(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146172
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】塗膜剥離処理方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/02 20060101AFI20241004BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20241004BHJP
B29K 69/00 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
B29K67:00
B29K69:00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058913
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】513194894
【氏名又は名称】ミクロエース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】永井 達夫
(72)【発明者】
【氏名】酒井 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】永江 隆治
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢司
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA23
4F401AC01
4F401AD02
4F401BA13
4F401BB10
4F401BB12
4F401CA32
4F401CA41
4F401EA25
4F401EA90
4F401FA01Z
4F401FA07Z
(57)【要約】
【課題】塗装が施された樹脂をリサイクルするにあたり、塗膜を除去する従来の方法では樹脂が劣化し、強度、弾性率、衝撃性などの物性を維持することができない。また、塗膜除去の使用に伴い剥離溶液内には溶解した塗膜成分濃度が濃くなり、使用回数が増加するにつれ剥離溶液の塗膜除去能力が低下することから、使用回数に限界がある。使用済みとなった剥離溶液の廃棄処理費用、環境負荷の増大という課題がある。
【解決手段】樹脂に形成された塗膜に硫酸溶液を接触させて前記塗膜を前記樹脂から剥離除去し、前記硫酸溶液に溶解した前記塗膜の成分である有機物を、電解硫酸溶液によって二酸化炭素と水に分解をして処理をする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の表面に形成された塗膜を樹脂から剥離除去する塗膜剥離処理方法であって、
樹脂に形成された塗膜に硫酸溶液を接触させて前記塗膜を前記樹脂から剥離除去し、前記硫酸溶液に溶解した前記塗膜の成分である有機物を、電解硫酸溶液によって二酸化炭素と水に分解をして処理をする塗膜剥離処理方法。
【請求項2】
前記塗膜が溶解した硫酸溶液の一部または全部に電流を通じて電解により電解硫酸溶液を生成する請求項1に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項3】
塗膜に接触させる前記硫酸溶液が電解硫酸溶液である請求項1に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項4】
前記塗膜が溶解した電解硫酸溶液の一部または全部に電流を通じてさらに電解を行う請求項3に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項5】
前記塗膜が溶解した硫酸溶液を60~100℃に温度を高め、電解硫酸溶液と反応させて前記分解に供する請求項1に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項6】
前記塗膜に接触させる前記硫酸溶液は、濃度が85.0質量%以上であり、かつ温度が45~80℃の範囲内である請求項1~5のいずれか1項に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項7】
前記塗膜に接触させる前記電解硫酸溶液は、濃度が80.0質量%以上であり、かつ温度が45~80℃の範囲内である請求項3または4に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項8】
