(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146469
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用バインダー、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241004BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/1393
H01M4/139
H01M4/133
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059383
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】山田 純也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA11
5H050EA28
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】 より優れた結着力かつ、環境負荷低減を可能にする水への分散安定性が高い二次電池用バインダーおよび当該バインダーを用いたリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とする。
【解決手段】(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位、架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位を少なくとも含むリチウムイオン電池負極用バインダーが、電極との優れた接着強度を有していることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(A)、架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位(B)を少なくとも含み、これらを架橋してなるリチウムイオン二次電極負極用バインダーであって、
リチウムイオン二次電極負極用バインダー100質量%中、構成単位(B)の含有量が0.005~4質量%であるリチウムイオン二次電極負極用バインダー。
【請求項2】
前記構成単位(B)の架橋基がアリル基である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
【請求項3】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー、水系溶媒、炭素材料および/またはシリコン化合物からなる負極活物質を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物を用いて作製されるリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いて作製されるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用バインダー、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池として、鉛蓄電池、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池などがある。その中でもリチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度および高容量を有することから、広範な用途で利用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解質で構成されており、電解質を介してリチウムイオンが正極、負極間を移動することで充放電を行う。高エネルギー密度、高容量の特徴を有するリチウムイオン二次電池ではあるが、ハイブリッド車などの車載用途への適用のため、さらなる高エネルギー密度化、高容量化のために開発が行われている。例えば、負極の構成成分である負極活物質に関して、グラファイトやハードカーボンなどの炭素系材料が一般的に用いられているが、より高容量なシリコン系材料の開発が進められている。シリコン系材料は炭素系材料と比較して10倍以上高容量であり、比較的低い作動電位を示す。しかしながら、シリコン系材料はリチウムイオンの吸蔵、脱離の過程で膨張収縮率が高く、充放電を繰り返すごとに、電極と負極活物質を含む合材層とで剥離が発生するため、急激な性能低下が起こる。
【0004】
このような課題に対して、より強固に電極との結着性を有するバインダー成分の開発が進められており、例えば、特許文献1では、ビニル系単量体から誘導される単位、共役ジエン系単量体または共役ジエン系重合体から誘導される単位、および(メタ)アクリル酸エステル系単量体から誘導される単位、および水溶性重合体から誘導される単位を含む共重合体バインダーによって、電極との乾燥強度、湿潤強度が改善されることを提案している。
【0005】
また、特許文献2では、特定のメジアン径を有するシリコン粒子を20質量%以上含む負極活物質と、(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーおよびスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマーを含むモノマー群のラジカル共重合体と水とを含む、リチウムイオン二次電池負極用スラリが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7034407号
【特許文献2】特開2018-006334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、より優れた結着力かつ、水への分散安定性が高いリチウムイオン二次電池負極用バインダーおよび当該バインダーを用いたリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々検討した結果、(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位、架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位を少なくとも含むリチウムイオン電池負極用バインダーが、電極との優れた接着強度を有していることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
本発明の態様は次のとおりである。
項1 (メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(A)、架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位(B)を少なくとも含み、これらを架橋してなるリチウムイオン二次電極負極用バインダーであって、
リチウムイオン二次電極負極用バインダー100質量%中、構成単位(B)の含有量が0.005~4質量%であるリチウムイオン二次電極負極用バインダー。
項2 前記構成単位(B)の架橋基がアリル基である項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー。
項3 項1に記載のリチウムイオン二次電池負極用バインダー、水系溶媒、炭素材料および/またはシリコン化合物からなる負極活物質を少なくとも含むリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物。
項4 項3に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物を用いて作製されるリチウムイオン二次電池用負極。
項5 項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いて作製されるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物は、電極との優れた結着性を有し、さらに環境負荷低減を可能にする水への分散安定性の高いリチウムイオン二次電池負極用バインダーを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダーは、(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位と架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位とを少なくとも含んでいる。
【0012】
<リチウムイオン二次電池負極用バインダー>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー(以後、バインダーともいう場合がある)は、(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(A)、架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位(B)を少なくとも含むバインダーであって、また、必要に応じて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位(C)、
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
2は置換基を有していてもよい芳香族基である。)
で表わされるモノマーに由来する構成単位(D)、
エポキシ基、(ブロックト)イソシアネート基、及びウレタン基からなる群から少なくとも一種を有する反応性モノマーに由来する構成単位(E)、
下記一般式(3)
【化2】
(式中、R
