(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146484
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】オルピディウム病抑制剤および植物の水耕栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01N 43/16 20060101AFI20241004BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241004BHJP
A01N 63/14 20200101ALI20241004BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20241004BHJP
【FI】
A01N43/16 A
A01P3/00
A01N63/14
A01G31/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059409
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】594146179
【氏名又は名称】株式会社新菱
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宇野 祐子
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏之
(72)【発明者】
【氏名】舩越 義郎
【テーマコード(参考)】
2B314
4H011
【Fターム(参考)】
2B314MA15
4H011AA01
4H011BB08
4H011BB19
4H011DA15
4H011DH10
(57)【要約】
【課題】キチン質を有効利用する新たな技術を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、キチン質を有効成分として含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチン質を有効成分として含む、オルピディウム病抑制剤。
【請求項2】
キチン質を含む生物体の粉砕物、抽出物又はこれらの精製物を含み、
前記キチン質は、当該粉砕物、抽出物又はこれらの精製物に含まれるキチン質である、請求項1に記載のオルピディウム病抑制剤。
【請求項3】
前記生物体は、節足動物である、請求項2に記載のオルピディウム病抑制剤。
【請求項4】
前記節足動物は、昆虫である、請求項3に記載のオルピディウム病抑制剤。
【請求項5】
前記昆虫は、カイコ、ゴミムシダマシムシ、コオロギ、カブトムシ、またはアメリカミズアブである、請求項4に記載のオルピディウム病抑制剤。
【請求項6】
前記オルピディウム病は、オルピディウム属菌による病害またはオルピディウム属菌が媒介する病害である、請求項1に記載のオルピディウム病抑制剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のオルピディウム病抑制剤を対象植物に接触させる接触工程を含む、植物の水耕栽培方法。
【請求項8】
前記接触工程は、苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階で行われる、請求項7に記載の植物の水耕栽培方法。
【請求項9】
前記接触工程では、前記オルピディウム病抑制剤を、養液中のキチン質の含有量が0.001質量%以上、2質量%以下となるように前記養液に添加する、請求項7に記載の植物の水耕栽培方法。
【請求項10】
前記対象植物は、葉菜類である、請求項7に記載の植物の水耕栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオルピディウム病抑制剤および植物の水耕栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、キチンを加水分解して得られる数平均分子量3,000~50,000の低分子量キチンを有効成分として含有する植物病害防除剤が開示されている。
【0003】
特許文献2には、キチンの加水分解物である低分子量キチンを有効成分として含有する土壌改良剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-323460号公報
【特許文献2】特開2018-172453号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】西村幸芳,日本農薬学会誌 46(1),P.24~25,2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キチンは、エビ、カニをはじめとして、昆虫、貝、キノコに至るまで、極めて多くの生物に含まれている天然の素材である。このため、キチンを有効利用する新たな技術が求められている。
【0007】
本発明の一態様は、キチン質を有効利用する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、植物にキチンを施用することで、オルピディウム病の症状を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係るオルピディウム病抑制剤は、キチン質を有効成分として含む。
【0010】
本発明の態様2に係るオルピディウム病抑制剤は、キチン質を含む生物体の粉砕物、抽出物又はこれらの精製物を含み、前記キチン質は、当該粉砕物、抽出物又はこれらの精製物に含まれるキチン質であってよい。
【0011】
本発明の態様3に係るオルピディウム病抑制剤は、上記の態様2において、前記生物体は、節足動物であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様4に係るオルピディウム病抑制剤は、上記の態様3において、前記節足動物は、昆虫であることが好ましい。
【0013】
本発明の態様5に係るオルピディウム病抑制剤は、上記の態様4において、前記昆虫は、カイコ、ゴミムシダマシムシ、コオロギ、カブトムシ、またはアメリカミズアブであってよい。
