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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146361
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】不織布、及び不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/728 20120101AFI20241004BHJP
【FI】
D04H1/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059207
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯場 康三
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 絵美
(72)【発明者】
【氏名】浅野 彰宏
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA26
4L047AB02
4L047AB07
4L047AB08
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる不織布を提供する。
【解決手段】本開示の不織布は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む複数の繊維からなる。前記複数の繊維の平均繊維径の標準偏差は、0.25μm以下である。前記複数の繊維は、下記の要件(I)を満たす。
要件(I):DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であること
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む複数の繊維からなり、
前記複数の繊維の平均繊維径の標準偏差が、0.25μm以下であり、
前記複数の繊維が、下記の要件(I)を満たす、不織布。
要件(I):示差走査熱量測定で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であること
【請求項2】
前記複数の繊維の平均繊維径の標準偏差が、0.22μm以下である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記複数の繊維の平均繊維径が、0.45μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の不織布。
【請求項4】
前記複数の繊維の全量に対する前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有量が、90質量%以上である、請求項1又は請求項2に記載の不織布。
【請求項5】
前記複数の繊維が、下記の要件(II)を更に満たす、請求項1又は請求項2に記載の不織布。
要件(II):示差走査熱量測定で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)と、示差走査熱量測定で測定した融点(Tm)との差ΔT(TmE-Tm)が、10℃~30℃であること
【請求項6】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が、下記の要件(i)を満たす、請求項1又は請求項2に記載の不織布。
要件(i):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)と、炭素数6~20の直鎖状α-オレフィン(但し、4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる少なくとも1種の構成単位(AQ)と、を含むこと
【請求項7】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が、下記の要件(ii)を満たす、請求項6に記載の不織布。
要件(ii):前記構成単位(P)の量(U1)及び前記少なくとも1種の構成単位(AQ)の総量(U2)の合計100モル%に対して、前記構成単位(P)の量(U1)が、84.0モル%~95モル%であり、前記少なくとも1種の構成単位(AQ)の総量(U2)が、16.0モル%~5モル%であること
【請求項8】
前記少なくとも1種の構成単位(AQ)が、少なくとも2種の前記構成単位(AQ)を含む、請求項7に記載の不織布。
【請求項9】
135℃での前記複数の繊維の極限粘度[η]が、1.7dl/g~5.5dl/gである、請求項1又は請求項2に記載の不織布。
【請求項10】
表面で観察されるポリマー球数が、2.0個/mm以下である、請求項1又は請求項2に記載の不織布。
【請求項11】
電界紡糸法により、電界紡糸用組成物を紡糸することを含み、
前記電界紡糸用組成物が、下記の要件(I)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0以上である溶媒と、を含有する、不織布の製造方法。
要件(I):示差走査熱量測定で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であること
【請求項12】
前記溶媒のヒルデブランド溶解度パラメータが、8.3以上である、請求項11に記載の不織布の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒が、
ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0以上である貧溶媒と、
ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0未満である良溶媒と、
を含み、
前記良溶媒と前記貧溶媒の総量に対する前記貧溶媒の比率が、5体積%~45体積%であり、
前記良溶媒と前記貧溶媒の総量に対する前記良溶媒の比率が、55体積%~95体積%である、請求項11又は請求項12に記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不織布、及び不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維(以下、単に「繊維」ともいう)、および合成繊維で構成される繊維構造体は、衣料分野、建設分野、電気分野などの様々な分野で用いられている。近年、これらの繊維や繊維構造体の用途の多様化により、繊維径の小さい繊維が求められている。
【0003】
繊維径の小さい繊維を用いた繊維構造体の特徴として、表面積が大きいこと、空隙率が高いこと、孔径が小さいこと、通気度が高いこと、流体透過速度が速いことなどが挙げられる。そのため、繊維径の小さい繊維を用いた繊維構造体は、特にフィルタに用いられている。
【0004】
例えば、繊維径の小さい(例えば、平均繊維径1μm以下)繊維を製造する1つの方法としては、電界紡糸法が知られている。電界紡糸法では、種々の紡糸溶液に電圧を印加することで、平均繊維径が数十nm~数μmのナノファイバーを容易に製造できる(例えば、特許文献1)。特許文献2は、ポリビニルアルコールの繊維を用いた繊維構造体(以下、「PVA不織布」ともいう)を開示している。特許文献3は、脂肪族ポリエステルの繊維からなる不織布(以下、「PEs不織布」ともいう)を開示している。非特許文献1は、ポリ4-メチル-1-ペンテンの繊維からなる不織布を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公表2009-523196号公報
【特許文献2】特開2008-179629号公報
【特許文献3】国際公開第2020/013199号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.-H.Lee, S.Givens, D.B.Chase, J.F.Rabolt, Polymer, Vol.47, 8013-8018(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液体フィルタは、溶液中の固形異物を除去する。CMP(Chemical Mechanical Polishing)スラリー等に用いられる液体フィルタには、中性の水中において高い濾過性能を維持することだけでなく、酸性又は塩基性の溶液中に長時間(例えば、3時間)浸漬されても高い濾過性能を維持することが求められている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示のPVA不織布や特許文献3に開示のPEs不織布を液体フィルタとして用いた場合、液体フィルタの構成する樹脂は、酸性又は塩基性の溶液中において、溶解するおそれがある。その結果、従来の液体フィルタを酸性又は塩基性の溶液中に長時間(例えば、3時間)浸漬すると、濾過性能は、劣化するおそれがある。
【0009】
発明者による検討の結果、非特許文献1に開示のポリ4-メチル-1-ペンテンの繊維からなる不織布を構成する繊維の繊維径はバラついていることがわかった。その結果、濾過性能に改善の余地があることがわかった。
【0010】
本開示の実施形態は、上記に鑑みてなされたものであり、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる不織布、及び不織布の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む複数の繊維からなり、
前記複数の繊維の平均繊維径の標準偏差が、0.25μm以下であり、
前記複数の繊維が、下記の要件(I)を満たす、不織布。
要件(I):示差走査熱量測定で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であること
<2> 前記複数の繊維の平均繊維径の標準偏差が、0.22μm以下である、前記<1>に記載の不織布。
<3> 前記複数の繊維の平均繊維径が、0.45μm以下である、前記<1>又は<2>に記載の不織布。
<4> 前記複数の繊維の全量に対する前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有量が、90質量%以上である、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の不織布。
<5> 前記複数の繊維が、下記の要件(II)を更に満たす、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の不織布。
要件(II):示差走査熱量測定で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)と、示差走査熱量測定で測定した融点(Tm)との差ΔT(TmE-Tm)が、10℃~30℃であること
<6> 前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が、下記の要件(i)を満たす、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の不織布。
要件(i):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)と、炭素数6~20の直鎖状α-オレフィン(但し、4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる少なくとも1種の構成単位(AQ)と、を含むこと
<7> 前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が、下記の要件(ii)を満たす、前記<6>に記載の不織布。
要件(ii):前記構成単位(P)の量(U1)及び前記少なくとも1種の構成単位(AQ)の総量(U2)の合計100モル%に対して、前記構成単位(P)の量(U1)が、84.0モル%~95モル%であり、前記少なくとも1種の構成単位(AQ)の総量(U2)が、16.0モル%~5モル%であること
<8> 前記少なくとも1種の構成単位(AQ)が、少なくとも2種の前記構成単位(AQ)を含む、前記<7>に記載の不織布。
<9> 135℃での前記複数の繊維の極限粘度[η]が、1.7dl/g~5.5dl/gである、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の不織布。
<10> 表面で観察されるポリマー球数が、2.0個/mm以下である、前記<1>~<9>のいずれか1つに記載の不織布。
<11> 電界紡糸法により、電界紡糸用組成物を紡糸することを含み、