15は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
で表わされるモノマーに由来する構成単位(F)を含むリチウムイオン二次電池負極用バインダーである。
【0013】
(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(A)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸から選択される化合物に由来する構成単位を例示することができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸であることが好ましい。重合体が有する構成単位(A)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(A)を含むことが電極に使用した際に活物質との親和性が向上する点で好ましい。
【0014】
本発明のバインダー100質量%中、(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(A)の含有量は、3~99.99質量%であることが好ましい。より詳細には、下限として、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、上限としては、99.99質量%以下であることが好ましく、99.95質量%以下であることがより好ましく、99.9質量%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
前記架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位(B)としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、n-ブチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド類、メチルグリシジルエーテル、メトキシエトシキエチルグリシジルエーテル、2-(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類を構成単位として含む共重合体の側鎖にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基などの不飽和炭化水素基、クロロ基、ブロモ基などのハロゲン基、エポキシド、オキセタン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル基が架橋基として導入された架橋性ポリマーなどが挙げられる。
【0016】
これらの中から、エチレンオキサイド(EOとも表記する場合がある)、プロピレンオキサイド(POとも表記する場合がある)、2-(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテル(EM2とも表記する場合がある)より選択される少なくとも1種類からなる共重合体の側鎖に上記の不飽和炭化水基、ハロゲン基、環状エーテル基が架橋基として導入された架橋性ポリマーであることが好ましく、前記共重合体の側鎖に不飽和炭化水素基が挿入された架橋性ポリマーであることがより好ましく、前記共重合体の側鎖にアリル基が導入された架橋性ポリマーであることがさらに好ましい。
【0017】
エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2-(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルより選択される少なくとも1種類からなる共重合体の側鎖にアリル基を導入した架橋性ポリマーの具体的な例として、側鎖のアリル基としてはアリルグリシジルエーテル(AGEとも表記する場合がある)であることが好ましく、EO-AGE共重合体、PO-AGE共重合体、EM2-AGE共重合体、EO-PO-AGE共重合体、EO-EM2-AGE共重合体、PO-EM2-AGE共重合体、EO-PO-EM2-AGE共重合体などが挙げられる。本発明においては、EO-PO-AGE共重合体、EO-EM2-AGE共重合体であることが好ましい。
【0018】
EO-PO-AGE共重合体100質量%中、エチレンオキサイドの含有量は89~98質量%であることが好ましく、90~97質量%であることがより好ましく、91~95質量%であることがさらに好ましい。プロピレンオキサイドの含有量は1~10質量%であることが好ましく、2~8質量%であることがより好ましく、3~7質量%であることがさらに好ましい。アリルグリシジルエーテルの含有量は0.1~5質量%であることが好ましく、0.3質量%~4質量%であることがより好ましく、0.5質量%~3質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
EO-EM2-AGE共重合体100質量%中、エチレンオキサイドの含有量は12質量%~95質量%であることが好ましく、22質量%~85質量%であることがより好ましく、32質量%~75質量%であることがさらに好ましい。2-(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルの含有量は3質量%~80質量%であることが好ましく、13質量%~70質量%であることがより好ましく、23質量%~60質量%であることがさらに好ましい。アリルグリシジルエーテルの含有量は0.5質量%~31質量%であることが好ましく、1質量%~20質量%であることがより好ましく、2質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
また、架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位として、架橋性樹脂を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリレート共重合樹脂、ウレタン樹脂、エチレン樹脂、ウレタン-アクリル共重合樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、尿素樹脂、尿素-メラミン共重合樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。これらの中でもジアリルフタレート樹脂であることが好ましい。
【0021】
架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーの重量平均分子量は、5万~250万であることが好ましい。より詳細には、下限として、5万以上であることが好ましく、6万以上であることがより好ましく、7万以上であることがさらに好ましい。また、上限として、250万以下であることが好ましく、200万以下であることがより好ましく、150万以下であることがさらに好ましく、100万以下であることが特に好ましい。これらの範囲にあること、架橋密度が緩やかとなり、バインダーに柔軟性を与えることができる。
【0022】
本発明のバインダー100質量%中、架橋基を有する重量平均分子量5万~250万の架橋性ポリマーに由来する構成単位(B)は、0.005~4質量%であることが好ましい。より詳細に、下限としては、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましい。また、上限として、4質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。下限値よりも低いと結着性が得られなくなる傾向があり、また上限値よりも高いと水溶性が保てなくなる傾向がある。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位(C)は、炭素数1~22のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位であることが好ましく、炭素数2~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位であることがより好ましく、炭素数4~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位であることが特に好ましい。
【0024】
好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を例示することができる。構成単位(C)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0025】
本発明のバインダー100質量%中、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位(C)の含有量は、0~65質量%であることが好ましい。より詳細には、下限として、0質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、上限としては、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。これらの範囲にあることで電解液に対する膨潤性が抑えられる。
【0026】
下記一般式(1)に由来する構成単位(D)において、R
1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基であり、水素、又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素、又はメチル基であることが特に好ましい。R
