(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146470
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】Niめっき鋼板および電池容器
(51)【国際特許分類】
C25D 5/50 20060101AFI20241004BHJP
C25D 3/12 20060101ALI20241004BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20241004BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20241004BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20241004BHJP
H01M 50/124 20210101ALI20241004BHJP
H01M 50/133 20210101ALI20241004BHJP
【FI】
C25D5/50
C25D3/12
C25D5/26 A
C25D7/00 G
H01M50/119
H01M50/124
H01M50/133
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059384
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】上原 香織
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】松重 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堤 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】井手 泰徳
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
5H011
【Fターム(参考)】
4K023AA12
4K023BA06
4K023BA08
4K023BA15
4K023DA02
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA03
4K024AB01
4K024BA03
4K024BB09
4K024BB21
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA06
4K024DB01
4K024GA05
5H011AA02
5H011CC06
5H011CC10
5H011KK00
5H011KK01
5H011KK02
(57)【要約】
【課題】過放電時における耐電解液性に優れたNiめっき鋼板を提供すること。
【解決手段】鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の面に形成されたFe-Ni拡散層と、を備えたNiめっき鋼板であって、前記Niめっき鋼板の最表面においてEBSD測定で得られる平均結晶粒径が0.32μm以上であり、かつ、Feで指数付けできる領域の割合が0.0%以上6.0%以下であるNiめっき鋼板を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一方の面に形成されたFe-Ni拡散層と、を備えたNiめっき鋼板であって、
前記Niめっき鋼板の最表面においてEBSD測定で得られる平均結晶粒径が0.32μm以上であり、かつ、Feで指数付けできる領域の割合が0.0%以上6.0%以下であるNiめっき鋼板。
【請求項2】
前記Niめっき鋼板の一方の面当たりのNi付着量が0.8~8.9g/m2である、請求項1に記載のNiめっき鋼板。
【請求項3】
前記Fe-Ni拡散層上に形成されたNi層を備え、
前記Niめっき鋼板の最表面においてEBSD測定で得られるFeで指数付けできる前記領域の割合が0.0%以上1.0%以下である請求項2に記載のNiめっき鋼板。
【請求項4】
前記鋼板の厚みが0.03~1.5mmである請求項1または3に記載のNiめっき鋼板。
【請求項5】
前記鋼板が低炭素鋼または極低炭素鋼である請求項1または3に記載のNiめっき鋼板。
【請求項6】
請求項1または3に記載のNiめっき鋼板を用いてなる電池容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Niめっき鋼板および電池容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池容器の素材として、Niめっき鋼板が広く用いられている。特許文献1には、孔食や液漏れの発生を防止するために、鋼板にニッケルめっき層を形成した後に熱拡散処理を行うことにより形成された鉄-ニッケル拡散層を有し、最表層のNiとFeの比率を制御した電池容器用Niめっき鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電池の高容量化に伴い、特許文献1に開示されているNiめっき鋼板を用いた電池容器では、バッテリーマネジメントシステムの異常や電池製造のエージング工程で過放電が生じた場合に、Fe-Ni拡散層の電位が正極電位に近づくことで、Fe-Ni拡散層から電解液に鉄が溶出し、電池容器の内壁が腐食してしまう場合がある、という問題があった。電池の高容量化に伴い、正極電位はさらに高くなる傾向にあり、過放電時におけるFe-Ni拡散層の耐電解液性にさらに優れたNiめっき鋼板が求められている。
【0005】
本発明の目的は、過放電時における耐電解液性に優れたNiめっき鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、鋼板の少なくとも一方の面にFe-Ni拡散層が形成されたNiめっき鋼板において、EBSD測定から得られる平均結晶粒径およびFeで指数付けできる領域の割合を適切に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
[1]すなわち、本発明の第1の態様によれば、鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の面に形成されたFe-Ni拡散層と、を備えたNiめっき鋼板であって、前記Niめっき鋼板の最表面においてEBSD測定で得られる平均結晶粒径が0.32μm以上であり、かつ、Feで指数付けできる領域の割合が0.0%以上6.0%以下であるNiめっき鋼板が提供される。
【0008】
[2]本発明の第2の態様によれば、前記Niめっき鋼板の一方の面当たりのNi付着量が0.8~8.9g/m2である第1の態様に記載のNiめっき鋼板が提供される。
【0009】
[3]本発明の第3の態様によれば、前記Fe-Ni拡散層上に形成されたNi層を備え、Niめっき鋼板の最表面においてEBSD測定で得られるFeで指数付けできる前記領域の割合が0.0%以上1.0%以下である第2の態様に記載のNiめっき鋼板が提供される。
【0010】
[4]本発明の第4の態様によれば、前記鋼板の厚みが0.03~1.5mmである第1~第3のいずれかの態様に記載のNiめっき鋼板が提供される。
【0011】
[5]本発明の第5の態様によれば、前記鋼板が低炭素鋼または極低炭素鋼である第1~第4のいずれかの態様に記載のNiめっき鋼板が提供される。
【0012】