前記電界紡糸用組成物が、下記の要件(I)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0以上である溶媒と、を含有する、不織布の製造方法。
要件(I):示差走査熱量測定で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であること
<12> 前記溶媒のヒルデブランド溶解度パラメータが、8.3以上である、前記<11>に記載の不織布の製造方法。
<13> 前記溶媒が、
ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0以上である貧溶媒と、
ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0未満である良溶媒と、
を含み、
前記良溶媒と前記貧溶媒の総量に対する前記貧溶媒の比率が、5体積%~45体積%であり、
前記良溶媒と前記貧溶媒の総量に対する前記良溶媒の比率が、55体積%~95体積%である、前記<11>又は<12>に記載の不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態によれば、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる不織布、及び不織布の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、電界紡糸装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、不織布内に存在するポリマー球の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示において、数値範囲を示す「~」はその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「不織布」とは、製織,編成及び製紙を除く,物理的方法及び/又は化学的方法によって所定のレベルの構造的強さが得られている平面状の繊維集合体を示す。
【0015】
(1)不織布
本開示の不織布(以下、単に「不織布」ともいう)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む複数の繊維(以下、単に「繊維」ともいう)からなる。前記複数の繊維の平均繊維径の標準偏差は、0.25μm以下である。前記複数の繊維は、下記の要件(I)を満たす。
要件(I):示差走査熱量測定(以下、「DSC」ともいう)で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であること
【0016】
本開示の不織布は、上記の構成を有するため、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる。
この効果は、以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
本開示では、不織布を構成する複数の繊維の各々が、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含むことで、耐酸性の溶液中又は塩基性の溶液中において、不織布を構成する複数の繊維は、溶解しにくい。つまり、本開示の不織布は、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中に長時間(例えば、3時間)浸漬されても、濾過性能は、劣化しにくい。
複数の繊維の平均繊維径の標準偏差が0.25μm以下であり、かつ複数の繊維が上記要件(I)を満たすことは、本開示の不織布を構成する複数の繊維が細く(例えば、1.0μm以下)、かつ本開示の不織布を構成する複数の繊維の各々の繊維のムラが少ないことを示す。つまり、本開示の不織布の濾過性能及び通液性のバランスが優れる。
以上より、本開示の不織布は、上記の構成を有するため、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができると推測される。
【0017】
不織布は、シート状物である。不織布の構造は、不織布の用途等に応じて適宜選択され、例えば、単層構造、又は2層以上の複数層構造であってもよい。
【0018】
不織布の厚みは、特に限定されず、用途により適宜選択される。不織布の厚みは、好ましくは0.005mm~10mm、より好ましくは0.01mm~2mmである。厚みが0.005mm以上であると、不織布をフィルタとして用いたときに、粉塵の捕集効率と圧力損失とのバランスが好適に確保され、濾過性能はより向上する傾向にある。厚みが10μm以下であると、フィルタの厚みを薄くできる傾向にある。本開示の不織布によれば、繊維径のばらつきが抑えられていることで捕集効率が向上している。そのため、従来の不織布に比べて厚みを薄くしても、本開示の不織布の濾過性能は、優れる傾向がある。不織布の厚みの測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0019】
不織布の目付は、特に限定されず、用途により適宜選択される。不織布の目付は、好ましくは0.001g/m~30g/m、より好ましくは0.002g/m~20g/mである。目付が0.001g/m以上であると、不織布の強度は向上し、不織布を製造しやすくなる傾向がある。目付が30g/m以下であると、不織布の圧力損失は高くなり過ぎず、不織布はフィルタとして好適に用いることができる傾向がある。不織布の目付の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0020】
不織布の表面で観察されるポリマー球数は、2.0個/mm以下であることが好ましい。これにより、不織布の濾過性能は、向上する。不織布の濾過性能をより向上させる観点から、不織布の表面で観察されるポリマー球数は、より好ましくは1.0個/mm以下、さらに好ましくは0.85個/mm以下、特に好ましくは0.7個/mm以下である。
なお、ポリマー球数の下限値は、特に制限されないが、例えば、0.01個/mm以上であってもよく、0.05個/mm以上であってもよい。
ポリマー球数の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0021】
不織布の濾過性能は、クオリティーファクター(以下、「Q値」ともいう)として表される。以下、塩基性の溶液中での不織布の濾過性能を「Q値(塩基性)」ともいい、酸性の溶液中での不織布の濾過性能を「Q値(酸性)」ともいう。
【0022】
Q値(塩基性)は、圧力損失と粒子の阻止率から、下記の式(a1)により求められる。式(a1)に示すように、低圧力損失かつ高捕集性能であるほど、Q値(塩基性)は高くなり、不織布をフィルタに用いたときの濾過性能が良好であることを示す。
式(a1):Q値(塩基性)(Pa-1)=-[ln(1-[阻止率])/(圧力損失(Pa))]
式(a1)中、「阻止率」は、所定の粒子を含む塩基性試験液中の不織布が、不織布内部を通過しようとする所定の粒子を阻止する割合を示し、実施例に記載の方法と同様の方法で測定される。「圧力損失」は、前記塩基性試験液の流量を所定の流量としたときの不織布の前後の圧力差を示し、実施例に記載の方法と同様の方法で測定される。
【0023】
Q値(酸性)は、圧力損失と粒子の阻止率から、下記の式(a2)により求められる。式(a2)に示すように、低圧力損失かつ高捕集性能であるほど、Q値(酸性)は高くなり、不織布をフィルタに用いたときの濾過性能が良好であることを示す。
式(a2):Q値(酸性)(Pa-1)=-[ln(1-[阻止率])/(圧力損失(Pa))]
式(a2)中、「阻止率」は、所定の粒子を含む酸性試験液中の不織布が、不織布内部を通過しようとする所定の粒子を阻止する割合を示し、実施例に記載の方法と同様の方法で測定される。「圧力損失」は、前記酸性試験液の流量を所定の流量としたときの不織布の前後の圧力差を示し、実施例に記載の方法と同様の方法で測定される。
【0024】
濾過性能を向上させる観点から、Q値(酸性)及びQ値(塩基性)は、いずれも、好ましくは0.0028以上、より好ましくは0.0030以上、さらに好ましくは0.0035以上、特に好ましくは0.0038以上、一層好ましくは0.0040以上である。Q値(酸性)及びQ値(塩基性)は、いずれも、特に制限されず、0.5以下であってもよく、0.4以下であってもよい。これらの観点から、不織布のQ値(酸性)及びQ値(塩基性)は、いずれも、好ましくは0.0028~0.5、より好ましくは0.0030~0.5、さらに好ましくは0.0035~0.4、特に好ましくは0.0038~0.4、一層好ましくは0.0040~0.4である。
【0025】
本開示の不織布は、必要であれば、不織布が各種用途に適合するように、各種の後処理が実施されていてもよい。後処理としては、例えば、機械的強度の向上等を目的とした加熱処理、カレンダー処理などが挙げられる。本開示の不織布は、不織布単体で用いてもよいし、繊維集合体として用いられてもよいし、積層体として用いられてもよい。繊維集合体は、織物、編物、不織布などの、繊維が集積してなる。積層体は、繊維集合体と、強度など各種物性を向上させるための繊維層とを有する。繊維層は、繊維集合体と積層一体化されている。本開示の不織布は、各種用途へ適用できるように、二次加工(例えば、折り曲げ、切り抜き等)が施されていてもよい。
【0026】
(1.1)繊維
本開示の不織布に含まれる繊維は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の詳細については、後述する。
【0027】
繊維の平均繊維径は、不織布の濾過性能を向上させる観点から、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.6μm以下、さらに好ましくは0.45μm以下、特に好ましくは0.4μm以下、一層好ましくは0.28μm以下である。繊維の平均繊維径は、例えば、0.2μm以上であってもよい。不織布の濾過性能を向上させる観点から、繊維の平均繊維径は、好ましくは0.2μm~1μm、より好ましくは0.2μm~0.6μm、さらに好ましくは0.2μm~0.45μm、特に好ましくは0.2μm~0.40μm、一層好ましくは0.2μm~0.28μmである。繊維の平均繊維径が0.45μm以下であると、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる。繊維の平均繊維径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0028】
繊維の平均繊維径の標準偏差は、0.25μm以下である。不織布の濾過性能を向上させる観点から、繊維の平均繊維径の標準偏差は、好ましくは0.23μm以下、より好ましくは0.22μm以下、さらに好ましくは0.20μm以下、特に好ましくは0.18μm以下、一層好ましくは0.16μm以下、より一層好ましくは0.14μm以下である。繊維の平均繊維径の標準偏差は、例えば、0.03μm以上であってもよく、0.05μm以上であってもよい。不織布の濾過性能を向上させる観点から、繊維の平均繊維径の標準偏差は、好ましくは0.03μm~0.25μm、より好ましくは0.03μm~0.23μm、さらに好ましくは0.03μm~0.20μm、特に好ましくは0.05μm~0.18μm、一層好ましくは0.05μm~0.16μm、より一層好ましくは0.05μm~0.14μmである。繊維の平均繊維径の標準偏差が0.22μm以下であると、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる。繊維の平均繊維径の標準偏差の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0029】
繊維の変動係数値(以下、「CV値」ともいう)は、濾過性能を向上させる観点から、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下、特に好ましくは55%以下である。繊維のCV値は、例えば、20%以上であってもよい。CV値は、好ましくは20%~80%であり、より好ましくは20%~70%であり、さらに好ましくは20%~60%であり、特に好ましくは20%~55%である。繊維のCV値の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0030】
繊維のDSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)は、230℃以下である。これにより、後述する通り、繊維の平均繊維径が小さく、かつ繊維の平均繊維径のばらつきも小さい不織布を得ることができる。
