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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146189
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】植物栽培設備
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20241004BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20241004BHJP
   A01G 9/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A01G9/24 J
A01G7/00 603
A01G9/14 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058939
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】古市 涼
(72)【発明者】
【氏名】中田 次郎
(72)【発明者】
【氏名】多田 誠人
【テーマコード(参考)】
2B029
【Fターム(参考)】
2B029GA05
2B029RA03
2B029RA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】植物全体に対して、設備内の栽培環境を最適化できる植物栽培設備を提供する。
【解決手段】栽培空間内Hspに、遮光カーテン2の開閉を行う遮光装置3と、遮光カーテン2の開閉を制御する環境制御装置と、栽培空間内Hspを自走する自走式作業車両とを備え、自走式作業車両は、植物周囲の熱分布を示す熱画像を撮像するサーモグラフィ装置によって、複数の観測点における植物の葉温と、植物周囲の気温の情報を含む温度情報を取得して環境制御装置へ送信し、環境制御装置は、日射量に基づき遮光カーテン2の遮光度を決定し、植物の葉温と、植物周囲の気温の温度の差分である葉気温差の平均値を算出し、算出した葉気温差の平均値に基づいて、遮光度を補正する植物栽培設備。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の栽培環境をコントロールする栽培システムを備えた植物栽培設備であって、
前記栽培システムは、植物を栽培する栽培空間内に、遮光カーテンの開閉によって遮光を行う遮光装置と、前記遮光カーテンの開閉を制御する環境制御装置と、前記栽培空間内を自走する自走式作業車両とを備え、
前記自走式作業車両は、撮像対象である植物周囲の熱分布を示す熱画像を撮像するサーモグラフィ装置を備え、前記サーモグラフィ装置によって、複数の観測点における、植物の葉温と、植物周囲の気温の情報を含む温度情報を取得して前記環境制御装置へ送信し、
前記環境制御装置は、日射量に基づき前記遮光カーテンの遮光度を決定し、取得した温度情報から、複数の観測点における、植物の葉温と、植物周囲の気温の温度の差分である葉気温差の平均値を算出し、算出した前記葉気温差の平均値に基づいて、前記遮光度を補正するよう構成されたことを特徴とする植物栽培設備。
【請求項2】
前記栽培システムは、植物に給液する給液装置を備え、
前記環境制御装置は、前記給液装置の給液量を制御可能に構成され、
前記自走式作業車両は、さらに、撮像対象である植物周囲の色情報を含むカラー画像を撮像するカラーカメラを備え、前記カラーカメラによって、複数の観測点における、植物の画像情報を取得して前記環境制御装へと送信し、
前記環境制御装置は、取得した温度情報から、複数の観測点における、植物の植物の第1花が開花した最上段花房と、茎の先端の成長点との高さ方向における距離の差である成長判断距離の平均値を算出し、
算出した前記成長判断距離の平均値が、所定の基準範囲内であるとき、前記複数の観測点を含む領域に対して、前記給液装置に対し、予め設定された基準の給液量で給液を行うよう制御するよう構成され、また、算出した前記成長判断距離の平均値が、所定の基準範囲よりも短いとき、または、長いときは、前記給液装置に対し、予め設定された基準の給液量を補正して給液を行うよう制御するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の植物栽培設備。
【請求項3】
前記給液装置は、故障等の異常を検知する異常検知センサが設けられ、
前記環境制御装置は、前記異常検知センサの検知結果を取得するよう構成され、異常が検知されると、前記給液装置の給液を停止させるととともに、前記遮光カーテンを全閉するよう制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の植物栽培設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培環境をコントロールする栽培システムを備えた植物栽培設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、屋内にて栽培される植物の栽培環境(例えば、植物に対する遮光度、給液量、二酸化炭素濃度、給液量、温度など)を制御する栽培システムを備えた植物栽培設備が公知である。例えば、特許文献1には、開閉制御によって遮光度を調節する遮光カーテンと、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給装置と、養液を供給する養液供給装置と、冷暖房を行う冷暖房装置と、これらの装置を制御する制御装置とによって構成された栽培システムを備えた植物栽培設備が開示されている。
【0003】
より詳細には、この開示された従来の植物栽培設備は、栽培環境をコントロールする手段の一例として、各種センサの取得値から植物の成長点付近の葉温を算出し、算出された葉温が設定葉温より高い場合は、冷暖房装置によって、植物の成長点近傍を冷却し、逆に、低い場合は、暖房するよう構成されている。これにより、植物の生育に適した温度管理によって、収量増収を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-19438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の植物栽培設備によれば、葉温を測定した植物毎に、細かな栽培環境のコントロールが可能であるが、観測対象となる植物が多くなるほど制御が複雑となり、その結果、植物全体に対して、設備内の栽培環境を最適なものとなるようにコントロールすることが難しいものであった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、植物全体に対して、設備内の栽培環境を最適化できる植物栽培設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明は、
