被膜がアークの発生を妨げるため、接合不可又は接合不良となる。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、鋼製の第1部材と、この第1部材とは異なる材料からなる第2部材とをアーク溶接により接合する方法であって、第1部材と第2部材との間に絶縁層が介在している場合であっても、接合不良を発生させることなく、容易な工程で第1部材と第2部材とを接合することができる、異種金属材の接合方法、及び上記接合方法により接合された異種金属材の接合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、異種金属材の接合方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 鋼製の第1部材の上に、板厚方向に貫通する第1穴を有し前記第1部材とは異なる材料からなる第2部材を配置する第1工程と、
前記第1穴の内部又は底部に、前記第2部材に通電される導電性の通電部材を配置するとともに、第2穴を有し前記第1部材と等しい主成分を有する接合補助部材を前記第1穴に挿入する第2工程と、
アーク溶接により、前記第2穴の内部に、前記第1部材と等しい主成分を有する溶接金属を形成する第3工程と、を有する異種金属材の接合方法であって、
前記第1部材と前記第2部材との間には、絶縁層が介在し、
前記接合補助部材は、前記第2部材における前記第1部材との接触面と反対側の面上に配置されるフランジ部と、前記第1穴内に挿入される軸部と、を備え、前記第2穴は前記軸部の軸方向に延びるように形成されており、
前記第3工程において、溶接ワイヤの先端を前記通電部材に接触させ、前記溶接ワイヤと前記第2部材とを前記通電部材を介して通電させて、アークを発生させることを特徴とする、異種金属材の接合方法。
【0009】
また、異種金属材の接合方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[6]に関する。
[2] 前記絶縁層は、前記第1部材の表面に形成された電着塗装被膜であることを特徴とする、[1]に記載の異種金属材の接合方法。
[3] 前記通電部材は前記接合補助部材に一体化され、前記第2穴が有底形状に形成されており、前記通電部材及び前記接合補助部材の少なくとも一方が、前記第2部材に接触していることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の異種金属材の接合方法。
[4] 前記通電部材と前記接合補助部材とは、離隔して配置されており、
前記通電部材は前記第2部材に接触していることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の異種金属材の接合方法。
[5] 前記通電部材の厚さは、前記接合補助部材の前記フランジ部の厚さよりも薄いことを特徴とする、[1]又は[2]に記載の異種金属材の接合方法。
[6] 前記通電部材の厚さは、0.5mm以下であることを特徴とする、[5]に記載の異種金属材の接合方法。
本発明の上記目的は、異種金属接合構造体に係る下記[7]の構成により達成される。
【0010】
[7] 鋼製の第1部材と、
前記第1部材の上に配置され、板厚方向に貫通する第1穴を有し、前記第1部材とは異なる材料からなる第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に介在する絶縁層と、
前記第1穴の内部又は底部に配置され、導電性を有する通電部材と、
前記第2部材における前記第1部材との接触面と反対側の面上に配置されるフランジ部と、前記第1穴内に挿入される軸部と、前記軸部の軸方向に平行な第2穴と、を有し、前記第1部材と等しい主成分を有する接合補助部材と、
前記第2穴の内部に形成され、前記第1部材と等しい主成分を有する溶接金属と、を有することを特徴とする、異種金属接合構造体。
【0011】
また、異種金属接合構造体に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[8]~[10]に関する。
[8] 前記絶縁層は、前記第1部材の表面に形成された電着塗装被膜であることを特徴とする、[7]に記載の異種金属接合構造体。
