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特開2024-146358筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146358
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20241004BHJP
   C09D 11/18 20060101ALI20241004BHJP
   B43K 7/01 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D11/16
C09D11/18
B43K7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059204
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】山村 知之
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
4J039AB02
4J039AE09
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039EA42
4J039EA44
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 着色剤としての顔料または樹脂粒子の分散安定性が長期間に亘って優れると共に、カスレや線飛び等が抑制され良好な筆跡を形成できる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供する。
【解決手段】 顔料または樹脂粒子から選ばれる着色剤と、カチオン性高分子と、水とを含んでなり、前記カチオン性高分子が、第一級アミン、第二級アミン、または第三級アミンから選ばれるアミンの重合体であると共に、構成単位中にスルホニル基を有する筆記具用水性インキ組成物とし、前記カチオン性高分子を特定の構成単位を有する重合体とし、前記カチオン性高分子をインキ組成物全量中に0.05~1質量%の範囲で配合する。また前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなる筆記具とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料又は樹脂粒子から選ばれる着色剤と、カチオン性高分子と、水とを含んでなり、前記カチオン性高分子が、第一級アミン、第二級アミン、または第三級アミンから選ばれるアミンの重合体であると共に、構成単位中にスルホニル基を有する、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記カチオン性高分子が、下記式(I)で示される構成単位を有する重合体である、請求項1記載のインキ組成物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子、又は、C1-3の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、n1は0又は1の整数を示し、Xは、ハロゲン化水素、カルボン酸、硫酸、硫酸エステル、リン酸、スルホン酸、アミド硫酸のいずれかを示す。)
【請求項3】
前記Rが水素原子である、請求項2記載のインキ組成物。
【請求項4】
前記カチオン性高分子が、インキ組成物全量中に0.05~1質量%の範囲で配合されてなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインキ組成物。
【請求項5】
前記着色剤の平均粒子径が0.01~25μmである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインキ組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインキ組成物を収容してなる、筆記具。
【請求項7】
ボールペンである、請求項6記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具に関する。さらに詳細には、着色剤の分散安定性に優れ、良好な筆跡を形成できる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水を主溶媒としたインキ(水性インキ)が知られ、低臭気で安全性が高いことから盛んに利用されている。また、耐光性や耐水性に優れることから、インキの着色剤として顔料や樹脂粒子を用いた水性インキが広く利用されている。通常、顔料や樹脂粒子は水中での分散安定性が不安定であり、これらの着色剤を均一に分散させて安定な状態にさせておかなければ凝集や沈降が起こり、インキを収容した筆記具により形成される筆跡の濃度が低下したり、ペン先からのインキ吐出性が低下して線飛びやカスレ等の筆記不良を生じたりするなど、筆記具用水性インキとして十分な性能が得られ難いことがある。そこで、各種分散剤や添加剤を用いて、水性インキ中におけるこれら着色剤の分散安定性を向上させたインキ組成物が開示されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1には、水と、顔料と、キサンタンガムと、特定の分子量を有する非架橋型ポリアクリル酸またはその塩とを含んでなる水性インキが開示されている。
【0004】
特許文献2には、顔料、分散剤、水、水溶性溶剤と、アルキル基の炭素数が4~20のアルキルピロリドンを含有させた筆記具用水性顔料インキ組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、顔料、水性媒体、分散剤としてN-ビニルピロリドン誘導体とアクリル酸誘導体あるいはメタクリル酸誘導体の共重合体からなる水性インキ組成物が開示されている。
【0006】
上記の水性インキ(水性インキ組成物)は、分散剤や樹脂を用いる、あるいは分散剤と特定の添加剤とを併用することにより、インキ中で顔料を安定的に分散させることができるものである。しかしながら、インキ中における顔料の分散安定性は不十分であり、特に、顔料の粒子径が大きい場合や比重が大きい場合に、顔料の凝集や沈降を長期間に亘って抑制することは困難であり、筆跡濃度の低下や筆記不良を生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-59877号公報
【特許文献2】特開平8-283646号公報
【特許文献3】特開平9-59554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、経時的に着色剤が凝集や沈降を生じ難く、良好な筆跡を形成できる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、顔料又は樹脂粒子から選ばれる着色剤と、カチオン性高分子と、水とを含んでなり、前記カチオン性高分子が、第一級アミン、第二級アミン、または第三級アミンから選ばれるアミンの重合体であると共に、構成単位中にスルホニル基を有する、筆記具用水性インキ組成物を要件とする。
また、前記カチオン性高分子が、下記式(I)で示される構成単位を有する重合体であることを要件とする。
【化1】
(式中、Rは、水素原子、又は、C1-3の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、n1は0又は1の整数を示し、Xは、ハロゲン化水素、カルボン酸、硫酸、硫酸エステル、リン酸、スルホン酸、アミド硫酸のいずれかを示す。)
また、前記Rが水素原子であること、前記カチオン性高分子が、インキ組成物全量中に0.05~1質量%の範囲で配合されてなること、前記着色剤の平均粒子径が0.01~25μmであることを要件とする。
さらには、前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなる筆記具を要件とする。
また、前記筆記具がボールペンであることを要件とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、着色剤としての顔料または樹脂粒子の分散安定性が長期間に亘って優れると共に、カスレや線飛び等が抑制され良好な筆跡を形成できる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、「インキ組成物」または「インキ」と表すことがある)は、顔料または樹脂粒子から選ばれる着色剤と、第一級アミン、第二級アミン、または第三級アミンから選ばれるアミンの重合体であると共に、構成単位中にスルホニル基を有するカチオン性高分子と、水とを含んでなる。以下に、本発明によるインキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
本発明によるインキ組成物は、着色剤として顔料または樹脂粒子を含有する。
顔料または樹脂粒子は、水などの水性媒体中に分散可能なものであれば特に限定されるものではない。
【0013】
顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、光輝性顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。さらには、予め界面活性剤や樹脂を用いて顔料を微細に安定的に水性媒体中に分散させた、水分散顔料を用いることもできる。
【0014】
また、必要に応じて顔料分散剤を用いることもできる。顔料分散剤としては、アニオン系、ノニオン系等の界面活性剤;ポリアクリル酸、スチレン-アクリル酸等のアニオン性高分子;PVP、PVA等の非イオン性高分子等が挙げられる。
【0015】
本発明に適用される顔料にはマイクロカプセル顔料も含まれる。
マイクロカプセル顔料は、壁膜形成材料により形成される壁膜に芯物質を内包したものである。芯物質はマイクロカプセルに内包させることにより外部環境から隔離、保護され、芯物質の耐水性や耐光性を向上させることができる。
【0016】
芯物質としては、着色材料と媒体とからなる着色組成物が挙げられる。着色組成物としては、例えば、着色材料としての染料または顔料を、水性媒体または油性媒体中に溶解あるいは分散させたものを例示できる。
【0017】
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、油溶性染料、分散染料等が挙げられる。
顔料としては、上記した顔料あるいは水分散顔料等が挙げられ、必要に応じて顔料分散剤を用いることができる。
【0018】
水性媒体としては、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等の水を例示できる。
油性媒体としては、例えば、一塩基酸エステル、二塩基酸モノエステル、二塩基酸ジエステル、多価アルコールの部分エステルないし完全エステル等のエステル類、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素類、高級アルコール類、ケトン類、エーテル類等を例示できる。
水性媒体あるいは油性媒体は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0019】
着色組成物として、光の照射により色変化する光変色性材料を用いることもできる。この色変化は可逆的であっても不可逆的であってもよいが、光の照射により繰り返し色変化を発現できることから可逆光変色性材料が好適である。
