(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146280
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ジオポリマー固化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20241004BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20241004BHJP
C04B 40/04 20060101ALI20241004BHJP
C04B 12/04 20060101ALI20241004BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B40/02
C04B40/04
C04B12/04
B28B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059080
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(71)【出願人】
【識別番号】504085750
【氏名又は名称】アドバンエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木作 友亮
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小森 照夫
(72)【発明者】
【氏名】山村 有希
(72)【発明者】
【氏名】塩入 志緒里
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隼人
(72)【発明者】
【氏名】聶 菁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】磯部 美希
(72)【発明者】
【氏名】笠原 健二
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G055BA03
4G112PE05
4G112RA05
4G112RB03
4G112RD00
(57)【要約】
【課題】強度及び耐酸性に優れたジオポリマーコンクリート製品を効率よく製造することのできるジオポリマー固化体の製造方法を提供する。
【解決手段】練り混ぜた材料を所定の脱型強度以上に達するまで所定の第1の養生時間だけ型枠内で加温養生させる第1の養生工程と、第1の養生時間が経過した後、型枠を外して所定の第2の養生時間が経過するまで加温養生させる第2の養生工程とを含むようにしたので、第1の養生工程により脱型までの強度を発現させた後、第2の養生工程において耐酸性を高めることができ、実用上十分な強度と耐酸性を有するジオポリマー固化体を製造することができる。その際、第1の養生時間が経過した後に取り外した型枠を他のジオポリマーコンクリート製品の製造に効率よく利用することができるので、同一の型枠による製造数を増やすことができ、生産性の向上を図ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性フィラーとアルカリ活性剤と水とを含む材料を練り混ぜた後、型内で硬化させることによりジオポリマー固化体を生成するジオポリマー固化体の製造方法において、
練り混ぜた材料を所定の脱型強度以上に達するまで所定の第1の養生時間だけ型内で加温養生させる第1の養生工程と、
第1の養生時間が経過した後、型を外して所定の第2の養生時間が経過するまで加温養生させる第2の養生工程とを含む
ことを特徴とするジオポリマー固化体の製造方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の養生工程を封緘養生によって行う
ことを特徴とする請求項2記載のジオポリマー固化体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の養生時間は1時間以上8時間以下である
ことを特徴とする請求項1または2記載のジオポリマー固化体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の養生時間は20時間以上100時間以下である
ことを特徴とする請求項1または2記載のジオポリマー固化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば土木、建築等における構造物に用いられるジオポリマー固化体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、土木、建築等における構造物はコンクリートやモルタルによって形成されるのが一般的であるが、近年、コンクリートやモルタルに代わる材料としてジオポリマー組成物が注目されており、ジオポリマーコンクリートとして各種コンクリート構造物への適用が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ジオポリマー組成物は、フライアッシュ(石炭灰)、メタカオリン、高炉スラグ等、アルカリに活性な非晶質粉体(活性フィラー)とそれを活性化させるアルカリ溶液を混合させ、反応させることにより得られる硬化体である。ジオポリマーコンクリートは、例えばアルカリに活性な非晶質粉体とアルカリ溶液に、更に細骨材、粗骨材等を加えることにより、セメントコンクリートと同等の強度を発現する組成体を実現している。
【0004】
ところで、工場で製造されるセメントコンクリート(以下、コンクリート二次製品という。)は、安定した品質の高いコンクリートを大量に製造する場合に採用される製品である。コンクリート二次製品は、良く練り混ぜられた硬化前のセメントコンクリート(以下、生コンクリートという。)を形状精度の高い型枠内に打込み、生コンクリートが十分に硬化した後に型枠から取り出し(以下、脱型という。)、所望の形状の製品として完成する。また、型枠は所定の強度と精度を必要とするため、一般的に高価なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記コンクリート二次製品の製造時において、高価な型枠を有効利用するためには、生コンクリートの打込みから脱型までの工程を短縮する必要があり、いわゆる蒸気養生によって養生を促進するのが一般的である。蒸気養生は、ボイラーで生成した蒸気を用いて、生コンクリートが充填された型枠をテントの中に入れて硬化を促進する養生方法である。コンクリート二次製品においては1時間~8時間蒸気養生をすることで、所定の強度、品質を有するコンクリートが得られる。
