(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146466
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/26 20160101AFI20241004BHJP
【FI】
H02P21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059375
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦山 昌春
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505DD06
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505FF01
5H505GG02
5H505GG04
5H505JJ04
5H505JJ25
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】モータの種類によらずモータの安定した起動を可能にすること。
【解決手段】モータMの回転速度が速度指令値に一致するようにモータMを制御し、かつ、速度指令値を積分した回転位相にモータを同期させる同期運転モードであって、速度上昇区間と電流調整区間とを有する同期運転モードと、制御系座標軸とロータ座標軸との軸誤差を帰還制御することで得られる速度推定値が速度指令値に一致するようにモータを制御する位置センサレス制御モードとを有するモータ制御装置100において、軸誤差指令値生成器50は、電流調整区間において、軸誤差の目標値である軸誤差指令値であって、負の値を有する軸誤差指令値を生成し、同期運転電流指令値生成器13は、速度上昇区間においてモータの回転数を所定回転数まで上昇させた後、電流調整区間において、軸誤差を軸誤差指令値に近づけるように帰還制御することによりq軸電流指令値を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転速度が速度指令値に一致するように前記モータを制御し、かつ、前記速度指令値を積分した回転位相にモータを同期させる同期運転モードであって、速度上昇区間と電流調整区間とを有する前記同期運転モードと、制御系座標軸とロータ座標軸との軸誤差を帰還制御することで得られる速度推定値が前記速度指令値に一致するように前記モータを制御する位置センサレス制御モードとを有するモータ制御装置であって、
前記電流調整区間において、前記軸誤差の目標値である軸誤差指令値であって、負の値を有する前記軸誤差指令値を生成する軸誤差指令値生成器と、
前記速度上昇区間において前記モータの回転数を所定回転数まで上昇させた後、前記電流調整区間において、前記軸誤差を前記軸誤差指令値に近づけるように帰還制御することによりq軸電流指令値を調整する同期運転電流指令値生成器と、
を具備するモータ制御装置。
【請求項2】
前記軸誤差指令値生成器は、運転モードが前記同期運転モードから前記位置センサレス制御モードへ移行した時点から、前記軸誤差指令値を前記負の値から徐々に0に変化させる、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記同期運転電流指令値生成器は、前記電流調整区間におけるd軸電流指令値を、前記位置センサレス制御モードにおいて前記モータを動作させる際のd軸電流指令値に収束させる、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
運転モードが前記同期運転モードから前記位置センサレス制御モードへ移行する際に、前記同期運転モードにおけるd軸電流指令値の最終値、及び、前記同期運転モードにおける前記q軸電流指令値の最終値に基づいて、前記速度指令値と前記速度推定値との差を0に近づけるためのトルク指令値の初期値を設定する速度制御器、をさらに具備する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor)の制御の一つとして、モータのロータ位置を推定する位置センサレス制御が知られている。位置センサレス制御では、モータの回転に伴って発生する誘起電圧(以下では「モータ誘起電圧」と呼ぶことがある)を用いてモータのロータ位置の推定(以下では「位置推定」と呼ぶことがある)を行う。位置センサレス制御では、モータの停止状態や、モータ誘起電圧が小さい極低回転状態において位置推定の誤差が大きくなる。
【0003】
モータの起動時はモータ誘起電圧が小さいため、位置センサレス制御を行う際には、事前にモータを所定回転速度まで強制的に加速させる同期運転を行った後に、位置センサレス制御に切り替える方法が知られている。この方法を用いてモータを制御するモータ制御装置は、同期運転を行う運転モード(以下では「同期運転モード」と呼ぶことがある)と位置センサレス制御を行う運転モード(以下では「位置センサレス制御モード」と呼ぶことがある)とを切り替える。なお、モータ制御装置が運転モードを切り替える際、制御系座標軸とロータ座標軸との軸誤差が大きいと、切替直後に振動が発生したり回転速度が変化したりする「切替ショック」が生じる。そこで、同期運転モードにおいて軸誤差が0近傍になるように電流ベクトルの位相(以下では「電流位相」と呼ぶことがある)を調整した上で、運転モードを同期運転モードから位置センサレス制御モードに移行させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同期運転モードにおいて電流位相のみが調整された状態で運転モードが同期運転モードから位置センサレス制御モードに切り替わる上記技術は、q軸電流のみがトルクに寄与しd軸電流がトルクに寄与しない(換言すれば、d軸電流によるリラクタンストルクを発生させない)SPMSM(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)には適用可能である。これは、d軸電流が0に調整される位置センサレス制御に切り替わる際に、切り替わる直前のq軸電流値を初期値として設定しても、SPMSMにはトルクの変動が生じないため、モータの制御が不安定化しないからである。