前記電解を行う際の溶液温度を20~60℃とする請求項2または4に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項9】
前記塗膜を剥離除去する槽を複数用意し、前記槽における塗膜の分解速度の低下に応じて当該槽での塗膜剥離除去を終了し、前記槽内の硫酸溶液を電気分解する請求項1に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項10】
前記塗膜剥離除去の終了に際し、他の槽における塗膜の剥離除去を継続または開始する請求項9に記載の塗膜剥離処理方法。
【請求項11】
前記塗膜の分解速度を溶液の電気伝導度または/および酸化還元電位で判断することを特徴とする請求項1、9および10のいずれか1項に記載の塗膜剥離処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜を有する樹脂から塗膜を剥離除去する塗膜剥離処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート(PC)樹脂とポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂を混合して形成された高分子材料PC/PBT材やポリカーボネート樹脂とアクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂ABS材等の樹脂が自動車部品などに適応されている。またこれら部品には、意匠性や紫外線による劣化を防ぐため塗装が施されている。
塗装工程において塗装ミスにより外観不良品や部品交換等で廃棄される部品が発生している。その塗装された樹脂部品のほとんどが、現在は廃棄されている。近年、環境負荷低減の観点から樹脂廃棄量の削減が求められており、これまで廃棄していた樹脂のリサイクルの検討及び技術開発が進められている。しかし、実際にはリサイクルは一般的に行われるには至っておらず、樹脂業者やその樹脂を利用して部品を成形している業者等各社で技術開発の途上にある。
【0003】
特許文献1では水酸化テトラアルキルアンモニウム及び溶媒成分としてピロリドン系化合物を含む溶液が、また特許文献2では水酸化ナトリウムを主とする溶液、すなわちアルカリ溶液が塗膜剥離に用いられている。特許文献3ではベンジルアルコールとブチルセロソルブを含む有機溶媒が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-40266号公報
【特許文献2】特許6188068号公報
【特許文献3】特開2014-69369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、水酸化テトラアルキルアンモニウム及び溶媒成分としてピロリドン系化合物を含む塗膜剥離が用いられており、特許文献2では、水酸化ナトリウム水溶液が用いられている。これら従来の技術は、塗膜の除去方法のみに視点が置かれており、剥離後樹脂の強度など物性維持については一切言及されておらず、物性低下が懸念される。また、特許文献3では、剥離後樹脂の物性維持について言及されており、物性維持のため化学的な塗膜除去方法と物理的な塗膜除去方法を組み合わせる方法が記載されているが、処理工程が多くなってしまう。
【0006】
塗装が施された樹脂をリサイクルするにあたり、塗膜除去する際の樹脂の劣化や、除去された塗膜の混入による物性の低下など弊害を生じさせることとなる。そのため、強度、弾性率、衝撃性などの物性を維持しながら完全に塗膜を除去し、樹脂をリサイクルすることが当該分野における課題となっている。
また、塗膜除去の際使用した剥離溶液内には溶解した塗膜成分が含有しており、使用回数が増加するにつれ剥離溶液の塗膜除去能力が低下することから、使用回数に限界があるという課題もある。
更に、使用済みとなった剥離溶液の廃棄においても、剥離除去処理数の増大に伴い以下の課題が容易に想像される。
(1)廃液処理交換費用および収集運搬費用の増大
(2)多数廃液処理工程による廃液処理費用の増大
(3)廃液処理の交換から再生までの環境負荷の増大
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、樹脂の物性を維持しながら完全に塗膜を剥離除去する塗膜剥離処理方法を提供することを目的とする。
