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特開2024-146409熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146409
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241004BHJP
   B29C 48/305 20190101ALI20241004BHJP
   B29C 48/40 20190101ALI20241004BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20241004BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20241004BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20241004BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20241004BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29C48/305
B29C48/40
B29C55/12
C08L23/10
C08L29/04 S
B32B7/027
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059276
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】木村 和輝
(72)【発明者】
【氏名】小沼 健太
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F207
4F210
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA29X
4F071AA78
4F071AF08
4F071AF23
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F100AK06B
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK24A
4F100AK63B
4F100AK64A
4F100AK64B
4F100AK69A
4F100AL02A
4F100AL02B
4F100AL07A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CB03A
4F100CB03B
4F100EH17A
4F100EJ38A
4F100GB15
4F100GB66
4F100JA04A
4F100JB04A
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JD02A
4F100JK10
4F100JL12A
4F100YY00A
4F207AA11
4F207AA19
4F207AB19
4F207AG01
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL84
4F207KW41
4F210AA11
4F210AA19
4F210AB19
4F210AG01
4F210AR06
4F210QA08
4F210QC05
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG17
4F210QP18
4J002BB12W
4J002BB15W
4J002BB21Y
4J002BE03X
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】良好なガスバリア性、耐衝撃性及びヒートシール性を有する熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ヒートシール性熱可塑性樹脂とガスバリア性熱可塑性樹脂とを含み、前記ヒートシール性熱可塑性樹脂の中に前記ガスバリア性熱可塑性樹脂が島として存在する海島構造が形成された熱可塑性樹脂フィルムであって、延伸されており、前記ガスバリア性熱可塑性樹脂は、当該フィルムの面方向に対して偏平状に広がった形状を有し、かつ、当該フィルムの表面上の任意の点から当該フィルムの厚み方向に向かって、フィルム厚み1μm当たり0.3層以上重なっており、当該フィルムの示差走査熱量計による測定において、1stRunにおける融解熱ピーク温度は、2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して、2℃以上高温である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール性熱可塑性樹脂とガスバリア性熱可塑性樹脂とを含み、前記ヒートシール性熱可塑性樹脂の中に前記ガスバリア性熱可塑性樹脂が島として存在する海島構造が形成された熱可塑性樹脂フィルムであって、
延伸されており、
前記ガスバリア性熱可塑性樹脂は、当該フィルムの面方向に対して偏平状に広がった形状を有し、かつ、当該フィルムの表面上の任意の点から当該フィルムの厚み方向に向かって、フィルム厚み1μm当たり0.3層以上重なっており、
当該フィルムの示差走査熱量計による測定において、1stRunにおける融解熱ピーク温度が、2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して、2℃以上高温である、
ことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
厚みが10μm以上200μm以下である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ヒートシール性熱可塑性樹脂と前記ガスバリア性熱可塑性樹脂それぞれの示差走査熱量計による2ndRunにおける融解熱ピーク温度の間の差が、絶対値で0℃以上10℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
さらに相容化剤を含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