【0007】
一方、ジオポリマーコンクリートにおいては、コンクリート二次製品と同様、1時間~8時間蒸気養生をすることで所定の強度が得られるが、ジオポリマーコンクリートの特性である耐酸性の機能を向上させるためには20時間~100時間の養生が必要となり、脱型までの養生に長時間を要する。このため、耐酸性に優れたジオポリマーコンクリート製品を効率よく製造できないことが現状の課題となっている。
【0008】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、強度及び耐酸性に優れたジオポリマーコンクリート製品を効率よく製造することのできるジオポリマー固化体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、活性フィラーとアルカリ活性剤と水とを含む材料を練り混ぜた後、型内で硬化させることによりジオポリマー固化体を生成するジオポリマー固化体の製造方法において、練り混ぜた材料を所定の脱型強度以上に達するまで所定の第1の養生時間だけ型内で加温養生させる第1の養生工程と、第1の養生時間が経過した後、型を外して所定の第2の養生時間が経過するまで加温養生させる第2の養生工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
これにより、第1の養生工程により脱型までの強度を発現させた後、第2の養生工程において耐酸性が高められることから、実用上十分な強度と耐酸性を有するジオポリマー固化体が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実用上十分な強度と耐酸性を有するジオポリマー固化体を製造することができるとともに、第1の養生時間が経過した後に取り外した型枠を他のジオポリマーコンクリート製品の製造に効率よく利用することができるので、同一の型枠による製造数を増やすことができ、生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るジオポリマー固化体の製造工程を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態のジオポリマー固化体は、例えば土木、建築等におけるコンクリート製品に用いられ、活性フィラーとアルカリ活性剤と水とを含む材料を練り混ぜた後、型内で硬化させることにより生成されるものである。
【0014】
活性フィラーは、アルカリ活性剤と混合することにより活性化されて固化するアルミナシリカ粉体からなり、例えばフライアッシュ(石炭灰)、メタカオリン、シリカヒューム等、カルシウム成分を有しない非晶質粉体が用いられる場合や、カルシウム成分が含まれる高炉スラグ微粉末を用いる場合などもある。
【0015】
アルカリ活性剤は、例えばケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸カリウム水溶液等のアルカリ溶液からなる。
【0016】
骨材は、砂、砂利または人工骨材等からなり、粒子の大きさに応じて細骨材と粗骨材に分類される。
【0017】
以下、
図1を参照し、本実施形態におけるジオポリマー固化体の製造方法について説明する。
【0018】
まず、前記材料をミキサに投入し(S1)、練混ぜを行う(S2)。練混ぜが完了した後(S3)、ジオポリマーコンクリート製品を成型するための型枠(または金型)に充填し(S4)、第1の養生工程を開始する(S5)。第1の養生工程は、例えば温熱ヒータを用いた所定温度(例えば60℃)の加温養生とするとともに、例えば密閉されたテント内での封緘養生とする。次に、第1の養生時間(例えば3時間)が経過した後(S6)、型枠を取り外す(S7)。その際、取り外した型枠は他のジオポリマーコンクリート製品の成型に利用する。型枠を取り外した後は、第2の養生工程を開始する(S8)。第2の養生工程は、第1の養生工程と同様、温熱ヒータを用いた所定温度(例えば60℃)の加温養生とするとともに、例えば気密性のシートで覆った封緘養生とする。そして、第2の養生時間(例えば65時間)が経過した後(S9)、養生を完了する(S10)。
【0019】
第1の養生時間は、所定の脱型強度(例えば、5N/mm2以上)に達するまでの時間であって、1時間~8時間に設定するのが好ましい。また、第2の養生時間は、ジオポリマーコンクリートが十分な耐酸性を発現するまでの時間であって、20時間~100時間に設定するのが好ましい。
【0020】
本実施形態によれば、練り混ぜた材料を所定の脱型強度以上に達するまで所定の第1の養生時間だけ型枠内で加温養生させる第1の養生工程と、第1の養生時間が経過した後、型枠を外して所定の第2の養生時間が経過するまで加温養生させる第2の養生工程とを含むようにしたので、第1の養生工程により脱型までの強度を発現させた後、第2の養生工程において耐酸性を高めることができ、実用上十分な強度と耐酸性を有するジオポリマー固化体を製造することができる。
【0021】
その際、第1の養生時間が経過した後に取り外した型枠を他のジオポリマーコンクリート製品の製造に効率よく利用することができるので、同一の型枠による製造数を増やすことができ、生産性の向上を図ることができる。
【0022】
また、第1及び第2の養生工程を加温養生によって行うようにしたので、加温により硬化を促進することができ、養生時間の短縮を図ることができる。
【0023】
更に、第1及び第2の養生工程を封緘養生によって行うことにより、加温により蒸発した水分で湿度を高く保つことができる。これにより、乾燥によるクラックの発生を抑制することができ、強度の向上を図ることができる。
