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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146270
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】検体の分析方法及び染色試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
G01N33/53 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】40
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059067
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】鳥家 雄二
(72)【発明者】
【氏名】金村 絵美
(57)【要約】
【課題】DNA量異常白血球、芽球などを含む複数種類の異常細胞に対応し、且つ、一回の測定で白血球の分類及び異常細胞の検出を可能にする手段を提供することを課題とする。
【解決手段】DNAに特異的に結合する第1蛍光色素と、RNAに特異的に結合する第2蛍光色素とで染色された測定試料中の粒子をフローサイトメトリ法で測定し、第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報とに基づいて、第1の特徴を有する粒子を特定し、第1の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第1の異常細胞の存否を示す情報、第2の異常細胞の存否を示す情報及び第3の異常細胞の存否を示す情報を出力することを含む検体の分析方法により、上記の課題を解決する。
【選択図】図34
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1蛍光色素及び第2蛍光色素で染色された測定試料中の粒子に光を照射することにより生じた第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報とを取得する工程と、
前記第1蛍光情報と前記第2蛍光情報と前記散乱光情報とに基づいて、第1の特徴を有する粒子を特定する工程と、
前記第1の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第1の異常細胞の存否を示す情報、第2の異常細胞の存否を示す情報及び第3の異常細胞の存否を示す情報を出力する工程と、
を含み、
前記測定試料が、被検者から採取された検体と前記第1蛍光色素と前記第2蛍光色素とを混合することにより調製され、
前記第1蛍光情報が、前記第1蛍光色素からの蛍光強度であり、前記第2蛍光情報が、前記第2蛍光色素からの蛍光強度であり、
前記第1蛍光色素が、DNAに特異的に結合する蛍光色素であり、前記第2蛍光色素が、RNAに特異的に結合する蛍光色素である、
検体の分析方法。
【請求項2】
前記検体が、血液試料である請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記取得する工程において、前記散乱光情報として、側方散乱光情報及び前方散乱光情報を取得する請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記特定する工程において、前記側方散乱光情報と前記第1蛍光情報とに基づいて、前記測定試料中の粒子から、第1のリンパ球集団を含む白血球の各亜集団を特定し、
前記側方散乱光情報と前記第2蛍光情報とに基づいて、前記測定試料中の粒子から、第2のリンパ球集団を含む白血球の各亜集団を特定する請求項3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記特定する工程において、前記第2のリンパ球集団が、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を含む場合、前記第1蛍光情報に基づいて、前記第1の特徴を有する粒子を特定し、
前記第1の特徴を有する粒子が、前記第1のリンパ球集団より高い前記第1蛍光情報を示す粒子である請求項4に記載の分析方法。
【請求項6】
前記第1の特徴を有する粒子の情報が、粒子数、第1蛍光情報の分散に関する情報及び前方散乱光情報を含む請求項5に記載の分析方法。
【請求項7】
前記出力する工程において、前記第1の特徴を有する粒子が、下記の1)~3)の条件:
1) 前記第1の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であり、
2) 前記第1の特徴を有する粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値以上であり、且つ
3) 前記第1の特徴を有する粒子の前方散乱光情報が、これに対応する閾値以上である
を満たすとき、前記第1の特徴を有する粒子を前記第1の異常細胞と特定し、
前記第1の異常細胞の存否を示す情報として、DNA量異常白血球が存在することを示す情報を出力する請求項6に記載の分析方法。
【請求項8】
前記第1蛍光情報の分散に関する情報が、第1蛍光強度のCV値であり、前記前方散乱光情報が、前方散乱光強度である請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
前記DNA量異常白血球のDNAインデックスを算出する工程と、前記DNAインデックスを出力する工程とをさらに含む請求項7に記載の分析方法。
【請求項10】
前記出力する工程において、前記第1の特徴を有する粒子の情報が、下記の1)及び4)の条件:
1) 前記第1の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であり、且つ
4) 前記第1の特徴を有する粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値未満である
を満たすとき、第1の特徴を有する粒子を前記第2の異常細胞と特定し、
前記第2の異常細胞の存否を示す情報として、芽球が存在することを示す情報を出力する請求項6に記載の分析方法。
【請求項11】
前記第1蛍光情報の分散に関する情報が、第1蛍光強度のCV値である請求項10に記載の分析方法。
【請求項12】
前記出力する工程において、前記第1の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満であるとき、前記第1の特徴を有する粒子を前記第3の異常細胞と特定し、
前記第3の異常細胞の存否を示す情報として、異常リンパ球が存在することを示す情報を出力する請求項6に記載の分析方法。
【請求項13】
前記出力する工程において、第4の異常細胞の存否を示す情報をさらに出力し、
前記第1の特徴を有する粒子の情報が、下記の1)、2)及び5)の条件:
1) 前記第1の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であり、
2) 前記第1の特徴を有する粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値以上であり、且つ
5) 前記第1の特徴を有する粒子の前方散乱光情報が、これに対応する閾値未満である
を満たすとき、前記第1の特徴を有する粒子を前記第4の異常細胞と特定し、
前記第4の異常細胞の存否を示す情報として、幼若赤芽球又は巨赤芽球が存在することを示す情報を出力する請求項6に記載の分析方法。
【請求項14】
前記第1蛍光情報の分散に関する情報が、第1蛍光強度のCV値であり、前記前方散乱光情報が、前方散乱光強度である請求項13に記載の分析方法。
【請求項15】
前記芽球が、リンパ芽球又は骨髄芽球であり、
前記第1の特徴を有する粒子の情報及び前記第1のリンパ球集団の情報に基づいて、前記第2の異常細胞の存否を示す情報として、リンパ芽球又は骨髄芽球が存在することを示す情報を出力する請求項10に記載の分析方法。
【請求項16】
前記出力する工程において、
前記第1の特徴を有する粒子が、前記1)及び4)の条件を満たし、且つ、前記第1のリンパ球集団の側方散乱光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値未満であるとき、前記第2の異常細胞の存否を示す情報として、リンパ芽球が存在することを示す情報を出力し、
前記第1の特徴を有する粒子が、前記1)及び4)の条件を満たし、且つ、前記第1のリンパ球集団の側方散乱光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値以上であるとき、前記第2の異常細胞の存否を示す情報として、骨髄芽球が存在することを示す情報を出力する請求項15に記載の分析方法。
【請求項17】
前記側方散乱光情報の分散に関する情報が、側方散乱光強度のCV値である請求項16に記載の分析方法。
【請求項18】
前記特定する工程において、前記第2のリンパ球集団が、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を含まない場合、前記第2蛍光情報と前記側方散乱光情報に基づいて、単球集団及び第2の特徴を有する粒子をさらに特定し、
前記出力する工程において、前記第2の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第5の異常細胞の存否を示す情報をさらに出力する請求項5に記載の分析方法。
【請求項19】
前記第2の特徴を有する粒子が、前記単球集団より高い第2蛍光情報及び第1の範囲内の側方散乱光情報を示す粒子であり、
前記出力する工程において、前記第2の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、前記第2の特徴を有する粒子を前記第5の異常細胞と特定し、
前記第5の異常細胞の存否を示す情報として、異型リンパ球が存在することを示す情報を出力する請求項18に記載の分析方法。
【請求項20】
前記第2蛍光情報が、第2蛍光強度であり、前記側方散乱光情報が、側方散乱光強度である請求項19に記載の分析方法。
【請求項21】
前記特定する工程において、前記第2蛍光情報と前記側方散乱光情報に基づいて、好中球集団及び第3の特徴を有する粒子をさらに特定し、
前記出力する工程において、前記第2の特徴を有する粒子及び前記第3の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第6の異常細胞の存否を示す情報をさらに出力する請求項19に記載の分析方法。
【請求項22】
前記第3の特徴を有する粒子が、前記好中球集団より高い第2蛍光情報及び第2の範囲内の側方散乱光情報を示す粒子であり、
前記出力する工程において、前記第2の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満であり、且つ前記第3の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、前記第3の特徴を有する粒子を前記第6の異常細胞と特定し、
前記第6の異常細胞の存否を示す情報として、幼若顆粒球が存在することを示す情報を出力する請求項21に記載の分析方法。
【請求項23】
前記第2蛍光情報が、第2蛍光強度であり、前記側方散乱光情報が、側方散乱光強度である請求項22に記載の分析方法。
【請求項24】
前記取得する工程において、散乱光情報として、側方散乱光情報と、前方散乱光信号の幅に関する情報とを取得し、
前記特定する工程において、前記第1蛍光情報と前記側方散乱光情報とに基づいて、第4の特徴を有する粒子をさらに特定し、
前記出力する工程において、前記第4の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第7の異常細胞の存否を示す情報及び第8の異常細胞の存否を示す情報をさらに出力する請求項1に記載の分析方法。
【請求項25】
前記第4の特徴を有する粒子が、前記第1蛍光情報が第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満である粒子であり、
前記出力する工程において、前記第4の特徴を有する粒子の情報が、下記の6)及び7)の条件:
6) 前記第4の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満であり、且つ
7) 前記第4の特徴を有する粒子の前方散乱光信号の幅に関する情報が、これに対応する閾値以上である
を満たすとき、第4の特徴を有する粒子を前記第7の異常細胞と特定し、
前記第7の異常細胞の存否を示す情報として、血小板凝集が存在することを示す情報を出力する請求項24に記載の分析方法。
【請求項26】
前記出力する工程において、前記第4の特徴を有する粒子の情報が、下記の6)及び8)の条件:
6) 前記第4の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満であり、且つ
8) 前記第4の特徴を有する粒子の前方散乱光信号の幅に関する情報が、これに対応する閾値未満である
を満たすとき、第4の特徴を有する粒子を前記第8の異常細胞と特定し、
前記第8の異常細胞の存否を示す情報として、マラリア感染赤血球が存在することを示す情報を出力する請求項25に記載の分析方法。
【請求項27】
前記特定する工程において、前記第1蛍光情報及び前記第2蛍光情報に基づいて、第5の特徴を有する粒子をさらに特定し、
前記出力する工程において、前記第5の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第9の異常細胞の存否を示す情報をさらに出力する請求項24に記載の分析方法。
【請求項28】
前記第5の特徴を有する粒子が、前記第1蛍光情報が第1蛍光情報に対応する第1の閾値以上であり、且つ前記第2蛍光情報が第2蛍光情報に対応する第2の閾値以下である粒子であり、
前記出力する工程において、前記第5の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、前記第5の特徴を有する粒子を第9の異常細胞と特定し、
前記第9の異常細胞の存否を示す情報として、有核赤血球が存在することを示す情報を出力する請求項27に記載の分析方法。
【請求項29】
前記検体の種類に関する情報を取得する工程をさらに含み、
前記検体の種類が血液試料であるとの情報を取得した場合、前記取得する工程、前記特定する工程、及び前記出力する工程を実行し、
前記検体の種類が非血液試料であるとの情報を取得した場合、前記第1蛍光情報、前記第2蛍光情報及び前記散乱光情報を取得する工程と、
前記第1蛍光情報と前記第2蛍光情報とに基づいて、第6の特徴を有する粒子、第7の特徴を有する粒子及び第8の特徴を有する粒子から選択される少なくとも1の粒子を特定する工程と、
前記第6の特徴を有する粒子の情報を得た場合は前記情報に基づいて、第10の異常細胞の存否を示す情報を出力し、前記第7の特徴を有する粒子の情報を得た場合は前記情報に基づいて、第11の異常細胞の存否を示す情報を出力し、且つ前記第8の特徴を有する粒子の情報を得た場合は前記情報に基づいて、第12の異常細胞の存否を示す情報を出力する工程とを実行する請求項1に記載の分析方法。
【請求項30】
前記非血液試料が、体腔液、脳脊髄液、関節液、腹膜透析排液又は肺胞洗浄液である請求項29に記載の分析方法。
【請求項31】
前記第6の特徴を有する粒子が、前記第1蛍光情報が第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満である粒子であり、
前記出力する工程において、前記第6の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、前記第6の特徴を有する粒子を第10の異常細胞と特定し、
前記第10の異常細胞の存否を示す情報として、細菌又は真菌が存在することを示す情報を出力する請求項29に記載の分析方法。
【請求項32】
前記第7の特徴を有する粒子が、前記第2蛍光情報が第2蛍光情報に対応する第3の閾値以上である粒子であり、
前記出力する工程において、前記第7の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、前記第7の特徴を有する粒子を第11の異常細胞と特定し、
前記第11の異常細胞の存否を示す情報として、組織由来細胞が存在することを示す情報を出力する請求項29に記載の分析方法。
【請求項33】
前記第8の特徴を有する粒子が、前記第1蛍光情報が第1蛍光情報に対応する第2の閾値以上である粒子であり、
前記出力する工程において、前記第8の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、前記第8の特徴を有する粒子を第12の異常細胞と特定し、
前記第12の異常細胞の存否を示す情報として、DNA量異常白血球が存在することを示す情報を出力する請求項29に記載の分析方法。
【請求項34】
前記第1蛍光色素と前記第2蛍光色素とが、互いに異なる波長域に蛍光発光極大を有する蛍光色素である請求項1に記載の分析方法。
【請求項35】
前記第1蛍光色素と前記第2蛍光色素とが、互いに異なる波長域に極大吸収を有する蛍光色素である請求項1に記載の分析方法。
【請求項36】
前記取得する工程において、前記第1蛍光色素を励起可能な第1波長の光、及び前記第2蛍光色素を励起可能な第2波長の光を前記測定試料中の粒子に照射する請求項1に記載の分析方法。
【請求項37】
前記第1波長が315 nm以上490 nm以下であり、前記第2波長が610 nm以上750 nm以下である請求項36に記載の分析方法。
【請求項38】
前記第1蛍光色素及び前記第2蛍光色素が、抗体を含まない請求項1に記載の分析方法。
【請求項39】
第1蛍光色素及び第2蛍光色素で染色された測定試料中の粒子に光を照射することにより生じた第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報とを取得する工程と、
前記第1蛍光情報と前記第2蛍光情報と前記散乱光情報とに基づいて、測定試料に含まれる白血球を少なくとも5つの亜集団に分類する工程と、
5つの亜集団に分類できない測定試料について、前記第1蛍光情報と前記第2蛍光情報と前記散乱光情報とに基づいて、少なくともDNA量異常白血球と、異常リンパ球と、芽球を区別して検出する工程と、を含み、
前記測定試料が、被検者から採取された検体と前記第1蛍光色素と前記第2蛍光色素とを混合することにより調製され、
前記第1蛍光情報が、前記第1蛍光色素からの蛍光強度であり、前記第2蛍光情報が、前記第2蛍光色素からの蛍光強度であり、
前記第1蛍光色素が、DNAに特異的に結合する蛍光色素であり、前記第2蛍光色素が、RNAに特異的に結合する蛍光色素である、
検体の分析方法。
【請求項40】
前記第1蛍光色素と前記第2蛍光色素とを含み、請求項1~39のいずれか1項に記載の分析方法に用いられる染色試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体の分析方法に関する。本発明は、その分析方法に用いられる染色試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や体腔液などのように血球を含む検体の分析では、正常な白血球は、リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球の5つの亜集団に分類される。臨床検査の分野では、血液や体腔液などの検体に通常ほとんど存在しない細胞は、異常細胞と呼ばれる。検体中の異常細胞を検出又は分類することは、被検者の健康状態や疾患を診断する上で極めて有用である。特許文献1では、異常細胞として異型リンパ球、異常リンパ球及び芽球を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0282601号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異常細胞は、上記の異型リンパ球、異常リンパ球及び芽球の他にも存在し、例えばDNA量異常白血球、赤芽球、幼若顆粒球などがある。このように異常細胞には多くの種類があるが、従来の分析方法は、限られた種類の異常細胞の検出又は分類しかできなかった。試薬等を変更して複数回の測定を行うことにより、より多くの種類の異常細胞に対応できる分析方法もある。しかし、このような分析方法は費用と時間を要する。本発明は、一回の測定でDNA量異常白血球、芽球などのような複数種類の異常細胞の検出に対応できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、DNAに特異的に結合する蛍光色素とRNAに特異的に結合する蛍光色素の2種類の蛍光色素で、検体中の血球などの粒子を染色して測定することにより、複数種類の異常細胞を検出できることを見出して、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、第1蛍光色素及び第2蛍光色素で染色された測定試料中の粒子に光を照射することにより生じた第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報とを取得する工程と、第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報とに基づいて、第1の特徴を有する粒子を特定する工程と、第1の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第1の異常細胞の存否を示す情報、第2の異常細胞の存否を示す情報及び第3の異常細胞の存否を示す情報を出力する工程と、を含み、測定試料が、被検者から採取された検体と第1蛍光色素と第2蛍光色素とを混合することにより調製され、第1蛍光情報が、第1蛍光色素からの蛍光強度であり、第2蛍光情報が、第2蛍光色素からの蛍光強度であり、第1蛍光色素が、DNAに特異的に結合する蛍光色素であり、第2蛍光色素が、RNAに特異的に結合する蛍光色素である、検体の分析方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、第1蛍光色素及び第2蛍光色素で染色された測定試料中の粒子に光を照射することにより生じた第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報とを取得する工程と、第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報とに基づいて、測定試料に含まれる白血球を少なくとも5つの亜集団に分類する工程と、5つの亜集団に分類できない測定試料について、第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報とに基づいて、少なくともDNA量異常白血球と、異常リンパ球と、芽球を区別して検出する工程と、を含み、測定試料が、被検者から採取された検体と第1蛍光色素と第2蛍光色素とを混合することにより調製され、第1蛍光情報が、第1蛍光色素からの蛍光強度であり、第2蛍光情報が、第2蛍光色素からの蛍光強度であり、第1蛍光色素が、DNAに特異的に結合する蛍光色素であり、第2蛍光色素が、RNAに特異的に結合する蛍光色素である、検体の分析方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、第1蛍光色素と第2蛍光色素とを含み、上記の分析方法に用いられる染色試薬を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数種類の異常細胞の検出を可能にする分析方法、及びその方法に用いられる染色試薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の検体の分析方法に適した分析システムを示す斜視図である。
図2】測定ユニットにおける検体吸引部、試料調製部及びフローサイトメータ(FCM)検出部を含む流体回路を示す図である。
図3】測定ユニットの構成を示すブロック図である。
