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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146152
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】圧縮機の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/14 20060101AFI20241004BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20241004BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20241004BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F04B39/14
F04C29/00 B
F04B39/00 106E
H02K7/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058885
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206405
【弁理士】
【氏名又は名称】岸 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴大
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲
(72)【発明者】
【氏名】松本 暢二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正敏
【テーマコード(参考)】
3H003
3H129
5H607
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB04
3H003AC03
3H003CE03
3H003CF06
3H129AA04
3H129AA13
3H129AB03
3H129BB32
3H129CC09
3H129CC27
5H607BB01
5H607BB05
5H607BB14
5H607CC05
5H607CC09
5H607DD08
5H607FF07
5H607JJ06
(57)【要約】
【課題】絶縁層を有するステータコアを胴体パイプに挿入する際、ステータコアの絶縁層と胴体パイプとの接触を防ぐ。
【解決手段】空気調和機に用いる圧縮機の製造方法であって、絶縁層を有するステータコア13を胴体パイプ31に固定する焼嵌め工程において、ステータコア13と胴体パイプ31とが固定位置以外で接触することを防ぐ接触防止機構を用いる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気調和機に用いる圧縮機の製造方法であって、
絶縁層を有するステータコアを胴体パイプに固定する焼嵌め工程において、
前記ステータコアと前記胴体パイプとが固定位置以外で接触することを防ぐ接触防止機構を用いることを特徴とする、
圧縮機の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮機の製造方法において、
前記圧縮機は、前記ステータコアの外周面に前記絶縁層としての樹脂部材を備えることを特徴とする、
圧縮機の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧縮機の製造方法において、
焼嵌め位置に配置された前記ステータコアの上部に、焼嵌め時における挿入のガイドとなる治具を配置し、
前記焼嵌め時に、前記治具の外径が拡径されて、ステータコアの外径より大きくなることを特徴とする、
圧縮機の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の圧縮機の製造方法において、
加熱された前記胴体パイプの挿入後、前記治具の外径が縮径されて、常温の当該胴体パイプの内径より小さくなることを特徴とする、
圧縮機の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の圧縮機の製造方法であって、
焼嵌め位置に配置された前記ステータコアの外径または軸の位置を測定し、
測定された前記位置を狙って前記胴体パイプに挿入することを特徴とする、
