(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146196
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】吸収性物品用薄葉紙
(51)【国際特許分類】
A61F 13/53 20060101AFI20241004BHJP
D21H 11/04 20060101ALI20241004BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61F13/53 100
D21H11/04
A61F13/15 141
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058958
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】糸井 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 正和
【テーマコード(参考)】
3B200
4L055
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200BA03
3B200BA20
3B200BB05
3B200BB22
3B200CA02
3B200CA11
3B200DB02
4L055AF09
4L055AH21
4L055AH50
4L055EA18
4L055EA24
4L055EA32
4L055FA14
4L055FA30
4L055GA29
(57)【要約】
【課題】酸性からアルカリ性までの幅広い臭い成分の発生を一段と抑えて、より高い消臭効果を奏し、同時に液透過時間の短縮を実現し得る薄葉紙を提供する。
【解決手段】セルロース繊維シート基材に、カチオン性抗菌剤0.005g/m2以上1.0g/m2以下、並びに、A剤:有機酸剤及びB剤:pH緩衝剤を含有し、前記カチオン性抗菌剤はアルキル基及び/又はアルケニル基を有し、前記カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が1質量%以上50質量%以下であり、平均空孔率が2.5%以上で、pHが3.0以上4.8以下である吸収性物品用薄葉紙。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維シート基材に、カチオン性抗菌剤0.005g/m2以上1.0g/m2以下、並びに、A剤:有機酸剤及びB剤:pH緩衝剤を含有し、
前記カチオン性抗菌剤はアルキル基及び/又はアルケニル基を有し、前記カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が1質量%以上50質量%以下であり、
平均空孔率が2.5%以上で、pHが3.0以上4.8以下である吸収性物品用薄葉紙。
【請求項2】
前記カチオン性抗菌剤がベンザルコニウム塩を含有する請求項1記載の吸収性物品用薄葉紙。
【請求項3】
前記ベンザルコニウム塩は、アニオン部分に、ハロゲン化物イオンを含む、請求項2記載の吸収性物品用薄葉紙。
【請求項4】
粘性液体透過時間が600秒以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の吸収性物品用薄葉紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつや尿とりパッドなどの吸収性物品に用いられる薄葉紙に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつや尿とりパッド等の吸収性物品では、排泄物から発生する臭いに対する消臭技術に関し、これまでいくつかの提案がなされてきた。
例えば、特許文献1記載の薄葉紙は、カチオン性抗菌剤、多孔質粒子及びpH緩衝性消臭剤を含むものである。これにより、吸収性物品用における悪臭発生のメカニズムに対して時間軸及びpH軸のマトリックスで包括的に封じ込めることが記載されている。
特許文献2記載の吸収性物品において、ポリフェノール化合物及び塩基性化合物を前記吸収性樹脂とは異なる位置に配置している。これにより、前記化合物が吸収性樹脂に拘束され難くして消臭効果を高めようとしている。
特許文献3には、抗菌剤を含有し、乾燥引張強度が一定以上ある吸収性物品用の薄葉紙が記載されており、消臭効果と十分な強度を両立させている。
【0003】
【特許文献1】特開2016-169446号公報
【特許文献2】国際公開第2020/022442号
【特許文献3】実用新案登録第3225370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記吸収性物品においては、尿や軟便が表面シートから吸収体へと透過される過程で肌常在菌や便由来の大腸菌などの腸内細菌が尿や軟便に接触し作用する。これにより、酸性からアルカリ性までの幅広い臭い成分が排泄物中に発生し、この臭い成分が揮発して尿や軟便等の腐敗臭として感じられる。この点、前述の特許文献1記載の吸収性物品用の薄葉紙は、吸収性物品において酸性からアルカリ性までの幅広い臭い成分に対する優れた消臭効果が実現される。
しかし、近年では使う人のライフスタイルが多様化し、吸収性物品の使用場面が日常生活の中で多種多様になってきた。それに伴い、上記の腐敗臭などの発生を従来よりも一段と抑えたい、周囲の人に気付かれないようにしたいという要望が益々高まっている。加えて、吸収性物品における表面透過液について肌への液付着低減がより強く求められている。そのため、吸収性物品内において、肌に触れる表面シートのみならず、表面シート下に配される吸収性物品用薄葉紙との作用も併せて液透過時間の短縮化ができることが望ましい。しかし、吸収性物品用薄葉紙の液透過時間の単なる短縮は、該吸収性物品用薄葉紙が有する抗菌剤や消臭剤と液との接触時間の短縮及びそれによる抗菌、消臭作用等の低減に繋がりかねず、従来、液透過時間の短縮と抗菌、消臭効果の向上との両立が難しかった。このような問題及びこれに対する解決手段について特許文献1~3には示されていない。
【0005】
本発明は、上記の点を鑑み、酸性からアルカリ性までの幅広い臭い成分の発生を一段と抑えて、より高い消臭効果を奏し、同時に液透過時間の短縮を実現し得る吸収性物品用薄葉紙に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、セルロース繊維シート基材に、カチオン性抗菌剤0.005g/m2以上1.0g/m2以下、並びに、A剤:有機酸剤及びB剤:pH緩衝剤を含有し、前記カチオン性抗菌剤はアルキル基及び/又はアルケニル基を有し、前記カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が1質量%以上50質量%以下であり、平均空孔率が2.5%以上で、pHが3.0以上4.8以下である吸収性物品用薄葉紙を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸収性物品用薄葉紙は、酸性からアルカリ性までの幅広い臭い成分の発生を一段と抑えて、より高い消臭効果を奏し、同時に液透過時間の短縮を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】粘性液体透過時間の測定時に用いる測定装置の説明図である。
【
図2】(A)は、本発明の吸収性物品用薄葉紙に用いられるパルプの構成の好ましい形態について、抄紙工程直後の状態を模式的に示す説明図であり、(B)は、パルプを加圧脱水して得たセルロース繊維シート基材の状態を模式的に示す説明図である。
【
図3】(A)は、従来例のパルプの構成について、抄紙工程直後の状態を模式的に示す説明図であり、(B)は、パルプを加圧脱水して得たセルロース繊維シート基材の状態を模式的に示す説明図である。
【
図4】本発明の吸収性物品用薄葉紙の製造工程で用いられる水系塗布液の調製装置の一例を示す模式図である。
【
図5】本発明の吸収性物品用薄葉紙の製造工程で用いられる水系塗布液の噴霧装置の一例を示す模式図である。
【
