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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146359
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/245 20170101AFI20241004BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20241004BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241004BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20241004BHJP
【FI】
B29C64/245
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059205
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜本 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】依田 勇佑
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA03
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL73
4F213WL96
(57)【要約】
【課題】材料押出法により造形物を製造する場合に、造形完了まで造形物を造形シートを介して造形ステージに安定して固定することができ、かつ造形完了後は造形物と造形シートとを分離し易い造形物の製造方法を提供するを提供する。
【解決手段】材料押出法により造形ステージ上に造形物を造形する造形物の製造方法であって、前記造形ステージ上に造形シートを固定する造形シート固定工程と、前記造形ステージ上に固定した前記造形シートの表面上に、造形材料の溶融物により造形層を積層して前記造形物を造形する造形工程と、前記造形工程後、前記造形シートと前記造形物とを分離する分離工程と、を含み、前記分離工程における前記造形シートと前記造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内に調整されている、造形物の製造方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料押出法により造形ステージ上に造形物を造形する造形物の製造方法であって、
前記造形ステージ上に造形シートを固定する造形シート固定工程と、
前記造形ステージ上に固定した前記造形シートの表面上に、造形材料の溶融物により造形層を積層して前記造形物を造形する造形工程と、
前記造形工程後、前記造形シートと前記造形物とを分離する分離工程と、
を含み、
前記分離工程における前記造形シートと前記造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内に調整されている、造形物の製造方法。
【請求項2】
前記造形シート固定工程において、前記造形シートを、接着、機械締結、及びバキュームチャックから選ばれる少なくとも1つの手段によって前記造形ステージ上に固定する、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記造形シートと前記造形物との剥離強度が、前記造形材料に応じて、前記造形シートの組成、前記造形シートの材料の融点又はガラス転移点、前記造形シートの弾性率、前記造形シートの厚み、及び前記造形シートの表面処理から選ばれる少なくとも1つの手段によって調整されている、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記造形ステージが温度調整機構を備え、前記造形ステージの温度によって前記造形シートと前記造形物との剥離強度が調整される、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
前記造形材料は、オレフィン系重合体を含む材料、又は、オレフィン系重合体及び無機フィラーを含む材料である、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
前記造形工程で用いる前記造形材料に対し、前記分離工程における前記造形シートと前記造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内となる造形シートを予め選定する選定工程を含む、請求項1に記載の造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、効率的な造形技術の1つとして、材料押出法(MEX:Material Extrusion)が注目されている。材料押出法では、3Dモデルデータを基に、押出ノズルから造形層用材料の溶融物を押し出して造形層を形成し、造形層を積み重ねて、造形物を実体化する。
【0003】
材料押出法に使用する3Dプリンタは、造形物を載置するための載置面を有する造形ステージを備える。造形層が積層される造形中の造形物は、造形ステージ上に固定されている必要がある。
また、造形中の造形物は反りにより造形ステージから剥がれようとする力が働く場合がある。その為、造形中の造形物は、造形ステージに一定以上の力で密着されている必要がある。
【0004】
造形ステージと造形物との密着性を高めるために造形シートが用いられる。造形シートが造形ステージの載置面に固定され、造形物が造形シートの表面上に積層造形され、第1層目の造形層が造形シートに溶着する。
造形が完了すると、造形シートに溶着した造形物は、造形シートごと造形ステージから取り外され、例えば、スクレイパーなどを用いて手作業で造形シートから分離される。
【0005】
材料押出法により造形物を製造する際に使用する造形シートとして、例えば、特許文献1では、加熱、冷却、電磁波印加、電圧印加などの粘着力低下措置に因って粘着力が低下可能な、粘着剤を含む粘着剤層、を有する造形ステージ用粘着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/187800号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
材料押出法により造形シート上に造形物を製造する場合、造形中は造形物を造形ステージに固定する必要がある反面、造形完了後は造形シートから分離するため、作業性の観点から造形物は造形シートに強固に固定されていないことが望ましい。
