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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146339
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】収納部材用熱膨張性断熱シート
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/06 20060101AFI20241004BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09K21/06
C09K21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059178
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】辻井 美香
(72)【発明者】
【氏名】牛見 建彦
【テーマコード(参考)】
4H028
【Fターム(参考)】
4H028AA03
4H028AA07
4H028AA12
4H028AA21
4H028AA42
4H028AB03
4H028BA03
(57)【要約】
【課題】低温から高温までの広い温度範囲で断熱性能を発揮できる収納部材用熱膨張性断熱シートを提供する。
【解決手段】本発明は、ゴム成分及び樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び前記熱膨張性黒鉛以外の低温発泡物質を含有する、収納部材用熱膨張性断熱シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分及び樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び前記熱膨張性黒鉛以外の低温発泡物質を含有する、収納部材用熱膨張性断熱シート。
【請求項2】
150℃で膨張させたときの膨張倍率が5~80倍である、請求項1に記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
【請求項3】
400℃で膨張させたときの膨張倍率が30~80倍である、請求項1又は2に記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
【請求項4】
前記低温発泡物質として熱膨張性マイクロカプセルを含む、請求項1又は2に記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
【請求項5】
前記低温発泡物質の発泡開始温度が100~140℃である、請求項1又は2に記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
【請求項6】
前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が160~260℃である、請求項1又は2に記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納部材用熱膨張性断熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性黒鉛は、火災などで火に晒された場合に、熱膨張性黒鉛自身が加熱されることで膨張して大容量の空隙を有する断熱層を形成し、耐火性を有効に発揮できることが知られている。そのため、高温に晒された際に、発火したり、爆発の危険性のある内容物を収容した収容部材などに対して、熱膨張性黒鉛を含むシートを貼り付けて、発火等を抑制することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、小型電子機器、自動車などに使用されるバッテリーに、熱膨張性黒鉛を含む耐火材を使用することが記載されている。バッテリーは電解液などの内容物を含み、温度上昇等に伴う熱暴走により発火する危険性があるが、熱膨張性黒鉛を含む耐火材をバッテリーに貼り付けることで、火災の際などの高温時に膨張して断熱膨張層を形成し、これにより、収容部材の内容物に起因する発火や爆発を抑制しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-075472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱膨張性黒鉛を含む従来の耐火材は、200℃以上の高温になったときに大きく膨張し、断熱性能を発揮することが可能であるが、200℃未満の低温では、膨張しないか、あるいは膨張が少ないため、温度の低い火災初期などにおいて、十分な断熱性を発揮できない。そのため、危険物などを収容した収納部材の初期の温度上昇を抑制できないという課題がある。火災初期の温度上昇が抑制できないと、最終到達温度が高くなるため、内容物によっては発火や爆発の危険性が高くなる。
そこで、本発明は、低温から高温までの広い温度範囲で断熱性能を発揮できる収納部材用熱膨張性断熱シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者は、ゴム成分及び樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び前記熱膨張性黒鉛以外の低温発泡物質を含有する収納部材用熱膨張性断熱シートにより、上記課題を解決できることを見出し本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]~[6]に関する。
[1]ゴム成分及び樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び前記熱膨張性黒鉛以外の低温発泡物質を含有する、収納部材用熱膨張性断熱シート。
[2]150℃で膨張させたときの膨張倍率が5~80倍である、上記[1]に記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