図4】FCM検出部の光学系の構成の一例を示す概略図である。
図5】フローセルを通過する粒子に光を照射したときに発せされる各種の光が、FCM検出部の光学系に受光されることを示す模式図である。
図6】分析ユニットの構成を示すブロック図である。
図7】分析システムの動作の流れを示すフローチャートである。
図8】実施形態1及び2の測定処理の手順を示すフローチャートである。
図9A】実施形態1の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図9B】実施形態1の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図9C】実施形態1の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図9D】実施形態1の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図10】Aは、横軸に側方散乱光強度をとり、縦軸に第1蛍光強度をとったスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)において、白血球の各亜集団が出現する位置を例示する模式図である。Bは、横軸に側方散乱光強度をとり、縦軸に第2蛍光強度をとったスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)において、白血球の各亜集団が出現する位置を例示する模式図である。
図11】Aは、第2スキャッタグラムにおいて、第2の蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光強度を示す粒子がリンパ球集団に増加したことを示す模式図である。Bは、第1スキャッタグラムにおいて、リンパ球集団より高い第1蛍光強度を示す粒子が出現する位置を例示する模式図である。
図12】Aは、第1スキャッタグラムにおいて、リンパ球集団より高い第1蛍光強度を示す粒子が、白血球の各亜集団から離散した集団を形成することを示す模式図である。Bは、横軸に側方散乱光強度をとり、縦軸に前方散乱光強度をとったスキャッタグラムにおいて、リンパ球集団より高い第1蛍光強度を示す粒子が、リンパ球集団よりも前方散乱光強度が高い領域に出現したことを示す模式図である。
図13】Aは、第2スキャッタグラムにおいて、第2の特徴を有する粒子が出現する領域を例示する模式図である。Bは、第2スキャッタグラムにおいて、第3の特徴を有する粒子が出現する領域を例示する模式図である。
図14】実施形態1の変形例の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図15】Aは、第1スキャッタグラムにおいて、リンパ芽球が出現する位置を例示する模式図である。Bは、第1スキャッタグラムにおいて、骨髄芽球が出現する位置を例示する模式図である。
図16A】実施形態2の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図16B】実施形態2の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図17】Aは、第1スキャッタグラムにおいて、デブリ、血小板凝集及びマラリア感染赤血球が出現する位置を例示する模式図である。Bは、横軸に前方散乱光パルス幅をとり、縦軸に前方散乱光強度をとったスキャッタグラムにおいて、血小板凝集及びマラリア感染赤血球が出現する位置を例示する模式図である。
図18】Aは、第1スキャッタグラムにおいて、有核赤血球が出現する位置を例示する模式図である。Bは、第2スキャッタグラムにおいて、有核赤血球が出現する位置を例示する模式図である。
図19】実施形態3の測定処理の手順を示すフローチャートである。
図20A】実施形態3の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図20B】実施形態3の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図20C】実施形態3の分析処理の手順を示すフローチャートである。
図21】Aは、第1スキャッタグラムにおいて、白血球の単核球集団及び多形核球集団が出現する位置を例示する模式図である。Bは、第1スキャッタグラムにおいて、細菌又は真菌の集団が出現する位置を例示する模式図である。
図22】Aは、第2スキャッタグラムにおいて、白血球のリンパ球集団、単球集団及び多形核球集団が出現する位置を例示する模式図である。Bは、第2スキャッタグラムにおいて、組織由来細胞の集団が出現する位置を例示する模式図である。
図23】第1スキャッタグラムにおいて、DNA量異常白血球が出現する位置を例示する模式図である。
図24A】本実施形態の検体の分析方法に用いられる染色試薬の一例を示す図である。この図では、第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色試薬が収容された1つの試薬容器が箱に梱包されている。
図24B】本実施形態の検体の分析方法に用いられる染色試薬の一例を示す図である。この図では、第1蛍光色素を含む試薬が収容された試薬容器と、第2蛍光色素を含む試薬が収容された試薬容器とが箱に梱包されている。
図25】参考例1の第1及び第2スキャッタグラムである。
図26】実施例1の第1及び第2スキャッタグラムである。
図27】実施例1の第1及び第2スキャッタグラムである。
図28】実施例2の第1及び第2スキャッタグラムである。
図29】実施例3の各種のスキャッタグラムである。
図30】実施例3の各種のスキャッタグラムである。
図31】実施例4の第1及び第2スキャッタグラムである。
図32】実施例5の第1及び第2スキャッタグラムである。
図33】実施例6の各種のスキャッタグラムである。
図34】実施例6の各種のスキャッタグラムである。
図35】実施例7の第1及び第2スキャッタグラムである。
図36】実施例7の第1及び第2スキャッタグラムである。
図37】実施例7の第1及び第2スキャッタグラムである。
図38】実施例7の第1及び第2スキャッタグラムである。
図39】実施例7の第1及び第2スキャッタグラムである。
図40】参考例2の第2スキャッタグラム及び蛍光ヒストグラムである。
図41】参考例3のイメージングフローサイトメータにより取得した画像である。
図42】参考例4のスキャッタグラム及び蛍光ヒストグラムである。
図43】参考例4の第1スキャッタグラムである。
図44】本実施形態の検体の分析方法と標準測定法との相関性を示すグラフである。
図45】実施例8の第1及び第2スキャッタグラムである。
図46】実施例9の第1及び第2スキャッタグラムである。
図47】実施例10の顕微鏡画像、第1及び第2スキャッタグラムである。
図48】実施例11の顕微鏡画像、第1及び第2スキャッタグラムである。
図49】実施例11の第1及び第2スキャッタグラム及び蛍光ヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(分析システム)
まず、図1を参照して、本実施形態の検体の分析方法に適した分析システムについて説明する。分析システム500は、測定装置である測定ユニット400と、分析装置である分析ユニット300とを備える。分析ユニット300は、例えば、測定対象となる検体を分析するためのソフトウェアが組み込まれたパーソナルコンピュータである。分析ユニット300は、測定ユニット400の動作制御も実行する。分析システム500は、測定ユニット400内に分析ユニット300が設けられた構成であってもよい。
【0012】
測定ユニット400は、検体を測定するためのユニットであり、フローサイトメータを含んでいる。測定ユニット400では、検体と試薬とを混合して測定試料を調製する。測定試料の調製には、第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色試薬と、界面活性剤を含む溶血試薬とが用いられる。検体、染色試薬及び溶血試薬の詳細については後述する。この分析システムによる検体中の粒子の分析では、第1及び第2蛍光色素によって染色された測定試料中の粒子を分析する。「測定試料中の粒子」とは、後述のFCM検出部460により個々に測定され得る、測定試料に含まれる有形成分をいう。測定試料中の粒子としては、検体に含まれる細胞、血小板凝集、溶血した赤血球の残骸(赤血球ゴースト)、脂質粒子、真菌、細菌などが挙げられる。
【0013】
測定試料は、測定ユニット400のFCM検出部460で測定される。測定試料中の染色された粒子の第1及び第2蛍光色素のそれぞれから発せられる蛍光に関する光学的信号と、当該粒子から発せられる散乱光に関する光学的信号が取得される。取得された光学的信号はA/D変換されて、デジタルデータが取得される。分析ユニット300は、測定ユニット400で取得されたデジタルデータを分析して、検体中の粒子を検出又は分類する。
【0014】
図2を参照して、測定ユニット400における流体系の構成について説明する。測定ユニット400は、試料調製部440と、検体吸引部450と、FCM検出部460とを備える。試料調製部440は、試薬容器410と、試薬容器411と、反応チャンバ420と、廃液チャンバ430とを含む。例えば、試薬容器410は溶血試薬を収容し、試薬容器411は染色試薬を収容する。試薬容器410及び試薬容器411はそれぞれ送液管により反応チャンバ420に接続される。試料調製部440は、各送液管を通じて溶血試薬及び染色試薬を反応チャンバ420に注入する。検体吸引部450は吸引管200を含む。吸引管200は、採血管100に収容された検体を吸引し、反応チャンバ420に吐出する。反応チャンバ420は、送液管によりFCM検出部460のフローセル413と接続される。
【0015】
反応チャンバ420は、測定試料を調製するための容器である。反応チャンバ420内で、検体と、第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色液と、溶血試薬とが混合されて測定試料が調製される。反応チャンバ420内の測定試料は、送液管を介してFCM検出部460のフローセル413に供給されて測定される。FCM検出部460は、測定試料中の個々の粒子から発せられる各種の光学的信号を取得する。FCM検出部460による測定が完了した後、反応チャンバ420に残った測定試料は廃液チャンバ430に廃棄される。反応チャンバ420は、次の測定試料が調製される前に、図示しない洗浄機構によって洗浄される。
【0016】
図3を参照して、測定ユニット400における各部の電気的接続について説明する。試料調製部440及び検体吸引部450は、インターフェース(IF)部488を介してFCM検出部460に接続される。FCM検出部460は、アナログ処理部481及びA/D変換部482に接続される。アナログ処理部481は、FCM検出部460から出力されるアナログ信号を処理し、A/D変換部482は、アナログ処理部481から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換する。また、測定ユニット400は、IF部489を介して、分析ユニット300と接続される。IF部484、IF部488及びIF部489はバス485に接続される。
【0017】
図4を参照して、FCM検出部460、アナログ処理部481及びA/D変換部482について説明する。FCM検出部460は、第1光源411a、第2光源411bと、フローセル413と、ダイクロイックミラー418a、418b、418cと、側方散乱光受光素子412a、412bと、前方散乱光受光素子416と、側方蛍光受光素子422a、422bとを備える。第1光源411a及び第2光源411bは、互いに異なる波長の励起光を射出する。例えば、第1光源411aは、第1蛍光色素を励起可能な第1波長の光を射出し、第2光源411bは、第2蛍光色素を励起可能な第2波長の光を射出する。第1波長は、例えば315 nm以上490 nm以下であり、好ましくは400 nm以上450 nm以下であり、より好ましくは400 nm以上410 nm以下である。第2波長は、例えば610 nm以上750 nm以下であり、好ましくは620 nm以上700 nm以下であり、より好ましくは633 nm以上643 nm以下である。第1及び第2光源として、例えば半導体レーザ光源を使用できる。
【0018】
反応チャンバ420で調製された測定試料は、FCM検出部460のフローセル413に流される。図4の例では、紙面に対して垂直方向に測定試料が流される。フローセル413に測定試料が流れている状態で、第1光源411aから照射された光は、ダイクロイックミラー418aによって反射され、フローセル413内を流れる測定試料中の個々の粒子に照射される。第2光源411bから発せられた光は、ダイクロイックミラー418aを透過して、フローセル413内を流れる測定試料中の個々の粒子に照射される。
【0019】
図4の例では、前方散乱光受光素子416は、第2光源411bから照射された光に基づいて細胞から発せられる前方散乱光を受光するように配置される。あるいは、受光素子416は、第1光源411aから照射された光に基づいて粒子から発せられる前方散乱光を受光するように配置されてもよい。あるいは、第1光源411aから照射された光に基づいて粒子から発せられる前方散乱光を受光するために、別の受光素子をさらに配置してもよい。前方散乱光は、例えば、受光角度が0度から約20度の散乱光である。前方散乱光受光素子416は、例えばフォトダイオードである。第1光源411aから照射された光に対応する側方散乱光(第1側方散乱光)は、ダイクロイックミラー418bによって反射され、側方散乱光受光素子412aによって受光される。第2光源411bから照射された光に対応する側方散乱光(第2側方散乱光)は、ダイクロイックミラー418cによって反射され、側方散乱光受光素子412bによって受光される。側方散乱光は、例えば、受光角度が約20度から約90度の散乱光である。側方散乱光受光素子412a及び412bは、例えばフォトダイオードである。
【0020】
第1蛍光色素が励起されて生じた光に対応する側方蛍光(第1側方蛍光)は、ダイクロイックミラー418bを透過して側方蛍光受光素子422aによって受光される。第2蛍光色素が励起されて生じた光に対応する側方蛍光(第2側方蛍光)は、ダイクロイックミラー418cを透過して側方蛍光受光素子422bによって受光される。側方蛍光受光素子422a及び422bは、例えばアバランシェフォトダイオードである。
【0021】
図5を参照して、フローセル413中を通過する粒子Pに光を照射したときに発せされる各種の光と、FCM検出部460の光学系との関係について説明する。図5では、第1光源411aから照射された光は、第1波長の光L1であり、第2光源411bから照射された光は、第2波長の光L2である。フローセル413中を通過する粒子Pに光L1及びL2が照射されると、光の進行方向に対して前方に前方散乱光(FSC)が生じる。図5の例では、受光素子416は、第2光源411bから照射された光に対応する前方散乱光を受光するので、第2波長の光に対応する第2前方散乱光のみを示し、第1波長の光に対応する第1前方散乱光は省略した。また、光の進行方向に対して側方に、第1波長の光に対応する第1側方散乱光(SSC-1)と、第1波長の光によって励起された第1側方蛍光(SFL-1)が生じる。さらに、光の進行方向に対して側方に、第2波長の光に対応する第2側方散乱光(SSC-2)と、第2波長の光によって励起された第2側方蛍光(SFL-2)が生じる。上記のとおり、FSC、SSC-1、SFL-1、SSC-2及びSFL-2は、それぞれ受光素子416、412a、422a、412b及び422bに受光される。各受光素子は、受光強度に応じたパルスを含む波形状の電気信号(アナログ信号ともいう)を出力する。以下、FSCに対応するアナログ信号を「前方散乱光信号」、SSC-1に対応するアナログ信号を「第1側方散乱光信号」、SFL-1に対応するアナログ信号を「第1蛍光信号」、SSC-2に対応するアナログ信号を「第2側方散乱光信号」、SFL-2に対応するアナログ信号を「第2蛍光信号」ともいう。各アナログ信号の1つのパルスが、1つの粒子(例えば1つの細胞)に対応する。
【0022】
各種の光に対応するアナログ信号は、それぞれアナログ処理部481に入力されて、ノイズ除去、平滑化等の処理が行われる。A/D変換部482は、所定のサンプリングレート(例えば、10ナノ秒間隔で1024ポイントのサンプリング、80ナノ秒間隔で128ポイントのサンプリング、又は160ナノ秒間隔で64ポイントのサンプリング等)で、アナログ処理部481から出力されるアナログ信号をサンプリングする。A/D変換部482は、サンプリングしたアナログ信号をデジタル化して、波形データを生成する。A/D変換部482は、フローセル413を流れる個々の細胞に対応する5種類のアナログ信号をサンプリング及びデジタル化して、前方散乱光信号、第1側方散乱光信号、第1蛍光信号、第2側方散乱光信号及び第2蛍光信号の波形データを生成する。さらに、A/D変換部482は、各信号の波形データから個々の細胞の形態的特徴を表す特徴パラメータを計算する。そのような特徴パラメータとしては、例えば、ピーク値(パルスのピークの高さ)、パルス幅、パルス面積、透過率、ストークスシフト、比率、経時変化及びそれらに相関する値などが挙げられる。
【0023】
光学的情報は、上記の特徴パラメータであり得る。光学的情報は、前方散乱光情報、第1蛍光情報、第2蛍光情報、第1側方散乱光情報及び第2側方散乱光情報の少なくとも1つを含む。第1蛍光情報は、有核細胞中のDNAを染色した蛍光色素の量を反映する情報であれば特に限定されない。第2蛍光情報は、有核細胞中のRNAを染色した蛍光色素の量を反映する情報であれば特に限定されない。第1及び第2蛍光情報としては、それぞれ第1蛍光信号のピーク値(以下、「第1蛍光強度」ともいう)及び第2蛍光信号のピーク値(以下、「第2蛍光強度」ともいう)が好ましい。第1及び第2側方散乱光情報は、細胞構造の複雑性、顆粒特性、核構造、分葉度などの内部情報を反映する情報であれば特に限定されない。第1及び第2側方散乱光情報としては、それぞれ第1側方散乱光信号のピーク値(以下、「第1側方散乱光強度」ともいう)及び第2側方散乱光信号のピーク値(以下、「第2側方散乱光強度」ともいう)が好ましい。前方散乱光情報は、細胞の大きさを反映する情報であれば特に限定されない。前方散乱光情報としては、前方散乱光信号のピーク値(以下、「前方散乱光強度」とも呼ぶ)が好ましい。
【0024】
図6を参照して、分析ユニット300における各部の電気的接続について説明する。分析ユニット300は、インターフェース部304を介して測定ユニット400と電気的に接続される。インターフェース部304は、例えば、USBインターフェースである。分析ユニット300は、制御部301、バス302、記憶部303、インターフェース部304、表示部305及び操作部306を備える。分析ユニット300は、例えば、パーソナルコンピュータ(図1の分析ユニット300を参照)によって構成されており、記憶部303に格納されたプログラムを実行することで、分析システム500の測定ユニット400を制御する。分析ユニット300は、測定ユニット400で取得されたデータを分析して、分析結果を表示部305に表示する。分析ユニット300は、前方散乱光強度、第1側方散乱光強度、第1蛍光強度、第2側方散乱光強度及び第2蛍光強度に基づいて、細胞の分類を行ってもよい。
【0025】
記憶部303には、例えば、測定ユニット400を制御するためのプログラム、測定ユニット400が取得したデータを分析するためのプログラムなどが記憶されている。表示部305には、例えば、測定ユニット400で取得されたデータの分析結果が表示される。操作部306は、キーボード、マウス又はタッチパネルを含むポインティングデバイスを備える。
【0026】
図7を参照して、分析システム500の動作の一例を説明するが、この例に限定されない。ステップS11において、分析ユニット300の制御部301は、ユーザからの測定開始の指示を、操作部306を介して受け付ける。制御部301は、測定開始の指示を受け付けると、測定開始を指示する指示データを測定ユニット400に送信する。測定ユニット400は、当該指示データを受信して、ステップS12において測定処理を実行する。測定処理では、測定ユニット400は、検体から測定試料を調製し、当該試料を測定する。そして、測定ユニット400は、測定により取得したデータを分析ユニット300に送信する。分析ユニット300は、測定ユニット400から受信したデータに基づいて、ステップS13の分析処理を実行する。分析処理では、白血球を亜集団に分類し、検体に異常細胞が存在する場合は当該異常細胞を検出する。分析処理の終了後、制御部301は、ステップS14において、分析結果を表示部305に出力する。そして、分析システムは、図7に示される動作を終了する。図7のステップS12の測定処理及びステップS13の分析処理の詳細は、以下の実施形態ごとに説明する。
【0027】
本実施形態の検体の分析方法には、例えば、次の実施形態1~3が包含される。「実施形態1」では、血液試料から調製した測定試料を測定し、白血球の亜集団への分類及び異常細胞の検出を行う。実施形態1における異常細胞は、DNA量異常白血球、異常リンパ、芽球、幼若赤芽球又は巨赤芽球、幼若顆粒球及び異型リンパ球である。実施形態1は、従来は困難であったDNA量異常白血球、芽球及び異常リンパの区別を可能にする。「実施形態2」では、血液試料から調製した測定試料を測定し、実施形態1の分析に干渉し得る粒子を特定する。そして、実施形態1と同様にして、白血球の亜集団への分類及び上記の異常細胞の検出を行う。実施形態2において、実施形態1の分析に干渉し得る粒子とは、血小板凝集、感染細胞及び有核赤血球である。これらの粒子が検体に含まれる場合、例えば白血球の分類に影響し得る。例えば、実施形態2では、そのような分析に干渉し得る粒子を特定し、当該粒子の測定データを除くことにより、残りの細胞の分析精度の向上に寄与し得る。「実施形態3」は、分析システム500が、血液試料及び非血液試料(以下、非血液試料を「体液」又は「体液試料」という)の両方の測定を行うことができる場合の測定及び分析を含む。実施形態3では、血液試料又は体液試料から調製した測定試料を測定し、白血球の亜集団への分類及び異常細胞の検出を行う。
【0028】
(検体及び異常細胞)
上述のとおり、実施形態1及び2の検体は血液試料であり、実施形態3の検体は、血液試料又は体液試料である。血液試料は、例えば、全血、全血の希釈物などが挙げられる。全血は、例えば、被検者から採取した末梢血である。血液試料には、抗凝固剤が含まれてもよい。そのような抗凝固剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTA塩(例えばEDTA・2K、EDTA・2Naなど)、クエン酸ナトリウム、ヘパリン、ワーファリンなどが挙げられる。体液試料は、例えば、体液、体液の希釈物などが挙げられる。体液は、血液成分を含む可能性がある限り、特に限定されない。体液としては、例えば体腔液、脳脊髄液、関節液、腹膜透析排液、肺胞洗浄液などが挙げられる。体腔液としては、例えば腹水、胸水、心嚢液などが挙げられる。全血の希釈物又は体液の希釈物は、例えば、適切な水性溶媒により全血又は体液を希釈することにより得られる。そのような水性溶媒としては、水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば、6以上8以下のpH)で緩衝作用を有することが好ましい。
【0029】
本明細書において「血液成分」は、血液中に含まれることが知られた有形成分と、異常細胞とを包含する。血液中に含まれることが知られた有形成分としては、健常人の末梢血に通常含まれる血球などであり、例えば白血球、赤血球及び血小板が挙げられる。異常細胞とは、血液又は体液中に通常は出現しない有形成分をいう。異常細胞には、微生物、感染細胞、非細胞の粒子も含まれる。微生物は、フローサイトメトリ法により検出可能なサイズであれば特に限定されず、例えば細菌、真菌などが挙げられる。感染細胞としては、例えば、マラリア原虫が寄生した赤血球(以下、「マラリア感染赤血球」ともいう)、ウイルスに感染した細胞などが挙げられる。非細胞の粒子としては、例えば血小板凝集が挙げられる。血小板凝集は、採血時の組織液の混入、混和の不十分又はEDTAの作用により、採血管中に生じる。
