(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146336
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】難燃ポリエステル樹脂組成物、及びそれを用いた電子電機部品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20241004BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20241004BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20241004BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L71/02
C08K7/04
C08K3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059172
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀口 悟
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 佳孝
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC113
4J002CD014
4J002CD074
4J002CD123
4J002CD144
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CG033
4J002CH022
4J002CH052
4J002CM054
4J002DA016
4J002DE128
4J002DJ049
4J002DL006
4J002EB138
4J002ED037
4J002ER009
4J002EU188
4J002EU198
4J002EW048
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD133
4J002FD138
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】難燃剤に加えて無機充填剤(特に無機系繊維材料)を高充填した剛性の高い難燃ポリエステル樹脂組成物において、剛性及び難燃性に加えて、成形性及び滞留安定性が良好であり、かつ成形品外観にも優れた難燃ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリエステル(A)20~65質量%と、ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体(B)0.05~1質量%と、難燃剤(C)3~20質量%と、無機系繊維材料(D)28~55質量%と、反応性化合物(E)0.05~1質量%とを含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル(A)20~65質量%と、ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体(B)0.05~1質量%と、難燃剤(C)3~20質量%と、無機系繊維材料(D)28~55質量%と、反応性化合物(E)0.05~1質量%とを含有することを特徴とする難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
せん断速度10s-1における溶融粘度が1×103Pa・s~5×103Pa・sである、請求項1に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレートである、請求項1に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記難燃剤(C)が臭素系化合物(C1)であり、更に難燃助剤としてアンチモン化合物(C2)を含有する、請求項1に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアルキレングリコール誘導体は、分子末端の少なくとも一方がカルボン酸エステルである、請求項1に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
更にタルク(F)2質量%以下を含有する、請求項1に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
ISO75に準拠した、1.82MPa荷重で測定した荷重たわみ温度が225℃以上である、請求項1に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物の成形体を備える、電子電機部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃ポリエステル樹脂組成物、及びそれを用いた電子電機部品に関する。詳細には、荷重たわみ温度が高く、滞留安定性、及び成形品外観に優れた難燃ポリエステル樹脂組成物、及びそれを用いた電子電機部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、優れた機械的特性、耐熱性、耐薬品性等を有するため、ポリエステル樹脂と難燃剤とを配合した難燃ポリエステル樹脂組成物が、従来より難燃性が要求される自動車部品、電気電子部品、工業機械部品等の各種部品に広く利用されている。
【0003】
特に、電子機器の筐体に代表される電気電子部品は、難燃性に加えて剛性、良好な成形品外観(低ソリ性などの寸法安定性を含む)を備えることが要求されている。
【0004】
しかしながら、難燃剤を含有することによりポリマー分解が生じるため、難燃剤を含有する樹脂組成物では、難燃剤を含有しない樹脂組成物と比べて、剛性の低下や、成形中に成形機シリンダー内の樹脂の滞留安定性の低下による連続成形時の物性低下、及び成形品外観の悪化(表面光沢、寸法安定性等の悪化)が問題とされている。特に無機充填剤を高充填した樹脂組成物では成形時の流動性を確保するためにシリンダー温度を高くするため、一層、ポリマー分解が生じ易い。なお、滞留安定性は、成型機シリンダー内に一定時間滞留した樹脂の熱安定性を意味し、滞留時にポリマー分解が進行した場合には滞留安定性は低下する。
【0005】