2は置換基を有していてもよい芳香族基であり、置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基などのアルキル基、ビニル基などの不飽和炭化水素基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基などが挙げられる。尚、芳香環は2以上有していてもよい。
【化1】
(式中、R
1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
2は置換基を有していてもよい芳香族基である。)
【0027】
一般式(1)に由来する構成単位は、より詳細には、下記一般式(2)
【化3】
(式中、R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基、R13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、t、uは0~3の整数であり、sは0~1の整数である。)で表わされるモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。
【0028】
一般式(2)に由来する構成単位においては、R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基であり、水素、又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素、又はメチル基であることが特に好ましい。R12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基であり、炭素数1~2のアルキレン基、又はカルボニル基であることが好ましい。R13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、アルキレン基としては炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましい。
置換基としては、アルキル基、メチル、エチル、イソプロピルなどのアルキル基、ビニルなどの不飽和炭化水素基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基などが挙げられる。
sは0又は1の整数である。t、uは0~3の整数であり、0~2の整数であることが好ましく、ともに0であってよい。
【0029】
一般式(1)に由来する構成単位の具体例としては、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸フェノキシジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール-(メタ)アクリル酸-安息香酸エステル、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸等に基づく構成単位を例示することができる。一般式(1)に基づく構成単位は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0030】
本発明のバインダー100質量%中、一般式(1)に由来する構成単位(D)の含有量は、0~60質量%以下であることが好ましい。より詳細には、下限として、0質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また上限としては、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが特に好ましい。この範囲とすることで電極に使用した際に、集電体と活物質との親和性が向上する点で好ましい。
【0031】
エポキシ基、(ブロックト)イソシアネート基、及びウレタン基からなる群から少なくとも一種を有する反応性モノマーに由来する構成単位(E)としては、エポキシ基を有する反応性モノマーに由来する構成単位であることが好ましい。この構成単位は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0032】
エポキシ基を有するモノマーに由来する構成単位としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等を例示することができる。
【0033】
(ブロックト)イソシアネート基を有するモノマーに由来する構成単位としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアナート、2-[0-(1'-メチルプロピリデンアミノ)カルボキシアミノ]エチルメタクリラート、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナート等に由来する構成単位を例示することができる。
【0034】
ウレタン基を有するモノマーに由来する構成単位としては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等を例示することができる。
【0035】
本発明のバインダー100質量%中、エポキシ基、(ブロックト)イソシアネート基、及びウレタン基からなる群から少なくとも一種を有するモノマーに由来する構成単位(E)の含有量は、0~10質量%であることが好ましい。より詳細には、下限として、0質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また上限として、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
下記一般式(3)で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(F)においては、R
15としては、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、およびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素原子またはメチル基である。すなわち、構成単位(F)において、水酸基を有するモノマーは、(R
15が水素原子又はメチル基である)(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【化2】
(式中、R
15は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
【0037】
一般式(3)において、(CxH2xO)としては、直鎖もしくは分岐のアルキルエーテル基であり、xは2~8の整数であり、好ましくは2~7の整数であり、より好ましくは2~6の整数である。
【0038】
一般式(3)において、nは2~30の整数であり、好ましくは2~25の整数であり、より好ましくは2~20の整数である。
【0039】
一般式(3)で表される水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(F)は、一般式(4)で表わされる水酸基を有するモノマーに由来することが好ましい。
【化4】
一般式(4)において、R
15は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、oは0~30の整数であり、pは0~30の整数であり、o+pは2~30である。ここで、o、およびpは、当該構成単位の構成比を表しているのみであって、(C
2H
4O)の繰り返し単位のブロックと(C
3H
6O)の繰り返し単位のブロックからなる化合物のみを意味するものではなく、(C
2H
4O)の繰り返し単位と、(C
3H
6O)の繰り返し単位が交互・ランダムに配置された、又はランダム部とブロック部が混在する化合物であってもよい。
【0040】
一般式(4)において、R15としては、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、およびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素原子またはメチル基である。すなわち、構成単位(F)において、水酸基を有するモノマーは、(R15が水素原子又はメチル基である)(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0041】
一般式(4)において、oは0~30の整数であり、pは0~30の整数であり、o+pは2~30であり、oは0~25の整数であり、pは0~25の整数であり、o+pは2~25であることが好ましく、oは0~20の整数であり、pは0~20の整数であり、o+pは2~20であることが好ましい。
【0042】
一般式(3)で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位としては、例えば、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコール-モノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用できる。これらの中でも、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。これは1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0043】