しかし、造形シートの表面上に積層造形された造形物は造形シートに強く溶着している。そのため、造形シートに溶着した造形物を造形シートから分離するのに、多大な時間を要する場合がある。例えば、スクレイパーを用いて手作業で、造形シートに溶着した直方体状の造形物(サイズ:400mmW×400mmD)を造形シートから分離するのに5時間以上を要する場合もある。
【0008】
特に大型(例えば長辺が200mm以上)の造形物を製造する場合、造形シートと造形物の密着度が弱すぎると、造形中の造形物が造形シートから剥がれたり、変形が生じ易く、密着度が強すぎると、造形完了後に造形物を造形シートから取り外す作業に時間がかかり、生産効率の低下につながる。
【0009】
本開示は、材料押出法により造形物を製造する場合に、造形完了まで造形物を造形シートを介して造形ステージに安定して固定することができ、かつ造形完了後は造形物と造形シートとを分離し易い造形物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
【0011】
<1> 材料押出法により造形ステージ上に造形物を造形する造形物の製造方法であって、
前記造形ステージ上に造形シートを固定する造形シート固定工程と、
前記造形ステージ上に固定した前記造形シートの表面上に、造形材料の溶融物により造形層を積層して前記造形物を造形する造形工程と、
前記造形工程後、前記造形シートと前記造形物とを分離する分離工程と、
を含み、
前記分離工程における前記造形シートと前記造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内に調整されている、造形物の製造方法。
<2> 前記造形シート固定工程において、前記造形シートを、接着、機械締結、及びバキュームチャックから選ばれる少なくとも1つの手段によって前記造形ステージ上に固定する、<1>に記載の造形物の製造方法。
<3> 前記造形シートと前記造形物との剥離強度が、前記造形シートの組成、前記造形シートの材料の融点又はガラス転移点、前記造形シートの弾性率、前記造形シートの厚み、及び前記造形シートの表面処理から選ばれる少なくとも1つの手段によって調整されている、<1>又は<2>に記載の造形物の製造方法。
<4> 前記造形ステージが温度調整機構を備え、前記造形ステージの温度によって前記造形シートと前記造形物との剥離強度が調整される、<1>~<3>のいずれか1つに記載の造形物の製造方法。
<5> 前記造形材料は、オレフィン系重合体を含む材料、又は、オレフィン系重合体及び無機フィラーを含む材料である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の造形物の製造方法。
<6> 前記造形工程で用いる前記造形材料に対し、前記分離工程における前記造形シートと前記造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内となる造形シートを予め選定する選定工程を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、材料押出法により造形物を製造する場合に、造形完了まで造形物を造形シートを介して造形ステージに安定して固定することができ、かつ造形完了後は造形物と造形シートとを分離し易い造形物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示に係る造形物の製造方法の一例を説明するための概略図である。
図2】造形ステージに造形シートを固定する方法の一例を示す概略図である。
図3図2におけるA-A線部の断面の一部を拡大した図である。
図4】本開示に係る造形物の製造方法により3Dプリンタを用いて造形物を製造した状態の一例を示す概略図である。
図5A】造形シートの層構成の一例を示す概略図である。
図5B】造形シートの層構成の他の一例を示す概略図である。
図5C】造形シートの層構成の他の一例を示す概略図である。
図5D】造形シートの層構成の他の一例を示す概略図である。
図5E】造形シートの層構成の他の一例を示す概略図である。
図6A】実施例において造形物からの造形シートの取り外し性を評価するために製造した造形物を示す図である。
図6B】実施例において造形物から造形シートの一部を取り外した状態を示す図である。
図7A】実施例において造形物から造形シートを取り外す際の剥離応力を測定するために製造した造形物を示す図である。
図7B】実施例において造形物から造形シートを取り外す際の剥離応力の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態及び実施例は、本開示に係る造形物の製造方法を例示するものであり、本開示の造形物の製造方法を制限するものではない。なお、以下の説明において符号は適宜省略する。
【0015】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、下限値についても同様である。
また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0016】
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本開示おいて「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0017】
材料押出法により造形物を製造する場合に、造形物の“反り”などの変形を抑制するため、造形物は造形中に造形ステージに固定されたシートに強固に固定されていることが望ましい一方、造形完了後に造形シートから造形物を取り外す際には作業性の観点から造形物は造形シートに強固に固定されていないことが望ましい。例えば、造形シートAと造形材料Bを用いて造形した造形物との密着力は、造形シートAと造形材料Cを用いて造形した造形物との密着力が異なり、造形材料によっては造形シートAは必ずしも適さない。そこで、本開示に係る発明者らは、場面によって相反する2つの要望を解決すべく鋭意検討、実験を重ねたところ、造形材料、造形シートの種類に関わらず、分離工程における造形シートと造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内に調整されていれば、造形完了まで造形物を造形シートを介して造形ステージに安定して固定することができ、かつ造形完了後は造形物と造形シートとを分離し易く、分離作業の時間が短縮され、生産効率が向上することができることを見出した。
【0018】