[6]本発明の第6の態様によれば、第1~第5のいずれかの態様に記載のNiめっき鋼板を用いてなる電池容器が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、過放電時における電解液への鉄(Fe)の溶出を抑制することができ、耐電解液性に優れたNiめっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態におけるNiめっき鋼板の構成を示す模式断面図である。
【
図2】
図2は、実施例7で得られたNiめっき鋼板のEBSD測定により取得したPhase Mapである。
【
図3】
図3は、標準試料の高周波グロー放電発光分光分析により得られるチャート図の例である。
【
図4】
図4は、標準試料の高周波グロー放電発光分光分析により得られるチャート図の別の例である。
【
図5】
図5は、熱拡散処理における熱履歴Yの算出方法を示すためのめっき処理鋼板の温度プロファイルの例である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態におけるNiめっき鋼板の変形例の構成を示す模式断面図である。
【
図7】
図7は、LSV法によるNiめっき鋼板の耐電解液性評価に用いる測定治具の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本実施形態におけるNiめっき鋼板の構成を示す模式断面図である。本実施形態におけるNiめっき鋼板は、
図1に示すように、鋼板と、鋼板の少なくとも一方の面に形成されたFe-Ni拡散層とを備えるものである。
【0016】
鋼板としては、成形加工性に優れているものであればよく特に限定されないが、たとえば、低炭素アルミキルド鋼などの低炭素鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.01重量%未満の極低炭素鋼、または極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼を用いることができる。本実施形態においては、これらの鋼の熱間圧延板を酸洗して表面のスケール(酸化膜)を除去した後、冷間圧延し、次いでアルカリ電解脱脂などの電解洗浄後に、焼鈍および/または調質圧延したもの、または前記冷間圧延し、電解洗浄後、焼鈍や調質圧延をしないもの等を用いることもできる。また、生産性の観点から、鋼板としては、連続鋼帯を用いることが好ましい。
【0017】
鋼板の厚みは、Niめっき鋼板の用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、製造コストを低減する観点から、好ましくは1.5mm以下が好ましく、1.25mm以下がより好ましく、0.9mm以下がさらに好ましい。また、鋼板の厚みは、Niめっき鋼板の機械特性を向上する観点から、0.03mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、0.15mm以上がさらに好ましく、0.2mm以上が特に好ましい。
【0018】
本実施形態のNiめっき鋼板は、鋼板上に、Fe-Ni拡散層を備える。Fe-Ni拡散層は、鋼板上にNiめっき層を形成し、次いで、Niめっき層を形成した鋼板について、熱拡散処理を行うことにより、鋼板を構成する鉄(Fe)と、Niめっき層を構成するニッケル(Ni)とを熱拡散させることにより形成される層である。Fe-Ni拡散層は、鋼板の少なくとも一方の面に形成されていればよく、鋼板の両面に形成されていてもよい。
【0019】
本実施形態におけるNiめっき鋼板は、Niめっき鋼板の最表面に対するEBSD(Electron BackScatter Diffraction Pattern:電子後方散乱回折)測定で得られる平均結晶粒径が0.32μm以上であり、かつ、Feで指数付けできる領域の割合が0.0%以上6.0%以下である。
図1に示すNiめっき鋼板では、最表面にFe-Ni拡散層が形成されていることから、EBSD測定で得られるFe-Ni拡散層の表面の平均結晶粒径およびFeで指数付けできる領域の割合が上記範囲に制御されている。本実施形態におけるNiめっき鋼板は、上記の特徴を備えていることにより、過放電時における電解液への鉄の溶出を抑制することができ、耐電解液性に優れている。なお、本発明におけるFeで指数付けできる領域とは、EBSD測定により得られるEBSDパターンにおいてFe(α)のマテリアルデータを用いて指数付けできる領域を指す。
【0020】
Niめっき鋼板の最表面の平均結晶粒径は、次のようにして求められる。すなわち、Niめっき鋼板の最表面についてEBSD測定を行うことにより、EBSDパターンについてFe(α)とNiの2つのマテリアルデータを用いて指数付けを行い、各々の相と方位の情報を有したマッピングデータを各測定視野で得る。得られたマッピングデータに対して、解析ソフトウェアを用い、Number法により平均結晶粒径を取得することができる。なお、解析ソフトは例えばOIM Analysis Version7.3などを用いることができる。
【0021】
Niめっき鋼板の最表面の平均結晶粒径は、0.32μm以上であり、好ましくは0.36μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上である。Niめっき鋼板の最表面の平均結晶粒径が小さすぎると、電解液が最表面からNiめっき鋼板の内部へ進入する経路が増加し、Niめっき鋼板の耐電解液性が低下するおそれがある。Fe-Ni拡散層の最表面の平均結晶粒径の上限は、特に限定されないが、通常4.0μm以下である。
【0022】
EBSD測定で得られるFeで指数付けできる領域とは、上述の通り、Fe(α)のマテリアルデータを用いて指数付けできる領域であり、Fe(α)の結晶構造に近い構造を有すると判定された領域である。
図2は、実施例7で得られたNiめっき鋼板のEBSD測定により取得したPhase Mapである。Feで指数付けできる領域は、
図2において、白色で表示された領域である。なお、
図2において、灰色で表示された領域は、Niのマテリアルデータを用いて指数付けできる領域(以下、Niで指数付けできる領域と称す)、つまり、Niの結晶構造に近い構造を有すると判定された領域であり、黒色で表示された領域は、EBSDで得られた結果の解析時に行われるクリーンアップ処理とCI値の下限設定に(後述)よって削除された領域である。
【0023】
EBSD測定で得られるFeで指数付けできる領域の割合(以後、Fe指数付け割合とも記す)は、次のようにして求められる。まず、上述した平均結晶粒径の算出と同様にNiめっき鋼板についてEBSD測定を行いマッピングデータを得た後、解析ソフトウェアを用いて、FeとNiに色別(指数付け)されたPhase Mapを作成する。Phase MapにおけるFeまたはNiで指数付けできる領域(クリーンアップ処理やCI値の下限設定などで削除された領域は含まれない)の合計の面積に対する、Feで指数付けできる領域の面積の割合を、本実施形態のFe指数付け割合として得ることができる。なお、特に限定されないが、Fe指数付け割合は、解析ソフトによりFeのPartition Fractionの数値として得ることができる。また、Niで指数付けできる領域の割合(以降、Ni指数付け割合とも記す)も、Fe指数付け割合と同様に表され、解析ソフトによりNiのPartition Fractionの数値として得ることができる。
