(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146389
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末、それを用いた電極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/485 20100101AFI20241004BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241004BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241004BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241004BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20241004BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M10/0562
H01M10/0525
C01G33/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059255
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】川辺 和幸
(72)【発明者】
【氏名】島本 圭
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝昭
(72)【発明者】
【氏名】治田 慎輔
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AB04
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029BJ12
5H029DJ12
5H029DJ16
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ07
5H029HJ13
5H029HJ14
5H029HJ18
5H050AA02
5H050AA06
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050DA03
5H050DA13
5H050FA12
5H050FA17
5H050GA28
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】液系非水電解質電池および全固体電池電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末を提供する。
【解決手段】Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折の回折図において、下記式(I)で表される2本のピークの強度比が1.0以上であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて、式(II)で表される2本のピークの強度比が0.2以下である非水電解質蓄電デバイス電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
I(24deg)/I(26deg)≧1.0(I)
I(24deg):2θ=24±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(26deg):2θ=26±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(A)/I(C)≦0.2(II)
I(A):430~460cm
-1に現れるピークAの強度値
I(C):260~280cm
-1に現れるピークCの強度値
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折の回折図において、下記の式(I)で表される2本のピークの強度比が1.0以上であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて、下記の式(II)で表される2本のピークの強度比が0.2以下であることを特徴とする、非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
I(24deg)/I(26deg)≧1.0 (I)
I(24deg):2θ=24±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(26deg):2θ=26±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(A)/ I(C)≦0.2 (II)
I(A):430~460cm-1に現れるピークAの強度値
I(C):260~280cm-1に現れるピークCの強度値
【請求項2】
一般式Ti1-x/2Nb2O7-x(0≦x<2)で表される組成を有することを特徴する、請求項1に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
【請求項3】
前記の電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末において、電気泳動法により測定される、25℃におけるニオブ-チタン複合酸化物粉末のゼータ電位が-65mV以上かつ-25mV以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
【請求項4】
前記の電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末において、一次粒子径の累積体積分布が50%となる点の粒径をD50とし、BET法によって求めた比表面積から算出される比表面積相当径をDBETとしたときに、D50が1μm以上であり、かつ、D50とDBETの比D50/DBET(μm/μm)が2.1以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
【請求項5】
前記の電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末において、粒度分布において一次粒子の粒径の累積体積分布が50%となる点の粒径をD50としたときに、D50が1μm未満であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて、下記の式(III)で表される2本のピークの面積比が0.5以上であることを特徴とする、請求項1又は2に非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブーチタン複合酸化物粉末。
I(538cm-1)/I(650cm-1)≧0.5 (III)
I(538cm-1):520~560cm-1に現れるスペクトルをピーク分離したピークの面積値
I(650cm-1):620~680cm-1に現れるスペクトルをピーク分離したピークの面積値
【請求項6】
前記の電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末において、ニオブ-チタン複合酸化物粒子の表面に元素M1(M1は、Al、Mg、Mo、およびCeからなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上を含むこと)が局在化して存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のニオブ-チタン複合酸化物粉末を含むことを特徴とする電極。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のニオブ-チタン複合酸化物粉末と、無機固体電解質、とを含む負極活物質組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の電極を含むことを特徴とする非水電解質蓄電デバイス。
【請求項10】
正極層、負極層および固体電解質層を備えた全固体二次電池であって、前記負極層が請求項8に記載の負極活物質組成物を含む層である全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末、それを用いた電極、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用の蓄電デバイスには、燃費または電費向上の観点から高いエネルギー密度が求められ、特にリチウムイオン電池は、電気自動車や電力貯蔵用の電源として広く使用されている。リチウムイオン電池の電極材料として種々の材料が研究されており、チタン酸リチウムは入出力特性に優れる点があるものの、エネルギー密度が175mAh/gに留まるため、更なる高エネルギー化には課題が残る。そこで代替候補として、理論容量で380mAh/gと高いエネルギー密度を持つチタン酸ニオブを中心とするニオブ-チタン複合酸化物を負極材料として活用する動きが見られている。
【0003】
また、現在市販されているリチウムイオン電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、液漏れ対策や、短絡時に温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止の構造が必要になる。このような状況下で有機電解液に代えて、無機固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。全固体二次電池は正極、負極および電解質すべてが固体からなるため、有機電解液を用いた電池の課題である安全性、信頼性を大きく改善できる可能性があり、また安全装置の簡略化が図れることから高エネルギー密度化が可能となるため、電気自動車や大型蓄電池等への応用が期待されている。しかしながら、充放電レート特性改善など電池特性の課題が残っている。
【0004】
特許文献1には、TiNb2О7で表される単斜晶型複合酸化物を含み、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折の回折図において、2θ=26°±0.5°に最も強度の高いピークが現われ、且つ、2θ=44°±1°に2本のピークが現れ、それら2本のピークの強度比(IH/IL)が1.37以下であり、ここで、IHは高角側のピークであり、ILは低角側のピークである、電池用活物質が開示されている。特許文献1によれば、特定格子面の結晶子が成長することで、リチウムイオンの挿入脱離性が向上すると共に、リチウムイオンの挿入脱離空間が実効的に増加することにより、優れた急速充放電性能とより高いエネルギー密度を有する電池用活物質、該活物質を用いた非水電解質電池を提供することができるとされている。
【0005】
特許文献2には、特定のラマンバンドに対応するピーク強度が一定の範囲に入る、ルチル型酸化物を含有する単斜晶型ニオブ-チタン複合酸化物粒子を含むことを特徴とする非水電解質電池用活物質が開示されている。特許文献2によれば、含有されるルチル型酸化物が、充放電初期にリチウムを吸蔵することによって、単斜晶型ニオブ-チタン複合酸化物粒子の電子伝導性の向上に寄与し、結果、入出力特性とサイクル特性に優れる非水電解質電池用活物質、該活物質を用いた非水電解質電池が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-99287号公報
【特許文献2】国際公開第2015/140936公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のTiNb2О7で表される単斜晶型複合酸化物を負極活物質材料として適用した蓄電デバイスは1Cレート相当の放電特性のみが検討されており、例えば、5Cレートや10Cレートといった更なる急速レートでの充放電特性に関する検討は一切なされておらず、実際、電池の初期容量(電池容量)やサイクル特性を担保しながら急速レートでの充放電特性が改善できないという課題があった。
【0008】
特許文献2の活物質では、ハイレートでの放電特性やサイクル特性が検討されているが、電池の初期容量(電池容量)や5Cハイレートでの充電特性、また低温特性の改善に関する知見は全く示されていない。実際、ルチル型酸化物を含有することで、電池の初期容量(電池容量)、ハイレートでの充電特性や低温特性は低下する傾向にあり、加えて、ニオブ-チタン複合酸化物を全固体二次電池に適用した場合の性能に関する記載は一切見られない。
【0009】
以上の点から、特許文献1や特許文献2の負極活物質や電極を使用した蓄電デバイスでは、エネルギー密度向上とハイレートでの入出力特性改善、ならびに低温領域での電池性能改善や全固体電池における性能改善を両立することはできない。
【0010】
そこで本発明では、非水電解質蓄電デバイスの電極材料として用いられ、液系非水電解質電池におけるレート特性、サイクル特性、及び、低温特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善できるニオブ-チタン含有酸化物粉末、それを用いた電極、及び蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の目的を達成すべく、ニオブ-チタン複合酸化物粉末の合成条件を種々検討した結果、原料に合わせた合成時の焼成温度や解砕条件などを特定の範囲にて実施することで、粉末X線回折の回折図における特定の2本のピークの強度比が1.0以上であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルの特定の2本のピークの強度比を0.2以下に制御したニオブーチタン複合酸化物粉末を得ることが出来た。さらに、このニオブ-チタン複合酸化物粉末を負極活物質として適用した際に、液系非水電解質電池におけるレート特性、サイクル特性、及び、低温特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善できることが分かり、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0012】
