(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146252
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】血球分析方法及び血球分析用試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
G01N33/53 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059036
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】多嘉良 千尋
(72)【発明者】
【氏名】小巻 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】山内 将哉
(57)【要約】
【課題】溶血試薬を用いずに、検体中の有核赤血球の検出を可能とする手段を提供することを課題とする。
【解決手段】検体中の血球を蛍光色素で染色し、染色された血球に315 nm以上490 nm以下の波長の光及び610 nm以上750 nm以下の波長の光を照射することにより生じた蛍光情報、第1散乱光情報及び第2散乱光情報を取得し、蛍光情報に基づいて有核細胞の集団を特定し、第1散乱光情報及び第2散乱光情報に基づいて、有核細胞の集団から有核赤血球を特定することにより、上記の課題を解決する。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸に結合可能な蛍光色素で染色された粒子を含む測定試料に第1波長の光及び第2波長の光を照射することにより生じた蛍光情報、第1散乱光情報及び第2散乱光情報を取得する工程と、
前記蛍光情報に基づいて、前記測定試料中の粒子から有核細胞の集団を特定する工程と、
前記有核細胞の集団の前記第1散乱光情報及び前記第2散乱光情報に基づいて、前記有核細胞の集団から有核赤血球を特定する工程と、
を含み、
前記測定試料が、全血と前記蛍光色素とを混合することにより調製された試料であり、
前記蛍光色素が、前記第1波長の光又は前記第2波長の光により励起可能な蛍光色素であり、
前記第1波長が315 nm以上490 nm以下であり、前記第2波長が610 nm以上750 nm以下であり、
前記蛍光情報が、前記粒子の前記蛍光色素から生じた蛍光に関する情報であり、
前記第1散乱光情報が、前記測定試料に前記第1波長の光を照射することにより前記粒子から生じた散乱光に関する情報であり、
前記第2散乱光情報が、前記測定試料に前記第2波長の光を照射することにより前記粒子から生じた散乱光に関する情報である、
血球分析方法。
【請求項2】
前記測定試料が、溶血試薬を含まない請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記取得する工程の前に、前記全血と前記蛍光色素とを混合して前記測定試料を調製する工程をさらに含み、
前記測定試料に含まれる成熟赤血球を溶血する工程を含まない請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光色素が、前記第1波長の光により励起可能な蛍光色素であり、前記蛍光情報が、前記測定試料に前記第1波長の光を照射することにより前記粒子の前記蛍光色素から生じた蛍光に関する情報であるか、又は
前記蛍光色素が、前記第2波長の光により励起可能な蛍光色素であり、前記蛍光情報が、前記測定試料に前記第2波長の光を照射することにより前記粒子の前記蛍光色素から生じた蛍光に関する情報である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光情報が蛍光強度である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有核細胞の集団を特定する工程において、前記測定試料中の粒子を、蛍光強度に基づいて、第1の粒子集団と第2の粒子集団とに分類し、
前記第2の粒子集団が、前記第1の粒子集団よりも高い蛍光強度を示す集団であり、
前記第2の粒子集団を、有核細胞の集団として特定する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の粒子集団を、成熟赤血球を含む集団として特定する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記有核細胞の集団を特定する工程において、閾値より高い蛍光強度を示す粒子の集団を、前記第2の粒子集団として特定する請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記有核細胞の集団を特定する工程において、蛍光強度及び粒子数に基づくヒストグラムを作成し、前記ヒストグラムにおいて、閾値より高い蛍光強度を示す粒子の集団を、有核細胞の集団として特定する請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光情報が蛍光強度であり、前記第1散乱光情報が第1側方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が、第2前方散乱光強度又は第2側方散乱光強度であり、
前記有核細胞の集団を特定する工程において、前記蛍光強度と、前記第1側方散乱光強度、前記第2前方散乱光強度又は前記第2側方散乱光強度とに基づくスキャッタグラムを作成し、
前記スキャッタグラムにおいて、閾値より高い蛍光強度を示す粒子の集団を、有核細胞の集団として特定する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1散乱光情報が側方散乱光情報である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記有核赤血球を特定する工程において、前記第1散乱光情報と、前記第2散乱光情報とに基づいて、前記有核細胞の集団を、有核赤血球と白血球とに分類する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1散乱光情報が第1側方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が、第2前方散乱光強度又は第2側方散乱光強度である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有核赤血球を特定する工程において、前記第1側方散乱光強度と、前記第2前方散乱光強度又は前記第2側方散乱光強度とに基づいて、前記有核細胞の集団を、第3の粒子集団と第4の粒子集団とに分類し、
前記第4の粒子集団が、前記第3の粒子集団より高い第1側方散乱光強度を示す集団であり、
前記第3の粒子集団を有核赤血球として特定し、前記第4の粒子集団を白血球として特定する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1側方散乱光強度と、前記第2前方散乱光強度又は前記第2側方散乱光強度とに基づくスキャッタグラムを作成し、
前記スキャッタグラムにおいて、前記有核細胞の集団を、前記第3の粒子集団と前記第4の粒子集団とに分類する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記白血球を、リンパ球、単球及び顆粒球の3つの亜集団に分類する工程をさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項17】
第1散乱光情報又は第2散乱光情報が、前方散乱光に関する情報を含み、
前記取得する工程の後で且つ前記有核細胞の集団を特定する工程の前に、前記前方散乱光に関する情報に基づいて、前記測定試料中の粒子から、血小板を除く粒子集団を特定する工程をさらに含み、
前記有核細胞の集団を特定する工程において、前記血小板を除く粒子集団の蛍光情報に基づいて、前記血小板を除く集団から前記有核細胞の細胞集団を特定する請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記血小板を除く粒子集団を特定する工程において、前記前方散乱光に関する情報が、第1前方散乱光強度又は第2前方散乱光強度であり、
前記測定試料中の粒子を、前記前方散乱光強度に基づいて、第5の粒子集団と第6の粒子集団とに分類し、
前記第6の粒子集団が、前記第5の粒子集団よりも高い前方散乱光強度を示す集団であり、
前記第6の粒子集団を、血小板を除く細胞集団として特定する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第5の粒子集団を、血小板の集団としてとして特定する請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記前方散乱光に関する情報が、前記第2前方散乱光強度である請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記血小板を除く粒子集団を特定する工程において、閾値以下の第2前方散乱光強度を示す粒子の集団を、前記第5の粒子集団として特定し、前記閾値より高い第2前方散乱光強度を示す粒子の集団を、前記第6の粒子集団として特定する請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記蛍光情報が蛍光強度であり、前記第1散乱光情報が第1側方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が、第2前方散乱光強度及び第2側方散乱光強度であり、
前記取得する工程の後で且つ前記有核細胞の集団を特定する工程の前に、前記測定試料中の粒子から、血小板を除く粒子集団を特定する工程をさらに含み、
前記血小板を除く粒子集団を特定する工程において、前記第2前方散乱光強度と、前記蛍光強度、前記第1側方散乱光強度又は前記第2側方散乱光強度とに基づくスキャッタグラムを作成し、
前記スキャッタグラムにおいて、前記測定試料中の粒子を、第5の粒子集団と第6の粒子集団とに分類し、
前記第6の粒子集団が、前記第5の粒子集団よりも高い前方散乱光強度を示す集団であり、
前記第6の粒子集団を、血小板を除く細胞集団として特定する請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記蛍光色素が、アクリジン系化合物、シアニン系化合物、スチリル系化合物、フェノキサジン系化合物、フェノチアジン系化合物、クマリン系化合物及びアゾ(トリアジン)系化合物からなる群より選択される請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記アクリジン系化合物が、以下の式(I):
【化1】
(式中、R
1~R
10は、独立して、水素原子、-NH
2、-(CH
2)
n-NR
11R
12、-NH-R
13-NR
11R
12、-O-R
11、-COOH、ハロゲン、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~18のアルキル基又はアミノアシル基であり、ただし、R
1、R
4及びR
7の少なくとも1つは、独立して、-NH
2、-(CH
2)
n-NR
11R
12、又は-NH
2で置換されたフェニル基であり、
R
11及びR
12は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
R
13は、炭素数1~6のアルキル基であり、
nは、0~6の整数であり、
X
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記シアニン系化合物が、以下の式(II):
【化2】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~20のアルケニル基、ヒドロキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基、カルボキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基、スルホ基を有する炭素数1~18のアルキル基、ハロゲン、-(CH
2)
p-NR
5R
6、-(CH
2)
q-O-R
7又は置換基を有してもよいベンジル基であり、
nは、0~2の整数であり、pは、1~18の整数であり、qは、1~6の整数であり、
【化3】
であり、
【化4】
であり、
R
3及びR
4は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン、炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は-(CH
2)
q-O-R
7であり、
R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
R
7は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、
X及びYは、同一又は異なって、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はCR
8R
9であり、
R
8及びR
9は、同一又は異なって、炭素数1~3のアルキル基であり、
Z
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(III):
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3、A
1、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(IV):
【化6】
(式中、R
1、R
2、A
1、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(V):
【化7】
(式中、R
1、R
2、A
2、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(VI):
【化8】
(式中、R
1、R
2、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物である請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記スチリル系化合物が、以下の式(VII):
【化9】
(式中、R
1は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~20のアルケニル基、ヒドロキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基、カルボキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基、スルホ基を有する炭素数1~18のアルキル基、ハロゲン、-(CH
2)
p-NR
5R
6、-(CH
2)
q-O-R
7又は置換基を有してもよいベンジル基であり、
R
2及びR
3は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン、炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であるか、あるいは、R
2及び/又はR
3は、Nが結合しているベンゼン環と共に、前記Nを含む複素環を形成し、
nは、0~2の整数であり、pは、1~18の整数であり、qは、1~6の整数であり、
【化10】
であり、
R
4は、水素原子、ハロゲン、炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は-(CH
2)
q-O-R
7であり、
R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
R
7は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、
Xは、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はCR
8R
9であり、
R
8及びR
9は、同一又は異なって、炭素数1~3のアルキル基であり、
Z
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(VIII):
【化11】
(式中、R
1、A及びZ
-は、上記のとおりであり、
R
2及びR
3は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン、炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は炭素数1~6のアルコキシ基である)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(IX):
【化12】
(式中、R
1、R
2、R
3、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物である請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記フェノキサジン系化合物が、以下の式(X):
【化13】
(式中、R
1~R
8のうち、R
2及びR
5の少なくとも1つは、独立して、-NH
2、-(CH
2)
n-NR
9R
10、又は-NH
2で置換されたフェニル基であり、
残りのRは、独立して、水素原子、酸素原子、-O-R