植物の栽培環境をコントロールする栽培システムを備えた植物栽培設備であって、
前記栽培システムは、植物を栽培する栽培空間内に、遮光カーテンの開閉によって遮光を行う遮光装置と、前記遮光カーテンの開閉を制御する環境制御装置と、前記栽培空間内を自走する自走式作業車両とを備え、
前記自走式作業車両は、撮像対象である植物周囲の熱分布を示す熱画像を撮像するサーモグラフィ装置を備え、前記サーモグラフィ装置によって、複数の観測点における、植物の葉温と、植物周囲の気温の情報を含む温度情報を取得して前記環境制御装置へ送信し、
前記環境制御装置は、日射量に基づき前記遮光カーテンの遮光度を決定し、取得した温度情報から、複数の観測点における、植物の葉温と、植物周囲の気温の温度の差分である葉気温差の平均値を算出し、算出した前記葉気温差の平均値に基づいて、前記遮光度を補正するよう構成されたことを特徴とする植物栽培設備を提供する。
【0008】
上記第1の発明によれば、葉気温差の平均値に基づいて、遮光カーテンの遮光度を補正するよう構成されたため、植物全体に対して、設備内の栽培環境を最適化できる。また、このように、葉気温差により遮光度を補正することで、日射による葉温の過度な上昇や急な変化を防止し、過度な蒸散を防止し、植物への負荷を抑えることができる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明の構成に加え、
前記栽培システムは、植物に給液する給液装置を備え、
前記環境制御装置は、前記給液装置の給液量を制御可能に構成され、
前記自走式作業車両は、さらに、撮像対象である植物周囲の色情報を含むカラー画像を撮像するカラーカメラを備え、前記カラーカメラによって、複数の観測点における、植物の画像情報を取得して前記自走式作業車両へと送信し、
前記環境制御装置は、取得した温度情報から、複数の観測点における、植物の植物の第1花が開花した最上段花房と、茎の先端の成長点との高さ方向における距離の差である成長判断距離の平均値を算出し、
算出した前記成長判断距離の平均値が、所定の基準範囲内であるとき、前記複数の観測点を含む領域に対して、前記給液装置に対し、予め設定された基準の給液量で給液を行うよう制御するよう構成され、また、算出した前記成長判断距離の平均値が、所定の基準範囲よりも短いとき、または、長いときは、前記給液装置に対し、予め設定された基準の給液量を補正して給液を行うよう制御するよう構成されたことを特徴とする植物栽培設備を提供する。
【0010】
上記第2の発明によれば、上記第1の発明の効果に加え、作業者の経験や勘に頼ることなく、植物の成長のバランスを考慮した給液が可能となる。これにより、作業者の作業負担も軽減でき、また、算出した成長判断距離に関するデータ活用により植物の成長状況を把握・分析することができる
【0011】
第3の発明は、上記第1または上記第2の発明の構成に加え、
前記給液装置は、故障等の異常を検知する異常検知センサが設けられ、
前記環境制御装置は、前記異常検知センサの検知結果を取得するよう構成され、異常が検知されると、前記給液装置の給液を停止するととともに、前記遮光カーテンを全閉するよう制御することを特徴とする植物栽培設備を提供する。
【0012】
上記第3の発明によれば、上記第1または上記第2の発明の効果に加え、遮光カーテン2を全閉(遮光度100%)する。これにより、給液停止中でも、植物Gの蒸散や呼吸が軽減され、植物の萎れ発生の遅延や、萎え具合の軽減が可能となる。また、植物Gの温度や、栽培空間Hsp内の温度上昇を抑え、植物の呼吸、光合成及び蒸散を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、植物全体に対して、設備内の栽培環境を最適化できる植物栽培設備を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施の形態にかかる植物栽培設備の概略正面図である。
図2図2は、同上の概略側面図である。
図3図3は、図1の遮光カーテンの概略正面図である。
図4図4は、図1の植物栽培設備の概略平面図である。
図5図5は、図1の栽培ベッド周辺の概略縦断面図である。
図6図6は、図1の栽培ベッド周辺の概略正面図である。
図7図7は、図4に示される自走式作業車両Jの概略側面図である。
図8図8は、自走式作業車両の制御部を含む制御系の構成を示すブロック図である。
図9図9は、環境制御装置を含む制御系の構成を示すブロック図である。
図10図10は、観測点と観測位置との関係を示す説明図である。
図11図11(a)は、環境制御装置の遮光装置の日射量と遮光度の関係を説明するグラフ図である。図11(b)は、前日降雨であった場合の、環境制御装置Mの遮光装置の日射量と遮光度の関係を説明するグラフ図である。
図12図12は、植物の成長状態の判断基準となる成長判断距離を説明するための説明図である。
図13図13は、植物保護モード移行時の天窓の換気温度の設定値の推移を説明するグラフ図である。
図14図14は、天窓の換気制御に係る開度の補正を一覧表に纏めた説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.植物栽培設備の概略構成>
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
