(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146202
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】加飾シート、加飾樹脂成形品、及び加飾樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241004BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058967
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】西川 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 健治
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
【Fターム(参考)】
4F100AA37B
4F100AA37H
4F100AB10B
4F100AB10H
4F100AK01E
4F100AK25A
4F100AK25D
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4F100AR00A
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4F206JF05
4F206JF23
4F206JL02
4F206JP30
(57)【要約】
【課題】加飾シートに静電気を帯電させることで、金型に好適に固定される、加飾シートを提供する。
【解決手段】少なくとも、表面保護層を備える加飾シートであって、
前記加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上である、加飾シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、表面保護層を備える加飾シートであって、
前記加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上である、加飾シート。
【請求項2】
前記加飾シートは、装飾層をさらに備える、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記装飾層は、カーボン顔料及びアルミニウム顔料の少なくとも一方を含む、請求項2に記載の加飾シート。
【請求項4】
前記加飾シートは、少なくとも、基材層、前記装飾層、プライマー層及び前記表面保護層をこの順に備える積層体から構成されている、請求項2又は3に記載の加飾シート。
【請求項5】
成形樹脂層の上に、請求項1~3のいずれか1項に記載の加飾シートが積層されてなる加飾樹脂成形品であって、
前記加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上である、加飾樹脂成形品。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の加飾シートに静電気を帯電させて、前記加飾シートを金型に固定する工程と、
前記金型内に、樹脂を射出することにより、前記加飾シートと成形樹脂層とを一体化する工程と、
を備える、加飾樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加飾シート、加飾樹脂成形品、及び加飾樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両内装部品、建材内装材、家電筐体等には、樹脂成形品の表面に加飾シートを積層させた加飾樹脂成形品が使用されている。このような加飾樹脂成形品の成形方法としては、加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形しておき、該成形シートを射出成形型に挿入し、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化するインサート成形法(例えば、特許文献1参照)、予め成形された樹脂成形体上に加熱や加圧を伴いながら加飾シートを貼着するオーバーレイ法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-322501号公報
【特許文献2】特開2012-101549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加飾シートを用いて、加飾樹脂成形品を製造する際には、金型内に加飾シートを配置し、真空加熱成形、射出成形などの成形工程が行われる。これらの成形工程において、金型に加飾シートを固定する方法として、加飾シートを帯電させ、電気力学的に金型へ固定する方法が考えられる。
【0005】
しかしながら、従来の加飾シートにおいて、例えばカーボン顔料、アルミニウム顔料などの導電性の顔料を含む装飾層などを設ける場合、帯電した加飾シートから静電気が散逸し、金型から加飾シートが脱落して成形工程が阻害される場合がある。
【0006】
このような状況下、本開示は、加飾シートに静電気を帯電させることで、金型に好適に固定される加飾シートを提供することを主な目的とする。また、本開示は、当該加飾シートを利用した加飾樹脂成形品及びその製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、少なくとも、表面保護層を備える加飾シートにおいて、加飾シートの両面側の表面抵抗値を高く設定したとしても、加飾シートを帯電させることによる金型への固定が不十分になる場合があるという知見を得た。そして、この知見に基づき、本開示の発明者がさらに検討を重ねたところ、加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値を所定値以上に設定すると、静電気の帯電によって加飾シートが金型に好適に固定されることを見出した。
【0008】
本開示は、以上の知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1.少なくとも、表面保護層を備える加飾シートであって、