9、-COOH、-NO
2、ハロゲン、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~18のアルキル基又はアミノアシル基であるか、あるいは、R
1とR
8とが互いに結合してベンゼン環を形成し、且つ/又は、R
6とR
7とが互いに結合してベンゼン環を形成し、
R
9及びR
10は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
nは、0~6の整数であり、
X
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物である請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記フェノチアジン系化合物が、以下の式(XI):
【化14】
(式中、R
1~R
8のうち、R
2及びR
5の少なくとも1つは、独立して、-NH
2、-(CH
2)
n-NR
9R
10、又は-NH
2で置換されたフェニル基であり、
残りのRは、独立して、水素原子、酸素原子、-O-R
9、-COOH、-NO
2、ハロゲン、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~18のアルキル基又はアミノアシル基であるか、あるいは、R
1とR
8とが互いに結合してベンゼン環を形成し、且つ/又は、R
6とR
7とが互いに結合してベンゼン環を形成し、
R
9及びR
10は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
nは、0~6の整数であり、
X
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物である請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記クマリン系化合物が、以下の式(XII):
【化15】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のハロアルキル基、又はヒドロキシ基を有する炭素数1~3のアルキル基であるか、あるいは、R
1とR
2とが互いに結合して環を形成し、
R
2は、水素原子、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ピリジン環、-COOR
5、-SO
3R
6、-CN又は置換基を有してもよいフェニル基であり、
R
3及びR
4は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいは、R
3及び/又はR
4は、Nが結合しているベンゼン環と共に、前記Nを含む複素環を形成し、
R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である)
で表される化合物である請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記アゾ(トリアジン)系化合物が、以下の式(XIII):
【化16】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、
R
3及びR
4は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は-NR
5R
6であり、
R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である)
で表される化合物である請求項23に記載の方法。
【請求項31】
アクリジン系化合物、シアニン系化合物、スチリル系化合物、フェノキサジン系化合物、フェノチアジン系化合物、クマリン系化合物及びアゾ(トリアジン)系化合物からなる群より選択される蛍光色素を含み、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法に用いられる血球分析用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血球分析方法に関する。本発明は、この方法に用いられる血球分析用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
有核赤血球は、骨髄中に存在する赤血球前駆細胞であり、赤芽球とも呼ばれる。有核赤血球は通常、末梢血中に存在しないが、急性骨髄性白血病、溶血性貧血、鉄欠乏性貧血、悪性貧血などの患者の末梢血には、有核赤血球が出現することがある。そのため、臨床検査分野では、有核赤血球の検出は非常に重要である。従来、血液検体中の血球を自動血球分析装置で分析することにより、有核赤血球を検出する方法が知られている。一方、被検者から採取した血液では通常、有核赤血球や白血球などの有核細胞の数に比べ、赤血球数の方が非常に多い。そのため、赤血球以外の血球を対象とする血球分析では、赤血球の影響を抑えるために、血液検体と溶血試薬とを混合して、赤血球を溶解させることが広く行われている。例えば、特許文献1には、血液検体を溶血試薬及び3種類の蛍光色素で処理して自動血球分析装置で分析することにより、有核赤血球を検出すると共に、網状赤血球断片の検出及び白血球の亜集団への分類を行ったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願第2022/0091127号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶血試薬を用いて調製された測定試料には、溶血した赤血球の残骸(赤血球ゴーストとも呼ばれる)が残る。この測定試料を自動血球分析装置で分析して有核赤血球を検出する場合、赤血球ゴーストの存在が有核赤血球の正確な検出を妨げる。また、溶血試薬は、有核赤血球のヘモグロビンを溶出させる。これにより、白血球との区別を可能にする有核赤血球の特徴が失われ、有核赤血球と白血球との弁別が難しくなる。そのため、従来、特許文献1に示されるように、有核赤血球を検出するための測定と、白血球を分類するための測定とが別個に行われている。本発明は、溶血試薬を用いずに有核赤血球の検出を可能とする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、検体中の血球を蛍光色素で染色し、染色された血球に315 nm以上490 nm以下の波長の光及び610 nm以上750 nm以下の波長の光を照射することにより生じた蛍光情報、第1散乱光情報及び第2散乱光情報に基づいて、有核赤血球を特定できることを見出して、以下の[1]~[30]に記載の発明を完成した。
【0006】
[1]核酸に結合可能な蛍光色素で染色された粒子を含む測定試料に第1波長の光及び第2波長の光を照射することにより生じた蛍光情報、第1散乱光情報及び第2散乱光情報を取得する工程と、
前記蛍光情報に基づいて、前記測定試料中の粒子から有核細胞の集団を特定する工程と、
前記有核細胞の集団の前記第1散乱光情報及び前記第2散乱光情報に基づいて、前記有核細胞の集団から有核赤血球を特定する工程と、
を含み、
前記測定試料が、全血と前記蛍光色素とを混合することにより調製された試料であり、
前記蛍光色素が、前記第1波長の光又は前記第2波長の光により励起可能な蛍光色素であり、
前記第1波長が315 nm以上490 nm以下であり、前記第2波長が610 nm以上750 nm以下であり、
前記蛍光情報が、前記粒子の前記蛍光色素から生じた蛍光に関する情報であり、
前記第1散乱光情報が、前記測定試料に前記第1波長の光を照射することにより前記粒子から生じた散乱光に関する情報であり、
前記第2散乱光情報が、前記測定試料に前記第2波長の光を照射することにより前記粒子から生じた散乱光に関する情報である、
血球分析方法。
【0007】
[2]前記測定試料が、溶血試薬を含まない、上記[1]に記載の方法。
【0008】
[3]前記取得する工程の前に、前記全血と前記蛍光色素とを混合して前記測定試料を調製する工程をさらに含み、
前記調製する工程が、前記測定試料に含まれる成熟赤血球を溶血する工程を含まない、上記[1]又は[2]に記載の方法。
【0009】
[4]前記蛍光色素が、前記第1波長の光により励起可能な蛍光色素であり、前記蛍光情報が、前記測定試料に前記第1波長の光を照射することにより前記粒子の前記蛍光色素から生じた蛍光に関する情報であるか、又は
前記蛍光色素が、前記第2波長の光により励起可能な蛍光色素であり、前記蛍光情報が、前記測定試料に前記第2波長の光を照射することにより前記粒子の前記蛍光色素から生じた蛍光に関する情報である、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
【0010】
[5]前記蛍光情報が蛍光強度である、上記[1]~[4]のいずれか1に記載の方法。
【0011】
[6]前記有核細胞の集団を特定する工程において、前記測定試料中の粒子を、蛍光強度に基づいて、第1の粒子集団と第2の粒子集団とに分類し、
前記第2の粒子集団が、前記第1の粒子集団よりも高い蛍光強度を示す集団であり、
前記第2の粒子集団を、有核細胞の集団として特定する、上記[5]に記載の方法。
【0012】
[7]前記第1の粒子集団を、成熟赤血球を含む集団として特定する、上記[6]に記載の方法。
【0013】
[8]前記有核細胞の集団を特定する工程において、閾値より高い蛍光強度を示す粒子の集団を、前記第2の粒子集団として特定する、上記[6]に記載の方法。
【0014】
[9]前記有核細胞の集団を特定する工程において、蛍光強度及び粒子数に基づくヒストグラムを作成し、前記ヒストグラムにおいて、閾値より高い蛍光強度を示す粒子の集団を、有核細胞の集団として特定する、上記[5]に記載の方法。
【0015】
[10]前記蛍光情報が蛍光強度であり、前記第1散乱光情報が第1側方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が、第2前方散乱光強度又は第2側方散乱光強度であり、
前記有核細胞の集団を特定する工程において、前記蛍光強度と、前記第1側方散乱光強度、前記第2前方散乱光強度又は前記第2側方散乱光強度とに基づくスキャッタグラムを作成し、
前記スキャッタグラムにおいて、閾値より高い蛍光強度を示す粒子の集団を、有核細胞の集団として特定する、上記[1]~[5]のいずれか1に記載の方法。
【0016】
[11]前記第1散乱光情報が側方散乱光情報である上記[1]~[9]のいずれか1に記載の方法。
【0017】
[12]前記有核赤血球を特定する工程において、前記第1散乱光情報と、前記第2散乱光情報とに基づいて、前記有核細胞の集団を、有核赤血球と白血球とに分類する、上記[1]~[11]のいずれか1に記載の方法。
【0018】
[13]前記第1散乱光情報が第1側方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が、第2前方散乱光強度又は第2側方散乱光強度である、上記[1]~[12]のいずれか1に記載の方法。
【0019】
[14]前記有核赤血球を特定する工程において、前記第1側方散乱光強度と、前記第2前方散乱光強度又は前記第2側方散乱光強度とに基づいて、前記有核細胞の集団を、第3の粒子集団と第4の粒子集団とに分類し、
前記第4の粒子集団が、前記第3の粒子集団より高い第1側方散乱光強度を示す集団であり、
前記第3の粒子集団を有核赤血球として特定し、前記第4の粒子集団を白血球として特定する、上記[13]に記載の方法。
【0020】
[15]前記第1側方散乱光強度と、前記第2前方散乱光強度又は前記第2側方散乱光強度とに基づくスキャッタグラムを作成し、
前記スキャッタグラムにおいて、前記有核細胞の集団を、前記第3の粒子集団と前記第4の粒子集団とに分類する、上記[14]に記載の方法。
【0021】
[16]前記白血球を、リンパ球、単球及び顆粒球の3つの亜集団に分類する工程をさらに含む上記[12]~[15]のいずれか1に記載の方法。
【0022】
[17]第1散乱光情報又は第2散乱光情報が、前方散乱光に関する情報を含み、
前記取得する工程の後で且つ前記有核細胞の集団を特定する工程の前に、前記前方散乱光に関する情報に基づいて、前記測定試料中の粒子から、血小板を除く粒子集団を特定する工程をさらに含み、
前記有核細胞の集団を特定する工程において、前記血小板を除く粒子集団の蛍光情報に基づいて、前記血小板を除く集団から前記有核細胞の細胞集団を特定する、上記[1]~[16]のいずれか1に記載の方法。
【0023】
[18]前記血小板を除く粒子集団を特定する工程において、前記前方散乱光に関する情報が、第1前方散乱光強度又は第2前方散乱光強度であり、
前記測定試料中の粒子を、前記前方散乱光強度に基づいて、第5の粒子集団と第6の粒子集団とに分類し、
前記第6の粒子集団が、前記第5の粒子集団よりも高い前方散乱光強度を示す集団であり、
前記第6の粒子集団を、血小板を除く細胞集団として特定する、上記[17]に記載の方法。
【0024】
[19]前記第5の粒子集団を、血小板の集団としてとして特定する、上記[18]に記載の方法。
【0025】
[20]前記前方散乱光に関する情報が、前記第2前方散乱光強度である、上記[18]に記載の方法。
【0026】
[21]前記血小板を除く粒子集団を特定する工程において、閾値以下の第2前方散乱光強度を示す粒子の集団を、前記第5の粒子集団として特定し、前記閾値より高い第2前方散乱光強度を示す粒子の集団を、前記第6の粒子集団として特定する、上記[20]に記載の方法。
【0027】
[22]前記蛍光情報が蛍光強度であり、前記第1散乱光情報が第1側方散乱光強度であり、前記第2散乱光情報が、第2前方散乱光強度及び第2側方散乱光強度であり、
前記取得する工程の後で且つ前記有核細胞の集団を特定する工程の前に、前記測定試料中の粒子から、血小板を除く粒子集団を特定する工程をさらに含み、
前記血小板を除く粒子集団を特定する工程において、前記第2前方散乱光強度と、前記蛍光強度、前記第1側方散乱光強度又は前記第2側方散乱光強度とに基づくスキャッタグラムを作成し、
前記スキャッタグラムにおいて、前記測定試料中の粒子を、第5の粒子集団と第6の粒子集団とに分類し、
前記第6の粒子集団が、前記第5の粒子集団よりも高い前方散乱光強度を示す集団であり、
前記第6の粒子集団を、血小板を除く細胞集団として特定する、上記[1]~[16]に記載の方法。
【0028】
[23]前記蛍光色素が、アクリジン系化合物、シアニン系化合物、スチリル系化合物、フェノキサジン系化合物、フェノチアジン系化合物、クマリン系化合物及びアゾ(トリアジン)系化合物からなる群より選択される、上記[1]~[22]のいずれか1に記載の方法。
【0029】
[24]前記アクリジン系化合物が、以下の式(I):
【化1】
(式中、R
1~R
10は、独立して、水素原子、-NH
2、-(CH
2)
n-NR
11R
12、-NH-R
13-NR
11R
12、-O-R
11、-COOH、ハロゲン、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~18のアルキル基又はアミノアシル基であり、ただし、R
1、R
4及びR
7の少なくとも1つは、独立して、-NH
2、-(CH
2)
n-NR
11R
12、又は-NH
2で置換されたフェニル基であり、
R
11及びR
12は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
R
13は、炭素数1~6のアルキル基であり、
nは、0~6の整数であり、
X
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物である、上記[23]に記載の方法。
【0030】
[25]前記シアニン系化合物が、以下の式(II):
【化2】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~20のアルケニル基、ヒドロキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基、カルボキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基、スルホ基を有する炭素数1~18のアルキル基、ハロゲン、-(CH
2)
p-NR
5R
6、-(CH
2)
q-O-R
7又は置換基を有してもよいベンジル基であり、
nは、0~2の整数であり、pは、1~18の整数であり、qは、1~6の整数であり、
【化3】
であり、
【化4】
であり、
R
3及びR
4は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン、炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は-(CH
2)
q-O-R
7であり、
R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
R
7は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、
X及びYは、同一又は異なって、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はCR
8R
9であり、
R
8及びR
9は、同一又は異なって、炭素数1~3のアルキル基であり、
Z
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(III):