圧縮機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ケースの外周に設けられたガイドローラがケース挿入をガイドすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-254274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁層を有するステータコアを胴体パイプに固定する焼嵌め工程において、ステータコアを胴体パイプに挿入する際、両者の軸がズレていると、ステータコアと胴体パイプが意図せず接触し、絶縁層が溶融することがある。この場合、溶融した絶縁層が胴体パイプの内周面に付着し、バリやコンタミネーションの原因になることがある。
本開示は、絶縁層を有するステータコアを胴体パイプに挿入する際、ステータコアの絶縁層と胴体パイプとの接触を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成する本開示の圧縮機の製造方法は、空気調和機に用いる圧縮機の製造方法であって、絶縁層を有するステータコアを胴体パイプに固定する焼嵌め工程において、前記ステータコアと前記胴体パイプとが固定位置以外で接触することを防ぐ接触防止機構を用いる。この場合、絶縁層を有するステータコアを胴体パイプに挿入する際、ステータコアの絶縁層と胴体パイプとの接触を防ぐことができる。
ここで、前記圧縮機は、前記ステータコアの外周面に前記絶縁層としての樹脂部材を備えていてもよい。この場合、バリやコンタミネーションの原因となる、溶融樹脂の付着を抑制できる。
また、焼嵌め位置に配置された前記ステータコアの上部に、焼嵌め時における挿入のガイドとなる治具を配置し、前記焼嵌め時に、前記治具の外径が拡径されて、ステータコアの外径より大きくなるようにしてもよい。
また、加熱された前記胴体パイプの挿入後、前記治具の外径が縮径されて、常温の当該胴体パイプの内径より小さくなるようにしてもよい。この場合、ガイド治具を胴体パイプの内側から容易に取り出せる。
また、焼嵌め位置に配置された前記ステータコアの外径または軸の位置を測定し、測定された前記位置を狙って前記胴体パイプを挿入してもよい。この場合、測定結果に基づく制御が可能となり、ガイド治具を調達する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施の形態にかかる製造方法により製造された圧縮機の全体構成の一例を示す断面図である。
図2】胴体パイプの内周面に電動機のステータが固定されている状態を示す透過図である。
図3】電動機のステータと胴体パイプとの間に絶縁層を有する場合と、絶縁層を有しない場合との比較として、対地インピーダンスの実測値を示したグラフである。
図4】胴体パイプの内周面に電動機のステータを固定する工程の流れを示す図である。
図5】従来の焼嵌め工程で生じ得る胴体パイプとステータコアとの接触の例を示す図である。(A)は、胴体パイプが傾いているために胴体パイプとステータコアとが接触している例を示す図である。(B)は、ステータコアが傾いているために胴体パイプとステータコアとが接触している例を示す図である。(C)は、狙い位置のズレにより、胴体パイプとステータコアとが接触している例を示す図である。
図6】従来の焼嵌め工程において生じたバリの具体例を示す図である。
図7】本実施の形態にかかる焼嵌め工程の特徴を示す図である。
図8】本実施の形態にかかる焼嵌め工程で用いられる接触防止機構としてのガイド治具の具体例を示す断面図である。(A)は、外周面の表面に凹凸がないガイド治具の具体例を示す断面図である。(B)は、外周面の表面に凸部があるガイド治具の具体例を示す断面図である。
図9】本実施の形態にかかる焼嵌め装置の具体例を示す断面図である。
図10】本実施の形態にかかる焼嵌め工程における矯正の具体例を示す図である。(A)は、胴体パイプの傾きが矯正された例を示す図である。(B)は、ステータコアが傾いている例を示す図である。(C)は、狙い位置のズレが矯正される様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照して、実施の形態について詳細に説明する。
<圧縮機の構成>
(全体構成)
図1は、本実施の形態にかかる製造方法により製造された圧縮機1の全体構成の一例を示す断面図である。
図1に示すように、圧縮機1は、流体を圧縮する円筒状の機器であり、例えば、空気調和機の冷媒回路に設けられる。この場合、圧縮機1は、流体としての冷媒を圧縮する。圧縮機1は、電動機10と、圧縮機構20と、ケーシング30とを有する。また、圧縮機1は、吸入管40および吐出管50を有する。なお、以下の説明において、「軸方向」とは、円筒状の圧縮機1の中心軸に対して平行の方向を指し、「半径方向」とは、軸方向に対して垂直に交じる方向を指す。