【0006】
しかし、リラクタンストルクを発生させるIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)では、d-q座標の第一象限で定トルク曲線が大きく湾曲する(換言すれば、d軸電流がトルクに寄与する)。このため、IPMSMに上記技術が適用されて同期運転モードにおいて電流位相のみが調整された状態で位置センサレス制御モードに切り替わると、q軸電流の初期値として大きな値が設定されてしまう。この結果、トルクの増加が引き起こされてモータの急加速につながる。
【0007】
さらに、インダクタンスの磁気飽和特性の変化が大きいモータの場合には、電流振幅が大きい過励磁状態(つまり、大きな正のd軸電流が流れている状態)では、位置センサレス制御への移行時のq軸電流の初期値が適正なq軸電流から大きく乖離するため、モータの制御が不安定化してしまう。
【0008】
そこで、本開示は、モータの種類によらずモータの安定した起動が可能な技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のモータ制御装置は、モータの回転速度が速度指令値に一致するように前記モータを制御する。また、本開示のモータ制御装置は、前記速度指令値を積分した回転位相にモータを同期させる同期運転モードであって、速度上昇区間と電流調整区間とを有する前記同期運転モードと、制御系座標軸とロータ座標軸との軸誤差を帰還制御することで得られる速度推定値が前記速度指令値に一致するように前記モータを制御する位置センサレス制御モードとを有する。また、本開示のモータ制御装置は、軸誤差指令値生成器と、同期運転電流指令値生成器とを有する。前記軸誤差指令値生成器は、前記電流調整区間において、前記軸誤差の目標値である軸誤差指令値であって、負の値を有する前記軸誤差指令値を生成する。前記同期運転電流指令値生成器は、前記速度上昇区間において前記モータの回転数を所定回転数まで上昇させた後、前記電流調整区間において、前記軸誤差を前記軸誤差指令値に近づけるように帰還制御することによりq軸電流指令値を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、モータの種類によらずモータの安定した起動が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例のモータ制御装置の軽負荷時の動作例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例のモータ制御装置の過負荷時の動作例を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施例の重み係数の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施例の電流調整区間の終了時点における電流ベクトルの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施例の同期運転モードから位置センサレス制御モードへの移行の際の電流ベクトル変化の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施例の同期運転モードから位置センサレス制御モードへの移行の際の電流ベクトル変化の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施例の同期運転モードから位置センサレス制御モードへの移行の際の電流ベクトル変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において、同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明を省略することがある。
【0013】
[実施例]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図1において、モータ制御装置100は、減算器11,18,19と、速度制御器12と、電流制御器20と、加算器21,22と、dq/uvw変換器23と、PWM(Pulse Width Modulation)処理器24と、IPM(Intelligent Power Module)25とを有する。IPM25は、モータMに接続される。モータMの一例としてIPMSM及びSPMSM等のPMSMが挙げられる。本開示の技術は、磁気突極性を有するモータにも、磁気突極性を有しないモータにも、モータの種類にかかわらず適用可能である。
【0014】
また、モータ制御装置100は、電流検出器28と、uvw/dq変換器29と、軸誤差演算器30と、PLL(Phase Locked Loop)制御器31と、位置推定器32と、非干渉化制御器36とを有する。
【0015】