着色組成物として用いられる光変色性材料としては、例えば、着色材料としてのフォトクロミック化合物を、媒体としてのオリゴマーに溶解させた着色組成物、すなわち、フォトクロミック化合物とオリゴマーとから少なくともなる可逆光変色性組成物を例示できる。
【0020】
フォトクロミック化合物としては、太陽光、紫外光、またはピーク発光波長が400~495nmの範囲にある青色光を照射すると発色し、照射を止めると消色する従来公知のスピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体、ナフトピラン誘導体等が挙げられ、例えば、特開2021-120493号公報、国際公開第2020/137469号パンフレットに記載された化合物を例示できる。
さらに、光メモリー性(色彩記憶性光変色性)を有するフォトクロミック化合物を用いることもできる。このようなフォトクロミック化合物としては、ジアリールエテン誘導体等が挙げられ、例えば、特開2021-120493号公報に記載された化合物を例示できる。
【0021】
オリゴマーとしては、例えば、スチレン系オリゴマー、アクリル系オリゴマー、テルペン系オリゴマー、テルペンフェノール系オリゴマー等が挙げられる。
フォトクロミック化合物は各種オリゴマーに溶解させることにより、耐光性と発色濃度を共に向上させることができ、さらには変色感度を調整することができる。
オリゴマーは一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0022】
スチレン系オリゴマーはスチレン骨格を有する化合物またはその水添物であり、例えば、低分子量ポリスチレン、スチレン・α-メチルスチレン共重合体、α-メチルスチレン重合体、α-メチルスチレン・ビニルトルエン共重合体等を例示できる。
アクリル系オリゴマーとしては、例えば、アクリル酸エステル共重合体等を例示できる。
テルペン系オリゴマーはテルペン骨格を有する化合物であり、例えば、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、d-リモネン重合体等を例示できる。
テルペンフェノール系オリゴマーは環状テルペンモノマーとフェノール類とを共重合させた化合物またはその水添物であり、例えば、α-ピネン・フェノール共重合体等が挙げられる。
【0023】
着色組成物として、温度変化により色変化する熱変色性材料を用いることもできる。この色変化は可逆的であっても不可逆的であってもよいが、温度変化により繰り返し色変化を発現できることから可逆熱変色性材料が好適である。
着色組成物として用いられる熱変色性材料としては、着色材料として(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、媒体として(ロ)電子受容性化合物とから少なくともなる着色組成物を例示できる。さらには、着色材料として(イ)成分と、媒体として(ロ)成分ならびに(ハ)(イ)成分および(ロ)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体との均質相溶体から少なくともなる着色組成物、すなわち、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)(イ)成分および(ロ)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体から少なくともなる可逆熱変色性組成物を例示できる。
【0024】
可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、ヒステリシス幅(ΔH)が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることができる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱または冷熱が適用されている間は維持されるが、熱または冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る。
【0025】
可逆熱変色性組成物としては、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報、特開2005-1369号公報等に記載されているヒステリシス幅が大きい特性(ΔH=8~80℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、温度変化による発色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度t以下の温度域での発色状態、または完全消色温度t以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔発色開始温度t~消色開始温度tの間の温度域(実質二相保持温度域)〕で色彩記憶性を有する。
【0026】
なお、本発明に上記の色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を適用する場合、可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度tを冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、かつ、完全消色温度tを摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度の範囲に特定し、ΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0027】
冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度は-50~0℃であり、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃の範囲である。
ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度は50~95℃であり、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲である。
【0028】
可逆熱変色性組成物として、特公昭51-44706号公報、特開2003-253149号公報等に記載された、没食子酸エステルを用いた加熱発色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱発色型とは、加熱により発色し、冷却により消色することを意味する。
【0029】
可逆熱変色性組成物は、上記の(イ)成分、(ロ)成分、および(ハ)成分を必須成分とする相溶体であり、各成分の割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1~100、好ましくは0.1~50、より好ましくは0.5~20、(ハ)成分1~800、好ましくは5~200、より好ましくは5~100、さらに好ましくは10~100の範囲である(上記した割合はいずれも質量部である)。
【0030】
可逆熱変色性材料または可逆光変色性材料は、マイクロカプセルに内包して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料とすることにより、化学的、物理的に安定なマイクロカプセル顔料とすることができる。さらに、種々の使用条件において可逆熱変色性材料または可逆光変色性材料は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができる。
【0031】
壁膜形成材料、すなわち壁膜を構成する樹脂としては、例えば、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、ウレアウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、イソシアネート樹脂等を例示できる。
【0032】
マイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐剤、防黴剤等の各種添加剤を配合することもできる。
【0033】
マイクロカプセル顔料はマイクロカプセル化法により製造することができる。マイクロカプセル化法としては、従来公知のイソシアネート系の界面重合法、メラミン-ホルマリン系等のin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等が挙げられ、用途に応じて適宜選択される。
また、マイクロカプセル顔料の表面には、目的に応じてさらに二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供したりすることもできる。
【0034】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料は、芯物質:壁膜の質量比が7:1~1:1であることが好ましく、芯物質と壁膜の質量比が上記の範囲内にあることにより、発色時の色濃度および鮮明性の低下を防止することができる。より好ましくは、芯物質:壁膜の質量比が6:1~1:1である。
【0035】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル中に一般の染料または顔料等の非変色性着色剤を配合させることにより、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈するマイクロカプセル顔料とすることもできる。
【0036】
樹脂粒子としては、上記した染料、顔料、あるいは熱変色性材料や光変色性材料を含有する樹脂粒子が挙げられる。
【0037】
染料を含有させた樹脂粒子としては、樹脂粒子中に染料が均質に溶解あるいは分散された着色樹脂粒子や、樹脂粒子に染料が染着された着色樹脂粒子が挙げられる。
【0038】
顔料を含有させた樹脂粒子としては、樹脂粒子中に顔料が均質に分散された着色樹脂粒子や、樹脂粒子の表面が顔料で被覆された着色樹脂粒子等が挙げられる。ここで顔料は、樹脂粒子を構成する樹脂に対する分散性や吸着性を向上させる目的で、従来公知の種々の方法により表面処理したものであってもよい。
【0039】
熱変色性材料または光変色性材料を含有させた樹脂粒子としては、樹脂粒子中に可逆熱変色性組成物が均質に分散された着色樹脂粒子(以下、「可逆熱変色性樹脂粒子」と表すことがある)や、樹脂粒子中に可逆光変色性組成物が均質に分散された着色樹脂粒子(以下、「可逆光変色性樹脂粒子」と表すことがある)が挙げられる。
【0040】
樹脂粒子を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリメタクリル酸メチル、アクリル-ウレタン共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール、エチレン-プロピレン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合樹脂等の熱可塑性樹脂や、
エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グアナミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドエステル、尿素樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂を、
