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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146503
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】粉粒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/16 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08J3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059453
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】芦田 知亮
(72)【発明者】
【氏名】石原 守雄
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 彩加
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA32
4F070AB08
4F070DA39
4F070DB01
4F070DC07
(57)【要約】
【課題】連続して実施可能な、粉粒体の製造方法を提供する。
【解決手段】重合体微粒子を含むラテックスを第1の噴霧器から噴霧および/または滴下する噴霧工程において、第1の噴霧器からのラテックスの噴霧および/または滴下を中断し、第1の噴霧器から洗浄水を0.05MPa~50.00MPaの圧力で噴霧し、第1の噴霧器からラテックスの噴霧および/または滴下を再開する、工程を実施する、粉粒体の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体微粒子の粉粒体の製造方法であって、
前記重合体微粒子を含むラテックスを第1の噴霧器から噴霧および/または滴下する噴霧工程を有し、
前記噴霧工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施する、粉粒体の製造方法:
ここで、前記噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、前記第1の噴霧器からの前記ラテックスの噴霧および/または滴下を中断し、前記第1の噴霧器から洗浄水を0.05MPa~50.00MPaの圧力で噴霧し、前記第1の噴霧器から前記ラテックスの噴霧および/または滴下を再開する、工程である。
【請求項2】
前記第1の噴霧器はノズルを有し、当該ノズルのオリフィス径は、2.3mm~6.0mmである、請求項1に記載の粉粒体の製造方法。
【請求項3】
前記噴霧工程では、当該噴霧工程の開始から50分間経過するまでの間に、前記噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施する、請求項1に記載の粉粒体の製造方法。
【請求項4】
前記噴霧工程において、前記洗浄水の噴霧時間は、10秒以上である、請求項1に記載の粉粒体の製造方法。
【請求項5】
前記重合体微粒子は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有する、請求項1に記載の粉粒体の製造方法。
【請求項6】
前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含む、請求項5に記載の粉粒体の製造方法。
【請求項7】
前記グラフト部は、芳香族ビニル単位、ビニルシアン単位、および(メタ)アクリレート単位からなる群より選択される1種以上の構成単位を含む、請求項5に記載の粉粒体の製造方法。
【請求項8】
前記噴霧工程では、さらに、第2の噴霧器から凝固剤を含む凝固剤溶液を噴霧および/または滴下して、気相中にて前記ラテックスの液滴と前記凝固剤溶液の液滴とを接触させる、請求項1~7の何れか1項に記載の粉粒体の製造方法。
【請求項9】
前記噴霧工程では、前記凝固剤溶液を水平方向に噴霧する、請求項8に記載の粉粒体の製造方法。
【請求項10】
前記噴霧工程では、噴霧により生じた前記ラテックスの液滴中から溶媒を蒸発させることにより、前記重合体微粒子の凝集体を生成させる、請求項1~7の何れか1項に記載の粉粒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉粒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体微粒子の粉粒体は、耐衝撃性改質剤等の樹脂改質剤等の用途に使用されている。このような粉粒体を製造する方法として、例えば特許文献1の技術が知られている。
【0003】
また、電子写真用のトナー微粒子などの微粒子製造装置に関する技術として、特許文献2の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-279857号公報
【特許文献2】特開2015-027657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、連続実施の観点で十分なものではなく、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明の一実施形態は、前記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、連続して実施可能な、粉粒体の新規の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕重合体微粒子の粉粒体の製造方法であって、前記重合体微粒子を含むラテックスを第1の噴霧器から噴霧および/または滴下する噴霧工程を有し、前記噴霧工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施する、粉粒体の製造方法:ここで、前記噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、前記第1の噴霧器からの前記ラテックスの噴霧および/または滴下を中断し、前記第1の噴霧器から洗浄水を0.05MPa~50.00MPaの圧力で噴霧し、前記第1の噴霧器から前記ラテックスの噴霧および/または滴下を再開する、工程である。
〔2〕前記第1の噴霧器はノズルを有し、当該ノズルのオリフィス径は、2.3mm~6.0mmである、〔1〕に記載の粉粒体の製造方法。
〔3〕前記噴霧工程では、当該噴霧工程の開始から50分間経過するまでの間に、前記噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施する、〔1〕または〔2〕に記載の粉粒体の製造方法。
〔4〕前記噴霧工程において、前記洗浄水の噴霧時間は、10秒以上である、〔1〕~〔3〕の何れか1つに記載の粉粒体の製造方法。
〔5〕前記重合体微粒子は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有する、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載の粉粒体の製造方法。
〔6〕前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含む、〔5〕に記載の粉粒体の製造方法。
〔7〕前記グラフト部は、芳香族ビニル単位、ビニルシアン単位、および(メタ)アクリレート単位からなる群より選択される1種以上の構成単位を含む、〔5〕または〔6〕に記載の粉粒体の製造方法。
〔8〕前記噴霧工程では、さらに、第2の噴霧器から凝固剤を含む凝固剤溶液を噴霧および/または滴下して、気相中にて前記ラテックスの液滴と前記凝固剤溶液の液滴とを接触させる、〔1〕~〔7〕の何れか1つに記載の粉粒体の製造方法。
〔9〕前記噴霧工程では、前記凝固剤溶液を水平方向に噴霧する、〔8〕に記載の粉粒体の製造方法。
〔10〕前記噴霧工程では、噴霧により生じた前記ラテックスの液滴中から溶媒を蒸発させることにより、前記重合体微粒子の凝集体を生成させる、〔1〕~〔7〕の何れか1つに記載の粉粒体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、連続して実施可能な、粉粒体の新規の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0011】
本明細書において、重合体、共重合体または樹脂に含まれる、「X単量体に由来する構成単位」を「X単位」と称する場合がある。
【0012】
〔2.粉粒体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る粉粒体の製造方法は、重合体微粒子の粉粒体の製造方法であって、前記重合体微粒子を含むラテックスを第1の噴霧器から噴霧および/または滴下する噴霧工程を有し、前記噴霧工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施する、粉粒体の製造方法:ここで、前記噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、前記第1の噴霧器からの前記ラテックスの噴霧および/または滴下を中断し、前記第1の噴霧器から洗浄水を0.05MPa~50.00MPaの圧力で噴霧し、前記第1の噴霧器から前記ラテックスの噴霧および/または滴下を再開する、工程である。
【0013】
本明細書において、「重合体微粒子を含むラテックス」または「重合体微粒子のラテックス」を、単に「ラテックス」と称する場合があり、「重合体微粒子の凝集体」を、単に「凝集体」と称する場合があり、「重合体微粒子の粉粒体」を、「粉粒体」と称する場合がある。本明細書において、「本発明の一実施形態に係る粉粒体の製造方法」を、「本製造方法」と称する場合がある。
【0014】
本製造方法は、上述した構成を有するため、連続して実施可能である、という利点を有する。
【0015】
従来の粉粒体の製造方法には、連続して実施不可能であるという課題に加え、連続実施の経過に伴い、得られる粉粒体の粒度分布が広くなる傾向があるという知見を、本発明者は独自に得た。この理由は定かではないが、ノズル周辺にスケールが次第に付着するため、と考えられる。粉粒体の微粉量が少ないほど粉立ちが少なく、作業性が良い点や梱包時の充填率が高いため、輸送費が安くなるという観点から、粉粒体の粒度分布幅は、狭いほど好ましい。本発明者は、上述した構成を有する本製造方法であれば、驚くべきことに、狭い粒度分布を有する粉粒体を得ることができる、という新規知見を独自に得た。すなわち、本製造方法は、上述した構成を有するため、粒度分布幅が狭い粉粒体を得ることができる、という利点も有する。
【0016】
粉粒体の製造方法に関して、重合体微粒子の凝集体を得る観点から、以下の3つの方法が知られている:
(1)重合体微粒子を含むラテックスと、凝固剤溶液とを混合し、混合液中で重合体微粒子を凝固させる方法;
(2)重合体微粒子を含むラテックスと、凝固剤溶液とを、それぞれ、気相中に噴霧し、気相中でラテックスの液滴と、凝固剤溶液の液滴とを接触させることにより、気相中で、重合体微粒子を凝固させる方法;
(3)重合体微粒子を含むラテックスを気相中に噴霧し、ラテックス中の溶媒を蒸発させることにより、気相中で、重合体微粒子を凝固させる方法。
【0017】
前記(2)および(3)の方法では、重合体微粒子を含むラテックスを噴霧する。本発明の一実施形態は、上述した(2)および(3)の方法において、好適に利用できる。
【0018】
本発明の好適な一実施形態では、粉粒体の製造方法は、以下の構成(a)または(b)をさらに有し得る;
(a)前記噴霧工程では、さらに、第2の噴霧器から凝固剤を含む凝固剤溶液を噴霧および/または滴下して、気相中にて前記ラテックスの液滴と前記凝固剤溶液の液滴とを接触させる;
(b)前記噴霧工程では、噴霧により生じた前記ラテックスの液滴中から溶媒を蒸発させることにより、前記重合体微粒子の凝集体を生成させる。
【0019】
前記(a)の構成を有する製造方法を「第一の製造方法」と称する場合がある。すなわち、本発明の一実施形態に係る第一の製造方法は、以下の構成を有し得る:
重合体微粒子の粉粒体の製造方法であって、
前記重合体微粒子を含むラテックスを第1の噴霧器から噴霧および/または滴下する噴霧工程を有し、
前記噴霧工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施し、
前記噴霧工程では、さらに、第2の噴霧器から凝固剤を含む凝固剤溶液を噴霧および/または滴下して、気相中にて前記ラテックスの液滴と前記凝固剤溶液の液滴とを接触させる、粉粒体の製造方法:
ここで、前記噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、前記第1の噴霧器からの前記ラテックスの噴霧および/または滴下を中断し、前記第1の噴霧器から洗浄水を0.05MPa~50.00MPaの圧力で噴霧し、前記第1の噴霧器から前記ラテックスの噴霧および/または滴下を再開する、工程である。
【0020】
前記(b)の構成を有する製造方法を「第二の製造方法」と称する場合がある。すなわち、本発明の一実施形態に係る第二の製造方法は、以下の構成を有し得る:
重合体微粒子の粉粒体の製造方法であって、
前記重合体微粒子を含むラテックスを第1の噴霧器から噴霧および/または滴下する噴霧工程を有し、
前記噴霧工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施し、
前記噴霧工程では、噴霧により生じた前記ラテックスの液滴中から溶媒を蒸発させることにより、前記重合体微粒子の凝集体を生成させる、粉粒体の製造方法:
ここで、前記噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、前記第1の噴霧器からの前記ラテックスの噴霧および/または滴下を中断し、前記第1の噴霧器から洗浄水を0.05MPa~50.00MPaの圧力で噴霧し、前記第1の噴霧器から前記ラテックスの噴霧および/または滴下を再開する、工程である。
【0021】
本明細書において、「本発明の一実施形態に係る製造方法」、換言すれば「本製造方法」とは、「第一の製造方法」および「第二の製造方法」の両方を包含する総称ともいえる。
【0022】
以下、本製造方法において使用する原料(成分)について詳説した後、本製造方法の各工程について説明する。
【0023】
(2-1.ラテックス)
本明細書において「ラテックス」とは、溶媒および重合体微粒子を含み、重合体微粒子が溶媒中で分散して存在する溶液を意図する。ラテックスの溶媒としては特に限定されないが、例えば水が挙げられる。溶媒が水であるラテックスは、「水性ラテックス」と称される場合もある。ラテックスの溶媒中、重合体微粒子は、1次粒子の状態で分散していることが好ましい。
【0024】
ラテックスにおける重合体微粒子の濃度(量)は、特に限定されないが、ラテックス100重量%中、10重量%~55重量%であることが好ましく、20重量%~50重量%であることがより好ましく、30重量%~50重量%であることがさらに好ましく、30重量%~40重量%であることが特に好ましい。ラテックスおける重合体微粒子の濃度が上記の範囲内である場合、得られる凝集体は、より良好な嵩比重を有する粉粒体を提供し得る。なお、ラテックスのおける重合体微粒子の濃度は、重合体微粒子の製造過程において使用する溶媒(例えば水)の量、および使用する単量体の量などを適宜変更することにより、調節することができる。
【0025】
ラテックスにおける重合体微粒子の濃度は、例えば、以下の方法により算出できる:ラテックス0.5gを120℃の熱風対流型乾燥機に3時間入れて水分を蒸発させ、乾燥後の残留物(固形分)の重量W(g)を測定し、得られた値(W(g))を乾燥前のラテックスの重量0.5gで除し、得られた値に100を乗じる。かかる操作により、「ラテックス中の固形分の濃度」を算出できる。ラテックスを乾燥した後の残留物、すなわち固形分は、重合体微粒子を主として含むが、重合体微粒子以外の成分も含み得る。一方、ラテックスにおいて、重合体微粒子以外で固形分となり得る成分の量は極微量である。そのため、上述の方法で算出される「ラテックス中の固形分の濃度」を、「ラテックス中の重合体微粒子の濃度」と見做すことができる。
【0026】
重合体微粒子を含むラテックスは、公知の方法、例えば、重合体微粒子の乳化重合法、あるいは、溶媒中に重合体微粒子および乳化剤を懸濁させる方法などにより製造することができる。重合体微粒子の乳化重合法は、後述の(2-3.重合体微粒子の製造方法)の項にて詳述される。
【0027】
(2-2.重合体微粒子)
重合体微粒子は、重合により得られる微粒子である限り、その他の態様としては特に限定されない。重合体微粒子は、(a)1種類の重合体(第一重合体)のみからなるものであっても良いし、(b)第一重合体を覆う第二重合体を有する、2種類以上の重合体からなるものであっても良い。また、これらの重合体は、グラフト部を有するものであっても良い。