また、モータ制御装置100は、電流指令値生成器10と、スイッチSW1,SW2,SW3と、運転モード切替器40と、軸誤差指令値生成器50とを有する。電流指令値生成器10は、同期運転電流指令値生成器13と、センサレス電流指令値生成器14とを有する。スイッチSW1,SW2,SW3の各々は、A接点とB接点とを有する。
【0016】
モータ制御装置100の運転モードには、同期運転モードと、位置センサレス制御モードとがある。運転モード切替器40は、モータ制御装置100の運転モードを、同期運転モードと位置センサレス制御モードとの間で切り替える。運転モード切替器40は、モータ制御装置100の外部のコントローラによって制御される。運転モード切替器40は、運転モードが同期運転モードであるときは、電流指令値生成器10において同期運転電流指令値生成器13を動作させる一方でセンサレス電流指令値生成器14の動作を停止させるとともに、スイッチSW1,SW2,SW3を接点Bに接続する。また、運転モード切替器40は、運転モードが位置センサレス制御モードであるときは、電流指令値生成器10においてセンサレス電流指令値生成器14を動作させる一方で同期運転電流指令値生成器13の動作を停止させるとともに、スイッチSW1,SW2,SW3を接点Aに接続する。同期運転電流指令値生成器13は、運転モードが同期運転モードにあるときの電流指令値を生成する。センサレス電流指令値生成器14は、運転モードが位置センサレス制御モードにあるときの電流指令値を生成する。
【0017】
軸誤差演算器30は、d軸電流検出値idと、q軸電流検出値iqと、d軸電圧指令値Vdと、q軸電圧指令値Vqとに基づいて、制御系座標軸であるdc-qc座標軸と、モータMのロータ座標軸であるd-q座標軸との差である軸誤差Δθを算出する。軸誤差演算器30によって算出された軸誤差Δθは、PLL制御器31及び同期運転電流指令値生成器13に入力される。
【0018】
位置推定器32は、スイッチSW3を介して入力される速度情報を積分することで、dc-qc座標軸の回転位相θdqを生成する。運転モードが同期運転モードにあるときは、スイッチSW3は接点Bに接続されるため、モータ制御装置100の外部(例えば、上位のコントローラ)からモータ制御装置100へ入力される電気角速度の指令値である速度指令値ω*が速度情報として位置推定器32に入力される。よって、同期運転モードでは、速度指令値ω*に基づいて生成された回転位相θdqにモータMが同期する。一方で、運転モードが位置センサレス制御モードにあるときは、スイッチSW3は接点Aに接続されるため、PLL制御器31から出力される電気角速度の推定値である速度推定値ωが速度情報として位置推定器32に入力される。よって、位置センサレス制御モードでは、軸誤差Δθが帰還制御されることで得られる速度推定値ωに基づいて回転位相θdqが生成される。
【0019】
このように、同期運転モードでは、速度指令値ω*を積分した回転位相θdqにモータMを同期させる。一方で、位置センサレス制御モードでは、制御系座標軸とロータ座標軸との軸誤差Δθが帰還制御されることで得られる速度推定値ωが速度指令値ω*に一致するようにモータMが制御される。
【0020】
電流制御器20は、d軸電流指令値id
*とd軸電流検出値idとの誤差であるd軸電流誤差id_difを比例積分制御することにより、非干渉化前のd軸電圧指令値Vd_ccを算出する。また、電流制御器20は、q軸電流指令値iq
*とq軸電流検出値iqとの誤差であるq軸電流誤差iq_difを比例積分制御することにより、非干渉化前のq軸電圧指令値Vq_ccを算出する。例えば、電流制御器20は、式(1)に従ってd軸電圧指令値Vd_ccを算出し、式(2)に従ってq軸電圧指令値Vq_ccを算出する。式(1)において、Kp_dはd軸比例ゲイン、Ki_dはd軸積分ゲインであり、式(2)において、Kp_qはq軸比例ゲイン、Ki_qはq軸積分ゲインである。
【数1】
【0021】
非干渉化制御器36は、速度指令値ω
*とd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*とに基づいて、d軸電圧指令値Vd_ccを補償するためのd軸非干渉化電圧指令値Vd_aを算出する。また、非干渉化制御器36は、速度指令値ω
*とd軸電流指令値id
*とq軸電流指令値iq
*とに基づいて、q軸電圧指令値Vq_ccを補償するためのq軸非干渉化電圧指令値Vq_aを算出する。例えば、非干渉化制御器36は、式(3)に従ってd軸非干渉化電圧指令値Vd_aを算出し、式(4)に従ってq軸非干渉化電圧指令値Vq_aを算出する。式(3)及び式(4)において、RはモータMの巻線抵抗、LdはモータMのd軸インダクタンス、LqはモータMのq軸インダクタンス、ΨaはモータMの電機子鎖交磁束である。
【数2】
【0022】
ここで、非干渉化制御器36でのd軸非干渉化電圧指令値Vd_a及びq軸非干渉化電圧指令値Vq_aの算出に使用される電流をd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*とすることにより、急激な電流指令値の変化にもモータMの制御を追従させることが可能となる。よって、後述する同期運転モードでの電流調整区間において、d軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*が瞬時に変化する状況下でも、モータMの制御の安定性と応答性とを両立させることができる。
【0023】