図6】(A)は実施例2の吸収性物品用薄葉紙のシート面を撮像した図面代用写真であり、(B)は比較例3の吸収性物品用薄葉紙のシート面を撮像した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の吸収性物品用薄葉紙の好ましい一実施形態について以下に詳述する。
本発明の吸収性物品用薄葉紙は、セルロース繊維シート基材に、カチオン性抗菌剤0.005g/m2以上1.0g/m2以下、並びに、A剤:有機酸剤及びB剤:pH緩衝剤を含有させたものである。加えて、前記カチオン性抗菌剤はアルキル基及び/又はアルケニル基を有する。前記カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が1質量%以上50質量%以下である。なお、上記のカチオン性抗菌剤中のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量は、本発明の吸収性物品用薄葉紙に含まれるカチオン性抗菌剤中の、アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子全体の合計質量である。炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子は、該分子に炭素数16のアルキル基及び/又は炭素数16のアルケニル基を含むものを意味する。
【0010】
カチオン性抗菌剤は、坪量0.005g/m2以上で含有されることで、カチオン性抗菌剤が臭い成分の産生源を絶つ(生物学的消臭作用)。すなわち、排泄液の液相において、臭い成分の産生原因である微生物や微生物由来の酵素の増殖を抑える。これにより、尿や軟便等の液状の排泄物が菌との接触で腐敗進行することが抑制され、臭い成分の発生が抑制される。
また、カチオン性抗菌剤が1.0g/m2以下であることで、本発明の吸収性物品用薄葉紙による肌への刺激性を抑えることができ、液状の排泄物の透過性を良好にすることができる。
【0011】
上記作用をより効果的にする観点から、カチオン性抗菌剤の含有坪量は、0.007g/m2以上が好ましく、0.01g/m2以上がより好ましい。また、カチオン性抗菌剤の含有坪量は、1.0g/m2以下が好ましく、0.2g/m2以下がより好ましく、0.05g/m2以下が更に好ましい。
【0012】
(カチオン性抗菌剤の含有坪量の測定方法)
カチオン性抗菌剤の含有坪量は、次の方法により測定することができる。
市販の製品等から分析する場合には、ドライヤーやコールドスプレーなどを用いて、各部材を剥がし、対象となる薄葉紙を得る。その後、薄葉紙中のカチオン性抗菌剤の含有坪量は、液体クロマトグラフ/質量分析計(アジレント・テクノロジー株式会社製6140 LC/MS、イオン化法:ESI)にて測定することができる。あるいは、検量線を作成し、これに基づいてカチオン性抗菌剤の含有量を測定することもできる。
【0013】
A剤の有機酸剤及びB剤のpH緩衝剤は、液状の排泄物の液相において前記カチオン性抗菌剤で抑えきれずに産生される臭い成分を中和し、中和塩として液相に留まらせる(化学的消臭作用)。これにより、例えば、酢酸等の脂肪酸類やアンモニア、トリメチルアミン等のアミン類、フェノール類、メルカプタン類等の酸性から中性、アルカリ性まで種々の臭い成分が中和消臭される。
【0014】
本発明の吸収性物品用薄葉紙は、pH3.0以上4.8以下と酸性寄りに制御されている。この酸性寄りの環境下で、カチオン性抗菌剤0.005g/m2以上1.0g/m2以下、並びに、A剤:有機酸剤及びB剤:pH緩衝剤が酸性領域でも緩衝能を維持することで消臭性能を向上し、その結果、協働して酸性からアルカリ性までの臭い成分(例えば酢酸やアンモニア)の発生及び揮発を効果的に抑えることができる。特に前述の酸性寄りの環境下で、尿や軟便等の液状の排泄物が菌との接触によって時間と共に腐敗進行することを、素早く効果的に抑えることができる。
なお、本発明の吸収性物品用薄葉紙のpHはその温度に依存するところ、本発明に言う前記pHとは、23℃の温度におけるpHのことである。
【0015】
本発明の吸収性物品用薄葉紙のpHは、上記作用をより効果的にする観点から、4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましい。
また、前記pHは、消臭性能をより高める観点から、3.2以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。前記pHは、A剤及びB剤の種類及び含有量等により適宜設定することができる。
【0016】
(吸収性物品用薄葉紙のpHの測定方法)
(社)日本衛生材料工業連合会の紙おむつ自主規格(材料)III規格及び試験方法、2.吸収材(2)試験方法及び測定方法 ロpH に基づき次の手順で測定する。すなわち、薄葉紙15gを生理食塩水(大塚製薬製;0.9w/w%生理食塩水) 150mlに浸し、かき混ぜろ過し、そのろ液100mlをとり、あらかじめ調整されたpHメーター(HORIBA社製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(D-53)を用いてpHを計側する。
【0017】
A剤の有機酸剤の含有坪量は、消臭性能をより高める観点、薄葉紙における前述のpHをより良好に制御する観点から、0.02g/m2以上が好ましく、0.04g/m2以上がより好ましく、0.05g/m2以上が更に好ましい。また、A剤の有機酸剤の含有坪量は、消臭性能をより高める観点から、0.2g/m2以下が好ましく、0.1g/m2以下がより好ましく、0.05g/m2以下が更に好ましい。
B剤のpH緩衝剤の含有坪量は、消臭性能をより高める観点、薄葉紙における前述のpHをより良好に制御する観点から、0.02g/m2以上が好ましく、0.04g/m2以上がより好ましく、0.05g/m2以上が更に好ましい。また、B剤のpH緩衝剤の含有坪量は、消臭性能をより高める観点から、0.2g/m2以下が好ましく、0.1g/m2以下がより好ましく、0.05g/m2以下が更に好ましい。
なお、A剤の有機酸剤の含有坪量及びB剤のpH緩衝剤の含有坪量は、前述の(カチオン性抗菌剤の含有坪量の測定方法)を準用して測定することができる。
【0018】
加えて、前記カチオン性抗菌剤はアルキル基及び/又はアルケニル基を有し、前記カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が1質量%以上50質量%以下と、比較的炭素鎖が長いものの割合を低く抑えている。これにより、前述の酸性寄りの環境下で、カチオン性抗菌剤が凝集することが抑制される。その結果、前記カチオン性抗菌剤は、本発明の吸収性物品用薄葉紙の中で分散性良く配置され、その抗菌作用の均一性が高められる。前記凝集抑制の作用は、後述の本発明の吸収性部用薄葉紙の製造方法においても発現されて良好な製造を可能とする(例えば、水系塗布液を塗布するために用いるスプレーノズルの詰まりを好適に防止できる)。また上記の凝集抑制の作用によって、前記カチオン性抗菌剤は、本発明の吸収性物品用薄葉紙内の尿や軟便等の排泄液との接触の際に、前述の酸性寄りの環境下でもイオンになりやすく、抗菌活性を発揮しやすい。
【0019】
上記作用をより良好にする観点から、カチオン性抗菌剤はアルキル基及び/又はアルケニル基を有し、前記カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が1質量%以上45質量%以下が好ましく、2質量%以上30質量以下が好ましく、3質量%以上30質量以下がより好ましい。
この場合、炭素数12のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が54質量%以上65質量%以下が好ましく、55質量%以上62質量%以下がより好ましい。
また、炭素数14のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が30質量%以上40質量%以下が好ましく、32質量%以上38質量%以下がより好ましい。
【0020】
(カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合の測定方法)
カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合は例えば以下の方法などにより求めることができる。分析方法としては、液体クロマトグラフィー(LC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、イオンクロマトグラフィー、質量分析(MS)、近赤外分光分析(NIR)、フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)、核磁気共鳴分析(NMR)、フーリエ変換核磁気共鳴分析(FT-NMR)、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)、ガスクロマトグラフィーと質量分析とを組合せたGC/MS、液体クロマトグラフと質量分析とを組合せたLC/MS等の機器分析方法があげられるが、この中で質量分析による方法が好ましく、特にGC/MSやLC/MSによる質量分析方法がより好ましい。
本明細書においては、炭素数が6以上のアルキル基及び/又はアルケニル基を有する分子の合計質量割合をカチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合とした。
LCによる試料の処理方法の一例としては、試料0.5gに1級メタノールを加えて50mLに調整する方法があげられるが、各分析条件はカチオン性抗菌剤の種類に応じて適宜変更される。
【0021】
更に、本発明の吸収性物品用薄葉紙は、平均空孔率が2.5%以上であることで、尿や軟便等の液状の排泄物の液透過率が高められ、液透過時間の短縮が実現される。この吸収性物品用薄葉紙を組み込んだ吸収性物品において、液状の排泄物、特に軟便の吸収性が向上し、濡れ広がりを抑えた良好なスポット吸収(小さな面積での吸収)が実現し得る。これにより、液状の排泄物と皮膚との接触面積を抑えることができる。これにより前記吸収性物品における優しい肌触りが得られる。同時に、液透過時間が短縮されても、本発明の吸収性物品用薄葉紙が前述のとおり、カチオン性抗菌剤、A剤及びB剤を特定量で含有し、pHを上記の特定の範囲に制御することで、酸性からアルカリ性までの幅広い臭い成分の発生を一段と抑制することができる。
【0022】
前記平均空孔率は、液透過性をより高める観点から、2.8%以上が好ましく、3.0%以上がより好ましい。
また、前記平均空孔率は、紙力強度をより高める観点から、4.0%以下が好ましく、3.5%以下がより好ましく、3.2%以下が更に好ましい。
【0023】
(平均空孔率の測定方法)
測定対象の吸収性物品用薄葉紙を、MD方向に30mm、CD方向に30mmの正方形の形状で切り出し、サンプルとする。このサンプルを、内径約30mm、高さ約10mmの黒色リングとともにマイクロスコープ(商品名:VHX-6000、株式会社キーエンス製)のステージ上に載置し、サンプルをステージから離間させた状態にする。
ユニバーサルズームレンズ(商品名:VH-Z20RZ、株式会社キーエンス製)を用い、レンズ先端に照明アダプタは装着せずに、観察倍率を50倍(観察エリア7mm×5.2mm)にて、画像設定をモノクロ、ガンマ値を10にし、解像度を約230画素/mm(全体200万画素)にして、位置の異なる3か所についてサンプル表面の写真を撮像する。
撮像した画像に対して、解析ソフトとしてImage-Pro(バージョン:10.0.11Build7377,Media Cybernetics,Inc)を用い、孔の部分の面積を測定する。分解能は225ピクセル/mmとし、孔の面積として1.96×10-5mm2以上(真円の直径として5.0μm以上に相当)のものについて計測する。画像処理として2値化はモノクロモードにて、255階調のうち、下限を0、上限を75として孔の部分を抽出し、空間校正後、2値化により選択された部分の面積を計測する。
このようにして測定した孔の総面積を、写真に映ったサンプルの面積で除し、上記3か所の平均を薄葉紙の「平均空孔率」とする。
【0024】
このように、本発明の吸収性物品用薄葉紙は、酸性からアルカリ性までの幅広い臭い成分の発生を一段と抑えて、より高い消臭効果を奏し、同時に液透過時間の短縮を実現し得るものとなる。
【0025】
本発明の吸収性物品用薄葉紙において、前述の平均空孔率による軟便のスポット吸収(小さいな面積での吸収)の高さを示すものとして、軟便に相当する粘性液体(粘度290mPa・s)透過時間が600秒以下であることが好ましく、500秒以下であることがより好ましく、400秒以下であることが更に好ましい。
また、前記粘性液体透過時間は、紙力強度をより高める観点から、100秒以上であることが好ましく、150秒以上であることがより好ましく、200秒以上であることが更に好ましい。
【0026】
(粘性液体透過時間の測定方法)
測定対象の吸収性物品用薄葉紙を、MD方向に20mm、CD方向に20mmの正方形の形状で切り 出し、サンプルとする。
図1に示すように、上下端が開口している内径35mmの2本の円筒91,92を、両円筒91,92の軸を一致させて上下に配し、切り出したサンプルSを上下の円筒91,92間に挟み込む。このとき、上側の円筒91の下端及び下側の円筒92の上端に設けられた環状のフランジ部にクリップ93を嵌合させ、上下の円筒91,92を連結させる。
パッキン94は、円筒91,92の内径と同径同形状の貫通孔を有し、シリコーン等の素材からなる。このように、上下の円筒91,92で測定対象シートを挟持固定した状態で、上側の円筒91内に、粘度290mPa・sの粘性液体Wを10.5g±0.2g供給する。供給された粘性液体Wは、測定対象シートSを透過するか吸収されて上側の円筒91内から無くなる。粘性液体Wの供給開始時から、粘性液体Wの液面が測定対象シートSの表面(上側の円筒91側の面)から落下した質量が9.5gになるまでの時間を測定し、その時間を液透過時間とする。なお、粘性液体Wは、グリセリンと脱イオン水とを、前者:後者=94:6の質量比で混合して調製される。290mPa・sという粘度は、室温23℃±2℃、相対湿度50%RH±2%の環境下で、粘度計(商品名:TM-10M、東機産業株式会社製)を用いて測定される。
【0027】
次に、本発明の吸収性物品用薄葉紙に含有されるカチオン性抗菌剤、A剤:有機酸剤、及びB剤:pH緩衝剤の好ましい例について説明する。
【0028】
カチオン性抗菌剤としては、上述の抗菌作用を有するものを特に制限なく用いることができる。例えば特開平8-99841号公報の明細書の段落[0015]~[0018]に記載のものがある。これらのカチオン性抗菌剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。カチオン性抗菌剤は、有機化合物系の抗菌剤で、銀、亜鉛、銅等の金属イオン系よりも尿等の排泄液への溶出が多く抗菌作用が広範囲である。特に、ジデシルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ベンゼトニウム塩、ベンザルコニウム塩、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられ、これらからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。これらのカチオン性抗菌剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
そのなかでも、抗菌性と安全性(皮膚への低刺激性)の観点から、下記式(1)や式(2)で表されるベンザルコニウム塩が好ましい。
【0030】
【0031】
式(1)中、R1及びR2は、同一の若しくは異なるメチル基、エチル基又は炭素数8以上20以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。X-は一価のアニオンを表す。
【0032】
【0033】
式(1)及び式(2)で表されるもののうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。式(1)中、R1及びR2の好ましい組み合わせとしては、例えばR1がメチル基であり、R2が炭素数8以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である組み合わせや、R1及びR2が同一の基であり、かつ該基が炭素数8以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である組み合わせが挙げられる。これらの組み合わせにおいて、アルキル基の炭素数は、10以上18以下であることが更に好ましい。