【0024】
Niめっき鋼板の最表面のFe指数付け割合は、6.0%以下であり、好ましくは5.0%以下であり、より好ましくは3.0%以下、特に好ましくは1.0%以下である。Fe指数付け割合が大きすぎると、最表面からのFeの溶出が増加し、Niめっき鋼板の耐電解液性が低下するおそれがある。Niめっき鋼板の最表面のFe指数付け割合の下限は、特に限定されず、Feで指数付けできる領域が最表面に形成されてなくてもよいので、通常0.0%以上である。
【0025】
Niめっき鋼板の最表面のNi指数付け割合は、特に限定されないが、好ましくは94%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、特に好ましくは99%以上である。
【0026】
EBSD測定における試料に対する侵入深さは、数十nmと非常に浅いため、試料のより表面に近い部分(最表面)の結晶状態を測定することができる。本実施形態におけるNiめっき鋼板は、EBSD測定で得られるFeで指数付けできる領域の割合が0.0%以上6.0%以下であることにより、最表面のFe-Ni合金の状態が適切に制御されたものであり、過放電時における耐電解液性が高く、鉄の溶出による腐食の発生を抑制することができる。
【0027】
なお、解析する際は解析ソフトウェアによるクリーンアップ処理(Grain CI standardization)を行い、信頼値係数(Confidence Index:CI値)が0.1超のデータ測定点を用いて評価することが好ましい。CI値とは、EBSD法による指数付けおよび方位計算の結果の信頼性を示す指標であり、0.1超のCI値を有した測定点においては、95%超の精度で正しい指数付けおよび方位計算がされたことを示す。Number法による平均結晶粒径の算出は、特に限定されないが、上記クリーンアップ処理を行ったFeとNiの全てのデータに対して、Grain Tolerance:5、Minimum Grain:2の条件で行うことができる。また、双晶については、特別の設定を行わず、デフォルト条件を採用することで別の結晶粒としてみなす解析を行うことができる。なお、EBSD測定は熱処理後の調質圧延などによって、試料表面に部分的な加工歪みや凹凸などが導入され、その箇所においてはパターンの検出がしにくいこともあるので、上記測定条件で得られたマッピングデータの平均CI値が低くなりすぎないことが好ましく、具体的には平均CI値が0.04以上になることが好ましい。
【0028】
本実施形態では、EBSD測定で測定される平均結晶粒径およびFe指数付け割合に加え、高周波グロー放電発光分光分析(GDS)装置を用いて測定されるFe-Ni拡散層の最表面のFe割合およびFe-Ni拡散層の厚みが所定の範囲にあることが好ましい。Fe-Ni拡散層の最表面のFe割合およびFe-Ni拡散層の厚みは、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いて、Niめっき鋼板について、最表面から鋼板へ深さ方向にFe強度およびNi強度の変化を連続的に測定することにより求めることができる。
【0029】
GDSにより測定されるFe-Ni拡散層の最表面におけるFeの割合(質量%)(以下、GDSによるFe割合とも記す)は、溶接性を良好にする観点から、10%超が好ましく、20%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましく、30%以上が特に好ましい。また、Fe-Ni拡散層の最表面におけるFeの割合は、Niめっき鋼板を用いた電池組立前までの保管時の錆抑制の観点から、75%以下が好ましく、72%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましく、65%以下が特に好ましい。
【0030】
なお、本実施形態のNiめっき鋼板において、EBSD測定によるFe指数付け割合と、GDSによるFeの割合とは全く異なるパラメータである。具体的には、EBSD測定によるFe指数付け割合は、Niめっき鋼板の最表面の結晶構造に着目し、Feの結晶構造に近い構造がNiまたはNiの結晶構造に近い構造に対しどの程度存在しているかを示している。これに対し、GDSによるFe割合は、Fe元素が質量割合でどの程度表面に存在しているかを示すのみであり、FeとNiがともに表面に存在する際に、どのような状態で存在しているかに関しての情報は反映していない。本発明者らはNiめっき鋼板の耐電解液性の向上について鋭意検討する中で、GDSによるFeの元素の存在割合が同程度であっても、過放電時における耐電解液性が変化することに気づき、EBSD測定で得られるFe指数付け割合によって制御できることを見出した。すなわち、本発明者らは、単純なFe元素の存在割合ではなく、最表面におけるFeおよびNiの合金状態を制御することが重要であり、Fe元素が表面に存在している場合においても最表面においてFeに近い結晶構造となることを抑制してEBSD測定によるFe指数付け割合を0.0%以上6.0%以下とすることで、過放電時の耐電解液性を向上することができることを見出した。
【0031】
Fe-Ni拡散層の厚みは、製造コストの観点から、4.0μm以下が好ましく、3.0μm以下がより好ましく、2.5μm以下がさらに好ましく、2.0μm以下が特に好ましい。また、Fe-Ni拡散層の厚みは、Niめっき鋼板の過放電時における耐電解液性を向上する観点から、0.36μm以上が好ましく、0.45μm以上がより好ましく、0.6μm以上がさらに好ましく、0.7μm以上が特に好ましい。
【0032】
Fe-Ni拡散層の最表面のFe割合およびFe-Ni拡散層の厚みは、具体的には次のステップで求めることができる。
測定ステップ1:標準試料について高周波グロー放電発光分光分析を行い、エッチング時間ごとの強度データを得て、Fe強度の飽和値、Ni強度の最大値、およびNiのエッチング速度を確認する。このようにして得られた標準試料の測定データにおいて、Fe強度の飽和値およびNi強度の最大値が同一の数値でない場合は、Fe強度の飽和値およびNi強度の最大値が同一の数値(例えば10)となるような補正係数をFe、およびNiのそれぞれで求め、全ての強度データを補正する。
測定ステップ2:Niめっき鋼板の対象試験片を測定ステップ1と同じ分析条件で分析しエッチング時間ごとの強度データを得る。測定ステップ1で補正係数をかけた場合は、対象試験片のデータにおいても同様に補正係数をかけ得られる強度データで、以降のステップを進める。
測定ステップ3:測定ステップ2で得たデータにおいて、下記式で求められるFe割合とNi割合を測定点毎に求める。
Fe割合=Fe強度/(Fe強度+Ni強度)
Ni割合=Ni強度/(Fe強度+Ni強度)
測定ステップ4:測定ステップ3で得られるデータから得られるチャート図において、Fe割合が最初に極小値となる点を最表面と定める。
測定ステップ5:測定ステップ4で定めた最表面を開始地点とし、データにおけるNi強度が標準試料のNi強度の最大値の10%となる点を界面地点として、開始地点と界面地点とのエッチング時間の差を求め、エッチング時間の差とエッチング速度とをかけあわせることにより求められるエッチング深さがFe-Ni拡散層の厚みである。界面地点とは、Fe-Ni拡散層と鋼板との界面のことを指す。
測定ステップ6:測定ステップ4で定めた最表面におけるFe割合がFe-Ni拡散層表面のFe割合である。