本願に関連する先行文献として下記の特許文献1、2がある。特許文献1はポリエステル樹脂組成物に関し、特許文献2は寸法安定性に優れる難燃性電子部品に関する。これらの特許文献1、2では、結晶化促進剤を含有することにより成形品内での樹脂の結晶性を高めて物性を向上させる方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は難燃剤を含有しておらず、難燃剤に起因する物性低下、及び滞留安定性への影響は考慮されてない。また、特許文献2に記載の樹脂組成物は難燃剤を含有するとともに、成形性の改善には言及されているが、滞留安定性への影響は考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-363356号公報
【特許文献2】特開2001-302895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、難燃剤に加えて無機充填剤(特に無機系繊維材料)を高充填した剛性の高い難燃ポリエステル樹脂組成物において、剛性及び難燃性に加えて、成形性及び滞留安定性が良好であり、かつ成形品外観にも優れた難燃ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、難燃剤に加えて無機充填剤(特に無機系繊維材料)を高充填した剛性の高い難燃ポリエステル樹脂組成物において、ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体を特定量含有することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
つまり、本発明は以下の難燃ポリエステル樹脂組成物、及び電子電機部品に関する。
1.熱可塑性ポリエステル(A)20~65質量%と、ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体(B)0.05~1質量%と、難燃剤(C)3~20質量%と、無機系繊維材料(D)28~55質量%と、反応性化合物(E)0.05~1質量%とを含有することを特徴とする難燃ポリエステル樹脂組成物。
2.せん断速度10s-1における溶融粘度が1×103Pa・s~5×103Pa・sである、上記項1に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
3.前記熱可塑性ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレートである、上記項1又は2に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
4.前記難燃剤(C)が臭素系化合物(C1)であり、更に難燃助剤としてアンチモン化合物(C2)を含有する、上記項1~3のいずれか一項に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
5.前記ポリアルキレングリコール誘導体は、分子末端の少なくとも一方がカルボン酸エステルである、上記項1~4のいずれか一項に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
6.更にタルク(F)2質量%以下を含有する、上記項1~5のいずれか一項に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
7.ISO75に準拠した、1.82MPa荷重で測定した荷重たわみ温度が225℃以上である、上記項1~6のいずれか一項に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物。
8.上記項1~7のいずれか一項に記載の難燃ポリエステル樹脂組成物の成形体を備える、電子電機部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、難燃剤に加えて無機系繊維材料を高充填することにより剛性と難燃性を高度に両立するとともに、ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体を特定量含有することにより、成形性及び滞留安定性が良好であり、かつ成形品外観にも優れる。
【0011】
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物は、所定量の難燃剤を含有することにより高せん断速度域の流動性が確保されている。また、ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体を特定量含有することにより、樹脂組成物の低せん断速度域の流動性が顕著に向上している。これにより、成型機シリンダーの温度を従来よりも低く設定し、比較的穏やかな成形条件で成形できるため、剛性及び難燃性に加えて、成形性及び滞留安定性が良好であり、かつ成形品外観にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物、及びそれを用いた電子電機部品について詳細に説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲(すなわち「以上、以下」)を意味する。
【0013】
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル(A)20~65質量%と、ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体(B)0.05~1質量%と、難燃剤(C)3~20質量%と、無機系繊維材料(D)28~55質量%と、反応性化合物(E)0.05~1質量%とを含有することを特徴とする。
【0014】
上記特徴を有する本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物は、難燃剤に加えて無機系繊維材料を高充填することにより剛性と難燃性を高度に両立するとともに、ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体を特定量含有することにより、成形性及び滞留安定性が良好であり、かつ成形品外観にも優れる。
【0015】
以下、本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0016】
[熱可塑性ポリエステル(A)]