【0034】
式(1)中、X-で表される一価のアニオンは、例えばハロゲン化物イオンやアニオン活性基であることが好ましい。「アニオン活性基」とは、陰イオン性の界面活性能を有するイオンのことを言う。
該アニオン活性基としては、炭素数6以上、特に炭素数10以上であり、また、炭素数20以下、特に炭素数18以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を含むアニオン性活性基を用いることが好ましい。そのようなアニオン活性基として、例えばアルキルリン酸エステル塩やアルキルカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩を用いることが、抗菌能の点で好ましい。特に下記式(3)で表されるアルキルリン酸を用いることが、抗菌能が一層高くなる点で好ましい。
【0035】
【0036】
式(3)中、R3及びR4の一方は炭素数6以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を表し、もう一方は水素原子、メチル基又はエチル基を表す。
R3とR4の好ましい組み合わせとしては、R3が水素原子であり、R4が炭素数8以上20以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である組み合わせが挙げられる。アルキル基の炭素数は、10以上18以下であることが更に好ましい。長鎖アルキルのカチオン性活性基(四級アミン)をもつことで、紙の風合い(柔軟性)が向上し、薄葉紙として好ましい。
【0037】
上記のベンザルコニウム塩の中でも、低濃度で高い抗菌性能を発現させる観点から、X-で表される一価のアニオンがハロゲン化物イオンであることが好ましい。
【0038】
A剤の有機酸剤としては、アルカリ性の臭い成分を中和し得る種々のものを採用することができる。例えば、弱酸やその共役塩基、あるいはそれらの混合物などが挙げられる。具体的には、弱酸としては、クエン酸等が挙げられる。その塩としては、Na、K、Ca等のアルカリ金属塩が挙げられる。例えば弱酸としてのクエン酸が単独であれば、臭い成分の一つであるアミンやアンモニア等のアルカリ臭を中和消臭できる。さらに、中和により、クエン酸の塩が生成し、副次的に緩衝作用が生じる。またクエン酸ナトリウムの単体だけであっても、クエン酸とその塩との混合物であっても、緩衝作用が生じ得る。
【0039】
A剤の有機酸剤には、少なくとも一つの酸解離指数pKa(25℃)が5.0以上の有機酸及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。有機酸の塩とは、Na、K、Ca等の金属塩である。
【0040】
酸解離指数は、例えば、(a)The Journal of Physical Chemistry vol.68, number6, page1560(1964)記載の方法、(b)平沼産業株式会社製の電位差自動滴定装置(COM-980Win(商品名)等)を用いる方法等により測定することができ、また、(c)日本化学会編の化学便覧(改訂3版、昭和59年6月25日、丸善株式会社発行)に記載の酸解離指数、(d)コンピュドラッグ(CompuDrug)社製のpKaBASE(商品名)等のデータベース等を利用することができる。
【0041】
少なくとも一つの酸解離指数pKa(25℃)が5.0以上の有機酸は、例えば有機二塩基酸として、マレイン酸(2段目pKa値:5.83。以下の( )内の数値は2段目pKa値を表す。)、マロン酸(5.28)、2-メチルマロン酸(5.76)、2-エチルマロン酸(5.81)、2-イソプロピルマロン酸(5.88)、2,2-ジメチルマロン酸(5.73)、2-エチル-2-メチルマロン酸(6.55)、2,2-ジエチルマロン酸(7.42)、2,2-ジイソプロピルマロン酸(8.85)、m-ヒドロキシ安息香酸(9.96)、p-ヒドロキシ安息香酸(9.46)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸(トランス体:6.06、シス体:6.74)、1,2-シクロペンタンジカルボン酸(トランス体:5.99、シス体:6.57)、1,2-シクロオクタンジカルボン酸(トランス体:6.24、シス体:7.34)、1,2-シクロヘプタンジカルボン酸(トランス体:6.18、シス体:7.6)、コハク酸(5.24)、フェニルコハク酸(5.55)、2,3-ジメチルコハク酸(6.0)、2,3-ジエチルコハク酸(6.46)、2-エチル-3-メチルコハク酸(6.1)、テトラメチルコハク酸(7.41)、2,3-ジ-t-ブチルコハク酸(10.26)、3,3-ジメチルグルタル酸(6.45)、3,3-ジエチルグルタル酸(7.42)、3-イソプロピル-3-メチルグルタル酸(6.92)、3-t-ブチル-3-メチルグルタル酸(7.49)、3,3-ジイソプロピルグルタル酸(7.68)、3-メチル-3-エチルグルタル酸(6.70)、3,3-ジプロピルグルタル酸(7.48)、2-エチル-2-(1-エチルプロピル)グルタル酸(7.31)、シクロヘキシル-1,1-ジ酢酸(7.08)、2-メチルシクロヘキシル-1,1-ジ酢酸(6.89)、シクロペンチル-1,1-ジ酢酸(6.77)、3-メチル-3-フェニルグルタル酸(6.17)、3-エチル-3-フェニルグルタル酸(6.95)等が挙げられる。
【0042】
また有機多塩基酸として、クエン酸(3段目pKa値:5.69)等が挙げられる。これらの中では、入手が容易で、ガス発生による内圧の増加等保存安定性の点から、少なくとも一つの解離段における酸解離指数(pKa)が5.2以上の、リン酸、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸等からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、特にクエン酸が好ましい。
【0043】
B剤のpH緩衝剤としては、酸性の臭い成分を中和し得る種々のものを採用することができる。例えば、弱塩基やその共役酸、あるいはそれらの混合物などが挙げられる。具体的には、ポリヒドロキシアミン化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
B剤のポリヒドロキシアミン化合物は下記式(4)で表される化合物である。
【0044】
【0045】
式(4)中、R5は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のヒドロキシアルキル基を示す。
炭素数1~5のアルキル基は、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基が挙げられる。また、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基等が挙げられる。
R5は、消臭性能及び入手性の観点から、上記の中では水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基が好ましく、特に水素原子、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0046】
R6は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~5のヒドロキシアルキル基を示す。
炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、炭素数1~5のヒドロキシアルキル基としては、上記のものが挙げられる。
R6は、消臭性能及び入手性の観点から、上記の中では水素原子、炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシエチル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。
【0047】