【0030】
血液における異常細胞としては、例えば、芽球、幼若顆粒球、異型リンパ球、異常リンパ球、DNA量異常白血球、赤芽球、巨赤芽球、マラリア感染赤血球及び血小板凝集が挙げられる。「幼若顆粒球」は、前骨髄球、骨髄球及び後骨髄球を含む。「赤芽球」は、有核赤血球(NRBC)とも呼ばれ、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球及び正染性赤芽球を含む。赤芽球のうち、前赤芽球、好塩基性赤芽球及び多染性赤芽球を「幼若赤芽球」とも呼ぶ。「芽球」は、骨髄芽球及びリンパ芽球を含む。「DNA量異常白血球」は、DNA異数性(aneuploidy)を示す白血球であり、通常の白血球に比べてDNA量が多いか又は少ない。「異型リンパ球」は、反応性リンパ球とも呼ばれ、抗原刺激により活性化して形態変化したリンパ球である。「異常リンパ球」は、腫瘍性の形態変化をしたリンパ球であり、クローナルで均質な細胞である。
【0031】
体液における異常細胞としては、例えば、組織由来細胞、細菌及び真菌が挙げられる。「組織由来細胞」は、例えば、組織球(組織中のマクロファージ)、中皮細胞及び腫瘍細胞を含む。組織由来細胞は、臨床検査の分野では「異常白血球」とも呼ばれる。
【0032】
同一検体中に複数種類の異常細胞を含むことは極めてまれである。しかし、測定前は検体がどのような種類の異常細胞を含むか不明である。上述の分析システム及び試薬を用いた分析処理(後述)は、複数種類の異常細胞検出に対応しているので、一回の測定で複数種類の異常細胞の存在及び不存在を示す情報が提供され得る。上述の分析システム及び試薬を用いた分析処理(後述)によると、異常細胞ごとに専用試薬を用いて都度測定する必要はない。
【0033】
(実施形態1の測定処理)
図7のステップS12に関して、実施形態1の測定処理の例を、図8を参照して説明するが、この例に限定されない。ステップS21において、分析ユニット300の制御部301は、測定ユニット400に、血液試料から測定試料を調製させる。具体的には、血液試料から測定試料を調製する条件で、測定ユニット400は、全血である検体と染色試薬と溶血試薬とを反応チャンバ420内で混合して、測定試料を調製する。ステップS22において、制御部301は、測定ユニット400に、測定試料をFCM検出部460に導出させ、フローサイトメトリ法による光学的測定を実行させる。これにより、測定ユニット400は、測定試料中の個々の粒子について光学的情報、例えばFSC、SSC-1、SFL-1、SSC-2及びSFL-2の波形データを検出する。ステップS23において、制御部301は、測定ユニット400に、光学的情報を分析ユニット300に送信させて、測定処理を終了する。そして、分析ユニット300は、図7のステップS13の分析処理を実行する。
【0034】
(実施形態1の分析処理)
図7のステップS13に関して、実施形態1の分析処理の例を、図9A図13を参照して説明するが、この例に限定されない。この分析処理では、白血球の分類と、次の異常細胞の検出を可能にする:異常リンパ球、DNA量異常白血球、幼若赤芽球又巨赤芽球、芽球、異型リンパ球、及び幼若顆粒球。この例では、散乱光情報として、前方散乱光情報及び側方散乱光情報を用いる。より具体的には、前方散乱光情報として、前方散乱光強度(以下、「FSC強度」ともいう)を用いる。また、側方散乱光情報として、第2側方散乱光強度(以下、「SSC強度」ともいう)を用いる。SSC強度に替えて、第1側方散乱光強度を用いてもよい。また、第1蛍光情報として、第1側方蛍光強度(以下、「SFL-1強度」ともいう)を用い、第2蛍光情報として、第2側方蛍光強度(以下、「SFL-2強度」ともいう)を用いる。以下、横軸にSSC強度をとり、縦軸にSFL-1強度をとったスキャッタグラムを「第1スキャッタグラム」とも呼ぶ。また、以下、横軸にSSC強度をとり、縦軸にSFL-2強度をとったスキャッタグラムを「第2スキャッタグラム」とも呼ぶ。必要に応じて、第1及び第2スキャッタグラムの縦軸を、各蛍光強度の対数スケールでとってもよい。縦軸を対数スケールとすることで、スキャッタグラム上において、デブリの集団と有核細胞の集団との距離が大きくなる。これにより、スキャッタグラム上で有核細胞の集団をゲーティングすることにより、測定試料中の全粒子の測定データからデブリの測定データを除外できる。
【0035】
(第1蛍光情報、第2蛍光情報及び側方散乱光情報に基づく白血球の分類)
図9Aを参照して、ステップS101において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、横軸にSSC強度をとり、縦軸にSFL-1強度とった平面上において、各粒子に対応する点の位置を決定する。分析システム300は、決定した各点の位置に基づいて、第1スキャッタグラムを作成してもよい。ステップS102において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、横軸にSSC強度とり、縦軸にSFL-2強度とった平面上において、各粒子に対応する点の位置を決定する。分析システム300は、決定した各点の位置に基づいて、第2スキャッタグラムを作成してもよい。ステップS103において、分析ユニット300は、決定した各点の位置に基づいて、測定試料中の粒子から白血球の各亜集団を特定する。白血球の亜集団とは、リンパ球集団、単球集団、好中球集団、好酸球集団及び好塩基球集団である。ここで、側方散乱光情報と第1蛍光情報とに基づいて特定されたリンパ球集団を、以下「第1のリンパ球集団」とも呼ぶ。また、側方散乱光情報と第2蛍光情報とに基づいて特定されたリンパ球集団を、以下「第2のリンパ球集団」とも呼ぶ。フローチャートにおいて、第1のリンパ球集団を「第1Lymp」と表記し、第2のリンパ球集団を「第2Lymp」と表記する。白血球の各亜集団を特定するアルゴリズム自体は公知である。例えば、分析ユニット300に搭載されたプログラムにより、測定試料中の粒子から白血球の各亜集団を特定できる。これにより、測定試料中の白血球が亜集団に分類される。
【0036】
第1及び/又は第2スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、白血球の各亜集団を特定してもよい。スキャッタグラム上で白血球の各亜集団が出現する位置自体は公知である。例えば図10のA及びBに示されるように、白血球の各亜集団は、各スキャッタグラム上に分布する。図中、「Lymp」はリンパ球集団を指し、「Mono」は単球集団を指し、「Neut」は好中球集団を指し、「Eo」は好酸球集団を指し、「Baso」は好塩基球集団を指す。図10のA及びBでは、白血球の亜集団のみを示し、異常細胞は示していない。これらの図では、白血球は、リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球の5種の亜集団に分類されているが、これに限定されない。白血球は、リンパ球、単球及び顆粒球の3種の亜集団に分類されてもよい。あるいは、白血球は、リンパ球、単球、好中球及び好酸球の4種の亜集団に分類されてもよい。必要に応じて、白血球の各亜集団に含まれる細胞を計数してもよい。図10のAから分かるように、白血球の各亜集団のSFL-1強度は同程度である。これは、白血球の各亜集団のDNA量が同程度であることを示唆する。
【0037】
白血球の分類後、プロセスは、図9BのステップS201へ進行する。本発明者らは、異常細胞のうち、異常リンパ球、DNA量異常白血球、芽球、幼若赤芽球又は巨赤芽球を含む測定検体では、第2のリンパ球集団に、高いSFL-2強度を示す粒子が増加する傾向があることを見出した。ステップS201では、そのような傾向が見られる第2のリンパ球集団を特定する。図9Bを参照して、ステップS201において、分析ユニット300は、ステップS103で特定した第2のリンパ球集団が、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を含むかを判定する。第2蛍光情報としては、SFL-2強度が好ましい。第2蛍光情報に対応する第1の閾値として、例えば、単球集団を構成する全ての粒子のSFL-2強度の最小値(以下、「単球集団のSFL-2強度の最小値」ともいう)を設定できる。好中球集団を特定している場合は、第2蛍光情報に対応する第1の閾値として、例えば、好中球集団を構成する全ての粒子のSFL-2強度の最大値(以下、「好中球集団のSFL-2強度の最大」ともいう)を設定してもよい。
【0038】
第2スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、第2のリンパ球集団のうち、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を特定してもよい。図11のAを参照して、例えば、第2のリンパ球集団に、高いSFL-2強度を示す粒子が増加した場合、当該粒子は、単球集団が出現する領域にも現れる。図11のAにおいて、破線は、単球集団のSFL-2強度の最小値を示す。また、斜線は、第2のリンパ球集団のうち、単球集団のSFL-2強度の最小値以上のSFL-2強度を示す粒子を示す。
【0039】
ステップS201において、分析ユニット300は、特定した第2のリンパ球集団を構成する各粒子の第2蛍光情報に基づいて、第2のリンパ球集団に、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子が存在すると判定した場合、プロセスはステップS202に進行する。第2のリンパ球集団に、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子が存在しないと判定した場合、プロセスは、図9DのステップS401に進行する。
【0040】
(第1の特徴を有する粒子の特定)
従来、DNA量異常白血球を、芽球及び異常リンパ球と区別して検出することは困難であった。また、本発明者らは、DNA量異常白血球と、幼若赤芽球及び巨赤芽球とを区別することも困難であることを見出した。本発明者らは、DNA量異常白血球を含む測定試料、芽球を含む測定試料、及び幼若赤芽球又は巨赤芽球を含む測定試料に共通する特徴として、第1のリンパ球集団より高いSFL-1強度を示す粒子が増加することを見出した。一方、異常リンパ球を含む測定検体では、そのような粒子が増加する傾向は見られなかった。また、本発明者らは、第1のリンパ球集団より高いSFL-1強度を示す粒子の情報に基づいて、DNA量異常白血球と、芽球と、幼若赤芽球及び巨赤芽球とを区別できることを見出した。本実施形態の検体の分析方法では、DNA量異常白血球、芽球、異常リンパ球、及び、幼若赤芽球又は巨赤芽球を分類するために、第1の特徴を有する粒子として、第1のリンパ球集団より高い第1蛍光情報を示す粒子を特定する。第1蛍光情報は、好ましくはSFL-1強度である。
【0041】
ステップS202において、分析ユニット300は、第1蛍光情報に基づいて、第1の特徴を有する粒子として、第1のリンパ球集団より高い第1蛍光情報を示す粒子を、測定試料中の粒子から特定する。第1のリンパ球集団より高い第1蛍光情報は、例えば、リンパ球集団を構成する全ての粒子のSFL-1強度の最大値(以下、「第1のリンパ球集団のSFL-1強度の最大値」ともいう)よりも高い値であり得る。第1スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、第1のリンパ球集団より高い第1蛍光情報を示す粒子を特定してもよい。図11のBを参照して、例えば、第1のリンパ球集団より高いSFL-1強度を示す粒子が測定試料に含まれていた場合、当該粒子は、破線で囲まれた領域に現れる。図11のBにおいて、矢印は、第1のリンパ球集団のSFL-1強度の最大値を示す。
【0042】
(異常リンパ球の検出)
分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子の情報に基づいて、異常リンパ球の存否を示す情報を出力できる。このとき、第1の特徴を有する粒子の情報は、例えば当該粒子の数である。ステップS203において、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子を計数し、その数が、これに対応する閾値以上であるかを判定する。第1の特徴を有する粒子の数が当該閾値以上である場合は、分析ユニット300は、測定試料に異常リンパ球は含まれていないと判断する。この場合、プロセスは、図9CのステップS301へ進行する。ステップS203において、第1の特徴を有する粒子の数が当該閾値未満である場合、プロセスは、ステップS204へ進行する。第1の特徴を有する粒子の数が当該閾値未満である場合には、第1の特徴を有する粒子が存在しなかったことを含む。ステップS204において、分析ユニット300は、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を、異常リンパ球として特定する。そして、分析ユニット300は、異常リンパ球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部306に異常リンパ球の存在を示す情報として「Abn-Lymp?」というフラグを出力してもよい。分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、異常リンパ球の不存在を示す情報であり得る。
【0043】
第1の特徴を有する粒子の数に対応する閾値は、適宜決定できる。例えば、健常者の末梢血、異常リンパ球を含む末梢血、及びDNA量異常白血球、芽球、幼若赤芽球又は巨赤芽球を含む末梢血の測定により得られた光学的情報のデータを蓄積することにより、経験的に設定してもよい。
【0044】
(芽球の検出)
本発明者らは、DNA量異常白血球を含む測定試料と、幼若赤芽球又は巨赤芽球を含む測定試料では、第1の特徴を有する示す粒子が、第1スキャッタグラムにおいて縦軸(SFL-1強度)方向に、白血球の各亜集団より上方の領域に出現する傾向にあることを見出した。一方、芽球を含む測定試料では、第1の特徴を有する粒子にそのような傾向は見られなかった。分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子の情報に基づいて、芽球の存否を示す情報を出力できる。このとき、第1の特徴を有する粒子の情報は、例えば、当該粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報である。第1蛍光情報は、好ましくはSFL-1強度である。第1の特徴を有する粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報は、第1の特徴を有する粒子の正常白血球(又はその亜集団の少なくとも1つ)に対する第1蛍光情報のばらつきを表す指標値であり得る。上記のとおり、正常白血球の各亜集団のSFL-1強度は同程度である。第1の特徴を有する粒子と、正常白血球又はその亜集団の少なくとも1つ(好ましくは第1のリンパ球集団)とを合わせて一つの粒子集団とみなしたとき、当該粒子集団の第1蛍光情報のばらつきは、第1スキャッタグラムにおける第1の特徴を有する粒子の分布を反映する。第1蛍光情報のばらつきが大きい場合、第1の特徴を有する粒子は、第1スキャッタグラムの縦軸(SFL-1強度)方向に正常白血球から離散的なクラスタとして表示される。一方、第1蛍光情報のばらつきが小さい場合、第1の特徴を有する粒子は、第1スキャッタグラムにおいて、正常白血球(特に第1のリンパ球集団)に連続的なクラスタとして表示される。すなわち、第1スキャッタグラムにおいて、第1の特徴を有する粒子の出現領域と、正常白血球(特に第1のリンパ球集団)の出現領域とはほぼ重複している。
【0045】
第1蛍光情報の分散に関する情報は、好ましくは第1蛍光情報の変動係数(以下、「CV」ともいう)の値であり、より好ましくはSFL-1強度のCV値である。第1の特徴を有する粒子のSFL-1強度のCV値は、第1の特徴を有する粒子を含む集団のSFL-1強度の標準偏差を、当該集団のSFL-1強度の平均値で除算することにより算出できる。第1の特徴を有する粒子を含む集団としては、例えば、第1の特徴を有する粒子と正常白血球とを合わせた粒子集団、第1の特徴を有する粒子と正常白血球の亜集団から選択される少なくとも1つとを合わせた粒子集団、又は、第1の特徴を有する粒子と第1のリンパ球集団とを合わせた粒子集団が挙げられる。図9Cを参照して、ステップS301において、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子のCV値が、CVに対応する第1の閾値以上であるかを判定する。CV値が当該第1の閾値以上であるとき、分析ユニット300は、測定試料に芽球は含まれていないと判断する。この場合、プロセスはステップS303に進行する。第1の特徴を有する粒子のCV値が、CVに対応する第1の閾値未満であるとき、ステップS302において、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子を芽球として特定する。そして、分析ユニット300は、芽球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に芽球の存在を示す情報として「Blast?」というフラグを出力してもよい。そして、分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、芽球の不存在を示す情報であり得る。
【0046】
CVに対応する第1の閾値は、例えば、DNA量異常白血球、幼若赤芽球及び巨赤芽球の少なくともいずれかを含む検体と、芽球を含む検体とを複数測定し、その測定結果に基づいて予め設定される。好ましくは、CVに対応する第1の閾値は0.05~0.25の間で設定される。例えば、CVに対応する第1の閾値は0.05、0.1、0.15、0.2又は0.25である。DNA量異常白血球、幼若赤芽球及び巨赤芽球の少なくともいずれかを含む検体を測定した場合、図12のAの第1スキャッタグラムに示されるように、白血球の各亜集団から離れた位置に集団を形成する(図12のAにおいて、矢印で示す)。したがって、DNA量異常白血球、幼若赤芽球及び巨赤芽球の少なくともいずれかを含む検体を測定した場合、図12のAにおいて、粒子全体のSFL-1強度のCV又はリンパ球出現領域の粒子のSFL-1強度のCVが第1の閾値以上となる。すなわち、粒子全体のSFL-1強度のCV又はリンパ球出現領域の粒子のSFL-1強度のCVが第1の閾値以上である場合、検体がDNA量異常白血球、幼若赤芽球及び巨赤芽球の少なくともいずれかを含むと判断する。あるいは、当該SFL-1強度のCVが第1の閾値未満である場合、検体が芽球を含むと判断することができる(図9CのステップS301参照)。ここで、粒子全体とは、第1の特徴を有する粒子と正常白血球とを合わせた粒子集団をいう。また、リンパ球出現領域の粒子とは、第1の特徴を有する粒子と第1のリンパ球集団とを合わせた粒子集団をいう。
【0047】
(DNA量異常白血球、及び幼若赤芽球・巨赤芽球の検出)
本発明者らは、DNA量異常白血球を含む測定検体では、第1の特徴を有する粒子のFSC強度が、幼若赤芽球又は巨赤芽球を含む測定検体に比べて高いことを見出した。これは、FSC強度が粒子の大きさを反映するところ、幼若赤芽球及び巨赤芽球は、DNA量異常白血球よりも小さい粒子であるためと考えられる。分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子の情報に基づいて、DNA量異常白血球の存否を示す情報を出力できる。また、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子の情報に基づいて、幼若赤芽球又は巨赤芽球の存否を示す情報を出力できる。このとき、第1の特徴を有する粒子の情報は、例えば、当該粒子の前方散乱光情報である。前方散乱光情報は、好ましくはFSC強度である。
【0048】
ステップS303において、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子のFSC強度が、FSC強度に対応する閾値以上であるかを判定する。FSC強度が当該閾値以上であるとき、ステップS304において、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子をDNA量異常白血球と特定する。そして、分析ユニット300は、DNA量異常白血球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305にDNA量異常白血球の存在を示す情報として「DNA aneuploidy?」というフラグを出力してもよい。さらに、分析ユニット300は、DNAインデックスを算出し、その値を出力してもよい。表示部305に上記フラグを表示しないことは、DNA量異常白血球の不存在を示す情報であり得る。
【0049】
DNAインデックスは、後述の参考例2に示されるように、単球及びリンパ球として特定された集団の第1蛍光情報に基づいて算出できる。具体的には次のとおりである。まず、第2スキャッタグラムにおいて、単球及びリンパ球が出現した領域をゲーティングする。この領域には、正常な単球及びリンパ球の他に、DNA量異常白血球が含まれる。そして、この領域内の粒子について、SFL-1強度のヒストグラムを作成する。ヒストグラムでは、正常な単球及びリンパ球に由来するSFL-1強度が低値のピークと、DNA量異常白血球に由来するSFL-1強度が高値のピークとが認められる。2つのピークのそれぞれに含まれる粒子について、SFL-1強度の最頻値を取得する。そして、下記の式によりDNAインデックスを算出する。
【0050】
(DNAインデックス) = (SFL-1強度が高値の集団の最頻値)/(SFL-1強度が低値の集団の最頻値)
【0051】
ステップS303において、第1の特徴を有する粒子のFSC強度が、これに対応する閾値未満であるとき、ステップS305において、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子を幼若赤芽球又は巨赤芽球と特定する。そして、分析ユニット300は、幼若赤芽球又は巨赤芽球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に幼若赤芽球又は巨赤芽球の存在を示す情報として「Immature NRBC/Megaloblast?」というフラグを出力してもよい。表示部305に上記フラグを表示しないことは、幼若赤芽球及び巨赤芽球の不存在を示す情報であり得る。
【0052】
FSC強度に対応する閾値として、例えば、第1のリンパ球集団を構成する全ての粒子のFSC強度の最大値(以下、「第1のリンパ球集団のFSC強度の最大値」ともいう)を設定できる。FSC強度が当該閾値以上である場合、第1のリンパ球集団より高いFSC強度を示す粒子は、図12のBのスキャッタグラム(横軸がSSC強度であり、縦軸がFSC強度である)に示されるように、破線より上側の領域に集団を形成する。図12のBにおいて、破線は、第1のリンパ球集団のFSC強度の最大値を示す。測定試料にDNA量異常白血球が存在する場合、DNA量異常白血球は、図12のBのスキャッタグラムにおいて、破線より上側の領域に出現する。測定試料に幼若赤芽球又は巨赤芽球が存在する場合、これらの細胞は、当該スキャッタグラムにおいて、破線より下側の領域に出現する。
【0053】
(第2の特徴を有する粒子の特定)