前記ヒートシール性熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、エチレン-ポリプロピレン共重合体又はブロックポリプロピレンであり、かつ前記ガスバリア性熱可塑性樹脂はエチレン-ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、さらにヒートシール層が積層されており、
前記ヒートシール層は、前記ガスバリア性熱可塑性樹脂を含まないこと、
を特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
ヒートシール性熱可塑性樹脂及びガスバリア性熱可塑性樹脂それぞれの示差走査熱量計による2ndRunにおける融解熱ピーク温度の間の差が、絶対値で0℃以上10℃以下である前記ヒートシール性熱可塑性樹脂及び前記ガスバリア性熱可塑性樹脂を選択する工程と、
前記ヒートシール性熱可塑性樹脂と前記ガスバリア性熱可塑性樹脂と相容化剤と含む熱可塑性樹脂を二軸押出機により混錬する工程と、
混錬された前記熱可塑性樹脂を押出成形する工程と、
前記押出成形された熱可塑性樹脂を、示差走査熱量計による測定において、1stRunにおける融解熱ピーク温度が2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して2℃以上高くなるように二軸延伸する工程と、
を含む、
前記ヒートシール性熱可塑性樹脂の中に前記ガスバリア性熱可塑性樹脂が島として存在する海島構造を形成している熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なガスバリア性、耐衝撃性及びヒートシール性を有する熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチックフィルムは、軽量である、化学的に安定である、加工がしやすい、柔軟で強度がある、大量生産が可能、などの性質がある。このため、プラスチックフィルムは、様々なものに利用されている。プラスチックフィルムの用途としては、例えば、食料品や医薬品等を包装する包装材や、点滴パック、買い物袋、ポスター、テープ、液晶テレビ等に利用される光学フィルム、保護フィルム、窓に貼合するウィンドウフィルム、ビニールハウス、建装材等々、多岐にわたる。このような用途に対し、用途に応じて適正なプラスチック材料が選択される。
【0003】
例えば、ポリオレフィンから構成されるプラスチックフィルムは、適度な柔軟性、透明性を有すると共に、ヒートシール性に優れるため、包装材料に広く使用されている。また、水蒸気バリア性に優れるが、一方で、酸素ガスなどに対するガスバリア性には劣るフィルムとなっている。そこで、用途に応じて、ガスバリア性に優れる樹脂や、ポリエステルやポリアミドなどから構成されるプラスチックフィルムに蒸着やコーティングによりガスバリア層を設けたバリアフィルムを、ポリオレフィンのフィルムと積層することで、ガスバリア性にも優れた包装材を得ている。しかし、複数のプラスチックフィルムを積層することは、製造工程が複雑になり、コストが増大してしまう。また、各々フィルム間の接着性が必ずしも良くはなくフィルム界面での剥離が生じてしまい、耐衝撃性、つまり、内容物の保護性能において劣ることがある。
【0004】
そこで、特許文献1及び2では、複数のプラスチックを積層するのではなく混練することで、ガスバリア性に優れた包装材を提案している。通常に混練するだけでは複数のプラスチックが微分散化してしまいガスバリア性が悪くなってしまうため、フィルムを延伸することで分散構造を引き伸ばし、ガスバリア性樹脂の偏平化を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-155419
【特許文献2】特開2016-150949
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、どちらの文献の手法も、ガスバリア性、耐衝撃性及びヒートシール性を全て両立できているとは言い難い。ガスバリア性を向上させるためには十分にガスバリア性樹脂を偏平化させる必要があり、耐衝撃性を向上させるためには複数樹脂を微分散化させる必要があり、ヒートシール性を向上させるためには表面にヒートシール性樹脂が配置されている必要があるが、特許文献1,2ともに全てを良好化させるには至っていない。
【0007】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、良好なガスバリア性、耐衝撃性及びヒートシール性を有する熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、代表的な本発明のフィルムの一つは、ヒートシール性熱可塑性樹脂とガスバリア性熱可塑性樹脂とを含み、前記ヒートシール性熱可塑性樹脂の中に前記ガスバリア性熱可塑性樹脂が島として存在する海島構造が形成された熱可塑性樹脂フィルムであって、延伸されており、前記ガスバリア性熱可塑性樹脂は、当該フィルムの面方向に対して偏平状に広がった形状を有し、かつ当該フィルムの表面上の任意の点から当該フィルムの厚み方向に向かって、フィルム厚み1μm当たり0.3層以上重なっており、当該フィルムの示差走査熱量計による測定において、1stRunにおける融解熱ピーク温度は、2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して2℃以上高温である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好なガスバリア性、耐衝撃性及びヒートシール性を有する熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法を提供することができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の熱可塑性樹脂フィルムにおける一例を模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態の熱可塑性樹脂フィルムにおける別の一例を模式的に示す断面図である。
図3】本実施形態の熱可塑性樹脂フィルムの示差走査熱量計による融解熱ピーク温度の測定における加熱及び冷却温度のタイムプロファイルを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、各図は模式的に示した図であり、各部の大きさや形状等は理解を容易にするために適宜誇張して示している。また、説明を簡単にするため、各図の対応する部位には同じ符号を付している。
【0012】