前記加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上である、加飾シート。
項2. 前記加飾シートは、装飾層をさらに備える、項1に記載の加飾シート。
項3. 前記装飾層は、カーボン顔料及びアルミニウム顔料の少なくとも一方を含む、項2に記載の加飾シート。
項4. 前記加飾シートは、少なくとも、基材層、前記装飾層、プライマー層及び前記表面保護層をこの順に備える積層体から構成されている、項2又は3に記載の加飾シート。
項5. 成形樹脂層の上に、項1~4のいずれか1項に記載の加飾シートが積層されてなる加飾樹脂成形品であって、
前記加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上である、加飾樹脂成形品。
項6. 項1~4のいずれか1項に記載の加飾シートに静電気を帯電させて、前記加飾シートを金型に固定する工程と、
前記金型内に、樹脂を射出することにより、前記加飾シートと成形樹脂層とを一体化する工程と、
を備える、加飾樹脂成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、加飾シートに静電気を帯電させることで、金型に好適に固定される加飾シートを提供することができる。本開示の加飾シートは、金型に好適に固定されることで、加飾シートの成形工程を簡便かつ好適に行うことができる。また、本開示によれば、当該加飾シートを利用した加飾樹脂成形品及びその製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の加熱前の加飾シートの一形態の断面構造の模式図である。
【
図2】本開示の加熱後の加飾シートの一形態の断面構造の模式図である。
【
図3】本開示の加熱前の加飾シートの一形態の断面構造の模式図である。
【
図4】本開示の加飾樹脂成形品の一形態の断面構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.加飾シート
本開示の加飾シートは、少なくとも、表面保護層を備え、加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上であることを特徴とする。本開示の加飾シートは、このような構成を備えていることにより、加飾シートに静電気を帯電させることで、加飾シートが金型に好適に固定される。
【0013】
以下、本開示の加飾シートについて、
図1から
図4を参照しながら詳述する。なお、本明細書において、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、別個に記載された、上限値と上限値、上限値と下限値、又は下限値と下限値を組み合わせて、それぞれ、数値範囲としてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。
【0014】
加飾シートの積層構造と物性
本開示の加飾シート10は、例えば、
図1~
図3に示されるように、少なくとも表面保護層1を備えている。
【0015】
本開示の加飾シート10は、表面保護層1に加えて、基材層2、プライマー層3、装飾層4、裏面接着層(図示を省略)などのうち少なくとも1層をさらに備えていてもよい。前記の通り、従来の加飾シートにおいて、例えば装飾層などを設ける場合、帯電した加飾シートから静電気が散逸し、金型から加飾シートが脱落して成形工程が阻害される場合がある。これは、装飾層に導電性の顔料などが配合される場合に生じやすいといえる。加飾シートは、通常、表面保護層側が金型側に配置され、金型に固定されるため、少なくとも表面保護層側の表面抵抗値を高く設定することで、加飾シートに静電気が好適に帯電し、金型に好適に固定されると考えられた。ところが、本開示の発明者は、例えば装飾層に導電性の顔料などが配合された加飾シート等では、加飾シートの両面側の表面抵抗値を高く設定したとしても、加飾シートを帯電させることによる金型への固定が不十分になる場合があるという知見を得た。これに対して、本開示の加飾シートは、加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上に設定することで、加飾シートに対して好適に静電気を帯電させて金型に固定することができる。
【0016】
本開示の加飾シートには、加飾シートまたは加飾樹脂成形品に付与する機能に応じて、その他の層を任意の位置にさらに1層以上積層してもよい。
【0017】
本開示の加飾シートの積層構造としては、基材層/表面保護層が積層された積層構造;基材層/装飾層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;基材層/装飾層/プライマー層/表面保護層がこの順に積層された積層構造;裏面接着層/基材層/装飾層/プライマー層/表面保護層がこの順に積層された積層構造などが挙げられる。
図1に、本開示の加飾シートの積層構造の一態様として、基材層/表面保護層がこの順に積層された加飾シートの一例の略図的断面図を示す。
図2に、本開示の加飾シートの積層構造の一態様として、基材層/プライマー層/表面保護層がこの順に積層された加飾シートの一例の略図的断面図を示す。
図3に、本開示の加飾シートの積層構造の一態様として、基材層/装飾層/プライマー層/表面保護層がこの順に積層された加飾シートの一例の略図的断面図を示す。
【0018】
本開示の加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上である。本開示の加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値は、好ましくは1013Ω/sq.以上である。各層の表面抵抗値の測定は、厚さ50μmのPETフィルム上に、それぞれ、これらの層を形成したサンプルを用意し、導電性シリコン電極(電極長:50mm、電極間隔:50mm)を有する市販の表面抵抗測定計を用いて、電極を測定対象の表面に接地し、100Vの電圧を印加した時の抵抗値を測定することにより、各層の表面抵抗値(Ω/sq.)を測定する。後述する基材層2については、単体で表面抵抗値(Ω/sq.)を測定することができる。具体的な測定法は、実施例に記載の方法が採用できる。
