(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146461
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/12 20060101AFI20241004BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G02C7/12
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059366
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】大矢 裕
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA23
2H149AB11
2H149AB26
2H149BA02
2H149BA14
2H149CA02
2H149EA12
2H149FA03W
2H149FA13X
2H149FA15X
2H149FD30
(57)【要約】
【課題】偏光性湾曲積層体から、歩留まり良く信頼性に優れた眼鏡用のレンズを製造することができるレンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のレンズの製造方法は、偏光性積層体から湾曲形状の偏光性湾曲積層体を得る第1工程と、金型に偏光性湾曲積層体を密着させる第2工程と、偏光性湾曲積層体に樹脂層を形成する第3工程とを有し、金型の湾曲凹面の曲率半径R
B1、曲率半径R
B2と、偏光性湾曲積層体の湾曲凸面の曲率半径R
1、曲率半径R
2とが、第1工程において、関係式(A)、(B)のいずれか一方を満足し、かつ、関係式(C)を満足しないように、偏光性積層体を湾曲させる。
0.70≦R
B1/R
1≦1.00、かつ1.00≦R
B2/R
2≦1.40 …(A)
1.00≦R
B1/R
1≦1.40、かつ0.70≦R
B2/R
2≦1.00 …(B)
0.95<R
B1/R
1<1.06、かつ0.95<R
B2/R
2<1.06 …(C)
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光膜と、前記偏光膜の一方の面側に設けられた第1樹脂層と、前記偏光膜の他方の面側に設けられた第2樹脂層とを備える、全体形状が平板状をなす偏光性積層体を、前記偏光性積層体の一方の面が湾曲凹面を、前記偏光性積層体の他方の面が湾曲凸面を構成するように、前記偏光性積層体を湾曲形状に湾曲させて偏光性湾曲積層体を得る第1工程と、
一方向における曲率半径RB1[mm]、前記一方向に直交する直交方向における曲率半径RB2[mm]の湾曲凹面を有する金型に、前記偏光性湾曲積層体の前記湾曲凸面とされた前記他方の面側を前記金型側として、前記偏光性湾曲積層体を密着させる第2工程と、
前記金型に前記偏光性湾曲積層体を密着させた状態を維持しつつ、前記偏光性湾曲積層体の前記湾曲凹面とされた前記一方の面側に、前記偏光性湾曲積層体に接合された樹脂層を形成する第3工程と、を有するレンズの製造方法であって、
前記偏光性湾曲積層体の前記湾曲凸面とされた前記他方の面において、前記一方向における曲率半径をR1[mm]とし、前記直交方向における曲率半径をR2[mm]としたとき、
前記第1工程において、下記関係式(A)と下記関係式(B)とのいずれか一方を満足し、かつ、下記関係式(C)を満足しないように、前記偏光性積層体を湾曲させて前記偏光性湾曲積層体を得ることを特徴とするレンズの製造方法。
0.70≦RB1/R1≦1.00、
かつ1.00≦RB2/R2≦1.40 … (A)
1.00≦RB1/R1≦1.40、
かつ0.70≦RB2/R2≦1.00 … (B)
0.95<RB1/R1<1.06、
かつ0.95<RB2/R2<1.06 … (C)
【請求項2】
前記第1工程において、
前記関係式(A)を満足し、さらに、1.07<R1/R2<1.68となる関係を満足するように、または、
前記関係式(B)を満足し、さらに、0.59<R1/R2<0.93となる関係を満足するように、前記偏光性積層体を湾曲させる請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、
さらに、下記関係式(1)を満足するように、前記偏光性積層体を湾曲させる請求項2に記載のレンズの製造方法。
【数1】
【請求項4】
前記曲率半径RB1、前記曲率半径RB2は、それぞれ独立して、58mm以上523mm以下である請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項5】
前記偏光性湾曲積層体の前記一方向は、MDであり、前記偏光性湾曲積層体の前記直交方向は、TDである請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項6】
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、それぞれ独立して、ポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂を主材料として構成される請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項7】
前記主材料のガラス転移点は、100℃以上190℃以下である請求項6に記載のレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂等を主材料として構成される被覆層で偏光膜の両面を被覆した構成をなす偏光性積層体(樹脂基板)を備える眼鏡用のレンズが提案されている。
【0003】
このレンズ(眼鏡用レンズ)は、例えば、全体形状が平板状をなす偏光性積層体の両面に保護フィルムを貼付した状態で、平面視で円形状等の所定の形状に、偏光性積層体を打ち抜く。その後、この偏光性積層体に加熱下で熱曲げ加工を施すことで、熱曲げにより湾曲形状とされた偏光性湾曲積層体とする。そして、偏光性湾曲積層体から、保護フィルムを剥離させた後に、湾曲形状とされた凹部を備える金型に、金型の凹部と偏光性湾曲積層体の凸部とが当接するようにして、偏光性湾曲積層体を吸着させた状態で、インサート射出成形法を用いて、この偏光性湾曲積層体の凹面にポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂等の樹脂材料を主材料として構成される樹脂層を形成することにより製造される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなレンズの製造方法では、一般的に、熱曲げにより湾曲形状とされた偏光性湾曲積層体は、その凸部の曲率半径が、インサート射出成形法に用いられる金型の凹部の曲率半径に対して、ほぼ同一の大きさに設定されており、これにより、金型に偏光性湾曲積層体が吸着した状態とされる。
