(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146380
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】光モジュールおよび光レセプタクル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/42 20060101AFI20241004BHJP
H01S 5/02251 20210101ALI20241004BHJP
【FI】
G02B6/42
H01S5/02251
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059241
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井澤 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 悠生
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 孝吉
(72)【発明者】
【氏名】関 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】河本 智朗
【テーマコード(参考)】
2H137
5F173
【Fターム(参考)】
2H137AB06
2H137AC05
2H137BA04
2H137BB02
2H137BB03
2H137BB25
2H137BC10
2H137BC51
2H137BC72
2H137HA01
5F173MC16
5F173MF23
5F173MF40
(57)【要約】
【課題】戻り光雑音の影響を抑制できる、ボルテックス面を含む光レセプタクルを有する光モジュールを提供すること。
【解決手段】
発光素子と、光伝送体と、前記発光素子と前記光伝送体とを光学的に結合させるための光レセプタクルと、を有する光モジュールであって、前記光レセプタクルは、前記発光素子からの光が通過する第1光学面と、前記光伝送体への光が通過する第2光学面と、を有する光レセプタクル本体と、前記発光素子と前記光伝送体との間の光路上に配置された、前記光レセプタクル本体と一体または別体であるボルテックス面と、を含み、前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数は、前記光伝送体の端面に入射した光の一部が反射して前記ボルテックス面を通過し、前記発光素子の発光面に入射するときの中心消光径が、前記発光面のレーザー発光径の50%以上となるように設定されている、光モジュール。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、光伝送体と、前記発光素子と前記光伝送体とを光学的に結合させるための光レセプタクルと、を有する光モジュールであって、
前記光レセプタクルは、
前記発光素子からの光が通過する第1光学面と、前記光伝送体への光が通過する第2光学面と、を有する光レセプタクル本体と、
前記発光素子と前記光伝送体との間の光路上に配置された、前記光レセプタクル本体と一体または別体であるボルテックス面と、
を含み、
前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数は、前記光伝送体の端面に入射した光の一部が反射して前記ボルテックス面を通過し、前記発光素子の発光面に入射するときの中心消光径が、前記発光面のレーザー発光径の50%以上となるように設定されている、
光モジュール。
【請求項2】
前記トポロジカルチャージ数は、前記ボルテックス面を通過し、前記光伝送体に入射する光の外径が、前記光伝送体のコアの外径以下となるように設定されている、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数は3~9である、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数は4~7である、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記第1光学面を通過した前記光を前記第2光学面に向かって反射させる反射面を有する、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項6】
前記光レセプタクル本体は、前記第1光学面を通過した光を前記第2光学面に向かって反射させる反射面をさらに有する、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項7】
前記ボルテックス面は、前記ボルテックス面の外縁から前記ボルテックス面の螺旋の中心への方向に延びる複数の凸条を有する、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項8】