[1]Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折の回折図において、下記の式(I)で表される2本のピークの強度比が1.0以上であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて、下記の式(II)で表される2本のピークの強度比が0.2以下であることを特徴とする、非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
I(24deg)/I(26deg)≧1.0 (I)
I(24deg):2θ=24±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(26deg):2θ=26±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(A)/I(C)≦0.2 (II)
I(A):430~460cm-1に現れるピークAの強度値
I(C):260~280cm-1に現れるピークCの強度値
[2]一般式Ti1-x/2Nb2O7-x(0≦x<2)で表される組成を有することを特徴する、[1]に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
[3]前記の電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末において、電気泳動法により測定される、25℃におけるニオブ-チタン複合酸化物粉末のゼータ電位が-65mV以上かつ-25mV以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
[4]前記の電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末において、粒度分布において一次粒子の粒径の累積体積分布が50%となる点の粒径をD50とし、BET法によって求めた比表面積から算出される比表面積相当径をDBETとしたときに、D50が1μm以上であり、かつ、D50とDBETの比D50/DBET(μm/μm)が2.1以下であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか一項に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
[5]前記の電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末において、粒度分布において一次粒子の粒径の累積体積分布が50%となる点の粒径をD50としたときに、D50が1μm未満であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて、下記の式(III)で表される2本のピークの面積比が0.5以上であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか一項に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
I(538cm-1)/I(650cm-1)≧0.5 (III)
I(538cm-1):560~520cm-1に現れるスペクトルをピーク分離したピークの面積値
I(650cm-1):620~680cm-1に現れるスペクトルをピーク分離したピークの面積値
[6]前記の電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末において、ニオブ-チタン複合酸化物粒子の表面に元素M1(M1は、Al、Mg、Mo、およびCeからなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上を含むこと)が局在化して存在することを特徴とする[1]~[5]のいずれか一項に記載の非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末。
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載のニオブ-チタン複合酸化物粉末を含むことを特徴とする電極。
[8][1]~[7]のいずれか一項に記載のニオブ-チタン複合酸化物粉末と、無機固体電解質、とを含む負極活物質組成物。
[9][7]に記載の電極を含むことを特徴とする非水電解質蓄電デバイス。
[10]正極層、負極層および固体電解質層を備えた全固体二次電池であって、前記負極層が[8]に記載の負極活物質組成物を含む層である全固体二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、液系非水電解質電池におけるレート特性、サイクル特性、及び、低温特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善できるニオブ-チタン複合酸化物粉末、それを用いた電極、及び蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例2-1のチタン-ニオブ複合酸化物粉末におけるラマンスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の電極用ニオブ-チタン複合酸化物]
本発明の電極用ニオブ-チタン複合酸化物は、Cu-Kα線源を用いた粉末X線回折の回折図において、下記の式(I)で表される2本のピークの強度比が1.0以上であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルにおいて、下記の式(II)で表される2本のピークの強度比が0.2以下であることを特徴とする、非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末である。
I(24deg)/I(26deg)≧1.0 (I)
I(24deg):2θ=24±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(26deg):2θ=26±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(A)/I(C)≦0.2 (II)
I(A):430~460cm-1に現れるピークAの強度値
I(C):260~280cm-1に現れるピークCの強度値
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、非水電解質蓄電デバイスの電極用途に用いられる。すなわち、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、非水電解質蓄電デバイスの電極用ニオブ-チタン複合酸化物粉末である。非水電解質としては、水系の電解質以外であれば何でもよく、特に限定されないが、たとえば、非水電解液や固体電解質などが挙げられる。
【0016】
<一般式Ti1-x/2Nb2O7-x(0≦x<2)で表されるニオブ-チタン複合酸化物>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物は、一般式Ti1-x/2Nb2O7-x(0≦x<2)で表されるニオブ-チタン複合酸化物を含有する。具体的な化合物の例には、LiイオンやNaイオンを吸蔵・放出することが可能なニオブ-チタン複合酸化物であるTiNb2O7、Ti2Nb14O39、TiNb14O37、Ti2Nb6O19、等が含まれる。ニオブ-チタン複合酸化物については、一部に合成原料由来のチタン酸化物相(例えばルチル型TiO2、TiOなど)を含んでもよい。ニオブ-チタン複合酸化物の場合、Nbのモル数とTiのモル数の比(Nb/Ti比)は、1.5~14の範囲が好ましく、さらに好ましいのは、1.8~7.0の範囲が好ましい。この範囲であると、複合酸化物の電子伝導性が向上し、レート特性に優れる。
【0017】
本発明のニオブ-チタン複合酸化物について、結晶系に制限はないが、単斜晶型であることが一般的である。また、ReO3型空間群A/2mに帰属する結晶構造を有することがある。単斜晶型の場合、アスペクト比が大きくなる傾向だが、電極密度の観点から、アスペクト比は1.0~4.0の範囲であることが好ましい。
【0018】
<粉末X線回折>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の粉末X線回折測定は、次のように行う。サンプル試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu-Kα線を用いて回折パターンを取得する。得られた回折図において、下記の式(I)で表される2本のピークの強度比が1.0以上である。強度比が前記範囲であれば、液系非水電解質電池におけるレート特性、サイクル特性、及び、低温特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善することができる。好ましくは1.01以上2.0以下、より好ましくは1.02以上2.0以下、さらにより好ましくは1.04以上1.9以下、特に好ましくは1.05以上1.2以下である。2θ=24°±0.2°に現れるピークは、主に(1 1 0)面のピークであると考えられ、2θ=26°±0.5°に現れるピークは、主に(0 0 3)面のピークであると考えられる。推測の域を出ないが、この2本のピーク強度比が変化するということは、各結晶面の結晶子サイズのバランスが変化していることが推察され、ニオブ-チタン複合酸化物の結晶構造中へのリチウムイオンの挿入脱離性に影響を与えていると考えられる。特定の結晶面の成長には、使用する原料と焼成温度が影響を与えており、原料に合わせた合成時の焼成温度や解砕条件などを特定の範囲にて実施することで、2本のピーク強度比が制御可能になったと推測される。
I(24deg)/I(26deg)≧1.0 (I)
I(24deg):2θ=24±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
I(26deg):2θ=26±0.2°の範囲に出現する最も強度が高いピーク強度値
【0019】
<顕微ラマン分光>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の顕微ラマン分光測定は、スライドガラスに試料を適量取り、レーザーラマン分光装置を用いてラマンスペクトルを取得する。得られたスペクトルにおいて、下記の式(II)で表される2本のピークの強度比が0.2以下である。強度比が前記範囲であれば、液系非水電解質電池におけるレート特性、サイクル特性、及び、低温特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善することができる。好ましくは0以上0.15以下であり、より好ましくは0以上0.1以下である。ニオブ-チタン複合酸化物を含む場合、ラマンスペクトルで260~280cm-1にピークが現れる。一方でルチル型TiO2、TiOなどを含む場合、TiとNbの含有量に左右されるものの、ラマンスペクトルで430~460cm-1にピークが現れるため、電池の初期容量(電池容量)、ハイレートでの充電特性や低温特性は低下してしまう。ルチル型TiO2などの含有は使用する原料と焼成温度の影響を受けており、原料に合わせた合成時の焼成温度や解砕条件などを特定の範囲にて実施することでルチル型TiO2などの含有量の制御が可能となる。
I(A)/I(C)≦0.2 (II)
I(A):430~460cm-1に現れるピークAの強度値
I(C):260~280cm-1に現れるピークCの強度値
【0020】
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の顕微ラマン分光測定について、測定条件として、レーザーラマン分校装置を使用してレーザ波長532nm、ビーム径4μm、レーザ強度0.8mWの条件にてラマンスペクトルを測定する。またピーク分離の手法としては、ベースライン補正したラマンスペクトルの波数範囲520~800cm-1を抜き出し、フィッティング関数としてローレンツ関数を用いたピーク分離を行う。ラマンスペクトルの波数範囲520~800cm-1を抜き出し、ピーク分離を行った場合、下記の式(III)で表される2本のピークの面積比が0.5以上であることが好ましい。520~560cm-1に現れるピークはTi-О結合を反映し、620~680cm-1に現れるピークはNb-О結合を反映しており、2本のピーク面積は結晶構造中の各結合の強さを表すものと推察される。この2本のピーク面積比が変化するということは、結晶構造中のリチウムイオンの挿入脱離性が変化していることが推察され、原料に合わせた合成時の焼成温度や解砕条件などを特定の範囲にて実施することでリチウムイオンの挿入脱離を制御可能となり、2本のピーク面積比が変化したと考えられる。強度比が前記範囲であれば、液系非水電解質電池におけるレート特性、サイクル特性、及び、低温特性、さらに全固体電池におけるレート特性を改善することができる。
I(538cm-1)/I(650cm-1)≧0.5 (III)
I(538cm-1):520~560cm-1に現れるスペクトルをピーク分離したピークの面積値