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3、A
1、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(IV):
【化6】
(式中、R
1、R
2、A
1、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(V):
【化7】
(式中、R
1、R
2、A
2、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(VI):
【化8】
(式中、R
1、R
2、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物である、上記[23]又は[24]に記載の方法。
【0031】
[26]前記スチリル系化合物が、以下の式(VII):
【化9】
(式中、R
1は、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~20のアルケニル基、ヒドロキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基、カルボキシ基を有する炭素数1~18のアルキル基、スルホ基を有する炭素数1~18のアルキル基、ハロゲン、-(CH
2)
p-NR
5R
6、-(CH
2)
q-O-R
7又は置換基を有してもよいベンジル基であり、
R
2及びR
3は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン、炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であるか、あるいは、R
2及び/又はR
3は、Nが結合しているベンゼン環と共に、前記Nを含む複素環を形成し、
nは、0~2の整数であり、pは、1~18の整数であり、qは、1~6の整数であり、
【化10】
であり、
R
4は、水素原子、ハロゲン、炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は-(CH
2)
q-O-R
7であり、
R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
R
7は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基又は置換基を有してもよいフェニル基であり、
Xは、硫黄原子、酸素原子、セレン原子又はCR
8R
9であり、
R
8及びR
9は、同一又は異なって、炭素数1~3のアルキル基であり、
Z
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(VIII):
【化11】
(式中、R
1、A及びZ
-は、上記のとおりであり、
R
2及びR
3は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン、炭素数1~18のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は炭素数1~6のアルコキシ基である)
で表される化合物であるか、又は、以下の式(IX):
【化12】
(式中、R
1、R
2、R
3、n及びZ
-は、上記のとおりである)
で表される化合物である、上記[23]~[25]のいずれか1に記載の方法。
【0032】
[27]前記フェノキサジン系化合物が、以下の式(X):
【化13】
(式中、R
1~R
8のうち、R
2及びR
5の少なくとも1つは、独立して、-NH
2、-(CH
2)
n-NR
9R
10、又は-NH
2で置換されたフェニル基であり、
残りのRは、独立して、水素原子、酸素原子、-O-R
9、-COOH、-NO
2、ハロゲン、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~18のアルキル基又はアミノアシル基であるか、あるいは、R
1とR
8とが互いに結合してベンゼン環を形成し、且つ/又は、R
6とR
7とが互いに結合してベンゼン環を形成し、
R
9及びR
10は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
nは、0~6の整数であり、
X
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物である、上記[23]~[26]のいずれか1に記載の方法。
【0033】
[28]前記フェノチアジン系化合物が、以下の式(XI):
【化14】
(式中、R
1~R
8のうち、R
2及びR
5の少なくとも1つは、独立して、-NH
2、-(CH
2)
n-NR
9R
10、又は-NH
2で置換されたフェニル基であり、
残りのRは、独立して、水素原子、=O、-O-R
9、-COOH、-NO
2、ハロゲン、置換基を有してもよいフェニル基、炭素数1~18のアルキル基又はアミノアシル基であるか、あるいは、R
1とR
8とが互いに結合してベンゼン環を形成し、且つ/又は、R
6とR
7とが互いに結合してベンゼン環を形成し、
R
9及びR
10は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~18のアルキル基であり、
nは、0~6の整数であり、
X
-は、カウンターイオンである)
で表される化合物である、上記[23]~[27]のいずれか1に記載の方法。
【0034】
[29]前記クマリン系化合物が、以下の式(XII):
【化15】
(式中、R
1は、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のハロアルキル基、又はヒドロキシ基を有する炭素数1~3のアルキル基であるか、あるいは、R
1とR
2とが互いに結合して環を形成し、
R
2は、水素原子、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ピリジン環、-COOR
5、-SO
3R
6、-CN又は置換基を有してもよいフェニル基であり、
R
3及びR
4は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいは、R
3及び/又はR
4は、Nが結合しているベンゼン環と共に、前記Nを含む複素環を形成し、
R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である)
で表される化合物である、上記[23]~[28]のいずれか1に記載の方法。
【0035】
[30]前記アゾ(トリアジン)系化合物が、以下の式(XIII):
【化16】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、
R
3及びR
4は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は-NR
5R
6であり、
R
5及びR
6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である)
で表される化合物である、上記[23]~[29]のいずれか1に記載の方法。
【0036】
[31]アクリジン系化合物、シアニン系化合物、スチリル系化合物、フェノキサジン系化合物、フェノチアジン系化合物、クマリン系化合物及びアゾ(トリアジン)系化合物からなる群より選択される蛍光色素を含み、上記[1]~[30]のいずれか1に記載の方法に用いられる血球分析用試薬。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、溶血試薬を用いずに有核赤血球の検出を可能にする血球分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本実施形態の血球分析方法に適した分析システムを示す斜視図である。
【
図2】測定ユニットにおける検体吸引部、試料調製部及びフローサイトメータ(FCM)検出部を含む流体回路を示す図である。
【
図3】測定ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図4】FCM検出部の光学系の構成の一例を示す概略図である。
【
図5】フローセルを通過する粒子に光を照射したときに発せされる各種の光が、FCM検出部の光学系に受光されることを示す模式図である。
【
図6】分析ユニットの構成を示すブロック図である。
【
図7】分析システムの動作の流れを示すフローチャートである。
【
図8】測定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図9】本実施形態の血球分析用試薬の一例を示す図である。
【
図10A】実施形態1の分析処理の手順を示すフローチャートである。
【
図10B】実施形態1の分析処理の手順を示すフローチャートである。
【
図11】横軸に第1側方散乱光(SSC-1)強度をとり、縦軸に第1蛍光強度の対数(SFL-1(log))をとった第1スキャッタグラムにおいて、第1の粒子集団及び第2の粒子集団が出現する位置を例示する模式図である。図中、「NRBC」は有核赤血球であり、「WBC」は白血球であり、「RBC」は成熟赤血球であり、「PLT」は血小板である。
【
図12】横軸に第1側方散乱光強度の対数(SSC-1(log))をとり、縦軸に第2前方散乱光(FSC-2)強度をとった第2スキャッタグラムにおいて、第3の粒子集団及び第4の粒子集団が出現する位置を例示する模式図である。
【
図13】横軸にSSC-1(log)をとり、縦軸にFSC-2強度をとった第2スキャッタグラムにおいて、有核赤血球の集団及び白血球の各亜集団が出現する位置を例示する模式図である。図中、「Gran」は顆粒球であり、「Mono」は単球であり、「Lym」はリンパ球である。
【
図14】実施形態2の分析処理の手順を示すフローチャートである。
【
図15】横軸に第2側方散乱光強度の対数(SSC-2(log))をとり、縦軸にFSC-2強度をとった第3スキャッタグラムにおいて、第5の粒子集団及び第6の粒子集団が出現する位置を例示する模式図である。
【
図16】実施例1の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。図中、「V-SSC」及び「V-SFL」はそれぞれ、測定試料中の粒子に第1波長の光(青紫色レーザ)を照射して得られた側方散乱光強度及び蛍光強度である。
【
図17】実施例1の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。図中、「R-FSC」は、測定試料中の粒子に第2波長の光(赤色レーザ)を照射して得られた前方散乱光強度である。
【
図18】実施例1の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。図中、「R-SSC」は、測定試料中の粒子に赤色レーザを照射して得られた側方散乱光強度である。
【
図19】実施例2の正常検体及び異常検体についての蛍光強度のヒストグラムである。図中、「Count」は粒子数である。
【
図20】実施例2の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図21】実施例3の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図22】実施例3の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図23】実施例3の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図24】実施例3の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図25】実施例4の正常検体及び異常検体についての第3スキャッタグラムである。
【
図26】実施例4の正常検体及び異常検体についての第3スキャッタグラムである。
【
図27】実施例4の正常検体及び異常検体についての第3スキャッタグラムである。
【
図28】実施例4の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図29】実施例4の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図30】実施例4の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図31】実施例4の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図32】実施例4の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図33】実施例4の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図34】実施例5の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図35】実施例5の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図36】実施例6の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図37】実施例6の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図38】比較例の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。図中、「V-FSC」は、測定試料中の粒子に青紫色レーザを照射して得られた前方散乱光強度である。
【
図39】比較例の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図40】実施例7の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図41】実施例7の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図42】実施例8の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図43】実施例8の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【
図44】実施例9の正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムである。
【
図45】実施例9の正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(分析システム)
まず、
図1を参照して、本実施形態の血球分析方法に適した分析システムについて説明する。分析システム500は、測定装置である測定ユニット400と、分析装置である分析ユニット300とを備える。分析ユニット300は、例えば、測定対象となる検体を分析するためのソフトウェアが組み込まれたパーソナルコンピュータである。分析ユニット300は、測定ユニット400の動作制御も実行する。分析システム500は、測定ユニット400内に分析ユニット300が設けられた構成であってもよい。
【0040】
測定ユニット400は、検体を測定するためのユニットであり、フローサイトメータを含んでいる。測定ユニット400では、検体と試薬とを混合して測定試料を調製する。測定試料の調製には、試薬として、染色試薬及び希釈試薬が用いられる。染色試薬は、粒子を染色するための蛍光色素を含む。希釈試薬は、緩衝剤と溶媒とを含む。検体、染色試薬及び希釈試薬の詳細については後述する。この分析システムによる検体中の粒子の分析では、蛍光色素によって染色された測定試料中の粒子を分析する。「測定試料中の粒子」とは、後述のFCM検出部460により個々に測定され得る、測定試料に含まれる有形成分をいう。測定試料中の粒子としては、検体に含まれる細胞、赤血球ゴースト、血小板凝集、脂質粒子、真菌、細菌などが挙げられる。「細胞」との用語には、各種の血球及び血小板が包含される。赤血球ゴーストは、溶血試薬以外による溶血、例えば採血管への物理的衝撃、測定試料の低いpH及び低い浸透圧によっても生じ得る。
【0041】
測定試料は、測定ユニット400のFCM検出部460で測定される。測定試料中の染色された粒子の蛍光色素から発せられる蛍光に関する光学的信号と、当該粒子から発せられる散乱光に関する光学的信号が取得される。「粒子の蛍光色素」とは、染色により粒子と結合した蛍光色素をいう。粒子と蛍光色素との結合の態様は、粒子と蛍光色素とが一体となってフローサイトメータで測定されるかぎり特に限定されない。取得された光学的信号はA/D変換されて、デジタルデータが取得される。分析ユニット300は、測定ユニット400で取得されたデジタルデータを分析して、測定試料中の粒子を特定及び/又は分類する。
【0042】
図2を参照して、測定ユニット400における流体系の構成について説明する。測定ユニット400は、試料調製部440と、検体吸引部450と、FCM検出部460とを備える。試料調製部440は、試薬容器410と、試薬容器411と、反応チャンバ420と、廃液チャンバ430とを含む。例えば、試薬容器410は希釈試薬を収容し、試薬容器411は染色試薬を収容する。試薬容器410及び試薬容器411はそれぞれ送液管により反応チャンバ420に接続される。試料調製部440は、各送液管を通じて希釈試薬及び染色試薬を反応チャンバ420に注入する。検体吸引部450は吸引管200を含む。吸引管200は、採血管100に収容された検体を吸引し、反応チャンバ420に吐出する。反応チャンバ420は、送液管によりFCM検出部460のフローセル413と接続される。