それぞれ例示できる。
【0041】
本発明による樹脂粒子には、粒子内部に空隙のない中実樹脂粒子や、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子も含まれる。
【0042】
樹脂粒子は、粉砕法、スプレードライング法、あるいは、水性または油性媒体中において染料、顔料、あるいは熱変色性材料や光変色性材料の存在下で重合する重合法により製造することができる。重合法としては、懸濁重合法、懸濁重縮合法、分散重合法、乳化重合法等が挙げられる。
【0043】
樹脂粒子の形状としては特に限定されるものではなく、真球状、楕円球状、略球状等の球状、多角形状、偏平状等の樹脂粒子を用いることができる。これらの中でも、球状の樹脂粒子が好適である。
【0044】
なお、マイクロカプセル顔料は壁膜が樹脂により構成され、染料、顔料、あるいは熱変色性材料や光変色性材料を用いた着色組成物をマイクロカプセルの内部に含有するものであるから、前述のマイクロカプセル顔料は樹脂粒子として適用することもできる。
【0045】
本発明による着色剤は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0046】
着色剤の平均粒子径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~25μm、より好ましくは0.05~20μmの範囲である。着色剤の平均粒子径が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物中での分散安定性に優れ、さらに所望の色の筆跡が得られ易くなる。
【0047】
なお、平均粒子径の測定は、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア〔マウンテック(株)製、製品名:マックビュー〕を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。
【0048】
また、全ての粒子あるいは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、粒度分布測定装置〔ベックマン・コールター(株)製、製品名:Multisizer 4e〕を用いて、コールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することも可能である。
【0049】
さらに、上記したソフトウェアまたはコールター法による測定装置を用いて計測した数値を基にして、キャリブレーションを行ったレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製、製品名:LA-300〕を用いて、体積基準の粒子径および平均粒子径を測定しても良い。
【0050】
着色剤の配合割合は特に限定されるものではないが、着色剤はインキ組成物全量中に、好ましくは1~15質量%、より好ましくは3~10質量%の範囲で配合される。配合割合が15質量%を超えると、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し易く、カスレや線飛び等の筆記不良が発生し易くなる。一方、配合割合が1質量%未満では、筆記具としての好適な筆跡濃度が得られ難くなる。
【0051】
着色剤が可逆熱変色性マイクロカプセル顔料もしくは可逆光変色性マイクロカプセル顔料、または可逆熱変色性樹脂粒子もしくは可逆光変色性樹脂粒子である場合、これら着色剤はインキ組成物全量中に、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%の範囲で配合される。配合割合が40質量%を超えると、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し、カスレや線飛び等の筆記不良が発生し易くなる。一方、配合割合が5質量%未満では、筆記具としての好適な変色性および筆跡濃度が得られ難く、変色機能を十分に満たすことができ難くなる。
【0052】
本発明によるインキ組成物は、カチオン性高分子(カチオン性ポリマー)を含有する。
本発明によるカチオン性高分子は、カチオン性基を有する単量体(モノマー)として第一級アミン、第二級アミン、または第三級アミンから選ばれるアミンのモノマーと、二酸化硫黄とが共重合した共重合体(ポリマー)である。すなわち、本発明によるカチオン性高分子は、第一級アミン、第二級アミン、または第三級アミンから選ばれるアミンの重合体(ポリマー)であると共に、重合体の構成単位中にスルホニル基(-SO-)を有するものであり、水などの水性媒体中でカチオン性を示すものである。カチオン性高分子は、インキ組成物中で着色剤表面に吸着して着色剤表面を正の電荷に帯電させるため、着色剤間で静電反発を生じさせる。これによりインキ組成物中で着色剤同士の接触が妨げられて着色剤の凝集が抑制され、着色剤はインキ組成物中で安定的に保持される。すなわち、カチオン性高分子は着色剤の分散剤として効果を奏するものである。
【0053】
本発明によるカチオン性高分子としては、例えば、下記式(I)で示される構成単位を有する重合体が用いられる。式(I)で示される構成単位を有する重合体は、構成単位中にスルホニル基を有するジアリルアミン系ポリマーである。
【化1】
(式中、Rは、水素原子、または、C1-3の直鎖もしくは分岐のアルキル基を示し、n1は0または1の整数を示し、Xはハロゲン化水素、カルボン酸、硫酸、硫酸エステル、リン酸、スルホン酸、アミド硫酸のいずれかを示す。)
【0054】
1-3の直鎖または分岐のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等を、
ハロゲン化水素としては、例えば、塩化水素(塩酸)、臭化水素、ヨウ化水素等を、
カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を、
硫酸エステルとしては、メチル硫酸、エチル硫酸等を、
スルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸等を、
それぞれ例示できる。
【0055】
本発明によるカチオン性高分子としては、式(I)においてRが水素原子である構成単位を有する重合体が好ましく、このようなカチオン性高分子は下記式(I-a)で示される。
式(I-a)で示されるカチオン性高分子は第二級アミンを有し、第二級アミンのN-H結合による水素結合によりインキ組成物全体に及ぶネットワークが形成されて、着色剤の分散安定性をよりいっそう向上させることができるため、好適である。
【化2】
(式中、n1aは0または1の整数を示し、X1aはハロゲン化水素、カルボン酸、硫酸、硫酸エステル、リン酸、スルホン酸、アミド硫酸のいずれかを示し、nは自然数を示す。)
【0056】
式(I-a)で示されるカチオン性高分子の質量平均分子量は500~200,000の範囲にあり、nは、質量平均分子量が500~200,000となるのに必要な重合度を示す。質量平均分子量は、好ましくは1,000~50,000、より好ましくは1,500~25,000、さらに好ましくは2,000~10,000の範囲である。
【0057】
本発明によるカチオン性高分子としては、式(I-a)においてn1aが1であり、X1aが塩酸または酢酸であるカチオン性高分子が好ましい。このようなカチオン性高分子は、着色剤を正の電荷に帯電させて着色剤間での静電反発を生じさせる効果に優れるため、着色剤の分散安定性を向上させることができる。
【0058】
式(I)で示されるカチオン性高分子として具体的には、ニットーボーメディカル(株)製、製品名:PAS-92、PAS-92A、PAS-2201CL等を例示できる。
【0059】
カチオン性高分子の質量平均分子量は、GPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法)によるポリエチレングリコール換算の値である。
【0060】
上記式(I)で示される構成単位を有するカチオン性高分子は、壁膜が有機物で構成されるマイクロカプセル顔料の表面に吸着し易いことから、着色剤としてマイクロカプセル顔料を用いることが好適である。前述のカチオン性高分子を用いることにより、インキ組成物中におけるマイクロカプセル顔料の分散安定性を向上させることができる。
【0061】
マイクロカプセル顔料の壁膜を構成する樹脂は、ウレア樹脂(ポリウレア)、ウレタン樹脂(ポリウレタン)、ウレアウレタン樹脂(ポリウレアウレタン)のいずれかから選ばれる樹脂であることが好ましい。壁膜を構成する樹脂が上記の樹脂である場合、マイクロカプセル顔料表面に上記式(I)で示される構成単位を有するカチオン性高分子がよりいっそう吸着し易くなり、マイクロカプセル顔料の分散安定性をよりいっそう向上させる効果を発現する。
【0062】
カチオン性高分子の配合割合は特に限定されるものではないが、カチオン性高分子はインキ組成物全量中に、好ましくは0.05~1質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の範囲で配合される。
配合割合が上記の範囲内にあることにより、カチオン性高分子が着色剤に吸着し易く、着色剤の分散剤としての効果を発現し易くなる。
【0063】
本発明によるインキ組成物には、比較的平均粒子径が大きい着色剤(以下、「大粒子径着色剤」と表すことがある)や比重が1を超える着色剤(以下、「高比重着色剤」と表すことがある)を適用することも可能である。
大粒子径着色剤や高比重着色剤はインキ組成物中において経時的に沈降し易く、分散安定性に劣る場合がある。特に、インキ組成物が低粘度である場合には、よりいっそう分散安定性に劣り易い傾向にある。しかしながら、本発明によるインキ組成物は前述のカチオン性高分子を用いることにより、インキ組成物を低粘度としながらも大粒子径着色剤や高比重着色剤の経時的な沈降を抑制することができ、このような着色剤を長期間に亘って安定的に分散させることができる。
大粒子径着色剤としては、光輝性顔料、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料、可逆光変色性マイクロカプセル顔料等が挙げられる。
高比重着色剤としては、無機顔料、有機顔料、光輝性顔料、あるいはこれらを用いたマイクロカプセル顔料または樹脂粒子、ヒステリシス幅(ΔH)が大きい可逆熱変色性マイクロカプセル顔料等が挙げられる。
【0064】
光輝性顔料としては、光の反射により光輝性を発揮する顔料であれば特に限定されるものではなく、例えば、魚鱗箔等の天然由来の顔料、透明性を有する基材を金属酸化物または金属で被覆した顔料、金属顔料等が挙げられる。
【0065】
透明性を有する基材を金属酸化物で被覆した顔料としては、例えば、天然雲母、合成雲母、偏平ガラス(フレーク状ガラス)、シリカフレーク、薄片状酸化アルミニウム等から選ばれる材料を基材とし、その表面を金属酸化物で被覆したものを例示できる。
金属酸化物としては、例えば、チタン、ジルコニア、クロム、バナジウム、鉄等の酸化物を例示できるが、酸化チタンが好適である。
また、基材の表面を被覆する金属酸化物の被覆率、被膜の厚さによって、金色もしくは銀色、または、金属光沢を有する黄色、赤色、青色、もしくは緑色を呈する。なお、酸化チタン等の金属酸化物による層上に、酸化鉄や、一般の染料または顔料等の非変色性着色剤をさらに被覆したものであってもよい。