【0014】
本発明の態様6に係るオルピディウム病抑制剤は、上記の態様1~5のいずれか1つにおいて、前記オルピディウム病は、オルピディウム属菌による病害またはオルピディウム属菌が媒介する病害であってよい。
【0015】
本発明の態様7に係る植物の水耕栽培方法は、上記の態様1~6のいずれか1つのオルピディウム病抑制剤を対象植物に接触させる接触工程を含む。
【0016】
本発明の態様8に係る植物の水耕栽培方法は、上記の態様7において、前記接触工程は、苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階で行われることが好ましい。
【0017】
本発明の態様9に係る植物の水耕栽培方法は、上記の態様7または8において、前記接触工程では、前記オルピディウム病抑制剤を、養液中のキチン質の含有量が0.001質量%以上、2質量%以下となるように前記養液に添加することが好ましい。
【0018】
本発明の態様10に係る植物の水耕栽培方法は、上記の態様7~9のいずれか1つにおいて、前記対象植物は、葉菜類であってよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、キチン質を有効利用する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例の結果を示す図であり、試験例1におけるオルピディウムの感染後18日目の各試験区の代表的な特徴を示す根部外観を表す図である。
【
図2】実施例の結果を示す図であり、試験例2におけるオルピディウムの感染後23日目の各試験区の根部外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一態様について詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0022】
<1.オルピディウム病抑制剤>
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、キチン質を有効成分として含む。キチン質とは、キチンとキトサンの総称である。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤によれば、該剤を与えられた植物体において、オルピディウム病による症状を抑制することができる。ここで、前記「オルピディウム病抑制」は、オルピディウム病による症状を抑制することを意味する。また、「オルピディウム病による症状を抑制する」とは、オルピディウム病の症状の発症を抑えるか、または発症しても症状の進行または悪化を抑えることを意味する。従って、「オルピディウム病抑制剤」は、オルピディウム病による症状を抑制する用途の剤を意味する。
【0023】
本明細書において、前記「オルピディウム病」は、オルピディウム属(Olpidium)菌の感染によって引き起こされる植物病害全般を意味する。このような病害としては、特に限定されず、例えば、オルピディウム根腐病、レタスビッグベイン病、チューリップ条斑病、タバコ萎黄病などを挙げることができる。オルピディウム病の原因となるオルピディウム属(Olpidium)菌としては、特に限定されず、例えば、オルピディウム・ヴィルレンタス(Olpidium virulentus)、オルピディウム・ブラシカ(Olpidium brassicae)などを挙げることができる。従って、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤が対象とするオルピディウム病は、オルピディウム属菌による病害またはオルピディウム属菌が媒介する病害であり得る。より具体的には、オルピディウム病は、オルピディウム根腐病、レタスビッグベイン病、チューリップ条斑病、又はタバコ萎黄病であり得る。
【0024】
本発明の一態様によれば、オルピディウム病による植物の生育遅延や、根部に発現する症状(例えば、根部の黒変)および/または地上部に発現する症状(例えば、葉の萎れ、葉の奇形、白斑、まだらなど)を抑えることができる。植物体の商品として流通される部位(例えば、地上部)に発現する症状が抑えられることにより収穫に結び付き、また、外観の悪化を抑えることができるため植物の市場価値が低下することを抑えることができる。
【0025】
従来、オルピディウム病の対策としては、オルピディウム菌を栽培施設内に持ち込む可能性のある作業や場所を洗い出し、オルピディウム属菌の養液への侵入を防止することが主であったが、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤によれば、オルピディウム属菌が養液に侵入したとしても、オルピディウム病を抑制することができるため、オルピディウム病の防除にかかる農業従事者の負担を軽減することができる。
【0026】
さらには、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤に含まれているキチン質は、有機農法等にも適用できる安全な成分である。このため、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、環境に配慮したオルピディウム病抑制剤と成り得る。これまでに、水耕栽培では栽培中の養液に添加できる殺菌剤として、金属銀剤である「オクトクロス(登録商標)」が、唯一農薬登録されているのみであり、この農薬以外にオルピディウム病を防除する方法は無かった(参考文献:日本農薬学会誌 46(1),P.24~25,2021)。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤によれば、農薬を用いない環境に配慮した方法でオルピディウム病を抑制することができる。
【0027】