【0033】
測定ステップ1について説明する。測定ステップ1では、標準試料について高周波グロー放電発光分光分析を行い、エッチング時間ごとの強度データを得て、Fe強度の飽和値、Ni強度の最大値、およびNiのエッチング速度を確認する。先ず、めっき層の厚み(または付着量)が分かっている熱処理を施していないNiめっきが施された鋼板からなる標準試料を用意する。たとえば厚み0.3mmの低炭素鋼板に厚み1.1μmの無光沢Niめっきを施した標準Niめっき鋼板を用意する。この標準試料について、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いて、標準Niめっき鋼板中のFe強度およびNi強度を、Fe強度が飽和するまで測定する。Fe強度とNi強度を得ることで
図3のようなチャート図を得ることができる。
図3は標準試料の高周波グロー放電発光分光分析により得られるチャート図の例である。
図3では縦軸がFe強度およびNi強度を示しており、横軸が高周波グロー放電発光分光分析装置により標準Niめっき鋼板の表面(Niめっきが形成された面の表面)から深さ方向に測定した際の測定時間を示す。
【0034】
得られたチャート図から、Fe強度の飽和値を求める。Fe強度の飽和値は、1秒当たりのFe強度の変化、つまりFe強度の時間変化率(Fe強度変化/秒)から求めることができる。Fe強度の時間変化率は、測定開始後にFeが検出されると急激に大きくなり極大値を過ぎると減少しほぼゼロ付近で安定する。Fe強度の時間変化率がほぼゼロ付近で安定した時のFe強度の値が、Fe強度の飽和値である。具体的には、Fe強度の時間変化率が0.02以下の値となった時のFe強度をFe強度の飽和値とする。
【0035】
次にNi強度の最大値を求める。例えば
図3において、測定時間9.9秒におけるNi強度10がNi強度の最大値となる。なお、Fe強度の飽和値とNi強度の最大値は、GDSの測定条件によっては、
図4のように同一の値となっていないことがある。このときは、Fe強度の飽和値とNi強度の最大値が同一の値となるように、Fe強度またはNi強度にかける補正係数を求め、以降のステップを進める。例えば、
図3の場合には、Fe強度の飽和値10を基準として、補正後のNi強度の最大値が10となるように、Ni強度にかける補正係数を求める。
図4は標準試料の高周波グロー放電発光分光分析により得られるチャート図の別の例である。
【0036】
次に、Niのエッチング速度を求める。エッチング速度は、Niめっきの厚みと、エッチング時間に基づいて求めることができる。エッチング時間については、GDS分析において、Ni強度がNi強度の最大値の10%となる点までNiが存在するとみなせることから、標準試料において、測定開始からNi強度がNi強度の最大値の10%となる点までの時間をエッチング時間とする。例えば、
図3の場合は、Niめっきの厚み1.1μmを、測定開始からNi強度がNi強度の最大値の10%となるまでの時間で除算することによりエッチング速度を求めることができる。なお、NiおよびFeのエッチング速度は同等程度であるため、本発明においては上述のように求められるNiのエッチング速度を用いてFe-Ni拡散層の厚みを決定する。
【0037】
測定ステップ2について説明する。測定ステップ2では、本実施形態のNiめっき鋼板についてGDS分析を行う。本実施形態のNiめっき鋼板を対象試験片とし、GDSを用いて上記ステップ1と同条件で測定し、Niめっき鋼板中のFe強度、Ni強度を得る。測定ステップ1で補正係数をかけた場合は、対象試験片のデータにおいても標準試料で用いた補正係数と同じ値で補正して得られる強度データで、以降のステップを進める。本実施形態においてはFeが表面まで拡散しているため、表面のFe強度が0にならない強度データが得られる。
【0038】
なお、本実施形態において、Niめっき鋼板の表面がFe-Ni拡散層であるかどうかは、上記Niめっき鋼板中の表面のFe強度がFe強度の飽和値の10%を超えているかどうかで判断することができる。最表面のFe強度が10%を超えている場合は表面がFe-Ni拡散層であると判断でき、逆に10%を超えない場合は、Fe-Ni拡散層上にNi層が存在すると判断する。
【0039】
測定ステップ3について説明する。測定ステップ3では、Fe-Ni拡散層の各深さ位置におけるFe割合およびNi割合を求める。上記測定ステップ2で得たデータにおいて、各時間でのFeおよびNiの強度数値(補正係数を用いた場合には補正後の強度数値)の百分率を計算することで、各時間すなわち各深さ位置でのFe割合を求めることができる。すなわちFe割合とNi割合は下記式で求められる。
Fe割合=Fe強度/(Fe強度+Ni強度)×100
Ni割合=Ni強度/(Fe強度+Ni強度)×100
【0040】
測定ステップ4について説明する。測定ステップ4では、Fe-Ni拡散層の最表面の深さ位置を定義する。高周波グロー放電発光分光分析装置において、エッチング開始時に表面の汚れなどの影響を受けてノイズを含む信号が現れることがあるため、最表面のFe割合を正しく求めるために、Fe割合が極小値となる点(深さ位置)をFe-Ni拡散層の最表面と定義する。このFe割合の極小値は、通常の測定条件であれば、測定時間0秒から5秒までに現れる。
【0041】
測定ステップ5について説明する。測定ステップ5では、最表面からFe-Ni拡散層と鋼板の境界までのエッチング深さを求めることによりFe-Ni拡散層の厚みを求める。最表面の位置は、測定ステップ4で定義した位置を用いる。Fe-Ni拡散層と鋼板の境界は、対象試料のNi強度が、標準試料のNi強度の最大値の10%となる点(深さ位置)である。つまり、ステップ1で標準試料のNi強度の最大値が10である場合、ステップ2で求められる対象試料のNi強度が1となる点がFe-Ni拡散層と鋼板の境界となる。なお、Ni強度が1となる点は、当然、最表面よりも深い位置となるため、測定初期の立ちあがり(Ni強度の最大値における深さ位置よりも小さい深さ位置)においてNi強度が1となる点は除かれる。次いで、深さ位置0(すなわち測定時間0)から最表面までのエッチング時間と、深さ位置0からFe-Ni拡散層と鋼板の境界までのエッチング時間との差分を求め、この差分と測定ステップ1で求めたエッチング速度とをかけあわせることにより、Fe-Ni拡散層の厚さを求める。
【0042】
このように、Niめっき厚が既知である熱拡散処理をしていないNiめっき層を形成した鋼板を高周波グロー放電発光分光分析装置により測定して求めた深さ時間(高周波グロー放電発光分光分析装置による測定時間)と実際の厚みの関係を示す数値を利用して、本実施形態のNiめっき鋼板のFe-Ni拡散層の厚みを求めることができる。実際の熱処理前のNiめっき厚みについては、Niめっき層を形成した鋼板のSEMによる断面観察による厚み測定や、蛍光X線分析により求めたNi付着量をNiの比重で厚みに換算することによって求めることができる。
【0043】
測定ステップ6について説明する。測定ステップ6では、Fe-Ni拡散層の最表面におけるFe割合を求める。Fe-Ni拡散層の最表面におけるFe割合は、測定ステップ4で定めた最表面の深さ位置におけるFe割合として求めることができる。
【0044】