[9] 前記通電部材は前記接合補助部材に一体化され、前記第2穴が有底形状に形成されており、前記通電部材及び前記接合補助部材の少なくとも一方が、前記第2部材に接触していることを特徴とする、[7]又は[8]に記載の異種金属接合構造体。
[10] 前記通電部材と前記接合補助部材とは、離隔して配置されており、
前記通電部材は前記第2部材に接触していることを特徴とする、[7]又は[8]に記載の異種金属接合構造体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1部材と第2部材との間に絶縁層が介在している場合であっても、接合不良を発生させることなく、容易な工程で第1部材と第2部材とを接合することができる、異種金属材の接合方法、及び上記接合方法により接合された異種金属材の接合構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、本発明の第1実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、第1工程及び第2工程を示す断面図である。
図1B図1Bは、本発明の第1実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、第3工程を示す断面図である。
図1C図1Cは、本発明の第1実施形態に係る異種金属材の接合方法により得られた異種金属接合構造体を示す断面図である。
図2A図2Aは、本発明の第2実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、第1工程及び第2工程を示す断面図である。
図2B図2Bは、本発明の第2実施形態に係る異種金属材の接合方法を示す図であり、第3工程を示す断面図である。
図3A図3Aは、発明例として使用した接合補助部材を示す上面図である。
図3B図3Bは、図3Aに示す接合補助部材のサイズを示す断面図である。
図4A図4Aは、本発明に係る異種金属材の接合方法により製造された発明例1の異種金属接合構造体の上面側を示す図面代用写真である。
図4B図4Bは、図4Aにおける異種金属接合構造体の裏面側を示す図面代用写真である。
図5図5は、発明例1の異種金属接合構造体を、溶接金属の中心を通る切断線で切断した断面を示す図面代用写真である。
図6図6は、発明例2~4について、引張せん断試験後の上面側の様子を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明者らは、鋼製の第1部材と、この第1部材とは異なる材料からなる第2部材とをアーク溶接により接合する際に、第1部材と第2部材との間に絶縁層が介在する場合であっても、アークを発生させることができる方法について、鋭意検討を行った。
【0015】
接合不良となる原因として、アーク溶接時には、通電する度に溶接ワイヤの先端に凝固球が形成されるため、溶接ワイヤの先端を下板の表面に接触させても、絶縁層を貫通させて、溶接ワイヤを下板に到達させることができず、通電の妨げとなることが挙げられる。仮に、溶接を実施する度に溶接ワイヤの先端を切断して、先端を鋭く加工すると、溶接ワイヤが絶縁層を貫通して下板である第1部材に到達するため、アークの発生が可能となる。
【0016】
しかしながら、量産を考慮した際には溶接を実施する度に溶接ワイヤの先端を切断することは困難であるため、より一層容易にアークを発生させることができる方法について、さらに検討を行った。その結果、本願発明者らは、第2部材に形成された第1穴に、第2部材に通電される導電性の通電部材を配置し、溶接ワイヤと第2部材とに電圧を印加した状態で溶接ワイヤを通電部材に接触させることにより、アークを発生させることができることを見出した。
本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0018】
[異種金属材の接合方法]
<第1実施形態>
図1A図1Cは、本発明の第1実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す模式的断面図である。
【0019】
(第1工程)
図1Aに示すように、まず、表面に電着塗装被膜(絶縁層)3が形成された鋼製の第1部材1と、板厚方向に貫通する第1穴2aを有するアルミニウム合金製の第2部材2を準備する。そして、第1部材1の板厚方向に直交する面上に、第2部材2を重ねて配置する。
【0020】
(第2工程)