【0008】
すなわち、本発明の塗膜剥離処理方法のうち、第1の形態は、樹脂の表面に形成された塗膜を樹脂から剥離除去する塗膜剥離処理方法であって、
樹脂に形成された塗膜に硫酸溶液を接触させて前記塗膜を前記樹脂から除去し、前記硫酸溶液に溶解した前記塗膜の成分である有機物を、電解硫酸溶液によって二酸化炭素と水に分解をして処理をする。
【0009】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記塗膜が溶解した硫酸溶液の一部または全部に電流を通じて電解により電解硫酸溶液を生成する。
【0010】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、塗膜に接触させる前記硫酸溶液が電解硫酸溶液である。
【0011】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記塗膜が溶解した電解硫酸溶液の一部または全部に電流を通じてさらに電解を行う。
【0012】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記塗膜が溶解した硫酸溶液を60~100℃に温度を高め、電解硫酸溶液と反応させて前記分解に供する。
【0013】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記塗膜に接触させる前記硫酸溶液は、濃度が85.0質量%以上であり、かつ温度が45~80℃の範囲内である。
【0014】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記塗膜に接触させる前記電解硫酸溶液は、濃度が80.0質量%以上であり、かつ温度が45~80℃の範囲内である。
【0015】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記電解を行う際の溶液温度を20~60℃とする。
【0016】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記塗膜を剥離除去する槽を複数用意し、前記槽における塗膜の分解速度の低下に応じて当該槽での塗膜剥離除去を終了し、前記槽内の硫酸溶液を電気分解して再生する。
【0017】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記塗膜の分解速度を溶液の電気伝導度または/および酸化還元電位で判断する。
【0018】
他の形態の塗膜剥離処理方法の発明は、前記形態の発明において、前記塗膜剥離除去の終了に際し、他の槽における塗膜の剥離除去を継続または開始する。
【0019】
以下で、本願発明で規定する内容について説明する。
[硫酸濃度、溶液温度]
塗膜に接触させる前記硫酸溶液では、硫酸濃度が低い場合には、塗膜の剥離能力が低下し、設定塗色によっては剥離不可な塗色が存在する。硫酸溶液はその濃度が高くなるほど疎水性が強くなるため、塗膜を溶解するには硫酸濃度は高いほど好ましく、その下限濃度が85.0質量%とするのが望ましい。但し、塗膜に接触させる硫酸溶液として電解硫酸溶液を使用する場合、酸化力が加わり剥離能力が高くなるので下限濃度を80質量%とするのが望ましい。
【0020】
硫酸溶液は、溶液温度を上げることで塗膜の溶解量が増し、塗膜の剥離能力が高くなる。このため、塗膜に接触させる硫酸溶液(電解硫酸溶液の場合を含む)は、温度を45℃以上にするのが望ましい。一方、溶液温度を上げすぎると、塗膜の剥離能力は高くなるが、塗膜を剥離した後の樹脂表面の変色および変質が大きく、樹脂を再利用するには好ましくないので、上限温度を80℃にするが望ましい。
ただし、本願発明としては、硫酸濃度、溶液温度が上記に限定されるものではない。
【0021】
[電解硫酸溶液による分解]
電解硫酸溶液では、高い酸化力を有し、塗膜成分である有機物と反応して二酸化炭素と水とに分解することができる。
電解硫酸溶液は、塗膜に接触させた硫酸溶液の一部または全部に電気を通じて電解することにより用意することができる。また、塗膜に接触させた硫酸溶液として電解硫酸溶液を使用することで、溶解した塗膜成分をそのまま分解することができる。塗膜に接触させた電解硫酸溶液は、さらに電気を通じて分解することで酸化力を高めることができる。