加算器21は、式(5)に従って、d軸非干渉化電圧指令値Vd_aをd軸電圧指令値Vd_ccに加算することにより、最終的なd軸電圧指令値Vdを算出する。また、加算器22は、式(6)に従って、q軸非干渉化電圧指令値Vq_aをq軸電圧指令値Vq_ccに加算することにより、最終的なq軸電圧指令値Vqを算出する。これにより、d-q座標軸間の干渉がフィードフォワードでキャンセルされたd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが算出される。
【数3】
【0024】
dq/uvw変換器23は、加算器21,22から出力される2相のd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、位置推定器32から出力される回転位相θdqに基づいて、3相のU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv及びW相電圧指令値Vwへ変換する。
【0025】
PWM処理器24は、U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv及びW相電圧指令値Vwと、PWMキャリア信号とに基づいて6相のPWM信号を生成し、生成した6相のPWM信号をIPM25へ出力する。
【0026】
IPM25は、PWM処理器24から出力される6相のPWM信号に基づいて、直流電圧VdcからU相、V相、W相の3相の交流電圧を生成し、生成した3相それぞれの交流電圧をモータMのU相、V相、W相へ印加する。
【0027】
電流検出器28は、1シャント方式でIPM25の母線電流が検出される場合、PWM処理器24より出力される6相のPWM信号と、検出された母線電流とから、モータMのU相電流値iu、V相電流値iv、W相電流値iwを検出し、各相の相電流値iu,iv,iwをuvw/dq変換器29へ出力する。なお、電流検出器28は、相電流値iu,iv,iwのうちの二相の電流を検出し、残りの一相の電流をキルヒホッフの法則を用いて算出しても良い。
【0028】
uvw/dq変換器29は、位置推定器32から出力される回転位相θdqに基づいて、3相のU相電流値iu、V相電流値iv、W相電流値iwを、2相のd軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqへ変換する。
【0029】
軸誤差指令値生成器50は、軸誤差Δθの目標値である軸誤差指令値Δθ*を生成し、生成した軸誤差指令値Δθ*を同期運転電流指令値生成器13及びPLL制御器31へ出力する。軸誤差指令値Δθ*の詳細については後述する。
【0030】
PLL制御器31は、軸誤差Δθを比例積分制御することにより、軸誤差Δθが軸誤差指令値Δθ*となるような速度推定値ωを算出する。PLL制御器31によって算出された速度推定値ωがスイッチSW3を介して位置推定器32に入力されることで回転位相θdqが修正され、その結果、軸誤差Δθを軸誤差指令値Δθ*に近づけることができる。
【0031】
減算器11は、速度指令値ω*から速度推定値ωを減算することにより速度誤差ω_difを算出する。
【0032】
速度制御器12は、速度誤差ω_difを比例積分制御することにより、速度誤差ω_difを0に近づけるためのトルク指令値T
*を生成する。例えば、速度制御器12は、式(7)に従って、トルク指令値T
*を生成する。式(7)において、Kp_scは速度制御器12の比例ゲインであり、Ki_scは速度制御器12の積分ゲインである。なお、速度制御器12は、運転モードが同期運転モードから位置センサレス制御モードに切り替わる前に、d軸電流指令値id
*及びq軸電流指令値iq
*に基づいて速度制御器12の積分値を初期化する。積分値の初期化により、運転モードの切替前後での切替ショックを低減できる。
【数4】
【0033】
センサレス電流指令値生成器14は、運転モードが位置センサレス制御モードであるときに、トルクが一定となる電流の軌跡である定トルク曲線に基づいてトルク指令値T*をd-q座標軸上の電流ベクトルに変換することにより、センサレスd軸電流指令値id_sl*及びセンサレスq軸電流指令値iq_sl*を生成する。以下では、センサレスd軸電流指令値及びセンサレスq軸電流指令値を「センサレス電流指令値」と総称することがある。
【0034】
以上のように、電流制御器20、非干渉化制御器36及び加算器21によって、モータMに流れる電流が電流指令値に一致するようなd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが生成される。
【0035】
ここで、モータMがSPMSMである場合とIPMSMである場合とでセンサレス電流指令値の好ましい生成方法は異なるため、制御されるモータの種類に応じたセンサレス電流指令値の生成方法をモータ制御装置100に予め設定しておくのが好ましい。例えば、センサレス電流指令値生成器14は、モータMがSPMSMである場合は、定トルク曲線上でのセンサレスd軸電流指令値id_sl*を0としてセンサレスq軸電流指令値iq_sl*を生成する。その理由は、モータMがSPMSMの場合は、回転力を生み出すトルクはマグネットトルクが主になる(つまり、リラクタンストルクが発生しない)ためである。
【0036】
一方で、モータMがIPMSMである場合は、センサレス電流指令値生成器14は、定トルク曲線とMTPA曲線(最大トルク/電流制御曲線)との交点(以下では「二曲線交点」と呼ぶことがある)からセンサレスd軸電流指令値id_sl*及びセンサレスq軸電流指令値iq_sl*を生成するのが好ましい。その理由は、モータMがIPMSMの場合は、回転力を生み出すトルクはマグネットトルクだけでなく、リラクタンストルクの寄与が大きくなるためである。