透明性を有する基材を金属酸化物で被覆した顔料には、パール顔料やコレステリック液晶型顔料も含まれる。
【0066】
透明性を有する基材を金属で被覆した顔料としては、例えば、フレーク状ガラスが銀で被覆されたもの、フレーク状ガラスが金で被覆されたもの、フレーク状ガラスがニッケルクロムモリブデンで被覆されたもの、フレーク状ガラスが真鍮で被覆されたもの、フレーク状ガラスが銀合金で被覆されたもの、フレーク状ガラスがチタンで被覆されたもの等を例示できる。
透明性を有する基材を金属で被覆した顔料は、例えば、フレーク状ガラスに無電解メッキ法またはスパッタリング法等により金属をコーティングさせることにより得ることができる。
【0067】
金属顔料としては、例えば、アルミニウム粉顔料を例示できる。
アルミニウム粉顔料としては、例えば、アルミニウム片を高級脂肪酸またはミネラルスピリット等の石油系溶剤と共にボールミルで粉砕、研磨したものを例示できる。このようなアルミニウム粉顔料は、非常に薄い鱗片状のアルミニウム微粒子であり、ペースト状にして得られるものを使用することができる。
また、真空蒸着によって得られた薄膜状のアルミニウムを細かく粉砕したものであってもよい。
【0068】
光輝性顔料の平均粒子径は、好ましくは3~25μm、より好ましくは5~20μmの範囲である。平均粒子径が25μmを超えると、筆記具に用いた場合に良好なインキ吐出性が得られ難くなる。一方、平均粒子径が3μm未満では、筆跡が十分な光輝性を示し難くなる。
【0069】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.5~4μm、さらに好ましくは0.5~3μmの範囲である。平均粒子径が5μmを超えると、筆記具に用いた場合に良好なインキ吐出性が得られ難くなる。一方、平均粒子径が0.1μm未満では、筆跡が高濃度の発色性を示し難くなる。
【0070】
なお、平均粒子径の測定は、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア〔マウンテック(株)製、製品名:マックビュー〕を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。
【0071】
また、全ての粒子あるいは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、粒度分布測定装置〔ベックマン・コールター(株)製、製品名:Multisizer 4e〕を用いて、コールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することも可能である。
【0072】
さらに、上記したソフトウェアまたはコールター法による測定装置を用いて計測した数値を基にして、キャリブレーションを行ったレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製、製品名:LA-300〕を用いて、体積基準の粒子径および平均粒子径を測定しても良い。
【0073】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、群青、ルチル型・アナターゼ型等の酸化チタン等を例示できる。比重は、カーボンブラックおよび群青が1.4~5.5の範囲であり、酸化チタンが3.7~4.2の範囲である。
【0074】
有機顔料としては、例えば、ベンジジンイエロー、パーマネントレッド、レーキレッド、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アニリンブラック等を例示できる。比重は1.2~2.9の範囲である。
【0075】
光輝性顔料としては、例えば、前述の透明性を有する基材を金属酸化物または金属で被覆した顔料、金属顔料等を例示できる。
透明性を有する基材を金属酸化物で被覆した顔料の比重は、パール顔料で2.8~3.2の範囲であり、コレステリック液晶型顔料で1.1~1.5の範囲である。
透明性を有する基材を金属で被覆した顔料の比重は、3.0~3.4の範囲である。
金属顔料の比重は、2.5~9.0の範囲である。
【0076】
ヒステリシス幅が大きい可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、(ハ)成分として分子内に芳香環を二つ以上有する化合物を用いることが多く、比重が大きくなり易い傾向にある。
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重は、粒子径、マイクロカプセルに内包される成分やその含有量、カプセル壁膜の成分や膜厚、およびマイクロカプセル顔料の着色状態、温度によって左右されるものである。インキ組成物中における分散安定性の観点から、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重は、マイクロカプセル顔料が完全発色状態であり、20℃の環境下で水を基準物質とした場合、好ましくは1.05~1.20、より好ましくは1.10~1.20、さらに好ましくは1.12~1.15の範囲である。
なお、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重は、下記の方法により測定することができる。
【0077】
(可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重測定方法)
1.スクリュー管瓶にグリセリン水溶液30mlと完全発色状態の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料1gを投入、混合し、マイクロカプセル顔料分散液を調製する。
2.マイクロカプセル顔料分散液30mlを20℃に調温し、回転数1000rpm、30秒間の遠心条件で遠心分離機にかける。なお、遠心分離機としては、冷却・卓上遠心機〔(株)コクサン製、製品名:H103N〕を用いることができる。
3.マイクロカプセル顔料分散液を観察する。
マイクロカプセル顔料の大半がビーカー底部に沈殿している場合、このときのグリセリン水溶液よりもグリセリン濃度を上げた水溶液を用いて、再度1~2の操作を行い分散液の状態を観察する。
マイクロカプセル顔料の大半が液面で浮遊した状態を確認した場合は、このときのグリセリン水溶液よりもグリセリン濃度を下げた水溶液を用いて、再度1~2の操作を行い分散液の状態を観察する。
上記の一連の操作は、マイクロカプセル顔料の大半が液面に浮上している、または沈殿している状態ではなく、グリセリン水溶液の液面やスクリュー管瓶底部付近以外の部分が均一に着色している状態が目視で確認されるまで繰り返す。この状態が観察された際のグリセリン水溶液の比重を測定し、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の比重とする。なお、グリセリン水溶液の比重は、20℃に調温した水溶液を、JIS K0061 7.1項記載の浮ひょう法により測定することができる。
【0078】
本発明によるインキ組成物は、水を含有する。
水としては、特に限定されるものではないが、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等を例示できる。
【0079】
本発明によるインキ組成物には、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」と表すことがある)を配合させることもできる。
セルロースナノファイバーとは、セルロース系繊維原料をナノレベルで均一に微細化した材料であり、機械的に繊維原料を解きほぐす(解繊する)ことで得られる。
セルロース系繊維原料としては、セルロースを主体とした材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロース、パルプを原料とする結晶セルロース等が挙げられる。また、セルロース系繊維原料を機械的に解重合した微細セルロースを用いることもできる。
セルロースナノファイバーはインキ組成物中で相互作用によりネットワーク構造を形成し、前述の、カチオン性高分子が吸着した着色剤同士が接触することを妨げるため、着色剤をインキ組成物中で安定的に保持する効果を奏する。
【0080】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅は特に限定されるものではないが、好ましくは1~1000nm、より好ましくは2~500nmの範囲である。平均繊維幅が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物中におけるセルロースナノファイバーの分散性に優れ、セルロースナノファイバーの分散状態が保持され易くなる。また、セルロースナノファイバーの透明性を優れるものとすることができる。
【0081】
なお、本発明によるインキ組成物において、インキ組成物中へのセルロースナノファイバーの配合量が多くなる組成であったり、淡色の着色剤を用いる組成であったりする場合、セルロースナノファイバーの色相がインキ組成物の色相に影響を及ぼすことがある。そのため、セルロースナノファイバーを水に分散させた際に透明性が得られるように、セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、好ましくは2~30nm、より好ましくは2~20nm、さらに好ましくは2~10nmの範囲に調整することも好適である。平均繊維幅が上記の範囲内にあることにより、セルロースナノファイバーの色相がインキ組成物の色相に影響し難くなり、インキ組成物が着色剤由来の色相を示し易くなる。
セルロースナノファイバーの平均繊維幅が30nmよりも大きくなると、可視光の波長の1/10に近づき、インキ組成物中に他の添加剤を配合した場合に界面で可視光の屈折および散乱が生じ易く、可視光の散乱が生じてしまい、透明性が低下する傾向にある。従って、セルロースナノファイバーの平均繊維幅は、取り扱い性や透明性の観点においては、好ましくは2~30nm、より好ましくは2~20nm、さらに好ましくは2~10nmの範囲である。
【0082】
ここで、着色剤として可逆熱変色性材料あるいは可逆光変色性材料を含むインキ組成物は、温度変化あるいは光の照射により発色状態から消色状態に可逆的に色変化するものであり、消色状態では無色であるためインキ組成物の色は視認され難いものである。しかしながら、セルロースナノファイバーの色相がインキ組成物の色相に影響すると、消色状態における残色が大きくなり、消色状態であってもインキ組成物の色が視認される場合がある。従って、このような着色剤を用いる場合においても、セルロースナノファイバーを水に分散させた際に透明性が得られることが好適であり、セルロースナノファイバーの平均繊維幅は上記の範囲内にあることが好適である。
【0083】
セルロースナノファイバーの平均繊維幅は数平均繊維幅を指し、数平均繊維幅は公知の技術を用いて測定することができる。例えば、セルロースナノファイバーを純水等の溶媒に分散させて、所定の濃度となるように混合溶液を調製する。そしてこの混合溶液を、ポリエチレンイミン(PEI)をコーティングしたシリカ基盤上にスピンコートを行い、このシリカ基盤上のセルロースナノファイバーを観察することにより、数平均繊維幅を測定することができる。
