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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146476
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】海洋肥沃化装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/60 20170101AFI20241004BHJP
   A01K 63/00 20170101ALI20241004BHJP
【FI】
A01K61/60 322
A01K63/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059394
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】中西 弘文
(72)【発明者】
【氏名】田名網 健雄
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104EA01
2B104FA04
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、汲み上げた深層水を特定の区画内に一定期間保持して植物プランクトン等の水棲生物を効率的に増殖させることができ、該区画内で魚病発生や酸素不足が起こらず、コストやメンテナンス性にも優れた海洋肥沃化装置を提供することにある。
【解決手段】本発明の海洋肥沃化装置は、深層水を汲み上げる深層水汲み上げパイプと、側壁に囲まれ、軸方向が略鉛直方向である筒状の深層水滞留区画と、前記深層水滞留区画内の海水温度と前記深層水滞留区画外の海水温度とを実質的に同じ温度とする機構と、を備え、前記深層水滞留区画は表層海域に配置され、前記深層水汲み上げパイプの一方の端が深層海域に配置され、他方の端が前記深層水滞留区画内に配置され、前記深層水滞留区画の海底側の面の少なくとも一部が開放されている、ことを特徴としている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
深層水を汲み上げる深層水汲み上げパイプと、側壁に囲まれ、軸方向が略鉛直方向である筒状の深層水滞留区画と、前記深層水滞留区画内の海水温度と前記深層水滞留区画外の海水温度とを実質的に同じ温度とする機構と、を備え、
前記深層水滞留区画は表層海域に配置され、
前記深層水汲み上げパイプの一方の端が深層海域に配置され、他方の端が前記深層水滞留区画内に配置され、
前記深層水滞留区画の海底側の面の少なくとも一部が開放されている、
ことを特徴とする、海洋肥沃化装置。
【請求項2】
前記側壁が透光性材料からなる、請求項1に記載の海洋肥沃化装置。
【請求項3】
前記深層水滞留区画の海面側の面が開放している、請求項1又は2に記載の海洋肥沃化装置。
【請求項4】
前記深層水滞留区画の海面側の面が透光性材料からなる板で覆われている、請求項1又は2に記載の海洋肥沃化装置。
【請求項5】
前記深層水滞留区画の海底側の面が開放しており、海面側の面が複数の貫通孔を有する板で覆われている、請求項1又は2に記載の海洋肥沃化装置。
【請求項6】
前記側壁の少なくとも一部に貫通孔を有する、請求項1又は2に記載の海洋肥沃化装置。
【請求項7】
前記深層水滞留区画の海底側の面が網目を有する構造物で覆われている、請求項1又は2に記載の海洋肥沃化装置。
【請求項8】
前記機構が、(i)前記深層水汲み上げパイプ内を深層水で満たし、前記深層水汲み上げパイプの少なくとも一方の端を封止し、前記深層水汲み上げパイプの前記深層水の温度が前記深層水汲み上げパイプの長さ方向の各位置でパイプ外の海水と実質的に同じ温度となるまで放置し、前記深層水汲み上げパイプの封止を解除する機構、又は(ii)前記深層水汲み上げパイプを通して深層水を汲み上げるポンプと前記深層水滞留区画内の海水を攪拌する攪拌機とを含む機構、である、請求項1又は2に記載の海洋肥沃化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋肥沃化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