図9BのステップS201において、第2のリンパ球集団が、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を含まないと判定された場合、図9DのステップS401において、分析ユニット300は、第2の特徴を有する粒子を特定する。本発明者らは、異型リンパ球を含む測定試料では、第2スキャッタグラムにおいて、縦軸(SFL-2強度)方向に単球集団より上方の位置に粒子が出現するという特徴を見出した。一方、幼若顆粒球を含む測定試料では、そのような特徴は見られなかった。本実施形態の検体の分析方法では、異型リンパ球及び幼若顆粒球を分類するために、第2の特徴を有する粒子として、単球集団より高い第2蛍光情報及び第1の範囲内の側方散乱光情報を示す粒子を特定する。単球集団は、ステップS102において特定されている。第2蛍光情報は、好ましくはSFL-2強度である。側方散乱光情報は、好ましくはSSC強度である。
【0054】
ステップS401において、分析ユニット300は、第2の特徴を有する粒子として、単球集団より高いSFL-2強度及び第1の範囲内のSSC強度を示す粒子を特定する。単球集団より高いSFL-2強度は、例えば、単球集団を構成する全ての粒子のSFL-2強度の最大値(以下、「単球集団のSFL-2強度の最大値」ともいう)よりも高い値であり得る。SSC強度に関して、第1の範囲は、例えば、第2のリンパ球集団のSSC強度の統計的代表値以上、且つ好中球集団のSSC強度の統計的代表値以下であり得る。ここで、白血球の1つの亜集団のSSC強度の統計的代表値は、当該亜集団を構成する全て粒子のSSC強度から取得される値であり、例えば中央値、平均値、最頻値などが挙げられる。好ましくは中央値である。あるいは、第1の範囲は、単球集団と同じSSC強度であってもよい。すなわち、第1の範囲は、単球集団を構成する全ての粒子のSSC強度の最小値(以下、「単球集団のSSC強度の最小値」ともいう)以上、且つSSC強度の最大値(以下、「単球集団のSSC強度の最大値」ともいう)以下であり得る。第2スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、第2の特徴を有する粒子を特定してもよい。図13のAを参照して、第2の特徴を有する粒子が測定試料に含まれていた場合、当該粒子は、破線で囲まれた領域に現れる。図中、破線で囲まれた領域は、SFL-2強度が単球集団のSFL-2強度の最大値以上であり、且つSSC強度が第1の範囲内である領域を表す。
【0055】
(異型リンパ球の検出)
分析ユニット300は、第2の特徴を有する粒子の情報に基づいて、異型リンパ球の存否を示す情報を出力できる。このとき、第2の特徴を有する粒子の情報は、例えば、当該粒子の数である。ステップS402において、分析ユニット300は、第2の特徴を有する粒子を計数し、その数が、これに対応する閾値以上であるかを判定する。第2の特徴を有する粒子の数が当該閾値以上である場合、ステップS403において、分析ユニット300は、第2の特徴を有する粒子を異型リンパ球と特定する。そして、分析ユニット300は、異型リンパ球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に異型リンパ球の存在を示す情報として「Aty-Lymp?」というフラグを出力してもよい。分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。ステップS402において、第2の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満である場合、分析ユニット300は、測定試料に異型リンパ球は含まれていないと判断する。この場合、プロセスは、ステップS404へ進行する。第2の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満である場合は、第2の特徴を有する粒子が存在しなかったことを含む。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、異型リンパ球の不存在を示す情報であり得る。
【0056】
(第3の特徴を有する粒子の特定)
本発明者らは、幼若顆粒球を含む測定試料では、第2スキャッタグラムにおいて、縦軸(SFL-2強度)方向に好中球集団より上方の位置に粒子が出現することを見出した。本実施形態の検体の分析方法では、幼若顆粒球を特定するために、第3の特徴を有する粒子として、好中球集団より高い第2蛍光情報及び第2の範囲内の側方散乱光情報を示す粒子を特定する。好中球集団は、ステップS102において特定されている。第2蛍光情報は、好ましくはSFL-2強度である。側方散乱光情報は、好ましくはSSC強度である。
【0057】
ステップS404において、分析ユニット300は、第3の特徴を有する粒子として、単球集団より高いSFL-2強度及び第1の範囲内のSSC強度を示す粒子を特定する。好中球集団より高いSFL-2強度は、例えば、好中球集団のSFL-2強度の最大値よりも高い値であり得る。SSC強度に関して、第2の範囲は、例えば、単球集団のSSC強度の最大値以上、且つ好中球集団を構成する全ての粒子のSSC強度の最大値(以下、「好中球集団のSSC強度の最大値」ともいう)以下であり得る。あるいは、第2の範囲は、好中球集団と同じSSC強度であってもよい。すなわち、第2の範囲は、好中球集団を構成する全ての粒子のSSC強度の最小値(以下、「好中球集団のSSC強度の最小値」ともいう)以上、且つ好中球集団のSSC強度の最大値以下であり得る。第2スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、第3の特徴を有する粒子を特定してもよい。図13のBを参照して、第3の特徴を有する粒子が測定試料に含まれていた場合、当該粒子は、破線で囲まれた領域に現れる。図中、破線で囲まれた領域は、SFL-2強度が好中球集団のSFL-2強度の最大値以上であり、且つSSC強度が第2の範囲内である領域を表す。
【0058】
(幼若顆粒球の検出)
分析ユニット300は、第3の特徴を有する粒子の情報に基づいて、幼若顆粒球の存否を示す情報を出力できる。このとき、第3の特徴を有する粒子の情報は、例えば、当該粒子の数である。ステップS405において、分析ユニット300は、第3の特徴を有する粒子を計数し、その数が、これに対応する閾値以上であるかを判定する。第3の特徴を有する粒子の数が当該閾値以上である場合、ステップS406において、分析ユニット300は、第3の特徴を有する粒子を幼若顆粒球と特定する。そして、分析ユニット300は、幼若顆粒球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に幼若顆粒球の存在を示す情報として「IG?」というフラグを出力してもよい。分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。ステップS405において、第3の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満である場合は、分析ユニット300は、測定試料に幼若顆粒球は含まれていないと判断する。この場合、プロセスは、ステップS407へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、幼若顆粒球の不存在を示す情報であり得る。
【0059】
ステップS407において、分析ユニット300は、測定試料に異常細胞が存在しないことを示す情報を出力する。例えば、表示部305に「Normal」というフラグを出力してもよい。そして、分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。
【0060】
第2の特徴を有する粒子の数、及び第3の特徴を有する粒子の数のそれぞれに対応する閾値は、適宜決定できる。例えば、健常者の末梢血、異型リンパ球を含む末梢血、及び幼若顆粒球を含む末梢血の測定により得られた光学的情報のデータを蓄積することにより、経験的に設定してもよい。
【0061】
上記のとおり、実施形態1の分析処理の手順をフローチャートに基づいて説明した。このフローチャートから、第1、第2及び第3の特徴を有する粒子の情報と、その情報に基づいて特定される異常細胞との関係を抽出し、以下に記載する。
【0062】
第2のリンパ球集団が、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を含む場合、第1蛍光情報に基づいて、第1の特徴を有する粒子を特定する。第1の特徴を有する粒子の情報が、下記の1)~3)の条件を満たすとき、第1の特徴を有する粒子を第1の異常細胞と特定する。そして、第1の異常細胞の存否を示す情報として、DNA量異常白血球が存在することを示す情報を出力する。
1) 第1の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であり、
2) 第1の特徴を有する粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値以上であり、且つ
3) 第1の特徴を有する粒子の前方散乱光情報が、これに対応する閾値以上である。
【0063】
あるいは、第1の特徴を有する粒子の情報が、下記の1)及び4)の条件を満たすとき、第1の特徴を有する粒子を第2の異常細胞と特定する。そして、第2の異常細胞の存否を示す情報として、芽球が存在することを示す情報を出力する。
1) 第1の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であり、且つ
4) 第1の特徴を有する粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値未満である。
【0064】
あるいは、第1の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満であるとき、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を、第3の異常細胞と特定する。そして、第3の異常細胞の存否を示す情報として、異常リンパ球が存在することを示す情報を出力する。
【0065】
あるいは、第1の特徴を有する粒子の情報が、下記の1)、2)及び5)の条件を満たすとき、第1の特徴を有する粒子を第4の異常細胞と特定する。そして、第4の異常細胞の存否を示す情報として、幼若赤芽球又は巨赤芽球が存在することを示す情報を出力する。
1) 第1の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であり、
2) 第1の特徴を有する粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値以上であり、且つ
5) 第1の特徴を有する粒子の前方散乱光情報が、これに対応する閾値未満である。
【0066】
第2のリンパ球集団が、第2蛍光情報に対応する第1の閾値以上の第2蛍光情報を示す粒子を含まない場合、第2蛍光情報と側方散乱光情報に基づいて、単球集団及び第2の特徴を有する粒子を特定する。第2の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、第2の特徴を有する粒子を第5の異常細胞と特定する。そして、第5の異常細胞の存否を示す情報として、異型リンパ球が存在することを示す情報を出力する。
【0067】
第2蛍光情報と前記側方散乱光情報に基づいて、好中球集団及び第3の特徴を有する粒子をさらに特定する。第2の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満であり、且つ第3の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、第3の特徴を有する粒子を第6の異常細胞と特定する。そして、第6の異常細胞の存否を示す情報として、幼若顆粒球が存在することを示す情報を出力する。
【0068】
(実施形態1の分析処理の変形例)
図9CのステップS302で第1の特徴を有する粒子を芽球として特定した場合に、芽球をさらに分類する分析処理の例を、図14及び15を参照して説明する。しかし、本実施形態の検体の分析方法はこの例に限定されない。この分析処理では、芽球をリンパ芽球又は骨髄芽球に分類することを可能にする。
【0069】
本発明者らは、芽球が、骨髄芽球であるか又はリンパ芽球であるかを判別できることを見出した。具体的には、測定試料に骨髄芽球が含まれる場合、第1スキャッタグラムにおいて第1のリンパ球集団は、横軸方向の右方に広がって分布する傾向にある。一方、測定試料にリンパ芽球が含まれる場合は、第1のリンパ球集団にそのような傾向は見られなかった。本実施形態の検体の分析方法では、第1の特徴を有する粒子の第1蛍光情報の分散に関する情報(ステップS301参照)、及び第1のリンパ球集団の側方散乱光情報の分散に関する情報に基づいて、芽球をリンパ芽球又は骨髄芽球として特定する。第1蛍光情報は、好ましくはSFL-1強度である。第1蛍光情報の分散に関する情報は、好ましくは第1蛍光情報のCV値であり、より好ましくはSFL-1強度のCV値である。側方散乱光情報は、好ましくはSSC強度である。側方散乱光情報の分散に関する情報は、粒子の側方散乱光情報のばらつきを表す指標値であり得る。側方散乱光情報の分散に関する情報は、好ましくは側方散乱光情報のCV値であり、より好ましくはSSC強度のCV値である。
【0070】
(リンパ芽球の検出)
図14を参照して、ステップS501において、分析ユニット300は、例えば、第1のリンパ球集団のSSC強度のCV値が、CVに対応する第2の閾値未満であるかを判定する。SSC強度のCV値は、第1のリンパ球集団のSSC強度の標準偏差を、第1のリンパ球集団のSSC強度の平均値で除算することにより算出できる。CVに対応する第2の閾値は、例えば、骨髄芽球を含む複数の検体と、リンパ芽球を含む複数の検体とを測定し、その測定結果に基づいて予め設定される。好ましくは、CVに対応する第2の閾値は0.3~0.5の間で設定される。例えば、第2の閾値は0.3、0.35、0.4、0.45又は0.5である。SSC強度のCV値が、CVに対応する第2の閾値未満である場合、図15のAの第1スキャッタグラムに示されるように、第1のリンパ球集団はリンパ芽球を包含するが、横軸(SSC強度)方向への広がるような分布はあまり認められない。ステップS501において、第1のリンパ球集団のSSC強度のCV値が、CVに対応する第2の閾値未満である場合、ステップS502において、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子をリンパ芽球と特定する。そして、分析ユニット300は、リンパ芽球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305にリンパ芽球の存在を示す情報として「L-Blast?」というフラグを出力してもよい。そして、分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、リンパ芽球の不存在を示す情報であり得る。
【0071】
(骨髄芽球の検出)
SSC強度のCV値が、CVに対応する第2の閾値以上である場合、図15のBの第1スキャッタグラムに示されるように、第1のリンパ球集団は骨髄芽球を包含し、横軸(SSC強度)方向への広がるような分布が認められる。ステップS501において、第1のリンパ球集団のSSC強度のCV値が、CVに対応する第2の閾値以上である場合、ステップS503において、分析ユニット300は、第1の特徴を有する粒子を骨髄芽球と特定する。そして、分析ユニット300は、骨髄芽球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に骨髄芽球の存在を示す情報として「M-Blast?」というフラグを出力してもよい。そして、分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、骨髄芽球の不存在を示す情報であり得る。
【0072】
上記のとおり、実施形態1の変形例の分析処理の手順をフローチャートに基づいて説明した。このフローチャートから、第1の特徴を有する粒子の情報及び第1のリンパ球集団の情報と、それらの情報に基づいて特定される第2の異常細胞との関係を抽出し、以下に記載する。
【0073】
第1の特徴を有する粒子の情報及び第1のリンパ球集団の情報に基づいて、第2の異常細胞の存否を示す情報として、リンパ芽球又は骨髄芽球が存在することを示す情報を出力する。より具体的には、第1の特徴を有する粒子の情報が、上記1)及び4)の条件を満たし、且つ、第1のリンパ球集団の側方散乱光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値未満であるとき、第2の異常細胞の存否を示す情報として、リンパ芽球が存在することを示す情報を出力する。あるいは、第1の特徴を有する粒子の情報が、上記1)及び4)の条件を満たし、且つ、第1のリンパ球集団の側方散乱光情報の分散に関する情報が、これに対応する閾値以上であるとき、第2の異常細胞の存否を示す情報として、骨髄芽球が存在することを示す情報を出力する。
【0074】
(実施形態2の測定処理及び分析処理)
図7のステップS12に関して、実施形態2の測定処理は、実施形態1について述べたことと同様である。図7のステップS13に関して、実施形態2の分析処理の例を、図16A図18を参照して説明するが、この例に限定されない。上述のとおり、実施形態2の分析処理では、まず、実施形態1の分析に干渉し得る粒子を特定する。そして、実施形態1と同様にして、白血球の亜集団への分類及び異常細胞の検出を行う。実施形態2において、実施形態1の分析処理の前に特定する粒子は、血小板凝集、マラリア感染赤血球及び有核赤血球である。以下では、これらの粒子を特定するステップまでを説明する。これらの粒子を特定した後の分析処理については、実施形態1について述べたことと同様である。実施形態2の分析処理の例では、散乱光情報として、前方散乱光情報及び側方散乱光情報を用いる。より具体的には、前方散乱光情報として、前方散乱光信号の幅に関する情報を用いる。また、側方散乱光情報として、SSC強度を用いる。SSC強度に替えて、第1側方散乱光強度を用いてもよい。また、第1蛍光情報としてSFL-1強度を用い、第2蛍光情報としてSFL-2強度を用いる。必要に応じて、第1及び第2スキャッタグラムを作成してもよい。また、これらのスキャッタグラムの縦軸を、各蛍光強度の対数スケールでとってもよい。
【0075】
(第1蛍光情報及び側方散乱光情報に基づく白血球の分類)
図16Aを参照して、ステップS111において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、横軸にSSC強度をとり、縦軸にSFL-1強度とった平面上において、各粒子に対応する点の位置を決定する。分析システム300は、決定した各点の位置に基づいて、第1スキャッタグラムを作成してもよい。ステップS112において、分析ユニット300は、決定した各点の位置に基づいて、測定試料中の粒子から白血球の各亜集団を特定する。
【0076】
(第4の特徴を有する粒子の特定)
第2スキャッタグラムでは、血小板凝集及びマラリア感染赤血球が出現する領域は、好塩基球集団、好中球集団及び好酸球集団が出現する領域と重なる。また、第2スキャッタグラムでは、血小板凝集とマラリア感染赤血球とがほぼ同じ領域に出現する。そのため、第2スキャッタグラムにより、血小板凝集及びマラリア感染赤血球を特定することは困難であった。一方、第1スキャッタグラムでは、図17のAに示されるように、第1蛍光情報に基づいて、白血球と、血小板凝集及びマラリア感染赤血球とを区別できる。検体に有核赤血球も含まれる場合は、有核赤血球と、血小板凝集及びマラリア感染赤血球とを区別できる。これは、白血球及び有核赤血球は核を有するので、第1蛍光情報が高値を示すのに対して、血小板凝集及びマラリア感染赤血球は核を有さないので、第1蛍光情報が低値を示すことによる。本実施形態の検体の分析方法では、血小板凝集及びマラリア感染赤血球を特定するために、第4の特徴を有する粒子として、第1蛍光情報が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満である粒子を特定する。好ましい実施形態では、第4の特徴を有する粒子として、第1蛍光情報が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満であり、且つ側方散乱光情報が、側方散乱光情報に対応する閾値以上である粒子を特定する。第1蛍光情報は、好ましくはSFL-1強度である。側方散乱光情報は、好ましくはSSC強度である。第1蛍光情報と側方散乱光情報とを組み合わせることにより、デブリと、血小板凝集及びマラリア感染赤血球とを区別できる。
【0077】
図16Aを参照して、ステップS113において、分析ユニット300は、第4の特徴を有する粒子として、SFL-1強度が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満である粒子を特定する。ここで、SFL-1強度は、粒子に含まれるDNA量を反映する。第1蛍光情報に対応する第1の閾値として、例えば、リンパ球集団を構成する全ての粒子のSFL-1強度の最小値(以下、「第1のリンパ球集団のSFL-1強度の最小値」ともいう)を設定できる。あるいは、単球集団を構成する全ての粒子のSFL-1強度の最小値(以下、「単球集団のSFL-1強度の最小値」ともいう)を、第1蛍光情報に対応する第1の閾値として設定できる。好中球集団、好酸球集団又は好塩基球集団を特定できている場合は、第1蛍光情報に対応する第1の閾値として、例えば、好中球集団、好酸球集団又は好塩基球集団を構成する全ての粒子のSFL-1強度の最小値(以下、「好中球集団、好酸球集団又は好塩基球集団のSFL-1強度の最小値」ともいう)を設定してもよい。すなわち、そのような第1の閾値未満であるSFL-1強度を示す粒子を抽出したとき、当該粒子に白血球はほとんど含まれない。SFL-1強度が第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満である粒子は、DNA量が白血球よりも少ない粒子である。そのような粒子としては、例えば、赤血球ゴーストなどのデブリ、血小板凝集(PLT-clumps)及びマラリア感染赤血球(iRBCs)が挙げられる。第1スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、デブリ、血小板凝集及びマラリア感染赤血球が出現する領域に含まれる粒子を特定してもよい。例えば図17のAに示されるように、白血球の各亜集団よりもSFL-1強度が低い領域(破線で囲まれた領域)にデブリ、血小板凝集(図では「PLTc」と表示する)及びマラリア感染赤血球(iRBCs)が分布する。なお、図17のAでは、デブリ、血小板凝集及びマラリア感染赤血球の全てが出現しているが、これに限定されない。デブリ、血小板凝集及びマラリア感染赤血球の少なくとも1つがスキャッタグラムに出現してもよい。
【0078】
第1蛍光情報に対応する第1の閾値は、第1蛍光情報に対応する数値範囲であってもよい。デブリは蛍光色素による染色がほとんどなされないので、例えば、デブリの集団よりも高いSFL-1強度を数値範囲の下限としてもよい。そして、数値範囲の上限を、白血球のいずれの亜集団よりも低いSFL-1強度としてもよい。測定試料中の粒子から、SFL-1強度が当該数値範囲内である粒子を特定することにより、デブリを除外し、且つ血小板凝集又はマラリア感染赤血球である粒子を選別し得る。
【0079】
ステップS113において、分析ユニット300は、測定試料中の粒子から、SFL-1強度が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満であり、且つSSC強度が、側方散乱光情報に対応する閾値以上である粒子を特定してもよい。側方散乱光情報に対応する閾値としては、例えば、好中球集団のSSC強度の最小値又は単球集団のSSC強度の最大値を設定してもよい。通常、デブリの集団のSSC強度は、好中球集団、血小板凝集及びマラリア感染赤血球のSSC強度より低い傾向にある。よって、上記の第1の閾値未満であるSFL-1強度を示し、且つ上記の閾値以下のSSC強度を示す粒子を抽出したとき、当該粒子には、白血球だけでなく、デブリもほとんど含まれない。
【0080】
