IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧

特開2024-146216損傷度予測装置、損傷度予測方法、学習済モデルの生成方法、及び学習済モデル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146216
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】損傷度予測装置、損傷度予測方法、学習済モデルの生成方法、及び学習済モデル
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20241004BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20241004BHJP
   G06N 3/045 20230101ALI20241004BHJP
【FI】
G06N20/00 130
E01D22/00 A
G06N3/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058993
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野 州彦
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059GG39
(57)【要約】
【課題】入力データとして画像データを与えても適切な予測結果を出力することができる技術を提供する。
【解決手段】損傷度予測装置1は、梁構造における梁とその周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、各々の梁の位置データ、外力条件、梁の数値データ等を説明変数とし、構造解析によって得られた梁の損傷状態データを目的変数とする教師データを用いた機械学習により生成された、学習済モデルM1を記憶する記憶手段11と、損傷度予測対象梁の劣化度とその周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、各々の梁の位置データとを学習済モデルM1の画像AI41に入力する第1の入力手段21と、損傷度予測対象梁の梁構造に関するデータと、外力条件と、損傷度予測対象梁の数値データと、学習済モデルM1のデータAI42に入力する第2の入力手段22とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、前記梁構造に関するデータと、前記1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、当該梁構造における前記1の梁の数値データとを説明変数とし、構造解析によって得られた前記1の梁の損傷状態データを目的変数とする教師データを用いた機械学習により生成された、学習済モデルを記憶する記憶手段と、
桟橋又は橋梁の梁構造における損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ及び当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データとを、前記学習済モデルに入力する第1の入力手段と、
前記損傷度予測対象梁の梁構造に関するデータと、前記損傷度予測対象梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、前記損傷度予測対象梁の数値データとを、前記学習済モデルに入力する第2の入力手段と、
前記学習済モデルから得られる前記損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた第2の損傷状態データを出力する出力手段とを備え、
前記学習済モデルは、
前記第1の入力手段による入力に応じて得られた前記損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた第1の損傷状態データを出力する画像AIと、
前記第1の損傷状態データを入力し、当該第1の損傷状態データと前記第2の入力手段による入力とに応じて得られた前記第2の損傷状態データを前記出力手段に出力するデータAIとを備える
損傷度予測装置。
【請求項2】
桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該梁構造における位置を表す位置データと、当該1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件を表す画像データとを説明変数とし、当該1の梁の損傷状態を目的変数とする教師データを用いた機械学習により生成された、学習済モデルを記憶する記憶手段と、
桟橋又は橋梁の梁構造における損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ及び当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該梁構造における位置を表す位置データと、当該桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件を表す画像データとを、前記学習済モデルに入力する入力手段と、
前記入力手段による入力に応じて得られた前記損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた損傷状態データを出力する出力手段と
を備える損傷度予測装置。
【請求項3】
桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、前記梁構造に関するデータと、前記1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、当該梁構造における前記1の梁の数値データとを説明変数とし、構造解析によって得られた前記1の梁の損傷状態データを目的変数とする教師データを用いた機械学習により生成された、学習済モデルを記憶する記憶手段と、
前記桟橋又は橋梁における損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、前記損傷度予測対象梁の梁構造に関するデータと、前記損傷度予測対象梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、前記損傷度予測対象梁の数値データとを前記学習済モデルに入力する入力手段と、
前記入力手段により入力されたデータに応じて得られた前記損傷度予測対象梁の損傷状態データを出力する出力手段と
を備える損傷度予測装置。
【請求項4】
前記位置データは、前記梁構造における各梁の座標値、前記梁構造における各梁につけられた通し番号、又は、前記梁構造における各梁の画像データを所定の順番で取得したときの前記梁構造における各梁の相関位置のいずれかである
請求項1~3のいずれか1項に記載の損傷度予測装置。
【請求項5】
前記数値データは、当該梁の寸法、当該梁の両端部における杭の有無、当該梁を支持する杭の長さ若しくは突出長、又は当該杭の特性値のうち少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の損傷度予測装置。
【請求項6】
前記梁構造に関するデータは、前記桟橋又は橋梁を構成する梁の列数を含む
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の損傷度予測装置。
【請求項7】
前記外力条件は、地震、動的な荷重、静的な荷重を含む
請求項1又は3に記載の損傷度予測装置。
【請求項8】
前記損傷状態データは、少なくとも、梁の損傷の度合い、損傷の面積又は損傷の面積割合のいずれかを表すデータである
請求項1~3のいずれか1項に記載の損傷度予測装置。
【請求項9】
前記複数の周辺梁は、前記学習済モデルの学習結果から説明変数の対象であると判断された範囲に含まれる梁である
請求項1~3のいずれか1項に記載の損傷度予測装置。
【請求項10】
前記出力手段は、前記第2の損傷状態データとして、前記梁構造における損傷区分に基づく損傷度分布を、梁構造を示す図上にマッピングして出力する
請求項1に記載の損傷度予測装置。
【請求項11】
前記出力手段は、前記損傷度予測対象梁の損傷状態データとして、前記梁構造における損傷区分に基づく損傷度分布を、梁構造を示す図上にマッピングして出力する
請求項2又は3に記載の損傷度予測装置。
【請求項12】
確率モデルに従い各々の前記損傷度予測対象梁の将来の時点における劣化度を予測する将来予測手段を有し、
前記出力手段は、予測された将来の劣化度に応じた劣化度データを前記学習済モデルに入力して得られた損傷状態に関する損傷状態データを前記第2の損傷状態データとして出力する
請求項1に記載の損傷度予測装置。
【請求項13】
確率モデルに従い各々の前記損傷度予測対象梁の将来の時点における劣化度を予測する将来予測手段を有し、
前記出力手段は、予測された将来の劣化度に応じた劣化度データを前記学習済モデルに入力して得られた損傷状態に関する損傷状態データを前記損傷度予測対象梁の損傷状態データとして出力する
出力する
請求項2又は3に記載の損傷度予測装置。
【請求項14】
前記梁構造が、n層構造の橋梁の梁構造であり、
前記教師データが、前記説明変数として、前記梁構造が何層目かを示す情報、及び隣接する他の層との距離を示す情報を含み、
前記入力手段が、前記梁構造において前記梁構造が何層目かを示す情報、及び隣接する他の層との距離を示す情報を入力する
請求項1~3のいずれか1項に記載の損傷度予測装置。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の損傷度予測装置を用いて実施される損傷度予測方法。
【請求項16】
桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、当該1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件を表す画像データとを説明変数とし、当該1の梁の損傷状態を目的変数とする教師データを用いた機械学習により、学習済モデルを生成する生成方法。
【請求項17】
桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、前記梁構造に関するデータと、前記1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、当該梁構造における前記1の梁の数値データとを説明変数とし、構造解析によって得られた前記1の梁の損傷状態データを目的変数とする教師データを用いた機械学習により、学習済モデルを生成する生成方法。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の生成方法により生成された学習済モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造における損傷を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の施工又は保守点検のための技術が知られている。一般に、桟橋の梁構造に対し外力が与えられたときの損傷を予測又は評価するためには、非特許文献1に記載された詳細定期点検診断を実施し、その結果に基づいた構造解析が行われる。しかしながら、詳細定期点検結果を用いて残存耐力評価を得るまでには時間を要すため、評価中に評価対象構造物が大きな外力を受ける可能性が高くなり、評価結果を得る前に大きな外力を受けてしまうと、評価結果自体の価値はなくなってしまう。また、時間や費用の面から、詳細点検自体を実施しない、又は詳細定期点検診断を実施しても対象構造物の残存耐力を評価しないこともあり、その場合には現状の保有耐力を把握できないことから、原形復旧を前提とした補修に留まらざるを得ず、合理的な補修にならない。以上のことから詳細定期点検診断及びその結果に基づいた構造解析にはコストや時間がかかるため、一般点検診断から得られる劣化度判定結果から比較的簡易に残存耐力を評価する手法が提案されている(非特許文献2)。