【0005】
しかしながら、偏光性湾曲積層体の凸部の曲率半径と、インサート射出成形法に用いられる金型の凹部の曲率半径とを、ほぼ同一の大きさに設定すると、インサート射出成形法によりレンズを製造する際、すなわち、偏光性湾曲積層体の凹面に樹脂層を形成する際に、金型に対する偏光性湾曲積層体の設置位置の微妙なズレや偏光性湾曲積層体を吸着させる環境等により、金型に対して偏光性湾曲積層体を十分な吸着性をもって吸着させ得ないことに起因して、金型から偏光性湾曲積層体が脱落してしまい、その結果、製造されるレンズの歩留まりの低下を招くと言う問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、偏光性湾曲積層体から、歩留まり良く信頼性に優れた眼鏡用のレンズを製造することができるレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)~(7)に記載の本発明により達成される。
(1) 偏光膜と、前記偏光膜の一方の面側に設けられた第1樹脂層と、前記偏光膜の他方の面側に設けられた第2樹脂層とを備える、全体形状が平板状をなす偏光性積層体を、前記偏光性積層体の一方の面が湾曲凹面を、前記偏光性積層体の他方の面が湾曲凸面を構成するように、前記偏光性積層体を湾曲形状に湾曲させて偏光性湾曲積層体を得る第1工程と、
一方向における曲率半径RB1[mm]、前記一方向に直交する直交方向における曲率半径RB2[mm]の湾曲凹面を有する金型に、前記偏光性湾曲積層体の前記湾曲凸面とされた前記他方の面側を前記金型側として、前記偏光性湾曲積層体を密着させる第2工程と、
前記金型に前記偏光性湾曲積層体を密着させた状態を維持しつつ、前記偏光性湾曲積層体の前記湾曲凹面とされた前記一方の面側に、前記偏光性湾曲積層体に接合された樹脂層を形成する第3工程と、を有するレンズの製造方法であって、
前記偏光性湾曲積層体の前記湾曲凸面とされた前記他方の面において、前記一方向における曲率半径をR1[mm]とし、前記直交方向における曲率半径をR2[mm]としたとき、
前記第1工程において、下記関係式(A)と下記関係式(B)とのいずれか一方を満足し、かつ、下記関係式(C)を満足しないように、前記偏光性積層体を湾曲させて前記偏光性湾曲積層体を得ることを特徴とするレンズの製造方法。
0.70≦RB1/R1≦1.00、
かつ1.00≦RB2/R2≦1.40 … (A)
1.00≦RB1/R1≦1.40、
かつ0.70≦RB2/R2≦1.00 … (B)
0.95<RB1/R1<1.06、
かつ0.95<RB2/R2<1.06 … (C)
【0009】
(2) 前記第1工程において、
前記関
係式(A)を満足し、さらに、1.07<R1/R2<1.68となる関係を満足するように、または、
前記関係式(B)を満足し、さらに、0.59<R1/R2<0.93となる関係を満足するように、前記偏光性積層体を湾曲させる上記(1)に記載のレンズの製造方法。
【0010】
(3) 前記第1工程において、
さらに、下記関係式(1)を満足するように、前記偏光性積層体を湾曲させる請求項2に記載のレンズの製造方法。
【数1】
【0011】
(4) 前記曲率半径RB1、前記曲率半径RB2は、それぞれ独立して、58mm以上523mm以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
【0012】
(5) 前記偏光性湾曲積層体の前記一方向は、MDであり、前記偏光性湾曲積層体の前記直交方向は、TDである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
【0013】
(6) 前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、それぞれ独立して、ポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂を主材料として構成される上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
【0014】
(7) 前記主材料のガラス転移点は、100℃以上190℃以下である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱曲げにより湾曲形状とされた偏光性湾曲積層体を用いて眼鏡用のレンズを製造する際、すなわち、偏光性湾曲積層体の湾曲凹面に樹脂層を形成する際に、樹脂層の形成に用いられる金型から偏光性湾曲積層体が脱落するのを的確に抑制または防止することができる。すなわち、金型に対して偏光性湾曲積層体を、優れた吸着性をもって吸着させることができる。したがって、信頼性に優れたレンズを歩留まり良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】偏光性湾曲積層体を有するレンズを備えるサングラスの実施形態を示す斜視図である。
【
図2】レンズが備える偏光性湾曲積層体の実施形態を示す縦断面図である。
【
図3】偏光性湾曲積層体を有するレンズの製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のレンズの製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
本発明のレンズの製造方法は、偏光膜13と、この偏光膜13の一方の面側に設けられた第1樹脂層11と、偏光膜の他方の面側に設けられた第2樹脂層12とを備える、全体形状が平板状をなす偏光性積層体15を、この偏光性積層体15の一方の面が湾曲凹面を、偏光性積層体の他方の面が湾曲凸面を構成するように、偏光性積層体15を湾曲形状に湾曲させて偏光性湾曲積層体10を得る第1工程と、一方向における曲率半径RB1[mm]、前記一方向に直交する直交方向における曲率半径RB2[mm]の湾曲凹面を有する金型40に、偏光性湾曲積層体10の湾曲凸面とされた他方の面側を金型40側として、偏光性湾曲積層体10を密着させる第2工程と、金型40に偏光性湾曲積層体10を密着させた状態を維持しつつ、偏光性湾曲積層体10の湾曲凹面とされた一方の面側に、偏光性湾曲積層体10に接合された樹脂層35を形成してレンズ30を得る第3工程と、を有し、偏光性湾曲積層体10の湾曲凸面とされた他方の面において、前記一方向における曲率半径をR1[mm]とし、前記直交方向における曲率半径をR2[mm]としたとき、前記第1工程において、下記関係式(A)と下記関係式(B)とのいずれか一方を満足し、かつ、下記関係式(C)を満足しないように、偏光性積層体15を湾曲させて偏光性湾曲積層体10を得ることを特徴とする。