観察方法としては、例えば、走査型プローブ顕微鏡〔例えば、(株)島津製作所製、製品名:SPM-9700〕を用いることができる。得られた観察画像中のセルロースナノファイバーをランダムに20本選び、各繊維幅を測定し平均化すればセルロースナノファイバーの数平均繊維幅(平均繊維幅)を求めることができる。
【0084】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は特に限定されるものではないが、好ましくは10~1000nm、より好ましくは100~800nmの範囲である。平均繊維長が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物中におけるセルロースナノファイバーの分散性に優れると共に、セルロースナノファイバー同士により形成されるネットワーク構造が安定化され、分散状態が保持され易くなる。
平均繊維長が1000nmより大きいと、インキ組成物中でのセルロースナノファイバーの分散性が低くなり易く、筆記具のペン先からインキが吐出し難くなる傾向にある。一方、平均繊維長が100nmより小さいと、セルロースナノファイバー同士のネットワーク構造が形成され難くなる。
【0085】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は数平均繊維長を指し、数平均繊維長は公知の技術を用いて測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、湿潤したセルロースナノファイバーをろ過し脱溶媒することで微細繊維シートを得て、液体窒素中で凍結乾燥しSEM観察を行い、得られた観察画像中のセルロースナノファイバーをランダムに20本選び、各繊維長を測定し平均化することにより、セルロースナノファイバーの数平均繊維長(平均繊維長)を求めることができる。
【0086】
セルロースナノファイバーはセルロース分子鎖が束になったセルロースミクロフィブリルを構成単位とする。セルロースミクロフィブリルは、セルロースミクロフィブリル間の水素結合により多束化するため、セルロースミクロフィブリルまで微細化させて分散させることは困難である。そのためセルロースナノファイバーとしては、セルロース系繊維原料の水酸基の一部を変性させてイオン性官能基を導入し、セルロースミクロフィブリル間の水素結合を弱めて、イオン性官能基による静電反発によりセルロースミクロフィブリルまで微細化させたものが用いられる。
このようなセルロースナノファイバーとしては、例えば、酸化セルロースナノファイバー、硫酸エステル化セルロースナノファイバー、リン酸エステル化セルロースナノファイバー等を例示できる。以下において、これらのセルロースナノファイバーをまとめて、「アニオン性官能基導入セルロースナノファイバー」と表すことがある。
【0087】
酸化セルロースナノファイバーとは、I型結晶構造を有するセルロース系繊維原料において、セルロースを構成するβ-グルコース中の水酸基(-OH)の少なくとも一部がアルデヒド基(-CHO)およびカルボキシ基(-COOH)の少なくとも一つの官能基に変性されたものである。
【0088】
酸化セルロースナノファイバーの製造方法としては特に限定されるものではなく、公知の製造方法により製造することができる。例えば、セルロース系繊維原料に酸化触媒としてN-オキシル系化合物と、共酸化剤を作用させる方法が挙げられる。本発明によるセルロースナノファイバーとしては、酸化触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)を用いたTEMPO酸化セルロースナノファイバーを用いることができる。
具体的には、セルロース系繊維原料を水中に分散させ、酸化触媒としてTEMPOと、共酸化剤として次亜塩素酸またはその塩(例えば、次亜塩素酸ナトリウム)を加えて室温で攪拌しながら反応させて、セルロースを構成するβ-グルコースのC6位の水酸基(一級水酸基)を変性させて、カルボキシ基を導入する。その後、吸引ろ過して生成物を固液分離し、得られたろ過上物を洗浄、精製する。このろ過上物を純水に分散させてスラリーとし、機械的解繊を行うことで酸化セルロースナノファイバー(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)を得ることができる。
【0089】
また、特許第6769550号に記載される、次亜塩素酸またはその塩を用いる製造方法により、酸化セルロースナノファイバーを製造することもできる。
具体的には、セルロース系繊維原料を、有効塩素濃度が14~43質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に加え、30℃で30分間攪拌しながら反応させて、セルロースを構成するβ-グルコースのC6位の水酸基(一級水酸基)を変性させて、カルボキシ基を導入する。その後、吸引ろ過して生成物を固液分離し、得られたろ過上物を洗浄、精製する。このろ過上物を純水に分散させてスラリーとし、機械的解繊を行うことで酸化セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0090】
硫酸エステル化セルロースナノファイバーとは、I型結晶構造を有するセルロース系繊維原料において、セルロースを構成するβ-グルコース中の水酸基(-OH)の少なくとも一部が硫酸エステル化修飾されたものである。例えば、セルロース系繊維原料の水酸基の少なくとも一部が、下記式(1)で示されるスルホ基に変性された硫酸エステル化セルロースナノファイバーを例示できる。
【0091】
(-SO ・Zr+ (1)
(式中、rは独立した1~3の自然数であり、Zr+は、r=1のとき水素イオン、アルカリ金属の陽イオン、アンモニウムイオン、脂肪族アンモニウムイオン、芳香族アンモニウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。また、r=2または3のとき、アルカリ土類金属の陽イオンまたは多価金属の陽イオンよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。)
【0092】
硫酸エステル化セルロースナノファイバーの製造方法としては特に限定されるものではなく、例えば、特許第6582111号に記載される公知の製造方法により製造することができる。
具体的には、セルロース系繊維原料を、スルファミン酸等のスルホン化剤と、尿素または/およびその誘導体を水に溶解させた反応液に加えて、100~180℃で5分以上となるように調整して反応させて、セルロース中の水酸基の少なくとも一部を変性させて、スルホ基を導入する。その後、吸引ろ過して生成物を固液分離し、得られたろ過上物を洗浄、精製する。このろ過上物を純水に分散させてスラリーとし、機械的解繊を行うことで硫酸エステル化セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0093】
リン酸エステル化セルロースナノファイバーとは、I型結晶構造を有するセルロース系繊維原料において、セルロースを構成するβ-グルコース中の水酸基(-OH)の少なくとも一部がリン酸エステル化修飾されたものである。例えば、セルロース繊維原料の水酸基の少なくとも一部にリン酸基を含む化合物またはその塩が脱水反応してリン酸基が導入されたリン酸エステル化セルロースナノファイバーを例示できる。
【0094】
リン酸エステル化セルロースナノファイバーの製造方法としては特に限定されるものではなく、例えば、特許第5798504号に記載される公知の製造方法により製造することができる。
具体的には、セルロース系繊維原料をリン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬させ、170℃で2時間半加熱処理することで、セルロース中の水酸基の少なくとも一部を変性させて、リン酸基を導入する。その後、得られた生成物を洗浄、精製する。この生成物をイオン交換水に分散させてスラリーとし、機械的解繊を行うことでリン酸エステル化セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0095】
機械的解繊の方法としては特に限定されるものではなく、例えば、スクリュー型ミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対抗衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイター、コニカル型リファイター、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、一軸または多軸混錬機等の装置を用いて解繊を行うことができる。
【0096】
セルロースナノファイバーは、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等のアニオン性官能基を有するため親水性が向上し、インキ組成物中に分散させた際の分散性に優れる。さらに、これらアニオン性官能基の電子的反発によって、インキ組成物中で分散状態が維持され易くなり、セルロースナノファイバー同士の相互作用によりネットワーク構造が形成される。これによりインキ組成物中で着色剤同士の接触が妨げられ、着色剤の凝集が抑制されるため、セルロースナノファイバーはインキ組成物中で着色剤を安定的に保持する効果を奏する。また、セルロースナノファイバーは、繊維長によって増粘剤あるいはゲル化剤としての効果も奏するため、インキ組成物中で着色剤がよりいっそう安定的に保持されることに繋がる。すなわち、セルロースナノファイバーは、着色剤の分散安定性を向上させる効果を奏する。
【0097】
本発明によるインキ組成物において、カチオン性高分子とセルロースナノファイバーとを併用することにより、インキ組成物中における着色剤の分散安定性を向上させる効果を奏する。
前述のとおり、カチオン性高分子は着色剤を正の電荷に帯電させ、静電反発により着色剤はインキ組成物中で分散状態が維持される。また、セルロースナノファイバーにはアニオン性官能基が導入されており、アニオン性官能基による電子的反発によってインキ組成物中で分散状態が維持され易く、相互作用によりネットワーク構造が形成される。これに加えて、カチオン性を示す着色剤とアニオン性を示すセルロースナノファイバーとの間でイオン的相互作用が生じる。これらの作用により、着色剤は静電反発により分散状態を維持しながらセルロースナノファイバーに吸着し、着色剤はセルロースナノファイバー同士により形成されるネットワーク構造中に組み込まれるため、着色剤が凝集することがよりいっそう抑制される。よって、カチオン性高分子とセルロースナノファイバーとを併用することにより、インキ組成物中における着色剤の分散安定性をよりいっそう向上させることができる。
【0098】
セルロースナノファイバーとしては、バクテリアセルロースナノファイバー(発酵セルロースナノファイバー)を用いることもできる。
バクテリアセルロースナノファイバーとは、バクテリアにより合成されるセルロースナノファイバーである。バクテリアとしては酢酸菌が好適である。
酢酸菌などの細菌を適正な培地で通気攪拌培養することにより50~100nm程度の繊維幅を有するセルロースナノファイバーが菌体外に分泌され、これを分離・回収することによって、バクテリアセルロースナノファイバーが得られる。
【0099】