【0003】
また、本発明者らは先に特許文献1において、桟橋又は橋梁の損傷度予測装置として、桟橋又は橋梁の梁構造における劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、当該梁構造の平面形状、及び前記梁構造に与えられる外力を入力データとし、前記梁構造に前記外力が与えられたときの構造解析結果から得られる前記梁構造の損傷状態を示す情報を出力データとする教師データを与えて機械学習をさせた学習済モデルを用いる装置を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-143575号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】国土交通省港湾局監修、「港湾の施設の維持管理技術マニュアル(改訂版)」一般財団法人沿岸技術研究センター、2018年7月、p.296、p.317
【非特許文献2】宇野州彦・岩波光保“劣化度判定結果を活用した残存耐力評価手法の実桟橋への適用”土木学会論文集B3(海洋開発),第74巻第2号、pp.I_55-I_60、2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、入力データとして劣化度分布又は健全性判定分布のマップ、梁構造の平面形状を画像データとして与える場合、本願発明者らの研究によれば、未知の形状(すなわち学習したことのない形状)の桟橋又は橋梁に対して予測を行うときに、例えば過去に学習した桟橋又は橋梁の形状の中から近い形状のものを出力するなど、桟橋又は橋梁の形状を誤認識してしまうことがある。
【0007】
これに対し本発明は、入力データとして画像データを与えても適切な予測結果を出力することができる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、前記梁構造に関するデータと、前記1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、当該梁構造における前記1の梁の数値データとを説明変数とし、構造解析によって得られた前記1の梁の損傷状態データを目的変数とする教師データを用いた機械学習により生成された、学習済モデルを記憶する記憶手段と、桟橋又は橋梁の梁構造における損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ及び当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データとを、前記学習済モデルに入力する第1の入力手段と、前記損傷度予測対象梁の梁構造に関するデータと、前記損傷度予測対象梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、前記損傷度予測対象梁の数値データとを、前記学習済モデルに入力する第2の入力手段と、前記学習済モデルから得られる前記損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた第2の損傷状態データを出力する出力手段とを備え、前記学習済モデルは、前記第1の入力手段による入力に応じて得られた前記損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた第1の損傷状態データを出力する画像AIと、前記第1の損傷状態データを入力し、当該第1の損傷状態データと前記第2の入力手段による入力とに応じて得られた前記第2の損傷状態データを前記出力手段に出力するデータAIとを備える損傷度予測装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該梁構造における位置を表す位置データと、当該1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件を表す画像データとを説明変数とし、当該1の梁の損傷状態を目的変数とする教師データを用いた機械学習により生成された、学習済モデルを記憶する記憶手段と、桟橋又は橋梁の梁構造における損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ及び当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該梁構造における位置を表す位置データと、当該桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件を表す画像データとを、前記学習済モデルに入力する入力手段と、前記入力手段による入力に応じて得られた前記損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた損傷状態データを出力する出力手段とを備える損傷度予測装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、前記梁構造に関するデータと、前記1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、当該梁構造における前記1の梁の数値データとを説明変数とし、構造解析によって得られた前記1の梁の損傷状態データを目的変数とする教師データを用いた機械学習により生成された、学習済モデルを記憶する記憶手段と、前記桟橋又は橋梁における損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、前記損傷度予測対象梁の梁構造に関するデータと、前記損傷度予測対象梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、前記損傷度予測対象梁の数値データとを前記学習済モデルに入力する入力手段と、前記入力手段により入力されたデータに応じて得られた前記損傷度予測対象梁の損傷状態データを出力する出力手段とを備える損傷度予測装置を提供する。
【0011】
前記位置データは、前記梁構造における各梁の座標値、前記梁構造における各梁につけられた通し番号、又は、前記梁構造における各梁の画像データを所定の順番で取得したときの前記梁構造における各梁の相関位置のいずれかであってもよい。
【0012】
前記数値データは、当該梁の寸法、当該梁の両端部における杭の有無、当該梁を支持する杭の長さ若しくは突出長、又は当該杭の特性値のうち少なくともいずれか1つを含んでもよい。
【0013】
前記梁構造に関するデータは、前記桟橋又は橋梁を構成する梁の列数を含んでもよい。
【0014】
前記外力条件は、地震、動的な荷重、静的な荷重を含んでもよい。
【0015】
前記損傷状態データは、少なくとも、梁の損傷の度合い、損傷の面積又は損傷の面積割合のいずれかを表すデータであってもよい。
【0016】
前記複数の周辺梁は、前記学習済モデルの学習結果から説明変数の対象であると判断された範囲に含まれる梁であってもよい。
【0017】
前記出力手段は、前記第2の損傷状態データとして、前記梁構造における損傷区分に基づく損傷度分布を、梁構造を示す図上にマッピングして出力してもよい。
【0018】
前記出力手段は、前記損傷度予測対象梁の損傷状態データとして、前記梁構造における損傷区分に基づく損傷度分布を、梁構造を示す図上にマッピングして出力してもよい。
【0019】
確率モデルに従い各々の前記損傷度予測対象梁の将来の時点における劣化度を予測する将来予測手段を有し、前記出力手段は、予測された将来の劣化度に応じた劣化度データを前記学習済モデルに入力して得られた損傷状態に関する損傷状態データを前記第2の損傷状態データとして出力してもよい。
【0020】
確率モデルに従い各々の前記損傷度予測対象梁の将来の時点における劣化度を予測する将来予測手段を有し、前記出力手段は、予測された将来の劣化度に応じた劣化度データを前記学習済モデルに入力して得られた損傷状態に関する損傷状態データを前記損傷度予測対象梁の損傷状態データとして出力してもよい。
【0021】
前記梁構造が、n層構造の橋梁の梁構造であり、前記教師データが、前記説明変数として、前記梁構造が何層目かを示す情報、及び隣接する他の層との距離を示す情報を含み、前記入力手段が、前記梁構造において前記梁構造が何層目かを示す情報、及び隣接する他の層との距離を示す情報を入力してもよい。
【0022】
また、本発明は、上述の損傷度予測装置を用いて実施される損傷度予測方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、当該1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件を表す画像データとを説明変数とし、当該1の梁の損傷状態を目的変数とする教師データを用いた機械学習により、学習済モデルを生成する生成方法を提供する。
【0024】
また本発明は、桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データと、前記梁構造に関するデータと、前記1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、当該梁構造における前記1の梁の数値データとを説明変数とし、構造解析によって得られた前記1の梁の損傷状態データを目的変数とする教師データを用いた機械学習により、学習済モデルを生成する生成方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、上述の生成方法により生成された学習済モデルを提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、入力データとして画像データを与えても適切な出力データを出力することができるため、数値情報に変換する必要がなく、予測結果を迅速に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】一実施形態に係る損傷度予測装置の機能構成を例示するブロック図。
図2】一実施形態に係る損傷度予測装置のハードウェア構成を例示するブロック図。
図3】一実施形態に係る損傷度予測装置に用いる機械学習モデルの構造を例示する図。
図4】一実施形態に係る損傷度予測装置に用いる教師データを準備するための、学習装置51における処理を例示するフローチャート。
図5】桟橋劣化度の判定基準を例示する図。
図6】橋梁健全性の判定基準を例示する図。
図7】一実施形態における梁構造の取り扱いを説明するための図。
図8】一実施形態における1つの梁とその周辺梁とによる機械学習を説明するための図。
図9】梁構造の平面形状を示す情報を例示する図。
図10】桟橋における外力条件を例示する図。
図11】一実施形態における構造解析の結果を例示する図。
図12】一実施形態における機械学習モデルの学習処理を例示するフローチャート。
図13】一実施形態における損傷度の予測処理を例示するシーケンスチャート。
図14】一実施形態における予測される損傷状態を示す情報を例示する図。
図15】一実施形態における損傷度予測装置の効果を説明するための図。
図16】変形例に係る損傷度予測装置の機能構成を例示するブロック図。
図17】変形例に係る損傷度予測装置に用いる教師データを準備するための、学習装置52における処理を例示するフローチャート。
図18】変形例における機械学習、予測で用いる外力条件を表す画像データを例示する図。
図19】変形例における損傷度の予測処理を例示するシーケンスチャート。
図20】変形例に係る損傷度予測装置の機能構成を例示するブロック図。
図21】変形例に係る損傷度予測装置の機能構成を例示するブロック図。
図22】変形例に係る損傷度予測装置の機能構成を例示するブロック図。
図23】変形例における梁の位置を示す無次元距離を例示する図。
図24】変形例における複数層の梁構造において各梁に付与される識別情報を例示する図。
図25】不規則な梁構造を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.構成
