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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146467
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ポリアセタールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 2/06 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08G2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059378
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】篠畑 雅亮
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032AA05
4J032AB06
4J032AC02
4J032AC32
4J032AC49
4J032AD41
4J032AF04
4J032AF05
4J032AF06
4J032AF08
(57)【要約】
【課題】本発明は、三フッ化ホウ素又はそのエーテル錯体を重合触媒として用いるにあたり、重合触媒を溶媒で希釈して用いたとしても重合活性を低下させることなく、ポリアセタールを高収率で製造することが可能であり、さらにタールやスケール等の沈殿物の生成が抑制され長時間にわたる連続運転が可能となる、ポリアセタールの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のポリアセタールの製造方法は、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素のエーテル錯体を含む重合触媒と有機溶媒とを含有する触媒溶液(a)と、トリオキサンを含む少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)とを、重合反応器に供給し、重合を行う重合工程を含み、前記有機溶媒が炭酸エステルを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタールの製造方法であって、前記方法が、
三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素のエーテル錯体を含む重合触媒と有機溶媒とを含有する触媒溶液(a)と、
トリオキサンを含む少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)とを、
重合反応器に供給し、重合を行う重合工程を含み、
前記有機溶媒が炭酸エステルを含む、
ポリアセタールの製造方法。
【請求項2】
前記炭酸エステルの標準沸点が150℃以下である、請求項1に記載のポリアセタールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアセタールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタールは機械的性質、耐薬品性、摺動性等のバランスに優れ、且つ、その加工が容易であることにより、代表的なエンジニアリングプラスチックとして、電気部品、電子部品、自動車部品、その他の各種機械部品を中心として広く利用されている。近年その利用範囲の拡大に伴い、次第に高度な機械的特性が要求される傾向にある。
【0003】
ポリアセタールの製造方法としては1,3,5-トリオキサン(以下、単にトリオキサンと呼称する場合がある)等の環状エーテルのカチオン重合が広く用いられている。
【0004】
一般的に、トリオキサンの重合触媒としては、三フッ化ホウ素のエーテル錯体(例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体)が用いられる場合が多く、その際には、当該重合触媒を、溶媒で希釈して使用している場合が多い。例えば、特許文献1には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体のシクロヘキサン溶液を使用するポリアセタールの製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体のジブチルエーテル溶液を使用するポリアセタールの製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、重合反応器内部のスケール発生が抑制され長期安定運転を可能とする方法の例として、三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテル錯体を、シクロヘキサンとn-ヘキサンとの混合液を使用するポリアセタールの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2022/085280号
【特許文献2】国際公開第2020/137414号