I(650cm-1):620~680cm-1に現れるスペクトルをピーク分離したピークの面積値
【0021】
<電気泳動法によるゼータ電位>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末において、電気泳動法により測定される、25℃におけるニオブ-チタン複合酸化物粉末のゼータ電位の下限値は-65mV以上であることが好ましく、-55mV以上であることがより好ましく、-45mV以上であることがさらに好ましい。ゼータ電位の上限値は好ましくは-25mV以下であり、より好ましくは-30mV以下であり、さらに好ましくは-35mV以下である。ゼータ電位は、電気二重層中の滑り面と、界面から充分に離れた部分との間の電位差を表すが、この電位差がニオブ-チタン複合酸化物粉末表面でのLi+透過性に影響するものと推測される。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0022】
<比表面積>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の比表面積とは、窒素を吸着ガスとして用いて、単位質量あたりの表面積のことである。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0023】
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、比表面積が8m2/g以下であることが好ましく、液系非水電解質電池、および全固体電池におけるレート特性を改善した蓄電デバイスを得ることができる。4m2/g以下がより好ましく、3.5m2/g以下がさらに好ましい。比表面積の下限は、特に限定されないが、好ましくは1m2/g以上である。
【0024】
<D50>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末のD50とは体積中位粒径の指標である。レーザー回折・散乱型粒度分布測定によって求めた体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して50%になる粒径を意味する。測定方法については、後述する実施例にて説明する。
【0025】
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末について、一次粒子であっても、一次粒子が凝集した二次粒子であっても良い。ニオブ-チタン複合酸化物粒子からなる一次粒子が凝集した二次粒子を含む場合、その一部としては、二次粒子を形成しておらず、一次粒子そのものの形態となっていてもよい。
【0026】
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末が二次粒子の場合、二次粒子のD50は、電極密度向上の観点から、下限値は、11μm以上であることが好ましく、12μm以上がより好ましく、13μm以上がさらに好ましい。さらに、二次粒子のD50の上限値は、20μm以下であることが好ましく、18μm以下がより好ましく、14μm以下がさらに好ましい。なお、二次粒子のD50は、解砕処理(超音波器で超音波をかける)前のD50を表す。
【0027】
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の一次粒子のD50は、液系非水電解質電池、および全固体電池におけるレート特性改善の観点から、一次粒子のD50の下限値は、0.4μm以上であることが好ましく、0.7μm以上がより好ましい。また、一次粒子のD50の上限値は、3μm以下であることが好ましく、2.1μm以下がより好ましく、1μm未満がさらに好ましい。なお、一次粒子のD50は、解砕処理(超音波器で超音波をかけた)後のD50を表す。また、該ニオブ-チタン複合酸化物粉末は一次粒子径が0.4μm未満の一次粒子を15%~30%の範囲で含んでいてもよく、一次粒子径が0.7μm未満の一次粒子を15%~45%の範囲で含んでいてもよい。また、一次粒子径が3μmを超える一次粒子を45%~75%の範囲で含んでいてもよく、一次粒子径が2.1μmを超える一次粒子を25%~75%の範囲で含んでいてもよく、一次粒子径が1μmを超える一次粒子を25%~80%の範囲で含んでいてもよい。
【0028】
<DBET>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末のDBETは、BET法によって求めた比表面積から算出される比表面積相当径である。高い電極密度を達成し体積エネルギー密度向上の観点から、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末のDBETは、0.2μm以上であればよく、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましい。また、ニオブ-チタン複合酸化物粉末のDBETの上限値は、3μm以下であればよく、2μm以下が好ましく、1.2μm以下がより好ましい。ニオブ-チタン複合酸化物粉末のDBETは、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0029】
<D50/DBET>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の一次粒子のD50とDBETの比(D50/DBET(μm/μm))は、液系非水電解質電池、および全固体電池におけるレート特性改善の観点から、2.1以下であり、好ましくは2.06以下であり、より好ましくは2.0以下であり、下限は、好ましくは1以上であり、より好ましくは1.3以上であり、さらに好ましくは1.5以上である。ニオブ-チタン複合酸化物粉末のD50/DBETは、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0030】
<粒子の表面での元素M1の存在>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末は粒子の表面に元素M1(アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、およびモリブデン(Mo)からなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上を含む)が存在してもよい。なお、これらの元素は、2種以上含まれていてもよい。元素M1が存在するとは、本発明のニオブ酸化物粉末の誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)または蛍光X線分析(XRF)において、元素M1が検出されることをいう。なお、誘導結合プラズマ発光分析による検出量の下限は、通常、0.001質量%である。
【0031】
<元素M1の含有率>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末が元素M1を含む場合、その含有率(質量%)は、0.01以上0.8以下であることが好ましい。元素M1の含有率がこの範囲であれば、液系非水電解質電池におけるレート特性、サイクル特性、及び、全固体電池におけるレート特性を改善することができる。0.05以上0.5以下がより好ましく、放電レート特性のさらなる向上や低温特性をより高めるという観点からは、0.2以上0.5以下がさらに好ましく、さらにより好ましくは0.3以上0.4以下である。
【0032】
また、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末が元素M1を含む場合、粉末を構成するニオブ-チタン複合酸化物粒子の内部領域よりも、表面領域の方に元素M1が局在化して多く存在する。すなわち、元素M1は、ニオブ-チタン複合酸化物粒子の表面に存在し、より具体的には、ニオブ-チタン複合酸化物粒子の内部領域よりも、表面領域の方に元素M1が局在化して多く存在する。一例として、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記ニオブ-チタン複合酸化物粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記ニオブ酸化物粒子の表面から20nm程度の深さまでのいわゆる表面近傍の領域において元素M1が多く含有されればよく、表面から100nmの深さ位置において、元素M1が検出されないことが好ましい。すなわち、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.5atm%である。この他にも、X線光電子分光法(XPS)やオージェ電子分光法(AES)による表面分析の手法が挙げられる。
【0033】
<さらなる異種元素の含有>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、前記の元素M1以外のさらなる異種元素として、B、Mo、W、及びSからなる元素群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有してもよい。これらの中で、特にSがより好ましい。本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、このような異種元素を、元素M1と共に含有することで、元素M1単独含有よりもニオブ-チタン複合酸化物粉末の表面の電子伝導性が向上するためだと推測される。
【0034】
[本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の製造方法]
以下に、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の製造方法の一例を、原料の調製工程、焼成工程、及び表面処理工程に分けて説明するが、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末の製造方法はこれに限定されない。
【0035】
<原料の調製工程>
まず、出発原料を混合する。出発原料として、Tiと、Nbとを含む酸化物または塩を用いる。ここで、Nbを含む酸化物としては、斜方晶系のNb2O5を用いることが好ましい。また、ニオブ-チタン複合酸化物のその他の添加元素を含む場合、出発原料として、Tiと、Nbとを含む酸化物に加えて、Zr、Si、Sn、V、Ta、Bi、Mo、及びWから成る群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物または塩を用いて、本発明の目的組成となるような量論比で混合する。出発原料として用いる塩は、水酸化物塩、炭酸塩、硝酸塩のような、比較的低融点で分解して酸化物を生じる塩であることが好ましい。また、一次粒子径を小さくするため、出発原料に平均一次粒径が2μm以下、好ましくは平均一次粒径が0.5μm以下の粉末を用いることが好ましい。前記元素M1を含有する化合物を後述の焼成工程の前に添加する場合もある。
【0036】
原料の混合方法については、特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることができる。
【0037】
<焼成工程>
次に、上記で得られた混合物を焼成する。焼成は使用する原料に応じて、500~1200℃の温度範囲で、より好ましくは700~1150℃の温度範囲で、さらに好ましくは1100~1150℃以下の温度範囲で、さらにより好ましくは1120~1150℃以下の温度範囲で行う。焼成温度を1150℃以下で行うことで汎用の設備を利用することができる。なお、混合物を短時間で焼成する場合は、焼成前に混合物を構成する混合粉末を、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機にて測定される粒度分布曲線におけるD95が5μm以下になるように調製することが好ましい。ここで、D95とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して95%になる粒径のことである。
【0038】
前記条件で焼成できる方法であれば、焼成方法は特に限定されるものではない。利用できる焼成方法としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が挙げられる。ただし、短時間で効率的な焼成をする場合は、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が好ましい。特に、ロータリーキルン式焼成炉は、混合物を収容する容器が不要で、連続的に混合物を投入しながら焼成ができる点、被焼成物への熱履歴が均一で、均質な酸化物を得ることができる点から、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末を製造するには特に好ましい焼成炉である。
【0039】
<解砕工程>
焼成後のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、目的の粒子径を得るために解砕処理を行ってもよい。焼成物回収側から回収した焼成物を解砕する方法としては、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル、振動ミル、ビーズミルなどがあり、特にビーズミルが好ましい。ビーズミルを使用した場合の解砕方法としては、湿式解砕の循環式処理、湿式解砕のバッチ式処理または乾式解砕の循環処理、乾式解砕のバッチ式処理のいずれの方法も採用することができるが、解砕を均一に行うことが好ましく、その点においては湿式解砕の循環式処理が好ましい。循環条件は、焼成工程における焼成温度等と考慮して決定すればよいが、たとえば、循環条件を調整することで、ニオブ-チタン複合酸化物粉末の粒子径を好適に制御することができる。湿式解砕としては、水またはアルコール溶媒中に焼成後のチタン酸リチウム粉末を投入し、スラリー状態で混合させる。アルコール溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど沸点が100℃以下のものが溶媒除去しやすい点で好ましい。また、回収、廃棄のしやすさから、工業的には水溶媒が好ましい。