上記熱可塑性ポリエステル(A)としては、非晶性半芳香族ポリエステル、非晶性全芳香族ポリエステル等の非晶性ポリエステル樹脂;結晶性半芳香族ポリエステル、結晶性全芳香族ポリエステル等の結晶性ポリエステル樹脂;及びこれら例示されたポリマーのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等が挙げられる。これらの熱可塑性ポリエステル樹脂は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。2種以上の樹脂を組み合わせる場合には、必要に応じて相溶化剤などを添加してもよい。これらの熱可塑性ポリエステルの種類は、最終製品(成形体)の目的に応じて適宜使い分ければよい。なお、本発明ではこれらの熱可塑性ポリエステルの中でも、結晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0017】
結晶性ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。また、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート等の結晶性共重合ポリエステル等が挙げられる。これらの結晶性ポリエステル樹脂の中でも、耐熱性の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
ポリエチレンテレフタレートは、基本的にエチレンテレフタレート単位の単独重合体である。また、各種特性を損なわない範囲内において、他の成分を5モル%程度まで共重合することができる。他の成分としては、下記で説明する共重合ポリエステル樹脂に用いられる共重合成分を挙げることができる。
【0019】
共重合ポリエステル樹脂としては、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、トリメリット酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロへキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、及び2-メチル-1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を共重合成分として含むポリエステル樹脂が挙げられる。
【0020】
これらの中でも、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を50モル%以上、グリコール成分としてエチレングリコールが50モル%以上を構成成分とする共重合ポリエステルがより好ましい。ここで、テレフタル酸以外の酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸等の芳香族又は脂肪族多塩基酸又はそれらのエステル等が挙げられる。また、エチレングリコール以外のグリコール成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロへキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性、最終製品の特性からイソフタル酸、ネオペンチルグリコールが好ましい。
【0021】
ポリエチレンテレフタレートの分子量としては限定的ではないが、固有粘度(0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定;dl/g)が0.5~1.1dl/gであることが好ましく、0.6~1.0dl/gであることがより好ましい。
【0022】
ポリエチレンテレフタレートの固有粘度が上記範囲内である場合には、樹脂の剛性が良好となり高強度の成形品が得られ易くなる。また、樹脂の良好な流動性を確保し易い。固有粘度を調整する際は、異なる固有粘度を有するポリエチレンテレフタレートをブレンドすることにより調整することができる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリエチレンテレフタレートと固有粘度0.7dL/gのポリエチレンテレフタレートとをブレンドすることにより、固有粘度を0.9dL/gに調整することができる。
【0023】
難燃ポリエステル樹脂組成物中の熱可塑性ポリエステル(A)の含有量は20~65質量%であればよく、この中でも30~60質量%が好ましい。
【0024】
[ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体(B)]
上記ポリアルキレングリコール及び/又はポリアルキレングリコール誘導体としては限定的ではないが、例えば、下記式(1)、(2)で示される化合物が挙げられる。
【0025】
【0026】
【0027】
但し、一般式(1)、(2)においてl、mは0又は1、nは2~30の整数、R1、R3は炭素数1~7の脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であって、但しm=0のときはR1は水素原子を示す。R2は炭素数2~6の脂肪族炭化水素基、R4、R5は炭素数1~7の脂肪族炭化水素基であって、但しl=0のときはR4は水素原子を示す。
【0028】
前記(B)成分に包含されるポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール/ポリテトラメチレングリコール共重合体等が挙げられる。
【0029】
また、前記(B)成分に包含されるポリアルキレングリコール誘導体としては、例えば、上記ポリアルキレングリコールの分子末端(片方又は両方)を酢酸、プロピオン酸、酪酸、バレリアン酸、カプロン酸、安息香酸等でエステル化したもの;上記ポリアルキレングリコールのメチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル等が挙げられる。これらのポリアルキレングリコール誘導体の中でも、特に分子末端の少なくとも一方がカルボン酸エステルである態様が好ましい。
【0030】
なお、前記(B)成分は、ポリアルキレングリコールでもよく、ポリアルキレングリコール誘導体でもよく、これらの混合物であってもよい。混合物である場合の両者の混合比は限定されず、任意の混合比を採用することができる。
【0031】
前記(B)成分の平均分子量は限定的ではないが、5000以下が好ましく、200~3000がより好ましく、300~1500が更に好ましい。平均分子量が上記範囲内であれば、難燃ポリエステル樹脂組成物に良好な相溶性と結晶化促進効果が得られ易く、また成形時のガスの発生を抑制し易い。
【0032】