「吸熱終了温度」とは、融解が終了した温度を意味する。吸熱終了温度および後述する発熱開始温度は、一般にいう、ベースラインと定常ライン接線との交点であるオンセット、オフセットとは異なる指標である。
吸熱終了温度(TmE)は、好ましくは230℃未満、より好ましくは228℃以下、さらに好ましくは228℃未満である。繊維の吸熱終了温度(TmE)の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0031】
繊維の耐熱性を向上させる観点から、繊維の融点(Tm)は、好ましくは170℃~220℃、より好ましくは175℃~215℃、さらに好ましくは180℃~210℃である。
繊維の融点(Tm)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の立体規則性と、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)に含まれるα-オレフィン構造単位の含有率と、に依存する傾向がある。このため後述するオレフィン重合用触媒を用い、さらにはα-オレフィン構造単位の含有率を制御することにより、融点(Tm)を調整することができる。繊維の融点(Tm)の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0032】
濾過性能を向上させる観点から、DSCで測定した結晶化(発熱)曲線における発熱開始温度(TcS)は、好ましくは205℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは195℃以下である。発熱開始温度(TcS)の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
「発熱開始温度」とは、繊維の結晶化が開始した温度を意味する。
【0033】
濾過性能を向上させる観点から、繊維のDSCで測定した結晶化温度(Tc)は、好ましくは110℃~220℃、より好ましくは120℃~205℃である。
結晶化温度(Tc)の値は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の立体規則性と、炭素数6~20直鎖状α-オレフィン構造単位の含有率とに依存する傾向がある。後述するオレフィン重合用触媒を用い、さらには炭素数6~20の直鎖状α-オレフィン構造単位の含有率を制御することにより調整することができる。
【0034】
ポリマー球数を低減し、不織布の濾過性能を向上させる観点から、135℃でのデカリン中で測定した繊維の極限粘度[η]は、好ましくは0.5dl/g~6.0dl/g、より好ましくは1.7dl/g~5.5dl/g、さらに好ましくは1.8dl/g~5.3dl/g、特に好ましくは2.0dl/g~5.3dl/g、一層好ましくは2.2dl/g~5.3dl/g、より一層好ましくは2.2dl/g~5.2dl/gである。135℃での繊維の極限粘度[η]が1.7dl/g~5.5dl/gであると、繊維径の細い繊維を紡糸できるため、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持する不織布とすることができる。極限粘度[η]の値は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を製造する際の重合工程における水素の添加量により調整することが可能である。繊維中の極限粘度[η]の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0035】
繊維は、下記の要件(II)を更に満たすことが好ましい。繊維が、下記の要件(II)を更に満たすことは、繊維を構成する樹脂の結晶サイズとラメラ厚がそろっていて、繊維を構成する樹脂の分子量分布が狭いことを示している。これは、繊維を構成する樹脂は、平均に比べて著しく大きな分子を含んでおらず、後述する繊維の製造方法において、電解紡糸組成物の溶媒内で4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が再凝集しないことを示している。そのため、ヒルデブランド溶解度パラメータ(以下、「SP値」ともいう)が比較的高い溶媒(例えば、8.0以上)に可溶であり、電界と繊維を含む溶液との相互作用を大きくすることができる。その結果、電界紡糸において、平均繊維径の標準偏差が小さい繊維を製造することができる。
要件(II):DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)とDSCで測定した融点(Tm)との差ΔT(TmE-Tm)が、10℃~30℃であること
ΔT(TmE-Tm)は、濾過性能を向上させる観点から、10℃~80℃であってもよく、10℃~70℃であってもよく、10℃~50℃であってもよく、10℃~30℃であってもよい。ΔT(TmE-Tm)は、より好ましくは12℃~25℃、さらに好ましくは13℃~22℃である。
【0036】
複数の繊維の全量に対する4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有率は、濾過性能に優れる観点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。複数の繊維の全量に対する4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有率は、特に限定されないが、100質量%以下であってもよい。複数の繊維の全量に対する4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有率は、好ましくは90質量%~100質量%、より好ましくは95質量%~100質量%、さらに好ましくは99質量%~100質量%である。複数の繊維の全量に対する4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有率が90質量%以上であると、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持する不織布とすることができる。
【0037】
本開示の不織布に含まれる繊維は、必要に応じて、通常用いられる添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス等の種々公知の添加剤が挙げられる。
【0038】
(1.2)4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)
DSCで測定した融解(吸熱)曲線における、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の吸熱終了温度(TmE)は、230℃以下であることが好ましい。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の吸熱終了温度(TmE)の好ましい範囲は、繊維の吸熱終了温度(TmE)の好ましい範囲として例示した範囲と同様である。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の吸熱終了温度(TmE)の測定方法については、実施例において詳述する。
【0039】
DSCで測定した4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の融点(Tm)は、繊維の融点(Tm)の好ましい範囲として例示した範囲と同様である。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の融点(Tm)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の立体規則性および4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)に含まれるα-オレフィン構造単位の含有率に依存する傾向がある。このため後述するオレフィン重合用触媒を用い、さらにはα-オレフィン構造単位の含有率を制御することにより、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の融点(Tm)を調整することができる。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の融点(Tm)の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0040】
DSCで測定した結晶化(発熱)曲線における、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の発熱開始温度(TcS)は、繊維の発熱開始温度(TcS)の好ましい範囲として例示した範囲と同様である。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の発熱開始温度(TcS)の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0041】
DSCで測定した4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の結晶化温度(Tc)は、繊維の結晶化温度(Tc)の好ましい範囲として例示した範囲と同様である。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の結晶化温度(Tc)の値は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の立体規則性ならびに炭素数6~20直鎖状α-オレフィン構造単位の含有率に依存する傾向があり、後述するオレフィン重合用触媒を用い、さらには炭素数6~20の直鎖状α-オレフィン構造単位の含有率を制御することにより調整することができる。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の結晶化温度(Tc)の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0042】
135℃デカリン中で測定した4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の極限粘度[η]は、繊維の極限粘度[η]の好ましい範囲として例示した範囲と同様である。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の極限粘度[η]の値は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を製造する際の重合工程における水素の添加量により調整することが可能である。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の極限粘度[η]の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0043】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、変性されていても、変性されていなくてもよい。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、変性されていなくても、溶媒に溶解させることができ、前記の目的を達成することができる。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、すべてが変性されていない重合体であってもよく、一部が変性されていない重合体であってもよい。
【0044】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、下記の要件(i)を満たすことが好ましい。
要件(i):4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)と、炭素数6~20の直鎖状α-オレフィン(但し、4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる少なくとも1種の構成単位(AQ)と、を含むこと
【0045】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が上記の要件(i)を満たすことで、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持する不織布とすることができる。