水耕栽培におけるオルピディウム病の代表例であるオルピディウム根腐病は、根部において黒色、褐色または灰褐色の病徴を示す。オルピディウム根腐病の病原の種はオルピディウム・ヴィルレンタス(Olpidium virulentus)が主と考えられている。オルピディウム根腐病は、盛夏を除き、1年を通じて発生し、特にホウレンソウで被害が大きいことから、大きな問題となっている。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、農薬に依らずにオルピディウム根腐病による症状を抑制することができる。
【0028】
キチン質によるオルピディウム病抑制の作用機序は明らかではないが、キチンが分解されて生じた断片は、植物の病害抵抗性を誘導するエリシター活性を有することが知られていることから、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤に含まれているキチン質によって、病害抵抗性遺伝子が発現し、植物体の病害抵抗性が向上したため、オルピディウム病の症状の発症が抑制されたと推察される。しかしながら、後述する実施例に示す通り、断片化されていないキチンでも同様のオルピディウム病抑制効果があることから、公知の作用機序とは異なる作用機序によってオルピディウム病が抑制されている可能性もある。
【0029】
(有効成分)
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、キチン質を有効成分として含む。本明細書では、キチンおよびキトサンを総称して「キチン質」と称する。キチンは、N-アセチル-β-D-グルコサミンが鎖状に長く(数百から数千)つながったアミノ多糖である。キトサンは、キチンが脱アセチル化されたものである。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤に含まれるキチン質は、特に限定されない。例えば、キチン、キトサン;低分子量キチン、低分子量キトサン、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖などのキチンまたはキトサンの部分加水分解物;部分脱アセチル化キチン;これらの塩または誘導体などが挙げられる。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤に含まれるキチン質は、前記例示したキチン質のいずれかを単独で含んでいてもよく、複数種類を含んでいてもよい。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤に含まれるキチン質は、キチンが好ましい。
【0030】
キチン質は、キチン質を含む生物体から得ることができる。キチン質を含む生物体は特に限定されず、例えば、節足動物を挙げることができる。節足動物は特に限定されず、例えば、エビ、カニなどの甲殻類;昆虫;などを挙げることができる。従って、キチン質は、甲殻類由来のキチン質であってもよく、昆虫由来のキチン質であってもよい。甲殻類由来のキチン質のように加水分解処理せずに使用可能であることから、昆虫由来のキチン質が特に好ましい。昆虫の種類は特に限定されず、例えば、カイコ、ゴミムシダマシムシ、コオロギ、カブトムシ、アメリカミズアブなどを挙げることができ、より好ましくはアメリカミズアブである。昆虫は、幼虫であってもよく、さなぎやさなぎ殻であってもよく、成虫であってもよい。
【0031】
キチン質を含む生物体からキチン質を得る方法としては、特に限定されない。例えば、後述する実施例に記載した方法によってキチン質を含む生物体からキチン質を得ることができる。具体的には、キチン質の取得方法の第1の態様として、キチン質を含む生物体を粉砕し、キチン質を含む粉末を得ることができる。この粉末を養液に添加することで、オルピディウム病抑制剤として用いることができる。
【0032】
また、キチン質の取得方法の第2の態様として、キチン質を含む生物体をクエン酸などの酸溶液に加え、所定温度で加温後、粉砕することで、キチン質を含む水性懸濁液を得ることができる。この水性懸濁液をオルピディウム病抑制剤として用いてもよく、この水性懸濁液から不純物を取り除いた液をオルピディウム病抑制剤として用いることもできる。
【0033】
また、キチン質の取得方法の第3の態様として、キチン質を含む生物体を水に加え、所定温度で加温後、粉砕し、キチン質分解酵素を産出する放線菌を加えて常温で静置することで、キチン質を含む水性懸濁液を得ることができる。また、放線菌の代わりにキチン質分解酵素を直接添加してもよい。この水性懸濁液をオルピディウム病抑制剤として用いることができる。
【0034】
従って、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、キチン質を含む生物体の粉砕物、抽出物またはこれらの精製物を含み、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤に含まれるキチン質は、当該粉砕物、抽出物又はこれらの精製物に含まれるキチン質であってもよい。キチン質を含む生物体については、上述した通りであるが、粉砕物をそのまま植物に施用可能であることから、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、昆虫の粉砕物、抽出物またはこれらの精製物を含むことがより好ましい。
【0035】
また、キチン質は、市販品を利用してもよい。市販品としては、例えば、キチン(カニ殻由来のキチン、富士フィルム和光純薬株式会社製)、「速効キチン肥料 LMC3000」(焼津水産化学工業株式会社製、カニ由来キチン)などを挙げることができる。
【0036】
(キチン質の含有量)
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤中のキチン質の濃度は、特に限定されず、オルピディウム病抑制効果が得られる範囲で適宜調整することができる。
【0037】