R7及びR8は、炭素数1~5のアルカンジイル基を示す。R7及びR8は、同一でも異なっていてもよい。
炭素数1~5のアルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン-1,2-ジイル基、テトラメチレン基等が好ましく、特にメチレン基が好ましい。
【0048】
B剤のポリヒドロキシアミン化合物の具体例としては、例えば、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-ヒドロキシエチル-1,3-プロパンジオール、4-アミノ-4-ヒドロキシプロピル-1,7-ヘプタンジオール、2-(N-エチル)アミノ-1,3-プロパンジオール、2-(N-エチル)アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-(N-デシル)アミノ-1,3-プロパンジオール、2-(N-デシル)アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。
これらの中では、消臭性能等の観点から、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-ヒドロキシエチル-1,3-プロパンジオールから選ばれる1種以上が特に好ましい。
特に、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、すなわち、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが、酸性臭に対する優れた中和作用を有し、また揮発性が低いためにそれ自体の臭いが少ないので、好ましい。
【0049】
上記のポリヒドロキシアミン化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。なお、ポリヒドロキシアミン化合物は通常の方法により製造することができる。
【0050】
本発明の吸収性物品用薄葉紙においては、A剤の有機酸剤としてクエン酸、B剤のpH緩衝剤としてトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含有することが好ましい。このA剤及びB剤が、薄葉紙のpHを前述の酸性寄りにして、前述のカチオン性抗菌剤と組みわせてセルロース繊維シート基材に含有される。この組合せにより酸臭及びアルカリ臭だけでなく、A剤及びB剤で抑えきれない中性付近の臭いも含めて、臭い成分全体の産生を強力に抑える。その結果、この吸収性物品用薄葉紙を使用した吸収性物品では、長時間装着しても周囲からは排泄液の臭いがほとんど気づかないレベルの消臭性を維持することができる。
また、この組み合わせにおいては、後述する吸収性物品用薄葉紙の製造過程で、特定の混合割合の塗料とするとカチオン性抗菌剤の粒子が小粒径化し均一な塗布が可能となる。これにより、本発明の吸収性物品用薄葉紙の抗菌性が向上する。
【0051】
次に、本発明の吸収性物品用薄葉紙の基材となるセルロース繊維シート基材について説明する。
セルロール繊維シート基材は、次に説明するようなセルロース繊維からなり、単層であってもよく、2層以上の複数層であってもよい。あるいは、2プライ以上の複数のシートを重ね合わせたものであって、該複数のシートのうちのいずれか一つにセルロース繊維が含まれているものであってもよい。特に、吸収性物品に組込んだときに、セルロール繊維シート基材が複数層の場合には排泄液のコアへの移行、吸収を妨げたり、吸収性物品が硬くなり使用者の装着感を損ねたりする場合があるため、単層であることが好ましい。
【0052】
セルロール繊維シート基材は、吸収性物品における具体的な適用位置に応じて、適切な坪量のものが用いられる。例えば薄葉紙を、吸収性物品における吸収性コアの被覆に用いる場合には、セルロール繊維シート基材の坪量は、8g/m2以上が好ましく、13g/m2以上がより好ましい。また、40g/m2以下が好ましく、20g/m2以下がより好ましい。
【0053】
前記セルロール繊維シート基材には、本発明の前述の効果を奏する限り、種々の原料を用いることができる。例えば、天然繊維や再生繊維を用いることができる。
天然繊維としては、具体的には針葉樹晒クラフトパルプ(以下、NBKPともいう)や広葉樹晒クラフトパルプ(以下、LBKPともいう)等の木材パルプや木綿パルプ、ワラパルプ等の非木材パルプが挙げられる。
再生繊維としては、レーヨン、キュプラ等が挙げられる。
前記セルロール繊維シート基材には、合成繊維が含まれてもよい。合成繊維としては、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)繊維、ポリエチレン(以下、PEともいう)繊維、ポリプロピレン(以下、PPともいう)繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、NBKPを用いることが好ましい。
【0054】
また、前記セルロール繊維シート基材には、紙力強度の低下を抑えつつ、前述の液透過性(特に粘性液体透過性)を高める観点から、繊維粗度(mg/m)の小さいパルプ(径の細いパルプ)と繊維粗度の大きい(径の太いパルプ)とを組み合わせて用いることが好ましい。繊維粗度の小さいパルプを用いると、一般に薄葉紙の乾燥引張強度が大きくなる。また、繊維粗度の大きいパルプを用いると、一般に薄葉紙の液透過性が向上する。従って、その両方を薄葉紙の基材に用いることで、高い乾燥引張強度を保持しながら、同時に、繊維間の隙間を適度に広げることができ、優れた液透過性(特に粘性液体透過性)を実現し得る。
【0055】
例えば、
図2(A)及び(B)に示すように、大小の繊維粗度(太径及び細径)のパルプ81及び82を抄紙して網89上に載置した状態から加圧脱水することで、繊維粗度の異なるパルプ81及び82間の隙間が適度に広がる。これにより前述の優れた液透過性(特に粘性液体透過性)が実現され得る。これに対し、
図3(A)及び(B)に示すように、従来例のパルプ81(繊維粗度が同じパルプ81を用いた構成)を抄紙して網89上に載置した状態から加圧脱水してもパルプ81間の隙間は広がらず、この点で液透過性の向上には至らない。
このように、本発明の吸収性物品用薄葉紙において、セルロース繊維シート基材を大小の繊維粗度のパルプを組み合わせた構成とすることが、液透過性(特に粘性液体透過性)の向上の観点から好ましい。
【0056】
大小の繊維粗度のパルプを組み合わせる場合、該繊維粗度の差は、前述の液透過性(特に粘性液体透過性)を高める観点から、0.01mg/m以上が好ましく、0.02mg/m以上がより好ましい。
また、前記繊維粗度の差は、紙力強度の低下を抑える観点から、0.05mg/m以下が好ましく、0.04mg/m以下がより好ましい。
【0057】
大小の繊維粗度のパルプを組み合わせる場合、繊維粗度の小さいパルプの含有質量(N1)に対する繊維粗度の大きいパルプの含有質量比(N2)の比(N2/N1)は、前述の液透過性(特に粘性液体透過性)を高める観点から、30/70以上が好ましく、40/60以上がより好ましく、45/55以上が更に好ましい。
前記比(N2/N1)は、紙力強度の低下を抑える観点から、70/30以下が好ましく、60/40以下がより好ましく、55/45以下が更に好ましい。
【0058】
前記NBKPの市販品の具体例としては、Cenibra(商品名、繊維粗度0.09mg/m、Cenibra社製)、Northwood(商品名、繊維粗度0.13mg/m、ConFor社製)、Cariboo(商品名、繊維粗度0.15mg/m、Cariboo Pulp and Paper Company社製)、Botnia(商品名、繊維粗度0.16mg/m、BOTNIA社製)、Alabama Pine(商品名、繊維粗度0.17mg/m、Alabama Pine,Inc社製)、ARAUCO(商品名、繊維粗度0.18mg/m、ARAUCO社製)、Crofton(商品名、繊維粗度0.2mg/m、Unifibra社製)等が挙げられる。
【0059】
