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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146187
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/24 20060101AFI20241004BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20241004BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/26 B
E02F9/22 A
E02F9/22 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058937
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】398071668
【氏名又は名称】株式会社日立建機ティエラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大内 達朗
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重亨
(72)【発明者】
【氏名】金野 崇史
(72)【発明者】
【氏名】小倉 聡樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 友哉
(72)【発明者】
【氏名】高野 守史
(72)【発明者】
【氏名】君島 浩二
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AB01
2D003BA07
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB04
2D003DB05
2D015GA03
2D015GB07
2D015HA03
2D015HB05
(57)【要約】
【課題】車体の物体への接近を知らせる警報の作動を最低限に抑えて、オペレータを操作に集中させることが可能な作業車両を提供する。
【解決手段】車体の側部に前後方向に間隔を空けて設けられ、車幅方向で車体の周囲に位置する物体Xを検出する複数の物体距離センサ31L~33Lと、複数の物体距離センサ31L~33Lにより所定の監視範囲内に物体Xが検出された場合に警報する報知装置4と、複数の物体距離センサ31L~33Lでそれぞれ検出された検出情報に基づいて警報信号を報知装置4に対して出力するコントローラ6と、を備えたホイールローダ1において、コントローラ6は、前側物体距離センサ31Lおよび後側物体距離センサ33Lのうち一方のみにより物体Xが検出された場合には警報信号を出力し、前側物体距離センサ31Lおよび後側物体距離センサ33Lの両方により物体Xが検出された場合には警報信号を出力しない。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が設けられた車体と、
前記車体の前部に取り付けられた作業装置と、
前記車体の側部に前後方向に所定の間隔を空けて設けられ、前記車体の車幅方向で前記車体の周囲に位置する物体を検出する複数の物体検出装置と、
前記複数の物体検出装置により所定の監視範囲内に物体が検出された場合に警報する報知装置と、
前記複数の物体検出装置にてそれぞれ検出された検出情報に基づいて、警報するための警報信号を前記報知装置に対して出力するコントローラと、
を備えた作業車両において、
前記複数の物体検出装置は、
前記車体の前部に配置された第1物体検出装置と、
前記車体の後部に配置された第2物体検出装置と、を含み、
前記コントローラは、
前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置のうち一方のみにより物体が検出された場合には、前記報知装置に対して前記警報信号を出力し、
前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置の両方により物体が検出された場合には、前記報知装置に対して前記警報信号を出力しない
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両において、
前記車体の前後の進行方向を切り替える前後進切替装置をさらに備え、
前記警報信号は、
前記車体の周囲に物体が存在することを報知する警報を発令する低レベル警報信号と、
前記低レベル警報信号に係る警報のレベルよりも高いレベルの警報を発令する高レベル警報信号と、を含み、
前記コントローラは、
前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置のうち一方のみにより物体が検出され、かつ、前記前後進切替装置において前記車体の進行方向が前進に切り替わっている場合には、前記報知装置に対して前記低レベル警報信号を出力し、
前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置のうち一方のみにより物体が検出され、かつ、前記前後進切替装置において前記車体の進行方向が後進に切り替わっている場合には、前記報知装置に対して前記高レベル警報信号を出力する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項3】
請求項1に記載の作業車両において、
前記車体の走行速度を調整するための車速調整装置をさらに備え、
前記コントローラは、
前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置のうち一方のみにより物体が検出された場合には、前記報知装置に対して前記警報信号を出力すると共に、前記車体の最高走行速度を制限する車速制限信号を前記車速調整装置に対して出力し、
前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置の両方により物体が検出された場合には、前記報知装置に対して前記警報信号を出力しない一方で、前記車速制限信号を前記車速調整装置に対して出力する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項4】
請求項2に記載の作業車両において、
前記車体の走行速度を調整するための車速調整装置をさらに備え、
前記コントローラは、
前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置のうち一方のみにより物体が検出され、かつ、前記前後進切替装置において前記車体の進行方向が後進に切り替わっている場合には、前記報知装置に対して前記高レベル警報信号を出力すると共に、ブレーキを作動させて前記車体を停止させ、その後、前記車体の最高走行速度を制限する車速制限信号を前記車速調整装置に対して出力する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項5】
請求項1に記載の作業車両において、
前記車輪を操舵するステアリングシリンダと、
前記ステアリングシリンダに供給される作動油の流れを制御するステアリング制御弁と、
前記車体の走行速度を検出する車速検出装置と、
前記車体の操舵角度を検出する操舵角度検出装置と、をさらに備え、
前記コントローラは、
前記第2物体検出装置により物体が検出され、前記第1物体検出装置により物体が検出されず、前記車速検出装置で検出された前記車体の走行速度が所定の車速閾値よりも低く、かつ、前記操舵角度検出装置で検出された操舵角度に基づいて、前記車体の左右いずれかの方向への操舵を判定した場合には、前記報知装置に対して前記警報信号を出力すると共に、操舵方向への操舵を制限する操舵制限信号を前記ステアリング制御弁に対して出力する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項6】
請求項2に記載の作業車両において、
前記車体の走行速度を調整するための車速調整装置と、
前記車体の操舵角度を検出する操舵角度検出装置と、をさらに備え、
前記コントローラは、
前記操舵角度検出装置で検出された操舵角度と、前記作業装置の姿勢と、に基づいて、前記作業装置の先端が描く軌跡線と前記車体との距離を算出し、
前記前後進切替装置において前記車体の進行方向が後進に切り替わっており、かつ、前記第1物体検出装置により検出された物体との検出距離が算出された距離よりも短い場合には、前記高レベル警報信号を前記報知装置に対して出力すると共に、ブレーキを作動させて前記車体を停止させ、前記車体の最高走行速度を制限する車速制限信号を前記車速調整装置に対して出力する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項7】
請求項1に記載の作業車両において、
前記車体の前後の進行方向を切り替える前後進切替装置と、
前記車体に設けられて前記車体の前方に位置する物体を検出する第3物体検出装置と、
前記作業装置の姿勢を検出する姿勢検出装置と、をさらに備え、
前記作業装置は、前記車体に対して上下方向に回動可能に構成され、
前記コントローラは、
前記姿勢検出装置で検出された前記作業装置の姿勢に基づいて、前記作業装置が上げ状態である場合には前記第3物体検出装置を無効にし、前記作業装置が下げ状態である場合には前記第3物体検出装置を有効にし、
前記前後進切替装置において前記車体の進行方向が前進に切り替わっており、かつ、前記第3物体検出装置が有効であって、前記第3物体検出装置により物体が検出された場合には、前記警報信号を前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする作業車両。
【請求項8】
請求項1に記載の作業車両において、
前記車体は、
前記車体の前部となる前フレームと、
前記車体の後部となる後フレームと、を有し、
前記前フレームと前記後フレームとが、センタジョイントによって車幅方向に回動自在に連結され、
前記第1物体検出装置は、
前記前フレームの側部に取り付けられ、
前記第2物体検出装置は、
前記後フレームの後端部に取り付けられている