すなわち、本開示に係る造形物の製造方法は、材料押出法により造形ステージ上に造形物を造形する造形物の製造方法であって、造形ステージ上に造形シートを固定する造形シート固定工程と、造形ステージ上に固定した造形シートの表面上に、造形材料の溶融物により造形層を積層して造形物を造形する造形工程と、造形工程後、造形シートと造形物とを分離する分離工程と、を含み、分離工程における造形シートと造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内に調整されている。
【0019】
造形シートと造形物との剥離強度が0.5N/cm以上であれば、材料押出法による造形物の造形完了まで、造形物を造形シートを介して造形ステージに安定して固定することができる。かかる観点から、造形シートと造形物との剥離強度は1N/cm以上であることが好ましく、5N/cm以上であることがより好ましく、10N/cm以上であることがさらに好ましい。
一方、造形シートと造形物との剥離強度が20N/cm以下であれば、造形完了後は造形物と造形シートとを分離し易く、分離工程の作業時間を短縮化することができる。かかる観点から、造形シートと造形物との剥離強度は10N/cm以下であることが好ましく、5N/cm以下であることがより好ましく、1N/cm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
造形に使用する3Dプリンタは、例えば、複数の2次元データをもとにノズルから造形材料の溶融物を造形シートの表面上に押し出して、3Dモデルデータを実体化する。複数の2次元データは、例えば、スライサーソフトウェアによって、3Dモデルデータが輪切りにされて、生成される。複数の2次元データは、例えば、Gコードデータを含む。
【0021】
本開示に係る造形物の製造方法で用いる3Dプリンタは、公知の装置であってもよい。
【0022】
造形ステージは、造形中の造形物が載置される載置面を有する。載置面は、例えば、平面状である。造形ステージは、例えば、アルミ板を含む。
【0023】
造形ステージの載置面には、造形シートが固定される。これにより、造形中の造形物の剥離や変形(特に反り)は、造形シートを介した造形ステージと造形シートとの密着力によって抑制される。
【0024】
造形ステージの載置面に造形シートを固定する方法は特に限定されないが、造形シートを、接着、機械締結、及びバキュームチャックから選ばれる少なくとも1つの手段によって前造形ステージ上に固定する方法が挙げられる。
【0025】
図1は、本開示に係る造形物の製造方法の一例を説明するための概略図である。図1に示す3Dプリンタ(3次元造形物製造装置)100は、ホッパー30、シリンダー32、押出ノズル36、造形ステージ10などを備えている。シリンダー32は、ホッパー30から供給された造形材料40を加熱するためのヒーター(不図示)を備え、シリンダー32の内部には造形材料40を混練してノズル36から押し出すためのスクリュー34が設けられている。制御手段(不図示)により、ノズル36から押し出される溶融状態の造形材料(溶融物)の押出量、造形ステージ10の基準面に対するX軸,Y軸,Z軸方向へのノズル36の移動が制御される。
【0026】
[造形シート固定工程]
造形シート固定工程では、造形ステージ10上に造形シート50を固定する。
【0027】
<造形シート>
造形シート50は、造形中の造形物20Aを固定するためのシートである。
【0028】
造形シート50は、例えば、熱可塑性樹脂を含有して構成される。図5Aは、造形シート50の一例を示している。図5Aに示すように、例えば、単層の樹脂製シート50Aを用いることができれる。熱可塑性樹脂としては、造形材料に含まれる熱可塑性樹脂として後述するものと同様のものが挙げられる。
造形シート50は、無機フィラーを更に含有してもよい。無機フィラーとしては、造形材料に含まれる無機フィラーとして後述するものと同様のものが挙げられる。
【0029】
造形シート50は、造形物20との密着力の調整のための表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、シボ加工、コロナ処理、プラズマ処理等の物理的処理、下塗り処理等の化学的処理が挙げられる。
【0030】
造形シート50のサイズは、造形物の寸法等に応じて適宜選択される。
造形シート50の厚みは、材質などにもよるが、強度、取り扱い性などの観点から、好ましくは0.01mm以上10.00mm以下、より好ましくは0.05mm以上5.00mm以下、さらに好ましくは0.10mm以上3.00mm以下である。
【0031】
図2は、造形ステージ10に造形シート50を固定する方法の一例を示す概略図であり、図3は、図2におけるA-A線部の断面の一部を拡大した図である。造形ステージ10に造形物20が載置される載置面には、造形シート50をバキュームチャック(真空引き)により固定するための真空引き孔12が設けられている。造形シート50は、周辺部がマスキングテープ60を介して造形ステージ10上に貼り付けられており、造形を行う際、さらに真空引き孔12を介したバキュームチャックによって造形ステージ10上に強く固定される。
【0032】
造形ステージ10上に造形シート50を固定する手段は、バキュームチャック、マスキングテープに限定されず、機械締結として、例えば造形ステージ10上に配置した造形シート50の周辺部を金具などで抑える手段が挙げられる。また、粘着剤などを介して造形シート50を造形ステージ10上に剥離可能に接着させてもよい。
【0033】
図5B図5Eは、それぞれ本開示に係る造形物の製造方法において使用し得る造形シートの他の構成例を示している。
【0034】
図5Bに示す造形シート50Bは、基材52の片面に粘着層54が配置されている。
図5Cに示す造形シート50Cは、基材52の両面に粘着層54,56がそれぞれ配置されている。
図5Dに示す造形シート50Dは、粘着層54のみで構成されている。
図5Eに示す造形シート50Eは、基材を介さずに粘着層54,56が積層された構成を有する。
【0035】
基材52を構成する材料としては、例えば、紙材、不織布、プラスチックフィルムなどが挙げられる。
紙材としては、例えば、和紙、クレープ紙、クラフト紙、グラシン紙、および合成紙が挙げられる。
不織布の素材としては、例えば、麻パルプ、木材パルプ等のパルプ、レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維等が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、軟質塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等が挙げられる。
【0036】