【0040】
<表面処理工程>
また、上記で得られたニオブ-チタン複合酸化物について、表面処理を実施してもよい。本発明のニオブ-チタン複合酸化物は、粒子の表面に元素M1(M1は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、およびモリブデン(Mo)からなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上を含む)が存在してもよく、電池の負極材料として適用した場合に緻密な負極層を形成することができるとともに優れた充電レート特性を付与することができる。前記焼成工程にて、前記元素M1を含有する化合物(以下、処理剤と記すことがある)を加えて、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末を製造することもできるが、より好ましくは、次のような表面処理工程などで、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末を製造することができる。特に、次のような表面処理工程を採用することで、適切かつ比較的簡便に、ニオブ-チタン複合酸化物粒子の表面に、元素M1が存在する状態とすることができる。
【0041】
基材のニオブ-チタン複合酸化物粉末と前記元素M1を含有する化合物との混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法も採用することができるが、基材のニオブ-チタン複合酸化物粉末を構成する粒子の表面に前記元素M1を含有する化合物を均一に分散させることが好ましく、その点においては湿式混合が好ましい。
【0042】
湿式混合としては、水またはアルコール溶媒中に処理剤2と基材のニオブ-チタン複合酸化物粉末を投入し、スラリー状態で混合させる。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど沸点が100℃以下のものが溶媒除去しやすい点で好ましい。また、回収、廃棄のしやすさから、工業的には水溶媒が好ましい。
【0043】
元素M1(M1は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、およびモリブデン(Mo)からなる元素群から選ばれるいずれか一つ以上を含む)を含有する化合物(処理剤)としては、特に限定されないが、例えば、酸化物、リン酸化物、水酸化物、硫酸化合物、硝酸化合物、フッ化物、塩化物、有機化合物、及びアンモニウム塩やリン酸塩などの金属塩化合物が挙げられる。具体的には前記元素M1がAlの場合、例えば、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、あるいはアルミニウムアルコキシドなどが挙げられ、なかでも、硫酸アルミニウム、その水和物が好ましい。前記元素M1がMgの場合、例えば、酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、あるいはマグネシウムアルコキシドなどが挙げられ、なかでも、硫酸マグネシウム、その水和物が好ましい。前記元素M1がCeの場合、例えば、酸化セリウム、水酸化セリウム、フッ化セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム、しゅう酸セリウム、塩化セリウム、ホウ化セリウム、りん酸セリウムなどが挙げられ、なかでも、硫酸セリウムおよびその水和物が好ましい。前記元素M1がMoの場合、例えば、酸化モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化モリブデン水和物、ほう化モリブデン、りんモリブデン酸、二けい化モリブデン、塩化モリブデン、硫化モリブデン、けいモリブデン酸水和物、酸化ナトリウムモリブデン、炭化モリブデン、酢酸モリブデン二量体、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸アンモニウム、などが挙げられ、なかでも、三酸化モリブデン、三酸化モリブデン水和物、塩化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸リチウムが好ましい。
【0044】
前記元素M1を含有する化合物の添加量としては、ニオブ-チタン複合酸化物中の前記金属元素M1の量が本発明の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、基材のニオブ-チタン複合酸化物粉末に対して0.1質量%以上の割合で添加すればよい。また、基材のニオブ-チタン複合酸化物粉末に対して12質量%以下の割合で添加することが好ましく、より好ましくは10質量%以下の割合であり、さらに好ましくは8質量%以下の割合である。
【0045】
<熱処理工程>
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末について、合成後に熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度としては、基材のニオブ-チタン複合酸化物が焼結することによる、粒径成長や比表面積の大幅な減少が発生しない温度が良い。熱処理温度の上限値としては700℃以下が好ましく、より好ましくは650℃以下である。熱処理温度の下限値としては、300℃以上が好ましく、より好ましくは400℃以上である。熱処理時間としては、好ましくは0.1時間~8時間であり、より好ましくは0.5時間~5時間である。また、金属元素M1を含む化合物を用いて上記の表面処理を実施する場合は、前記金属元素が、基材のニオブ-チタン複合酸化物粉末の、少なくとも表面領域に拡散する温度及び時間は、前記金属元素を含有する化合物によって反応性が異なるため、適宜設定するのが良い。また、熱処理における加熱方法は特に限定されるものではない。利用できる熱処理炉としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉などが挙げられる。熱処理時の雰囲気としては、大気雰囲気でも、窒素雰囲気などの不活性雰囲気のどちらでも良い。特に、表面処理に金属塩化合物を用いた場合は、粒子表面からアニオン種が除去されやすい大気雰囲気が好ましい。
【0046】
以上のようにして得られた熱処理後のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、軽度の凝集はあるものの、粒子を破壊するような粉砕を行わなくても良く、そのため、熱処理後には、必要に応じて凝集を解す程度の解砕や分級を行えば良い。
【0047】
本発明のニオブ-チタン複合化物粉末は、表面処理工程で処理剤と混合した後に造粒して熱処理を行い、一次粒子が凝集した二次粒子を含む粉末にしても良い。造粒は二次粒子ができるのであれば、どのような方法でも良いが、スプレードライヤーが大量に処理できるため好ましい。
【0048】
本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末に含まれる水分量を低減させるために、熱処理工程で露点管理を行っても良い。熱処理後の粉末は、そのまま大気に晒すと粉末に大気中の水分が吸着するため、熱処理炉内での冷却時と熱処理後は、露点管理された環境下で粉末を扱うことが好ましい。熱処理後の粉末は、粒子を所望の最大粒径の範囲にするために必要に応じて分級を行っても良い。熱処理工程で露点管理をする場合は、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末をアルミラミネート袋などで密閉した後に露点管理外の環境下に出すことが好ましい。露点管理下においても、熱処理後のニオブ-チタン複合酸化物粉末の粉砕を行うと破砕面から水分を取り込みやすくなり、粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理を行った場合には粉砕を行わないことが好ましい。熱処理条件としては、温度と保持時間が特定の範囲にあることで二次粒子形態や表面処理工程に大きく影響する。熱処理温度としては、450℃以上が好ましく、550℃未満が好ましい。熱処理温度が550℃を超えると比表面積が大きく低下し、電池性能、特にレート特性が大幅に低下するためである。また保持時間は1時間以上が好ましい、保持時間が短い場合、粉末に含まれる水分量が増加に加え、粒子表面状態にも影響を与えると推測されるためである。
【0049】
[活物質材料]
本発明の活物質材料は、本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末を含むものである。本発明のニオブ-チタン複合酸化物粉末以外の物質を1種又は2種以上含んでいてもよい。他の物質としては、例えば、炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物、リチウムを含む金属酸化物が使用される。特に、リチウムを含む金属酸化物として、Li4Ti5O12を主成分とするチタン酸リチウムが挙げられる。
【0050】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、本発明の活物質材料を含む電極を備え、このような電極へのリチウムイオンのインターカレーション、脱インターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵、放出するデバイスであって、例えば、ハイブリッドキャパシタやリチウム電池などが挙げられる。
【0051】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池を総称する。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池や全固体型リチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0052】
前記リチウム電池は、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液、または固体電解質等により構成されているが、本発明の活物質材料は電極材料として用いることができる。本発明の活物質材料は、通常、前記リチウム電池の電極シートの形態にて用いられる。この活物質材料は、正極活物質及び負極活物質のいずれとして用いてもよいが、以下には負極活物質として用いた場合を説明する。
【0053】
<負極>
負極は、負極集電体の片面または両面に、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を含む負極層を有する。この負極層は、通常、電極シートの形態とされる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、空孔中に負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤、結着剤を含む負極層を有する。
【0054】
前記負極用の導電剤としては、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、単相カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)、カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))、節型カーボンナノファイバー(非魚骨構造)、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)等のカーボンナノチューブ類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類とカーボンナノチューブ類を適宜混合して用いてもよい。特に限定されることはないが、カーボンブラック類の比表面積は好ましくは30m2/g~3000m2/gであり、さらに好ましくは50m2/g~2000m2/gである。また、グラファイト類の比表面積は、好ましくは30m2/g~600m2/gであり、さらに好ましくは50m2/g~500m2/gである。また、カーボンナノチューブ類のアスペクト比は、2~150であり、好ましくは2~100、より好ましくは2~50である。
【0055】
導電剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極層中に、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、さらに好ましくは0.5質量%~5質量%である。0.1質量%未満では、負極層の導電性が確保できなくなり、10質量%超では、活物質比率が減少し、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量が不十分になるため高容量化に適さない。なお、導電剤の添加形式は、電極作成時でもよく、活物質そのものに導電剤を被覆する形でも構わない。炭素繊維などの導電剤で被覆することで、負極層の導電性が更に向上しうるためである。
【0056】