ことを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ホイールローダなどの作業車両においては、車体に設けられた監視センサで障害物や人を検知して、オペレータに注意を促す周囲監視システムが搭載されたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、作業車両の周辺の物体を検出する物体検出装置の検出データに基づいて、作業車両に設けられた警報装置に作動指示を出力する作動指示出力部と、作業車両の運転室に設けられたキャンセル操作装置から出力された無効指示に基づいて、作動指示を無効にする無効化部と、運転室における搭乗者の特定の搭乗状態を検出する搭乗状態検出装置の検出データに基づいて、無効にされた作動指示を有効にする有効化部と、を備えた作業車両の周囲監視システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6909730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された周囲監視システムでは、例えば、屋内作業のように周囲が壁で囲まれており、オペレータが作業車両の障害物への接近を認識していて警報が不要な場合には、物体検出装置で障害物が検出される度に警報が作動すると煩わしいため、その都度オペレータがキャンセル装置を操作しなければならない。そのため、オペレータは、運転や作業装置の操作に集中することができない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、車体の物体への接近を知らせる警報の作動を最低限に抑えて、オペレータを操作に集中させることが可能な作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、車輪が設けられた車体と、前記車体の前部に取り付けられた作業装置と、前記車体の側部に前後方向に所定の間隔を空けて設けられ、前記車体の車幅方向で前記車体の周囲に位置する物体を検出する複数の物体検出装置と、前記複数の物体検出装置により所定の監視範囲内に物体が検出された場合に警報する報知装置と、前記複数の物体検出装置にてそれぞれ検出された検出情報に基づいて、警報するための警報信号を前記報知装置に対して出力するコントローラと、を備えた作業車両において、前記複数の物体検出装置は、前記車体の前部に配置された第1物体検出装置と、前記車体の後部に配置された第2物体検出装置と、を含み、前記コントローラは、前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置のうち一方のみにより物体が検出された場合には、前記報知装置に対して前記警報信号を出力し、前記第1物体検出装置および前記第2物体検出装置の両方により物体が検出された場合には、前記報知装置に対して前記警報信号を出力しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車体の物体への接近を知らせる警報の作動を最低限に抑えて、オペレータを操作に集中させることができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るホイールローダの一構成例を示す外観側面図である。
図2図1に示すホイールローダを上方から見た図である。
図3図1に示すホイールローダを前方から見た図である。
図4】報知装置の一構成例を示す図である。
図5】ホイールローダの走行駆動システムの一構成例を示すシステム構成図である。
図6】コントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図7】コントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図8A】ホイールローダが物体の横を通過する状況について説明する図であって、ホイールローダが物体に接近する前の状態を示す。
図8B】ホイールローダが物体の横を通過する状況について説明する図であって、ホイールローダが物体に接近している状態を示す。
図9】ホイールローダが物体に接近してその横を通過する状況について説明する図である。
図10A】ホイールローダが物体の付近で右折する状況について説明する図であって、ホイールローダが右折する前の状態を示す。
図10B】ホイールローダが物体の付近で右折する状況について説明する図であって、ホイールローダが右折した後の状態を示す。
図11】第2実施形態に係るコントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図12】第2実施形態に係るコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図13】ホイールローダが左方向に操舵しながら後進している状態を上から見た図である。
図14】第3実施形態に係るコントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図15】第3実施形態に係るコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図16】第4実施形態に係るホイールローダを上方から見た図である。
図17図16に示すホイールローダの側面図であって、リフトアームが最下位置まで下がっている状態を示す。
図18図16に示すホイールローダの側面図であって、リフトアームが最上位置まで上がっている状態を示す。
図19】上側物体距離センサの送波範囲について説明する図である。
図20】上側物体距離センサに対する前方距離閾値の設定内容について示す表である。
図21】第4実施形態に係るコントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図22】第4実施形態に係るコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態に係る作業車両の一態様として、主に屋内作業で用いられることが多い小型のホイールローダ(コンパクトホイールローダ)を例に挙げて説明する。
【0011】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るホイールローダ1について、図1図10Aおよび図10Bを参照して説明する。
【0012】
(ホイールローダ1の全体構成)
まず、本実施形態に係るホイールローダ1の全体構成について、図1~3を参照して説明する。
【0013】
図1は、第1実施形態に係るホイールローダ1の一構成例を示す外観側面図である。図2は、図1に示すホイールローダ1を上方から見た図である。図3は、図1に示すホイールローダ1を前方から見た図である。
【0014】
ホイールローダ1は、車体が中心付近で中折れすることにより操舵されるアーティキュレート式の作業車両である。具体的には、車体の前部となる前フレーム1Aと車体の後部となる後フレーム1Bとが、センタジョイント10によって左右方向(車幅方向)に回動自在に連結されており、オペレータがステアリング操作を行うことで左右一対のステアリングシリンダ100(図1では、左側のみを示す)が作動して、前フレーム1Aが後フレーム1Bに対して左右方向に屈曲する。なお、以下の説明では、車体の左右方向のうち、前進方向を向いたオペレータの左手側を「左方向」とし、オペレータの右手側を「右方向」とする。
【0015】
車体には4つの車輪11が設けられており、2つの車輪11が前輪11Aとして前フレーム1Aの左右両側に、残り2つの車輪11が後輪11Bとして後フレーム1Bの左右両側に、それぞれ設けられている。なお、図1では、4つの車輪11のうち左側に設けられた前輪11Aおよび後輪11Bのみが、図3では、4つの車輪11のうち左右の前輪11Aのみが、それぞれ示されている。
【0016】
前フレーム1Aの前部には、土砂などの作業対象物を掬って所定の場所まで運搬する荷役作業を行うための油圧駆動式の作業装置2が取り付けられている。
【0017】
作業装置2は、前フレーム1Aに上下方向に回動可能に取り付けられたリフトアーム21と、リフトアーム21を駆動する油圧シリンダとしての2つのリフトアームシリンダ22と、リフトアーム21の先端部に上下方向に回動可能に取り付けられたバケット23と、バケット23を駆動する油圧シリンダとしてのバケットシリンダ24と、リフトアーム21に回動可能に連結されてバケット23とバケットシリンダ24とのリンク機構を構成するベルクランク25と、を有している。
【0018】
なお、2つのリフトアームシリンダ22は車体の左右方向に所定の間隔を空けて並んで配置されているが、図1では左側のリフトアームシリンダ22のみが示されている。
【0019】
リフトアーム21は、2つのリフトアームシリンダ22の各ロッド220が伸びることにより前フレーム1Aに対して上方向に回動し、2つのリフトアームシリンダ22の各ロッド220が縮むことにより前フレーム1Aに対して下方向に回動する。
【0020】
図1に示すように、リフトアーム21の基端部(前フレーム1Aとの取り付け部)には、車体の接地面(4つの車輪11が接触している地面)とリフトアーム21とがなす角度であるリフトアーム角度を検出するリフトアーム角度センサ34が設けられている。リフトアーム角度センサ34は、後述するコントローラ6に接続されており、検出されたリフトアーム角度がコントローラ6に出力される(図5参照)。
【0021】
バケット23は、バケットシリンダ24のロッド240が伸びることによりリフトアーム21に対して上方向に回動して前フレーム1A(車体)側に後傾し(チルト動作)、バケットシリンダ24のロッド240が縮むことによりリフトアーム21に対して下方向に回動して前傾する(ダンプ動作)。これにより、バケット23は、土砂などの作業対象物を掬って排出(放土)することができる。
【0022】
図1に示すように、ベルクランク25には、前フレーム1Aに対するベルクランク25の傾斜角度であるベルクランク角度を検出するベルクランク角度センサ35が設けられている。リフトアーム角度センサ34と同様に、ベルクランク角度センサ35も、コントローラ6に接続されており、検出されたベルクランク角度がコントローラ6に出力される(図5参照)。
