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  • 特開-難聴の改善及び/又は予防用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146502
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】難聴の改善及び/又は予防用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20241004BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20241004BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241004BHJP
   A61K 36/744 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
A61K31/202
A61P27/16
A23L33/105
A61K36/744
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059452
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】上谷 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】森 恵理
(72)【発明者】
【氏名】清水 崇
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE05
4B018MD10
4B018ME06
4B018ME14
4B018MF01
4C088AB14
4C088AC04
4C088BA11
4C088CA03
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA34
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA05
4C206DA35
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA34
(57)【要約】
【課題】難聴の改善及び/又は予防効果を有する化合物を有効成分として含有する難聴の改善及び/又は予防用組成物を提供する。
【解決手段】クロセチン及び/又はその塩を有効成分として含有する、難聴の改善及び/又は予防用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロセチン及び/又はその塩を有効成分として含有する、難聴の改善及び/又は予防用組成物。
【請求項2】
前記難聴の改善及び/又は予防が、難聴の予防である、請求項1記載の難聴の改善及び/又は予防用組成物。
【請求項3】
前記有効成分の1日あたりの含有量が、0.1~500mg/dayである、請求項1又は2記載の難聴の改善及び/又は予防用組成物。
【請求項4】
騒音を暴露される前に投与される、請求項1又は2記載の難聴の改善及び/又は予防用組成物。
【請求項5】
前記組成物が食品組成物である、請求項1又は2記載の改善及び/又は予防用組成物。
【請求項6】
前記難聴が感音難聴である、請求項1又は2記載の改善及び/又は予防用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難聴の改善及び/又は予防用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
難聴には大きく3種類ある。外耳、中耳に原因のある「伝音難聴」、内耳、蝸牛神経、脳に原因のある「感音難聴」、伝音難聴と感音難聴の2つが合併した「混合性難聴」である。
【0003】
「伝音難聴」は、外耳や中耳の障害で起こる。外耳道炎、急性中耳炎などでは一時的である場合も多いが、滲出性中耳炎、鼓膜穿孔(慢性中耳炎)や耳硬化症などでは手術で改善することもある。治療が難しい場合でも補聴器を装用すること、問題なく聞こえることも多い。
【0004】
「感音難聴」は内耳の有毛細胞や聴神経に障害が起こることによる聴力の低下をいい、加齢性難聴や騒音性難聴が該当する。加齢や、強大音に長期間曝されることで、聴覚の受容器である蝸牛内の有毛細胞や聴神経が損傷を受け、死滅することが聴力の低下を引き起こすが、これらの細胞は増殖性がなく、一度死滅すると再生しない。そのため、進行し、慢性化した聴力低下は不可逆的で回復が難しいと考えられている。
【0005】
このような感音難聴の中でも加齢性難聴の大半は加齢に伴いゆっくりと進行し、本人が気づかないうちに聞こえが悪くなっている。そのような慢性化した感音難聴に対しては、有効な薬剤がないのが実情である。加齢性難聴は、加齢によって蝸牛の中にある有毛細胞がダメージを受け、その数が減少したり、聴毛が抜け落ちたりすることによって生じると考えられている。
【0006】
一方、近年、演劇や演奏会等の開催が増加する傾向にあり、また、携帯型音響機器が広く普及していることから、幅広い年齢層の人々が大きな音にさらされる機会が増えている。このような大きな音(大音量)は、非特許文献1に示されるように、騒音性難聴の発症を促進することが指摘されている。騒音性難聴は、大音量にさらされて強い音振動(振動エネルギー)が蝸牛に伝わることにより、有毛細胞が障害を起こして電気エネルギーに変換されにくくなるため、難聴になると考えられている。
【0007】
「混合性難聴」は、伝音難聴と感音難聴の2つが合併した難聴のことである。
【0008】