【0019】
0.70≦RB1/R1≦1.00、
かつ1.00≦RB2/R2≦1.40 … (A)
1.00≦RB1/R1≦1.40、
かつ0.70≦RB2/R2≦1.00 … (B)
0.95<RB1/R1<1.06、
かつ0.95<RB2/R2<1.06 … (C)
【0020】
このようなレンズの製造方法によれば、熱曲げにより湾曲形状とされた偏光性湾曲積層体10を用いて、眼鏡用のレンズ30を製造する際、すなわち、偏光性湾曲積層体10の湾曲凹面に樹脂層35を形成する際に、この樹脂層35の形成に用いられる金型40からの偏光性湾曲積層体10の脱落を的確に抑制または防止することができる。すなわち、金型40に対して偏光性湾曲積層体10を、優れた吸着性をもって吸着させることができる。したがって、信頼性に優れたレンズ30を歩留まり良く製造することができる。
【0021】
本発明のレンズの製造方法を適用することで製造された、偏光性湾曲積層体10を備えるレンズ30は、例えば、眼鏡の一種であるサングラス100が備えるものとして使用される。そこで、以下では、まず、本発明のレンズの製造方法を説明するのに先立って、このレンズ30を備えるサングラス100について説明する。
【0022】
<サングラス>
図1は、偏光性湾曲積層体を有するレンズを備えるサングラスの実施形態を示す斜視図、
図2は、レンズが備える偏光性湾曲積層体の実施形態を示す縦断面図である。なお、
図1において、サングラスを使用者の頭部に装着した際に、レンズの使用者の目側の面を裏側の面と言い、その反対側の面を表側の面と言う。また、
図2において、説明の都合上、
図2の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0023】
サングラス100は、
図1に示すように、フレーム20と、レンズ30(眼鏡用レンズ)とを備えている。
【0024】
なお、本明細書中において、「レンズ」とは、集光機能を有するものと、集光機能を有していないものとの双方を含むこととする。
【0025】
フレーム20は、使用者の頭部に装着され、レンズ30を使用者の目の前方近傍に配置させるためのものである。
【0026】
このフレーム20は、リム部21と、ブリッジ部22と、テンプル部23と、ノーズパッド部24とを有している。
【0027】
リム部21は、リング状をなし、右目および左目にそれぞれ対応して1つずつ設けられており、内側にレンズ30が装着される。これにより、使用者は、レンズ30を介して、外部の情報を視認することができる。
【0028】
また、ブリッジ部22は、棒状をなし、使用者の頭部に装着された際に、使用者の鼻の上部の前方に位置して、一対のリム部21を連結する。
【0029】
テンプル部23は、つる状をなし、各リム部21のブリッジ部22が連結されている位置の反対側における縁部に連結されている。このテンプル部23は、使用者の頭部に装着する際に、使用者の耳に掛けられる。
【0030】
ノーズパッド部24は、サングラス100を使用者の頭部に装着する際に、各リム部21における使用者の鼻に対応する縁部に設けられ、使用者の鼻に当接し、このとき使用者の鼻の当接部に対応した形状をなしている。これにより、装着状態を安定的に維持することができる。
【0031】
フレーム20を構成する各部の構成材料としては、特に限定されず、例えば、各種金属材料や、各種樹脂材料等を用いることができる。なお、フレーム20の形状は、使用者の頭部に装着することができるものであれば、図示のものに限定されない。
【0032】
レンズ30は、各リム部21に、それぞれ装着される眼鏡用レンズである。このレンズ30は、光透過性を有し、外側に向って湾曲した板状をなす部材であり、樹脂層35と、偏光性湾曲積層体10とを有し、後述する本発明のレンズの製造方法を適用して製造される。
【0033】
樹脂層35は、光透過性を有し、レンズの裏側に位置し、レンズ30に、集光機能を付与する際には、この樹脂層35が集光機能を有している。
【0034】
樹脂層35の構成材料としては、光透過性を有する樹脂材料であれば、特に限定されないが、例えば、各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のような各種硬化性樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられるが、中でも、後述する偏光性湾曲積層体10が備える第1樹脂層11を構成する樹脂材料と、同種もしくは同一であるのが好ましい。これにより、樹脂層35と、偏光性湾曲積層体10との密着性の向上を図ることができる。
【0036】
樹脂層35の厚さは、特に限定されず、例えば、0.5mm以上5.0mm以下であるのが好ましく、1.0mm以上3.0mm以下であるのがより好ましい。これにより、レンズ30における、比較的高い強度と、軽量化との両立を図ることができる。
【0037】
偏光性湾曲積層体10は、樹脂層35の外側の面、すなわち、湾曲凸面上に、かかる形状に対応して湾曲形状をなして接合される湾曲樹脂基板であり、これにより、サングラス100に偏光性が付与される。その結果、サングラス100が、偏光性を有する偏光サングラスとしての機能を発揮する。この偏光性湾曲積層体10が、本発明の偏光性湾曲積層体で構成されるが、その詳細な説明は、後に行うこととする。
【0038】
偏光性湾曲積層体10は、後述するレンズ30の製造方法において、全体形状が平板状をなす偏光性積層体15を、湾曲形状に湾曲させることにより得られるものであるが、
図2に示すように、偏光膜13と、この偏光膜13の一方の面側に設けられた第1樹脂層11と、偏光膜13の他方の面側に設けられた第2樹脂層12とを備え、本実施形態では、さらに、偏光膜13と第1樹脂層11とを接合(接着)する接着剤層16と、偏光膜13と第2樹脂層12とを接合(接着)する接着剤層17とを備えている。
【0039】
(偏光膜13)
偏光膜13は、入射光(偏光していない自然光)から、所定の一方向に偏光面をもつ直線偏光を取り出す機能を有している。これにより、偏光性湾曲積層体10(偏光性積層体15)を通過する光は、偏光されたものとなる。
【0040】
偏光膜13の偏光度は、特に限定されないが、例えば、50%以上100%以下であるのが好ましく、80%以上100%以下であるのがより好ましい。また、偏光膜13の可視光線透過率は、特に限定されないが、例えば、10%以上80%以下であるのが好ましく、20%以上50%以下であるのがより好ましい。