【0028】
重合体微粒子は、第一重合体と、それを覆う第二重合体とに加え、さらに、一般的に用いられている他の加工助剤のような別成分を含んでいてもよい。重合体微粒子が2種類以上の重合体を含む場合、重合体微粒子は層構造(多層構造)を有していてもよく、例えば、重合体微粒子に含まれる複数の重合体の各々が各層を形成していてもよい。また、重合体微粒子が2種類以上の重合体を含む場合、各重合体(例えば、第一重合体および第二重合体のそれぞれ)は、一層構造であってもよく、多層構造であってもよく、一層構造と、多層構造の組み合わせであっても良い。重合体微粒子が第一重合体および第二重合体を含む場合、第二重合体は、第一重合体の少なくとも一部を覆うように存在していることが好ましく、換言すれば、重合体微粒子中において、第二重合体は、第一重合体の外側に存在していることが好ましい。また、この場合、第一重合体と第二重合体は互いに化学結合していないことが好ましい。
【0029】
重合体微粒子は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有することが好ましい。弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有する重合体は、「ゴム含有グラフト共重合体」と称される場合もある。すなわち、重合体微粒子は、ゴム含有グラフト共重合体であることが好ましい。重合体微粒子がゴム含有グラフト共重合体である場合、本開示の製造方法において、重合体微粒子が好適な挙動を示すことができるという利点を有する。以下、重合体微粒子がゴム含有グラフト共重合体である場合を例に挙げて、本発明の一実施形態を説明する。
【0030】
(弾性体)
当該弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。弾性体は、上述したゴム以外に、天然ゴムを含んでいてもよい。弾性体は、弾性部またはゴム粒子と言い換えることもできる。
【0031】
弾性体がジエン系ゴムを含む場合(場合A)について説明する。場合Aにおいて、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる成形体または硬化物を提供することができる。靱性および/または耐衝撃性に優れる成形体または硬化物は、耐久性に優れる成形体または硬化物ともいえる。
【0032】
前記ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。前記ジエン系単量体は、共役ジエン系単量体と言い換えることもできる。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位100重量%中、ジエン系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0~50重量%、含むものであってもよい。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0033】
ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2-クロロ-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらのジエン系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体A、とも称する。)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体、などが挙げられる。上述した、ビニル系単量体Aは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上述した、ビニル系単量体Aの中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Aにおけるジエン系ゴムにおいて、ビニル系単量体Aに由来する構成単位は任意成分である。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、ジエン系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0035】
場合Aにおいて、ジエン系ゴムとしては、1,3-ブタジエンに由来する構成単位からなるブタジエンゴム(ポリブタジエンゴムとも称する。)、または、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体であるブタジエン-スチレンゴム(ポリスチレン-ブタジエンとも称する。)が好ましく、ブタジエンゴムがより好ましい。前記構成によると、重合体微粒子がジエン系ゴムを含むことによる所望の効果がより発揮され得る。また、ブタジエン-スチレンゴムは、屈折率の調整により、得られる成形体または硬化物の透明性を高めることができる点においても、より好ましい。
【0036】
本発明の一実施形態において、弾性体は、当該弾性体100重量%中、ジエン系ゴムを30重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、60重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことが特に好ましく、100重量%含むことが最も好ましい。換言すれば、弾性体は、ジエン系ゴムのみから構成されることが最も好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態において、弾性体は、ブタジエンゴムおよび/またはブタジエン-スチレンゴムを含み、当該弾性体100重量%中、ブタジエンゴムおよびブタジエン-スチレンゴムを合計で、30重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、60重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことが特に好ましく、100重量%含むことが最も好ましい。換言すれば、弾性体は、ブタジエンゴムのみから構成されるか、ブタジエン-スチレンゴムのみから構成されるか、またはブタジエンゴムおよびブタジエン-スチレンゴムのみから構成されることが最も好ましい。
【0038】
弾性体が(メタ)アクリレート系ゴムを含む場合(場合B)について説明する。場合Bでは、多種の単量体の組合せにより、弾性体の幅広い重合体設計が可能となる。
【0039】
前記(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含む弾性体である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位100重量%中、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、および(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0~50重量%、含むものであってもよい。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、ジエン系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0040】
(メタ)アクリレート系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの(メタ)アクリレート系単量体の中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、および2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレートおよびブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0041】
場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムとしては、メチル(メタ)アクリレートゴム、エチル(メタ)アクリレートゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴムおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、メチル(メタ)アクリレートゴムおよびブチル(メタ)アクリレートゴムからなる群より選択される1種以上であることがより好ましく、ブチル(メタ)アクリレートゴムからなる群より選択される1種以上であることがさらに好ましく、ブチルアクリレートであることが特に好ましい。メチル(メタ)アクリレートゴムは、ゴム100重量%中、メチル(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含むゴムであり、エチル(メタ)アクリレートゴムは、ゴム100重量%中、エチル(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含むゴムであり、ブチル(メタ)アクリレートゴムは、ゴム100重量%中、ブチル(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含むゴムであり、ブチルアクリレートゴムは、ゴム100重量%中、ブチルアクリレート単位を50重量%以上含むゴムであり、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴムは、ゴム100重量%中、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート単位を50重量%以上含むゴムである。当該構成によると、弾性体のガラス転移温度(Tg)が低くなるためTgが低い重合体微粒子および樹脂組成物が得られる。その結果、(i)得られる樹脂組成物は、優れた靱性を有する成形体または硬化物を提供でき、かつ(ii)当該樹脂組成物の粘度をより低くすることができる。
【0042】
本発明の一実施形態において、弾性体は、当該弾性体100重量%中、(メタ)アクリレート系ゴムを60重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことが特に好ましく、100重量%含むことが最も好ましい。換言すれば、弾性体は、(メタ)アクリレート系ゴムのみから構成されることが最も好ましい。当該構成によると、色調、引張強度、耐衝撃性、分散性および相溶性などの諸物性のバランスがよい成形体または硬化物を提供できるという利点を有する。
【0043】
本発明の一実施形態において、弾性体は、当該弾性体100重量%中、ブチル(メタ)アクリレートゴムを30重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことが好ましく、60重量%以上含むことがさらに好ましく、65重量%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、色調、引張強度、耐衝撃性、分散性および相溶性などの諸物性のバランスがよい成形体または硬化物を提供できるという利点を有する。
【0044】
本発明の一実施形態において、弾性体は、当該弾性体100重量%中、(メタ)アクリレート系ゴムを30重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、60重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことが特に好ましく、100重量%含むことが最も好ましい。換言すれば、弾性体は、(メタ)アクリレート系ゴムのみから構成されることが最も好ましい。当該構成によると、色調、引張強度、耐衝撃性、分散性および相溶性などの諸物性のバランスがよい成形体または硬化物を提供できるという利点を有する。具体的に、粉粒体を配合する対象の樹脂(マトリクス樹脂)の種類によっては、弾性体がジエン系ゴム(例えば、ポリブタジエンゴム)を多く(例えば、弾性体100重量%中60重量%以上)含む場合と比較して、弾性体が当該弾性体100重量%中、(メタ)アクリレート系ゴムを60重量%以上含む場合、得られる樹脂組成物または当該樹脂組成物から得られる成形体もしくは硬化物の色調、引張強度、耐衝撃性、分散性および/または相溶性が、良好となるという利点を有する。
【0045】
本発明の一実施形態において、弾性体は、当該弾性体100重量%中、ブチル(メタ)アクリレートゴムを30重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、60重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことが特に好ましく、100重量%含むことが最も好ましい。換言すれば、弾性体は、ブチル(メタ)アクリレートゴムのみから構成されることが最も好ましい。当該構成によると、色調、引張強度、耐衝撃性、分散性および相溶性などの諸物性のバランスがよい成形体または硬化物を提供できるという利点を有する。具体的に、粉粒体を配合する対象の樹脂(マトリクス樹脂)の種類によっては、弾性体がジエン系ゴム(例えば、ポリブタジエンゴム)を多く(例えば、弾性体100重量%中60重量%以上)含む場合と比較して、弾性体が当該弾性体100重量%中、ブチル(メタ)アクリレートゴムを60重量%以上含む場合、得られる樹脂組成物または当該樹脂組成物から得られる成形体もしくは硬化物の色調、引張強度、耐衝撃性、分散性および/または相溶性が、良好となるという利点を有する。
【0046】
(メタ)アクリレート系単量体と共重合可能な(メタ)アクリレート系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体B、とも称する。)としては、前記ビニル系単量体Aにおいて列挙した単量体が挙げられる。ビニル系単量体Bは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ビニル系単量体Bの中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Bにおける(メタ)アクリレート系ゴムにおいて、ビニル系単量体Bに由来する構成単位は任意成分である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0047】
弾性体がオルガノシロキサン系ゴムを含む場合(場合C)について説明する。場合Cにおいて、得られる樹脂組成物は、十分な耐熱性を有し、かつ低温での耐衝撃性に優れる成形体または硬化物を提供することができる。
【0048】
オルガノシロキサン系ゴムとしては、例えば、(i)ジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系重合体、(ii)側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系重合体、が挙げられる。これらのオルガノシロキサン系重合体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本明細書において、ジメチルシリルオキシ単位から構成される重合体をジメチルシリルオキシゴムと称し、メチルフェニルシリルオキシ単位から構成される重合体をメチルフェニルシリルオキシゴムと称し、ジメチルシリルオキシ単位とジフェニルシリルオキシ単位とから構成される重合体をジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムと称する。場合Cにおいて、オルガノシロキサン系ゴムとしては、(i)得られる粉粒体を含む樹脂組成物が耐熱性に優れる成形体または硬化物を提供することができることから、ジメチルシリルオキシゴム、メチルフェニルシリルオキシゴムおよびジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、(ii)容易に入手できて経済的でもあることから、ジメチルシリルオキシゴムであることがより好ましい。
【0050】
本発明の一実施形態において、弾性体は、当該弾性体100重量%中、オルガノシロキサン系ゴムを30重量%以上含むことが好ましく、40重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがより好ましく、60重量%以上含むことがより好ましく、70重量%以上含むことがより好ましく、80重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがさらに好ましく、95重量%以上含むことが特に好ましく、100重量%含むことが最も好ましい。換言すれば、弾性体は、オルガノシロキサン系ゴムのみから構成されることが最も好ましい。前記構成によると、得られる樹脂組成物は、耐熱性に優れる成形体または硬化物を提供することができる。
【0051】
(弾性体の架橋構造)