【0043】
反応チャンバ420は、測定試料を調製するための容器である。反応チャンバ420内で、検体と、蛍光色素を含む染色試薬と、希釈試薬とが混合されて測定試料が調製される。反応チャンバ420内の測定試料は、送液管を介してFCM検出部460のフローセル413に供給されて測定される。FCM検出部460は、測定試料中の個々の粒子から発せられる各種の光学的信号を取得する。FCM検出部460による測定が完了した後、反応チャンバ420に残った測定試料は廃液チャンバ430に廃棄される。反応チャンバ420は、次の測定試料が調製される前に、図示しない洗浄機構によって洗浄される。
【0044】
図3を参照して、測定ユニット400における各部の電気的接続について説明する。試料調製部440及び検体吸引部450は、インターフェース(IF)部488を介してFCM検出部460に接続される。FCM検出部460は、アナログ処理部481及びA/D変換部482に接続される。アナログ処理部481は、FCM検出部460から出力されるアナログ信号を処理し、A/D変換部482は、アナログ処理部481から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する。また、測定ユニット400は、IF部489を介して、分析ユニット300と接続される。IF部484、IF部488及びIF部489はバス485に接続される。
【0045】
図4を参照して、FCM検出部460、アナログ処理部481及びA/D変換部482について説明する。FCM検出部460は、第1光源411a、第2光源411bと、フローセル413と、ダイクロイックミラー418a、418b、418cと、側方散乱光受光素子412a、412bと、前方散乱光受光素子416と、側方蛍光受光素子422a、422bとを備える。第1光源411a及び第2光源411bは、互いに異なる波長の光を射出する。例えば、第1光源411aは、第1波長の光を射出し、第2光源411bは、第2波長の光を射出する。第1波長は、好適にはヘモグロビンが吸収する波長である。そのような波長は、例えば315 nm以上490 nm以下であり、好ましくは400 nm以上450 nm以下であり、より好ましくは400 nm以上410 nm以下である。後述のとおり、上記の波長域の光を有核赤血球に照射すると、当該光は有核赤血球中のヘモグロビンにより吸収されるため、有核赤血球から生じる散乱光の強度(ピーク値)、パルス幅、パルス面積などのパラメータは、ヘモグロビンを含まない白血球に比べて小さくなる傾向がある。第2波長は、第1波長とは異なる波長であり、好適にはヘモグロビンが吸収しない波長である。そのような波長は、例えば610 nm以上750 nm以下であり、好ましくは620 nm以上700 nm以下であり、より好ましくは633 nm以上643 nm以下である。ヘモグロビンが吸収する波長域の光とヘモグロビンが吸収しない波長域の光の両方を用いることによって、有核赤血球と白血球とを明確に弁別することができる。第1及び第2光源として、例えば半導体レーザ光源を使用できる。
【0046】
反応チャンバ420で調製された測定試料は、FCM検出部460のフローセル413に流される。
図4の例では、紙面に対して垂直方向に測定試料が流される。フローセル413に測定試料が流れている状態で、第1光源411aから照射された光は、ダイクロイックミラー418aによって反射され、フローセル413内を流れる測定試料中の個々の粒子に照射される。第2光源411bから発せられた光は、ダイクロイックミラー418aを透過して、フローセル413内を流れる測定試料中の個々の粒子に照射される。
【0047】
図4の例では、前方散乱光受光素子416は、第2光源411bから照射された光に基づいて粒子から発せられる前方散乱光を受光するように配置される。あるいは、受光素子416は、第1光源411aから照射された光に基づいて粒子から発せられる前方散乱光を受光するように配置されてもよい。あるいは、第1光源411aから照射された光に基づいて粒子から発せられる前方散乱光を受光するために、別の受光素子をさらに配置してもよい。前方散乱光は、例えば、受光角度が0度から約20度の散乱光である。前方散乱光受光素子416は、例えばフォトダイオードである。第1光源411aから照射された光に対応する側方散乱光(第1側方散乱光)は、ダイクロイックミラー418bによって反射され、側方散乱光受光素子412aによって受光される。第2光源411bから照射された光に対応する側方散乱光(第2側方散乱光)は、ダイクロイックミラー418cによって反射され、側方散乱光受光素子412bによって受光される。側方散乱光は、例えば、受光角度が約20度から約90度の散乱光である。側方散乱光受光素子412a及び412bは、例えばフォトダイオードである。
【0048】
第1波長により励起される蛍光色素を用いた場合、当該蛍光色素が励起されて生じた光に対応する側方蛍光(第1側方蛍光)は、ダイクロイックミラー418bを透過して側方蛍光受光素子422aによって受光される。第2波長により励起される蛍光色素を用いた場合、当該蛍光色素が励起されて生じた光に対応する側方蛍光(第2側方蛍光)は、ダイクロイックミラー418cを透過して側方蛍光受光素子422bによって受光される。側方蛍光受光素子422a及び422bは、例えばアバランシェフォトダイオードである。
【0049】
図5を参照して、フローセル413中を通過する粒子Pに光を照射したときに発せされる各種の光と、FCM検出部460の光学系との関係について説明する。
図5では、第1光源411aから照射された光は、第1波長の光L1であり、第2光源411bから照射された光は、第2波長の光L2である。フローセル413中を通過する粒子Pに光L1及びL2が照射されると、光の進行方向に対して前方に、第1波長の光及び第2波長の光のそれぞれに対応する前方散乱光が生じる。
図5の例では、受光素子416は、第2波長の光に対応する前方散乱光を受光するので、第2波長の光に対応する第2前方散乱光(FSC-2)のみを示し、第1波長の光に対応する第1前方散乱光(FSC-1)は省略した。
図5を参照して、光の進行方向に対して側方に、第1波長の光に対応する第1側方散乱光(SSC-1)と、第2波長の光に対応する第2側方散乱光(SSC-2)とが生じる。また、粒子Pが、第1波長により励起される蛍光色素で染色されているとき、光の進行方向に対して側方に、第1波長の光によって励起された第1側方蛍光(SFL-1)が生じる。あるいは、粒子Pが、第2波長により励起される蛍光色素で染色されているとき、光の進行方向に対して側方に、第2波長の光によって励起された第2側方蛍光(SFL-2)が生じる。本実施形態の血球分析方法では、蛍光色素の種類に応じてSFL-1及びSFL-2のいずれか1つを用いるが、
図5の例では説明のため、粒子PからSFL-1及びSFL-2の両方が生じた状態を示している。
【0050】
上記のとおり、FSC-2、SSC-1、SFL-1、SSC-2及びSFL-2は、それぞれ受光素子416、412a、422a、412b及び422bに受光される。各受光素子は、受光強度に応じたパルスを含む波形状の電気信号(アナログ信号ともいう)を出力する。以下、FSC-2に対応するアナログ信号を「第2前方散乱光信号」、SSC-1に対応するアナログ信号を「第1側方散乱光信号」、SFL-1に対応するアナログ信号を「第1蛍光信号」、SSC-2に対応するアナログ信号を「第2側方散乱光信号」、SFL-2に対応するアナログ信号を「第2蛍光信号」ともいう。FSC-1を受光している場合は、FSC-1に対応するアナログ信号を「第1前方散乱光信号」ともいう。各アナログ信号の1つのパルスが、1つの粒子(例えば1つの細胞)に対応する。
【0051】
各種の光に対応するアナログ信号は、それぞれアナログ処理部481に入力されて、ノイズ除去、平滑化等の処理が行われる。A/D変換部482は、所定のサンプリングレート(例えば、10ナノ秒間隔で1024ポイントのサンプリング、80ナノ秒間隔で128ポイントのサンプリング、又は160ナノ秒間隔で64ポイントのサンプリング等)で、アナログ処理部481から出力されるアナログ信号をサンプリングする。A/D変換部482は、サンプリングしたアナログ信号をデジタル化して、波形データを生成する。A/D変換部482は、フローセル413を流れる個々の細胞に対応する5種類のアナログ信号をサンプリング及びデジタル化して、第2前方散乱光信号、第1側方散乱光信号、第1蛍光信号、第2側方散乱光信号及び第2蛍光信号の波形データを生成する。FSC-1を受光している場合は、第1前方散乱光信号の波形データも生成される。さらに、A/D変換部482は、各信号の波形データから個々の細胞の形態的特徴を表す特徴パラメータを計算する。そのような特徴パラメータとしては、例えばピーク値(パルスのピークの高さ)、パルス幅、パルス面積、透過率、ストークスシフト、比率、経時変化及びそれらに相関する値などが挙げられる。
【0052】
光学的情報は、上記の特徴パラメータであり得る。光学的情報は、蛍光情報、第1散乱光情報及び第2散乱光情報を含む。蛍光情報は、第1蛍光情報又は第2蛍光情報であり得る。蛍光色素として、第1波長の光により励起可能な蛍光色素を用いた場合、第1蛍光情報が取得される。蛍光色素として、第2波長の光により励起可能な蛍光色素を用いた場合、第2蛍光情報が取得される。第1蛍光情報は、測定試料に第1波長の光を照射することにより、染色された粒子の蛍光色素から生じた蛍光に関する情報である。第2蛍光情報は、測定試料に第2波長の光を照射することにより、染色された粒子の蛍光色素から生じた蛍光に関する情報である。蛍光情報は、有核細胞中の核酸を染色した蛍光色素の量を反映する情報であれば特に限定されない。第1及び第2蛍光情報としては、それぞれ第1蛍光信号のピーク値(以下、「第1蛍光強度」ともいう)及び第2蛍光信号のピーク値(以下、「第2蛍光強度」ともいう)が好ましい。
【0053】
第1散乱光情報は、測定試料に第1波長の光を照射することにより粒子から生じた散乱光に関する情報である。第2散乱光情報は、測定試料に第2波長の光を照射することにより粒子から生じた散乱光に関する情報である。第1散乱光情報は、第1前方散乱光情報及び第1側方散乱光情報を含み、第2散乱光情報は、第2前方散乱光情報及び第2側方散乱光情報を含む。前方散乱光情報は、粒子の大きさを反映する情報であれば特に限定されない。第1及び第2前方散乱光情報としては、それぞれ第1前方散乱光信号のピーク値(以下、「第1前方散乱光強度」とも呼ぶ)及び第2前方散乱光信号のピーク値(以下、「第2前方散乱光強度」とも呼ぶ)が好ましい。側方散乱光情報は、細胞構造の複雑性、顆粒特性、核構造、分葉度などの内部情報を反映する情報であれば特に限定されない。第1及び第2側方散乱光情報としては、それぞれ第1側方散乱光信号のピーク値(以下、「第1側方散乱光強度」ともいう)及び第2側方散乱光信号のピーク値(以下、「第2側方散乱光強度」ともいう)が好ましい。
【0054】
図6を参照して、分析ユニット300における各部の電気的接続について説明する。分析ユニット300は、インターフェース部304を介して測定ユニット400と電気的に接続される。インターフェース部304は、例えばUSBインターフェースである。分析ユニット300は、制御部301、バス302、記憶部303、インターフェース部304、表示部305及び操作部306を備える。分析ユニット300は、例えば、パーソナルコンピュータ(
図1の分析ユニット300を参照)によって構成されており、記憶部303に格納されたプログラムを実行することで、分析システム500の測定ユニット400を制御する。分析ユニット300は、測定ユニット400で取得された光学的情報を含むデータを分析して、分析結果を表示部305に表示する。分析ユニット300は、光学的情報に基づいて、細胞の分類を行ってもよい。
【0055】
記憶部303には、例えば、測定ユニット400を制御するためのプログラム、測定ユニット400が取得したデータを分析するためのプログラムなどが記憶されている。表示部305には、例えば、測定ユニット400で取得されたデータの分析結果が表示される。操作部306は、キーボード、マウス又はタッチパネルを含むポインティングデバイスを備える。
【0056】
図7を参照して、分析システム500の動作の例を説明するが、この例に限定されない。ステップS11において、分析ユニット300の制御部301は、ユーザからの測定開始の指示を、操作部306を介して受け付ける。制御部301は、測定開始の指示を受け付けると、測定開始を指示する指示データを測定ユニット400に送信する。測定ユニット400は、当該指示データを受信して、ステップS12において測定処理を実行する。
【0057】
本実施形態の血球分析方法には、例えば、次の実施形態1及び2が包含される。「実施形態1」では、検体から調製した測定試料を測定し、当該測定試料中の粒子から有核細胞の集団を特定する。そして、有核細胞の集団から有核赤血球を特定し、且つ白血球を亜集団に分類する。「実施形態2」では、検体から調製した測定試料を測定し、当該測定試料中の粒子から、血小板を除く粒子集団を特定する。次いで、血小板を除く粒子集団から有核細胞の集団を特定する。そして、実施形態1と同様にして、有核細胞の集団から、有核赤血球を特定し、且つ白血球を亜集団に分類する。
【0058】
(測定処理)
図7のステップS12に関して、実施形態1及び2の測定処理の例について、
図8を参照して説明するが、この例に限定されない。ステップS21において、分析ユニット300の制御部301は、測定ユニット400に、検体から測定試料を調製させる。具体的には、測定ユニット400は、検体と染色試薬と希釈試薬とを反応チャンバ420内で混合して、測定試料を調製する。ステップS22において、制御部301は、測定ユニット400に、測定試料をFCM検出部460に導出させ、フローサイトメトリ法による光学的測定を実行させる。これにより、測定ユニット400は、測定試料中の個々の粒子について光学的情報、例えばSSC-1、SSC-2、FSC-2(又はFSC-1)及びSFL-1(又はSFL-2)の波形データを検出する。ステップS23において、制御部301は、測定ユニット400に、光学的情報を分析ユニット300に送信させて、測定処理を終了する。そして、分析ユニット300は、
図7のステップS13の分析処理を実行する。各実施形態の分析処理の例については、後述する。
【0059】
(検体)
検体は、血液検体である。血液検体は、例えば全血、全血の希釈物などが挙げられる。全血は、例えば、被検者から採取した末梢血である。血液検体には、抗凝固剤が含まれてもよい。そのような抗凝固剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTA塩(例えばEDTA・2K、EDTA・2Naなど)、クエン酸ナトリウム、ヘパリン、ワーファリンなどが挙げられる。全血の希釈物は、例えば、適切な水性溶媒、好ましくは後述の希釈試薬により全血を希釈することにより得られる。水性溶媒としては、例えば水、生理食塩水、緩衝剤の水溶液などが挙げられる。
【0060】
本明細書において「血液成分」は、血液中に含まれることが知られた有形成分と、異常細胞とを包含する。血液中に含まれることが知られた有形成分は、例えば、健常人の末梢血に通常含まれる血球である。そのような血球としては、例えば白血球、成熟赤血球及び血小板が挙げられる。「成熟赤血球」は、核及び核酸を有さない最終分化した赤血球であり、臨床検査分野で用いられる「赤血球」との用語と同義である。本明細書では「成熟赤血球」との用語は、有核赤血球との区別のために用いられる。「異常細胞」とは、血液又は体液中に通常は出現しない有形成分をいう。血液における異常細胞としては、例えば有核赤血球が挙げられる。「有核赤血球」は、NRBC又は赤芽球とも呼ばれ、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球及び正染性赤芽球を含む。異常細胞には、非細胞の粒子及び微生物も含まれる。非細胞の粒子としては、例えば赤血球ゴースト、脂質粒子、血小板凝集が挙げられる。血小板凝集は、採血時の組織液の混入、混和の不十分又はEDTAの作用により、採血管中に生じる。微生物としては、例えば細菌、真菌などが挙げられる。
【0061】
(希釈試薬)
測定試料の調製に用いられる希釈試薬について説明する。希釈試薬は、緩衝剤と溶媒とを含む。好ましくは、希釈試薬は、緩衝剤の溶液を含む。溶媒としては、例えば水、生理食塩水などが挙げられ、水が特に好ましい。緩衝剤は、pHが6以上11以下の範囲で緩衝作用を有することが好ましい。そのような緩衝剤は、例えばカルボン酸塩、リン酸塩、グッドバッファー、タウリン、トリエタノールアミンなどから選択できる。希釈試薬のpHは、例えば6以上11以下であり、好ましくは7以上10以下であり、より好ましく8以上9.5以下である。希釈試薬のpHが6以上であると、測定試料中で成熟赤血球が溶血しにくくなる。これにより、赤血球ゴーストの発生を抑制できる。また、希釈試薬のpHが11以下であると、蛍光色素による成熟赤血球及び赤血球ゴーストの非特異的染色を低減できる。好ましい希釈試薬は、pH6以上11以下である、上記の緩衝剤の水溶液である。
【0062】