【0019】
また、本開示の加飾シートの表面保護層側の表面の表面抵抗値は、好ましくは1011Ω/sq.以上、より好ましくは1013Ω/sq.以上である。また、本開示の加飾シートの表面保護層側とは反対側(例えば基材層を有する場合であれば基材層側)の表面の表面抵抗値は、好ましくは1011Ω/sq.以上、より好ましくは1013Ω/sq.以上である。これらの表面抵抗値は、加飾シートの表面保護層側及び基材層側の表面について、それぞれ、市販の表面抵抗測定器を用いて表面抵抗値(Ω/sq.)を測定する。表面抵抗値の具体的な測定は、実施例に記載の方法による。
【0020】
加飾シートを構成する各層
[表面保護層1]
表面保護層1は、加飾樹脂成形品の表面を保護するために設けられる層である。
【0021】
本開示の加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上である。すなわち、表面保護層1の表面抵抗値についても、1011Ω/sq.以上である。前記の通り、表面保護層1の表面抵抗値は、好ましくは1013Ω/sq.以上である。
【0022】
表面保護層1を構成する素材としては、前記の表面抵抗値を充足することを限度として、特に制限されず、たとえば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加飾樹脂成形品に対して表面保護層としての機能を好適に付与する観点から、表面保護層1は、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により構成されていることが好ましい。表面保護層1の形成に用いられる電離放射線硬化性樹脂について、以下に詳述する。
【0023】
(電離放射線硬化性樹脂)
表面保護層1の形成に使用される電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂であり、具体的には、分子中に重合性不飽和結合又はエポキシ基を有する、プレポリマー、オリゴマー、及びモノマーなどのうち少なくとも1種を適宜混合したものが挙げられる。ここで電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も含むものである。電離放射線硬化性樹脂の中でも、電子線硬化性樹脂は、無溶剤化が可能であり、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られるため、表面保護層1の形成において好適に使用される。
【0024】
電離放射線硬化性樹脂として使用される上記モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートモノマーが好適であり、中でも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)、好ましくは3個以上(3官能以上)有する(メタ)アクリレートモノマーであればよい。多官能性(メタ)アクリレートとして、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
また、電離放射線硬化性樹脂として使用される上記オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートオリゴマーが好適であり、中でも分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)有する多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。多官能性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、アクリルシリコーン(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー(例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等)等が挙げられる。ここで、ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、かつ末端または側鎖に(メタ)アクリレート基を有するものであれば特に制限されず、例えば、ポリカーボネートポリオールを(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートなどであってもよい。ポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネートポリオールと、多価イソシアネート化合物と、ヒドロキシ(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られる。アクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、シリコーンマクロモノマーを(メタ)アクリレートモノマーとラジカル共重合させることにより得ることができる。ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物の反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシ(メタ)アクリレートは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレートを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートも用いることができる。ポリエステル(メタ)アクリレートは、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、或いは多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエーテル(メタ)アクリレートは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリブタジエン(メタ)アクリレートは、ポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリル酸を付加することにより得ることができる。シリコーン(メタ)アクリレートは、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーンの末端又は側鎖に(メタ)アクリル酸を付加することにより得ることができる。これらのオリゴマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