本実施形態の熱可塑性樹脂フィルム1は、図1に示すように、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3とを含み、ヒートシール性熱可塑性樹脂の中にガスバリア性熱可塑性樹脂が島として存在する海島構造が形成され、また延伸されている。延伸後の熱可塑性樹脂フィルム1の厚みは、その用途によって適宜選択されるものであるが、一般的な用途であれば、通常10μm以上200μm以下の範囲が好ましい。ガスバリア性熱可塑性樹脂3は、フィルム表面上の任意の点からフィルムの厚み方向に向かって、フィルム厚み1μm当たり0.3層以上重なっている。つまり、熱可塑性樹脂フィルムの面に対して交差する方向に向かって針を刺した場合、例えば10μmの厚みのフィルムでは、どこを刺しても当該ガスバリア性熱可塑性樹脂を3層以上突き刺すことができることを意味している。さらに、この熱可塑性樹脂フィルム1を示差走査熱量計(DSC)により測定すると、1stRunにおける融解熱ピーク温度は、2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して2℃以上高温である。
【0013】
ここで、1stRun及び2ndRunにおける融解熱ピーク温度とは、JISK7121(2012年)に準ずる方法により測定される値である。具体的には、図3に示すように、まず、初期温度としてあらかじめ融解熱ピーク温度より100℃低い温度又は室温のいずれか低い方の温度で装置が安定するまで保持した後(a)、熱劣化温度未満であって融解ピーク終了時より30℃以上高い温度まで加熱速度毎分10℃で加熱し(b)、この温度で10分間保持する(c)。加熱温度が図3の(a)~(b)の範囲(1stRun)で得られたDSC曲線から求めた融解熱ピークの頂点温度を、1stRunにおける融解熱ピーク温度とした。続いて、初期温度に到達するまで冷却速度毎分10℃で冷却し(d)、装置が安定するまで初期温度で保持した後(e)、熱劣化温度未満であって融解ピーク終了時より30℃以上高い温度まで加熱速度毎分10℃で加熱し(f)、この温度で10分間保持する(g)。加熱温度が図3の(e)~(f)の範囲(2ndRun)で得られたDSC曲線から求めた融解熱ピークの頂点温度を、2ndRunにおける融解熱ピーク温度とした。
【0014】
ヒートシール性熱可塑性樹脂2が海島構造の海をなすことで、熱可塑性樹脂フィルム1は、ヒートシール性を有することができる。これにより、図2に示すような、別のヒートシール層4を熱可塑性樹脂フィルム1の少なくとも一方の面にさらに積層する場合においても、ヒートシール層4と熱可塑性樹脂フィルム1とを強く密着させることができる。
また、ガスバリア性熱可塑性樹脂3は、フィルムの面方向に偏平状に広がった形状をしていることから、迷路効果によりガスバリア性を向上させることができる。
【0015】
さらに、ガスバリア性熱可塑性樹脂3は、フィルムの表面上の任意の点からフィルムの厚み方向に向かって、フィルム厚み1μm当たり0.3層以上重なっていることで、ガスバリア性をさらに向上させることができるとともに、耐衝撃性を向上させることができる。海島構造を有するフィルムにおいて耐衝撃性を向上させるためには、衝撃応力を分散させる、すなわち、分散構造を微細にさせる必要があるが、偏平状に広がった形状の場合、微細の定義が難しい。本発明により、フィルムの厚み方向に対してフィルム厚み1μm当たりガスバリア性熱可塑性樹脂3が0.3層以上重なっていることで、良好な耐衝撃性を得ることができると判明した。したがって、ガスバリア性熱可塑性樹脂は、例えば、一般的な用途における適した厚み範囲において、最も薄い厚み10μmのフィルムでは3層以上、最も厚い厚み200μmのフィルムでは60層以上重なっていることになり、良好なガスバリア性及び耐衝撃性を得ることができる。なお、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の重なり数は、フィルム厚み1μm当たり0.5層以上が好ましく、フィルム厚み1μm当たり0.8層以上がより好ましく、フィルム厚み1μm当たり1.0層以上がさらに好ましい。
【0016】
ガスバリア性熱可塑性樹脂3の重なり数を確認するには、公知の手法を用いることができる。例えば、必要に応じてフィルムを樹脂などに包埋した後、ミクロトームなどを用いてフィルム断面を切り出し、その断面を光学顕微鏡、走査電子顕微鏡、又は透過型電子顕微鏡などにより観察し、確認することができる。必要に応じ、染色により画像のコントラストを向上させてもよい。走査型プローブ顕微鏡又はレーザーラマン顕微鏡などにより確認してもよい。その他、分散状態に対して十分な分解能を有するいずれの観察手法を用いてもよい。
【0017】
ガスバリア性熱可塑性樹脂3をフィルムの面方向に偏平状に広げ、かつ、フィルム厚み1μm当たり0.3層以上重ねるためには、熱可塑性樹脂フィルム1が延伸されており、かつ、熱可塑性樹脂フィルム1を示差走査熱量計(DSC)により測定した際、1stRunにおける融解熱ピーク温度が、2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して、2℃以上高温である必要がある。
【0018】
つまり、フィルムを延伸すると、フィルム内に分散するガスバリア性熱可塑性樹脂3を偏平状にしつつ、重なり数を増加させることができる。また、延伸倍率や延伸温度や延伸速度、予熱時間などのプロセス条件を最適化することによって、1stRunにおける融解熱ピーク温度が2ndRunにおける融解熱ピーク温度よりも2℃以上高くなっていれば、分散したガスバリア性熱可塑性樹脂3は十分に偏平な状態となる。一方、この温度差が2℃未満の場合では、偏平化が不十分な状態であり、良好なガスバリア性及び耐衝撃性を得ることができない。この温度差は、より好ましくは3℃以上であり、さらに好ましくは5℃以上である。
【0019】
ここで、延伸は、例えば、同時二軸延伸や逐次二軸延伸を用いてもよく、同時もしくは逐次二軸延伸後さらに延伸を施す多段延伸でもよく、又は流れ方向(MD方向)もしくは幅方向(TD方向)のみの一軸延伸でもよい。一軸延伸の場合、未延伸フィルムは流れ方向に延びやすいことから、ガスバリア性熱可塑性樹脂3をより効果的に偏平状に広げるためには、幅方向への一軸延伸が好ましい。同様の理由により、延伸倍率は、流れ方向よりも幅方向に大きいことが好ましい。
【0020】