【0041】
このような偏光膜13の構成材料としては、上記機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、部分ホルマール化ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、エチレン-酢酸ビニル共重合体部分ケン価物等で構成された高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着、染色させ、一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、偏光膜13は、ポリビニルアルコール(PVA)を主材料とした高分子フィルムに、ヨウ素または二色性染料を吸着、染色させ、一軸延伸したものが好ましい。ポリビニルアルコール(PVA)は透明性、耐熱性、染色剤であるヨウ素または二色性染料との親和性、延伸時の配向性のいずれもが優れた材料である。したがって、PVAを主材料とする偏光膜13は、耐熱性に優れたものとなるとともに、偏光能に優れたものとなる。
【0043】
なお、上記二色性染料としては、例えばクロラチンファストレッド、コンゴーレッド、ブリリアントブルー6B、ベンゾパープリン、クロラゾールブラックBH、ダイレクトブルー2B、ジアミングリーン、クリソフェノン、シリウスイエロー、ダイレクトファーストレッド、アシッドブラックなどが挙げられる。
【0044】
この偏光膜13の厚さは、特に限定されず、例えば、5μm以上60μm以下であるのが好ましく、10μm以上40μm以下であるのがより好ましい。
【0045】
(第1樹脂層11および第2樹脂層12)
第1樹脂層11および第2樹脂層12は、
図2に示すように、それぞれ、偏光膜13の下面側(一方の面側)および上面側(他方の面側)に設けられ、これにより、偏光膜13を保護する保護層として機能する。
【0046】
これら第1樹脂層11および第2樹脂層12は、特に限定されないが、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、および、トリアセチルセルロースのようなセルロース樹脂等の樹脂材料を主材料として構成され、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ポリアミド系樹脂またはポリカーボネート系樹脂を主材料として構成されていることが好ましい。
【0047】
ポリカーボネート系樹脂は、透明性(透光性)や剛性等の機械的強度に富むため、偏光性湾曲積層体10の透明性や耐衝撃性を向上させることができる。また、ポリカーボネート系樹脂は、その比重が1.2程度であり、樹脂材料のなかでも軽いものに分類されることから、偏光性湾曲積層体10の軽量化が図られる。また、ポリアミド系樹脂は、透明性および耐衝撃性の他に、耐薬品性、耐応力性等の向上を図ることができる。
【0048】
ポリアミド系樹脂としては、特に限定されず、各種のものを用いることができ、例えば、脂環式ポリアミド、半芳香族ポリアミド等が挙げられる。脂環式ポリアミドは、耐衝撃性に優れた材料である。そのため、偏光性湾曲積層体10を優れた耐衝撃性を発揮するものとし得る。また、半芳香族ポリアミドは、弾性率の高い材料である。そのため、曲げ等の応力に対して、優れた耐性を有する偏光性湾曲積層体10とすることができる。
【0049】
なお、本明細書において、半芳香族ポリアミドとは、ポリアミドを構成するモノマーとしてのジカルボン酸、ジアミンのうちの一方が芳香族性化合物であり、他方が脂肪族化合物であるポリアミドのことを言い、具体的には、下記式(1B)で表すことができる。
【0050】
【化1】
(ただし、式(1B)中のR
1およびR
2は、一方が2価の芳香族置換基、他方が2価の脂肪族置換基であり、nは、2以上の整数である。)
【0051】
なお、ポリアミドは、ジカルボン酸、ジアミンのうち少なくとも一方について、2種以上のモノマーを含む共重合体(ランダム共重合体、ブロック共重合体等)であってもよい。
【0052】
また、上記式(1B)中のR1、R2のうちの芳香族置換基としては、下記式(2B)で表されるものであるのが好ましい。
【0053】
【化2】
(ただし、式(2B)中、l、mは、それぞれ独立に0以上2以下の整数である。)
【0054】
これにより、偏光膜13をより好適に保護することができるとともに、偏光性湾曲積層体10の加工性をより優れたものとし得る。また、樹脂層11、12にリタデーションを付与する場合には、樹脂層11、12の延伸によるリタデーションの制御をより容易に行うことができる。
【0055】
上記式(1B)中のR1、R2のうちの脂肪族置換基は、炭素数が4以上18以下のものであるのが好ましく、炭素数が4以上18以下の炭化水素基であるのがより好ましく、炭素数が4以上18以下の飽和炭化水素基であるのがさらに好ましい。
これにより、偏光性湾曲積層体10の加工性をより優れたものとし得る。
【0056】
さらに、半芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸と、脂肪族ジアミンとを構成モノマーとして含むものであるのが好ましい。これにより、偏光膜13をより好適に保護することができるとともに、偏光性湾曲積層体10の加工性をより優れたものとし得る。また、延伸によるリタデーションの制御をより容易に行うことができる。
【0057】
脂環式ポリアミドは、その分子内に脂環式の化学構造を有しており、主鎖構造内に脂環式の化学構造を有していてもよいし、側鎖構造内に脂環式の化学構造を有していてもよい。
【0058】
この脂環式ポリアミドとしては、例えば、ポリアミドを構成するモノマーとしてのジカルボン酸、ジアミンのうちの少なくとも一方が脂環式の化学構造を有する化合物等が挙げられ、具体的には、例えば、下記式(3B)で表すことができる。
【0059】
【化3】
(ただし、式(3B)中、R
3、R
4は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数が4以下の炭化水素基、oは、2以上14以下の整数、pは、0以上6以下の整数、nは、2以上の整数である。)
【0060】
ポリカーボネート系樹脂としては、特に限定されず、各種のものを用いることができるが、中でも、芳香族系ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、その主鎖に芳香族環を備えており、これにより、偏光性湾曲積層体10の強度をより優れたものとし得る。
【0061】
この芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ビスフェノールとホスゲンとの界面重縮合反応、ビスフェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応等により合成される。
【0062】
ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールAや、下記式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノール(変性ビスフェノール)等が挙げられる。
【0063】
【化4】
(式(1A)中、Xは、炭素数1~18のアルキル基、芳香族基または環状脂肪族基であり、RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基であり、mおよびnは、それぞれ0~4の整数であり、pは、繰り返し単位の数である。)
【0064】
なお、前記式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノールとしては、具体的には、例えば4,4’-(ペンタン-2,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ペンタン-3,3-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ブタン-2,2-ジイル)ジフェノール、1,1’-(シクロヘキサンジイル)ジフェノール、2-シクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,3-ビスシクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
特に、ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を主成分とするのが好ましい。かかるビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を用いることにより、偏光性湾曲積層体10は、さらに優れた強度を発揮するものとなる。
【0066】
第1樹脂層11および第2樹脂層12中に主材料として含まれる樹脂材料のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上190℃以下であるのが好ましく、105℃以上155℃以下であるのがより好ましい。これにより、後述するレンズ30の製造方法の工程[3]における偏光性積層体15の熱曲げ加工による偏光性湾曲積層体10の形成を比較的容易に実施することができる。また、第1樹脂層11および第2樹脂層12にリタデーションを発現させる際には、このリタデーションの発現のための延伸を好適に行うことができる。さらに、偏光性湾曲積層体10の耐久性、信頼性を優れたものとし得る。
【0067】
また、第1樹脂層11および第2樹脂層12には、主材料として含まれる樹脂材料以外に、他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、特に限定されないが、例えば、主材料以外の樹脂材料や、染料等の着色剤、充填材、配向助剤、安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤および酸化防止剤等)、可塑剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤および粘度調整剤等が挙げられる。
【0068】
この場合、第1樹脂層11または第2樹脂層12中の樹脂材料の含有量は、特に限定されないが、第1樹脂層11または第2樹脂層12の100質量部中、75質量部以上であるのが好ましく、85質量部以上であるのがより好ましい。樹脂材料の含有量を上記範囲内とすることにより、偏光性湾曲積層体10を、優れた強度を発揮するものとし得る。
【0069】
なお、第1樹脂層11および第2樹脂層12を構成する構成材料は、それぞれ、同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0070】
さらに、第1樹脂層11および第2樹脂層12にリタデーションを発現させる場合、第1樹脂層11のリタデーションと第2樹脂層12のリタデーションとは、異なっているのが好ましく、第1樹脂層11のリタデーションは、第2樹脂層12のリタデーションよりも低くなっているのが好ましい。
【0071】
これにより、第2樹脂層12は、熱収縮により湾曲曲率が小さくなる方向に変形しやすいが、第1樹脂層11は、熱収縮により変形しにくくすることができる。したがって、
図2に示したように、レンズ30が備える偏光性湾曲積層体10に適用することで、湾曲した湾曲状態で用いられることになるが、この際に、湾曲凸面側に第2樹脂層12が位置し、湾曲凹面側に第1樹脂層11が位置するように湾曲形状とするのが好ましい。この場合、第2樹脂層12が比較的熱収縮率が高いため、比較的熱変形しやすいが、偏光性湾曲積層体10では、第1樹脂層11は、第2樹脂層12の熱変形を抑制する機能を発揮する。そのため、偏光性湾曲積層体10全体として、熱による過剰な変形を防止することができる。その結果、偏光性湾曲積層体10の熱変形に起因して、レンズ30自体の形状が変形するのを、的確に抑制または防止することができる。
【0072】
第1樹脂層11のリタデーションは、0nm以上500nm以下であるのが好ましく、50nm以上350nm以下であるのがより好ましい。第2樹脂層12のリタデーションは、2600nm以上8000nm以下であるのが好ましく、3500nm以上6500nm以下であるのがより好ましい。これにより、第1樹脂層11のリタデーションを十分に低くすることができるとともに、第2樹脂層12のリタデーションを十分に高くすることができる。よって、偏光性湾曲積層体10の偏光性能を十分に高めることができる。
【0073】
なお、第1樹脂層11および第2樹脂層12のリタデーションの差異は、層中に含まれる構成材料や、厚さ、さらには、延伸倍率等を異ならせることにより発現させることができる。
【0074】
第1樹脂層11および第2樹脂層12の平均厚さは、特に限定されず、例えば、0.05mm以上0.5mm以下であるのが好ましく、0.1mm以上0.4mm以下であるのが好ましい。
【0075】
第1樹脂層11の延伸倍率は、特に限定されないが、前記リタデーションの大きさに設定されるように、例えば、0.95以上1.1以下であるのが好ましい。第2樹脂層12の延伸倍率は、特に限定されないが、前記リタデーションの大きさに設定されるように、1.5以上3.5以下であるのが好ましい。
