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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146159
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂粉体塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/02 20060101AFI20241004BHJP
   C09D 163/04 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241004BHJP
   C09D 5/03 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D163/02
C09D163/04
C09D7/61
C09D5/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058895
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 利徳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 文幸
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB061
4J038DB142
4J038HA036
4J038HA146
4J038HA196
4J038HA446
4J038HA456
4J038HA466
4J038HA526
4J038HA536
4J038JB02
4J038JB06
4J038JB32
4J038KA03
4J038KA04
4J038MA02
4J038NA13
4J038NA24
4J038PA02
4J038PA19
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】低温且つ短時間での硬化が可能であり、欠陥の発生が良好に抑制された塗膜を形成することが可能なエポキシ樹脂粉体塗料を提供する。
【解決手段】硬化物を形成するためのエポキシ樹脂粉体塗料であって、
下記に示す(A)、(B)、(C)、及び(D)を含み、
(A)エポキシ当量が450~630g/eqであるビスフェノールA型エポキシ樹脂、
(B)ノボラック型エポキシ樹脂、
(C)平均粒径D50が5~12μmである充填剤、
(D)硬化剤、
エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、(C)が65~85質量部含まれている、エポキシ樹脂粉体塗料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化物を形成するためのエポキシ樹脂粉体塗料であって、
下記に示す(A)、(B)、(C)、及び(D)を含み、
(A)エポキシ当量が450~630g/eqであるビスフェノールA型エポキシ樹脂、
(B)ノボラック型エポキシ樹脂、
(C)平均粒径D50が5~12μmである充填剤、
(D)硬化剤、
エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、前記(C)が65~85質量部含まれている、エポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項2】
さらに、(C’)平均粒径D50が0.5~2μmである充填剤を含み、
エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、前記(C’)が3~20質量部含まれている、請求項1に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【請求項3】
さらに、(E)ビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂を含む、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂粉体塗料に関する。特に、低温条件下において塗装可能なエポキシ樹脂粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は機械特性、耐薬品性、耐食性、電気特性に優れ、粉体塗料としても広く使用されている。エポキシ樹脂を利用した粉体塗料(エポキシ樹脂粉体塗料)は、優れた電気特性及び耐食性等を有し、バスバー、鋼管等の加工鋼材分野等に利用されている。また、フィルムコンデンサ等の電子部品等の外表面に絶縁性や防湿性等を与えるための塗料や、モーター等の車載部品等に絶縁性等を与えるための塗料としても利用されている。
【0003】
エポキシ樹脂粉体塗料による塗装方法としては、予熱した被塗装物を、エポキシ樹脂粉体塗料の流動槽に浸漬させ、被塗装物の表面に付着したエポキシ樹脂粉体塗料を溶融させる。続いて、溶融したエポキシ樹脂粉体塗料を硬化炉等にて加熱することにより硬化させ、被塗装物の表面に塗膜を形成する方法が知られている。このような場合、被塗装物がフィルムコンデンサ等の電子部品のように、高温環境下では故障するおそれのあるものならば、なるべく被塗装物の予熱及び硬化を低温で行う必要がある。そのため、低温でも硬化するエポキシ樹脂粉体塗料を用いることが好ましい。
【0004】