重合体微粒子の熱硬化性樹脂中での分散安定性を保持する観点から、弾性体には、架橋構造が導入されていることが好ましい。弾性体に対する架橋構造の導入方法としては、一般的に用いられる手法を採用することができ、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、弾性体の製造において、弾性体を構成し得る単量体に、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を混合し、次いで重合する方法が挙げられる。本明細書において、弾性体など重合体を製造することを、重合体を重合する、とも称する。
【0052】
また、オルガノシロキサン系ゴムに架橋構造を導入する方法としては、次のような方法も挙げられる:(A)オルガノシロキサン系ゴムを重合するときに、多官能性のアルコキシシラン化合物と他の材料とを併用する方法、(B)反応性基(例えば(i)メルカプト基および(ii)反応性を有するビニル基、など)をオルガノシロキサン系ゴムに導入し、その後、得られた反応生成物に、(i)有機過酸化物または(ii)重合性を有するビニル単量体などを添加してラジカル反応させる方法、または、(C)オルガノシロキサン系ゴムを重合するときに、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を他の材料と共に混合し、次いで重合を行う方法、など。
【0053】
多官能性単量体は、同一分子内にラジカル重合性反応基を2つ以上有する単量体ともいえる。前記ラジカル重合性反応基は、好ましくは炭素-炭素二重結合である。多官能性単量体としては、ブタジエンは含まれず、アリルアルキル(メタ)アクリレート類およびアリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類のような、エチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレートなどが例示される。(メタ)アクリル基を2つ有する単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。前記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレートなどが例示される。また、3つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類、グリセロールプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどが例示される。アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、4つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、などが例示される。またさらに、5つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが例示される。またさらに、6つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示される。多官能性単量体としては、また、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなども挙げられる。
【0054】
上述した多官能性単量体の中でも、弾性体の架橋構造の導入に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えばジメタクリル酸1,3-ブチレングリコールなど)、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0055】
(弾性体の体積平均粒子径)
弾性体の体積平均粒子径は、0.03μm~50.00μmが好ましく、0.05μm~10.00μmがより好ましく、0.08μm~2.00μmがより好ましく、0.10μm~1.00μmがさらに好ましく、0.10μm~0.80μmがよりさらに好ましく、0.10μm~0.50μmが特に好ましい。弾性体の体積平均粒子径が(i)0.03μm以上である場合、所望の体積平均粒子径を有する弾性体を安定的に得ることができ、(ii)50.00μm以下である場合、得られる成形体または硬化物の耐熱性および耐衝撃性が良好となる。弾性体の体積平均粒子径は、弾性体を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。弾性体の体積平均粒子径の測定方法については、下記実施例にて詳述する。
【0056】
(弾性体の割合)
重合体微粒子中に占める弾性体の割合は、重合体微粒子全体を100重量%として、40~97重量%が好ましく、60~95重量%がより好ましく、70~93重量%がさらに好ましい。弾性体の前記割合が、(i)40重量%以上である場合、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる成形体または硬化物を提供することができ、(ii)97重量%以下である場合、重合体微粒子は容易には凝集しないため、樹脂組成物が高粘度となることがなく、その結果、得られる樹脂組成物は取り扱いに優れたものとなり得る。
【0057】
本発明の一実施形態において、重合体微粒子の「弾性体」は、構成単位の組成が同一である1種類の弾性体、のみからなってもよい。
【0058】
(グラフト部)
グラフト部は、芳香族ビニル単位、ビニルシアン単位、および(メタ)アクリレート単位からなる群より選択される1種以上の構成単位を含むことが好ましい。当該構成を有するグラフト部は、種々の役割を担うことができる。「種々の役割」とは、例えば、(i)重合体微粒子と、マトリクス樹脂との相溶性を向上させること、(ii)マトリクス樹脂中における重合体微粒子の分散性を向上させること、および(iii)マトリクス樹脂および重合体微粒子を含む樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも称する)またはその成形体もしくは硬化物において重合体微粒子が1次粒子の状態で分散することを可能にすること、などである。
【0059】
芳香族ビニル単位の由来となる単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、およびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0060】
ビニルシアン単位の由来となる単量体の具体例としては、アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0061】
(メタ)アクリレート単位の由来となる単量体の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意図する。
【0062】
上述した、芳香族ビニル単量体、ビニルシアン単量体、および(メタ)アクリレート単量体からなる群より選択される1種以上の単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0063】
グラフト部は、芳香族ビニル単位、ビニルシアン単位および(メタ)アクリレート単位を合計で、グラフト部100重量%中に、10~95重量%含むことが好ましく、30~92重量%含むことがより好ましく、50~90重量%含むことがさらに好ましく、60~87重量%含むことが特に好ましく、70~85重量%含むことが最も好ましい。
【0064】
グラフト部は、構成単位として、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を含むことが好ましい。前記反応性基を有する単量体は、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、およびシアン酸エステル基からなる群から選択される1種以上の反応性基を有する単量体であることが好ましく、エポキシ基、水酸基、およびカルボン酸基からなる群から選択される1種以上の反応性基を有する単量体であることがより好ましく、エポキシ基を有する単量体であることが最も好ましい。前記構成によると、樹脂組成物中で重合体微粒子のグラフト部とマトリクス樹脂とを化学結合させることができる。これにより、樹脂組成物中またはその成形体もしくは硬化物中で、重合体微粒子を凝集させることなく、重合体微粒子の良好な分散状態を維持することができる。
【0065】
エポキシ基を有する単量体の具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、およびアリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有ビニル単量体が挙げられる。
【0066】
水酸基を有する単量体の具体例としては、例えば、(i)2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ直鎖アルキル(メタ)アクリレート(特に、ヒドロキシ直鎖C1-6アルキル(メタ)アクリレート);(ii)カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート;(iii)α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルなどのヒドロキシ分岐アルキル(メタ)アクリレート;(iv)二価カルボン酸(フタル酸など)と二価アルコール(プロピレングリコールなど)とから得られるポリエステルジオール(特に飽和ポリエステルジオール)のモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、などが挙げられる。
【0067】
カルボン酸基を有する単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸などのモノカルボン酸、並びに、マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸などのジカルボン酸などが挙げられる。カルボン酸基を有する単量体としては、前記モノカルボン酸が好適に用いられる。
【0068】
上述した反応性基を有する単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0069】
グラフト部は、グラフト部100重量%中、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を、0.5重量%~90.0重量%含むことが好ましく、1.0重量%~50.0重量%含むことがより好ましく、2.0重量%~35.0重量%含むことがさらに好ましく、3.0重量%~20.0重量%含むことが特に好ましい。グラフト部が、グラフト部100重量%中、反応性基を有する単量体に由来する構成単位を、(i)0.5重量%以上含む場合、得られる樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する成形体または硬化物を提供することができ、(ii)90.0重量%以下含む場合、得られる樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する成形体または硬化物を提供することができ、かつ、該樹脂組成物の貯蔵安定性が良好となるという利点を有する。
【0070】
反応性基を有する単量体に由来する構成単位は、グラフト部に含まれることが好ましく、グラフト部にのみ含まれることがより好ましい。
【0071】
グラフト部は、構成単位として、多官能性単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。グラフト部が、多官能性単量体に由来する構成単位を含む場合、(i)樹脂組成物中において重合体微粒子の膨潤を防止することができる、(ii)樹脂組成物の粘度が低くなるため、樹脂組成物の取扱い性が良好となる傾向がある、および(iii)マトリクス樹脂における重合体微粒子の分散性が向上する、などの利点を有する。
【0072】
グラフト部が多官能性単量体に由来する構成単位を含まない場合、グラフト部が多官能性単量体に由来する構成単位を含む場合と比較して、得られる樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性により優れる成形体または硬化物を提供することができる。
【0073】
多官能性単量体の具体例については、前記(弾性体)の項で説明したものと同じであるため、当該記載を援用し、ここでは説明を省略する。
【0074】
多官能性単量体の中でも、グラフト部の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0075】
グラフト部は、グラフト部100重量%中、多官能性単量体に由来する構成単位を、1重量%~20重量%含むことが好ましく、5重量%~15重量%含むことがより好ましい。
【0076】
グラフト部の重合において、上述した単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、グラフト部は、構成単位として、上述した単量体に由来する構成単位の他に、他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0077】
本発明の一実施形態において、グラフト部は、同一の組成の構成単位を有する1種のグラフト部のみからなってもよい。本発明の一実施形態において、グラフト部は、それぞれ異なる組成の構成単位を有する複数種のグラフト部からなってもよい。
【0078】
グラフト部は、弾性体の少なくとも一部を被覆し得るか、または弾性体の全体を被覆し得る。グラフト部の一部は、弾性体の内側に入り込んでいることもあり得る。グラフト部の少なくとも一部分は、弾性体の少なくとも一部分を被覆していることが好ましい。換言すれば、グラフト部の少なくとも一部分は、重合体微粒子の最も外側に存在することが好ましい。
【0079】
重合体微粒子は、層構造を形成していてもよい。例えば、弾性体が最内層(コア層とも称する。)を形成し、弾性体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層とも称する。)として形成される態様も、本発明の一態様である。弾性体をコア層とし、グラフト部をシェル層とする構造はコアシェル構造ともいえる。本発明の一実施形態において、重合体微粒子は、コアシェル構造を有していてもよい。
【0080】
(表面架橋重合体)
ゴム含有グラフト共重合体は、弾性体、および、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部以外に、表面架橋重合体をさらに有することが好ましい。換言すれば、重合体微粒子は、弾性体、および、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部以外に、表面架橋重合体をさらに有することが好ましい。以下、重合体微粒子(例えばゴム含有グラフト共重合体)が、表面架橋重合体をさらに有する場合を例に挙げて、本発明の一実施形態を説明する。この場合、(i)重合体微粒子の製造において、耐ブロッキング性を改善することができるとともに、(ii)熱硬化性樹脂における重合体微粒子の分散性がより良好となる。これらの理由としては、特に限定されないが、以下のように推測され得る:表面架橋重合体が弾性体の少なくとも一部を被覆することにより、重合体微粒子の弾性体部分の露出が減り、その結果、弾性体同士が引っ付きにくくなるため、重合体微粒子の分散性が向上する。
【0081】
重合体微粒子が表面架橋重合体を有する場合、さらに以下の効果も有し得る:(i)本樹脂組成物の粘度を低下させる効果、(ii)弾性体における架橋密度を上げる効果、および(iii)グラフト部のグラフト効率を高める効果。弾性体における架橋密度とは、弾性体全体における架橋構造の数の程度を意図する。
【0082】
表面架橋重合体は、構成単位として、多官能性単量体に由来する構成単位を30~100重量%、およびその他のビニル系単量体に由来する構成単位を0~70重量%、合計100重量%含む重合体からなる。
【0083】
表面架橋重合体の重合に用いられ得る多官能性単量体としては、上述の多官能性単量体と同じ単量体が挙げられる。それら多官能性単量体の中でも、表面架橋重合体の重合に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えばジメタクリル酸1,3-ブチレングリコールなど)、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これら多官能性単量体は、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0084】
重合体微粒子は、ゴム含有グラフト共重合体の重合とは独立して重合された表面架橋重合体を含んでいてもよく、または、ゴム含有グラフト共重合体と共に重合された表面架橋重合体を含んでいてもよい。重合体微粒子は、弾性体と表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体であってもよい。これらいずれの態様においても、表面架橋重合体は弾性体の少なくとも一部を被覆し得る。