本発明のバインダー100質量%中、一般式(3)に表される水酸基を有するモノマーに基づく構成単位(F)の含有量は0~15質量%以下であることが好ましい。より詳細には、下限として、0質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また上限として、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本発明のバインダーの重量平均分子量としては、5万~500万であることが好ましい。より詳細には、下限として、5万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましく、15万以上であることがさらに好ましい。また、上限としては、500万以下であることが好ましく、250万以下であることがより好ましく、200万以下であることがさらに好ましい。これらの範囲にあることで、結着性向上、水への溶解性、分散安定性がよくなる傾向にある。
【0045】
本発明のバインダーは、本発明の目的を逸脱しない程度に上記の構成単位以外に、これらと共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を含有していてもよい。その他の構成単位としては、エチレン性不飽和ニトリルに由来する構成単位、(メタ)アクリルアミド系モノマーに由来する構成単位、芳香族ビニル系モノマーに由来する構成単位、共役ジエン系モノマーに由来する構成単位、非共役ジエン系モノマーに由来する構成単位、その他オレフィンに由来する構成単位等が挙げられる。
【0046】
本発明において、これらの共重合可能なその他の単量体に由来する構成単位を含有させる場合、全構成単位中、0~45質量%であることが好ましく、0~20質量%であることがより好ましく、0~10質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
<リチウムイオン二次電池負極用バインダーの製造方法>
本発明のバインダーは、各種共重合性モノマー、架橋性ポリマーを重合することで製造することができ、使用する共重合性モノマーや架橋性ポリマーはいずれも市販品であってよく、特に制約はない。
【0048】
重合反応の形態としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、および溶液重合法のいずれも用いることができるが、重合反応の制御の容易性などの点から常圧下での乳化重合法、非水溶性架橋性ポリマーを用いる場合は溶液重合法を用いるのが好ましい。
【0049】
乳化重合法の場合、一般的な乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、シード重合法、シード粒子にモノマー等を膨潤させた後に重合する方法等を使用することができる。具体的には、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に室温で共重合性モノマーおよび架橋性ポリマー、乳化剤、重合開始剤、水、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等を含んだ組成物を不活性ガス雰囲気下で攪拌することで共重合性モノマー、架橋性ポリマー等を水に乳化させる。乳化の方法は撹拌、剪断、超音波等による方法等が適用でき、撹拌翼、ホモジナイザー等を使用することができる。次いで、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始させることで、重合体が水に分散した球形の重合体のラテックスを得ることができる。また、生成した球形の重合体を別途単離した後に、分散剤等を用いてN-メチルピロリドン等の有機溶剤に分散させて使用してもよい。さらには、再度、モノマー、乳化剤や分散剤等を用いて水中に分散させて、重合体のラテックスを得る方法もある。重合時のモノマーの添加方法は、一括仕込みの他に、モノマー滴下やプレエマルジョン滴下等でもよく、これらの方法を2種以上併用してもよい。
【0050】
また本発明のバインダー中での重合体の粒子構造は特に限定されない。例えば、シード重合によって作製された、コア-シェル構造の複合重合体粒子を含む重合体のラテックスを用いることができる。シード重合法は、例えば、「分散・乳化系の化学」(発行元:工学図書(株))に記載された方法を用いることができる。具体的には、上記の方法で作製したシード粒子を分散した系にモノマー、重合開始剤、乳化剤を添加し、核粒子を成長させる方法であり、上記方法を1回以上繰り返してもよい。
【0051】
シード重合には本発明の重合体または公知のポリマーを用いた粒子を採用しても良い。公知のポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレートおよびポリエーテルなどが例示できるが、限定されるものではなく、他の公知のポリマーを用いることができる。また、1種のホモポリマーまたは2種以上の共重合体またはブレンド体を用いても良い。
【0052】
本発明のバインダー中での重合体の粒子形状としては球形以外に、板状、中空構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造等があげられ、本発明を逸脱しない範囲で2種類以上の構造および組成の粒子を用いることができる。
【0053】
本発明で用いられる乳化剤は特に限定されず、乳化重合法おいて一般的に用いられるノニオン性乳化剤およびアニオン性乳化剤等を使用することができる。ノニオン乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、アニオン性乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。アニオン性乳化剤の代表例としてはドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミンが挙げられる。
【0054】
本発明で用いられる乳化剤の使用量は乳化重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量に対して、0.01~10重量%の範囲であり、好ましくは0.05~5重量%、さらに好ましくは0.05~3重量%である。
【0055】
本発明で用いられる重合開始剤は特に限定されず、乳化重合法おいて一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩に代表される水溶性の重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドに代表される油溶性の重合開始剤、ハイドロパーオキサイド、4-4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2-2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン、2-2’-アゾビス(プロパン-2-カルボアミジン)2-2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロパンアミド、2-2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}、2-2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)および2-2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロパンアミド}などのアゾ系開始剤、レドックス開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明で用いられる重合開始剤の使用量は乳化重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー100mol%に対して、0.05~10mol%の範囲であり、好ましくは0.1~5mol%、さらに好ましくは0.2~3mol%である。
【0057】
本発明のバインダーを作製する際に用いる水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水および超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水および超純水である。
【0058】
本発明においては必要に応じて分散剤を用いることができ、種類および使用量は特に限定されず、一般的に用いられる分散剤を任意の量で自由に使用することができる。具体例としてはヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダおよびポリアクリル酸ソーダ等が挙げられる。
【0059】
本発明においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤の具体例としては、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-メチル-2-ペンテン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、α-ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、仕込モノマー量100重量部に対して0~5重量部にて使用される。
【0060】
重合時間および重合温度は特に限定されない。使用する重合開始剤の種類等から適宜選択できるが、一般的に、重合温度は20~100℃であり、重合時間は0.5~100時間である。
【0061】
さらに上記の方法によって得られた重合体は、必要に応じてpH調整剤として塩基を用いることでpHを調整することができる。塩基の具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物、有機アミン化合物等が挙げられる。pHの範囲はpH1~11、好ましくはpH2~11、更に好ましくはpH2~10、例えばpH3~10、特にpH5~9の範囲である。
【0062】