各粘着層54,56を構成する粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、天然ゴム、合成ゴム、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤などが挙げられる。
粘着層54,56は、同じ粘着剤で構成されてもよいし、異なる粘着剤で構成されてもよい。
【0037】
本開示に係る造形物の製造方法では、使用する造形材料によって造形物20と造形シート50との密着力が異なるため、使用する造形材料に応じて、造形シート50と造形物20との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内となる造形シートを選択すればよい。
造形材料に応じた造形シート50と造形物20との剥離強度を調整する手段は特に限定されないが、造形シート50の組成、造形シート50の材料の融点又はガラス転移点、造形シート50の弾性率、造形シート50の厚み、及び造形シート50の表面処理から選ばれる少なくとも1つの手段によって好適に調整することができる。
【0038】
[造形工程]
造形工程では、造形ステージ10上に固定した造形シート50の表面上に、造形材料40の溶融物42により造形層を積層して造形物20を造形する。
【0039】
造形工程は、3Dプリンタが用いられる。
図1に示す3Dプリンタ100によって造形物20を製造する場合、造形材料40がホッパー30に投入され、ホッパー30からシリンダー32内に造形材料40が供給される。シリンダー32内では、ヒーター及びスクリュー34の回転により造形材料40が加熱されて溶融されるとともに押出ノズル36から造形ステージ10上に固定された造形シート50に向けて溶融物42として押し出される。溶融物42がノズル34から押し出されるとともに、造形ステージ10に対してノズル34が移動することで、溶融物42により造形層が形成され、造形層が順次積層されることで造形シート50上に造形物20が造形される。
【0040】
造形材料40の溶融物42により、造形シート50の表面上に造形層を形成する際、造形層のうち最下層は、造形シート50に溶着する。
押出ノズル36のノズル温度は、造形材料が溶融する温度であればよく、造形材料の種類等に応じて適宜調整される。造形材料を溶融する温度は、例えば、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移点(Tg)のいずれか高い温度を基準として、+10℃~+150℃の温度としてもよい。熱可塑性樹脂については、後述する。
造形層の積層ピッチは、造形物の寸法等に応じて適宜調整される。造形層の積層ピッチは、密着強度の観点から、好ましくはノズル径の3/4以下、さらに好ましくはノズル径の1/2以下である。造形層の積層ピッチは、造形層の1層当たりの厚みに相当する。
造形層の充填率は、100%であってもよいし、100%未満であってもよい。充填率は、単位空間体積に占める造形層用材料の体積の比率を示す。
造形層の総厚みは、造形物のサイズ等に応じて適宜調整される。
造形層の層数は、造形層の厚み、及び造形層の積層ピッチ等に応じて適宜選択され、1層であってもよいし、2層以上であってもよい。
【0041】
<造形材料>
造形材料40は、材料押出法による造形容易性の観点から、熱可塑性樹脂を含む材料であることが好ましく、さらに製造される造形物の機械特性などの観点から、熱可塑性樹脂及び無機フィラーを含む材料であることがより好ましい。なお、熱可塑性樹脂としては、オレフィン系重合体が好ましい。
【0042】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、熱可塑性プラスチック及び熱可塑性エラストマーの少なくとも一方を含有することが好ましく、熱可塑性プラスチック及び熱可塑性エラストマーの両方を含有することがより好ましい。
熱可塑性樹脂が熱可塑性プラスチック及び熱可塑性エラストマーを含有することで、造形層の変形はより効果的に抑制される。
【0043】
熱可塑性樹脂は、造形物の反りをより抑制する観点及び造形物をより短時間で造形シートから分離する観点から、結晶性の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0044】
熱可塑性プラスチックは、25℃での引張弾性率が6.0×10Pa以上である熱可塑性樹脂を示す。熱可塑性エラストマーは、25℃での引張弾性率が6.0×10Pa未満である熱可塑性樹脂を示す。
引張弾性率は、JIS K7161-2:2014に準拠した測定値である。
【0045】
・熱可塑性プラスチック
熱可塑性プラスチックは、ゴム状弾性が小さく変形しにくい。ゴム状弾性とは、樹脂に荷重が加えられると樹脂の形状が変形し、樹脂に加えられた荷重が除かれると樹脂の形状が元の形状に戻ろうとする性質を示す。
【0046】
熱可塑性プラスチックは、特に制限されず、公知の熱可塑性プラスチックが適用できる。熱可塑性プラスチックは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
例えば、熱可塑性プラスチックとしては、汎用プラスチック、エンジニアリング・プラスチック、スーパーエンジニアリング・プラスチック等が挙げられる。
汎用プラスチックとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、プロピレン系重合体(プロピレン単独重合体(PP)等)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、スチレンアクリロニトリルコポリマー(AS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA等)などが挙げられる。
エンジニアリング・プラスチックとしては、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、環状ポリオレフィン(COP)等が挙げられる。
スーパーエンジニアリング・プラスチックとしては、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等が挙げられる。
中でも、熱可塑性プラスチックは、造形物の反りをより抑制する観点及び造形物をより短時間で造形シートから分離する観点から、高密度ポリエチレン(HDPE)、プロピレン系重合体、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)及びポリアセタール(POM)からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、プロピレン系重合体を含むことがより好ましい。
【0047】