このような低温条件下で使用可能なエポキシ樹脂粉体塗料として、特許文献1には、エポキシ当量が500乃至2,500g/eqで軟化点が65乃至130℃のエポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)と充填剤(C)を必須成分として成る粉体塗料組成物に於いて、該エポキシ樹脂(A)がビスフェノール型エポキシ樹脂であり、該硬化剤(B)が塩基性窒素含有複素環式化合物からなる低温硬化可能な粉体塗料組成物が開示されている。特許文献1に開示された粉体塗料組成物は、200℃以下、好ましくは150℃以下で硬化すると記載されており、実施例では150℃で硬化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-336286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、熱によって故障が発生しやすい、フィルムコンデンサ等の電子部品等を被塗装物とする場合、低温(115~125℃)条件下で、且つ短時間での硬化を行うことが好ましい。また、低温で硬化する場合、溶融粘度の調整が容易ではなく、塗装不良箇所が生じて塗膜に欠陥(膜厚不均一、平滑性不良、小穴等)が生じる問題もある。
【0007】
本発明は以上の点に着目し成されたもので、低温且つ短時間での硬化が可能であり、欠陥の発生が良好に抑制された塗膜を形成することが可能なエポキシ樹脂粉体塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するため、以下の(1)~(3)のように特定される。
(1)硬化物を形成するためのエポキシ樹脂粉体塗料であって、
下記に示す(A)、(B)、(C)、及び(D)を含み、
(A)エポキシ当量が450~630g/eqであるビスフェノールA型エポキシ樹脂、
(B)ノボラック型エポキシ樹脂、
(C)平均粒径D50が5~12μmである充填剤、
(D)硬化剤、
エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、前記(C)が65~85質量部含まれている、エポキシ樹脂粉体塗料。
(2)さらに、(C’)平均粒径D50が0.5~2μmである充填剤を含み、
エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、前記(C’)が3~20質量部含まれている、前記(1)に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
(3)さらに、(E)ビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂を含む、前記(1)または(2)に記載のエポキシ樹脂粉体塗料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、低温且つ短時間での硬化が可能であり、欠陥の発生が良好に抑制された塗膜を形成することが可能なエポキシ樹脂粉体塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
なお、本明細書中、数値範囲を表す「~」は、その上限値及び下限値としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も上限値と同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。
また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
(エポキシ樹脂粉体塗料)
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、硬化物を形成するためのエポキシ樹脂粉体塗料であって、下記に示す(A)、(B)、(C)、及び(D)を含む。
(A)エポキシ当量が450~630g/eqであるビスフェノールA型エポキシ樹脂、
(B)ノボラック型エポキシ樹脂、
(C)平均粒径D50が5~12μmである充填剤、
(D)硬化剤。
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料に含まれる各成分について説明する。
【0014】
<(A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有する粉体塗料は、塗装後に形成される硬化物である塗膜の機械特性、耐薬品性、電気特性、耐食性が良好となる。(A)のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、エポキシ当量が450~630g/eqである。ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量を450g/eq以上とすることで、粉体塗料の溶融粘度が低下しすぎることを抑制し、粉体塗料を塗装する際に、溶融した粉体塗料の垂れ等の不具合を抑制することができる。また、630g/eq以下とすることで、低温(115~125℃)の環境下において粉体塗料を塗装する際に、溶融流れ性が良好となり、塗膜に生じる小穴等の不具合を抑制することができる。(A)のビスフェノールA型エポキシ樹脂の軟化点は、硬化性の観点から65~95℃が好ましい。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、エポキシ当量が450~630g/eqの範囲となるように、エポキシ当量が異なる2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