【0046】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、上記の要件(i)を満たすことに加えて、下記の要件(ii)を満たすことが好ましい。
要件(ii):前記構成単位(P)の量(U1)及び前記少なくとも1種の構成単位(AQ)の総量(U2)の合計100モル%に対して、前記構成単位(P)の量(U1)が、84.0モル%~95モル%であり、前記少なくとも1種の構成単位(AQ)の総量(U2)が、16.0モル%~5モル%であること
【0047】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が、上記の要件(i)を満たすことに加えて、上記の要件(ii)を満たすことで、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持する不織布とすることができる。
【0048】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が上記の要件(i)及び要件(ii)を満たす場合、少なくとも1種の構成単位(AQ)は、少なくとも2種の前記構成単位(AQ)を含むことが好ましい。これにより、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持する不織布とすることができる。
構成単位(AQ)の種類の数は、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持する不織布とする観点から、好ましくは2種~5種、より好ましくは2種~4種、さらに好ましくは2種~3種、特に好ましくは2種である。
【0049】
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(P)の量(U1)は、前記構成単位(P)の量(U1)及び前記少なくとも1つの構成単位(AQ)の総量(U2)の合計100モル%に対して、好ましくは84.0モル%~100モル%、より好ましくは90.0モル%~99.0モル%、さらに好ましくは94.0モル%~98.5モル%、特に好ましくは94.5モル%~98.0モル%である。前記構成単位(P)の量(U1)が上記範囲内であると、不織布の耐熱性は、より優れる。
【0050】
炭素数6~20の直鎖状α-オレフィンから導かれる少なくとも1つの構成単位(AQ)の総量(U2)は、前記構成単位(P)の量(U1)及び前記少なくとも1つの構成単位(AQ)の総量(U2)の合計100モル%に対して、好ましくは16.0モル%~0モル%、より好ましくは10.0モル%~1.0モル%、さらに好ましくは6.0モル%~1.5モル%、特に好ましくは5.5モル%~2.0モル%である。前記少なくとも1つの構成単位(AQ)の総量(U2)が上記範囲内であると、不織布の耐熱性は、より優れる。
【0051】
炭素数6~20の直鎖状α-オレフィンは、フィルタ性能を向上させる観点から、炭素数6~18の直鎖状α-オレフィンであることが好ましい。具体的には、炭素数6~20の直鎖状α-オレフィンは、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン等が好ましく、中でも、1-デセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが好ましい。
炭素数6~20の直鎖状α-オレフィンは、1種のみを用いてもよいが、2種以上を用いることが好ましい。
【0052】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の重合性化合物由来の構造単位を含んでいてもよい。このような他の重合性化合物としては、例えば、環状構造を有するビニル化合物(例えば、スチレン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル等)、不飽和有機酸(例えば、無水マレイン酸等)又はその誘導体、共役ジエン類(例えば、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等)、非共役ポリエン類等が挙げられる。非共役ポリエン類としては、例えば、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペンル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン等が挙げられる。
【0053】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、このような他の重合性化合物から導かれる単位を、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)に含まれる全ての重合性化合物に由来する構造単位の合計100モル%に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下の量で含有することができる。
【0054】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)中の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位および炭素数6~20の直鎖状α-オレフィンから選ばれる少なくとも1種から導かれる構成単位の含有量の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0055】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の密度は、好ましくは820kg/m~850kg/m、より好ましくは825kg/m~850kg/m、さらに好ましくは825kg/m~845kg/m、特に好ましくは825kg/m~840kg/mである。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の密度の値は、4-メチル-1-ペンテンと共に重合する他のオレフィンの種類や含有率を選択することにより調整することが可能である。密度の測定方法は、JISK6268に準拠して測定することができる。密度が上記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、濾過性能に優れる。
【0056】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~3.5、より好ましくは1.3~3.0、さらに好ましくは1.5~2.5である。
前記分子量分布(Mw/Mn)は、後述するオレフィン重合用触媒、特にメタロセン触媒の種類によって調整することが可能である。分子量分布(Mw/Mn)は、Waters社製ゲル浸透クロマトグラフAllianceGPC-2000型を用いて測定することができる。
分子量分布(Mw/Mn)が前記範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、透明性、機械特性の観点から好ましい。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の分子量分布が前記範囲内にあると、後述する溶媒との親和性が高まり、組成物の安定性が向上する。
【0057】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、オレフィン重合用触媒の存在下、4-メチル-1-ペンテンと上述した特定のオレフィン、さらに必要に応じて前記その他の重合性化合物と公知の方法により重合することにより得ることができる。
前述のオレフィン重合用触媒は、メタロセン触媒であることが好ましい。メタロセン触媒としては、国際公開第01/53369号パンフレット、国際公開第01/27124号パンフレット、特開平3-193796号公報、特開平02-41303号公報中あるいは国際公開第06/025540号パンフレット中に記載のメタロセン触媒が挙げられる。
【0058】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を構成するモノマーは、バイオマス由来であってもよい。
【0059】
(1.3)不織布の用途
本開示の不織布は、不織布が通常使用されている用途に幅広く利用することができる。
本開示の不織布は、中でも、液体フィルタ等のフィルタとして好ましく用いられうる。本開示の不織布は、酸性又は塩基性条件の水中での濾過性能に優れる高性能フィルタに好適に用いられる。
【0060】
本開示の不織布は、液体、気体の濾過、および分子フィルタに潜在的な用途を有する。本開示の不織布のさらなる用途としては、例えば、複合材料の補強、保護衣、保護マスク、医学的人工装具、組織工学鋳型、創傷被覆材、薬物送達システムおよび医薬組成物などの生体医学用途、細胞培養の足場材、タンパク吸着材、化粧スキンケアおよび洗浄等が挙げられる。
【0061】
本開示の不織布の用途としては、例えば、ガスフィルタ(エアフィルタ)、液体フィルタ等のフィルタ、ワイパー、防護服、医療用ガウン(特に、使い捨ての防護服、使い捨ての医療用ガウン)等の医療用資材などの液体の遮蔽が要求される物品(液体遮蔽用物品)などが挙げられる。
【0062】
本開示の不織布は、繊維径のばらつきが少ないため、繊維間に比較的大きい孔(欠損部位)が形成されにくい。これにより、本開示の不織布は、濾過性能に優れる高性能フィルタに好適に用いられる。
【0063】
液体用フィルタは、不織布の単層からなってもよく、又は不織布の2層以上の積層体からなってもよい。液体フィルタは、不織布と樹脂フィルムとの積層体からなってもよい。液体用フィルタとして、2層以上の不織布の積層体を用いる場合は、2層以上の不織布を単に重ねてもよい。
【0064】
液体用フィルタは、目的及び適用する液体に応じて、本開示の不織布に、他の不織布を組み合わせてもよい。液体用フィルタの強度を強める観点から、他の不織布として、スパンボンド不織布を用いてもよい。液体用フィルタは、本開示の不織布と、スパンボンド不織布と、網状物と、の積層体であってもよい。
【0065】
液体フィルタは、例えば、カレンダ-処理を行なってもよい。カレンダー処理には、孔径や空隙率を小さく制御するためにフラットロ-ルないしクラウンロ-ル間にクリアランスを設けた一対のロ-ルが用いられてよい。カレンダー処理には、クリアランス無しで一定圧力をかけられる一対のロ-ルが用いられてもよい。ロ-ル間のクリアランスは、不織布の厚みに応じて、適宜変更してもよく、不織布の繊維間にある空隙がなくならようにすることが好ましい。
【0066】
(2)不織布の製造方法
本開示の不織布の製造方法は、電界紡糸法により、電界紡糸用組成物を紡糸すること(以下、「紡糸工程」ともいう)を含む。前記電界紡糸用組成物は、下記の要件(I)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0以上である溶媒と、を含有する。
要件(I):示差走査熱量測定で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)が、230℃以下であること
【0067】
本開示の不織布の製造方法は、上記の構成を有するので、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる不織布が得られる。
【0068】
[2.1]紡糸工程
紡糸工程では、電界紡糸法により、電界紡糸用組成物を紡糸する。
【0069】
[2.1.1]電界紡糸法
「電界紡糸(エレクトロスピニング)法」とは、高電圧が印加されている状態で電界紡糸用組成物を電界中へ吐出することによって、吐出された電界紡糸用組成物を電気的に帯電させて細長く引き伸ばし、繊維径が細い繊維を形成する方法である。具体的には、電界紡糸用組成物に高電圧を印加して帯電させることで繊維を細長く引き伸ばして、繊維径が細い繊維を堆積させることで不織布が得られる。
【0070】
電界紡糸用組成物を帯電させる方法としては、高圧電源装置と接続した電極を電界紡糸用組成物そのもの、又は、容器に電気的に接続する方法等が挙げられる。電極が印加する電圧は、好ましくは1kV~100kV、より好ましくは5kV~50kVである。電圧の種類は、直流及び交流のいずれであってもよい。
【0071】
電界紡糸の際の温度は、特に制限されず、後述するような溶媒を含有する電界紡糸用組成物を用いて不織布を製造する場合、電界紡糸用組成物が含有する溶媒の沸点、及び、揮発性に応じて、適宜調整すればよい。電界紡糸の際の温度は、好ましくは10℃~60℃である。
【0072】