【0037】
なお、モータMがSPMSMである場合とIPMSMである場合との双方のセンサレス電流指令値の生成方法をモータ制御装置100に予め設定しておき、モータMの種類に応じて何れか一方の生成方法を選択するようにしても良い。
【0038】
例えば、センサレス電流指令値生成器14は、モータMがSPMSMである場合は、式(8)に示すモータトルク式におけるセンサレスd軸電流指令値id_sl
*に0を代入することで、式(9)に示すセンサレスq軸電流指令値iq_sl
*を得ることができる。式(8)及び式(9)において、PnはモータMの極対数である。
【数5】
【0039】
また例えば、センサレス電流指令値生成器14は、モータMがIPMSMである場合は、式(8)に示すモータトルク式と、式(10)とに従って、センサレスd軸電流指令値id_sl
*及びセンサレスq軸電流指令値iq_sl
*を算出する。
【数6】
【0040】
まず、式(8)及び式(10)からセンサレスd軸電流指令値id_sl
*を消去すると、センサレスq軸電流指令値iq_sl
*に関する四次方程式である式(11)が得られる。
【数7】
【0041】
式(11)に示す四次方程式の実数解の一つが二曲線交点でのセンサレスq軸電流指令値iq_sl*となるため、センサレス電流指令値生成器14は、式(11)の解を導出することによりセンサレスq軸電流指令値iq_sl*を算出する。四次方程式の解は、例えばニュートン法などを用いて導出することができる。センサレス電流指令値生成器14は、式(11)を用いてセンサレスq軸電流指令値iq_sl*を算出した後に、式(10)にセンサレスq軸電流指令値iq_sl*を代入することでセンサレスd軸電流指令値id_sl*を算出する。
【0042】
運転モードが位置センサレス制御モードであるときは、スイッチSW1,SW2は接点Aに接続されるため、センサレス電流指令値生成器14によって生成されるセンサレスd軸電流指令値id_sl*及びセンサレスq軸電流指令値iq_sl*が、減算器18,19及び非干渉化制御器36に入力されるd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*となる。
【0043】
一方で、運転モードが同期運転モードであるときは、スイッチSW1,SW2は接点Bに接続されるため、同期運転電流指令値生成器13によって生成される同期運転d軸電流指令値id_sy*及び同期運転q軸電流指令値iq_sy*が、減算器18,19及び非干渉化制御器36に入力されるd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*となる。
【0044】
減算器18は、d軸電流指令値id*からd軸電流検出値idを減算することによりd軸電流誤差id_difを算出する。減算器19は、q軸電流指令値iq*からq軸電流検出値iqを減算することによりq軸電流誤差iq_difを算出する。
【0045】
<モータ制御装置の動作>
図2及び
図3は、本開示の実施例のモータ制御装置の動作例を示す図である。
図2には軽負荷時の動作例を示し、
図3には過負荷時の動作例を示す。モータMの起動時や低回転時では、モータ誘起電圧が小さいため、軸誤差演算器30によって算出される軸誤差Δθに誤差が生じ、軸誤差Δθに生じる誤差の影響でモータMの制御が不安定化する恐れがある。そこで、モータMの回転数を位置センサレス制御が適用可能な回転数まで引き上げるために、位置センサレス制御を行う前に、位置決め、及び、同期運転を行う。つまり、モータ制御装置100の運転モードは、
図2及び
図3に示すように、位置決めモードM1、同期運転モードM2、位置センサレス制御モードM3の順に移行する。運転モードが位置決めモードM1または同期運転モードM2であるときは、運転モード切替器40は、電流指令値生成器10において同期運転電流指令値生成器13を動作させる一方でセンサレス電流指令値生成器14の動作を停止させるとともに、スイッチSW1,SW2,SW3を接点Bに接続する。センサレス電流指令値生成器14の動作の停止に伴い、センサレス電流指令値生成器14の入力側に位置する速度制御器12及びPLL制御器31の動作も停止される。また、運転モードが位置センサレス制御モードM3であるときは、運転モード切替器40は、電流指令値生成器10においてセンサレス電流指令値生成器14を動作させる一方で同期運転電流指令値生成器13の動作を停止させるとともに、スイッチSW1,SW2,SW3を接点Aに接続する。
【0046】
また、同期運転モードM2は、
図2及び
図3に示すように、速度上昇区間I1と電流調整区間I2とを有し、同期運転モードM2では、制御区間が、速度上昇区間I1、電流調整区間I2の順に移行する。
【0047】
また、運転モードが位置決めモードM1または同期運転モードM2であるときは、スイッチSW1,SW2が接点Bに接続されるため、同期運転電流指令値生成器13によって生成される同期運転d軸電流指令値id_sy*及び同期運転q軸電流指令値iq_sy*が、減算器18,19及び非干渉化制御器36に入力されるd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*となる。一方で、運転モードが位置センサレス制御モードM3であるときは、スイッチSW1,SW2が接点Aに接続されるため、センサレス電流指令値生成器14によって生成されるセンサレスd軸電流指令値id_sl*及びセンサレスq軸電流指令値iq_sl*が、減算器18,19及び非干渉化制御器36に入力されるd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*となる。