オルピディウム病抑制効果を得ることができることから、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤中のキチン質の濃度は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましい。また、植物体の生育抑制を防ぐという観点から、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤中のキチン質の濃度は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤中のキチン質の濃度が0.001質量%以上である場合、良好なオルピディウム病抑制効果を得ることができる。上述した濃度でキチン質を含むオルピディウム病抑制剤は、希釈せずに植物に施用することができる。
【0038】
換言すれば、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、養液中のキチン質の含有量が0.001質量%以上、2質量%以下となるように養液に添加されて、対象植物に与えられることが好ましく、養液中のキチン質の含有量が0.005質量%以上、1質量%以下となるように養液に添加されて対象植物に与えられることがより好ましい。
【0039】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、それ自体が、予め、上述した好ましい濃度でキチン質を含んでいてもよい。又は、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤自体は上述した好ましい濃度よりも高濃度でキチン質を含んでいてもよい。この場合は、使用時に当該好ましい濃度に希釈(例えば、50倍希釈、500倍希釈、10000倍希釈など)することを指示する文書が本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤に添付されてもよい。
【0040】
なお、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の希釈に用いる水は、特に限定されず、水道水、イオン交換水、培養液、井戸水などの地下水;湧水、河川水、農業用水などの表流水;などが挙げられる。ここで、「培養液」とは、植物を生育させるための液体である。例えば、培養液は、水を主成分とし、植物を生育させるための栄養分を含む。例えば、培養液を育苗に適用する場合、培養液は、発芽および苗の生育のための培養液である。また、培養液を本圃栽培に適用する場合、培養液は苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させるための培養液である。
【0041】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤中のキチン質以外の成分の量は、特に限定されない。キチン質以外の成分の量は、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤中のキチン質の濃度が例えば上述したような所望の濃度範囲となるように、添加量を適宜調整すればよい。
【0042】
(剤形)
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の剤形は、液体、ペースト、水和剤、粒剤、粉剤、錠剤、乳剤等、いずれの剤形でもよい。いずれの剤形においても、キチン質が安定であることが好ましい。
【0043】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、キチン質の安定性が確保される限りにおいて、上記の剤型に応じた、公知の担体成分や、製剤用補助剤等を適宜配合してもよい。また、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、硝酸態窒素、リン酸およびカリウムと併用してもよい。
【0044】
(担体成分)
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の担体成分としては、特に限定されないが、例えば、(i)タルク、クレー、バーミキュライト、珪藻土、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、白土、シリカゲル等の無機質や、小麦粉、澱粉等の固体担体;(ii)水、キシレン等の芳香族炭化水素類、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の液体担体(溶媒)を用いることができる。また、pHを一定に保つための、種々の緩衝液を用いることもできる。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、上述した少なくとも1種の液体担体をさらに含有している液体組成物であってもよい。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤が少なくとも1種の溶媒をさらに含有する場合、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の総質量に対する溶媒の含有量は適宜設定することができる。通常、1質量%以上、99.9質量%以下の範囲である。
【0045】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤が少なくとも1種の溶媒をさらに含有する場合、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の溶液のpHが4以上、9以下であることが好ましい。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤のpHは、酸又はアルカリによって調整することができる。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、対象植物への施用時点で、そのpHが上述の範囲内であることが好ましい。しかし、対象植物への施用時点でのpHが上述の範囲内にない場合は、施用される土壌、培地又は培養液のpH緩衝作用を利用することで、施用後のpHが上述の範囲内に調整されてもよい。
【0046】
(製剤用補助剤)