分析ユニット300は、第4の特徴を有する粒子の情報に基づいて、血小板凝集又はマラリア感染赤血球の存否を示す情報を出力できる。このとき、第4の特徴を有する粒子の情報は、例えば当該粒子の数及び前方散乱光情報である。ステップS114において、分析ユニット300は、第4の特徴を有する粒子を計数し、その数が、これに対応する閾値未満であるかを判定する。第4の特徴を有する粒子の数が、当該閾値未満である場合は、測定試料に血小板凝集及びマラリア感染赤血球は含まれていないと判断する。この場合、プロセスは、図16BのステップS211へ進行する。なお、第4の特徴を有する粒子がデブリであると判断して、当該粒子を測定試料中の粒子から除外してもよい。ステップS114において、第4の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上である場合は、測定試料に血小板凝集又はマラリア感染赤血球が含まれていると判断する。この場合、プロセスはステップS115へ進行する。
【0081】
第4の特徴を有する粒子の数に対応する閾値は、適宜決定できる。例えば、健常者の末梢血、血小板凝集が生じた末梢血、及びマラリア感染赤血球を含む末梢血の測定により得られた光学的情報のデータを蓄積することにより、経験的に設定してもよい。
【0082】
従来、血小板凝集とマラリア感染赤血球との判別は困難であった。図17のAに示されるように、血小板凝集とマラリア感染赤血球とは、SFL-1強度及びSSC強度で明確に区別できない。しかし、本発明者らは、前方散乱光情報に基づいて、血小板凝集とマラリア感染赤血球とを判別できることを見出した。本実施形態の検体の分析方法では、第4の特徴を有する粒子が血小板凝集又はマラリア感染赤血球であるかを判別するために、第4の特徴を有する粒子の前方散乱光信号の幅に関する情報が、これに対応する閾値以上であるかを判定する。前方散乱光信号の幅に関する情報は、好ましくは前方散乱光パルス幅(以下、「FSC-W」ともいう)である。ここで、血小板凝集は、複数の血小板の集合体であり、マラリア感染赤血球は単一の粒子である。したがって、両者の間には、FSC-Wに差があり得る。
【0083】
ステップS115において、分析ユニット300は、第4の特徴を有する粒子のFSC-W値が、FSC-Wに対応する閾値以上であるかを判定する。分析ユニット300は、図17のBに示すような、横軸にFSC-Wをとり、縦軸にFSC強度をとったスキャッタグラムを作成してもよい。図17のBにおいて、破線は、FSC-Wに対応する閾値を示す。マラリア感染赤血球の集団は、スキャッタグラム上の破線より左側の領域に出現する。血小板凝集の集団は、スキャッタグラム上の破線より右側の領域に出現する。第4の特徴を有する粒子のFSC-W値が、FSC-Wに対応する閾値以上であるとき、ステップS116において、分析ユニット300は、第4の特徴を有する粒子を血小板凝集と特定する。そして、分析ユニット300は、血小板凝集が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に血小板凝集の存在を示す情報として「PLT-clumps?」というフラグを出力してもよい。その後、プロセスは、図16BのステップS211へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、血小板凝集の不存在を示す情報であり得る。
【0084】
第4の特徴を有する粒子のFSC-W値が、FSC-Wに対応する閾値未満であるとき、ステップS117において、分析ユニット300は、第4の特徴を有する粒子をマラリア感染赤血球と特定する。そして、分析ユニット300は、マラリア感染赤血球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305にマラリア感染赤血球の存在を示す情報として「iRBCs?」というフラグを出力してもよい。その後、プロセスは、図16BのステップS211へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、マラリア感染赤血球の不存在を示す情報であり得る。
【0085】
(第2蛍光情報及び側方散乱光情報に基づく白血球の分類)
図16Bを参照して、ステップS211において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、横軸にSSC強度をとり、縦軸にSFL-2強度とった平面上において、各粒子に対応する点の位置を決定する。分析システム300は、決定した各点の位置に基づいて、第2スキャッタグラムを作成してもよい。ステップS212において、分析ユニット300は、決定した各点の位置に基づいて、測定試料中の粒子から白血球の各亜集団を特定する。
【0086】
(第5の特徴を有する粒子の特定)
図18のAに示されるように、第1スキャッタグラムでは、有核赤血球の集団は、デブリの集団から離れた位置に出現するが、有核赤血球が出現する領域は、リンパ球集団が出現する領域と重なる。そのため、第1スキャッタグラムのみにより、有核赤血球を特定することは困難であった。一方、図18のBに示されるように、第2スキャッタグラムでは、有核赤血球の集団は、白血球の各亜集団から離れた位置に出現するが、有核赤血球が出現する領域とデブリが出現する領域とが近接する。そのため、第2スキャッタグラムのみにより、有核赤血球を特定することは困難であった。しかし、本発明者らは、第1蛍光情報及び第2蛍光情報に基づいて、有核赤血球を検出できることを見出した。本実施形態の検体の分析方法では、測定試料中の有核赤血球(NRBC)を検出するために、第5の特徴を有する粒子として、第1蛍光情報が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値以上であり、且つ第2蛍光情報が、第2蛍光情報に対応する第2の閾値以下である粒子を特定する。第1蛍光情報は、好ましくはSFL-1強度であり、第2蛍光情報は、好ましくはSFL-2強度である。第1蛍光情報に対応する第1の閾値は、上記のとおりである。第1蛍光情報と第2蛍光情報とを組み合わせることにより、有核赤血球のみを抽出できる。この点について、以下に説明する。
【0087】
有核赤血球は、DNA量が白血球と同程度である。測定試料に有核赤血球が含まれる場合、SFL-1強度が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値以上の粒子は、有核赤血球及び白血球を包含する。また、有核赤血球は、RNA量が白血球の各亜集団よりも少ない。ここで、SFL-2強度は、粒子に含まれるRNA量を反映する。第2蛍光情報に対応する第2の閾値として、例えば、リンパ球集団を構成する全ての粒子のSFL-2強度の最小値(以下、「第2のリンパ球集団のSFL-2強度の最小値」ともいう)を設定できる。好中球集団、好酸球集団又は好塩基球集団を特定している場合は、第2蛍光情報に対応する第2の閾値として、例えば、好中球集団、好酸球集団又は好塩基球集団を構成する全ての粒子のSFL-2強度の最小値(以下、「好中球集団、好酸球集団又は好塩基球集団のSFL-2強度の最小値」ともいう)を設定してもよい。そのような第2の閾値未満であるSFL-2強度を示す粒子を抽出したとき、当該粒子に白血球はほとんど含まれない。SFL-2強度が第2蛍光情報に対応する第2の閾値以下である粒子は、RNA量が白血球よりも少ない粒子である。よって、測定試料に有核赤血球が含まれる場合、SFL-2強度が、第2蛍光情報に対応する第2の閾値以下の粒子は、有核赤血球及びデブリを包含する。したがって、SFL-1強度が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値以上であり、且つSFL-2強度が、第2蛍光情報に対応する第2の閾値以下である粒子には、有核赤血球が含まれるが、白血球及びデブリは含まれない。
【0088】
図16Bを参照して、ステップS213において、分析ユニット300は、第5の特徴を有する粒子として、SFL-1強度が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値以上であり、且つSFL-2強度が、第2蛍光情報に対応する第2の閾値以下である粒子を特定する。スキャッタグラムに基づいて、第5の特徴を有する粒子を特定してもよい。例えば、測定試料中の全粒子の測定データから、第1蛍光情報に対応する第1の閾値以上のSFL-1強度を示す粒子の測定データを抽出する。これにより、デブリの測定データを除外できる。次いで、抽出した粒子のデータに基づいて、第2スキャッタグラムを作成する。デブリが除外されているので、第2スキャッタグラムには、デブリは出現しない。また、第2スキャッタグラムでは、白血球の各亜集団は、第2蛍光情報に対する第2の閾値以上の領域に分布する。よって、デブリ及び白血球の影響を受けることなく、第5の特徴を有する粒子を第2スキャッタグラム上で特定できる。
【0089】
(有核赤血球の検出)
分析ユニット300は、第5の特徴を有する粒子の情報に基づいて有核赤血球の存否を示す情報を出力できる。このとき、第5の特徴を有する粒子の情報は、例えば当該粒子の数である。ステップS214において、分析ユニット300は、特定した粒子を計数し、その数が、当該粒子に対応する閾値未満であるかを判定する。第5の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満である場合は、測定試料に有核赤血球は含まれていないと判断する。この場合、プロセスは、図9BのステップS201へ進行する。ステップS214において、第5の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上である場合、ステップS215において、分析ユニット300は、第5の特徴を有する粒子を有核赤血球と特定する。そして、分析ユニット300は、有核赤血球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に有核赤血球の存在を示す情報として「NRBC?」というフラグを出力してもよい。その後、プロセスは、図9BのステップS201へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、有核赤血球の不存在を示す情報であり得る。
【0090】
第5の特徴を有する粒子の数に対応する閾値は、適宜決定できる。例えば、健常者の末梢血、及び有核赤血球を含む末梢血の測定により得られた光学的情報のデータを蓄積することにより、経験的に設定してもよい。
【0091】
上記のとおり、実施形態2の分析処理の手順をフローチャートに基づいて説明した。このフローチャートから、第4及び第5の特徴を有する粒子の情報と、その情報に基づいて特定される異常細胞との関係を抽出し、以下に記載する。
【0092】
第4の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第7の異常細胞の存否を示す情報及び第8の異常細胞の存否を示す情報をさらに出力する。第4の特徴を有する粒子の情報が、下記の6)及び7)の条件を満たすとき、第4の特徴を有する粒子を第7の異常細胞と特定する。そして、第7の異常細胞の存否を示す情報として、血小板凝集が存在することを示す情報を出力する。
6) 第4の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満であり、且つ
7) 第4の特徴を有する粒子の前方散乱光信号の幅に関する情報が、これに対応する閾値以上である。
【0093】
あるいは、第4の特徴を有する粒子の情報が、下記の6)及び8)の条件を満たすとき、第4の特徴を有する粒子を第8の異常細胞と特定する。そして、第8の異常細胞の存否を示す情報として、マラリア感染赤血球が存在することを示す情報を出力する。
6) 第4の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満であり、且つ
8) 第4の特徴を有する粒子の前方散乱光信号の幅に関する情報が、これに対応する閾値未満である。
【0094】
また、第5の特徴を有する粒子の情報に基づいて、第9の異常細胞の存否を示す情報をさらに出力する。第5の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、第5の特徴を有する粒子を第9の異常細胞と特定する。そして、第9の異常細胞の存否を示す情報として、有核赤血球が存在することを示す情報を出力する。
【0095】
(実施形態3に用いられる分析システム)
実施形態3では、血液試料及び体液試料の両方の測定ができる分析システム500を用いる。そのような分析システム500の動作の一例を、図7を参照して説明するが、この例に限定されない。ステップS11において、分析ユニット300の制御部301は、ユーザからの測定開始の指示を、操作部306を介して受け付ける。測定開始の指示の入力受付は、表示部305に表示される検体の種類の選択画面に基づいて行われる。制御部301は、検体の種類を指定するための選択画面を表示部305に表示する。当該選択画面により、ユーザは、検体の種類として、例えば全血及び体液のいずれかを指定できる。検体の種類や測定項目等の設定後、画面に表示される測定開始をユーザが決定することで測定が行われる。なお、検体の種類の選択はこの例に限られず、例えば、体液について、体腔液、脳脊髄液、関節液、腹膜透析排液、肺胞洗浄液等の具体的な種類を指定する構成であってもよい。
【0096】
制御部301は、測定開始の指示及び検体の種類の指定を受け付けると、測定開始を指示する指示データを測定ユニット400に送信する。検体の種類として体液の指定の入力を受け付けた場合、制御部301は、体液測定のための設定(例えば、反応時間、測定時間、追加の洗浄等)に関する指示データも測定ユニット400に送信する。体液試料を測定する場合、試薬との反応時間及び測定時間を、血液試料を測定する場合とは異なる長さに設定できる。例えば、体液が脳脊髄液である場合、反応時間及び測定時間を、血液試料を測定する場合よりも長く設定できる。また、血液試料と体液試料との間のキャリーオーバー等を抑制するため、検体吸引部やフローセルに対して追加の洗浄を行うよう設定できる。測定ユニット400は、当該指示データを受信して、ステップS12において測定処理を実行する。
【0097】
(実施形態3の測定処理)
図7のステップS12に関して、実施形態3の測定処理の例を、図19を参照して説明するが、この例に限定されない。ステップS31において、分析ユニット300が、検体の種類として全血の指定を受け付けた場合、ステップS32において、分析ユニット300の制御部301は、測定ユニット400に全血モードで測定試料を調製させる。具体的には、血液試料から測定試料を調製する条件で、測定ユニット400は、全血である検体と染色試薬と溶血試薬とを反応チャンバ420内で混合して、測定試料を調製する。ステップS31において、分析ユニット300が、検体の種類として体液の指定を受け付けた場合、ステップS33において、制御部301は、測定ユニット400に体液モードで測定試料を調製させる。具体的には、体液試料から測定試料を調製する条件で、測定ユニット400は、体液である検体と染色試薬と溶血試薬とを反応チャンバ420内で混合して、測定試料を調製する。ステップS34において、制御部301は、測定ユニット400に、調製された測定試料をFCM検出部460に導出させて、フローサイトメトリ法による光学的測定を実行させる。ステップS35において、制御部301は、測定ユニット400に、光学的情報を分析ユニット300に送信させて、測定処理を終了する。そして、分析ユニット300は、図7のステップS13の分析処理を実行する。
【0098】
(実施形態3の分析処理)
図7のステップS13に関して、分析ユニット300が、検体の種類として体液試料の指定を受け付けた場合の分析処理の例を、図20A図23を参照して説明するが、この例に限定されない。この分析処理では、白血球の分類と、次の異常細胞の検出を可能にする:細菌又は真菌、組織由来細胞、及びDNA量異常白血球。血液試料の指定を受け付けた場合の分析処理は、実施形態1及び2について述べたことと同様である。実施形態3の分析処理の例では、散乱光情報として側方散乱光情報を用いる。より具体的には、側方散乱光情報として、SSC強度を用いる。SSC強度に替えて、第1側方散乱光強度を用いてもよい。また、第1蛍光情報としてSFL-1強度を用い、第2蛍光情報としてSFL-2強度を用いる。必要に応じて、第1及び第2スキャッタグラムを作成してもよい。また、これらのスキャッタグラムの縦軸を、各蛍光強度の対数スケールでとってもよい。
【0099】
(第1蛍光情報及び側方散乱光情報に基づく白血球の分類)
図20Aを参照して、ステップS121において、分析ユニット300が、検体の種類として全血の指定を受け付けた場合、プロセスは、図9AのステップS101に進行する。あるいは、図16AのステップS111へ進行してもよい。分析ユニット300が、検体の種類として体液の指定を受け付けた場合、プロセスはステップS122に進行する。ステップS122において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、横軸をSSC強度とし、縦軸をSFL-1強度とする平面上において、各粒子に対応する点の位置を決定する。分析システム300は、決定した各点の位置に基づいて、第1スキャッタグラムを作成してもよい。ステップS112において、分析ユニット300は、決定した各点の位置に基づいて、測定試料中の粒子から、単核球集団及び多形核集団を特定する。単核球とは、リンパ球及び単球の総称である。可能であれば、リンパ球集団及び単球集団を特定してもよい。単核球集団は、フローチャートにおいて「MN」と表記する。多形核球とは、好中球、好酸球及び好塩基球の総称である。可能であれば、好中球集団、好酸球集団及び好塩基球集団の少なくとも1つを特定してもよい。多形核球集団は、フローチャートにおいて「PMN」と表記する。白血球を単核球集団及び多形核球集団に分類するアルゴリズム自体は公知である。例えば、分析ユニット300に搭載されたプログラムにより、白血球を亜集団に分類できる。また、スキャッタグラム上で白血球の単核球集団及び多形核球集団が出現する位置は公知であるので、スキャッタグラムに基づいて、各亜集団を特定してもよい。第1スキャッタグラムを作成している場合、例えば図21のAに示されるように、白血球の単核球集団及び多形核球集団がスキャッタグラム上に分布する。しかし、この図に限定されず、白血球は、例えばリンパ球、単球及び顆粒球の3種の亜集団に分類されてもよい。あるいは、白血球は、リンパ球、単球、好中球及び好酸球の4種の亜集団に分類されてもよい。あるいは、白血球は、リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球の5種の亜集団に分類されてもよい。必要に応じて、白血球の各亜集団に含まれる細胞を計数してもよい。白血球の分類後、プロセスはステップS124へ進行する。
【0100】
(第6の特徴を有する粒子の特定)
本発明者らは、第1蛍光情報に基づいて、細菌及び真菌を検出できることを見出した。具体的には、細菌及び真菌は、DNA量が白血球に比べて少ないので、SFL-1強度が低い傾向にある。フローサイトメトリ法では、いずれの細菌及び真菌も測定試料中の粒子の一種として扱われるので、細菌及び真菌の種類は特に限定されない。本実施形態の検体の分析方法では、測定試料中の細菌及び真菌を検出するために、第6の特徴を有する粒子を特定する。第6の特徴を有する粒子は、第1蛍光情報が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満である粒子である。第1蛍光情報は、好ましくはSFL-1強度である。ステップS124において、分析ユニット300は、第6の特徴を有する粒子として、SFL-1強度が、第1蛍光情報に対応する第1の閾値未満である粒子を特定する。第1蛍光情報に対応する第1の閾値は、白血球をリンパ球集団、単球集団、好中球集団、好酸球集団又は好塩基球集団に分類できている場合は、上記のとおりである。あるいは、第1蛍光情報に対応する第1の閾値として、例えば、単核球集団を構成する全ての粒子のSFL-1強度の最小値(以下、「単核球集団のSFL-1強度の最小値」ともいう)を設定できる。あるいは、多形核球集団を構成する全ての粒子のSFL-1強度の最小値(以下、「多形核球集団のSFL-1強度の最小値」ともいう)を、第1蛍光情報に対応する第1の閾値として設定してもよい。
【0101】
(細菌及び真菌の検出)
分析ユニット300は、第6の特徴を有する粒子の情報に基づいて、細菌又は真菌の存否を示す情報を出力できる。第6の特徴を有する粒子の情報は、例えば当該粒子の数である。ステップS125において、分析ユニット300は、第6の特徴を有する粒子を計数し、その数が、これに対応する閾値未満であるかを判定する。第6の特徴を有する粒子の数が、当該閾値未満である場合は、測定試料に細菌及び真菌は含まれていないと判断する。この場合、プロセスは、図20BのステップS221へ進行する。ステップS125において、第6の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上である場合、ステップS126において、分析ユニット300は、第6の特徴を有する粒子を細菌又は真菌と特定する。そして、分析ユニット300は、細菌又は真菌が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に細菌又は真菌の存在を示す情報として「Bacteria/Fungus?」というフラグを出力してもよい。第1スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、細菌及び真菌が出現する領域に含まれる粒子を特定してもよい。例えば図21のBに示されるように、細菌及び真菌は、白血球の各亜集団よりもSFL-1強度が低い領域(破線で囲まれた領域)に分布する。その後、プロセスは、図20BのステップS221へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、細菌及び真菌の不存在を示す情報であり得る。
【0102】
第6の特徴を有する粒子の数に対応する閾値は、適宜決定できる。例えば、健常者の体液、及び、細菌又は真菌を含む体液の測定により得られた光学的情報のデータを蓄積することにより、経験的に設定してもよい。
【0103】
(第2蛍光情報及び側方散乱光情報に基づく白血球の分類)
図20Bを参照して、ステップS221において、分析ユニット300は、取得した光学的情報に基づいて、横軸をSSC強度とし、縦軸をSFL-2強度とする平面上において、各粒子に対応する点の位置を決定する。分析システム300は、決定した各点の位置に基づいて、第2スキャッタグラムを作成してもよい。ステップS222において、分析ユニット300は、決定した各点の位置に基づいて、測定試料中の粒子から、リンパ球集団、単球集団及び多形核球集団を特定する。可能であれば、好中球集団、好酸球集団及び好塩基球集団の少なくとも1つを特定してもよい。白血球を各亜集団に分類するアルゴリズム自体は公知である。例えば、分析ユニット300に搭載されたプログラムにより、白血球を亜集団に分類できる。また、スキャッタグラム上で白血球のリンパ球集団、単球集団及び多形核球集団が出現する位置は公知であるので、スキャッタグラムに基づいて、各亜集団を特定してもよい。第2スキャッタグラムを作成している場合、例えば図22のAに示されるように、白血球のリンパ球集団、単球集団及び多形核球集団がスキャッタグラム上に分布する。しかし、この図に限定されず、白血球は、例えば単核球及び多形核球(顆粒球)の2種の亜集団に分類されてもよい。あるいは、白血球は、リンパ球、単球、好中球及び好酸球の4種の亜集団に分類されてもよい。あるいは、白血球は、リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球の5種の亜集団に分類されてもよい。必要に応じて、白血球の各亜集団に含まれる細胞を計数してもよい。白血球の分類後、プロセスはステップS223へ進行する。
【0104】