深層海域の海水を汲み上げて表層海域に放出することにより、海洋を肥沃化する海洋肥沃化技術の検討が進められている。深層水は、深層海域に存在し、ミネラル、及び富栄養塩を豊富に含む。富栄養塩を豊富に含む深層水が海の表層海域に放出されると、その富栄養塩を栄養源として植物プランクトンが増殖する。植物プランクトンが増殖すると、その植物プランクトンを直接に、又は間接的に餌とする他の水棲生物も増殖し、深層水が放出された表層海域には、最終的に、魚、甲殻類等の水棲生物が増殖した漁場が形成される。
【0003】
深層水を汲み上げる方法として、塩分濃度が低い深層水をパイプの深層側から導入し、パイプ外部の相対的に温度の高い海水と熱交換してパイプ内の海水温が上昇し、パイプ外部の海水と実質的に同じ温度となったとき、深層水は塩分濃度が低いことから比重が相対的に低くなり、浮力が生じてパイプ内の深層水が汲み上げられる方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、深層水が供給された漁場として、深層水を汲み上げる装置と汲み上げた深層水を滞留させる槽とを備える漁場が知られている(特許文献2)。また、バリヤーに囲まれた内部で人工深層水を用いて植物プランクトン等を増殖させる方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-336479号公報
【特許文献2】特開2003-333955号公報
【特許文献3】特開平8-107732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、汲み上げられた深層水が海流の影響で拡散し、植物プランクトンも同時に流されてしまうために、栄養塩濃度を特定の領域内に一定期間確保することができず、植物プランクトン等の水棲生物が十分に増殖しなかった。
また、特許文献2の方法では、汲み上げた冷たい深層水が再沈降することを抑止するために滞留槽に底が設けられているが、滞留槽内で死滅したプランクトンや魚類の糞等が底にたまり、魚病の発生や滞留槽内で酸素が不足することがあった。
また、特許文献3の方法は、広い海域を仕切る大規模なバリヤーが必要となるためにコストがかかる、海流の影響が大きくメンテナンス性に劣る、海底まで仕切りを伸ばすために深い海域では適用できない、等の問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、汲み上げた深層水を特定の区画内に一定期間保持して植物プランクトン等の水棲生物を効率的に増殖させることができ、該区画内で魚病発生や酸素不足が起こらず、コストやメンテナンス性にも優れた海洋肥沃化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
深層水を汲み上げる深層水汲み上げパイプと、側壁に囲まれ、軸方向が略鉛直方向である筒状の深層水滞留区画と、前記深層水滞留区画内の海水温度と前記深層水滞留区画外の海水温度とを実質的に同じ温度とする機構と、を備え、
前記深層水滞留区画は表層海域に配置され、
前記深層水汲み上げパイプの一方の端が深層海域に配置され、他方の端が前記深層水滞留区画内に配置され、
前記深層水滞留区画の海底側の面の少なくとも一部が開放されている、
ことを特徴とする、海洋肥沃化装置。
[2]
前記側壁が透光性材料からなる、[1]に記載の海洋肥沃化装置。
[3]
前記深層水滞留区画の海面側の面が開放している、[1]又は[2]に記載の海洋肥沃化装置。
[4]
前記深層水滞留区画の海面側の面が透光性材料からなる板で覆われている、[1]又は[2]に記載の海洋肥沃化装置。
[5]
前記深層水滞留区画の海底側の面が開放しており、海面側の面が複数の貫通孔を有する板で覆われている、[1]又は[2]に記載の海洋肥沃化装置。
[6]
前記側壁の少なくとも一部に貫通孔を有する、[1]又は[2]に記載の海洋肥沃化装置。
[7]
前記深層水滞留区画の海底側の面が網目を有する構造物で覆われている、[1]又は[2]に記載の海洋肥沃化装置。
[8]