前記負極用の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。特に限定されることはないが、ポリフッ化ビニリデンの分子量は、好ましくは2万~100万である。負極層の結着性を確保する観点から、2.5万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、5万以上であることがさらに好ましい。活物質と導電剤との接触を妨げずに導電性が確保する観点から、50万以下であることが好ましい。特に活物質の比表面積が10m2/g以上の場合には、分子量は10万以上であることが好ましい。
【0057】
前記結着剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、負極層中に、好ましくは0.2質量%~15質量%である。結着性を高め負極層の強度を確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。活物質比率が減少し、負極層の単位質量及び単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量を低減させない観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
前記負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、焼成炭素、あるいはそれらの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を被覆させたもの等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により負極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、前記負極集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。前記負極集電体の形態として、多孔質アルミニウムが好ましい。前記多孔質アルミニウムの空孔率は80%以上、95%以下であり、好ましくは85%以上である。
【0059】
前記負極の作製方法としては、負極活物質(本発明の活物質材料を含む)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化した後、前記負極集電体上に塗布し、乾燥、圧縮することによって得ることができる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合した塗料を集電体の空孔に圧入して充填、または前記塗料中に空孔を有する集電体を浸潰し空孔中に拡散した後に、乾燥、圧縮することによって得ることができる。
【0060】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化する方法としては、例えば、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置、ビーズミル、高速旋回型ミキサ、粉体吸引連続溶解分散装置などを用いることができる。また、製造工程として、固形分濃度によって工程を分け、これらの装置を使い分けてもよい。
【0061】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤及び結着剤を溶剤中に均一に混合するには、活物質の比表面積、導電剤の種類、結着剤の種類やこれらの組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置などを用いる場合には、製造工程として固形分濃度によって工程を分け、固形分濃度が高い状態で混練した後、徐々に固形分濃度を下げ塗料の粘度を調製するのが好ましい。固形分濃度が高い状態としては、好ましくは60質量%~90質量%、さらに好ましくは60質量%~80質量%である。60質量%以上であればせん断力が得られるので好ましく、90質量%以下であれば装置の負荷が軽減されるので好ましく、80質量%以下であればより好ましい。
【0062】
混合手順としては、特に限定されることはないが、負極活物質と導電剤と結着剤を同時に溶剤中で混合する方法、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法、負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法などが挙げられる。これらの中でも均一に分散させるには、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法及び負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法が好ましい。
【0063】
溶剤としては、有機溶媒を用いることができる。有機溶剤としては、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなど非プロトン性有機溶媒を単独、または2種類以上混合したものが挙げられ、好ましくは1-メチル-2-ピロリドンである。
【0064】
溶剤に有機溶剤を用いる場合には、結着剤をあらかじめ有機溶剤に溶解させて使用するのが好ましい。
【0065】
<正極>
正極は、正極集電体の片面または両面に、正極活物質、導電剤及び結着剤を含む正極層を有する。
【0066】
前記正極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な材料が使用され、例えば、活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物やリチウム含有オリビン型リン酸塩などが挙げられ、これらの正極活物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiCo1-xNixO2(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、LiNi1/2Mn3/2O4等が挙げられ、これらのリチウム複合酸化物の一部は他元素で置換してもよく、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をB、Nb、Sn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも1種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、あるいは、これらの他元素を含有する化合物を被覆することができる。リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4、LiFe1-xMxPO4(MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、及びCdから選ばれる少なくとも1種であり、xは、0≦x≦0.5である。)等が挙げられる。
【0067】
前記正極用の導電剤及び結着剤としては、負極と同様のものが挙げられる。前記正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により正極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。
【0068】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒中に電解質塩を溶解させたものである。この非水電解液には特に制限は無く、種々のものを用いることができる。
【0069】
前記電解質塩としては、非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiPF6、LiBF4、LiPO2F2、LiN(SO2F)2、LiClO4等の無機リチウム塩、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiCF3SO3、LiC(SO2CF3)3、LiPF4(CF3)2、LiPF3(C2F5)3、LiPF3(CF3)3、LiPF3(iso-C3F7)3、LiPF5(iso-C3F7)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF2)2(SO2)2NLi、(CF2)3(SO2)2NLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF6、LiBF4、LiPO2F2、及びLiN(SO2F)2であり、最も好ましい電解質塩はLiPF6である。これらの電解質塩は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの電解質塩の好適な組み合わせとしては、LiPF6を含み、更にLiBF4、LiPO2F2、及びLiN(SO2F)2から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましい。
【0070】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0071】
一方、前記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル、アミド、リン酸エステル、スルホン、ラクトン、ニトリル、S=O結合含有化合物等が挙げられ、環状カーボネートを含むことが好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0072】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種以上が、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量を抑制する観点からより好適であり、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート及び2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好適である。全環状カーボネート中のアルキレン鎖を有する環状カーボネートの割合が55体積%~100体積%であることが好ましく、60体積%~90体積%であることが更に好ましい。
【0073】
したがって、前記非水電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン及び4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オンから選ばれる一種以上の環状カーボネートを含む非水溶媒に、LiPF6、LiBF4、LiPO2F2、及びLiN(SO2F)2から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩を含む電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることが好ましく、前記環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート及び2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好ましい。
【0074】
また、特に、全電解質塩の濃度が0.5M~2.0Mであり、前記電解質塩として、少なくともLiPF6を含み、更に0.001M~1MのLiBF4、LiPO2F2、及びLiN(SO2F)2から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩が含まれる非水電解液を用いることが好ましい。LiPF6以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合が0.001M以上であると、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が発揮されやすく、1.0M以下であると蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が低下する懸念が少ないので好ましい。LiPF6以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.03M以上、最も好ましくは0.04M以上である。その上限は、好ましくは0.8M以下、さらに好ましくは0.6M以下、特に好ましくは0.4M以下である。
【0075】
また、前記非水溶媒は、適切な物性を達成するために、混合して使用されることが好ましい。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとラクトンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとエーテルの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状エステルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとニトリルとの組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネートとS=O結合含有化合物との組合せ等が挙げられる。
【0076】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、及びジブチルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチル、及び酢酸エチル(EA)から選ばれる1種又は2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0077】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチル及び酢酸エチル(EA)から選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0078】