【特許文献3】特開2017-82099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、二軸パドルタイプの連続式重合器において高分子量でかつ多分散度が制御されたポリマーを得るためには、重合触媒を、活性を高めた状態でモノマー(例えばトリオキサン)中に分散させ、重合器中で可能な限り均等に重合を行うことが肝要である。
【0009】
そのためには、重合触媒を溶媒で希釈してモノマー中に分散させて、モノマー中に重合触媒が分散した後で、重合触媒とモノマーとの接触により重合が開始されるように反応系を設計することが肝要である。
【0010】
しかしながら、三フッ化ホウ素やそのエーテル錯体のような、反応性に富む化合物を重合触媒として使用する場合には、希釈に用いる溶媒が当該重合触媒に作用することで、重合触媒の活性を低下させる場合がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、三フッ化ホウ素又はそのエーテル錯体を重合触媒として用いるにあたり、重合触媒を溶媒で希釈して用いたとしても重合活性を低下させることなく、それによって高分子量でかつ多分散度が小さく制御されたポリアセタールを製造することが可能であり、さらにタールやスケール等の沈殿物の生成が抑制され長時間にわたる連続運転が可能となる、ポリアセタールの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決するために検討を重ね、その結果、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素のエーテル錯体を含む重合触媒を用い、トリオキサンをはじめとするモノマーを重合反応器に供給して重合を行うに際し、希釈溶媒として炭酸エステルを含む有機溶媒を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ポリアセタールの製造方法であって、前記方法が、
三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素のエーテル錯体を含む重合触媒と有機溶媒とを含有する触媒溶液(a)と、
トリオキサンを含む少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)とを、
重合反応器に供給し、重合を行う重合工程を含み、
前記有機溶媒が炭酸エステルを含む、
ポリアセタールの製造方法。
[2]前記炭酸エステルの標準沸点が150℃以下である、[1]に記載のポリアセタールの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、三フッ化ホウ素又はそのエーテル錯体を重合触媒として用いるにあたり、重合触媒を溶媒で希釈して用いたとしても重合活性を低下させることなく、ポリアセタールを高収率で製造することができる。また、タールやスケール等の沈殿物の生成が抑制され長時間にわたる連続運転が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態のポリアセタールの製造方法は、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素のエーテル錯体を含む重合触媒と有機溶媒とを含有する触媒溶液(a)と、トリオキサンを含む少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)とを、重合反応器に供給し、重合を行う重合工程を有し、前記有機溶媒が、炭酸エステルを含む、ポリアセタールの製造方法である。
【0017】
(触媒溶液(a))
本実施形態では、重合触媒と有機溶媒とを含有する触媒溶液(a)を重合反応器に供給して、重合を行う。
【0018】
<重合触媒>
本実施形態に用いる触媒溶液(a)が含有する重合触媒は、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素のエーテル錯体を含む。中でも、三フッ化ホウ素ジアルキルエーテル錯体がより好ましく、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体又は三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテル錯体がさらに好ましい。さらには、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が、単位体積あたりのモル数が大きいため、特に好ましい。
【0019】
<有機溶媒>
本実施形態に用いる触媒溶液(a)が含有する有機溶媒は炭酸エステルを含む。
【0020】
一般に、三フッ化ホウ素のエーテル錯体は、系中の水と反応することによってプロトンを発生し、このプロトンがトリオキサン等のモノマーの重合を開始すると言われている。本発明によると触媒溶液(a)が炭酸エステルを含むことにより収率が向上する。このような効果を奏する理由は明らかではないが、炭酸エステルが適度な極性を有するため、三フッ化ホウ素のエーテル錯体からエーテル化合物が適度に解離し、水との反応によって適量のプロトンが発生するためではないかと推測している。