【0076】
また、第1樹脂層11、第2樹脂層12および偏光膜13の延伸方向は、一致しているのが好ましい。これにより、偏光性湾曲積層体10の偏光性能をさらに高めることができる。
【0077】
(接着剤層16および接着剤層17)
接着剤層16(第1接着剤層)および接着剤層17(第2接着剤層)は、それぞれ、偏光膜13と第1樹脂層11とを、および、偏光膜13と第2樹脂層12とを接合する機能を有している。これにより、偏光性湾曲積層体10の耐久性の向上を図ることができる。
【0078】
接着剤層16、17を構成する接着剤(または粘着剤)としては、特に限定されず、例えば、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤等が挙げられる。中でも、ウレタン系接着剤が好ましい。これにより、接着剤層16、17の透明性、接着強度、耐久性をより優れたものとしつつ、形状変化に対する追従性を特に優れたものとし得る。
【0079】
この接着剤層16、17の厚さは、特に限定されず、例えば、5μm以上60μm以下であるのが好ましく、10μm以上40μm以下であるのがより好ましい。これにより、接着剤層16、17としての機能を、確実に付与することができる。
【0080】
なお、接着剤層16、17は、第1樹脂層11、第2樹脂層12および偏光膜13の構成等によっては、その形成を省略することもできる。
【0081】
また、偏光性湾曲積層体10は、その総厚が0.1mm以上2mm以下であるのが好ましい。
【0082】
かかる構成をなすサングラス100において、前述の通り、レンズ30は、集光機能を有するものであっても、集光機能を有していないもののいずれであってもよい。
【0083】
また、サングラス100は、前述のように、フレーム20を有するものの他、ファッション性、軽量性等の観点から、フレームのない構成をなすものであってもよい。
【0084】
さらに、本実施形態では、本発明の眼鏡を、サングラス100に適用することとしたが、これに限定されず、本発明の眼鏡は、例えば、度付き眼鏡、伊達メガネ、風雨、塵芥、薬品等から眼を保護するゴーグル等であってもよい。
【0085】
以上のような構成をなすサングラス100において、サングラス100が備えるレンズ30は、以下に示すような、本発明のレンズ30の製造方法により製造される。
【0086】
<レンズの製造方法>
図3は、偏光性湾曲積層体を有するレンズの製造方法を説明するための模式図である。なお、以下では、説明の都合上、
図1の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0087】
以下、偏光性湾曲積層体10を備えるレンズ30の製造方法の各工程を詳述する。
[1]まず、第1樹脂層11と偏光膜13と第2樹脂層12とを備え、これらがこの順で積層された、全体形状が平板状をなす偏光性積層体15を用意する。すなわち、偏光膜13と、この偏光膜の一方の面側に設けられた第1樹脂層11と、偏光膜13の他方の面側に設けられた第2樹脂層12とを備える、全体形状が平板状をなす偏光性積層体15を用意する。そして、この偏光性積層体15の両面に、保護フィルム50(マスキングテープ)を貼付することで、偏光性積層体15の両面に保護フィルム50が貼付された多層積層体150を得る(
図1(a)参照)。
【0088】
[2]次に、
図1(b)に示すように、用意した多層積層体150を、すなわち、偏光性積層体15の両面に保護フィルム50を貼付した状態で偏光性積層体15を、その厚さ方向に打ち抜くことで、多層積層体150を平面視で円形状をなすものとする。
【0089】
[3]次に、
図1(c)に示すように、円形状とされた多層積層体150に対して、加熱下で熱曲げ加工を施すことで、多層積層体150を、第1樹脂層11側が湾曲凹面を構成し、第2樹脂層12側が湾曲凸面を構成する湾曲形状をなす湾曲多層積層体200とする。これにより、平板状をなす偏光性積層体15を、両面に保護フィルム50が貼付された状態で、湾曲形状をなす偏光性湾曲積層体10とすることができる。
【0090】
この熱曲げ加工は、通常、プレス成形または真空成形により実施される。
この際の多層積層体150(偏光性積層体15)の加熱温度(成形温度)は、前述の通り、本実施形態では、偏光性積層体15が樹脂層11、12を備え、樹脂層11、12の溶融または軟化温度を考慮して、好ましくは110℃以上170℃以下程度、より好ましくは140℃以上160℃以下程度に設定される。加熱温度をかかる範囲内に設定することにより、偏光性積層体15の変質・劣化を防止しつつ、偏光性積層体15を軟化または溶融状態として、偏光性積層体15を確実に熱曲げして、湾曲形状をなす偏光性湾曲積層体10とすることができる。
【0091】
以上のような工程[1]~[3]により、偏光性積層体15を湾曲させることにより、偏光性湾曲積層体を得る第1工程が構成される。
【0092】
[4]次に、熱曲げがなされた偏光性湾曲積層体10から、保護フィルム50を剥離させる。その後、
図3(d)に示すように、一方向における曲率半径がR
B1[mm]、前記一方向に直交する直交方向における曲率半径がR
B2[mm]の大きさとなっている湾曲凹面を有する金型40に、偏光性湾曲積層体10の湾曲凸面とされた第2樹脂層12(他方の面)側を金型40側として、第2樹脂層12と金型40の湾曲凹面とを当接させて、偏光性湾曲積層体10を密着(吸着)させた状態とする(第2工程)。
【0093】
[5]次に、金型40に偏光性湾曲積層体10を密着させた状態を維持しつつ、偏光性湾曲積層体10の湾曲凹面とされた第1樹脂層11(一方の面)側に、偏光性湾曲積層体10に接合された樹脂層35を形成する(第3工程)。これにより、熱曲げがなされた偏光性湾曲積層体10と、樹脂層35とを備えるレンズ30が製造される。
【0094】
この偏光性湾曲積層体10の第1樹脂層11側に対する樹脂層35の形成は、例えば、インサート射出成形法を用いて、この偏光性湾曲積層体10の湾曲凹面に、樹脂材料で構成される樹脂層35を射出成形することで実施される。
【0095】
また、インサート射出成形法の中でも、射出圧縮成形法が好ましく用いられる。射出圧縮成形法は、金型40の中に樹脂層35を形成するための樹脂材料を低圧で射出した後、金型を40高圧で閉じてこの樹脂材料に圧縮力を加える方法をとるため、成形体としての樹脂層35ひいてはレンズ30に成形歪みや成形時の樹脂分子の局所的配向に起因する光学的異方性が生じにくいことから好ましく用いられる。また、樹脂材料に対して均一に加わる金型圧縮力を制御することにより、一定比容で樹脂材料を冷却することができるので、寸法精度の高い樹脂層35を得ることができる。