本発明のバインダー中における上記重合体の粒子径は、動的光散乱法、透過型電子顕微鏡法や光学顕微鏡法などによって計測できる。動的光散乱法を用いて得た散乱強度により算出した平均粒径は、0.001μm~1μm、好ましくは0.001μm~0.500μmである。具体的な測定装置としてはスペクトリス製のゼータサイザーナノ等が例示できる。
【0063】
重合反応の終了後、重合液をそのまま使用することもできるし、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製したものも使用することができる。
【0064】
溶液重合法を用いる場合、本発明で用いられる有機溶媒は特に限定されず、溶液重合法おいて一般的に用いられる有機溶媒を使用することができる。極性有機溶媒であることが好ましく、脂肪族アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類などが挙げられる。
【0065】
脂肪族アルコール類としては、例えば、炭素数1~3のアルキル基を有する脂肪族アルコールが挙げられ、より具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
【0066】
より具体的な例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類が挙げられる。
【0067】
本発明において、溶液重合の際、固形分濃度が0.5~80質量%となるようにすることが好ましく、より詳細には、下限として、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、上限として、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0068】
本発明で用いられる重合開始剤は特に限定されず、溶液重合法おいて一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。その具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t-ブチルペルオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物等の公知の重合開始剤を用いることができる。
【0069】
本発明で用いられる重合開始剤の使用量は溶液重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みの構成単位全量に対して、0.05~10mol%の範囲であり、好ましくは0.1~5mol%、さらに好ましくは0.2~3mol%である。
【0070】
重合連鎖移動剤としては、2-メルカプトプロピオン酸等のカルボキシ基含有メルカプタン類;オクタンチオール等のアルキルメルカプタン;2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等のヒドロキシ基含有メルカプタン類等の公知の重合連鎖移動剤を用いることができる。
また、重合モノマーの連鎖の様式に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれの重合様式でもよい。
【0071】
重合温度は特に限定されず、使用する重合開始剤の種類等から適宜選択できるが、20~100℃であることが好ましい。より詳細には、下限として、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがさらに好ましい。また上限として、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることがさらに好ましい。
【0072】
重合時間は特に限定されず、使用する重合開始剤の種類等から適宜選択できるが、0.5~100時間であることが好ましい。より詳細には、下限として、0.5時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、5時間以上であることがさらに好ましい。また、上限としては、100時間以下であることが好ましく、72時間以下であることがより好ましく、48時間以下であることがさらに好ましい。
【0073】
本発明において、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
【0074】
重合反応の終了後、重合液をそのまま使用することもできるし、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製したものも使用することができる。
【0075】
<リチウムイオン電池負極用スラリ組成物>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物は、少なくとも前記バインダー、水系溶媒および負極活物質を含んでいる。
【0076】
<水系溶媒>
本発明に用いる水系溶媒とは、水単独、または、水および水溶性有機溶媒との混合溶媒の総称である。水としては、特に限定されず、水道水、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水、及び超純水である。また、水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのグリコールエーテル類、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類などが挙げられる。
【0077】
本発明のリチウムイオン電池負極用スラリ組成物において、バインダーの含有量(固形分濃度)は、0.1~15重量%であることが好ましい、より詳細には、下限として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、上限としては、15質量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0078】
<負極活物質>
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物に用いる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な構造(多孔質構造)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)か、シリコン系化合物からなる粉末である。粒子径は10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以上20μm以下である。また、金属と炭素材料との混合活物質として用いてもよい。なお負極活物質にはその気孔率が、70%程度のものを用いるのが望ましい。
【0079】
炭素材料としては、グラファイト、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維などの炭素材料を例示することができ、グラファイトであることが好ましい。
【0080】
シリコン系化合物としては、Si元素、Siとの合金、Siを含む酸化物、Siを含む炭化物等であり、Si、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOx(0<x≦2)、SnSiOx、LiSiOを例示することができ、SiOx(0<x≦2)であることが好ましく、一酸化ケイ素(SiO)等である。
【0081】
負極活物質において、炭素材料もしくはシリコン系化合物のみで構成されてもよいし、炭素材料とシリコン系化合物を併用してもよい。炭素材料とシリコン系化合物を併用する場合、以下のように含有させることが好ましい。
【0082】
負極活物質全量(100質量%)に対する炭素材料の含有量は、下限は20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、70質量%以上であってよく、上限は99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、96質量%以下であることが特に好ましい。
【0083】
負極活物質全量(100質量%)に対するシリコン系化合物の含有量は、下限は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが特に好ましく、上限は80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが特に好ましく、30質量%以下であってよい。
【0084】
賦活化は、公知の賦活法であればよく、ガス賦活法または薬品賦活法等により行うことができる。ガス賦活法では、炭化物を、加熱下で、水蒸気、炭酸ガス、酸素などのガスと接触させることにより、賦活化させる。薬品賦活法では、炭化物を、公知の賦活薬品と接触させた状態で加熱することにより賦活化させる。賦活薬品としては、例えば、塩化亜鉛、燐酸、および/またはアルカリ化合物(水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物など)などが挙げられる。水蒸気で賦活化した活性炭(本願においては水蒸気賦活性炭と記載する)、および/またはアルカリで賦活化した活性炭(本願においてはアルカリ賦活活性炭と記載する)を用いることが好ましい。
【0085】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物における負極活物質の含有量としては、特に制限されず、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物100質量%に対して、10~70質量%であることが好ましく、20~60質量%であることがより好ましく、20~50質量%であることが特に好ましい。負極活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