本発明の実施形態に係る植物栽培設備1は、植物栽培システムとして、後述する遮光装置3、天窓4、給液装置5、二酸化炭素供給装置6、自走式作業車両J、環境制御装置Mを備えて構成されている。まず、植物栽培設備1の概略構成について以下説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態にかかる植物栽培設備1の概略正面図であり、図2は、同上の概略側面図である。図1に示されるように、植物栽培設備1は、鉄骨等の骨組みで組み立てられたフレームの外側を、透光性素材で覆うことで形成された建屋H(例えば、プラスチックハウス、ビニールハウス、ガラスハウス等)を備え、係る建屋Hの屋内に、栽培対象である植物Gを栽培するための空間である栽培空間Hspが設けられている。したがって、この建屋Hは、透光性を備えており、外部(屋外)から挿し込む光を、内部の栽培空間Hspへと導入可能な構造となっている。
【0017】
栽培空間Hspの上部には、その奥行方向に沿って一定間隔で配設された複数の遮光カーテン2を有する遮光装置3が設けられている。この遮光装置3は、外部から栽培空間Hspへと導入された光を遮光可能な装置である。
【0018】
栽培空間Hspの上面(建屋Hの上部)には、天窓モータ4mにより開度を調節可能な天窓4が設けられており、これにより、建屋H内外の通気性を調節可能となっている。この天窓4は、正面から視て建屋Hの右方に向かって下り傾斜を有する右側屋根部4aにおいて開閉する右側天窓4bと、左に向かって下り傾斜を有する左側屋根部4bにおいて開閉する左側天窓4dとを備えており、天窓モータ4mの駆動により、左右それそれ、独立した開閉動作が可能となっている。また、天窓モータ4mには、その回転位置により、天窓4の開度を左右それぞれ検出する開度検出センサ4sが設けられている(図1図2において図示せず)。また、いずれも図示されていないが、風速を測定する風速測定センサS4が、右側屋根部4aの上面と、左側屋根部4cの上面にそれぞれ設けられており、右側屋根部4aと左側屋根部4cの上面における風速をそれぞれ測定可能となっている。
【0019】
図3は、図1の遮光カーテン2の概略正面図である。
この遮光カーテン2は、遮光を行わない透過状態(開状態)においては、スプリング(図示せず)により付勢された巻取軸2aに巻き取られて、該巻取軸2aに巻回されてコンパクトに収納されている。また、遮光を行う遮光状態(閉状態)においては、適宜の位置に設けられた開閉モータ(図示せず)の駆動により、該開閉モータと該遮光カーテン2の一端との間に張設されたカーテン開閉ワイヤ2bによって、複数の遮光カーテン2を、スプリング(図示せず)の付勢力に抗して巻取軸2aから引き出すよう構成されている。このように構成された遮光装置3は、最大で、栽培空間Hspの上部を全面に亘って遮光することが可能となっている。また、開閉モータには、その回転位置により、複数の遮光カーテン2の遮光度を検出する遮光度検出センサ3sが設けられている(図3において図示せず)。例えば、遮光カーテン2を全閉したときの遮光度は100%であり、半開したときの遮光度は、50%であり、全開したときの遮光度は、0%である。
【0020】
また、栽培空間Hsp内には、植物Gに養液を供給する給液装置5と、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給装置6が、適宜の箇所に配設されており、これらの装置は、後述する環境制御装置Mによって、供給量を制御可能に構成されている。給液装置5は、養液が貯留された養液タンク内の養液を電磁的に制御可能な電磁ポンプによって、後述の給液パイプ19へと送出する公知の構成である。また、二酸化炭素供給装置6は、二酸化炭素が貯留されたボンベ内の二酸化炭素を電磁的に制御可能な電磁バルブの開閉によって、適宜の箇所に設けられた噴出口から、栽培空間Hsp内に二酸化炭素を噴出させて供給する公知の構成である。なお、給液装置5には、故障等の異常を検知する異常検知センサ5sが設けられている。また、植物栽培設備1外には、日射量を測定する日射量測定センサS2と、降雨を検知する降雨検知センサS3が設けられている。
【0021】
図4は、図1の植物栽培設備1の概略平面図である。
建屋Hの栽培空間の床面上には、植物Gの培地として機能する、平面視で略長方形状の複数の栽培ベッドA(図示例においては、A1~A6)が、所定間隔で並列するようにして複数設けられている。この栽培ベッドA上に植物Gが一定間隔毎に定植される。植物Gは、例えば、トマト等の果菜類であるが、植物栽培設備1にて栽培可能な植物Gは、必ずしも果菜類に限定されるものではない。
【0022】
なお、図2に示されるように、建屋H内は、植物Gを栽培するための部屋である栽培室h1に加え、この栽培室h1に隣接して、収穫した果実を一時的に収容したり、各種機材を保管したりするための部屋である出荷室h2を備えている(図1において図示せず)。
【0023】
また、栽培室h1内の床面には、自走式作業車両Jや作業者等が移動するためのメイン通路h3が延びている。このメイン通路h3は、栽培室h1の入口から奥側方向へと直線状に延びている。また、このメイン通路h3の両側に拡がる区画は、それぞれ、その領域内に複数の栽培ベッドA(A1),A(A2),・・・,A(A6),・・・が配設された栽培スペースh5となっている。また、この栽培スペースh5内には、複数の栽培ベッドA,A,A,・・・の他、メイン通路h3から分岐して、栽培ベッドA間に形成された複数のサブ通路h9,h9,h9,・・・が、栽培ベッドAの長手方向に沿って延びている。
【0024】
また、メイン通路h3の両端には開閉扉を備える栽培室h1への出入り口h7が設けられ、この出入り口h7を介して、栽培室h1と出荷室h2とを往来できる。なお、他方の出入り口h8は、植物栽培設備1の屋外に出入りするための出入口である。
【0025】
なお、後述する自走式作業車両Jは、メイン通路h3から各々の栽培ベッドAの間のサブ通路h9へと自動走行により移動し、該サブ通路h9において、栽培ベッドAの側方を自動直進しながら、植物Gに対して各種作業を行うものとなっている。図3には図示されていないが、該サブ通路h9には、長手方向に沿って2列で敷設された暖房用管が設けられており、自走式作業車両Jは、この暖房用管を走行レールLとして走行する仕組みとなっている。したがって、自走式作業車両1が自走しながら作業を行う経路である直進走行経路Lnは、この走行レールL上に設定される。なお、暖房用管は、温水を管内に循環させる管状体であり、これにより、栽培室h1内を暖房する機能を果たすものである。
【0026】
<2.栽培ベッドの構成>
図5は、図1の栽培ベッドA周辺の概略縦断面図である。