また、ダイスから吐出直後から冷却固化されるまでの間に、溶融状態の樹脂を、上記以外の延伸方法で延伸してもよい。ただし、1stRunにおける融解熱ピーク温度は、2ndRunにおける融解熱ピーク温度よりも2℃以上高温である必要があり、それを達成するためには上記で示した延伸方法が好ましい。
【0021】
特に規定されるものではないが、分散したガスバリア性熱可塑性樹脂3の大きさはランダムであることが好ましく、またフィルム厚み方向に対する重なりもランダムであることが好ましい。規則正しく重なると、ガスバリア性の低下や耐衝撃性の低下をまねく可能性があるが、大きさや重なりが揃った状態を作りにくくすることで、性能低下のきっかけとなる部分の発生を低減することができる。また、フィルムの厚み断面における、偏平状のガスバリア性熱可塑性樹脂3の長軸の長さと短軸の長さの比を表すアスペクト比は、大きい方が好ましい。例えば、フィルムの厚み断面におけるガスバリア性熱可塑性樹脂3の総面積を100%としたとき、アスペクト比が10以上のものが面積率で50%以上存在していると好ましく、アスペクト比が15以上のものが面積率で50%以上存在しているとさらに好ましい。
【0022】
ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3それぞれの融解熱ピーク温度の間の差が、絶対値で0℃以上10℃以下となるように選択することが好ましい。
【0023】
ここでの融解熱ピーク温度とは、上記の方法に従って求められた示差走査熱量計による2ndRunにおける融解熱ピーク温度である。
【0024】
融解熱ピーク温度の間の差が絶対値で0℃以上10℃以下の場合、延伸した時にガスバリア性熱可塑性樹脂3をより偏平状にしやすくすることができる。この融解熱ピーク温度差は、絶対値で0℃以上8℃以下がより好ましく、0℃以上5℃以下がさらに好ましい。
【0025】
ヒートシール性熱可塑性樹脂2としては、特に限定されるものではないが、低密度ポリエチレン(LDPE)、α-オレフィンとエチレンを共重合した直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー等があるポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンとオレフィンを共重合したシクロオレフィンコポリマー及び、上記オレフィンと酢酸ビニルを共重合して得られるエチレン-酢酸ビニルコポリマーやオレフィンの側鎖を変性して得られる、エチレン-メチルアクリレート共重合(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)等のうち単体または複数を選択し適宜使用する事が可能である。
【0026】
ガスバリア性熱可塑性樹脂3としては、特に限定されるものではないが、芳香族ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、フランジカルボン酸基、またはナフタレンジカルボン酸基含有ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリメタキシレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のうち単体または複数を選択し適宜使用する事が可能である。ポリアミドMXD6の場合は、ガスバリア性の他に耐熱水性もあるので、ボイル・レトルト用途の包装材にも使用できる利点がある。
【0027】
ガスバリア性熱可塑性樹脂3の混合割合は、特に限定されるものではないが、ガスバリア性及び耐衝撃性を両立することができるため、好ましくは5wt%~50wt%であり、さらに好ましくは10wt%~40wt%であり、さらに好ましくは20wt%~40wt%である。
【0028】
なかでも、ヒートシール性熱可塑性樹脂2は、ポリプロピレン、エチレン-ポリプロピレン共重合体又はブロックポリプロピレンであり、かつガスバリア性熱可塑性樹脂3はエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)であることが好ましい。この場合、ヒートシール性が良好でありながら、ガスバリア性も高く、さらに、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の分散構造を偏平状にしやすくすることができる。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、エチレン比率を変更することで、融解熱ピーク温度を制御できるため、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3の融解熱ピーク温度の差も制御しやすい。
【0029】
さらに、熱可塑性樹脂フィルム1は、ガスバリア性熱可塑性樹脂3のヒートシール性熱可塑性樹脂2への分散性及び相界面の密着力を向上させるために、相容化剤が含まれていてもよい。相容化剤の例としては、特に限定されるものではないが、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、無水マレイン酸基等の極性基が含まれた高分子が好ましい。特に、無水マレイン酸変性樹脂ポリオレフィンが好適に用いられる。混合割合は、1wt%~20wt%が好ましく、3wt%~15wt%がより好ましく、5wt%~12wt%がさらに好ましい。これにより、ガスバリア性及び耐衝撃性を両立することができる。
【0030】
熱可塑性樹脂フィルム1には、その他、各種添加剤が混合されていてもよい。例えば、造核剤、補強フィラー、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、光安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、気泡防止剤、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックス等の添加材を用いてもよいし、耐衝撃特性をさらに向上させるためにエラストマー等のゴム成分を用いてもよい。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0031】
図2のように、熱可塑性樹脂フィルム1の少なくとも一方の面に、さらにヒートシール層4が積層されていてもよい。このとき、ヒートシール層4には、ガスバリア性熱可塑性樹脂3が含まれていないことが望ましい。ヒートシール層4の材料は、ヒートシール性熱可塑性樹脂2と同じでもよいし、異なっていてもよい。また、ヒートシール層4の材料は、ヒートシール温度に合わせて選択することができるが、ヒートシール性熱可塑性樹脂2との密着性に優れる材料とすることで、層間はく離を防ぐことができる。