難燃ポリエステル樹脂組成物中の前記(B)成分の含有量は0.05~1質量%であればよく、この中でも0.08~0.9質量%が好ましく、0.1~0.8質量%がより好ましい。なお、これらの含有量は、前記(B)成分がポリアルキレングリコールとポリアルキレングリコール誘導体との混合物である場合は、両者の合計量である。前記(B)成分の含有量が0.05質量%未満では、低せん断速度域の流動性が得られ難く、また表面光沢が安定し難い。また、1質量%を越えると、難燃ポリエステル樹脂組成物の物性(特に滞留安定性)が低下したり、成形時に成形品にバリが生じるなどの寸法安定性の問題がある。本発明では、前記(B)成分の含有量は0.05~1質量%であることにより、樹脂組成物の低せん断速度域の流動性を顕著に向上させることができる。
【0033】
[難燃剤(C)]
上記難燃剤(C)としては限定的ではないが、一般に樹脂組成物に難燃性を付与し得る公知のハロゲン系難燃剤、非ハロゲン系難燃剤、難燃助剤等が使用でき、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。難燃剤(C)として、例えばトリアジン系化合物及び/又はその誘導体、リン系化合物、臭素系化合物、アンチモン化合物等が挙げられる。
【0034】
難燃ポリエステル樹脂組成物中の難燃剤(C)の含有量は3~20質量%であればよく、この中でも5~15質量が好ましい。
【0035】
トリアジン系化合物及び/又はその誘導体としては、メラミン、メラミンシアヌレート、燐酸メラメン、スルファミン酸グアニジン等が挙げられる。その中でもメラミンシアヌレートが好ましい。トリアジン系化合物及び/又はその誘導体を使用する場合は、含有量は前記(A)成分100質量部に対して5~50重量部が好ましい。5重量部未満では難燃性の効果が得られ難く、また50重量部を超える場合には最終製品の物性の低下が生じ得る点で好ましくない。
【0036】
リン系化合物としては、有機系リン化合物が挙げられる。
【0037】
有機系リン化合物としては、リン酸エステル、リン酸メラミン等が挙げられる。リン酸エステルとしては、ホスフェート類、ホスホネート類、ホスフィネート類等が挙げられ、具体的にはトリメチルホスフェート、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルホスフェート、トリオクチルフォスフィート、トリブトキシエチルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリス・イソプロピルフェニルフォスフェート、ジエチル-N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノメチルホスホネート、ビス(1,3-フェニレンジフェニル)ホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル類等が挙げられる。その中でも、芳香族縮合リン酸エステルである1,3-〔ビス(2,6-ジメチルフェノキシ)ホスフェニルオキシ〕ベンゼン、1,4-〔ビス(2,6-ジメチルフェノキシ)ホスフェニルオキシ〕ベンゼン等が耐加水分解、熱安定性、難燃性等の観点から好ましい。
【0038】
リン系化合物を使用する場合は、含有量は前記(A)成分100重量部に対して1~20重量部が好ましい。1重量部未満では難燃性の効果が得られ難く、また20重量部を超える場合には最終製品の物性の低下が生じ得る点で好ましくない。
【0039】
臭素系化合物(C1)としては、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、臭素化エポキシオリゴマー、TBA(テトラブロモビスフェノールA)カーボネートオリゴマー、エチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル等が挙げられる。その中でも、臭素化フェノキシ樹脂、及びTBAカーボネートオリゴマーの少なくとも一種が好ましい。臭素系化合物を使用する場合は、含有量は前記(A)成分100重量部に対して5~60重量部が好ましい。5重量部未満では難燃性の効果が得られ難く、また60重量部を超える場合には最終製品の物性の低下が生じ得る点で好ましくない。
【0040】
本発明では、難燃剤(C)とともに難燃助剤を使用してもよい。難燃助剤としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ソーダ等のアンチモン化合物をはじめ、二酸化錫、メタ硼酸亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、赤リン系化合物、ポリリン酸アンモニウム塩、メラミンシアヌレート、四フッ化エチレン等が挙げられる。その中でも、アンチモン化合物のうちの三酸化アンチモン、及び五酸化アンチモンの少なくとも一種が好ましい。赤リン系化合物としては、赤リンに樹脂をコートしたもの、アルミニウムとの複合化合物などが挙げられる。難燃助剤を使用する場合は、含有量は(A)成分100重量部に対して2~20重量部が好ましい。2重量部未満では難燃性の効果がなく、また20重量部を超えると物性の低下が生じ得る点で好ましくない。なお、本発明では、難燃剤(C)として臭素系化合物(C1)を使用し、難燃助剤としてアンチモン化合物(C2)とを組み合わせて使用する態様が好ましい。
【0041】
[無機系繊維材料(D)]
上記無機系繊維材料(D)としては、強度、剛性、耐熱性等の物性を最も効果的に改良するものであり、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ジルコニア繊維等が挙げられる。これらの中でもガラス繊維、炭素繊維等が好ましい。これらの無機系繊維材料は、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ系化合物等のカップリング剤で予め表面処理したものが好ましい。カップリング剤で表面処理したガラス繊維を配合した場合には、優れた機械的特性、及び外観特性の優れた最終製品が得られるので好ましい。これらの無機系繊維材料(D)は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0042】
