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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146414
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20241004BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F16C33/20 A
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059288
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 絢子
【テーマコード(参考)】
3J011
4K044
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011CA01
3J011DA01
3J011JA02
3J011MA03
3J011RA03
3J011SB03
3J011SB04
3J011SB19
3J011SC04
3J011SE05
4K044AA01
4K044AB10
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA11
4K044BA12
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB13
4K044BC01
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】耐焼付性能が良好な摺動部材。
【解決手段】
多孔質焼結金属を含む金属層と、樹脂材料を含む摺動層とを備える摺動部材であって、摺動層は、多孔質焼結金属の孔内に樹脂材料が含浸した部分があり、摺動層は、摺動面および少なくとも1つの凹部を有し、凹部の内壁面は、摺動層の一部であり、凹部の底面は、金属層の上面の一部であり、凹部の内壁面は、摺動面に対して90°未満の傾きを有する、摺動部材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質焼結金属を含む金属層と、樹脂材料を含む摺動層とを備える摺動部材であって、
前記摺動層は、多孔質焼結金属の孔内に樹脂材料が含浸した部分があり、
前記摺動層は、摺動面および少なくとも1つの凹部を有し、
前記凹部の内壁面は、前記摺動層の一部であり、
前記凹部の底面は、前記金属層の上面の一部であり、
前記凹部の前記内壁面は、前記摺動面に対して90°未満の傾きを有する、摺動部材。
【請求項2】
前記摺動層は、黒鉛と、硬質粒子とをさらに含み、
前記黒鉛と前記硬質粒子の割合は、体積比率で6:1~2:1である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記樹脂材料が、フッ素樹脂からなる、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記凹部が、前記摺動面上に1mmあたり1個以上形成されている、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項5】
前記凹部の前記内壁面が、前記摺動面に対して60°~86°の傾きを有している、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項6】
前記凹部の直径が、0.02mm~0.2mmである、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項7】
前記凹部の前記底面から前記摺動面までの深さが、5μm~30μmである、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項8】
前記多孔質焼結金属が、銅、銅合金、アルミニウム、およびアルミニウム合金のうち1つ以上から構成される球状または異形状の金属粉体である、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項9】
前記摺動層が、液晶ポリマーまたは二硫化モリブデンをさらに含む、請求項1または2に記載の摺動部材。
【請求項10】
前記フッ素樹脂が、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシカン)、およびEFFE(エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー)のうち1種以上を含む、請求項2に記載の摺動部材。
【請求項11】
前記摺動層が、前記黒鉛を5~30体積%で含み、前記硬質粒子を1~15体積%で含む、請求項2に記載の摺動部材。