導電助剤を用いる場合には、公知の導電助剤を用いることができ、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素繊維、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0087】
導電助剤を用いる場合には、導電助剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下が挙げられる。導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上を例示することができる。
【0088】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物は、必要に応じて増粘剤を含有させても良い。増粘剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは、セルロース系化合物のナトリウム塩、アンモニウム塩、ポリビニルアルコールおよびその塩等である。
【0089】
セルロース系化合物のナトリウム塩もしくはアンモニウム塩としては、セルロース系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。具体例としては、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩等が挙げられる。カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩が特に好ましい。これらの増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0090】
増粘剤を用いる場合には、増粘剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下が挙げられる。なお、増粘剤が含まれる場合、増粘剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0091】
リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物の製造方法
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物は、従来のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物の製造方法が適用できるが、本発明においては、以下に示す工程を経ることによって、集電体との結着性の面において最も効果を発揮することができる。すなわち、負極活物質を水に分散させる工程、バインダーを添加、分散させる工程を含むことが好ましい。
【0092】
負極活物質を水系溶媒に分散させる工程において、負極活物質を固形分とした場合、その固形分濃度が10質量%~70質量%とすることが好ましく、20質量%~60質量%とすることがより好ましく、20質量%~50質量%とすることがさらに好ましい。
【0093】
バインダーを添加、分散させる工程において、負極活物質100質量部あたり、バインダーの添加量として、下限としては0.1質量以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。上限としては、16質量部以下であることが好ましく、12質量部以下であることがより好ましく、6質量部以下であることがさらに好ましい。
【0094】
各工程における分散方法としては、一般的に使用されている分散方法であれば制限なく使用することができ、例えば、プラネタリーミキサー、ホモディスパー、自転公転式ミキサー、超音波ホモジナイザー等が使用できる。
【0095】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体上に本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物を塗布した負極活物質層を具備することで得られる。
【0096】
本発明のリチウムイオン二次電池負極に用いる集電体(金属電極基板)については、公知の集電体を用いることができる。具体的には、銅、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン、アルミニウム等の金属が使用される。
【0097】
リチウムイオン二次電池負極の作製方法は、特に限定されず一般的な方法が用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物をドクターブレード法やアプリケーター法、シルクスクリーン法などにより集電体表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0098】
例えばドクターブレード法では、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物を金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は活物質塗布後、余分な水を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤、乳化剤等を除去してもよい。
【0099】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、前述の「リチウムイオン二次電池用負極」の欄で説明した負極と、対極となる正極と、電解液とを備えることを特徴としている。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる負極は、本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、即ち本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダー組成物を含んでいる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極の詳細については、前述の通りである。
【0100】
<正極>
本発明のリチウムイオン二次電池の正極に用いる集電体については、公知の集電体を用いることができる。具体的には、正極としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。
【0101】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いる正極活物質は、AMO2、AM2O4、A2MO3、AMBO4のいずれかの組成からなるアルカリ金属含有複合酸化物である。Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい。BはP、Siまたはその混合物からなる。なお正極活物質は粉末が好ましく、その粒子径には、好ましくは50ミクロン以下、より好ましくは20ミクロン以下のものを用いる。これらの正極活物質は、3V(vs. Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0102】
リチウムイオン二次電池に用いる正極活物質の好ましい具体例としては、LixCoO2, LixNiO2、LixMnO2、LixCrO2、LixFeO2, LixCoaMn1-aO2, LixCoaNi1-aO2, LixCoaCr1-aO2, LixCoaFE-aO2, LixCoaTi1-aO2, LixMnaNi1-aO2, LixMnaCr1-aO2, LixMnaFE-aO2, LixMnaTi1-aO2, LixNiaCr1-aO2, LixNiaFE-aO2, LixNiaTi1-aO2, LixCraFE-aO2, LixCraTi1-aO2, LixFeaTi1-aO2, LixCobMncNi1-b-CO2, LixNiaCobAlcO2, LixCrbMncNi1-b-CO2, LixFebMncNi1-b-CO2, LixTibMncNi1-b-CO2, LixMn2O4, LixMndCo2-dO4, LixMndNi2-dO4, LixMndCr2-dO4, LixMndFe2-dO4, LixMndTi2-dO4, LiyMnO3, LiyMneCo1-eO3, LiyMneNi1-eO3, LiyMneFE-eO3, LiyMneTi1-eO3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixCofMn1-fPO4, LixCofNi1-fPO4, LixCofFE-fPO4, LixMnfNi1-fPO4, LixMnfFE-fPO4, LixNifFE-fPO4,LiyCoSiO4, LiyMnSiO4, LiyNiSiO4, LiyFeSiO4, LiyCogMn1-gSiO4, LiyCogNi1-gSiO4, LiyCogFE-gSiO4, LiyMngNi1-gSiO4, LiyMngFE-gSiO4, LiyNigFE-gSiO4, LiyCoPhSi1-hO4, LiyMnPhSi1-hO4, LiyNiPhSi1-hO4, LiyFePhSi1-hO4, LiyCogMn1-gPhSi1-hO4, LiyCogNi1-gPhSi1-hO4, LiyCogFE-gPhSi1-hO4, LiyMngNi1-gPhSi1-hO4, LiyMngFE-gPhSi1-hO4, LiyNigFE-gPhSi1-hO4などのリチウム含有複合酸化物をあげることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99, g=0.01~0.99, h=0.01~0.99である。)