また、塗膜が溶解した硫酸溶液は、電解硫酸溶液と混合して塗膜成分の分解を行うことができる。この際に、塗膜が溶解した硫酸溶液を60~100℃に温度を高めて電解硫酸溶液と反応させることにより酸化力を高めることができる。
【0022】
本発明について化学的に説明を加える。
塗膜が硫酸溶液に溶解する工程は、疎水性を有する塗膜が疎水性の硫酸溶液に溶解・拡散する現象、すなわち物理現象であり、化学反応式は存在しない。
硫酸溶液を電気分解した際の化学反応式を示す。式(1)より、硫酸溶液を電気分解すると、硫酸溶液中の硫酸水素イオン(HSO4
-)が反応し、高い酸化還元電位を有するペルオキソ二硫酸(S2O8
2―)が生成される。また、ペルオキソ二硫酸は不安定なため、ペルオキソ一硫酸(HSO5
―)や過酸化水素(H2O2)に分解し(式(2)、(3))、電解硫酸溶液内には3種の酸化剤が存在する。
2HSO4
- → 2H+ + S2O8
2- + 2e- (1)
S2O8
2- + H2O → HSO5
- + HSO4
- (2)
HSO5
- + H2O → HSO4
- + H2O2 (3)
【0023】
次に有機物である塗膜がペルオキソ二硫酸などの酸化剤と反応することにより、二酸化炭素及び水に分解する反応を説明する。
電解硫酸溶液を生成することで、式(4)~(5)のように硫酸ラジカルやヒドロキシラジカルへと分解される。生成した硫酸ラジカルやヒドロキシラジカルは、式(6)~(7)のように剥離溶液内の樹脂成分を完全に酸化分解する。
S2O8
2- → 2SO4
-・ (4)
2SO4
-・ + 2H2O → 2HSO4
- + 2OH・ (5)
C、H + 2SO4
-・
→ 2HSO4
- + xCO2 + yH2O (6)
C、H + 2OH・ → xCO2 + yH2O (7)
【0024】
[電解時の溶液温度]
硫酸溶液(電解硫酸溶液の場合を含む)を電解する際には、溶液の温度を20~60℃とするのが望ましい。
電解時の溶液温度を20℃未満とすると陽極での酸化剤生成反応が遅くなる。一方電解時の温度を60℃超とすると、酸化剤の自己分解速度が速くなったり、陰極で酸化剤を還元したりといった弊害が生じる。よって、温度域を20~60℃とすることが望ましい。
【0025】
[塗膜の分解速度の低下]
電解硫酸溶液の塗膜の分解速度は、酸化剤濃度が低くなると低下する。よって、塗膜を溶解させた溶液中の塗膜の存在量(濃度)を電気伝導度で把握でき分解速度を判断することができる。また、溶液の酸化還元電位より酸化剤の存在量(濃度)を把握でき、塗膜の分解速度を判断することができる。
有機物である塗膜が溶解すると、絶縁体である有機物濃度が高まるに従い電気伝導度が低下し、また酸化還元電位が低下する。その値で塗膜の分解速度を推測することができる。直接有機物濃度を分析する方法もあるが、装置に組み込むには費用が掛かり過ぎるので、この方法により簡易に判断することができる。
【発明の効果】
【0026】
本願発明によれば、樹脂に硫酸溶液を接触させることで、樹脂の劣化を抑制し、且つ完全に塗膜を剥離除去することができる。硫酸溶液に溶解した塗膜は電解硫酸溶液によって分解処理がされ、硫酸を廃棄することなく再利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に用いられる装置の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の樹脂の剥離方法および剥離溶液の再生方法についての実施形態を説明した処理フロー図である。
【
図3】同じく、塗膜と接触させる溶液として電解硫酸溶液を用いた実施形態を説明したフロー図である。
【
図4】硫酸槽を複数用意した際の処理フローである。
【
図5】剥離溶液の再生処理前と処理後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態に用いられる装置の一例を示す模式的な断面図であり、樹脂の塗膜剥離方法および剥離後の剥離溶液の再生処理方法について適用可能な処理装置を示している。
処理装置1は、処理槽5を有し、塗装された樹脂2の塗膜を剥離する処理装置であり、また電解硫酸装置6を有し、剥離溶液の再生処理を行う処理装置である。
なお、処理槽5内には、必要に応じて槽内を攪拌するため、外部のエアポンプ4やそれに接続する気泡発生器3などの攪拌手段を設けても良い。
【0029】