【0048】
図2及び
図3に示すように、位置決めモードM1では、速度指令値ω
*が0とされ、同期運転電流指令値生成器13は、同期運転d軸電流指令値id_sy
*を0から所定値id_iniまで増加させる一方で、同期運転q軸電流指令値iq_sy
*を0にする。同期運転d軸電流指令値id_sy
*の増加中にモータMのロータが動き始めて位置決めされる。例えば、最大負荷を駆動可能な電流値が所定値id_iniとして設定されることで、同期運転モードM2において過負荷時でもモータMは脱調することなく起動できる。
【0049】
また、
図2及び
図3に示すように、速度上昇区間I1では、同期運転電流指令値生成器13が所定値id_iniを初期値として同期運転d軸電流指令値id_sy
*を所定値id_iniで一定に保つとともに、同期運転q軸電流指令値iq_sy
*を0で一定に保ったまま、速度指令値ω
*が0から所定回転数ω1まで線形増加される。これにより、速度上昇区間I1では、同期運転d軸電流指令値id_sy
*及び同期運転q軸電流指令値iq_sy
*が一定に保たれた状態で、モータMの回転数が、所定回転数ω1に対応する所定の回転数まで上昇する。なお、所定回転数ω1は、モータMの誘起電圧が十分に検出できることが分かっている回転数に予め設定され、例えば圧縮機用のモータの場合は15rps相当の電気角速度である。
【0050】
次いで、電流調整区間I2では、速度指令値ω*が所定回転数ω1で一定に保たれた状態で、同期運転電流指令値生成器13は、同期運転d軸電流指令値id_sy*及び同期運転q軸電流指令値iq_sy*を調整する。電流調整区間I2では、同期運転電流指令値生成器13は、所定値id_iniを初期値として同期運転d軸電流指令値id_sy*の調整を開始する。また、電流調整区間I2では、同期運転電流指令値生成器13は、同期運転q軸電流指令値iq_sy*の初期値を0として同期運転q軸電流指令値iq_sy*の調整を開始する。電流調整区間I2での同期運転d軸電流指令値id_sy*及び同期運転q軸電流指令値iq_sy*の調整により、電流調整区間I2では、dc-qc座標軸上での電流ベクトルが、位置センサレス制御モードM3時の電流ベクトルと同等の状態まで調整される。
【0051】
また、電流調整区間I2では、軸誤差指令値生成器50は、軸誤差Δθが積分または比例積分制御される際の軸誤差指令値Δθ*を生成する。電流調整区間I2において、軸誤差指令値生成器50は、負の値(例えば、-30deg程度)を有する軸誤差指令値Δθ*を生成する。このように、電流調整区間I2では、軸誤差指令値Δθ*が負の値に設定されることにより、ロータ座標軸であるd-q座標軸上の電流ベクトルが、位置センサレス制御モードM3で制御される電流ベクトルよりも多少過励磁となるようにされるのが好ましい。
【0052】
また、電流調整区間I2では、同期運転電流指令値生成器13は、軸誤差Δθを積分または比例積分制御することより同期運転q軸電流指令値iq_sy
*を生成する。同期運転電流指令値生成器13は、軸誤差Δθが軸誤差指令値Δθ
*よりも大きいときは同期運転q軸電流指令値iq_sy
*を増加させ、軸誤差Δθが軸誤差指令値Δθ
*よりも小さいときは同期運転q軸電流指令値iq_sy
*を減少させる。このようにして、電流調整区間I2では、同期運転電流指令値生成器13は、軸誤差Δθを負の値を有する軸誤差指令値Δθ
*に近づけるように帰還制御により同期運転q軸電流指令値iq_sy
*を調整する。電流調整区間I2では、同期運転電流指令値生成器13は、例えば式(12)に従って同期運転q軸電流指令値iq_sy
*を生成する。式(12)において、Ki_iqは積分ゲインである。
【数8】
【0053】
ここで、位置センサレス制御モードM3では、軸誤差指令値生成器50は、軸誤差指令値Δθ*を0とする。位置センサレス制御モードM3では、軸誤差Δθが軸誤差指令値Δθ*よりも大きいときは、PLL制御器31が速度推定値ωを減少させることにより速度推定値ωが速度指令値ω*を下回るため、速度制御器12がトルク指令値T*を増加させ、センサレス電流指令値生成器14がq軸電流指令値iq*を増加させる。一方で、同期運転モードM2では、速度指令値ω*が位置推定器32に直接入力されるため、同期運転電流指令値生成器13が軸誤差Δθに基づいて、直接的に同期運転q軸電流指令値iq_sy*を調整する。そこで、電流調整区間I2の開始点での同期運転d軸電流指令値id_sy*の初期値である所定値id_iniの大きさ、モータMのイナーシャ、モータMの誘起電圧定数、または、モータMが駆動する負荷の特性等に応じて積分ゲインKi_iq(式(12))が調整されることで、同期運転電流指令値生成器13の所望の応答速度を得ることができる。
【0054】
以上のように、同期運転電流指令値生成器13は、速度上昇区間I1においてモータMの回転数を所定回転数ω1まで上昇させた後、電流調整区間I2において、軸誤差Δθを軸誤差指令値Δθ*に近づけるように帰還制御することにより同期運転q軸電流指令値iq_sy*を調整する。
【0055】
また、電流調整区間I2では、同期運転電流指令値生成器13は、同期運転d軸電流指令値id_sy*を、フィルタ等を用いて、または、線形減少させて、位置センサレス制御モードM3においてモータMを動作させる際のd軸電流指令値id*に収束させる。例えば、同期運転電流指令値生成器13は、モータMが突極性を有しないSPMSMである場合は、同期運転d軸電流指令値id_sy*を0に収束させ、モータMが突極性を有するIPMSMである場合は、式(12)に従って算出される同期運転q軸電流指令値iq_sy*に対応するMTPA曲線上のd軸電流指令値id*に収束させる。