【0103】
また、リチウムイオン二次電池に用いる前記の好ましい正極活物質のうち、より好ましい正極活物質としては、具体的には、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixCoaNi1-aO2, LixMnaNi1-aO2, LixCobMncNi1-b-CO2, LixNiaCobAlcO2, LixMn2O4, LiyMnO3, LiyMneFE-eO3, LiyMneTi1-eO3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixMnfFE-fPO4を挙げることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99である。なお、上記のx, yの値は充放電によって増減する。)
【0104】
集電体と正極活物質との結着性を向上させることを目的として、バインダーを含んでいてもよく、正極に用いられるバインダーであれば公知のものを使用することができる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂や、スチレン‐ブタジエン共重合体、エチレン‐プロピレン共重合体等の炭化水素系エラストマーや、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等の多糖類や、ポリイミド等を用いることができる。
【0105】
これら正極を構成する材料(以下、正極用材料と呼ぶ)は、スラリ状とするために水を含有してもよい。水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水、及び超純水である。
【0106】
正極用材料をスラリ状として用いる場合には、スラリの固形分濃度は、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることが特に好ましい。
【0107】
正極用材料の調製方法としては特に限定されず、バインダー、導電助剤、水等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
【0108】
正極の作製方法は、特に限定されず一般的な方法が用いられる。正極用材料をドクターブレード法やアプリケーター法、シルクスクリーン法などにより集電体表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0109】
例えばドクターブレード法では、正極用材料のスラリを金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は活物質塗布後、余分な有機溶剤及び水を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤、乳化剤等を除去してもよい。
【0110】
<電解液>
電解液としては、特に制限されず、公知の電解液を用いることができる。電解液の具体例としては、電解質と溶媒とを含む溶液、又は常温溶融塩が挙げられる。電解質及び溶媒は、それぞれ、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0111】
電解質としては、リチウム塩化合物を例示することができ、具体的には、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiN[CF3SC(C2F5SO2)3]2などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
リチウム塩化合物以外の電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート等が挙げられる
【0113】
電解液に用いる溶媒としては、有機溶剤を例示することができ、非プロトン性有機溶剤を挙げることができる。具体的にはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ジエチルエーテルなどの直鎖エーテルを使用することができ、2種類以上混合して使用してもよい。
【0114】
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であり、特に液体化合物をイオン液体という。
【0115】
本発明での常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電池が一般的に作動すると想定される温度範囲をいう。電池が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては80℃程度であり、下限は-40℃程度、場合によっては-20℃程度である。
【0116】
常温溶融塩のカチオン種としては、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムイオンが好ましい。
【0117】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0118】
また、アルキルピリジニウムイオンとしては、N-メチルピリジウムイオン、N-エチルピリジニウムイオン、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-エチル-2メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
イミダゾリウムイオンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
常温溶融塩のアニオン種としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6
-、PF6
-などの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
【0121】
なお、常温溶融塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0122】
電解液には必要に応じて種々の添加剤を使用することができる。添加剤としては、難燃剤、不燃剤、正極表面処理剤、負極表面処理剤、過充電防止剤などが挙げられる。難燃剤、不燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、ホスファゼン化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛等が例示できる。正極表面処理剤としては、炭素や金属酸化物(MgОやZrO2等)の無機化合物やオルト-ターフェニル等の有機化合物等が例示できる。負極表面処理剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示できる。過充電防止剤としては、ビフェニルや1-(p-トリル)アダマンタン等が例示できる。
【0123】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、特に限定されず、正極、負極、電解液、必要に応じて、セパレータなどを用いて、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型の場合、正極、必要に応じてセパレータ、負極を外装缶に挿入する。これに電解液を入れ含浸する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシメることでリチウムイオン二次電池が得られる。リチウムイオン二次電池の形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などが挙げられる。
【0124】
セパレータは、正極と負極が直接接触して蓄電池内でショートすることを防止するものであり、公知の材料を用いることができる。セパレータとしては、具体的には、ポリオレフィンなどの多孔質高分子フィルム、紙等が挙げられる。多孔質高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが、電解液による影響が少ないため、好ましい。
【実施例0125】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0126】
<実施例1>
(リチウムイオン二次電池負極バインダーの合成)
構成単位(A)としてアクリル酸99質量部、構成単位(B)としてアルコックスCP-A1H(明成化学工業社製、EO-PO-AGE3元共重合体、組成比EO:PO:AGE=93:6:1、重量平均分子量11万)を1質量部秤量し、24時間室温で攪拌し、アルコックスCP-A1Hをアクリル酸に完全に溶解させた。上記溶液100質量部に対して、テトラヒドロフラン300質量部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル(富士フィルム和光純薬社製)0.03質量部を加え、窒素ガスバブリングを行い、溶存酸素の除去を行った。その後窒素雰囲気下、25℃24時間の重合反応を行い、リチウムイオン二次電池負極用バインダー溶液(固形分濃度30wt%)を得た。
【0127】
(水分散安定性試験)
得られたリチウムイオン二次電池負極用バインダーをイオン交換水に希釈倍率10倍となるようにして加え、振とうさせて水分散安定性を目視で確認した。なお、目視の状態を以下の基準で評価を行った。
◎:バインダーがイオン交換水に完全に溶解し、静置状態で1週間以上、沈殿物等の析出がない
〇:バインダーの一部が溶解せず、白濁状態となるが、静置状態で1週間以上安定な分散状態にある
