(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146271
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】エキスパンションジョイント
(51)【国際特許分類】
E04B 1/68 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
E04B1/68 100A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059068
(22)【出願日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2023年3月31日付で東京都板橋区高島平六丁目において、株式会社大林組が建築物を竣工し公開。
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】510334815
【氏名又は名称】株式会社新高製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉谷 忠久
(72)【発明者】
【氏名】河副 徳之
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001PA04
(57)【要約】
【課題】耐久性を高めたエキスパンションジョイントを提供することである。
【解決手段】第1棟2と第1棟2に隙間3を空けて隣接する第2棟4とを有する建築物1の隙間3の部分に設けられるエキスパンションジョイント10であって、上向きの第1傾斜面11aを先端に備え、基端側において第1棟2の上に固定されて先端側が隙間3に張り出すとともに平面視で第2棟4との間に間隙Sを有する固定板部11と、第1傾斜面11aに対向する下向きの第2傾斜面12aを先端に備え、第2棟4の上に配置されるとともに基端側においてヒンジ13により第2棟4に上下方向に回動自在に支持された回動板部12と、を有することを特徴とするエキスパンションジョイント10。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1棟と前記第1棟に隙間を空けて隣接する第2棟とを有する建築物の前記隙間の部分に設けられるエキスパンションジョイントであって、
上向きの第1傾斜面を先端に備え、基端側において前記第1棟の上に固定されて先端側が前記隙間に張り出すとともに平面視で前記第2棟との間に間隙を有する固定板部と、
前記第1傾斜面に対向する下向きの第2傾斜面を先端に備え、前記第2棟の上に配置されるとともに基端側においてヒンジにより前記第2棟に上下方向に回動自在に支持された回動板部と、を有することを特徴とするエキスパンションジョイント。
【請求項2】
前記固定板部と前記回動板部とが、前記第1棟の上面と前記第2棟の上面とに亘って設けられた車道の一部を構成する、請求項1に記載のエキスパンションジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1棟と第1棟に隙間を空けて隣接する第2棟とを有する建築物の隙間の部分に設けられるエキスパンションジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物として、第1棟と第1棟に隙間を空けて隣接する第2棟とを有し、これら隣接する第1棟と第2棟との隙間の部分にエキスパンションジョイントを設けることで、隣り合う棟の間を行き来可能としつつ地震、気温変化、不同沈下などによる隙間の増減を吸収するようにした構成のものが知られている。
【0003】
従来、上記のような建築物に用いられるエキスパンションジョイントとして、第1棟に設けられた上向き傾斜面と、上向き傾斜面に対向する下向き傾斜面を先端に備え、隣接する第1棟と第2棟との間の隙間を覆うように第1棟と第2棟との間に架け渡して配置されるとともに第2棟に基端側を軸として上向きに回動自在に支持された回動板部と、を有するものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
当該構成のエキスパンションジョイントは、例えばトラックターミナル、駐車場などの車両が走行する車道を有する建築物において、第1棟から第2棟に亘る車道の一部を構成するように設けられることで、通常状態においては、隙間を塞ぐ回動板部の上を車両が走行することができるようにしつつ、地震などにより第1棟と第2棟との間の隙間が狭められたときには、下向き傾斜面が上向き傾斜面に案内されて回動板部が上方に跳ね上げられるようにして回動板部の破損を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような建築物において、建築基準法等の法令上の要求によって建築面積が所定の広さに制限される場合、エキスパンションジョイントを第1棟と第2棟との間で隙間を有する構成として、第1棟と第2棟とを、それぞれ独立した建築物とする必要がある。
【0007】