鋼板の一方の面におけるNi付着量の下限は、EBSD測定により得られる平均結晶粒径およびFe指数付け割合を適切な範囲に制御する観点から、0.45g/m2以上が好ましく、0.8g/m2以上がより好ましく、2.5g/m2以上がさらに好ましく、3.0g/m2以上が特に好ましい。鋼板の一方の面に対するNi付着量の上限は、最表面までFeの拡散が困難となる上、Feを十分拡散させるために熱処理温度を高くしたり熱処理時間を長くしたりする必要が生じる観点から、26.7g/m2以下が好ましく、17.8g/m2以下がより好ましく、8.9g/m2以下がさらに好ましく、7.2g/m2以下が特に好ましい。なお、Niの付着量は、蛍光X線測定により求めることができる。蛍光X線測定では、検量線法による定量が可能である。蛍光X線測定は、熱拡散処理によりFe-Ni拡散層が形成されたNiめっき鋼板について行ってもよく、熱拡散処理前のNiめっき層が形成された鋼板について行ってもよい。
【0045】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、Fe-Ni拡散層が鋼板の一方の面にのみ形成されているが、Niめっき鋼板の構成は特にこれに限定されず、Fe-Ni拡散層が鋼板の少なくとも片方の最表面に形成されていればよい。例えば、鋼板の両面の最表面にFe-Ni拡散層が形成されていてもよい。或いは、鋼板の両面にFe-Ni拡散層が形成され、そのうち一方の面において、Fe-Ni拡散層の上にNi層が形成されていてもよい。特に、本実施形態のNiめっき鋼板を缶の形状の電池容器に用いる場合には、電池容器の内面となる面には平均結晶粒径およびFe指数付け割合が制御されたFe-Ni拡散層が最表面に形成され、さらに、電池容器の外面となる面にはFe-Ni拡散層が形成され、かつ、Fe-Ni拡散層の上にNi層が形成されていることが好ましい。この場合、電池容器の外面となる面におけるFe-Ni拡散層とNi層に含まれる合計のNi付着量は9.0~90g/m
2が好ましい。
【0046】
本実施形態におけるNiめっき鋼板は、次のようにして製造することができる。
【0047】
先ず、鋼板上にNiめっき層を形成する。Niめっき層の形成に用いるNiめっき浴としては、通常用いられるめっき浴、すなわち、ワット浴や、スルファミン酸浴、ほうフッ化物浴、塩化物浴などを用いることができる。たとえば、Niめっき層は、ワット浴として、硫酸ニッケル・六水和物200~350g/L、塩化ニッケル・六水和物20~60g/L、ほう酸10~50g/Lの浴組成のものを用い、pH3.0~5.0、浴温40~70℃にて、電流密度10~40A/dm2の条件で形成することができる。なお、Niめっき層は、鋼板の少なくとも片面に形成すればよい。
【0048】
Niめっき層の形成による鋼板へのNiの付着量Wは、Niめっき鋼板の最表面としてFe-Ni拡散層が形成でき、その構成が制御することができれば特に限定されないが、付着量が多すぎると、最表面までFeの拡散が困難となる上、Feを十分拡散させるために熱処理温度を高くしたり熱処理時間を長くしたりする必要が生じ、平均結晶粒径およびFeで指数付けできる領域の割合を適切な範囲とすることが困難となるおそれがあることから、26.7g/m2以下が好ましく、17.8g/m2以下がより好ましく、8.9g/m2以下がさらに好ましく、7.2g/m2以下が特に好ましい。一方、Niの付着量Wが少なすぎると、EBSD測定により得られる平均結晶粒径およびFe指数付け割合が適切な範囲で制御しにくく、過放電時における耐電解液性が低下するおそれがあるため、Niの付着量Wは、0.45g/m2以上が好ましく、0.8g/m2以上がより好ましく、2.5g/m2以上がさらに好ましく、3.0g/m2以上が特に好ましい。なお、Fe-Ni拡散層を鋼板の両面の最表面に形成する場合は、各面におけるNi付着量Wをそれぞれ上記範囲内とすることが好ましい。また、本実施形態のNiめっき鋼板を缶の形状の電池容器に用いる場合は、電池容器の外面となる面にFe-Ni拡散層を形成し、かつ、Fe-Ni拡散層の上にNi層を形成することが好ましい。電池容器の外面をこのような構成とするために、電池容器の外面となる面におけるNi付着量は9.0~90g/m2が好ましい。
【0049】
次いで、Niめっき層が形成された鋼板(以下、めっき処理鋼板と称す)に熱拡散処理を行い、Fe-Ni拡散層を形成する。熱拡散処理の条件を適切に制御することにより、EBSD測定により得られるNiめっき鋼板表面の平均結晶粒径およびFe指数付け割合を適切な範囲に制御することができる。
【0050】
熱拡散処理は、連続焼鈍法または箱型焼鈍法のいずれでもよく、特に限定されないが熱処理雰囲気を非酸化性雰囲気または還元性保護ガス雰囲気とすることが好ましく、還元性保護ガス雰囲気とする場合には、例えばHNXガスと呼ばれるH2とN2の混合ガスを用いることが好ましい。本実施形態において、熱拡散処理は、初期加熱工程と、最終加熱工程と、冷却工程と、を含む。
【0051】
初期加熱工程は、常温から、後述する最終加熱工程の開始温度(最終加熱開始温度)まで、めっき処理鋼板を加熱する工程である。初期加熱工程における昇温速度(以下、初期昇温速度とも記す)は、初期加熱工程のめっき処理鋼板の温度プロファイルにおける傾きを算出することで求められる速度である。つまり、初期加熱工程の開始温度から最終加熱工程の開始温度までの温度差を所要時間で除することで算出できる。初期昇温速度は、後述する最終加熱工程における昇温速度より大きくすることが好ましい。具体的には、初期昇温速度は、好ましくは4℃/秒超14℃/秒以下である。
【0052】
初期加熱工程における最大の昇温速度(以下、最大昇温速度とも記す)は、初期加熱工程のめっき処理鋼板の温度プロファイル、つまり常温から最終加熱工程の開始温度までの温度プロファイルにおける最大の傾きを算出することにより求められる速度であり、好ましくは4℃/秒以上である。また、平均結晶粒径とFe指数付け割合を適切な範囲で制御する観点から、初期加熱工程における最大の昇温速度は、好ましくは14℃/秒以下であり、より好ましくは12℃/秒以下であり、さらに好ましくは10℃/秒以下である。最大昇温速度が高すぎると、結晶粒の粗大化が行われる前にFeが拡散し、最表面にまで到達しやすくなり、また、結晶構造の急激な変化が起こりやすくなり、その結果、Niめっき鋼板の最表面におけるFe指数付け割合が増大し、耐電解液性が低下すると推定される。特にFeの最表面への拡散を抑制する観点から、初期加熱工程における450℃以上の温度プロファイルにおける最大昇温速度は、好ましくは14℃/秒以下であり、より好ましくは12℃/秒以下であり、さらに好ましくは10℃/秒以下である。
【0053】
最終加熱工程は、最終加熱開始温度から熱拡散処理における最高温度(以下、到達温度と記す)まで加熱する工程である。最終加熱開始温度はNiめっき層のNiと鋼板のFeが活発に拡散し始める550℃以上であることが好ましく、より活発に相互拡散しはじめる600℃以上がより好ましく、さらに好ましくは650℃以上である。また、最終加熱開始温度は、好ましくは900℃未満であり、より好ましくは850℃未満である。到達温度は平均結晶粒径とFe指数付け割合を適切な範囲で制御する観点から930℃未満が好ましく、より好ましくは900℃未満、さらに好ましくは870℃未満である。なお、到達温度は、後述するように、最終加熱開始温度との温度差が所定の温度差となるように、最終加熱開始温度に基づいて設定することができる。
【0054】