【0032】
また、熱可塑性樹脂フィルム1の、ヒートシール層4の配置される面とは反対の面に、機能層が配置されていてもよい。機能層とは、例えば、印刷層、蒸着層、又はその他コーティング層などである。
【0033】
本実施形態における熱可塑性樹脂フィルム1を製造する方法は、(1)ヒートシール性熱可塑性樹脂2及びガスバリア性熱可塑性樹脂3それぞれの示差走査熱量計による2ndRunにおける融解熱ピーク温度の間の差が絶対値で0℃以上10℃以下であるヒートシール性熱可塑性樹脂2及びガスバリア性熱可塑性樹脂3を選択する工程と、(2)ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3と相容化剤とを含む熱可塑性樹脂を二軸押出機により混練する工程と、(3)混錬された熱可塑性樹脂を押出成形する工程と、(4)押出成形された熱可塑性樹脂を、示差走査熱量計による測定において、1stRunにおける融解熱ピーク温度が2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して2℃以上高くなるように二軸延伸する工程とを含み、ヒートシール性熱可塑性樹脂2の中にガスバリア性熱可塑性樹脂3が島として存在する海島構造を形成している。
ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3の融解熱ピーク温度差が0℃以上10℃以下であるため、フィルム内でガスバリア性熱可塑性樹脂3が偏平化されやすくなり、押出成形前に相溶剤を加えて混練することで分散度が向上し、さらに二軸延伸によりフィルム内の分散構造が引き伸ばされる。これにより、ガスバリア性熱可塑性樹脂3は、海島構造の島として存在し、かつフィルムの厚み方向に向かってフィルム厚み1μm当たり0.3層以上重なることとなり、耐衝撃性、ガスバリア性及びヒートシール性を向上することができる。
【0034】
熱可塑性樹脂フィルム1の成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、又は圧縮成形等により未延伸フィルムを作成し、その後延伸する方法などを用いることができる。または、インフレーション成形又はブロー成形のように、溶融後から冷却されるまでの間に延伸される方法でもよい。
【0035】
ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3の混合方法として、成形を行う前に、例えば、単軸押出機、二軸押出機、又は混練機などによって混練する方法を用いてもよい。複数の樹脂を混練することで、分散サイズを小さくし、耐衝撃性などの強度を向上させることができる。混錬方法は、二軸押出機や混練機のようなせん断応力が強くかかる方法が好ましく、さらに二軸押出機のように連続的に製造できる方法がより好ましい。
【0036】
複数の層を積層する場合には、例えば、フィードブロック又はマルチマニホールドを介したダイで製膜する方法など、いずれの方法で製造してもよい。
【0037】
熱可塑性樹脂フィルム1の延伸方法は、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、同時もしくは逐次二軸延伸後さらに延伸を施す多段延伸、又は一軸延伸など、いずれの方法でもよい。特に、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに優れた機械的特性を持たせるために二軸延伸することが好ましい。延伸倍率は、未延伸フィルムは流れ方向に延びやすいことから、流れ方向よりも幅方向に大きい方が好ましい。一軸延伸の場合は、ガスバリア性熱可塑性樹脂3をより効果的に偏平状に広げるため幅方向への一軸延伸の方が好ましい。延伸倍率については、好適に選択することができ、例えば、2倍~10倍が好ましい。
【0038】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム1は、他基材と積層して包装材とすることができる。熱可塑性樹脂フィルム1を単体フィルムまたは積層体として用いる包装材の場合、スタンディングパウチの他に、三方袋、合掌袋、ガゼット袋、スパウト付きパウチ、ビーク付きパウチ等にも用いる事が可能である。また、当該包装材(包装袋)の製袋様式は特に制限されるものではない。
【0039】
上述の様に、熱可塑性樹脂フィルム1を単体フィルムとして用いる、又は他基材と積層して用いる、いずれの場合でも、適宜、後工程適性を向上する表面改質処理を実施することが可能である。例えば、単体フィルムとしての使用時の印刷適性向上、積層構成として使用時のラミネート適性向上のために他基材と接触する面に対して表面改質処理を行うことが可能である。表面改質処理はコロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等のフィルム表面を酸化させる事により官能基を発現させる手法や、易接着層のコーティング等のウェットプロセスによる改質を好適に用いることが可能である。
【0040】
なお、製造方法は上述した方法に限定されるものではなく、成形機により製膜した樹脂成形体を、インライン、オフライン、またはバッチ式の延伸処理を施しても構わない。その他、適宜必要な工程や添加剤を加えることは制限されるものではない。
【実施例0041】
以下、本発明者らが作成した実施例を、比較例と比較して詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
ヒートシール性熱可塑性樹脂2としてサンアロマー株式会社製のホモポリプロピレン(PP)樹脂「PC412A」を用い、ガスバリア性熱可塑性樹脂3として株式会社クラレ製のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂「エバールE105B」を用い、さらに、相容化剤として理研ビタミン株式会社製の無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PP-MAH)樹脂「リケエイドMG-441P」を用いた。上記3つの樹脂を、順に55wt%、35wt%、10wt%の割合でドライブレンドし、株式会社プラスチック工学研究所製の押出成形により厚み1mmの未延伸フィルム(シート)を作製した。その後、エバー測機株式会社製のバッチ式二軸延伸機により厚み50μmの延伸フィルムを作製した。また、延伸倍率は、未延伸フィルムの流れ方向、幅方向共に4倍とした。