(第7の特徴を有する粒子の特定)
本発明者らは、第2蛍光情報に基づいて、組織由来細胞を検出できることを見出した。具体的には、組織由来細胞は、RNA量が白血球に比べて多いので、組織由来細胞のSFL-2強度は白血球よりも高い傾向にある。なお、組織由来細胞はDNA量も多いが、後述のDNA量異常白血球もDNAを多量に含み得る。そのため、第1蛍光情報では、組織由来細胞とDNA量異常白血球との判別が困難であった。本実施形態の検体の分析方法では、測定試料中の組織由来細胞を検出するために、第7の特徴を有する粒子を特定する。第7の特徴を有する粒子は、第2蛍光情報が、第2蛍光情報に対応する第3の閾値以上である粒子である。第2蛍光情報は、好ましくはSFL-2強度である。ステップS223において、分析ユニット300は、第7の特徴を有する粒子として、SFL-2強度が、第2蛍光情報に対応する第3の閾値以上である粒子を特定する。第2蛍光情報に対応する第3の閾値として、例えば、単核球集団を構成する全ての粒子のSFL-2強度の最大値(以下、「単核球集団のSFL-2強度の最大値」ともいう)を設定できる。あるいは、単球集団を特定できている場合は、単球集団のSFL-2強度の最大値を、第2蛍光情報に対応する第3の閾値として設定してもよい。
【0105】
(組織由来細胞の検出)
分析ユニット300は、第7の特徴を有する粒子の情報に基づいて、組織由来細胞の存否を示す情報を出力できる。第7の特徴を有する粒子の情報は、例えば当該粒子の数である。ステップS224において、分析ユニット300は、第7の特徴を有する粒子を計数し、その数が、これに対応する閾値未満であるかを判定する。第7の特徴を有する粒子の数が、当該閾値未満である場合は、測定試料に組織由来細胞は含まれていないと判断する。この場合、プロセスは、図20CのステップS321へ進行する。ステップS224において、第7の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上である場合、ステップS225において、分析ユニット300は、第7の特徴を有する粒子を組織由来細胞と特定する。そして、分析ユニット300は、組織由来細胞が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305に組織由来細胞の存在を示す情報として「WBC Abnormal?」というフラグを出力してもよい。また、第7の特徴を有する粒子の数を、表示部305に「HF-BF計数値」(高蛍光領域に出現する細胞数)として出力してもよい。第2スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、組織由来細胞が出現する領域に含まれる粒子を特定してもよい。例えば図22のBに示されるように、組織由来細胞は、SFL-2強度が単球集団のSFL-2強度の最大値よりも高い領域(破線で囲まれた領域)に分布する。その後、プロセスは、図20CのステップS321へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、組織由来細胞の不存在を示す情報であり得る。
【0106】
(第8の特徴を有する粒子の特定)
本発明者らは、第1蛍光情報に基づいて、DNA量異常白血球を検出できることを見出した。具体的には、DNA量異常白血球は、DNA量が白血球に比べて多いので、DNA量異常白血球のSFL-1強度は白血球よりも高い傾向にある。本実施形態の検体の分析方法では、測定試料中のDNA量異常白血球を検出するために、第8の特徴を有する粒子を特定する。第8の特徴を有する粒子は、第1蛍光情報が、第1蛍光情報に対応する第2の閾値以上である粒子である。第1蛍光情報は、好ましくはSFL-1強度である。ステップS321において、分析ユニット300は、第8の特徴を有する粒子として、SFL-1強度が、第1蛍光情報に対応する第2の閾値以上である粒子を特定する。第1蛍光情報に対応する第2の閾値として、例えば、単核球集団を構成する全ての粒子のSFL-1強度の最大値(以下、「単核球集団のSFL-1強度の最大値」ともいう)を設定できる。あるいは、多形核球集団を特定できている場合は、多形核球集団のSFL-1強度の最大値を、第1蛍光情報に対応する第2の閾値として設定してもよい。
【0107】
(DNA量異常白血球の検出)
分析ユニット300は、第8の特徴を有する粒子の情報に基づいて、DNA量異常白血球の存否を示す情報を出力できる。第8の特徴を有する粒子の情報は、例えば当該粒子の数である。ステップS322において、分析ユニット300は、第8の特徴を有する粒子を計数し、その数が、これに対応する閾値以上であるかを判定する。上記のステップS224において、組織由来細胞の数を取得した場合は、ステップS322で取得した粒子数から組織由来細胞の数を差し引くことが好ましい。これは、組織由来細胞もDNA量が多いからである。すなわち、測定試料に組織由来細胞及びDNA量異常白血球が含まれる場合、第8の特徴を有する粒子には、DNA量異常白血球だけでなく、組織由来細胞も含まれ得る。第8の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値未満である場合は、測定試料にDNA量異常白血球は含まれていないと判断する。この場合、分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。ステップS322において、第8の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上である場合、ステップS323において、分析ユニット300は、第8の特徴を有する粒子をDNA量異常白血球と特定する。そして、分析ユニット300は、DNA量異常白血球が存在することを示す情報を出力する。例えば、表示部305にDNA量異常白血球の存在を示す情報として「DNA aneuploidy?」というフラグを出力してもよい。さらに、分析ユニット300は、DNAインデックスを算出し、その値を出力してもよい。DNAインデックスについては、上記のとおりである。第1スキャッタグラムを作成している場合、当該スキャッタグラムに基づいて、DNA量異常白血球が出現する領域に含まれる粒子を特定してもよい。例えば図23に示されるように、DNA量異常白血球は、SFL-1強度が単核球集団のSFL-1強度の最大値よりも高い領域(破線で囲まれた領域)に分布する。分析ユニット300は分析処理を終了し、プロセスは、図7のステップS14へ進行する。なお、表示部305に上記フラグを表示しないことは、DNA量異常白血球の不存在を示す情報であり得る。
【0108】
上記のとおり、実施形態3の分析処理の手順をフローチャートに基づいて説明した。このフローチャートから、第6、第7及び第8の特徴を有する粒子の情報と、その情報に基づいて特定される異常細胞との関係を抽出し、以下に記載する。
【0109】
第1蛍光情報と第2蛍光情報とに基づいて、第6の特徴を有する粒子、第7の特徴を有する粒子及び第8の特徴を有する粒子から選択される少なくとも1の粒子を特定する。第6の特徴を有する粒子の情報を得た場合はこの情報に基づいて、第10の異常細胞の存否を示す情報を出力する。第6の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、第6の特徴を有する粒子を第10の異常細胞と特定する。そして、第10の異常細胞の存否を示す情報として、細菌又は真菌が存在することを示す情報を出力する。
【0110】
第7の特徴を有する粒子の情報を得た場合はこの情報に基づいて、第11の異常細胞の存否を示す情報を出力する。第7の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、第7の特徴を有する粒子を第11の異常細胞と特定する。そして、第11の異常細胞の存否を示す情報として、組織由来細胞が存在することを示す情報を出力する。
【0111】
第8の特徴を有する粒子の情報を得た場合はこの情報に基づいて、第12の異常細胞の存否を示す情報を出力する。第8の特徴を有する粒子の数が、これに対応する閾値以上であるとき、第8の特徴を有する粒子を第12の異常細胞と特定する。そして、第12の異常細胞の存否を示す情報として、DNA量異常白血球が存在することを示す情報を出力する。
【0112】
図7を参照して、上記の分析処理を終了すると、制御部301は、ステップS14において、分析結果を表示部305に出力して、処理を終了する。上記のとおり、図9A図23を用いて、測定試料に各種の異常細胞が含まれるかを分析する処理について個別に説明した。しかし、分析処理はこれらの一部でも実施していればよく、また全ての分析処理を行ってもよい。
【0113】
表示部305に出力される分析結果画面は、例えば、白血球の数、白血球の各亜集団(リンパ球、単球、好中球、好酸球及び好塩基球)の数、検出した異常細胞の数を含んでもよい。また、画面は、これらの情報に加えて、光学的情報に基づいて作成したスキャッタグラムを含んでもよい。さらに、画面は、分析結果に基づくフラグを含んでもよい。
【0114】
このように本実施形態の検体の分析方法は、医師や検査技師などの医療従事者に対して、白血球の分類の結果と共に異常細胞の分析結果を提供できる。医療従事者は、取得した分析結果から、例えば、検体についてさらに検査を行うか否かを決定できる。上述の測定試料の調製及び検体の分析はすべてインビトロで行われる。
【0115】
(蛍光色素)
測定試料の調製に用いられる染色試薬中の各蛍光色素について説明する。第1蛍光色素は、DNAに特異的に結合する蛍光色素であり、第2蛍光色素が、RNAに特異的に結合する蛍光色素である。第2蛍光色素は、第1蛍光色素とは異なる波長域に極大吸収を有する蛍光色素である。すなわち、第2蛍光色素は、第1蛍光色素からの蛍光とは区別して検出可能な波長の蛍光を放出する蛍光色素である。第1蛍光色素及び第2蛍光色素はそれぞれ、白血球などの血液細胞の核酸に結合する性質を有する公知の蛍光色素から適宜選択できる。上記のとおり、第1及び第2蛍光色素自体が血液細胞の核酸を染色するので、本実施形態の検体の分析方法では、これらの蛍光色素で標識した抗体を用いて血液細胞を染色する必要がない。よって、第1及び第2蛍光色素は抗体を含まない。
【0116】
第1蛍光色素及び第2蛍光色素は、フローサイトメータが備える光源から照射される光によって励起される。第1蛍光色素及び第2蛍光色素は、互いに異なる波長域に蛍光発光極大を有する。
【0117】
上記の測定ユニット400のように2つの光源を備えるフローサイトメータを用いる場合、各光源から照射される光は、第1蛍光色素を励起可能な第1波長の光、及び第2蛍光色素を励起可能な第2波長の光の2種の光である。第2波長は、第1波長とは異なる。波長は、蛍光色素の種類に応じて適宜決定できる。例えば、第1波長は315~490 nmであり、好ましくは400~450 nmであり、より好ましくは400~410 nmである。第2波長は610~750 nmであり、好ましくは620~700 nmであり、より好ましくは633~643 nmである。
【0118】
第1蛍光色素は、極大吸収を400~490 nmの波長域に有し、当該波長域の光を吸収することにより励起されて蛍光を発する色素であって、細胞のDNAに結合する性質を有する色素が好ましい。例えば、アクリジン骨格を有する蛍光色素、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール・ジヒドロクロリド(DAPI)、ヘキストシリーズのHoechst3342、Hoechst33258、Hoechst334580などが挙げられる。
【0119】
アクリジン骨格を有する蛍光色素としては、プロフラビン、9-アミノアクリジン、アクリジンオレンジ、アクリジンイエローG、アクリフラビン、ベーシックイエロー9、乳酸エタクリジン、ユークリシンGG(Euchrysine GGNX)、プロフラビンヘミ硫酸塩、3,6-ビス(ジメチルアミノ)アクリジン(Rhoduline Orange)、3,6-ジアミノ-2,7,10-トリメチル-塩化アクリジニウムが挙げられる。それらの中でも、アクリジンイエローGが好ましい。あるいは、第1蛍光色素は、市販の蛍光色素を使用してもよい。
【0120】
第2蛍光色素としては、極大吸収を610~750 nmの波長域に有し、当該波長域の光を吸収することにより励起されて蛍光を発する色素であって、細胞のRNAに特異的に結合する性質を有する色素が好ましい。例えば、プロピジウムアイオダイド、エチジウムブロマイド、エチジウム-アクリジンヘテロダイマー、エチジウムジアジド、エチジウムホモダイマー-1、エチジウムホモダイマー-2、エチジウムモノアジド、トリメチレンビス[[3-[[4-[[(3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム)-2-イル]メチレン]-1,4-ジヒドロキノリン]-1-イル]プロピル]ジメチルアミニウム]・テトラヨージド(TOTO-1)、4-[(3-メチルベンゾチアゾール-2(3H)-イリデン)メチル]-1-[3-(トリメチルアミニオ)プロピル]キノリニウム・ジヨージド(TO-PRO-1)、N,N,N',N'-テトラメチル-N,N'-ビス[3-[4-[3-[(3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム)-2-イル]-2-プロペニリデン]-1,4-ジヒドロキノリン-1-イル]プロピル]-1,3-プロパンジアミニウム・テトラヨージド(TOTO-3)又は2-[3-[[1-[3-(トリメチルアミニオ)プロピル]-1,4-ジヒドロキノリン]-4-イリデン]-1-プロペニル]-3-メチルベンゾチアゾール-3-イウム・ジヨージド(TOPRO-3)、下記の式(V)で表される蛍光色素、及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0121】
【化1】
【0122】
式(V)中、R及びRは、水素原子、メチル基、エチル基又は炭素数6~18のアルキル基であって、いずれか一方が炭素数6~18のアルキル基であるとき、他方が水素原子、メチル基又はエチル基である。R及びRは、互いに同一又は異なって、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基である。Zは、硫黄原子、酸素原子又はメチル基を有する炭素原子である。nは、0、1、2又は3である。Xは、アニオンである。
【0123】
式(V)において、炭素数6~18のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれであってもよい。炭素数6~18のアルキル基の中でも、炭素数が6、8又は10のアルキル基が好ましい。
【0124】
式(V)において、アニオンXとして、F、Cl、Br及びIのようなハロゲンイオン、CFSO 、BF 、ClO などが挙げられる。
【0125】
上記の式(V)で表される蛍光色素としては、下記の式で表される蛍光色素が好ましい。
【0126】
【化2】
【0127】
上記の第2蛍光色素を単独で含む市販の染色試薬を用いてもよい。例えば、フルオロセルWDF(シスメックス株式会社)、ストマトライザー4DS(シスメックス株式会社)が挙げられる。
【0128】
第1蛍光色素及び第2蛍光色素は溶液にして用いられることが好ましい。溶媒は、上記の各蛍光色素を溶解できれば特に限定されない。例えば、水、有機溶媒、及びそれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、水に混合可能な溶媒が好ましく、例えば炭素数1~6のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0129】
測定試料の調製には、第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色試薬を用いることが好ましい。第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色試薬は、一つの試薬容器に収容されてもよい。染色試薬を収容した試薬容器は、箱に梱包されてもよい。箱には、添付文書を同梱してもよい。添付文書には、染色試薬の組成、各蛍光色素の構造、使用方法、保管方法などが記載されてもよい。図24Aを参照して、11は、本実施形態の染色試薬を示し、12は、第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色試薬を収容した試薬容器を示し、13は、梱包箱を示し、14は、添付文書を示す。あるいは、第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色試薬は、第1蛍光色素を含む試薬と、第2蛍光色素を含む試薬とがそれぞれ別個の試薬容器に収容された形態にあってもよい。図24Bを参照して、21は、本実施形態の染色試薬を示し、22は、第1蛍光色素を含む試薬を収容した第1試薬容器を示し、23は、第2蛍光色素を含む試薬を収容した第2試薬容器を示し、24は、梱包箱を示し、25は、添付文書を示す。
【0130】
染色試薬中の第1蛍光色素の濃度は、蛍光色素の種類に応じて適宜決定できる。第1蛍光色素の濃度は、例えば0.01 mg/L以上、好ましくは0.1 mg/L以上、より好ましく0.5 mg/Lである。第1蛍光色素の濃度は、例えば100 mg/L以下、好ましくは75 mg/L以下、より好ましく50 mg/L以下である。染色試薬中の第2蛍光色素の濃度は、第1蛍光色素と同様である。
【0131】
本発明の一実施形態は、染色試薬の製造のための第1蛍光色素及び第2蛍光色素の使用に関する。「染色試薬」、「第1蛍光色素」及び「第2蛍光色素」は上述したとおりである。
【0132】
(溶血試薬)
測定試料の調製に用いられる溶血試薬について説明する。溶血試薬は界面活性剤を含み、第1蛍光色素及び第2蛍光色素を含む染色試薬と組み合わせて用いられる。当該界面活性剤により、検体中の赤血球を溶血させ、且つ、赤血球以外の細胞の細胞膜に第1蛍光色素及び第2蛍光色素が透過できる程度の損傷を与えることができる。界面活性剤としては、例えばノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及びそれらの組み合わせが挙げられる。溶血試薬は、好ましくはノニオン性界面活性剤を含む。
【0133】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、下記の式(I)で表されるものが挙げられる。
-R-(CHCHO)-H (I)
(式中、Rは、炭素数8以上25以下のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり;Rは、酸素原子、-(COO)-又は下記の式(II):
【0134】
【化3】
であり;nは、23以上25以下又は30である。)
【0135】
式(I)中、好ましくはnが23又は25であり、より好ましくはnが23である。nが23以上25以下の場合、溶血試薬における式(I)で表されるノニオン界面活性剤の濃度は、1700 ppm以上であり、好ましくは1750 ppm以上である。また、nが23以上25以下の場合、測定試料における式(I)で表されるノニオン界面活性剤の濃度は、2300 ppm以下であり、好ましくは2200 ppm以下である。
【0136】
nが30である場合、溶血試薬における式(I)で表されるノニオン界面活性剤の濃度は、1900 ppm以上であり、好ましくは2000 ppm以上であり、より好ましくは2100 ppm以上である。また、nが30である場合、測定試料における式(I)で表されるノニオン界面活性剤の濃度は、2300 ppm以下であり、好ましくは2200 ppmである。
【0137】
式(I)で表されるノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。それらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレン(23)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(30)セチルエーテル及びそれらの群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、ポリオキシエチレン(23)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル及びそれらの組み合わせであり、さらに好ましくはポリオキシエチレン(23)セチルエーテルである。溶血試薬に含まれるノニオン界面活性剤は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。また、溶血試薬は、式(I)で表されるノニオン界面活性剤以外のノニオン界面活性剤をさらに含んでいてもよい。
【0138】
溶血試薬は、カチオン性界面活性剤をさらに含んでいてもよい。カチオン性界面活性剤としては、例えば第四級アンモニウム塩型界面活性剤、ピリジウム塩型界面活性剤及びそれらの組み合わせが挙げられる。第四級アンモニウム塩型界面活性剤としては、例えば、下記の式(III)で表される、全炭素数が9~30の界面活性剤が好ましい。溶血試薬に含まれるカチオン界面活性剤は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0139】
【化4】
【0140】
式(III)中、Rは、炭素数6~18のアルキル基又はアルケニル基であり;R及びRは、互いに同一又は異なって、炭素数1~4のアルキル基又はアルケニル基であり;Rは、炭素数1~4のアルキル基又はアルケニル基又はベンジル基であり、Xは、ハロゲンイオンである。
【0141】
式(III)中、Rは、炭素数が6、8、10、12及び14のアルキル基又はアルケニル基であることがましく、特に直鎖のアルキル基であることが好ましい。より具体的なRとしては、オクチル基、デシル基及びドデシル基が挙げられる。R及びRは、互いに同一又は異なって、メチル基、エチル基及びプロピル基であることが好ましい。Rは、メチル基、エチル基及びプロピル基であることが好ましい。
【0142】
ピリジウム塩型界面活性剤としては、例えば、式(IV)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0143】
【化5】
【0144】
式(IV)中、Rは、炭素数6~18のアルキル基又はアルケニル基であり;Xは、ハロゲンイオンである。
【0145】
式(IV)中、Rは、炭素数が6、8、10、12及び14のアルキル基又はアルケニル基であることがましく、特に直鎖のアルキル基であることが好ましい。より具体的なRとしては、オクチル基、デシル基及びドデシル基が挙げられる。
【0146】
溶血試薬におけるカチオン界面活性剤の濃度は、界面活性剤の種類により適宜選択できる。カチオン界面活性剤の濃度は10 ppm以上である。カチオン界面活性剤の濃度は、好ましくは400 ppm以上、より好ましくは500 ppm以上、さらに好ましくは600ppm以上である。また、カチオン界面活性剤濃度は10000 ppm以下である。カチオン界面活性剤の濃度は、好ましくは1000 ppm以下、より好ましくは800 ppm以下、さらに好ましくは700 ppm以下である。
【0147】
溶血試薬は、pHを一定にするための緩衝物質が含まれていてもよい。例えば、無機酸塩類、有機酸塩類、グッドの緩衝剤、それらの組み合わせなどが挙げられる。無機酸塩類としては、例えば、リン酸塩、ホウ酸塩、それらの組み合わせなどが挙げられる。有機酸塩類としては、クエン酸塩、リンゴ酸塩、それらの組み合わせなどが挙げられる。グッドの緩衝剤としては、例えばMES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPS及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0148】