【0056】
<d軸電流指令値の収束>
電流調整区間I2では、同期運転電流指令値生成器13は、モータMが突極性を有しないSPMSMである場合は、同期運転d軸電流指令値id_sy
*を例えば0に収束させる。一方で、モータMが突極性を有するIPMSMである場合は、同期運転電流指令値生成器13は、同期運転d軸電流指令値id_sy
*を、例えば式(13)によって表されるd軸電流指令値id_mt
*に収束させる。
【数9】
【0057】
ここで、モータMがIPMSMである場合には、軸誤差Δθの帰還制御により生成されるq軸電流指令値iq*の変化に伴いd軸電流指令値id*も変化するため、式(13)に従って算出されるd軸電流指令値をそのままフィルタ処理するとフィルタの応答遅れが発生する。
【0058】
そこで、同期運転電流指令値生成器13は、
図4に示すように、電流調整区間I2においてフィルタ応答に応じて増加する重み係数(以下では「増加重み係数」と呼ぶことがある)W_up、及び、電流調整区間I2においてフィルタ応答に応じて減少する重み係数(以下では「減少重み係数」と呼ぶことがある)W_downを生成する。
図4は、本開示の実施例の重み係数の一例を示す図である。同期運転電流指令値生成器13は、電流調整区間I2の開始時点(つまり、同期運転d軸電流指令値id_sy
*の調整開始時点)から、電流調整区間I2の終了時点(つまり、同期運転d軸電流指令値id_sy
*の調整終了時点)までの間において、0から1に徐々に増加する増加重み係数W_upを用いて、式(14)に従って減少重み係数W_downを算出する。また、同期運転電流指令値生成器13は、式(13)に従って算出されるd軸電流指令値id_mt
*を用いて、式(15)に従って同期運転d軸電流指令値id_sy
*を算出する。これにより、フィルタの応答遅れを発生させることなしに、d軸電流指令値id
*を初期値である所定値id_iniから式(13)に従って算出されるd軸電流指令値id_mt
*に収束させることができる。なお、電流調整区間I2の時間の5分の1にフィルタの時定数を設定することにより、電流調整区間I2の終了時点において99.3%収束させることができる。例えば、電流調整区間I2が2500msの場合には、フィルタの時定数を500msとすれば良い。
【数10】
【0059】
<軸誤差指令値>
軸誤差Δθを積分または比例積分制御する際の軸誤差指令値Δθ*を負の値とする理由について説明する。
【0060】
一般的に、モータMが突極性を有しないSPMSMである場合は、定トルク曲線上でのd軸電流指令値id*を0として位置センサレス制御が行われ、モータMが突極性を有するIPMSMである場合は、二曲線交点に基づいて位置センサレス制御が行われる。一方で、同期運転モードM2では、PLL制御器31によって算出される速度推定値ωに基づく回転位相θdqの修正が為されないため、所望のトルクを得るための電流ベクトル振幅が最小となるように電流ベクトルを調整すると、同期運転電流指令値生成器13が電流指令値を生成する際の応答速度によっては、負荷トルクが出力トルクを上回り、モータMが脱調する懸念がある。
【0061】
これに対し、軸誤差指令値Δθ
*を負の値とすることにより軸誤差Δθを負の値に制御することで、制御系座標軸であるdc-qc座標軸上の電流ベクトルが、電流調整区間I2の終了時点において位置センサレス制御モードM3で動作させる際の電流ベクトル上にあったとしても、ロータ座標軸であるd-q座標軸上の電流ベクトルでは過励磁状態を保つことができ、トルク不足によるモータMの脱調を防止することができる。電流調整区間I2の終了時点におけるdc-qc軸上の電流ベクトルIa、及び、電流調整区間I2の終了時点におけるd-q軸上の電流ベクトルIa’を
図5に示す。
図5は、本開示の実施例の電流調整区間の終了時点における電流ベクトルの一例を示す図である。
【0062】
ここで、電流調整区間I2における軸誤差指令値Δθ*の値は、例えば、-30deg程度に設定されるのが好ましい。-30deg程度の軸誤差Δθが発生している状態においては、軸誤差Δθを0に制御する場合と比較して電流振幅が120%程度(Ia/Ia’)となり、適切に過励磁状態を保つことができる。一方で、モータMに接続される負荷が周期的に変動する場合や、モータMの温度やモータMに流れる電流値の変化によりモータMに設定されるモータ定数が真値から乖離していることが想定される場合には、絶対値がさらに大きな負の値を軸誤差指令値Δθ*としても良い。
【0063】
<同期運転モードから位置センサレス制御モードへの移行>
同期運転モードM2の電流調整区間I2から位置センサレス制御モードM3への移行の際、速度制御器12は、位置センサレス制御モードM3の開始時点でのd軸電流指令値id
*及びq軸電流指令値iq
*(つまり、同期運転モードM2における同期運転d軸電流指令値id_sy
*の最終値、及び、同期運転モードM2における同期運転q軸電流指令値iq_sy
*の最終値)に基づいて式(16)に従ってトルク指令値T
*を算出し、式(16)に従って算出したトルク指令値T
*を速度誤差ω_difに対する速度制御器12の積分値の初期値として設定する。こうすることで、運転モードが同期運転モードM2から位置センサレス制御モードM3へ切り替わる際のトルク指令値T
*の不連続の発生を防止できるため、運転モードの切替によりモータMに発生する切替ショックを低減できる。