また、三フッ化ホウ素のエーテル錯体は触媒溶液(a)中の不純物等によって変性しタール状の沈殿物を生成する場合がある。このような傾向は極性の低い有機溶媒(例えば、脂肪族炭化水素化合物など)を使用した場合に特に顕著であり、沈殿物が送液ポンプを閉塞させる等の問題を発生させる場合があるが、触媒溶液(a)が炭酸エステルを含むことによりこのような沈殿物を生じないという効果も奏する。
【0021】
本実施形態で「炭酸エステル」とは、R-O-CO-O-R(式中、R及びRは、それぞれ独立して任意の置換基を表す。)の構造式で表される化合物である。R及びRで表される任意の置換基としては、例えば、炭化水素基、炭化水素基の炭素-水素結合を構成する水素原子が置換基(例えば、フッ素、塩素などのハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基)で置換された基等が挙げられる。炭化水素基としては、これらに限定されないが例えば、分岐構造及び/又は環構造を含んでもよいアルキル基、芳香環含有炭化水素基等が挙げられるがこれらに限定されない。
分岐構造及び/又は環構造を含んでもよいアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル(異性体を含む)、ブチル(異性体を含む)、ペンチル(異性体を含む)、ヘキシル(異性体を含む)、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、エチルシクロプロピル、エチルシクロブチル、エチルシクロペンチル、エチルシクロヘキシル、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルエチル、シクロヘキシルエチル等が挙げられるがこれらに限定されない。
芳香環含有炭化水素基としては、例えば、フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、ジメチルフェニル、メチルエチルフェニル、ジエチルフェニル、ベンジル、フェネチル、ビフェニル、ナフチル、メチルナフチル、エチルナフチル、ジメチルナフチル、メチルエチルナフチル、ジエチルナフチル等が挙げられるがこれらに限定されない。
このような本実施形態における炭酸エステルとしては、炭酸(HO-CO-OH)の2つの水素原子が炭化水素基で置換された炭酸エステルが好ましく、炭酸の2つの水素原子が分岐構造及び/又は環構造を含んでもよいアルキル基で置換された炭酸エステルがより好ましく、炭酸の2つの水素原子が炭素原子数1~6の分岐構造及び/又は環構造を含んでもよいアルキル基で置換された炭酸エステルがさらに好ましい。さらに好ましい炭酸エステルとしては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル(異性体を含む)等を挙げることができる。また、このような本実施形態における炭酸エステルは、上記で例示した炭酸エステルの炭素-水素結合を構成する水素原子が置換基(例えば、フッ素、塩素などのハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基)で置換された化合物であってもよい。
【0022】
前記炭酸エステルは、容易に揮発することによって生成したポリアセタール中に残留しないようにする(必要な場合は除去する)観点から、好ましくは標準沸点が150℃以下である。
【0023】
<触媒溶液(a)のその他の成分及び触媒溶液(a)中の各成分の濃度>
本実施形態では、前記触媒溶液(a)における炭酸エステルの濃度は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましく、99.99質量%以下であることが好ましく、99.9質量%以下であることが好ましい。炭酸エステルの濃度は、触媒溶液(a)を調製する際に使用する炭酸エステルの量を調整して上記範囲内とすることができる。あるいは、調製した触媒溶液(a)を、例えば、ガスクロマトグラフィーやH NMR等によって分析し、触媒溶液(a)における炭酸エステルの濃度が上記範囲にあるものを選択して使用することもできる。
【0024】
本実施形態では、触媒溶液(a)は炭酸エステル以外の有機溶媒を含んでいてもよく、例えば、炭化水素基にヒドロキシ基が付加したヒドロキシ化合物、ヒドロキシ化合物であって炭素-水素結合を構成する水素原子が置換基(例えば、フッ素、塩素などのハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基)で置換された化合物等を含んでいてもよい。また、重合触媒を失活させない範囲で、2つの脂肪族基同士が酸素原子を介して結合している脂肪族エーテル化合物、2つの芳香族基同士が酸素原子を介して結合している芳香族エーテル化合物、芳香族基と脂肪族基が酸素原子を介して結合している芳香族脂肪族エーテル化合物、2つの脂肪族基同士がエステル結合(-CO-O-)を介して結合している脂肪族エステル化合物、2つの芳香族基同士がエステル結合を介して結合している芳香族エステル化合物、脂肪族基と芳香族基がエステル結合を介して結合している芳香族脂肪族エステル化合物等を含んでいてもよい。
【0025】