しかし、これらのような難聴に対しては、研究は進んでいるものの、確立された予防法及び/又は治療法が存在しないのが実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】耳鼻咽喉科臨床、1979年、72巻、3号、p.448-454.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明ではこのような背景の下において、難聴の改善及び/又は予防効果を有する化合物を含有する難聴の改善及び/又は予防用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
しかるに本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、カロテノイド色素の一種であるクロセチンが難聴の改善及び/又は予防効果を有することを突き止め、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、クロセチンには、従来、血流促進効果、抗炎症効果、抗酸化作効果があることが知られているが、難聴改善及び/又は予防効果、耳における血流促進効果等は報告されていなかった。
本発明は、クロセチンに、難聴の改善及び/又は予防という未知の属性があることを発見してなされたものである。
【0013】
このため、本発明は、以下の[1]~[6]の態様を有する。
[1]クロセチン及び/又はその塩を有効成分として含有する、難聴の改善及び/又は予防用組成物。
[2]前記難聴の改善及び/又は予防が、難聴の予防である、[1]記載の難聴の改善及び/又は予防用組成物。
[3]前記有効成分の1日あたりの含有量が、0.1~500mg/dayである、[1]又は[2]記載の難聴の改善及び/又は予防用組成物。
[4]騒音を暴露される前に投与される、[1]~[3]のいずれかに記載の難聴の改善及び/又は予防用組成物。
[5]前記組成物が食品組成物である、[1]~[4]のいずれかに記載の改善及び/又は予防用組成物。
[6]前記難聴が感音難聴である、[1]~[5]のいずれかに記載の改善及び/又は予防用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、難聴の改善及び/又は予防用組成物を提供することができる。本発明で用いられるクロセチンは、難聴の発症を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例及び比較例の実験スケジュールを説明する図である。
図2】実施例及び比較例の聴覚閾値をABRにより測定し、聴覚閾値変化を比較した結果(Day7)を示すグラフ図である。
図3】実施例及び比較例の聴覚閾値をABRにより測定し、聴覚閾値変化を比較した結果(Day14)を示すグラフ図である。
図4】4Aは実施例及び比較例のBDNFの発現量を相対定量した結果を示すグラフ図であり、4Bは実施例及び比較例のNRF2の発現量を相対定量した結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態の例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。なお、本発明においては、BDNFやNRF2といった遺伝子の表記については、マウス、ヒトともに大文字で記載する。
【0017】
本発明において、「主成分」とは、対象物中の最も多い成分をさし、通常、対象物中の50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、殊に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0018】
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」又は「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X及び/又はY(X,Yは任意の構成)」とは、X及びYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、X及びY、の3通りを意味するものである。
【0019】
本発明の一実施形態にかかる難聴の改善及び/又は予防用組成物(以下、「改善及び/又は予防用組成物」とする場合がある)は、クロセチン及び/又はその塩を有効成分として含有するものである。
【0020】
本発明の対象とする難聴は、伝音難聴、内耳、蝸牛神経、脳に原因のある感音難聴、伝音難聴と感音難聴の2つが合併した混合性難聴があり、限定はされないが、感音難聴、または混合性難聴が好ましく、感音難聴がより好ましい。
【0021】
感音難聴には、騒音性難聴と加齢性難聴があり、限定はされないが、騒音性難聴が好ましい。大音量に起因する難聴には、極めて大きな音によって短時間で起こる急性難聴(音響外傷又は急性音響性難聴)と長期間騒音にさらされたことによって起こる慢性難聴があるが、本明細書における「騒音性難聴」は急性難聴及び慢性難聴の両者を含む。
【0022】
そして、本発明における「改善及び/又は予防」には、予防と治療の両者が含まれ、より好ましくは予防である。
さらに、本発明における「有効成分」とは、難聴の改善及び/又は予防効果を発揮する成分を意味する。
【0023】
<クロセチン>
本発明で用いられるクロセチンは、下記の式(1)で表される化合物である。クロセチンは、通常、カロテノイド系の黄色色素であるクロシン(クロセチンのジゲンチオビオースエステル)を加水分解することにより得られる。