【0023】
ここで、車体の接地面とバケット23の底面部とがなす角度であるバケット23の角度は、リフトアーム角度センサ34で検出されたリフトアーム角度と、ベルクランク角度センサ35で検出されたベルクランク角度と、に基づいて算出することが可能である。したがって、リフトアーム角度センサ34およびベルクランク角度センサ35はそれぞれ、作業装置2の姿勢を検出する姿勢検出装置の一態様である。
【0024】
後フレーム1Bには、オペレータが搭乗する運転室12と、ホイールローダ1の駆動に必要な各種の機器類を内部に収容する機械室13と、車体が傾倒しないように作業装置2とのバランスを保つためのカウンタウェイト14と、が設けられている。後フレーム1Bにおいて、運転室12は前部に、カウンタウェイト14は後部に、機械室13は運転室12とカウンタウェイト14との間に、それぞれ配置されている。
【0025】
このホイールローダ1は、車体の左右方向(車幅方向)で車体の周囲に位置する物体(障害物および人を含む)Xを検出する複数の物体検出装置により所定の監視範囲内に物体Xが検出されると、警報を発令してオペレータに注意を促す周囲監視システムを備える。
【0026】
本実施形態では、複数の物体検出装置として、車体と車体の左右方向で車体の周囲に位置する物体Xとの距離Lを検出する複数(本実施形態では、6つ)の物体距離センサ31L~33L,31R~33Rを用いる。6つの物体距離センサ31L~33L,31R~33Rは、車体の左右の両側部に3つずつに分かれて設けられている。6つの物体距離センサ31L~33L,31R~33Rではそれぞれ、車体と物体Xとの距離L(検出距離L)が所定の距離閾値よりも短い場合に「物体Xが検出された」こととなる。
【0027】
具体的には、図1および図2に示すように、車体の左側部には、3つの左側物体距離センサ31L,32L,33Lが、前後方向に所定の間隔を空けて並んで配置されている。これら3つの左側物体距離センサ31L,32L,33Lのうち、1つ目の左側物体距離センサ31Lは車体の前側に位置する左側の前輪11Aのフェンダ110(前フレーム1Aの側部)に、2つ目の左側物体距離センサ32Lは車体の中央に位置する運転室12の底フレーム120の左側部に、3つ目の左側物体距離センサ33Lは車体の後側に位置するカウンタウェイト14の左側部(後フレーム1Bの後端部)に、それぞれ設けられている。
【0028】
同様にして、図2に示すように、車体の右側部には、3つの右側物体距離センサ31R,32R,33Rが、前後方向に所定の間隔を空けて並んで配置されている。これら3つの右側物体距離センサ31R,32R,33Rのうち、1つ目の右側物体距離センサ31Rは右側の前輪11Aのフェンダ110(前フレーム1Aの側部)に、2つ目の右側物体距離センサ32Rは運転室12の底フレーム120の右側部に、3つ目の右側物体距離センサ33Rはカウンタウェイト14の右側部(後フレーム1Bの後端部)に、それぞれ設けられている。
【0029】
前輪11Aのフェンダ110に配置された左側物体距離センサ31Lおよび右側物体距離センサ31Rはそれぞれ、車体の前部に配置された第1物体検出装置に相当し、以下では、「前側物体距離センサ31L,31R」とする場合がある。また、カウンタウェイト14に配置された左側物体距離センサ33Lおよび右側物体距離センサ33Rはそれぞれ、車体の後部に配置された第2物体検出装置に相当し、以下では、「後側物体距離センサ33L,33R」とする場合がある。
【0030】
そして、運転室12の底フレーム120に配置された左側物体距離センサ32Lおよび右側物体距離センサ32Rはそれぞれ、車体の中央部に配置されていることから、以下では、「中央物体距離センサ32L,32R」とする場合がある。
【0031】
なお、中央物体距離センサ32L,32Rはそれぞれ、車体の操舵動作によって大きく移動するセンタジョイント10付近に設けられていることが望ましい。これにより、例えば、ホイールローダ1が停車した状態で左側にステリングした場合、センタジョイント10の近傍は、右側に大きく張り出すことになるため、センタジョイント10の付近に中央物体距離センサ32L,32Rを設けることで、センタジョイント10の近傍が物体Xに接触してしまうことを防止することができる。
【0032】
図2および図3において一点鎖線で示すように、左側物体距離センサ31L,32L,33Lはそれぞれ、自己位置から車体の左方向に放射状に広がる送波範囲内に位置した物体Xまでの距離Lを検出する。同様にして、右側物体距離センサ31R,32R,33Rはそれぞれ、自己位置から車体の右方向に放射状に広がる送波範囲内に位置した物体Xまでの距離Lを検出する。
【0033】
なお、各物体距離センサ31L~33L,31R~33Rには、例えば、超音波式のセンサや赤外線式のセンサ、カメラなどが用いられ、車体と物体Xとの距離Lを検出することが可能なセンサであれば、検出方法については特に制限はない。
【0034】
車体が物体Xにどのくらい接近しているかを判定するにあたっては、例えば、図2に示すように、オペレータに注意を要するほど車体と物体Xとの距離が非常に近いことを示す「近距離」に対応する第1距離閾値L1、および、オペレータに注意は要しないが車体と物体Xとの距離が中程度に近いことを示す「中距離」に対応する第2距離閾値L2など、所定の距離閾値が複数設定されている。
【0035】
(報知装置4の構成)
続いて、報知装置4の構成について、図4を参照して説明する。
【0036】
図4は、報知装置4の一構成例を示す図である。
【0037】
運転室12には、車体が物体Xに接近して、6つの物体距離センサ31L~33L,31R~33Rにより所定の監視範囲内に物体Xが検出された場合(6つの物体距離センサ31L~33L,31R~33Rでそれぞれ検出された検出距離Lが所定の距離閾値よりも短くなる場合)に警報する報知装置4が設けられている。
【0038】
報知装置4は、本実施形態では、左側物体距離センサ31L~33Lおよび右側物体距離センサ31R~33Rでそれぞれ検出された検出距離Lをランプの色で表示するモニタ40Aと、モニタ40Aの一側に設けられて警報を音で発報するスピーカ40Bと、スピーカ40Bの上側に設けられて車体の操舵ロック状態を表示するランプ40Cと、を含んで構成されている。
【0039】
モニタ40Aには、上から見たホイールローダ1の簡易図が表示されており、簡易図の左側に3つのランプ点灯領域41L~43Lが、簡易図の右側に3つのランプ点灯領域41R~43Rが、それぞれ設けられている。
【0040】
左側の3つのランプ点灯領域41L~43Lには、左側物体距離センサ31L~33Lで検出された検出距離Lに基づいた車体の物体Xへの接近状況が表示される。右側の3つのランプ点灯領域41R~43Rには、右側物体距離センサ31R~33Rで検出された検出距離Lに基づいた車体の物体Xへの接近状況が表示される。
【0041】
各ランプ点灯領域41L~43L,41R~43Rには、例えば、検出距離Lが第2距離閾値L2よりも短くなって車体と物体Xとの距離が中距離となった場合は黄色が、検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短くなって車体と物体Xとの距離が近距離となった場合は赤色が、それぞれ点灯される。また、各物体距離センサ31L~33L,31R~33Rが故障してしまったような場合は、各ランプ点灯領域41L~43L,41R~43Rには、紫色が点灯される。
【0042】
スピーカ40Bは、車体の物体Xへの接近に伴う警報を発する。例えば、スピーカ40Bは、警報が低レベルである場合には断続的な警報音を、警報が高レベルである場合には連続的な警報音を、それぞれ発する。
【0043】
ここで、「低レベルの警報」とは、車体の周囲に物体Xが存在することをオペレータに認識させる(注意を促す)程度の警報である。他方、「高レベルの警報」とは、低レベルの警報よりもレベルが高く、車体の物体Xへの衝突を回避する必要があり緊急性を要する警報である。
【0044】
ランプ40Cは、車体の操舵がロック(制限)された場合に点灯し、車体の操舵がロック状態であることをオペレータに報知する。
【0045】
なお、本実施形態では、車体の物体Xへの接近状況がモニタ40Aに表示され、車体の物体Xへの接近に伴う警報がスピーカ40Bから発報されるが、これに限られず、例えば、車体の物体Xへの接近に伴う警報がモニタ40Aに表示されてもよく、報知方法については特に制限はない。
【0046】
(ホイールローダ1の走行駆動システム)
次に、ホイールローダ1の走行駆動システムについて、図5を参照して説明する。
【0047】
図5は、ホイールローダ1の走行駆動システムの一構成例を示すシステム構成図である。
【0048】
ホイールローダ1は、HST式の走行駆動装置であるHST装置51により走行が制御されている。HST装置51は、エンジン50により駆動される走行用油圧ポンプと、走行用油圧ポンプと閉回路接続された走行用油圧モータと、を含んで構成される。
【0049】
エンジン50は、ホイールローダ1の動力源であって、運転室12内に設けられたイグニッションスイッチ121がONに操作されることにより起動する。車体の走行速度は、本実施形態では、HST装置51のレギュレータ510により調整される。具体的には、レギュレータ510は、コントローラ6に接続されており、コントローラ6から出力された信号にしたがって車体の走行速度を調整する。
【0050】
なお、本実施形態では、車体の走行速度を調整する車速調整装置の一態様としてレギュレータ510を例に挙げているが、他に、例えば、エンジン50の回転数を調整することによっても車体の走行速度を調整することが可能である。
【0051】
HST装置51から出力された駆動力は減速機52で減速された上で、ドライブシャフト15およびアクスル16を介して4つの車輪11にそれぞれ伝達され、これによりホイールローダ1が走行する。減速機52の出力側には、出力軸の回転速度を検出することにより車体の走行速度を検出する車速検出装置としての車速センサ36が設けられている。車速センサ36で検出された車体の走行速度は、コントローラ6に出力される。