[3]400℃で膨張させたときの膨張倍率が30~80倍である、上記[1]又は[2]に記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
[4]前記低温発泡物質として熱膨張性マイクロカプセルを含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
[5]前記低温発泡物質の発泡開始温度が100~140℃である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
[6]前記熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が160~260℃である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の収納部材用熱膨張性断熱シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低温から高温までの広い温度範囲で断熱性能を発揮できる収納部材用熱膨張性断熱シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[収納部材用熱膨張性断熱シート]
本発明の収納部材用熱膨張性断熱シートは、ゴム成分及び樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び前記熱膨張性黒鉛以外の低温発泡物質を含有する。
本発明の収納部材用熱膨張性断熱シートは、各種収納部材に対して使用するための熱膨張性断熱シートであり、熱により膨張して断熱層が形成され、該断熱層により各種収納部材の火災時などにおける温度上昇が抑制され、収納部材の収容物(内容物)に起因する発火や爆発を防止することができる。
以下、本発明の収納部材用熱膨張性断熱シートのことを、単に断熱シートという場合もある。
【0009】
<低温発泡物質>
本発明の断熱シートは、熱膨張性黒鉛以外の低温発泡物質を含有する。低温発泡物質は、例えば、発泡開始温度が100~150℃の範囲にある物質を意味する。断熱シートが低温発泡物質を含むことにより、火災初期などの低温時において、断熱シートが膨張し易くなり、早期に断熱性を発揮することができる。そのため、収納部材の温度上昇を抑制でき、発火や爆発の危険性を低減することができる。
【0010】
低温発泡物質の発泡開始温度は、特に限定されないが、100~150℃であることが好ましく、100~140℃であることがより好ましく、110~140℃であることがさらに好ましい。低温発泡物質の発泡開始温度がこれら下限値以上であると、断熱シートを製造する際の発泡を抑制することができる。低温発泡物質の発泡開始温度がこれら上限値以下であると、熱膨張性黒鉛のみでは膨張倍率を高めにくい低温領域の膨張倍率を高めることができる。
低温から高温までの広い範囲で良好な断熱性を発揮させる観点から、後述する熱膨張性黒鉛の膨張開始温度と、低温発泡物質の発泡開始温度の差(膨張開始温度-発泡開始温度)は、好ましくは10~70℃であり、より好ましくは20~60℃である。熱膨張性黒鉛の膨張開始温度と、低温発泡物質の発泡開始温度の差がこれら下限値以上であると、互いに膨張を阻害し難くなり、その結果膨張倍率を高められる。熱膨張性黒鉛の膨張開始温度と、低温発泡物質の発泡開始温度の差がこれら上限値以下であると、低温発泡物質の膨張残渣による熱膨張性黒鉛の膨張阻害が生じ難くなり、その結果膨張倍率を高めることができる。
低温発泡物質の発泡開始温度は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0011】
低温発泡物質は、加熱により発泡及び膨張する熱発泡性を有する粒子であることが好ましく、熱膨張性マイクロカプセルであることがより好ましい。
【0012】
熱膨張性マイクロカプセルは、外殻樹脂の内部に低沸点溶剤等の揮発性物質が内包されたものであり、加熱により外殻樹脂が軟化し、内包された揮発性物質が揮発ないし膨張するため、その圧力で外殻が膨張して粒子径が大きくなり、中空粒子となるものである。熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度は、外殻樹脂及び揮発性物質の種類により調整することができる。なお、熱膨張性マイクロカプセルを発泡させる温度は、特に限定されないが、一般に、発泡開始温度より高い温度となる。
【0013】
熱膨張性マイクロカプセルの外殻は、熱可塑性樹脂から形成されることが好ましい。熱可塑性樹脂は、エチレン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブタジエン、クロロプレン等のビニル重合体およびこれらの共重合体、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、内包された揮発性物質が透過しにくい点からアクリロニトリルの共重合体が好ましい。
熱膨張性マイクロカプセルの内部に内包される揮発性物質としては、プロパン、プロピレン、ブテン、ノルマルブタン、イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、ノルマルペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の炭素数3~8の炭化水素、塩化メチル、メチレンクロリド等のメタンのハロゲン化物、CClF、CCl等のクロロフロオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン等のテトラアルキルシラン、石油エーテル等から選択される1種又は2種以上の低沸点液体が使用される。
熱膨張性マイクロカプセルの好適例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデンなどを主成分とした共重合体を外殻樹脂とし、イソブタン等の炭素数3~8の炭化水素を内包したマイクロカプセルが挙げられる。