前記ボルテックス面は、前記ボルテックス面の螺旋の中心に非ボルテックス面を有し、前記非ボルテックス面の最大径は3μm以下である、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の光モジュールに用いられる光レセプタクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光モジュールおよび光レセプタクルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量のデータを、光通信を用いて高速で送受信するために、マルチモードファイバを備えた通信装置および通信システムが使用されている。マルチモードファイバは、光が通るコアの径がシングルモードファイバよりも大きいため、より多くの光を通すことができる。しかしながら、多数のモードの光が通ることでモード毎の光の伝播速度が異なり、光の分散(DMD(Differential Modal Dispersion))が生じるため、光波形が劣化してしまう。この問題は、マルチモードファイバにおいて、コアの中心部分の屈折率分布が不安定な場合に特に問題となる。
【0003】
この問題を改善するため手段として、ボルテックスレンズやボルテックス位相板などと称される光学素子を用いることが知られている。ボルテックスレンズ(ボルテックス位相板)とは、連続または階段状の螺旋形状を有する面(ボルテックス面)を有する光学素子(光束制御部材)である。ボルテックスレンズに、中心部分の強度が高いガウシアン分布を有する光(ガウシアンビーム)を通過させると、中心部分の強度が顕著に低下した、リング状の強度分布を有する光(ボルテックスビーム)に変換される。
【0004】
ボルテックスレンズによりリング状の強度分布に変換された光をマルチモードファイバに入射させると、コアの中心部分の屈折率分布の影響が抑制されるとともに、高次のモードの光が主体となり、光波形の劣化を抑制することができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、ボルテックス形状が形成されたレンズを備えた光学部品が開示されている。特許文献1によれば、当該光学部品を用いてマルチモードファイバに、中心部分の強度が低下したリング状の強度分布の光を入射させることができたとされている。また、レンズの表面にボルテックス形状を形成してこれらを一体化することで、光軸調整が容易になったとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の様な、ボルテックス面を有する光学素子(光レセプタクル)を用いて、光源からの光をボルテックス光として光伝送体に到達させる場合、ガウシアン光を光伝送体に到達させる場合と異なり、特有の光学特性を示す。特に、戻り光雑音に関して、ガウシアン光を用いた場合と、ボルテックス光を用いた場合とは異なる。
【0008】
本発明の目的は、戻り光雑音の影響を抑制できる、ボルテックス面を有する光レセプタクル、および当該光レセプタクルを有する光モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の光モジュール、および光レセプタクルに関する。
[1] 発光素子と、光伝送体と、前記発光素子と前記光伝送体とを光学的に結合させるための光レセプタクルと、を有する光モジュールであって、前記光レセプタクルは、前記発光素子からの光が通過する第1光学面と、前記光伝送体への光が通過する第2光学面と、を有する光レセプタクル本体と、前記発光素子と前記光伝送体との間の光路上に配置された、前記光レセプタクル本体と一体または別体であるボルテックス面と、を含み、前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数は、前記光伝送体の端面に入射した光の一部が反射して前記ボルテックス面を通過し、前記発光素子の発光面に入射するときの中心消光径が、前記発光面のレーザー発光径の50%以上となるように設定されている、光モジュール。
[2] 前記トポロジカルチャージ数は、前記ボルテックス面を通過し、前記光伝送体に入射する光の外径が、前記光伝送体のコアの外径以下となるように設定されている、[1]に記載の光モジュール。
[3] 前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数は3~9である、[1]または[2]に記載の光モジュール。
[4] 前記ボルテックス面のトポロジカルチャージ数は4~7である、[1]または[2]に記載の光モジュール。
[5] 前記第1光学面を通過した前記光を前記第2光学面に向かって反射させる反射面を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の光モジュール。
[6] 前記光レセプタクル本体は、前記第1光学面を通過した光を前記第2光学面に向かって反射させる反射面をさらに有する、[1]~[5]のいずれかに記載の光モジュール。
[7] 前記ボルテックス面は、前記ボルテックス面の外縁から前記ボルテックス面の螺旋の中心への方向に延びる複数の凸条を有する、[1]~[6]に記載の光モジュール。