また、栽培空間(栽培室h1)の上部には、栽培ベッドAの延びる支持具7が複数本配置されている。この支持具7には、複数の吊具9が取り付けられており、この吊具9によって、一対の支持管8を吊止している。さらに、この一対の支持管8には、フック状の掛止部10aを備えた容器10が掛止されている。この容器10に、台形に曲げた受板11が底に入ったロックウールが収容されて栽培ベッドAが形成されている。この栽培ベッドA上には、それぞれ、植物Gの苗が移植されたキューブ12が2列で載置されている。
【0027】
容器10の下部には、栽培ベッド5に養液を供給するための給液パイプ19が栽培ベッド5の長手方向に沿って延設されている。この給液パイプ19の上方で栽培ベッド5の下方の位置には、栽培ベッド5からの排液(余剰の養液)を受けて回収する排液ガ-タ-20が給液パイプ19と同様に延設されている。また、給液パイプ19からそれぞれのキューブ12へ養液を供給するそれぞれのドリップホ-ス21が設けられ、キューブ12に移植した植物Gの苗に養液を供給して作物を栽培するようになっている。
【0028】
図6は、図1の栽培ベッドA周辺の概略正面図である。
キューブ12から伸長する植物Gの苗の茎は、上方から吊り下げられた誘引紐13によって上方へ誘引される。誘引紐13は、誘引紐ホルダ14に糸巻状に巻き込まれており、該ホルダ14から引き出されるようになっている。誘引紐ホルダ14の上部には誘引フック14aを設けており、この誘引フック14aを温室1内の上部に栽培ベッドAのキューブ12の列の長手方向に沿って延びる誘引ワイヤ15にひっかけて誘引紐ホルダ14を吊る構成となっている。尚、誘引ワイヤ15は、栽培ベッド5のキューブ12の列の数に合わせて東西方向に複数並列に配置された構成となっている。図6に示すように、クリップ16により誘引紐13に植物Gの茎を固定して栽培すると、植物Gの茎は誘引紐13をつたって上方へ伸長していく。そして、誘引ワイヤ15(誘引紐ホルダ14)の高さまで茎kが伸長すると、適宜、誘引紐ホルダ14から誘引紐13を繰り出しながら誘引紐ホルダ14を誘引ワイヤ15に沿ってずらし、植物Gの苗の茎が上方へ伸長するスペ-スをとって栽培する。尚、必要に応じて、適宜植物Gの茎をクリップ16により誘引紐に固定していく。
【0029】
<3.自走式作業車両の構成>
図7は、図4に示される自走式作業車両Jの概略側面図である。
図1に示されるように、自走式作業車両Jは、植物栽培設備1内を自走可能な走行機構を有する走行車体j1と、撮像対象である植物G周囲の熱分布を示す熱画像を撮像するサーモグラフィ装置TH1と、色情報を含むカラー画像を撮像するカラーカメラTH2と、各種センサSとを備えている。各種センサSとして、走行レールLを走行レール検出センサs1と、走行車体2周囲の人を検知する人感センサs2と、走行車体2周囲の障害物を検知する障害物検知センサs3とを備えている。
【0030】
なお、走行車体j2を走行させる走行機構については、公知であるため詳述しないが(例えば、特開2021-023213号公報を参照されたい。)、走行機構は、走行車体j1の四隅に、それぞれ配された走行用モータj2によって回転駆動される走行用車輪j3を備えている。該走行用モータMの駆動により、走行用車輪j3は、前転(正転)、後転(逆転)、停止の動作が可能である。後述する制御部Cによって、走行用モータjmが駆動制御される。その結果、走行車体j1は、走行時、前進、後進、旋回等の走行が可能である。また、該走行用車輪の車幅方向における内側(機体内側)には、走行レールL上を走行するための、レール走行用車輪j4が、走行用車輪j3の車軸上に一体形成されている。
【0031】
レール走行用車輪j4は、地上走行用車輪j3よりも小径かつ機体内側に設けられており、これにより、自走式作業車両Jが、走行レールL上を走行するときに該走行レールL上を転輪する。なお、このとき、走行用車輪j3は、床面から浮き空転しているが、走行レールLを左右から挟み込むことで、レール走行用車輪j4が、走行レールL上から脱落することを防止する機能を果たしている。
【0032】
図8は、自走式作業車両1の制御部Cを含む制御系の構成を示すブロック図である。
制御部Cは、複数のECU(Electronic Control Unit)を組み合わせて構成された情報処理装置である。この複数のECUは、それぞれが、演算処理を行うCPUと、演算処理に必要な情報を読み書き可能なメモリとを備えて構成されており、メモリに記憶された各種制御プログラムに従ってCPUが動作することにより、図4中に機能ブロックとして記載された構成が実現される。また、各機能ブロックは、有線または無線による通信手段により、各種情報を送受可能に構成されている。
【0033】
制御部Cの入力側には、位置情報を取得する位置情報取得部AN、サーモグラフィ装置TH1、各種センサS(走行レール検出センサs1、人感センサs2、障害物検知センサs3)が接続されており、制御部Cはこれらから各種情報を取得可能となっている。
【0034】
位置情報取得部ANは、所定の時間間隔で、自走式作業車両1の位置情報を取得する装置であり、上空を周回している航法衛星から、測位アンテナ(図示せず)により電波(GNSS信号)を受信して位置情報を取得可能に構成されている。なお、位置情報取得部ANによって測定された位置情報は、制御部Cに送信される。これにより、制御部Cは、現在の自走式作業車両Jの機体の位置を示す位置情報を、適宜、取得及び記録可能となっている。
【0035】
サーモグラフィ装置TH1は、撮像対象である植物G周囲の熱分布を示す熱画像を撮像することによって、観測点Pにおける植物Gの葉温TLと、植物G周囲の気温TIの情報を含む温度情報Dt1を取得する。取得された温度情報Dt1は、環境情報制御装置C2に送信される。
【0036】
カラーカメラTH2は、撮像対象である植物G周囲の色情報を含むカラー画像を撮像することによって、観測点Pにおける植物Gの根元から上端までの画像を含む画像情報Dt2を取得する。取得された画像情報Dt2は、環境情報制御装置C2に送信される。
【0037】
走行レール検出センサs1は、走行車体2の前後にそれぞれ配されており、例えば、機体内側に向けて付勢されたローラ付のスイッチセンサであり、走行レールLの両側を左右ローラで挟み込むことでスイッチセンサが押圧され、これにより、走行車体j2の前部が走行レールL上に位置することを検知可能となっている。これにより、後述する制御部Cは、走行車体j2が走行レールL上へ進入したこと、あるいは、走行レールL上を走行中であることを判断可能となっている。