溶血試薬は、芳香族有機酸をさらに含んでいてもよい。本明細書中では、芳香族有機酸とは、分子中に少なくとも1つの芳香環を有する酸及びその塩を意味する。芳香族有機酸としては、例えば、芳香族カルボン酸、芳香族スルホン酸などが挙げられる。芳香族カルボン酸としては、例えば、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、馬尿酸、それらの塩、それらの組み合わせなどが挙げられる。芳香族スルホン酸としては、例えば、p-アミノベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、それらの塩、それらの組み合わせなどが挙げられる。溶血試薬に含まれる芳香族有機酸は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。また、芳香族有機酸が緩衝作用を示す場合がある。緩衝作用を示す芳香族有機酸を用いる場合、緩衝剤の添加は任意であり、上述の緩衝剤と組み合わせてもよい。
【0149】
溶血試薬が芳香族有機酸を含む場合、芳香族有機酸の濃度は特に限定されないが、単球とリンパ球の分類能の観点から、20 mM以上が好ましく、より好ましくは25 mM以上である。また、溶血試薬に含まれる芳香族有機酸の濃度は50 mM以下が好ましく、より好ましくは45 mM以下である。
【0150】
溶血試薬は、液体試薬であることが好ましい。溶媒は、上記の界面活性剤などの各成分を溶解できれば特に限定されない。溶媒としては、例えば水、有機溶媒及びそれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、水に混合可能な溶媒が好ましく、例えば炭素数1~6のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、DMSOなどが挙げられる。
【0151】
溶血試薬のpHは特に限定されないが、5.5以上が好ましい。より好ましくは、5.7以上であり、さらに好ましくは5.9以上である。また、pHは7.2以下が好ましい。より好ましくは6.9以下であり、さらに好ましくは6.6以下である。pHの調整には、公知の塩基(水酸化ナトリウムなど)や酸(塩酸など)を用いることができる。
【0152】
溶血試薬において、浸透圧は特に限定されないが、赤血球の溶血効率の観点から150 mOsm/kg以下が好ましく、130 mOsm/kg以下がより好ましく、110 mOsm/kg以下が最も好ましい。浸透圧の調整には適切な浸透圧調整剤を添加してもよい。浸透圧調整剤として、例えば、糖、アミノ酸、有機溶媒、塩化ナトリウム、それらの組み合わせなどが挙げられる。
【0153】
溶血試薬として、市販の血球測定用の溶血試薬を用いてもよい。例えば、ライザセルWDF(シスメックス株式会社)、ライザセルWDFII(シスメックス株式会社)などが挙げられる。
【0154】
第1蛍光色素及び第2蛍光色素は、測定試料中の濃度(終濃度)がそれぞれ所定の範囲内の濃度となるように、検体及び溶血試薬と混合される。測定試料中の第1蛍光色素の好ましい終濃度は1000 ppm以下、好ましくは100 ppm以下、より好ましくは10 ppm以下である。測定試料中の第1蛍光色素の好ましい終濃度は0.001 ppm以上、好ましくは0.01 ppm以上、より好ましくは0.1 ppm以上である。測定試料中の第2蛍光色素の好ましい終濃度は1000 ppm以下、好ましくは100 ppm以下、より好ましくは10 ppm以下である。測定試料中の第2蛍光色素の好ましい終濃度は0.001 ppm以上、好ましくは0.01 ppm以上、より好ましくは0.1 ppm以上である。
【0155】
溶血試薬と染色試薬と検体の混合比は、例えば、体積比で表して1000:1以上:1以上が好ましい。より好ましくは1000:10以上:10以上であり、さらに好ましくは1000:15以上:15以上である。また、溶血試薬と染色試薬と検体の混合比は、例えば、体積比で表して、1000:50以下:50以下であることが好ましい。より好ましくは1000:30以下:30以下であり、さらに好ましくは1000:25以下:25以下である。染色試薬と検体との混合比は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0156】
(フローサイトメータの光源が1つの場合の実施形態)
光は、1つの光源から照射されてもよい。1つの光源から光が照射される場合、当該光源から照射される光は、第1蛍光色素及び第2蛍光色素の両方を励起可能な光である。そのような光としては、複数の波長を含む光が好ましく、例えば白色光が挙げられる。あるいは、第1蛍光色素及び第2蛍光色素が、1つの波長の光で励起可能な程度に近い波長域に極大吸収を有する場合、光源から照射される光は当該1つの波長の光であってもよい。例えば、第1蛍光色素又は第2蛍光色素の一方が極大吸収を400~520 nmの波長域に有し、他方が極大吸収を300~420 nmの波長域に有する場合、400~420 nmに中心波長を有する光、例えば455 nmの光により、両方の蛍光色素を励起できる。あるいは、例えば、第1蛍光色素および第2蛍光色素の極大吸収が630~660 nmの波長域内にあり、第1蛍光色素又は第2蛍光色素の一方が660~670 nmの波長域にピークを有する蛍光を発し、他方が670 nmより長波長域にピークを有する蛍光を発する場合、630~655 nmに中心波長を有する光、例えば633 nmの光により、両方の蛍光色素を励起でき、かつ、それぞれの蛍光色素から生じる光を区別して検出できる。
【0157】
1つの波長の光として、例えば633 nmの光を測定試料に照射する場合、第1蛍光色素及び第2蛍光色素の極大吸収が630~660 nmの波長域内にあり、第2蛍光色素が660~670 nmの波長域にピークを有する蛍光を発し、第1蛍光色素が670 nmより長波長域にピークを有する蛍光を発するような組み合わせが考えられる。そのような組み合わせとして、例えば、第1蛍光色素としてDRAQ5、DRAQ7又はDRAQ9(BioStatus社)、第2蛍光色素として上述の式(V)で表される蛍光色素を用いることができる。
【0158】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0159】
以下の参考例及び実施例では、下記の溶血試薬、染色試薬及び分析装置を用いて本実施形態の検体の分析方法を行った。詳細は、以下の[測定方法]に記載したとおりである。
【0160】
[溶血試薬]
溶血試薬として、ライザセルWDFII(シスメックス株式会社)を用いた。
【0161】
[染色試薬]
(第1蛍光色素)
第1蛍光色素として、アクリジンイエローG(関東化学株式会社)を用いた。
【0162】
(第2蛍光色素)
第2蛍光色素として、米国特許第6004816号明細書に記載の色素化合物Aを用いた。米国特許第6004816号明細書は本明細書に参照として組み込まれる。色素化合物Aは、上記の式(V)において、Rがメチル基であり、R及びRが水素原子であり、Rがn-オクチルであり、nが1であり、Zが硫黄原子であり、XがCF3SO3 である化合物であった。その構造式は、以下のとおりであった。
【0163】
【化6】
【0164】
米国特許第6004816号明細書に記載されるように、色素化合物Aは、次の工程によって得ることができた。1当量の3-メチル-2-メチルベンゾチアゾリウムメタンサルフェート及び3当量のN,N-ジフェニルホルムアミジンを酢酸中で、90℃の油浴上で加熱しながら1.5時間撹拌した。反応液をヘキサンにあけ、赤色油状物をさらにヘキサンで懸濁洗浄し、酢酸を除いた。粗生成物を酢酸エチル-ヘキサンで再結晶した(収率48%)。これに1当量の1-オクチルレピジニウムトリフレートとピリジンを加え、90℃の油浴上で加熱しながら3時間撹拌した。反応液を濃縮し、残った青色粗製物をフラッシュクロマトグラフィーにてメタノール-クロロホルムで精製して、濃暗青色粉末の色素化合物Aを得た(収率62%)。得られた色素化合物Aの物性試験(TLC、1H-NMR、MASS等)の結果は、米国特許第6004816号明細書に記載されている。色素化合物Aの極大吸収スペクトルは629 nmであった。
【0165】
上記の色素化合物A(27.5 mg)とアクリジンイエローG(25 mg)とを特級エチレングリコール(1 L)に溶解して、染色試薬を調製した。
【0166】
[分析装置]
多項目自動血球分析装置XN-1000(シスメックス株式会社)を以下のように改造して、分析装置として用いた。XN-1000は、図1図3に示したハードウェアを備え、FCM検出部460は、赤色(633 nm)の光を発する半導体レーザ光源と、赤色の前方散乱光の検出器と、赤色の側方散乱光の検出器と、赤色の光によって励起された蛍光(660 nm以上の光)を受光する検出器を有していた。このXN-1000に、青紫色(405 nm)の光を発する半導体レーザ光源、青紫色の散乱光の検出器、及び青紫色の光によって励起された蛍光(450~600 nm)を検出する蛍光検出器を増設する改造を行った。改造後のXN-1000のFCM検出部は、図4の構成を有していた。また、このXN-1000をフローサイトメトリ用解析ソフトFlowjo(商標)(BD Biosciences社)をインストールしたコンピュータに接続することで、赤色及び青紫色の散乱光情報ならびに第1蛍光色素及び第2蛍光色素から生じる蛍光情報について検出される測定データを解析し、所望のスキャッタグラムを表示するようにした。
【0167】
[測定方法]
XN-1000用染色試薬であるフルオロセルWDF(シスメックス株式会社)に替えて、上記のように調製した染色試薬を用いたことを除いて、測定試料の調製及び測定は、XN-1000(シスメックス株式会社)に付属のマニュアルに従って行った。データ解析はFlowjo(商標)により行った。測定試料は、1000μLのライザセルWDFIIと、17μLの検体と、20μLの染色試薬とを混合して調製した。測定試料における染色試薬の希釈倍率は51.85であり、測定試料中の第1蛍光色素及び第2蛍光色素の終濃度はそれぞれ0.53 ppm及び0.48 ppmであった。
【0168】
参考例1:血液試料の正常検体中の有核細胞と非有核成分との分画
血液試料の正常検体として、健常者から得た末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を上記の測定装置により測定して、第1蛍光情報と第2蛍光情報と散乱光情報を取得した。第1蛍光情報は、第1蛍光色素からの蛍光強度(以下、「青紫色蛍光強度」と呼ぶ)であった。第2蛍光情報は、第2蛍光色素からの蛍光強度(以下、「赤色蛍光強度」と呼ぶ)であった。散乱光情報は、測定試料中の粒子に赤色レーザを照射して得られた側方散乱光強度であった。取得した光学的情報に基づいて、横軸に側方散乱光強度をとり、縦軸に青紫色蛍光強度をとったスキャッタグラム(第1スキャッタグラム)を作成した。また、横軸に側方散乱光強度をとり、縦軸に赤色蛍光強度をとったスキャッタグラム(第2スキャッタグラム)を作成した。
【0169】
作成したスキャッタグラムを図25に示す。図25において、Aは、縦軸が赤色蛍光強度(リニアスケール)である第2スキャッタグラムであり、Bは、縦軸が赤色蛍光強度(対数スケール)である第2スキャッタグラムであり、Cは、縦軸が青紫色蛍光強度(リニアスケール)である第1スキャッタグラムであり、Dは、縦軸が青紫色蛍光強度(対数スケール)である第1スキャッタグラムである。各スキャッタグラム中、破線の楕円で囲まれた粒子群は、有核細胞(白血球)であり、実線の楕円で囲まれた粒子群は、非有核成分であった。有核細胞は主に白血球であった。非有核成分は、赤血球ゴースト、血小板などを含むデブリであった。図25のB及びDのスキャッタグラムについて、非有核成分の蛍光強度に対する有核細胞の蛍光強度の比(WBC/Debris比)を算出した。BのWBC/Debris比は8.9であり、DのWBC/Debris比は92.7であった。第1蛍光色素からの蛍光により、有核細胞と非有核成分との分画性能が向上したことが分かった。
【0170】
実施例1:血液試料の正常検体の分析
血液試料の正常検体として、健常者から得た末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図26に示す。図26のAに示される第2スキャッタグラムでは、白血球が5つの亜集団、すなわちリンパ球(Lymph)の集団、単球(Mono)の集団、好中球(Neut)の集団、好酸球(Eo)の集団及び好塩基球(Baso)の集団に分類された。図26のBに示される第1スキャッタグラムでは、上記の5つの集団は、ほぼ同等の蛍光強度の領域に出現した。第1スキャッタグラムより、異常細胞は検出されなかった。
【0171】
第1スキャッタグラム(縦軸が対数スケール)において、青紫色蛍光強度が高値の領域に含まれる有核細胞の集団を選別(ゲーティング)し、その集団を第2スキャッタグラム上にプロットした。作成したスキャッタグラムを図27に示す。図27のAに示される第1スキャッタグラムでは、実線の四角で囲まれた領域に出現した有核細胞(白血球)の集団をゲーティングした。図27のBに示される第2スキャッタグラムでは、ゲーティングされた有核細胞の集団が5つの亜集団に分類された。実線の楕円は、デブリが出現する領域を示すが、Bの第2スキャッタグラムではデブリは出現しなかった。図27のCに示される第2スキャッタグラムでは、第1スキャッタグラムにおいて有核細胞の集団をゲーティングせず、測定試料中の全粒子を分類した結果を表す。図27のCより、実線の楕円で示す領域にデブリが出現した。このように、第1スキャッタグラムにおいて有核細胞の集団をゲーティングすることで、デブリのような非有核成分の影響を除外できる。その結果、第2スキャッタグラムにおいて、白血球をより正確に分類できることが示された。
【0172】
実施例2:血小板凝集(PLT-clumps)を含む検体の分析
検体として、採血管中で血小板凝集が生じた末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図28に示す。図28のAに示される第2スキャッタグラムでは、後述のように、血小板凝集が出現する領域は、好中球の集団及び好塩基球の集団が出現する領域と重なっていた。図28のBに示される第1スキャッタグラムでは、PLT-clumpsが疑われる集団が、破線の楕円で囲まれた領域に出現した。正常検体では、この領域に粒子群はほとんど認められない(図26のB参照)。このように、第1スキャッタグラムの青紫色蛍光強度が低い領域に、所定の数以上の粒子が存在する場合、当該粒子の集団は、PLT-clumpsであることが疑われる。よって、第1スキャッタグラムの青紫色蛍光強度が低い領域に存在する粒子群のうち、好中球及び好酸球の集団と同程度の散乱光強度を有する集団は、PLT-clumpsとして定義できることが示された。
【0173】
図28のBに示される第1スキャッタグラムにおいて、PLT-clumpsと定義した集団をゲーティングし、その集団を第2スキャッタグラム上にプロットした。作成した第2スキャッタグラムを図28のCに示す。PLT-clumpsと定義した集団は、破線の四角で囲まれた領域に出現した。図28のCのスキャッタグラムを元の第2スキャッタグラム(図28のA)と重ね合わせた。これを図28のDに示す。図28のDのスキャッタグラムから分かるように、破線の四角で囲まれた領域、すなわちPLT-clumpsと定義した集団が出現した領域は、好中球の集団及び好酸球の集団が出現する領域と重なっていた。よって、第2スキャッタグラムのみにより、PLT-clumpsを検出及び分類することは困難であった。一方、第1スキャッタグラムにより、PLT-clumpsを検出又は分類できることが示された。
【0174】
実施例3:血小板凝集(PLT-clumps)と感染赤血球(iRBC)との区別
PLT-clumpsを含む検体として、採血管中で血小板凝集が生じた末梢血を用いた。iRBCを含む検体として、培養マラリア添加人血を用いた。これは、インビトロで白血球を除去した健常者の血液にマラリア原虫を感染させ、所定の期間培養することにより取得された。各検体から調製した測定試料を測定した。測定では、青紫色蛍光強度、赤色蛍光強度及び側方散乱光強度の他に、前方散乱光シグナルの強度及び幅を取得した。それぞれの検体について、取得した情報に基づいてスキャッタグラムを作成した。PLT-clumpsを含む検体についてのスキャッタグラムを図29に示す。iRBCを含む検体についてのスキャッタグラムを図30に示す。図29及び30において、Aは、横軸に側方散乱光強度をとり、縦軸に前方散乱光強度をとったスキャッタグラムであり、Bは第2スキャッタグラムであり、Cは第1スキャッタグラムであり、Dは、横軸に前方散乱光の幅をとり、縦軸に前方散乱光強度をとったスキャッタグラムである。
【0175】
図29のA及びBのスキャッタグラムでは、PLT-clumpsの集団は、実線の四角で囲まれた領域に出現した。しかし、白血球の亜集団の分布により、PLT-clumpsの集団を検出することは困難であった。同様に、図30のA及びBのスキャッタグラムでは、iRBCの集団は、実線の四角で囲まれた領域に出現したが、iRBCの集団を検出することは困難であった。図29のCの第1スキャッタグラムでは、実線の四角で囲まれた青紫色蛍光強度が低い領域に、PLT-clumpsが疑われる集団が出現した。図30のCの第1スキャッタグラムでは、実線の四角で囲まれた青紫色蛍光強度が低い領域に、iRBCが疑われる集団が出現した。図29のCと図30のCとを比較すると、第1スキャッタグラムにより、PLT-clumpsとiRBCとを区別することは困難であった。ここで、PLT-clumpsは凝集物であるので、粒子の幅が大きくなる傾向にある。しかし、iRBCはマラリア感染赤血球であるので、凝集しない。ここで、フローセルを通過する粒子の幅が大きいほど、前方散乱光の幅の値は大きくなることが知られている。そこで、第1スキャッタグラムにおいてPLT-clumpsが疑われる集団及びiRBCが疑われる集団をそれぞれゲーティングし、図29及び30のDのスキャッタグラムにプロットした。図29のDのスキャッタグラムでは、PLT-clumpsが疑われる集団は、実線の四角で囲まれた前方散乱光の幅の値が高い領域に出現した。一方、図30のDのスキャッタグラムでは、iRBCが疑われる集団は、実線の四角で囲まれた前方散乱光の幅の値が低い領域に出現した。このように、第1スキャッタグラムの青紫色蛍光強度が低い領域に出現した粒子群をゲーティングし、横軸に前方散乱光の幅をとり、縦軸に前方散乱光強度をとったスキャッタグラム上にプロットすることにより、PLT-clumpsとiRBCとを区別できることが示された。
【0176】
実施例4:幼若顆粒球(IG)を含む検体の分析
IGを含む検体として、幼若顆粒球を含む末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図31に示す。図31のAに示される第2スキャッタグラムでは、正常な白血球が少なくともリンパ球、単球及び好中球の3つ亜集団に分類された。図31のAでは、リンパ球に分類された集団において、閾値以上の赤色蛍光強度を有する粒子は、ほとんど認められなかった。また、単球の集団よりも高い赤色蛍光強度を有し、且つ単球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子は少数であった。しかし、好中球の集団よりも高い赤色蛍光強度を有し、且つ好中球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。この粒子群は、正常検体には認められなかったことから、当該領域に出現した粒子群をIGクラスタとして定義した。
【0177】
図31のBに示される第1スキャッタグラムにおいても、正常な白血球が少なくともリンパ球、単球及び好中球の3つ亜集団に分類された。この第1スキャッタグラムでは、単球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を有し、且つ単球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子は、ほとんど認められなかった。しかし、好中球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を有し、且つ好中球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。当該領域に出現した粒子群をIGクラスタとして定義した。このように、第1又は第2スキャッタグラムにおいて、蛍光強度が好中球の集団よりも高く、且つ散乱光強度が好中球の集団と同じである領域を、IGクラスタが出現する領域として定義できることが示された。この定義した領域に、所定の数以上の粒子が出現した場合、当該粒子をIGとして検出又は分類できることが示された。
【0178】
実施例5:有核赤血球(NRBC)を含む検体の分類
NRBCを含む検体として、赤芽球を含む末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図32に示す。図32のAに示される第2スキャッタグラムでは、赤芽球は、破線の楕円で囲まれた領域に出現したが、デブリと重なっていた。そのため、赤芽球とデブリの区別は困難であり、赤芽球を検出及び分類できなかった。一方、図32のBに示される第1スキャッタグラムでは、赤芽球は、実線の楕円で囲まれた領域に出現した。しかし、この領域にはリンパ球も出現するので、赤芽球を検出及び分類することは困難であった。一方、デブリは、第1スキャッタグラムの青紫色蛍光強度が低い領域に出現した。この第1スキャッタグラムから分かるように、赤芽球の集団は、青紫色蛍光強度により、デブリの集団と明確に区別できた。そこで、第1スキャッタグラムにおいて青紫色蛍光強度が高い領域をゲーティングし、第2スキャッタグラム上にプロットした。作成した第2スキャッタグラムを図32のCに示す。図32のCのスキャッタグラムでは、赤芽球は、実線の楕円で囲まれた領域に出現した。このスキャッタグラムから分かるように、デブリの粒子は除外されているので、赤芽球の検出及び分類が可能となった。第1スキャッタグラムでのゲーティングに替えて、青紫色蛍光強度のヒストグラムにおいて当該強度が高値の粒子群を選別して、第2スキャッタグラムにプロットした場合も、図32のCと同様のスキャッタグラムが得られた。図32のCのスキャッタグラムにおいて、赤色蛍光強度がリンパ球の集団よりも低い領域を、NRBCクラスタが出現する領域として定義できることが示された。この定義した領域に、所定の数以上の粒子が出現した場合、当該粒子をNRBCとして検出又は分類できることが示された。
【0179】
実施例6:幼若赤芽球及び巨赤芽球(immature NRBC/Megaloblast)とDNA量異常白血球(DNA aneuploidy)との区別
immature NRBC/Megaloblastを含む検体として、赤芽球(NRBC)を含む末梢血を用いた。DNA aneuploidyを含む検体として、DNA量異常白血球を含む末梢血を用いた。各検体から調製した測定試料を測定した。測定では、青紫色蛍光強度、赤色蛍光強度及び側方散乱光強度の他に、前方散乱光シグナルの強度を取得した。それぞれの検体について、取得した情報に基づいてスキャッタグラムを作成した。immature NRBC/Megaloblastを含む検体についてのスキャッタグラムを図33に示す。DNA aneuploidyを含む検体についてのスキャッタグラムを図34に示す。図33及び34において、Aは第2スキャッタグラムであり、Bは第1スキャッタグラムであり、Cは、横軸に側方散乱光強度をとり、縦軸に前方散乱光強度をとったスキャッタグラムである。
【0180】
図33のAに示される第2スキャッタグラムでは、immature NRBC/Megaloblastは、破線の楕円で囲まれた領域に出現したが、リンパ球の集団と重なっていた。そのため、immature NRBC/Megaloblastを検出及び分類できなかった。図33のBに示される第1スキャッタグラムでは、リンパ球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を示し、且つリンパ球又は単球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。この一群の粒子は、immature NRBC/Megaloblastであった。この粒子群と正常な白血球とを合わせた粒子集団について、青紫色蛍光強度のCV値を算出した。算出したCV値は閾値以上であったことから、immature NRBC/Megaloblastは、第1スキャッタグラムにおいてリンパ球の集団及び単球の集団から分離したクラスタであった。