セルロール繊維シート基材は、上述したセルロース繊維のみから構成されていてもよく、あるいはセルロース繊維に加えて他の繊維が含まれていてもよい。他の繊維としては、例えば熱融着性繊維が挙げられる。熱融着性繊維としては、加熱により溶融し相互に接着する繊維を用いることができる。熱融着性繊維の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニルアルコール等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン-ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン-ポリエステル複合繊維、低融点ポリエステル-ポリエステル複合繊維、繊維表面が親水性であるポリビニルアルコール-ポリプロピレン複合繊維、並びにポリビニルアルコール-ポリエステル複合繊維等を挙げることができる。複合繊維を用いる場合には、芯鞘型複合繊維及びサイド・バイ・サイド型複合繊維のいずれをも用いることができる。これらの熱融着性繊維は、各々単独で用いることもでき、又は2種以上を混合して用いることもできる。
【0060】
熱融着性繊維は、その繊度が0.1dtex以上、特に0.5dtex以上であり、ま た、3dtex以下であることが好ましい。また、繊維シートを例えば湿式抄造法で製造 する場合、熱融着性繊維は、一般にその繊維長が2mm以上60mm以下であることが好 ましい。更に熱融着性繊維は、繊維シート中に1質量%以上30質量%以下含まれていることが好ましい。
【0061】
セルロース繊維シート基材には、上述した繊維成分に加えて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては例えば紙力補強剤が挙げられる。紙力補強剤としては、例えばポリアミン・エピクロルヒドリン樹脂、ジアルデヒドデンプン、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。これらの紙力補強剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。紙力補強剤は、セルロース繊維シート基材中に0.01質量%以上30質量%以下、特に0.01質量%以上20質量%以下含まれていることが好ましい。
【0062】
本発明の吸収性物品用薄葉紙において、前述した作用を損なわない範囲において、他の剤を含有するものであってもよい。例えば、多価アルコール、界面活性剤、他の消臭剤、一般に使用される各種の溶剤、油剤、ゲル化剤、硫酸ナトリウムやN,N,N-トリメチルグリシン等の塩、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、殺菌・抗菌剤、香料、色素、紫外線吸収剤、キレート剤、天然エキス、緑茶抽出エキスなどを含有するものであってもよい。
【0063】
次に、本発明の吸収性物品用薄葉紙の製造方法の好ましい実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法は次の工程を有する。
(i)セルロース繊維の懸濁液(スラリー)を、抄紙ワイヤー又は網を使って抄紙・脱水し多孔質粒子を担持させた湿紙(乾燥する前のセルロース繊維シート基材)を形成する工程。この工程の前段階で、パルプの繊維を、機械的にほぐす叩解を行うことが好ましい。これにより、パルプの繊維表面のフィブリルが増加し、パルプ同士の水素結合を増やすことができる。その結果、乾燥紙力強度の大きな薄葉紙を製造できる。パルプの叩解の方法は、通常用いられる種々の方法で行うことができる。例えば、パルプを分散させたスラリーに対して、リファイナー、ビーター、ディスクリファイナー等の叩解機を用いて常法により行うことができる。
(ii)カチオン性抗菌剤、A剤の有機酸剤、及びB剤のpH緩衝剤を含み、かつ、pHが3.0以上4.8以下である水系塗布液を調製する工程。
(iii)該水系塗布液を前記湿紙へ塗布する工程。
【0064】
前記(i)の工程は、通常の湿式抄紙製造装置を用いて通常の方法により実施することができる。
前記(ii)の工程では、カチオン性抗菌剤、A剤:有機酸剤、及びpH緩衝剤と水とを混合することに水系塗布液を得られる。上記のpHが3.0以上4.8以下は、カチオン性抗菌剤に対して、A剤/B剤の含有質量比を前述のように57/43以上70/30以下の範囲にて含有量を適宜設定することで実現できる。なお、水系塗布液のpHはその温度に依存するところ、本発明に言う水系塗布液のpHとは、該水系塗布液をセルロース繊維シート基材に付与するときの該水系塗布液の温度におけるpHのことである。
【0065】
(水系塗布液のpHの測定方法)
JIS Z 8802:2011のpH測定方法に準じて、HORIBA社製のガラス電極式水素イオン濃度指示計を用いて測定することができる。
【0066】
pHを上記範囲にされた水系塗布液において、カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合は1質量%以上50質量%以下とする。すなわち、前記水系塗布液において、カチオン性抗菌剤中の比較的炭素鎖が長いものの割合を低く抑えている。これにより、酸性寄りの水系塗布液において、カチオン性抗菌剤は、イオンにならずに凝集することが抑制され、水系塗布液への溶解性が高くされる。これにより、カチオン性抗菌剤は、水系塗布液中に良好に分散して溶解し、次の前記(iii)の塗布する工程を良好にする。より具体的には、塗布する工程で用いられるスプレーノズル等の塗布具が詰まらず、円滑に迅速に前記塗布する工程を行うことができる。
【0067】
この観点から、水系塗布液のpHは、4.5以下が好ましく、4.2以下がより好ましく、4.0以下が更に好ましい。
また、水系塗布液のpHは、本発明の薄葉紙の消臭性能を高める観点から、2.5以上が好ましく、2.7以上がより好ましく、3.0以上が更に好ましい。
【0068】
前記水系塗布液の円滑で迅速な塗布を示す値として、カチオン性抗菌剤0.005g/m2以上1.0g/m2以下、A剤の有機酸剤、及びB剤のpH緩衝剤を含む水系塗布液は、目開き100μmの金属製メッシュの通過時間が10秒以下であることが好ましく、5.0秒以下であることがより好ましい。前記の目開きは、水系塗布液を塗布する際に用いるノズルの孔径を想定したものである。
【0069】
(水系塗布液の目開き100μmの金属製メッシュ通過時間の測定)
前述の(粘性液体透過時間の測定方法)を準用して測定することができる。
具体的には、
図1に示す装置において、符号Sで示される測定対象シートを目開き100μmの金属製メッシュにかえ、符号Wで示される粘性液体を前述の水系塗布液にかえる。
前記水系塗布液(恒温室:23℃/相対湿度65%RH、で測定)を100g±0.5gを供給する。供給された水系塗布液は、測定対象の目開き100μmの金属製メッシュを透過して円筒91内からなくなる。前記水系塗布液の供給開始時から、前記水系塗布液の液面が測定対象の目開き100μmの金属製メッシュ(上側の円筒91側の面)から落下して無くなるまでの時間を測定し、その時間を前記水系塗布液の通過時間とする。
【0070】
水系塗布液中のカチオン性抗菌剤の濃度は、薄葉紙における前述の含有坪量とし、十分な抗菌性を付与する観点から、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが更に好ましい。また、水系塗布液の粘度が過度に上昇しないようにする観点から、前記抗菌剤の濃度は5.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることが更に好ましい。
また、水系塗布液中のA剤及びB剤の合計濃度は、上記のpHの調製を行いつつ、酸性からアルカリ性までの広い範囲の臭い成分に対する中和消臭性を付与する観点から、10.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることが更に好ましい。また、吸収性物品の尿等の排泄物の臭いを消臭するのに効果を発揮する上限値としては、水系塗布液中のA剤及びB剤の合計濃度は5.0質量%以下であることが好ましい。
【0071】