発明者は、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる不織布を効率良く製造する方法について鋭意検討した結果、これまで知られている従来の熱可塑性樹脂(PP(ポリプロピレン)やポリ4-メチル-1-ペンテン等)は溶媒への溶解性が低いことと、熱可塑性樹脂を溶解する溶媒のSP値が低い(SP値が8.0未満)ことと、が明らかとなった。
【0073】
熱可塑性樹脂の溶媒への溶解性が低い場合には、電界紡糸用組成物中に不溶成分が析出する。そのため、紡糸の際に糸切れが発生しやすいおそれがある。更に、帯電した電界紡糸用組成物を細長く引き伸ばす際に、不溶成分の存在に起因して電界紡糸用組成物に不均一な延伸がかかるおそれがある。これにより、得られる不織布に含まれる複数の繊維の繊維径の標準偏差が大きくなるおそれがある。
【0074】
一般に、溶媒のSP値が高いほど、溶媒の極性は高い傾向がある。熱可塑性樹脂を溶解する溶媒のSP値が8.0未満であることは、溶媒の極性が比較的低いことを示す。熱可塑性樹脂を溶解する溶媒のSP値が8.0未満であると、電界紡糸用組成物は、溶媒のSP値が8.0以上である場合よりも誘電分極し辛い。つまり、電界紡糸の際に、電界と、電界紡糸用組成物との電気的な相互作用が小さい、そのため、電界紡糸用組成物は、電界によって引き伸ばされにくい。その結果、得られる不織布に含まれる複数の繊維の繊維径が太くなる。
【0075】
発明者は、DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が230℃以下である4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を用いることで、繊維径が小さく、かつバラツキも小さい不織布を得ることに成功した。これは、DSCで測定した融解(吸熱)曲線における吸熱終了温度(TmE)が230℃以下とすることで、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)中の高融点成分が低減し、結果として、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を帯電可能な溶媒(SP値:8.0以上)で溶解できたためと考えている。
【0076】
なお、本開示により、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶媒に溶解させた直後に紡糸しても、溶解させてから一定時間(例えば24時間)経過後に紡糸しても同様の性能を有する不織布を得ることができる。これまで知られている従来の熱可塑性樹脂(PPやポリ4-メチル-1-ペンテン等)は、経時によって析出する場合がある。そのため、一定時間後の紡糸性は極端に低かった。
【0077】
電界紡糸法による紡糸は、図1に示す電界紡糸装置を用いて、実施されてもよい。
【0078】
電界紡糸装置100は、吐出装置101と、吐出装置101と対向するように配置されたターゲット電極102と、電圧印加装置103と、を備える。吐出装置101は、電界紡糸用組成物を吐出する。電圧印加装置103は、吐出装置101とターゲット電極102との間に、電圧を印加する。
【0079】
吐出装置101とターゲット電極102との間に電圧印加装置103を用いて電圧を印加した状態で、吐出装置101から電界紡糸用組成物を吐出すると、吐出装置101とターゲット電極102との間を電界紡糸用組成物が移動する間に、電界紡糸用組成物は電界によって引き延ばされる。これにより、平均繊維径が小さい繊維104が形成される。繊維104がターゲット電極102上に堆積し、結果として不織布105が得られる。
【0080】
[2.1.2]電界紡糸用組成物
電界紡糸用組成物は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、SP値が8.0以上である溶媒と、を含有する。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、SP値が8.0以上である溶媒に溶解している。電界紡糸用組成物は、液状物である。
【0081】
電界紡糸用組成物における4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の含有量は、好ましくは0.2質量%~40質量%、より好ましくは0.5質量%~30質量%、さらに好ましくは1質量%~25質量%、特に好ましくは5質量%~20質量%である。
電界紡糸用組成物における溶媒の含有量は、好ましくは60質量%~99.8質量%、より好ましくは70質量%~99.5質量%、さらに好ましくは75質量%~99質量%、特に好ましくは80質量%~95質量%である。
電界紡糸用組成物における4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)および溶媒の含有量が前記範囲内であることにより、電界紡糸用組成物は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)又は4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む樹脂組成物の溶媒への溶けやすさ、及び紡糸後の溶媒の除去のしやすさとのバランスが良好となる。
【0082】
[2.1.2.1]4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、本開示の不織布に含まれる繊維に含まれる4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0083】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)における、示差走査熱量測定で測定した融解曲線における吸熱終了温度(TmE)と、示差走査熱量測定で測定した融点(Tm)との差ΔT(TmE-Tm)が特定の範囲であること(例えば、10℃~30℃)が好ましい。つまり、結晶化し始める温度および結晶が完全に溶ける温度を極力低温下させるように、炭素数6~20の直鎖状α-オレフィン含量を調整することで、結晶化を抑制できる。その結果、電界紡糸用組成物の保存安定性は担保される。これにより、溶液を一定時間保持した後に後述する電界紡糸法によって紡糸して、平均繊維径が小さく、かつ平均繊維径のばらつきも小さい不織布を製造することができるため好ましい。
【0084】
[2.1.2.2]溶媒
溶媒の溶解度パラメータであるSP値は、8.0以上である。SP値は、好ましくは8.3以上、より好ましくは8.5以上である。SP値は、特に制限されず、20以下であってもよく、15以下であってもよい。SP値は、好ましくは8.0~20、より好ましくは8.3~20、さらに好ましくは8.5~15である。溶媒のSP値は、8.3以上であると、繊維径が小さく、かつばらつきも小さい不織布を得ることができる。
【0085】
SP値は、ハンセンのSP値[δD,δP,δH]を用いて、次のように表すことができる。
SP値=「(δD2,δP2,δH2)の平方根」
【0086】
SP値は、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された、分散項δDと、極性項δPと、水素結合項δHとの3成分からなる3次元空間で表される。分散項δDは、分散力のよる効果を示す。極性項δPは、双極子間力による効果を示す。水素結合項δHは、水素結合力の効果を示す。
なお、SP値の定義と計算は、下記の非特許文献2に記載されている。コンピュータソフトウエア Hansen Solubility Parametersin Practice(HSPiP)を用いることにより、簡便にSP値を推算することができる。なお、本発明では、ハンセンのSP値[δD,δP,δH]の実際の計算に当たっては、ハンセンらによって作成されたソフトウエア、HSPiP ver.4.1を用いる。
非特許文献2:Charles M. Hansen著、Hansen Solubility Parameters:A Users Handbook(CRCプレス,2007年)
【0087】
溶媒は、良溶媒及び貧溶媒を含む混合溶媒であってもよい。「良溶媒」とは、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶かす能力の大きい溶媒を示す。詳しくは、「良溶媒」とは、SP値が8.0未満である溶媒を示す。「貧溶媒」とは、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を溶かす能力の小さい溶媒を示す。詳しくは、SP値が8.0以上である溶媒を示す。なお、4-メチル-1-ペンテンの極性は低い。そのため、4-メチル-1-ペンテンは、SP値が8.0未満である溶媒に溶けやすい。
【0088】
前記溶媒が、ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0以上である貧溶媒と、ヒルデブランド溶解度パラメータが8.0未満である良溶媒と、を含み、前記良溶媒と前記貧溶媒の総量に対する前記貧溶媒の比率が、5体積%~45体積%であり、前記良溶媒と前記貧溶媒の総量に対する前記良溶媒の比率が、55体積%~95体積%であることが好ましい。これにより、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、より高い濾過性能を維持することができる不織布が得られる。
【0089】
良溶媒のSP値は、8.0未満であり、好ましくは7.9以下、さらに好ましくは7.9未満である。良溶媒のSP値は、特に制限されないが、例えば、6.0以上であってもよく、6.5以上であってもよい。良溶媒のSP値は、好ましくは6.0以上8.0未満、より好ましくは6.0~7.9、さらに好ましくは6.5以上7.9未満である。
【0090】
具体的に、良溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素(例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン、キシレン等)、ジエチルエーテル(DEE)等が挙げられる。これらの中でも、良溶媒は、トルエン、シクロヘキサン、又はメチルシクロヘキサンであることが好ましい。良溶媒は、単独で又は混合して用いることができる。
【0091】
貧溶媒のSP値は、特に制限されず、25以下であってもよく、20以下であってもよく、15以下であってもよい。貧溶媒のSP値は、好ましくは8.0以上、より好ましくは8.5以上、さらに好ましくは9.0以上、特に好ましくは10以上である。貧溶媒のSP値は、好ましくは8.0~25、より好ましくは8.5~20、さらに好ましくは9.0~20、特に好ましくは10~15である。
【0092】
具体的に、貧溶媒としては、例えば、水、メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、フェノール、スルホラン(SL)、炭酸プロピレン(PC)、エタノール、1,4-ブチロラクトン(BL)、ベンジルアルコール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、炭酸2,3-ブチレン(BC)、1-プロパノール、アセトニトリル(AN)、2-プロパノール、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N‐ジメチルアセトアミド(DMAc)、ピリジン、1,4-ジオキサン、酢酸、ギ酸メチル(MF)、1,2-ジクロロベンゼン(DCB)、アセトン、シクロヘキサノン、炭酸ジメチル(DMC)、ジクロロメタン、1,1,2-トリクロロエタン、クロロホルム、メチルエチルケトン(MEK)、ベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、プロピオン酸メチル(MP)、炭酸ジエチル(DEC)、p-キシレン、デカヒドロナフタレン(Decalin)、四塩化炭素、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,1,1-トリクロロエタン等が挙げられる。貧溶媒は、単独で又は混合して用いることができる。
【0093】
良溶媒及び貧溶媒の各々のSP値は、下記の非特許文献3及び非特許文献4等により確認してもよい。
非特許文献3:Gamsjager, H., Lorimer, J. W., Scharlin, P., & Shaw, D. G. (2008). Glossary of terms related to solubility (IUPAC Recommendations 2008).Pure and applied chemistry, 80(2), 233-276.