上記クロシンは、アカネ科クチナシ(Gardenia augusta MERRIL var.grandiflora HORT.,Gardenia jasminoides ELLIS)の果実、サフランの柱頭の乾燥物等に含まれており、工業的原料としてはクチナシの果実が好ましく用いられる。
【0024】
【化1】
【0025】
<クロセチンの塩>
本発明において、クロセチンの塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、ピリジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン等の医薬的に許容される有機アミノ化合物の塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0026】
本発明に用いるクロセチン及び/又はクロセチンの塩は、市販のクロセチン製剤を用いることもできる。このような市販品としては、例えば、クロビットP(クロセチン含量75wt%、理研ビタミン社製)、クロビット2.5WD(クロセチン含量2.5wt%、理研ビタミン社製)等が挙げられる。
【0027】
<その他の成分>
本発明は、上記成分の他にも本発明の効果を損なわない範囲で、種々の添加剤を含有してもよい。このような添加剤の具体例としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、糖類、糖アルコール・多価アルコール類、高甘味度甘味料、油脂、乳化剤、増粘剤、酸味料、果汁類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0028】
<製造方法>
本発明の改善及び/又は予防用組成物は、上記クロセチン及び/又はクロセチンの塩をそのまま、又は必要に応じてその他の成分、さらに食品素材、食品原料等を適宜混合し、常法に従い例えば液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、マイクロカプセル、ソフトカプセル又はハードカプセル等の製剤及び飲食品として製造される。
また、クロセチン及び/又はクロセチンの塩を主成分とする油脂組成物、O/W型乳化液、W/O型乳化液又は可溶化液等の改善及び/又は予防用組成物を常法に従い製造し、この改善及び/又は予防用組成物を飲食品に添加してもよい。
【0029】
このようにして、難聴を改善及び/又は予防することのできる、改善及び/又は予防用組成物を得ることができる。得られた改善及び/又は予防用組成物は、クロセチン及び/又はその塩を含有しているため、難聴の改善及び/又は予防に有用な医薬組成物又は食品組成物である。
【0030】
本発明の改善及び/又は予防用組成物の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、錠剤(口腔内崩壊錠、チュアブル錠、トローチ錠等を含む)、顆粒剤、散剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、トローチ剤、ゼリー剤又は液剤(懸濁剤、乳剤、シロップ剤等を含む)等の内服剤が挙げられる。
なかでも、取り扱いやすさの観点、本発明による効果をより高める観点から、錠剤、顆粒剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤であることがより好ましい。
【0031】
本発明の改善及び/又は予防用組成物は、例えば、医薬品、医薬部外品、飲食品(飲料、食品)として用いることができる。
また、本発明の改善及び/又は予防用組成物は、例えば、医薬製剤、医薬部外品製剤、特定保健用食品、栄養機能食品、老人用食品、特別用途食品、機能性表示食品、健康補助食品(サプリメント)、食品用製剤(例、製菓錠剤)として用いることもできる。
さらに、本発明の改善及び/又は予防用組成物は、例えば、動物用医薬品、飼料添加物として用いることもできる。これらの場合、クロセチン及び/又はその塩は有効成分や機能性関与成分として用いることができる。
【0032】
本発明の改善及び/又は予防用組成物が、食品組成物又は食品として使用される場合、当該食品は一般食品にクロセチン及び/又はその塩、及び必要に応じてその他の成分を含有したものであってもよい。
このような食品としては、例えば、クッキー、ビスケット、スナック菓子、ゼリー、グミ、チョコレート、ガム、飴、チーズ等の固体食品;栄養ドリンク、ジュース、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料等の液体食品が挙げられる。
【0033】
上記各種製剤の場合、クロセチン及び/又はその塩の含有量は、その目的・用途により異なり一様ではないが、製剤の全質量に対し、純度100質量%クロセチンに換算して、0.0001~50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001~20質量%、さらに好ましくは約0.01~10質量%である。0.1~30質量%、0.5~20質量%、1~10質量%などであってもよい。
【0034】
また、上記飲食品の場合、クロセチン及び/又はその塩の含有量は、飲食品の全質量に対し、純度100質量%のクロセチンに換算して、0.00003~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~5質量%である。0.001~20質量%、0.01~10質量%などであってもよい。
【0035】
本発明の改善及び/又は予防用組成物は、難聴の改善及び/又は予防を必要とする対象(例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、スナネズミ、ハムスター、フェレット等)に好適に使用することができる。