図1は、一実施形態に係る損傷度予測装置1の機能構成を例示する図である。損傷度予測装置1は、対象となる構造物に対し外力が与えられたときの損傷を予測するシステムである。対象となる構造物は、桟橋又は橋梁の梁構造体である。ここで、「梁」とは桟橋においては上部工のうち2本の杭(又は支柱)の間に渡される棒状構造体、又は構造体のどちらかの端部が1本の杭(又は支柱)により支持される構造体をいい、桁と言われることもある。損傷度予測装置1は、対象となる構造物の損傷を、その構造物の構造解析によらずに機械学習により生成された学習済モデルを用いて予測する。
【0029】
損傷度予測装置1は、ユーザから指示又はデータの入力を受け付け、入力された指示又はデータに応じた情報を出力するクライアント装置又はユーザ端末である。損傷度予測装置1は、記憶手段11、第1の入力手段21、第2の入力手段22、出力手段31を有する。
【0030】
記憶手段11は、種々のデータ及びプログラムを記憶する。本実施形態においては、記憶手段11に記憶されるデータには学習済モデルM1が含まれる。学習済モデルM1は、教師データを与えて機械学習をさせた機械学習モデルである。学習済モデルM1は、例えば、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、決定木、サポートベクターマシン、又は深層学習を用いて学習し構築されたモデルである。
【0031】
学習済モデルM1の構築に際して、教師データは、説明変数として(1)桟橋又は橋梁の梁構造におけるある1つの梁(以下、「1の梁」とも言う)の劣化度を表す画像データ、(2)当該1の梁の周辺に位置する複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、及び(3)当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データ、(4)当該1の梁の梁構造に関するデータ、(5)当該1の梁を含む構造物である桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件、及び(6)当該1つの梁の数値データを少なくとも含む。
【0032】
また、この教師データは、目的変数としてその梁構造の構造解析によって得られた当該1の梁の損傷状態を示す損傷状態データを少なくとも含む。これらの教師データは、少なくとも1つの桟橋又は橋梁に関するデータである。学習済モデルM1は、学習装置51により生成される。
【0033】
学習装置51は各々、教師データを用いて機械学習をさせ、学習済モデルM1を得る。学習装置51は、記憶手段及び学習手段を有する。記憶手段は、教師データ及び学習済モデル(又は学習前のモデル)を記憶する。学習手段は、教師データを用いて機械学習をさせ、学習済モデルを得る。学習装置51は、生成した学習済モデルである学習済モデルM1を損傷度予測装置1に出力する。
【0034】
図1において、第1の入力手段21、第2の入力手段22は、学習済モデルM1に入力するための入力データの入力を受け付ける。記憶手段11は、第1の入力手段21、第2の入力手段22を介して入力された入力データを学習済モデルM1に与え、対応する出力結果を得る。
【0035】
学習済モデルM1は、画像AI41とデータAI42とを備える。画像AI41は、画像データの入力に応じた結果を出力するAI(人工知能)である。データAI42は、数値データの入力に応じた結果を出力するAI(人工知能)である。
【0036】
第1の入力手段21は、学習済モデルM1の画像AI41に入力するための入力データの入力を受け付ける。学習済モデルM1の画像AI41に入力される入力データは、(a)対象となる構造物の点検結果から得られた桟橋又は橋梁の梁構造における損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ、(b)当該損傷度予測対象梁の周辺の複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、及び(c)当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の桟橋又は橋梁における位置を表す位置データを少なくとも含む。これらの入力データに対し画像AI41から得られる出力結果(すなわち予測の結果)は、当該損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた第1の損傷状態データを少なくとも含む。画像AI41は、上述の入力データに応じて得られた損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた第1の損傷状態データを出力する。
【0037】
第2の入力手段22は、学習済モデルM1のデータAI42に入力するための入力データの入力を受け付ける。学習済モデルM1のデータAI42に入力される入力データは、(a)画像AI41から出力された損傷度予測対象梁の第1の損傷状態データ、(b)損傷度予測対象梁の梁構造に関するデータ、(c)損傷度予測対象梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件、及び(d)損傷度予測対象梁の数値データを少なくとも含む。これらの入力データに対しデータAI42から得られる出力結果(すなわち予測の結果)は、当該損傷度予測対象梁の損傷状態に応じた第2の損傷状態データを少なくとも含む。出力手段31は、記憶手段11が得た、損傷度予測対象梁の第2の損傷状態データを出力する。
【0038】
図2は、損傷度予測装置1のハードウェア構成を例示する図である。損傷度予測装置1は、CPU(Central Processing Unit)101、メモリ102、ストレージ103、入力装置104、表示装置105を有するコンピュータ装置、例えば、パーソナルコンピュータである。CPU101は、プログラムを実行して各種演算を行い、損傷度予測装置1における他のハードウェア要素を制御する制御装置である。メモリ102は、CPU101がプログラムを実行する際にワークエリアとして機能する主記憶装置であり、例えばRAMを含む。ストレージ103は、各種プログラム及びデータを記録する不揮発性の記憶装置であり、例えばSSD(Solid State Drive)又はHDD(Hard Disk Drive)を含む。入力装置104は、ユーザが損傷度予測装置1に対し指示又はデータを入力するための装置であり、例えば、タッチスクリーン、キーボード、及びマイクロフォンのうち少なくとも一種を含む。表示装置105は、ユーザに対し情報を提示する装置であり、例えば、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ又はLCD(Liquid Crystal Display)を含む。
【0039】
この例において、ストレージ103に記憶されるプログラムには、コンピュータ装置を損傷度予測装置1として機能させるためのプログラム(以下「クライアントプログラム」という)が記憶される。CPU101がクライアントプログラムを実行することにより、コンピュータ装置に損傷度予測装置1としての機能が実装される。CPU101がクライアントプログラムを実行している状態において、メモリ102及びストレージ103の少なくとも一方が記憶手段11の一例である。入力装置104が第1の入力手段21、第2の入力手段22の一例である。表示装置105が出力手段31の一例である。
【0040】
本実施形態においては、損傷度予測装置1は、機能構成として複数の入力手段(第1の入力手段21、第2の入力手段22)を備えるが、入力手段として機能させるための入力装置104が複数必要というわけではなく、1つの入力装置104を、複数の入力手段(第1の入力手段21、第2の入力手段22)として機能させることができる。
【0041】
学習装置51のハードウェア構成については図示を省略するが、損傷度予測装置1と同様のハードウェア構成を有するコンピュータ装置である。なお、学習装置51は、損傷度予測装置1と同一のコンピュータ装置に実装されてもよいし、損傷度予測装置1とは別のコンピュータ装置、例えばネットワーク上のサーバ装置に実装されてもよい。
【0042】
2.動作
損傷度予測装置1の動作説明に先立ち、本実施形態において用いられる機械学習モデルの概要を説明する。
【0043】
図3は、一実施形態に係る機械学習モデルの構造を例示する図であり、ニューラルネットワークを例示している。この例において、機械学習モデル90は、入力層91、中間層92、及び出力層93を有する。この例において、学習済モデルM1を生成する場合には、入力層91には、(1)桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ、(2)当該1の梁の周辺に位置する複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、(3)当該梁構造における各々の梁の位置データ、(4)梁構造に関するデータ、(5)当該1の梁を含む構造物に及ぼす外力条件、及び(6)当該1の梁の数値データが入力される。出力層93には、その梁構造の構造解析結果から得られる当該1の梁の損傷状態を示す損傷状態データ(第1の損傷状態データ)が出力される。
【0044】
損傷状態データは、損傷の範囲、損傷の度合い、及び損傷の割合の少なくとも一つ以上の情報を含む。より詳細には、損傷状態を示す情報は、例えば損傷度分布のマップを含む。
【0045】
中間層92は、入力層91と出力層93との間に位置する層であり、入力層91を介して入力されたデータから出力層93を介して出力するデータを得るためのパラメータを含む。学習済モデルM1を生成する場合には、上述のような入力層91に入力される入力データと、その梁構造の各梁の損傷状態を示すデータを出力データとする教師データを用いて、そのパラメータが学習される。なお、この例において「損傷状態」は損傷度合い、損傷分布及び損傷面積率の少なくとも一種を含むものとする。
【0046】
以下、損傷度予測装置1及び学習装置51の動作を説明する。損傷度予測装置1及び学習装置51の動作は、概ね、教師データの準備、学習済モデルM1の生成(すなわち学習)、及び学習済モデルM1を用いた予測の三段階に分けられる。以下、教師データの準備、学習、及び予測のそれぞれの処理を説明する。以下において、各装置、各手段等の機能要素を処理の主体として記載することがあるが、これは、CPU101等のハードウェア要素がプログラムに従って他のハードウェア要素と協働して処理を実行することを意味する。また、以下では対象となる構造物として桟橋を例として説明する。
【0047】
2-1.教師データの準備
学習装置51における機械学習の際には、様々なサイズの桟橋又は橋梁を対象として、その各々に複数の解析条件(例えば、劣化度分布及び外力に関する条件)を与えて構造解析が実施される。構造解析には既知の構造解析ソフトウェア(例えば、株式会社フォーラムエイト製の「Engineer's Studio」など)が用いられる。構造解析の結果である損傷状態として損傷分布、損傷の度合い、及び桟橋又は橋梁上部工の総面積に対する損傷の面積割合である損傷面積率のデータが得られる。これらのデータが教師データとして用いられる。
【0048】
図4は、学習装置51において教師データを準備する処理を例示するフローチャートである。まず、学習装置51は、桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の梁(周辺梁)の劣化度を表す画像データを取得する(ステップS101)。これらの梁の劣化度を表す画像データは、桟橋又は橋梁の現場で実際の梁構造を人が観察することにより劣化度を判定した結果に基づいて作成されたものである。また、これらの梁の劣化度を表す画像データは、現場で撮影した梁の画像に基づいて劣化度を判定した結果に基づいて作成されてもよい。
【0049】