(A)のビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、YD-011、YD-012、YD-014(以上、KUKDO Chemical社製)、JER-1001、JER-1002、JER-1004、JER-1007(以上、三菱ケミカル社製)、GESR-901、GESR-902、GESR-904、GESR-907(以上、Epoxy Base Electronic Material Corporation Limited社製)等が挙げられる。
【0015】
<(B)ノボラック型エポキシ樹脂>
(B)のノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。このうち、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が耐熱性の観点から好ましい。
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、YDCN-500-10P(KUKDO Chemical社製)、エピクロンN-660、エピクロンN-665、エピクロンN-670、エピクロンN-673、エピクロンN-695(以上、DIC社製)、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-104S(以上、日本化薬社製)等が挙げられる。
【0016】
また、本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、このような(A)及び(B)の2種類のエポキシ樹脂を含むことで、低温硬化が可能となる。
【0017】
低温硬化という観点から、(A)のビスフェノールA型エポキシ樹脂に対する(B)のノボラック型エポキシ樹脂との配合比(B)/(A)は、0.14~0.65であるのが好ましく、0.23~0.54であるのがより好ましい。
なお、本明細書において、断りのない限り「配合比」は質量比を示す。
【0018】
<(C)充填剤>
(C)の充填剤としては、シリカ、アルミナ、二酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、チタン酸バリウム、シリカ-アルミナ複合酸化物等の酸化物;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の難溶性イオン結晶;黒鉛、ケイ素、二酸化ケイ素等の共有結合性結晶;炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、ベントナイト、ゼオライト、ベーマイト、ムライト等、または、これらを含む化合物等が挙げられる。
このうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムは、熱により水を発生させることでエポキシ樹脂粉体塗料の難燃性を向上させることができるため、特に好ましい。
【0019】
また、(C)の充填剤は、平均粒径D50が5~12μmであり、エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき65~85質量部含まれている。平均粒径D50が5~12μmという、比較的大きな粒径の充填剤が65~85質量部含まれていることで、エポキシ樹脂粉体塗料は溶融時に適度な流れ性が得られ、溶融粘度の調整が容易となり、被塗装物の表面からの垂れを良好に抑制することができ、さらに塗装不良に起因する塗膜の欠陥(膜厚不均一等)の発生を良好に抑制することができる。(C)の充填剤は、平均粒径D50が5~12μmであり、エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき70~80質量部含まれているのがより好ましい。
【0020】
平均粒径D50は、レーザー回折・散乱法(JIS Z8825:2022)による50%累積体積粒子径(メディアン径とも呼ぶ)である。平均粒径D50は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SYMPATEC社製、HELOS and RODOS解析ソフト:WINDOX5)等を用いて測定することができる。
【0021】
<(C’)充填剤>
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、さらに、平均粒径D50が0.5~2μmである充填剤を含むことが好ましい。(C’)の充填剤の材料は、上述の(C)の充填剤と同様の材料を用いることができ、さらに水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが難燃性を向上させる観点から特に好ましい。
【0022】
平均粒径D50が0.5~2μmという比較的小さな粒径の(C’)の充填剤は、平均粒径D50が5~12μmという比較的大きな粒径の(C)の充填剤に比べて樹脂と接触する総面積が大きいため、摩擦抵抗が大きい。従って、比較的小さな粒径の(C’)の充填剤を比較的大きな粒径の(C)の充填剤と併用することで、エポキシ樹脂粉体塗料は溶融時に、より適度な流れ性が得られ、溶融粘度の調整がより容易となる。この結果、被塗装物の表面からの垂れをより良好に抑制することができ、さらに塗装不良に起因する塗膜の欠陥(膜厚不均一等)の発生をより良好に抑制することができる。(C’)の充填剤は、エポキシ樹脂粉体塗料における溶融時の適度な流れ性の付与という観点から、エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、3~20質量部含まれていることが好ましく、5~15質量部含まれていることがより好ましい。
【0023】