処理槽5には、剥離溶液を再生するための電解硫酸装置6が接続されている。処理槽5に対する接続状態として、溶液の導入路9Aと、溶液の送出路9Bの一端が配置されており、処理槽5内への溶液の導入および処理槽5内からの溶液の送出が可能になっている。
溶液の導入路9Aと、送出路9Bの他端側は、電解セル10の通液路に接続されており、溶液の送出路9Bには、循環ポンプ8が介設されている。循環ポンプ8を電解セル側に送液する動作によって、溶液が送出路9B、電解セル10、導入路9A、処理槽5へと送られ、溶液の循環が可能になっている。
【0030】
電解セル10では、セルの下端側に溶液の送出路9Bが接続され、セルの上端側に溶液の導入路9Aが接続されており、その間の流路に、陽極10A、陰極10Bが設置され、陽極10Aと陰極10Bの間にバイポーラ電極10Cが設置されており、各電極間の流路で溶液が下方から上方に移動する。陽極10Aと陰極10Bには電解用直流電源器7が介設されている。
なお、この実施形態では、バイポーラ電極を有する装置について説明したが、本実施系としては、バイポーラ電極の有無は特に限定されるものではない。
【0031】
この実施形態では、
図1に示す装置を使用するものとして説明したが、電気分解する方法としては特に制限はなく、
図1の装置に限定されない。
【0032】
図2は、本発明の樹脂の剥離方法および剥離溶液の再生方法についての手順を示すフローチャートを示す図であり、以下に説明する。
ここでは、主として、第1の工程として酸性剥離液である硫酸溶液により樹脂表面から塗膜を剥離させて除去する塗膜剥離工程と、第2の工程として硫酸溶液を電気分解することによって、電解で生成されるペルオキソ二硫酸およびペルオキソ二硫酸が自己分解して生成されるペルオキソ一硫酸等酸化剤と塗膜成分である有機物が反応し、有機物が二酸化炭素と水に分解される剥離溶液の再生工程とを有している。
【0033】
最初の剥離工程(ステップs1)では、処理槽5内に硫酸溶液を収容する。硫酸溶液は、硫酸濃度を85質量%以上、温度を45~80℃の範囲内に調整する。硫酸溶液は、槽内に図示しないヒータを設定して加温して温度調整をすることができる。
この硫酸溶液内に図示しない塗膜が形成されているPC(ポリカーボネイト)材やPBT(ポリブチレンテレフタレート)材からなる樹脂2を浸漬して樹脂の塗膜と硫酸溶液とを接触させる。なお、塗膜と硫酸溶液との接触は、樹脂を硫酸溶液に浸漬させることにより行うことができるが、硫酸溶液の噴霧などの適宜の方法により塗膜と硫酸溶液との接触を行うことができる。
【0034】
本願発明では、樹脂としては天然樹脂、合成樹脂のいずれでもよく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、特定の樹脂に限定されるものではない。
また、樹脂の表面に形成されている塗膜としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂などがあり、特定のものに限定されない。また、塗膜色としては白色、赤色、青色、黄色など単一の色目であるソリッド色やメタリックやパールなど光輝顔料が含有しているメタリック、パール塗色など、設定塗色により塗料組成やコート数が異なるが、いずれの塗色においても剥離することができる。塗膜の形成方法は特に限定されない。
【0035】
樹脂2を浸漬する際には、外部のエアポンプ4から気泡発生器3に空気を送って硫酸溶液の攪拌を適宜行うことができる。
硫酸溶液に浸漬された樹脂2では、次第に塗膜が樹脂2から剥離除去され、塗膜成分が硫酸溶液中に溶解する。
塗膜が除去されると、樹脂2に対する洗浄・乾燥工程(ステップs2)に移行する。
【0036】
洗浄・乾燥工程(ステップs2)では、樹脂2を処理槽5から取り出し、洗浄液で洗浄し乾燥を行う。洗浄・乾燥された樹脂は、リサイクルに供することができる。
【0037】
塗膜が溶解している硫酸溶液は、電解硫酸溶液生成工程(ステップs3)で電解硫酸装置6による電解が行われる。
電解硫酸溶液生成工程では、循環ポンプ8を動作させ、処理槽5内の硫酸溶液を送出路9B、電解セル10、導入路9A、処理槽5へと循環させる。送出路9Bでは、図示しないクーラなどを介設して、送液される硫酸溶液を、温度を20~60℃の温度に調整するのが電解条件として望ましい。
電解セル10では、陽極10A、陰極10B間に電解用直流電源器7により電圧を印加して電流を通じて、陽極10A、陰極10B、バイポーラ電極10Cにより、流路を流れる硫酸溶液を電解し、ペルオキソ二硫酸等の電解硫酸溶液を生成する。