図5は、桟橋劣化度の判定基準を例示する図である(非特許文献1より引用)。この例においては、梁の側面部及び下面部のそれぞれについて基準が設けられている。側面部及び下面部のいずれについても、劣化度としてはa、b、c、及びdの四区分が定義される。劣化度aが一番劣化の程度が重い(又は劣化の程度が高い)状態であり、劣化度dが一番劣化の程度が軽い又は劣化がない(又は劣化の程度が低い)状態である。梁構造は複数の梁に区分され、各梁について劣化度が判定される。判定をする人は、梁構造のうち対象となる梁の画像の下面部及び側面部を観察し、判定基準と照らし合わせてその梁の劣化度を判定する。この例において、判定をする人は、その梁の下面部の劣化度及び側面部の劣化度をそれぞれ判定し、より程度が重い劣化度を、その梁の劣化度として採用する。例えば、下面の劣化度がcであり、2つある側面のうち一方の劣化度がb、他方がdであった場合、その梁の劣化度はbである。
【0050】
なお対象となる構造物が桟橋ではなく橋梁(例えば道路橋)であった場合、劣化度に代わり健全性という指標が用いられる。
【0051】
図6は、橋梁構造物の健全性の判定基準を例示する図である(道路橋定期点検要領「国土交通省 道路局2019.2」より引用)。この例において、道路橋の健全性としては、区分I、II、III、及びIVの四区分が定義される。区分Iが最も健全(又は劣化の程度が軽い)状態であり、区分IVが最も劣化の程度が重い状態である。判定する人は、梁構造のうち対象となる梁を観察し、判定基準と照らし合わせてその梁の健全性を判定する。なお、図5及び図6において例示した劣化度及び健全性の判定基準はあくまで例示であり、これ以外の基準が用いられてもよい。劣化度及び健全性の区分は4つに限られず、5つ以上又は3つ以下に区分されてもよい。
【0052】
図4に戻って説明すると、劣化度を判定する人は上述のような判定基準に基づいて、梁の劣化度を判定し、それらの判定に基づいて、梁の劣化度を表す画像データが作成される。そして、ステップS101において、学習装置51は、作成された梁の劣化度を表す画像データを取得する。
【0053】
続いて、学習装置51は、1の梁と複数の周辺梁の各々の桟橋又は橋梁における位置を表す位置データを取得する(ステップS102)。各梁の位置データは、梁構造における各梁の座標値、梁構造における各梁につけられた通し番号、又は、梁構造における各梁の画像データを所定の順番で取得したときの前記梁構造における各梁の相関位置のいずれかである。
梁構造における各梁の座標値と各梁の相関位置について以下に説明する。各梁につけられた通し番号については後述する。
【0054】
以下、学習装置51が取得する画像データについて説明する。
図7は、梁構造の取り扱いを説明する図である。図7(A)は、梁構造を例示する図である。この図において、グレーの長方形が梁(又は桁)を、黒い正方形が杭を、白い長方形が床板を、それぞれ表している。実際の梁構造において梁、杭、及び床板はそれぞれ異なったサイズを有しているが、ここではデータとしての取り扱いを容易にする又は図示を容易にする目的で、これらをすべて同一サイズの正方形に規格化する。
【0055】
図7(B)は、規格化された梁構造を示す。この梁構造において、図の左上の白色のマスを原点とし、紙面(あるいは表示面)上の左右方向にx軸、上下方向にy軸を設定し、紙面(あるいは表示面)上の右へ向かう方向をx方向、下へ向かう方向をy方向とする。以下、他の図におけるx方向、y方向も本記載と同様として記載するものとし、例えば左から3番目かつ上から2番目に位置している梁を[3,2]と表す。図7(A)にも、図7(B)におけるx方向、y方向に対応する方向を示す矢印を記載している。なお、図7中において矢印で示すx方向、y方向は、x軸、y軸の方向を示しているが、2本の矢印が交差する位置が座標軸の原点を示すわけではない。
【0056】
以上のように、学習装置51は、図4のステップS102での梁の位置データを、図7(A)に示すようなx軸、y軸における[3,2]のような座標値として取得することができる。
また、学習装置51が取得する梁の位置データは、図4のステップS101において各梁の劣化度を表す画像データを所定の順番で取得したときの、図7に示すような梁構造における各梁の相関位置であってもよい。すなわち、例えば、学習装置51への梁の劣化度を表す画像データの入力が、図7における座標軸に沿って、座標値が[1,1]~[1,m]、[2,1]~[2,m]、・・・、[n,1]~[n,m]の順に行われる場合(m、nは自然数であり、mはx軸方向の最大値、nはy軸方向の最大値)、入力順と座標値との間の相関関係が特定できるので、入力された順番が位置データとして機能する。
【0057】
図8は、図7に示したような梁構造における劣化度の判定結果を例示する図であり、1つの梁とその周辺梁とによる機械学習を説明するための図である。図8(A)は、図7(B)のように規格化された梁構造の各々の梁に対して、劣化度の判定結果をマッピングした図である。すなわち、図8(A)は、桟橋又は橋梁の現場で各梁の劣化度を判定した結果に基づいて作成された、各梁の劣化度を表す画像データである。
以下、図7(B)に示すような、梁、杭、床板を示す規格化された正方形の各々の領域をピクセルという。図8に示す梁、杭、床板を示す正方形の各々の領域もピクセルである。
【0058】
本実施形態において、機械学習及び予測において梁の損傷結果を出力するための手法をN近傍法と呼ぶ。ここで、Nは、ある対象ピクセルの学習及び予測のために採用する、対象ピクセルの周辺に位置するピクセルの数をいう。学習装置51は、機械学習を行う際に、1つの梁(構造解析の対象となる梁)の周囲の24個の梁(周辺梁)までを考慮するように設定する。
図8(A)に示す領域Rは、中央の構造解析対象の梁と周辺梁を含んだ24ピクセルを含む5×5の計25ピクセルの領域を示している。すなわち、この場合、上述のNは24である。25ピクセルの領域Rには、中央の1ピクセルの梁とその周囲にある12ピクセルの周辺梁が含まれている。
【0059】
図8(A)に示す画像データにおいて、梁に対応する各ピクセルには、劣化度を示すa~dの文字が表示されている。学習装置51を使用するユーザは、図8(A)に示す画像データの複数の位置より、領域Rに相当する25ピクセルの領域を示す画像データを抽出する。
【0060】
図8(B)は、抽出された領域Rの画像データを示している。学習装置51は、図8(B)に示す領域Rの画像データを説明変数として取得する。すなわち、図8(B)は、図4のステップS101で学習装置51が取得する、1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の梁(周辺梁)の劣化度を表す画像データの例を示している。学習装置51は、領域R内の中央の梁と周辺梁の劣化度(a~d)を説明変数として取得する。
【0061】
図8(B)に示す領域Rの画像データは、1の梁と当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の各々の梁構造における位置を表す位置データとしても機能する。すなわち、学習装置51は、図8(B)に示す領域Rの画像データを取得することにより、領域R内の中央の梁と周辺梁との位置関係を認識することができる。
【0062】
取得した領域Rの梁構造全体の中での位置は、図7の説明において述べたように、入力順と座標値との間の相関関係により特定できる。すなわち、学習装置51に複数の領域Rの画像データが入力される際の入力された順番が、各々の領域Rの梁構造全体の中での位置を表す位置データとして機能する。
【0063】
また、学習装置51は、図8(A)に示す梁構造全体を示す画像データを説明変数として取得してもよい。この場合、学習装置51は、取得した図8(A)に示す画像データより、順次複数の領域Rの画像データを抽出していく。学習装置51は、抽出した各々の画像データが示す領域Rの梁構造内での位置を、梁構造全体を示す画像データのどの位置から抽出したかによって認識できる。また、学習装置51は、各々の領域Rの画像データにおいて、領域R内の中央の梁と周辺梁との位置関係を認識することができ、かつ、各々の領域R内の中央の梁と周辺梁の劣化度(a~d)を取得することができる。
【0064】
以上のように、図8(A)あるいは(B)に示す画像データは、1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データとして機能し、かつ、1の梁と当該1の梁の周辺にある複数の周辺梁の各々の桟橋又は橋梁における位置を表す位置データとして機能する。
【0065】
なお、上述のようにして、1の梁とその周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁とその周辺梁の位置を表す位置データとは関連付けがなされている。このように、1の梁とその周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該1の梁とその周辺梁の位置を表す位置データとは、何らかの手法により必ず関連付けがなされていなければならないものとする。
【0066】
図4に戻って説明すると、学習装置51は、当該1に梁の梁構造に関するデータを取得する(ステップS103)。梁構造に関するデータとしては、桟橋又は橋梁を構成する梁の列数を含む。梁の列数とは、例えば、桟橋又は橋梁の法線方向に設けられている梁の列数を示す。なお、ステップS103の処理は実行しなくてもよく、梁構造に関するデータは、必ずしも学習装置51における機械学習に必要ではない。
【0067】
続いて、学習装置51は、当該1の梁の数値データを取得する(ステップS104)。梁の数値データとしては、当該1の梁の寸法、当該1の梁の両端部における杭の有無、当該1の梁を支持する杭の長さ若しくは突出長、又は当該杭の特性値のうち少なくとも1つを含む。なお、ステップS104の処理は実行しなくてもよく、梁の数値データは、必ずしも学習装置51における機械学習に必要ではない。
【0068】
図9は、梁構造の平面形状を示す情報を例示する図であり、図9(A)は、梁の位置データを例示する図であり、図9(B)は、梁の数値データを例示する図である。
【0069】
図9(A)において、縦方向及び横方向の梁にそれぞれ識別番号が振られている。これらの識別番号は、上述の図4のステップS102で学習装置51が取得する位置データである通し番号を示している。
【0070】
図9(A)において、紙面(あるいは表示面)の左右方向にx軸、上下方向にy軸、紙面(あるいは表示面)に対しての垂直方向にz軸を設定し、紙面(あるいは表示面)上の右へ向かう方向をx方向、下へ向かう方向をy方向、紙面(あるいは表示面)に対して垂直上方へ向かう方向をz方向とする。なお、これらの方向は、左へ向かう方向をx方向としてもよいし、上へ向かう方向をy方向としてもよいし、垂直下方へ向かう方向をz方向としてもよい。また、図9(A)中、z方向を示す「○」の中に「・」が記載されたものは紙面(あるいは表示面)の裏から表に向かう矢印を意味している。なお、図9(A)中において矢印で示すx方向、y方向、z方向は、x軸、y軸、z軸の方向を示しているが、矢印が交差する位置が座標軸の原点を示すわけではない。
【0071】
図9(B)の表は、対象となる梁構造のサイズ(縦横それぞれの梁の数)を示す情報、及び各梁の寸法を示す情報を含む。この梁構造はx方向に7本、y方向に5本の梁から構成される。例えば、梁番号101の梁は、x方向の長さが4.40m、y方向の長さが0.50m、z方向の高さが0.50mである。これらの数値は、梁の数値データを示している。なお、梁の数値データとして、x方向の長さ、y方向の長さの他に、z方向(紙面あるいは表示面に対して垂直方向)の長さ(梁の高さ)を示す情報を加えてもよい。
【0072】
図4に戻って説明すると、学習装置51は、対象となる梁構造に与える外力条件を取得する(ステップS105)。
【0073】