水系塗布液は、その粘度が80mPa・s、特に65mPa・s以下、とりわけ20mPa・s以下であることが好ましい。粘度をこの値以下に設定することによって、該水系塗布液を首尾よく繊維シートに噴霧することが可能になる。水系塗布液の粘度はその温度に依存するところ、本発明に言う水系塗布液の粘度とは、該水系塗布液を繊維シートに付与するときの該水系塗布液の温度における粘度のことである。水系塗布液の粘度は、前記抗菌剤の濃度や該水系塗布液のpHによって調整することができる。水系塗布液の粘度は、B型粘度計TVB-10M(東機産業株式会社製)を用いて測定される。
【0072】
前記(ii)の工程は、例えば
図4に示す装置により実施することができる。まず、原液タンク10中に、水系塗布液の成分である水、カチオン性抗菌剤、有機酸剤及びpH緩衝剤を仕込み、必要に応じ更にキレート剤を仕込む。これらの成分を、撹拌翼11を用いて十分に混合することで、水系塗布液の原液を調製する。原液タンク10に貯留されている原液は、必要により希釈水Wによって希釈され、希釈タンク12において撹拌翼13を用い十分に混合される。また、このようにして得られた水系塗布液は、必要によりストレーナ14を通過することで粗大物が除去され、ポンプ15によって噴霧ノズル16へ送液される。
【0073】
前記(iii)の工程では、前記(ii)の工程で得た水系塗布液を前記(i)の工程で得た湿紙へ塗布する。この塗布は、例えば
図4に示す噴霧ノズル16を介してスプレー法により塗布することができる。塗布方法としては、このスプレー法に限定されるものではなく、通常用いられる種々の方法で行うことができる。例えば、刷毛塗り法、バーコーター、グラビアコーター、各種ロールコーター、浸漬法などが挙げられる。なかでも湿紙への均等な塗布の観点からスプレー法が好ましい。
このような前記(iii)の工程は、例えば
図5に示す装置により実施することができる。
図5に示すとおり湿紙20は、湿潤状態のまま第1搬送ベルト21に搬送されて一対のプレスロール22,22で挟圧されて脱水される。次いで第2搬送ベルト23に搬送されてヤンキードライヤ24に導入される直前に、湿紙20の一面に対して前記水系塗布液が噴霧ノズル16による噴霧によって付与される。具体的には、ヤンキードライヤ24の導入部には、該ヤンキードライヤ24の周面に対向するようにタッチロール25,25が配置されている。湿紙20は第2搬送ベルト23とともに、タッチロール25,25に案内されてヤンキードライヤ24に導入される。そしてタッチロール25,25に案内される直前に、湿紙20の一面に、噴霧ノズル16から噴霧された水系塗布液が付与される。
図5に示す方法では、湿紙20における一方の面(この面を第1面といい、その反対側を第2面という。)に対して、水系塗布液が付与される。ただし、一方の面にのみ塗布する場合に限らず、両方の面に塗布する方法であってもよい。
【0074】
水系塗布液が付与された湿紙20は、湿潤状態のままヤンキードライヤ24の周面に保持されて搬送される。そして、その搬送の間に加熱されて水分が除去され乾燥される。その後、ドクターブレード26によってヤンキードライヤ24の周面から剥離されて、吸収性物品用薄葉紙27が得られる。なお、湿紙20が乾燥によりヤンキードライヤ24の表面で剥がれバタつくのを防止する観点から、ヤンキードライヤ24の表面に、接着剤等の密着性を向上させる剤を湿紙20が導入される位置の手前で付与することもできる。
【0075】
本発明の吸収性物品用薄葉紙は、排泄液を吸収保持する種々の吸収性物品に適用される。例えば、尿とりパッドや使い捨ておむつ、生理用ナプキン、パンティライナ等が挙げられる。また、本発明の吸収性物品用薄葉紙は、吸収性物品において、種々の構成部材として用いることができる。例えば、吸収性物品を構成する表面シート及び裏面シートの間に介在する、液保持性の吸収性コアを被覆するコアラップシートとして、本発明の吸収性物品用薄葉紙を適用することができる。また、表面シートと吸収体との間のサブレイヤーとして、本発明の吸収性物品用薄葉紙を適用することができる。
【実施例0076】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において組成を示す「部」および「%」とは特に断らない限りいずれも質量基準である。「←」は、左側の欄と同じ内容であることを意味する。「-」は、その欄の値が無いことを意味する。
【0077】
(実施例1)
(1)水系塗布液の調製
カチオン性抗菌剤として塩化ベンザルコニウム(花王株式会社製、サニゾール(登録商標)B50)を用いた。この塩化ベンザルコニウムは、前述の式(1)中のX-で表される一価のアニオンが塩化物イオンであった。前記カチオン性抗菌剤中のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合は7.0質量%であった。A剤の有機酸としてクエン酸を用い、B剤のpH緩衝剤としてトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いた。A剤/B剤の含有質量比は表1に示す通りとした。これらをイオン交換水と混合して水系塗布液を得た。前記水系塗布液のpH及び前記水系塗布液の目開き100μmの金属製メッシュの通過時間は、表1に示す通りであった。
(2)セルロース繊維シート基材の製造
表1に示す繊維粗度の第1パルプ繊維及び第2パルプ繊維(いずれも針葉樹クラフトパルプ)を表1に示す割合で混合して湿式抄造を行った。次いで、台紙坪量14g/m2の条件で加圧脱水して、加工前のセルロース繊維シート基材を得た。なお、前記第1パルプ及び第2パルプには叩解度600mlにて叩解処理を行っていた。
(3)吸収性物品用薄葉紙試料の作製
前記セルロース繊維シート基材に対し前述の水系塗布液をスプレー塗布し、乾燥させて、実施例1の吸収性物品用薄葉紙試料(坪量13.5g/m2)を作製した。
実施例1の吸収性物品用薄葉紙試料において、カチオン性抗菌剤、A剤及びB剤の含有質量割合、並びにA剤/B剤の含有質量比は、表1の通りであった。
【0078】
カチオン性抗菌剤(塩化ベンザルコニウム)の含有坪量は液体クロマトグラフ/質量分析計(アジレント・テクノロジー株式会社製6140 LC/MS、イオン化法:ESI)を用い、次のとおり検量線を作成して測定した。
まず、検量線の作成のため、塩化ベンザルコニウムの有効成分を約0.05g量りとり、10mmol/L酢酸含有メタノールに溶解して100mLにした(500μg/mL)。この溶液を希釈して、有効分として0.01、0.05、0.1、0.5μg/mLの検量線用の標準液を調製した。
次いで、上記の検量線を用いて、薄葉紙中の塩化ベンザルコニウムの含有坪量を測定した。すなわち、10cm×10cm角の吸収性物品用薄葉紙を10mmol/L酢酸含有メタノール溶液30mLに浸し、超音波を10分間照射し、抽出液を100mLのメスフラスコに回収した。この抽出作業を3回繰り替えし、前記酢酸含有メタノールで100mLに調製した。この溶液を2~10倍に適宜希釈し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過し、濾液を薄葉紙の抽出液として得た。測定モードを選択イオンモニタリングに設定し、モニタリングイオンとしてm/z=276(C10のM+)、304(C12のM+)、332(C14のM+)及び360(C16のM+)を設定した。検量線用の標準液の測定結果よりC10、C12、C14、C16のピーク面積の合計値を用いて検量線を作成し、薄葉紙の抽出液の測定から抽出液中の抗菌剤の濃度(μg/mL)を求め、薄葉紙1m2当たりの抗菌剤の坪量(g/m2)に換算した。
【0079】
A剤としてのクエン酸及びB剤としてのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの含有坪量は、イオンクロマトグラフ法を用いて測定した。イオンクロマトグラフ分析装置はDionex ICS-2100(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、電気伝導度検出器)を用いて測定した。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びクエン酸それぞれを0.1gを精秤し、純水を加えて正確に100mLとした。この溶液を希釈し、0.1、0.5、1、2.5、5、10、25μg/mLの濃度とし、検量線用溶液を調製し、LC分析値より検量線を作成した。