【0052】
また、減速機52には、車体を停止させるブレーキ機能および車体の前後の進行方向を切り替える前後進切り替え機能を備えたクラッチ機構が内蔵されている。減速機52は、コントローラ6に接続されており、コントローラ6から出力された信号にしたがって、走行中の車体を停止させたり、車体の前後進を切り替えたりする。なお、車体の前後進の切替えは、運転室12内に設けられた前後進切替装置としての前後進切替レバー122の操作に基づいて行われる。
【0053】
車体の左右方向への操舵は、一対のステアリングシリンダ100(図5では一方のみを示す)のロッド100Aが伸縮することにより行われる。一対のステアリングシリンダ100に供給される作動油は、ステアリング用の油圧ポンプとしてのオービットロール53から吐出され、ステアリング制御弁54により流れ(方向および流量)が制御される。ステアリング制御弁54は、エンジン50により駆動されるパイロットポンプ55から吐出されたパイロット圧油が供給されることにより作動する。
【0054】
車体の操舵角度θ(図13参照)は、一方のステアリングシリンダ100に設けられた操舵角度検出装置としての操舵角度センサ37により検出される。操舵角度センサ37は、ステアリングシリンダ100のシリンダ長またはステアリングシリンダ100にかかるシリンダ圧を検出することにより、車体の操舵角度を検出する。操舵角度センサ37で検出された操舵角度は、コントローラ6に出力される。
【0055】
コントローラ6は、前述した各種の操作装置から出力された操作信号および6つの物体距離センサ31L~33L,31R~33Rを含む各種のセンサから出力された検出情報に基づいて、警報するための警報信号を報知装置4に対して出力し、車体の物体Xへの接近状況をオペレータに知らせる。
【0056】
(コントローラ6の構成)
次に、コントローラ6の構成について、図6を参照して説明する。
【0057】
図6は、第1実施形態に係るコントローラ6が有する機能を示す機能ブロック図である。
【0058】
コントローラ6は、CPU、RAM、ROM、HDD、入力I/F、および出力I/Fがバスを介して互いに接続されて構成される。そして、イグニッションスイッチ121および前後進切替レバー122といった各種の操作装置、ならびに、左側物体距離センサ31L~33Lおよび右側物体距離センサ31R~33Rといった各種のセンサが入力I/Fに接続され、報知装置4、減速機52、およびレギュレータ510が出力I/Fに接続されている。
【0059】
このようなハードウェア構成において、ROMやHDD若しくは光学ディスクなどの記録媒体に格納された制御プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された制御プログラムを実行することにより、制御プログラムとハードウェアとが協働して、コントローラ6の機能を実現する。
【0060】
なお、本実施形態では、コントローラ6の構成をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせにより説明しているが、これに限らず、ホイールローダ1の側で実行される制御プログラムの機能を実現する集積回路を用いて構成してもよい。
【0061】
コントローラ6は、データ取得部61と、物体距離判定部62と、記憶部63と、前後進判定部64と、警報発令部65と、速度制御部66と、を含む。
【0062】
データ取得部61は、イグニッションスイッチ121から出力された操作信号、前後進切替レバー122から出力された切替信号、ならびに、左側物体距離センサ31L~33Lおよび右側物体距離センサ31R~33Rでそれぞれ検出された検出距離Lに係るデータをそれぞれ取得する。
【0063】
物体距離判定部62は、データ取得部61にて取得された検出距離Lと、第1距離閾値L1および第2距離閾値L2と、を比較して、車体の物体Xへの接近状況を判定する。このとき、物体距離判定部62は、車体の物体Xへの接近が、左側物体距離センサ31L~33Lおよび右側物体距離センサ31R~33Rのうちのどのセンサの検出距離Lに基づいているものであるかについても具体的に判定する。第1距離閾値L1および第2距離閾値L2はそれぞれ、記憶部63に記憶されている。
【0064】
前後進判定部64は、データ取得部61にて取得された切替信号に基づいて、車体の前後の進行方向を判定する。
【0065】
警報発令部65は、3つの左側物体距離センサ31L~33Lのうち一部(1つまたは2つ)の左側物体距離センサにおいて検出距離Lが所定の距離閾値としての第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と物体距離判定部62にて判定された場合に、報知装置4に対して警報信号を出力する。
【0066】
また、警報発令部65は、同様にして、3つの右側物体距離センサ31R~33Rのうち一部(1つまたは2つ)の右側物体距離センサにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と物体距離判定部62にて判定された場合に、報知装置4に対して警報信号を出力する。
【0067】
すなわち、コントローラ6は、少なくとも第1物体検出装置に相当する物体距離センサおよび第2物体検出装置に相当する物体距離センサのうち一方のみで物体Xが検出された場合には、報知装置4に対して警報信号を出力する。
【0068】
また、警報発令部65は、3つの左側物体距離センサ31L~33Lの全てあるいは3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と物体距離判定部62にて判定された場合には、報知装置4に対して警報信号を出力しない。
【0069】
すなわち、コントローラ6は、少なくとも第1物体検出装置に相当する物体距離センサおよび第2物体検出装置に相当する物体距離センサの両方で物体Xが検出された場合には、報知装置4に対して警報信号を出力しない。
【0070】
本実施形態では、警報発令部65は、3つの左側物体距離センサ31L~33Lのうち一部の左側物体距離センサにおいて、あるいは、3つの右側物体距離センサ31R~33Rのうち一部の右側物体距離センサにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と物体距離判定部62にて判定された場合であって、前後進判定部64にて車体が前進中であると判定された場合には、報知装置4に対して低レベルの警報を発令する低レベル警報信号を出力する。
【0071】
他方で、警報発令部65は、3つの左側物体距離センサ31L~33Lのうち一部の左側物体距離センサにおいて、あるいは、3つの右側物体距離センサ31R~33Rのうち一部の右側物体距離センサにおいて、検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と物体距離判定部62にて判定された場合であって、前後進判定部64にて車体が後進中であると判定された場合には、報知装置4に対して高レベルの警報を発令する高レベル警報信号を出力する。
【0072】
速度制御部66は、警報発令部65が報知装置4に対して警報信号を出力する場合に、車体の最高走行速度を制限する車速制限信号をレギュレータ510に対して出力する。
【0073】
本実施形態では、速度制御部66は、警報発令部65が報知装置4に対して高レベル警報信号を出力する場合には、車体を停止させるブレーキ信号を減速機52に対して出力し、車体が停止した後に、車速制限信号をレギュレータ510に対して出力する。
【0074】
また、速度制御部66は、3つの左側物体距離センサ31L~33Lの全てあるいは3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と物体距離判定部62にて判定された場合においても、車速制限信号をレギュレータ510に対して出力する。
【0075】
すなわち、コントローラ6は、3つの左側物体距離センサ31L~33Lの全てあるいは3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と判定した場合には、警報は発令しないが、車体の最高速度は制限する。
【0076】
(コントローラ6における処理)
続いて、コントローラ6内で実行される処理の流れについて、図7を参照して説明する。
【0077】
図7は、コントローラ6で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0078】
なお、コントローラ6内で実行される処理の流れは、左側物体距離センサ31L~33Lで物体Xが検出された場合、および、右側物体距離センサ31R~33Rで物体Xが検出された場合で同様であるため、以下では、右側物体距離センサ31R~33Rで物体Xが検出された場合を例に挙げて説明し、左側物体距離センサ31L~33Lで物体Xが検出された場合についての説明は割愛する。
【0079】
図7に示すように、コントローラ6は、まず、データ取得部61にて取得されたイグニッションスイッチ121からの操作信号に基づいて、イグニッションスイッチ121がONに操作されたか否か、すなわちエンジン50が起動したか否かを判定する(ステップS601)。
【0080】
ステップS601においてイグニッションスイッチ121がONに操作された(エンジン50が起動された)と判定された場合には(ステップS601/YES)、物体距離判定部62は、3つの右側物体距離センサ31R~33Rのうち、所定の設定時間Tの間に検出距離Lが第1距離閾値L1以上第2距離閾値L2以下となるセンサがあるか否かを判定する(ステップS602)。
【0081】
一方、ステップS601においてイグニッションスイッチ121がONに操作されていない(OFFの状態)と判定された場合には(ステップS601/NO)、エンジン50が停止状態であってホイールローダ1は駆動することができない状態となることから、コントローラ6における処理は終了する。
【0082】