非特許文献4:小林敏勝ら. 溶解性パラメーター適用事例集 メカニズムと溶解性の評価・計算例等を踏まえて, 情報機構, 2007
【0094】
良溶媒と貧溶媒の総量に対する貧溶媒の比率は、好ましくは5体積%~45体積%、より好ましくは10体積%~40体積%、さらに好ましくは15体積%~35体積%である。
良溶媒と貧溶媒の総量に対する良溶媒の比率は、好ましくは55体積%~95体積%、より好ましくは60体積%~90体積%、さらに好ましくは65体積%~85体積%である。
【0095】
混合溶媒のSP値は、溶媒のSP値として例示した範囲と同様の範囲と同様である。
溶媒A及び溶媒Bからなる混合溶媒のSP値(以下、「(SPmix)」ともいう)は、下記式により算出される。下記式は、上記の非特許文献3に記載されている。
【0096】
【数1】
【0097】
上記式中、「SPa」は、溶媒AのSP値[(cal/cm0.5]を示す。「SPb」は、溶媒BのSP値[(cal/cm0.5]を示す。「MVa」は、溶媒Aのモル体積[cm/mol]を示す。「MVb」は、溶媒Bのモル体積[cm/mol]を示す。「Fa」は、溶媒Aの体積混合分率[-]を示す。「Fb」は、溶媒Bの体積混合分率[-]を示す。「Fa」と「Fb」とは、「Fa+Fb=1」との関係を満たす。
【0098】
電界紡糸用組成物は、本開示の目的を損なわない範囲で、さらに必要に応じて、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、レベリング剤、強化剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、充填剤等が挙げられる。
【0099】
酸化防止剤は、公知の酸化防止剤であってもよい。酸化防止剤としては、具体的には、ヒンダードフェノール化合物、イオウ系酸化防止剤、ラクトーン系酸化防止剤、有機ホスファイト化合物、有機ホスフォナイト化合物等が挙げられる。酸化防止剤は、単独で又は混合して用いることができる。
【0100】
滑剤としては、例えば、飽和脂肪酸(例えば、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸等)のナトリウム、カルシウム、マグネシウム塩等が挙げられる。滑剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。滑剤の配合量は、電界紡糸用組成物100質量部に対して、通常0.1質量部~3質量部、好ましくは0.1質量部~2質量部である。
【0101】
スリップ剤としては、例えば、飽和脂肪酸(例えば、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヘベニン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、エルカ酸等)のアミド、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のビスアマイド等が挙げられる。なかでも、スリップ剤は、エルカ酸アミドおよび/又はエチレンビスステアロアマイドであることが好ましい。スリップ剤の含有量は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~5質量部である。
【0102】
アンチブロッキング剤としては、微粉末シリカ、微粉末酸化アルミニウム、微粉末クレー、粉末状、もしくは液状のシリコーン樹脂、テトラフロロエチレン樹脂、微粉末架橋樹脂、例えば架橋されたアクリル、メタクリル樹脂粉末等が挙げられる。なかでも、アンチブロッキング剤は、微粉末シリカおよび架橋されたアクリル、メタクリル樹脂粉末が好ましい。
【0103】
強化剤としては、金属(例えば、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等)の酸化物、多官能アルコキシ化合物あるいはそのオリゴマー、粘土鉱物等は挙げられる。強化剤の含有量は、電界紡糸用組成物中の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)100質量部に対して、5質量部~50質量部である。
【0104】
電界紡糸用組成物の製造方法は、特に限定されず、通常用いられる方法で製造することができる。例えば、溶媒に4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を添加し、溶媒の沸点以下の温度で、所定の時間攪拌することで製造することができる。
前述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、溶媒に溶解したときの保存安定性、及び溶解性に優れる。4-メチル-1-ペンテン重合体一般に特有の電気絶縁性、耐薬品性などの特性を備える。このため、重合体(A)を含む電界紡糸用組成物は様々な用途に適用し得る。
【実施例0105】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0106】
[1]各種物性の測定方法
各種物性の測定方法は、下記の通りである。
【0107】
[1.1]4-メチル-1-ペンテン重合体(A)中の構成単位の量
4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(以下、「4-メチル-1-ペンテン含量」ともいう)と、4-メチル-1-ペンテン以外のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(以下、「α-オレフィン含量」)とは、13C-NMRスペクトルより算出した。
詳しくは、不織布を構成する繊維を試料とした。試料を、混合溶媒に溶解させて、測定用溶液を得た。混合溶媒は、o-ジクロロベンゼンと、重ベンゼンと、からなっていた。重ベンゼンの含有量に対するo-ジクロロベンゼンの含有量の比(o-ジクロロベンゼン/重ベンゼン)は、(80体積%/20体積%)であった。測定用溶液中の試料濃度は、55mg/0.6mLであった。
下記の測定条件で、混合用溶液を測定した。得られた13C-NMRスペクトルにより、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィンの組成を定量化した。
【0108】
[1.1.1]測定条件
測定装置 :日本電子株式会社製のECP500型核磁気共鳴装置
測定温度 :120℃
観測核 :13C(125MHz)
シーケンス :シングルパルスプロトンデカップリング
パルス幅 :4.7μ秒(45°パルス)
繰り返し時間:5.5秒
積算回数 :1万回以上
ケミカルシフトの基準値:27.50ppm
【0109】
[1.2]極限粘度[η]
極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。詳しくは、重合体の極限粘度[η]の測定には、重合体の重合パウダー、ペレット又は樹脂塊を試料とした。不織布の極限粘度[η]の測定には、不織布を構成する繊維を試料とした。約20mgの試料をデカリン15mLに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返した。下記式(M1)に示すように、濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を、「極限粘度[η]」とした。
式(M1):[η]=lim(ηsp/C)(C→0)
【0110】
[1.3]Tm、Tc、TmE、及びTcS
セイコーインスツル株式会社製のDSC測定装置(DSC220C)を用い、ASTMD3418に準拠して発熱・吸熱曲線を求め、以下のように融点(Tm)と結晶化温度(Tc)を求めた。
詳しくは、重合体の物性の測定には、重合体の重合パウダー、ペレット又は樹脂塊を試料とした。繊維の物性の測定には、不織布を構成する繊維を試料とした。約5mgの試料を測定用アルミパンにつめ、10℃/分の加熱速度で20℃から280℃に昇温し、280℃で5分間保持した。その後、10℃/分の冷却速度で20℃まで降温し、20℃で5分間保持した。その後、再度10℃/分の加熱速度で20℃から280℃に昇温した。1回目の降温時に発現した結晶化ピークを、「結晶化温度(Tc)」とした。ピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを結晶化温度(Tc)とした。2回目の昇温時に発現した融解ピークを、「融点(Tm)」とした。ピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを融点(Tm)とした。
上記融解(吸熱)曲線の、吸熱が終了した時の温度を「吸熱終了温度(TmE)」とした。上記結晶化(発熱)曲線の、発熱が開始された時の温度を「発熱開始温度(TcS)」とした。
上記開始および終了点は、吸熱又は発熱の、開始時又は終了時に熱量が一定になるベースラインに対し、ベースラインから曲線が乖離して熱量に差が出始めたことが確認できる点である。
【0111】
[1.4]平均繊維径、平均繊維径の標準偏差、CV値
電子顕微鏡(日立製作所製S-3500N)を用いて、倍率1000倍の不織布の写真を撮影した。得られた写真から繊維の直径を測定した。具体的には、得られた写真から繊維をランダムに選定し、繊維の本数の合計が100本を超えるまで撮像と直径の測定を繰り返した。得られた繊維の直径の算術平均値を「平均繊維径(Da)」とした。この測定結果を用いて算出した標準偏差(Dp)を「平均繊維径の標準偏差」とした。下記式(M2)に示すように、標準偏差(Dp)を平均繊維径(Da)で除して、得られた算出値を、「繊維径の変動係数(CV値)」とした。
式(M2):CV値=[標準偏差(Dp)/平均繊維径(Da)]×100
【0112】
[1.5]目付
不織布から3個の試料(サイズ:縦方向100mm×横方向100mm)を採取して、各試料の質量を測定した。得られた値の平均値を単位面積当たりに換算し、小数点以下第一位を四捨五入して得られた算出値を、「目付量(g/m)」とした。
【0113】
[1.6]厚み
目付を測定した試料の中央及び四隅の5点の厚みを、厚み計(PEACOCK社製、品番「R1-250」、測定端子25mmφ)を用いて、荷重7g/mで測定した。目付を測定した試料の10個の試料につき、この方法で厚みを測定し、その平均値を「厚み(mm)」とした。
【0114】
[1.7]ポリマー球数
作製した不織布をSEMにて撮影した。それぞれのSEM撮影倍率での測定視野は、10000倍では12.7μm×9.3μm、6000倍では21.1μm×15.9μm、4000倍では31.7μm×23.9μmであった。上記の条件にてランダムにSEM画像を10枚撮影し、不織布の表面に観察されるポリマー球を1mmあたり測定した。「ポリマー球」とは、図2に示すように、繊維径よりも大きなサイズの直径を有する球状物を示す。ポリマー球は、繊維を構成する樹脂を主に含む。図2中の矢印が指す球状物がポリマー球である。ポリマー球数が少ない不織布は、より均一で且つ高比表面積である不織布となる傾向がある。