次に、鋼製の接合補助部材4を第1穴2aに挿入する。接合補助部材4は、円板形状のフランジ部4aと、この円板形状の中心軸と同一軸方向に軸を有する軸部4bとを有する。また、接合補助部材4には、フランジ部4aの上面から軸部4b側に向かって、軸部4bの軸方向に平行な方向に延びる第2穴4cが形成されている。さらに、接合補助部材4の軸部4b側の端部には底部材(通電部材)5が一体化されて形成されている。したがって、第2穴4cにおける軸部4b側の端部は閉塞した有底形状となっている。なお、接合補助部材4を第1穴2aに挿入するということは、接合補助部材4の軸部4bを第1穴2aに挿入することを示し、このとき、フランジ部4aは、第2部材2における第1部材1との接触面と反対側の面上、すなわち第2部材2の上面2bの上に配置される。
本実施形態においては、底部材5と第1部材1とは接触しておらず、離隔して配置されている。また、底部材5と第1部材1とは、直接、又は軸部4bやフランジ部4a等を介して間接的に第2部材2に接触している。つまり、底部材5及び接合補助部材4の少なくとも一方が、第2部材2に接触している。
【0021】
(第3工程)
その後、アーク溶接により、第2穴4cの内部に、第1部材1と等しい主成分を有する溶接金属9を形成する。具体的には、図1Bに示すように、溶接ノズル6によって保持された溶接ワイヤ7を接合補助部材4の上に配置するとともに、溶接ワイヤ7と第2部材2とに電源11を接続し、電圧を印加する。その後、溶接ワイヤ7の先端を底部材5に接触させて、アークを発生させる。このとき、溶接ワイヤ7の先端には凝固球8が形成されていることがあるが、これを切断する必要はない。
【0022】
その後、溶接ワイヤ7を溶融させつつ、第2穴4cに溶融金属を充填する。これにより、図1Cに示すように、電着塗装被膜3を有する第1部材1の少なくとも一部、底部材5の少なくとも一部及び接合補助部材4の少なくとも一部が溶融して、鋼製の溶接金属9が形成され、異種金属接合構造体10が得られる。
【0023】
上述のとおり、従来の接合方法では、鋼製の第1部材1がその表面に電着塗装被膜3を有していると、溶接ワイヤ7と第1部材1との間で通電されず、アークを発生させることができないことがある。仮に、溶接ワイヤ7の先端に形成される凝固球8を、溶接を実施する度に切断し、先端を鋭利に加工すると、溶接ワイヤ7で電着塗装被膜3を貫通させることができるため、溶接ワイヤ7と第1部材1とを通電させることができる。しかし、溶接する度に溶接ワイヤ7の先端を切断することは、工程数の増加につながり、製造コストの上昇や歩留まりが低下する原因となる。
【0024】
これに対して、本実施形態においては、底部材5を介して溶接ワイヤ7と第2部材2とを通電させるため、電着塗装被膜3のように、第1部材1と第2部材2との間に絶縁層が介在している場合であっても、確実にアークを発生させることができる。また、接合補助部材4及び溶接ワイヤ7はいずれも鋼製であり、溶接金属9は第1部材1に接合可能な材料により構成されたものとなる。そして、溶接金属9は電着塗装被膜3を有する第1部材1の少なくとも一部、底部材5の少なくとも一部及び接合補助部材4の少なくとも一部を含んでいるため、溶接金属9によって接合補助部材4と第1部材1とが強固に固定される。さらに、第2部材2は、接合補助部材4のフランジ部4aにより物理的に第1部材1に固定される。したがって、電着塗装被膜3を有する第1部材1と、この第1部材1とは異なる材料からなる第2部材2とを容易に高品質な状態で接合することができる。
【0025】
本実施形態においては、第2部材2としてアルミニウム合金板を使用した例を示したが、第2部材2が第1部材1とは異なる材質からなるものであれば、特に限定されない。第2部材2としては、種々の導電性材料からなるものを採用することができ、具体的には、アルミニウム又はアルミニウム合金材、マグネシウム合金等を採用することができる。接合補助部材4としては、第1部材1とともに、溶接金属9を形成することができる材料からなることが必要であるため、接合補助部材4と第1部材1とは、互いに等しい主成分を有するものとする。このため、得られる溶接金属9も第1部材1と等しい主成分を有するものとなる。
【0026】