しかし、このような場合、上記従来のエキスパンションジョイントでは、第1棟に上下に回動自在に支持された回動板部が、第1棟と第2棟との間の隙間を覆いつつ第1棟に片持ちで支持された構成となるので、当該エキスパンションジョイントを車道の一部を構成する用途に用いると、回動板部を回動自在に支持するヒンジ部分に繰り返しの荷重が加わり、その耐久性を確保し難くなる、という問題点があった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性を高めたエキスパンションジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエキスパンションジョイントは、第1棟と前記第1棟に隙間を空けて隣接する第2棟とを有する建築物の前記隙間の部分に設けられるエキスパンションジョイントであって、上向きの第1傾斜面を先端に備え、基端側において前記第1棟の上に固定されて先端側が前記隙間に張り出すとともに平面視で前記第2棟との間に間隙を有する固定板部と、前記第1傾斜面に対向する下向きの第2傾斜面を先端に備え、前記第2棟の上に配置されるとともに基端側においてヒンジにより前記第2棟に上下方向に回動自在に支持された回動板部と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のエキスパンションジョイントは、上記構成において、前記固定板部と前記回動板部とが、前記第1棟の上面と前記第2棟の上面とに亘って設けられた車道の一部を構成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐久性を高めたエキスパンションジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイントが用いられた建築物の一部の平面図である。
【
図2】
図1に示す建築物のA-A線に沿う断面図である。
【
図3】
図1に示す建築物の、第1棟と第2棟との間の隙間が狭められた状態における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイントについて詳細に例示説明する。
【0014】
図1、
図2に示す建築物1は、本発明の一実施形態に係るエキスパンションジョイント10が用いられた建築物の一例である。この建築物1は、第1棟2と、第1棟2に隙間3を空けて隣接する第2棟4とを有している。第1棟2と第2棟4は、互いに別棟であり、それぞれ独立した建築物となっている。
【0015】
本実施形態では、建築物1は、複数の階層を有するトラックターミナルであり、第1棟2と第2棟4は、それぞれ鉄骨造となっている。建築物1の各階層には、第1棟2の上面2aと第2棟4の上面4aとに亘って、トラック等の重量が重い車両が走行することが可能な車道5が設けられている。なお、建築物1は、1階のみを有する構成であってもよく、複数の階層を有する場合にはその階数は種々変更可能である。
【0016】
エキスパンションジョイント10は、第1棟2と第2棟4との間の隙間3の部分に設けられている。詳細は図示しないが、複数の階層を有する建築物1の、それぞれの階層における第1棟2と第2棟4との間の隙間3の部分にエキスパンションジョイント10が設けられている。
【0017】
本実施形態では、エキスパンションジョイント10は、第1棟2と第2棟4の車道5が設けられた部分における隙間3に位置するように設けられている。なお、エキスパンションジョイント10は、第1棟2と第2棟4の車道5が設けられた部分における隙間3にのみ設けられていてもよいが、第1棟2と第2棟4との間の隙間3の部分に、当該隙間3に沿って複数並べて設けられた構成としてもよい。この場合、一部のエキスパンションジョイント10は、第1棟2と第2棟4の車道5が設けられた部分に位置しなくてもよい。
【0018】
図2に示すように、エキスパンションジョイント10は、固定板部11と、回動板部12とを有している。
【0019】
固定板部11は、上向きの第1傾斜面11aを先端に備え、基端側において第1棟2の上に固定され、先端側が隙間3に張り出している。
【0020】
より具体的には、第1棟2の上面2aには、隙間3に面して隙間3に沿って延びるとともに上面2aよりも下方に位置する水平な段差面2bが設けられている。本実施形態では、段差面2bは、鉄筋コンクリート造の第1棟2の内部の鉄骨2cに固定された金属製の板材2dで覆われた構成となっている。
【0021】
固定板部11は、平面視で隙間3に沿って延びる横長の矩形形状であるとともに断面が箱型となる金属製の固定板本体11bと、固定板本体11bの先端にボルトとナット等の締結部材11cにより固定された断面台形状の先端部材11dとを有し、先端部材11dの一面が第1傾斜面11aとなっている。第1傾斜面11aは、第2棟4の側よりも第1棟2の側の方が高くなるように傾斜する上向きの平面である。なお、固定板部11は、固定板本体11bと先端部材11dとが一体に形成されたものであってもよい。
【0022】
固定板本体11bは、その基端側(隙間3とは反対側の端部側)から所定範囲の部分において、水平姿勢で段差面2bの上に配置され、ボルトとナット等の複数の締結部材11eにより、第1棟2の内部の鉄骨2cすなわち第1棟2に固定されている。固定板本体11bの基端側が第1棟2に固定された状態において、固定板部11の先端側は第1棟2から隙間3に張り出している。隙間3に張り出した固定板部11の先端は、第2棟4の隙間3に面する縁に対して僅かに手前に位置しており、当該先端と第2棟4との間には平面視で間隙Sを有している。固定板本体11bの上面は、第1棟2の上面2aと同一高さとなっている。
【0023】
回動板部12は、第1傾斜面11aに対向する下向きの第2傾斜面12aを先端に備え、第2棟4の上に配置されるとともに基端側においてヒンジ13を軸として第2棟4に上向きに回動自在に支持されている。なお、回動板部12は、ヒンジ13を軸として上向きに回動した後、元の位置に戻るようにヒンジ13を軸として下向きにも回動することができる。
【0024】
より具体的には、第2棟4の上面4aには、隙間3に面して隙間3に沿って延びるとともに上面4aよりも下方に位置する水平な段差面4bが設けられている。本実施形態では、段差面4bは、鉄筋コンクリート造の第2棟4にボルトとナット等の複数の締結部材12bで固定されるとともに内部にモルタル12cが充填された金属製の枠体12dで形成されている。段差面4bは、段差面2bよりも僅かに下方に位置している。
【0025】