[8] 前記ボルテックス面は、前記ボルテックス面の螺旋の中心に非ボルテックス面を有し、前記非ボルテックス面の最大径は3μm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の光モジュール。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の光モジュールに用いられる光レセプタクル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、戻り光雑音の影響を抑制できる、ボルテックス面を有する光レセプタクル、および当該光レセプタクルを有する光モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、従来の光モジュールを示し、
図1Bは、本実施の形態に係る光モジュールを示す。
【
図2】
図2Aは、本実施の形態に係る光レセプタクルを示し、
図2B~Eは、ボルテックス面を示す。
【
図3】
図3A、Bは、シミュレーション結果を示す。
【
図5】
図5A~Dは、変形例に係る光モジュールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
[光モジュール]
図1Aは、従来の光モジュール10を示し、
図1Bは、本発明の実施の形態に係る光モジュール100を示す。
図1A、Bに示される光モジュール10、100における光レセプタクル40、400は、それぞれ、発光素子200と光伝送体300との間に配置されている。光レセプタクル40、400は、それぞれ、発光素子200から出射された光を制御して、光伝送体300の端面に到達させており、発光素子200および光伝送体300を光学的に接続させている。
【0014】
ここで従来の光モジュール10では、
図1Aに示されるように、中心の光が最も強く、外縁に向かうにつれて光が弱くなるガウシアン分布を有する円形のガウシアン光(例えば、ガウシアンビーム)が発光素子200から出射されて、光レセプタクル40内を通って、光伝送体300に到達する。また、一般に、光伝送体300の端面に到達した光の一部は反射して反射光となり、発光素子200に戻るが、この戻り光もガウシアン光である。なお、発光素子200に反射光が戻ると、発光素子の出力が変動してしまう戻り光雑音と呼ばれる現象が発生してしまうことがあり望ましくない。
【0015】
一方、本実施の形態に係る光モジュール100において、光レセプタクル400は、ボルテックス面440を有する。そのため、
図1Bに示されるように、発光素子200から出射される光はガウシアン光であるが、ボルテックス面440を通過すると、リング状のボルテックス光(例えば、ボルテックスビーム)となり、ボルテックス光が光伝送体300の端面に到達する。また、戻り光もボルテックス光となる。
【0016】
本実施の形態に係る光モジュール100は、上記の様なボルテックス光を光伝送体300の端面に到達させ、戻り光もボルテックス光である場合において、ボルテックス面が適切に設計されていることで、戻り光雑音の影響を抑制し、位置ずれトレランスも良好である。ボルテックス面の設計については、後ほど詳述する。
【0017】
図1Bに示されるように、本発明の実施の形態に係る光モジュール100は、発光素子200、光伝送体300、および光レセプタクル400を有する。以下、それぞれについて説明する。
【0018】
(発光素子)
発光素子200は、光伝送体300に到達する光を出射する光源である。発光素子200は、レーザーが挙げられる。レーザーとしては、例えば、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)、DFBレーザー、EMLレーザー、ファブリ・ペローレーザーである。発光素子200は、発光面210を有し、発光面210は光を出射する面である。また、発光面210には、戻り光が戻ってくる。発光面210の径は、特に制限されない。本実施の形態において、発光面のレーザー発光径は、後述するボルテックス光の中心消光径の50%未満となることが、戻り光を低減するという観点から好ましい。このように、発光面210のレーザー発光径は、ボルテックス面を設計する際の基準となる。なお、レーザー発光径は通常、5~10μmである。レーザーのうち、VCSEL発光径は通常、7~9μmである。発光素子200は、例えば、基板220上に配置されていればよい。
【0019】
(光伝送体)
光伝送体300は、発光素子200から出射された光が入射する。光伝送体300の種類は、特に制限されない。光伝送体300の種類の例には、光ファイバー、光導波路が含まれる。本実施の形態では、光伝送体300は、光ファイバーである。光ファイバーはシングルモードファイバであっても、マルチモードファイバであってもよい。本実施の形態において、光ファイバーはマルチモードファイバである。マルチモードファイバのコア径は、例えば、50μm、62.5μmである。
【0020】
(光レセプタクル)
図2Aは光レセプタクル400を示し、説明のために発光素子200、光伝送体300、および光路も示している。光レセプタクル400は、光通信に用いられる波長の光に対して透光性を有する材料を用いて形成されることが好ましい。そのような材料の例には、ポリエーテルイミド(PEI)や環状オレフィン樹脂などの透明な樹脂が含まれる。また、光レセプタクル400は、例えば、射出成形により製造される。