上記した電離放射線硬化性樹脂の中でも、見た目による意匠感、さらには耐摩耗性及び成形性をより一層向上させつつ、さらに優れた三次元成形性を得る観点からは、ポリカーボネート(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。また、ポリカーボネート(メタ)アクリレートとウレタン(メタ)アクリレートを組み合わせて使用することも好ましい。
【0027】
また、表面保護層1は、無機粒子及び有機粒子の少なくとも一方を含んでいてもよい。なお、表面保護層1において、無機粒子及び有機粒子は、主に、表面保護層1の艶を低下させる機能を有する。表面保護層1に無機粒子または有機粒子が含まれる場合、これらの粒子は、表面保護層1中に分散されている。
【0028】
無機粒子としては、無機化合物により形成された粒子であれば、特に制限されず、例えば、シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、アルミナ粒子、ガラスバルーン粒子が挙げられる。無機粒子は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。無機粒子の粒子径としては、例えば約0.5μm以上、好ましくは約1μm以上であり、また、好ましくは約20μm以下、より好ましくは約10μm以下である。無機粒子の粒子径の好ましい範囲としては、0.5~20μm程度、0.5~10μm程度、1~20μm程度、1~10μm程度が挙げられる。なお、本発明において、無機粒子の粒子径は、市販のレーザ回折式粒度分布測定装置を使用し、圧縮空気を利用してノズルから測定対象となる粉体を噴射し、空気中に分散させて測定する、噴射型乾式測定方式により測定される値である。
【0029】
表面保護層1が無機粒子を含む場合、無機粒子の含有量としては、特に制限されないが、上述の電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは約1質量部以上、より好ましくは約10質量部以上であり、また、好ましくは約60質量部以下、より好ましくは約40質量部以下である。無機粒子の含有量の好ましい範囲としては、上述の電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、1~60質量部程度、1~40質量部程度、10~60質量部程度、10~40質量部程度が挙げられる。無機粒子は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
また、有機粒子としては、樹脂により形成された粒子であれば、特に制限されず、例えば、ウレタンビーズ、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、スチレンビーズ、メラミンビーズ、ウレタンアクリルビーズ、ポリエステルビーズ、ポリエチレンビーズなどが挙げられる。有機粒子は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。有機粒子の粒子径としては、約0.5μm以上、好ましくは約1μm以上であり、また、好ましくは約30μm以下、より好ましくは約20μm以下である。有機粒子の粒子径の好ましい範囲としては、0.5~30μm程度、0.5~20μm程度、1~30μm程度、1~20μm程度が挙げられる。なお、有機粒子の粒子径は、上記の無機粒子と同様の方法により測定される値である。
【0031】
表面保護層1が有機粒子を含む場合、有機粒子の含有量としては、特に制限されないが、上述の電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは約1質量部以上、より好ましくは約10質量部以上であり、また、好ましくは約200質量部以下、より好ましくは150質量部以下である。有機粒子の含有量の好ましい範囲としては、上述の電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、1~200質量部程度、1~150質量部程度、10~200質量部程度、より好ましくは10~150質量部程度が挙げられる。
【0032】
なお、表面保護層1において、無機粒子及び有機粒子の少なくとも一方が含まれる場合、表面保護層1の表面からこれらの粒子の一部が突出していてもよいし、表面保護層1の内部に粒子が埋没していてもよい。
【0033】
(他の添加成分)
表面保護層1には、表面保護層1に備えさせる所望の物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば紫外線吸収剤や光安定剤等の耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤、着色剤等が挙げられる。これらの添加剤は、常用されるものから適宜選択して用いることができる。また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基等の重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。
【0034】
(表面保護層1の形成)
表面保護層1の形成は、例えば、電離放射線硬化性樹脂(必要に応じて、前述した無機粒子、有機粒子、各種添加剤などを含む)を含む電離放射線硬化性樹脂組成物を調製し、これを塗布し、硬化することにより行われる。なお、電離放射線硬化性樹脂組成物の粘度は、後述の塗布方式により、未硬化樹脂層を形成し得る粘度であればよい。
【0035】
本開示においては、調製された樹脂組成物を、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコート等の公知の方式、好ましくはグラビアコートにより塗布し、未硬化樹脂層を形成させる。