【0043】
(比較例1)
比較例1は、押出成形により厚み50μmの未延伸フィルムを作製し、その後の延伸工程を実施しなかったことを除いて、実施例1と同様にした。
【0044】
(比較例2)
比較例2は、押出成形により厚み1mmの未延伸フィルムをTダイから吐出させた後、Tダイから約100mm移動した位置において溶融状態のまま手で引張る(ここでは溶融延伸1と記載する)ことで、厚みを約50μmとなるようにしたフィルムを作製したことを除いて、比較例1と同様にした。
【0045】
(実施例2)
実施例2は、比較例2に対して、吐出した樹脂がより冷えた位置(Tダイから約300mm移動した位置であって固化する前の温度を保持している位置)にて手で引張る(ここでは溶融延伸2と記載する)ことで、厚みを約50μmとなるようにしたフィルムを作製し、その後の延伸工程を実施しなかったことを除いて、実施例1と同様にした。
【0046】
(実施例3)
実施例3は、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3と相容化剤の3つの樹脂を、事前に株式会社日本製鋼所製の二軸押出機により混練したマスターバッチを作製し、押出成形を実施したことを除いて、実施例1と同様にした。
【0047】
(比較例3)
比較例3は、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3と相容化剤の3つの樹脂を、事前に株式会社日本製鋼所製の二軸押出機により混練したマスターバッチを作製し、押出成形を実施したことを除いて、比較例1と同様にした。
【0048】
(実施例4)
実施例4は、相容化剤は用いず、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3のみを使用し、これらの混合比を順に65wt%、35wt%としたことを除いて、実施例3と同様にした。
【0049】
(比較例4)
比較例4は、相容化剤は用いず、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3のみを使用し、これらの混合比を順に65wt%、35wt%としたことを除いて、比較例3と同様にした。
【0050】
(比較例5)
比較例5は、相容化剤は用いず、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3のみを使用し、これらの混合比を順に65wt%、35wt%とし、押出成形により厚み1mmの未延伸フィルム(シート)を作製した後、バッチ式二軸延伸機により厚み50μmの延伸フィルムを作製したことを除いて、比較例1と同様にした。
【0051】
(比較例6)
比較例6は、相容化剤は用いず、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3のみを使用し、これらの混合比を順に65wt%、35wt%としたことを除いて、比較例1と同様にした。
【0052】
(比較例7)
比較例7は、相容化剤として三井・ダウポリケミカル株式会社製のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂「EV450」を用いたことを除いて、比較例1と同様にした。
【0053】
(ガスバリア性熱可塑性樹脂3の重なり数の算出)
得られたフィルムの厚み断面観察は、2mm×5mm(観察部が2mm)になるようにサンプルを切り出し、日本電子株式会社製の可視光硬化性包埋樹脂「D-800」にて包埋したものを、ライカマイクロシステムズ製のウルトラミクロトーム「EM UC7i」を用いてガラスナイフ及びダイヤモンドナイフの順で断面出しすることで実施した。その後、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3の観察画像においてコントラスト差を出すため、四酸化ルテニウムにより染色し、再度ウルトラミクロトームを用いてダイヤモンドナイフで断面出しを行い、観察断面を得た。観察試験片切り出し個所は、各サンプルの無作為に選んだ10箇所とした。観察には株式会社日立ハイテクノロジーズ製の走査電子顕微鏡「SU8020」を用いて、観察倍率を1000倍~20000倍の範囲で適時変更しながら、画像にて上記断面を観察し、重なり数を算出した。
【0054】
(1stRunと2ndRunとの融解熱ピーク温度差の算出)
得られたフィルムの1stRunにおける融解熱ピーク温度、2ndRunにおける融解熱ピーク温度は、株式会社日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計「DSC7020」を用いて、JIS K7121(2012年)に準ずる方法により測定した。具体的には、得られたフィルムを約5mg切り出し、ALパンに封入した後、図3に示すように、室温で装置が安定するまで保持した後(a)、室温から10℃/minの速度で230℃まで昇温させた(b)。加熱温度が図3の(a)~(b)の範囲(1stRun)で得られたDSC曲線から1stRunにおける融解熱ピーク温度を求めた。その後230℃にて10分保持した後(c)、10℃/minの速度で室温まで降温させ(d)、室温にて10分保持した(e)。その後、再度、室温から10℃/minの速度で230℃まで昇温させ(f)、加熱温度が図3の(e)~(f)の範囲(2ndRun)で得られたDSC曲線から2ndRunにおける融解熱ピーク温度を求めた。1stRunと2ndRunとの融解熱ピーク温度差は、1stRunにおける融解熱ピーク温度から2ndRunにおける融解熱ピーク温度を引くことで算出した。
【0055】
(ガスバリア性評価)
ガスバリア性評価では、GTRテック株式会社製の高感度水蒸気透過度測定装置「GTR-3000」を用い、温度30℃、ドライ環境下で酸素透過度を測定した。得られた各フィルムについて、フィルム厚み100μmに換算したときの酸素透過度が、40cc/m2/day/atm以下となったものを「〇」とし、40cc/m2/day/atmを超えたものを「×」とした。
【0056】
(耐衝撃性評価)
耐衝撃性評価では、株式会社東洋精機製のフィルムインパクトテスターを用いて、温度-5℃、秤量1.5J、弾頭サイズ1.5インチの条件で測定を実施した。測定値が50mJ以上になったものを「〇」とし、50mJ未満となったものを「×」とした。