熱可塑性プラスチックは、造形物の反りをより抑制する観点から、結晶性の熱可塑性プラスチック及び非晶性の熱可塑性プラスチックの少なくとも1つを含有することが好ましく、結晶性の熱可塑性プラスチックを含有することがより好ましい。熱可塑性プラスチックが結晶性の熱可塑性プラスチックを含有することで、造形物の機械的強度と耐衝撃性とのバランスに優れる。結晶性の熱可塑性プラスチックは、結晶性の熱可塑性樹脂の一例である。
結晶性の熱可塑性プラスチックは、高密度ポリエチレン(HDPE)、プロピレン系重合体、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、及びポリアセタール(POM)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、プロピレン系重合体を含むことがさらに好ましい。
熱可塑性プラスチックの「結晶性」とは、示差走査熱量測定において、吸熱ピークを有することを指す。熱可塑性プラスチックの「非晶性」とは、示差走査熱量測定において、明確な吸熱ピークが認められないことを指す。
【0048】
プロピレン系重合体は、少なくともプロピレンを構成単位として有する重合体である。
プロピレン系重合体は、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレンと他の単量体との共重合体であってもよい。プロピレン系重合体が共重合体である場合、プロピレン系重合体としては、例えば、プロピレンと炭素数2~20のα-オレフィン(但し、プロピレンを除く。)との共重合体が挙げられる。プロピレンと炭素数2~20のα-オレフィンとの共重合体としては、例えば、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、これらの混合物等が挙げられる。
【0049】
プロピレン系重合体が共重合体である場合、プロピレン系重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0050】
プロピレン系重合体が共重合体である場合、プロピレン系重合体におけるプロピレンに由来する構成単位の比率は、所望する造形層の性質に応じて適宜設計してよい。例えば、プロピレン系重合体におけるプロピレンに由来する構成単位の比率は、プロピレン系重合体中の全構成単位100モル%に対して、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%~99.5モル%、さらに好ましくは80モル%~98モル%である。
【0051】
プロピレン系重合体の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック及びこれらの混合体のいずれであってもよい。
【0052】
プロピレン系重合体の含有量は、熱可塑性プラスチックの総量100質量%に対して、好ましくは95.0質量%以上、より好ましくは98.0質量%以上、さらに好ましくは99.9質量%以上である。
【0053】
熱可塑性プラスチックの結晶化温度(Tc)の上限値は、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下である。熱可塑性プラスチックの結晶化温度(Tc)の下限値は、好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上である。
熱可塑性プラスチックの結晶化温度は、示差走査熱量計(DSC)により降温速度10℃/分の条件で、測定される。
【0054】
熱可塑性プラスチックの結晶化度の上限値は、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下である。熱可塑性プラスチックの結晶化度の下限値は、好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上である。
熱可塑性プラスチックの結晶化度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて得られた熱流カーブのうち主成分の融解に由来する融解熱より算出される。熱流カーブは、熱可塑性プラスチックを窒素雰囲気下-40℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られる。具体的には、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC-7)を用い、試料5mgを窒素雰囲気下-40℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより熱流カーブが得られる。得られた熱流カーブのうち主成分の融解に由来する融解熱より下記の式を用いて、融解熱は算出される。
結晶化度=(ΔH/ΔH0)×100(%)
式中、ΔHは熱可塑性プラスチックの主成分の融解に由来する融解熱カーブより求めた融解熱量(J/g)であり、ΔH0は主成分の完全結晶の融解熱量(J/g)である。例えば、主成分がエチレンの場合、ΔH0は293J/gであり、主成分がプロピレンの場合、ΔH0は210J/gである。
【0055】
熱可塑性プラスチックの融点の上限値は、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。熱可塑性プラスチックの融点の下限値は、好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上である。
融点の測定は、後述する熱可塑性エラストマーの融点の測定方法と同様にして行うことができる。
【0056】
・熱可塑性エラストマー
熱可塑性エラストマーは、ゴム状弾性を有する。
【0057】
熱可塑性エラストマーは、α-オレフィン由来の構成単位と該α-オレフィンと異なる他のオレフィン由来の構成単位とを含む共重合体であることが好ましい。
【0058】
α-オレフィンとしては、通常、炭素数2~20のα-オレフィンを1種単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。中でも、α-オレフィンは、炭素数が3以上であるα-オレフィンが好ましく、炭素数3~8のα-オレフィンが特に好ましい。
【0059】
α-オレフィンとして、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。α-オレフィンは、1種又は2種以上が用いられる。
中でも、入手の容易さの観点から、α-オレフィンとして、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが好ましい。
【0060】