【0115】
[1.8]Q値
濾過性能の指標となるQ値として、下記のQ値(塩基性)及びQ値(酸性)を測定した。
【0116】
[1.9.1]Q値(塩基性)
製造した不織布を水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、JIS K 8576特級)の25%水溶液中に3時間静置した後フィルターとして用いた。具体的には、前記水酸化ナトリウムの水溶液に球状粒子径0.50μmのポリスチレンラテックス粒子が0.01質量%の濃度で分散した試験液を用い、ろ過装置(ADVANTEC製TSU-90B)で0.3MPaの圧力の条件下で不織布を通過した濾液中の濃度:C1と原液の濃度:C0を測定し、次式で阻止率を求めた。
試験液及び濾液の濃度は、分光光度計(島津製UV3100)を使用して波長500nmの吸光度を測定し、予め測定した検量線から求めた。
阻止率=〔(C0-C1)/C0〕×100(%)
【0117】
通液時流量を25mL/minとしたときのろ材の前後の圧力差を「圧力損失」とした。前記阻止率と圧力損失を用いて、以下式(a)によりQ値(塩基性)を算出した。Q値(塩基性)の許容可能な範囲は、2.8×10-3以上である。
式(a1):Q値(塩基性)(Pa-1)=-[ln(1-[阻止率])/(圧力損失(Pa))]
【0118】
[1.9.2]Q値(酸性)
上記水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、JIS K 8576特級)を塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、JIS K 8180特級)に変更した以外は、Q値(塩基性)と同等の条件で、阻止率と圧力損失を測定し、これを用いて、Q値(酸性)を測定した。Q値(酸性)の許容可能な範囲は、2.8×10-3以上である。
式(a2):Q値(酸性)(Pa-1)=-[ln(1-[阻止率])/(圧力損失(Pa))]
【0119】
[2]準備
4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)~(A-6)、及び4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の樹脂(B-1)~(B-3)を、下記のようにして、準備した。
【0120】
[2.1]4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)
容量1.5Lの攪拌翼付SUS製重合器内を窒素で充分置換した。重合器に、23℃で、4-メチル-1-ペンテン500mLと、ヘプタン230mLと、を装入した。このオートクレーブに、「リニアレン168」(出光興産株式会社製)20mLと、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mLトルエン溶液0.3mLと、を続けて装入し、攪拌を開始した。次に水素を140mL挿入し、オートクレーブを内温60℃まで加熱した。予め調製しておいたトルエン溶液2mLを窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。トルエン溶液は、Al換算で0.033mmolのメチルアルミノキサンと、0.00011mmolの(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドと、を含んでいた。重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始13分後、オートクレーブにメタノール5mLを窒素で圧入して重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。アセトンに反応溶液を攪拌しながら注ぎ重合体を析出させた。得られた溶媒を含む重合体を130℃、減圧下で10時間乾燥した。これにより、4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)を得た。得られた4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)の収量は、68.4gであった。4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)中の4-メチル-1-ペンテン含量は97.6mol%、α-オレフィン(1-ヘキサデセン、1-オクタデセン)含量は2.4mol%であった。
【0121】
[2.2]4-メチル-1-ペンテン重合体(A-2)
[2.2.1]予備重合触媒成分のデカンスラリー
以下の「合成例1」~「合成例3」のようにして、予備重合触媒成分のデカンスラリーを、準備した。
【0122】
[2.2.1.1]合成例1(遷移金属化合物)
(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライド(以下、「合成例1の遷移金属化合物」ともいう)を、公知の方法(すなわち、国際公開第2014/123212号の予備実験5に記載の方法)に従って合成した。
【0123】
[2.2.1.2]合成例2(オレフィン重合触媒)
固体状ポリメチルアルミノキサン(以下、「固体状MAO」ともいう)を、公知の方法(すなわち、国際公開第2014/123212号に記載の方法)に従って合成した。固体状MAOは、粒子状であった。固体状MAOのD50は、28μmであった。固体状MAOのアルミニウム原子含有量は、43質量%であった。固体状MAOの「D50」は、レーザー光回折散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50体積%に相当する粒径を示す。
30℃下、充分に窒素置換した200mLの攪拌機を付けた三つ口フラスコ中に、窒素気流下で、30mLの精製デカンと、アルミニウム原子換算で14.65mmolの固体状MAOと、を装入し、懸濁液を作製した。
合成例1に記載の遷移金属化合物をトルエンに加えて、トルエン溶液を得た。トルエン溶液中の遷移金属化合物の濃度は、4.58mmol/Lであった。合成例1に記載の遷移金属化合物の添加量が50.0mg(0.0586mmol)となるように、トルエン溶液を懸濁液に撹拌しながら加えた。懸濁液にトルエン溶液を添加した時点から1時間後に攪拌を止め、混合物を得た。得られた混合物をデカンテーション法によりデカン100mLで洗浄した後、デカンを加え、50mLのスラリー液を得た。Zr担持率は、98%であった。「Zr担持率」とは、添加した遷移金属化合物中のZr原子のうち、固体触媒成分に担持されたZr原子の割合(質量基準)を指す。
【0124】
[2.2.1.3]合成例3(予備重合触媒成分)
トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液を準備した。デカン溶液中のトリイソブチルアルミニウムの濃度は、アルミニウム原子換算で0.5mmol/mLであった。
合成例2で調製したスラリー液を反応器内に装入した。合成例2で調製したスラリー液に、25℃、窒素気流下で、トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液を1.0mL装入した。15℃に冷却した後、4-メチル-1-ペンテン10mLを60分かけて反応器内に装入した。装入開始時点を予備重合開始時点とした。予備重合開始時点から2.0時間後に攪拌を止め、得られた混合物をデカンテーション法によりデカン100mLで3回洗浄した。予備重合触媒成分はデカンスラリー(9.5g/L、0.56mmol-Zr/L)とした。
【0125】
[2.2.2]合成
内容積1Lの攪拌機を付けたSUS製重合器を準備した。室温、窒素気流下で、重合器に、精製デカンを425mL装入し、40℃まで昇温した。40℃到達後、トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(アルミニウム原子換算で0.5mmol/mL)を0.8mL(アルミニウム原子換算で0.4mmol)装入した。次いで、先に調製した合成例3の予備重合触媒成分のデカンスラリーをジルコニウム原子換算で0.002mmol装入した。水素を16.25NmL装入した。次いで、予め調製しておいた混合溶液を2時間かけて重合器内へ連続的に一定の速度で装入した。混合溶液は、4-メチル-1-ペンテン234mLと、炭素数16/炭素数18のα-オレフィン混合物(商品名;「リニアレン168」、出光興産株式会社製)18.5mLと、からなっていた。この装入開始時点を重合開始時点とし、45℃で4.5時間保持した。重合開始時点から1時間後および2時間後にそれぞれ水素を16.25NmL装入した。重合開始時点から4.5時間経過後、室温まで降温し、脱圧した後、ただちに白色固体を含む重合液を濾過して固体状物質を得た。この固体状物質を減圧下、80℃で8時間乾燥し、4-メチル-1-ペンテン重合体(A-2)を得た。4-メチル-1-ペンテン重合体(A-2)の収量は、124gであった。4-メチル-1-ペンテン重合体(A-2)中の4-メチル-1-ペンテン含量は97.5mol%、α-オレフィン(1-ヘキサデセン、1-オクタデセン)含量は、2.5mol%であった。
【0126】
[2.3]4-メチル-1-ペンテン重合体(A-3)
容量1.5Lの攪拌翼付SUS製重合器内を窒素で充分置換した。重合器に、23℃で、4-メチル-1-ペンテン500mLと、ヘプタン220mLと、を装入した。このオートクレーブに、1-デセン30mLと、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mLトルエン溶液0.3mLと、を続けて装入し攪拌を開始した。次に水素を140mL挿入し、オートクレーブを内温60℃まで加熱した。予め調製しておいたトルエン溶液2mLを窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。トルエン溶液は、Al換算で0.039mmolのメチルアルミノキサンと、0.00013mmolの(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドと、を含んでいた。重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始10分後、オートクレーブにメタノール5mLを窒素で圧入して重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。アセトンに反応溶液を攪拌しながら注ぎポリマーを析出させた。得られた溶媒を含む重合体を130℃、減圧下で10時間乾燥した。これにより、4-メチル-1-ペンテン重合体(A-3)を得た。得られた4-メチル-1-ペンテン重合体(A-3)の収量は、66.5gであった。4-メチル-1-ペンテン重合体(A-3)中の4-メチル-1-ペンテン含量は94.1mol%、α-オレフィン(1-デセン含量)は5.9mol%であった。