【0024】
また、第1の養生時間を1時間以上8時間以下とすることにより、型枠を用いる第1の養生工程を短くすることができる。これにより、例えば同日中に同一型枠で複数の製品を製造することも可能になり、生産性を向上させることができる。
【0025】
更に、第2の養生時間を20時間以上100時間以下とすることにより、型枠を取り外した後の第2の養生工程を長くすることができ、耐酸性を十分に向上させることができる。その際、脱型後の製品を仮置き場等で大量に保管するようにすれば、生産性をより一層向上させることができる。
【0026】
尚、前記実施形態は本発明の一実施形態であり、本発明は前記実施形態に記載されたものに限定されない。
【実施例0027】
以下、本発明の実施例及び比較例を示す。尚、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0028】
本発明の実施例及び比較例として、活性フィラー(メタカオリン及びシリカヒューム)、K系水ガラス(50質量%は水)及び水酸化ナトリウムからなるアルカリ剤、水を練り混ぜたジオポリマースラリー(GPS)と、更に骨材(粗骨材及び細骨材)を含むジオポリマーコンクリート(GPC)の圧縮強度試験及び耐酸性試験を実施した。
[圧縮強度試験]
圧縮強度試験では、比較例1~4及び実施例1~4について、練上り直後に内径50mm×100mmの型枠に充填し、それぞれ以下の養生条件の下で養生させた後、圧縮強度試験を行った。尚、比較例1~4及び実施例1~2はジオポリマーコンクリート、実施例3~4はジオポリマースラリーを試験体として用いた。
【0029】
比較例1では、型枠に充填した後、常温で保管し、材齢6日目に試験を行った。
【0030】
比較例2~4では、型枠に充填した後、60℃の加温養生を封緘養生によって連続して行った。この場合、加温養生時間は、比較例2が68時間、比較例3が24時間、比較例4が3時間とした。また、比較例2は材齢7日目、比較例3は材齢5日目、比較例4は材齢6日目に試験を行った。
【0031】
実施例1~4では、型枠に充填した後、60℃の加温養生を封緘養生によって第1の養生時間(3時間)が経過するまで行った後(第1の養生工程)、24時間の常温保管期間を経て、60℃の加温養生を第2の養生時間(65時間)が経過するまで行った(第2の養生工程)。この場合、第2の養生工程において、実施例1及び3は封緘養生とし、実施例2及び4は開放した状態で養生を行った。また、実施例1~3は材齢6日目、実施例4は材齢28日目に試験を行った。尚、第1の養生工程と第2の養生工程との間に常温保管期間を設けているのは、実際のジオポリマーコンクリート製品の製造において、第1の養生工程後の脱型作業や、脱型した製品を第2の養生工程を行う保管場所に移動する作業等に要する時間を想定したものである。
【0032】
試験の結果、表1及び表2に示すように、60℃の加温養生を連続して68時間が経過するまで行う比較例2が最も圧縮強度が高い結果を示したが、他の比較例1、3~4及び実施例1~4においてもコンクリート製品として実用上十分な圧縮強度が得られることが確認された。尚、同じ養生条件において、ジオポリマーコンクリートの実施例1及び2がジオポリマースラリーの実施例3及び4よりも圧縮強度が高い結果を示したのは、骨材を含むジオポリマーコンクリートの方が脱型時及び養生再開時の温度変化による体積の変化や内部応力の変化が生じにくいことによるものと考えられる。
【0033】
【0034】
【0035】
[耐酸性試験]
耐酸性試験では、比較例5~7及び実施例5について、ジオポリマースラリーの円板型サンプルを硫酸に数日間が経過するまで浸漬した後、質量減少率及び健全層残存率を測定することにより行った。この場合、質量減少率が小さいほど耐酸性に優れていると評価した。また、健全層残存率は、試験後の健全層(浸食されていない部分)の厚さを測定し、試験前の厚さに対する健全層の厚さ(残存率)が大きいほど耐酸性に優れていると評価した。
【0036】
比較例5では、型枠に充填した後、常温で保管し、質量減少率については浸漬期間7日目に測定を行い、健全層残存率については浸漬期間3日目に測定を行った。
【0037】
比較例6では、型枠に充填した後、60℃の加温養生を封緘養生によって連続して行った。この場合、加温養生時間は68時間とし、質量減少率及び健全層残存率について浸漬期間7日目に測定を行った。
【0038】
比較例7及び実施例5では、型枠に充填した後、60℃の加温養生を封緘養生によって第1の養生時間(3時間)が経過するまで行った後(第1の養生工程)、24時間の常温保管期間を経て、第2の養生時間が経過するまで封緘養生を行った(第2の養生工程)。この場合、第2の養生工程において、比較例7は28日間が経過するまで常温で養生し、実施例5は65時間が経過するまで60℃の加温養生を行った。また、質量減少率及び健全層残存率について、比較例7は浸漬期間7日目に測定を行い、実施例5は浸漬期間8日目に測定を行った。
【0039】
試験の結果、60℃の加温養生を連続して68時間が経過するまで行う比較例6と、第1の養生工程及び第2の養生工程の何れも加温養生を行う実施例5については、表3及び表4に示す質量減少率及び表5及び表6に示す健全層残存率において、何れも耐酸性に優れている結果を示した。一方、加温養生を全く行わない比較例5と、第1の養生工程のみ加温養生を行い、第2の養生工程では加温養生を行わない比較例7は、比較例6及び実施例5に対し、質量減少率及び健全層残存率において耐酸性に劣る結果となった。
【0040】
以上の試験結果によれば、第1の養生工程と第2の養生工程とをそれぞれ加温養生によって二段階で行う実施例1~5において、第1の養生工程の後、脱型作業等のための常温期間を経て第2の養生工程に移行した場合でも、十分な圧縮強度及び耐酸性を有するジオポリマー固化体を製造可能であることが確認された。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】