α-オレフィンと異なる他のオレフィンとしては、炭素数2~4のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等を挙げることができる。中でも、α-オレフィンと異なる他のオレフィンは、炭素数2~3のオレフィンがより好ましい。
【0061】
熱可塑性エラストマーである共重合体には、例えば、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、ブテン・α-オレフィン共重合体が含まれる。
【0062】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-1-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体(EOR)、プロピレン-1-ブテン共重合体(PBR)、プロピレン-1-ペンテン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体(POR)等が挙げられる。
【0063】
中でも、熱可塑性エラストマーとしては、炭素数2~8のα-オレフィン由来の構成単位と炭素数2~3のオレフィン由来の構成単位とを含む共重合体が好ましく、熱可塑性プラスチック(特に、プロピレン系重合体)と溶着しやすく、造形層の変形がより抑制される点で、プロピレン系エラストマーが好ましい。
【0064】
さらに、α-オレフィンは、ランダム共重合体を形成してもよく、ブロック共重合体を形成してもよい。
【0065】
熱可塑性エラストマーの融点Tmは、30℃以上120℃以下であることが好ましい。
熱可塑性エラストマーの融点が30℃以上120℃以下であると、熱可塑性エラストマーは材料押出法で造形された造形層間において、接着剤として作用する。これにより、造形層間の接着強度は向上する。
融点は、示差走査熱量測定(DSC)によって吸熱曲線に現れる融解ピーク位置の温度Tmとして求められる値である。融点は、試料をアルミパンに詰め、100℃/minで230℃まで昇温し、230℃で5分間保持した後、-10℃/minで-70℃まで降温し、ついで10℃/minで昇温する際の吸熱曲線より求められる。
【0066】
熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(MFR;230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.5g/10min以上、より好ましくは1g/10min以上、さらに好ましくは2g/10min以上、特に好ましくは5g/10min以上である。
熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(MFR;230℃、2.16kg荷重)の上限値は、好ましくは70g/10min以下、より好ましくは35g/10min以下、さらに好ましくは30g/10min以下である。
熱可塑性エラストマーのMFRの上限値及び下限値がこの範囲内であると、造形層の変形をより効果的に抑制することができる。
メルトフローレート(Melt Flow Rate;MFR)は、ASTM D1238-65Tに準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件で測定される値である。
【0067】
熱可塑性エラストマーのショアD硬度の上限値は、好ましくは60以下である。熱可塑性エレストマーのショアD硬度の下限値は、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上である。
熱可塑性エラストマーの硬度がショアD硬度で30以上であると、熱可塑性エラストマーは変形し難くなる。換言すると、熱可塑性エラストマーの形状が維持され易くなる。そのため、後述する3Dプリンタを用いて造形層が形成される際、熱可塑性エラストマーがシリンダーのスクリューへ入り込みやすくなる。その結果、造形材料の溶融物の吐出効率が良くなる。これにより、表面が滑らかで外観に優れた造形物が得られやすい。
ショアD硬度は、ASTM D2240に記載の方法に準拠して測定される値である。
【0068】
熱可塑性エラストマーの具体例としては、例えば、三井化学株式会社製のタフマー(登録商標)シリーズ(例:タフマーDF605、タフマーDF610、タフマーDF640、タフマーDF710、タフマーDF740、タフマーDF7350、タフマーDF810、タフマーDF840、タフマーDF8200、タフマーDF940、タフマーDF9200、タフマーDF110、タフマーH-0530S、タフマーH-1030S、タフマーH-5030S、タフマーXM-7070、タフマーXM-7080、タフマーXM-7090、タフマーBL2491M、タフマーBL2481M、タフマーBL3110M、タフマーBL3450M、タフマーMA8510、タフマーMH7010、タフマーMH7020、タフマーMH5020、タフマーPN-2070、タフマーPN-3560)などを挙げることができる。
上記の中でも、熱可塑性プラスチック(特に、プロピレン系重合体)と溶着しやすく、造形層の変形がより抑制される点で、プロピレン系エラストマーであるタフマーXMシリーズが好ましい。
タフマーXMシリーズは、熱可塑性プラスチック(特に、プロピレン系重合体)と溶着しやすく、かつ、造形層に要求される破断応力αを維持することができる。これにより、材料押出法で造形される造形層間の接着強度は向上する。
【0069】
熱可塑性エラストマーは、プロピレン系エラストマーであることが好ましい。プロピレン系エラストマーは、少なくともプロピレンを構成単位として有する熱可塑性エラストマーである。
熱可塑性エラストマーは、プロピレン系エラストマーであり、融点が80℃以上120℃以下で、ショアD硬度が40以上60以下で、MFRが2g/10min以上20g/10min以下であることが好ましい。これにより、造形層は、応力歪がより小さく、より反りにくくなる。
融点が80℃以上120℃で、ショアD硬度が40以上60以下で、MFRが2g/10min以上20g/10min以下であるプロピレン系エラストマーとしては、タフマーXM-7090が挙げられる。
【0070】
(無機フィラー)
無機フィラーの材質は、無機化合物であれば特に限定はなく、公知のものが利用できる。無機フィラーとしては、酸化物系フィラー、水酸化物系フィラー、珪酸塩系フィラー、堆積岩系フィラー、粘土鉱物系フィラー、磁性系フィラー、導電性フィラー、熱伝導性フィラー、硫酸塩系フィラー、亜硫酸塩系フィラー、炭酸塩系フィラー、及びチタン酸塩系フィラー等が挙げられる。