図10は、桟橋における外力条件を例示する図である。なお、橋梁における外力条件はこれとは別に定義されてもよい(例示は省略する)。また、外力の種類についてはここに示す限りではない。この表の行は外力条件を、列は説明変数を示す。この例では、説明変数として、静的(海←陸)、静的(海→陸)、L1、L2-1、及びL2-2の5種が用いられる。「静的(海←陸)」は、例えば所定の船舶の牽引力を表す。「静的(海→陸)」は、例えば所定の船舶の接岸力を示す。「L1」はレベル1地震動、すなわち供用期間中に発生する確率が高い地震を示す。「L2」はレベル2地震動、すなわち供用期間中に発生する確率が低いが、大きなエネルギーを放出する地震を示し、L2-1は、タイプI:プレート境界型のレベル2地震動(例えば東北地方太平洋沖地震など)を示す。L2-2は、タイプII:内陸直下型のレベル2地震動(例えば兵庫県南部地震など)を示す。なお、外力条件として記載している静的(海←陸)、静的(海→陸)、については、所定の船舶の牽引力・接岸力としてだけではなく、静的な設計荷重としても作用させることで、健全な桟橋では発生するはずのない損傷が発生するかどうかを確認することが可能である。なお、外力条件のL1、L2に関しても、設計対象桟橋の重要度によっては設計荷重として用いられる。
【0074】
図10の表において、各セルの値は「0」又は「1」のいずれかである。値「0」は、その外力が与えられないことを、値「1」はその外力が与えられることを、それぞれ示す。例えば、外力条件「静的(海←陸)」は、対象となる梁構造に例えば船舶の牽引力のみが与えられ、他の外力は与えられないことを示す。なおこの例では単一の種類の外力が与えられる外力条件のみが示されているが、複数種類の外力が与えられる外力条件が用いられてもよい。具体的には、例えば静的(海←陸)外力とレベル1地震動とが同時に与えられる外力条件が用いられてもよい。
【0075】
図4に戻って説明すると、学習装置51は、ステップS101~S104において取得したデータが示す梁及び梁構造に対し、ステップS105において取得した外力条件により示される外力が与えられたと仮定した場合の構造解析結果を取得する。構造解析は、学習装置51自身により行われてもよいし、学習装置51以外の他の装置により行われてもよい。
【0076】
図8に戻って説明すると、学習装置51は、領域R内の中央の梁の解析結果である損傷状態データを目的変数として取得する。このような目的変数を取得して機械学習することにより、周辺の梁を含めた解析対象の梁の劣化度に対する損傷結果という組み合わせで機械学習が可能である。領域Rの位置を順次x軸方向あるいはy軸方向に移動させていくことにより、逐次梁構造全域にわたって梁の劣化度と解析対象の梁の損傷状態のデータを取得する。
【0077】
図8(C)は、構造解析による各梁の解析結果を例示する図である。図8(C)において、梁に対応する各ピクセルには、解析結果である損傷状態を示す1~4の文字が記載されている。「1」は終局、「2」は降伏、「3」はひび割れ、「4」は損傷なし、の各状態であることを示す。図8(D)は、領域R内の各梁と各々の損傷状態を示している。学習装置51は、解析対象の梁である領域Rの中央の梁の損傷状態(図8(C)(D)では、「2」の降伏状態)を目的変数として取得する。なお、本実施形態では、損傷状態を上述の「1」~「4」の4段階に分類しているが、分類の数や内容は、これらに限定する必要はなく、適宜設定すればよい。
【0078】
学習装置51における機械学習の方法については、例えばCNN(畳み込みニューラルネットワーク)等の手法により学習させることができる。以上により、損傷予測モデルである学習済モデルM1を生成することができる。
【0079】
なお、図8においては、解析対象梁とその周辺梁の領域Rを、5×5の計25ピクセル(x軸方向に5列、y軸方向に5行)としたが、これに限定されず、3×3、7×7等であってもよい。列方向、行方向の数は、解析対象梁が領域Rの中央に位置するように、奇数であることが好ましい。列方向、行方向の数は、必ずしも同じ数である必要はなく、5×7等であってもよい。
【0080】
図11は、構造解析の結果を例示する図であり、梁構造を示した画像上に構造解析の結果をマッピングした状態を示している。この例においては、構造解析の結果の損傷状態データとして、損傷の度合い、損傷度の分布、及び損傷の面積又は損傷の面積割合のデータが得られる。また、構造解析の結果は、図8(C)に示されるように、規格化された梁構造の画像上にマッピングされてもよい。このマップにおいて、全ての梁は共通のサイズを有し、梁構造の実際のサイズを示す情報を含んでいなくてもよいし、各梁が実際のサイズに応じた縮尺サイズで表示されてもよい。
【0081】
なお、損傷の面積割合とは、対象となる梁構造が有する梁の数のうち損傷を受けている梁の数の割合(あるいは損傷を受けている梁と受けていない梁の割合)、又は、対象となる梁構造が有する梁のうち、所定の損傷を有する梁全体の面積のうちの面積の割合をいう。あるいは、損傷の面積割合とは、対象となる梁構造が有する梁のうち、桟橋上部工全体の面積のうちの面積の割合をいうこととしてもよい。
【0082】
このマップにおいて、各梁の損傷の度合いは、色、ハッチング又は文字情報など、損傷の種類が分かる形態で、所定の損傷区分に基づいて表示される。図11では色を表現できないので代わりにハッチングで区別している。例えば、ひび割れ損傷は黄色で、降伏損傷は赤で、終局損傷は黒で表される。これらの損傷が梁構造のマップ上に表示されているので、この図は損傷の範囲及び度合いを示していると言える。
【0083】
このマップが、梁の識別情報と損傷度との組を含む情報に変換される。あるいは、構造解析の結果として、図11のマップに加えて又は代えて、梁の識別情報と損傷度との組を含む情報が出力される。
【0084】
学習装置51は、様々な形状及びサイズを有する複数の桟橋の各々について、さらに各々の桟橋を構成する梁について、図4のステップS101~S106の処理を繰り返し行い、データを蓄積する。こうして蓄積されたデータが、以下で説明する学習処理において教師データとして用いられる。
【0085】
学習装置51による学習処理では、上述の教師データにおいて、図4のステップS101で取得した梁の劣化度を表す画像データ、ステップS102で取得した位置データ、ステップS103で取得した梁構造に関するデータ、ステップS104で取得した梁の数値データ、ステップS105で取得した外力条件が説明変数であり、ステップS106において得られた構造解析結果が目的変数である。学習装置51は、これらの教師データを自装置内あるいは外部の記憶手段に記憶する。
【0086】
2-2.学習
図12は、機械学習モデルの学習処理を例示するフローチャートである。図12のフローは、例えば、損傷度予測装置1の管理者又はユーザから学習の指示が与えられたことを契機として開始される。あるいは、図12のフローは、所定量の教師データが蓄積されたことを契機として開始されてもよい。
【0087】
まず、学習装置51は、学習に用いる教師データを取得する(ステップS301)。この例において、学習装置51は、損傷度予測装置1とは別の外部装置において準備された教師データを取得する。
【0088】
続いて、学習装置51は、機械学習モデルに対し、教師データを与えて機械学習をさせる(ステップS302)。この教師データは、上述の入力データ及び出力データを含む。続いて、学習装置51は、機械学習により中間層92のパラメータが学習された機械学習モデルを、学習済モデルM1として記憶手段に記憶する(ステップS303)。
【0089】
そして、学習装置51は、生成した学習済モデルM1を損傷度予測装置1に出力する。損傷度予測装置1は、学習済モデルM1を記憶手段11に記憶する。こうして、損傷度予測装置1は学習済モデルM1を得る。
【0090】
2-3.予測
図13は、損傷度予測装置1による損傷状態の予測処理を例示するシーケンスチャートである。損傷状態の予測は、ユーザからの要求に応じて行われる。
【0091】
図13において、ユーザは、損傷度予測装置1において損傷度の予測を指示する。具体的には、ユーザは、対象となる構造物の梁構造について、入力データを入力する。第1の入力手段21は、入力データとして、損傷度予測の対象となる梁(損傷度予測対象梁)の劣化度を表す画像データ、当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の桟橋又は橋梁における位置を表す位置データの入力を受け付ける(ステップS401)。
【0092】
一例において、構造物の点検結果を入力するためのユーザインターフェースを損傷度予測装置1自身が提供する。ユーザは、構造物の各々の梁の劣化度の判定結果を参照することにより、図8(B)に示したような、各々の梁の劣化度を表した画像データを作成し、それらの画像データを損傷度予測装置1に入力する。それらの画像データは、損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データと、損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データとを含む。
【0093】
損傷度予測装置1は、入力される梁の劣化度を表す画像データのうち、中心にある梁を損傷度予測対象梁として取り扱い、損傷度予測対象梁の周辺にある複数の梁を周辺梁として取り扱う。すなわち、学習装置51による学習処理(学習済モデルM1の生成)の際に、説明変数の対象とされた範囲と同様の範囲(例えば、図8(B)に示すような5×5の範囲のピクセル)のうち、中心の1つの梁を損傷度予測対象の梁とし、その周辺の24個の梁を周辺梁と判断して画像データを取り扱う。
【0094】
損傷度予測対象梁と損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の各々の桟橋又は橋梁における位置を表す位置データは、学習装置51による学習処理において説明した内容と同様に、梁構造における各梁の座標値、梁構造における各梁につけられた通し番号、又は、梁構造における各領域の梁の劣化度を表す画像データを所定の順番で取得したときの前記梁構造における各領域の相関位置のいずれかとすればよい。
【0095】
あるいは、損傷度予測装置1は、図8(A)に示すような梁構造全体を示す画像データを入力してもよい。この場合、損傷度予測装置1の第1の入力手段21は、取得した図8(A)に示す画像データより、順次複数の領域Rの画像データを抽出していく。第1の入力手段21は、抽出した各々の画像データが示す領域Rの梁構造内での位置を、梁構造全体を示す画像データのどの位置から抽出したかによって認識できる。また、第1の入力手段21は、各々の領域Rの画像データにおいて、領域R内の中央の梁と周辺梁との位置関係を認識することができ、かつ、各々の領域R内の中央の梁と周辺梁の劣化度(a~d)を取得することができる。
【0096】
以上のように、図8(A)あるいは(B)に示す画像データは、損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ及び当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データとして機能し、かつ、損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の各々の桟橋又は橋梁における位置を表す位置データとして機能する。
【0097】
なお、上述のようにして、損傷度予測対象梁とその周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁とその周辺梁の位置を表す位置データとは関連付けがなされている。このように、損傷度予測対象梁とその周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁とその周辺梁の位置を表す位置データとは、何らかの手法により必ず関連付けがなされていなければならないものとする。
【0098】
続いて、第1の入力手段21は、損傷度予測対象梁の損傷状態を示す第1の損傷状態データを出力する要求を生成する(ステップS402)。この要求は、ステップS401において入力、取得、又は指定された入力データを含む。続いて、第1の入力手段21は、記憶手段11に対して損傷度予測対象梁の損傷状態データを要求する(ステップS403)。なお、この例において、第1の入力手段21は、入力を受け付けた入力データを実質的に学習済モデルM1の画像AI41に入力していると言える。
【0099】