【0181】
図34のAに示される第2スキャッタグラムでも、図33のAと同様、DNA aneuploidyは、破線の楕円で囲まれた領域に出現したが、リンパ球の集団と重なっていた。そのため、DNA aneuploidyを検出及び分類できなかった。図34のBに示される第1スキャッタグラムでも、図33のBと同様、リンパ球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を示し、且つリンパ球と同じ散乱光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。この一群の粒子は、DNA aneuploidyであった。また、この粒子群と正常な白血球とを合わせた粒子集団について、青紫色蛍光強度のCV値を算出した。算出したCV値は閾値以上であった。よって、DNA aneuploidyは、リンパ球の集団から分離したクラスタであった。図33のBと図34のBとを比較すると、第1スキャッタグラムにより、immature NRBC/MegaloblastとDNA aneuploidyとを区別することは困難であった。
【0182】
図33のCに示されるスキャッタグラムでは、immature NRBC/Megaloblastは、実線の楕円で囲まれた領域に出現した。このスキャッタグラムから分かるように、immature NRBC/Megaloblastのクラスタはリンパ球の集団と重なっていた。すなわち、immature NRBC/Megaloblastの前方散乱光強度は、リンパ球の前方散乱光強度とほぼ同じであった。一方、図34のCに示されるスキャッタグラムでは、DNA aneuploidyは、実線の楕円で囲まれた領域に出現した。このスキャッタグラムから分かるように、DNA aneuploidyのクラスタは、リンパ球の集団よりも前方散乱光強度が高い領域に出現した。図33のCと図34のCとを比較すると、immature NRBC/MegaloblastとDNA aneuploidyとを区別できることが示された。
【0183】
図33及び34より、第1スキャッタグラムにおいて、青色蛍光強度がリンパ球の集団よりも高く、且つ散乱光強度がリンパ球の集団又は単球の集団と同じである領域に、所定の数以上の粒子が出現し、当該粒子の青紫色蛍光強度のCV値が閾値以上であるとき、当該粒子は、immature NRBC/Megaloblast又はDNA aneuploidyと疑われることが示された。そして、当該粒子の前方散乱光強度が閾値未満であるとき、当該粒子はimmature NRBC/Megaloblastと定義できることが示された。また、当該粒子の前方散乱光強度が閾値以上であるとき、当該粒子はDNA aneuploidyと定義できることが示された。
【0184】
実施例7:異常白血球細胞群の検出及び分類
異常白血球細胞には主に、異型リンパ球、異常リンパ球、骨髄芽球及びリンパ芽球の4種類が知られている。また、異常リンパ球には、DNA量には異常のない腫瘍性細胞とDNA量異常白血球とが存在する。実施例7では、各種の異常白血球細胞を含む検体をそれぞれ分析した。
【0185】
(1) 異型リンパ球(Aty-Lymph)を含む検体の分析
Aty-Lymphを含む検体として、異型リンパ球を含む末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図35に示す。図35のAに示される第2スキャッタグラムでは、正常な白血球が少なくともリンパ球、単球及び好中球の3つ亜集団に分類された。図35のAでは、リンパ球に分類された集団において、閾値以上の赤色蛍光強度を有する粒子は、ほとんど認められなかった。また、好中球の集団よりも高い赤色蛍光強度を有し、且つ好中球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子は、ほとんど認められなかった。しかし、単球の集団よりも高い赤色蛍光強度を有し、且つ単球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。この粒子群は、正常検体には認められなかったことから、当該領域に出現した粒子群をAty-Lymphクラスタとして定義した。
【0186】
図35のBに示される第1スキャッタグラムにおいても、正常な白血球が少なくともリンパ球、単球及び好中球の3つ亜集団に分類された。この第1スキャッタグラムでは、リンパ球の集団に、青紫色蛍光強度がこれに対応する閾値以上である示す粒子は、ほとんど認められなかった。また、好中球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を有し、且つ好中球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子も、ほとんど認められなかった。しかし、単球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を有し、且つ単球の集団と同じ散乱光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。当該領域に出現した粒子群をAty-Lymphクラスタとして定義した。このように、第1又は第2スキャッタグラムにおいて、蛍光強度が単球の集団よりも高く、且つ散乱光強度が単球の集団と同じである領域を、Aty-Lymphクラスタが出現する領域として定義できることが示された。この定義した領域に、所定の数以上の粒子が出現した場合、当該粒子をAty-Lymphとして検出又は分類できることが示された。
【0187】
(2) 異常リンパ球(Abn-Lymph)を含む検体の分類
Abn-Lymphを含む検体として、DNA量異常白血球ではない異常リンパ球を含む末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図36に示す。図36のAに示される第2スキャッタグラムでは、正常な白血球が少なくともリンパ球、単球、好中球及び好酸球の4つ亜集団に分類された。図36のAでは、リンパ球に分類された集団において、閾値以上の赤色蛍光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。図36のBに示される第1スキャッタグラムでは、正常な白血球が少なくともリンパ球、単球、好中球及び好酸球の4つ亜集団に分類された。この第1スキャッタグラムでは、リンパ球の集団よりも高い赤色蛍光強度を有する粒子は、ほとんど認められなかった。よって、検体中にDNA量が異常な細胞はほとんど存在しないことが示唆された。第2スキャッタグラムにおいて、実線の四角で囲まれた領域、すなわち赤色蛍光強度が閾値以上であり、且つ散乱光強度がリンパ球の集団と同じである領域に出現した粒子群をAbn-Lymphクラスタとして定義した。この定義した領域に、所定の数以上の粒子が出現した場合、当該粒子をAbn-Lymphとして検出又は分類できることが示された。
【0188】
(3) DNA量異常白血球(DNA aneuploidy)を含む検体の分析
DNA aneuploidyを含む検体として、DNA量異常白血球を含む末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図37に示す。図37のAに示される第2スキャッタグラムでは、正常な白血球が少なくともリンパ球、単球及び好中球の3つ亜集団に分類された。図37のAでは、リンパ球に分類された集団において、閾値以上の赤色蛍光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。ここで、図37のAと図36のAとを比較すると、第2スキャッタグラムにおける粒子の分布はほぼ同様であった。よって、第2スキャッタグラムにより、検体中の異常白血球細胞がAbn-Lymphであるか又はDNA aneuploidyであるかを区別することは困難であった。
【0189】
図37のBに示される第1スキャッタグラムでは、正常な白血球が少なくともリンパ球、単球、好中球及び好酸球の4つ亜集団に分類された。この第1スキャッタグラムでは、リンパ球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を有する粒子が、実線の楕円で囲まれた領域に多数出現した。この一群の粒子は、正常な白血球よりも多量のDNAを含むことが示された。この粒子群と正常な白血球とを合わせた粒子集団について、青紫色蛍光強度のCV値を算出した。算出したCV値は閾値以上であった。よって、この粒子群が正常な白血球の各亜集団に対して離散的であることが示唆された。実際、図37のBにおいて、実線の楕円で囲まれた領域に出現した粒子は、リンパ球の集団及び単球の集団から分離したクラスタであった。よって、実線の楕円で囲まれた領域に出現した粒子群は、DNA aneuploidyであることが示唆された。
【0190】
このように、第2スキャッタグラムにおいて、赤色蛍光強度が閾値以上であり、且つ散乱光強度がリンパ球の集団と同じである領域に出現した粒子群は、Abn-Lymph又はDNA aneuploidyであることが疑われる。しかし、第1スキャッタグラムにおいて、青紫色蛍光強度がリンパ球の集団よりも高い領域に、所定の数以上の粒子が出現し、且つその粒子群の青紫色蛍光強度のCV値が閾値以上である場合、当該粒子群をDNA aneuploidyとして検出又は分類できることが示された。
【0191】
(4) 骨髄芽球(M-Blast)を含む検体の分析
M-Blastを含む検体として、骨髄芽球を含む末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図38に示す。図38のAに示される第2スキャッタグラムでは、リンパ球の集団と単球の集団とが重なり、大きな集団が認められた。また、好中球の集団及び好酸球の集団が分類された。リンパ球の集団よりも高い赤色蛍光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数認められた。この領域に出現した粒子には骨髄芽球が含まれていたが、図38のAから分かるように、骨髄芽球の粒子群は単球の集団と重なっていた。
【0192】
図38のBに示される第1スキャッタグラムでは、リンパ球の集団と単球の集団とが重なった大きな集団が認められた。また、好中球の集団及び好酸球の集団が分類された。この第1スキャッタグラムでは、リンパ球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数認められた。これらの粒子は、正常な白血球よりも多量のDNAを含むことが示された。第1スキャッタグラムにおける実線の四角で囲まれた領域中の粒子、リンパ球及び単球を合わせた粒子集団について、青紫色蛍光強度のCV値を算出した。算出したCV値は閾値未満であった。よって、実線の四角で囲まれた領域中の粒子は、リンパ球の集団及び単球の集団に連続するクラスタであることが示唆された。このことは、第1スキャッタグラムに示された粒子の分布のとおりであった。また、第1スキャッタグラムにおけるリンパ球の集団について、側方散乱光強度のCV値を算出した。算出したCV値は閾値以上であった。これらのことから、実線の四角で囲まれた領域、すなわち、青色蛍光強度がリンパ球の集団よりも高く、且つ側方散乱光強度がリンパ球の集団及び単球の集団と同じである領域内の粒子を、骨髄芽球として定義できることが示された。
【0193】
(5) リンパ芽球(L-Blast)を含む検体の分析
L-Blastを含む検体として、リンパ芽球を含む末梢血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図39に示す。図39のAに示される第2スキャッタグラムでは、リンパ球の集団と好中球の集団が分類された。リンパ球の集団において、閾値以上の赤色蛍光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数出現した。この領域に出現した粒子にはリンパ芽球が含まれていたが、図39のAから分かるように、リンパ芽球の粒子群はリンパ球の集団と重なっていた。
【0194】
図39のBに示される第1スキャッタグラムでは、リンパ球の集団と好中球の集団が分類された。リンパ球の集団よりも高い青紫色蛍光強度を有する粒子が、実線の四角で囲まれた領域に多数認められた。これらの粒子は、正常な白血球よりも多量のDNAを含むことが示された。第1スキャッタグラムにおける実線の四角で囲まれた領域中の粒子及びリンパ球を合わせた粒子集団について、青紫色蛍光強度のCV値を算出した。算出したCV値は閾値未満であった。よって、実線の四角で囲まれた領域中の粒子は、リンパ球の集団に連続するクラスタであることが示唆された。このことは、第1スキャッタグラムに示された粒子の分布のとおりであった。また、第1スキャッタグラムにおけるリンパ球の集団について、側方散乱光強度のCV値を算出した。算出したCV値は閾値未満であった。これらのことから、実線の四角で囲まれた領域、すなわち、青色蛍光強度がリンパ球の集団よりも高く、且つ側方散乱光強度がリンパ球の集団と同じである領域内の粒子を、リンパ芽球として定義できることが示された。
【0195】
参考例2:DNA量異常白血球のDNAインデックスの取得
本実施形態の検体の分析方法によりDNA量異常白血球(DNA aneuploidy)を検出又は分類した場合、第1蛍光色素からの蛍光強度のヒストグラムを用いてDNAインデックスを取得できる。DNAインデックスは、正常白血球のDNA量に対するDNA量異常白血球のDNA量の比率である。DNAインデックスは、リンパ腫の悪性度を示唆し得る。以下に、DNAインデックスを取得する方法について説明する。
【0196】
DNA aneuploidyを含む検体として、マントル細胞リンパ腫患者の末梢血を用いた。実施例7の(3)と同様に、当該末梢血から調製した測定試料を測定し、第2スキャッタグラムを作成した。図40のAを参照して、第2スキャッタグラムにおいて、単球及びリンパ球の集団が出現した領域(実線で囲まれた領域)をゲーティングした。この領域内の粒子を青紫色蛍光強度(以下、「V-SFL」ともいう)のヒストグラムで分析した。図40のBのヒストグラムには2つのピークが認められた。V-SFLが低い方のピーク(左のピーク)を「第1ピーク」と呼び、V-SFLが高い方のピーク(右のピーク)を「第2ピーク」と呼んだ。第1ピークを構成する全ての粒子を「V-SFL正常集団」と定義し、第2ピークを構成する全ての粒子を「V-SFL高値集団」と定義した。ここで、正常白血球のDNA量はほぼ一定であり、正常検体の第1スキャッタグラムから分かるように、正常白血球が示す青色蛍光強度の範囲も既知である。したがって、図40のBでは、V-SFL正常集団は、正常なリンパ球及び単球を含むことが示唆され、V-SFL高値集団は、DNA量異常白血球を含むことが示唆された。各集団のV-SFLの代表値として最頻値を用いて、下記の式によりDNAインデックスを算出した。図40の例では、DNAインデックスは1.67であった。
【0197】
(DNAインデックス) = (V-SFL高値集団の最頻値)/(V-SFL正常集団の最頻値)
【0198】
参考例3:蛍光試薬による細胞の染色部位
上記の溶血試薬及び染色試薬を用いて、幼若顆粒球を含む末梢血から測定試料を調製した。測定試料中の細胞をイメージングフローサイトメータで撮像して、リンパ球、好中球及び幼若顆粒球における染色部位を確認した。結果を図41に示す。図中、「Bright」は明視野像を表し、「1st dye」は第1蛍光色素による蛍光画像を表し、「2nd dye」は第2蛍光色素による蛍光画像を示し、「Merge」は第1蛍光色素による蛍光画像と第2蛍光色素による蛍光画像の重ね合わせを表す。図41に示されるように、リンパ球(Lymp)及び好中球(Neut)に比べて、幼若顆粒球(IG)は第1蛍光色素及び第2蛍光色素により強く染色されていることが分かった。これは、幼若顆粒球が、リンパ球及び好中球よりもDNA及びRNAの量が多いことを示唆する。
【0199】
参考例4:DNA異常(%)の取得
正常検体及びDNA量異常白血球を含む検体の計16検体を、本実施形態の検体の分析方法及び標準測定法により分析して、DNA異常(%)を取得した。標準測定法とは、Takamoto S.ら, Guidelines for flow cytometric analysis of DNA aneuploidy, Cytometry Research, vol.19, no.1, pp.1-9, 2009に記載の日本フローサイトメトリ学会標準化委員会による測定方法であった。標準測定法では、第1蛍光色素としてヨウ化プロビジウム(PI)を含む染色液を用いた。染色液の組成は、50μg/mL PI、0.1% Triton(商標)X-100、0.1%クエン酸二ナトリウム三水和物及び1 mg/mL RNaseであった。
【0200】
標準測定法では、全血(50μL)に染色液(1 mL)を混合し、30分以上静置して測定試料を得た。得られた測定試料を上記の分析装置で測定した。Flowjo(商標)により、横軸に側方散乱光強度をとり、縦軸に前方散乱光強度をとったスキャッタグラムを作成した。図42のAを参照して、このスキャッタグラム上で、デブリを含まず且つ白血球を含む領域(実線で囲まれた領域)をゲーティングし、白血球についてPIの蛍光強度のヒストグラムを作成し、白血球を計数した。図42のBを参照して、このヒストグラム上で、蛍光強度が高値を示す集団をゲーティングし、計数した。本実施形態の検体の分析方法では、各検体から調製した測定試料を測定し、第1スキャッタグラムを作成した。図43を参照して、第1スキャッタグラム上で、デブリを含まず且つ白血球を含む領域(実線で囲まれた領域)をゲーティングし、領域内の粒子を計数した。この領域内の粒子のうち、青色蛍光強度が高値の集団(破線で囲まれた領域)をゲーティングし、計数した。標準測定法及び本実施形態の検体の分析方法で計数した細胞数を用いて、下記の式により各検体のDNA異常(%)を算出した。
【0201】
(DNA異常) = {(第1蛍光色素の蛍光強度が高値を示す細胞の数)/(白血球の数)}×100
【0202】
標準測定法及び本実施形態の検体の分析方法で取得したDNA異常(%)の値をプロットし、回帰直線(y=3.5122x-0.3086)を得た。相関係数(r)は0.961であり、決定係数(r2)は0.9241であった。図44を参照して、本実施形態の検体の分析方法は標準測定法と高い相関性を有することが示された。
【0203】
実施例8:感染赤血球(iRBC)を含む検体の分析
iRBCを含む検体として、培養マラリア添加人血を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図45に示す。図45のAに示される第2スキャッタグラムでは、デブリの集団よりも高い赤色蛍光強度及び側方散乱光強度を有する粒子が、破線の楕円で囲まれた領域に出現した。この領域に出現した粒子にはiRBCが含まれていたが、図45のAから分かるように、iRBCの粒子群は好中球の集団と重なっていた。図45のBに示される第1スキャッタグラムでは、iRBCの粒子群が、実線の楕円で囲まれた領域に出現した。第2スキャッタグラムとは異なり、第1スキャッタグラムでのiRBCの粒子群は、白血球の亜集団とは重なっていなかった。よって、第1スキャッタグラムにおいて、青色蛍光強度及び側方散乱光強度がデブリの集団よりも高い領域に出現した粒子群をiRBCクラスタとして定義できることが示された。なお、iRBCとPLT-clumpsとの区別については、実施例3のとおりである。
【0204】
実施例9:非血液試料の正常検体の分析
非血液試料の正常検体として、異常細胞を含まないことが既知の胸水を用いた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図46に示す。図46のAに示される第1スキャッタグラムでは、破線の楕円で囲まれた領域に単核球(単球及びリンパ球)の集団が出現し、実線の楕円で囲まれた領域に多形核球(好中球、好酸球及び好塩基球)の集団が出現した。これらの集団は、青色蛍光強度が低い領域に出現したデブリの集団から離れていた。よって、第1スキャッタグラムより、有核細胞とデブリとを区別し、有核細胞のみをゲーティングできることが示された。また、側方散乱光強度が低い領域に出現した有核細胞の集団を単核球と定義し、側方散乱光強度が高い領域に出現した有核細胞の集団を多形核球と定義できることが示された。図46のBに示される第2スキャッタグラムでは、破線の楕円で囲まれた領域に単球の集団及びリンパ球の集団が出現し、実線の楕円で囲まれた領域に多形核球の集団が出現した。
【0205】
実施例10:組織由来細胞を含む検体の分析
組織由来細胞を含む検体として、中皮細胞を含むことが確認された胸水を用いた。この検体をメイ・ギムザ染色して顕微鏡で観察すると、図47のAの顕微鏡画像に示されるように、実線の四角で囲まれた領域に中皮細胞が認められた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。作成したスキャッタグラムを図47に示す。図47のBに示される第2スキャッタグラム及びCに示される第1スキャッタグラムのいずれにおいても、破線の楕円で囲まれた領域に中皮細胞の粒子が出現した。よって、第1スキャッタグラム又は第2スキャッタグラムにおいて、蛍光強度が高い領域に出現した粒子群を組織由来細胞クラスタと定義できることが示された。
【0206】
実施例11:細菌又は真菌を含む検体の分析
細菌又は真菌を含む検体として、真菌を含むことが確認された腹水を用いた。この検体をメイ・ギムザ染色して顕微鏡で観察すると、図48のAの顕微鏡画像に示されるように、実線の四角で囲まれた領域に真菌が認められた。この検体から調製した測定試料を測定して、第1及び第2スキャッタグラムを作成した。図48のBに示される第2スキャッタグラムでは、真菌の粒子群は、好中球の集団に重なり、検出できなかった。一方、図48のCに示される第1スキャッタグラムでは、真菌の粒子群は、破線の楕円で囲んだ領域に出現した。よって、第1スキャッタグラムにおいて、デブリの集団よりも青紫色蛍光強度が高く且つ白血球よりも青色蛍光強度が低い領域に出現した粒子群を、細菌又は真菌のクラスタと定義できることが示された。
【0207】
検体に細菌又は真菌のクラスタが検出された場合でも、それらを除外することにより、白血球を検出及び分類できた。図49のAに示されるように、上記の真菌を含む検体の第1スキャッタグラムにおいて、白血球を含む青色蛍光強度が高い領域をゲーティングすることにより、デブリの集団及び真菌のクラスタを除いた。図49のBに示されるように、青色蛍光強度のヒストグラムにおいて、青色蛍光強度が高い集団をゲーティングすることによっても、デブリの集団及び真菌のクラスタを除外できた。ゲーティングした粒子群を第2スキャッタグラムにプロットすることにより、図49のCに示されるように、白血球の集団を検出及び分類できた。
【符号の説明】
【0208】
11、21 染色試薬
12 試薬容器
13、24 梱包箱
14、25 添付文書
22 第1試薬容器
23 第2試薬容器
100 採血管
200 吸引管
300 分析ユニット
400 測定ユニット
410、411 試薬容器
413 フローセル
420 反応チャンバ
430 廃液チャンバ
500 分析システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17
図18
図19
図20A
図20B
図20C
図21
図22
図23
図24A
図24B
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
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図49