酸化物系フィラーとしては、シランカップリング剤などにより表面処理が施されたカーボンブラック、カーボンブラック、グラファイト、微粉ケイ酸、シリカ、アルミナ、酸化鉄、フェライト、酸化マグネシウム、酸化チタン、三酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、及び酸化カルシウム等が挙げられる。シリカとしては、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、珪藻土、及び石英等が挙げられる。
水酸化物系フィラーとしては、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウム等が挙げられる。
珪酸塩系フィラーとしては、珪酸アルミニウム(以下、「クレー」ともいう、含水珪酸アルミニウム塩も含む)、珪酸マグネシウム(含水珪酸マグネシウム塩(以下、「タルク」ともいう)を含む)、マイカ、カオリン、珪酸カルシウム(含水珪酸カルシウム塩も含む)、ガラス繊維、ガラスフレーク、及びガラスビーズ等が挙げられる。
堆積岩系フィラーとしては、珪藻土、及び石灰岩等が挙げられる。
粘土鉱物系フィラーとしては、モンモリロン石(モンモリロンナイト)、マグネシアンモンモリロン石、テツモンモリロン石、テツマグネシアンモンモリロン石、バイデライト、アルミニアンバイデライト、ノントロン石、アルミニアンノントロナイト、サポー石(つまりサポナイト)、アルミニアンサポー石、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、及びベントナイト等が挙げられる。
磁性系フィラーとしては、フェライト、鉄、及びコバルト等が挙げられる。
導電性フィラーとしては、銀、金、銅、及びこれらの合金等が挙げられる。
熱伝導性フィラーとしては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、及びシリコーンカーバイト等が挙げられる。
硫酸塩系フィラーとしては、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等が挙げられる。
亜硫酸塩系フィラーとしては、亜硫酸カルシウム等が挙げられる。
炭酸塩系フィラーとしては、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、及びドロマイト等が挙げられる。
チタン酸塩系フィラーとしては、チタン酸バリウム、及びチタン酸カリウム等が挙げられる。
【0071】
無機フィラーは、タルク、炭酸カルシウム及び硫酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
無機フィラーは、押出ノズルのノズル温度で体積変化を起こさないこと、無機フィラーの熱膨張係数が熱可塑性樹脂の熱膨張係数と比べ低いことから、無機フィラーを含む造形材料を用いて造形された造形物は、変形(特に反り)が、より抑制される。押出ノズルのノズル温度で無機フィラーが体積変化を起こさないとは、押出ノズルのノズル温度において、無機フィラーが溶融しないこと、無機フィラーが溶解しないこと、及び無機フィラーが相転移を起こさないことを示す。
タルクを含む造形材料を用いて造形された造形物は、造形シートを取り外した後の外観の平滑性に優れる。
炭酸カルシウムを含む造形材料を用いて造形された造形物は、造形物の反りがより抑制される。また、炭酸カルシウムを含む造形材料を用いて造形された造形物は、白色度に優れ、高い意匠性を有する。
硫酸マグネシウムを含む造形材料を用いて造形された造形物は、造形物の反りがより抑制される。
【0072】
無機フィラーの形状は、特に限定されず、例えば、球状、板状、鱗片状、針状、繊維状等が挙げられる。
無機フィラーの体積平均粒径の上限値は、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下である。無機フィラーの体積平均粒径の下限値は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。
無機フィラーの体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置等の粒度分布測定装置を用い、無機フィラーを水中に分散した状態で測定した各粒子の粒径に基づく各粒子の体積を小粒径側から積算した場合に積算体積が全体積の50%となる粒径値をいう。
【0073】
(他の成分)
造形材料は、熱可塑性樹脂及び無機フィラー以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、紫外線吸収剤、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、整色剤、難燃剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、つや消し剤、衝撃強度改良剤等が挙げられる。
また、造形材料には、バイオマス由来原料を配合してもよい。
【0074】
[分離工程]
分離工程では、造形工程後、造形シートと造形物とを分離する造形シートと造形物とを分離する。本開示に係る造形物の製造方法では、分離工程における造形シートと造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内に調整されている。
【0075】
図4は、3Dプリンタを用いて造形物を製造した状態の一例を示す概略図である。造形完了後、例えば、バキュームチャックを解除し、マスキングテープ60を剥離して造形シート50上に造形された造形物20を造形シート50ごと造形ステージ10から取り出す。
【0076】
造形シート50に溶着した造形物20を造形シート50から分離する方法は特に限定されないが、例えば、スクレイパーを用いて、造形シート50と造形物20との界面を掻いて、造形シート50に溶着した造形物20から造形シート50を分離することが好ましい。このとき、造形シート50と造形物20との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内にあるため、スクレイパーを用いて造形シート50に溶着した造形物20と造形シート50とを短時間で分離することができる。
【0077】
図4に示す造形ステージ10には、温度調整機構14が設けられている。温度調整機構14として例えばヒータが設けられていれば、造形完了後、ヒータによって造形ステージ10を介して造形シート50が加熱されることで、造形シート50が軟化し、造形シート50と造形物20との密着力を低下させることできる。これにより分離工程での造形シート50と造形物20との分離作業が軽減され、より短時間で分離することができる。
【0078】