続いて、記憶手段11は、損傷度予測対象梁の損傷状態データを出力する要求を受け付ける(ステップS404)。記憶手段11は、受け付けた要求に含まれる入力データを学習済モデルM1の画像AI41に入力する(ステップS405)。画像AI41は、入力された入力データに応じた処理を行い、損傷度予測対象梁の損傷状態データ(第1の損傷状態データ)を出力する(ステップS406)。損傷度予測対象梁の第1の損傷状態データは、図8(C)あるいは図11で例示した、教師データとして用いられた、梁構造の画像上にマッピングされた損傷分布のマップと同じ形式のデータである。
【0100】
続いて、第2の入力手段22は、入力データとして、損傷度予測対象梁の梁構造に関するデータ、損傷度予測対象梁の数値データ、損傷度予測対象梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件の入力を受け付ける(ステップS407)。これらの入力データは、ユーザによって入力される。これらの入力は、ステップS401での入力データの入力とともにまとめて入力されてもよい。
【0101】
続いて、第2の入力手段22は、損傷度予測対象梁の損傷状態を示す第2の損傷状態データを出力する要求を生成する(ステップS408)。この要求は、ステップS407において入力された入力データを含む。続いて、第2の入力手段22は、記憶手段11に対して損傷度予測対象梁の損傷状態データを要求する(ステップS409)。なお、この例において、第2の入力手段22は、入力を受け付けた入力データを実質的に学習済モデルM1のデータAI42に入力していると言える。
【0102】
続いて、記憶手段11は、損傷度予測対象梁の損傷状態データを出力する要求を受け付ける(ステップS410)。記憶手段11は、受け付けた要求に含まれる入力データと、ステップS406の処理により画像AI41から出力された損傷状態データ(第1の損傷状態データ)とを学習済モデルM1のデータAI42に入力する(ステップS411)。データAI42は、入力された入力データ(データAI42からの出力を含む)に応じた処理を行い、出力結果すなわち損傷度予測対象梁の損傷状態データ(第2の損傷状態データ)を出力する(ステップS412)。損傷度予測対象梁の第2の損傷状態データは、図8(C)あるいは図11で例示した、教師データとして用いられた、梁構造の画像上にマッピングされた損傷分布のマップと同じ形式のデータである。
【0103】
続いて、記憶手段11は、データAI42から出力された出力結果である第2の損傷状態データを取得し、出力手段31に出力する(ステップS413)。出力手段31は、出力結果である第2の損傷状態データを入力し、入力した出力結果に応じて、予測される損傷状態を示す情報を出力する(ステップS414)。出力手段31は、学習済モデルM1のデータAI42から出力された情報をそのままユーザ(要求の送信元の装置)に対し出力してもよいし、データAI42から出力された情報に対し何らかの加工がされた後で出力してもよい。
【0104】
図14は、出力手段31から出力される、予測される損傷状態を示す情報を例示する図である。この例では、各梁の損傷度(すなわち損傷の度合い)が複数に区分(すなわち損傷区分)され、各区分が視覚的に(例えば異なる色で)表現される。ここで用いられる区分は図11において例示されたものと共通であり、例えば、ひび割れ損傷は黄色で、降伏損傷は赤で、終局損傷は黒で表される。また、図5において表示した劣化度や図6において表示した健全性に応じた色別表示としてもよい。
【0105】
また、出力手段31から出力される情報には、損傷の面積又は損傷の面積割合が含まれる。ここで損傷の面積割合とは、対象となる梁構造が有する梁の数のうち損傷を受けている梁の数の割合(あるいは損傷を受けている梁と受けていない梁の割合)、又は、対象となる梁構造が有する梁のうち、所定の損傷を有する梁全体の面積のうちの面積の割合をいう。後者の場合、例えば対象となる梁構造における梁の総面積が5,000mである場合において、少なくとも一部にひび割れ損傷がある梁の総面積が3,000mであったときは、ひび割れ面積率は60%である。
なお、損傷の面積割合とは、対象となる梁構造が有する梁のうち、桟橋上部工全体の面積のうちの面積の割合をいうこととしてもよい。
【0106】
なお、予測される損傷状態を示す情報の形式は図14の例に限定されない。損傷状態を示す情報は、損傷の範囲、損傷の度合い、及び損傷の割合の少なくとも一つ以上の情報を含んでいればよい。例えば、出力手段31は、損傷の区分を区別せず、損傷の有無を2値(すなわち損傷あり/損傷無し)で表してもよい。あるいは、出力手段31は、損傷状態をマップで出力せず、損傷の割合のみを出力してもよい。
【0107】
以上のように、本実施形態の損傷度予測装置1によれば、入力データとして梁の劣化度を表す画像データを与えても適切な出力結果を出力することができるため、梁の劣化状態を数値データに変換して入力する必要がなく、入力処理を迅速に行うことができる。従って、予測結果を迅速に得ることができる。
【0108】
また、損傷度予測装置1によれば、構造解析を用いて生成した学習済モデルを記憶しておくことにより、予測時は、劣化度判定結果(a~d)と梁の位置情報とから、構造解析を実施することなく、学習済モデルを用いて梁の損傷状態を予測(あるいは評価)することができ、予測結果を迅速に得ることができる。
また、N近傍法により、解析対象梁の劣化情報のみならず周辺梁の劣化状況も含んだ特徴量として取り扱うため、予測精度の高い損傷結果を空間的に定量的に得ることができる。
【0109】
また、梁の劣化度情報を画像データとして取り込むことができるため、空間的な梁の位置情報の条件を付与する必要がない。
また、損傷度予測装置1によれば、複数の桟橋の損傷状態を取得して、損傷状態の把握をしようとした場合には,よりその労力と時間を大幅に短縮することができる。例えば、損傷度予測装置1により、複数の桟橋の残存耐力を評価した後,損傷の著しいものだけより詳細な構造解析を実施して具体的な損傷箇所を把握するというような運用をすることにより、損傷度予測装置1を一次スクリーニング機能として活用することも可能である。
【0110】
また、損傷度予測装置1によれば、様々な外力(クレーン作業荷重、接岸力、牽引力、レベル1地震動、レベル2地震動等)に応じた出力を得ることが可能である.
また、損傷度予測装置1によれば、桟橋だけでなく橋梁においても、例えば道路橋健全性判定区分を利用することで損傷状態を予測することが可能である。
【0111】
また、損傷度予測装置1によれば、以下に説明するような上述の特許文献1に記載の技術(以下、「先行技術」という)の問題点を解決することができる。
図15は、先行技術の問題点を説明するための図である。この先行技術は、桟橋の形状および劣化度の判定結果と、構造解析で得られた損傷結果を画像情報として学習し、未知の桟橋の劣化度判定結果から損傷結果を予測できる技術である。
【0112】
しかしながら、未知の桟橋の形状(学習したことのない桟橋形状)に対して予測を行う場合、桟橋の形状を誤認識してしまうことがある。
図15(A)は、予測対象である桟橋の実際の形状(すなわち、正しい形状)を示した図であり、桟橋全体の形状に構造解析の結果による損傷結果の情報を記している。このような桟橋の形状が学習済モデルにとって未知である場合、図15(A)に示す形状の図を学習済モデルに入力して予測をさせると、学習済の桟橋形状の中から梁の列数等の近いものを誤って出力してしまう可能性がある。
【0113】
例えば、図15(B)は、学習済モデルによって出力された予測結果を示している。図15(A)とは、形状の異なる桟橋のデータを出力した結果となっている。形状が誤っているため、損傷の予測も誤ったものとなってしまうことになる。
【0114】
本実施形態の損傷度予測装置1によれば、桟橋形状の全体を示す図を機械学習の説明変数及び予測時の入力データとして取り込むのではなく、全体の形状の画像から一部を切り取った画像を順次取り込むので、予測において、桟橋の形状を誤認識することはない。
【0115】
3.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例に記載された事項のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0116】
3-1.梁の劣化度を表す画像データ、梁の位置データ、外力条件のみによる損傷度の予測を行う損傷度予測装置
上述の実施形態においては、学習装置51による機械学習の際の説明変数は、(1)桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ、(2)当該1の梁の周辺に位置する複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、(3)当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁の梁構造における位置を表す位置データ、(4)梁構造に関するデータ、(5)当該1の梁を含む構造物に及ぼす外力条件、及び(6)当該1の梁の数値データ、としたが、これに限定されず、例えば、上述の(1)(2)(3)(5)のみを説明変数としてもよい。そして、損傷度予測時の入力データを、桟橋又は橋梁の梁構造における損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ及び当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データと、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該梁構造における位置を表す位置データと、当該桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件を表す画像データとしてもよい。
【0117】
図16は、変形例に係る損傷度予測装置1Aの機能構成を例示するブロック図である。損傷度予測装置1Aは、記憶手段12、入力手段23、出力手段32を備えている。記憶手段12は、上述の実施形態の記憶手段11と同等の機能を有しており、学習済モデルM2が記憶される。
【0118】
学習済モデルM2の構築に際して、教師データは、説明変数として、上述の(1)(2)(3)(5)を含み、目的変数として、梁構造の構造解析によって得られた当該1の梁の損傷状態を示す損傷状態データを含む。学習済モデルM2は、学習装置52により生成される。
【0119】
損傷度予測装置1Aのハードウェア構成は、図2の例示した損傷度予測装置1のハードウェア構成と同様である。CPU101がクライアントプログラムを実行している状態において、メモリ102及びストレージ103の少なくとも一方が記憶手段12の一例であり、入力装置104が入力手段23の一例であり、表示装置105が出力手段32の一例である。
【0120】
記憶手段12は、種々のデータ及びプログラムを記憶し、記憶されるデータには学習済モデルM2が含まれる。学習済モデルM2は、上述の実施形態の学習済モデルM1と同様に、教師データを与えて機械学習をさせた機械学習モデルである。
【0121】
図17は、学習装置52において教師データを準備する処理を例示するフローチャートである。まず、学習装置52は、桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の梁(周辺梁)の劣化度を表す画像データを取得する(ステップS501)。この処理は、上述の実施形態における図4のステップS101の処理と同様である。続いて、学習装置52は、1の梁と複数の周辺梁の各々の桟橋又は橋梁における位置を表す各梁の位置データを取得する(ステップS502)。この処理は、上述の実施形態における図4のステップS102の処理と同様である。
【0122】
続いて、学習装置52は、対象となる梁構造に与える外力条件を表す画像データを取得する(ステップS503)。外力条件のデータを取得するのは、上述の実施形態における図4のステップS105と同様であるが、上述の実施形態では、外力条件のデータを文字あるいは数値の形式のデータとして取得したのに対して、本変形例では、画像データとして取得する点が異なる。