希釈試薬は、上記の緩衝剤の他に、浸透圧補償剤、染色促進剤、多価アニオン、防腐剤などの成分をさらに含み得る。浸透圧補償剤は、希釈試薬の浸透圧を適切な範囲に維持できる物質である。浸透圧補償剤としては、例えば、プロピオン酸のような有機酸のアルカリ金属塩、グルコース、マンノースなどの糖類、塩化ナトリウムのようなアルカリ金属ハロゲン化物、塩化マグネシウムのようなアルカリ土類金属ハロゲン化物が挙げられる。浸透圧補償剤は、1種又は2種以上を用いることができる。浸透圧補償剤を用いる場合、浸透圧補償剤は、好ましくは希釈試薬の浸透圧が150 mOsm/kg以上600 mOsm/kg以下、より好ましくは200 mOsm/kg以上300 mOsm/kg以下となるように希釈試薬に添加される。
【0063】
染色促進剤は、蛍光色素の血球への透過性を促進できる物質である。染色促進剤としては、例えば界面活性剤が挙げられ、好ましくはカチオン性界面活性剤である。カチオン性界面活性剤としては、第四級アンモニウム塩型界面活性剤が特に好ましく、例えばデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド(LTAC)、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。これらのカチオン性界面活性剤は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0064】
希釈試薬における上記のカチオン性界面活性剤の濃度は、成熟赤血球の溶血を抑制できれば特に限定されない。例えば50 ppm以上20000 ppm以下の範囲から適宜決定できる。具体的には、DTABを用いる場合、希釈試薬におけるDTABの濃度は500 ppm以上3000 ppm以下が好ましい。LTACを用いる場合、希釈試薬におけるLTACの濃度は100 ppm以上500 ppm以下が好ましい。そのような濃度でカチオン性界面活性剤が希釈試薬に含まれることにより、成熟赤血球の溶血を抑制し、蛍光色素による血球の染色を促進できる。
【0065】
多価アニオンは、蛍光色素による成熟赤血球の非特異的染色を抑制するために希釈試薬に添加される。多価アニオンとしては、例えば硫酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、多価カルボン酸イオンなどが挙げられる。これらのイオンを供給し得る化合物としては、例えばクエン酸、硫酸、リン酸、EDTA及びこれらのアルカリ金属塩が挙げられる。多価アニオンは、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0066】
希釈試薬に含まれる防腐剤としては、例えば2-ピリジルチオ-1-オキシドナトリウム、β-フェネチルアルコールなどが挙げられる。
【0067】
本実施形態の血球分析方法では、市販の希釈試薬を用いてもよい。市販の希釈試薬としては、例えばセルパック(登録商標)DFL、セルパックDCL、セルパックDST(いずれもシスメックス株式会社)などが挙げられる。
【0068】
(染色試薬及び蛍光色素)
測定試料の調製に用いられる染色試薬について説明する。染色試薬に適する蛍光色素は、第1波長又は第2波長によって励起可能であり、且つ核酸に結合可能な蛍光色素である。そのような蛍光色素自体は公知である。第1波長によって励起可能であり、且つ核酸に結合可能な蛍光色素は、例えばアクリジン系化合物、シアニン系化合物、スチリル系化合物、及びクマリン系化合物から選択できる。第2波長によって励起可能であり、且つ核酸に結合可能な蛍光色素は、例えばシアニン系化合物、スチリル系化合物、フェノキサジン系化合物、フェノチアジン系化合物及びアゾ(トリアジン)系化合物から選択できる。蛍光色素が核酸に結合することにより、成熟赤血球や血小板などの無核の細胞と、有核赤血球や白血球などの有核細胞とを弁別可能にする。
【0069】
アクリジン系化合物の蛍光色素としては、例えば、上記の式(I)で表される蛍光色素が挙げられる。上記の式(I)で表される蛍光色素は、第1波長の光によって励起可能な蛍光色素であり得る。「アルキル基」は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれであってもよい。式(I)中のR1~R12に関して、炭素数1~18のアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t-ブチル、n-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどが挙げられる。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10であり、より好ましくは1~6であり、特に好ましくは1~3である。アルキル基の好ましい例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t-ブチル、n-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、イソヘキシルなどが挙げられる。式(I)中のR13に関して、アルキル基の炭素数は、好ましくは1~3である。
【0070】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素である。「ハロアルキル基」は、少なくとも1の水素がハロゲンに置換されたアルキル基である。ハロアルキル基が2以上のハロゲンを含む場合、それらのハロゲンは、同一でもよいし、複数種類を含んでもよい。「アミノアシル基」は、アミノ酸のカルボキシ基(-COOH)からOHが除かれた基である。アミノアシル基としては、例えばアラニル基、アルギニル基、アスパラギル基、アスパラチル酸基、システイニル基、シスチル基、グルタミル酸基、グルタミル基、グリシル基、ヒスチジル基、ヒドロキシリシル基、ヒドロキシプロリル基、イソロイシル基、ロイシル基、リシル基、メチオニル基、フェニルアラニル基、プロリル基、セリル基、スレオニル基、トリプトフィル基、チロシル基、バリル基、β-アラニル基、β-リシル基、N,N-ジメチルグリシル基、2-アミノブチリル基、4-ヒドロキシフェニルグリシル基、フェニルグリシル基、2,4-ジアミノブチリル基、オルニチル基、ホモセリル基などが挙げられる。アミノアシル基は、D-形及びL-形のいずれであってもよい。
【0071】
フェニル基の置換基としては、例えば-NH2、ハロゲン、-OH、-SH、-CN、-NO2、-COOH、及び炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。式(I)中のカウンターイオンX-は、例えばF-、Cl-、Br-、I-、1/2SO4
2-、NO3
-などが挙げられる。X-がCl-、1/2SO4
2-又はNO3
-である場合、それらのイオンを供給可能な酸、例えばHCl、H2SO4又はHNO3が蛍光色素に添加されてもよい。また、カウンターイオンX-として、乳酸が蛍光色素に添加されてもよい。
【0072】
シアニン系化合物の蛍光色素としては、例えば上記の式(II)~(VI)で表される蛍光色素が挙げられる。これらの式で表される蛍光色素は、第1波長又は第2波長の光によって励起可能な蛍光色素であり得る。本実施形態の血球分析方法では、第1波長の光及び第2波長の光を照射するので、上記の式(II)~(VI)のいずれの蛍光色素からも蛍光が生じ得る。
【0073】
上記の式(II)~(VI)中のアルキル基については、式(I)について述べたことと同様である。上記の式(II)~(VI)中のR1及びR2に関して、炭素数3~20のアルケニル基としては、例えばアリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、デセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニル、イコセニルなどが挙げられる。アルケニル基の炭素数は、好ましくは3~14であり、より好ましくは3~10であり、特に好ましくは3~6である。
【0074】
上記の式(II)~(VI)中のフェニル基の置換基については、式(I)について述べたことと同様である。上記の式(II)~(VI)中のベンジル基の置換基としては、例えば-CN、-COOH、-NH2、-NO2、-OH、-SH、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、炭素数1~6のアシルアミノ基、ハロゲン及び炭素数1~6のハロアルキル基が挙げられる。上記の式(II)~(VI)中のカウンターイオンZ-は、例えばF-、Cl-、Br-、I-、CF3SO3
-、BF4
-、ClO4
-などが挙げられる。
【0075】
スチリル系化合物の蛍光色素としては、例えば、上記の式(VII)~(IX)で表される蛍光色素が挙げられる。これらの式で表される蛍光色素は、第1波長又は第2波長の光によって励起可能な蛍光色素であり得る。本実施形態の血球分析方法では、第1波長の光及び第2波長の光を照射するので、上記の式(VII)~(IX)のいずれの蛍光色素からも蛍光が生じ得る。
【0076】
上記の式(VII)~(IX)中のアルキル基及びフェニル基の置換基については、式(I)について述べたことと同様である。また、アルケニル基及びベンジル基の置換基については、上記の式(II)~(VI)について述べたことと同様である。上記の式(VII)及び(IX)において、R2及び/又はR3が、Nが結合しているベンゼン環と共に形成する複素環は、五員環でもよいし、六員環でもよい。また、当該複素環は、置換基を有してもよい。置換基としては、炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。上記の式(VII)~(IX)中のカウンターイオンZ-は、例えばF-、Cl-、Br-、I-、CF3SO3
-、BF4
-、ClO4
-などが挙げられる。
【0077】
フェノキサジン系化合物の蛍光色素としては、例えば、上記の式(X)で表される蛍光色素が挙げられる。また、フェノチアジン系化合物のとしては、例えば、上記の式(XI)で表される蛍光色素が挙げられる。上記の式(X)及び(XI)で表される蛍光色素は、第2波長の光によって励起可能な蛍光色素であり得る。
【0078】
上記の式(X)及び(XI)中のアルキル基、アミノアシル基及びフェニル基の置換基については、式(I)について述べたことと同様である。上記の式(X)及び(XI)において、R1とR8とが互いに結合して形成されるベンゼン環、及び、R6とR7とが互いに結合して形成されるベンゼン環は、置換基を有してもよい。置換基としては、例えば-CN、-COOH、-NH2、-NO2、-OH、-SH、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、炭素数1~6のアシルアミノ基、ハロゲン及び炭素数1~6のハロアルキル基が挙げられる。上記の式(X)及び(XI)中のカウンターイオンX-は、例えばF-、Cl-、Br-、I-、CF3SO3
-、BF4
-、ClO4
-、ZnCl4
2-、酢酸イオンなどが挙げられる。
【0079】
クマリン系化合物の蛍光色素としては、例えば、上記の式(XII)で表される蛍光色素が挙げられる。上記の式(XII)で表される蛍光色素は、第1波長の光によって励起可能な蛍光色素であり得る。上記の式(XII)中のアルキル基、アミノアシル基及びフェニル基の置換基については、式(I)について述べたことと同様である。R3及び/又はR4が、Nが結合しているベンゼン環と共に形成する複素環については、式(VII)及び(IX)について述べたことと同様である。R1とR2とが互いに結合して形成される環は、脂肪族環でもよいし、芳香族環でもよい。このましくは、脂肪族の五員環である。R2が、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環又はピリジン環である場合、これらの環は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。
【0080】
染色試薬は、蛍光色素の溶液を含むことが好ましい。溶媒は、上記の蛍光色素を溶解できれば特に限定されない。例えば、水、有機溶媒、及びそれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、水に混合可能な溶媒が好ましく、例えば炭素数1~6のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。染色試薬中の蛍光色素の濃度は、蛍光色素の種類に応じて適宜決定できる。蛍光色素の濃度は、例えば100 ppm以上、好ましくは500 ppm以上、より好ましく1000 ppm以上であり得る。蛍光色素の濃度は、例えば100000 ppm以下、好ましくは50000 ppm以下、より好ましく10000 ppm以下であり得る。
【0081】
上記のとおり、蛍光色素自体が細胞の核酸と結合するので、本実施形態の血球分析方法では、蛍光色素で標識した抗体を用いて細胞を染色する必要がない。よって、本実施形態の血球分析方法では、蛍光色素は抗体を含まない。
【0082】
上記の蛍光色素を含む染色試薬は、本実施形態の血球分析方法に用いられる血球分析用試薬として提供されてもよい。本実施形態の血球分析用試薬は、例えば、上記の蛍光色素の溶液が容器に収容された形態であり得る。
図9を参照して、11は、本実施形態の血球分析用試薬が収容された容器を示す。容器11が梱包箱に収容される場合は、血球分析用試薬の組成、使用方法、保存方法などが記載された添付文書、外部からの衝撃を低減させるための緩衝材なども収容されてもよい。
【0083】
さらなる実施形態は、血球分析用試薬の製造のための蛍光色素の使用に関する。蛍光色素及び血球分析用試薬の詳細は上記のとおりである。
【0084】
(測定試料の調製)
蛍光色素は、測定試料中の濃度(終濃度)が所定の範囲内の濃度となるように、検体及び希釈試薬と混合される。測定試料中の蛍光色素の好ましい終濃度は500 ppm以下、より好ましくは100 ppm以下、さらに好ましくは50 ppm以下である。測定試料中の蛍光色素の好ましい終濃度は0.01 ppm以上、より好ましくは0.1 ppm以上、さらに好ましくは1ppm以上である。
【0085】
希釈試薬と染色試薬と検体の混合比は、染色試薬中の蛍光色素の濃度や検体の種類に応じて適宜決定できる。希釈試薬と染色試薬と検体の混合比は、例えば、体積比で表して1000:0.1以上:1以上が好ましい。より好ましくは1000:0.5以上:5以上であり、さらに好ましくは1000:1以上:10以上である。また、希釈試薬と染色試薬と検体の混合比は、例えば、体積比で表して、1000:50以下:100以下であることが好ましい。より好ましくは1000:30以下:50以下であり、さらに好ましくは1000:20以下:25以下である。染色試薬と検体との混合比は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0086】
上記のとおり、本実施形態の血球分析方法は、溶血試薬を用いずに有核赤血球の検出を可能とする。よって、本実施形態の血球分析方法では、測定試料は溶血試薬を含まない。すなわち、本実施形態の血球分析方法では、測定試料の調製において、成熟赤血球を溶血する工程を含まない。ここで、溶血試薬とは、検体と混合することにより、当該検体中の成熟赤血球を溶解するための試薬である。溶血試薬自体は公知であり、例えば、成熟赤血球を溶解可能な濃度で界面活性剤が含まれている。
【0087】
(実施形態1の分析処理)
図7のステップS13に関して、実施形態1の分析処理の例を、
図10A~
図13を参照して説明するが、この例に限定されない。この例では、第1散乱光情報として、第1側方散乱光強度(以下、「SSC-1強度」ともいう)を用いる。また、第2散乱光情報として、第2前方散乱光強度(以下、「FSC-2強度」ともいう)及び第2側方散乱光強度(以下、「SSC-2強度」ともいう)を用いる。また、蛍光情報として、第1側方蛍光強度(以下、「SFL-1強度」ともいう)を用いる。
【0088】
図10Aを参照して、この分析処理では、まず、測定試料中の粒子から有核細胞の集団を特定する。本実施形態の血球分析方法では、溶血試薬を用いないので、測定試料には成熟赤血球が含まれる。すなわち、測定ユニット400から取得したデータには、成熟赤血球の光学的情報が含まれる。この分析処理では、測定試料中の粒子を、蛍光情報に基づいて、有核細胞の集団と、成熟赤血球などの核及び核酸を含まない粒子集団とに分類することにより、有核細胞の集団を特定する。有核細胞は核酸量が多く、上記の蛍光色素により強く染色される。一方、成熟赤血球、血小板及びデブリなどの核及び核酸を含まない細胞や粒子は、上記のとおり蛍光色素ではほとんど染色されないか又は弱く染色される。よって、有核細胞の集団と、核及び核酸を含まない粒子集団とを、蛍光情報の差異に基づいて弁別できる。
【0089】
蛍光情報に基づく有核細胞の集団の特定は、例えば、スキャッタグラムを用いた分析により行うことができる。以下、有核細胞の集団を特定するためのスキャッタグラムを「第1スキャッタグラム」とも呼ぶ。第1スキャッタグラムは、第1又は第2散乱光情報と、蛍光情報とに基づいて作成される。例えば、第1スキャッタグラムは、横軸に第1又は第2散乱光情報をとり、縦軸に蛍光情報をとる。