本実施形態では、触媒溶液(a)における極性の低い有機溶媒の混入量は重合触媒の溶解性を確保するためにできるだけ少ないほうが好ましく、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。極性の低い有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素化合物等が挙げられる。
【0026】
前記触媒溶液(a)における重合触媒の濃度は0.01質量%以上であることが好ましく、20質量%以下であることが好ましい。触媒溶液(a)中の重合触媒濃度が上記下限以上であれば、より確実に重合反応を進行させることができ、重合触媒濃度が上記上限以下であれば、急激な反応をより抑え、より安定した重合を実施することができる。
【0027】
(少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b))
本実施形態では、モノマー成分として、少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)を用いる。環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)とは、炭素-酸素結合または炭素-酸素-炭素結合を少なくとも1つ有する環状化合物を指し、また、ホルムアルデヒドの多量体(三量体、四量体など)を含む。環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)としては、例えば、トリオキサン、テトラオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、エピクルロロヒドリン、エピブロモヒドリン、スチレンオキサイド、オキサタン、1,3-ジオキソラン、エチレングリコールホルマール、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,5-ペンタンジオールホルマール、1,6-ヘキサンジオールホルマール等が挙げられる。環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本実施形態で用いる、少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)は、トリオキサンを含むことを要する。なお、トリオキサンとは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルマリン水溶液を反応させることにより得られる。このトリオキサンは、水、メタノール、蟻酸、蟻酸メチル等の連鎖移動させる不純物を含有している場合があるので、例えば蒸留等の方法で、これら不純物をあらかじめ除去する精製を行っておくことが好ましい。
【0029】
上記のようにトリオキサンの精製を行う場合には、連鎖移動させる不純物の合計量を、トリオキサン1molに対して、1×10-3mol以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5×10-3mol以下とする。不純物の量を上記数値のように低減化することにより、重合反応速度を実用上十分に高めることができ、生成したポリマーにおける熱安定性等の諸特性を向上させることができる。
【0030】
少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)中のトリオキサンの量は、環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)の合計モル数に対して80~100mol%の範囲が好ましく、より好ましくは85~100mol%であり、さらに好ましくは90~100mol%であり、さらにより好ましくは95~100mol%である。
【0031】
少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)として、トリオキサンと、トリオキサン以外の環状エーテル及び/又は環状ホルマールとを併用する場合、トリオキサン以外の環状エーテル及び/又は環状ホルマールとしては、特に、1,3-ジオキソラン、1,4-ブタンジオールホルマールが好ましい。
【0032】
また、少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)として、トリオキサンと、トリオキサン以外の環状エーテル及び/又は環状ホルマールとを併用する場合、トリオキサン以外の環状エーテル及び/又は環状ホルマールの添加量は、トリオキサンのモル数に対して1~20mol%の範囲が好ましく、より好ましくは1~15mol%であり、さらに好ましくは1~10mol%であり、さらにより好ましくは1~5mol%である。
【0033】
(連鎖移動剤)
本実施形態の重合工程においては、場合により、分子量制御の目的で連鎖移動剤を用いることができる。
【0034】
例えば、下記一般式:
O-(CH-O)-R