無機系繊維材料(D)がガラス繊維の場合、繊維長1~20mm程度に切断されたチョップドストランド状が好ましく使用できる。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。ガラス繊維の断面形状としては、物性面より非円形断面のガラス繊維が好ましい。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円系、略長円系、略繭形系であるものをも含み、偏平度が1.5~8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1~20μm、長径2~100μm程度である。
【0043】
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物中のガラス繊維の繊維長(数平均繊維長)は、140~700μmであることが好ましく、より好ましく180~400μmである。ガラス繊維長がこれらの範囲であることにより、高強度、高剛性でかつ流動性が安定する。上記範囲外では、ポリエステル樹脂表面に配向して充填することが困難になり、繊維端面が表面に露出して成形品の耐摩耗性を低下させる可能性がある。
【0044】
ガラス繊維はシラン系、チタネート系等のカップリング剤で処理されているものが好ましく、特にシラン系カップリング剤で処理されているものが好ましく使用できる。ここで、シラン系カップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも特にγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0045】
無機系繊維材料(D)の配合量は、ポリエステル樹脂組成物中に28~55質量%であればよく、この中でも30~53質量%が好ましく、33~50質量%がより好ましく、35~48質量%が更に好ましい。配合量が55質量%を超えると生産性が悪くなり、また28質量%未満では無機系繊維材料による強化効果が充分発揮できない場合がある。
【0046】
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物は、無機系繊維材料(D)以外の無機充填材(フィラー)を併用することができる。強化用フィラー以外で、目的別には導電性フィラー、磁性フィラー、難燃フィラー、熱伝導フィラーを用いることができる。具体的にはガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、マイカ、アルミナ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、ヒドロキシアパタイト、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、赤燐、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫化亜鉛、鉄、アルミ、銅、銀等が挙げられる。これらの無機充填材は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。形状としては、特に限定されないが、繊維状とは異なる形状として、針状、球状、板状、不定形等が使用できる。これらの無機系繊維材料(D)以外の無機充填材(フィラー)の含有量は、上記各目的に合致するように適宜設定することができる。
【0047】
[反応性化合物(E)]
上記反応性化合物(E)としては、熱可塑性ポリエステル(A)の持つヒドロキシル基又はカルボキシル基と反応し得る官能基を有する化合物であり、反応性の官能基としては、エポキシ基(グリシジル基)、酸無水物基、カルボジイミド基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、該官能基は1分子あたり2個以上含有する。該官能基は、エポキシ基(グリシジル基)がより好ましい。
【0048】
反応性化合物(E)が、エポキシ基を持つ化合物の場合、2つ以上のエポキシ基を持つ多官能エポキシ化合物が挙げられる。具体的には、2つのエポキシ基を持つポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ジハイドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、1,3-ビス(オキシラニルメトキシ)ベンゼン、3つのエポキシ基を持つ1,3,5-トリス(2,3-エポキシプロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、4つのエポキシ基を持つ1-クロロ-2,3-エポキシプロパン・ホルムアルデヒド・2,7-ナフタレンジオール重縮合物、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。これらの中でも、骨格に耐熱性を保有した多官能のエポキシ化合物であることが好ましい。特に、ナフタレン構造を骨格に持つ2官能、又は4官能のエポキシ化合物、又はトリアジン構造を骨格にもつ3官能のエポキシ化合物が好ましい。熱可塑性ポリエステル(A)の溶液粘度上昇の程度や、熱可塑性ポリエステル(A)の酸価を効率良く低下させることができる効果や、エポキシ自身の凝集・固化によるゲル化の発生程度を考慮すると、2官能又は3官能のエポキシ化合物が好ましい。
【0049】
その他にも、グリシジル基を1分子あたり2個以上含有し重量平均分子量が4000~25000であり、かつ(X)20~99質量%のビニル芳香族モノマー、(Y)1~80質量%グリシジル(メタ)アクリレート、及び(Z)0~79質量%のエポキシ基を含有していない(X)以外のビニル基含有モノマーからなる共重合体が挙げられる。
【0050】
本発明で使用する反応性化合物(E)としては、グリシジル基を1分子あたり2個以上含有し重量平均分子量が4000~25000であり、かつ(X)20~99質量%のビニル芳香族モノマー、(Y)1~80質量%グリシジル(メタ)アクリレート、及び(Z)0~79質量%のエポキシ基を含有していない(X)以外のビニル基含有モノマーからなるスチレン系共重合体が、熱可塑性ポリエステル(A)との相溶性が良く、分子量分布がより広くなる点から好ましい。より好ましくは(X)が20~99質量%、(Y)が1~80質量%、(Z)が0~40質量%からなる共重合体であり、更に好ましくは(X)が25~90質量%、(Y)が10~75質量%、(Z)が0~35質量%からなる共重合体である。これらの組成は、熱可塑性ポリエステル(A)との反応に寄与する官能基濃度に影響するため、前記範囲に適切に制御することが好ましい。
【0051】