【0008】
(電動機)
電動機10は、電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する機器であり、圧縮機構20の上方に配置されている。電動機10は、ステータ11と、ロータ12とを有する。電動機10は、図示せぬインバータ装置により運転周波数が制御される。換言すると、圧縮機1は、運転周波数が可変なインバータ式である。
【0009】
ステータ11は、ステータコア13と、ステータコア13に巻回されたコイル14と、絶縁層15とを有する固定子である。ステータ11は、後述するケーシング30の胴体パイプ31の内周面に固定されている。本実施の形態では、ステータ11を胴体パイプ31の内周面に固定する手法として、焼嵌めの手法が用いられる。なお、焼嵌めによりステータ11を胴体パイプ31の内周面に固定する手法の詳細については後述する。ステータコア13は、略円環状に形成された複数の電磁鋼板を軸方向に積層することで構成された積層コアである。
【0010】
絶縁層15は、ステータコア13の外周面に形成された、樹脂等からなる絶縁部材である。絶縁層15は、例えば、インサート成形によりステータコア13の外周面にステータコア13の軸方向の両端に亘って延びるように形成されている。絶縁層15は、例えば、PPS(Poly Phenylene Sulfide/ポリフェニレンサルファイド)、LCP(Liquid Crystal Polymer/液晶ポリマー)、PBT(Poly Butylene Terephthalate)等で構成され、電動機10の電磁ノイズがケーシング30の外部に伝搬することを抑制する機能を有する。なお、絶縁層15は、ガラス繊維を含む複合材料であってもよい。
【0011】
ロータ12は、軸心に駆動軸16を有する回転子であり、ステータコア13の内部に配置される。駆動軸16は、胴体パイプ31の軸心に沿って鉛直方向に延びるように配置されており、電動機10により回転駆動される。駆動軸16は、軸受け17により回転可能に支持されている。
【0012】
(圧縮機構)
圧縮機構20は、シリンダ18と、シリンダ18の内部に設けられるピストン19とを有する。シリンダ18の内周面とピストン19の外周面との間にシリンダ室21が形成されている。シリンダ室21では、駆動軸16により駆動されるピストン19により流体が圧縮される。
【0013】
(ケーシング)
ケーシング30は、金属材料で構成された全密閉型の容器であり、電動機10および圧縮機構20を収容する容器として機能する。ケーシング30は、胴体パイプ31と、頂部32と、底部33とを有する。胴体パイプ31は、外周面と内周面とを有する円筒状の部材である。胴体パイプ31の軸方向の両端には、それぞれ開口が形成されており、胴体パイプ31の軸方向が鉛直方向に対応する。底部33は、胴体パイプ31の下側の開口を閉塞する。頂部32は、胴体パイプ31の上側の開口を閉塞する。ケーシング30の内部は、圧縮機構20から吐出された高圧の冷媒で満たされる。
【0014】
(吸入管および吐出管)
吸入管40は、胴体パイプ31を半径方向に貫通し、シリンダ室21と連通する。吸入管40から取り込まれた低圧の冷媒は、圧縮機構20のシリンダ室21に吸い込まれる。吐出管50は、頂部32を軸方向に貫通し、ケーシング30の内部空間と連通する。圧縮機構20で圧縮された冷媒は、吐出管50から圧縮機1の外部に送り出される。
【0015】
<電動機の固定構造>
図2は、胴体パイプ31の内周面に電動機10のステータ11が固定されている状態を示す透過図である。
図3は、電動機10のステータ11と胴体パイプ31との間に絶縁層15を有する場合と、絶縁層15を有しない場合との比較として、対地インピーダンスの実測値を示したグラフである。なお、図3に示すグラフにおいて、横軸は(周波数[MHz])を示し、縦軸は(インピーダンスZc[Ω])を示している。
図2に示すように、電動機10は、ステータ11のステータコア13の外周面に形成された絶縁層15を介して胴体パイプ31の内周面に固定されている。このような構成とすることで、電磁ノイズの伝搬経路となるステータコア13と胴体パイプ31とが電気的に絶縁され、電磁ノイズの伝搬経路が遮断される。基板に搭載するノイズフィルタを削減することができ、コストダウンが図られる。具体的には、例えば、図3に示すグラフのように、ステータコア13と胴体パイプ31との間に絶縁層15を設けることで対地インピーダンスが向上し、特に0.01MHz乃至1MHz程度の低周波ノイズを低減化させることがわかる。
【0016】
<電動機の従来の固定方法>