【0096】
以上のようなレンズの製造方法において、本発明では、前記工程[3]における、偏光性積層体15を湾曲形状に湾曲させることによる偏光性湾曲積層体10の形成の際に、その湾曲の程度が、偏光性湾曲積層体10の前記他方の面側の湾曲凸面において、前記一方向における曲率半径をR1[mm]とし、前記直交方向における曲率半径をR2[mm]としたとき、下記関係式(A)と下記関係式(B)とのいずれか一方を満足し、かつ、下記関係式(C)を満足しないように設定されている。
【0097】
0.70≦RB1/R1≦1.00、
かつ1.00≦RB2/R2≦1.40 … (A)
1.00≦RB1/R1≦1.40、
かつ0.70≦RB2/R2≦1.00 … (B)
0.95<RB1/R1<1.06、
かつ0.95<RB2/R2<1.06 … (C)
【0098】
ここで、前述したレンズの製造方法の前記工程[5]における、偏光性湾曲積層体10に対する樹脂層35の形成では、湾曲形状とされた偏光性湾曲積層体10を、金型40が備える湾曲凹面に、偏光性湾曲積層体10の湾曲凸面が対応するようにして、脱落させることなく吸着させる必要が生じる。すなわち、前記工程[4]による、金型40に対する、偏光性湾曲積層体10の密着を維持した状態で、前記工程[5]において、偏光性湾曲積層体10の湾曲凹面に対して樹脂層35を形成する必要が生じる。
【0099】
特に、樹脂層35を形成する方法として、インサート射出成形法を、中でも射出圧縮成形法を用いた場合には、金型40の中に樹脂層35を形成するための樹脂材料を低圧で射出することから、この際に、位置精度よく、金型40が備える湾曲凹面に偏光性湾曲積層体10を吸着させる必要がある。
【0100】
また、樹脂層35を形成する際に、金型40を、
図3(d)に示すように、その湾曲凹面の開口部が鉛直方向に沿うように配置させる場合、すなわち、金型40を、垂直方向に立てて配置させる場合において、金型40からの偏光性湾曲積層体10の脱落が高頻度に生じる可能性を有していると言えることから、この際に、金型40が備える湾曲凹面に対して偏光性湾曲積層体10を確実に吸着させる必要がある。
【0101】
かかる要求があるところ、前記工程[3]における、平板状をなす偏光性積層体15を、加熱下で熱曲げ加工を施すことによる、湾曲形状をなす偏光性湾曲積層体10の形成では、通常、前記工程[4]で用いる金型40の湾曲凹面の曲率に対して、偏光性湾曲積層体10の湾曲凸面の曲率がほぼ同一になるように設定して、偏光性湾曲積層体10が作製される。ところが、この場合、金型40に対する偏光性湾曲積層体10の設置位置の微妙なズレや偏光性湾曲積層体10を吸着させる環境等により、金型40に対して偏光性湾曲積層体10を十分な吸着性をもって吸着させ得ないことに起因して、偏光性湾曲積層体10が高頻度で金型40から脱落すると言う問題があった。
【0102】
本発明者は、かかる問題点について鋭意検討を行った結果、偏光性湾曲積層体10の湾曲凸面の曲率を、金型40の湾曲凹面の曲率に対して、一致させることなく、意図的にズレを生じさせることで、金型40からの偏光性湾曲積層体10の脱落の頻度を低減させ得ることが判ってきた。
【0103】
そして、本発明者は、このズレの大きさについて、さらなる検討を行った結果、下記関係式(C)を満足しないように、偏光性湾曲積層体10の金型40に対する前記一方向におけるズレと、前記直交方向におけるズレとの双方を一定以上の大きさで維持するときに、下記関係式(A)と下記関係式(B)とのいずれか一方を満足するように、偏光性湾曲積層体10の金型40に対する前記一方向におけるズレと、前記直交方向におけるズレとのうち、一方の大きさを大きく、他方の大きさを小さく設定することで、金型40に対して偏光性湾曲積層体10を、優れた吸着性をもって吸着させて、金型40からの偏光性湾曲積層体10の脱落の頻度を的確に抑制または防止することができることから、信頼性に優れたレンズ30を歩留まり良く製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0104】
0.70≦RB1/R1≦1.00、
かつ1.00≦RB2/R2≦1.40 … (A)
1.00≦RB1/R1≦1.40、
かつ0.70≦RB2/R2≦1.00 … (B)
0.95<RB1/R1<1.06、
かつ0.95<RB2/R2<1.06 … (C)
【0105】
金型40の湾曲凹面は、その曲率が成形すべきレンズ30に対応して設定されており、通常、前記一方向および前記直交方向ともに、1カーブ以上9カーブ以下に設定されており、曲率半径RB1、曲率半径RB2に換算すると、それぞれ独立して、58mm以上523mm以下に設定されている。また、レンズ30の偏光方向を考慮して、前記一方向はMD(流れ方向)であり、前記一方向に直交方向はTD(流れ方向に対して垂直な方向)であることが好ましい。
【0106】
このようなレンズ30の形成の際に、上記関係式(A)と上記関係式(B)とのいずれか一方を満足し、かつ、上記関係式(C)を満足しないように、曲率半径RB1と曲率半径RB2とに対する曲率半径R1と曲率半径R2とのズレ量をそれぞれ設定すればよいが、上記関係式(C)を満足しないことを維持しつつ、下記関係式(a1)と下記関係式(b1)とのいずれか一方を満足することが好ましく、下記関係式(a2)と下記関係式(b2)とのいずれか一方を満足することがより好ましい。これにより、金型40からの偏光性湾曲積層体10の脱落の頻度をより顕著に減少させることができる。
【0107】
0.75≦RB1/R1≦0.95、
かつ1.03≦RB2/R2≦1.30 … (a1)
1.03≦RB1/R1≦1.30、
かつ0.75≦RB2/R2≦0.95 … (b1)
0.76≦RB1/R1≦0.93、
かつ1.06≦RB2/R2≦1.29 … (a2)
1.06≦RB1/R1≦1.29、
かつ0.76≦RB2/R2≦0.93 … (b2)
【0108】
さらに、曲率半径R1と曲率半径R2とは、以下に示す2つの関係式のうちの少なくとも一方を満足することが好ましい。
【0109】
具体的には、一方としては、R1/R2は、前記関係式(A)を満足する場合、さらに、1.07<R1/R2<1.68を満足するのが好ましく、1.26<R1/R2<1.67を満足するのがより好ましい。また、前記関係式(B)を満足する場合、さらに、0.59<R1/R2<0.93を満足するのが好ましく、0.60<R1/R2<0.79を満足するのがより好ましい。
【0110】
また、他方としては、下記関係式(1)を満足するのが好ましく、下記関係式(1’)を満足するのがより好ましい。
【0111】