【請求項12】
前記黒鉛は、鱗状または薄片状であり、平均粒径が3μm~20μmである、請求項2に記載の摺動部材。
【請求項13】
前記硬質粒子は、平均粒径が0.1μm~30μmである、請求項2に記載の摺動部材。
【請求項14】
前記硬質粒子は、酸化鉄、窒化ホウ素、ティスモ、硫酸銅、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、および炭酸マグネシウムのうち1種以上を含み、モース硬度が3~6である、請求項2に記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に摺動部材に関し、より詳細にはすべり軸受の摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギヤポンプの回転軸等に用いられるすべり軸受において、摺動面の耐焼付性を向上させることが課題とされている。たとえば、特許文献1には、油膜を介して軸部材を支持する円筒状の基材の内周面に複数の凹部を設け、基材と油膜との間に空気層を介在させる構成により、軸部材の回転時における基材と軸部材との間のせん断抵抗を小さくし、油膜のフリクションを低減させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-1053334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のすべり軸受のように基材の内周面上に樹脂層を備える構成において、潤滑油の供給が十分でない場合、樹脂層が摩耗して基材の内周面が露出し、軸受の焼付が発生する恐れがある。また、特許文献1のすべり軸受は、基材と油膜との間に空気層を介在させることで油膜のフリクションを低減させているが、潤滑油が枯渇した場合にはその効果が発揮されず、同様に軸受の焼付が発生する恐れがある。
【0005】
従って、本発明の目的は、潤滑油の供給が不足した場合にも摺動面の焼付を効果的に防止可能なすべり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明によれば、多孔質焼結金属を含む金属層と、樹脂材料を含む摺動層とを備える摺動部材が提供される。摺動層は、多孔質焼結金属の孔内に樹脂材料が含浸した部分がある。摺動層は、摺動面および少なくとも1つの凹部を有し、凹部の内壁面は、摺動層の一部であり、凹部の底面は、金属層の上面の一部であり、凹部の内壁面は、摺動面に対して90°未満の傾きを有する。
【0007】
好ましくは、摺動層は、黒鉛と、硬質粒子とをさらに含み、黒鉛と硬質粒子の割合は、体積比率で6:1~2:1である。
【0008】
樹脂材料が、フッ素樹脂からなる。
【0009】
好ましくは、凹部が、摺動面上に1mmあたり1個以上形成されている。
【0010】
好ましくは、凹部の内壁面が、摺動面に対して60°~86°の傾きを有する。
【0011】
好ましくは、凹部の直径が、0.02mm~0.2mmである。
【0012】
好ましくは、凹部の底面から摺動面までの深さが、5μm~30μmである。
【0013】
好ましくは、多孔質焼結金属が、銅、銅合金、アルミニウム、およびアルミニウム合金のうち1つ以上から構成される球状または異形状の金属粉体である。
【0014】
好ましくは、摺動層が、液晶ポリマーまたは二硫化モリブデンをさらに含む。
【0015】
好ましくは、フッ素樹脂が、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシカン)、およびEFFE(エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー)のうち1種以上を含む。
【0016】
好ましくは、摺動層が、黒鉛を5~30体積%で含み、硬質粒子を1~15体積%で含む。
【0017】
好ましくは、黒鉛は、鱗状または薄片状であり、平均粒径が3μm~20μmである。
【0018】
好ましくは、硬質粒子は、平均粒径が0.1μm~30μmである。
【0019】
好ましくは、硬質粒子は、酸化鉄、窒化ホウ素、ティスモ、硫酸銅、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、および炭酸マグネシウムのうち1種以上を含み、モース硬度が3~6である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の摺動部材は、摺動面および凹部壁面を樹脂で構成することにより、潤滑油の供給が十分でない環境において、樹脂がある程度摩耗しても金属層が露出することなく、摺動面の耐焼付性を向上させることができる。また、凹部壁面が摺動面に対して90°未満の傾きを有することで、摺動面上に油膜が形成されている間は凹部に潤滑油が流れ込みやすく、油溜りの効果がある。潤滑油が枯渇して樹脂の摩耗が進行した場合には、凹部に溜まった潤滑油が摺動面に供給され、油膜の低フリクション性を保つことができ、摺動面の耐焼付性を向上させることができる。さらに、凹部に侵入した潤滑油は、摺動部材の摺動と共に順次入れ替わり、凹部内の温度上昇、ひいては摺動面の温度上昇を抑えることができ、樹脂材料を多く含む摺動層の軟化を防ぐことができる。