(C)の充填剤に対する(C’)の充填剤の配合比(C’)/(C)は、0.01~0.35が好ましく、より好ましくは0.05~0.25である。配合比(C’)/(C)が0.01~0.35の範囲にあることで、エポキシ樹脂粉体塗料における溶融時の適度な流れ性をより良好に制御することができ、それにより、塗装不良に起因する塗膜の欠陥(膜厚不均一等)の発生をより良好に抑制することができる。
【0024】
<(D)硬化剤>
(D)の硬化剤としては、本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料が低温で硬化することが可能なものであれば特に限定されず、イミダゾール誘導体、アミン化合物、または、アミン化合物とエポキシ樹脂の付加反応物等を単独または組み合わせて用いることができる。
【0025】
イミダゾール誘導体は、イミダゾールに置換基等が導入された化合物であり、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、イミダゾール環を有するトリアジン化合物等が含まれる。イミダゾール環を有するトリアジン化合物としては、2,4-ジアミノ-6-[2′-メチルイミダゾリル-(1′)]-エチル-s-トリアジン等が挙げられる。イミダゾール誘導体は、2種類以上組み合わせて使用してもよい。なかでも、速硬化性の観点から、2-メチルイミダゾール、イミダゾール環を有するトリアジン化合物を使用することが好ましい。
イミダゾール誘導体の市販品としては、キュアゾール(登録商標)2MZ-H、キュアゾール(登録商標)2MZ-A(以上、四国化成社製)等が挙げられる。
【0026】
アミン化合物は、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、変性ポリアミドアミン等を挙げることができる。なかでも、低温硬化性の観点から、変性ポリアミドアミンを使用することが好ましい。
【0027】
イミダゾール化合物とエポキシ樹脂の付加反応物は、エポキシ樹脂の両末端エポキシ基にイミダゾール化合物が開環付加した構造を有する。イミダゾール化合物には、イミダゾール、イミダゾール誘導体が含まれる。エポキシ樹脂には、ビスフェノール型エポキシ樹脂等が含まれる。イミダゾール化合物とエポキシ樹脂の付加反応物としては、例えば、2-メチルイミダゾールとビスフェノールA型エポキシ樹脂の付加反応物、2-エチル-4-メチルイミダゾールとビスフェノールA型エポキシ樹脂の付加反応物が含まれる。イミダゾール化合物とエポキシ樹脂の付加反応物は、2種類以上組み合わせて使用してもよい。なかでも、低温硬化性の観点から、2-メチルイミダゾールとビスフェノールA型エポキシ樹脂の付加反応物を使用することが好ましい。
(D)の硬化剤は、エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき1.0~4.0質量部含まれているのが好ましく、1.5~3.0質量部含まれているのがより好ましい。
【0028】
<(E)ビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂>
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、さらに、ビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂を含むことが好ましい。ビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂を添加することで、エポキシ樹脂粉体塗料の溶融時の流れ性がより向上する。ビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン・フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物等が挙げられる。
また、(A)のビスフェノールA型エポキシ樹脂に対する(E)のビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂の配合比(E)/(A)は、低温硬化性及び流れ性の向上という観点から、0.1~0.45であるのが好ましく、0.15~0.35であるのがより好ましい。なお、本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料が(E)のビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂を含んでいない場合は、エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、(A)のビスフェノールA型エポキシ樹脂が60質量部以上含まれていることが好ましく、70質量部以上含まれていることがより好ましい。
ビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂の市販品としては、エピクロン5500、エピクロン5800(以上、DIC社製)、NPES-660U(NANYA社製)等が挙げられる。
【0029】
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、全てのエポキシ樹脂の合計のエポキシ当量が300~500g/eqであるのが好ましい。全てのエポキシ樹脂の合計のエポキシ当量が300g/eq以上であると粉体塗料の溶融粘度が低下しすぎることを抑制し、粉体塗料を塗装する際に、溶融した粉体塗料の垂れ等の不具合を抑制することができる。また、全てのエポキシ樹脂の合計のエポキシ当量が500g/eq以下であると低温(115~125℃)の環境下において粉体塗料を塗装する際に、溶融流れ性が良好となり、塗膜に生じる小穴等の不具合を抑制することができる。本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、全てのエポキシ樹脂の合計のエポキシ当量が350~450g/eqであるのがより好ましい。