【0036】
このようにして形成された未硬化樹脂層に、電子線、紫外線等の電離放射線を照射して該未硬化樹脂層を硬化させて表面保護層1を形成する。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70以上kV、また、300kV以下が挙げられる。加速電圧の好ましい範囲は70~300kVである。
【0037】
なお、電子線の照射において、加速電圧が高いほど透過能力が増加するため、表面保護層1の下に電子線照射によって劣化しやすい樹脂を使用する場合には、電子線の透過深さと表面保護層1の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定する。これにより、表面保護層1の下に位置する層への余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による各層の劣化を最小限にとどめることができる。
【0038】
また、照射線量は、表面保護層1の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5kGy以上(0.5Mrad以上)、好ましくは10kGy以上(1Mrad以上)であり、また、通常300kGy以下(30Mrad以下)、好ましくは50kGy以下(5Mrad以下)である。照射線量の好ましい範囲としては、5~300kGy(0.5~30Mrad)、5~50kGy(0.5~5Mrad)、10~300kGy(1~30Mrad)、10~50kGy(1~5Mrad)の範囲で選定される。
【0039】
更に、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。
【0040】
電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190~380nmの紫外線を含む光線を放射すればよい。紫外線源としては、特に制限されないが、例えば、高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈等が挙げられる。
【0041】
かくして形成された表面保護層1には、各種の添加剤を添加することにより、ハードコート機能、防曇コート機能、防汚コート機能、防眩コート機能、反射防止コート機能、紫外線遮蔽コート機能、赤外線遮蔽コート機能等の機能を付与する処理を行ってもよい。
【0042】
[基材層2]
基材層2は、本開示の加飾シートにおいて、必要に応じて設けられる層であり、支持体としての役割を果たす樹脂シート(樹脂フィルム)である。
【0043】
前記の通り、本開示の加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上であるから、基材層2の表面抵抗値についても、1011Ω/sq.以上である。基材層2の表面抵抗値は、好ましくは1013Ω/sq.以上である。
【0044】
基材層2に使用される樹脂成分については、前記の表面抵抗値を充足することを限度として、特に制限されず、三次元成形性や成形樹脂との相性等に応じて適宜選定すればよいが、好ましくは、熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムが挙げられる。当該熱可塑性樹脂としては、具体的には、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」と表記することもある)、アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル樹脂(以下「ASA樹脂」と表記することもある)、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)等が挙げられる。これらの中でも、ABS樹脂及びアクリル樹脂が三次元成形性の観点から好ましい。また、基材層2は、これら樹脂の単層シートで形成されていてもよく、また同種又は異種樹脂による複層シートで形成されていてもよい。
【0045】
当該熱可塑性樹脂の軟化点としては、好ましくは80~155℃程度、より好ましくは90~140℃程度、さらに好ましくは105~125℃程度である。
【0046】
基材層2の曲げ弾性率については、特に制限されない。例えば、本開示の加飾シートをインサート成形法によって成形樹脂と一体化させる場合には、本開示の加飾シートにおける基材層2の25℃における曲げ弾性率が500~4,000MPa、好ましくは750~3,000MPaが挙げられる。ここで、25℃における曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定された値である。25℃における曲げ弾性率が500MPa以上であると、加飾シートは十分な剛性を備え、インサート成形法に供しても、表面特性と成形性がより一層良好になる。また、25℃における曲げ弾性率が3,000MPa以下であると、ロール トゥ ロールで製造する場合に十分な張力をかけることができ、たるみが発生し難くなるため、絵柄がずれることなく重ねて印刷することができ、所謂絵柄見当が良好となる。
【0047】
基材層2は、その上に設けられる層との密着性を向上させるために、必要に応じて、片面又は両面に酸化法や凹凸化法等の物理的又は化学的表面処理が施されていてもよい。基材層2の表面処理として行われる酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン紫外線処理法等が挙げられる。また、基材層2の表面処理として行われる凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理は、基材層2を構成する樹脂成分の種類に応じて適宜選択されるが、効果及び操作性等の観点から、好ましくはコロナ放電処理法が挙げられる。
【0048】
また、基材層2は公知の接着層を形成する等の処理を施してもよい。
【0049】
更に、基材層2は、前記の表面抵抗値を充足することを限度として、着色剤を用いて着色されていてもよく、着色されていなくてもよい。また、基材層2は、無色透明、着色透明、及び半透明のいずれの態様であってもよい。基材層2に用いられる着色剤としては、特に制限されないが、好ましくは150℃以上の温度条件でも変色しない着色剤が挙げられ、具体的には、既存のドライカラー、ペーストカラー、マスターバッチ樹脂組成物等が挙げられる。