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の製剤用補助剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸等の陰イオン性界面活性剤;高級脂肪族アミンの塩類等の陽イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコールアシルエステル、ポリオキシエチレングリコール多価アルコールアシルエステル、セルロース誘導体等の非イオン性界面活性剤;ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム等の増粘剤;増量剤;結合剤;等を適宜配合することができる。
【0047】
(適用対象)
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は植物に適用される。本明細書において「植物」は、「植物」という文言自体から認識され得るもの、野菜、果実、果樹、穀物、種子、球根、草花、香草(ハーブ)、分類学上の植物等を表すものとする。
【0048】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の適用対象となる植物は、特に限定されず、オルピディウム病に感染する可能性のあるあらゆる植物を対象とすることができる。適用対象となる植物として、例えば、ホウレンソウ、レタス、ミズナ、コマツナなどの葉菜類を挙げることができる。良好なオルピディウム病抑制効果が得られることから、ホウレンソウ、レタスであることが好ましい。中でも、オルピディウム病に感染しやすい植物は、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤によるオルピディウム病抑制効果が得られやすい。例えば、ホウレンソウが好ましい。従って、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の適用対象となる植物は、葉菜類であり得る。葉菜類の中でも、ホウレンソウ、レタス、ミズナ、またはコマツナであることが好ましい。
【0049】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、土耕栽培されている植物に施用してもよく、水耕栽培されている植物に施用してもよい。
【0050】
(適用時期)
良好なオルピディウム病抑制効果を得ることができることから、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、対象植物がオルピディウム病に感染する前から当該対象植物に適用するように用いられることが好ましい。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を、対象植物がオルピディウム病に感染する前から当該対象植物に適用すれば、十分なオルピディウム病抑制効果が得られる。
【0051】
また、植物の生育段階で言えば、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階で、当該対象植物に適用するように用いられることが好ましい。苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階の任意の時期に本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を適用することで、地上部を収穫まで健全に維持することができる。
【0052】
なお、前記苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階のために、生長した苗を別の場所に定植してもよく、発芽から収穫まで同じ場所で生育させてもよい。「発芽から収穫まで同じ場所で生育させる」とは、発芽から収穫までの期間中に播種した場所から別の場所へと植物を植え替えることなく生育させることを意味する。
【0053】
本明細書において、「苗」とは、種子繁殖型の場合、発芽後にある程度成長させた、移植用の植物のことである。栄養繁殖型の場合は発根した植物のことである。通常栽培で育苗するとは、太陽光または人工光を用いて、適度な栄養成分以外の薬物を与えず、あるいは物理的なストレスや高温、低温、乾燥等の環境ストレスを与えずに苗を栽培することである。
【0054】
(適用期間および適用回数)
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の適用期間は、対象植物の状態を見ながら適宜調整すればよく、例えば、栽培初期だけでもよく、栽培期間のうち、間隔をあけて前記オルピディウム病抑制剤を適用し、それ以外の期間は前記オルピディウム病抑制剤を適用せずに栽培してもよい。
【0055】
オルピディウム病抑制効果を持続させる観点から、1日間以上連続して対象植物に本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を適用することが好ましく、対象植物の栽培期間中、継続的に適用し続けることがより好ましい。
【0056】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を養液に添加する場合、前記オルピディウム病抑制剤の適用期間中に、前記オルピディウム病抑制剤を養液に対し1回だけ添加してもよく、間隔をあけて複数回添加してもよい。前記オルピディウム病抑制剤を養液に対し複数回添加する場合、添加の間隔は1日間以上、50日間以下、特に5日間以上、25日間以下の範囲が好ましい。
【0057】
(製剤)
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤は、キチン質、およびその他の成分を原料として、公知の手法により製剤することができる。
【0058】
<2.植物の水耕栽培方法>
本発明の一態様に係る植物の水耕栽培方法(以下、単に「水耕栽培方法」などという。)は、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を対象植物に接触させる接触工程を含む。本発明の一態様に係る水耕栽培方法によれば、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を接触させた植物体において、オルピディウム病を抑制することができる。