造形ステージ10の温度調整機構14はヒータなどの加熱手段に限定されず、例えば造形ステージ10を冷却する手段でもよい。造形完了後、造形ステージ10を介して造形シート50を冷却して造形シート50を硬化させることで、造形シート50と造形物20との密着力を低下させてもよい。
【0079】
[他の工程]
本開示の造形物の製造方法は、例えば、加工工程をさらに有してもよい。加工工程では、造形工程で造形された造形物を加工処理する。
【0080】
また、造形工程で用いる造形材料に対して適切な造形シートを選択するため、本開示に係る造形物の製造方法は、分離工程における造形シートと造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内となる造形シートを予め選定する選定工程を含んでもよい。
例えば、使用する造形材料に対し、造形シートとして使用可能性があり、材質が異なる複数の樹脂シートなどを準備する。そして、各樹脂シートを用いて、前述した造形シート固定工程、造形工程を行う。そして、実施例で後述する剥離応力試験を行い、樹脂シートと造形物との剥離応力を測定し、剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内となる樹脂シートの中から、本開示に係る造形物の製造方法で用いる造形シートとして選定すればよい。
【実施例0081】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0082】
<造形材料の準備>
下記に示す熱可塑性エラストマー(40質量部)、熱可塑性プラスチック(20質量部)及び無機フィラー(40質量部)を配合し、押出機(品番 KTX-30、(株)神戸製鋼所製)を用いて混練し、PPコンパウンドを得た。
【0083】
(熱可塑性エラストマー)
「タフマー(登録商標)XM-7090」、三井化学株式会社製、材質:プロピレン系重合体、融点Tm:98℃、ショアD硬度:58、MFR:7.0g/min、25℃での引張弾性率:6.0×108Pa未満
なお、融点Tm、ショアD硬度、及びMFRの各々の値は、カタログ値である。
【0084】
(熱可塑性プラスチック)
「プライムポリプロ(登録商標)J-105G」、株式会社プライムポリマー製、材質:プロピレン単独重合体、結晶化温度Tc:116.4℃、結晶化度:52.2%、25℃での引張弾性率:6.0×108Pa以上
なお、結晶化温度Tc、及びショアD硬度の各々の値は、カタログ値である。
【0085】
(無機フィラー)
タルク、体積平均粒径:5μm~10μm
【0086】
得られたPPコンパウンドをノズルから押し出し、4mm間隔で切断して4mm×3mm×2mmの粒子状の造形用材料を得た。
押出機の条件は、シリンダー温度:C1=50℃、C2=90℃、C3=100℃、C4=120℃、C5=180℃、C6=200℃、C7~C14=200℃、ダイス温度:200℃、スクリュー回転数:500rpm、押出量:40kg/hとした。
【0087】
<造形シートの固定>
材料押出法用3Dプリンタ(株式会社エクストラボールド製、「EXF-12」)及びアプリケーションソフトウェア(Ultimaker社製の「UltimakerCURA」)を用いた。
次いで、造形ステージに造形シートを乗せ、造形シートの外周をマスキングテープで固定し、造形ステージ表面に設けられている孔から真空ポンプを用いて真空引きを行い、造形シートを固定した。
【0088】
<積層造形>
次に、ホッパーに造形材料を投入し、ホッパーを介して造形材料をシリンダー内に供給した。次いで、シリンダーに設けられたヒーターにより造形材料の温度を180℃~240℃に加熱し、造形材料を溶融させた。
【0089】
次に、アプリケーションソフトウェアで、下記の3Dモデルデータを輪切りにして、複数の2次元データを生成した。複数の2次元データをもとに、アプリケーションソフトウェアの設定パラメータを下記のとおりに設定した。
【0090】
(取り外し性測定用造形物)
<3Dモデルデータ>
・80mmD×80mmW×50mmHの直方体
<造形層の設定パラメータ>
・使用ノズル径 :3mm
・造形スピード :360mm/min
・ノズル温度 :200℃
・積層ピッチ :1.5mm
・層数 :33層
・造形ステージの温度 :60℃
【0091】
(剥離応力測定用)
<3Dモデルデータ>
・80mmD×28mmW×3mmHの直方体
<造形層の設定パラメータ>
・使用ノズル径 :3mm
・造形スピード :360mm/min
・ノズル温度 :200℃
・積層ピッチ :1.5mm
・層数 :2層
・造形ステージの温度 :60℃
【0092】
次いで、2次元データをもとに、押出ノズル(ノズル径:3mm)から造形材料の溶融物を造形シートの表面上に押し出して、図6Aに示すサイズ及び形状の取り外し性測定用造形物S1及び図7Aに示す剥離応力測定用造形物S2を得た。いずれの造形物も、造形完了まで造形シートから剥離することなく造形することが出来た。
【0093】
このようにして、それぞれ造形シートに溶着した取り外し性測定用造形物S1および剥離応力測定用造形物S2を得た。
【0094】
<造形物からの造形シートの剥離>
取り外し性測定用造形物S1を形成した造形シートを造形ステージから取り外し、図6Bに示すように、取り外し性測定用造形物S1から造形シート50を手作業で引っ張り剥離させた。いずれの取り外し性測定用造形物も、造形シートの取り外し性が良好であった。
【0095】
<剥離応力の測定>
図7Aに示すように、造形シート50に密着した剥離応力測定用造形物S2の一端Cを造形シート50から剥離してチャッキングした。剥離応力測定用造形物S2の一端Cから剥離した造形シート50を、チャッキングした逆側の端部方向Dに引っ張り、下記の条件で剥離応力を測定した。
【0096】
試験装置:インテスコ201X
ロードセル:100N
測定温度:23℃
試験速度:300.0mm/min
試験方法:180°剥離
【0097】
結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
いずれも造形シートと造形物との剥離強度が0.5N/cm~20N/cmの範囲内にあり、造形中の造形物は安定して固定され、造形完了後の造形物を造形シートから手作業で容易に取り外すことができ、取り外し性が良好であった。
【符号の説明】
【0100】
10 造形ステージ
12 孔
14 温度調整機構
20 造形物
30 ホッパー
32 シリンダー
34 スクリュー
36 押出ノズル
40 造形材料
42 溶融物
50 造形シート
52 基材
54,56 粘着層
60 マスキングテープ
100 3Dプリンタ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7A
図7B