【0050】
基材層2の厚みは、加飾シートの用途、成形樹脂と一体化させる成形法等に応じて適宜設定されるが、通常25~1000μm程度、50~700μm程度が挙げられる。より具体的には、本開示の加飾シートをインサート成形法に供する場合であれば、基材層2の厚みとして、通常50~1000μm程度、好ましくは100~700μm程度、更に好ましくは100~500μm程度が挙げられる。
【0051】
[プライマー層3]
プライマー層3は、表面保護層2とその下に位置する層との密着性を高めることなどを目的として、必要に応じて、表面保護層2の表面(加飾シート又は加飾樹脂成形品の観察される側とは反対側であって、例えば、基材層2を有する場合には基材層2側の表面)に接面するように設けられる層である。
【0052】
前記の通り、本開示の加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上であるから、プライマー層3の表面抵抗値についても、1011Ω/sq.以上である。プライマー層3の表面抵抗値は、好ましくは1013Ω/sq.以上である。
【0053】
プライマー層3を構成するプライマー組成物としては、前記の表面抵抗値を充足することを限度として、特に制限されず、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル-ウレタン共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン等をバインダー樹脂とするものが好ましく用いられ、これらの樹脂は一種又は二種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、及び(メタ)アクリル-ウレタン共重合体樹脂が好ましい。
【0054】
ウレタン樹脂としては、ポリオール(多価アルコール)を主剤とし、イソシアネートを架橋剤(硬化剤)とするポリウレタンを使用できる。ポリオールとしては、分子中に2個以上の水酸基を有するもので、例えばポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール等が使用される。前記イソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、或いはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族(又は脂環族)イソシアネートが用いられる。また、ウレタン樹脂とブチラール樹脂を混ぜて構成することも可能である。
【0055】
架橋後の表面保護層2との密着性、表面保護層2を積層後の相互作用の生じ難さ、物性、成形性の面から、ポリオールとしてアクリルポリオール、又はポリエステルポリオールと、架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとから組み合わせることが好ましく、特にアクリルポリオールとヘキサメチレンジイソシアネートとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0056】
(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、2種以上の異なる(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとの共重合体が挙げられ、具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステルを含む単独又は共重合体からなる(メタ)アクリル樹脂が好適に用いられる。
【0057】
(メタ)アクリル-ウレタン共重合体樹脂としては、例えばアクリル-ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂が好ましい。硬化剤としては、上記の各種イソシアネートが用いられる。アクリル-ウレタン(ポリエステルウレタン)ブロック共重合系樹脂は所望により、アクリル/ウレタン比(質量比)を1/9以上とすることが好ましく、より好ましくは2/8以上である。また、アクリル/ウレタン比(質量比)は9/1以下とすることが好ましく、より好ましくは8/2以下である。
【0058】
プライマー層3の厚みについては、特に制限されないが、例えば0.5μm以上、好ましくは1μm以上であり、また、好ましくは20μm以下、より好ましくは5μm以下であり、好ましい範囲としては、0.5~20μm程度、1~5μm程度が挙げられる。
【0059】
プライマー層3は、プライマー組成物を用いて、グラビアコート、グラビアリバースコート、グラビアオフセットコート、スピンナーコート、ロールコート、リバースロールコート、キスコート、ホイラーコート、ディップコート、シルクスクリーンによるベタコート、ワイヤーバーコート、フローコート、コンマコート、かけ流しコート、刷毛塗り、スプレーコート等の通常の塗布方法や転写コーティング法により形成される。ここで、転写コーティング法は、薄いシート(フィルム基材)にプライマー層3の塗膜を形成し、その後に加飾シート中の対象となる層表面に被覆する方法である。
【0060】
[装飾層4]
装飾層4は、加飾シートに装飾性を付与する目的で、例えば基材層2と表面保護層2の間、プライマー層3を設ける場合は、基材層2とプライマー層3の間等に、必要に応じて設けられる層である。
【0061】
前記の通り、本開示の加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、1011Ω/sq.以上であるから、装飾層4の表面抵抗値についても、1011Ω/sq.以上である。装飾層4の表面抵抗値は、好ましくは1013Ω/sq.以上である。
【0062】
装飾層4としては、絵柄を有する絵柄層、絵柄を有さず基材層2の色の変化やバラツキを抑制することを目的とした隠蔽層(下地層)などが挙げられる。装飾層4が絵柄層及び隠蔽層を含む場合にも、装飾層4全体として、前記の表面抵抗値を充足する必要がある。このため、本開示の加飾シートは、絵柄層及び隠蔽層も前記の表面抵抗値を充足する。