また、本発明において、第1部材1及び第2部材2の形状も特に限定されない。特に第2部材2については、第1穴2aが形成されている領域が板状であれば、その他の領域はどのような形状であってもよく、一部で屈曲した形状や、部分的に厚さが異なる形状のもの等、自由に選択することができる。すなわち、本明細書における第2部材2の「板厚方向」とは、第2部材2における第1部材1と接合する領域における板状部分の厚さ方向を表す。
【0027】
<第2実施形態>
図2A及び図2Bは、本発明の第2実施形態に係る異種金属材の接合方法を工程順に示す模式的断面図である。図2A及び図2Bに示す第2実施形態において、図1A図1Cに示す第1実施形態と同一物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0028】
(第1工程)
図2Aに示すように、鋼製の第1部材1の上に、第1穴2aを有するアルミニウム合金製の第2部材2を重ねて配置する。
【0029】
(第2工程)
次に、第1穴2aの底部における第1部材1の上に、通電部材として、第2部材2に接触するようにアルミニウム合金箔15を配置する。その後、鋼製の接合補助部材14を第1穴2aに挿入する。本実施形態において、接合補助部材14は、円板形状のフランジ部14aと、この円板形状の中心軸と同一軸方向に軸を有する軸部14bとを有する。また、接合補助部材14には、フランジ部14aの上面から軸部14b側に向かって、軸部14bの軸方向に平行な方向に貫通する第2穴14cが形成されている。すなわち、本実施形態においては、接合補助部材14と通電部材であるアルミニウム合金箔15とは一体化されておらず、離隔して配置している。アルミニウム合金箔15は、第1穴2aに嵌合させるように配置してもよいし、第1部材1における電着塗装被膜3と第2部材2との間に挟むように配置してもよい。
【0030】
(第3工程)
その後、アーク溶接により、第2穴14cの内部に、第1部材1と等しい主成分を有する溶接金属を形成する。具体的には、図2Bに示すように、溶接ワイヤ7と第2部材2とに電源11を接続し、電圧を印加する。その後、溶接ワイヤ7の先端をアルミニウム合金箔15に接触させ、溶接ワイヤ7と第2部材2とを、アルミニウム合金箔15を介して通電させて、アークを発生させる。そして、溶接ワイヤ7を溶融させつつ、第2穴14cに溶融金属を充填する。これにより、図1Cと同様に、第1部材1と第2部材2とを接合補助部材14を介して接合する溶接金属9が形成され、異種金属接合構造体10が得られる。
【0031】
上記第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、確実にアークを発生させることができ、これにより、電着塗装被膜3を有する第1部材1と、この第1部材1とは異なる材料からなる第2部材2とを容易に高品質な状態で接合することができる。
【0032】
上記第1実施形態では、底部材(通電部材)5と接合補助部材4とが一体化しており、底部材5を第1部材1から離隔させて配置している。また、第2実施形態では、アルミニウム合金箔(通電部材)15と接合補助部材14とが別部材となっており、両者を互いに離隔させて配置している。このように、本発明において、通電部材である底部材5やアルミニウム合金箔15は、第2部材2における第1穴2aの内部に配置されていても、底部に配置されていてもよい。
【0033】
また、通電部材である底部材5やアルミニウム合金箔15は、第2穴4c、14cにおける軸方向に直交する方向の全面を覆うものである必要はなく、部分的に穴が開いていてもよい。すなわち溶接ワイヤ7を通電部材に容易に接触させることができ、このとき、通電部材が直接又は間接的に第2部材2に接続されていればよく、通電部材と第2部材2とが通電されればよい。
【0034】
さらに、上記第1実施形態及び第2実施形態においては、表面に電着塗装被膜3が形成された第2部材2を用いた例を示したが、絶縁層としては電着塗装被膜3に限定されない。第1部材1と第2部材2との間に、例えば、フッ素樹脂シートや樹脂コーティング等のように、絶縁性の板や膜が第1部材1と第2部材2との間に介在している状態であっても、本発明を適用することができる。
【0035】