【0014】
熱膨張性マイクロカプセルは、平均粒子径が、好ましくは1μm以上、より好ましくは4μm以上であり、また、好ましくは50μm未満、より好ましくは40μm未満である。平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡、光学顕微鏡等を用いて、観察した視野中の100個の粒子の一次粒子の大きさをそれぞれ測定したときの測定値の平均値である。平均粒子径は、上記粒子が球形である場合には粒子の直径の平均値を意味し、非球形である場合には粒子の長径の平均値を意味する。
【0015】
本発明の断熱シートにおける低温発泡物質の含有量は、特に限定されないが、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは1~100質量部であり、より好ましくは5~50質量部であり、さらに好ましくは10~20質量部である。低温発泡物質の含有量がこれら下限値以上であると、断熱シートの低温での膨張性が高まり、火災初期における断熱性が向上する。低温発泡物質の含有量がこれら上限値以下であると、低温から高温まで適切に膨張させることが可能となり、断熱シートの膨張後の形状保持能力を向上させることができ、また加工性も良好になる。
【0016】
<熱膨張性黒鉛>
本発明の断熱シートは、熱膨張性黒鉛を含有する。熱膨張性黒鉛を含有することにより、高温時(例えば、200℃以上)の断熱シートの膨張性を向上させることができ、収納容器の表面温度の上昇を抑制でき、収納容器の内容物に起因する発火や爆発などを防止することができる。また、膨張後の形状保持性が高いため、脱落などが生じ難く、断熱性を継続的に発揮させることができる。
【0017】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、断熱シートの高温時の膨張性を向上させる観点、低温発泡物質と組み合わせて使用し、低温から高温までの全体の断熱性を向上させる観点などから、好ましくは160~260℃であり、より好ましくは160~230℃であり、さらに好ましくは160~200℃である。熱膨張性黒鉛の発泡開始温度は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0018】
熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の原料粉末を、強酸化剤で酸処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。強酸化剤としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
熱膨張性黒鉛は中和処理されてもよい。つまり、上記のように強酸化剤などで処理して得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和してもよい。
【0019】
熱膨張性黒鉛の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは50~500μmであり、より好ましくは100~400μmである。なお、熱膨張性黒鉛の平均粒径は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法の平均値として求める。
上記した熱膨張性黒鉛の最小寸法及び最大寸法は、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。
【0020】
本発明の断熱シート中の熱膨張性黒鉛の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは5~300質量部であり、より好ましくは10~100質量部であり、さらに好ましくは15~50質量部である。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら下限値以上であると、断熱シートの高温時の膨張性を高めやすくなる。熱膨張性黒鉛の含有量がこれら上限値以下であると、形状保持性、加工性などが良好になる。
【0021】
<マトリックス成分>
本発明の断熱シートは、ゴム成分及び樹脂から選択される少なくとも1種であるマトリックス成分を含有する。
【0022】
(ゴム成分)
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、アクリロニトリルゴム-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンエラストマーなどが挙げられる。
これらの中でも、低温時から高温時における膨張性を向上させ、断熱性を向上させる観点から、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、及びクロロプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
アクリロニトリル-ブタジエンゴムのニトリル量は、8~40質量%が好ましく、10~35質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。ニトリル量が上記の範囲にあるアクリロニトリル-ブタジエンゴムは、断熱シートの膨張圧力を高めやすく、断熱性を向上させやすい。
アクリロニトリル-ブタジエンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、20~90が好ましく、30~85がより好ましく、50~80がさらに好ましい。
【0024】
クロロプレンゴムは、断熱シートにおける含有炭素の割合を低くすることができるため、耐火性を高める観点から、断熱シートに含まれるゴムとしてクロロプレンゴム使用することも好ましい。
クロロプレンゴムとしては、硫黄変性タイプ(Gタイプ)、非硫黄変性タイプ(Wタイプ)等も用いることができる。