【0085】
表面架橋重合体は、弾性体の一部とみなすこともできる。換言すれば、表面架橋重合体は、ゴム含有グラフト共重合体の一部とみなすこともでき、表面架橋重合部ともいえる。重合体微粒子が表面架橋重合体を含む場合、グラフト部は、(i)表面架橋重合体以外の弾性体に対してグラフト結合されていてもよく、(ii)表面架橋重合体に対してグラフト結合されていてもよく、(iii)表面架橋重合体以外の弾性体および表面架橋重合体の両方に対してグラフト結合されていてもよい。重合体微粒子が表面架橋重合体を含む場合、上述した弾性体の体積平均粒子径とは、表面架橋重合体を含む弾性体の体積平均粒子径を意図する。
【0086】
重合体微粒子が、弾性体と表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体である場合(場合D)について説明する。場合Dにおいて、表面架橋重合体は、弾性体の一部を被覆し得るか、または弾性体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、表面架橋重合体の一部は弾性体の内側に入り込んでいることもある。場合Dにおいて、グラフト部は、表面架橋重合体の一部を被覆し得るか、または表面架橋重合体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、グラフト部の一部は表面架橋重合体の内側に入り込んでいることもある。場合Dにおいて、弾性体、表面架橋重合体およびグラフト部が、層構造を有していてもよい。例えば、弾性体を最内層(コア層)とし、弾性体の外側に表面架橋重合体の層が中間層として存在し、表面架橋重合体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層)として存在する態様も、本発明の一態様である。
【0087】
(重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv))
重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv)は、所望の粘度を有し、かつ高度に安定した樹脂組成物を得ることができることから、0.03μm~50.00μmが好ましく、0.05μm~10.00μmがより好ましく、0.08μm~2.00μmがより好ましく、0.10μm~1.00μmがさらに好ましく、0.10μm~0.80μmがよりさらに好ましく、0.10μm~0.50μmが特に好ましい。重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv)が前記範囲内である場合、マトリクス樹脂における重合体微粒子の分散性が良好となるという利点も有する。なお、本明細書において、「重合体微粒子の体積平均粒子径(Mv)」とは、特に言及する場合を除き、重合体微粒子の1次粒子の体積平均粒子径を意図する。重合体微粒子の体積平均粒子径は、重合体微粒子を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。
【0088】
(2-3.重合体微粒子の製造方法)
以下、重合体微粒子が、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体である場合を例に挙げて、重合体微粒子の製造方法の一例を説明する。重合体微粒子は、例えば、弾性体を重合した後、当該弾性体の存在下にて当該弾性体に対してグラフト部を構成する重合体をグラフト重合することによって、製造できる。
【0089】
重合体微粒子は、公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンジョン重合法などの方法により製造することができる。具体的には、重合体微粒子における弾性体の重合、およびグラフト部の重合(グラフト重合)は、公知の方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンジョン重合法などの方法により実施することができる。これらの中でも特に、重合体微粒子の製造方法としては、乳化重合法が好ましい。乳化重合法により重合体微粒子を製造することにより、重合体微粒子を含むラテックス(例えば、水性ラテックス)を得ることができる。本明細書において、乳化重合法により得られるラテックスを、「乳化重合ラテックス」と称する場合がある。乳化重合法によると、(i)重合体微粒子の組成設計が容易である、(ii)重合体微粒子の工業生産が容易である、および(iii)本製造方法で使用するのに好適なラテックスが容易に得られる、という利点を有する。
【0090】
重合体微粒子の製造方法として、乳化重合法を採用する場合、重合体微粒子の製造には、乳化剤(分散剤)として、公知の乳化剤(分散剤)を用いることができる。
【0091】
重合体微粒子の製造で使用する乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、アニオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などが挙げられる。アニオン性乳化剤としては、硫黄系乳化剤、リン系乳化剤、サルコシン酸系乳化剤およびカルボン酸系乳化剤などが挙げられる。硫黄系乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称;SDBS)などが挙げられる。リン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどが挙げられる。サルコシン酸系乳化剤としては、N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムなどが挙げられる。カルボン酸系乳化剤としては、アルキルエーテルカルボン酸塩等が挙げられる。
【0092】
重合体微粒子の製造方法では、乳化剤は、硫黄系乳化剤、リン系乳化剤、サルコシン酸系乳化剤およびカルボン酸系乳化剤からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムおよびアルキルエーテルカルボン酸塩からなる群から選択される1種以上であることがより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムおよびアルキルエーテルカルボン酸塩からなる群から選択される1種以上であることがさらに好ましく、N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムであることが特に好ましい。当該構成によると、乳化力が高いという利点を有する。
【0093】
弾性体またはグラフト部に架橋構造を導入する目的で、弾性体またはグラフト部の重合に多官能性単量体を使用する場合、公知の連鎖移動剤を公知の使用量の範囲で用いることができる。連鎖移動剤を使用することにより、得られる弾性体またはグラフト部の分子量および/または架橋度を容易に調節することができる。
【0094】
重合体微粒子の製造には、上述した成分に加えて、さらに界面活性剤を用いることができる。前記界面活性剤の種類および使用量は、公知の範囲である。
【0095】
重合体微粒子の製造において、重合における重合温度、圧力、および脱酸素などの各条件は、公知の数値範囲の条件を適宜適用することができる。
【0096】
上述した重合体微粒子の製造方法により、重合体微粒子を含むラテックスを得ることができる。すなわち、(重合体微粒子の製造方法)の項の記載は、ラテックスの製造方法に関する記載として援用できる。
【0097】
(2-4.洗浄水)
洗浄水としては、特に限定されないが、例えば、水が挙げられる。
【0098】
第一の製造方法では、洗浄水は、凝固剤を含む水(水溶液)であってもよいが、重合体微粒子が凝固して詰まる虞を低減するため、洗浄水中の凝固剤の量は少ないほど好ましい。第一の製造方法において、洗浄水中の凝固剤の濃度(量)は、例えば、洗浄水の全量100重量%中、10重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることがさらに好ましく、0.01重量%以下であることが特に好ましい。当該構成によると、噴霧器(例えば、噴霧器のノズル)が閉塞しにくいという利点を有する。
【0099】
洗浄水は、有機溶剤を含んでいないことが好ましい。具体的に、洗浄水中の有機溶剤の量は、洗浄水の全量100重量%中、10重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることがさらに好ましく、0.01重量%以下であることが特に好ましい。当該構成によると、噴霧器(例えば、噴霧器のノズル)が閉塞しにくいという利点を有する。
【0100】
(2-5.凝固剤溶液)
第一の製造方法では、第2の噴霧器から凝固剤を含む凝固剤溶液を噴霧および/または滴下する。第一の製造方法において用いられる「凝固剤溶液」とは、液体状の凝固剤、ならびに、溶媒および凝固剤を含む溶液を意図する。本明細書において、本発明の一実施形態に係る凝固剤溶液(第一の製造方法で使用される凝固剤溶液)を、「本凝固剤溶液」と称する場合がある。本凝固剤溶液において、凝固剤は、溶媒中で分散していてもよく、溶解していてもよい。
【0101】
本明細書において、液体状の凝固剤とは、凝固剤として機能する液体状の物質(すなわち、溶媒に溶解または分散させることなく、溶質そのものが液状である物質)を意図する。凝固剤として液体状の物質を使用する場合、当該物質(凝固剤)を溶媒に溶解または分散させて溶液とした後に使用してもよく、当該物質(凝固剤)を溶媒に溶解または分散させること無く、当該物質(凝固剤)をそのまま凝固剤溶液として使用(噴霧)することができる。すなわち、第一の製造方法における「凝固剤溶液」は、凝固剤として機能する液体状の物質そのものも包含する。
【0102】
本凝固剤溶液として、溶媒および凝固剤を含む溶液を使用する場合、本凝固剤溶液の溶媒としては特に限定されないが、例えば水が挙げられる。
【0103】
本凝固剤溶液に含まれる凝固剤としては、ラテックスおよび添加剤を含む溶液中の重合体微粒子を凝析および凝固し得る性質を有する物質であればよい。凝固剤としては、例えば、(i)無機酸(塩)および/または有機酸(塩)および(ii)高分子凝固剤などが挙げられる。これらの凝固剤の1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本明細書において無機酸(塩)とは、「無機酸およびその塩」を意味し、有機酸(塩)とは、「有機酸およびその塩」を意味する。
【0104】
本凝固剤溶液は、凝固剤として、一価の無機酸、一価の無機酸の塩、二価の無機酸、二価の無機酸の塩、三価の無機酸、三価の無機酸の塩などからなる群から選択される1種以上の物質を含む水溶液であることが好ましい。一価の無機酸としては、(a)塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸などのハロゲン酸、および(b)硝酸などが挙げられる。二価の無機酸としては、硫酸などが挙げられる。三価の無機酸としては、リン酸などが挙げられる。これらの無機酸と塩を形成し得るカチオン性元素または分子としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属(特に鉄、亜鉛)、アルミニウムなどの第13族の金属、アンモニウムなどが挙げられる。
【0105】
本凝固剤溶液は、凝固剤として、一価の有機酸、一価の有機酸塩、二価の有機酸、二価の有機酸塩などからなる群から選択される1種以上の物質を含むことが好ましい。一価の有機酸としては、ギ酸、酢酸などが挙げられる。一価の有機酸塩としては、ギ酸、酢酸などと、アルカリ金属などとの塩が挙げられる。二価の有機酸としては、シュウ酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、酒石酸などが挙げられる。二価の有機酸塩としては、酢酸、ギ酸などと、アルカリ土類金属などとの塩が挙げられる。
【0106】
(i)無機酸(塩)および/または有機酸(塩)の具体例としては、
(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物;硫酸アンモニウム;塩化アンモニウム;硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどのアルカリ金属硝化物;塩化カルシウム、硫酸第一鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、塩化バリウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、塩化マグネシウム、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバンなどの無機塩類;
(b)塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸類;
(c)酢酸、ギ酸などの有機酸類、およびこれら有機酸類;並びに
(d)酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カルシウムなどの有機酸塩類、およびこれら有機酸塩類;等が挙げられる。
【0107】
高分子凝固剤としては、親水基と疎水基とを有する高分子化合物であればよく特に限定されない。高分子凝固剤としては、例えば、アニオン系高分子凝固剤、カチオン系高分子凝固剤およびノニオン系高分子凝固剤等が挙げられる。これらの中でも、重合体微粒子の電荷を中和するという利点があることから、カチオン系高分子凝固剤が好ましい。
【0108】
カチオン系高分子凝固剤は、分子内にカチオン性基を有する高分子凝固剤、すなわち水に溶解させた際にカチオン性を示す高分子凝固剤であることが好ましい。カチオン系高分子凝固剤の具体例としては、ポリアミン類、ポリジシアンジアミド類、カチオン化デンプン、カチオン系ポリ(メタ)アクリルアミド、水溶性アニリン樹脂、ポリチオ尿素、ポリエチレンイミン、第4級アンモニウム塩類、ポリビニルピリジン類、キトサン等が挙げられる。
【0109】
凝固剤としては、上述した中でも、嵩比重がより高く、かつ、微粉量のより少ない粉粒体を提供できることから、(a)塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化バリウムなどの一価または二価の無機酸塩の水溶液、または(b)塩酸、硫酸などの一価または二価の無機酸の水溶液、などが好適に使用できる。
【0110】
凝固剤溶液中の凝固剤の濃度(量)は、特に限定されないが、例えば、凝固剤溶液の全量100重量%中、0.1重量%~45.0重量%であることが好ましく、5.0重量%~40.0重量%であることがより好ましく、10.0重量%~40.0重量%であることがさらに好ましく、20.0重量%~40.0重量%であることがよりさらに好ましく、30.0重量%~40.0重量%であることが特に好ましい。当該構成によると、凝固剤の重合体微粒子への凝固作用が発揮されやすくなり、第2の接触工程おける凝固剤の使用量を少なくすることができる。その結果、凝集体および粉粒体の製造コストを低減でき、かつ、得られる凝集体および粉粒体に含まれる凝固剤由来の夾雑物を少なくできるという利点を有する。
【0111】
凝固剤が固体(例えば粉体)の状態の物質である場合、凝固剤溶液における凝固剤の濃度(重量%)は、例えば、以下の方法により算出できる:凝固剤溶液0.5gを溶媒の沸点より高い温度(例えば、溶媒の沸点+20℃)の熱風対流型乾燥機に3時間入れて溶媒を蒸発させる。次いで、乾燥後の残留物(固形分)の重量(g)を測定する。次に、得られた値を乾燥前の凝固剤溶液の重量0.5gで除し、得られた値にさらに100を乗じる。また、凝固剤が液状である場合、分留を行うことで、凝固剤溶液における凝固剤の濃度を測定することもできる。
【0112】
本凝固剤溶液は、例えば、凝固剤として機能する固体(例えば粉体)の状態の物質を、溶媒と混合することで得ることができる。複数種類の凝固剤を混合する場合、各凝固剤を、(a)一括して溶媒と混合してもよく、(b)それぞれの凝固剤を個別に混合してもよい。また、あらかじめ溶媒に溶解または分散されている状態で市販されている凝固剤を、(a)そのまま凝固剤溶液として使用してもよく、(b)さらに溶媒と混合して使用してもよい。
【0113】
(2-6.装置)
本製造方法において使用される装置(以下、製造装置または装置と称する場合がある)としては、特に限定されないが、略鉛直な内壁を有する容器を備える装置を用いることができる。当該容器は、少なくとも、気相の領域を含む。本明細書において、容器が備える鉛直方向に延伸する内壁を「側壁」と称する場合がある。容器は、当該容器の上部(頂部)または側壁面に、ラテックスを気相中に噴霧および/または滴下するための第1の噴霧器を備えることが好ましい。