【0063】
装飾層4は、例えば、インキ組成物を用いて所望の絵柄を形成した層(インキ層)とすることができる。装飾層4の形成に用いられるインキ組成物としては、バインダーに、顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したものが使用される。
【0064】
インキ組成物に使用されるバインダーとしては、特に制限されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等が挙げられる。これらのバインダーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
インキ組成物に使用される着色剤としては、装飾層4が前記の表面抵抗値を充足することを限度として、特に制限されないが、例えば、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料;アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料;二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等が挙げられる。本開示の加飾シートにおいて、装飾層4は、カーボン顔料及びアルミニウム顔料の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0066】
装飾層4によって形成される絵柄についても、特に制限されないが、例えば、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等が挙げられ、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様であってもよく、あるいは単色無地(いわゆる全面ベタ)であってもよい。これらの絵柄は、通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成されるが、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成することができる。
【0067】
装飾層4の厚みは、特に制限されないが、例えば1~30μm、好ましくは1~20μmが挙げられる。
【0068】
[隠蔽層]
装飾層4において、隠蔽層(下地層)は、基材層2の色の変化やバラツキを抑制する目的で、基材層2と表面保護層2の間、プライマー層3を設ける場合であれば基材層2とプライマー層3の間、又は装飾層4に絵柄層を設ける場合であれば基材層2と絵柄層の間に、必要に応じて設けられる層である。
【0069】
隠蔽層は、基材層が加飾シートの色調や絵柄に悪影響を及ぼすのを抑制するために設けられるため、一般的には、不透明色の層として形成される。
【0070】
隠蔽層は、バインダーに、顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したインキ組成物を用いて形成される。隠蔽層を形成するインキ組成物は、前述した装飾層に使用されるものから適宜選択して使用される。
【0071】
隠蔽層は、通常、厚みが1~20μm程度に設定され、所謂ベタ印刷層として形成されることが望ましい。
【0072】
隠蔽層は、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写による印刷、インクジェット印刷等の通常の印刷方法;グラビアコート、グラビアリバースコート、グラビアオフセットコート、スピンナーコート、ロールコート、リバースロールコート等の通常の塗布方法等によって形成される。
【0073】
[裏面接着層]
裏面接着層(図示を省略する)は、加飾樹脂成形品の成形の際に成形樹脂との密着性を高めることを目的として、基材層2の裏面(表面保護層2とは反対側の面)に、必要に応じて設けられる層である。
【0074】
裏面接着層には、加飾樹脂成形品に使用される成形樹脂に応じて、熱可塑性樹脂又は硬化性樹脂が用いられる。
【0075】
裏面接着層の形成に使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、熱可塑性ウレタン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ゴム系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
また、裏面接着層の形成に使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
2.加飾樹脂成形品
本開示の加飾樹脂成形品は、本開示の加飾シート10に成形樹脂層5を一体化させることにより成形されてなるものである。
【0078】
より具体的には、
図4に示されるように、本開示の加飾樹脂成形品20は、成形樹脂層5の上に、本開示の加飾シートが積層されてなる加飾樹脂成形品であって、加飾シートに含まれる全ての層の表面抵抗値が、10
11Ω/sq.以上であることを特徴としている。すなわち、本開示の加飾樹脂成形品20は、少なくとも、成形樹脂層5、及び表面保護層1を備える加飾樹脂成形品であって、成形樹脂層5の表面保護層1側の全ての層(表面保護層1も含める)の表面抵抗値が、10
11Ω/sq.以上であることを特徴としている。
【0079】
図4に、本開示の加飾樹脂成形品の一態様について、その断面構造を示す。なお、
図4は、
図3に示される積層構成を備える加飾シート10と成形樹脂層5とを一体化させた加飾樹脂成形品20の略図的断面図である。
【0080】
本開示の加飾樹脂成形品20は、本開示の加飾シート10に、樹脂を射出することにより成形樹脂層5を形成する工程を備える方法により製造することができる。具体的には、本開示の加飾樹脂成形品の製造方法は、本開示の加飾シートに静電気を帯電させて、加飾シートを金型に固定する工程と、金型内に、樹脂を射出することにより、加飾シート10と成形樹脂層5とを一体化する工程とを備える。
【0081】
本開示の加飾シートと成形樹脂層とを一体化する成形法としては、インサート成形法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法等の各種射出成形法が採用できる。