【0112】
曲率半径RB1と曲率半径RB2とに対する曲率半径R1と曲率半径R2との関係式を前記範囲内に設定することにより、金型40からの偏光性湾曲積層体10の脱落の頻度をより顕著に減少させることができる。そのため、信頼性に優れたレンズ30をさらに歩留まり良く製造することができる。
【0113】
以上、本発明のレンズの製造方法について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0114】
例えば、本発明のレンズの製造方法では、任意の目的で、1以上の工程を追加することができる。
【実施例0115】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
1.偏光性湾曲積層体の製造
(実施例1)
まず、ポリビニルアルコール系フィルムを、水槽中で延伸しながら、染料を溶解した水溶液にて染色し、ホウ酸で処理した。その後、処理されたポリビニルアルコール系フィルムを水洗いし、乾燥した。これにより、厚さが35μmの偏光膜13を得た。
【0116】
一方で、第1樹脂材料としてポリアミド系樹脂(脂環式ポリアミド、EMS社製、「Grilamid TR90」)を用い、ベント式単軸押出機による押出成形により、厚さ0.2mmのシート状の第1樹脂層11を得た。
【0117】
また、第2樹脂材料としてポリアミド系樹脂(EMS社製、「Grilamid TR90」)を用い、ベント式単軸押出機による押出成形により厚さ0.5mmの第1シートを得た。該第1シートが120℃となるように加熱しながら2倍に一軸延伸することにより、厚さ0.4mmのシート状の第2樹脂層12を得た。
【0118】
次いで、第1樹脂層11の一方の面上に、第1接着剤として二液型湿気硬化型ポリウレタン接着剤(主剤:三井化学社製、「タケラック A-520」、硬化剤:三井化学社製、「タケネート A-50」)をバーコーターにて乾燥後の厚さが20μmになるように塗布した。また、第2樹脂層12の一方の面上に、第2接着剤として二液型湿気硬化型ポリウレタン接着剤(主剤:三井化学社製、「タケラック A-520」、硬化剤:三井化学社製、「タケネート A-50」)をバーコーターにて乾燥後の厚さが20μmになるように塗布した。
【0119】
次いで、第1接着剤および第2接着剤がそれぞれ塗布された第1樹脂層11および第2樹脂層12を、オーブンに入れ、第1接着剤および第2接着剤中の溶剤分が乾燥するまで加熱した。これにより、第1樹脂層11の一方の面上に接着剤層16(第1接着剤層)が積層された第1積層体を得るとともに、第2樹脂層12の一方の面上に接着剤層17(第2接着剤層)が積層された第2積層体を得た。
【0120】
その後、偏光膜13の一方の面上に、接着剤層16が接触するように、第1積層体を偏光膜13に積層し、偏光膜13の他方の面上に、接着剤層17が接触するように、第2積層体を偏光膜13に積層して偏光性積層体15を得た。この際、ラミネーター機のゴムロールを用いて、第1積層体、偏光膜13および第2積層体をそれぞれ圧着させて、偏光性積層体15の総厚を0.75mmとした。
【0121】
そして、このような偏光性積層体15の両面側、すなわち、第1樹脂層11の偏光膜13とは反対側の面上に、また、第2樹脂層12の偏光膜13とは反対側の面上にそれぞれポリオレフィンからなる保護フィルム50をラミネート法により積層した。
【0122】
次いで、この偏光性積層体15を、直径8cmに打ち抜いた後に、レマ成形機(真空成形機)(CR-32型)を用いて、150℃、10分間、吸引しつつ熱曲げ加工を行うことで、MD(一方向)における曲率半径R1が80.5mmであり、TD(一方向に直交する直交方向)における曲率半径R2が87.2mmである、実施例1の偏光性湾曲積層体10を得た。
【0123】
(実施例2~実施例9、実施例11、比較例1~比較例3)
第1樹脂層11および第2樹脂層12を得る際の条件を適宜変更して、偏光性積層体15を、レマ成形機(真空成形機)(CR-32型)を用いて吸引しつつ熱曲げ加工を行うことで、表1に示すような曲率半径R1および曲率半径R2の大きさとなっている偏光性湾曲積層体10としたこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例2~実施例9、実施例11、比較例1~比較例3の偏光性湾曲積層体10を得た。
【0124】
(実施例10)
第1樹脂層11の形成に用いる第1樹脂材料、および、第2樹脂層12の形成に用いる第2樹脂材料として、それぞれ、ポリアミド系樹脂(EMS社製、「Grilamid TR90」)に代えて、ポリカーボネート系樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製、「ユーピロンE-2000」)を用いて、偏光性積層体15を、レマ成形機(真空成形機)(CR-32型)を用いて吸引しつつ熱曲げ加工を行うことで、表1に示すような曲率半径R1および曲率半径R2の大きさとなっている偏光性湾曲積層体10としたこと以外は、前記実施例1と同様にして、実施例10の偏光性湾曲積層体10を得た。
【0125】
2.評価(金型40からの偏光性湾曲積層体10の脱落性)
各実施例および各比較例の偏光性湾曲積層体10について、それぞれ、以下の評価を行った。
【0126】
すなわち、各実施例および各比較例の偏光性湾曲積層体10について、それぞれ、表1に示すような曲率半径RB1[mm]および曲率半径RB2[mm]となっている湾曲凹面を有する金型40に対して吸着させ、5秒後における金型40からの脱落の有無を確認した。
【0127】
そして、各実施例および各比較例の偏光性湾曲積層体10の脱落の有無の確認を、それぞれ、各実施例および各比較例について、それぞれ、100個ずつ実施した。
この偏光性湾曲積層体10の脱落性の評価において得られた評価結果を表1に示す。
【0128】
【0129】
表1に示すように、各実施例では、下記関係式(A)と下記関係式(B)とのいずれか一方を満足し、かつ、下記関係式(C)を満足しておらず、偏光性湾曲積層体10の金型40からの脱落を防止し得ることが明らかとなった。
【0130】
これに対して、各比較例では、下記関係式(A)と下記関係式(B)との双方を満足していないか、もしくは、下記関係式(C)を満足しており、その結果、偏光性湾曲積層体10の金型40からの脱落が高頻度に認められる結果を示した。
0.70≦RB1/R1≦1.00、
かつ1.00≦RB2/R2≦1.40 … (A)
1.00≦RB1/R1≦1.40、
かつ0.70≦RB2/R2≦1.00 … (B)
0.95<RB1/R1<1.06、
かつ0.95<RB2/R2<1.06 … (C)