【0127】
[2.4]4-メチル-1-ペンテン重合体(A-4)
容量1.5Lの攪拌翼付SUS製重合器内を窒素で充分置換した。重合器に、23℃で、4-メチル-1-ペンテン500mLと、ヘプタン230mLと、を装入した。このオートクレーブに、1-デセン15mLと、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mLトルエン溶液0.3mLと、を続けて装入し攪拌を開始した。次に水素を140mL挿入し、オートクレーブを内温60℃まで加熱した。予め調製しておいたトルエン溶液2mLを窒素でオートクレーブに圧入し、重合を開始した。トルエン溶液は、Al換算で0.06mmolのメチルアルミノキサンと、0.0002mmolの(8-オクタメチルフルオレン-12’-イル-(2-(アダマンタン-1-イル)-8-メチル-3,3b,4,5,6,7,7a,8-オクタヒドロシクロペンタ[a]インデン))ジルコニウムジクロライドと、を含んでいた。重合反応中、オートクレーブ内温が60℃になるように温度調整した。重合開始30分後、オートクレーブにメタノール5mLを窒素で圧入して重合を停止し、オートクレーブを大気圧まで脱圧した。アセトンに反応溶液を攪拌しながら注ぎ重合体を析出させた。得られた溶媒を含む重合体を130℃、減圧下で10時間乾燥した。これにより、4-メチル-1-ペンテン重合体(A-4)を得た。得られた4-メチル-1-ペンテン重合体(A-4)の収量は、35.6gであった。4-メチル-1-ペンテン重合体(A-4)中の4-メチル-1-ペンテン含量は96.7mol%、α-オレフィン(1-デセン含量)は3.3mol%であった。
【0128】
[2.5]4-メチル-1-ペンテン重合体(A-5)
公知の方法(すなわち、国際公開第2006/054613号の比較例9に記載の重合方法)に準じて、4-メチル-1-ペンテン重合体(A-5)を得た。4-メチル-1-ペンテン重合体(A-5)中の4-メチル-1-ペンテン含量は97.2mol%、α-オレフィン(1-ヘキサデセン、及び1-オクタデセン)は2.8mol%であった。
【0129】
[2.6]4-メチル-1-ペンテン重合体(A-6)
公知の方法(すなわち、国際公開第2006/054613号の比較例7や比較例9に記載の重合方法)に準じた方法で、4-メチル-1-ペンテン重合体(A-6)を得た。4-メチル-1-ペンテン重合体(A-6)中の4-メチル-1-ペンテン含量は、100mol%であった。
【0130】
[2.7]4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の樹脂(B-1)
樹脂(B-1)として、PET(ポリエチレンテレフタレート、三井化学(株)社製、三井PET、IV:0.62)を準備した。樹脂(B-1)中の4-メチル-1-ペンテン含量は、0mol%であった。
【0131】
[2.8]4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の樹脂(B-2)
樹脂(B-2)として、PP(ポリプロピレン、ExxonMobil社製、Achieve6936G2、重量平均分子量:5.5万)を準備した。樹脂(B-2)中の4-メチル-1-ペンテン含量は、0mol%であった。
【0132】
[2.9]4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の樹脂(B-3)
樹脂(B-3)として、ポリビニルアルコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、重合度:約1500)の5%水溶液を調整した。樹脂(B-3)中の4-メチル-1-ペンテン含量は、0mol%であった。
【0133】
[3]実施例及び比較例
[3.1]実施例1
4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)を、27℃で、混合溶媒(SP値:8.7)に溶解させ、電界紡糸用組成物を調製した。混合溶媒は、メチルシクロヘキサン70体積%とN,N-ジメチルホルムアミド30体積%とからなっていた。4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)の含有量は、電界紡糸用組成物の全質量に対して10質量%であった。
上記電界紡糸用組成物を調整した直後に、図1に示される製造装置を用いて紡糸し、目付量が0.10g/mとなるように不織布を下記の電界紡糸条件で製造した。結果を表2に示す。
【0134】
[3.1.1]電界紡糸条件
・噴出装置:ニードル(22G)
・ニードルからターゲット電極までの距離:13cm
・吐出速度:0.5mg/min
・印加電圧:12kV
【0135】
[3.2]実施例3、5、7、及び比較例1、3、5
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)、溶媒、樹脂を混入するときの溶媒の温度、及び吐出速度を表1に示される通りに変更した以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。結果を表2及び表3に示す。実施例3、5、7、及び比較例1では、同じ混合溶媒を用いた。
【0136】
[3.3]比較例7
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の樹脂(B-1)を、27℃でギ酸(SP値:13.5)に溶解させ、電界紡糸用組成物を調製した。樹脂(B-1)の含有量は、電界紡糸用組成物の全質量に対して10質量%であった。
4-メチル-1-ペンテン重合体(A-1)の代わりに樹脂(B-1)を用いたことの他は、実施例1と同様にして、不織布を製造した。結果を表3に示す。
【0137】
[3.4]比較例9
電界紡糸用組成物を調製することの代わりに4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の樹脂(B-2)を用いたことと、紡糸の加熱温度を270℃に変更したこととの他は、実施例1と同様にして不織布を得た。結果を表3に示す。
【0138】
[3.5]比較例11
4-メチル-1-ペンテン重合体(A)以外の樹脂(B-3)をイオン交換水に溶解させ、ポリビニルアルコール水溶液(樹脂濃度:10mass%)を得た。
前記ポリビニルアルコール水溶液を調整した直後に、図1に示される製造装置を用いて下記の条件により紡糸することで得られた繊維をステンレスドラム上に集積させて、目付量が0.1g/mとなるように不織布を製造した。結果を表3に示す。
【0139】
[3.5.1]電界紡糸条件
・電極:金属ノズル(内径:0.41mm、先端が紡糸液吐出部)とステンレスドラム(紡糸した繊維の捕集体)
・吐出量:1g/h
・印加電圧:23.4kV
【0140】
[3.6]実施例2、4、6、8、及び比較例2、4、6、8、10、12
紡糸の実施時期を、「電界紡糸用組成物を調整した直後」から「電界紡糸用組成物を調整してから24時間後」に変更したことの他は、実施例1、3、5、7、及び比較例1、3、5、7、9、11と同様にして、不織布を製造した。結果を表2及び表3に示す。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】

【表3】
【0143】
表2及び表3中、「MCH」とは、メチルシクロヘキサンを示す。「DMF」は、N,N-ジメチルホルムアミドを示す。
【0144】
比較例1~比較例6では、複数の繊維の平均繊維径の標準偏差は、0.25μm以下ではなかった。更に、複数の繊維の吸熱終了温度(TmE)は、230℃以下でなかった。そのため、Q値(塩基性)は2.8×10-3以上ではなかった。Q値(酸性)は2.8×10-3以上ではなかった。
比較例7及び比較例8の不織布は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む繊維を含有しなかった。更に、複数の繊維の吸熱終了温度(TmE)は、230℃以下でなかった。そのため、Q値(塩基性)は2.8×10-3以上ではなかった。
比較例9及び比較例10の不織布は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む繊維を含有しなかった。複数の繊維の平均繊維径の標準偏差は、0.25μm以下ではなかった。そのため、Q値(塩基性)は2.8×10-3以上ではなかった。Q値(酸性)は2.8×10-3以上ではなかった。
比較例11及び比較例12の不織布は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む繊維を含有しなかった。比較例11及び比較例12の不織布は、Q値(塩基性)及びQ値(酸性)を評価する際に、塩基性の水溶液及び酸性の水溶液に溶解した。そのため、Q値(塩基性)及びQ値(酸性)を評価することができなかった。
以上より、比較例1~比較例12の不織布は、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる不織布ではないことがわかった。
【0145】
実施例1~実施例8の不織布は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を含む複数の繊維からなる。複数の繊維の平均繊維径の標準偏差は、0.25μm以下であった。前記複数の繊維の吸熱終了温度(TmE)は、230℃以下であった。そのため、Q値(塩基性)は2.8×10-3以上であった。Q値(酸性)は2.8×10-3以上であった。
以上より、実施例1~実施例8の不織布は、酸性の溶液中及び塩基性の溶液中において、高い濾過性能を維持することができる不織布であることがわかった。
【0146】
更に、実施例1と実施例2との対比、実施例3と実施例4との対比、実施例5と実施例6との対比、実施例7と実施例8との対比から明らかなように、両者の平均繊維径、平均繊維径の標準偏差、CV値及びポリマー球数に大きな差は見られなかった。これは、実施例2、4、6、8では、電界紡糸用組成物を長時間放置しても、電界紡糸用組成物中に不溶成分が析出せずに、実施例1、3、5、7と同様に電界紡糸用組成物が電界紡糸法により紡糸されたこと示す。これらの結果から、実施例1~実施例8の電界紡糸用組成物は、ポットライフ性に優れることがわかった。
【符号の説明】
【0147】
100 電界紡糸装置
101 吐出装置
102 ターゲット電極
103 電圧印加装置
104 繊維
105 不織布
図1
図2