回動板部12は、平面視で隙間3に沿って延びる横長の矩形形状であるとともに断面が箱型となる金属製の回動板本体12eと、回動板本体12eの先端にボルトとナット等の締結部材12fにより固定された断面台形状の先端部材12gとを有し、先端部材12gの一面が第2傾斜面12aとなっている。第2傾斜面12aは、第2棟4の側よりも第1棟2の側の方が高くなるように傾斜する下向きの平面であり、その傾斜角度は第1傾斜面11aの傾斜角度と同一である。第2傾斜面12aは、水平方向に、隙間3の幅よりも十分に小さい間隔を空けて第1傾斜面11aに対向している。なお、回動板部12は、回動板本体12eと先端部材12gとが一体に形成されたものであってもよい。
【0026】
回動板部12は、その全体が第2棟4の上に位置するように水平姿勢で段差面4bの上に配置されている。すなわち、回動板部12は第2棟4から隙間3に張り出していない。回動板部12の回動板本体12eの上面は、第2棟4の上面4a及び固定板本体11bの上面と同一高さとなっている。
【0027】
ヒンジ13は、枠体12dに固定された支持壁13aと、支持壁13aに支持された軸体13bとを有している。軸体13bは軸線を隙間3に沿う方向(水平方向)に向けて配置されており、回動板部12の基端側に連結されている。回動板部12は、軸体13bを中心として、基端側に対して先端側が上下方向に移動するように、すなわち上下方向に回動することができる。なお、ヒンジ13は、支持壁13aと軸体13bとを有する構成に限らず、回動板部12を上下方向に回動自在に支持することができるものであれば、他の構成のものであってもよい。
【0028】
エキスパンションジョイント10の固定板部11と回動板部12は、それぞれ第1棟2の上面2aと第2棟4の上面4aとに亘って設けられた車道5の一部を構成する。すなわち、固定板部11の上面と回動板部12の上面は、車道5の一部を構成している。車道5を走行するトラック等の車両は、第1棟2と第2棟4との間を移動する際に、固定板部11の上と回動板部12の上を走行することができる。
【0029】
上記構成を有するエキスパンションジョイント10は、通常状態においては、第1棟2に固定されて隙間3に張り出す固定板部11によって第1棟2と第2棟4との間の隙間3の大部分を覆っている。すなわち、エキスパンションジョイント10は、通常状態においては、隙間3に張り出す固定板部11によって第1棟2と第2棟4との間の隙間3を狭めている。これにより、エキスパンションジョイント10は、車道5を走行するトラック等の車両が、第1棟2と第2棟4との間を走行し易くすることができる。
【0030】
一方、地震等により振動が加えられて第1棟2と第2棟4とが水平方向に相対的に変位して隙間3が狭められたときには、
図3に示すように、第1棟2とともに第2棟4の側に移動する固定板部11の先端の第1傾斜面11aが回動板部12の先端の第2傾斜面12aに当接することで、回動板部12が固定板部11により跳ね上げられ、ヒンジ13の軸体13bを中心として上方に回動する。そして、回動板部12を跳ね上げた固定板部11は、回動板部12の下方に入り込むことで、振動に合わせてスライド移動することができる。また、振動により第1棟2と第2棟4とが水平方向に相対的に変位して第1棟2と第2棟4との隙間3が広がると、第1棟2とともに第2棟4から離れる方向に移動する固定板部11が回動板部12の下方から抜け出し、回動板部12は自重によりヒンジ13の軸体13bを中心として下方に回動し、元の位置に復帰する。このように、エキスパンションジョイント10は、地震等の振動により第1棟2と第2棟4とが水平方向に相対的に変位して第1棟2と第2棟4との隙間3が増減しても、破損することなく当該隙間3の変位を吸収することができる。
【0031】
ここで、エキスパンションジョイント10は、上記の通り、第1棟2から隙間3に張り出して隙間3を覆う固定板部11が第1棟2に固定され、地震等により振動が加えられて第1棟2と第2棟4との隙間3が狭められたときにヒンジ13の軸体13bを中心として跳ね上げられる回動板部12が、その全体が第2棟4の上に配置されて第2棟4の段差面4bに支持された構成となっている。このように、本実施形態のエキスパンションジョイント10では、第1棟2から隙間3に張り出す側の固定板部11を第1棟2に固定した構成としたので、車両の荷重によってヒンジ13に過度の荷重が加わらないようにしつつ車両の重量を固定板部11により確実に支持することができるようにして、エキスパンションジョイント10の耐久性を高めることができる。
【0032】
また、エキスパンションジョイント10は、平面視で、第1棟2に固定された固定板部11の先端が第2棟4との間に間隙Sを有する構成となっているので、第1棟2と第2棟4とを、それぞれ互いに独立した別棟の建築物とすることができる。これにより、建築基準法等の法令上の要求によって建築物1の建築面積が所定の広さに制限される場合であっても、第1棟2と第2棟4とを、それぞれ互いに独立した別棟の建築物として、建築物1を、第1棟2と第2棟4とを合わせた全体として当該制限以上の広さを有するものとすることができる。
【0033】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0034】
例えば、前記実施形態では、建築物1をトラックターミナルとした場合を例示したが、これに限らず、例えば駐車場、倉庫などの他の建築物であってもよい。
【0035】
また、建築物1は、車道5を有さない建築物であってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 建築物
2 第1棟
2a 上面
2b 段差面
2c 鉄骨
2d 板材
3 隙間
4 第2棟
4a 上面
4b 段差面
5 車道
10 エキスパンションジョイント
11 固定板部
11a 第1傾斜面
11b 固定板本体
11c 締結部材
11d 先端部材
11e 締結部材
12 回動板部
12a 第2傾斜面
12b 締結部材
12c モルタル
12d 枠体
12e 回動板本体
12f 締結部材
12g 先端部材
13 ヒンジ
13a 支持壁
13b 軸体
S 間隙