前記機構が、(i)前記深層水汲み上げパイプ内を深層水で満たし、前記深層水汲み上げパイプの少なくとも一方の端を封止し、前記深層水汲み上げパイプの前記深層水の温度が前記深層水汲み上げパイプの長さ方向の各位置でパイプ外の海水と実質的に同じ温度となるまで放置し、前記深層水汲み上げパイプの封止を解除する機構、又は(ii)前記深層水汲み上げパイプを通して深層水を汲み上げるポンプと前記深層水滞留区画内の海水を攪拌する攪拌機とを含む機構、である、[1]又は[2]に記載の海洋肥沃化装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の海洋肥沃化装置は、上記構成を有するため、汲み上げた深層水を特定の区画内に一定期間保持して植物プランクトン等を効率的に増殖させることができ、該区画内で魚病発生や酸素不足が起こらず、コストやメンテナンス性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の海洋肥沃化装置の一例を示す図である。
図2】本実施形態の海洋肥沃化装置の他の一例を示す図である。
図3】本実施形態の海洋肥沃化装置の他の一例を示す図である。
図4】本実施形態の海洋肥沃化装置の他の一例を示す図である。
図5】本実施形態の海洋肥沃化装置の他の一例を示す図である。
図6】本実施形態の海洋肥沃化装置の海底側の面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
[海洋肥沃化装置]
図1~5の本実施形態の一例の海洋肥沃化装置を参照して説明する。
本実施形態の海洋肥沃化装置1は、深層水を汲み上げる深層水汲み上げパイプ2と、側壁31に囲まれ、軸方向が略鉛直方向である筒状の深層水滞留区画3と、上記深層水滞留区画内の海水温度と上記深層水滞留区画外の海水温度とを実質的に同じ温度とする機構と、を備え、上記深層水滞留区画は表層海域に配置され、上記深層水汲み上げパイプの一方の端21が深層海域に配置され、上記深層水汲み上げパイプの他方の端22が上記深層水滞留区画3内に配置され、上記深層水滞留区画3の海底側の面34の少なくとも一部が開放されている。
深層水滞留区画の側壁31があることで、深層水汲み上げパイプ2を通して深層水滞留区画3内に汲み上げられた深層水が海流等によって流されにくくなり、深層水滞留区画3内に長期間保持することができる。また、深層水滞留区画3の海底側の面34の少なくとも一部が開放されているため、深層水滞留区画3内でプランクトンの死骸や魚類の排泄物等が深層水滞留区画3内にたまりにくくなり、深層水滞留区画3内のプランクトン等の水棲生物の増殖効率が向上する。また、深層水滞留区画3が表層海域に配置されるため、海底まで区画を形成する必要がなくコスト及びメンテナンス性に優れる。
本明細書において、「表層海域」とは海面から水深30mまでの領域をいい、「深層海域」とは水深500mより深い領域をいう。また、「深層水」とは、深層海域の海水をいう。
なお、本明細書において「深層水滞留区画内の海水温度と深層水滞留区画外の海水温度とを実質的に同じ温度とする機構」を、「温度調整機構」と称する場合がある。
【0013】
(深層水滞留区画)
深層水滞留区画3の形状は筒状である。本明細書において、筒状とは円筒に限らず中空の柱状の形状を含むものとする。例えば、中空の三角形や四角形等の中空の略多角柱形状、中空の略円柱状(すなわち、略円筒)等であってよい。また、軸方向に対する断面形状が、軸方向にわたって同一であってもよいし、異なっていてもよい。
略円筒である場合、深層水滞留区画3は直径5~20mであることが好ましく、より好ましくは8~15mである。また、上記筒状の軸方向に対する断面の面積は、40~200mであることが好ましく、より好ましくは60~100mである。
【0014】
上記筒状は、内部の中空空洞が側壁31に囲まれ、軸方向に対向する面を上面及び下面とする。深層水滞留区画3とは、側壁31、上面及び下面で囲まれた領域内をいう。
図1~5の筒状の深層水滞留区画3において、上面が海面側の面32であり、下面が海底側の面34である。
【0015】
深層水滞留区画3は、側壁31に囲まれている。側壁は、隙間なく内部の中空空洞を囲んでいてもよいし、少なくとも一部に貫通孔5を有していてもよい(図4)。上記貫通孔の数は特に限定されず、1個であってもよいし複数個であってもよい。側壁に貫通孔5があると、深層水滞留区画3内が攪拌され、より一層効率よくプランクトン等を増殖させることができる。
上記側壁31の全表面積100%に対する全貫通孔の孔の合計面積の割合は、1~20%であることが好ましく、より好ましくは3~10%である。
上記貫通孔5は、海流を利用して効率よく深層水滞留区画3内を攪拌できるため、側壁の海面側(好ましくは、海面側の端から海底側の端までの長さ100%に対して、海面側の端から0~30%の領域内)に設けられることが好ましい(図4)。
【0016】