【0021】
図2Aに示されるように光レセプタクル400は、第1光学面410と、反射面420と、第2光学面430と、ボルテックス面440とを有する。以下、それぞれについて説明する。
【0022】
第1光学面410は、発光素子200からの光が通過する面(入射面)である。第1光学面410は発光素子200からの光を入射させるように、発光素子200に対向するように配置される。第1光学面410の形状は、発光素子200からの光が通過できれば特に制限されず、例えば、平面であっても曲面であってもよい。本実施の形態において、第1光学面410は曲面であり、より具体的には、発光素子200に向かって凸形状の凸面ある。本実施の形態において、凸面である第1光学面410は、発光素子200から出射された光を通過させてコリメート光に変換する。
【0023】
反射面420は第1光学面410で入射した光を第2光学面430に向けて反射させる。反射面420は、第1光学面410と第2光学面430との間に配置されて、上記の様に光を反射できれば特に制限されない。本実施の形態において、反射面420は平面であり、第1光学面410で入射し、コリメート光となった光の進行方向に対して45°傾いている。なお、反射面420は、光レセプタクル400においてなくてもよい。たとえば、反射面420がなく、第1光学面410で入射した光は、そのまま直進して第2光学面430から出射されるようにしてもよい。
【0024】
第2光学面430は、第1光学面410で入射した光または反射面420で反射した光が光伝送体300に向けて通過する面(出射面)である。第2光学面430は、光を光伝送体300に向けて出射できるように光伝送体300に対向するように配置される。第2光学面430の形状は、光が通過できれば特に制限されず、例えば、平面であっても曲面であってもよい。本実施の形態において、第2光学面430は、曲面であり、より具体的には、光伝送体300の端面に向かって凸形状の凸面である。本実施の形態において、凸面である第2光学面430は、光レセプタクル内部を進行してきたコリメート光を光伝送体300のコアの端面に集光させる。
【0025】
ボルテックス面440は、連続または階段状の螺旋形状を有する面である。ボルテックス面440をガウシアン光(例えばガウシアンビーム)が通過すると、リング状の強度分布を有するボルテックス光(例えばボルテックスビーム)に変換される。ボルテックス面440は、発光素子200と光伝送体300との間の光路上に配置されればよい。また、ボルテックス面440は、光レセプタクル400と一体であっても別体であってもよい。ボルテックス面440が光レセプタクル400と一体である場合、ボルテックス面440は、例えば、第1光学面410上、反射面420上、または第2光学面430上に配置されればよい。本実施の形態においては、ボルテックス面440は、光レセプタクル400と一体であり、第2光学面430上に配置されている。
【0026】
図2Bはボルテックス面440の斜視図であり、
図2Cは側面図であり、
図2D、Eは平面図である。
【0027】
ボルテックス面440は、ガウシアン分布を有する光をリング状の光に変換することができる螺旋形状を有していれば特に制限されない。螺旋形状は、連続的に高くなっても段階的(階段状)に高くなってもよい。ボルテックス面440の例には、ボルテックスレンズ、およびボルテックス位相板が含まれる。
【0028】
図2Dに示されるように、本実施の形態において、ボルテックス面440は平面視したときに円形であり、螺旋形状は以下の様である。すなわち、平面視したときの円の中心を点Oとし、この円の外縁上の一点を点Aとしたときに線分OAを、点Oを中心として360°回転させたときに、線分OA上の各点は、紙面の奥側から手前側の方向により高くなり、螺旋形状になっている。螺旋形状は、連続的に高くなっても段階的(階段状)に高くなってもよい。回転後の点Oを点O’とし、点Aを点A’としたときに、線分O’A’は、線分OAより高い位置にある。これにより
図2B、Cに示されるように段差441が形成される。なお、本実施の形態において、線分OAおよびO’A’は、
図2Cに示されるように、それぞれ、凸面である第2光学面430の凸形状に沿うような曲線であり、線分OAと線分O’A’は平行である。すなわち、本実施の形態において、段差441を規定する下線と上線とは平行であり、段差441の高さは一定である。
【0029】
段差441の高さ(通過する光の進行方向に平行な方向の長さ)は、ガウシアン光をどのようなボルテックス光に変換するかに関係する、以下の式1に示されるトポロジカルチャージ数1を適宜設定できるように設定されればよい。すなわち、式1に示されるように、段差441の高さdは、ボルテックス面440を通過する光の波長λおよびボルテックス面440を形成する材料の材料屈折率nとともに、トポロジカルチャージ数lに関係する。したがって、段差441の高さdは、所望のトポロジカルチャージ数lに応じ適宜設定される。ボルテックス面440の設計について後ほど詳述する。
【0030】
【0031】