前記(X)ビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。前記(Y)グリシジルアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルやシクロヘキセンオキシド構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらの中でも、反応性の高い点で(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。前記(Z)その他のビニル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル等の炭素数が1~22のアルキル基(アルキル基は直鎖、分岐鎖でもよい)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、(メタ)アクリル酸フェノキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸イソボルニルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシシリルアルキルエステル等が挙げられる。また(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジアルキルアミド、酢酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルエーテル類、(メタ)アリルエーテル類等の芳香族系ビニル系単量体、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンモノマーなども前記(Z)その他のビニル基含有モノマーとして使用可能である。
【0052】
前記共重合体の重量平均分子量は、4000~25000であることが好ましい。重量平均分子量は、より好ましくは5000~15000である。重量平均分子量が4000未満であると、未反応の共重合体が成形工程で揮発するか、又は成形体表面にブリードアウトして表面の汚染を引き起こすおそれがある。一方、重量平均分子量が25000を超えると、熱可塑性ポリエステル(A)との反応が遅くなって分子量増大効果が不充分になるだけでなく、共重合体と熱可塑性ポリエステル(A)との相溶性が悪くなるため、熱可塑性ポリエステル(A)が本来持つ耐熱性などの特性が低下する可能性が大きくなる。
【0053】
前記共重合体のエポキシ価は、400~2500当量/1×106gである事が好ましく、より好ましくは500~1500当量/1×106g、更に好ましくは600~1000当量/1×106gである。エポキシ価が400当量/1×106g未満であると、増粘の効果が発現しないことがあり、一方、2500当量/1×106gを超えると、増粘効果が過剰となり成形性に悪影響を与えることがある。
【0054】
反応性化合物(E)が、カルボジイミド基を持つ化合物の場合、ポリカルボジイミド化合物を使用することができる。ポリカルボジイミド化合物は、効率良く酸価を低減させる点で有利である。
【0055】
発明で用いることができるポリカルボジイミド化合物とは、1分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-の構造)を2つ以上有するポリカルボジイミドであればよく、例えば、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミドやこれらの共重合体などが挙げられる。好ましくは脂肪族ポリカルボジイミド化合物又は脂環族ポリカルボジイミド化合物である。
【0056】
ポリカルボジイミド化合物としては、例えば、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により得ることができる。ここで使用できるジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-ジイソシアネートなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を共重合させて用いることもできる。また、分岐構造を導入したり、カルボジイミド基やイソシアネート基以外の官能基を共重合により導入したりしてもよい。さらに、末端のイソシアネートはそのままでも使用可能であるが、末端のイソシアネートを反応させることにより重合度を制御してもよいし、末端イソシアネートの一部を封鎖してもよい。
【0057】
ポリカルボジイミド化合物としては、特にジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどに由来する脂環族ポリカルボジイミドが好ましく、特にジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドがよい。
【0058】
ポリカルボジイミド化合物は、1分子あたり2~50個のカルボジイミド基を含有することが、安定性と取り扱い性の点で好ましい。より好ましくは1分子あたりカルボジイミド基を5~30個含有するのがよい。ポリカルボジイミド分子中のカルボジイミドの個数(すなわちカルボジイミド基数)は、ジイソシアネート化合物から得られたポリカルボジイミドであれば、重合度に相当する。例えば、21個のジイソシアネート化合物が鎖状につながって得られたポリカルボジイミドの重合度は20であり、分子鎖中のカルボジイミド基数は20である。通常、ポリカルボジイミド化合物は、種々の長さの分子の混合物であり、カルボジイミド基数は、平均値で表される。前記範囲のカルボジイミド基数を有し、室温付近で固形であると、粉末化できるので、熱可塑性ポリエステル(A)との混合時の作業性や相溶性に優れ、均一反応性、耐ブリードアウト性の点でも好ましい。なお、カルボジイミド基数は、例えば、常法(アミンで溶解して塩酸で逆滴定を行う方法)を用いて測定できる。
【0059】
ポリカルボジイミド化合物は、末端にイソシアネート基を有し、イソシアネート基含有率が0.5~4質量%であることが、安定性と取り扱い性の点で好ましい。より好ましくは、イソシアネート基含有率は1~3質量%である。特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドであって、前記範囲のイソシアネート基含有率を有することが好ましい。なお、イソシアネート基含有率は常法(アミンで溶解して塩酸で逆滴定を行う方法)を用いて測定できる。
【0060】
反応性化合物(E)が、イソシアネート基を持つ化合物の場合、上記したイソシアネート基を含有するポリカルボジイミド化合物や、上記したポリカルボジイミド化合物の原料となるイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0061】