クロロプレンゴムの100℃におけるムーニー粘度ML(1+4)は、60~120が好ましく、70~90がより好ましい。
なお、本明細書においてムーニー粘度はJIS K6300に準拠して測定される。
【0025】
マトリックス成分として、ゴム成分を使用する場合は、断熱シートは、後述する可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤を使用することで、断熱シートの成形性を高められ、さらに膨張性も向上する。クロロプレンゴムを用いる場合は、脂肪族エステル系可塑剤等を用いることができる。脂肪族エステル系可塑剤としては、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル等のエーテル結合を有する脂肪族エステル系可塑剤を例示することができる。アジピン酸ジブトキシエトキシエチルの市販品としては、例えば、(株)ADEKA製のアデカサイザーRS-107等が該当し、アジピン酸エーテルエステル系と称される。
【0026】
(樹脂)
樹脂としては熱硬化性樹脂でもよいし、熱可塑性樹脂でもよいが、好ましくは熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ウレタンエラストマーなどのウレタン系樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、低温時から高温時における膨張性を向上させ、断熱性を向上させる観点から、断熱シートに含まれる樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
樹脂としてポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体のいずれかを用いた場合は、高温時に樹脂が分解して、粘度が低くなりやすく、膨張倍率を高めやすくなる。また、ポリ塩化ビニル樹脂を用いる場合、後述する可塑剤を併用することで、膨張倍率を高めやすくなる。
また、本発明の断熱シートは、低温発泡物質を含んでいるため、製造時の発泡を抑制する観点からより低温で加工できるものが好ましく、そのような観点から、上記樹脂の中でもエチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0027】
ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレンであってもよいし、プロピレンとプロピレン以外のモノマー(例えばエチレン)との共重合体であってもよいが、ホモポリプロピレンが好ましい。
また、断熱シートの膨張倍率を高める観点から、ポリプロピレン樹脂の230℃におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1~20g/10分であり、より好ましくは5~15g/10分である。
【0028】
ポリエチレン樹脂は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンのいずれでもよいが、低密度ポリエチレンが好ましい。
また、断熱シートの膨張倍率を高める観点から、ポリエチレン樹脂の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.5~10g/10分であり、より好ましくは2~6g/10分である。
【0029】
エチレン酢酸ビニル共重合体は、例えばエチレンの含有量が50質量%以上であるエチレンと酢酸ビニルの共重合体を使用できる。エチレン酢酸ビニル共重合体は、JIS K7192:1999に準拠して測定される酢酸ビニル含量が、好ましく10~50質量%、より好ましくは13~35質量%であり、さらに好ましくは15~25質量%である。酢酸ビニル含量を上記下限値以上とすることで断熱性が良好となる。また、酢酸ビニル含量を上記範囲内とすることで、成形性などを良好にしやすくなる。
【0030】
ポリ塩化ビニル樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルモノマーと、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体、塩化ビニル以外の重合体に塩化ビニルをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、ポリ塩化ビニル樹脂の塩素化物である塩素化ポリ塩化ビニル樹脂も、ポリ塩化ビニル樹脂に含まれるものとする。
【0031】
(可塑剤)
断熱シートは、可塑剤を含有してもよい。可塑剤を含有することで、柔軟性、成形性が向上しやすくなる。また、上記したとおり、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、又はポリ塩化ビニル樹脂などと、可塑剤とを併用することで、断熱シートの膨張倍率を高めやすくなる。
【0032】
可塑剤としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)、ジ-2-エチルへキシルアゼラート(DOZ)、ジ-2-エチルへキシルセバカート(DOS)、ジイソノニルアジペート(DINA)、ジイソデシルアジペート(DIDA)、ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]アジペート(BXA-N)等の脂肪族ジエステル、アジピン酸ポリエステル等の脂肪酸エステル可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のアジピン酸エステル可塑剤、トリー2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤、鉱油等のプロセスオイル等が挙げられる。これらの中でも、フタル酸エステル可塑剤が好ましく、ジイソデシルフタレート(DIDP)がより好ましい。