【数11】
【0064】
また、電流調整区間I2から位置センサレス制御モードM3への移行時には、PLL制御器31は、PLL制御器31が有する積分器の初期値を速度指令値ω*に設定する。こうすることで、位置センサレス制御モードM3への移行時における回転数の急減速を防止できる。
【0065】
また、位置センサレス制御モードM3ではPLL制御器31によって軸誤差Δθが0となるように速度推定値ωが生成される一方で、電流調整区間I2で負の値をとる軸誤差Δθを急激に0となるようにPLL制御器31による帰還制御が動作すると、回転数の急加速が発生してしまう。そこで、電流調整区間I2から位置センサレス制御モードM3への移行時には、軸誤差指令値生成器50は、上記の
図2及び
図3に示すように、位置センサレス制御モードM3の開始時点から所定の時間TAが経過するまでの間に軸誤差指令値Δθ
*を負の値から徐々に0に変化させる。こうすることで、PLLの急激なフィードバック動作が緩和され、回転数の急加速を防止できる。例えば、軸誤差指令値生成器50は、上記の
図2及び
図3に示すように、位置センサレス制御モードM3において速度指令値ω
*がω1からω2まで増加する区間と同等の所定の時間TAで軸誤差指令値Δθ
*を負の値から徐々に0に変化させると良い。
【0066】
以上のような動作により、dc-qc軸とd-q軸とが一致し、さらに過励磁状態が解消され、最大トルクを発生させる電流ベクトルが最小となるように制御する位置センサレス制御モードM3に完全に移行できる。
【0067】
図6、
図7及び
図8は、本開示の実施例の同期運転モードから位置センサレス制御モードへの移行の際の電流ベクトル変化の一例を示す図である。
図6には、位置センサレス制御モードM3への移行前の電流ベクトルを示し、
図7には、位置センサレス制御モードM3への移行途中の電流ベクトルを示し、
図8には、位置センサレス制御モードM3への移行後の電流ベクトルを示す。上記のように軸誤差指令値Δθ
*を負の値から徐々に0に変化させることにより軸誤差Δθが負の値から徐々に0となるよう制御されることで、電流ベクトルが
図6に示す(a)から
図7に示す(b)を経て
図8に示す(c)へと徐々に変化するため、運転モードが同期運転モードM2から位置センサレス制御モードM3に移行する際においても、電流ベクトルの連続性が保たれる。その結果、位置センサレス制御モードM3への移行時の電流飛びや速度飛び等による切替ショックを低減できるため、位置センサレス制御モードM3への移行時のモータMの制御の安定性を向上させることができる。
【0068】
以上のように、軸誤差Δθを帰還制御することによりq軸電流指令値iq*を生成することで、軸誤差Δθを0近傍の負の値に収束させ、かつ、dc-qc座標軸上における同期運転モードM2時の電流ベクトルを位置センサレス制御モードM3時と同等の電流ベクトルにすることで、過励磁の度合いが抑制された状態で同期運転から位置センサレス制御へと移行できる。このため、位置センサレス制御への移行後の電流ベクトルの変化が小さくなるので、突極性を有するIPMSM等においても、位置センサレス制御への移行時の電流飛びや速度飛び等による切替ショックを低減できる。よって、モータMの突極性の有無というモータMの種類によらず、位置センサレス制御モードへの移行時のモータMの制御の安定性を向上させることができる。よって、モータMの種類によらず、モータMの安定した起動が可能となる。
【0069】
以上、実施例について説明した。
【0070】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100)は、モータ(実施例のモータM)の回転速度が速度指令値に一致するようにモータを制御する。また、本開示のモータ制御装置は、速度指令値を積分した回転位相にモータを同期させる同期運転モードであって、速度上昇区間と電流調整区間とを有する同期運転モードと、制御系座標軸とロータ座標軸との軸誤差を帰還制御することで得られる速度推定値が速度指令値に一致するようにモータを制御する位置センサレス制御モードとを有する。また、本開示のモータ制御装置は、軸誤差指令値生成器(実施例の軸誤差指令値生成器50)と、同期運転電流指令値生成器(実施例の同期運転電流指令値生成器13)とを有する。軸誤差指令値生成器は、電流調整区間において、軸誤差の目標値である軸誤差指令値であって、負の値を有する軸誤差指令値を生成する。同期運転電流指令値生成器は、速度上昇区間においてモータの回転数を所定回転数まで上昇させた後、電流調整区間において、軸誤差を軸誤差指令値に近づけるように帰還制御することによりq軸電流指令値を調整する。
【0071】
また、軸誤差指令値生成器は、運転モードが同期運転モードから位置センサレス制御モードへ移行した時点から、軸誤差指令値を負の値から徐々に0に変化させる。
【0072】
また、同期運転電流指令値生成器は、電流調整区間におけるd軸電流指令値を、位置センサレス制御モードにおいてモータを動作させる際のd軸電流指令値に収束させる。
【0073】
また、本開示のモータ制御装置は、速度制御器(実施例の速度制御器12)を有する。速度制御器は、運転モードが同期運転モードから位置センサレス制御モードへ移行する際に、同期運転モードにおけるd軸電流指令値の最終値、及び、同期運転モードにおけるq軸電流指令値の最終値に基づいて、速度指令値と速度推定値との差を0に近づけるためのトルク指令値の初期値を設定する。
【符号の説明】
【0074】
100 モータ制御装置
12 速度制御器
13 同期運転電流指令値生成器
50 軸誤差指令値生成器