反応性化合物(E)が、酸無水物基を持つ化合物の場合、1分子あたり、2~4個の無水物を含有する化合物が、安定性と取り扱い性の点で好ましい。このような化合物として例えば、フタル酸無水物や、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物などが挙げられる。
【0062】
反応性化合物(E)の配合量は、ポリエステル樹脂組成物中に0.05~1質量%であればよく、その中でも、好ましくは0.1~0.9質量部であり、より好ましくは0.1~0.8質量部であり、さらに好ましくは0.1~0.7質量部である。
【0063】
反応性化合物(E)が0.05質量部未満であると、目標とした分子鎖延長効果が不十分であり、1質量部を超えると、増粘効果が過剰となり成形性に悪影響を与えたり、最終製品の機械的特性に影響を与える傾向がある。反応性化合物(E)がエポキシ化合物の場合、1質量部を超えると、エポキシ化合物の凝集硬化によって成形体表面に凸凹が生じるおそれがある。反応性化合物(E)がカルボジイミド化合物の場合、1質量部を超えると、ポリカルボジイミド化合物の塩基性により熱可塑性ポリエステル(A)の加水分解が生じ機械的特性に影響を与える傾向がある。
【0064】
[タルク(F)]
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物は、前記(A)~(E)成分に加えて、更にタルク(F)を結晶化促進剤として含有してもよい。タルク(F)の含有量に限定はないが、難燃ポリエステル樹脂組成物中、2質量%以下が好ましい。タルク(F)を含有する場合の含有量の下限値としては、0.1質量%以上とすればよい。
【0065】
タルク(F)は、一次粒子の平均粒径が1~15μmであることが好ましく、2~10μmであることがより好ましい。平均粒径が上記範囲を超えるものは、タルク(F)の二次粒子の平均粒径が30μm以下を満たすことが難しく、成形品の曲げ弾性率や外観が低下する可能性がある。一方、平均粒径が上記範囲未満のものは、分散不良を起こし易い。該平均粒径の測定は、レーザー回折法(例えば堀場製作所製LA920W)、又は液層沈降方式光透過法(例えば、島津製作所CP型等)によって測定した粒度累積分布曲線から読みとった累積量50重量%の粒径値より求めることができる。本発明においては、前者の方法(レーザー回折法)により測定した値である。
【0066】
タルク(F)は、天然に産出されたものを機械的に微粉砕化することにより得られたものを更に精密に分級することによって得られる。また、一度粗分級したものを更に分級してもかまわない。機械的に粉砕する方法としては、ジョークラシャー、ハンマークラシャー、ロールクラシャー、スクリーンミル、ジェット粉砕機、コロイドミル、ローラーミル、振動ミル等の粉砕機を用いて粉砕することができる。粉砕されたタルクは、前述の好ましい平均粒径に調節するために、サイクロン、サイクロンエアセパレーター、ミクロセパレーター、サイクロンエアセパレーター、シャープカットセパレター等の装置で1回又は繰り返し湿式又は乾式分級することができる。本発明で用いるタルクを製造する際は、特定の粒度分のタルクを得るために、特定の粒径に粉砕した後、シャープカットセパレターにて分級操作を行うことが好ましい。
【0067】
本発明におけるこれらのタルク(F)は、特に表面処理などが不要なタルクであるが、熱可塑性ポリエステル(A)との接着性又は分散性を向上させる目的で、各種の有機チタネート系カップリング剤、有機シラン系カップリング剤、不飽和カルボン酸、又はその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等によって表面処理したものを用いてもよい。また、水溶性高分子バインダーを用いて顆粒状に造粒した顆粒状タルクであってもよい。
【0068】
[任意の添加剤]
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物には、前記以外に、必要に応じて公知の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑材、結晶核剤、離型剤、帯電防止剤、無機顔料、有機顔料、染料、又は他種ポリマー等を添加することができる。
【0069】
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物は、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び(E)成分の合計で80質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0070】
[難燃ポリエステル樹脂組成物の製造方法]
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物の製造方法は限定的ではないが、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び(E)成分、並びにその他の配合物を所定の配合組成となるように任意の配合順列で配合した後、タンブラー、ヘンシェルミキサー等で混合し、溶融混錬することにより製造することができる。溶融混錬方法は、当業者に周知の単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を使用する方法が挙げられるが、この中でも二軸押出機を使用することが好ましい。
【0071】
また、押出加工時に破損し易い無機系繊維材料(D)等は二軸押出機のサイド口から投入し、該ガラス繊維の破損を防止することが好ましいが、特に限定されるものではない。また、シランカップリング剤は、(D)以外の原料成分と同時に添加しても良いが、予め(D)成分に付与して添加するのが好ましい。
【0072】
また、加工時の揮発成分、分解低分子成分を除去するため、更に無機系繊維材料(D)と熱可塑性ポリエステル(A)との反応性を高めるためには、無機系繊維材料(D)投入部分のサイド口と押し出し機先端のダイヘッドとの間で真空ポンプによる吸引を行うことが望ましい。
【0073】
[難燃ポリエステル樹脂組成物の物性]