図4は、胴体パイプ31の内周面に電動機10のステータ11を固定する工程の流れを示す図である。
胴体パイプ31の内周面に電動機10を固定する際、まず、インサート成形により、ステータコア13の外周面に絶縁層15を形成させる(ステップ1)。次に、ステータコア13にコイル14を巻く(ステップ2)。これにより、電動機10のステータ11が形成される。次に、胴体パイプ31を加熱することで拡径し、胴体パイプ31の内径がステータ11の外径よりも大きくなった状態で、胴体パイプ31の内側にステータ11を挿入して焼嵌めする(ステップ3)。その後、胴体パイプ31の冷却に伴う縮径により、胴体パイプ31の内周面にステータ11が固定される。このようにして、胴体パイプ31の内周面に電動機10が固定される。なお、図4の例では、ロータ12(図1参照)の描画を省略している。
【0017】
<従来の焼嵌め工程>
図5は、従来の焼嵌め工程で生じ得る胴体パイプ31とステータコア13との接触の例を示す図である。図5(A)は、胴体パイプ31が傾いているために胴体パイプ31とステータコア13とが接触している例を示す図である。図5(B)は、ステータコア13が傾いているために胴体パイプ31とステータコア13とが接触している例を示す図である。図5(C)は、狙い位置のズレにより、胴体パイプ31とステータコア13とが接触している例を示す図である。
【0018】
ステータコア13を胴体パイプ31に固定する焼嵌め工程では、ステータコア13をパレットに固定し、半径方向にフリーな状態の胴体パイプ31をステータコア13に向けて移動させながら、胴体パイプ31の内側にステータコア13を挿入する。ここで、ステータコア13の外周面に絶縁層15(図2参照)が形成されている場合、胴体パイプ31の軸と、ステータコア13の軸とがズレていると、胴体パイプ31の内周面と、ステータコア13の外周面に形成されている絶縁層15との間で接触が生じ、絶縁層15が溶融することがある。この場合、溶融した絶縁層15が胴体パイプ31の内周面に付着し、バリやコンタミネーションの原因になることがある。
【0019】
胴体パイプ31の軸と、ステータコア13の軸とのズレは、例えば、以下のような事象を原因とする軸のズレである。すなわち、焼嵌め工程でステータコア13を支持するパレットにステータコア13を置いた際に生じる位置のズレを原因とするもの、パレット搬送時、パレット停止時、パレットバックアップ時の振動を原因とするもの、位置決めピンとパレットブッシュとの不調を原因とするもの、パレットの軸とステータコア13の軸とのズレを原因とするものなどがある。
【0020】
また、その他にも、胴体パイプ31の軸と、ステータコア13の軸とのズレとして、パレットの軸と胴体パイプ31の軸とのズレを原因とするもの、胴体パイプ31の軸と運搬用のチャック治具70の軸とのズレを原因とするもの、各設備の経年劣化や摩耗等を原因とするもの、胴体パイプ31を加熱する際の加熱ムラによる胴体パイプ31の変形を原因とするもの、胴体パイプ31の内径と外径との同軸度のズレを原因とするもの、胴体パイプ31の内径の円筒度や真円度が低いことを原因とするものなどがある。
【0021】
これらのズレが焼嵌め時における胴体パイプ31の半径方向に形成され得る隙間よりも大きくなると、ステータコア13を胴体パイプ31に挿入する際、ステータコア13と胴体パイプ31とが接触したり、胴体パイプ31の端部や内周面の一部がステータコア13の上端部や外周面に接触したりすることがある。この場合、焼嵌めができなくなることや、接触によりステータコア13が削られることもある。また接触により胴体パイプもしくはステータが削れると、金属粉末が形成され、圧縮機内のコンタミネーションになるおそれがある。
【0022】
具体的には、図5(A)に示すように、胴体パイプ31が傾いていることにより、ステータコア13の軸130と胴体パイプ31の軸310とがズレている場合には、胴体パイプ31にステータコア13を挿入する際、胴体パイプ31の下端部34と、ステータコア13の上端部131との間に接触が生じ得る。この場合、例えば、破線500で示す位置に接触が生じる。
【0023】
また、図5(B)に示すように、ステータコア13が傾いていることにより、ステータコア13の軸130と胴体パイプ31の軸310とがズレている場合にも、胴体パイプ31にステータコア13を挿入する際、胴体パイプ31の下端部34と、ステータコア13の上端部131との間と、胴体パイプ31の下端部34と、ステータコア13の外周面132との間との各々に接触が生じ得る。この場合、例えば、破線510で示す位置に接触が生じる。
【0024】