【0038】
人感センサs2は、例えば、赤外線センサであり、自走式作業車両1の周囲の所定範囲内に存在する人を検知する機能を果たす。障害物検知センサs3は、例えば、超音波センサであり、自走式作業車両1の周囲の所定範囲内に存在する障害物を検知する機能を果たす。これらの検知情報を後述する制御部Cが取得することにより、自走式作業車両1は、所定距離まで人または障害物が近づくと、衝突防止のため、後述する走行制御部c1によって走行を停止するよう制御される。
【0039】
制御部Cは、走行系を制御する走行制御部c1と、作業系を制御する作業制御部c2と、各種情報を記憶する情報記憶部c3とを備えている。
【0040】
走行制御部c1は、走行機構の制御を司る機能を果たし、位置情報取得部ANによって位置情報を取得しながら、予め決定された走行ルートに沿って、自走式作業車両1が走行するように、走行用モータjmを駆動制御する。なお、予め決定された走行ルートに関する情報は、後述する走行ルート記憶部c31から取得する。
【0041】
作業制御部c2は、植物Gを観測する位置(観測位置)を算出する観測位置算出部c21と、サーモグラフィ装置TH、カラーカメラTH2に制御命令を送信する観測実行部c22と、サーモグラフィ装置THによって取得された観測情報Dt(熱画像及び気温情報)、カラーカメラTH2によって取得された生育画像情報TH2を環境制御装置Mに送信する観測情報送信部c23とを備えている。
【0042】
観測位置算出部c21は、観測位置Qを算出する機能を果たし、観測点Pを示す観測点情報Dpから、自走式作業車両1の観測位置Qの位置情報を算出する。なお、観測位置Qの位置情報は、観測点Pの位置情報に基づいて行われれるが、当該観測点Pの位置情報は、後述する観測点記憶部c32から取得する。一つの観測点Pに対して、これと対応する一つの観測位置Qの位置情報が算出され、後述する情報記憶部c3に記憶される。
【0043】
観測実行部c22は、観測位置算出部c21によって、算出された観測位置Qにおいて、サーモグラフィ装置TH1及びカラーカメラTH2に制御命令を送信し、サーモグラフィ装置TH1及びカラーカメラTH2を駆動することによって、サーモグラフィ装置TH1及びカラーカメラTH2から、観測点Pにおける観測情報Dtを取得する。なお、観測位置Qの位置情報は、情報記憶部c3から適宜のタイミングで取得する。
【0044】
情報記憶部c3は、走行ルートの位置情報を記憶するための走行ルート記憶部c31と、観測点Qの位置情報を記憶するための観測点記憶部c32とを備えている。
【0045】
走行ルート記憶部c31に記憶される走行ルートの位置情報は、少なくとも、建屋H内の栽培ベッドA毎に、その栽培ベッドAに観測等の作業を行うための1本の直進走行経路Lnの位置情報が含まれている(図4参照)。例えば、栽培ベッドAが10列の場合、作業経路情報には、栽培ベッドAの長さ方向に沿って伸びる10本の直進走行経路Lnの位置情報が含まれる。また、直進走行経路Lnに関する位置情報は、少なくとも、その直進走行経路Lnの両端(すなわち、始点と終点)の位置情報を含む。なお、通常、自走式作業車両1は、走行レールL上を走行しながら作業を行うため、直進走行経路Lnは、走行レールLに沿うように設定される。なお、走行ルート記憶部c31は、作業開始前に、環境制御装置Mから予め取得した走行ルートの位置情報が記憶されている。
【0046】
観測点記憶部c32は、後述する環境制御装置Mから取得した観測点Qの位置情報を記憶するものであり、作業開始前に、環境制御装置Mから予め取得した観測点Qの位置情報が記憶されている。
【0047】
制御部Cの出力側には、サーモグラフィ装置TH1、カラーカメラTH2、走行用モータjmが接続され、制御部Cは、これらの装置の駆動制御が可能となっている。また、図示しない無線通信機構によって、ネットワークNWを介して環境制御装置Mが接続され、これにより、環境制御装置Mと各種情報を送受可能となっている。
【0048】
<4.環境制御装置の構成>
植物栽培設備1の出荷室h2には、栽培室h1の栽培空間の栽培環境を制御するための環境制御装置Mが配設されている。なお、環境制御装置Mが配設される場所については、必ずしもこれに限定されず、例えば、栽培室h1に配設されてもよいし、植物栽培設備1外に配設されてもよい。
【0049】
図9は、環境制御装置Mを含む制御系の構成を示すブロック図である。
環境制御装置Mは、各種の情報処理が可能な情報処理装置であり、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット等のコンピュータである。この環境制御装置Mは、演算処理を行うCPUと、演算処理に必要な情報を読み書き可能なメモリとを備えて構成されており、メモリに記憶された各種制御プログラムに従ってCPUが動作することにより、図9中に機能ブロックとして記載された構成が実現される。
【0050】
環境制御装置Mの入力側には、カーテン開閉度検出センサ3s、開度検出センサ4s、故障検知センサ5sが接続され、これらのセンサから、検知・検出情報を取得可能となっている。
【0051】
環境制御装置Mの出力側には、ネットワークNWを介して自走式作業車両Jが接続され、これにより、環境制御装置Mと各種情報を送受可能となっている。また、遮光装置3、給液装置5、二酸化炭素供給装置6、天窓4が接続され、これらの装置に制御命令を送信して動作を制御可能となっている。
【0052】
環境制御装置Mは、自走式作業車両Jの動作を制御する自走式作業車両制御部m1と、遮光装置3の動作を制御する遮光装置制御部m2と、給液装置5の動作を制御する給液装置制御部m3と、二酸化炭素供給装置6の動作を制御する二酸化炭素供給装置制御部m4と、天窓4を制御する天窓制御部m5と、栽培環境の制御に必要な各種の情報を記憶する環境情報記憶部m6とを備えている。
【0053】