【0082】
インサート成形法では、先ず、真空成形工程において、本開示の加飾シートを真空成形型により予め成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させることにより、加飾樹脂成形品が製造される。
【0083】
より具体的には、下記の工程を含むインサート成形法によって、本開示の加飾樹脂成形品が製造される。
【0084】
本開示の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、
真空成形された加飾シートの余分な部分をトリミングして成形シートを得る工程、及び
前記工程で得られた成形シートを射出成形型(金型)に挿入し、射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を型内に射出して樹脂と成形シートを一体化する工程。当該工程において、加飾シートに静電気を帯電させて射出成形型に加飾シートを固定することができる。
【0085】
インサート成形法における真空成形工程では、加飾シートを加熱して成形してもよい。この時の加熱温度は、特に限定されず、加飾シートを構成する樹脂の種類や、加飾シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、例えば基材層としてABS樹脂フィルムを用いる場合であれば、通常100~250℃程度、好ましくは130~200℃程度とすることができる。また、一体化工程において、流動状態の樹脂の温度は、特に限定されないが、通常180~320℃程度、好ましくは220~280℃程度とすることができる。
【0086】
本開示の加飾樹脂成形品において、成形樹脂層は、用途に応じた成形樹脂を選択して形成すればよい。成形樹脂としては、熱可塑性樹脂であってもよく、また熱硬化性樹脂であってもよい。
【0087】
成形樹脂として使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0088】
また、成形樹脂として使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0089】
本開示の加飾樹脂成形品は、優れた意匠を有しているので、例えば、自動車等の車両の内装材又は外装材;幅木、回縁等の造作部材;窓枠、扉枠等の建具;壁、床、天井等の建築物の内装材;テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体;容器等として利用することができる。
【実施例0090】
以下に実施例及び比較例を示して本開示を詳細に説明する。但し本開示は実施例に限定されるものではない。
【0091】
<実施例1~10及び比較例1~4>
(加飾シートの製造)
基材層としてのABS樹脂フィルム(厚さ480μm)の表面に、グラビアコートにより装飾層を形成した。装飾層は、基材層側から順に、下地層(厚さ約1μm)、インキ層(厚さ約1μm)とした。実施例1~4及び比較例1~3では、インキ層の形成に墨インキ(カーボン顔料を含む)を用いて墨インキ層とし、実施例5~10及び比較例4では、インキ層の形成にシルバーインキ(アルミニウム顔料を含む)を用いてシルバーインキ層とした。次いで、装飾層の表面にアクリル樹脂(アクリル酸エステルの単独重合体)からなるプライマー層(厚さ3μm)をグラビアコートにより塗工した。次に、プライマー層の表面に、電子線硬化性樹脂組成物(2官能のポリカーボネートアクリレート、重量平均分子量:10,000)を硬化後の厚さ10μmとなるようにグラビアコートにより塗工した。この未硬化樹脂層に加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad)の電子線を照射して、電子線硬化性樹脂組成物を硬化させて、表面保護層を形成し、各加飾シートを得た。
【0092】
実施例1~4及び比較例1~3について、墨インキ層の形成は、墨インキとしてカーボンブラックが固形分中に43%含まれるアクリル・塩酢ビ系グラビアインキ及び、メジウムとしてのカーボンブラックなどの顔料、及び染料を含まないアクリル・塩酢ビ系グラビアインキを用いて、墨インキ層中のカーボン顔料濃度が表1の値となるように調整して行った。また、実施例5~10及び比較例4のシルバーインキ層の形成は、それぞれ、シルバーインキ(アルミニウム顔料を含むアクリル・塩酢ビ系グラビアインキ)及びメジウム(顔料及び染料を含まないアクリル・塩酢ビ系グラビアインキ)を用いて、シルバーインキ層中のアルミニウム顔料濃度が表2の値となるように調整して行った。
【0093】
(表面抵抗値の測定)
加飾シートの表面保護層側及び基材層側の表面について、それぞれ、表面抵抗測定器(ST-14;シムコジャパン株式会社製)を用いて表面抵抗値(Ω/sq.)を測定した。また、加飾シートの装飾層(インキ層及び下地層)、プライマー層、及び表面保護層の表面抵抗値については、それぞれ、厚さ50μmのPETフィルム上に、それぞれ、これらの層を形成したサンプルを用意し、各層の表面から表面抵抗値(Ω/sq.)を測定した。基材層については単体で表面抵抗値(Ω/sq.)を測定した。結果を表1,2に示す。
【0094】
[加飾シートの評価]
(帯電性)
加飾シートをA4サイズにカットしてサンプルとした。サンプルを、アースされた金属台に乗せた。簡易帯電装置によりサンプルを帯電させ、30秒間静置した後、帯電量(kV)を測定した。簡易帯電装置として、電池式帯電ガンマイナス極性タイプGC25B(株式会社グリーンテクノ21)、電量測定装置として、静電電位測定器KSD-2000(春日電機)を用いた。結果を表1,2に示す。
【0095】
(帯電性保持)
加飾シートをA4サイズにカットしてサンプルとした。サンプルを、アースされた金属台に乗せた。簡易帯電装置によりサンプルを帯電させ、速やかにアースされた垂直の金属壁に貼り付け、サンプルが自重により落下する様子を観察した。簡易帯電装置として、電池式帯電ガンマイナス極性タイプGC25B(株式会社グリーンテクノ21)を用いた。結果を表1,2に示す。
【0096】
【0097】