ステップS602において所定の設定時間Tの間に検出距離Lが第1距離閾値L1以上第2距離閾値L2以下となる(L1≦L≦L2かつt>T)センサがあると判定された場合には(ステップS602/YES)、物体距離判定部62は、続いて、該当するセンサの中に検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短くなったセンサが含まれているか否かを判定する(ステップS603)。
【0083】
ステップS603において該当するセンサの中に検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短くなった(L<L1)センサが含まれていると判定された場合には、物体距離判定部62は、検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短くなった(L<L1)センサが1つまたは2つであるか否かを判定する(ステップS604)。
【0084】
ステップS604において検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短くなった(L<L1)センサが1つまたは2つであると判定された場合には(ステップS604/YES)、前後進判定部64は、データ取得部61にて取得された切替信号に基づいて、車体が前進中であるか否かを判定する(ステップS605)。
【0085】
ステップS605において車体が前進中であると判定された場合には(ステップS605/YES)、警報発令部65が低レベル警報信号を報知装置4に対して出力して低レベルの警報を発令すると共に、速度制御部66が車速制限信号をレギュレータ510に対して出力して車体の最高走行速度を制限する(ステップS606)。その後、コントローラ6は、ステップS604に戻って処理を繰り返す。
【0086】
一方、ステップS605において車体が後進中であると判定された場合には(ステップS605/NO)、警報発令部65が高レベル警報信号を報知装置4に対して出力して高レベルの警報を発令すると共に、速度制御部66がブレーキ信号を減速機52に対して出力して車体を停止させる(ステップS607)。
【0087】
ステップS607の処理により車体が停止すると、速度制御部66は、続いて、車速制限信号をレギュレータ510に対して出力して車体の最高走行速度を制限する(ステップS608)。
【0088】
次に、物体距離判定部62は、検出距離Lが継続して第1距離閾値L1よりも短くなっている(L<L1)センサが1つまたは2つであるか否かを判定する(ステップS609)。
【0089】
ステップS609において検出距離Lが継続して第1距離閾値L1よりも短くなっている(L<L1)センサが1つまたは2つであると判定された場合には(ステップS609/YES)、警報発令部65が高レベル警報信号を報知装置4に継続して出力すると共に、速度制御部66が車速制限信号をレギュレータ510に継続して出力する(ステップS610)。
【0090】
このステップS610の処理は、ステップS609において検出距離Lが継続して第1距離閾値L1よりも短くなっている(L<L1)センサが1つまたは2つでなくなったと判定される(ステップS609/NO)まで繰り返される。
【0091】
他方、ステップS609において検出距離Lが継続して第1距離閾値L1よりも短くなっている(L<L1)センサが1つまたは2つでなくなったと判定された場合には(ステップS609/NO)、コントローラ6はステップS611に進む。
【0092】
ここで、ステップS604において検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短くなった(L<L1)センサが1つまたは2つでないと判定された場合(ステップS604/NO)についても、コントローラ6はステップS611に進む。
【0093】
ステップS611では、物体距離判定部62は、検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)センサが3つであるか否か、すなわち3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)か否かを判定する(ステップS611)。
【0094】
ステップS611において検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)センサが3つであると判定された場合には(ステップS611/YES)、コントローラ6は、警報発令部65が報知装置4に対して警報信号を出力中であるか否かを判定する(ステップS612)。
【0095】
ステップS612において警報発令部65が報知装置4に対して警報信号を出力中である、すなわち警報が発令中であると判定されると(ステップS612/YES)、警報発令部65が報知装置4に対する警報信号の出力を停止して警報を解除すると共に、速度制御部66が車速制限信号をレギュレータ510に対して出力して車体の最高走行速度を制限する(ステップS613)。
【0096】
他方、ステップS612において警報発令部65が報知装置4に対して警報信号を出力中でない、すなわち警報が発令されていないと判定されると(ステップS612/NO)、速度制御部66は、車速制限信号をレギュレータ510に対して出力して車体の最高走行速度を制限する(ステップS614)。
【0097】
コントローラ6は、ステップS613の処理後およびステップS614の処理後はいずれも、ステップS604に戻って処理を繰り返す。
【0098】
また、ステップS611において検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)センサが3つでない、すなわち3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1以上である(L≧L1)と判定された場合には(ステップS611/NO)、コントローラ6は、警報発令部65が報知装置4に対して警報信号を出力中であるか否かを判定すると共に、速度制御部66がレギュレータ510に対して車速制限信号を出力中であるか否かを判定する(ステップS615)。
【0099】
ステップS615において警報発令部65が報知装置4に対して警報信号を出力中であり、かつ、速度制御部66がレギュレータ510に対して車速制限信号を出力中であると判定された場合には(ステップS615/YES)、警報発令部65が報知装置4に対する警報信号の出力を停止して警報を解除すると共に、速度制御部66が車速制限信号をレギュレータ510に対して出力して車体の最高走行速度を制限する(ステップS616)。
【0100】
ステップS616の処理後、および、ステップS615において警報発令部65が報知装置4に対して警報信号を出力中でなく、また、速度制御部66がレギュレータ510に対して車速制限信号を出力中でないと判定された場合には(ステップS615/NO)、コントローラ6は、ステップS601に戻って処理を繰り返す。
【0101】
また、ステップS603においてNOとなる場合には(ステップS603/NO)、物体距離判定部62は、ステップS602において検出距離Lが継続して第1距離閾値L1以上第2距離閾値L2以下となっているか否かを判定する(ステップS617)。
【0102】
ステップS617において、所定の設定時間Tの間に検出距離Lが第1距離閾値L1以上第2距離閾値L2以下となる(L1≦L≦L2かつt>T)センサに対し、検出距離Lが継続して第1距離閾値L1以上第2距離閾値L2以下となっている(L1≦L≦L2)と判定された場合には(ステップS617/YES)、コントローラ6は、ステップS603に戻って処理を繰り返す。
【0103】
他方、ステップS617において、所定の設定時間Tの間に検出距離Lが第1距離閾値L1以上第2距離閾値L2以下となる(L1≦L≦L2かつt>T)センサに対し、検出距離Lが継続して第1距離閾値L1以上第2距離閾値L2以下となっていない(L>L2)と判定された場合には(ステップS617/NO)、コントローラ6はステップS615に進む。
【0104】
また、ステップS602においてNOとなる場合には(ステップS602/NO)、物体距離判定部62は、検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短いセンサが3つであるか否か、すなわち3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短いか否かを判定する(ステップS618)。
【0105】
ステップS618において検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短いセンサが3つであると判定された場合には(ステップS618/YES)、速度制御部66は、車速制限信号をレギュレータ510に対して出力して車体の最高走行速度を制限する(ステップS619)。その後、コントローラ6は、ステップS602に戻って処理を繰り返す。
【0106】
ステップS618において検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短いセンサが3つでないと判定された場合には(ステップS618/NO)、コントローラ6は、ステップS615に進む。
【0107】
(コントローラ6の制御による作用および効果)
次に、前述したコントローラ6の制御による作用および効果について、図8Aおよび図8B図10Aおよび図10Bを参照して説明する。
【0108】
図8Aおよび図8B図10Aおよび図10Bのそれぞれに示す物体Xは、例えば壁や塀などである。ホイールローダ1のような小型のホイールローダは、建設現場や工場などの建屋内で作業を行う場合によく用いられ、壁や塀などの脇を通過しながら作業装置2を動作させて作業を行うことが多い。
【0109】
図8Aは、ホイールローダ1が物体Xの横を通過する状況について説明する図であって、ホイールローダ1が物体Xに接近する前の状態を示す。図8Bは、ホイールローダ1が物体Xの横を通過する状況について説明する図であって、ホイールローダ1が物体Xに接近している状態を示す。
【0110】
