(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146455
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】接合体
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20241004BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20241004BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241004BHJP
C22C 23/02 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C04B37/02 B
B23K35/28 310Z
H05K1/03 610D
H05K1/03 630H
C22C23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059356
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】関 優佑
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA17
4G026BB22
4G026BF17
4G026BF20
4G026BF22
4G026BF42
4G026BF52
4G026BG02
4G026BH07
(57)【要約】
【課題】銀を用いることなくセラミック基板と金属材とを強固に接合することができる接合体を提供すること。
【解決手段】本発明に係る接合体は、セラミックス層と、銅からなる金属層と、セラミックス層および金属層を接合する接合層であって、マグネシウム合金を成分として含む接合層と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス層と、
銅からなる金属層と、
前記セラミックス層および前記金属層を接合する接合層であって、マグネシウム合金を成分として含む接合層と、
を備えることを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記接合層において、
前記マグネシウム合金中のマグネシウムは、前記金属層側および前記セラミックス層側の各境界付近にそれぞれ存在する、
ことを特徴とする請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記セラミックス層は、窒化ケイ素を用いて形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の接合体。
【請求項4】
パワーモジュールに用いられる回路基板を構成する部品の一部をなす、
ことを特徴とする請求項1に記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置等において用いられる回路基板として、耐熱性および絶縁性を有するセラミック基板と、導電性の金属とを接合した接合体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、セラミック基板の表面に、銀を含むろう材によって銅板を接合した接合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、銀を含むろう材は、その銀によってマイグレーションを引き起こすおそれがあった。マイグレーションの発生によって短絡が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、銀を用いることなくセラミック基板と金属材とを強固に接合することができる接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る接合体は、セラミックス層と、銅からなる金属層と、前記セラミックス層および前記金属層を接合する接合層であって、マグネシウム合金を成分として含む接合層と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る接合体は、上記発明において、前記接合層において、前記マグネシウム合金中のマグネシウムは、前記金属層側および前記セラミックス層側の各境界付近にそれぞれ存在する、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る接合体は、上記発明において、前記セラミックス層は、窒化ケイ素を用いて形成される、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る接合体は、上記発明において、パワーモジュールに用いられる回路基板を構成する部品の一部をなす、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銀を用いることなくセラミック基板と金属材とを強固に接合することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る接合体の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態に係る接合体の接合方法について説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態に係る接合体の一部の断面を示すSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施の形態に係る接合体の一部の断面を示す二次電子像である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施の形態に係る接合体の一部の断面を示す反射電子像である。
【
図6】
図6は、
図4に示す二次電子像における銅(Cu)の元素マッピングを示す図である。
【
図7】
図7は、
図4に示す二次電子像におけるマグネシウム(Mg)の元素マッピングを示す図である。
【
図8】
図8は、
図4に示す二次電子像におけるアルミニウム(Al)の元素マッピングを示す図である。
【
図9】
図9は、
図4に示す二次電子像におけるケイ素(Si)の元素マッピングを示す図である。
【
図10】
図10は、
図4に示す二次電子像における窒素(N)の元素マッピングを示す図である。
【
図11】
図11は、
図4に示す二次電子像における酸素(O)の元素マッピングを示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施例1~5に係る接合体の接合温度による接合性について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係る接合体の構成を示す図である。接合体1は、例えば、半導体装置等における回路基板として用いられる。接合体1は、金属材料を用いて形成される金属層11と、セラミックスを用いて形成されるセラミックス層12と、金属層11およびセラミックス層12の間に設けられ、両者を接合する接合層13とを備え、二つの金属層11の間にセラミックス層12が位置する三層構造(金属層/セラミックス層/金属層)をなす。
接合体1は、例えば、パワーモジュール用の回路基板に用いられる。具体的には、接合体1は、パワーモジュール用の回路基板を構成する部品の一部をなす。
【0014】
金属層11は、例えば、板状をなす。金属層11は、例えば、銅(Cu)を用いて形成される。
【0015】
セラミックス層12は、例えば板状をなす。セラミックス層12は、例えば、アルミナ等の酸化物を含むセラミックス、または、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物を含むセラミックスを用いて形成される。
【0016】