また、鎖状カーボネートを用いる場合には、2種以上を用いることが好ましい。さらに対称鎖状カーボネートと非対称鎖状カーボネートの両方が含まれるとより好ましく、対称鎖状カーボネートの含有率が非対称鎖状カーボネートより多く含まれると更に好ましい。
【0079】
鎖状エステルの含有率は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60体積%~90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有率が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0080】
鎖状カーボネート中に対称鎖状カーボネートが占める体積の割合は、51体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。その上限としては、95体積%以下がより好ましく、85体積%以下であると更に好ましい。対称鎖状カーボネートにジメチルカーボネートが含まれると特に好ましい。また、非対称鎖状カーボネートはメチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。上記の場合に蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果が向上するので好ましい。
【0081】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生量の抑制効果を高める観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90~45:55が好ましく、15:85~40:60がより好ましく、20:80~35:65が特に好ましい。
【0082】
<リチウム電池の構造>
本発明のリチウム電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極及び単層又は複層のセパレータを有するコイン電池、さらに、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池等が一例として挙げられる。
【0083】
前記セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース紙、ガラス繊維紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド微多孔膜などが挙げられ、2種以上を組み合わせて構成された多層膜としたものも用いることができる。またこれらのセパレータ表面にPVDF、シリコン樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウムなどの金属酸化物の粒子などをコーティングすることもできる。前記セパレータの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01μm~10μmである。前記セパレータの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5μm~300μmである。
【0084】
<固体電解質>
固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。特に、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオンおよびアニオンに解離または遊離していない。無機固体電解質は周期律表第1族に属する金属イオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性をほとんど有さないものが一般的である。無機固体電解質は(A)硫化物無機固体電解質と(B)酸化物無機固体電解質が代表例として挙げられる。特に、高いイオン伝導性を有し、室温での加圧のみで、粒界の少ない緻密な成形体が形成できるため、硫化物固体電解質が好ましく用いられる。ここで言う周期律表は長周期型の周期律表を指す。
【0085】
硫化物無機固体電解質は非結晶ガラスであっても良く、結晶化ガラスであっても良く、結晶性材料であっても良い。硫化物無機固体電解質として、具体的に以下の組み合わせが好適に挙げられるが特に限定されない。
Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li10GeP2S12。
【0086】
前記組み合わせのなかでも、Li2S-P2S5を組み合わせて製造されるLPSガラスおよびLPSガラスセラミックスが好ましい。また上記以外の硫化物無機固体電解質として、Li6PS5ClやLi6PS5Brなどのアルジェロダイト型固体電解質も好適に挙げられる。
【0087】
酸化物無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族に属する金属イ
オン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。
【0088】
酸化物無機固体電解質としては、例えば、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12、ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)、リン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、Li3BO3-Li2SO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、およびLi6BaLa2Ta2O12等が好適に挙げられる。
【0089】
無機固体電解質の体積平均粒径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【実施例0090】
次に、実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせを包含する。
【0091】
(液系リチウムイオン二次電池:コイン電池)
[実施例1-1]
ニオブ原料として斜方晶系のNb2O5(平均粒径0.2μm)、チタン原料としてアナターゼ型TiO2(比表面積10m2/g、Zr含有量238ppm)をそれぞれモル比で1:1となるように秤量し、混合した。この混合粉末について1,150℃で5時間焼成処理を施した。得られた焼成粉末試料について、サンプリング間隔0.01°、スキャン速度2°/minの条件にて粉末X線回折測定を実施した。リートベルト法による結晶構造解析結果から、合成した試料が目的とするチタン-ニオブ複合酸化物(TiNb2O7:Titanium niobium oxide, ICDD(PDF2010)のPDFカード01-077-1374)であることが確認された。得られた焼成粉末試料を実施例1-1に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末とした。
【0092】
[実施例1-2~1-3]
ニオブ原料を表1に示すように斜方晶系+単斜晶系または非晶質に変更したこと以外は実施例1-1と同様に行い、実施例1-2または1-3に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0093】
[実施例1-4]
実施例1-1で得られた焼成粉末試料について表面処理工程と熱処理工程を実施した。具体的には、実施例1-1で得られた焼成粉末試料を用い、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌することで解砕し、処理剤として硫酸アルミニウム16水和物(Al2(SO4)3・16H2O)を、解砕した焼成粉末100gに対して1.6質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを混合処理した後、温度60℃で乾燥し、次いで、マッフル炉を用いて550℃で、1時間熱処理することで、実施例1-4に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0094】
[実施例1-5]
焼成温度を1,125℃に変更したこと以外は実施例1-1と同様に行いチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した後、解砕工程(ペイントシェーカー装置にてジルコニアビーズ(φ2.0mm)を用いてモーター回転数の周波数60Hzで60分間)を実施した。その後、熱処理工程として、マッフル炉を用いて650℃で、1時間熱処理することで、実施例1-5に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0095】
[実施例1-6~1-7]
表1に示すように表面処理工程を実施し、処理剤として硫酸アルミニウム16水和物(Al2(SO4)3・16H2O)または硫酸マグネシウム7水和物(MgSO4・7H2O)を解砕した焼成粉末100gに対して1.6質量%加え、550℃で熱処理工程を実施したこと以外は実施例1-5と同様に行い、実施例1-6または1-7に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0096】
[実施例1-8]
表1に示すように、焼成温度を1,125℃に変更し、解砕工程(ビーズミル装置にてジルコニアビーズ(φ2.0mm)を用いて40分間)を実施したこと以外は実施例1-1と同様に行い、実施例1-8に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0097】
[実施例1-9]
表1に示すように、焼成温度を1,125℃に変更し、解砕工程(ビーズミル装置にてジルコニアビーズ(φ2.0mm)を用いて120分間)を実施したこと以外は実施例1-1と同様に行い、実施例1-9に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0098】
[実施例1-10~1-11]
表1に示すように、解砕工程の後、熱処理工程として、マッフル炉を用いて650℃で1時間熱処理を追加すること以外は実施例1-8または実施例1-9と同様に行い、実施例1-10または実施例1-11に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0099】
[実施例1-12]
Nb2O5とアナターゼ型TiO2をそれぞれモル比で7:18となるように秤量し、混合した。この混合粉末を1,050℃で12時間焼成処理を施し、目的とするチタン-ニオブ複合酸化物(Ti2Nb10O29)が得られたため、実施例1-12に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末とした。
【0100】
[実施例1-13]
Nb2O5とアナターゼ型TiO2をそれぞれモル比で1:7となるように秤量し、混合した。この混合粉末を1,100℃で12時間焼成処理を施し、目的とするチタンーニオブ複合酸化物(TiNb14O37)が得られたため、実施例1-13に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末とした。
【0101】
[実施例1-14]
Nb2O5とアナターゼ型TiO2をそれぞれモル比で2:3となるように秤量し、混合した。この混合粉末を1,100℃で12時間焼成処理を施し、目的とするチタンーニオブ複合酸化物(Ti2Nb6O19)が得られたため、実施例1-14に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末とした。
【0102】
[比較例1-1]
Nb2O5とアナターゼ型TiO2をモル比で1:1となるように秤量し、混合した。この混合粉末を1000℃で5時間焼成処理を施し、解砕工程(ビーズミル装置にてジルコニアビーズ(φ2.0mm)を用いて40分間)を実施することで、比較例1-1に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0103】
[比較例1-2]
比較例1-1で得られた焼成粉末試料について表面処理工程と熱処理工程を実施した。具体的には、比較例1-1で得られた焼成粉末試料を用い、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌することで解砕し、硫酸マグネシウム7水和物(MgSO4・7H2O)を解砕した焼成粉末100gに対して1.6質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを混合処理した後、温度60℃で乾燥した後、マッフル炉を用いて550℃で、1時間熱処理することで、比較例1-2に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0104】
[比較例1-3]
表1に示すように、焼成温度を1,000℃に変更したこと以外は実施例1-2と同様に行い、比較例1-3に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0105】
[比較例1-4]
表1に示すように、焼成温度を1,000℃に変更したこと以外は実施例1-3と同様に行い、比較例1-4に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0106】
[比較例1-5]