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物は、好適な実施態様において、樹脂組成物の融点+10℃、キャピラリー径1.0×長さ10.0mm、せん断速度10s-1で測定した溶融粘度が1×103Pa・s~5×103Pa・sを満たす。これは、本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物中の前記(B)成分の含有量が0.05~1質量%であることにより、樹脂組成物の低せん断速度域の流動性が顕著に向上していることを意味する。
【0074】
本発明の難燃ポリエステル樹脂組成物は、好適な実施態様において、ISO75に準拠した1.82MPa荷重で測定した多目的試験片の荷重たわみ温度が225℃以上という優れた特性を満たす。
【実施例0075】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0076】
実施例1~4及び比較例1~5
実施例、比較例において示した各特性、物性値は、下記の試験方法で測定した。
(1)ポリエステル樹脂の還元粘度(dL/g):
0.1gのサンプルをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mLに溶解し、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。
(2)溶融粘度:難燃ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度は、(株)東洋精機製作所製の「キャピログラフ1D」を使用して測定した。具体的には、キャピラリー:直径1.0mm、長さ40mm、シリンダー径:9.55mm、温度:融点+10℃の条件で、せん断速度10S-1の時の溶融粘度を測定した。
(3)荷重たわみ温度(HDT):射出成形機(東芝機械(株)製、IS80)でISO-3167の多目的試験片を成形し、ISO-75に従って荷重:1.82MPaでHDTを測定した。
(4)燃焼性試験:
UL94に準拠して、試験片の厚み1/32インチで燃焼性を評価した。UL94では自己消火性を有する難燃性を5VA>5VB>V-0>V-1>V-2の指標で評価しており、5VAが最も難燃性に優れている。
(5)曲げ強度(初期):
ISO-178に準じて測定した。試験片は、射出成形機(東芝機械(株)製、IS80)でシリンダー温度275℃、金型温度140℃、サイクル時間40秒にてISOダンベル片を連続射出成形したものを用いた。
(6)曲げ強度(滞留時):
シリンダー内に15分間滞留させた以外は、(5)と同様にして曲げ強度を測定した。
(7)成形品外観:
下記の成形条件で射出成型したテストピースを、下記基準で評価した。
【0077】
[成形条件1]
100mm×100mm×2mm厚みのシボプレート金型を用い、射出成形機でシリンダー温度275℃、金型温度140℃、サイクル時間40秒で射出成形した。
【0078】
[成形条件2]
サイクル時間を30秒にした以外は、成形条件1と同様に射出成型した。
【0079】
[評価基準]
○:下記(1)~(3)に全てを満たす。
(1)平板全面でのガラス繊維の浮きがなく、表面光沢が優れている。
(2)バリが発生しない。
(3)ガス焼けが認められない。
【0080】
△:上記(1)でゲートから離れた端面にわずかにガラス繊維の浮きが観測されるが、(2)、(3)は満たす。
【0081】
×:下記(4)~(6)のいずれかに該当する。
(4)ゲートから離れた端面でガラス繊維の浮きが顕著に観測される。
(5)バリが生じる。
(6)ガス焼けが認められる。
【0082】
実施例、比較例において使用した原料は次の通りである。
【0083】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(A-1):東洋紡(株)製、還元粘度0.75dL/g
ポリエチレングリコールジベンゾエート(B-1):三洋化成(株)製、KRM4004、「PEGDBE」と称する。
【0084】
臭素系難燃剤(C-1):グレートレークス製、PDBS-80(ポリ臭素化スチレン)
難燃助剤(C-2):日本精鉱(株)製、PATOX-MK(三酸化アンチモン)
ガラス繊維(D-1):日本電気硝子(株)製、ECS03T-120H
エポキシ化合物(E-1):ナガセケムテックス(株)製、デナコールEX-830(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル)
カルボジイミド(E-2):日清紡ケミカル(株)製、カルボジライト LA-1
タルク(F-1):林化成(株)製、ミクロンホワイト#5000
その他の添加剤として下記を用いた。
【0085】
酸化防止剤:BASF製、Irganox1010
離型剤:クラリアントジャパン(株)製、リコルブWE40
実施例、比較例の難燃ポリエステル樹脂組成物は、上記原料を表1に示した配合比率(質量%)に従い計量して、35φ二軸押出機(東芝機械社製)でシリンダー温度275℃、スクリュー回転数100rpmにて溶融混錬することにより得た。なお、ガラス繊維以外の原料はホッパーから二軸押出機に投入し、ガラス繊維はベント口からサイドフィードで投入した。
【0086】
得られたポリエステル樹脂組成物のペレットを使用し、射出成形機でそれぞれの評価サンプルの成形体を得た。
【0087】
評価結果を表1に示した。
【0088】
【0089】
表1より、実施例1~4の難燃ポリエステル樹脂組成物は、全ての項目に関して良好な結果が得られ、強度、剛性、耐熱性、難燃性、滞留安定性、成形性(成形品外観)の全てのバランスが取れていることが分かる。
【0090】
一方、比較例1は、(B)成分が過剰量であるため、滞留安定性が悪く、成形品にもガス焼けが認められた。比較例2は、(B)成分を含まないために流動性が不足し、成形品端部にガラス浮きが見られ外観が不良であった。比較例3は、反応性化合物(E)を含まないため滞留安定性が悪く、成形品にもバリやガス焼けが認められた。比較例4は、(B)成分は含むものの過小量であるため、比較例2と同様に流動性が不足し、成形品端部にガラス浮きが見られ外観が不良であった。また、比較例5は、(B)成分を所定量を超えて含有するため、比較例1と同様に滞留安定性が悪く、成形品にもガス焼けが認められた。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、剛性と難燃性を高度に両立し、さらに成形性、滞留安定性が良好で、かつ成形外観の優れた成形品を得ることができるため、剛性や耐熱性(高HDT)を必要とする電気・電子部品、機械機構部品、自動車部品などの幅広い用途に適用できるので、産業界への寄与はきわめて大きい。