【0123】
図18は、本変形例で学習装置52が取得する外力条件を表す画像データを例示する図である。外力条件を表す画像データとしては、図10で例示した外力の種別毎に、種別を識別できるような画像を作成すればよい。そして、作成した画像の画像データを学習装置52に読み込ませればよい。
【0124】
図18(A)は、レベル1地震動の外力条件を表す画像の一例であり、「L1」という文字を描いた画像を示している。図18(B)は、レベル2地震動のタイプIの外力条件を表す画像の一例であり、「L2-1」という文字を描いた画像を示している。例えば、これらの画像を示す画像データを学習装置52に読み込ませることにより、学習装置52は、取得した画像データに基づいて外力条件を認識することができる。桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ及び当該1の梁の周辺にある複数の梁(周辺梁)の劣化度を表す画像データの中に、外力条件を表す画像を直接組み込んでもよい。
【0125】
なお、図18に示した画像は一例であり、画像の形式はこれらに限定されることはなく、外力の種別を認識できるのであれば、どのような形式、内容の画像であってもよい。例えば、文字ではなく、図形を描くことにより外力の種別を認識可能としてもよいし、色彩によって外力の種別を認識可能としてもよい。
【0126】
続いて、学習装置52は、構造解析による梁の解析結果である梁の損傷状態データを目的変数として取得する処理を行う(ステップS504)。すなわち、上述の実施形態と異なり、本変形例では、図4のステップS103、S104の説明変数の取得処理は行わない。
【0127】
図4のステップS106と同様に、取得する目的変数である構造解析による梁の解析結果である梁の損傷状態データは、上述の実施形態と同様に、例えば、図8(C)あるいは図11で例示した、梁構造の画像上にマッピングされた損傷分布のマップのデータである。
以上のような教師データを取得することにより、学習装置52は、学習済モデルM2を生成することができる。
【0128】
次に、損傷度予測装置1Aによる損傷状態の予測処理について説明する。図19は、本変形例の損傷度予測装置1Aによる損傷状態の予測処理を例示するシーケンスチャートである。損傷状態の予測は、ユーザからの要求に応じて行われる。
【0129】
図19において、ユーザは、損傷度予測装置1Aにおいて損傷度の予測を指示する。具体的には、ユーザは、入力データ(損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ、当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該梁構造における位置を表す位置データ、当該桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件を表す画像データ)を入力することにより損傷度の予測を指示する(ステップS601)。
【0130】
続いて、入力手段23は、損傷度予測対象梁の損傷状態を示す損傷状態データを出力する要求を生成する(ステップS602)。この要求は、ステップS601における入力データを含む。続いて、入力手段23は、記憶手段12に対して損傷度予測対象梁の損傷状態データを要求する(ステップS603)。なお、この例において、入力手段23は、入力を受け付けた入力データを実質的に学習済モデルM2に入力していると言える。
【0131】
続いて、記憶手段12は、損傷度予測対象梁の損傷状態データを出力する要求を受け付ける(ステップS604)。記憶手段12は、受け付けた要求に含まれる入力データを学習済モデルM2に入力する(ステップS605)。学習済モデルM2は、入力された入力データに応じた処理を行い、損傷度予測対象梁の損傷状態データを出力する(ステップS606)。損傷度予測対象梁の損傷状態データは、図8(C)あるいは図11で例示した、教師データとして用いられた、梁構造の画像上にマッピングされた損傷分布のマップと同じ形式のデータである。
【0132】
続いて、記憶手段12は、学習済モデルM2から出力された出力結果である損傷状態データを取得し、出力手段32に出力する(ステップS607)。出力手段32は、出力結果である損傷状態データを入力し、入力した出力結果に応じて、予測される損傷状態を示す情報を出力する(ステップS608)。出力手段32は、学習済モデルM2から出力された情報をそのままユーザ(要求の送信元の装置)に対し出力してもよいし、学習済モデルM2から出力された情報に対し何らかの加工がされた後で出力してもよい。出力手段32から出力される情報は、上述の実施形態と同様に、例えば、図14に示されるような情報である。
【0133】
3-2.学習済モデルによる処理を画像AIとデータAIとに分けない損傷予測装置
上述の実施形態においては、損傷度予測装置1で用いる学習済モデルM1は、画像AI41とデータAI42とを用いて損傷度予測の処理を行うものとしたが、このように複数のAIに分けて処理を行う学習済モデルを用いることに限定されない。
図20は、変形例に係る損傷度予測装置1Bの機能構成を例示するブロック図である。図20において、損傷度予測装置1Bは、記憶手段13、入力手段24、出力手段33を有する。
【0134】
損傷度予測装置1Bのハードウェア構成は、図2の例示した損傷度予測装置1のハードウェア構成と同様である。CPU101がクライアントプログラムを実行している状態において、メモリ102及びストレージ103の少なくとも一方が記憶手段13の一例であり、入力装置104が入力手段24の一例であり、表示装置105が出力手段33の一例である。
【0135】
記憶手段13は、種々のデータ及びプログラムを記憶し、記憶されるデータには学習済モデルM3が含まれる。学習済モデルM3は、上述の実施形態の学習済モデルM1と同様に、教師データを与えて機械学習をさせた機械学習モデルである。
【0136】
学習済モデルM3に与える教師データは、説明変数として(1)桟橋又は橋梁の梁構造における1の梁の劣化度を表す画像データ、(2)当該1の梁の周辺に位置する複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、(3)当該1の梁と当該複数の周辺梁の各々の当該桟橋又は橋梁における位置を表す位置データ、(4)当該梁構造に関するデータ、(5)当該1の梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件、及び(6)当該梁構造における当該1の梁の数値データを少なくとも含む。また、この教師データは、目的変数として当該梁構造の構造解析結果から得られた当該1の梁の損傷状態を示すデータを少なくとも含む。この教師データは、少なくとも1つの桟橋又は橋梁に関するデータである。学習済モデルM3は、学習装置53により生成される。
【0137】
学習装置53は、上述の実施形態の学習装置51と同様にして、上述の(1)~(6)及び梁の損傷状態を示すデータを教師データとして取得して機械学習を行い、学習済モデルM3を生成する。ここでの機械学習は、上述の実施形態において、学習装置51において教師データを準備する処理は、図4のフローチャートと同様であり、図8で示した方法と同様な方法で学習を行う。すなわち、梁の損傷状態を、周辺梁を含めた領域内での各々の梁の劣化度に対する損傷結果という組み合わせで機械学習を行う。さらに、梁構造に関するデータ、梁の数値データ、桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件と、損傷結果という組み合わせで機械学習を行う。
【0138】
損傷度予測装置1Bによる損傷状態の予測処理は、ユーザからの要求に応じて以下のように行われる。予測処理のフローは、上述の変形例における図19の入力手段23を入力手段24に、記憶手段12を記憶手段13に、出力手段32を出力手段33に置き換えると図19と類似するので、図19を参照しながら説明する。
ユーザは、損傷度予測装置1Bにおいて損傷度の予測を指示する(図19のステップS601)。具体的には、ユーザは、対象となる構造物の梁構造について、入力データを入力する。入力手段24は、入力データとして、損傷度予測対象梁の劣化度を表す画像データ、当該損傷度予測対象梁の周辺にある複数の周辺梁の劣化度を表す画像データ、当該損傷度予測対象梁と当該損傷度予測対象梁の周辺にある当該複数の周辺梁の各々の当該梁構造における位置を表す位置データ、当該損傷度予測対象梁の梁構造に関するデータ、損傷度予測対象梁の数値データ、損傷度予測対象梁を含む桟橋又は橋梁に及ぼす外力条件の入力を受け付ける。入力データは、上述の実施形態における第1の入力手段21、第2の入力手段22で入力するデータと同様である。
【0139】
続いて、入力手段24は、損傷度予測対象梁の損傷状態を示す損傷状態データを出力する要求を生成し(図19のステップS602)、記憶手段13に対して要求(入力した入力データを含む)を出力する(図19のステップS603)。記憶手段13は、要求を受け付け(図19のステップS604)、要求とともに入力した入力データを学習済モデルM3に入力する(図19のステップS605)。
【0140】
学習済モデルM3は、入力された入力データに応じた処理を行い、損傷度予測対象梁の損傷状態データを出力する(図19のステップS606)。損傷度予測対象梁の損傷状態データは、図8(C)、図11で例示した、教師データとして用いられた、梁構造の画像上にマッピングされた損傷分布のマップと同じ形式のデータである。続いて、記憶手段13は、学習済モデルM3から出力された出力結果である損傷状態データを取得し、取得した出力結果を出力手段33に出力する(図19のステップS607)。出力手段33は、出力結果である損傷状態データを入力し、入力した損傷状態データに応じて、予測される損傷状態を示す情報を出力する(図19のステップS608)。出力手段33から出力される、予測される損傷状態を示す情報は、上述の実施形態の図14で例示した内容と同様のものである。
【0141】
3-3.確率モデルを用いた損傷予測装置
上述の実施形態において、損傷予測装置は、所定の確率モデルを用いて将来の劣化度又は健全性を予測する将来予測手段を備えるものとしてもよい。
【0142】
図21は、変形例に係る損傷度予測装置の機能構成を例示するブロック図であり、図1に例示した実施形態のブロック図に、将来予測手段61を付加した構成の損傷度予測装置1Cを示している。図21において、記憶手段11、第1の入力手段21、第2の入力手段22、出力手段31、学習装置51は、図1に示したものと同様のものである。ただし、第1の入力手段21には、上述の実施形態での入力データ以外に、時刻データが入力される。時刻データは、現在時刻及び予測の対象となる将来時刻のデータである。
【0143】
将来予測手段61は、確率モデルM4を有しており、確率モデルM4に従い、梁の将来の時点における劣化度を予測する。確率モデルM4は、過去の状態推移に基づく確率により将来の状態推移を推定するモデルであり、一例としてはマルコフ連鎖モデルである。予測は、学習済モデルM1と確率モデルM4とを組み合わせて行われる。
【0144】
第1の入力手段21、第2の入力手段22は、図1の損傷度予測装置1の場合と同様の入力データを入力する。第1の入力手段21は、さらに、ユーザにより入力される現在時刻及び予測の対象となる将来時刻のデータである時刻データを入力する。
【0145】
将来予測手段61は、第1の入力手段21、第2の入力手段22により入力されたデータを受け付け、時刻データが示す将来時刻における損傷度予測対象梁の劣化度を予測し、予測された将来の劣化度に応じた劣化度データを記憶手段11の学習済モデルM1に出力する。予測された将来の劣化度に応じた劣化度データは、学習済モデルM1の画像AI41に入力され、画像AI41は、将来予測手段61からの劣化度データと第1の入力手段21から記憶手段11が入力した入力データに応じて、出力結果である損傷度予測対象梁の損傷状態に関する損傷状態データ(第1の損傷状態データ)を出力する。
【0146】