×:バインダーの一部が溶解せず、白濁状態となり、静置状態で1週間以内に沈殿物が堆積する
【0128】
(リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物の作製)
負極活物質としてグラファイト85.4質量部、SiO10質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック1質量部、単層カーボンナノチューブ0.1質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩2質量部を加え、さらにスラリの固形分濃度が35質量%となるように水を183質量部加えてプラネタリーミキサー及びホモディスパーを用いて攪拌混合して作製したマスターバッチを作製した。これに、リチウムイオン二次電池負極用バインダーの固形分が1.5質量部になるようにリチウムイオン二次電池負極用バインダー溶液を加え、自転公転式ミキサーを用いて同様に攪拌混合してリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物を作製した。
【0129】
(リチウムイオン二次電池用負極の作製)
上記リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物を100μmギャップのベーカー式アプリケーターを用いて電解銅箔(厚み10μm)に塗工した。その後、80℃に加熱したオーブンで15分間予備乾燥を行った後、ロールプレス機(8kN、クリアランス:装置下限値、テスター産業株式会社)でプレス処理を行った。その後、真空オーブンにて110℃、10時間乾燥させ、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。
【0130】
<剥離強度試験>
リチウムイオン二次電池用負極を、長辺60mm短辺10mmとなるように切り出して試験片を作製した。セロハンテープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社)を200mmに切り出し、試験片一方の端を約10mm挟むようにし、残りの部分はセロハンテープ同士を張り合わせるようにして、約90mmの持ち手を取り付けた。リチウムイオン二次電池用負極のリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物を塗布した側(以後、合剤層という)に、両面テープ(ナイスタック02、ニチバン株式会社)を貼付してSUS板に固定した。万能試験機(E0-L株式会社東洋精機製作所)を用いて、持ち手を引っ張って銅箔を引き剥がす形で180度剥離試験を行った(移動距離100mm、50mm/分)。剥離強度は、測定開始直後と終盤約10mmずつを除く10mm~90mmまでの区間平均を算出し、3回の試行の平均値として算出した。
(比較例1との剥離強度上昇率の算出)
比較例1に対する剥離強度は各実施例で得られた剥離強度を比較例1で得られた剥離強度で割り付けることで算出することができる。即ち、下記式の通りである。
剥離強度上昇率(%)=(各実施例で得られたリチウムイオン二次電池負極の剥離強度/比較例1で得られたリチウムイオン二次電池負極の剥離強度)×100
【0131】
<実施例2>
リチウムイオン二次電池負極用バインダーの重合において、構成単位(A)をアクリル酸99.9質量部、構成単位(B)をCP-A13H(明成化学工業製、EO-PO-AGE3元共重合体、組成比EO:PO:AGE=93:5:2、重量平均分子量50万以上)0.1質量部に変更した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極用バインダー、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。それぞれを上記の通りに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0132】
<実施例3>
リチウムイオン二次電池負極用バインダーの重合において、構成単位(A)をアクリル酸98質量部、構成単位(B)をダイソーダップA(大阪ソーダ製、ジアリルフタレート樹脂、Mw7-10万)2質量部に変更した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極用バインダー、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。それぞれを上記の通りに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0133】
<比較例1>
リチウムイオン二次電池負極用バインダーの重合において、構成単位(A)をアクリル酸100質量部、構成単位(B)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極用バインダー、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。それぞれを上記の通りに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0134】
<比較例2>
リチウムイオン二次電池負極バインダーの作製において、構成単位(A)であるアクリル酸のみで重合反応を行い、その後、構成単位(B)であるアルコックスCP-A1Hを1質量部加えて攪拌しただけの未架橋状態のリチウムイオン二次電池負極用バインダーをもちいた以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。それぞれを上記の通りに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0135】
<比較例3>
リチウムイオン二次電池負極バインダーの重合において、構成単位(A)をアクリル酸95質量部、構成単位(B)をCP-A1Hを5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極用バインダーを作製した。なお得られたリチウムイオン二次電池負極用バインダーの水溶性評価が不適だったため、以後の評価は行わなかった。
【0136】
<比較例4>
リチウムイオン二次電池負極バインダーの重合において、構成単位(A)をアクリル酸99.9質量部と構成単位(B)をペンタエリスリトールトリアリルエーテル(大阪ソーダ社製、分子量256)0.1質量部に変更した以外は、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池負極用バインダー、リチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。それぞれを上記の通りに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0137】
<比較例5>
リチウムイオン二次電池負極バインダーの重合において、構成単位(A)をアクリル酸99質量部と構成単位(B)のペンタエリスリトールトリアリルエーテルを1質量部に変更した以外は、比較例4と同様にリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。それぞれを上記の通りに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0138】
<比較例6>
リチウムイオン二次電池負極バインダーの重合において、構成単位(A)をアクリル酸99.9質量部と構成単位(B)をトリメチロールプロパントリメタクリレート(富士フイルム和光純薬社製、分子量338)0.1質量部に変更した以外は、比較例1と同様にリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。それぞれを上記の通りに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0139】
<比較例7>
リチウムイオン二次電池負極バインダーの重合において、構成単位(A)をアクリル酸99質量部、構成単位(B)のトリメチロールプロパントリメタクリレートを1質量部に変更した以外は、比較例6と同様にリチウムイオン二次電池負極用スラリ組成物、リチウムイオン二次電池用負極を作製した。それぞれを上記の通りに評価を行い、その結果を表1に示す。
【0140】
【0141】
本発明のリチウムイオン二次電池用バインダーは、水への分散安定性が高く、加えて、本発明のバインダーを用いて作製したリチウムイオン二次電池負極の電極剥離強度は、比較例1(構成単位(A)のみで重合を行ったバインダー)と比較して電極剥離強度が119%~133%改善された。また、比較例2と比較して、構成単位(A)と構成単位(B)が架橋状態でないと電極剥離強度の改善が見られないことも分かった。さらに、当該分野にて一般的に使用される架橋性モノマー(比較例4~7)では電極剥離強度が著しく低下することも分かった。おそらくは、架橋性モノマーを使用することで架橋点が増えて架橋点間距離が短くなり、ポリマーの弾性は向上するが、基材等への追従性、柔軟性が減少したものと推測される。一方で本発明で用いる架橋性ポリマーは、架橋点間距離が長くすることができるため、電極との結着性が高くなったものと考えられる。
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダーは、結着性に優れ、かつ、水への分散安定性が高いため環境負荷低減を可能にできる。電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用のリチウムイオン二次電池として有用に用いられる。