本実施形態において、後述のようにNiめっき鋼板の過放電時における耐電解液性を向上するという観点から、最終加熱工程における昇温速度(以下、最終昇温速度とも記す)は、好ましくは4℃/秒以下であり、より好ましくは3℃/秒以下であり、さらに好ましくは1℃/秒以下である。最終加熱工程における昇温速度は、好ましくは0.1℃/秒以上であり、より好ましくは0.2℃/秒以上である。
【0055】
なお、到達温度と最終加熱開始温度の温度差は10℃以上あればよいが、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上である。温度差が小さすぎると最終加熱工程での加熱時間(最終加熱時間)が不足し目的のFe-Ni拡散層の合金状態が得られないおそれがある。特にNi付着量が2.5g/m2以上である場合は30℃以上が好ましく、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。温度差を60℃以上とすることにより、目的とする表面の合金状態が得られ、過放電時における耐電解液性がより高いNiめっき鋼板を安定的に得ることができる。前記温度差の上限については150℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。本実施形態においては最終昇温速度を4℃/秒以下とすることが好ましいため、温度差が大きすぎると高温域での時間が長くなりすぎ、Fe指数付け割合が大きくなりすぎてしまい、目的とする表面の合金状態が得られない恐れがある。
【0056】
冷却工程では、到達温度まで加熱されためっき処理鋼板を、120℃以下まで冷却する。冷却速度は特に制限ないが、形状不良やしわの発生抑制の観点から1℃/秒~20℃/秒が好ましく、より好ましくは1℃/秒~10℃/秒である。
【0057】
図5は、熱拡散処理における熱履歴Yの算出方法を示すためのめっき処理鋼板の温度プロファイルの例である。
【0058】
Niめっき鋼板の過放電時における耐電解液性を向上する観点から、熱拡散処理において、初期加熱工程、最終加熱工程、および冷却工程を通してめっき処理鋼板にかかる熱履歴Yを150,000℃・秒以下とすることが好ましく、120,000℃・秒以下とすることがより好ましく、100,000℃・秒以下とすることがさらに好ましい。また、FeおよびNiを十分に熱拡散させ、目的の合金状態を得るという観点から、熱履歴Yを15,000℃・秒以上とすることが好ましく、35,000℃・秒以上とすることがより好ましく、45,000℃・秒以上とすることがさらに好ましい。熱履歴Yを上記範囲とすることで、Fe-Ni拡散層の厚みも好ましい範囲と熱履歴Yは、450℃以上における時間に対する加熱温度および冷却温度の変化量の積分により求めることができる。すなわち、
図5における斜線部分の面積が熱拡散処理における熱履歴Yに相当する。めっき処理鋼板にかかる熱履歴Yを上記範囲内とするには、初期加熱工程および最終加熱工程の、450℃以上における昇温速度(最大昇温速度も含む)、加熱開始温度、到達温度、および冷却工程における冷却速度を適宜調節すればよい。
【0059】
熱拡散処理における熱履歴Yが大きすぎると、Fe指数付け割合が増加し、過放電時における耐電解液性が低下する傾向にある。一方、熱拡散処理における熱履歴Yが小さすぎると、Niめっき鋼板の最表面における平均結晶粒径が細かくなり、過放電時における耐電解液性が低下する恐れがある。
【0060】
Ni付着量W(g/m2)と熱履歴Yとの比W/Y×105は、好ましくは1.0以上である。W/Y×105が1.0未満である場合、Fe指数付け割合が大きくなりすぎるなど、目的とする表面合金状態が得られず、過放電時における耐電解液性が劣化する可能性がある。また、Ni付着量W(g/m2)と熱履歴Yとの比W/Y×105は、好ましくは20.0以下であり、より好ましくは10.0以下であり、さらに好ましくは7.0以下である。W/Y×105が20.0を超える場合、EBSD測定により得られるNiめっき鋼板の最表面における平均結晶粒径およびFe指数付け割合が適切な範囲で制御できない恐れがある。
【0061】
以上のように、本発明者らは、鋼板へのNi付着量Wを上記範囲に制御し、かつ、Niめっき鋼板の熱拡散処理を上記の条件で行うことにより、Niめっき層のNiと鋼板のFeとが相互拡散し、平均結晶粒径が0.32μm以上で、Fe指数付け割合が0.0%以上6.0%以下となるように最表面の結晶状態が適切に制御されたFe-Ni拡散層を形成することができることを見出した。上記の方法で製造されたNiめっき鋼板は、平均結晶粒径およびFe指数付け割合が適切に制御されていることにより、過放電時における耐電解液性に優れている。
【0062】
従来、腐食経路の形成を抑えて耐電解液性を向上することを目的として、Fe-Niめっき層またはNiめっき層の最表面の平均結晶粒径を増大させるには、熱拡散処理における温度を高くしたり、熱履歴を増大させたりする方法が一般的であった。これに対し、本発明者らは、鋭意研究した結果、熱処理温度を高くしすぎたり、熱履歴を増大させすぎたりすると、最表面におけるFe指数付け割合が増加し、電解液へのFeの溶出が増加するおそれがあることや、最表面における平均結晶粒径がむしろ小さくなるおそれがあることを新たに見出した。熱処理温度が高すぎる、熱履歴が大きすぎる、または上記W/Yが下限値未満となることで、平均結晶粒径が小さくなる理由としては定かではないが、Feが過剰に拡散することで結晶粒成長が妨げられるためであると考えられる。また、同じ熱処理条件であっても、Niめっき層の厚み(Ni付着量)によってFe指数付け割合は変化する。このように、本発明者らは、Niめっき鋼板の耐電解液性を向上するためには、Niめっき鋼板の最表面の平均結晶粒径だけでなく、Fe指数付け割合も制御する必要があることを見出し、さらにこれらを適切に制御するために必要なNiめっきの付着量および熱拡散処理の条件を見出した。
【0063】
上記の条件で加熱をすることによりNiめっき鋼板の最表面の平均結晶粒径およびFe指数付け割合を上記範囲内に制御することができる理由は定かではないが、Ni付着量Wに対し、450℃以上の温度域での熱履歴Yを適度な範囲とすることにより、Feの最表面への移動を抑制し、Fe指数付け割合の上昇を抑制することが可能となると考えられる。さらに、最高温度付近での加熱、つまり最終加熱工程において比較的緩やかな速度でめっき処理鋼板を加熱し続けることで、急激な結晶構造の変化を抑制し、万遍なく拡散させることでFe指数付け割合を低減し、且つ、最表面の平均結晶粒径を適切な範囲に制御することができるものと考えられる。
【0064】
また、従来、Niめっき鋼板の耐電解液性を向上するために、GDSで得られる最表面のFe割合を制御する方法が知られている。これに対し、本発明者らは、過放電時における耐電解液性を向上するためには、GDSで得られるFe割合のように単純な最表面のFeの元素の存在比率(質量%)を制御するだけでは十分でなく、EBSD測定で得られるFe指数付け割合を制御することがより重要であること、およびその適切な範囲を見出した。
【0065】