【0021】
本発明およびその利点について、添付の図面を参照して以下により詳細に説明する。図面は、非限定的な実施例を例示の目的でのみ示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態による摺動部材の断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態による別の摺動部材の断面模式図である。
図3】従来例による摺動部材の断面模式図である。
図4】本発明の一実施形態において、基材上に摺動層を形成する工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
本発明の一実施形態による摺動部材1について、その構造および製造方法を以下に詳細に説明する。
【0025】
(摺動部材の構造)
図1は、摺動部材1の断面模式図である。摺動部材1は、金属層10および摺動層20を備える。図1において、摺動部材1の上面が摺動面30となっており、摺動面30には凹部40が形成されている。凹部40の底面40aは、金属層10の上面に相当し、凹部40の壁面40bは、摺動層20の側面に相当する。図1に示すように、凹部40は、上部が底部よりも幅が広い形状となっており、凹部40の壁面40bと摺動面30とがなす角度αは90°未満である。壁面40bおよび摺動面30の断面は、図1ではいずれも直線状に示されているが、図2のように壁面40bと摺動面30と間の接続部分が丸みを帯びた形状であってもよい。
【0026】
(従来例との構造の比較)
図3は、従来例による摺動部材1´の断面模式図である。図3に示すように、従来例の摺動部材1´は、凹部40´の壁面40b´と摺動面30´とが略直角に形成されている。このような構成の場合、摺動部材1´の摺動中に摺動面30´から凹部40に潤滑油が流入し難く、凹部40´が油溜まりとして機能しないため、摺動面の焼付を防止する効果が得られない。本発明は、この点を鑑み、凹部40を潤滑油の油溜まりとして機能させるため、壁面40bと摺動面30との角度αを90°未満としている。
【0027】
(凹部の特徴及び効果)
金属層10は、多孔質焼結金属を含んでいる。該多孔質焼結金属の孔内には樹脂材料が含浸している。金属層10の上面は、樹脂材料を含む摺動層20に覆われている部分と、摺動層20に覆われず摺動面に露出している部分とがある。多孔質焼結金属内に含浸した樹脂材料を含む摺動部材1の摺動面30に凹部40が形成されている。
摺動部材1の摺動時において、摺動面30には潤滑油が供給され、摺動面30を覆うように油膜が形成される。その際、凹部40の壁面40bが摺動面30に対して90°未満の角度αで傾斜していることにより、摺動面30を覆う油膜から凹部40に潤滑油が流入し易くなり、凹部40が油溜まりとしての機能を発揮し易くなる。摺動部材1の摺動に伴って潤滑油の量が減少すると、摺動面30を覆う油膜が薄くなるまたは失われ、摺動層20の摩耗が進行して凹部40の深さhが小さくなる。そのような場合に、凹部40に溜まった潤滑油が摺動面30に供給され、摺動層20の更なる摩耗を防ぐことができる。
【0028】
凹部40に侵入した潤滑油は、摺動部材1の摺動と共に順次入れ替わり、凹部40内の温度上昇を防止する。この効果により、摺動面30の温度上昇が抑えられ、樹脂材料を多く含む摺動層20の軟化を防ぎ、摺動部材1の耐焼付性を向上することができる。
【0029】
凹部40は、摺動面30上に1個以上含まれていればよく、好ましくは、単位面積(1mm)あたり1個以上含まれていればよい。凹部40の底面の直径(以下「凹部40の直径」と称する)は0.02mm~0.2mmとしてよい。凹部40の直径を0.02mm~0.2mmの範囲とすることにより、潤滑油が凹部40に引き込まれ易くなり、凹部40が油溜まりとしての機能を発揮し易くなる。
凹部40の底面40aから摺動面30までの深さhは、5μm~30μmであってよい。深さhが5μm以上であれば、摺動部材1が摺動を開始した後に摺動層20が摩耗したとしても、摺動の初期の段階であれば摺動層20の樹脂が残存し、摺動部材1の耐焼付性が保たれる。凹部40の深さhが30μm以下であれば、摺動部材1の摺動時に潤滑油が凹部40に侵入し易くなり、優れた耐焼付性を発揮することができる。
【0030】