セルロースナノファイバーの配合割合は特に限定されるものではないが、セルロースナノファイバーはインキ組成物全量中に、好ましくは0.01~0.045質量%、より好ましくは0.02~0.04質量%の範囲で配合される。
配合割合が0.01質量%未満では所望の着色剤を分散状態で安定的に保持させる効果が得られ難い。一方、0.045質量%を超える量を配合させても分散安定性の効果の向上を発現でき難い。
【0100】
本発明によるインキ組成物がセルロースナノファイバーを含む場合、セルロースナノファイバーとカチオン性高分子との質量比は、好ましくは1:1~1:20、より好ましくは1:3~1:19、さらに好ましくは1:5~1:18の範囲である。質量比が上記の範囲内にあることにより、カチオン性高分子により正の電荷に帯電した着色剤と、セルロースナノファイバーとの間でイオン的相互作用が生じ易くなり、インキ組成物中における着色剤の分散安定性を向上させることが容易となる。
【0101】
従来、着色剤の分散安定性を良好とするために、微細セルロースやキサンタンガム等の増粘剤を用いてインキを高粘度とすることが行われている。これにより着色剤の凝集や沈降を抑制することができるが、このような高粘度のインキは適用できる筆記具に制限を伴うものである。しかしながら本発明によるインキ組成物は前述のとおり、カチオン性高分子による着色剤間の静電反発により、従来の増粘剤を単独で用いたインキ組成物より低粘度でありながらも、着色剤を長期間に亘って安定的に保持することができる。また、従来の増粘剤を単独で用いたインキ組成物より低粘度とすることができるため、このインキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が向上し、カスレ等の筆記不良が抑制されると共に筆記感が良好となり、さらに筆跡の発色性に優れるものとすることができる。
上記のインキ組成物がボールペンチップを備える筆記具(ボールペン)に用いられる場合、筆跡の線割れを抑制することができ、筆記性能を良好とすることができる。
本発明によるインキ組成物において、カチオン性高分子とセルロースナノファイバーとを併用すると、カチオン性高分子による着色剤間の静電反発と、セルロースナノファイバー同士により形成されるネットワーク構造により、従来の増粘剤とは異なるレオロジーコントロール効果を発揮して、着色剤の分散安定性をよりいっそう良好とする効果を奏する。これにより、このインキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性をよりいっそう向上させて、筆記性能をよりいっそう良好とすることができる。
【0102】
本発明によるインキ組成物がボールペンチップを備える筆記具(ボールペン)に用いられる場合、インキ組成物には潤滑剤を配合させることもできる。潤滑剤は、チップ本体内部に設けられるボール受け座と、チップ本体の前端に備えられるボールとの潤滑性を向上させて、ボール受け座の摩耗を容易に防止することができ、筆記感を向上させることができるものである。
潤滑剤としては、例えば、オレイン酸等の高級脂肪酸;長鎖アルキル基を有するノニオン系界面活性剤;ポリエーテル変性シリコーンオイル;チオ亜リン酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜リン酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜リン酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、あるいは、これらのリン酸エステルの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等のリン酸エステル系界面活性剤を例示できる。
【0103】
本発明によるインキ組成物には、その他必要に応じて、水溶性有機溶剤、増粘剤、剪断減粘性付与剤、高分子凝集剤、水溶性樹脂、比重調整剤、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤あるいは防黴剤、気泡吸収剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を配合させることもできる。
【0104】
着色剤が、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料もしくは可逆光変色性マイクロカプセル顔料、または、可逆熱変色性樹脂粒子もしくは可逆光変色性樹脂粒子を含む場合、一般の染料または顔料等の非変色性着色剤を配合させることにより、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈するインキ組成物とすることもできる。
【0105】
本発明によるインキ組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の方法を用いることができる。
具体的には、上記の各成分を配合した混合物を、プロペラ攪拌、ホモディスパー、もしくはホモミキサー等の各種攪拌機で攪拌することにより、またはビーズミル等の各種分散機等で分散することにより、インキ組成物を製造することができる。
【0106】
本発明によるインキ組成物が収容される筆記具としては、例えば、ボールペン、マーキングペン、万年筆、筆ペン、カリグラフィーペン等の各種筆記具を例示できる。
【0107】
本発明によるインキ組成物の粘度は、20℃の環境下において、好ましくは1~50mPa・s、より好ましくは1~40mPa・s、さらに好ましくは1~35mPa・sの範囲である。粘度が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の安定性と流動性を高いレベルで維持することができる。
なお、インキ組成物の粘度は、例えば、E型回転粘度計〔東機産業(株)製、製品名:RE-85L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)〕を用いて、インキ組成物を20℃の環境下に置いて、回転速度20rpmまたは回転速度50rpmの条件で測定することができる。
【0108】
本発明によるインキ組成物のpHは、好ましくは3~10、より好ましくは4~9の範囲である。pHが上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の過度な高粘度化や変質を抑制することができる。
なお、インキ組成物のpHは、pHメーター〔東亜ディーケーケー(株)製、製品名:IM-40S〕を用いて、インキを20℃の環境下に置いて測定することができる。
【0109】
本発明によるインキ組成物がボールペンに用いられる場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンレフィルまたはボールペンに充填して用いられる。
【0110】
ボールペンチップは、チップ本体と、チップ本体の前端に備えられるボールとからなる。ボールペンチップは、例えば、金属製のパイプからなるチップ本体の先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属材料からなるチップ本体に、ドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属またはプラスチック製チップ本体の内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、あるいは、上記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を例示できる。
【0111】
チップ本体およびボールの材質としては特に限定されるものではなく、例えば、超硬合金(超硬)、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等を例示できる。さらに、ボールにはDLCコート等の表面処理を施すこともできる。
【0112】
ボールの直径は、一般的には0.2~3mmであり、好ましくは0.2~2mm、より好ましくは0.2~1.5mm、さらに好ましくは0.2~1mmの範囲である。
一般的に、大粒子径着色剤や高比重着色剤を含有するインキ組成物を直径の小さいボールを備えたボールペンに適用すると、経時的に着色剤が凝集あるいは沈降して、ペン先で着色剤の凝集物による目詰まりを生じ、ペン先からのインキ吐出性の低下により筆跡濃度を損なったり、カスレや線飛び等の筆記不良を生じたりすることがある。しかしながら、着色剤の分散安定性に優れる本発明によるインキ組成物を、直径の小さいボール、特に直径が0.3~0.5mmのボールを備えたボールペンに適用すると、長期間に亘って着色剤の分散性が安定的に保持されるため、ペン先からのインキ吐出性が低下し難く、カスレや線飛び等の筆記不良が抑制されるボールペンとすることができる。
また、一般的に、直径の大きいボールペンはペン先からのインキ吐出量が多く、滑らかな筆記感を伴って筆記することができるものである。そして、従来の増粘剤を単独で用いたインキ組成物より低粘度としながらも、着色剤を長期間に亘って安定的に保持することができる本発明によるインキ組成物を、直径の大きいボール、特に直径が0.5~1.0mmのボールを備えたボールペンに適用すると、ペン先からのインキ吐出性が向上され、よりいっそう滑らかな筆記感を伴って筆記できると共に、明瞭で濃度の高い筆跡を形成できるボールペンとすることができる。
【0113】
インキ充填機構としては、例えば、インキを直に充填することのできるインキ収容体を例示できる。
インキ収容体には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体を用いることができる。
【0114】
インキ収容体に、ボールペンチップを直接、または接続部材を介して連結させ、インキ収容体にインキを直接充填することにより、ボールペンレフィル(以下、「レフィル」と表すことがある)を形成することができる。このレフィルを軸筒内に収容することでボールペンを形成することができる。
【0115】
インキ収容体に充填されるインキの後端にはインキ逆流防止体が充填される。インキ逆流防止体としては、液栓または固体栓が挙げられる。
【0116】
液栓は不揮発性液体および/または難揮発性液体からなり、例えば、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等を例示できる。
不揮発性液体および/または難揮発性液体は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0117】
不揮発性液体および/または難揮発性液体には、増粘剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましい。
増粘剤としては、例えば、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイト等の粘土系増粘剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸;トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物;セルロース系化合物等を例示できる。
【0118】
固体栓としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等からなる固体栓を例示できる。