また、図5(C)に示すように、胴体パイプ31およびステータコア13がいずれも傾いていない場合であっても、胴体パイプ31にステータコア13を挿入する際の狙い位置がズレているために、ステータコア13の軸130と胴体パイプ31の軸310とがズレている場合には、胴体パイプ31の下端部34と、ステータコア13の上端部131との間に接触が生じる。この場合、例えば、破線520で示す位置に接触が生じる。
【0025】
図6は、従来の焼嵌め工程において生じたバリの具体例を示す図である。
図6には、溶融した絶縁層15(図2参照)が胴体パイプ31の内周面に付着することで形成されたバリの具体例が示されている。図6に示す例では、胴体パイプ31の下部に設けられた溶接用のピアス穴35に絶縁層15としての樹脂がバリ600となって付着している。この場合、溶接時にブローホールが生じて溶接の強度が低下するおそれがある。
【0026】
<本実施の形態にかかる焼嵌め工程>
図7は、本実施の形態にかかる焼嵌め工程の特徴を示す図である。
図8は、本実施の形態にかかる焼嵌め工程で用いられる接触防止機構としてのガイド治具80の具体例を示す断面図である。図8(A)は、外周面の表面に凹凸がないガイド治具80の具体例を示す断面図である。図8(B)は、外周面の表面に凸部があるガイド治具80の具体例を示す断面図である。
本実施の形態にかかる焼嵌め工程では、軸心部に孔を有するパレットにステータコア13を固定し、半径方向にフリーな状態にある胴体パイプ31をステータコア13に向けて下方に移動させながら、胴体パイプ31の内側にステータコア13を挿入する。ただし、本実施の形態にかかる焼嵌め工程では、ステータコア13と胴体パイプ31とが焼き嵌めにより固定される位置以外で接触することを防ぐための接触防止機構が用いられる。図7には、接触防止機構の一例として、ガイド治具80と拡径治具90との組み合わせが示されている。
【0027】
ガイド治具80は、図7および図8(A)に示すように、軸心部に設けられた貫通部81と、貫通部81から放射状に設けられた複数のスリット82とを有し、全体として略円柱状を呈する金属製の治具である。拡径治具90は、図7に示すように、ガイド治具80の貫通部81に挿入されることでガイド治具80の外径を拡げる、全体として略円すい状を呈する金属製の治具である。拡径治具90の外径は、ガイド治具80の貫通部81に挿入される拡径治具90の軸方向の位置に応じて大きさが調節される。
【0028】
拡径治具90が貫通部81に挿入された状態のガイド治具80は、図7に示すように、ステータコア13が胴体パイプ31に挿入される際、ステータコア13に向かって移動する胴体パイプ31の半径方向の位置をガイドする。具体的には、胴体パイプ31にステータコア13を挿入する際、半径方向にフリーな状態にある胴体パイプ31の下端部34を、ガイド治具80の上端部に形成されたテーパ部83に接触させる。テーパ部83は、ガイド治具80の下端部84の外径よりも上端部85の外径を小さくするために設けられた傾斜であり、胴体パイプ31の半径方向の位置をガイドする。テーパ部83のテーパ角度は特に限定されず、胴体パイプ31の半径方向の位置をガイド可能な角度であればよい。
【0029】
ガイド治具80の外径は、胴体パイプ31にステータコア13が挿入される際、ステータコア13の外径よりも大きくなるように拡径治具90により調節される。具体的には、胴体パイプ31の内径D1>ガイド治具80の外径D2>ステータコア13の外径D3となるように調節される。これにより、挿入時における胴体パイプ31の半径方向の位置をガイドしながら、ステータコア13と胴体パイプ31との接触を防ぐことが可能となる。
【0030】
ガイド治具80は、胴体パイプ31にステータコア13が挿入された後、拡径治具90が引き抜かれることで外径が小さくなる。このため、胴体パイプ31が常温に戻ることで内径が小さくなった後であっても、胴体パイプ31の内側からガイド治具80を容易に取り出すことが可能となる。なお、ガイド治具80を誤って焼嵌めしてしまった場合にも、ガイド治具80から拡径治具90を引き抜くことで、ガイド治具80の外径よりもステータコア13の外径の方が大きくなるので、ガイド治具80を取り外せないということにはならない。
【0031】