図10Aを参照して、ステップS101において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、散乱光強度及び蛍光強度を二軸とする第1スキャッタグラムを作成する。そして、この第1スキャッタグラムにおいて、各粒子に対応する点の位置を決定する。この例では、第1スキャッタグラムは、横軸にSSC-1強度をとり、縦軸にSFL-1強度をとる。しかし、この例に限定されない。第1スキャッタグラムの散乱光情報は、FSC-2強度、SSC-2強度又はFSC-1強度であってもよい。蛍光情報はSFL-2強度であってもよい。必要に応じて、第1スキャッタグラムの蛍光強度をとる軸を対数で表示してもよい。蛍光強度を対数で表示することで、第1スキャッタグラム上において、有核細胞の集団と、成熟赤血球、血小板及びデブリなどを含む集団との距離が大きくなる。これにより、スキャッタグラム上で有核細胞の集団を特定しやすくなる。
【0090】
図10Aを参照して、ステップS102において、分析ユニット300は、測定試料中の粒子を、蛍光強度に基づいて、第1の粒子集団と、第2の粒子集団とに分類する。第2の粒子集団は、第1の粒子集団よりも高い蛍光強度を示す集団である。
図11を参照して、第1スキャッタグラムでは、第1の粒子集団と、この第1の粒子集団よりも高い蛍光強度を示す第2の粒子集団とが出現する。第2の粒子集団は、破線で囲まれた領域内の粒子から構成される集団である。ここで、スキャッタグラムにおける粒子集団間の蛍光強度の比較は、例えば、各粒子集団の蛍光強度の統計的代表値により行うことができる。一の粒子集団の蛍光強度の統計的代表値は、当該粒子集団を構成する粒子の蛍光強度から取得される値であり、例えば中央値、平均値、最頻値などが挙げられる。好ましくは中央値である。粒子集団の蛍光強度の統計的代表値は、分析ユニット300により算出される。
【0091】
上述のとおり、成熟赤血球、血小板及びデブリなどの核及び核酸を含まない粒子は、有核細胞に比べて、蛍光色素により染色されにくいので、蛍光強度が低くなる。よって、
図11に示されるように、第1の粒子集団には、成熟赤血球(RBC)、血小板(PLT)及びデブリなどが含まれる。また、第2の粒子集団には、有核細胞が含まれる。具体的には、第2の粒子集団には、有核赤血球(NRBC)の集団及び白血球(WBC)の集団が含まれる。このように、第1スキャッタグラムでは、測定試料中の粒子が、成熟赤血球を含む第1の粒子集団と、有核細胞を含む第2の粒子集団とに分類される。なお、
図11では、白血球の集団が2つあるが、これはSSC-1強度に応じて白血球が亜集団を形成したことを表している。しかし、この例に限定されず、第1スキャッタグラム上に、白血球の集団として1つの集団が出現してもよいし、3つの集団が出現してもよい。
【0092】
図10Aを参照して、ステップS103において、分析ユニット300は、第2の粒子集団を有核細胞の集団として特定する。上記のとおり、第2の粒子集団は有核細胞を含むので、第2の粒子集団を有核細胞の集団として特定できる。例えば、複数の検体についての測定データを蓄積することにより、第1スキャッタグラムにおいて第2の粒子集団が出現する領域を予め決定して、当該領域に出現した粒子を、有核細胞の集団として特定してもよい。
【0093】
ステップS103において、有核細胞の集団が特定されたことにより、測定試料中の粒子のデータから、成熟赤血球などの核及び核酸を含まない粒子のデータが除外される。必要に応じて、有核細胞の集団に含まれる細胞を計数してもよい。
【0094】
図10Bを参照して、プロセスは、ステップS201へ進行する。この分析処理では、有核細胞の集団から有核赤血球及び白血球を特定する。検体に有核赤血球が含まれない場合は、白血球を特定する。この分析処理では、有核細胞の各粒子を、第1及び第2散乱光情報に基づいて、有核赤血球の集団と、白血球の集団とに分類することにより、有核赤血球及び白血球を特定する。ここで、有核赤血球に含まれるヘモグロビンは、青紫色の光を吸収することが知られている。青紫色の光に相当する第1波長の光を有核赤血球に照射すると、有核赤血球から生じた散乱光は、赤色の光に相当する第2波長の光を照射したときに生じる散乱光に比べて弱くなる。そのため、従来、血球分析には赤色の光が好ましく用いられていた。一方、白血球に第1波長の光と第2波長の光とを照射したとき、発生する散乱光の強度に差異はほとんど認められない。本発明者らは、上記の現象を利用して、有核赤血球の集団と白血球の集団とを弁別することを着想した。具体的には、第1波長の光を照射することにより、有核赤血球と白血球との間で第1散乱光情報に差異を生じさせる。例えば、第1散乱光情報がSSC-1強度である場合、有核赤血球のSSC-1強度は、ヘモグロビンによる吸収のため低くなる。しかし、白血球のSSC-1強度は影響されない。そのため、有核赤血球と白血球との間でSSC-1強度の差が大きくなる。本発明者らは、第1散乱光情報と第2散乱光情報とを組み合わせることにより、スキャッタグラム上で有核赤血球の集団と白血球の集団とを分離できることを明らかにした。
【0095】
第1及び第2散乱光情報に基づく有核赤血球の特定は、例えば、スキャッタグラムを用いた分析により行うことができる。以下、有核赤血球を特定するためのスキャッタグラムを「第2スキャッタグラム」とも呼ぶ。第2スキャッタグラムは、第1散乱光情報と第2散乱光情報とに基づいて作成される。例えば、第2スキャッタグラムは、横軸に第1側方散乱光情報又は第1前方散乱光情報をとり、縦軸に第2前方散乱光情報又は第2側方散乱光情報をとる。
図10Bを参照して、ステップS201において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、第1散乱光情報及び第2散乱光情報を二軸とする第2スキャッタグラムを作成する。そして、この第2スキャッタグラムにおいて、各粒子に対応する点の位置を決定する。この例では、第2スキャッタグラムは、横軸にSSC-1強度をとり、縦軸にFSC-2強度をとる。しかし、この例に限定されず、第2スキャッタグラムの第1散乱光情報はFSC-1強度であってもよく、第2散乱光情報はSSC-2強度であってもよい。必要に応じて、第2スキャッタグラムの第1散乱光情報をとる軸を対数で表示してもよい。第1散乱光情報を対数で表示することで、第2スキャッタグラム上において、有核赤血球の集団と、白血球の集団との距離が大きくなる。これにより、スキャッタグラム上で有核赤血球の集団を特定しやすくなる。
【0096】
図10Bを参照して、ステップS202において、分析ユニット300は、有核細胞の集団中の粒子を、SSC-1強度に基づいて、第3の粒子集団と、第4の粒子集団とに分類する。第4の粒子集団は、第3の粒子集団よりも高いSSC-1強度を示す集団である。ここで、第2スキャッタグラムにおける粒子集団間の側方散乱光強度の比較は、例えば、各粒子集団の側方散乱光強度の統計的代表値により行うことが好ましい。一の粒子集団の散乱光強度の統計的代表値は、当該粒子集団を構成する粒子の散乱光強度から取得される値であり、例えば中央値、平均値、最頻値などが挙げられる。好ましくは中央値である。
図12を参照して、検体に有核赤血球が含まれる場合、第2スキャッタグラムでは、第3の粒子集団と、この第3の粒子集団よりも高いSSC-1強度を示す第4の粒子集団とが出現する。上述のとおり、有核赤血球のヘモグロビンが第1波長の光を吸収するので、有核赤血球のSSC-1強度が低くなる。そのため、第2スキャッタグラムにおいて、有核赤血球の集団は、SSC-1強度が低い側の領域に出現する。よって、
図12に示されるように、第3の粒子集団は、有核赤血球(NRBC)の集団である。一方、白血球にはヘモグロビンがないので、第1波長の光は吸収されない。そのため、第2スキャッタグラムにおいて、白血球の集団は、有核赤血球の集団よりSSC-1強度が高い側の領域に出現する。よって、第4の粒子集団は、白血球の集団である。このように、第2スキャッタグラムでは、有核細胞の集団中の粒子が、有核赤血球の集団と、白血球の集団とに分類される。
【0097】
図10Bを参照して、ステップS203において、分析ユニット300は、第3の粒子集団を有核赤血球として特定し、第4の粒子集団を白血球と特定する。例えば、複数の検体についての測定データを蓄積することにより、第2スキャッタグラムにおいて第3及び第4の各粒子集団が出現する領域を予め決定して、当該領域に出現した粒子を、有核赤血球の集団及び白血球の集団として特定してもよい。必要に応じて、有核赤血球の集団及び白血球の集団のそれぞれに含まれる細胞を計数してもよい。プロセスは、ステップS204へ進行する。
【0098】
ステップS204において、分析ユニット300は、第1及び第2散乱光情報に基づいて、白血球の集団を、リンパ球、単球及び顆粒球の各亜集団に分類する。ここで、顆粒球とは、好中球、好酸球及び好塩基球の総称である。第1及び第2散乱光情報は、例えば、SSC-1強度又はFSC-1強度と、FSC-2強度又はSSC-2強度との組み合わせを用いることができる。
図13を参照して、白血球の各亜集団が第2スキャッタグラム上に分布する。この図では、白血球は、リンパ球(Lym)の亜集団、単球(Mono)の亜集団及び顆粒球(Gran)亜集団の3つに分類されているが、これに限定されない。有核赤血球が出現する検体では、白血球にも異常がある場合が知られている。例えば、白血球の亜集団の一部が、分類が困難なほどに減少することがある。白血球は、例えば、リンパ球又は単球の集団と、顆粒球の集団との2つに分類されてもよい。
【0099】
白血球の亜集団への分類は、例えば、複数の検体についての測定データを蓄積することにより、第2スキャッタグラムにおいて白血球の各亜集団が出現する領域を予め決定して、当該領域に出現した粒子を、白血球の亜集団として特定してもよい。必要に応じて、白血球の各亜集団に含まれる細胞を計数してもよい。白血球の分類を実行した後、分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、
図7のステップS14へ進行する。
【0100】
(実施形態1の変型例)
実施形態1の変形例では、第1スキャッタグラムを作成せずに、蛍光強度についての閾値を用いて、測定試料中の粒子から第2の粒子集団を特定する。例えば、まず、蛍光強度について、第1の粒子集団と第2の粒子集団とを区別可能な閾値を決定する。そして、測定試料中の粒子から、その閾値より高い蛍光強度を示す粒子を抽出し、当該粒子を第2の粒子集団として特定する。
【0101】
実施形態1のさらなる変形例では、第1スキャッタグラムを作成せずに、蛍光強度についてのヒストグラムを用いて、測定試料中の粒子から第2の粒子集団を特定する。例えば、まず、測定試料中の粒子について、蛍光強度及び粒子数に基づくヒストグラムを作成する。このヒストグラムには、有核細胞の集団に対応するピークが、蛍光強度が高い側に出現する(後述の実施例2参照)。このピークに含まれる粒子を抽出し、当該粒子を第2の粒子集団として特定してもよい。あるいは、このヒストグラムにおいて、上記の閾値より高い蛍光強度を示す粒子を抽出し、当該粒子を第2の粒子集団として特定してもよい。
【0102】
(実施形態2の分析処理)
図7のステップS13に関して、実施形態2の分析処理の例を、
図14及び15を参照して説明するが、この例に限定されない。上述のとおり、実施形態2の分析処理では、有核細胞の集団を特定する前に、測定試料中の粒子から血小板を除外することにより、血小板を除く粒子集団を特定する。例えば、血小板が増加した検体などを分析する場合は、測定試料中の粒子から予め血小板を除くことで、有核赤血球がより精度よく検出され得る。ここで、血小板は、他の血球に比べてサイズが小さい。よって、血小板の集団と、血小板を除く粒子集団とを、前方散乱光情報の差異に基づいて弁別できる。これは、前方散乱光情報が、粒子の大きさを反映する情報であることによる。血小板を除く粒子集団には、例えば成熟赤血球、有核赤血球及び白血球などが含まれる。
【0103】
図14を参照して、実施形態2の分析処理では、実施形態1のステップS101~S103を実行する前に、ステップS301~S303を実行して、測定試料中の粒子から血小板を除外することにより、血小板を除く粒子集団を特定する。そして、実施形態1のステップS101~S103に替えて、ステップS304~S306を実行して、血小板を除く粒子集団から有核細胞の集団を特定する。
【0104】
前方散乱光情報に基づく、血小板を除く粒子集団の特定は、例えば、スキャッタグラムを用いた分析により行うことができる。以下、血小板を除く粒子集団を特定するためのスキャッタグラムを「第3スキャッタグラム」とも呼ぶ。第3スキャッタグラムは、前方散乱光情報と、側方散乱光情報又は蛍光情報とに基づいて作成される。例えば、第3スキャッタグラムは、横軸に第1側方散乱光情報、第1蛍光情報、第2側方散乱光情報又は第2蛍光情報をとり、縦軸に第1又は第2前方散乱光情報をとる。
図14を参照して、ステップS301において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、側方散乱光強度又は蛍光強度と、前方散乱光強度とを二軸とする第3スキャッタグラムを作成する。そして、この第3スキャッタグラムにおいて、各粒子に対応する点の位置を決定する。この例では、第3スキャッタグラムは、横軸にSSC-2強度をとり、縦軸にFSC-2強度をとる。しかし、この例に限定されず、第3スキャッタグラムの前方散乱光情報はFSC-1強度であってもよい。また、SSC-2強度に替えて、SSC-1強度、SFL-1強度又はSFL-2強度を用いてもよい。必要に応じて、第3スキャッタグラムの横軸及び/又は縦軸を対数で表示してもよい。スキャッタグラムの横軸及び/又は縦軸の光学的情報を対数で表示することで、第3スキャッタグラムにおいて、血小板の集団と、血小板を除く粒子集団との距離が大きくなる。これにより、スキャッタグラム上で、血小板を除く粒子集団を特定しやすくなる。
【0105】
図14を参照して、ステップS302において、分析ユニット300は、測定試料中の粒子を、前方散乱光強度に基づいて、第5の粒子集団と、第5の粒子集団よりも高い前方散乱光強度を示す第6の粒子集団とに分類する。
図15を参照して、第3スキャッタグラムでは、第5の粒子集団が、前方散乱光強度が低い側の領域に出現する。また、第6の粒子集団が、前方散乱光強度が高い側の領域に出現する。上述のとおり、血小板は、他の血球よりもサイズが小さいので、前方散乱光強度が低くなる。よって、
図15に示されるように、第5の粒子集団は、血小板(PLT)の集団である。また、第5の粒子集団よりも高い前方散乱光強度を示す第6の粒子集団は、血小板を除く粒子集団である。このように、第3スキャッタグラムでは、測定試料中の粒子が、血小板の粒子集団と、血小板を除く粒子集団とに分類される。
【0106】
図14を参照して、ステップS303において、分析ユニット300は、第6の粒子集団を、血小板を除く粒子集団として特定する。例えば、複数の検体についての測定データを蓄積することにより、第3スキャッタグラムにおいて第6の粒子集団が出現する領域を予め決定して、当該領域に出現した粒子を、有核細胞の集団として特定してもよい。
【0107】
なお、
図15では、血小板を除く粒子集団が1つであるが、この例に限定されない。例えば、第3スキャッタグラムとして、SSC-1強度及びFSC-2強度を二軸とするスキャッタグラムを作成した場合、血小板を除く粒子集団が2つ以上に分離し得る。これは、血小板を除く粒子集団中の成熟赤血球及び有核赤血球は、ヘモグロビンを含むことにより、SSC-1強度が低下することによる。そのため、血小板を除く粒子集団は、成熟赤血球及び有核赤血球を含む集団と、白血球を含む集団とに分離し得る。また、白血球の集団も、SSC-1強度に応じて亜集団に分離し得る。さらに、第3スキャッタグラムとして、FSC-2強度及び蛍光強度を二軸とするスキャッタグラムを作成した場合、血小板を除く粒子集団は3つに分離し得る。具体的には、検体に有核赤血球が含まれる場合、蛍光強度に応じて、血小板を除く粒子集団は、成熟赤血球を含む集団、有核赤血球を含む集団、及び白血球を含む集団に分離し得る。
【0108】
図14を参照して、ステップS304において、分析ユニット300は、第6の粒子集団の光学的情報に基づいて、横軸に散乱光強度をとり、縦軸に蛍光強度とった第1スキャッタグラムを作成する。そして、この第1スキャッタグラムにおいて、各粒子に対応する点の位置を決定する。ステップS305において、分析ユニット300は、第6の粒子集団中の粒子を、蛍光強度に基づいて、第1の粒子集団と、第1の粒子集団よりも高い蛍光強度を示す第2の粒子集団とに分類する。ステップS304及びS305については、測定試料中の粒子の光学的情報に替えて、第6の粒子集団の光学的情報を用いたこと以外は、ステップS101及びS102と同様である。ステップS406において、分析ユニット300は、ステップS103と同様にして、第2の粒子集団を有核細胞の集団として特定する。そして、プロセスは、
図10BのステップS201へ進行する。以降の分析については、実施形態1で述べたことと同様である。
【0109】
(分析結果の出力)
図7を参照して、上記の実施形態1又は2の分析処理を終了すると、制御部301は、ステップS14において、分析結果を表示部305に出力して、処理を終了する。表示部305に出力される分析結果画面は、例えば、有核赤血球の数、白血球の数、白血球の各亜集団(リンパ球、単球及び顆粒球)の数を含んでもよい。また、画面は、これらの情報に加えて、光学的情報に基づいて作成したスキャッタグラムを含んでもよい。さらに、画面は、分析結果に基づくフラグを含んでもよい。例えば、有核赤血球が特定された場合、検体に有核赤血球が存在することを示す情報を出力してもよい。例えば、表示部305に「NRBC?」というフラグを出力してもよい。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、有核赤血球の不存在を示す情報であり得る。