原料調整工程において、斜方晶系のNb2O5(平均粒径0.2μm)とアナターゼ型TiO2(比表面積10m2/g)をモル比で1:1となるように秤量し、さらに、酸化アルミニウム(Al2O3)を1.4質量%混合した。この粉末を1、150℃で5時間焼成処理を施し、比較例1-5に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。
【0107】
[粉末物性の測定]
各実施例、比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末の各種物性を以下のようにして測定した。
【0108】
<比表面積(BET)の測定>
各実施例、各比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末の比表面積(BET)(m2/g)は、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名「Macsorb HM model-1208」)を使用して、吸着ガスは窒素ガスを使用した。測定サンプル粉末を0.5g秤量し、φ12標準セル(HM1201-031)に入れ、100℃真空下で0.5時間脱気した後、BET一点法で測定した。結果を表1、4に示す。
【0109】
<DBET>
各実施例、比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末のDBETは、粉末を構成する全ての粒子が同一径の球と仮定して、下記の式より求めた。結果を表1、4に示す。
DBET=6/(ρ×S)
ここで、ρは各チタン-ニオブ複合酸化物粉末の真密度(g/cc)、SはBET比表面積(m2/g)である。
【0110】
<D50の算出:乾式レーザー回折散乱法>
各実施例、各比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末のD50は、レーザー回折・散乱型粒度分布測定機(日機装株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を使用して測定した粒度分布曲線より算出した。50mlのイオン交換水を測定溶媒として収容した容器に50mgの試料を投入し、測定溶媒をスラリーの透過率が適正範囲(装置の緑のバーで表示される範囲)になるまで加えて粒度分布測定を行った。得られた粒度分布曲線から、粉末のD50を算出した。
【0111】
<D50/DBETの算出>
上記測定にて得られたD50ならびにDBETの値を用いて、D50/DBETを計算した。結果を表1、4に示す。
【0112】
<粉末X線回折測定でのピーク強度比I(24deg)/I(26deg)の算出>
各実施例、各比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末について、多目的粉末X線回折分析装置(リガク社製、МiniFlex600)を使用してサンプリング間隔0.01°、スキャン速度2°/minの条件にて粉末X線回折測定を実施した。2θが24.0°±0.1°または26.0±0.2°の範囲内に現れるピーク強度をI(24deg)またはI(26deg)とし、それぞれの強度比を、I(24deg)/I(26deg)として算出した結果を表1、3、4に示す。
【0113】
<顕微ラマン分光測定でのスペクトルピーク強度比の算出>
各実施例、各比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末について、レーザーラマン分校装置(日本分光社製、NRS―3300)を使用してレーザ波長532nm、ビーム径4μm、レーザ強度0.8mWの条件にてラマンスペクトルを測定した。430~460cm-1に現れるピークAの強度をI(A),260~280cm-1に現れるピークCの強度をI(C)として、2本のピーク強度比I(A)/I(C)を算出した結果を表1、3、4に示す。
【0114】
<電気泳動法によるゼータ電位の結果>
各実施例、各比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末について、ゼータ電位測定装置(Malvern社製、装置名「Zetasizer Nano ZS」)を用いて、電気泳動法によるゼータ電位を測定した。チタン-ニオブ複合酸化物粉末を0.02g秤量し、200mLのイオン交換水に入れ、25℃の環境下にて測定した結果を表1、4に示す。
【0115】
[電池特性の評価]
各実施例、比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末を用いてコイン型電池を作製し、それらの電池特性を評価した。評価結果を表2、3に示す。
【0116】
<負極シートの作製>
負極シートは、室温25℃、露点-20℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。各実施例ならびに比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末を活物質として85質量%、アセチレンブラックを導電剤として10質量%、ポリフッ化ビニリデンを結着剤として5質量%の割合で混合して塗料を作製した。得られた塗料をアルミニウム箔上に塗布し乾燥させて、後述のコイン電池に用いる負極シートを作製した。
【0117】
<電解液の調製>
特性評価用の電池に用いる電解液は、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積比)の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して後述のコイン電池用電解液を調製した。同様にプロピレンカーボネート(PC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:2(体積比)の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPF6を1.3Mの濃度になるように溶解して後述のラミネート電池用電解液を調製した。
【0118】
<コイン単極電池の作製>
前述の方法で作製した負極片面シートを直径14mmの円形に打ち抜き、2t/cm2の圧力でプレス加工した後、120℃で5時間真空乾燥することによって評価電極を作製した。作製した評価電極と金属リチウム(厚み0.5mm、直径16mmの円形に成形したもの)をグラスフィルター(ADVANTEC製GA-100とワットマン製GF/Cを各1枚ずつ)を介して対向させ、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した非水電解液を加えて封止することによって、2032型コイン単極電池を作製した。
【0119】
<コイン単極電池初期特性:初期効率、初期放電容量、10C放電レート特性、5C-CC充電レート特性の測定>
25℃の恒温槽内にて、上述の<コイン単極電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、0.2mA/cm2の電流密度で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05mA/cm2の電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cm2の電流密度で2Vまで放電させる定電流放電を3サイクル行った。1サイクル目の放電容量(mAh)を充電容量(mAh)で割ることで、初期効率(%)として求めた。また、3サイクル目の放電容量(mAh)をチタン-ニオブ複合酸化物粉末の質量で割ることで、初期放電容量(mAh/g)として求めた。初期放電容量が高いとエネルギー密度の向上に繋がる。次に、初期放電容量の0.3Cに相当する電流で1Vまで充電した後、10Cの電流で2Vまで放電させて、10C放電容量を求めた。その10C放電容量を初期放電容量で除することで10Cレート放電レート特性(%)を算出した。次に、5Cの一定電流で1VまでCC充電したときの充電容量を求め、その5C―CC充電容量を初期放電容量で除することで5C-CC充電レート特性(%)を算出した。結果を表2に示す。チタン-ニオブ複合酸化物粉末のハイレートでの充放電特性が高いと、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、蓄電デバイスの充放電レート特性の向上が期待できる。なお、1CのCとは充放電するときの電流値を表す。例えば、1Cは理論容量を1/1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指し、0.1Cなら理論容量を1/0.1時間で完全放電(もしくは完全充電)できる電流値を指す。
【0120】
<コイン単極電池サイクル特性:サイクル容量維持率の測定>
上述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池を用いて、サイクル特性試験を行った。25℃の恒温槽内にて、電極にLiが吸蔵される方向を充電として、初期放電容量の0.5Cに相当する電流値で0.8Vまで充電を行い、その後、初期放電容量の0.5Cに相当する電流値で2.0Vまで放電を行った。この充放電を20サイクル繰り返し、20サイクル目の放電容量を求めた後、初期放電容量で除することでサイクル容量維持率を求めた。なお、比較例1-1のサイクル容量維持率を100とした場合の、各実施例ならびに比較例の相対値として算出した結果を表2に示す。
【0121】
【0122】
【0123】
<評価結果>
実施例1-1~1-14のチタン-ニオブ複合酸化物粉末を用いた電極は、高い初期放電容量を保つためエネルギー密度向上に繋がり、かつ、ハイレートでの充放電レート特性に優れることが分かった。つまり、ニオブ-チタン複合酸化物粉末の合成条件を、原料に合わせた合成時の焼成温度や解砕条件などを特定の範囲にて実施することで、粉末X線回折の回折図における特定の2本のピークの強度比が1.0以上であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルの特定の2本のピークの強度比を0.2以下に制御したニオブ-チタン複合酸化物粉末を得ることができ、電池性能の向上に繋がった。特に、実施例1-5、1-8、1-11、1-12、1-14の粉末X線回折の回折図における特定の2本のピークの強度比(I(24deg)/I(26deg))が1.05以上2.00以下のニオブ-チタン複合酸化物粉末を用いた電極は、充放電レート特性の改善幅が大きいことが分かった。上述した通り、推測の域を出ないが、この2本のピーク強度比が変化するということは、各結晶面の結晶子サイズのバランスが変化していることが推察され、ニオブ-チタン複合酸化物の結晶構造中へのリチウムイオンの挿入脱離性に影響を与えていると考えられる。さらに、実施例1-5、1-8、1-11、1-12、1-14のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、電気泳動法により測定される、25℃におけるゼータ電位が-65mV以上かつ-30mV以下を示した。ゼータ電位は電気二重層中の滑り面と界面から充分に離れた部分との間の電位差を表すが、ニオブ-チタン複合酸化物粉末表面でのLi+透過性に影響していると推察される。一方で、比較例1-1~1-5のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、初期放電容量の低下、充放電レート特性やサイクル特性に大きな改善が見られず、電池特性の改善には至らなかった。
【0124】
(液系リチウムイオン二次電池:ラミネート電池)
[実施例2-1]
上記実施例1-10で合成したチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。またラマンスペクトルを
図1のとおり測定した。波数範囲520~800cm
-1を抜き出し、ピーク分離を行い、I(538cm
-1)/I(650cm
-1)は0.57であった。
【0125】
[実施例2-2]
上記実施例1-11で合成したチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0126】
[実施例2-3]
上記実施例1-8で合成したチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0127】
[実施例2-4]
上記実施例1-9で合成したチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0128】
[実施例2-5]
Nb2O5とアナターゼ型TiO2をそれぞれモル比で7:18となるように秤量し、混合した。この混合粉末を900℃で12時間焼成処理を施し、目的とするチタンーニオブ複合酸化物(Ti2Nb10O29)が得られたため、実施例2-4に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末とした。このチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0129】
[比較例2-1]
上記比較例1-1で合成したチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0130】
[比較例2-2]
表3に示すように、解砕工程のビーズミル装置からペイントシェーカー装置(ジルコニアビーズ(φ1.0mm)を用いてモーター回転数の周波数60Hzで60分間)に変更したこと以外は比較例1-1と同様に行い、比較例2-2に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。このチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0131】