ガイド治具80の形状は、図8(A)に示すように、胴体パイプ31に接する外周面86の表面に凹凸のない態様であってもよいが、例えば、図8(B)に示すように、外周面86の表面に設けられた凸部87が胴体パイプ31に接する態様であってもよい。ガイド治具80の外周面86の表面に凸部87を設ける態様とした場合、加熱された胴体パイプ31とガイド治具80とが接触する面積が、図8(A)に示す態様よりも小さくなるので、胴体パイプ31側からガイド治具80側への熱伝導に伴う胴体パイプ31の収縮を抑制できる。さらに、胴体パイプ31に接触する凸部87を熱伝導率の低い材料で構成してもよい。この場合、例えば、凸部87をセラミックス等で構成してもよい。また、図7に示すように、ガイド治具80の下端部84は、ステータコア13の上端部131に接触する部位であるため、ステータコア13の上端部131を傷付けないようにするための耐熱性の保護膜等を配置してもよい。
【0032】
図9は、本実施の形態にかかる焼嵌め装置2の具体例を示す断面図である。
本実施の形態にかかる焼嵌め工程は、図9に示す焼嵌め装置2を用いて行われる。焼嵌め装置2は、パレット60と、チャック治具70と、ガイド治具80と、拡径治具90と、測定部200とを含むように構成されている。パレット60は、挿入部62を有する。
【0033】
固定部材61は、パレット60をパレットコンベア等に固定する部材である。挿入部62は、ステータコア13の貫通部133に挿入される部材であり、ステータコア13およびガイド治具80の半径方向の位置決めに用いられる。挿入部62には、ガイド治具80の貫通部81を貫通した拡径治具90の先端部91を挿入するための挿入孔63が設けられている。測定部200は、パレット60の挿入部62がガイド治具80の貫通部81に挿入された状態のステータコア13の位置や傾きの測定に用いられる機器等で構成される。
【0034】
焼嵌め装置2を用いた焼嵌め工程の全体的な流れは次のとおりである。まず、パレット60の位置を決める。次に、ステータコア13の貫通部81にパレット60の挿入部62を挿入する。これにより、ステータコア13の半径方向の位置が決まる。次に、ステータコア13の上にガイド治具80を載せ、ガイド治具80の貫通部81に拡径治具90を貫通させながらガイド治具80の外径を拡げる。このとき、胴体パイプ31の内径>ガイド治具80の外径>ステータコア13の外径となるように、拡径治具90の軸方向の位置を調節する(図7参照)。そして、ガイド治具80の貫通部81を貫通させた拡径治具90の先端部91を、パレット60の挿入孔63に挿入する。これにより、ガイド治具80とステータコア13との各々の位置が決まる。
【0035】
次に、加熱した胴体パイプ31をチャック治具70に把持させ、ガイド治具80およびステータコア13を胴体パイプ31の内側に挿入する。このとき、フリーな状態にある胴体パイプ31をガイド治具80がガイドする。次に、胴体パイプ31とステータコア13との軸方向の位置関係を確定させて、ガイド治具80に挿入されている拡径治具90を引き抜く。そして、胴体パイプ31の内側からガイド治具80を取り出す。その後、胴体パイプ31が冷却されて縮径すると、胴体パイプ31の内周面にステータコア13が固定される。
【0036】
図10は、本実施の形態にかかる焼嵌め工程における矯正の具体例を示す図である。図10(A)は、胴体パイプ31の傾きが矯正された例を示す図である。図10(B)は、ステータコア13が傾いている例を示す図である。図10(C)は、狙い位置のズレが矯正される様子を示す図である。
【0037】
上述の図5(A)に示すように、胴体パイプ31が傾いていることにより、ステータコア13の軸130と胴体パイプ31の軸310とがズレている場合であっても、本実施の形態にかかる焼嵌め工程では、胴体パイプ31にステータコア13を挿入する際、ステータコア13の上側に配置されたガイド治具80が、胴体パイプ31の位置を決めるガイドとして機能する。このため、図10(A)に示すように、軸130と軸310とのズレが矯正される。さらに、ガイド治具80の外径は、ステータコア13の外径よりも大きいため、ガイド治具80が、胴体パイプ31とステータコア13との接触を防ぐ防御壁として機能する。
【0038】
また、上述の図5(B)に示すように、ステータコア13が傾いていることにより、ステータコア13の軸130と胴体パイプ31の軸310とがズレている場合であっても、図10(B)に示すように、本実施の形態にかかる焼嵌め工程で用いられるガイド治具80は、ステータコア13よりも外径が大きいため、胴体パイプ31とステータコア13との接触を防ぐ防御壁として機能する。
【0039】
また、上述の図5(C)に示すように、胴体パイプ31にステータコア13を挿入する際の狙い位置がズレていることにより、ステータコア13の軸130と胴体パイプ31の軸310とがズレている場合であっても、図10(C)に示すように、本実施の形態にかかる焼嵌め工程では、胴体パイプ31にステータコア13を挿入する際、ステータコア13の上側に配置されたガイド治具80が、胴体パイプ31の半径方向の位置を決めるガイドとして機能するため、軸130と軸310とのズレが矯正される。さらに、ガイド治具80の外径は、ステータコア13の外径よりも大きいため、ガイド治具80が、胴体パイプ31とステータコア13との接触を防ぐ防御壁として機能する。