【0059】
(接触工程)
接触工程は、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を対象植物に接触させる工程である。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤については、既に説明したとおりであるのでここでは繰り返さない。接触工程では、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を対象植物に接触させることにより、当該対象植物においてオルピディウム病を抑制することができる。本明細書では、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を対象植物に接触させることを、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を対象植物に適用する又は施用するということがある。
【0060】
(施用方法)
接触工程における、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の植物への施用方法としては、各種の方法を用いることができる。例えば、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を、根に接触する養液に希釈混合して供給する方法が挙げられる。
【0061】
(施用量)
接触工程における、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の植物への適用量は、特に限定されず、オルピディウム病抑制効果が得られる範囲で適宜調整することができる。オルピディウム病抑制効果を得ることができることから、接触工程では、前記オルピディウム病抑制剤を、養液中のキチン質の含有量が0.001質量%以上となるように前記養液に添加することが好ましく、養液中のキチン質の含有量が0.005質量%以上となるように前記養液に添加することがより好ましい。また、植物体の生育抑制を防ぐという観点から、前記オルピディウム病抑制剤を、養液中のキチン質の含有量が2質量%以下となるように前記養液に添加することが好ましく、養液中のキチン質の含有量が1質量%以下となるように前記養液に添加することがより好ましい。養液中のキチン質の濃度は、高速液体クロマトグラフ法によって測定することができる。
【0062】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を養液に混合して適用又は施用する場合、前記オルピディウム病抑制剤を含有する養液の調製方法は、特に限定されない。栽培に使用している既存の養液(前記オルピディウム病抑制剤を含まない養液)に、規定量の前記オルピディウム病抑制剤を添加して、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を含有する養液を調製してもよい。また、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を液肥原液に添加し、撹拌し混合して、前記オルピディウム病抑制剤と液肥原液との混合液を調製し、この混合液を、栽培に使用している既存の養液(前記オルピディウム病抑制剤を含まない養液)に添加して、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を含有する養液を調製してもよい。
【0063】
(施用時期)
接触工程の実施時期(すなわち、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の施用時期)は特に限定されないが、良好なオルピディウム病抑制効果を得ることができることから、対象植物がオルピディウム病に感染する前から実施することが好ましい。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を、対象植物がオルピディウム病に感染する前から当該対象植物に適用すれば、十分なオルピディウム病抑制効果が得られる。
【0064】
また、植物の生育段階で言えば、接触工程は、苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階で行われることが好ましい。接触工程は、苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階の開始日以降の任意の時期で行われることが好ましい。なお、生長した苗を別の場所に定植する場合は、苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階の開始日は、定植日である。接触工程の実施期間は、苗および苗より生長した植物体を収穫までさらに生育させる段階の開始日以降であれば特に限定されない。例えば、前記開始日から接触工程を開始してもよく、前記開始日の1日後から接触工程を開始してもよく、前記開始日の20日後から接触工程を開始してもよい。接触工程を実施する時期が上記期間内であることで、地上部を収穫まで健全に維持することができる。
【0065】
(施用期間および施用回数)
接触工程の施用期間(すなわち、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤の施用期間)は、対象植物の状態を見ながら適宜調整すればよく、例えば、栽培初期だけでもよく、栽培期間のうち、間隔をあけて前記オルピディウム病抑制剤を養液に含有させ、それ以外の期間は前記オルピディウム病抑制剤を含有しない養液で栽培してもよい。
【0066】
オルピディウム病抑制効果を持続させる観点から、接触工程では、1日間以上連続して対象植物に本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を施用することが好ましく、対象植物の栽培期間中、継続的に施用し続けることがより好ましい。
【0067】