インキ逆流防止体として、固体栓と上記した液栓とを併用して用いることもできる。
【0119】
また、軸筒自体をインキ充填機構することもできる。軸筒内にインキを直接充填すると共に、軸筒の前端部にボールペンチップを装着することで、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンを形成することもできる。
【0120】
インキ充填機構に充填されるインキが低粘度である場合、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンは、さらにインキ供給機構を備えていてもよい。インキ供給機構は、インキ充填機構に充填されるインキをペン先に供給するためのものである。
【0121】
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節体を備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝および該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
【0122】
ペン芯の材質としては、多数の円盤体を櫛溝状とした構造に射出成形できる合成樹脂であれば特に制限されるものではない。成形性が高く、ペン芯性能を得られ易いことから、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)が好適に用いられる。
【0123】
本発明によるインキ組成物を収容するボールペンの構成として具体的には、(1)インキを充填したインキ収容体を軸筒内に有し、インキ収容体には、直接または接続部材を介してボールペンチップが連結され、インキの端面にはインキ逆流防止体が充填されたボールペン、(2)軸筒内に直接インキが充填され、櫛溝状のインキ流量調節体や、繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン、(3)軸筒内に直接インキが充填され、上記のペン芯を介してインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン等を例示できる。
【0124】
本発明によるインキ組成物がマーキングペンに用いられる場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、マーキングペンチップと、インキ充填機構とを備えたマーキングペンレフィルまたはマーキングペンに充填して用いられる。
【0125】
マーキングペンチップとしては、例えば、繊維の樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来より汎用の気孔率が概ね30~70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材、または、軸方向に延びる複数のインキ導出孔を有する合成樹脂の押出成形体等を例示でき、一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工して実用に供される。
【0126】
インキ充填機構としては、例えば、インキを充填できるインキ吸蔵体を例示できる。
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させた繊維集束体であり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40~90%の範囲に調整して構成される。
【0127】
インキを含浸させたインキ吸蔵体を軸筒内に収容し、インキ吸蔵体に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介して軸筒に連結させることにより、マーキングペンを形成することができる。
【0128】
また、インキを含浸させたインキ吸蔵体をインキ収容体に収容し、インキ吸蔵体に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介してインキ収容体に連結させることにより、マーキングペンレフィル(以下、「レフィル」と表すことがある)を形成することができる。このレフィルを軸筒に収容することでマーキングペンを形成することができる。
【0129】
インキ収容体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体が用いられる。
【0130】
マーキングペンチップと、インキ充填機構とを備えたマーキングペンは、さらにインキ供給機構を備えていてもよい。インキ供給機構は、インキ充填機構に充填されるインキ組成物をペン先に供給するものである。
【0131】
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、上記したボールペンに備えられるインキ供給機構に加えて、(4)弁機構によるインキ流量調節体を備え、開弁によりインキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
弁機構は、チップの押圧により開放する、従来より汎用のポンピング式形態が使用でき、筆圧により押圧開放可能なバネ圧に設定したものが好適である。
【0132】
マーキングペンがインキ供給機構を備えてなる場合、インキ充填機構としては、上記したインキ吸蔵体のほか、インキを直接充填できるインキ収容体を用いることができる。また、軸筒自体をインキ充填機構として、インキを直接充填してもよい。
【0133】
本発明によるインキ組成物を収容するマーキングペンの構成として具体的には、(1)繊維集束体からなるインキ吸蔵体にインキが含浸されると共に軸筒内に収容され、毛細間隙が形成された、繊維加工体または樹脂成形体からなるマーキングペンチップが、インキ吸蔵体とチップが接続するように、直接または接続部材を介して軸筒に連結されたマーキングペン、(2)軸筒内に直接インキが充填され、櫛溝状のインキ流量調節体や繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるマーキングペン、(3)軸筒内に直接インキが充填され、上記のペン芯を介してインキをペン先に供給する機構が備えられるマーキングペン、(4)チップの押圧により開弁する弁機構を介してチップとインキ収容体とが備えられ、インキ収容体に直接インキが充填されるマーキングペン等を例示できる。
【0134】
本発明によるボールペンまたはマーキングペンがインキを直接充填するものである場合、着色剤の再分散を容易とするために、インキが充填されるインキ収容体または軸筒に、インキを攪拌する攪拌ボール等の攪拌体を内蔵させることもできる。攪拌体の形状としては、球状体、棒状体等が挙げられる。攪拌体の材質としては特に限定されるものではなく、例えば、金属、セラミック、樹脂、硝子等を例示できる。
【0135】
本発明によるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具は、着脱可能な構造としてインキカートリッジ形態とすることもできる。この場合、筆記具のインキカートリッジに収容されるインキを使い切った後に、新たなインキカートリッジと取り替えることで、再び筆記具を使用することができる。
インキカートリッジとしては、筆記具本体に接続することで筆記具を構成する軸筒を兼ねたものや、筆記具本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが用いられる。なお、後者においては、インキカートリッジ単体で用いるほか、使用前の筆記具において、筆記具本体とインキカートリッジが接続されているものや、筆記具のユーザーが使用時に軸筒内のインキカートリッジを接続して使用を開始するように非接続状態で軸筒内に収容したもののいずれであってもよい。
【0136】
本発明によるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具には、キャップを設けてキャップ式筆記具とすることができる。ペン先(筆記先端部)を覆うようにキャップを装着させることにより、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
また、軸筒内にレフィルが収容されるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具には、出没機構を設けて出没式筆記具とすることができる。出没機構は軸筒内に設けられ、軸筒から筆記先端部を出没可能とするものであり、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
【0137】
出没式筆記具は、筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収容されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
また、軸筒内に複数のレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのレフィルの筆記先端部を軸筒開口部から出没させる複合タイプの出没式筆記具とすることもできる。
【0138】
出没機構としては、例えば、(1)軸筒の後部側壁より前後方向に移動可能な操作部(クリップ)を径方向外方に突設させ、操作部を前方にスライド操作することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させるサイドスライド式の出没機構、(2)軸筒後端に設けた操作部を前方に押圧することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させる後端ノック式の出没機構、(3)軸筒側壁外面より突出する操作部を径方向内方に押圧することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させるサイドノック式の出没機構、(4)軸筒後部の操作部を回転操作することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させる回転式の出没機構等を例示できる。
【0139】
ボールペンやマーキングペンの形態は上記した構成に限らず、複合式筆記具(両頭式やペン先繰り出し式等)であってもよい。複合式筆記具としては、(1)相異なる形態のチップを装着させた筆記具、(2)相異なる色調あるいは色相のインキを導出させるチップを装着させた筆記具、(3)相異なる形態のチップを装着させると共に、各チップから導出されるインキの色調あるいは色相が相異なる筆記具等を例示できる。
【0140】
本発明によるインキ組成物を収容してなる筆記具として好ましくは、ペン先としてボールペンチップを備えた形態の筆記具(ボールペン)である。本発明によるインキ組成物は、インキ組成物中で着色剤が安定的に保持され、チップ先端部で着色剤が目詰まりすることが生じ難く、筆記不良を抑制して良好な筆跡を形成できるため、ボールペンに好適に用いられる。さらに、インキ組成物を低粘度としながらも着色剤の分散安定性に優れるため、インキ吐出性を良好として発色性に優れる筆跡を形成することもできるため、好適である。
【0141】
着色剤が可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆熱変色性樹脂粒子を含む場合、本発明によるインキ組成物を収容した筆記具を用いて被筆記面に形成される筆跡は、指による擦過や、加熱具または冷却具により変色させることができる。