自走式作業車両制御部m1は、自走式作業車両Jの走行ルートを算出する走行ルート算出部m11と、観測点Pを算出する観測点算出部m12とを備えている。自走式作業車両制御部m1は、環境情報記憶部m6に予め記憶されている植物栽培設備1の栽培空間Hspのマップ情報を取得し、自走式作業車両Jの走行ルートを算出し、自走式作業車両Jに送信する。ここで、マップ情報は、植物栽培設備1の栽培空間Hspの領域が各地点の位置情報とともに二次元座標でデータ化されたものであって、栽培ベッドAの領域を示す情報を含み、栽培ベッドAの領域内の各地点の位置情報を含むものである。これにより、自走式作業車両Jは、直進走行経路Lnを含む栽培空間Hsp内の自動走行が可能となる。
【0054】
観測点算出部m12は、栽培空間Hspのマップ情報に含まれる栽培ベッドAの領域に関する情報から、植物Gの位置を示す観測点Pの位置及び位置情報を算出する。例えば、作業者が、植物Gの植え付け間隔を、所定の操作により、環境制御装置Mに入力すると、栽培ベッドAの領域内において、互いに植え付け間隔毎に離間するように設定された複数の観測点Pの位置情報が算出される(図10参照)。なお、表示部を備えたタッチパネルの操作により、該表示部に栽培空間Hspの見取り図を表示し、作業者が、表示された見取り図をタッチ操作して、観測点Pの位置をプロットして設定できるように構成されてもよい。観測点算出部m12は、観測点算出部m12によって算出された植物Gの位置を示す観測点Pの位置及び位置情報を自走式作業車両Jに送信する。また、植物Gの位置を示す観測点Pの位置及び位置情報は、予め、自走式作業車両1が、位置情報取得部ANにより位置情報を取得しながら走行ルートに沿って、カラーカメラTH2で撮像しながら、栽培空間内Hspを自走し、カラーカメラTH2によって取得した画像により、植物Gが認識された位置を、観測点Pの位置として順次プロットして設定できるように構成されてもよい。
【0055】
遮光装置制御部m2は、遮光装置3の動作を制御する機能を果たす。遮光装置制御部m2は、遮光度を決定する遮光度決定部m21を備えており、該遮光度決定部21によって決定された遮光度となるように、遮光装置3の開閉モータを制御する。
【0056】
給液装置制御部m3は、遮光装置3の動作を制御する機能を果たす。給液装置制御部m3は、給液量を決定する給液量決定部m31を備えており、該給液量決定部m31によって決定された給液量となるように、給液装置5の電磁ポンプを制御する。
【0057】
二酸化炭素供給装置制御部m4は、二酸化炭素供給装置6の動作を制御する機能を果たす。二酸化炭素供給装置制御部m4は、二酸化炭素供給量を決定する二酸化炭素供給量決定部m41を備えており、該二酸化炭素供給量決定部m41によって決定された二酸化炭素供給量となるように、二酸化炭素供給装置6の電磁バルブを制御する。
【0058】
天窓制御部m5は、天窓4の開閉動作を制御する機能を果たす。天窓制御部m5は、天窓4の遮光度を決定する遮光度決定部m51を備えており、該遮光度決定部m51によって決定された遮光度となるように、天窓4の天窓モータ4mを制御する。
【0059】
環境情報記憶部m6には、栽培環境の制御に必要な各種の情報が記憶されており、例えば、走行ルート算出部m11によって算出された走行ルートに関する情報、観測点算出部m12によって算出された観測点Pに関する情報、植物栽培設備1の栽培空間Hspのマップ情報等が記憶される。
【0060】
図10は、観測点Pと観測位置Qとの関係を示す説明図である。
観測点算出部m12によって、算出された観測点P(P1~P10)の位置情報は、自走式作業車両Jに送信され、これを取得した自走式作業車両Jの観測位置算出部c21が、観測位置Q(Q1~Q10)の位置情報を算出する。これにより、図示例においては、自走式作業車両Jは、各観測位置Q(Q1~Q10)において、観測点P(P1~P10)毎に観測情報Dt(熱画像及び気温情報)を取得し、これを観測点P(P1~P10)の情報と紐づけて、観測情報送信部c23によって、環境制御装置Mに送信する。これを取得した環境制御装置Mは、観測点P(P1~P10)毎の観測情報Dtを環境情報記憶部m6に記憶する。また、環境情報記憶部m6に記憶された観測情報Dtは、遮光装置制御部m2、給液装置制御部m3、二酸化炭素供給装置制御部m4、天窓制御部m5にそれぞれ受け渡され、その結果、環境制御装置Mは、観測情報Dtに基づき、出力側に接続された各装置を制御可能となっている。なお、図示例においては、観測点P(P1~P10)、観測位置Q(Q1~Q10)の数は10であるが、これに限定されない。
【0061】
<4.環境制御装置の制御例>
以下、環境制御装置Mによる制御例を説明する。なお、環境制御装置Mによる制御例は、下記のものにのみ限定されない。
【0062】
[制御例]
(I)葉温による遮光装置3の開度補正制御
図11(a)は、環境制御装置M(遮光装置制御部m2)の遮光装置3の日射量と遮光度の関係を説明するグラフ図である。遮光装置制御部m2の遮光度決定部21は、図11(a)のグラフ中の実線で示されるように、日射量測定センサS2の測定値に基づいて、遮光カーテン2の遮光度(%)を決定する。例えば、日射量の測定値が500w/mのとき、遮光カーテン2の遮光度は、50%である。すなわち、このとき、遮光装置3は、外部から栽培空間Hspへと導入する光を、約50%遮光する。
【0063】
ここで、遮光度決定部21は、日射量の測定値が500w/mを下回ったとき、即座に、遮光度を100%(全閉)とせず、所定の継続時間(例えば、10分)日射量の測定値が500w/m以下となったことを条件として、遮光度を100%(全遮光)とするよう制御する。これにより、気候の変動が大きい日に、遮光カーテン2の頻繁な稼働を抑え、遮光装置3の摩耗を防止するとともに、遮光カーテン2の頻繁な開閉によって生じる植物Gへの影響を防ぐことができる。
【0064】
さらに、遮光度決定部21は、上記方法による遮光カーテン2の遮光度の決定に加え、観測情報Dtに基づき、決定された遮光カーテン2の遮光度に補正を加えるように構成されている。詳細には、遮光度決定部21は、まず、取得した観測情報Dtに基づき、栽培ベッドAにおける各観測点Pにおいて、植物Gの葉温TLと、植物G周囲の気温TIの温度の差分である葉気温差ΔTを算出する。次に、全ての観測点Pにおける葉気温差ΔTの平均値を算出する。次に、算出された葉気温差ΔTの平均値に基づき、遮光装置3の遮光度を補正する。例えば、葉気温差ΔTの平均値が2℃のとき、遮光度+5%とし、葉気温差ΔTの平均値が大きいほど補正値を逓増させ、平均値が10℃のとき、遮光度+10%とする。なお、通常、遮光装置3の遮光度は、栽培空間Hsp内の気温(気温)が高いほど、大きくなるように制御されるが、このように、葉気温差ΔTにより遮光度を補正することで、日射による葉温の過度な上昇や急な変化を防止し、過度な蒸散を防止し、植物Gへの負荷を抑えることができる。また、葉気温差ΔTの平均値を利用することで、植物G全体に対して、植物栽培設備1内の栽培環境を最適化できる。