【0030】
<その他の成分>
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料には、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の成分以外のエポキシ樹脂、硬化促進剤、難燃剤、着色剤、表面改質剤、揺変剤、沈降防止剤、カップリング剤、消泡剤、離型剤、流動性調整剤等の慣用の補助成分を適宜配合することができる。
難燃剤としては、リン系化合物、ハロゲン化合物、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、金属水酸化物等が挙げられる。
表面改質剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合物等が挙げられる。
着色剤としては、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、銅等が挙げられる。
流動性調整剤としては、非晶性シリカ等が挙げられる。
【0031】
<ゲル化時間>
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、JIS C 2104準拠による120℃におけるゲル化に至るまでの時間が、260~340秒、好ましくは280~320秒となる硬化性を備えている。ゲル化時間が260秒以上であれば、所望する特性を発現するのに十分な硬化物を得られるだけでなく、加熱時の溶融性にも優れていると言える。120℃におけるゲル化時間が長すぎると、塗料の水平流れ率が大きくなりすぎ、溶融時に低粘度となって塗料が流れやすくなり、その結果、小穴等の塗膜欠陥やいわゆる垂れと呼ばれる現象が生じやすくなることもある。ゲル化時間が340秒以下であれば、塗料の120℃における水平流れ率を例えば、30%以下に維持することができる。また、ゲル化時間が340秒以下であれば、本発明においては、短時間の硬化を可能にする。
【0032】
<水平流れ率>
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、120℃における水平流れ率が、20~30%、好ましくは22~28%である。塗料の水平流れ率が小さすぎると溶融時に塗料が流れなくなるため、小穴等の塗膜欠陥が生じやすく、平滑な塗膜が得られにくい。塗料の水平流れ率が大きすぎると硬化塗膜を得る際の溶融から硬化の過程において垂れが生じ、所望の膜厚を形成しにくくなる。
なお、水平流れ率とは、粉体塗料における加熱時の溶融性を示すものであり、この値が大きいと溶融時に低粘度であるため塗料が流れやすいことを示し、小さいと溶融時に高粘度であるため塗料が流れにくいことを示す。水平流れ率の測定方法は後述する。
【0033】
<用途>
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、一般的なエポキシ樹脂粉体塗料と同様に、バスバー、鋼管等の加工鋼材、電子部品等の表面に耐食性、絶縁性、防湿性等を付与する塗料として利用することができる。また、特に低温(115~125℃)でも短時間で硬化できるため、フィルムコンデンサ等の熱に弱い電子部品等の外表面の塗料、モーター等の車載部品等の表面に絶縁性等を付与する塗料として利用することができる。
【0034】
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料による塗装方法としては、特に限定されず、公知の塗装方法が適用できる。具体的には、静電塗装、摩擦帯電塗装、無荷電塗装、流動浸漬等が挙げられる。
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、低温で短時間の硬化が可能であるという観点からは、流動浸漬による塗装方法を用いることが特に好ましい。流動浸漬の具体例としては、予熱した被塗装物を、塗料の流動槽に浸漬させ、被塗装物の表面に付着したエポキシ樹脂粉体塗料を溶融させる。続いて、溶融したエポキシ樹脂粉体塗料を硬化炉等にて加熱することにより硬化させて、被塗装物の表面に塗膜を形成する方法が挙げられる。
【0035】
(エポキシ樹脂粉体塗料の製造方法)
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、例えば以下の方法により製造することができる。
まず、上述の(A)のビスフェノールA型エポキシ樹脂、(B)のノボラック型エポキシ樹脂、(C)の充填剤、及び(D)の硬化剤を配合し、さらに必要に応じて、(C’)の充填剤、(E)のビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂、上述の成分以外のエポキシ樹脂、硬化促進剤、難燃剤、着色剤、表面改質剤、揺変剤、沈降防止剤、カップリング剤、消泡剤、離型剤、流動性調整剤等の慣用の補助成分等を加えた組成物を準備する。当該組成物はエポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、(C)の充填剤が65~85質量部含まれている。
次に、当該組成物の溶融混錬を行う。溶融混練は、エクストルーダー等を用いて短時間で完了させることが好ましい。