ホイールローダ1が物体Xの横を通過しながら作業を行う場合、図7に示すフローチャートにおけるステップS602において物体距離判定部62がYESの判定を行わないため(ステップS602/NO)、警報発令部65は、警報信号を報知装置4に対して出力せず、スピーカ40Bから警報音は鳴らない。したがって、モニタ40Aにより各物体距離センサ31R~33Rの検出距離Lをオペレータにランプで知らせるのみである。
【0111】
この場合、ホイールローダ1は物体Xに接近はするが、物体Xに衝突するリスクは比較的に低く、オペレータも物体Xの存在を認識している可能性が高いため、コントローラ6が警報を発令しないことにより煩わしさが回避され、オペレータは通常通り操作を行うことが可能となる。なお、この場合、図8Bに示すように、後側物体距離センサ33Rで検出される検出距離Lが第1距離閾値L1以上となるため(L≧L1)、コントローラ6は、車体の最高走行速度の制限を行わない。
【0112】
図9は、ホイールローダ1が物体Xに接近してその横を通過する状況について説明する図である。
【0113】
ホイールローダ1が物体Xに接近してその横を通過する場合、図9の右側に示すように、ホイールローダ1が物体Xに接近していく段階で、図7に示すフローチャートにおけるステップS602において物体距離判定部62がYESの判定を行うことになる。続いて、コントローラ6は、ステップS603、ステップS604、およびステップS605のいずれにおいてもYESの判定を行い、ステップS606により、低レベル警報が発令されると共に、車体の最高走行速度が制限される。
【0114】
次に、図9の左側に示すように、物体Xに接近したホイールローダ1が物体Xの横を通過する場合には、図7に示すフローチャートにおけるステップS604において物体距離判定部62がNOの判定を行うことになる。続いて、コントローラ6は、ステップS611およびステップS612のいずれにおいてもYESの判定を行い、ステップS613により、低レベル警報が解除され、車体の最高走行速度の制限のみが継続される。
【0115】
このように、図9に示す状況では、ホイールローダ1が物体Xに接近している間のみスピーカ40Bから警報音が鳴り、ホイールローダ1が物体Xの横を通過している間は警報音が鳴らなくなる。
【0116】
ホイールローダ1が物体Xに接近している過程においては、オペレータが物体Xを認識している可能性は高いが、物体Xの付近に位置する作業装置2に集中しながら同時にハンドル操作をしなければならず、不意に物体Xに衝突してしまう可能性が高いため、コントローラ6は、警報を発令することでオペレータの注意を喚起している。
【0117】
他方で、ホイールローダ1が物体Xの横を前進する過程に移行した後は、オペレータが物体Xとの接近を認識しており、かつ、ハンドル操作も不要になるため、コントローラ6は、警報を解除し、最高走行速度の制限のみにより衝突リスクを低減させることで、オペレータが感じる煩わしさを抑制している。
【0118】
図10Aは、ホイールローダ1が物体Xの付近で右折する状況について説明する図であって、ホイールローダ1が右折する前の状態を示す。図10Bは、ホイールローダ1が物体Xの付近で右折する状況について説明する図であって、ホイールローダ1が右折した後の状態を示す。
【0119】
ホイールローダ1が物体Xの付近でハンドル操作を行う場合、図7に示すフローチャートにおけるステップS602において、物体距離判定部62が後側物体距離センサ33Rに対してYESの判定を行うことになる。続いて、コントローラ6は、ステップS603およびステップS604のいずれにおいてもYESの判定を行う。
【0120】
そして、ステップS605において前進中との判定が行われた場合には(ステップS605/YES)、低レベル警報が発令されると共に、車体の最高走行速度が制限される(ステップS606)。他方、ステップS605において後進中との判定が行われた場合には(ステップS605/NO)、高レベル警報が発令されると共に、車体が停止された後(ステップS607)、車体の最高走行速度が制限される(ステップS608)。
【0121】
このように、ホイールローダ1では、単に、各物体距離センサ31L~33L,31R~33Rで物体Xが検出された場合に車体の物体Xへの接近を知らせる警報を作動させるのではなく、車体の物体Xの接近状況に応じて警報を作動させることで、警報の作動を最低限に抑えて、オペレータを操作に集中させることが可能となっている。
【0122】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係るコントローラ6Aについて、図11および図12を参照して説明する。なお、図11および図12において、第1実施形態で説明したものと共通する構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。以下、第3実施形態以降についても同様とする。
【0123】
図11は、第2実施形態に係るコントローラ6Aが有する機能を示す機能ブロック図である。図12は、第2実施形態に係るコントローラ6Aで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0124】
本実施形態では、車体の操舵時において周辺の物体Xと衝突しないよう、コントローラ6Aが操舵制限を行う。
【0125】
コントローラ6Aは、図11に示すように、データ取得部61Aと、物体距離判定部62Aと、記憶部63と、前後進判定部64と、警報発令部65Aと、速度制御部66と、に加え、車速判定部67と、操舵制御部68と、を含む。
【0126】
図12に示すように、コントローラ6Aは、第1実施形態に係るコントローラ6と同様に、まず、イグニッションスイッチ121がONに操作されているか否か、エンジン50が起動しているか否かを判定する(ステップS601)。
【0127】
ステップS601においてイグニッションスイッチ121がONに操作されていると判定された場合には(ステップS601/YES)、物体距離判定部62Aは、後側物体距離センサ33Rの検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短いか否かを判定する(ステップS621)。
【0128】
ステップS621において後側物体距離センサ33Rの検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と判定された場合には(ステップS621/YES)、車速判定部67は、車速センサ36で検出されてデータ取得部61Aにて取得された車速が所定の車速閾値よりも低いか否か、すなわちホイールローダ1が低速で走行または停車しているか否かを判定する(ステップS622)。
【0129】
ステップS622においてホイールローダ1が低速で走行または停車していると判定された場合には(ステップS622/YES)、物体距離判定部62Aは、前側物体距離センサ31Rおよび中央物体距離センサ32Rのうちの少なくともいずれかにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短いか否かを判定する(ステップS623)。
【0130】
ステップS623において前側物体距離センサ31Rおよび中央物体距離センサ32Rのうちの少なくともいずれかにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と判定された場合には(ステップS623/YES)、警報発令部65Aは、車体後方に対する低レベル警報を発令する(ステップS624)。
【0131】
他方、ステップS623において前側物体距離センサ31Rおよび中央物体距離センサ32Rのいずれにおいても検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と判定されなかった場合には(ステップS623/NO)、警報発令部65Aは、車体後方に対する高レベル警報を発令する(ステップS625)。
【0132】
ステップS624およびステップS625のそれぞれにおいて後方警報が発令されると、コントローラ6Aは、操舵角度センサ37で検出されてデータ取得部61Aにて取得された操舵角度に基づいて、車体の右方向への操舵が行われたか否かを判定する(ステップS626)。
【0133】
ステップS626において、車体の右方向への操舵が行われたと判定された場合には(ステップS626/YES)、操舵制御部68は、右方向への操舵をロック(制限)する操舵制限信号をステアリング制御弁54に対して出力し(ステップS627)、これにより、車体の右方向への操舵がロックされる。
【0134】
そして、所定の時間Tthが過ぎる(t≧Tth)と(ステップS628/YES)、操舵制御部68は、車体の右方向への操舵ロックを解除する解除信号をステアリング制御弁54に対して出力し(ステップS629)、これにより、車体の右方向への操舵ロックが解除される。ステップS629の処理後は、コントローラ6Aは、ステップS621に戻って処理を繰り返す。
【0135】
なお、操舵制御部68は、ステアリング制御弁54に対して制限信号を出力した後、所定の時間Tthが過ぎるまでは、ステアリング制御弁54に対して解除信号を出力しない(ステップS628/NO)。
【0136】
コントローラ6Aは、ステップS622においてホイールローダ1が低速で走行およびしておらず、かつ、停車していないと判定された場合(ステップS622/NO)、および、ステップS626において車体の右方向への操舵が行われたと判定されなかった場合(ステップS626/NO)についても、ステップS629の処理後と同様に、ステップS621に戻って処理を繰り返す。
【0137】
また、ステップS621において後側物体距離センサ33Rの検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と判定されなかった場合には(ステップS621/NO)、コントローラ6Aは、警報発令部65Aが後方警報を発令中であるか否かを判定する(ステップS631)。
【0138】
ステップS631において警報発令部65Aが後方警報を発令中であると判定された場合には(ステップS631/YES)、警報発令部65Aは後方警報を解除し(ステップS632)、その後、コントローラ6AはステップS601に戻って処理を繰り返す。