【0057】
(総合評価)
総合評価については、上記のガスバリア性評価及び耐衝撃性評価のどちらも「〇」のものを、総合評価として「〇」とし、どちらかでも「×」となったものを、総合評価として「×」とした。
【0058】
実施例1,2,3,4、比較例1,2,3,4,5,6,7における条件、及び評価結果の一覧を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(実施例5,6,7,8,9,10,11,12,13,14)
実施例5,6,7,8,9,10,11,12,13,14は、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3の材料の両方又はいずれかを変更したことを除いて、実施例1と同様とした。
実施例5,6,7は、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の材料を、それぞれ、株式会社クラレ製のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂「エバールG156B」,「エバールH171B」,「エバールF171B」とした。
実施例8,9,10,11は、ヒートシール性熱可塑性樹脂2をサンアロマー株式会社製のホモポリプロピレン(PP)樹脂「PC600A」とした上で、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の材料を、それぞれ、株式会社クラレ製のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂「エバールG156B」,「エバールE105B」,「エバールH171B」,「エバールF171B」とした。
実施例12,13,14は、ヒートシール性熱可塑性樹脂2を株式会社プライムポリマー製のランダムポリプロピレン(PP)樹脂「F227」とした上で、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の材料を、それぞれ、株式会社クラレ製のエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂「エバールG156B」,「エバールE105B」,「エバールH171B」とした。
【0061】
得られたフィルムについて、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の重なり数の評価、1stRunと2ndRunとの融解熱ピーク温度差の評価、及び耐衝撃性評価については、上記と同様に評価を行った。また、ガスバリア性評価については、酸素透過度が、20cc/m2/day/atm以下となったものを「◎」とし、40cc/m2/day/atm以下となったものを「〇」とし、40cc/m2/day/atmを超えたものを「×」として、評価分類を3つに分けた点を除き、上記と同様に評価を行った。併せて、総合評価も、ガスバリア性評価が「◎」及び耐衝撃性評価が「〇」のものを総合評価として「◎」とし、どちらも「〇」のものを総合評価として「〇」とし、どちらかでも「×」となったものを総合評価として「×」とした。
【0062】
(各樹脂の融解熱ピーク温度の測定)
ヒートシール性熱可塑性樹脂2及びガスバリア性熱可塑性樹脂3それぞれの融解熱ピーク温度は、熱可塑性樹脂フィルム1の融解熱ピーク温度測定と同様に、株式会社日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計「DSC7020」を用いて、JISK7121(2012年)に準ずる方法により測定した。具体的には、各樹脂ペレットを約5mg切り出し、ALパンに封入し、図3に示すように、室温で装置が安定するまで保持した後(a)、室温から10℃/minの速度で230℃まで昇温させ(b)、230℃にて10分保持した後(c)、10℃/minの速度で室温まで降温させ(d)、室温にて10分保持した(e)。その後、再度、室温から10℃/minの速度で230℃まで昇温させた(f)。加熱温度が図3の(e)~(f)の範囲(2ndRun)で得られたDSC曲線から2ndRunにおける融解熱ピーク温度を求め、この温度を各樹脂の融解熱ピーク温度とした。
【0063】
実施例1及び実施例5,6,7,8,9,10,11,12,13,14における条件、及び評価結果の一覧表を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
(評価結果)
表1に示すように、実施例1は、逐次二軸延伸工程を実施したことで、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の偏平化が進み、同時にガスバリア性熱可塑性樹脂3の重なり数及び1stRunと2ndRunとの融解熱ピーク温度差が大きくなり、それに合わせて、ガスバリア性、耐衝撃性も向上し、どちらも「〇」となった。一方、比較例1では、逐次二軸延伸工程を実施しなかったため、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の偏平化と分散化が不十分となったことにより、融解熱ピーク温度差がなく、ガスバリア性及び耐衝撃性のいずれも「×」となった。
【0066】
比較例2は、逐次二軸延伸を行わなかった比較例1に対して、手で引っ張ることによる溶融状態での延伸を実施したが、効果は見られず、ガスバリア性、耐衝撃性ともに「×」であった。一方、実施例2のように、延伸の条件によっては、ガスバリア性と耐衝撃性がともに良好化し、「〇」となる条件があることも判明した。実施例2では、比較例2の場合よりも低い温度での溶融状態において手で延伸したところ、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の重なり数及び1stRunと2ndRunとの融解熱ピーク温度差が大きくなった。
【0067】
比較例3は、相容化剤を添加し、事前に二軸押出機による混練工程を実施したことにより、ガスバリア性熱可塑性樹脂3を微分散化することができ、耐衝撃性は「〇」となったが、いずれの延伸も行わなかったため、形状が偏平化されず、ガスバリア性は「×」となった。一方、比較例3に対して逐次二軸延伸を行った実施例3では、ガスバリア性熱可塑性樹脂3が偏平状となり、重なり数も増加したことで、ガスバリア性が向上し、実施例1と同様に「〇」となった。
【0068】