本発明による効果をより一層高める観点から、対象としてはヒト、マウスが好ましい。
【0036】
本発明の改善及び/又は予防用組成物を経口により摂取する場合、限定はされないが、クロセチン及び/又はその塩の成人1日当たりの用量は、純度100質量%のクロセチンに換算して、0.1~500mgであることが好ましく、より好ましくは1~200mg、さらに好ましくは2~50mg、さらにより好ましくは3~10mgの範囲である。すなわち、5mg、7.5mg、10mg、20mgであってもよい。この用量を、1回で摂取してもよいし、数回に分けて摂取してもよい。ただし、実際の用量は、目的や摂取者の状況(性別、年齢、健康状態等)を考慮して決定することが望ましい。
【0037】
本発明の改善及び/又は予防用組成物は、難聴の発症を極力抑制する観点から、騒音に曝露される前に投与されることが好ましい。
【実施例0038】
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
まず、難聴に対する有効性を示すため、クロセチンを難聴となる動物モデル(騒音性難聴モデル)に投与し、難聴に対する改善及び/又は予防効果を、ABR(auditory brainstem response:聴性脳幹反応)検査の音圧閾値(dB SPL)を指標として測定した。
【0040】
すなわち、マウスを大音量に暴露して、後記のとおり、実施例及び比較例の難聴となる動物モデルを作製し、この動物モデルに対し「ABR検査」及び「内耳組織の遺伝子の相対的発現比」の算出を行い、難聴に対する予防及び/又は改善効果を評価した。
【0041】
[実施例1]
実施例1として、8週齢のマウス(C57BL6/J)に対し、マウスの体重に比例したクロセチン(100mg/kg)を15日間、毎日経口投与し、投与8日(初回投与日を投与1日とする)の投与後に、110dBの騒音(中心周波数帯8kHzのオクターブバンドノイズ)に2時間暴露して、難聴モデルを作製した。
【0042】
[比較例1]
対照として、クロセチンを投与していないマウスにも、実施例1と同様にして騒音に暴露して、難聴モデルを作製した。
【0043】
<ABR検査>
図1に示すように、クロセチン投与開始前、投与開始15日後(難聴発症から7日後)、投与終了7日後(難聴発症から7日後)の合計3回行った。
また、測定する音域を16kHz及び24kHzとし、それぞれ8例について聴力測定を行い、その平均を採用した。得られた結果を図2及び図3に示す。
【0044】
図2及び図3に示された結果から、比較例1に示されるように、投与前(Pre)と比較して騒音負荷後7日(Day7)及び騒音負荷後14日(Day14)に両音域で有意な閾値上昇がみられたことから、難聴モデルが確立したことが示された。
また、図2及び図3に示された結果から、実施例1は、比較例1に比べて難聴の発症を抑制することが確認された。
【0045】
<遺伝子の相対的発現比>
ついで、難聴の予防及び/又は改善効果のメカニズムを解明するため、ABR検査終了後、RNA抽出用としてマウスから左右の蝸牛を摘出し、BDNF(brainderived neurotrophic factor)及びNRF2(NF-E2-related factor-2)のmRNA遺伝子発現量を測定した。
なお、BDNFは難聴に関与があるとされている神経栄養因子であり、NRF2は酸化ストレス応答を担う因子である。
【0046】
実施例1及び比較例1について、騒音負荷後14日のABR検査終了後、イソフルラン麻酔下でヘパリン処理した注射筒及び注射針を用いて腹大動脈から放血して安楽死させてから、RNA抽出用として左右の蝸牛を摘出し、直ちに液体窒素で凍結させ、-80℃下で保存した。
【0047】
-80℃で凍結保存した蝸牛を室温で半解凍し、RLT350μLをそれぞれ添加し、ホモジナイザーで蝸牛の組織を破砕して、蝸牛組織のRNA発現解析試料を作製した。
【0048】
得られたRNA発現解析試料を、RNeasy Micro Kit(QIAGEN社)を用いて蝸牛組織のRNAを精製し、精製したRNAを濃縮するため、RNeasy MinElute Cleanup Kit(QIAGEN社)を用いてさらに精製し、精製RNAを得た。
【0049】
得られた精製RNAを、ReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master Mix(TOYOBO社)を用いてcDNAを合成し、このcDNAを鋳型として、Taqman(登録商標) Fast Advanced Master Mix(applide biosystems社)のプロトコールに従い定量リアルタイムPCRを行い、GAPDH(Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)遺伝子発現を内部標準として、BDNF及びNRF2の発現量を相対定量した。その結果を図4A及び図4Bに示す。
【0050】
図4A及び図4Bに示された結果から、クロセチンは、蝸牛組織において難聴に関与があるとされている神経栄養因子のBDNFと、酸化ストレス応答を担うNRF2の発現を増強する傾向を示したことがわかる。
すなわち、クロセチンは、蝸牛組織のBDNF及びNRF2の発現を増やすことによって聴覚機能を改善及び/又は予防する可能性が示唆された。
なお、マウスとヒトとは、遺伝子のほとんどが共通し、音を認識するメカニズムも同様であることから、ヒトにおいてもマウスと同様の傾向がみられると期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、難聴の改善及び/又は予防用組成物として利用できる。
図1
図2
図3
図4