【0110】
このように本実施形態の血球分析方法は、医師や検査技師などの医療従事者に対して、有核細胞の分析結果として、検体に有核赤血球が含まれるか否か、含まれる場合はその数についての情報を提供できる。また、白血球についての分析結果も提供できる。医療従事者は、取得した分析結果から、例えば、検体についてさらに検査を行うか否かを決定できる。上述の測定試料の調製及び検体の分析はすべてインビトロで行われる。
【0111】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0112】
以下の各実施例では、下記の血液検体、希釈試薬、染色試薬及び分析装置を用いて本実施形態の血球分析方法を行った。詳細は、以下の[測定方法]に記載したとおりである。
【0113】
[血液検体]
複数の健常者から得た末梢血を、正常検体として用いた。また、有核赤血球が含まれることが既知である複数の全血検体を、異常検体として用いた。
【0114】
[希釈試薬]
全血を希釈するための希釈試薬として、セルパック(登録商標)DFL(シスメックス株式会社)を用いた。
【0115】
[染色試薬]
核酸に結合可能な各種の蛍光色素を、濃度が5000 ppmとなるようにDMSOに溶解して、染色試薬を調製した。使用した蛍光色素の種類は、各実施例において記載した。
【0116】
[分析装置]
フローサイトメータXF-1600(シスメックス株式会社)を改造した試作機を分析装置として用いた。試作機は次のようにして作製した。XF-1600は、青紫色(405 nm)の光、青色(488 nm)の光及び赤色(638 nm)の光のそれぞれを発する3つの半導体レーザ光源と、各色の散乱光の検出器と、各光によって励起された蛍光の検出器とを有していた。このXF-1600から青色(488 nm)の光を発する半導体レーザ光源を取り外して、2つの半導体レーザ光源を備えたFCM系に改造した。当該分析装置のFCM検出部は
図4の構成を有していた。当該分析装置は、試料調製部440を備えず、吸引管200によって吸引した試料を吸引管200とフローセル413をつなぐ送液管を介して送液する点を除いて、
図2及び
図3に示される測定ユニットと同じ構成を有していた。
【0117】
[測定方法]
セルパックDFL及び上記の染色試薬を用いたことを除いて、測定試料の調製及び測定は、XF-1600に付属のマニュアルに従って行った。測定試料は、40℃に加温したセルパックDFL(1000μL)に染色試薬(2μL)を混合し、さらに全血(15μL)を混合して調製した。測定試料は、40℃で25秒インキュベートした後に測定した。測定試料における染色試薬の希釈倍率は508.5であった。測定試料中の蛍光色素の終濃度は9.83 ppmであった。
【0118】
実施例1:アクリジン系蛍光色素を用いた血球分析
蛍光色素としてアクリジンイエロー(3,6-Diamino-2,7-dimethylacridinium)を含む染色試薬を用いて測定試料を調製し、分析装置により当該測定試料中の有核赤血球及び白血球を分類した。アクリジンイエローは、青紫色レーザで励起されるアクリジン系蛍光色素であった。
【0119】
(1) 測定
各測定試料を分析装置により測定して、第1散乱光情報、第2散乱光情報及び蛍光情報を取得した。第1散乱光情報は、測定試料中の粒子に青紫色レーザを照射して得られた側方散乱光強度(以下、「側方散乱光強度(青紫)」又は「V-SSC」とも呼ぶ)であった。第2散乱光情報は、測定試料中の粒子に赤色レーザを照射して得られた前方散乱光強度(以下、「前方散乱光強度(赤)」又は「R-FSC」とも呼ぶ)及び側方散乱光強度(以下、「側方散乱光強度(赤)」又は「R-SSC」とも呼ぶ)であった。蛍光情報は、測定試料中の粒子に青紫色レーザを照射して得られた蛍光強度(以下、「蛍光強度(青紫)」又は「V-SFL」とも呼ぶ)であった。
【0120】
(2) 分析
(2.1) 第1スキャッタグラム(V-SSC/V-SFL)による分析
各測定試料について、横軸に側方散乱光強度(青紫)をとり、縦軸に蛍光強度(青紫)をとった第1スキャッタグラムを作成した。正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムをそれぞれ
図16の(A)及び(B)に示す。以下、図において、「TNC」は総有核細胞を表す。
図16を参照して、いずれの検体においても、高い蛍光強度を示す集団と、当該集団よりも蛍光強度が低い集団とが認められた。上記のとおり、有核細胞は、核酸に結合可能な蛍光色素により強く染色されるが、成熟赤血球、血小板及びデブリなどの核及び核酸を含まない細胞や粒子は、当該蛍光色素ではほとんど染色されないか又は弱く染色される。したがって、各スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(青紫)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。
図16の(A)と(B)とを比較すると、(B)のスキャッタグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞を抽出(ゲーティング)した。
【0121】
(2.2) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
第1スキャッタグラムでゲーティングした有核細胞を、横軸に側方散乱光強度(青紫)をとり、縦軸に前方散乱光強度(赤)をとった第2スキャッタグラム上に表示した。正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムをそれぞれ
図17の(A)及び(B)に示す。以下、図において、「Gran」は顆粒球を表し、「Mono」は単球を表し、「Lyn」はリンパ球を表し、「NRBC」は有核赤血球を表す。
図17の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図17の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。
図17の(A)と(B)とを比較すると、(A)のスキャッタグラムの方が、白血球が明確に亜集団に分類された。有核赤血球が末梢血に出現するような疾患では、白血球にも異常が生じる症例が多いことが知られている。そのため、異常検体の白血球を亜集団に明確に分類することが難しい場合があり得る。
【0122】
上記のとおり、測定試料は、溶血試薬を用いない非溶血条件下で調製されたので、測定試料には赤血球が含まれていた。しかし、第1スキャッタグラムにおいて蛍光強度に基づいて有核細胞をゲーティングしたことにより、成熟赤血球を除外できた。これにより、第2スキャッタグラムでは、成熟赤血球の影響を受けずに、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0123】
(2.3) 別の第2スキャッタグラム(V-SSC/R-SSC)による分析
別の第2スキャッタグラムとして、横軸に側方散乱光強度(青紫)をとり、縦軸に側方散乱光強度(赤)をとったスキャッタグラム上に、第1スキャッタグラムでゲーティングした有核細胞を表示した。正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムをそれぞれ
図18の(A)及び(B)に示す。
図18の(A)を参照して、正常血液では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図17の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。第2スキャッタグラムの縦軸をR-FSCからR-SSCに変更しても、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0124】
実施例2:アクリジン系蛍光色素を用いた血球分析(2)
実施例2では、第1スキャッタグラムに替えて、蛍光強度についてのヒストグラムを用いて、測定試料中の有核細胞を特定した。それ以外は実施例1と同様にして、アクリジンイエローを含む染色試薬を用いて測定試料を調製し、分析装置による測定及び分析を行った。実施例2で用いた正常検体及び異常検体は、実施例1と同じであった。
【0125】
(1) 測定
各測定試料を分析装置により測定して、第1散乱光情報、第2散乱光情報及び蛍光情報を取得した。第1散乱光情報は、側方散乱光強度(青紫)であった。第2散乱光情報は、前方散乱光強度(赤)であった。蛍光情報は、蛍光強度(青紫)であった。
【0126】
(2) 分析
(2.1) ヒストグラム(V-SFL)による分析
各測定試料について、横軸に蛍光強度(青紫)をとり、縦軸に粒子数(Count)をとったヒストグラムを作成した。正常検体及び異常検体についてのヒストグラムをそれぞれ
図19の(A)及び(B)に示す。
図19を参照して、いずれの検体のヒストグラムにおいても、右側(蛍光強度が高値の側)にピークが認められた。また、各ヒストグラムの左側(蛍光強度が低値の側)に多数の粒子が認められた。各ヒストグラムにおいて、蛍光強度(青紫)が高値の粒子(図中、横線で示した範囲内の粒子)を、有核細胞として特定した。
図19の(A)と(B)とを比較すると、(B)のヒストグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各ヒストグラムで特定した有核細胞を抽出した。
【0127】
(2.2) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
ヒストグラムから抽出した有核細胞を、横軸に側方散乱光強度(青紫)をとり、縦軸に前方散乱光強度(赤)をとった第2スキャッタグラム上に表示した。正常検体及び異常検体についての第2スキャッタグラムをそれぞれ
図20の(A)及び(B)に示す。
図20の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図20の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。このように、第1スキャッタグラムに替えて、蛍光強度のヒストグラムを用いても、測定試料中の粒子から有核細胞を特定できることが示された。また、ヒストグラムにより特定された有核細胞から、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0128】
実施例3:アクリジン系蛍光色素を用いた血球分析(3)
実施例3では、実施例1とは異なる第1スキャッタグラムを用いて、測定試料中の有核細胞を特定した。それ以外は実施例1と同様にして、アクリジンイエローを含む染色試薬を用いて測定試料を調製し、分析装置による測定及び分析を行った。実施例3で用いた正常検体及び異常検体は、実施例1と同じであった。
【0129】
(1) 測定
各測定試料を分析装置により測定して、第1散乱光情報、第2散乱光情報及び蛍光情報を取得した。第1散乱光情報は、側方散乱光強度(青紫)であった。第2散乱光情報は、前方散乱光強度(赤)及び側方散乱光強度(赤)であった。蛍光情報は、蛍光強度(青紫)であった。
【0130】
(2) 分析
(2.1) 第1スキャッタグラム(R-SSC/V-SFL)による分析
各測定試料について、横軸に側方散乱光強度(赤)をとり、縦軸に蛍光強度(青紫)をとった第1スキャッタグラムを作成した。正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムをそれぞれ
図21の(A)及び(B)に示す。
図21を参照して、いずれの検体においても、高い蛍光強度を示す集団と、当該集団よりも蛍光強度が低い集団とが認められた。各スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(青紫)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。
図21の(A)と(B)とを比較すると、(B)のスキャッタグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞をゲーティングした。
【0131】
(2.2) 別の第1スキャッタグラム(R-FSC/V-SFL)による分析
別の第1スキャッタグラムとして、横軸に前方散乱光強度(赤)をとり、縦軸に蛍光強度(青紫)をとったスキャッタグラムを作成した。正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムをそれぞれ
図22の(A)及び(B)に示す。
図22の(A)と(B)とを比較すると、(B)のスキャッタグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(青紫)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞をゲーティングした。
【0132】
(2.3) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
図21の第1スキャッタグラムでゲーティングした有核細胞を、
図23の第2スキャッタグラム上に表示した。
図22の第1スキャッタグラムでゲーティングした有核細胞を、
図24の第2スキャッタグラム上に表示した。
図23及び24の(A)は正常検体のスキャッタグラムであり、(B)は異常検体のスキャッタグラムであった。
図23及び24の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図23及び24の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。このように、第1スキャッタグラムの横軸をV-SSCからR-SSC又はR-FSCに変更しても、測定試料中の粒子から有核細胞を特定できることが示された。また、そのようにして特定された有核細胞から、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0133】
実施例4:アクリジン系蛍光色素を用いた血球分析(4)
実施例4では、第1スキャッタグラムによる分析の前に、各種の第3スキャッタグラムに基づいて、測定試料中の粒子から血小板を除外した。それ以外は実施例1と同様にして、アクリジンイエローを含む染色試薬を用いて測定試料を調製し、分析装置による測定及び分析を行った。実施例4で用いた正常検体及び異常検体は、実施例1と同じであった。
【0134】
(1) 測定
各測定試料を分析装置により測定して、第1散乱光情報、第2散乱光情報及び蛍光情報を取得した。第1散乱光情報は、側方散乱光強度(青紫)であった。第2散乱光情報は、前方散乱光強度(赤)及び側方散乱光強度(赤)であった。蛍光情報は、蛍光強度(青紫)であった。
【0135】
(2) 分析
(2.1) 第3スキャッタグラム(R-SSC/R-FSC)による分析
各測定試料について、横軸に側方散乱光強度(赤)をとり、縦軸に前方散乱光強度(赤)をとった第3スキャッタグラムを作成した。正常検体及び異常検体についての第3スキャッタグラムをそれぞれ
図25の(A)及び(B)に示す。
図25を参照して、いずれの検体においても、高い前方散乱光強度を示す集団と、当該集団よりも前方散乱光強度が低い集団とが認められた。ここで、前方散乱光強度は、粒子の大きさを反映する反映するパラメータであることが知られている。血小板は他の血球に比べてサイズが小さく、FCM測定において前方散乱光強度が小さくなることが知られている。したがって、各スキャッタグラムにおいて、前方散乱光強度(赤)が低値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、血小板として特定した。各第3スキャッタグラムにおいて特定した血小板を、測定試料中の粒子から除外して、血小板を除く粒子を特定した。
【0136】
(2.2) 別の第3スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
別の第3スキャッタグラムとして、横軸に側方散乱光強度(青紫)をとり、縦軸に前方散乱光強度(赤)をとったスキャッタグラムを作成した。正常検体及び異常検体についての第3スキャッタグラムをそれぞれ
図26の(A)及び(B)に示す。各スキャッタグラムにおいて、前方散乱光強度(赤)が低値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、血小板として特定した。各第3スキャッタグラムにおいて特定した血小板を、測定試料中の粒子から除外して、血小板を除く粒子を特定した。
【0137】
(2.3) 別の第3スキャッタグラム(V-SFL/R-FSC)による分析
さらに別の第3スキャッタグラムとして、横軸に蛍光強度(青紫)をとり、縦軸に前方散乱光強度(赤)をとったスキャッタグラムを作成した。正常検体及び異常検体についての第3スキャッタグラムをそれぞれ