特に、従来の一般的なNiめっき鋼板の熱拡散処理方法では、めっき処理鋼板を加熱後、最高温度で所定時間維持する均熱を行った後、冷却を行う。この一連の工程において、均熱工程が最も相互拡散によりFeが拡散しやすく、急激に最表面まで到達するFeが増加しやすい工程である。これに対し、本実施形態における熱拡散処理方法では、初期加熱を行った後、初期加熱では最高温度まで到達させず、最終加熱工程において比較的ゆるやかな昇温速度で加熱を続け、同一温度で保持する均熱を行わず、その後冷却する。つまり、FeとNiが相互拡散する状態にあった上で、拡散のしやすさが変化し続けるため、一定の温度を維持してFeを拡散させる従来の製造方法と比較し、急激な結晶構造の変化を抑制し、万遍なく拡散させることでFe指数付け割合を低減し、且つ、最表面の平均結晶粒径を適切な範囲に制御することができると考えられる。これにより、本実施形態における熱拡散処理方法では、均熱を行う熱拡散処理方法に比べ、Fe-Ni拡散層の最表面の合金状態をより適切に制御することができる。
【0066】
以上のようにして、本実施形態におけるNiめっき鋼板が製造される。
【0067】
なお、熱拡散処理を行った後、必要に応じて、Niめっき鋼板に調質圧延を行ってもよい。調質圧延を行うことにより、機械特性の制御、形状矯正および表面粗度の付与を行うことができる。
【0068】
また、
図1におけるNiめっき鋼板は、最表面にFe-Ni拡散層が形成されているが、EBSD測定で得られるNiめっき鋼板の最表面の平均結晶粒径が0.32μm以上であり、Fe指数付け割合が0.0%以上6.0%以下であれば、Niめっき鋼板の構成は特にこれに限定されない。例えば、
図6に示すように、Niめっき鋼板が、Fe-Ni拡散層の上に形成されたNi層を備えており、Niめっき鋼板の最表面がNi層で構成されていてもよい。
図6は、本実施形態におけるNiめっき鋼板の変形例の構成を示す模式図である。このとき、Niめっき鋼板におけるNiの付着量、つまりFe-Ni拡散層とその上のNi層に含まれるNiの合計付着量は0.8~8.9g/m
2が好ましく、Ni層の形成しやすさの観点、また、平均結晶粒径とFe指数付け割合を適切な範囲に制御する観点から、より好ましくは4.0~8.0g/m
2である。
【0069】
Niめっき鋼板の最表面がNi層であることは、上述の通り、Niめっき鋼板のGDS分析により判断することができる。上述したGDS分析の測定ステップ2で測定したNiめっき鋼板の表面のFe強度が、Fe強度の飽和値の10%以下である場合、Fe-Ni拡散層の上にNiめっき層が形成されており、Niめっき鋼板の最表面がNi層であると判断する。なお、Niめっき鋼板の最表面がNi層であると判断された場合は、GDS分析の測定ステップ5で求めた厚みは、Ni層およびFe-Ni拡散層の合計の厚みを表す。
【0070】
図6に示すように、Niめっき鋼板の最表面がNi層で構成されている場合には、EBSD測定で得られるNi層の表面の平均結晶粒径およびFe指数付け割合が上記の範囲に制御されていればよい。なお、EBSD測定で得られるFe指数付け割合は、0.0%以上6.0%以下であり、0.0%以上1.0%以下が好ましい。変形例のNiめっき鋼板は、Niめっきおよび熱拡散処理の条件を適宜調整することにより製造することができる。
【0071】
変形例のNiめっき鋼板においてNi層の表面の平均結晶粒径およびFe指数付け割合を上記範囲に制御することで過放電時における耐電解液性を向上できる理由は次のとおりである。ニッケルの合計付着量が0.8~8.9g/m2と比較的少なく、かつ、Fe-Ni拡散層とその上のNi層を形成する場合、最表面のNi層の厚みが比較的薄くなる。Ni層の厚みが薄い場合、GDSで測定する広範囲な領域においてはFeの元素が検出下限以下であったとしても部分的(特に結晶粒界周辺など)にFeが最表面近傍に到達して、過放電時の耐電解液性に影響を及ぼす場合があると考えられる。また、Ni層が比較的薄いため、Ni層の状態、つまり平均結晶粒径や結晶構造はそのすぐ下のFe-Ni拡散層形成時の影響を強く受けると考えられる。よって、上述の最表面がFe―Ni拡散層の実施形態と同様にEBSD測定で得られる平均結晶粒径およびFe指数付け割合を制御することにより、過放電時において良好な耐電解液性を得られるものと推定される。
【0072】
なお、変形例のNiめっき鋼板を缶の形状の電池容器に用いる場合には、電池容器の内面側となる面にはFe-Ni拡散層が形成され、かつ、Fe-Ni拡散層の上に平均結晶粒径およびFe指数付け割合が制御されたNi層が最表面に形成され、さらに、電池容器の外面となる面にはFe-Ni拡散層が形成され、かつ、Fe-Ni拡散層の上にNi層が形成されていることが好ましい。この場合、電池容器の外面となる面におけるFe-Ni拡散層とNi層に含まれる合計のNi付着量は9.0~90g/m2が好ましい。
【0073】
<電池容器>
本実施形態における電池容器は、上記のNiめっき鋼板のFe-Ni拡散層が形成された面が電池容器の内側となるように成形加工して得られる。具体的には、Niめっき鋼板を、絞り、しごき、DI(Drawing and Ironing)またはDTR(Draw and Thin Redraw)成形にて、電池容器形状に成形することにより得ることができる。
【0074】
本実施形態におけるNiめっき鋼板を成形して得られた電池容器は、電解液と接触する面の最表面の平均結晶粒径およびFeで指数付けできる領域の割合が適切に制御されているため、過放電時における耐電解液性が高く、Feの溶出による腐食の発生を抑制することができる。
【実施例0075】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0076】
<Ni付着量、Niめっき層厚み>
各実施例および比較例においてNiめっき層を形成しためっき処理鋼板において蛍光X線装置により測定することにより、Niめっき鋼板の一方の面当たりのNi付着量を求めた。蛍光X線装置としては、ZSX100e(株式会社リガク社製)を用い、検量線法によって測定した。Ni付着量をNiの密度(8.9g/cm3)で厚みに換算することにより、Niめっき層の厚みを求めた。
<GDSによるFe-Ni拡散層厚みおよびFeの割合>
高周波グロー放電発光分光分析装置(株式会社堀場製作所社製、型番:GD-PROFILER2)を用いて、GDSによるFeの割合(以下、Feの割合とも称す)を求めた。Feの割合は、高周波グロー放電発光分光分析装置を用いて、上述した測定ステップ1~6の手順で求めた。また、同様に実施例1~8および比較例3について、GDSによるFe-Ni拡散層厚みを上述した測定ステップ1~5の手順で求めた。なお、高周波グロー放電発光分光分析装置の具体的な測定条件は、次の仕様とした。
・測定モード:HDDモード
・励起モード:RF(ノーマル)
・出力:35W
・圧力:600Pa
・モジュール:7V
・フューズ:7V
・アノード経:4mm
・ガス置換時間:30秒
・予備スパッタ時間:30秒
・バックグラウンド測定時間:10秒
・測定時間:80秒
・取り込み間隔:0.1秒
【0077】
GDS分析により得られたFeの割合が10%を超えた場合に、最表面へFeが到達しており、最表面にFe-Ni拡散層が形成されたと判断した。一方、Feの割合が10%以下であった場合、最表面へFeが到達しておらず、最表面がNi層であると判断した。
【0078】
<Niめっき鋼板最表面の平均結晶粒径>