【0065】
図11(b)は、前日降雨であった場合の、環境制御装置M(遮光装置制御部m2)の遮光装置3の日射量と遮光度の関係を説明するグラフ図である。
前日、降雨検知センサS3により降雨が検知されていた場合、遮光装置制御部m2は、図11(b)に示されるグラフ中の実線で示されるように、遮光装置3の遮光度を決定してもよい。図中に示されるように、前日降雨があった場合に、植物Gの保護のため、日射量に対する遮光度を上方修正する。これにより、急激な天候及び日射量の変動による植物Gへの負荷を低減し、萎れを抑制して、果実品質の維持を図ることが可能となる。
【0066】
(II)給液異常に伴う給液停止時の植物保護
給液装置制御部m3の給液量決定部m31は、異常検知センサ5sから、異常が検知された場合に、給液装置5の給液を停止するととともに、環境制御装置Mを植物保護制御モードへと移行させる。環境制御装置Mは、植物保護モードに移行すると、遮光装置制御部m2によって、遮光カーテン2を全閉(遮光度100%)する。これにより、給液停止中でも、植物Gの蒸散や呼吸が軽減され、植物の萎れ発生の遅延や、萎え具合の軽減が可能となる。また、植物Gの温度や、栽培空間Hsp内の温度上昇を抑え、植物の呼吸、光合成及び蒸散を抑制できる。
【0067】
図13は、植物保護モード移行時の天窓4の換気温度の設定値の推移を説明するグラフ図である。環境制御装置Mは、植物保護モードに移行すると、天窓4を開制御して換気する設定温度である換気温度を、通常よりも下げるよう天窓制御部m5を制御する。図示例においては、通常、換気温度が18℃に設定されており、これが、植物保護モードに移行すると、15℃へと下げるよう制御する例が示されている。このように、換気温度を、通常よりも下げるよう天窓制御部m5を制御することで、植物Gの蒸散や呼吸が軽減され、植物の萎れ発生の遅延や、萎え具合の軽減が可能となる。また、植物Gの温度や、栽培空間Hsp内の温度上昇を抑え、植物の呼吸、光合成及び蒸散を抑制できる。なお、同様の要領で、栽培空間Hsp内に、制御可能な加湿器が設置されている場合、加湿湿度の設定値を上げるよう制御することで、植物Gの蒸散を防止できる。また、植物保護モードへの移行を条件として加湿器を駆動するよう構成されてもよい。
【0068】
また、環境制御装置Mは、植物保護モードに移行すると、二酸化炭素供給装置6を駆動して二酸化炭素を供給する空気中の二酸化炭素濃度の設定値である二酸化炭素濃度の設定値を、通常よりも下げるよう二酸化炭素供給装置制御部m4を制御する。植物保護モード中は、植物Gの光合成が抑制されるため、上記制御により、二酸化炭素の過剰施用を防止できる。
【0069】
また、図13に示されるように、例えば、修理等により植物保護モードが解除されると、環境制御装置Mは、徐々に通常の設定値へと戻すよう制御する。図示例においては、00.5時間に0.5℃の割合で通常の設定値へと戻す例が示されている。これにより、急な環境変化が生じることを防止し、植物Gへのストレスやダメージを軽減することができる。天窓4の換気温度の設定値、二酸化炭素供給装置6の二酸化炭素濃度の設定値についても同様の制御が望ましい。
【0070】
(III)給液装置の給液量の補正
図12は、植物の成長状態の判断基準となる成長判断距離を説明するための説明図である。環境制御装置Mは、取得した画像情報Dt2の色情報を解析することにより、撮像された植物Gの成長状態の判断基準となる成長判断距離Wを、観測点P毎に算出し、環境情報記憶部m6に記憶する。
【0071】
成長判断距離Wは、図12に示されるように、植物Gの第1花が開花した最上段花房g1と成長点g2の高さ方向における距離の差である。第1花が開花した最上段花房g1とは、植物Gの複数の花房のうち、第1花が開花した最上段の花房を指す。また、成長点g1とは、植物Gの茎の先端を指す。
【0072】
環境制御装置Mは、算出された植物Gの成長判断距離Wが、所定の基準範囲よりも短いとき、給液装置5を、予め設定された基準の給液量を補正して給液を行うよう制御する。例えば、基準の給液量よりも増加させるように制御するし、50ml/回・株から700ml/回・株とするよう補正する。植物Gの成長判断距離Wが、所定の基準範囲よりも短いとき、植物Gの成長バランスは、生殖成長に傾いていると判定でき、給液量を増加させることで、果実の品質を向上できるためである。なお、植物Gの種類に応じて、生殖成長に傾いていると判定できる場合であっても、基準の給液量よりも減少させるように制御することも可能であり、果実の品質の向上のために好適な補正を加えることが好ましい。
【0073】
また、環境制御装置Mは、算出された植物Gの成長判断距離Wが、所定の基準範囲内であるとき、給液装置5を、予め設定された基準の給液量で給液を行うよう制御する。
【0074】
さらに、環境制御装置Mは、算出された植物Gの成長判断距離Wが、所定の基準範囲よりも長いとき、給液装置5を、予め設定された基準の給液量を補正して給液を行うよう制御する。例えば、基準の給液量よりも増加させるように制御し、50ml/回・株から700ml/回・株とするよう補正する。植物Gの成長判断距離Wが、所定の基準範囲よりも長いとき、植物Gの成長バランスは、栄養成長に傾いていると判定でき、給液量を増加させることで、植物Gの成長を促進できるためである。なお、植物Gの種類に応じて、栄養成長に傾いていると判定できる場合であっても、基準の給液量よりも減少させるように制御することも可能であり、植物の成長の促進のために好適な補正を加えることが好ましい。
【0075】