薄葉紙からのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及びクエン酸の抽出方法は以下の通りである。メスフラスコ中に薄葉紙の試料1枚(約0.16g)と純水を正確に50ml加えた。適宜振り混ぜながら超音波を30分間照射した。次に抽出液を0.45μPVDFフィルターで濾過し、LC分析に用いた。なお、溶液濃度がLC分析の範囲外となれば、適宜、添加する純粋の量を加減したり、或いは濾過した後の抽出液を希釈したりして調整できる。
【0080】
(実施例2及び3)
A剤/B剤の含有質量比を表1に示すものといた以外は実施例1と同様にして、実施例2及び3の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
【0081】
(実施例4及び5)
カチオン性抗菌剤として、前述の塩化ベンザルコニウムとセチルリン酸ベンザルコニウム(花王株式会社製、サニゾール(登録商標)P)とを表1に示す含有質量比で混合した以外は実施例2と同様にして、実施例4及び5の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。このセチルリン酸ベンザルコニウムは、前述の式(1)中のX-で表される一価のアニオンが前記の式(2)で表されるアニオン活性基であった。前記カチオン性抗菌剤中のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合はそれぞれ、25.2質量%、43.4質量%であった。
【0082】
(実施例6~8)
実施例1~3それぞれで用いた水系塗布液及びセルロース繊維シート基材と同じものを作製し、
図4及び
図5に示す装置を用いた前述の(ii)及び(iii)の工程を行って、実施例6~8の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
実施例6~8の吸収性物品用薄葉紙試料において、カチオン性抗菌剤、A剤及びB剤の含有質量割合、並びにA剤/B剤の含有質量比は、表1の通りであった。
【0083】
(実施例9)
吸収性物品用薄葉紙試料の坪量を16.1g/m2とした以外は、実施例8と同様にして、実施例9の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
実施例9の吸収性物品用薄葉紙試料において、カチオン性抗菌剤、A剤及びB剤の含有質量割合、並びにA剤/B剤の含有質量比は表1の通りであり、坪量の増加により抗菌剤等の歩留まりが実施例8より若干上がった。
【0084】
(比較例1)
カチオン性抗菌剤、A剤及びB剤を含ませないで、実施例1で作製したセルロース繊維シート基材を比較例1の吸収性物品用薄葉紙試料とした。
【0085】
(比較例2)
カチオン性抗菌剤を含ませず、A剤/B剤の含有質量比を40/60とした以外は実施例1と同様にして、比較例2の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
【0086】
(比較例3)
カチオン性抗菌剤として前述のセチルリン酸ベンザルコニウム(花王株式会社製、サニゾール(登録商標)P)のみを用い、A剤/B剤の含有質量比を30/70とし、第1パルプ繊維のみで叩解度450mlとしてセルロース繊維シート基材を作製し、多孔質粒子を4.0質量%含有させた以外は、実施例6と同様にして、比較例3の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
比較例3の吸収性物品用薄葉紙試料において、前記カチオン性抗菌剤中の前記アルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量に対する、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が98.0質量%と各実施例よりも大きくなっていた。
【0087】
(比較例4)
カチオン性抗菌剤として前述のセチルリン酸ベンザルコニウム(花王株式会社製、サニゾール(登録商標)P)のみを用い、A剤/B剤の含有質量比を100/0とした以外は、実施例1と同様にして、比較例4の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
【0088】
(比較例5)
A剤及びB剤を含ませなかった以外は、実施例6と同様にして、比較例5の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
【0089】
(比較例6)
カチオン性抗菌剤として前述の塩化ベンザルコニウム(花王株式会社製、サニゾール(登録商標)サニゾールB50のみを用い、A剤/B剤の含有質量比を30/70とした以外は、実施例1と同様にして、比較例7の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
【0090】
(比較例7)
多孔質粒子を除いた以外は、比較例3と同様にして、比較例8の吸収性物品用薄葉紙試料を作製した。
【0091】
前述の各実施例及び各比較例の吸収性物品用薄葉紙試料について、下記の測定及び試験を行った。その結果を表1に示す。
【0092】
(吸収性物品用薄葉紙のpHの測定)及び(平均空孔率の測定)
前述の(吸収性物品用薄葉紙のpHの測定方法)及び(平均空孔率の測定方法)に基づいて測定した。
【0093】
(粘性液体透過試験)
前述の(粘性液体透過時間の測定方法)に基づいて測定し、各吸収性物品用薄葉紙の粘性液体の透過性について試験した。
【0094】
(抗菌活性試験)
JIS L 1902 2015 繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果で定める菌液吸収法に基づいて、各吸収性物品用薄葉紙の抗菌活性を試験した。抗菌活性値試験には大腸菌を用いた。抗菌活性値が2以上で対象物は抗菌性を有すると判断され、抗菌活性値が高い程、吸収性物品用薄葉紙の抗菌性が高いことを示す。
【0095】
(消臭性試験)
(1)アンモニア臭
容量500mLのスリ栓付三角フラスコに、各吸収性物品用薄葉紙を0.1g入れ、そこに100ppm(初期濃度)になるように濃度調整した2%アンモニア水溶液5μLを注入した。2時間後の三角フラスコ内のアンモニア濃度をガス検知管(ガステック株式会社製、アンモニア用 3La)によって測定し、(初期値-測定値)/初期値×100を消臭率とした。
(2)酢酸臭
容量500mLのスリ栓付三角フラスコに、各吸収性物品用薄葉紙を0.1g入れ、そこに35ppm(初期濃度)になるように濃度調整した2%酢酸水溶液5μLを注入した。2時間後の三角フラスコ内の酢酸濃度をガス検知管(ガステック株式会社製、酢酸用 81L)によって測定し、(初期値-測定値)/初期値×100を消臭率とした。
【0096】
【0097】
表1に示されるように、各実施例の吸収性物品用薄葉紙は、比較例1及び2に比して、抗菌活性値が高く、アンモニア消臭率を100%にまで向上させていた。また、各実施例の吸収性物品用薄葉紙は、pHが4.8以下で酸性寄りにもかかわらず、酢酸消臭率が比較例1及び2と遜色ないものであった。
また、比較例3(
図6(A)及び(B)参照)や比較例7の吸収性物品用薄葉紙は、炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合及びpHが高く、平均空孔率が低いため、これに比して、各実施例の吸収性物品用薄葉紙は、粘性液体透過時間が大きく短縮され、アンモニア消臭率及び酢酸消臭率を同時に向上させていた。
更に、各実施例の吸収性物品用薄葉紙は、比較例4(炭素数16のアルキル基及び/又はアルケニル基を含む分子の合計質量割合が高く、B剤を含まず、水系塗布液の透過時間が300秒以上と極端に長い)、比較例5(A剤及びB剤を含まず吸収性物品用薄葉紙pHが高い)、比較例6(A剤及びB剤を含みながらも吸収性物品用薄葉紙pHが高い)に比して、凝集しにくいため水系塗布液の透過時間が短くアンモニア消臭率及び酢酸消臭率を同時に向上させていた。
これらのことから、各実施例の吸収性物品用薄葉紙は、酸性からアルカリ性までの幅広い臭い成分の発生を一段と抑えて、より高い消臭効果を奏し、同時に液透過時間の短縮を実現していた。