【0114】
第一の製造方法では、容器は、さらに、当該容器の上部(頂部)または側壁面に、凝固剤を含む凝固剤溶液を気相中に噴霧および/または滴下するための第2の噴霧器を備えることが好ましい。第一の製造方法において、気相の領域では、第1の噴霧器から重合体微粒子を含むラテックスが噴霧および/または滴下され、さらに、第2の噴霧器から凝固剤を含む凝固剤溶液が噴霧および/または滴下される。これにより、第一の製造方法では、ラテックスの液滴と、凝固剤溶液の液滴とが、気相中で、接触する。その結果、第一の製造方法では、気相中で、重合体微粒子の凝集体が生成し得る。
【0115】
前記容器の形状は特に限定されないが、円筒形状が好ましい。前記容器が円筒形状である場合、その直径は、例えば30cm~500cmであることが好ましい。
【0116】
第一の製造方法では、容器は、底部に、液相の領域を備える受槽を有してもよい。第一の製造方法において、容器が液相の領域を備える受槽を備える場合、気相中で生成した重合体微粒子の凝集体は、受槽の液相中に落下し得る。換言すれば、第一の製造方法において、液相で凝集体を回収してもよい。第一の製造方法において、容器が液相の領域を備える受槽を備える場合、前記容器の頂部から、底部の受槽の液相の液面までの高さは、気相中にて、ラテックス中の重合体微粒子の凝固を適切に進行する観点から、50cm~10mが好ましく、1m~5mがより好ましく、2m~3mがさらに好ましい。
【0117】
第二の製造方法において、前記容器の頂部から、底部の底面までの高さは、乾燥を適切に進行する観点から、50cm~10mが好ましく、1m~5mがより好ましく、2m~3mがさらに好ましい。
【0118】
第一の製造方法において、容器には、得られた凝集体を容器から回収するための回収装置、回収された凝集体を乾燥して粉粒体を得る乾燥装置、および、容器の内部の温度あるいは容器内に噴霧および/または滴下される各溶液および液相等の温度を調節する温度調節装置などが、必要に応じて接続されていてよい。
【0119】
第二の製造方法において、容器には、得られた凝集体を容器から回収するための回収装置、および、容器の内部の温度あるいは容器内に噴霧および/または滴下されるラテックスの温度を調節する温度調節装置などが、必要に応じて接続されていてよい。
【0120】
(2-7.液相)
上述したように、第一の製造方法において、容器は、底部に、液相の領域を備える受槽を有してもよい。液相としては、特に限定されないが、例えば、水、または凝固剤を含む水(水溶液)であってもよい。液相は、凝固剤溶液であってもよい。換言すれば、液相は、凝固剤を含んでいてもよい。
【0121】
液相が含み得る凝固剤としては、第2の噴霧器から噴霧および/または滴下する凝固剤溶液に含まれる凝固剤であることが好ましい。液相が含み得る凝固剤は、第2の噴霧器から噴霧および/または滴下する凝固剤溶液に含まれる凝固剤と異なる種類の凝固剤であってもよい。
【0122】
液相中の凝固剤の濃度(量)は、特に限定されないが、第2の噴霧器から噴霧および/または滴下する凝固剤溶液中の凝固剤の濃度(量)よりも低いことが好ましい。当該構成によると、凝集体に含まれる残存夾雑物量を低減できるという利点を有する。
【0123】
液相中の凝固剤の濃度(量)は、例えば、液相の全量100重量%中、0.01重量%~5.00重量%であることが好ましく、0.05重量%~4.00重量%であることがより好ましく、0.10重量%~3.00重量%であることがさらに好ましく、0.25重量%~2.00重量%であることがよりさらに好ましく、0.50重量%~1.50重量%であることが特に好ましい。当該構成によると、凝集体に含まれる残存夾雑物量を低減できるという利点を有する。
【0124】
第一の製造方法において、容器が液相の領域を備える受槽を備える場合(以下「場合E」とも称する。)について、説明する。場合Eでは、上述したように、気相中で生成された凝集体は、気相中を降下し、液相内に入る。場合Eでは、より具体的に、ラテックスの液滴と凝固剤溶液の液滴とが気相中で接触した後に形成された合一した液滴は、重合体微粒子の凝集体を含み得、当該液滴は、気相中を降下し、液相内に入る。そのため、場合Eでは、接触工程の開始後、液相は、未凝固の重合体微粒子、重合体微粒子の凝集体、ラテックスに含まれている重合体微粒子以外の成分(ラテックスの溶媒を含む)、凝固剤、および凝固剤溶液に含まれている凝固剤以外の成分(凝固剤溶液の溶媒を含む)、を含み得る。
【0125】
(2-9.接触工程)
本製造方法は、重合体微粒子を含むラテックスを第1の噴霧器から噴霧および/または滴下する噴霧工程を含む。噴霧工程において、好ましくは、第1の噴霧器からラテックスを、気相中に、噴霧および/または滴下することが好ましい。
【0126】
本明細書において、液体(例えば、ラテックスおよび凝固剤溶液)を「噴霧する」とは、当該液体を加圧する、超音波処理する、等の方法により、当該液体を散布する噴霧器(例えば、噴霧器のノズル)の吹き出し口(孔)の口径よりも小さい液滴径の液滴(微小液滴)とした状態で、液体を散布(霧状散布)することを意図する。本明細書において、液体(例えば、ラテックスおよび凝固剤溶液)を「滴下する」とは、当該液体を特に処理することなく、当該液体を散布する噴霧器の吹き出し口(孔)の口径と同程度の液滴径の液滴として散布することを意図する。なお、二流体ノズルを使用して液体を散布する場合のように、散布する液体自体は加圧せずとも、当該液体以外の物質(例えば、気体)を加圧した状態で同時に散布することで、当該液体を微小液滴の状態で散布する場合は、当該液体を「噴霧する」、と見做す。
【0127】
接触工程において、ラテックスを噴霧する場合、噴霧の方向は特に限定されず、鉛直方向、水平方向または斜め方向であってもよい。接触工程において、ラテックスを滴下する場合、通常、鉛直方向にラテックスを滴下するが、これに限定されない。容易に凝集体を回収できるという利点を有することから、接触工程では、ラテックスを鉛直方向に噴霧および/または滴下することが好ましい。
【0128】
本明細書における「鉛直方向」とは、「重量方向」を意図する。「鉛直方向」は、「鉛直下方方向」とも言える。
【0129】
本発明の一実施形態において、液体(例えば、ラテックスおよび凝固剤溶液)を「鉛直方向に噴霧および/または滴下する」場合、必ずしも完全に鉛直方向に当該液体を噴霧および/滴下する必要はなく、例えば、鉛直方向を基準として、15°以内、10°以内あるいは5°以内の範囲で傾斜した方向に当該液体を噴霧および/または滴下してもよい。すなわち、本明細書における「鉛直方向に噴霧および/または滴下する」とは、このように鉛直方向に対して角度をつけた状態で噴霧および/または滴下する態様を含む概念である。本明細書において、液体(例えば、ラテックスおよび凝固剤溶液)を噴霧および/または滴下する方向は、当該液体を噴霧または滴下する噴霧器の吹き出し口が正対する方向であるともいえる。換言すると、液体を噴霧または滴下する噴霧器の吹き出し口が正対する方向を調節することで、当該液体を噴霧または滴下する方向を調節し得る。
【0130】
本明細書における「水平方向」とは、鉛直方向に垂直な方向を意図する。「水平方向」は、重量方向に垂直な方向であるとも言える。
【0131】
本発明の一実施形態において、液体(例えば、ラテックス、添加剤溶液、または凝固剤溶液)を「水平方向に噴霧(または滴下)する」場合、必ずしも完全に水平方向に当該液体を噴霧(または滴下)する必要はなく、例えば、水平方向を基準として15°以内、10°以内あるいは5°以内の範囲で傾斜した方向に当該液体を噴霧(または滴下)してもよい。すなわち、本明細書における「水平方向に噴霧(または滴下)する」とは、このように水平方向対して角度をつけた状態で、液体を噴霧(または滴下)する態様を含む。
【0132】
第一の製造方法では、接触工程において、さらに、第2の噴霧器から凝固剤を含む凝固剤溶液を噴霧および/または滴下する。第一の製造方法において、好ましくは、第2の噴霧器から凝固剤溶液を、気相中に、噴霧および/または滴下することが好ましい。第一の製造方法において、容器の気相中にて、第1の噴霧器から重合体微粒子を含むラテックスを噴霧および/または滴下し、さらに、第2の噴霧器から凝固剤を含む凝固剤溶液を噴霧および/または滴下することで、前記ラテックスの液滴と前記凝固剤溶液の液滴とを、前記気相中で接触させることができる。気相中で接触したラテックスの液滴および凝固剤溶液の液滴は、一体化(合一化)し得る。
【0133】
第一の製造方法の接触工程では、ラテックスを気相中に噴霧および/または滴下することに加えて、さらに凝固剤溶液を気相中に噴霧および/または滴下する。そのため、第一の製造方法における接触工程は、(a)ラテックスの液滴と凝固剤溶液の液滴とを気相中で一体化(合一化)する工程であるともいえ、(b)ラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴を得る工程であるともいえ、(c)ラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴を気相中で調製する工程であるともいえる。第一の製造方法において接触工程で得られるラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴は、「ラテックスと、凝固剤溶液と、が一体化してなる液滴」であるともいえ、「ラテックスに由来する重合体微粒子と、凝固剤溶液に由来する凝固剤、とを含む溶液の液滴」であるともいえる。
【0134】
第一の製造方法における接触工程では、ラテックスと凝固剤溶液とが気相中で一体化してなる液滴中において、重合体微粒子が凝固し得る。第一の製造方法における接触工程では、気相中で、重合体微粒子の凝集体が生成し得る。そのため、第一の製造方法における接触工程は、重合体微粒子を凝固させる工程ともいえ、重合体微粒子の凝集体を調製する工程ともいえる。
【0135】
また、第一の製造方法の中でも、場合Eでは、上述したように、気相中で生成した凝集体は、凝集体を含む液滴とともに、気相中を降下し、容器の底部にて備えられた液相中に入る(液相中に落下する)。これにより、場合Eでは、液相、重合体微粒子の凝集体および凝固剤を含む懸濁液が得られる。そのため、場合Eにおいて接触工程は、懸濁液を調製する工程ともいえる。
【0136】
第一の製造方法の接触工程において、凝固剤溶液を噴霧する場合、噴霧の方向は特に限定されず、鉛直方向、水平方向または斜め方向であってもよい。接触工程において、凝固剤溶液を滴下する場合、通常、鉛直方向に凝固剤溶液を滴下するが、これに限定されない。凝固剤液滴とラテックス液滴を効率よく接触させるという利点を有することから、接触工程では、凝固剤溶液を水平方向に噴霧することが好ましい。
【0137】
接触工程で使用される第1の噴霧器としては、ラテックスを噴霧および/または滴下することができる限り特に限定されない。第1の噴霧器は、ノズルを備えること(ノズルを備える装置であること)が好ましく、例えば、加圧ノズル、二流体ノズル、超音波ノズル、高周波装置または滴下ノズルであることが好ましい。特に、第一の製造方法では、第1の噴霧器は、ノズルを備えることが好ましい。一方、第二の製造方法では、第1の噴霧器は、回転により、液体を噴霧可能な装置、例えば、アトマイザーであってもよい。
【0138】
第1の噴霧器は、容器の頂部に設置されることが好ましい。
【0139】
第1の噴霧器の数は特に限定されず、1つであってもよく、2個以上であってもよい。また、第1の噴霧器として2個以上のノズルを使用する場合、(a)各ノズルからラテックスの噴霧のみを行ってもよく、(b)各ノズルからラテックスの滴下のみを行ってもよく、(c)少なくとも一つのノズルからラテックスを噴霧しつつ、別の少なくとも一つのノズルからラテックスを滴下してもよい。
【0140】
第一の製造方法では、体積平均液滴径200μm~400μmかつシャープな粒度分布を有する液滴を容易に噴霧可能であること、およびそのような液滴を噴霧可能なノズルの中でも経済的に優れていることから、第1の噴霧器は、ノズルを備えることが好ましく、加圧ノズルであることがより好ましく、旋回流式の加圧ノズル(旋回流式ノズル)であることがさらに好ましい。
【0141】
本製造方法において、第1の噴霧器がノズルを備える場合、当該ノズルのオリフィス径は、特に限定されない。前記ノズルのオリフィス径は、2.3mm~6.0mmであることが好ましく、3.0mm~5.8mmであることがより好ましく、4.0mm~5.5mmであることがさらに好ましく、4.4mm~5.4mmであることが特に好ましい。前記ノズルのオリフィス径が2.3mm以上である場合、ノズル閉塞を抑制できるという利点を有する。前記ノズルのオリフィス径が6.0mm以下である場合、粒度分布が比較的狭い粉粒体を得ることができるという利点を有する。
【0142】
本製造方法において、第1の噴霧器がノズルを備える場合、当該ノズルの最小異物通過径は、特に限定されない。前記ノズルの最小異物通過径は、2.3mm~6.0mmであることが好ましく、2.3mm~5.5mmであることがより好ましく、2.3mm~5.0mmmmであることがさらに好ましく、2.3mm~4.5mmであることが特に好ましい。前記ノズルの最小異物通過径が2.3mm以上である場合、ノズル閉塞を抑制できるという利点を有する。前記ノズルの最小異物通過径が6.0mm以下である場合、粒度分布が比較的狭い粉粒体を得ることができるという利点を有する。本明細書において、「ノズルの最小異物通過径」とは、ノズル内の溶液の流路の内、最も流路の狭い径を意図する。
【0143】
第一の製造方法において、第1の噴霧器の噴霧圧力は、例えば0.5kg/cm~30.0kg/cmであることが好ましく、1.0kg/cm~10.0kg/cmであることがより好ましい。第一の製造方法において、第1の噴霧器の噴霧圧力が0.5kg/cm以上であれば、噴霧したラテックスの液滴が過度に大きくなる虞がなく、接触工程で得られるラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を十分に凝集させることができ、その結果、嵩比重の高い粉粒体を得ることができる。また、第一の製造方法において、第1の噴霧器の噴霧圧力が30.0kg/cm以下であれば、噴霧したラテックスの液滴が過度に小さくなる虞がなく、得られる粉粒体の微粉量を低減できる。
【0144】
第一の製造方法において、第1の噴霧器から噴霧および/または滴下されるラテックスのスプレーコーンの先端角度は、特に限定されないが、5°~140°であることが好ましく、30°~90°であることがより好ましい。第一の製造方法において、ラテックスのスプレーコーンの角度が上記範囲である場合、(i)効率的に凝集体を製造することができ、(ii)凝集体の製造に使用する装置の過剰な大型化を抑制することができる。さらに、(iii)スプレーコーンの先端角度を5°以上とすることで、噴霧および/または滴下されたラテックスの液滴同士が合一化することを抑制することもでき、また、(iv)スプレーコーンの先端角度を140°以下とすることで、噴霧および/または滴下されたラテックスの液滴が、凝集体を製造する装置の壁面に付着することを抑制でき、また、ラテックスの液滴の壁面付着を防止するために当該装置を大型化する必要がないため、当該装置を小型化することもできる。なお、本明細書において、「スプレーコーン」とは、噴霧器から(例えば、噴霧器のノズルから)液体の噴霧および/または滴下を行った際に観察される、噴霧器の吹き出し口から噴霧および/または滴下される前記液体の液滴の集合体を意図する。また、第一の製造方法において、ラテックスのスプレーコーンの形状は特に限定されず、例えば、扇状であってもよく、円錐状であってもよく、中空円錐状であってもよい。
【0145】
第一の製造方法において、接触工程において噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径は、50μm~5mmであることが好ましく、100μm~800μmであることがより好ましく、150μm~600μmであることがさらに好ましく、200μm~400μmであることが特に好ましい。第一の製造方法において、噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径が50μm以上であれば、得られる粉粒体の微粉量を低減できる。また、第一の製造方法において、噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径が5mm以下であれば、接触工程で得られるラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を十分に凝集させることができ、その結果、嵩比重の高い粉粒体を得ることができる。
【0146】
以下、第二の製造方法において、第1の噴霧器として、ノズルを備える装置を使用する場合(以下、「場合G」とも称する。)について、説明する。
【0147】