接合層13は、箔状のマグネシウム(Mg)合金(以下、マグネシウム合金箔ともいう)を用いてなり、金属層11側およびセラミックス層12側に、それぞれマグネシウム活性層を形成する。マグネシウム合金は、例えば、マグネシウムを主成分とする合金である。具体的には、マグネシウム合金としては、例えば、2.5質量%以上3.5質量%以下のアルミニウム(Al)、0.6質量%以上1.4質量%以下の亜鉛(Zn)、0.2質量%以上1.0質量%以下のマンガン(Mn)、0.005質量%を上限とする鉄(Fe)、0.10質量%を上限とするケイ素(Si)、0.05質量%を上限とする銅(Cu)、0.005質量%を上限とするニッケル(Ni)、0.04質量%を上限とするカルシウム(Ca)を含み、残部がマグネシウムおよび不可避不純物からなるAZ31B合金が挙げられる。
【0017】
続いて、本実施の形態に係る接合体の接合方法について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施の形態に係る接合体の接合方法について説明する図である。なお、
図2は、接合体1における、金属層11とセラミックス層12との接合の内の一方の側(
図1の下側)の構成を示す。他方の側の接合についても、同様に接合される。
【0018】
まず、金属層11の表面に、マグネシウム合金箔13aを配設する(
図2の(a)参照)。ここで、例えば、マグネシウム合金箔13aの厚さは50μmである。マグネシウム合金箔13aは、接合層13を形成する。
【0019】
金属層11の表面に、マグネシウム合金箔13aを配設した後、金属層11の接合層13配設側にセラミックス層12を載置し、拡散接合させる(
図2の(b)参照)。この際、拡散接合の条件として、例えば、接合温度を750℃~850℃、面圧を20MPaに設定する。また、荷重は、金属層11とセラミックス層12とが互いに近付く方向に加わる。
【0020】
本実施の形態に係る接合体は、金属層11を構成する銅材に、マグネシウム合金箔13aを載置し、該マグネシウム合金箔13aを、セラミックス層12を構成するセラミックス材と銅材とで挟んで拡散接合することによって作製される。このため、本実施の形態に係る接合体は、従来のように、ろう材を塗布したり、スクリーン印刷してろう材を配設したりする場合と比して簡易な処理で作製することができる。
【0021】
次に、接合体における接合界面の一例について、
図3~
図10を参照して説明する。
図3は、本発明の一実施の形態に係る接合体の一部の断面を示すSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。
図3に示す例では、接合温度を750℃、面圧を20MPaとして接合された接合体の断面を示し、金属層R
Cuとセラミック層R
CEとの間の、金属層R
Cu側およびセラミック層R
CE側に、マグネシウム活性層R
Mgがそれぞれ形成されている。
【0022】
図4~
図11に、電子プロ-ブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)による接合体の断面の観察像を示す。
図4~
図11は、上部に銅からなる金属層、下部にSi
3N
4からなるセラミック層、金属層とセラミック層との間に、マグネシウム合金箔を用いて形成された接合層が存在する。
【0023】
図4は、本発明の一実施の形態に係る接合体の一部の断面を示す二次電子像である。
図5は、本発明の一実施の形態に係る接合体の一部の断面を示す反射電子像である。
図4に示す二次電子像は、表面(断面)形状に依存した像を示す。また、
図5に示す反射電子像は、組成の差異を示す。
【0024】
また、
図6~
図11は、
図4に示す二次電子像における元素マッピングを示す。具体的には、
図6は、銅(Cu)の元素マッピングを示す。
図7は、マグネシウム(Mg)の元素マッピングを示す。
図8は、アルミニウム(Al)の元素マッピングを示す。
図9は、ケイ素(Si)の元素マッピングを示す図である。
図10は、窒素(N)の元素マッピングを示す図である。
図11は、酸素(O)の元素マッピングを示す図である。
【0025】
図6~
図11から分かるように、銅が上部に位置し、ケイ素および窒素が下部に位置している。また、接合層において、マグネシウムが銅側およびケイ素側の各境界付近にそれぞれ位置している。すなわち、接合体は、Cu+Zn/Cu+Mg/Cu+Zn/Cu+Mg+Al/SiNの順に層をなす。この際、マグネシウムやマグネシウム合金において添加されているアルミニウムは、銅やケイ素が存在している領域への移動はほとんどない。このため、本実施の形態に係る接合体では、接合層を構成する主な成分が、当該層に留まって外部(ここでは金属層およびセラミックス層)に移動していない構成になっているといえる。
【0026】
以上説明した本発明の実施の形態では、マグネシウム合金箔を用いて形成される接合層によって、銅からなる金属層と、セラミックス層とを接合する構成とすることで、層間の成分の移動が抑制された接合態様で金属層とセラミックス層とを接合することができる。この層間の成分の移動を抑制することで、従来の銀のようなマイグレーションの発生が抑制され、接合層の金属層およびセラミックス層への密着性が高くなる。このため、本実施の形態によれば、銀を用いることなくセラミック基板と銅材とを強固に接合することができる。
【0027】
なお、本発明の実施の形態では、セラミックス層を二つの金属層で挟み込むことによって接合体1を構成する例について説明したが、一つの金属層11とセラミックス層12とを接合層13によって接合した構成としてもよいし、n+1(n>1)個の金属層11と、n個のセラミックス層12とを交互に配置して接合した構成としてもよい。
【実施例0028】
以下、本発明に係る接合体の実施例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
実施例1では、マグネシウム合金箔としてAZ31B合金を用いて、接合温度を650℃として、銅板と窒化ケイ素板とを接合した接合体を作製した。実施例1に係る接合体は、Cu+Zn/Cu+Mg+Zn/Al/SiNの順に層をなす。
【0030】
(実施例2)
実施例2では、接合温度を750℃とした以外は、実施例1と同様にして接合体を作製した。実施例2に係る接合体は、Cu+Zn/Cu+Mg/Cu+Zn/Cu+Mg+Al/SiNの順に層をなす。
【0031】
(実施例3)
実施例3では、接合温度を800℃とした以外は、実施例1と同様にして接合体を作製した。実施例3に係る接合体は、Cu+Zn/Cu+Mg/Cu+Zn/Cu+Mg+Al/SiNの順に層をなす。
【0032】
(実施例4)
実施例4では、接合温度を840℃とした以外は、実施例1と同様にして接合体を作製した。実施例4に係る接合体は、Cu+Zn/Cu+Mg/Cu+Zn/Cu+Mg+Al/SiNの順に層をなす。
【0033】
(実施例5)
実施例5では、接合温度を930℃とした以外は、実施例1と同様にして接合体を作製した。実施例5に係る接合体は、Cu+Zn/Cu+Mg/Cu+Zn/Cu+Mg+Al/SiNの順に層をなす。
【0034】
図12は、本発明の実施例1~5に係る接合体の接合温度による接合性について説明する図である。接合性は、SAT(Scanning Acoustic Tomograph:超音波探傷装置)およびSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)によって目視等によって評価した。
図12に示すように、実施例1~5に係る接合体は、いずれも良好な接合性を示した。
【0035】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
【0036】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0037】
以上説明したように、本発明に係る接合体は、銀を用いることなくセラミック基板と金属材とを強固に接合するのに好適である。