生成された電解硫酸溶液は、処理浴導入路9Aを経由し処理槽5に供給が可能となっており、硫酸溶液の再生工程(ステップs4)に移行することができる。
【0038】
硫酸溶液の再生工程では、処理槽5に供給された電解硫酸溶液は、導入路に介設したヒータや処理槽5内に設けたヒータなどによって60~100℃に加温して酸化力を高めるのが望ましい。
電解硫酸溶液が導入された処理槽5では、高い酸化還元電位を有するペルオキソ二硫酸(S2O8
2―)や、ペルオキソ二硫酸が自己分解したペルオキソ一硫酸(HSO5
―)や過酸化水素(H2O2)と、硫酸溶液中に溶解した塗膜成分である有機物が反応し、二酸化炭素と水に分解し、硫酸溶液の再生が行われる。再生された硫酸溶液では、塗膜が形成された別の樹脂に対し、塗膜の剥離除去の工程を再度行うことができる。
【0039】
(実施形態2)
上記実施形態1では、1つの処理槽を有する形態について説明をしたが、処理槽を複数有するものであってもよい、この実施形態2を
図3に基づいて説明する。
この形態では、処理槽として、第1処理槽5Aと第2処理槽5Bの2つの処理槽を有し、さらに1つの電解硫酸装置6を有しており、第1処理槽5Aと第2処理槽5Bとはそれぞれ電解硫酸装置6に対し、導入路と送出路とが接続されており、第1処理槽5A、第2処理槽5Bと電解硫酸装置6との接続を導入路および送出路の切り替えにより行うことが可能になっている。電解硫酸装置6には実施形態1と同様に、陽極、陰極、バイポーラ電極および電解用直流電源器を備えている。
【0040】
この実施形態では、1つの処理槽、例えば第1処理槽5Aを使用して、塗膜を有する樹脂を硫酸溶液に浸漬して塗膜の剥離除去を行う(A図)。第1処理槽5Aでの塗膜の分解速度が低下すると、剥離除去能力が不足するものとして、樹脂の取り出しを行い、電解硫酸装置6との間で硫酸溶液の循環と、電解硫酸装置6における電解硫酸生成を行って、塗膜成分の分解と硫酸の再生を行う。
【0041】
一方、他方の第2処理槽5Bでは、処理槽に硫酸溶液を収容し、塗膜を有する別の樹脂を硫酸溶液に浸漬し、塗膜の剥離除去を行う(B図)。
この状態で第2処理槽5Bの溶解度が低下すると、樹脂を取り出し、電解硫酸装置6との間で溶液を循環させつつ塗膜成分を分解して硫酸の再生を行う。他方の第1処理槽5Aでは、再生された硫酸溶液に樹脂を浸漬して塗膜の剥離を行う(C図)。
上記手順を繰り返し行うことで、工程を中断することなく、複数の樹脂を継続して処理することができる。なお、この実施形態では、処理槽が2つ備えられているものについて説明したが、その数は特に限定されるものではない。
【0042】
なお、上記実施形態1、2では、塗膜が溶解した硫酸溶液を電解することにより電解硫酸溶液を生成するものとして説明したが、硫酸溶液を別に用意した電解硫酸溶液と反応させて電解硫酸溶液を用意するものとしてもよい。その際に、硫酸溶液を60~100℃に温度を高めて電解硫酸溶液と反応させるのが望ましい。これにより、硫酸ラジカルまたは/およびヒドロキシラジカルの発生速度が速くなり、塗膜の分解速度が速くなる。
【0043】
(実施形態3)
上記実施形態1、2では、塗膜の剥離除去において、電解硫酸溶液ではない硫酸溶液を当初に用意して処理を行うものとして説明したが、電解硫酸溶液を用いて塗膜の剥離・除去を行うことができる。
実施形態3では、実施形態1で用いた処理装置1を用いることができる。その手順を
図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0044】
先ず、電解硫酸溶液生成工程(ステップs10)を実施する。
処理槽5には、硫酸溶液を収容する。この際の硫酸溶液は、硫酸濃度を80質量%以上とするのが望ましい。硫酸溶液は電解硫酸溶液として用いられるため、酸化還元電位が高くなり、電解硫酸溶液ではない硫酸溶液をそのまま使用するよりも濃度を下げたものを利用することが可能になる。
電解硫酸溶液生成工程では、循環ポンプ8を動作させ、処理槽5内の硫酸溶液を送出路9B、電解セル10、導入路9A、処理槽5へと循環させる。送出路9Bでは、図示しないクーラなどを介設して、送液される硫酸溶液を、温度を20~60℃の温度に調整する。処理槽5に収容する温度を当該温度に調整してもよい。