場合Gにおいて、ラテックスのスプレーコーンの形状は特に限定されないが、乾燥の滞留時間を十分確保できることから、ラテックスのスプレーコーンの形状は、扇状、円錐状および中空円錐状であることがより好ましく、中空円錐状であることが特に好ましい。
【0148】
場合Gにおいて、第1の噴霧器のノズルの口径は、特に限定されないが、2.3mm~6.0mmであることが好ましく、2.5mm~5.8mmがより好ましく、2.7mm~5.5mmであることがさらに好ましい。前記ノズルの口径が6.0mm以下である場合、粒度分布が比較的狭い粉粒体を得ることができるという利点を有する。また、前記ノズルの口径が2.3mm以上である場合、ノズル閉塞を抑制できるという利点を有する。
【0149】
場合Gにおいて、第1の噴霧器の噴霧圧力は、例えば0.5kg/cm~30.0kg/cmであることが好ましく、1.0kg/cm~10.0kg/cmであることがより好ましい。場合Gにおいて、第1の噴霧器の噴霧圧力が0.5kg/cm以上である場合、噴霧したラテックスの液滴が過度に大きくなる虞がなく、装置内で乾燥するのに十分な滞留時間を確保できるという利点を有する。また、場合Gにおいて、第1の噴霧器の噴霧圧力が30.0kg/cm以下である場合、噴霧したラテックスの液滴が過度に小さくなる虞がなく、得られる粉粒体の微粉量を低減できるという利点を有する。
【0150】
場合Gにおいて、第1の噴霧器から噴霧および/または滴下されるラテックスのスプレーコーンの先端角度は、特に限定されないが、5°~160°であることが好ましく、30°~150°であることがより好ましい。場合Gにおいて、スプレーコーンの先端角度が5°以上である場合、噴霧および/または滴下されたラテックスの液滴同士が合一化することを抑制することもできるという利点を有する。場合Gにおいて、スプレーコーンの先端角度を160°以下である場合、噴霧および/または滴下されたラテックスの液滴が、乾燥物を製造する装置の壁面に付着することを抑制でき、また、ラテックスの液滴の壁面付着を防止するために当該装置を大型化する必要がないため、当該装置を小型化することもできるという利点を有する。
【0151】
場合Gにおける接触工程において、噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径は、50μm~5mmであることが好ましく、100μm~800μmであることがより好ましく、150μm~600μmであることがさらに好ましく、200μm~400μmであることが特に好ましい。場合Gにおける接触工程において、噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径が50μm以上である場合、得られる粉粒体の微粉量を低減できるという利点を有する。また、場合Gにおける接触工程において、噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径が5mm以下である場合、装置の大型化を抑制できるという利点を有する。
【0152】
以下、第二の製造方法において、第1の噴霧器として、アトマイザーを使用する場合(以下、「場合H」とも称する。)について、説明する。
【0153】
場合Hにおいて、噴霧および/または滴下されるラテックスの噴霧角度は、特に限定されないが、90°~180°であることが好ましく、100°~180°であることがより好ましい。場合Hにおいて、噴霧角度が90°以上である場合、噴霧および/または滴下されたラテックスの液滴同士が合一化することを抑制することもできるという利点を有する。場合Hにおいて、噴霧角度を180°以下である場合、乾燥するのに必要な滞留時間を十分に確保できるという利点を有する。
【0154】
場合Hにおいて、アトマイザーの回転ディスクの回転速度は、特に限定されないが、1000rpm~20000rpmであることが好ましく、3000rpm~18000rpmであることがより好ましい。場合Hにおいて、前記回転速度が1000rpm以上である場合、噴霧および/または滴下されたラテックスの液滴が過度に肥大化することを抑制できるため、乾燥するのに必要な滞留時間を十分に確保できるという利点を有する。場合Hにおいて、前記回転速度が20000rpm以下である場合、噴霧および/または滴下されたラテックスの液滴が過度に微小化することを抑制できるため、得られる粉粒体の微粉量を低減できるという利点を有する。
【0155】
場合Hにおける接触工程において、噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径は、50μm~5mmであることが好ましく、100μm~800μmであることがより好ましく、150μm~600μmであることがさらに好ましく、200μm~400μmであることが特に好ましい。場合Hにおける接触工程において、噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径が50μm以上である場合、得られる粉粒体の微粉量を低減できるという利点を有する。また、場合Hにおける接触工程において、噴霧および/または滴下されるラテックスの液滴の体積平均液滴径が5mm以下である場合、装置の大型化を抑制できるという利点を有する。
【0156】
本明細書において、第1の噴霧器の吹き出し口の中心と容器の底部の液相の液面との間の鉛直方向の距離を、「第1の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離」とする。なお、第1の噴霧器が複数個存在する場合、各第1の噴霧器の吹き出し口の中心と容器の底部の液相の液面との間の鉛直方向の距離のうち、最も短い(近い)値を、第1の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離とする。
【0157】
十分な凝固時間を確保でき、より粉体特性に優れる粉粒体を提供できることから、第一の製造方法において、第1の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離は、100cm以上であることが好ましく、150cm以上であることがより好ましく、200cm以上であることが特に好ましい。装置の過剰な大型化を抑制する観点から、第1の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離の上限は、300cm以下であることが好ましい。
【0158】
第二の製造方法において、第1の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離は、100cm以上であることが好ましく、150cm以上であることがより好ましく、200cm以上であることが特に好ましい。当該構成によると、液滴の水分を除去するのに十分な乾燥時間を確保できるという利点を有する。また、第二の製造方法において、装置の過剰な大型化を抑制する観点から、第1の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離の上限は、500cm以下であることが好ましい。
【0159】
第一の製造方法の接触工程で使用される第2の噴霧器について説明する。第2の噴霧器としては、凝固剤溶液を噴霧することができる限り特に限定されないが、加圧ノズル(一流体ノズル)、二流体ノズル、超音波ノズルまたは高周波装置であることが好ましく、加圧ノズル(一流体ノズル)または二流体ノズルがより好ましい。第2の噴霧器として加圧ノズル(一流体ノズル)または二流体ノズルを用いる場合、気相中に、微細な液滴径の(噴霧体状の)凝固剤溶液を噴霧することができ、ラテックスの液滴と、凝固剤溶液の液滴とを効率的に接触させることができる。
【0160】
第2の噴霧器の口径は、特に限定されないが、0.01mm~2.00mmであることが好ましく、0.05mm~1.50mmがより好ましく、0.10mm~1.00mmであることがさらに好ましい。前記口径が2.00mm以下であると、噴霧した凝固剤溶液の液滴が過度に大きくなる虞がなく、ラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を十分に凝集させることができ、その結果、嵩比重の高い粉粒体を得ることができる。また、前記口径が0.01mm以上であれば、凝固剤溶液の噴霧中にノズルが閉塞する可能性を低減でき、安定して凝集体を製造することができる。
【0161】
第2の噴霧器の噴霧圧力は、例えば、0.5kg/cm2~100.0kg/cm2であることが好ましく、1.0kg/cm2~50.0kg/cm2であることがより好ましい。第2の噴霧器の噴霧圧力が0.5kg/cm2以上であれば、噴霧される凝固剤溶液の液滴が過度に大きくなる虞がなく、ラテックスの液滴と、凝固剤溶液の液滴とを効率的に接触させることができる。その結果、嵩比重の高い粉粒体を得ることができる。また、第2の噴霧器の噴霧圧力が100.0kg/cm2以下であれば、凝固剤溶液の液滴が過度に飛散し過ぎず、ラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴と効率的に接触させることができ、また、容器壁面への凝固剤溶液の付着を低減することができる。
【0162】
第2の噴霧器は、前記容器の側壁面(または側壁面付近)に設置されることが好ましい。
【0163】
本明細書において、第2の噴霧器の吹き出し口の中心と容器の底部の液相の液面との間の鉛直方向の距離を、「第2の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離」とする。なお、第2の噴霧器が複数個存在する場合、各第2の噴霧器の吹き出し口の中心と容器の底部の液相の液面との間の鉛直方向の距離のうち、最も短い(近い)値を、第2の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離とする。
【0164】
十分な凝固時間を確保でき、より粉体特性に優れる粉粒体を提供できることから、第2の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離は、50cm以上であることが好ましく、60cm以上であることがより好ましい。第2の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離は、70cm以上であってもよく、80cm以上であってもよく、90cm以上であってもよく、100cm以上であってもよい。装置の過剰な大型化を抑制する観点から、第2の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離の上限は、280cm以下であることが好ましく、250cm以下であることがより好ましい。
【0165】
第一の製造方法において、第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の鉛直方向の距離は特に限定されない。ラテックスの液滴と、凝固剤溶液の液滴と、を効率よく接触させることができることから、第一の製造方法において、第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の鉛直方向の距離は、5cm~50cmであることが好ましく、10cm~40cmであることがより好ましく、15cm~35cmであることがさらに好ましく、15cm~30cmであることがより好ましく、15cm~25cmであることが特に好ましい。
【0166】
第一の製造方法において、第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の水平方向の距離は特に限定されない。(a)ラテックスの液滴と、凝固剤溶液の液滴とを効率的に接触させる観点、および、(b)装置の過剰な大型化を抑制する観点から、第一の製造方法において、第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の水平方向の距離は、50cm以下であることが好ましく、30cm以下であってもよい。
【0167】
本明細書において、「第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の鉛直方向の距離」および「第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の水平方向の距離」は、以下の方法で測定される値である:(1)第1の噴霧器の吹き出し口(孔)の中心を通る鉛直方向の直線を引く(第1の直線);(2)第2の噴霧器の吹き出し口(孔)の中心を通る水平方向(鉛直方向に垂直な方向)の直線を引く(第2の直線);(3)前記第1の直線と、前記第2の直線と、の交点と、前記第1の噴霧器の吹き出し口の中心との間の鉛直方向の距離を、「第1の噴霧器と、第2の噴霧器との間の鉛直方向の距離」とし、前記第1の直線と前記第2の直線の交点と、前記第2の噴霧器の吹き出し口の中心と、の間の水平方向の距離を、「第1の噴霧器と、第2の噴霧器との間の水平方向の距離」とする。なお、距離の比較の対象となる吹き出し口が複数個存在する場合(例えば、第1の噴霧器および第2の噴霧器がそれぞれ複数個存在する場合)、異なる種類の噴霧器間の距離のうち、最も短い(近い)値を、噴霧器間の距離とする。
【0168】
第一の製造方法において、第1の噴霧器および第2の噴霧器が、両方とも容器の頂部あるいは頂部付近に設置される場合、第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の水平方向の距離は、0であり得る。
【0169】
第一の製造方法において、第2の噴霧器から噴霧される凝固剤溶液のスプレーコーンの先端角度は、特に限定されないが、5°~140°であることが好ましく、30°~90°であることがより好ましい。第一の製造方法において、凝固剤溶液のスプレーコーンの角度が上記範囲である場合、(i)ラテックスおよび添加剤溶液を含む液滴と、凝固剤溶液の液滴と、を効率的に接触させることができるため、効率的に凝集体を製造することができ、(ii)凝集体の製造に使用する装置の過剰な大型化を抑制することができる。さらに、第一の製造方法において、(iii)特に、スプレーコーンの先端角度を5°以上とすることで、噴霧された凝固剤溶液の液滴同士が合一化することを抑制することもできる。また、第一の製造方法において、凝固剤溶液のスプレーコーンの形状は特に限定されず、例えば、扇状であってもよく、円錐状であってもよく、中空円錐状であってもよい。
【0170】
第一の製造方法において、第2の噴霧器の数は特に限定されず、1つであってもよく、2個以上であってもよい。
【0171】
第一の製造方法において、接触工程において噴霧される凝固剤溶液の液滴の体積平均液滴径は、0.01μm~500.00μmであることが好ましく、0.05μm~100.00μmであることがより好ましく、0.10μm~50.00μmであることがさらに好ましい。上記構成によれば、ラテックスの液滴と、凝固剤溶液の液滴とを、効率的に接触させることができ、ラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を十分に凝集させることができる。その結果、嵩比重の高い粉粒体を得ることができるという利点を有する。
【0172】
なお、ラテックスの液滴、および凝固剤溶液の液滴の体積平均液滴径は、例えば、レーザー回折式スプレー液滴径測定装置により測定することができる。
【0173】
第一の製造方法の接触工程において、ラテックスの液滴と接触させる凝固剤の量は、重合体微粒子の種類(組成)、凝固剤の種類、ラテックス中の重合体微粒子の濃度、および、凝固剤溶液中の凝固剤の濃度、などに応じて適宜に調節することができる。本明細書において、「ラテックスの液滴と接触させる凝固剤の量」とは、接触工程において、単位時間当たりに噴霧および/または滴下されるラテックス中の重合体微粒子の合計量に対する、単位時間当たりに噴霧される凝固剤溶液中の凝固剤の量を意図する。(a)未凝集となる重合体微粒子の発生を防ぐことができ、重合体微粒子の凝集体をより多く得ることができ、且つ、(b)得られる凝集体および粉粒体に含まれる凝固剤由来の夾雑物を低減できる、という利点があることから、第一の製造方法において、ラテックスの液滴と接触させる凝固剤の量は、単位時間当たりに噴霧および/または滴下されるラテックス中の重合体微粒子の合計量100重量部に対して、1重量部~30重量部であることが好ましく、2重量部~20重量部であることがより好ましく、3重量部~15重量部であることがさらに好ましい。なお、接触工程における「ララテックスの液滴と接触させる凝固剤の量」は、凝固剤溶液中の凝固剤の濃度、単位時間当たりに噴霧される凝固剤溶液の量、等を適宜変更することで調節することができる。
【0174】
第一の製造方法において、接触工程に供するときの(噴霧および/または滴下する直前の)ラテックスの温度は、特に限定されない。接触工程に供するときのラテックスの温度は、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがさらに好ましく、15℃~50℃であることがよりさらに好ましく、20℃~30℃であることが特に好ましい。第一の製造方法において、接触工程に供するときのラテックスの温度が前記の範囲内である場合、ラテックスの安定性を確保できるという利点を有する。