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、あるいは分岐状又は直鎖状のアルキル基からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、nは、1以上20以下の整数を表す。)で示される低分子量アセタールを用いることもできる。特に、分子量が200以下、好ましくは60~170のアセタールを用いることにより、最終的に得られるポリアセタールの分子量を良好に調整することができる。上記一般式で示される低分子量アセタールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチラール、メトキシメチラール、ジメトキシメチラール、トリメトキシメチラール等が挙げられる。これらは、一種のみを単独で使用しても良く、二種以上を併用してもよい。
【0035】
上記一般式で示される低分子量アセタールの添加量は、目的とするポリアセタールの分子量を好適な範囲に制御する観点から、トリオキサン、環状エーテル及び環状ホルマールの合計モル数1molに対して、0.1×10-5~0.2×10-2molの範囲が好ましく、0.1×10-5~0.2×10-3molの範囲がより好ましく、0.1×10-5~0.1×10-3molの範囲がさらに好ましい。
【0036】
(重合工程)
本実施形態における重合工程(重合)は、公知の方法により実施することができるが、例えば、上記の少なくとも1種の環状エーテル及び/又は環状ホルマール(b)(以下、「モノマー(b)」ということがある。)に触媒溶液(a)を添加する方法により実施することができる。使用する重合反応器の形状(構造)としては、特に限定するものではないが、例えば、ジャケットに熱媒を通すことのできる重合反応器、より具体的には2軸のパドル式やスクリュー式の撹拌混合型重合反応器を好適に使用することができる。そして、本実施形態では、重合工程により、ポリアセタールが得られる。
【0037】
重合の方法としては、例えば、触媒溶液(a)、モノマー(b)、任意の連鎖移動剤を重合反応器に供給し、重合させる方法が挙げられる。重合反応器に触媒溶液(a)とモノマー(b)とを供給する際は、触媒溶液(a)とモノマー(b)とを予め混合してから重合反応器に供給してもよく、あるいは、触媒溶液(a)とモノマー(b)とを別々のラインで重合反応器に供給してから、重合反応器中で触媒溶液(a)とモノマー(b)とを混合してもよいが、触媒溶液(a)とモノマー(b)とを別々のラインで重合反応器に供給することが好ましい。特に、モノマー(b)に含まれるトリオキサンは、重合触媒によって容易に重合する場合が多いので、触媒溶液(a)と同じラインで供給しないようにすることが好ましい。
【0038】
触媒溶液(a)に含有される重合触媒の添加量としては、モノマー(b)の大部分を重合してポリアセタールを生成させる量であれば特に限定されないが、好ましくは、モノマー(b)の合計モル数に対する重合触媒の量を、1.0×10-5~1.0×10-3molの範囲とすることが好ましい。また、例えば流通反応器等によって連続的にポリアセタールを製造する場合は、単位時間あたりのモノマー(b)の合計と重合触媒の供給量のモル比が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0039】
触媒溶液(a)に含有される重合触媒の量のより好ましい範囲の上限は、モノマー(b)の合計モル数に対して2.0×10-4mol以下であり、一方でより好ましい範囲の下限は2.0×10-5mol以上である。
【0040】
重合反応温度は、使用するモノマー(b)の融点よりも高い温度であって沸点より低い温度であればよく、例えばモノマー(b)としてトリオキサンを使用する場合は、63~135℃の範囲に保つことが好ましく、より好ましくは70~120℃の範囲であり、さらに好ましくは70~100℃の範囲である。重合反応器内の滞留(反応)時間は、好ましくは0.1~30分であり、より好ましくは0.1~25分であり、さらに好ましくは0.1~20分である。また、滞留(反応)時間は、重合物を適宜サンプリングして所望の収率となるように設定することも好ましい。
【0041】
(その他の工程)
本実施形態において重合触媒は、上述の通り、有機溶媒を含む触媒溶液(a)として重合に供する。そのため、本実施形態では、上記重合工程の前に、三フッ化ホウ素又は三フッ化ホウ素のエーテル錯体を含む重合触媒と、有機溶媒とを混合する混合工程をさらに含むことが好ましい。
【0042】
また、本実施形態では、重合工程の後に、重合工程で得られたポリアセタールから残モノマーの除去及び/または触媒の除去失活(除去失活工程)を行うことができる。除去失活としては、従来から提案されている方法を用いることができる。具体的には、例えば、水のみ、あるいは触媒を効率よく失活する目的でアンモニア、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン等のアミン類、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩類、有機酸塩等の少なくとも1種以上の失活剤を含む水溶液に、重合反応器から排出されたポリアセタールを投入し、数分~数時間、室温~100℃以下の範囲で連続撹拌しながら、ポリアセタール中に残留したモノマー及び触媒の除去失活を行うことができる。また、触媒の洗浄除去効率を高める観点から、特にポリアセタールが大きな塊状の場合、ポリアセタールを粉砕し、微細化することも好ましい。