電解セル10では、陽極10A、陰極10B間に電解用直流電源器7により電圧を印加して電流を通じて、陽極10A、陰極10B、バイポーラ電極10Cにより、流路を流れる硫酸溶液を電解し、ペルオキソ二硫酸等の電解硫酸溶液を生成する。
生成された電解硫酸溶液は、処理浴導入路9Aを経由し処理槽5に供給される。
処理槽5内の硫酸溶液が電解硫酸溶液として生成されると、樹脂の剥離工程(ステップs11)に移行する。樹脂の剥離工程中も電解硫酸装置6による電解を継続する。
【0045】
樹脂の剥離工程(ステップs11)では、塗膜を有する樹脂2を電解硫酸溶液に浸漬する。この際の電解硫酸溶液は、45~80℃の範囲内に加温するのが望ましい。
電解硫酸溶液が塗膜に接触することで、塗膜を効果的に剥離除去する。電解硫酸溶液は、酸化剤を含まない硫酸溶液に対し、酸化力が強いため塗膜表面を酸化し親水性を付与することにより、塗膜の剥離性が高まる。
また、樹脂から剥離された塗膜は、電解硫酸溶液に溶解する。
【0046】
塗膜が剥離除去された樹脂は、前記実施形態と同様に洗浄・乾燥工程に移行する(樹脂の洗浄・乾燥工程;ステップs12)。
また、これと同時に溶解した電解硫酸溶液では、電解硫酸溶液の酸化剤によって塗膜成分が分解され、硫酸溶液の再生が行われる(硫酸溶液の再生工程;ステップs13)。
この実施形態によれば、樹脂からの塗膜の剥離除去と、電解硫酸溶液に溶解した塗膜成分の分解を同時期に行うことができ、処理を効率よく行うことができる。
【0047】
なお、上記実施形態1~3に関わることとして、塗膜の分解速度の低下は種々の方法により測定することが可能であるが、溶液の電気伝導度を測定して判断することができる。また、処理溶液中の有機物が分解され、処理溶液が再生されたかについては、電気伝導度または/および酸化還元電位を測定して判断することができる。
電気電導度、酸化還元電位の測定は常法により行うことができる。塗膜の溶解度の低下の程度は、予め基準値を定めておき、その数値により剥離除去の完了を判断することができる。
【0048】
以上本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【実施例0049】
図1に示す処理装置1を用いて本願発明の実施例を実施した。
[剥離処理試験片の条件]
硫酸溶液による塗膜除去について、その効果を評価した。試験片には、表1に示す顔料濃度の異なる各塗色の塗膜を有する100mm角に切り出したPC/PBT材を使用した。
実施例では樹脂としてPC/PBT材を使用するが、樹脂はPC/PBT材に限定されるものではない。
【0050】
[剥離処理槽の仕様]
・処理槽5の容積:25L
・PC/PBT材の寸法:100mm×100mm×厚さ4mm
[塗色の異なるPC/PBT材の剥離条件及び結果]
塗膜の剥離条件を表1に示すように種々変更し、剥離処理した際の塗膜の状態を目視にて観察した。
【0051】
【0052】
引張強度、弾性率試験用として、JIS K 7161-1、-2規定の試験片形状1A形に成形したダンベル試験片を、表1に示す実施例1、実施例2および比較例1、比較例2について、試験片を同色に塗装し作製した。また、アイゾット衝撃試験用として、引張強度、弾性率試験用に作製したダンベル片の平行部を切り出し、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmのバータイプ試験片を作製した。
【0053】
[引張強度、弾性率の測定装置及び方法]
引張強度および弾性率の測定装置は、株式会社インテスコ製5本掛け引張試験機2005X-5である。測定方法は、JIS K 7161-1、-2の規定に準じて、試験片形状が1A形、試験環境温度及び湿度が23℃、50%RH、チャック間距離が115mm、引張速度が50mm/minの条件下で引張試験を行い、引張強度および弾性率を測定した。
【0054】
[アイゾット衝撃試験の測定装置及び方法]
アイゾット衝撃試験の測定装置は、株式会社東洋精機製作所製恒温槽付き衝撃試験機DG-UBである。測定方法は、JIS K 7110の規定に準じて、試験片形状が長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm、試験環境温度が23℃、ノッチ加工あり、ハンマー容量が2.75J、打撃方向がエッジワイズの条件下でアイゾット衝撃試験を行い、衝撃強度を測定した。
【0055】
表2は、実施例1、2および参考例1、2の引張強度、弾性率、アイゾット衝撃強度の測定結果を示したものである。