本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を養液に添加する場合、接触工程の実施期間中に、前記オルピディウム病抑制剤を養液に対し1回だけ添加してもよく、間隔をあけて複数回添加してもよい。接触工程の実施期間中に前記オルピディウム病抑制剤を養液に対し複数回添加する場合、添加の間隔は1日間以上、50日間以下、特に5日間以上、25日間以下の範囲が好ましい。なお、前記オルピディウム病抑制剤を養液に添加する効果を持続させる観点から、接触工程の実施期間中は、栽培装置内で養液を循環させることが好ましい。
【0068】
(適用対象)
本発明の一態様に係る水耕栽培方法の適用対象となる植物種については、上述のオルピディウム病抑制剤の項で「適用対象」として既に説明したとおりであるのでここでは説明を繰り返さない。
【0069】
(養液成分)
本発明の一態様に係る水耕栽培方法において、植物の栽培に使用する養液の組成は、特に限定されないが、少なくとも硝酸態窒素、リン酸およびカリウムを含有することが好ましい。養液中の硝酸態窒素の含有量は、2.0me/L以上であることが好ましく、8.0me/L以上であることがより好ましい。また、20.0me/L以下であることが好ましく、18.0me/L以下であることがより好ましい。リン酸の含有量は、1.0me/L以上であることが好ましく、3.0me/L以上であることがより好ましい。また、10.0me/L以下であることが好ましく、8.0me/L以下であることがより好ましい。カリウムの含有量は、1.0me/L以上であることが好ましく、5.0me/L以上であることがより好ましい。また、14.0me/L以下であることが好ましく、12.0me/L以下であることがより好ましい。養液中の硝酸態窒素、リン酸およびカリウム含有量を上記の範囲とすることで、オルピディウム病抑制剤によるオルピディウム病抑制効果をより高めることができる。
【0070】
(栽培方式)
本発明の一態様に係る水耕栽培方法において、対象植物の栽培方法については、育苗段階において、閉鎖系の人工光型育苗方法を用いてもよく、ハウス等の太陽光利用型の育苗施設を用いてもよい。より均一な苗を栽培する観点で、閉鎖系の人工光型育苗方法が好ましい。また、培地を利用して苗を栽培する方式が好ましく、培地としては、特に限定されず、例えば、不織布、合成繊維培地、多孔質培地(セラミック、ゼオライト等)、合成樹脂発泡体(フェノール樹脂発泡体、ポリウレタン、エチレン系発泡体等)、ロックウール等が使用できる。ヤシガラやピートモス、バーミキュライト、パーライト等を主体とする有機培地等も使用できる。なかでも、入手が容易である観点から、合成樹脂発泡体からなる発泡培地やロックウール培地が好ましい。また、本発明の一態様に係る水耕栽培方法では、養液を循環させて栽培する栽培装置で葉菜類を栽培することが好ましい。
【0071】
<3.オルピディウム病抑制方法>
本発明の一態様に係る水耕栽培方法は、オルピディウム病を抑制するために、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を用いるため、オルピディウム病抑制方法であるとも言える。すなわち、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制方法は、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を対象植物に接触させる接触工程を含む。本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制方法によれば、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を接触させた植物体において、オルピディウム病を抑制することができる。
【0072】
(接触工程)
接触工程は、本発明の一態様に係るオルピディウム病抑制剤を対象植物に接触させる工程である。「接触工程」は、前述の植物の水耕栽培方法の項で「接触工程」として既に説明したとおりであるのでここでは繰り返さない。
【0073】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0074】
〔試験例1〕
<植物種>
ホウレンソウ(「三菱ケミカル アクア・ソリューションズ株式会社製 NPL24号」)を用いた。
【0075】
<養液>
(養液1)
養液1は、通常の薄膜水耕(NFT)に用いられる養液であり、組成は各溶液の体積比で以下の通りである。
ハイテンポAr(住友化学株式会社製):ハイテンポCu(住友化学株式会社製):硝酸カリウム(全農グリーンリソース株式会社製)=3:9:10
【0076】
(養液2)
ミズアブ(学名Hermetia illucens)のさなぎ殻のみを、乳鉢を用いて粉砕することで粉末(オルピディウム病抑制剤)にした。この粉末を、50Lの養液1に50g添加し、養液2を調製した。
【0077】
(養液3)
ミズアブの成虫の死骸150gを、クエン酸(3質量%)水560mL加え、90℃以上に加温後、ハンドブレンダー(製品名:MQ-120、ブラン社製)で5分間粉砕し、その後、ボールミル(製品名RELD-1UT、株式会社タナカテック製)で室温で3時間粉砕した。得られた懸濁液(オルピディウム病抑制剤)の内の100mLを50Lの養液1に添加し、養液3を調製した。
【0078】
(養液4)
ミズアブの成虫の死骸150gを、水560mL加え、90℃以上に加温後、ハンドブレンダー(製品名:MQ-120、ブラン社製)で5分間粉砕し、室温に冷却後、放線菌を含む菌体肥料10gに水50gを加えて振盪した溶液を20g添加し、室温(25~30℃)に5日間静置した。得られた懸濁液(オルピディウム病抑制剤)の内の100mLを50Lの養液1に添加し、養液4を調製した。
【0079】
(養液5)
「速効キチン肥料 LMC3000」(焼津水産化学工業株式会社製、カニ由来キチン)100mLを50Lの養液1に添加し、養液5を調製した。養液5中のキチンの含有量は0.006質量%であった。
【0080】
<キチン添加試験>
(1.播種~発芽処理)