上記の制御により、作業者の経験や勘に頼ることなく、植物Gの成長のバランスを考慮した給液が可能となる。これにより、作業者の作業負担も軽減でき、また、算出した成長判断距離Wに関するデータ活用により植物Gの成長状況を把握・分析することができる。また、上記の制御は、観測点P毎に行われてもよく、また、複数の観測点Pについて纏めて行われてもよい。複数の観測点Pについて纏めて行う場合、複数の観測点Pにおける植物Gの成長判断距離Wの平均距離を算出し、算出された平均距離が、所定の基準範囲内であるとき、複数の観測点Pを含む領域に対して給液装置5が、予め設定された基準の給液量で給液を行うよう制御し、所定の基準範囲よりも短いとき、または、長いとき、予め設定された基準の給液量を補正して給液を行うよう制御する。なお、補正方法は上述の通りである。環境制御装置Mは、例えば、栽培ベッドAごとに、該栽培ベッドAに含まれる複数の観測点Pにおける植物Gの成長判断距離Wの平均距離を算出し、算出された栽培ベッドAごとの平均距離に基づいて、栽培ベッドAごとに、給液装置5による上記制御を行うように構成されてもよい。
【0076】
(VI)天窓の開閉制御の係る開度の補正
環境制御装置Mの天窓制御部m5は、観測情報Dtを取得し、栽培空間Hsp内における気温(室温)が所定の換気設定温度に達したと判定されたとき、天窓4を徐々に開くよう制御する。例えば、全閉を開度0%、全開を開度100%としたとき、+3%/分とする。また、天窓4の開度の上限(標準の開度)は、例えば、日射量測定センサS2の測定値や栽培空間Hsp内の気温に基づいて決定され、開度の上限に達すると、開動作を停止する。なお、気温は、栽培空間Hsp内の適宜の位置に設けられた温度センサからを取得するように構成されてもよい。これにより、換気時の室温変化が緩やかになり、植物Gへのストレスを軽減できる。このとき、外部の風速によって、室温の下降速度が変わる。例えば、強風時だと室温が急激に下がり、植物Gへのストレスが大きくなる。そこで、環境制御装置Mは、まず天窓4を所定量(例えば、開度20%)開き、単位時間当たりの温度変化を測定し、どの程度の速度で天窓4を開けばよいかを計算し、その結果に沿って天窓4を開くように構成できる(単位時間あたりの温度変化が大きいほど、天窓4を開く速度を遅くし、単位時間あたりの温度変化が小さいほど、天窓4を開く速度を速くする)。さらにそのとき、遮光カーテン2を開く速度についても温度変化に基づいて決定するよう構成できる。また、遮光カーテン2の開閉度も、天窓4を開く速度を算出する計算のパラメタに加えることができる。遮光カーテン2の開閉の状況により、室内の熱の逃げる速度が異なるためである。例えば、遮光カーテン2の開閉度が大きいほど、天窓4の開く速度を遅くし、遮光カーテン2の開閉度が小さいほど、天窓4の開く速度を速くするよう制御できる。より詳細には、例えば、遮光カーテン2の開閉度が80%のとき、天窓4の開く標準の速度(例えば、開度+3%/分)から-1%ほど遅くし、遮光カーテン2の開閉度が10%のとき、天窓4の開く速度を+5%ほど速くするよう制御できる。
【0077】
図14は、天窓4の換気制御に係る開度の補正を一覧表に纏めた説明図である。
環境制御装置Mは、換気設定温度に達したときに、風速測定センサ4Sから風速に関する情報を取得し、右側屋根部4aと左側屋根部4cの上面における風速の測定値を比較し、右側屋根部4aと左側屋根部4cのいずれが風上で、いずれが風下であるかを判定する。すなわち、風速が大きい方を風上と判定する。その後、図14に示される一覧表に表されるように標準の開度を補正するよう制御する。例えば、右側屋根部4aが風下側で風速が10m/sのとき、環境制御装置Mは、右側天窓4bの開度が2倍となるように補正して天窓4を開制御する。また、このとき、風上側の左側屋根部4cにおいて風速が15m/sが測定されたとき、左側天窓4dの開度が0倍、すなわち、全閉するように制御する。このように、風向きと風速を考慮した天窓4の開度の補正により、急激な室温変化を防止して、植物Gのストレスを低減し、高温障害等の発生を防止できる。
【0078】
<変形例>
以上、本発明の実施形態を説明した。本発明は、前記した実施形態にのみ限定されない。技術的思想の範囲内で、適宜変更であることは言うまでも無い。例えば、環境制御装置Mが、自走式作業車両Jから観測情報Dt(熱画像及び気温情報)を取得する構成について説明したが、栽培ベッドAごとに、適宜の位置に、サーモグラフィ装置、温度センサ、カラーカメラを複数設けて、これらから各観測点Pの植物Gの観測情報Dtを、環境制御装置Mが取得するように構成することもできる。
【0079】
給液装置5は、環境制御装置Mによって開閉制御可能な電磁バルブを、給液を供給する給液供給管の管路に複数配設することにより、(全栽培ベッドAに一律ではなく)栽培ベッドAごとに給液量をコントロール可能に構成されてもよい。この場合、栽培ベッドAの領域内の複数の観測点Pにおける植物Gの成長判断距離Wの平均値を算出し、算出した前記成長判断距離Wの平均値が、所定の基準範囲内であるとき、前記複数の観測点Pを含む栽培ベッドAに対して、前記給液装置5に対し、予め設定された基準の給液量で給液を行うよう制御するよう構成され、また、算出した前記成長判断距離Wの平均値が、所定の基準範囲よりも短いとき、または、長いときは、前記給液装置5に対し、予め設定された基準の給液量を補正して給液を行うよう制御するよう構成されてもよい。これにより、栽培ベッドAごとに細かな給液量の制御が可能となる。さらには、上記環境制御装置Mによる給液装置5の制御は、観測点P単位で行われるように構成することもでき、この場合、(平均値ではなく)観測点Pで測定された成長判断距離Wごとに、所定の基準範囲よりも短いとき、または、長いときは、予め設定された基準の給液量を補正して給液を行うよう制御することで、さらに細かな給液量の制御ができ、植物Gの品質を向上できる。
【符号の説明】
【0080】
1 植物栽培設備
2 遮光カーテン
3 遮光装置
4 天窓
5 給液装置
6 二酸化炭素供給装置
7 支持具
8 支持管
9 吊具
10 容器
12 キューブ
13 誘引紐
14 引紐ホルダ
15 誘引ワイヤ
16 クリップ
19 給液パイプ
21 ドリップホース
AN 位置情報取得部
C 制御部
H 建屋
Hsp 栽培空間
J 自走式作業車両
j1 走行車体
j2 走行用モータ
j3 走行用車輪
j4 レール走行用車輪
L 走行レール
Ln 直進走行経路
M 環境制御装置
S 各種センサ
s1 走行レール検出センサ
s2 人感センサ
s3 障害物検知センサ
TH1 サーモグラフィ装置
TH2 カラーカメラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14