側壁31の厚みは、深層水滞留区画3が海流や波の衝撃で壊れず、海中で区画を保持できる程度の強度を有する厚みであればよく、特に限定されないが、1~50mmであってよい。
【0017】
上記側壁は、深層水滞留区画3内に太陽光が入射しやすく、汲み上げた深層水が温まりやすくなることで沈降しにくくなる観点から、透光性材料からなることが好ましい。透光性材料としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、これらの組み合わせ、これらと金属との組み合わせ、等が挙げられる。
【0018】
上記側壁は、深層水滞留区画3内の海水温度と、深層水滞留区画3外の海水温度との差を小さくできる観点から、熱伝導性材料からなることが好ましい。特に、熱伝導性を有し、且つ透光性を有する材料であることがより好ましい。
熱伝導性材料としては、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ナイロン、これらの組み合わせ、これらと金属との組み合わせ、等が挙げられる。
【0019】
深層水滞留区画3は、軸方向が略鉛直方向である。軸方向は、深層水滞留区画3の海面側の面32から海底側の面34に向かう方向であって、該方向に対する断面の中心又は重心を結ぶ線の方向であってよい。略鉛直方向とは、海面から海底に向かう水深方向としてよい。
【0020】
深層水滞留区画3の海面側の面32は、全面が開放していてもよいし(図1、4)、板等で一部又は全面が覆われていてもよい(図2、3、5)。海面側の面32の少なくとも一部が開放していると、深層水滞留区画3内に太陽光が入射し、汲み上げた深層水が温まって沈降しにくくなり、プランクトン等を増殖効率が向上する。深層水滞留区画3の海面側の面32の全面積100%に対する、開放している部分の面積の割合としては、1~90%であることが好ましく、より好ましくは40~80%である。
【0021】
深層水滞留区画3の海面側の面32は、深層水滞留区画3内に太陽光が入射することに加え、汲み上げた深層水が深層水滞留区画3外へ流出しにくくなることで、プランクトン等の増殖効率が一層向上する観点から、透光性材料からなる板又はフィルムで覆われていることが好ましい(図3)。透光性材料としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、これらの組み合わせ、これらと金属との組み合わせ、等が挙げられる。
太陽光の入射効率が一層向上する観点から、海面側の面に設けられる板又はフィルムには集光器を設けてもよい。
【0022】
深層水滞留区画3の海底側の面34は、少なくとも一部が開放しており、全面が開放していてもよいし(図1~5)、網目を有する構造物等を設けて一部が開放していてもよい。上記網目を有する構造物としては、魚が区画内外に出入りできる程度の網目であることが好ましい。
深層水滞留区画3の海底側の面34の面積100%に対する、開放している部分の面積の割合は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上である。
なお、深層水滞留区画3内には、深層海域から深層水滞留区画3に延びる深層水汲み上げパイプ2の他方の端22が配置されるため(図6)、「全面が開放している」とは深層水汲み上げパイプ2が存在する部分以外が開放していることをいう。また、上記開放している部分の面積の割合は、深層水汲み上げパイプ2が存在する部分以外の面積から算出するものとする。
【0023】
図1の深層水滞留区画3は、孔のない側壁31に囲まれ、海面側の面32及び海底側の面34が全面で開放された例である。
図2の深層水滞留区画3は、孔のない側壁31に囲まれ、海面側の面32が孔のない海面側の面を覆う板33で覆われ、海底側の面34が全面で開放された例である。
図3の深層水滞留区画3は、孔のない側壁31に囲まれ、海面側の面32が孔のない海面側の面を覆う板33で覆われ、海底側の面34が全面で開放された例である。図3において、海面側の面を覆う板33は透光性材料からなる。
図4の深層水滞留区画3は、貫通孔を有する透光性材料である側壁31に囲まれ、海面側の面32及び海底側の面34が全面で開放された例である。
図5の深層水滞留区画3は、孔のない透光性材料である側壁31に囲まれ、海面側の面32が貫通孔を有する海面側の面を覆う板33で覆われ、海底側の面34が全面で開放された例である。
【0024】