可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
断熱シートが可塑剤を含有する場合、可塑剤の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して5~300質量部が好ましく、20~200質量部がより好ましく、50~120質量部がさらに好ましい。可塑剤の含有量を上記範囲内とすると、成形性、断熱性、機械強度、接着性などをバランスよく良好にすることができる。
【0034】
(架橋剤)
本発明の断熱シートは、架橋剤を含んでもよい。架橋剤を用いることで、火災の際の熱により、樹脂の架橋が進行して、断熱シートの膨張性が高くなり断熱性が向上する。
【0035】
架橋剤としては、公知のものが制限なく使用でき、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物などを挙げることができる。
有機過酸化物としては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、3-ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、α,α’ -ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート等が挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0036】
断熱シートが架橋剤を含有する場合は、架橋剤の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.5~7質量部であり、さらに好ましくは1~5質量部である。
【0037】
(難燃剤)
本発明の断熱シートは、難燃剤を含有することが好ましい。難燃剤を含有することにより、耐火性が向上する。
難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート(リン酸トリフェニル)、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。難燃剤としては、下記一般式(1)で表される化合物等も挙げられる。
【0038】
【化1】
【0039】
前記一般式(1)中、R及びRは、同一又は異なって、水素、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を示す。Rは、水酸基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、又は炭素数6~16のアリールオキシ基を示す。
【0040】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。前記難燃剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明の難燃剤としては、ホウ素系化合物及び金属水酸化物を使用することもできる。
ホウ素系化合物としては、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及びハイドロタルサイト等が挙げられる。金属水酸化物を用いた場合、発火により生じた熱によって水が生成し、速やかに消火することができる。
【0042】
前記難燃剤の中でも、安全性やコスト等の観点からから、赤リン、トリフェニルホスフェート(リン酸トリフェニル)等のリン酸エステル、亜リン酸アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、及びホウ酸亜鉛が好ましい。中でも、亜リン酸アルミニウム、及びポリリン酸アンモニウムがより好ましく、亜リン酸アルミニウムがさらに好ましい。亜リン酸アルミニウムは、膨張性があるため、効果的に断熱性を向上させ易い。
【0043】
難燃剤の平均粒子径は、1~200μmが好ましく、1~60μmがより好ましく、3~40μmがさらに好ましく、5~20μmがさらに好ましい。難燃剤の平均粒子径が上記範囲内であると、断熱シートにおける難燃剤の分散性が向上し、難燃剤をマトリックス成分中に均一に分散させたり、マトリックス成分に対する難燃剤の配合量を多くしたりすることができる。
なお、難燃剤の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したメディアン径(D50)の値である。
【0044】
本発明の断熱シートの難燃剤の含有量は、マトリックス成分100質量部に対して、1~200質量部であることが好ましく、3~100質量部がより好ましく、5~30質量部が更に好ましい。難燃剤の含有量がこれら下限値以上であると、断熱シートの耐火性が向上する。また、難燃剤の含有量がこれら上限値以下であると、マトリックス成分中に均一に分散しやすくなり、成形性などが優れたものとなる。
【0045】
(無機充填剤)
本発明の断熱シートは、難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填剤を更に含有してもよい。無機充填材を含有することで、断熱シートの膨張後の形状保持性などの機械的物性を高めることができ、断熱性が向上する。
難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填剤としては特に制限されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウム等の金属炭酸塩、シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、及び脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
無機充填剤の平均粒子径は、0.5~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましい。無機充填剤は、含有量が少ないときは分散性を向上させる観点から粒子径が小さいものが好ましく、含有量が多いときは高充填が進むにつれて、断熱シートの粘度が高くなり成形性が低下するため粒子径が大きいものが好ましい。