図2Eに示されるように、本実施の形態において、ボルテックス面440は、平面視したときに、ボルテックス面の外縁からボルテックス面の螺旋の中心Oへの方向に延びる複数の凸条442を有していてもよい。この凸条442は、ボルテックス面を成形するための成形型の凹条が転写されたものである。ボルテックス面440を例えば、射出成形などによって成形するには、成形型が必要である。成形型は、理想的には上述のような螺旋形状を成形できるように当該螺旋形状に相補的な形状を有することが望まれる。しかし、このような相補的な形状を高精細に作ることは一般に困難である。このような相補的な形状を高精細に作る方法として、ボルテックス面の中心に対応する部分から外縁に対応する部分への方向に凹部を形成すること(例えば、切削工具で切削して、凹部を形成すること)が考えられる。ここで、このように成形型を形成すると、成形型の外縁から中心に向かう方向に延びるに凹条が形成されてしまう。ボルテックス面の凸条442は、このような凹条が転写されたものである。
【0032】
また、
図2Eに示されるように、ボルテックス面440は、平面視したときに、ボルテックス面の螺旋の中心Oに非ボルテックス面443を有していてもよい。この非ボルテックス面443も、上記の様に形成された成形型が転写されたものである。すなわち、上記の様に一般的な方法で成形型を形成すると中心Oの周囲は、螺旋形状に相補的な理想的な形状とならない。したがって、ボルテックス面440の中心にはある程度大きな非ボルテックス面が存在してしまう。しかし、上記の様な高精細に成形型を形成する方法によれば、非ボルテックス面の最大径を3μm以下とすることができ、さらに2μm以下とすることもできる。
【0033】
(ボルテックス面の設計)
以下に示す表1、
図3A、Bは、ボルテックス面の設計のためのシミュレーション結果を示す。このシミュレーションでは、屈折率1.6377の材料で形成された、第2光学面430にボルテックス面440を有する光レセプタクル400を想定し、このボルテックス面440(第2光学面430)に、波長850nmのガウシアンビームを通過させた。発光素子200にはVCSELを用い、用いたVCSEL発光径は8μmであった。ボルテックス面440(第2光学面430)を通過した後のボルテックスビームのビームウエストの半径(ω
0)は8.4μmであり、ビーム裾幅(ω’)は6.9μmであった。ボルテックス面440の段差の高さ(位相段差)dを0μmから1.333μmずつ増大させることで、トポロジカルチャージ数lを1つずつ増加させた。以上の条件において、各トポロジカルチャージ数のときに得られるボルテックスビームの戻り光対策効果および位置ずれトレランスについてシミュレーションした。
【0034】
図3Aは戻り光対策効果のシミュレーション結果の一部を示す(なお、表1には全ての結果の評価が示されている)。
図3Aは、トポロジカルチャージ数lが0、3、6、7のときに、光伝送体300の端面で反射した光がどの程度、発光素子200の発光面に戻るかを示している。
図3Aの縦軸の強度比とは、トポロジカルチャージ数が0の場合(ボルテックス面440がない場合)の戻り光の強度を1としたときの戻り光の強度の割合を示している。強度比は小さいほど、戻り光が少ないことを意味しており、戻り光雑音の影響が抑制されて発光素子が安定的に出力することを意味する。
また、
図3Aの横軸のデフォーカスとは、第2光学面430(ボルテックス面440)の焦点から光伝送体300の端面が光軸方向に沿ってどの程度離れているかを示している。デフォーカス0μmは、第2光学面430の焦点位置に光伝送体300の端面が配置されていることを示し、10μm、20μm、30μm、40μm、50μmは、第2光学面430の焦点位置よりも、第2光学面430から離れた位置に光伝送体300の端面が配置されていることを示している。
【0035】
図3Aからわかるように、トポロジカルチャージ数lは大きくなるほど強度比が小さくなり、戻り光が少なくなることがわかった。これは表1からわかるように、トポロジカルチャージ数lが大きくなるほどボルテックスビームの中心消光径D1が大きくなり、発光素子200の発光面に到達する光が少なくなるためと考えられる。中心消光径D1は、戻り光を抑制するという観点から、発光素子200の発光面のレーザー発光径(VCSEL発光径)の50%以上であることが好ましく、100%以上であることがより好ましい。
【0036】
図3Bは、位置ずれトレランスのシミュレーション結果の一部を示す(なお、表1には全ての結果の評価が示されている)。
図3Bは、トポロジカルチャージ数lが0、3、6、7のときの位置ずれトレランスを示している。具体的には、位置ずれトレランスは、第2光学面430の焦点位置に理想的に光伝送体300の端面が配置されている状態から、光軸方向に垂直な水平方向(X方向)にずれた場合を想定した。
図3B中のAWは、許容されるX方向のずれ幅(AW:アライメントウィンドウ)を表す。AWは大きいほど、位置ずれトレランス幅が大きく好ましい。また、
図3Bのデフォーカスは
図3Aのデフォーカスと同様である。
【0037】
シミュレーション結果について、以下の評価基準にて評価した。