深層水滞留区画3は、海中で区画の形状を保持する観点、及び海流や波等の衝撃に対する強度の観点から、軸方向に対する断面において、中心から放射状に伸びる複数の線状部材35が設けられた構造(すなわち、スポークホイール構造)(図6)であってよい。図6は、海底側の面34にスポークホイール構造が設けられているが、海底側の面34は全面開放され、深層水滞留区画3の軸方向の他の断面にスポークホイール構造が設けられていてもよい(図1~5)。
スポークホイール構造は、軸方向に対する1つの断面のみに設けられていてもよいし、軸方向に対する複数の断面に設けられていてもよい。また、海面側の面32から海底側の面34まで軸方向全体に連続して設けられていてもよいし、海面側の面32から海底側の面34まで軸方向の一部に連続して設けられていてもよい。また、海面側の面32や海底側の面34(図6)が上記構造であってもよい。
上記線状部材35は、深層追滞留区画3が海中で形状を保持できる強度を有すれば特に限定されず、樹脂、繊維強化プラスチック、金属、これらの組み合わせによりなっていてよい。
上記線状部材35は、深層水汲み上げパイプ2に接続されていてよい(図6)。例えば、線状部材が中空の部材であり、深層水汲み上げパイプ2の中空と線状部材の中空とが連通され、線状部材に複数の貫通孔(すなわち、深層水の排出口)を設けて、汲み上げた深層水を深層水滞留区画3内の複数の場所から排出してもよい。この構造により、深層水滞留区画3の強度と、深層水滞留区画3により均一に深層水を分布できる効果が期待できる。
【0025】
深層水滞留区画3は表層海域に配置される。深層水滞留区画3全体が海面下にあることが好ましい。例えば、ブイ等の浮力を有する装置4に固定したり、側壁に気泡を含む材料を用いたりすることで、浮力を調整し、表層海域に配置できる(図1~5)。浮力を有する装置4は、樹脂又は金属製のワイヤ41を通して、深層水滞留区画3と連結してよい。
また、深層水滞留区画3は、錘をぶら下げたり、錨を下ろしたり、側壁の貫通孔面積の割合を調整したりすることで、海中で軸方向を略鉛直方向に調整してよい。
【0026】
(深層水汲み上げパイプ)
深層水汲み上げパイプ2は、中空の筒状であってよい。軸方向に対する断面の形状は、略円、略多角形、これらの組み合わせ、等であってよい。中でも、波浪等の影響を最小限とする観点から、略円形が好ましい。また、軸方向に対する断面形状が、軸方向にわたって同一であってもよいし、異なっていてもよい。
例えば、直径1mの略円筒であってよい。
【0027】
深層水汲み上げパイプ2の一方の端21は、深層海域に配置され、水深500m以上の海域(すなわち、500mより深い海域)に配置されることが好ましく、700m以上の海域に配置されることがより好ましい。
なお、本実施形態の海水肥沃化装置1において、深層水汲み上げパイプ2が複数設けられる場合、各深層水汲み上げパイプの一方の端21は、同じ水深に配置されてもよいし、異なる水深に配置されてもよい。
【0028】
深層水汲み上げパイプ2の他方の端22は、深層水滞留区画内に配置され、配置される水深は、好ましくは水深30m以下、より好ましくは10~20mである。
【0029】
深層水汲み上げパイプ2の一方の端21及び/又は他方の端22は、パイプ内で海水が逆方向に移動することを防ぐ観点から、弁等のパイプの末端を封止する機構が設けられていてもよい。上記弁は、樹脂、金属等からなり、一方向のみから海水がパイプ内に流入する構造であってよい。例えば、一方の端21は海水がパイプ内に流入し、他方の端22はパイプ外に海水が流出する弁であってよい。
【0030】
深層水汲み上げパイプの他方の端22は、パイプ内に魚類の死骸やごみ等の異物が侵入しにくいように、網状のカバーで覆われていてもよい。
また、汲み上げた深層水を深層水滞留区画3内に均等に供給する観点から、深層水汲み上げパイプの他方の端22は複数に枝分かれていていてもよいし、他方の端22近傍に深層水を排出するパイプ内外を貫通する貫通孔が設けられていてもよい。
【0031】
深層水汲み上げパイプ2の軸方向は曲線状、らせん状、直線状であってよいが、汲み上げ効率の観点から直線状であることが好ましい。
また、軸方向は、略鉛直方向であることが好ましい。深層水滞留区画3の軸方向と深層水汲み上げパイプ2の軸方向とは、略平行であることが好ましい。
【0032】
深層水汲み上げパイプ2の肉厚は、深層水汲み上げ機能を海中で保持できる強度を有すれば特に限定されず、例えば、肉厚1mm程度であってよい。