上記第1及び第2実施形態において、底部材5やアルミニウム合金箔15で表される通電部材の厚さは特に限定されず、通電部材を介して溶接ワイヤ7と第2部材2とが通電可能となるような厚さであればよい。ただし、第1実施形態に示すように、通電部材としての底部材5が、接合補助部材4に一体化されている場合に、板材を絞り加工することにより接合補助部材4を作成しようとすると、フランジ部4aの厚さと底部材5の厚さとが略同一の厚さとなる。このように、底部材5の厚さがフランジ部4aの厚さと同一程度に厚くなると、通電部材を溶融させるための熱が必要となり、第1部材1を十分に溶融させることが困難となる可能性がある。したがって、通電部材の厚さは、接合補助部材のフランジ部の厚さよりも薄いことが好ましく、0.5mm以下とすることがより好ましく、0.3mm以下とすることがさらに好ましく、0.1mm以下とすることが特に好ましい。
【0036】
次に、上記実施形態に係る異種金属材の接合方法により接合された異種金属接合構造体10について説明する。
【0037】
[異種金属接合構造体]
図1Cに示すように、本実施形態に係る異種金属接合構造体10は、鋼製の第1部材1と、第1部材1とは異なる材料からなる第2部材2と、第1部材1と第2部材2との間に介在する電着塗装被膜3と、導電性を有する底部材(通電部材)5と、第1部材1と等しい主成分を有する接合補助部材4と、第1部材1と等しい主成分を有する溶接金属9と、を有する。第2部材2は、第1部材1の上に重ねて配置され、板厚方向に貫通する第1穴2aを有する。接合補助部材4は、第2部材2における第1部材1との接触面と反対側の面上に配置されるフランジ部4aと、第1穴2a内に挿入される軸部4bと、軸部4bの軸方向に平行な第2穴4cと、を有する。底部材5は接合補助部材4に一体化されて、第2穴4cが有底形状に形成されており、底部材5及び接合補助部材4の少なくとも一方が第2部材2に接触している。溶接金属9は、第2穴4cの内部に形成され、第1部材1の少なくとも一部、電着塗装被膜3の少なくとも一部、底部材5の少なくとも一部及び接合補助部材4の少なくとも一部が溶融した溶融部を含む。
【0038】
本実施形態に係る異種金属接合構造体10は、第1部材1の表面に電着塗装被膜3が形成されていても、アークを発生させることができる上記方法により得られたものであるため、溶接金属9及び接合補助部材4によって第1部材1と第2部材2とが確実に接合されたものとなる。
【0039】
なお、上記接合方法の欄で示した通り、上記異種金属接合構造体10は、表面に電着塗装被膜3が形成された第1部材1が使用された例であるが、本発明における絶縁層としては電着塗装被膜3に限定されない。例えば、フッ素樹脂シートや樹脂コーティング等のように、絶縁性の板や膜が第1部材1と第2部材2との間に介在している場合も本発明に含まれる。また、底部材5は接合補助部材4に一体化されている必要はない。本発明は、図2Bに示すように、接合補助部材14とアルミニウム合金箔15のような通電部材とが離隔している場合の他に、通電部材と第1部材1とが離隔している場合や、通電部材が第1部材1と第2部材2との間に挟まれている場合等、種々の場合を含む。すなわち、底部材5やアルミニウム合金箔15のような通電部材は、第2穴4cの内部又は底部に配置されていて、第2部材2に直接又は間接的に通電されるように配置されていればよい。
【実施例0040】
以下、本実施形態に係る異種金属材の接合方法の実施例について、具体的に説明する。
【0041】
[異種金属接合構造体の製造]
図1A図1Cに示すように、表面に電着塗装被膜3が形成された鋼製の第1部材1の上に、第1穴2aを有するアルミニウム合金製の第2部材2を重ねて配置した。次に、鋼製の接合補助部材4を第1穴2aに挿入した。その後、溶接ワイヤ7と第2部材2とに電源11を接続した後、溶接ワイヤ7の先端を底部材5に接触させて、アークを発生させ、アーク溶接を実施することにより、第2穴4cに溶融金属を充填した。これにより、第1部材1と第2部材2とが接合補助部材4及び溶接金属9により接合された異種金属接合構造体10を得た。
【0042】
図3Aは、発明例として使用した接合補助部材4を示す上面図であり、図3Bは、図3Aに示す接合補助部材のサイズを示す断面図である。図3A及び図3Bに示すように、接合補助部材4としては、円板形状のフランジ部4aと、この円板形状の中心軸と同一軸方向に軸を有する軸部4bと、フランジ部4aの上面から軸部4b側に向かって、軸部4bの軸方向に平行な方向に延びる第2穴4cを有するものを使用した。なお、第2穴4cにおける軸部4b側の端部は底部材5によって閉塞されており、この底部材5が本発明における通電部材に相当するものとした。その他の溶接条件を以下に示す。