比較例4は、事前に二軸押出機による混練工程を実施したが、相容化剤を添加せず、いずれの延伸も行わなかったため、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の偏平化と分散化が不十分となったことから、融解熱ピーク温度差がなく、いずれも「×」の結果となった。一方、比較例4に対して、逐次二軸延伸工程を実施した実施例4は、ガスバリア性熱可塑性樹脂3が偏平化され、重なり数も増加したため、ガスバリア性及び耐衝撃性のいずれも「〇」の結果となった。
【0069】
比較例6では、延伸工程を実施しなかったため、ガスバリア性熱可塑性樹脂3は流れ方向には伸びており偏平状であったものの、幅方向には伸びておらず丸い形状であった。また、分散サイズも大きくなっており、重なり数は小さかった。結果、ガスバリア性、耐衝撃性ともに「×」であった。一方、比較例5では、比較例6と異なり、逐次二軸延伸工程を実施したが、1stRunと2ndRunとの融解熱ピーク温度差が向上したものの、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の元々の分散サイズが大きく、延伸を行ってもガスバリア性熱可塑性樹脂3の重なり数があまり増加しなかった。そのため、実施例1,3,4とは異なり、ガスバリア性及び耐衝撃性のいずれも「×」の結果となった。
【0070】
比較例7は、延伸を実施しなかったが、ガスバリア性熱可塑性樹脂3の形状は偏平になっており、かつ重なり数も0.3を超えていたため、ガスバリア性は「〇」であったが、分散サイズが大きかったことが影響し、耐衝撃性は「×」であった。
【0071】
表2に示したように、ヒートシール性熱可塑性樹脂2とガスバリア性熱可塑性樹脂3それぞれの融解熱ピーク温度の間の差が絶対値で0℃以上10℃以下であった、実施例1,5,8,9,10,12,13では、特にガスバリア性熱可塑性樹脂3の形状が偏平化しており、ガスバリア性は「◎」となった。一方、ヒートシール性熱可塑性樹脂とガスバリア性熱可塑性樹脂それぞれの融解熱ピーク温度の間の差が絶対値で10℃よりも大きい、実施例6,7,11,14については、ガスバリア性は「〇」であった。いずれの実施例も、耐衝撃性は「〇」であった。
【0072】
実施例1~4及び比較例1~7の結果から、延伸されており、ガスバリア性熱可塑性樹脂の重なり数がフィルム厚み1μm当たり0.3層以上であり、フィルムの1stRunの融解熱ピーク温度が2ndRunの融解熱ピーク温度よりも2℃以上高くなったフィルムは、ガスバリア性及び耐衝撃性がともに良好となり、総合評価は「〇」となった。
さらに、実施例1及び実施例5~14の結果から、ヒートシール性熱可塑性樹脂とガスバリア性熱可塑性樹脂それぞれの融解熱ピーク温度の間の差が絶対値で0℃以上10℃以下となるフィルムは、より良好なガスバリア性を有することが確認された。
【0073】
また、例えば、本発明は以下のような構成を取ることができる。
(1)
ヒートシール性熱可塑性樹脂とガスバリア性熱可塑性樹脂とを含み、前記ヒートシール性熱可塑性樹脂の中に前記ガスバリア性熱可塑性樹脂が島として存在する海島構造が形成された熱可塑性樹脂フィルムであって、
延伸されており、
前記ガスバリア性熱可塑性樹脂は、当該フィルムの面方向に対して偏平状に広がった形状を有し、かつ、当該フィルムの表面上の任意の点から当該フィルムの厚み方向に向かって、フィルム厚み1μm当たり0.3層以上重なっており、
当該フィルムの示差走査熱量計による測定において、1stRunにおける融解熱ピーク温度が、2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して、2℃以上高温である、
ことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
(2)
厚みが10μm以上200μm以下である、上記(1)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
(3)
前記ヒートシール性熱可塑性樹脂と前記ガスバリア性熱可塑性樹脂それぞれの示差走査熱量計による2ndRunにおける融解熱ピーク温度の間の差が、絶対値で0℃以上10℃以下であることを特徴とする、上記(1)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
(4)
さらに相容化剤を含む、上記(1)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
(5)
前記ヒートシール性熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、エチレン-ポリプロピレン共重合体又はブロックポリプロピレンであり、かつ前記ガスバリア性熱可塑性樹脂はエチレン-ビニルアルコール共重合体であることを特徴とする、上記(1)~(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルム。
(6)
上記(1)~(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、さらにヒートシール層が積層されており、
前記ヒートシール層は、前記ガスバリア性熱可塑性樹脂を含まないこと、
を特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
(7)
ヒートシール性熱可塑性樹脂及びガスバリア性熱可塑性樹脂それぞれの示差走査熱量計による2ndRunにおける融解熱ピーク温度の間の差が、絶対値で0℃以上10℃以下である前記ヒートシール性熱可塑性樹脂及び前記ガスバリア性熱可塑性樹脂を選択する工程と、
前記ヒートシール性熱可塑性樹脂と前記ガスバリア性熱可塑性樹脂と相容化剤と含む熱可塑性樹脂を二軸押出機により混錬する工程と、
混錬された前記熱可塑性樹脂を押出成形する工程と、
前記押出成形された熱可塑性樹脂を、示差走査熱量計による測定において、1stRunにおける融解熱ピーク温度が2ndRunにおける融解熱ピーク温度に対して2℃以上高くなるように二軸延伸する工程と、
を含む、
前記ヒートシール性熱可塑性樹脂の中に前記ガスバリア性熱可塑性樹脂が島として存在する海島構造を形成している熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【符号の説明】
【0074】
1 熱可塑性樹脂フィルム
2 ヒートシール性熱可塑性樹脂
3 ガスバリア性熱可塑性樹脂
4 ヒートシール層
図1
図2
図3