【0139】
他方、ステップS631において警報発令部65Aが後方警報を発令中でないと判定された場合には(ステップS631/NO)、コントローラ6AはステップS601に戻って処理を繰り返す。
【0140】
これにより、ホイールローダ1が物体Xの付近で右折する状況において(図10Aおよび図10Bに示す状況)、車体の右方向への操舵がロックされるため、ホイールローダ1が物体Xに衝突するのを防止することができる。このように、本実施形態では、後側物体距離センサ33Lで物体Xが検出され、前側物体距離センサ31Lでは物体Xが検出されず、車速が所定の車速閾値よりも低く、かつ、コントローラ6Aにより車体の左右いずれかの方向への操舵が判定された場合には、コントローラ6Aが、報知装置4に対して警報信号を出力すると共に、操舵方向への操舵を制限することで、ホイールローダ1と物体Xとの接触を回避している。
【0141】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係るコントローラ6Bについて、図13~15を参照して説明する。
【0142】
図13は、ホイールローダ1が左方向に操舵しながら後進している状態を上から見た図である。図14は、第3実施形態に係るコントローラ6Bが有する機能を示す機能ブロック図である。図15は、第3実施形態に係るコントローラ6Bで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0143】
本実施形態では、ホイールローダ1が物体Xの付近で旋回しながら後進する場合において物体Xと衝突しないよう、コントローラ6Bが車体を停止させる。
【0144】
コントローラ6Bは、図14に示すように、データ取得部61Bと、物体距離判定部62Bと、記憶部63と、前後進判定部64Bと、警報発令部65Bと、速度制御部66Bと、に加え、距離算出部69と、実走行距離判定部71と、を含む。
【0145】
図15に示すように、コントローラ6Bは、第1実施形態に係るコントローラ6および第2実施形態に係るコントローラ6Aと同様に、まず、イグニッションスイッチ121がONに操作されているか否か、エンジン50が起動しているか否かを判定する(ステップS601)。
【0146】
ステップS601においてイグニッションスイッチ121がONに操作されていると判定された場合には(ステップS601/YES)、距離算出部69は、データ取得部61Bにて取得された操舵角度ならびにリフトアーム角度およびベルクランク角度(作業装置2の姿勢)に基づいてバケットライン距離BLを、データ取得部61Bにて取得されたリフトアーム角度およびベルクランク角度(作業装置2の姿勢)に基づいてホイールローダ1の推定走行距離Zを、それぞれ算出する(ステップS640)。
【0147】
ここで、「バケットライン距離BL」は、図13に示すように、バケット23(作業装置2)の先端が描く軌跡線(図13では二点鎖線で示す)と車体との距離である。また、「推定走行距離Z」は、作業装置2の姿勢に基づいて推定され、作業装置2が物体Xの位置に移動するまでにホイールローダ1が走行し得る距離である。
【0148】
なお、バケット23の先端が描く軌跡線(バケット23の先端の位置)については、コントローラ6Bは、リフトアーム角度センサ34で検出されたリフトアーム角度およびベルクランク角度センサ35で検出されたベルクランク角度に基づいて正確に算出したものを用いてもよいし、記憶部63に記憶された所定の数値を用いてもよい。
【0149】
ステップS640の処理後、前後進判定部64Bは、データ取得部61Bにて取得された車体の前後進に係る操作信号に基づいて、車体が後進中であるか否かを判定する(ステップS641)。
【0150】
ステップS641において車体が後進中であると判定されると(ステップS641/YES)、物体距離判定部62は、前側物体距離センサ31Rで検出された検出距離Lfがバケットライン距離BLよりも短いか否かを判定する(ステップS642)。
【0151】
ステップS642において前側物体距離センサ31Rで検出された検出距離Lfがバケットライン距離BLよりも短い(Lf<BL)と判定された場合には(ステップS642/YES)、実走行距離判定部71は、車体の実際の走行距離である実走行距離Zrを0(ゼロ)にセットする(ステップS643)。
【0152】
次に、警報発令部65Bは、高レベル警報を発令し、速度制御部66Bは、車体を停止させる(ステップS644)。続いて、速度制御部66Bは、車体の最高走行速度を制限する(ステップS645)。
【0153】
そして、距離算出部69は、車速センサ36で検出されてデータ取得部61Bにて取得された車速に基づいて、ホイールローダ1の実走行距離Zrを算出する(ステップS646)。続いて、実走行距離判定部71は、ステップS646において算出された実走行距離ZrがステップS640において算出された推定走行距離Zよりも長いか否かを判定する(ステップS647)。
【0154】
ステップS647において実走行距離Zrが推定走行距離Zよりも長い(Zr>Z)と判定された場合には(ステップS647/YES)、警報発令部65Bは警報を解除し、速度制御部66Bは車体の最高走行速度の制限を解除する(ステップS648)。その後、コントローラ6Bは、ステップS601に戻って処理を繰り返す。
【0155】
他方、ステップS647において実走行距離Zrが推定走行距離Z以下である(Zr≦Z)と判定された場合には(ステップS647/NO)、前後進判定部64Bは、データ取得部61Bにて取得された車体の前後進に係る操作信号に基づいて、車体が後進中であるか否かを判定する(ステップS649)。
【0156】
ステップS649において車体が後進中であると判定されると(ステップS649/YES)、コントローラ6Bは、ステップS645に戻って処理を繰り返す。他方、ステップS649において車体が後進中でないと判定されると(ステップS649/NO)、ステップS648に進む。
【0157】
このように、ホイールローダ1が物体Xの付近で旋回しながら後進する場合には、作業装置2が物体Xに接触する前に、コントローラ6Bが車体を停止させるため、作業装置2が物体Xに衝突してしまうリスクを低減することができる。
【0158】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係るホイールローダ1について、図16~22を参照して説明する。
【0159】
図16は、第4実施形態に係るホイールローダ1を上方から見た図である。図17は、図16に示すホイールローダ1の側面図であって、リフトアーム21が最下位置まで下がっている状態を示す。図18は、図16に示すホイールローダ1の側面図であって、リフトアーム21が最上位置まで上がっている状態を示す。図19は、上側物体距離センサ38L,38Rの送波範囲について説明する図である。図20は、上側物体距離センサ38L,38Rに対する第3距離閾値L3の設定内容について示す表である。
【0160】
本実施形態に係るホイールローダ1は、図16~18に示すように、運転室12の上部の左右両側に配置されて車体前方を照らす作業灯に、車体の前方に位置する物体Xを検出する第3物体検出装置としての上側物体距離センサ38L,38Rが設けられている。図16および図17ではそれぞれ、上側物体距離センサ38L,38Rの送波範囲を一点鎖線で示している。
【0161】
上側物体距離センサ38L,38Rではそれぞれ、車体と車体の前方に位置する物体Xとの距離L(前方検出距離L)を検出し、前方検出距離Lが所定の距離閾値よりも短い場合に「車体の前方に位置する物体Xが検出された」こととなる。
【0162】
ここで、図18に示すように、リフトアーム21が上昇している状態では、上側物体距離センサ38L,38Rが作業装置2を物体Xとして検知してしまい、車体から作業装置2までの距離(前方検出距離L)が前方距離閾値としての第3距離閾値L3よりも短いと(L<L3)、コントローラ6Cは警報を発令することになる。
【0163】
そのため、オペレータがリフトアーム21の上げ操作を行い、リフトアーム21が上げ状態である場合には、コントローラ6Cは、上側物体距離センサ38L,38Rでの検出を無効にする(図18および図19において送波範囲を破線で示す)。
【0164】
反対に、オペレータがリフトアーム21の下げ操作を行い、リフトアーム21が下げ状態である場合には、コントローラ6Cは、上側物体距離センサ38L,38Rでの検出を有効にする。
【0165】
なお、「第3距離閾値L3」は、車体の側方に位置する物体Xと車体との距離に係る第1距離閾値L1に対応し、オペレータに注意を要するほど前方の物体Xと車体との距離が非常に近い場合の閾値である。
【0166】
また、図19に示すように、車体が左方向に操舵する場合には、右の上側物体距離センサ38Rが必要以上に遠くの物体Xを検出することになるため、車体に接触する可能性の低い物体Xの誤検出を回避すべく、コントローラ6Cは、右の上側物体距離センサ38Rでの前方検出距離Lに対して車体の操舵時に対応した第3距離閾値L3を用いて物体距離判定を行う。
【0167】
なお、車体が右方向に操舵している場合においても同様に、コントローラ6Cは、左の上側物体距離センサ38Lでの前方検出距離Lに対して車体の操舵時に対応した第3距離閾値L3を用いて物体距離判定を行う。
【0168】
したがって、本実施形態では、作業装置2の姿勢および車体の操舵の組み合わせによって、上側物体距離センサ38L,38Rで検出される前方検出距離Lに係る第3距離閾値L3の値を変化させる。
【0169】
具体的には、図20の表に示すように、リフトアーム21が上げ状態であり、かつ、車体の操舵が右方向である場合、左の上側物体距離センサ38Lに対しては第3距離閾値L3の設定変更が行われ、右の上側物体距離センサ38Rに対しては無効設定となる。
【0170】
リフトアーム21が上げ状態であり、かつ、車体の操舵が中央(操舵されていない)である場合、左右の上側物体距離センサ38L,38Rの両方に対して無効設定となる。
【0171】
リフトアーム21が上げ状態であり、かつ、車体の操舵が左方向である場合、左の上側物体距離センサ38Lに対しては無効設定となり、右の上側物体距離センサ38Rに対しては第3距離閾値L3の設定変更が行われる。