【0175】
第二の製造方法において、接触工程に供するときの(噴霧および/または滴下する直前の)ラテックスの温度は、特に限定されない。接触工程に供するときのラテックスの温度は、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがさらに好ましく、15℃~50℃であることがよりさらに好ましく、20℃~30℃であることが特に好ましい。第二の製造方法において、接触工程に供するときのラテックスの温度が前記の範囲内である場合、ラテックスの安定性を確保できるという利点を有する。
【0176】
第一の製造方法において、接触工程に供するときの(噴霧および/または滴下する直前の)凝固剤溶液の温度は、特に限定されない。第一の製造方法において、接触工程に供するときの凝固剤溶液の温度は、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、5℃~80℃であることがより好ましく、10℃~70℃であることがさらに好ましく、15℃~50℃であることがよりさらに好ましく、20℃~30℃であることが特に好ましい。また、第一の製造方法において、接触工程に供するときの凝固剤溶液の温度は、接触工程に供するときのラテックスの温度と同一であってもよく、異なっていてもよい。第一の製造方法において、接触工程に供するときの凝固剤溶液の温度が前記の範囲内である場合、(a)凝固剤溶液中の凝固剤が析出することを抑制できるという利点、および、(b)凝固剤溶液の溶媒の蒸発を抑制でき、当該凝固剤溶液の濃度を一定に保つことができるという利点、等の利点を有する。
【0177】
第一の製造方法において、接触工程における容器内の温度(気相の領域の温度)は、特に限定されないが、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、1℃以上、100℃未満であることがより好ましく、10℃~95℃であることがより好ましく、20℃~95℃であることがより好ましく、30℃~90℃であることがより好ましく、40℃~90℃であることがより好ましく、50℃~85℃であることがより好ましく、60℃~85℃であることがさらに好ましく、70℃~85℃であることがよりさらに好ましく、75℃~85℃であることが特に好ましい。
第一の製造方法において、接触工程における容器内の温度が前記範囲内である場合、ラテックスおよび凝固剤溶液を含む液滴中の重合体微粒子を十分に凝集させることができ、その結果、嵩比重の高い粉粒体を得ることができる。第一の製造方法において、接触工程における容器内の温度は、例えば、水蒸気を容器内に送気することにより制御することができる。
【0178】
第二の製造方法において、接触工程における容器内の温度(気相の領域の温度)は、特に限定されないが、例えば、100℃~200℃であることが好ましく、100℃~190℃であることがより好ましく、100℃~180℃であることがさらに好ましく、100℃~170℃であることがよりさらに好ましく、100℃~160℃であることが特に好ましい。第二の製造方法において、接触工程における容器内の温度が前記範囲内である場合、液滴中の水分を蒸発できるという利点を有する。
【0179】
第一の製造方法において、接触工程では、容器の側壁面に沿って水を流下させてもよい。これにより、気相中に噴霧および/または滴下されたラテックスおよび凝固剤溶液、並びに気相中で生成した凝集体が、容器の側壁面に付着することを抑制することができる。第一の製造方法において、側壁面に沿って流下させる水(流下水)の量は、特に限定されないが、例えば、ラテックス中の重合体微粒子100重量部に対し10重量部~10000重量部であることが好ましい。第一の製造方法において、容器の側壁面に沿って流下させる水量が前記範囲内である場合、ラテックスおよび凝固剤溶液、並びに気相中で生成した凝集体が、容器の側壁面に付着することを抑制することができ、かつ、排水処理の負荷が過剰に高くなる虞がない。第一の製造方法において、側壁面に沿って流下させる水の温度は、流下操作を簡便にする観点から、0℃~100℃であることが好ましく、10℃~90℃であることがより好ましい。
【0180】
第一の製造方法において、接触工程で容器の側壁面に沿って水を流下させる場合、気相中で得られた凝集体を流下水とともに、別の容器に移送してもよい。そのようにして、別の容器に移送された後、別の容器内で、凝集体を含む懸濁液を用いて、後述する熱処理工程を行ってもよい。
【0181】
場合Eにおいて、容器の底部にて備えられた液相中の凝固剤の濃度(量)は、液相の全量100重量%中、0.01重量%~5.00重量%であることが好ましい。場合Eでは、接触工程において、気相中で生成したラテックスと凝固剤溶液とが一体化してなる液滴は、気相中を降下し、液相に入る。また、場合Eでは、(i)接触工程において、気相中で接触しなかった、ラテックスの液滴および凝固剤溶液の液滴、(ii)並びに噴霧された洗浄水も、液相に入る。場合Eにおいて、凝固剤溶液中の凝固剤の濃度(量)が、液相中の凝固剤の濃度(量)よりも高い(濃い)場合、接触工程の進行に伴い、液相中の凝固剤の濃度(量)が上昇する。場合Eにおいて、接触工程において、容器の内壁面に沿って水を流下させる場合、水の量を調整することにより、接触工程の間、液相中の凝固剤の濃度(量)を調整することが可能となる。
【0182】
場合Eにおいて、接触工程における液相の温度は、特に限定されないが、例えば、1℃~100℃であることが好ましく、5℃~90℃であることがより好ましく、10℃~85℃であることがより好ましく、20℃~80℃であることがより好ましく、30℃~75℃であることがより好ましく、40℃~70℃であることがさらに好ましく、50℃~70℃であることが特に好ましい。液相の温度が低いほど、重合体微粒子の凝集の反応速度が遅くなり、液相の温度が高いほど、重合体微粒子の凝集の反応速度が速くなる。また、液相の温度が低いほど、消費エネルギー量が小さくなる。そのため、反応速度と消費エネルギーの観点から、液相の温度を適宜設定すればよい。
【0183】
(噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程)
本製造方法では、接触工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施する。噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、第1の噴霧器からのラテックスの噴霧および/または滴下を中断し、第1の噴霧器から洗浄水を0.05MPa~50.00MPaの圧力で噴霧し、第1の噴霧器からラテックスの噴霧および/または滴下を再開する工程である。
【0184】
接触工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、噴霧工程の開始から75分間経過するまでの間に実施することが好ましく、噴霧工程の開始から70分間経過するまでの間に実施することがより好ましく、噴霧工程の開始から65分間経過するまでの間に実施することがより好ましく、噴霧工程の開始から60分間経過するまでの間に実施することがより好ましく、噴霧工程の開始から55分間経過するまでの間に実施することがより好ましく、噴霧工程の開始から50分間経過するまでの間に実施することがさらに好ましく、噴霧工程の開始から45分間経過するまでの間に実施することが特に好ましい。当該構成によると、噴霧器の吹き出し口が閉塞する前に洗浄できるという利点を有する。
【0185】
噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程において、前記洗浄水の噴霧時間は、5秒以上であることが好ましく、6秒以上であることがより好ましく、7秒以上であることがより好ましく、8秒以上であることがより好ましく、9秒以上であることがさらに好ましく、10秒以上であることが特に好ましい。当該構成によると、(i)第一の製造方法では得られる懸濁液が過度に希釈されないという利点を有し、(ii)第二の製造方法では、ラテックスの液滴中からの溶媒の蒸発が効率よく進行するとともに、得られた粉粒体が過度に濡れる虞がないという利点を有する。
【0186】
噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程において、前記洗浄水の噴霧圧力は、0.05MPa~50.00MPaであることが好ましく、0.05MPa~10.00MPaであることがより好ましく、0.10MPa~10.00MPaであることがより好ましく、0.10MPa~5.00MPaであることがさらに好ましく、1.00MPa~3.00MPaであることが特に好ましい。当該構成によると、ノズル付近および/または内部のスケールを勢いよく除去できるという利点を有する。
【0187】
接触工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、複数回繰り返してもよい。すなわち、第1の噴霧器からラテックスの噴霧および/または滴下を再開した後、第1の噴霧器からのラテックスの噴霧および/または滴下の中断し、第1の噴霧器から洗浄水を0.05MPa~50.00MPaの圧力で噴霧し、第1の噴霧器からラテックスの噴霧および/または滴下を再開してもよい。噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を実施することにより、ラテックスの噴霧に使用したノズルを洗浄するために、粉粒体の製造方法(接触工程)を中断する必要がなくなるか、またはその頻度が低下し、従来よりも長時間、接触工程を行うことができる。噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を複数回繰り返したのち、第1の噴霧器からのラテックスの噴霧および/または滴下を終了することによって、接触工程を完了することができる。
【0188】
接触工程において、噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を複数回実施する場合、2回目以降の噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程は、第1の噴霧器からのラテックスの噴霧および/または滴下の再開から75分間経過するまでの間に実施することが好ましく、70分間経過するまでの間に実施することがより好ましく、65分間経過するまでの間に実施することがより好ましく、60分間経過するまでの間に実施することがより好ましく、55分間経過するまでの間に実施することがより好ましく、50分間経過するまでの間に実施することがさらに好ましく、45分間経過するまでの間に実施することが特に好ましい。当該構成によると、噴霧器の吹き出し口が閉塞する前に洗浄できるという利点を有する。
【0189】
(2-11.熱処理工程)
第一の製造方法は、前記接触工程後、前記液相、前記重合体微粒子の凝集体および前記凝固剤を含む懸濁液を熱処理する熱処理工程をさらに含むことが好ましい。熱処理工程は、接触工程を経て得られた懸濁液を熱処理する工程と言える。第一の製造方法において、懸濁液を熱処理することにより、重合体微粒子の表面が一部メルトして、緻密な凝集体となる。その結果、より嵩密度の高い粉粒体を得ることができる。
【0190】
第一の製造方法において、懸濁液は、接触工程の開始後の液相ともいえる。そのため、第一の製造方法において、懸濁液は、未凝固の重合体微粒子、重合体微粒子の凝集体、ラテックスに含まれている重合体微粒子以外の成分(ラテックスの溶媒を含む)、洗浄水、凝固剤および凝固剤溶液に含まれている凝固剤以外の成分(凝固剤溶液の溶媒を含む)、を含み得る。
【0191】
熱処理工程において、懸濁液中の重合体微粒子の量は、特に限定されない。熱処理工程において、懸濁液100重量%中の重合体微粒子の量は、例えば、0.1重量%以上であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、0.8重量%以上であることがより好ましく、1.0重量%以上であることがより好ましく、3.0重量%以上であることがより好ましく、5.0重量%以上であることがさらに好ましく、8.0重量%以上であることが特に好ましい。熱処理工程において、懸濁液中の重合体微粒子の量が多いほど、嵩密度が大きい粉粒体を得ることができる。熱処理工程において、懸濁液100重量%中の重合体微粒子の量は、例えば、45重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることがさらに好ましく、30重量%以下であることがよりさらに好ましく、25重量%以下であることが特に好ましい。熱処理工程において、懸濁液中の重合体微粒子の量が少ないほど、粗大粒子が生成しにくいという利点を有する。
【0192】
熱処理工程において、懸濁液中の凝固剤の量は、特に限定されない。熱処理工程において、懸濁液100重量%中の重合体微粒子の量は、例えば、0.01重量%以上であることが好ましく、0.03重量%以上であることがより好ましく、0.05重量%以上であることがより好ましく、0.08重量%以上であることがより好ましく、0.10重量%以上であることがより好ましく、0.30重量%以上であることがより好ましく、0.50重量%以上であることがより好ましく、0.80重量%以上であることがより好ましく、1.00重量%以上であることがより好ましく、1.10重量%以上であることがさらに好ましく、1.20重量%以上であることが特に好ましい。熱処理工程において、懸濁液中の凝固剤の量が多いほど、凝集力が強く、排水中への樹脂漏れ量が少なくなるという利点を有する。熱処理工程において、懸濁液100重量%中の凝固剤の量は、例えば、10.0重量%以下であることが好ましく、8.0重量%以下であることがより好ましく、6.0重量%以下であることがさらに好ましく、4.0重量%以下であることがよりさらに好ましく、2.0重量%以下であることが特に好ましい。熱処理工程において、懸濁液中の凝固剤の量が少ないほど、少量の洗浄水で凝集体中の残存夾雑物を除去できるという利点を有する。
【0193】
熱処理工程において、懸濁液中の重合体微粒子および凝固剤の合計量は、特に限定されない。熱処理工程において、懸濁液100重量%中、重合体微粒子および凝固剤の合計量は0.2重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることが好ましく、0.8重量%以上であることがより好ましく、1.0重量%以上であることがより好ましく、3.0重量%以上であることがより好ましく、5.0重量%以上であることがより好ましく、8.0重量%以上であることがさらに好ましく、10.0重量%以上であることが特に好ましい。前記合計量が多いほど、嵩密度が大きい粉粒体を得ることができる。第一の製造方法の熱処理工程において、懸濁液100重量%中の重合体微粒子および凝固剤の合計量は、45重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることがさらに好ましく、30重量%以下であることが特に好ましい。前記合計量が少ないほど、少量の洗浄水で凝集体中の残存夾雑物を除去できるという利点を有する。
【0194】
熱処理工程において、懸濁液を熱処理する方法としては、特に限定されないが、例えば、懸濁液中に、高温(例えば、130℃)の水蒸気を送気する方法が挙げられる。
【0195】
熱処理工程は、接触工程後、容器内の懸濁液を容器内で熱処理してもよく、容器内の懸濁液を容器から取り出し、別の容器にて、熱処理してもよい。
【0196】
熱処理工程において、懸濁液の温度(熱処理温度)としては、特に限定されないが、60℃~130℃出ることが好ましく、65℃~125℃であることがより好ましく、70℃~120℃であることがより好ましく、75℃~115℃であることがより好ましく、80℃~~110℃であることがより好ましく、85℃~~105℃であることがさらに好ましく、90℃~100℃であることが特に好ましい。当該構成によると、緻密な凝集体を形成できるという利点を有する。
【0197】
熱処理工程において、懸濁液を熱処理する時間としては、特に限定されないが、30秒間~15分間であることが好ましく、1分間~12分間であることがより好ましく、2分間~10分間であることがさらに好ましく、3分間~8分間であることが特に好ましい。当該構成によると、緻密な凝集体を形成できるという利点を有する。
【0198】