[比較例2-3]
表3に示すように、解砕工程のビーズミル処理時間を変更(120分間)し、熱処理工程(マッフル炉を用いて650℃で、1時間熱処理)を実施したこと以外は比較例1-1と同様に行い、比較例2-3に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。このチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0132】
[比較例2-4]
表3に示すように、チタン原料としてTiO2をルチル型(比表面積20m2/g、Zr含有量190ppm)に変更したこと以外は比較例2-3と同様に行い、比較例2-4に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成した。このチタン-ニオブ複合酸化物粉末を負極活物質として、後述に記載のラミネート電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0133】
<顕微ラマン分光測定でのスペクトルピーク面積比の算出>
各実施例、各比較例のチタン-ニオブ複合酸化物粉末について、前述に記載の条件でラマンスペクトルを測定した後、560~520cm
-1に現れるスペクトルをピーク分離したピークの面積値(I(538cm
-1))と620~680cm
-1に現れるスペクトルをピーク分離したピークの面積値(I(650cm
-1))を算出した。具体的には、ベースライン補正したラマンスペクトルの波数範囲520~800cm
-1を抜き出し、フィッティング関数としてローレンツ関数を用いたピーク分離を行った。ピーク分離の一例として、実施例2-1のチタン-ニオブ複合酸化物粉末における解析結果を
図1に示す。また、各実施例、各比較例の2本のピーク面積比I(538cm
-1)/I(650cm
-1)を算出した結果を表3に示す。
【0134】
<ラミネート電池の作製>
ラミネート電池は、室温25℃、露点-40℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。前述の方法で作製した負極両面シートを2t/cm2の圧力でプレス加工した後、リード線接続部分を有する負極を作製した。次に、正極活物質としてLiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2を用いた正極片面シートを2t/cm2の圧力でプレス加工した後、リード線接続部分を有する正極を作製した。作製した負極と正極は、150℃で12時間真空乾燥した。真空乾燥後の正極と負極を、セパレータ(宇部マクセル製、UPZ210)を介して対向させ、積層し、アルミ箔のリード線を正極、負極それぞれに接続し、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した、ラミネート電池用電解液を加えてアルミラミネートで真空封止することで、評価用のラミネート電池を作製した。このとき電池の容量は30mAhで負極と正極の容量の比(負極容量/正極容量)は1.2であった。次に、エージング工程として、60℃の恒温槽内にて、前述の<ラミネート電池の作製>で説明した方法で作製したラミネート電池に、0.2Cの電流で2.75Vまで充電させ、さらに2.75Vで充電電流が0.05Cの電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2Cの電流で1.4Vまで放電させる定電流放電を2サイクル繰り返した。2サイクル目の放電容量を初期放電容量とした。
【0135】
<ラミネート電池特性:5C放電レート特性、-10℃放電レート特性、サイクル容量維持率>
上述の<ラミネート電池の作製>で説明した方法で作製したラミネート電池を用いて、25℃の恒温槽環境下で初期放電容量の0.2Cに相当する電流で2.75Vまで定電流定電圧充電した後、5Cの電流で1.4Vまで放電させて、5C放電容量を求めた。その5C放電容量を初期放電容量で除することで5Cレート放電レート特性(%)を算出した。次に、25℃の恒温槽環境下で初期放電容量の0.2Cに相当する電流で2.75Vまで定電流定電圧充電した後、-10℃の恒温槽環境下に変更した後、0.2Cの電流で1.4Vまで放電させる定電流放電を行い、-10℃放電容量を求めた。その-10℃放電容量を初期放電容量で除することで-10℃放電レート特性(%)を算出した。さらに、55℃の恒温槽内にて、2Cの電流で2.75Vまで充電させ、さらに2.75Vで充電電流が0.05Cの電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、2Cの電流で1.4Vまで放電させる定電流放電を、100サイクル繰り返した。100サイクル目の放電容量を初期放電容量で除することで、サイクル容量維持率(%)を算出した。評価結果を表3に示す。
【0136】
【0137】
<評価結果>
実施例2-1~2-5のチタン-ニオブ複合酸化物粉末を用いた電極は、放電レート特性、低温特性(-10℃放電レート特性)、ならびに高温サイクル特性に優れることが分かった。つまり、ニオブ-チタン複合酸化物粉末の合成条件を、原料に合わせた合成時の焼成温度や解砕条件などを特定の範囲にて実施することで、粉末X線回折の回折図における特定の2本のピークの強度比が1.0以上であり、かつ、顕微ラマン分光によって得られる特定のスペクトルの2本のピークの強度比を0.2以下に制御したニオブ-チタン複合酸化物粉末を得ることができ、電池性能の向上に繋がった。加えて、実施例2-1~2-5のチタン-ニオブ複合酸化物粉末は、顕微ラマン分光によって得られるスペクトルの特定の2本のピークの面積比が0.5以上となる事も判明した。上述した通り、この2本のピーク面積比が変化するということは、結晶構造中のTi-О結合とNb-O結合の強さ関係を反映しており、結果として結晶構造中のリチウムイオンの挿入脱離性が変化していることが推察される。一方で、比較例2-1~2-4のニオブ-チタン複合酸化物粉末は、放電レート特性、低温特性(-10℃放電レート特性)、ならびに高温サイクル特性の両立が見られず、電池特性の改善には至らなかった。
【0138】
(全固体二次電池)
[実施例3-1]
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、上記実施例1-1のニオブ-チタン複合酸化物粉末及び硫化物固体電解質であるLi6PS5Cl粉末(レーザー回折・散乱型粒度分布測定機を使用して得られる体積平均粒径:6μm)ならびに導電剤をニオブ-チタン複合酸化物:Li6PS5Cl:導電剤=60:40:6の質量比になるように秤量し、メノウ乳鉢ならびに遊星型ボールミル機で拡販混合することで、実施例3-1の負極活物質組成物を得た。得られた負極活物質組成物を室温で10分プレス(360MPa)することで直径10mm、厚さ約0.7mmのペレット(成形体)を作製した。この負極活物質組成物を含むペレット状電極、セパレータ層としてペレット状の固体電解質層(Li2S:P2S5=75:25のモル比であるLPSガラス)、及び対極としてのリチウムインジウム合金箔をこの順で積層し、積層体をステンレススチール製の集電体で挟むことで全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0139】
[実施例3-2]
表4に示すように、熱処理工程(マッフル炉を用いて550℃で、1時間熱処理)を追加実施したこと以外は実施例1-1と同様に行い、実施例3-2に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成し、これを用いた以外は、実施例3-1と同様にして、実施例3-2の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0140】
[実施例3-3]
表4に示すように、表面処理工程を実施し、処理剤としてモリブデン酸リチウム(Li2MоO4)を解砕した焼成粉末100gに対して1.0質量%加え、550℃で熱処理工程を実施したこと以外は実施例1-1と同様に行い、実施例3-3に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成し、これを用いた以外は、実施例3-1と同様にして、実施例3-3の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0141】
[実施例3-4]
表4に示すように、上記実施例1-5のニオブ-チタン複合酸化物粉末を用いた以外は、実施例3-1と同様にして、実施例3-4の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0142】
[実施例3-5]
表4に示すように、表面処理工程の処理剤を硫酸アルミニウム16水和物(Al2(SO4)3・16H2O)とモリブデン酸リチウム(Li2MоO4)を解砕した焼成粉末100gに対して1.6質量%と0.5質量%加え、550℃で熱処理工程を実施したこと以外は、実施例1-7と同様に行い、実施例3-5に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成し、これを用いた以外は、実施例3-5の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0143】
[比較例3-1]
表4に示すように、上記比較例1-1のニオブ-チタン複合酸化物粉末を用いた以外は、実施例3-1と同様にして、比較例3-1の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0144】
[比較例3-2]
表4に示すように、解砕工程のビーズミル処理工程を実施しなかった点以外は比較例1-1と同様に行い、比較例3-2に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成し、これを用いた以外は、実施例3-1と同様にして、比較例3-2の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0145】
[比較例3-3]
表4に示すように、表面処理工程を実施し、処理剤としてモリブデン酸リチウム(Li2MоO4)を解砕した焼成粉末100gに対して1.0質量%加え、550℃で熱処理工程を実施したこと以外は比較例3-2と同様に行い、比較例3-3に係るチタン-ニオブ複合酸化物粉末を合成し、これを用いた以外は、実施例3-1と同様にして、比較例3-3の負極活物質組成物を得た後に全固体二次電池を作製し、電池特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0146】
<1C充放電レート特性の測定>
25℃の恒温槽内にて、上述の方法で作製した全固体二次電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、ニオブ-チタン複合酸化物の理論容量の0.05Cに相当する電流で0.5Vまで充電を行い、さらに0.5Vで充電電流が0.01Cに相当する電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行い、充電容量(mAh)をニオブ-チタン複合酸化物の質量で割ることで、初期充電容量(mAh/g)として求めた。その後、0.05Cに相当する電流で2Vまで放電させる定電流放電を行った。放電容量(mAh)をニオブ-チタン複合酸化物の質量で割ることで、初期放電容量(mAh/g)として求めた。次に、ニオブ-チタン複合酸化物の理論容量の1Cに相当する電流で0.5Vまで充電した後、1C充電容量を求めた。その1C充電容量を初期充電容量で除することで1C充電レート特性(%)を算出した。その後、ニオブ-チタン複合酸化物の理論容量の1Cに相当する電流で2Vまで放電した後、1C放電容量を求めた。その1C放電容量を初期放電容量で除することで1C放電レート特性(%)を算出した。評価結果を表4に示す。
【0147】
【0148】
<評価結果>
実施例3-1~3-5のニオブ-チタン複合酸化物粉末を用いた負極活物質組成物は、、全固体二次電池における電池性能に優れることが分かった。一方で、比較例3-1~3-3のニオブ-チタン複合酸化物粉末を用いた負極活物質組成物は、全固体二次電池における電池性能に改善が見られなかった。
本発明で得られるニオブ-チタン複合酸化物粉末は、エネルギー密度向上と充放電レート特性改善、ならびに低温領域での電池性能を改善できるので、リチウムイオン電池の電極活物質として有用であり、さらに全固体電池でも性能改善を示すことから、全固体二次電池の電極活物質としても有用である。このニオブ-チタン複合酸化物粉末を電極活物質として用いる蓄電デバイスは、自動車や電子機器等、各種機器の駆動用またはバックアップ用、家庭や事務所等での夜間電力貯蔵用の二次電池として有用である。非水電解質二次電池に代表されるリチウムイオン電池向け電極材料の社会への提供により、国際連合が制定する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標12(持続可能な生産消費形態を確保する)、目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)、目標7(すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する)、および目標11(包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する)の達成に貢献することができる。