通常、実施光学系において、中心消光、戻り光低減、トレランスのバランスから、最適デフォーカス位置を決定している。本実施例における光学系では、最適デフォーカス位置が20μmなので、以下の評価基準では、その位置において各評価を行った。
【0038】
評価(1):戻り光対策効果
A:焦点位置から20μmデフォーカスした位置において、十分な戻り光対策効果があった。
B:焦点位置から20μmデフォーカスした位置において、戻り光対策効果があった。
C:焦点位置から20μmデフォーカスした位置において、戻り光対策効果がなかった。
【0039】
評価(2):トレランス
A:焦点位置から20μmデフォーカスした位置におけるAW幅が10μm以上であった。
B:焦点位置から20μmデフォーカスした位置におけるAW幅が5μm以上10μm未満であった。
C:焦点位置から20μmデフォーカスした位置におけるAW幅が5μm未満であった。
なお、AWとはアライメント・ウインドウの略であり、トレランスカーブの幅(設置ずれ(トレランス)の許容度)の規格を表す。
【0040】
評価(3):総合評価
A:戻り光対策効果、トレランスともにA評価であり、優れていた。
B:どちらか一方がA評価であり、他方がB評価であった。
C:少なくとも一つC評価があった。
【0041】
図4は、表1に示されるボルテックスビームの各パラメータについて説明するための図である。中心消光径D1は、リング状の光の内側の光が弱い部分の直径であり、理想的には、光の強度が最大強度の1/e
2未満となることが望ましい。リングピーク径Rpは、リング状の光の中でリング状に存在する最大強度の部分の径である。外径D2は、リング状の光の外径であり、具体的には、光の強度が最大強度の1/e
2以上の部分の外径(1/e
2幅)である。
【0042】
【0043】
表1からわかるように、中心消光径D1および外径D2は、それぞれ、トポロジカルチャージ数を大きくしていくと大きくなる。
表1からわかるように、中心消光径D1を大きくして、戻り光対策効果を良好にするためには、トポロジカルチャージ数は、3以上が好ましく、4以上がさらに好ましい。
また、表1からわかるように、位置ずれトレランス(AW)を良好にするためには、トポロジカルチャージ数は、9以下が好ましく、7以下がさらに好ましい。
上記のことから、戻り光対策効果と、位置ずれトレランスの両方を考慮するとトポロジカルチャージ数は、3~9が好ましく、4~7がより好ましい。
【0044】
なお、トポロジカルチャージ数は、光伝送体300のコア径を基準として、設定されてもよい。すなわち、トポロジカルチャージ数は、ボルテックス面440を通過し、光伝送体300に入射する光の外径D2が、光伝送体300のコアの外径以下となるように設定されていてもよい。
【0045】
本実施の形態においては、上記のようにボルテックス面の段差の高さ(位相段差)dを大きくすることでトポロジカルチャージ数lを大きくするようにしている(上記の式1参照)。しかし、式1からわかるようにトポロジカルチャージ数lを制御する方法は種々あり、どのようにトポロジカルチャージ数lを制御してもよい。
(効果)
本実施の形態によれば、戻り光を抑制できる。また、位置ずれトレランスも良好にすることができる。
【0046】
[変形例]
図5A~Dは、それぞれ、上記の実施の形態の変形例である。各変形例において、実施の形態と同様の構成については、同様の符号を付してその説明を省略する。
【0047】
上述のように、ボルテックス面440は、第1光学面410上、反射面420上、第2光学面430上のいずれに配置されてもよい。
図5A、Bは、それぞれ、ボルテックス面440が第1光学面410上、反射面420上に配置された変形例の光レセプタクル400a、400bを示す。
【0048】
また、上述のように、ボルテックス面440は、光レセプタクルと一体であっても別体であってもよい。
図5C、Dは、それぞれ、ボルテックス面440が光レセプタクル本体400’と別体である変形例の光レセプタクル400c、400dを示す。
図5Cでは、ボルテックス面440は、発光素子200と第1光学面410との間に配置されており、
図5Dでは、ボルテックス面440は、第2光学面430と光伝送体300との間に配置されている。
【0049】
ボルテックス面440が別体である場合、別体はボルテックス面を有し、光レセプタクル本体とは独立した部材である限り特に制限されない。このような別体の例としては、ボルテックス面を有する平板状の部材などが挙げられる。
(効果)
各変形例の光レセプタクルは、上述の実施の形態の光レセプタクルと同様の効果を発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る光レセプタクルおよび光モジュールは、発光素子と光伝送体を用いた光通信に有用である。
【符号の説明】
【0051】
10、100 光モジュール
40、400、400a、400b、400c、400d 光レセプタクル
200 発光素子
220 基板
210 発光面
300 光伝送体
400’ 光レセプタクル本体
410 第1光学面
420 反射面
430 第2光学面
440 ボルテックス面
441 段差
442 凸条
443 非ボルテックス面
d 段差の高さ
D1 中心消光径
D2 外径