【0056】
【0057】
表2に示すように実施例1、2は、ともにバージン材とほぼ同等(保持率90%以上)であることが確認できた。また、参考例1、2の引張強度、弾性率、アイゾット衝撃強度はいずれの値も保持率90%未満となった。硫酸濃度が高いことから、PC/PBT材が劣化したためと考えられる。ただし、参考例においても従来法に比べればよい結果が得られている。
【0058】
[電解硫酸溶液の生成]
硫酸溶液を電気分解する際の処理条件を以下に示す。
・電解セル10の容積:0.5L
・陽極10A及び陰極10Bの材質:ダイヤモンド電極(直径150mm)
・バイポーラ電極10Cの材質:ダイヤモンド電極(直径150mm)
・電流密度:1~3A/dm
2
・溶液循環流量:2~3L/分
図5に示す再生処理前と後との結果より、実施例1~6で得られた黒色であった溶液が、溶液を電気分解することで、剥離溶液内の樹脂が完全に分解され無色となっていることが確認できた。なお、
図5の写真は、実施例で実施をした再生処理前の溶液を全て混合したものを再生処理前の溶液とし、実施例で実施をした再生処理後の溶液を全て混合したものを再生処理後の溶液として外観観察をしたものである。
【0059】
(実施例2)
[剥離処理試験片の条件]
電解した硫酸溶液による塗膜除去について、その効果を評価した。試験片には、表3に示す顔料濃度の異なる各塗色の塗膜を有する100mm角に切り出したPC/PBT材を使用した。
実施例では樹脂としてPC/PBT材を使用するが、樹脂はPC/PBT材に限定されるものではない。
【0060】
[剥離処理槽の仕様]
・処理槽5の容積:25L
・PC/PBT材の寸法:100mm×100mm×厚さ4mm
[塗色の異なるPC/PBT材の剥離条件及び結果]
塗膜の剥離条件を表3に示すように種々変更し、剥離処理した際の塗膜の状態を目視にて観察した。
【0061】
【0062】
引張強度、弾性率試験用として、JIS K 7161-1、-2規定の試験片形状1A形に成形したダンベル試験片を、表1に示す実施例10、実施例11および比較例10、比較例11について、試験片を同色に塗装し作製した。また、アイゾット衝撃試験用として、引張強度、弾性率試験用に作製したダンベル片の平行部を切り出し、長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmのバータイプ試験片を作製した。
【0063】
[引張強度、弾性率の測定装置及び方法]
引張強度および弾性率の測定装置は、株式会社インテスコ製5本掛け引張試験機2005X-5である。測定方法は、JIS K 7161-1、-2の規定に準じて、試験片形状が1A形、試験環境温度及び湿度が23℃、50%RH、チャック間距離が115mm、引張速度が50mm/minの条件下で引張試験を行い、引張強度および弾性率を測定した。
[アイゾット衝撃試験の測定装置及び方法]
アイゾット衝撃試験の測定装置は、株式会社東洋精機製作所製恒温槽付き衝撃試験機DG-UBである。測定方法は、JIS K 7110の規定に準じて、試験片形状が長さ80mm×幅10mm×厚さ4mm、試験環境温度が23℃、ノッチ加工あり、ハンマー容量が2.75J、打撃方向がエッジワイズの条件下でアイゾット衝撃試験を行い、衝撃強度を測定した。
【0064】
表4は、実施例10、11および参考例10、11の引張強度、弾性率、アイゾット衝撃強度の測定結果を示したものである。
【0065】
【0066】
表4に示すように実施例10、11は、ともにバージン材とほぼ同等(保持率90%以上)であることが確認できた。また、参考例10、11の引張り強度、弾性率、アイゾット衝撃強度はいずれの値も保持率90%未満となった。硫酸濃度が高いことから、PC/PBT材が劣化したためと考えられる。ただし、参考例においても従来法に比べればよい結果が得られている。
【0067】
[電解硫酸溶液の生成]
硫酸溶液を電気分解する際の処理条件を以下に示す。
・電解セル10の容積:0.5L
・陽極10A及び陰極10Bの材質:ダイヤモンド電極(直径150mm)
・バイポーラ電極10Cの材質:ダイヤモンド電極(直径150mm)
・電流密度:1~3A/dm2
・溶液循環流量:2~3L/分
【0068】
図5と同様に、再生処理前と後との結果より、実施例10~15で得られた黒色であった溶液が、溶液を電気分解することで、剥離溶液内の樹脂が完全に分解され無色となっていることが確認できた。