そして、その第1の損傷状態データがデータAI42に入力される。学習済モデルM1のデータAI42は、第2の入力手段22から入力した記憶手段11が入力データと画像AI41から入力される第1の損傷状態データに応じた処理を行い、出力結果すなわち損傷度予測対象梁の損傷状態データ(第2の損傷状態データ)を出力する。損傷度予測対象梁の第2の損傷状態データは、図8(C)あるいは図11で例示した、教師データとして用いられた、梁構造の画像上にマッピングされた損傷分布のマップと同じ形式のデータであり、入力された将来時刻における損傷状態を示すものとなる。
【0147】
なお、図21では、時刻データは、第1の入力手段21に入力するものとしているが、第2の入力手段22に入力するものとしてもよい。この場合、時刻データは、第2の入力手段22を介して将来予測手段61に入力される。
【0148】
また、図21では、将来予測手段61から出力される予測された将来の劣化度に応じた劣化度データは、記憶手段11の画像AI41に入力されるものとしたが、データAI42に入力されるものとしてもよい。また、将来予測手段61により予測された将来の劣化度に応じた劣化度データを、記憶手段11の画像AI41、データAI42の両方に入力するものとしてもよい。
【0149】
3-4.確率モデルを用い、かつ、梁の劣化度を表す画像データ、梁の位置データ、外力条件のみによる損傷度の予測を行う損傷予測装置
上述の図20で例示した変形例において、損傷予測装置は、所定の確率モデルを用いて将来の劣化度又は健全性を予測する将来予測手段を備えるものとしてもよい。
【0150】
図22は、変形例に係る損傷度予測装置の機能構成を例示するブロック図であり、図20に例示した変形例のブロック図に、将来予測手段61を付加した構成の損傷度予測装置1Dを示している。図22において、記憶手段13、出力手段33、学習装置53は、図20に示したものと同様のものである。
【0151】
将来予測手段61は、図21の例示した変形例に示したものと同様のものであり、確率モデルM4を有しており、確率モデルM4に従い、梁の将来の時点における劣化度を予測する。確率モデルM4は、過去の状態推移に基づく確率により将来の状態推移を推定するモデルであり、一例としてはマルコフ連鎖モデルである。予測は、学習済モデルM3と確率モデルM4とを組み合わせて行われる。
【0152】
入力手段24は、図20に示したものと同様の入力データを入力するとともに、さらに、ユーザにより入力される現在時刻及び予測の対象となる将来時刻のデータである時刻データを入力する。将来予測手段61は、入力手段24により入力されたデータを受け付け、将来時刻における損傷度予測対象梁の劣化度を予測し、予測された将来の劣化度に応じた劣化度データを記憶手段13の学習済モデルM3に出力する。学習済モデルM3は、将来予測手段61からの劣化度データと入力手段25から記憶手段13が入力した入力データに応じて、出力結果である損傷度予測対象梁の損傷状態に関する損傷状態データを出力する。損傷状態データは、出力手段33から出力される。損傷状態データは、図8(C)あるいは図11で例示した、梁構造の画像上にマッピングされた損傷分布のマップと同じ形式のデータであり、入力された将来時刻における損傷状態を示すものとなる。
【0153】
3-5.説明変数
学習における教師データである説明変数又は予測における入力データは実施形態において例示したものに限定されない。説明変数又は入力データは、例えば、以下の(ア)~(カ)のうち少なくとも1種を含んでもよい。
(ア)桟橋の法線に直交する梁の列の数。
(イ)杭の特性値β[m-1]。
なお、特性値βは、例えば以下の式(1)(「(公社)日本港湾協会:港湾の施設の技術上の基準・同解説(中巻)、pp.704-705、平成30年」から引用)、又は式(2)(「(公社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 IV下部構造編、pp.259-260、平成29年」から引用)で定義される。
【数1】
ここで、Bは杭幅[m]、KCHは横方向地盤反力係数[kNm-3]、EIは杭の曲げ剛性[kNm-2]である。
【数2】
ここで、Dは杭の直径[m]、kは水平方向地盤反力係数[kNm-3]、EIは杭の曲げ剛性[kNm-2]である。
(ウ)その梁が端部に位置するという情報。
(エ)端部の梁の接合(片接合か両接合か)という情報。
(オ)梁の位置を示す無次元距離。
(カ)杭の突出長又は長さ。
なお、上述の各変数、係数の単位は一例であって、これらに限定されるものではない。
【0154】
(ア)に関し、梁の総数が同じでも桟橋の法線に直交する梁の列の数に応じて外力から受ける影響の大小が変わると考えられるので、これを説明変数として用いることには意義がある。(イ)に関し、杭の特性値(例えば1/β)に応じて外力から受ける影響の大小が変わると考えられるので、これを説明変数として用いることには意義がある。(ウ)に関し、梁構造において端部に位置する梁は外力に対する挙動が端部以外の位置の梁とは異なる可能性があるので、その梁が端部に位置するか否かという情報を説明変数に追加することで予測精度が向上する可能性がある。(エ)に関し、端部に位置する梁の接合には片接合及び両接合の2つの態様が考えられるところ、片接合と両接合とでは外力に対する挙動が異なる可能性があるので、その梁が端部に位置する場合において片接合であるか両接合であるかという情報を説明変数に追加することで予測精度が向上する可能性がある。なお、両接合とはその梁の両端が杭により支持される接合構造をいい、片接合とはその梁の一端のみが杭により支持される接合構造をいう。
【0155】
(オ)に関し、図23は、梁の位置を示す無次元距離を例示する図である。この図は、x方向の距離を示している。この例の距離は、規格化された梁構造において基準位置(左上端)からの距離を最大値(この例では13)で除し、10倍して小数部分を切り上げた数値を示す。このように無次元距離を用いることで、様々なサイズの梁構造に対して統一された距離を用いることができる。なお、無次元距離の具体的な算出方法はこれに限定されず、整数とするかどうか、何桁の数値とするか(図の例では2桁)はいずれも任意である。
【0156】
(カ)に関し、梁構造だけでなく杭の突出長又は杭の長さに応じて外力に対する挙動が異なる可能性があるので、その梁構造を支持する杭に関する情報を説明変数に追加することで予測精度が向上する可能性がある。
【0157】
杭の突出長又は杭の長さを説明変数に加える場合、後述する「3-6.梁の長さ」と同様に、実数値を用いるほかに,最大値比率を用いてもよい。また2クラス分類や3クラス分類等も考えられ,例えば2クラス分類であれば,当該杭が桟橋内の杭の突出長(又は長さ)の平均値以下であれば0、平均値を超えていれば1等としてもよい。
【0158】
3-6.梁の長さ
損傷度予測装置1は、梁の長さを説明変数として用いてもよいが、説明変数として用いられる長さは、実数値が用いられてもよく、実数値を最大値比率としての基準値(例えばその梁構造における梁の長さの最大値)で規格化した値が用いられてもよい。あるいは、損傷度予測装置1は、梁の長さを数値として扱うのではなく、分類されたクラスとして扱ってもよい。一例として2クラス分類する場合には、その梁構造に含まれる全ての梁の長さの平均値以下の長さを有する梁については長さとして「ゼロ」を、平均値を超える長さを有する梁については長さとして「1」を用いる。また、梁のx方向、y方向それぞれについて分類するようにしてもよい。なお、梁だけではなく、上述の杭についても同様である。
【0159】
3-7.複数層構造
対象となる梁構造が橋梁の梁構造であって、複数層(n層)のデッキ構造である場合も、損傷度予測装置1の予測の対象とすることができる。複数層のデッキ構造の一例としては、道路橋と鉄道橋とのダブルデッキ構造、又は2つの道路橋(例えば上り線及び下り線)のダブルデッキ構造がある。複数層のデッキ構造は、鉛直方向に複数の上部工(例えば道路面)を有する。この例においては各層で単層の場合と同様に他の梁との距離を考慮するが、鉛直方向の距離は考慮しない。しかし、複数層の相関を考慮しないと、本来は上層に位置する梁構造ほど地震時に揺れやすい、といった事情があるものの、その区別無く学習又は予測してしまうという問題がある。そこで、この例では、劣化度の情報に、その梁構造が第何層目であるかを示す情報、及び隣接する他の層との距離を示す情報を含めることにより、複数層のデッキ構造を考慮する。
【0160】
すなわち、層構造の橋梁の梁構造である場合、教師データが、説明変数として、梁構造が何層目かを示す情報、及び隣接する他の層との距離を示す情報を含み、第2の入力手段が、前記梁構造において前記梁構造が何層目かを示す情報、及び隣接する他の層との距離を示す情報を入力するものとすればよい。また、橋脚全体の長さ、各層間の橋脚の長さ、または対象橋梁の基礎構造形式が杭基礎であれば、さらに説明変数(カ)杭の突出長又は杭の長さとしての情報に含めるようにしてもよい。
【0161】
図24は、複数層の梁構造において各梁に付与される識別情報を例示する図である。図には各層に「第k層」といった表示があるが、この情報も併せて説明変数として用いられる。なお、複数層構造用の機械学習モデルは、単層構造の機械学習モデルとは別の(多層構造の橋梁の)教師データを用いて学習されたものであることが好ましい。
【0162】
3-8.不規則な梁構造
図25は、不規則な梁構造を例示する図である。対象となる梁構造は規則的な格子状(方格状)であるものに限定されず、この図のように不規則なものである可能性もある。このような不規則な梁構造への対処方法として、長い梁の間にダミーの杭頭部を設け、梁を分割し、規則的な格子状に設定することが考えられる。しかしながら、上述の実施形態においては、ダミーの杭頭部や梁を設けて規則的な格子状とする必要はなく、取得した画像データの通りの情報として読み込めばよい。なお、上述の実施形態においては、ダミーの杭頭部や梁を設けて規則的な格子状とする必要はないが、ダミーの杭頭部や梁を設けて規則的な格子状としてもよい。
【0163】
3-9.その他
対象となる梁構造物が複数層の梁構造を有している場合、予測の対象となる梁構造はどれか単一の層に限定されない。複数の層に対して学習及び予測の処理が適用されてもよい。
【0164】
教師データの準備、学習、及び予測における処理の順序は図4図12、及び図13において例示したものに限定されない。例えば、説明変数、入力データの入力順序はどのようなものであってもよい。
【0165】
損傷度予測装置1のハードウェア構成は実施形態において例示されたものに限定されない。要求される機能を実装できるものであれば、損傷度予測装置1はどのようなハードウェア構成を有してもよい。例えば、損傷度予測装置1の機能の一部、一例としては記憶手段11及び学習済モデルM1の一部又は全部をサーバ装置等の外部装置に実装してもよい。この場合、第1の入力手段21、第2の入力手段22及び出力手段31を有するコンピュータ装置がこの外部装置と協働し、全体として実施形態に係る損傷度予測装置1として機能する。このサーバ装置は現実のサーバであってもよいし仮想サーバであってもよい。
【0166】
プログラム及び学習済モデル等のソフトウェア要素は、CD-ROM(Compact Disc Read only memory)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された状態で提供されてもよいし、インターネット等の通信網を介してダウンロードされてもよい。
【符号の説明】
【0167】
1、1A、1B、1C、1D…損傷度予測装置、11、12、13…記憶手段、21…第1の入力手段、22…第2の入力手段、23、24…入力手段、31、32、33…出力手段、41…画像AI、42…データAI、51、52、53…学習装置、61…将来予測手段、90…機械学習モデル、91…入力層、92…中間層、93…出力層、101…CPU、102…メモリ、103…ストレージ、104…入力装置、105…表示装置、M1、M2、M3…学習済モデル、M4…確率モデル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25