【0040】
<他の実施の形態>
また、上記で説明した各構成は、上記の実施形態及びその変形例に限られるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で変更できる。言い換えると、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解される。
上記にて説明した構成に限らず、上記にて説明した各構成の一部を省略したり、上記にて説明した各構成に対して他の機能を付加したりしてもよい。
また、上記では、複数の実施形態を説明したが、一の実施形態に含まれる構成と他の実施形態に含まれる構成とを入れ替えたり、一の実施形態に含まれる構成を他の実施形態に付加したりしてもよい。
【0041】
例えば、上述の実施の形態では、ステータコアと胴体パイプとが固定位置以外で接触することを防ぐ接触防止機構として、ガイド治具80(図7参照)を採用しているが、これに限定されない。例えば、焼嵌めを行う位置に配置されたステータコアの外径または軸の位置を測定し、測定した位置を狙ってステータコアを胴体パイプに挿入してもよい。これらの測定は、例えば、図9の測定部200が行ってもよい。
【0042】
また、上述の実施の形態では、圧縮機1の用途の一例として、空気調和機の冷媒回路に設けられることが示されているが、空気調和機以外の他の機器に圧縮機1を設けてもよい。
【0043】
ここで、上記にて説明した実施形態の各々は、以下のように捉えることができる。
すなわち、本開示が適用される圧縮機1の製造方法は、空気調和機に用いる圧縮機1の製造方法であって、絶縁層15を有するステータコア13を胴体パイプ31に固定する焼嵌め工程において、ステータコア13と胴体パイプ31とが固定位置以外で接触することを防ぐ接触防止機構を用いた製造方法である。この場合、絶縁層15を有するステータコア13を胴体パイプ31に挿入する際、ステータコア13の絶縁層15と胴体パイプ31との接触を防ぐことができる。
【0044】
ここで、圧縮機1は、ステータコア13の外周面に絶縁層15としての樹脂部材を備えていてもよい。この場合、バリやコンタミネーションの原因となる、溶融樹脂の付着を抑制できる。
【0045】
また、焼嵌め位置に配置されたステータコア13の上部に、焼嵌め時における挿入のガイドとなるガイド治具80を配置し、焼嵌め時に、ガイド治具80の外径が拡径されて、ステータコア13の外径より大きくなるようにしてもよい。この場合、コレットチャック等の従来治具を用いることができるので、コストを抑制できる。
【0046】
また、加熱された胴体パイプ31の挿入後、ガイド治具80の外径が縮径されて、常温の胴体パイプ31の内径より小さくなるようにしてもよい。この場合、ガイド治具80を胴体パイプ31の内側から容易に取り出せる。
【0047】
また、焼嵌め位置に配置されたステータコア13の外径または軸130の位置を測定し、測定されたステータコア13の位置を狙って胴体パイプ31に挿入してもよい。この場合、測定結果に基づく制御が可能となり、ガイド治具80を調達する必要がなくなる。
【0048】
また、本開示が適用される焼嵌め装置2は、絶縁層15を有するステータコア13を胴体パイプ31に固定する焼嵌め工程において、ステータコア13と胴体パイプ31とが固定位置以外で接触することを防ぐ接触防止機構を機能させる焼嵌め装置である。この場合、絶縁層15を有するステータコア13を胴体パイプ31に挿入する際、ステータコア13の絶縁層15と胴体パイプ31との接触を防ぐことができる。
【0049】
また、本開示が適用される圧縮機1は、絶縁層15を有するステータコア13を胴体パイプ31に固定する焼嵌め工程において、ステータコア13と胴体パイプ31とが固定位置以外で接触することを防ぐ接触防止機構を用いた製造方法により製造された圧縮機である。この場合、絶縁層15を有するステータコア13を胴体パイプ31に挿入する際、ステータコア13の絶縁層15と胴体パイプ31との接触を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0050】
1…圧縮機、2…焼嵌め装置、13…ステータコア、15…絶縁層、30…ケーシング、31…胴体パイプ、80…ガイド治具、130…軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10