【0172】
リフトアーム21が下げ状態であり、かつ、車体の操舵が右方向である場合、左の上側物体距離センサ38Lに対しては第3距離閾値L3の設定変更が行われ、右の上側物体距離センサ38Rに対しては通常の設定のままとなる。
【0173】
リフトアーム21が下げ状態であり、かつ、車体の操舵が中央(操舵されていない)である場合、左右の上側物体距離センサ38L,38Rの両方に対して通常の設定のままとなる。
【0174】
リフトアーム21が下げ状態であり、かつ、車体の操舵が左方向である場合、左の上側物体距離センサ38Lに対しては通常の設定のままとなり、右の上側物体距離センサ38Rに対しては第3距離閾値L3の設定変更が行われる。
【0175】
次に、本実施形態に係るコントローラ6Cについて、図21および図22を参照して説明する。
【0176】
図21は、第4実施形態に係るコントローラ6Cが有する機能を示す機能ブロック図である。図22は、第4実施形態に係るコントローラ6Cで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0177】
コントローラ6Cは、図21に示すように、データ取得部61Cと、物体距離判定部62Cと、記憶部63Cと、前後進判定部64Cと、警報発令部65Cと、に加え、物体距離閾値決定部72と、を含む。
【0178】
図22に示すように、ステップS601においてイグニッションスイッチ121がONに操作された、すなわちエンジン50が起動したと判定されると(ステップS601/YES)、物体距離閾値決定部72は、データ取得部61Cにて取得された操舵角度および作業装置2の姿勢に基づいて、第3距離閾値L3を決定する(ステップS651)。
【0179】
具体的には、記憶部63Cには、図20の表に示された第3距離閾値L3の対応関係が予め記憶されており、物体距離閾値決定部72は、データ取得部61Cにて取得された操舵角度および作業装置2の姿勢を、記憶部63Cに記憶されている図20の表に照らして第3距離閾値L3を決定する。
【0180】
次に、前後進判定部64Cは、データ取得部61Cにて取得された車体の前後進に係る操作信号に基づいて、車体が前進中であるか否かを判定する(ステップS652)。ステップS652において車体が前進中であると判定された場合には(ステップS652/YES)、物体距離判定部62Cは、上側物体距離センサ38L,38Rでの前方検出距離Lが第3距離閾値L3よりも短いか否かを判定する(ステップS653)。
【0181】
ステップS653において上側物体距離センサ38L,38Rでの前方検出距離Lが第3距離閾値L3よりも短い(L<L3)と判定された場合には(ステップS653/YES)、物体距離判定部62Cは、続いて、3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて前方検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短いか否かを判定する(ステップS654)。
【0182】
ステップS654において3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と判定された場合には(ステップS654/YES)、警報発令部65Cは、低レベル警報を発令する(ステップS655)。その後、コントローラ6Cは、ステップS651に戻って処理を繰り返す。
【0183】
他方、ステップS654において3つの右側物体距離センサ31R~33Rの全てにおいて検出距離Lが第1距離閾値L1よりも短い(L<L1)と判定されなかった場合には(ステップS654/NO)、コントローラ6Cは、警報発令部65Cが低レベル警報を発令中であるか否かを判定する(ステップS656)。
【0184】
ステップS656において警報発令部65Cが低レベル警報を発令中であると判定された場合には(ステップS656/YES)、警報発令部65Cは、低レベル警報を解除する(ステップS657)。その後、コントローラ6Cは、ステップS601に戻って処理を繰り返す。
【0185】
ステップS656において警報発令部65Cが低レベル警報を発令中であると判定されなかった場合には(ステップS656/NO)、コントローラ6Cは、ステップS601に戻って処理を繰り返す。
【0186】
また、ステップS652において車体が前進中であると判定されなかった場合(ステップS652/NO)、および、ステップS653において上側物体距離センサ38L,38Rでの検出距離Lが第3距離閾値L3よりも短い(L<L3)と判定されなかった場合(ステップS653/NO)においても、ステップS654においてNOである場合と同様に、ステップS656に進む。
【0187】
このように、コントローラ6Cは、車体の進行方向が前進に切り替わっており、かつ、上側物体距離センサ38L,38Rが有効であって、上側物体距離センサ38L,38Rにより検出された前方検出距離Lが第3距離閾値L3よりも短い(L<L3)場合には、報知装置4に対して警報信号を出力する。
【0188】
よって、左右の物体距離センサ31L~33L,31R~33Rに加えて、上側物体距離センサ38L,38Rにおいても物体Xの検出を行うと共に、作業装置2の姿勢および車体の操舵状態を考慮して車体の物体Xへの接近状況を判定することにより、警報の誤作動を抑制することができ、オペレータは操作に集中することが可能となる。
【0189】
以上、本発明の各実施形態について説明した。なお、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な他の変形例が含まれる。例えば、上記した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記した各実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、上記した各実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、上記した各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0190】
例えば、上記の各実施形態では、ホイールローダ1は、HST式の走行用駆動システムを採用していたが、これに限られず、トルクコンバータ式の走行用駆動システムを採用してもよい。
【0191】
また、上記の各実施形態に係るホイールローダ1は、主に建屋内で使用されるコンパクトホイールローダであったが、これに限られず、作業装置を備えた作業車両であれば大きさや種類については特に制限はない。
【0192】
また、第2~第4実施形態に係るコントローラ6A,6B,6Cがそれぞれ有する機能は、第1実施形態に係るコントローラ6が有する機能と組み合わせてホイールローダ1に適用することにより相乗効果が得られるが、必ずしも組み合わせる必要はなく、それぞれ独立した単体機能としてホイールローダ1に適用されてもよい。
【0193】
また、上記の各実施形態では、イグニッションスイッチ121がONに操作されてエンジン50が起動するとコントローラ6,6A,6B,6Cにおける周囲監視に係る処理が開始され、イグニッションスイッチ121がOFFに操作されてエンジン50が停止するとコントローラ6,6A,6B,6Cにおける周囲監視に係る処理が終了していたが、これに限られず、コントローラ6,6A,6B,6Cにおける周囲監視に係る処理の実行を解除する解除スイッチを運転室12に設け、本解除スイッチの操作によりコントローラ6,6A,6B,6Cにおける周囲監視に係る処理を終了させてもよい。
【0194】
また、上記の各実施形態では、複数の物体検出装置としての物体距離センサ31L~33L,31R~33Rは、車体の両側に3つずつ配置されていたが、複数の物体検出装置は、少なくとも車体の前後方向の長さに亘って周囲の物体Xを監視できていればよく、必ずしも車体の側部に3つずつ配置されている必要はない。例えば、複数の物体検出装置は、前フレーム1Aに設けられた1つの物体検出装置(前側物体距離センサ31L,31R)および後フレーム1Bに設けられた1つの物体検出装置(後側物体距離センサ33L,33R)だけであって、中央の物体検出装置(中央物体距離センサ32L,32R)が省略されてもよい。なお、この場合、後フレーム1Bに設けられる物体検出装置は、ホイールローダ1の作業中にオペレータの視界から外れる運転席よりも後方であることが望ましい。また、複数の物体検出装置は、車体の側部に4つ以上配置されても良い。
【0195】
また、上記の各実施形態では、複数の物体検出装置は、車体と物体Xとの距離Lに基づいた物体Xの検出を行っていたが、必ずしも距離に基づいて物体Xを検出するものである必要はなく、物体Xが検出できればその検出方法については特に制限はない。
【0196】
また、上記の各実施形態において、複数の物体距離センサの「全て」との意味は、車体の一方の側部に設けられた複数のセンサを意味するものであって、車体の他方の側部に設けられた複数のセンサや、前方および後方に位置する物体Xを検出するセンサは含まれない。
【符号の説明】
【0197】
1:ホイールローダ(作業車両)
1A:前フレーム(車体)
1B:後フレーム(車体)
2:作業装置
4:報知装置
6,6A,6B,6C:コントローラ
10:センタジョイント
31L,31R:前側物体距離センサ(物体検出装置、第1物体検出装置)
32L,32R:中央物体距離センサ(物体検出装置)
33L,33R:後側物体距離センサ(物体検出装置、第2物体検出装置)
34:リフトアーム角度センサ(姿勢検出装置)
35:ベルクランク角度センサ(姿勢検出装置)
36:車速センサ(車速検出装置)
37:操舵角度センサ(操舵角度検出装置)
38L,38R:上側物体距離センサ(第3物体検出装置)
54:ステアリング制御弁
100:ステアリングシリンダ
122:前後進切替レバー(前後進切替装置)
510:レギュレータ(車速調整装置)
L:検出距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22