走査型電子顕微鏡(SEM)(型式:SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いてNiめっき鋼板の表面に電子線を照射し、発生したEBSDパターンをEBSD検出器で取得し、OIM(Orientation Imaging Microscopy)結晶方位解析装置(TSLソリューションズ社製)および測定ソフトウェア(OIM Data Collection Version6.2.1)を用いて指数付けを行った。SEMおよびEBSDの測定条件は以下の通りとした。EBSDの測定視野数は3とした。
(SEM測定条件)
・加速電圧:20kV
・エミッション電流:20μA
・W.D.:20mm
・測定倍率:7000倍
(EBSD測定条件)
・測定面積:7μm×7μm
・ステップ:0.05μm
・マテリアルデータ:Fe(α)およびNi
(EBSD解析条件)
・Grain Tolerance:5
・Minimum Grain:2
【0079】
各測定視野について、上記条件によるEBSD測定により、Fe(α)のマテリアルデータとNiのマテリアルデータの2つのマテリアルデータを用いて指数付けを行うことで各々の相と方位の情報を有したマッピングデータを得た。得られたマッピングデータに対して、解析ソフトウェア(OIM Analysis Version7.3)および上記解析条件を用いて解析することで、各測定視野におけるFeで指数付けできる領域の割合と平均結晶粒径を取得した。なお、解析する際は解析ソフトウェアによるクリーンアップ処理(Grain CI standardization)を行い、信頼値係数(Confidence Index:CI値)が0.1超のデータ測定点を用いて評価した。上記クリーンアップ処理を行ったFeとNiの全てのデータに対して、各結晶粒と同じ面積の円の直径を基した結晶粒径の情報が得られるGrain Size(diameter)で結晶粒径分布を求め、Number法を用いて平均結晶粒径の算出を行った。このようにして各測定視野について求めた平均結晶粒径の平均値を算出した。
【0080】
<Niめっき鋼板最表面のFe指数付け割合>
上記のEBSD測定および解析により得られたデータから、FeとNiによるPhase Mapを作成した。Phase Mapにおいて、FeまたはNiで指数付けできる領域(上記クリーンアップ処理およびCI値の下限設定においてデータとして除去された領域は除く)の合計の面積を100%として、この合計面積に対するFeで指数付けできる領域の面積の割合をFe指数付け割合として算出した。各測定視野について求めたFe指数付け割合の平均値を算出した。
【0081】
<過放電時における耐電解液性評価>
Niめっき鋼板について、マルチ電気化学計測システムHZ-Pro(型式:HAG-PROM12、北斗電工株式会社製)を用いて、LSV(Linear Sweep Voltammetry)法により過放電時における耐電解液性の評価を行った。測定に際しては、
図7に示す測定治具を用いた。
図7はLSV法によるNiめっき鋼板の耐電解液性評価に用いる測定治具の模式図である。
図7に示すように、測定治具の底部にNiめっき鋼板を取り付け、治具内に電解液(1mol/L LiPF
6、EC:DEC(1:1v/v%)、キシダ化学株式会社製)を加え、治具上部電極に対極および参照極として金属リチウム(本城金属株式会社製)を取り付けた。測定面の表面積は、1.04cm
2とし、対極および参照極の表面積は、1.2cm
2とした。参照極と作用極の間の距離を2mmとし、対極と作用極の間の距離を2mmとし、対極と参照極の間の距離を12mmとした。測定は、露点-40℃以下、室温25℃のドライルーム内で行った。自然電位より走査速度2mV/秒で過放電時相当の+4.1V(vsLi/Li
+)へ分極させ、4.1Vにおける電流密度(nA/cm
2)を測定し、Niめっき鋼板の過放電時における耐電解液性を評価した。電流密度が小さいほどFeの溶出が少なく過放電時における耐電解液性に優れることを表す。
【0082】
<<実施例1>>
基材として、低炭素アルミキルド鋼の厚さ0.3mmの冷間圧延鋼板を準備した。
【0083】
そして、準備した鋼板について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記の浴組成のNiめっき浴を用いて、下記条件にて、電気めっき(Niめっき)を行い、鋼板の表面にNi付着量Wが0.87g/m2のNiめっき層を形成した。
<Niめっき条件>
浴組成:硫酸ニッケル・六水和物250g/L、塩化ニッケル・六水和物45g/L、ほう酸30g/L
pH:4.0~5.0
浴温:60℃
電流密度:10A/dm2
【0084】
次いで、Niめっき層を形成した鋼板(めっき処理鋼板)について、還元性保護ガス雰囲気下で連続焼鈍により熱拡散処理を行い、Fe-Ni拡散層を形成し、さらに熱拡散処理の後に圧下率3%以下の調質圧延を施して、Niめっき鋼板を得た。なお、連続焼鈍において、初期加熱工程では、常温から最終加熱開始温度まで前記めっき処理鋼板を加熱した。最終加熱開始温度は660~694℃の温度範囲内と設定した。初期加熱工程における最大昇温速度(最大昇温速度)は4.96℃/秒であった。次いで、最終加熱工程では、最終加熱開始温度と最終加熱到達温度の差(最終加熱工程における温度差)が40℃となるように、到達温度を695~729℃の温度範囲内で設定し、昇温速度を0.37℃/秒で前記めっき処理鋼板を加熱した。次いで、冷却工程として、HNXガス等の冷却ガスを吹き付けることで、前記めっき処理鋼板の温度が120℃以下となるまで冷却した。初期加熱工程、最終加熱工程、および冷却工程を通じてNiめっき鋼板にかかった熱履歴Yは、57920℃・秒であった。
【0085】
得られたNiめっき鋼板について、上述の方法に従って各種評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0086】
<<実施例2-実施例8、比較例1-比較例5>>
基材の種類、Niめっきの付着量、並びに熱拡散処理における熱履歴Y、および熱処理条件、すなわち最大昇温速度、最終加熱開始温度、最終加熱工程における昇温速度、最終加熱到達温度および最終加熱工程における温度差、最終加熱時間を表1に示す条件に変更してNiめっき鋼板を得て、同様に評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
表1に示すように、EBSD測定により得られる平均結晶粒径が0.32μm以上であり、かつFeで指数付けできる領域の割合が0.0%以上6.0%以下であるNiめっき鋼板は、過放電時相当の4.1VにおけるFeの溶出を起因とする電流密度が小さく、過放電時における耐電解液性に優れたものであった(実施例1-8)。
【0090】
また、EBSD測定により得られる平均結晶粒径が0.36μm以上であり、かつFeで指数付けできる領域の割合が0.0%以上1.0%以下であるNiめっき鋼板は、過放電時相当の4.1VにおけるFeの溶出を起因とする電流密度が比較的小さく、過放電時における耐電解液性に特に優れたものであった(実施例1-6)。
【0091】
一方、熱拡散処理における熱履歴Yが小さく、平均結晶粒径が0.32μm未満となった比較例1のNiめっき鋼板は、過放電時における耐電解液性に劣るものであった。また、熱拡散処理におけるW/Yが小さく、Fe指数付け割合が6.0%超となった比較例2および3のNiめっき鋼板や、最大昇温速度が大きく、最終加熱を行わずに均熱を行ったことにより、Fe指数付け割合が6.0%超となった比較例4および5のNiめっき鋼板は、過放電時における耐電解液性に劣るものであった。