培地は、三菱ケミカル アクア・ソリューションズ株式会社製「バイドン」を用いて、ホウレンソウ種子を育苗トレーの1穴に5粒ずつ播種した。水道水を上方からジョウロで散水して初期潅水した。育苗トレーごとシルバーシートで梱包し、遮光して湿度を保ちつつ、閉鎖型構造物(三菱ケミカル アクア・ソリューションズ株式会社製「苗テラス」(登録商標))内で3日間静置した。閉鎖型構造物は、内法寸法:奥行450cm、横幅315cm、高さ240cmであり、閉鎖型構造物の内部には、4段3棚の潅水トレーを有した多段棚式栽培装置が2基設置されている。また、この閉鎖型多段棚式栽培装置には、空調装置、潅水装置が設けられている。閉鎖型構造物内の温度は明期22℃、暗期19℃、CO2濃度は、明期、暗期いずれにおいても1000ppmとした。
【0081】
(2.育苗)
播種後3日目に、シルバーシートを外し、苗を栽培した。閉鎖型構造物内の明期の平均湿度は40~60%、暗期は70~90%とした。照明の照射は一日あたり12時間(明期12時間、暗期12時間)として、明期は温度22℃、暗期は19℃で栽培を行った。育苗期間中は、養液潅水を、1日1回、10分間で設置した。
【0082】
(3.定植およびキチン添加)
播種後11日目に、本圃ハウスのナッパーランド(登録商標)(三菱ケミカル アクア・ソリューションズ株式会社製)に苗を定植し、薄膜水耕(NFT)を行なった。各試験区の栽培ベッドには、表1に示す養液を流した。
【0083】
(4.オルピディウムの感染)
定植後3日目に、対照区Aを除く試験区の栽培ベッドに、それぞれ、オルピディウム(Olpidium virulentus)に感染している植物体(ホウレンソウ)を移植して、オルピディウムに感染させた。具体的には、1つの試験区当たり266株(45穴×4パネル+43穴×2パネル)栽培している内の2株を抜いて、代わりに感染株2株を栽培ベッドの上流側に移植した。オルピディウム(Olpidium virulentus)は、農場で発生し、Olpidium virulentusであることを同定済みの菌を、ホウレンソウに感染させることで継代培養して維持しているものを用いた。
【0084】
(5.生育調査)
オルピディウムの感染後18日目(定植後21日目)に、1つの試験区当たり43株分(1パネル分)の根部を集めて外観を観察した。
【0085】
【0086】
結果を
図1に示す。
図1は、オルピディウムの感染後18日目の各試験区の代表的な特徴を示す根部外観を表す図である。
【0087】
図1に示すように、対照区Bでは、根部の黒変が認められ、オルピディウム根腐病の特徴的な病徴を示した。これに対してキチン処理区1-2~1-4では、対照区Bと比較して、オルピディウム根腐病による根部の黒変を抑制する効果が認められた。処理区1-1は、ボールミル処理や放線菌によるキチン質の分解があまり進んでいなかったと考えられ、根部の黒変を抑制する効果が小さいと推察された。また、全てのキチン処理区で、対照区Bと比較して、地上部にオルピディウム根腐病に付随する症状(例えば、葉の萎れ、葉の奇形、白斑、まだら、生育遅延など)が出にくくなった。
【0088】
〔試験例2〕
<植物種>
ホウレンソウ(「三菱ケミカル アクア・ソリューションズ株式会社製 NPL8号」)を用いた。
【0089】
<キチン添加試験>
(1.播種~発芽処理)
培地は、日本ロックウール株式会社製のロックウールカルチャーマットを用いて、ホウレンソウ種子を1穴に1粒ずつ播種した。イオン交換水を上方からジョウロで散水して初期潅水した。育苗トレーごと遮光性を有するビニル袋で梱包し、遮光して湿度を保ちつつ、25℃の室温で3日間静置した。
【0090】
(2.育苗)
播種後3日目に、ビニル袋を外し、25℃の室温で苗を栽培した。湿度は60%とした。照明の照射は一日あたり12時間(明期12時間、暗期12時間)とした。育苗期間中は、養液潅水を、2日に1回、10分間過剰量の養液に浸漬することで行った。
【0091】
(3.定植およびキチン添加)
播種後11日目に、水耕栽培装置(ホームハイポニカKaren、協和株式会社製)に苗を定植した。25℃の室温で、照明の照射は一日あたり12時間(明期12時間、暗期12時間)として、明期、暗期ともに25℃で栽培を行った。養液は12Lを循環させた。栽培期間中に養液が減少した分は、都度補充した。
【0092】
試験例2では、定植後23日目に、1.2gのキチン試薬(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品コード039-25772、結晶性粉末~粉末)をキチン処理区2-1の栽培装置に添加した。養液中のキチンの含有量は0.01質量%であった。
【0093】
(4.オルピディウムの感染)
定植後27日目に、対照区Aを除く試験区の栽培装置に、それぞれ、オルピディウム(Olpidium virulentus)を感染させた。具体的には、オルピディウムの継代のために感染植物体(ホウレンソウ)を栽培している別の水耕栽培装置から、養液を50mL採取して装置中の養液に添加した。なお、オルピディウム(Olpidium virulentus)は、感染圃場より入手した株を、実験室内にてホウレンソウに感染させることで継代培養して維持しているものを用いた。
【0094】
(5.生育調査)
オルピディウムの感染後23日目(定植後50日目)に、1つの試験区当たり10株分(1パネル分)の根部を集めて外観を観察した。
【0095】
【0096】
図2に結果を示す。
図2は、オルピディウムの感染後23日目の各試験区の根部外観を示す図である。
図2に示すように、試験例2においても、試験例1と同様に、キチン処理区2-1では、対照区Bと比較して、オルピディウム根腐病による根部の黒変を抑制する効果が認められた。試験例2で使用したキチンは、市販のキチン試薬であり、特に低分子量化されているキチンではない。試験例2の結果から、低分子量化されていないキチンにも、オルピディウム根腐病を抑制する効果があることが示された。
【0097】
以上の結果から、キチン質を有効成分として含むオルピディウム病抑制剤は、オルピディウム病を抑制する効果があることが示された。