凹部40の壁面40bと摺動面30の角度αは、90°未満としてよく、好ましくは60°~86°であってよい。角度αを60°~86°とすることで凹部40に潤滑油が侵入し易く、凹部40が潤滑油の油溜りとして機能し易くなる。また、凹部40に侵入した油が、摺動部材1の摺動と共に排出され易くなる。その結果、摺動時に凹部40内の摺動熱を逃がすことが容易となり、摺動部材1の耐焼付性が向上する。
【0031】
凹部40の底面40aは、金属層10の上面に相当する。金属層10は、多孔質焼結金属を含んでいてよく、該多孔質焼結金属は、銅、銅合金、アルミ、アルミ合金などの球状または異形状の金属粉体を含んでいてよい。凹部40の底面40aは、摺動面30に対して略平行であることが望ましいが、平行でなくてもよい。また、底面40aは、平面でも湾曲した曲面でもよい。
【0032】
(摺動層の特徴及び効果)
摺動層20は、フッ素樹脂をベースとして、黒鉛および硬質粒子を混合して構成してよい。また、他の添加材として液晶ポリマー、二硫化モリブデンなどを含んでもよい。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシカン)、EFFE(エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー)などが挙げられる。
【0033】
黒鉛は、一般に固体潤滑材として知られており、摩擦係数を低減する効果がある。一方、硬質粒子は、摺動材用の樹脂材料に添加すると、樹脂材料の耐摩耗性を高める効果があるものの、同時に摩擦係数を高める効果もある。したがって、樹脂材料に黒鉛と硬質粒子の両方を添加する場合、樹脂材料の摩耗係数および耐摩耗性を好ましい性能とするためには、黒鉛と硬質粒子の比率を適切なバランスに調整する必要がある。
【0034】
摺動層20の摺動中、黒鉛は、硬質粒子の存在により細かく砕かれ、摺動面30上に黒鉛の薄膜が形成される。摺動層20中の黒鉛と硬質粒子の割合は、体積比率で6:1~2:1にすることが好ましい。黒鉛と硬質粒子の割合を6:1以上とすることで、硬質粒子による耐摩耗性の効果を得つつ低摩擦特性を維持できるため、摺動部材1の耐焼付性を向上することができる。黒鉛と硬質粒子の割合が2:1以下であれば、摺動時の摺動層20の摩耗量を抑えられ、本発明の優れた耐焼付性を発揮することができる。
【0035】
摺動層20中、黒鉛は5~30体積%、硬質粒子は1~15体積%の比率で存在することが望ましい。黒鉛は、5体積%以上であれば、フッ素樹脂の自己潤滑性に加えて、黒鉛の固体潤滑剤としての摩擦係数の低減効果が発揮され、30体積%以下であれば、フッ素樹脂材料と多孔質焼結基材との間の接着強度を損なうことなく、低摩擦特性の効果が発揮される。また、硬質粒子は、1体積%以上であれば、硬質粒子添加による耐摩耗性の効果が得られ、15体積%以下であれば、フッ素樹脂や黒鉛の存在による低摩擦特性を損なうことなく、耐摩耗性を向上させることができる。
【0036】
黒鉛は鱗状もしくは薄片状で、平均粒径は3~20μmであってよい。
【0037】
硬質粒子は、モース硬度が3~6の無機化合物であってよい。モース硬度が3~6の間であれば、相手材を傷つけることなく、耐摩耗性を向上させることができる。また、硬質粒子の平均粒径は0.1~30μmであってよい。平均粒径が0.1~30μmであれば、硬質粒子として耐摩耗性を向上させることができ、摺動部材1の摺動中に黒鉛が細かく砕かれることにより、摺動性を高める効果を得ることができる。
【0038】
硬質粒子は、モース硬度が3~6の酸化鉄、窒化ホウ素、ティスモ、硫酸銅、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、または炭酸マグネシウム等であってよい。また、硬質粒子は、上記のモース硬度、平均粒径、添加量の範囲内であれば、1種類のみでもよいし、2種類以上の組み合わせでもよい。
【0039】
(摺動部材の製造方法)
摺動部材1は、以下の工程により製造される。
(1)フッ素樹脂と各種充填剤とを混合した後、得られた混合物に成形助剤を加えて攪拌混合し、樹脂原材料を得る。
(2)多孔質金属基材上に上記工程(1)で得られた樹脂原材料を散布供給する。これをローラで圧延して、焼結により設けられた多孔質金属基材の空隙中へ樹脂原材料を含浸させるとともに、樹脂原材料からなる被覆層を多孔質金属基材の表面に一様に形成する(図4(a)参照)。
(3)100℃~200℃に加熱された乾燥炉内に上記工程(2)で得られた部材を保持して、成形助剤を除去する(図4(b)参照)。
(4)成形助剤を除去した部材を加熱炉内に導入し、380℃~420℃の温度範囲で加熱焼成を行った後、冷却する(図4(c)参照)。
(5)ローラで所定の寸法に圧延して、所定の厚さの部材に形成する。
【0040】