【0047】
本発明の断熱シートが、難燃剤及び熱膨張性黒鉛以外の無機充填剤を含有する場合、その含有量はマトリックス成分100質量部に対して、好ましくは1~200質量部、より好ましくは2~50質量部、より好ましくは3~10質量部である。無機充填剤の含有量が前記範囲内であると、断熱シートの機械的物性を向上させることができる。
【0048】
本発明の断熱シートは、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、分散剤、ゲル化促進剤、充填剤、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加剤の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択できる。添加剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
断熱シートは、シート状であることが好ましく、その厚さは特に限定されないが、断熱性及び取扱い性の観点から、0.2~10mmが好ましく、0.5~3.0mmがより好ましい。
【0050】
(膨張倍率)
本発明の断熱シートの150℃膨張させたときの膨張倍率は、5~80倍であることが好ましく、10~70倍とすることがより好ましく、30~70倍であることがさらに好ましい。150℃における膨張倍率を上記下限値以上とすることにより、断熱シートの低温での膨張性を高めることができ、火災初期における断熱性能を向上させることができる。150℃における膨張倍率が上記上限値以下であると、形状を保持しやすく、その結果、断熱性の低下を防止できる。
【0051】
本発明の断熱シートの400℃で膨張させたときの膨張倍率は、30~80倍であることが好ましく、35~80倍であることがより好ましく、40~75倍であることがさらに好ましい。400℃における膨張倍率を上記下限値以上とすることにより、断熱シートの高温での膨張性を高めることができるため、低温から高温まで継続的に断熱性を維持することができる。400℃における膨張倍率が上記上限値以下であると、膨張後の断熱シートの残渣硬さを一定以上に保つことができるため、形状保持性が良好となり、断熱性が向上する。
【0052】
(断熱シートの製造方法)
本発明の断熱シートは、例えば下記のようにして製造することができる。
まず、所定量のマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、低温発泡物質、必要に応じて配合される可塑剤、難燃剤、架橋剤、無機充填材、及びその他の成分を、混練ロールなどの混練機で混練して、断熱シート用樹脂組成物を得る。
次に、得られた断熱シート用樹脂組成物を、例えば、プレス成形、カレンダー成形、押出成形等、公知の成形方法によりシート状などに成形することで断熱シートを得ることができる。
混練する際の温度及びシート状に成形する温度は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度未満、及び低温発泡物質の発泡開始温度未満であることが好ましく、架橋剤を配合する場合は、架橋剤が架橋し難い温度であることが好ましい。そのため、混練する温度は、80~120℃が好ましく、90~110℃がより好ましい。シート状に成形する温度は、80~120℃が好ましく、90~110℃がより好ましい。
【0053】
(積層シート)
本発明の断熱シートは、他のシート部材や粘着剤層が積層され積層シートを構成してもよい。積層シートは、例えば、基材と、基材の片面又は両面に積層される断熱シートとを備える。基材は通常、織布又は不織布である。織布又は不織布に使用される繊維としては、特に限定はされないが、不燃性材料又は準不燃材料が好ましく、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、熱硬化性樹脂繊維等が好ましい。
上記積層シートは、例えば、断熱シート用樹脂組成物を基材の上にシート状に成形して得ることができる。
【0054】
また、積層シートは、断熱シートと粘着剤層を備えるものであってもよい。粘着剤層は、例えば、断熱シートの片面又は両面に積層されてもよい。
さらに、積層シートは、断熱シートと、基材と、粘着剤層とを備えてもよい。そのような積層シートは、基材の一方の面に断熱シート、他方の面に粘着剤層が設けられてもよいし、基材の一方の面の上に、断熱シート及び粘着剤層がこの順に設けられてもよい。粘着剤層は、例えば、離型紙に塗工した粘着剤を積層シートに転写することで形成できる。
【0055】
本発明の断熱シート、及びこれを用いた積層シートは、各種収納部材に対して用いられる。収納部材の種類は特に限定されないが、例えば、内容物として、引火性物質、爆発性物質などの危険物を収容するための容器が挙げられる。
収容部材としては、例えば、バッテリー又はタンクなどが挙げられ、車両用のバッテリー又はタンクが好ましい。
バッテリーとしては、例えば、バッテリーセル、該バッテリーセルを複数備えるバッテリーモジュール、該バッテリモジュールを複数備えるバッテリーパックなどが挙げられる。バッテリーセルは、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、ニッケル・水素電池、リチウム・硫黄電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル・鉄電池、ニッケル・亜鉛電池、ナトリウム・硫黄電池、鉛蓄電池、空気電池等の二次電池であり、これらの中でもリチウムイオン電池が好ましい。
タンクとしては、液体水素、液化天然ガス、液化エチレンガス、液化石油ガスなどを収容するタンクが挙げられ、中でも液体水素を収容するタンクが好ましい。