その後、得られた混合物を冷却固化し、固化した混合物(溶融混練物)を粉砕することにより本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂粉体塗料が得られる。
【実施例0036】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0037】
1.エポキシ樹脂粉体塗料の作製
<実施例1~5、比較例1~5>
表1に示す配合比(質量比)で、実験例ごとのすべての材料を混合した組成物を準備した。表1に示す各成分の原料を以下に示す。なお、(C)及び(C’)の充填剤の平均粒径D50は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SYMPATEC社製、HELOS and RODOS解析ソフト:WINDOX5)を用いて測定した。
【0038】
(A)ビスフェノールA型エポキシ樹脂
(a1)エポキシ当量 470g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂
(a2)エポキシ当量 635g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂
(a3)エポキシ当量 910g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂
(B)ノボラック型エポキシ樹脂
(b1)オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量 210g/eq)
(C)充填剤
(c1)水酸化アルミニウム(平均粒径D50 8μm)
(C’)充填剤
(c’1)水酸化アルミニウム(平均粒径D50 1μm)
(D)硬化剤
(d1)2,4-ジアミノ-6-[2′-メチルイミダゾリル-(1′)]-エチル-s-トリアジン
(E)ビスフェノールA型ノボラック変性エポキシ樹脂
(e1)ビスフェノールA・エピクロルヒドリン・フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物(エポキシ当量 480g/eq)
【0039】
次に、各組成物についてエクストルーダーを用いて溶融混錬を行った。
その後、得られた混合物を冷却固化し、固化した混合物(溶融混練物)を粉砕することによりエポキシ樹脂粉体塗料のサンプルを得た。
【0040】
2.評価
各実験例で得られたエポキシ樹脂粉体塗料のサンプルについて、下記に示す方法で硬化性、塗装性及び硬化物特性を評価した。
【0041】
<2-1:硬化性(ゲル化時間)>
エポキシ樹脂粉体塗料の硬化性は、ゲル化時間を測定することにより評価した。
各実験例で得られたエポキシ樹脂粉体塗料の約0.05gを120℃に保持した熱板の円形凹部に入れ、かきまぜ棒でかきまぜ、糸が引かなくなるまでの時間、すなわちゲル化に至るまでの時間(秒)を測定した。JIS C 2104に準じて測定した。評価結果を表1に示す。
【0042】
<2-2:塗装性(水平流れ率)>
エポキシ樹脂粉体塗料の塗装性は、水平流れ率を測定することにより評価をした。
各実験例で得られたエポキシ樹脂粉体塗料約1.0gを内径16mmφの錠剤成形用金型に入れ、荷重70~80MPaで60秒加圧し錠剤を成形した後、1333Pa以下に減圧したデシケーター内で15分間乾燥させ、該錠剤の直径(a)をノギスで測定した。次に、得られた錠剤をスライドガラスに載せ、熱風乾燥機中にて120℃で10分間加熱後取り出し、同様に錠剤の直径(b)を測定した。そして、加熱による直径の増加値(b-a)を加熱前の直径(a)で除した後、これに100を乗じることで、各実験例で得られた粉体塗料ごとに水平流れ率を算出した。評価結果を表1に示す。
【0043】
<2-3:硬化物特性(塗膜外観)>
エポキシ樹脂粉体塗料の硬化物特性として、塗膜外観の評価を行った。
150℃に予熱したボンデ鋼材の試験片(被塗装物:縦×横×厚さ=90mm×75mm×1mm)を、各実験例で得られたエポキシ樹脂粉体塗料の流動槽に浸漬し、被塗装物表面に付着させた。次に、被塗装物表面で溶融したエポキシ樹脂粉体塗料を硬化炉等で加熱して硬化させ、塗膜を形成した。次に、人間の目で塗膜の外観を観察した。評価基準は、以下のとおりである。評価結果を表1に示す。
非常に良好:平滑である。
良好:一部に凹凸があるが使用可能。
不良:全面に凹凸があるため使用不可。
【0044】
【表1】
【0045】
3.考察
表1に示すように、成分として上述の(A)、(B)、(C)、及び(D)を含み、エポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、(C)が65~85質量部含まれている実施例1~5に係るエポキシ樹脂粉体塗料は、硬化性、塗装性、及び硬化物特性のいずれも良好な結果が得られた。すなわち、実施例1~5においては、いずれも低温且つ短時間での硬化が可能であり、欠陥の発生が良好に抑制された塗膜を形成することができた。
また、特に粒径が大小と異なる(C)及び(C’)の充填剤を併用した実施例2及び3は大粒径の(C)のみを充填剤として用いた実施例1に対して、溶融水平流れ率が小さくなり、粉体塗料を塗装する際に、溶融した粉体塗料の垂れ等の不具合を抑制することができた。
比較例1は、(A)のビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量が630g/eqを超えているだけでなく、(C)の含有量が65質量部未満であったため、水平流れ率及び塗膜外観が不良であった。
比較例2~5は、いずれもエポキシ樹脂の総量を100質量部としたとき、(C)の含有量が65質量部未満であったため、水平流れ率及び塗膜外観が不良であった。