上記の工程(1)にて成形助剤を添加する目的は、フッ素樹脂および充填剤からなる混合物を多孔質金属基材に含浸させ易くするためである。添加する成形助剤の量は、充填剤の種類やフッ素樹脂と充填剤の比率によって調整すればよい。本発明では、従来より成形助剤の添加量を4%~10%程度増やしやや多目に調整することで、工程(3)で除去される成形助剤量を増やし、工程(4)の焼成時に樹脂材料の収縮量を増やした。さらに、工程(2)にて、被覆層の厚さを30μm以下に設定し、本発明の構造を得た。工程(4)にて樹脂が収縮する際、多孔質焼結基材の頂部と摺動面の距離(被覆層の厚さ)が小さい箇所で被覆層が厚い側への収縮が起きるため、摺動面の凹部が形成され、本発明の構造が得られる。なお、工程(4)において、加熱焼成時間を変えることで、形成される凹部の直径を変化させることができる。従来技術では加熱焼成の時間は2分程度であったが、これを3倍~8倍の時間とすることで、凹部の直径を0.02mm~0.2mmの範囲内に収めることができる。具体的な加熱焼成時間は、たとえば10分としてよい。
【実施例0041】
(性能評価試験)
本発明による摺動部材の耐焼付性を評価するために、実施例1~14および比較例1について摺動試験を行った。
【0042】
(試験条件)
試験機:スラスト摺動試験機
荷重:2MPa/10minのSTEPUP
速度:0.5m/s
潤滑油:供給量60cc/min
相手軸:S55C焼入
試験時間:100min(荷重20MPaまで)
【0043】
(試験片)
上述した工程(1)~(5)を含む製造方法により得られた摺動部材を切断して一辺が40mmの試料を得た。
【0044】
(使用材料の例)
PTFE:市販品としてFluon(登録商標)CD097E(AGC社製)ポリフロン(登録商標)F-201(ダイキン工業社製)などが挙げられる。
黒鉛:市販品として日本黒鉛工業のGRAPHITE POWDERシリーズ等が挙げられる。
硬質粒子:酸化マグネシウムの市販品としてキョーワマグMF30(協和化学工業社製)、RF10C(宇部マテリアルズ社製)などが挙げられる。酸化鉄の市販品としては森下弁柄工業の弁柄カラーシリーズ等が挙げられる。
【0045】
(試料の作製)
試料の成分表を表2に示す。「PTFE」はAGC製のCD097Eを使用した。「黒鉛」は日本黒鉛工業社の鱗状黒鉛粉末を使用した。「硬質粒子」は酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム等を使用した。「その他の充填材」はダイゾー社製の二硫化モリブデンを使用した。
【0046】
(凹部壁面傾きの測定方法)
凹部壁面はレーザー顕微鏡にて摺動面の凹凸を計測し、得られた形状データより摺動面に対する凹部壁面の角度を測定した。表1及び表3中の「凹部壁面の傾き」は、試験片の任意の5カ所を測定し、その平均値を記載している。また、他の方法として、部材よりサンプルを切り出し、その断面を確認することでも測定可能である。
【0047】
本実施例1~14および比較例1の作製条件および試験結果を表1-3に示す。表1中の「焼付判定」は、摺動部材1が焼付かずに試験終了した場合に「〇」と評価し、摺動部材1が焼付かなかったものの多孔質焼結金属が露出した場合に「△」と評価した。また、試験途中で摺動部材1に焼付が発生した場合に「×」と評価した。表3中の「焼付判定」は、摺動部材1が焼付かず、かつ摺動層の摩耗量が少なかった場合に「◎」と評価し、摺動部材1が焼付かなかったものの摺動層の摩耗量が多かった場合に「〇」と評価した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表1の結果から、凹部壁面の傾きは、60°~86°程度とすることが好ましい。凹部壁面の傾きが90°未満である実施例1~7は焼付が発生しなかったのに対し、凹部壁面の傾きが90°である比較例1は焼付が発生した。また、表3の結果から、黒鉛と硬質粒子の比率は、6:1~2:1程度とすることがさらに好ましい。黒鉛と硬質粒子の比率が6:1~2:1である実施例8~12は焼付が発生せず、かつ摺動層の摩耗量が少なかったのに対し、黒鉛と硬質粒子の比率が10:1である実施例13と1:1である実施例14は、焼付が発生しなかったものの、摺動層の摩耗量が多かった。
【0052】
以上、図面を参照して、また性能評価試験に関連して、本発明の実施形態および実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しない程度の変更は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 摺動部材
10 金属層
20 摺動層
30 摺動面
40 凹部
40a 凹部の底面
40b 凹部の側壁
図1
図2
図3
図4