【0033】
深層水汲み上げパイプ2を構成する材料は、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレン等の樹脂、繊維強化プラスチック、金属、これらの組み合わせ等が挙げられる。
深層水汲み上げパイプ2は、パイプ内の深層水の温度をパイプ外の海水の温度まで上げやすくなる観点から、熱伝導性を有する材料からなることが好ましく、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、繊維強化プラスチック、金属、これらの組み合わせがより好ましい。
【0034】
深層水汲み上げパイプ2を深層水滞留区画3の所定領域に保持する方法としては、上述の深層水滞留区画3のスポークホイール構造の中心部や線状部材35と深層水汲み上げパイプ2の側面とを接続する方法(図6)、深層水滞留区画3の側壁31の海面側の端と深層水汲み上げパイプの他方の端22とを樹脂や金属等の接続部材を通して接続する方法、等が挙げられる。
【0035】
深層水汲み上げパイプ2の軸方向を鉛直方向に保持する方法としては、深層水汲み上げパイプの一方の端21を海底に固定する方法、深層水汲み上げパイプの一方の端21から錘をぶら下げる方法等が挙げられる。
また、海水肥沃化装置に浮力が必要な場合は、深層水汲み上げパイプ2にブイ等を取り付けてもよい。
【0036】
(深層水滞留区画内の海水温度と深層水滞留区画外の海水温度とを実質的に同じ温度とする機構)
深層水滞留区画3内の海水温度と深層水滞留区画外の海水温度とを実質的に同じ温度とする上記機構により、深層水滞留区画3内外の海水温度を実質的に同じ温度とすることで、汲み上げた深層水が沈降しにくくなり、深層水滞留区画3内の水棲生物の成長効率が向上する。
【0037】
温度調整機構としては、
(i)深層水汲み上げパイプ2内を深層水で満たし、深層水汲み上げパイプ2の少なくとも一方の端を封止し、深層水汲み上げパイプ2の深層水の温度が深層水汲み上げパイプ2の長さ方向の各位置でパイプ外の海水と実質的に同じ温度となるまで放置し、深層水汲み上げパイプ2の封止を解除する機構(以下、温度調整機構(i)と称する)、
(ii)深層水汲み上げパイプ2を通して深層水を汲み上げるポンプと深層水滞留区画3内の海水を攪拌する攪拌機とを含む機構(以下、温度調整機構(ii)と称する)、
(iii)深層水滞留区画3内で海水を温める機構(以下、温度調整機構(iii)と称する)、
(iv)上記(i)~(iii)の組み合わせ、
等が挙げられる。
【0038】
以下、順に説明する。
【0039】
-温度調整機構(i)-
上記温度調整機構(i)としては、(a)上記深層水汲み上げパイプ2内を深層側末端付近の深層水で満たし、(b)上記深層水汲み上げパイプ2の少なくとも一端を封止し、(c)上記深層水汲み上げパイプ2内の深層水が上記深層水汲み上げパイプ2の長さ方向の各位置でパイプ外の海水と実質的に同じ温度となるまで放置し、(d)上記深層水汲み上げパイプ2の封止を解除すること、を含む機構が挙げられる。
【0040】
パイプ内部に深層水を満たす前又は直後に、パイプ2の少なくとも一端を封止してもよい(上記(b))。これにより、海中に設置されたパイプ2の内部に満たされた海水が熱交換によりパイプ2外部の海水の温度と同じになるまで、パイプ2内部で海水が移動するのを防ぐことができる。
解放されているパイプ2の端部では、拡散等によりパイプ2内の深層水が流出してしまうので、パイプ2の両端を封止することが好ましい。なお、パイプ2の端を封止する手段は任意であるが、各種の弁をパイプの末端に取り付けておくのが一般的である。
【0041】
内部が深層水で満たされたパイプ2は、一方の端21が深層海域に配置され、他方の端22が深層水滞留区画内に配置された状態で、パイプ2内部の深層水とパイプ外部の海水とが熱交換して、実質的に同じ温度になるまで放置される。ここで、「実質的に」とは、上述のメカニズムで内部の深層水が浮上を始めることができる温度になることとしてよい。
【0042】
パイプ2内の深層水とパイプ2外の海水とが実質的に同じ温度と時点で、パイプの端部の封止を解除する。これによって、深層水の汲み上げが始まる。深層水は塩分濃度が低いため、表層水と同じ温度であれば、比重が相対的に低くなるので、浮力が生じてパイプ2内の深層水は上昇する。そして、最終的に実質的に表層水と同じ温度になった深層水がパイプ2の他方の端22から深層水滞留区画3内に放出される。