【0043】
上述の重合工程で得られたポリアセタールは、熱分解の起点となりやすいヒドロキシ基末端を有することが多い。そのような場合には、例えば、有機酸無水物とヒドロキシ基末端とを反応させて安定化させることができる。また、そのような場合には、例えば、製品として使用する前にポリアセタールを加熱して、分解しやすい成分・部位を予め分解させておくことができる。
【0044】
以下、有機酸無水物とヒドロキシ末端とを反応させて安定化する工程について説明する。有機酸無水物は、ポリアセタールの不安定なヒドロキシ基末端と反応するものであれば、特に限定されない。例えば、具体的には、無水プロピオン酸、無水安息香酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸などが挙げられる。これらの中でも、有機酸無水物としては、反応後にポリアセタールの高温乾燥で除去しやすい観点から、ポリアセタールの融点以下で気体になる、無水プロピオン酸及び無水酢酸が好ましい。
【0045】
有機酸無水物とヒドロキシ末端との反応は、液相でも気相でもよい。例えば、重合工程で得られたポリアセタールを、該ポリアセタールのヒドロキシ末端及び有機酸無水物に不活性な有機溶媒に分散または溶解させて、有機酸無水物と反応させてもよい。また、例えば、重合工程で得られたポリアセタールに、ガス化した有機酸無水物を接触させて反応させてもよい。
【0046】
有機酸無水物とヒドロキシ末端との反応において、反応温度、反応時間(接触時間であってもよい)、有機酸無水物の使用量は、それぞれ任意に決定できる。
上記反応に用いる装置としては、特に限定されず、公知の反応器や乾燥機を使用でき、例えば、撹拌槽、オートクレーブ、円錐型リボン乾燥機、ロータリードライヤー、パドルドライヤーなどが挙げられる。また、上記装置は、反応を実施するために必要な任意の機器を具備していてもよい。
【0047】
また、上述の重合工程で得られたポリアセタールは、末端基が熱的に不安定である場合が多い。そのため、例えば除去失活工程の後に、この不安定な末端基を安定化処理することが好ましい。安定化処理として、具体的には、かかる不安定な末端基をエステル化剤又はエーテル化剤等と液相又は気相で反応させることによって封止する処理、あるいは、かかる不安定な末端部を分解除去する処理、などが挙げられる。これらの処理は、溶融加工時のポリアセタールの分解抑制の面で好ましい。
【0048】
不安定な末端部を分解除去して安定化する場合は、得られたポリアセタールに含まれる場合がある、熱的に不安定な末端部〔-(OCH-OH基〕を、分解処理剤を用いて分解除去することが好ましい。分解処理剤としては、特に制限されず、アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族アミン化合物、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カリシウム又はバリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩及びホウ酸塩等のような、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の無機弱酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩、パルミチン酸塩、プロピオン酸塩及びシュウ酸塩のような、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の有機酸塩、等の塩基性物質が挙げられる。これらの中でも、分解処理剤としては、脂肪族アミン化合物が好ましく、トリエチルアミンがさらに好ましい。
【0049】
不安定な末端部の分解除去の方法としては、特に制限はされず、例えば、トリエチルアミン等の分解処理剤の存在下で、ポリアセタールの融点以上(例えば170℃以上)、260℃以下の温度で、ポリアセタールを溶融させた状態で熱処理する方法が挙げられる。熱処理に用いる装置としては、例えば、ベント減圧装置を備えた単軸、又は二軸の押出機が挙げられ、好ましくは二軸押出機である。
【0050】
本実施形態の製造方法で得られたポリアセタールには、所望に応じて通常用いられる公知の添加剤である酸化防止剤、ギ酸補足剤、耐候(光)安定剤、離型(潤滑)剤、補強剤、導電剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、顔料、可塑剤、過酸化物分解剤、塩基性補助剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、充填剤等を配合することも可能である。さらに本実施形態で得られたポリアセタールには、その物性を損なわない範囲で他の重合体を配合することも可能である。これらの配合剤及び重合体の配合割合は、適宜選択することができる。
【0051】