上記した危険物を収容した収納部材に対して、本発明の断熱シートを貼付あるいは巻き付けるなどして使用することにより、火災時において、低温から高温まで広い温度範囲で良好な断熱性を発揮し、発火や爆発を抑制することができる。
【実施例0056】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0057】
<評価方法>
(膨張開始温度)
レオメーター(「Discovery HR―2」、TAインスツルメント社製)において、試料台に熱膨張性黒鉛のサンプルを0.5g置き、粉末が落ちないようにアルミホイルで巻いた。25mmφコーンプレートで荷重0[N]になるところまで接地させた。その状態からペルチェヒーターにより設定温度50℃から一定昇温速度(10℃/分)でサンプルを加熱し、荷重0.1Nとなったときを膨張開始温度とした。
【0058】
(発泡開始温度)
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、低温発泡物質の発泡開始温度を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5°C/minの昇温速度で50°Cから220°Cまで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度とした。
【0059】
(膨張倍率)
膨張倍率は、次の通り測定した。各実施例、及び比較例の断熱シートを所定のサイズにした(厚み1.8mm、幅25mm、長さ25mm)。該所定のサイズの断熱シートをステンレス製の板(98mm角・厚み0.3mm)の底面に設置し、電気炉に供給し150℃で30分間加熱させた。加熱後の断熱シートの厚さを加熱前の断熱シートの厚さで除することにより、150℃における膨張倍率を求めた。また、上記方法において、150℃で30分間加熱する操作に代えて、400℃で30分間加熱する操作を行い、400℃における膨張倍率を求めた。
【0060】
<耐火試験>
50mm角の正方形に切り出した断熱シートを固定治具に設置した。次いで、ガスバーナーの口を下に向けた状態で、断熱シートの厚み方向の表面から高さ50mmのところに固定した。一旦、固定治具をガスバーナーの火が当たらないところに移動させ、ガスバーナー(口径9.5φ、メタンガス)の火の全長を50mm、空気量を最大に調整した。固定治具をガスバーナーの火の中央に設置し、断熱シートの表面に接炎した状態で5分間保持した後、火が断熱シートにあたらない場所に外した。
【0061】
(裏面温度)
上記耐火試験において、断熱シートの裏面(火が当たる面とは反対側の面)に熱電対(ミスミ社製、熱電対Kタイプ)を設置し、裏面温度を測定した。
【0062】
(耐火性、断熱性の判定基準)
上記耐火試験中に試験体に展炎するかどうかにより着火の有無を目視で確認した。また、耐火性、断熱性に関しては、以下の評価基準により評価した。
S:裏面温度が150℃未満であり、かつ着火が確認されなかった。
A:裏面温度が150℃以上180℃未満であり、かつ着火が確認されなかった。
B:裏面温度が180℃以上200℃未満であり、かつ着火が確認されなかった。
C:裏面温度が200℃以上220℃未満であり、かつ着火が確認されなかった。
D:裏面温度が220℃以上であるか、又は着火が確認された。
【0063】
各実施例、比較例で使用した各種成分は以下のとおりである。
<マトリックス成分>
エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA):三井デュポンポリケミカル株式会社製「エバフレックスEV460」、酢酸ビニル含有量19質量%
クロロプレンゴム(CR):東ソー株式会社製「スカイプレンTSR-56」
アクリロニトリルゴム-ブタジエンゴム(NBR):日本ゼオン社製「Nipol1043」
【0064】
(熱膨張性黒鉛)
・熱膨張性黒鉛 富士黒鉛工業株式会社製「EXP-50S120N」、膨張開始温度120℃
・熱膨張性黒鉛 富士黒鉛工業株式会社製「EXP-42S160N」、膨張開始温度160℃
・熱膨張性黒鉛 富士黒鉛工業株式会社製「EXP-50HO」、膨張開始温度200℃
・熱膨張性黒鉛 富士黒鉛工業株式会社製「EXP-50KK」、膨張開始温度260℃
【0065】
(低温発泡物質)
・熱膨張性マイクロカプセル 積水化学工業株式会社製「アドバンセルEMH204」、発泡開始温度115℃
・熱膨張性マイクロカプセル 積水化学工業株式会社製「アドバンセルEM306」、発泡開始温度140℃
・熱膨張性マイクロカプセル 積水化学工業株式会社製「アドバンセルEM504」、発泡開始温度170℃
【0066】
(可塑剤)
RS-107:アジピン酸エーテルエステル系、(株)ADEKA製「アデカサイザーRS-107」
【0067】
(難燃剤)
亜リン酸アルミニウム 太平化学産業株式会社製「APA100」
【0068】
(無機充填剤)
炭酸カルシウム
【0069】
(実施例1~10、比較例1~4)
表1に示す配合にてマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、低温発泡物質(熱膨張性マイクロカプセル)、難燃剤、無機充填材及び可塑剤をロールに投入して、100℃で5分間混練して、断熱シート用樹脂組成物を得た。得られた断熱シート用樹脂組成物を、100℃で3分間プレス成形して、シート状の断熱シートを得た。評価結果を表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
以上の実施例に示すように、ゴム成分及び樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のマトリックス成分、熱膨張性黒鉛、及び低温発泡物質である熱膨張性マイクロカプセルを含有する本発明の断熱シートは、低温及び高温時の熱膨張性が高く、断熱性に優れていた。これに対して、熱膨張性黒鉛又は低温発泡物質を含有しない各比較例の断熱シートは、低温又は高温時の熱膨張性が低く、断熱性に劣ることが分かった。