図27の(A)及び(B)に示す。上述のとおり、血小板は無核の細胞であるので、蛍光色素により比較的弱く染色されることが知られている。したがって、各スキャッタグラムにおいて、前方散乱光強度(赤)が低値且つ蛍光強度(青紫)が低値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、血小板として特定した。各第3スキャッタグラムにおいて特定した血小板を、測定試料中の粒子から除外して、血小板を除く粒子を特定した。
【0138】
(2.4) 第1スキャッタグラム(V-SSC/V-SFL)による分析
図25の第3スキャッタグラムで特定した血小板を除く粒子を、
図28の第1スキャッタグラム上に表示した。
図26の第3スキャッタグラムで特定した血小板を除く粒子を、
図29の第1スキャッタグラム上に表示した。
図27の第3スキャッタグラムで特定した血小板を除く粒子を、
図30の第1スキャッタグラム上に表示した。
図28~30の(A)は正常検体のスキャッタグラムであり、(B)は異常検体のスキャッタグラムであった。
図28~30を参照して、いずれの検体においても、高い蛍光強度を示す集団と、当該集団よりも蛍光強度が低い集団とが認められた。
図16と
図28~30とを比較すると、血小板が除外されているので、
図28~30では、蛍光強度が低い集団の粒子数は減少した。各第1スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(青紫)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞をゲーティングした。
【0139】
(2.5) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
図28の第1スキャッタグラムでゲーティングした有核細胞を、
図31の第2スキャッタグラム上に表示した。
図29の第1スキャッタグラムでゲーティングした有核細胞を、
図32の第2スキャッタグラム上に表示した。
図30の第1スキャッタグラムでゲーティングした有核細胞を、
図33の第2スキャッタグラム上に表示した。
図31~33の(A)は正常検体のスキャッタグラムであり、(B)は異常検体のスキャッタグラムであった。
図31~33の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図31~33の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。このように、第3スキャッタグラムに基づいて血小板を除外した測定試料中の粒子から、有核細胞をゲーティングすることにより、第1スキャッタグラムでは、血小板の影響を受けずに、有核細胞を特定できることが示された。また、そのようにして特定された有核細胞から、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0140】
実施例5:アクリジン系蛍光色素を用いた血球分析(5)
実施例5では、実施例1とは異なる正常検体及び異常検体を用い、蛍光色素としてベーシックイエロー9(2,7,9-trimethylacridine-3,6-diamine)を用いた。それら以外は実施例1と同様にして、測定試料を調製し、分析装置による測定及び分析を行った。ベーシックイエロー9は、青紫色レーザで励起されるアクリジン系蛍光色素であった。
【0141】
(1) 測定及び第1スキャッタグラム(V-SSC/V-SFL)による分析
分析装置により取得した第1散乱光情報は、側方散乱光強度(青紫)であり、第2散乱光情報は、前方散乱光強度(赤)であり、蛍光情報は、蛍光強度(青紫)であった。各測定試料について、実施例1と同様に、第1スキャッタグラムを作成した。作成した第1スキャッタグラムを
図34に示す。
図34を参照して、いずれの検体においても、高い蛍光強度を示す集団と、当該集団よりも蛍光強度が低い集団とが認められた。各スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(青紫)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。
図34の(A)と(B)とを比較すると、(B)のスキャッタグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞をゲーティングした。
【0142】
(2) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
ゲーティングした有核細胞を、実施例1と同様に、第2スキャッタグラム上に表示した。作成した第2スキャッタグラムを
図35に示す。
図35の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図35の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。このように、蛍光色素をアクリジンイエローからベーシックイエロー9に替えても、測定試料中の粒子から有核細胞を特定できることが示された。また、そのようにして特定された有核細胞から、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0143】
実施例6:アクリジン系蛍光色素を用いた血球分析(6)
実施例6では、実施例1及び5とは異なる正常検体及び異常検体を用い、蛍光色素としてブリリアントフォスフィン(3,6-diamino-2,7,10-trimethylacridinium)を用いた。それら以外は実施例1と同様にして、測定試料を調製し、分析装置による測定及び分析を行った。ブリリアントフォスフィンは、青紫色レーザで励起されるアクリジン系蛍光色素であった。
【0144】
(1) 測定及び第1スキャッタグラム(V-SSC/V-SFL)による分析
分析装置により取得した第1散乱光情報は、側方散乱光強度(青紫)であり、第2散乱光情報は、前方散乱光強度(赤)であり、蛍光情報は、蛍光強度(青紫)であった。各測定試料について、実施例1と同様に、第1スキャッタグラムを作成した。作成した第1スキャッタグラムを
図36に示す。
図36を参照して、いずれの検体においても、高い蛍光強度を示す集団と、当該集団よりも蛍光強度が低い集団とが認められた。各スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(青紫)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。
図36の(A)と(B)とを比較すると、(B)のスキャッタグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞をゲーティングした。
【0145】
(2) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
ゲーティングした有核細胞を、実施例1と同様に、第2スキャッタグラム上に表示した。作成した第2スキャッタグラムを
図37に示す。
図37の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図37の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。このように、蛍光色素をアクリジンイエローからブリリアントフォスフィンに替えても、測定試料中の粒子から有核細胞を特定できることが示された。また、そのようにして特定された有核細胞から、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0146】
比較例:第1又は第2散乱光情報のみに基づく第2スキャッタグラムによる分析
比較例では、実施例6の第1スキャッタグラムで特定した各検体の有核細胞を、第1散乱光情報のみに基づく第2スキャッタグラム及び第2散乱光情報のみに基づく第2スキャッタグラム上に表示して、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができるかを検討した。
【0147】
実施例6で作成した第1スキャッタグラム(
図36参照)でゲーティングした各検体の有核細胞を、第1散乱光情報のみに基づく第2スキャッタグラム上に表示した。この第2スキャッタグラムでは、横軸に側方散乱光強度(青紫)をとり、縦軸に前方散乱光強度(青紫)をとった。これを
図38に示した。また、第2散乱光情報のみに基づく第2スキャッタグラム上に、上記の有核細胞を表示した。この第2スキャッタグラムでは、横軸に側方散乱光強度(赤)をとり、縦軸に前方散乱光強度(赤)をとった。これを
図39に示した。
【0148】
図38の(A)を参照して、正常検体では、有核赤血球がほとんど含まれていなかったにもかかわらず、「NRBC?」とのフラグが表示された。これは、リンパ球の集団が、有核赤血球が出現する領域に認められたことにより、リンパ球の集団が有核赤血球として誤って特定されたと考えられる。
図38の(B)を参照して、異常検体では、有核赤血球が出現する領域と、リンパ球が出現する領域とが重なっていた。そのため、有核赤血球とリンパ球とを区別できなかった。このように、有核赤血球を正確に特定できないので、「NRBC?」とのフラグが表示された。
図39の(A)を参照して、正常検体では、白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。しかし、
図39の(B)を参照して、異常検体では、有核赤血球が出現する領域と、白血球が出現する領域とが完全に重なっていた。そのため、有核赤血球の特定も白血球の分類もできなかった。このように、第1及び第2散乱光情報のいずれか一方のみでは、有核赤血球の特定及び白血球の分類はできないことが示された。
【0149】
実施例7:シアニン系蛍光色素を用いた血球分析
実施例7では、蛍光色素としてNK-88(3-Ethyl-2-[(3-ethyl-2-benzothiazolinylidene) methyl] benzothiazolium)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、測定試料を調製し、分析装置による測定及び分析を行った。実施例7で用いた正常検体及び異常検体は、実施例1と同じであった。NK-88は、青紫色レーザで励起されるシアニン系蛍光色素であった。
【0150】
(1) 測定及び第1スキャッタグラム(V-SSC/V-SFL)による分析
分析装置により取得した第1散乱光情報は、側方散乱光強度(青紫)であり、第2散乱光情報は、前方散乱光強度(赤)であり、蛍光情報は、蛍光強度(青紫)であった。各測定試料について、実施例1と同様に、第1スキャッタグラムを作成した。作成した第1スキャッタグラムを
図40に示す。
図40を参照して、いずれの検体においても、高い蛍光強度を示す集団と、当該集団よりも蛍光強度が低い集団とが認められた。各スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(青紫)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。
図40の(A)と(B)とを比較すると、(B)のスキャッタグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞をゲーティングした。
【0151】
(2) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
ゲーティングした有核細胞を、実施例1と同様に、第2スキャッタグラム上に表示した。作成した第2スキャッタグラムを
図41に示す。
図41の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図41の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。このように、蛍光色素としてシアニン系蛍光色素のNK-88を用いても、測定試料中の粒子から有核細胞を特定できることが示された。また、そのようにして特定された有核細胞から、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0152】
実施例8:赤色レーザで励起される蛍光色素を用いた血球分析(1)
実施例8では、実施例1とは異なる正常検体を用い、蛍光色素としてNK-321(3-Ethyl-2-〔3-(1-ethyl-4(1H)-quinolylidene)-1-propenyl〕benzothiazolium iodide)を用いた。また、実施例1とは異なる第1スキャッタグラムを用いて、測定試料中の有核細胞を特定した。それら以外は実施例1と同様にして、測定試料を調製し、分析装置による測定及び分析を行った。実施例8で用いた異常検体は、実施例1と同じであった。NK-321は、赤色レーザで励起されるシアニン系蛍光色素であった。
【0153】
(1) 測定
各測定試料を分析装置により測定して、第1散乱光情報、第2散乱光情報及び蛍光情報を取得した。第1散乱光情報は、側方散乱光強度(青紫)であった。第2散乱光情報は、前方散乱光強度(赤)であった。蛍光情報は、測定試料中の粒子に赤色レーザを照射して得られた蛍光強度(以下、「蛍光強度(赤)」又は「R-SFL」とも呼ぶ)であった。
【0154】
(2) 分析
(2.1) 第1スキャッタグラム(V-SSC/R-SFL)による分析
各測定試料について、横軸に側方散乱光強度(青紫)をとり、縦軸に蛍光強度(赤)をとった第1スキャッタグラムを作成した。正常検体及び異常検体についての第1スキャッタグラムをそれぞれ
図42の(A)及び(B)に示す。
図42を参照して、いずれの検体においても、高い蛍光強度を示す集団と、当該集団よりも蛍光強度が低い集団とが認められた。各スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(赤)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。
図42の(A)と(B)とを比較すると、(B)のスキャッタグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞をゲーティングした。
【0155】
(2.2) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
ゲーティングした有核細胞を、実施例1と同様に、第2スキャッタグラム上に表示した。作成した第2スキャッタグラムを
図43に示す。
図43の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図43の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。このように、蛍光色素として赤色レーザで励起されるシアニン系蛍光色素を用いても、測定試料中の粒子から有核細胞を特定できることが示された。また、そのようにして特定された有核細胞から、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。
【0156】
実施例9:赤色レーザで励起される蛍光色素を用いた血球分析(2)
実施例9では、実施例1及び8とは異なる正常検体及び異常検体を用い、蛍光色素としてブリリアントクレシルブルーALD(3-methyl-7-amino-10-diethylaminiumylphonoxaxine)を用いた。また、実施例1とは異なる第1スキャッタグラムを用いて、測定試料中の有核細胞を特定した。それら以外は実施例1と同様にして、測定試料を調製し、分析装置による測定及び分析を行った。ブリリアントクレシルブルーALDは、赤色レーザで励起されるフェノキサジン系蛍光色素であった。
【0157】
(1) 測定及び第1スキャッタグラム(V-SSC/R-SFL)による分析
分析装置により取得した第1散乱光情報は、側方散乱光強度(青紫)であり、第2散乱光情報は、前方散乱光強度(赤)であり、蛍光情報は、蛍光強度(赤)であった。各測定試料について、実施例8と同様に、第1スキャッタグラムを作成した。作成した第1スキャッタグラムを
図44に示す。
図44を参照して、いずれの検体においても、高い蛍光強度を示す集団と、当該集団よりも蛍光強度が低い集団とが認められた。各スキャッタグラムにおいて、蛍光強度(赤)が高値の領域(実線で囲んだ領域)に出現した集団を、有核細胞として特定した。
図44の(A)と(B)とを比較すると、(B)のスキャッタグラムの方が、有核細胞数が多かった。これは、異常検体が有核赤血球を含むことを反映した。各第1スキャッタグラムにおいて特定した有核細胞をゲーティングした。
【0158】
(2) 第2スキャッタグラム(V-SSC/R-FSC)による分析
ゲーティングした有核細胞を、実施例1と同様に、第2スキャッタグラム上に表示した。作成した第2スキャッタグラムを
図45に示す。
図45の(A)を参照して、正常検体では、有核細胞として含まれていた白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。正常検体では、有核赤血球に分類される粒子はほとんど出現しなかった。
図45の(B)を参照して、異常検体では、有核細胞として含まれていた有核赤血球が特定され、且つ白血球が、リンパ球、単球及び顆粒球に分類された。このように、蛍光色素として赤色レーザで励起されるフェノキサジン系蛍光色素を用いても、測定試料中の粒子から有核細胞を特定できることが示された。また、そのようにして特定された有核細胞から、有核赤血球の特定及び白血球の分類ができることが示された。