本実施形態の製造方法で得られたポリアセタール、場合によって上記のような配合剤を配合した組成物は、種々の成形を経て、成形品や部品として、種々の用途に使用することができる。かかる用途としては、特に限定はされないが、公知のポリアセタールの用途として使用することができ、例えば、電気電子部品や工業部品として歯車(ギア)、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、軸、軸受け、ガイド等の部品が挙げられる。また、自動車用の部品などとして用いることも可能であり、その具体例としては、ガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される燃料廻り部品、ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリル等に代表されるドア廻り部品、シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシートベルト周辺部品、コンビスイッチ部品、スイッチ類が挙げられる。
【0052】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例0053】
以下の実施例は本実施形態を制限することなく説明するものである。
【0054】
[実施例1]
0.50mL(0.56g)の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体に炭酸ジメチルを加えて溶液量を250mLとして触媒溶液を調製した。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の濃度は0.21質量%であった。
【0055】
重合反応器として、80℃に設定した同方向回転の2軸型パドル式連続重合反応器(株式会社栗本鐵工所社製、径2B、L/D=14.8)を用いた。なお、酸素混入を防止するため、重合反応器のフィード口付近から、1時間当たり60Lの窒素を流した。この重合反応器に、トリオキサン(水分濃度:10ppm)を3500g/hr、1,3-ジオキソランを120g/h、メチラールを0.60g/hでフィードした。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体がトリオキサン1molに対して2.0×10-5molとなるように、触媒溶液をフィードした。トリオキサンと触媒溶液は、重合反応器に設置したパドル部に達するまで互いに接触することができないように別々のラインで供給した。
【0056】
触媒溶液のフィードを開始してから30分が経過した後、重合反応器より排出されたポリアセタールを、水を入れたポリタンクに投入した。重合は連続して1時間以上実施することができた。
【0057】
次いで、重合触媒を洗浄除去したポリアセタールを遠心分離機でろ過した後、ポリアセタール(ポリアセタールコポリマー)100質量部に対して、トリエチルアミンを含有する水溶液1質量部を添加して、均一に混合した後、120℃で3時間乾燥させることで、ポリアセタール乾燥パウダーを得た。
ポリアセタール乾燥パウダーの重量と、水を入れたポリタンクにポリアセタールを回収した時間にトリオキサンの供給速度を乗じた値とから、ポリアセタール乾燥パウダーの収率を算出したところ87%であった。
【0058】
[実施例2]
炭酸ジメチルの代わりに炭酸ジエチルを使用した以外は、実施例1と同様の方法をおこなった。触媒溶液における三フッ化ホウ素ジエチルエーテルの濃度は0.23質量%であった。ポリアセタール乾燥パウダーの収率は87%であった。また、重合は連続して1時間以上実施することができた。
【0059】
[比較例1]
炭酸ジメチルの代わりにシクロヘキサンを使用した以外は実施例1と同様の方法をおこなったところ、触媒溶液のフィードを開始してから30分後に、触媒溶液のフィードポンプに詰まりが生じて運転できなくなった。
【0060】
[比較例2]
炭酸ジメチルの代わりにジ-n-ブチルエーテルを使用した以外は実施例1と同様の方法をおこなった。ポリアセタール乾燥パウダーの収率は82%であった。重合は連続して1時間以上実施することができた。
【0061】
[比較例3]
炭酸ジメチルの代わりにo-キシレンを使用した以外は実施例1と同様の方法をおこなった。ポリアセタール乾燥パウダーの収率は78%であった。重合は連続して1時間以上実施することができた。
【0062】
以上の結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から分かるように、実施例1、2に対して、比較例1では連続重合時間が短くなった。実施例1、2では、運転停止後、触媒溶液の入った容器にはタールやスケール等の沈殿物の生成が認められなかったのに対して、比較例1では、運転停止後、触媒溶液の入った容器の底部に沈殿(タール状の物質)が認められた。比較例1では、このような沈殿物によってフィードポンプに詰まりが生じ、運転できなくなったものと推定される。
【0065】
また、実施例1、2に対して比較例2、3では連続して1時間以上、重合を実施することができたが、ポリアセタール乾燥パウダーの収率は低い結果となった。この結果は重合活性が低下した影響によると考えられる。そのため、実施例1、2のように重合活性を低下させない触媒溶液を調製することが重要であると言える。