【0043】
(接合補助部材のサイズ)
フランジ部4aの外径:12.4mm
フランジ部4aの厚さ:1.8mm
軸部4bの軸方向の長さ:1.9mm
軸部4bの外径:8.4mm
軸部4bの内径:6.4mm
底部材5の厚さ:0.3mm
【0044】
(その他の溶接条件)
第1部材1の種類:合金化溶融亜鉛めっき980MPa級高張力鋼板(電着塗装被膜あり)
第1部材1の板厚:1.4mm
第2部材2の種類:A6022-T4調質板材
第2部材2の板厚:2.0mm
接合補助部材4(及び底部材5)の材質:SS400
溶接ワイヤ7の種類:JIS Z3317 G 55A-1CM3
溶接ワイヤ7の直径:1.2mm
シールドガスの種類・流量:100%CO、25リットル/分
溶接電源:パルスMAG/MIG 溶接電源 P500L(株式会社ダイヘン製)
溶接モード:ワイヤ送給制御モード
アップスロープ初期設定電流:50A
アップスロープ初期設定電圧:18.0V
アップスロープ時間:0.2秒
本通電設定電流:190A
本通電設定電圧:19.6V
本通電アークタイム:1.4秒
平均電流:155~165A
平均電圧:16.5~17.0V
トータルアークタイム:1.6秒
【0045】
[アーク発生の様子及び外観評価]
図4Aは、本発明に係る異種金属材の接合方法により製造された発明例1の異種金属接合構造体の上面側を示す図面代用写真であり、図4Bは、その裏面側を示す図面代用写真である。また、図5は、発明例1の異種金属接合構造体を、溶接金属9の中心を通る切断線で切断した断面を示す図面代用写真である。なお、切断線は、第1部材1及び第2部材2の短手方向に平行な方向とした。図4A及び図4Bにおいて、第1部材1に形成された穴20は、電着塗装被膜3を形成するための吊り下げ用の穴である。
【0046】
発明例1においては、第2部材2として、A6022-T4調質板材を使用した。図4A及び図4Bに示すように、本発明の接合方法によると、アーク溶接時に確実にアークを発生させることができ、電着塗装被膜3を有する鋼板を使用した場合であっても、十分な溶込みを確保することができた。
【0047】
[引張せん断試験による評価]
上記発明例1と同様の方法で、鋼製の第1部材1とアルミニウム合金製の第2部材2とを接合し、異種金属接合構造体を製造した。次に、得られた異種金属接合構造体に対して、JIS Z 3136:1999に記載の「抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手のせん断試験に対する試験片寸法及び試験方法」に準拠して引張せん断試験を実施し、引張せん断強さ(TSS:Tensile Shear Strength)を評価した。なお、発明例2、発明例3及び発明例4は、全て上記発明例1と同一の材料及び同一の溶接条件設定値を使用して、溶接を実施した。
【0048】
図6は、発明例2~4について、引張せん断試験後の上面側の様子を示す図面代用写真である。また、溶接時の電流及び電圧の実効値、並びに引張せん断試験の測定結果を下記表に示す。なお、図6は、引張せん断試験後の様子を示しているため、第1部材1(図中左側)と第2部材2(図中右側)とに分割されているが、符号は省略する。
【0049】
【表1】
【0050】
図6に示すように、発明例2~発明例4はいずれも、良好な溶接金属を得ることができ、引張せん断試験によって溶接金属が第1部材から抜けることはなかった。また、表1に示すように、発明例2~発明例4はいずれも、優れた引張せん断強さを得ることができた。
【0051】
このように、本発明による異種金属材の接合方法を用いることにより、第1部材1と第2部材2との間に電着塗装被膜3のような絶縁層が介在している場合であっても、確実にアークを発生させることができ、第1部材1と第2部材2とを高い品質で接合することができることが示された。
【符号の説明】
【0052】
1 第1部材
2 第2部材
2a 第1穴
3 電着塗装被膜
4、14 接合補助部材
4a、14a フランジ部
4b、14b 軸部
4c、14c 第2穴
5 底部材
7 溶接ワイヤ
9 溶接金属
10 異種金属接合構造体
11 電源
15 アルミニウム合金箔
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6