【0043】
-温度調整機構(ii)-
ポンプを用いて深層水を冷たいまま汲み上げ、汲み上げた深層水を深層水滞留区画3内で攪拌することで、深層水の沈降を防ぎ、深層水に含まれる栄養分を深層水滞留区画3内に保持することができる。
【0044】
ポンプとしては、電動式のポンプ等が挙げられる。電源は、風力発電、太陽光発電、波力発電等により得てもよい。
深層水汲み上げパイプにポンプが取り付けられていてよい。例えば、電動ポンプによる圧力によって深層海域から深層水滞留区画内に深層水を汲み上げることができる。ポンプの種類としては、海中でも使用でき、深層水を汲み上げることができれば、特に限定されない。
【0045】
攪拌機としては、電動の攪拌機であってもよいし、深層水滞留区画の側壁に貫通孔を設けて海水の流れを区画内に取り込んで攪拌するものであってもよい。
【0046】
-温度調整機構(iii)-
深層水汲み上げパイプ2を通して汲み上げた深層水を深層水滞留区画3内で温め、深層水の沈降を防ぐことができる。
【0047】
深層水滞留区画3内で海水を温める機構としては、深層水滞留区画3の側壁31に電熱線等の加温機構を設ける、深層水滞留区画3内に水中ヒーターを配置する、等が挙げられる。
【0048】
本実施形態の海洋肥沃化装置1は、深層水滞留区画内の海水温と、区画外の海水温とを測定し、温度差に応じて上記温度調整機構の強度を調整する機構を有していてもよい。深層水は温度が低いため、深層水滞留区画3内の海水温は低くなりやすいが、区画外の海水温との温度差に応じて温度調整機構が動くことで、区画内の温度が低くなりすぎたり高くなりすぎたりすることを防ぎ、温度調整機構の消費エネルギーを節約でき、一層効率よく水棲生物を増殖させることができる。
上記温度差としては、5℃以内が好ましく、より好ましくは3℃以内、さらに好ましくは1℃以内である。
【0049】
本実施形態の海洋肥沃化装置1は、複数の軸方向長さが異なる深層水汲み上げパイプを有していてよい。水深が異なる深層海域から深層水を汲み上げ、深層水滞留区画3内を特定の目的水棲生物(例えば、特定種の海藻、特定種のプランクトン、特定種の貝、特定種の大型魚等)の増殖に適した栄養環境とすることで、該目的水棲生物を一層効率よく増殖させることができる。
例えば、深層海域の海底付近の深層水と、海底から50m浅い深層海域付近の深層水とを深層水滞留区画3内で等分に混ぜ合わせることで、海底から50mまでの広い海域に存在する水棲生物を深層水滞留区画3内の狭い領域で効率よく生産することができる。そして、海底から50mという広い海域の栄養環境を深層水滞留区画内に形成でき、海底付近に生息する水棲生物を効率よく増殖させることができる。
また、深層水は、微量元素等の存在割合が水深によって異なる特徴を用いてもよい。例えば、ケイ素の存在割合が高い深層水を汲み上げて、増殖にケイ素が必要な珪藻を深層水滞留区画内で効率的に増殖させることができる。また、カルシウムの存在割合が高い深層水を汲み上げて、増殖にカルシウムが必要な円石藻を深層水滞留区画内で効率的に増殖させることができる。これらを組み合わせれば、水深が異なる深層水を汲み上げることで、特定の複数種の水棲生物の増殖に適した環境を深層水滞留区画内に作ることができる。
なお、深層水滞留区画の海底側の面を漁網等で覆うことにより、貝類等の海底生息する水棲生物の生産も可能である。
【0050】
本実施形態の海洋肥沃化装置1は、錘やブイ等を用いて水深方向の位置を安定させることができ、また、錨を用いて海底に固定して用いてもよい。
【0051】
本実施形態の海洋肥沃化装置1において、深層水滞留区画3内の成分分析(例えば、区画内の複数種の塩の濃度の測定)を行い、不足する成分を人工的に補充してもよい。
【0052】
本実施形態の海洋肥沃化装置1は、深層水滞留区画3内で水棲生物を養殖する用途等に用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 海洋肥沃化装置
2 深層水汲み上げパイプ
21 深層海域側に配置されるパイプの一方の端
22 深層水滞留区画内に配置されるパイプの他方の端
3 深層水滞留区画
31 側壁
32 海面側の面
33 海面側の面を覆う板
34 海底側の面
35 線状部材
4 ブイ
41 ワイヤ
5 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6