【0142】
加熱具としては、PTC素子等の抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等の媒体を充填した加熱変色具、スチームやレーザー光等を用いた加熱変色具、ヘアドライヤーの適用等が挙げられるが、簡便な方法により変色させることができることから、摩擦部材および摩擦体が好ましい。
【0143】
冷却具としては、ペルチエ素子を用いた通電冷熱変色具、冷水や氷片等の冷媒を充填した冷熱変色具、畜冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用等が挙げられる。
【0144】
摩擦部材および摩擦体としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好ましいが、プラスチック成形体、石材、木材、金属、布帛等を用いることもできる。なお、鉛筆による筆跡を消去するために用いられる一般的な消しゴムを使用して、筆跡を擦過してもよいが、擦過時に消しカスが発生するため、消しカスが殆ど発生しない上記の摩擦部材および摩擦体が好適に用いられる。
【0145】
摩擦部材および摩擦体の材質としては、例えば、シリコーン樹脂、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS樹脂)等を例示できる。シリコーン樹脂は擦過により消去した部分に樹脂が付着し易く、繰り返し筆記した際に筆跡がはじかれる傾向にあるため、SEBS樹脂がより好適に用いられる。
【0146】
上記の摩擦部材または摩擦体は、筆記具とは別体の任意形状の部材であってもよいが、筆記具に設けることにより携帯性に優れるものとすることができる。また、筆記具と、筆記具とは別体の任意形状の摩擦部材または摩擦体とを組み合わせて、筆記具セットを得ることもできる。
【0147】
キャップを備える筆記具の場合、摩擦部材または摩擦体を設ける箇所は特に限定されるものではなく、例えば、キャップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合には、クリップ自体を摩擦部材により形成したり、キャップ先端部(頂部)あるいは軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)等に摩擦部材または摩擦体を設けることができる。
【0148】
出没機構を備える筆記具の場合、摩擦部材または摩擦体を設ける箇所は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、さらにクリップを設ける場合には、クリップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒開口部近傍、軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)、あるいはノック部に摩擦部材または摩擦体を設けることができる。
【実施例0149】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り実施例中の「部」は、「質量部」を示す。
【0150】
実施例1
インキ組成物の調製
青色顔料水分散体(ピグメントブルー15:3)(固形分:20%、平均粒子径:0.2μm)30部と、ジアリルアミン塩酸塩-二酸化硫黄共重合体(カチオン性高分子)〔ニットーボーメディカル(株)製、製品名:PAS-92(質量平均分子量:5,000,濃度:20%)〕0.5部と、界面活性剤〔第一工業製薬(株)製、製品名:プライサーフAL〕0.5部と、トリエタノールアミン0.1部と、グリセリン5部と、ジエチレングリコール10部と、水53.9部とを混合し、インキ組成物を調製した。
【0151】
筆記具の作製
上記のインキ組成物を、ポリプロピレン製パイプからなるインキ収容体に吸引充填した後、樹脂製ホルダーを介して、直径0.5mmの超硬製のボールを先端に抱持したボールペンチップと連結させた。次いで、インキ収容体の後端より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体(液栓)を充填し、さらに尾栓をパイプの後部に嵌合させ、遠心処理により脱気を行い、ボールペンレフィルを得た。
次いで、上記のレフィルを軸筒内に組み込み、ボールペン(出没式ボールペン)を作製した。
上記のボールペンは、ボールペンレフィルに設けられたチップが外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、軸筒の後部側壁に設けられたクリップ形状の出没機構(スライド機構)の作動によって軸筒前端開口部からチップが突出する構造である
【0152】
実施例2~7、ならびに、比較例1~5
インキ組成物の調製
実施例2~7、ならびに、比較例1~5のインキ組成物は、配合する材料の種類と配合量を以下の表1および表2に記載したものに変更した以外は、実施例1と同様にして調製した。
【0153】
筆記具の作製
実施例2~7、ならびに、比較例1~5の筆記具は、実施例1と同様にして作製した。
【0154】
[粘度測定]
実施例1~7、ならびに、比較例1~5で調製した各インキ組成物について、E型回転粘度計〔東機産業(株)製、製品名:RE-85L コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)〕を用いて、室温(20℃)環境下で、回転速度20rpmの条件で粘度を測定した。測定結果は、表1に記載のとおりである。
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】
【0157】
表1および表2中の材料の内容を、注番号に沿って説明する。
(1)青色顔料水分散体(ピグメントブルー15:3)(固形分:20%,平均粒子径:0.2μm)
(2)可逆熱変色性マイクロカプセル顔料
(3)黒色顔料水分散体(カーボンブラック)〔冨士色素(株)製、製品名:FUJI SP BLACK 8065(固形分:20%,平均粒子径:0.017μm)〕
(4)ジアリルアミン塩酸塩-二酸化硫黄共重合体〔ニットーボーメディカル(株)製、製品名:PAS-92(質量平均分子量:5,000,濃度:20%)〕
(5)ジアリルアミン酢酸塩-二酸化硫黄共重合体〔ニットーボーメディカル(株)製、製品名:PAS-92A(質量平均分子量:5,000,濃度:20%)〕
(6)ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト-二酸化硫黄共重合体〔ニットーボーメディカル(株)製、製品名:PAS-2401(質量平均分子量:2,000,濃度:25%)〕
(7)ジアリルジメチルアンモニウムクロリド-二酸化硫黄共重合体〔ニットーボーメディカル(株)製、製品名:PAS-A-5(質量平均分子量:4,000,濃度:40%)〕
(8)TEMPO酸化セルロースナノファイバー(セルロースI型結晶構造を有し、セルロースのC6位の水酸基がカルボキシ基に変性されたセルロースナノファイバー)
(9)硫酸エステル化セルロースナノファイバー(セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの水酸基の一部が硫酸エステルナトリウムに変性されたセルロースナノファイバー)
(10)ポリタングステン酸ナトリウム(SOMETU社製、製品名:SPT)
(11)第一工業製薬(株)製、製品名:プライサーフAL
【0158】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は以下のように調製したものである。
(イ)成分として、3′,6′-ビス〔フェニル(3-メチルフェニル)アミノ〕スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9′-[9H]キサンテン]-3-オン3部と、(ロ)成分として、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン3部、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5部と、(ハ)成分として、カプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50部とからなる可逆熱変色性組成物を、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー35部と、助溶剤40部とからなる混合溶液に投入した後、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5部を加え、さらに攪拌を続けてマイクロカプセル分散液を調製した。上記のマイクロカプセル分散液から遠心分離法により、平均粒子径が1.9μmの可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を得た。
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は完全発色温度tが-20℃、完全消色温度tが60℃であり、温度変化により青色から無色に可逆的に変化した。
また、完全発色状態の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、20℃において、水を基準とした場合の比重が、1.08~1.09であった。
【0159】
[初期筆記性能の評価]
実施例1~7、ならびに、比較例1~5で作製した各筆記具を用いて、室温(20℃)の環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、長径15mm、短径8mm程度の楕円形状の丸を、丸が互いに接するように螺旋状に12個、手書きで連続筆記し、これを5行分行った。試験用紙には旧JIS P3201に準拠した試験用紙Aを用いた。
得られた筆跡を目視にて確認し、下記基準で筆跡を評価した。評価結果は以下の表3および表4に記載の通りであり、評価「A」を合格とした。
A:筆跡にカスレや線飛び等がなく、一定の濃度および線幅を有する良好な筆跡が得られた。
B:筆跡にカスレや線飛びが多数確認された。あるいは、筆記不能であった。
【0160】
[経時後の筆記性能の評価]
前述の筆記試験を行った各筆記具を、50℃に設定した恒温槽内に30日間、ペン先が上向きの状態(正立状態)で静置させた。30日経過後に恒温槽から取り出し、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、長径15mm、短径8mm程度の楕円形状の丸を、丸が互いに接するように螺旋状に12個、手書きで連続筆記し、これを5行分行った。試験用紙には旧JIS P3201に準拠した試験用紙Aを用いた。
得られた筆跡を目視にて確認し、下記基準で筆跡を評価した。評価結果は以下の表3および表4に記載の通りであり、評価「A」および「B」を合格とした。
A:筆跡にカスレや線飛び等がなく、筆跡の色は初期の筆跡と同じあるいは同等レベルであり、良好な筆跡が得られた。
B:筆跡にカスレや線飛びがやや確認され、筆跡の色は初期の筆跡に比べてやや淡色化したが、実用上問題のないレベルであった。
C:筆跡にカスレや線飛びが多数確認された。あるいは、筆記不能であった。
【0161】
【表3】
【0162】
【表4】