熱処理を実施するにあたり、加熱中および乾燥時(後)の凝集体と凝集体との凝集(粉粒体間の凝集)を抑制することが好ましい。そのため、熱処理前に、凝集体(固形分基準)100重量部に対して、硬質非弾性重合体ラテックス(固形分基準)0.5重量部~3.0重量部を添加することが好ましい。前記硬質非弾性重合体ラテックスは、熱処理前に凝集体に添加すればよく、例えば、前記回収工程で回収した凝集体に熱処理前に添加して混合してもよいし、前記接触工程において、液相中に添加しておく(含有させておく)ことにより、実質的に接触工程で凝集体に添加してもよい。前記硬質非弾性重合体ラテックスを添加した凝集体を、前述の熱処理条件で熱処理することにより、粉粒体間の凝集が抑制された粉粒体を得ることができる。
【0199】
前記硬質非弾性重合体としては、例えば、ブタジエン等のゴム弾性体を形成し得るモノマーの量が少なく(例えば、重合体全体の30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、特に0重量%)、これ以外のモノマーを重合させた重合体が使用できる。ゴム弾性体を形成しないモノマーとしては、例えば、(1)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数が10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類、(2)スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類、アクリロニトリル等のビニルシアン類、(3)1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、グリシジル(メタ)アクリレート等の多官能性モノマーが例示される。これらモノマーは、単独でまたは適宜組み合わせて使用できる。
【0200】
(2-12.回収工程)
第一の製造方法は、(i)接触工程後、得られた懸濁液から凝集体を回収する回収工程をさらに含むか、または(ii)熱処理工程後、熱処理された懸濁液から凝集体を回収する回収工程をさらに含むことが好ましい。回収工程は、懸濁液中から凝集体を分離する工程ともいえる。
【0201】
第一の製造方法において、懸濁液中から凝集体を分離する方法(分離方法)は特に限定されるものではないが、例えば、遠心脱水、静置分離、ろ過脱水(例えば、吸引ろ過)、圧搾脱水、または、水分蒸発等の方法を適用できる。また、第一の製造方法において、前記の各種の分離方法を実施する機材は、所望の分離方法に合わせて適宜選択することができる。例えば、第一の製造方法では、スクリュープレス、ローラープレス、ベルトスクリーン、振動ふるい、多重版振動フィルター、吸引ろ過機、真空脱水機、加圧脱水機、ベルトプレス、遠心脱水機、等を使用することができる。
【0202】
(2-13.乾燥工程)
第一の製造方法は、(i)接触工程後、得られた懸濁液を熱処理し、懸濁液中の凝集体を乾燥する乾燥工程をさらに含むか、(ii)熱処理工程後、熱処理された懸濁液をさらに熱処理し、懸濁液中の凝集体を乾燥する乾燥工程をさらに含むか、または(iii)回収工程後、回収された凝集体を乾燥する乾燥工程をさらに含むことが好ましい。乾燥工程は、凝集体を乾燥することにより、当該凝集体に含まれるラテックス、凝固剤溶液、および液相等に由来する水分を除去するとともに、凝集体内の重合体微粒子間の融着を促進させる工程であるとも言える。
【0203】
乾燥工程において、凝集体を乾燥する方法は特に限定されず、公知の方法を使用できる。例えば、凝集体を熱処理することによって、当該凝集体を乾燥してもよい。
【0204】
乾燥工程において、凝集体を熱処理することで乾燥する場合、熱処理の温度は特に限定されないが、例えば、60℃~120℃であることが好ましく、60℃~100℃であることがより好ましく、65℃~95℃であることがさらに好ましい。また、乾燥工程において、熱処理時間は、例えば、1分間~60分間であることが好ましく、5分間~30分間であることがより好ましい。
【0205】
第二の製造方法では、上述した接触工程において、容器内の温度が上述した範囲内であることにより、噴霧により生じたラテックスの液滴中から溶媒を蒸発させることが可能である。これにより、接触工程において重合体微粒子の凝集体が生成されるとともに、得られた凝集体を乾燥させることができる。その結果、第二の製造方法では、接触工程によって、重合体微粒子の粉粒体を得ることができる。
【0206】
〔4.粉粒体〕
本製造方法で得られる粉粒体もまた、本発明の一実施形態である。「本発明の一実施形態に係る粉粒体」を、「本粉粒体」と称する場合がある。本粉粒体は、マトリクス樹脂と本粉粒体とをブレンドして得られる樹脂組成物またはその成形体もしくは硬化物中で、重合体微粒子の良好な分散状態を実現できるという利点を有する。本明細書において、「粉粒体(重合体微粒子の粉粒体)」とは、重合体微粒子の一次粒子の集合体、換言すれば重合体微粒子の二次粒子であってもよい。
【0207】
本粉粒体は、粒度分布幅が狭い高いという利点を有する。本明細書において、粉粒体の粒度分布幅は、粉粒体のD90からD10を引いた差を、D50で除した値である。粉粒体のD10、D50およびD90の測定方法については、後述する実施例にて詳説する。
【0208】
本粉粒体は、粒度分布幅が3.0以下であることが好ましく、2.8以下であることがより好ましく、2.5以下であることがより好ましく、2.3以下であることがより好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、1.3以下であることが特に好ましい。粉粒体の粒度分布幅が小さいほど、粉粒体の微粉量が少なくなり得る。粉粒体の微粉量が少ないほど粉立ちが少なく、作業性が良い点や梱包時の充填率が高いため、輸送費が安くなるという利点を有する。また、本粉粒体の粒度分布幅の下限は特に限定されないが、例えば、0.1以上であり得る。
【実施例0209】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0210】
〔測定方法〕
先ず、製造例によって製造した重合体微粒子の評価方法、並びに、実施例および比較例にて製造された粉粒体の評価方法について、説明する。
【0211】
<連続運転の可否の評価>
連続運転の可否は、第1の噴霧器から噴霧するラテックスの流量の変化で評価した。
【0212】
ラテックス流量の変化が、噴霧開始時点(接触工程の開始時点)±10%以下である場合、連続運転「可」と判断し、ラテックス流量の変化が噴霧開始時点(接触工程の開始時点)±10%超である場合、連続運転「不可」と判断し「否」と表記した。
【0213】
<粉粒体のD10、D50およびD90の測定>
粉粒体のD10、D50およびD90は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950(HORIBA社)を用いて測定した。具体的な測定方法としては、イオン交換水20mLに、分散剤として界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム0.05gを加えて、界面活性剤水溶液を得た。その後、上記界面活性剤水溶液に、測定対象の粉粒体0.2gを加え、粉粒体を界面活性剤水溶液中に分散させ、測定用の分散液を得た。調製した分散液を上記レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置に導入し、粉粒体の粒度分布の測定を行った。粉粒体のD10は、体積基準の粒度累積分布で最大粒度に対して10%に該当する粒度、粉粒体のD50は、体積基準の粒度累積分布で最大粒度に対して50%に該当する粒度、粉粒体のD90は、体積基準の粒度累積分布で最大粒度に対して90%に該当する粒度である。下記の式から、粉粒体の粒度分布幅を算出した:
粒度分布幅=(D90-D10)/D50
【0214】
〔製造例1〕
<ラテックスの製造>
(第1の弾性体の重合)
以下の組成の混合物をガラス製反応器に仕込み、窒素気流中で撹拌しながら、当該ガラス製反応器内の温度を80℃に昇温した:
混合物の組成: (重量部)
イオン交換水 220
ホウ酸 0.3
炭酸ナトリウム 0.03
N-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム 0.09
ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム 0.09
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.006
硫酸第1鉄7水塩 0.002。
【0215】
その後、メチルメタクリレート25重量部およびアリルメタクリレート0.1重量部からなる第1のモノマー成分と、連鎖移動剤であるt-ドデシルメルカプタン0.1重量部と、重合開始剤であるt-ブチルハイドロパーオキサイド(BHPO)0.1重量部と、の混合液を調製した。次いで、調製した混合液100重量%のうち、25重量%を一括して前記ガラス製反応器内に仕込み、45分間の重合を行なった。
【0216】
続いて、前記混合液の残りの75重量%を、1時間にわたって前記ガラス製反応器内に連続添加した。連続添加の終了後、前記ガラス製反応器内を80℃でさらに2時間保持することで、重合を完結させ、弾性体(第1の弾性体、最内層の弾性体であるともいえる)のラテックスを得た。なお、混合液の添加後の温度保持(80℃で2時間)の間に、0.2重量部のN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムを前記ガラス製反応器内に追加した。得られた第1の弾性体の平均粒子径は0.16μmであり、重合転化率(重合生成量/モノマー仕込量)は98%であった。
【0217】
(第2の弾性体の重合)
上記の第1の弾性体の重合で使用したガラス製反応器を、そのまま第2の弾性体の重合に使用した。まず、第1の弾性体のラテックスを含むガラス製反応器内を、窒素気流中で80℃に保持した。当該ラテックスに、過硫酸カリウム0.1重量部を添加したのち、ブチルアクリレート(アクリル酸n-ブチル)41重量部、スチレン9重量部、および、アリルメタクリレート1重量部からなる第2のモノマー混合液を、5時間にわたって連続添加した。なお、連続添加の間に、オレイン酸カリウムを3回に分けて合計で0.1重量部、前記ラテックス中に添加した。第2のモノマー混合液の連続添加終了後、重合を完結させるために、さらに過硫酸カリウム0.05重量部を反応系に添加した。さらに2時間、ガラス製反応器内の温度を80℃で保持することで、第1の弾性体に、さらに第2の弾性体が重合してなる弾性体(ブチルアクリレートゴムのみから構成されている弾性体)のラテックスを得た。得られた弾性体の体積平均粒子径は0.23μmであり、重合転化率は99%であった。
【0218】
(グラフト部の重合)
上記の第2の弾性体の重合で使用したガラス製反応器を、そのままグラフト部の重合に使用した。まず、弾性体のラテックスを含むガラス製反応器内を80℃に保持した。当該ラテックスに、過硫酸カリウム0.02重量部を添加したのち、メチルメタクリレート24重量部、ブチルアクリレート(アクリル酸n-ブチル)1重量部、および、t-ドデシルメルカプタン0.1重量部からなるグラフトモノマー混合液を、1時間にわたって連続添加した。グラフトモノマー混合液の追加終了後、ガラス製反応器内の温度を80℃でさらに1時間保持することで、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体(重合体微粒子)のラテックス(水性ラテックス)を得た。得られた重合体微粒子の体積平均粒子径は0.25μmであり、重合転化率は99%であった。なお、得られたラテックス100重量%中の固形分(重合体微粒子)の量(濃度)は、35重量%であった。
【0219】
(硬質非弾性重合体ラテックス(P-1)の調製)
脱イオン水200重量部、オレイン酸ナトリウム0.3重量部、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)0.002重量部、EDTA・2Na塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を100Lの重合機(攪拌機付耐圧反応容器)に投入した。投入した撹拌しながら、容器内の温度を70℃に昇温した。その後、重合機内の内容物に、メチルメタクリレート45重量部、スチレン45重量部、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート10重量部、及びクメンハイドロパーオキサイド0.3重量部からなる単量体混合液を7時間かけて連続添加した。この間、連続添加の開始から2時間目、4時間目および6時間目にオレイン酸ソーダを各0.3重量部追加した。単量体混合液の連続添加終了後、更に2時間内容物の撹拌を続けて、硬質非弾性重合体ラテックス(P-1)を得た。重合転化率は99%であった。
【0220】
(実施例1)
(接触工程)
製造例1のラテックス1000g(重合体微粒子350gを含む)を25℃に調整した。容器として、鉛直な側壁を有する円筒形状の容器を使用した。容器の直径は80cmであった。容器は、底部に、気相中で生成した凝集体を受けるための液相を備えていた。容器の頂部から液相の液面までの鉛直方向の高さは100cmであった。第1の噴霧器として、加圧ノズルの一種である旋回流式円錐ノズルでノズルの口径4.9mm(最小異物通過径2.3mm)のものを用いた。第1の噴霧器は容器の上部(頂部)に備えられていた。第1の噴霧器と液相との間の鉛直方向の距離は100cmであった。容器の気相中に、蒸気を吹き込み、容器内の温度を80℃とした。80℃の雰囲気化、第1の噴霧器を用いて、重合体微粒子を含むラテックスを、鉛直下方向に、噴霧した。ラテックスの噴霧圧力は3.7kg/cmであり、噴霧されたラテックスの体積平均液滴径は200μmであった。また、噴霧したラテックスのスプレーコーンの形状は充円錐状であり、先端角度は50°~60°であった。
【0221】
ラテックスの噴霧と同時に、第2の噴霧器にて、凝固剤溶液(塩化カルシウムの水溶液;塩化カルシウム水溶液100重量%中の塩化カルシウムの濃度は35重量%であり、25℃である)を、空気と混合した状態で、水平方向に噴霧した。凝固剤溶液の噴霧圧力は4.0kg/cmであり、噴霧された凝固剤溶液の体積平均液滴径は0.10μm~30.00μmであった。また、噴霧した凝固剤溶液のスプレーコーンの形状は中空円錐状であり、先端角度は70°~90°であった。
ここで、第2の噴霧器としては、二流体ノズルでノズルの口径0.5mmのものを用いた。第2の噴霧器は、容器の側壁に、第1の噴霧器よりも下方の位置に、凝固剤溶液を水平方向に噴霧するように設置した。第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の水平方向の距離は20cmであり、第1の噴霧器と第2の噴霧器との間の鉛直方向の距離は10cmであった。凝固剤溶液の噴霧量は、単位時間当たりに噴霧された前記ラテックス中の重合体微粒子100重量部に対し、単位時間当たりの凝固剤(塩化カルシウム)の噴霧量が5重量部~10重量部となるような量であった。
【0222】
(噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程)
上述した接触工程を40分間実施した後、第1の噴霧器からラテックスの噴霧を中断し、第1の噴霧器から洗浄水を2MPaの圧力で10秒間噴霧し、第1の噴霧器からラテックスの噴霧を再開した。再開後のラテックスの噴霧は40分間であった。係る操作により、気相中を降下したラテックスの液滴と、気相中に噴霧した凝固剤溶液の液滴と、を接触させ、凝集体を得た。
【0223】
気相中を降下した凝集体を、前記容器の底部にて、35kgの塩化カルシウム水溶液(液相)中に落下させた。液相である塩化カルシウム水溶液100重量%中の塩化カルシウムの濃度は1重量%であった、また、液相である塩化カルシウム水溶液は、水蒸気の送気により80℃に加熱されていた。また、液相である塩化カルシウム水溶液は、重合体微粒子間の融着を防止するため、重合体微粒子100重量部に対して1重量部の硬質非弾性重合体ラテックス(P-1)を含んでいた。かかる接触工程により、重合体微粒子の凝集体を含む懸濁液を得た。このようにして得られた懸濁液100重量%中の重合体微粒子の量(濃度)は、10.7重量%であった。
【0224】
接触工程後、懸濁液中に水蒸気を送気し、懸濁液を5分間、95℃で熱処理した(熱処理工程)。その後、懸濁液から凝集体を回収し(回収工程)、次いで、得られた凝集体を、乾燥して(乾燥工程)、粉粒体を得た。得られた粉粒体の粒度分布を測定した。その結果を表1に示す。
【0225】
(実施例2)
噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程に関して、接触工程を40分間実施した後、第1の噴霧器からラテックスの噴霧を中断し、第1の噴霧器から洗浄水を2MPaの圧力で20秒間噴霧し、再び40分間、第1の噴霧器からラテクスの噴霧を再開し、さらに、第1の噴霧器から洗浄水を2MPaの圧力で20秒間噴霧した。それ以外は、実施例1と同じ方法により、粉粒体を得た。得られた粉粒体の粒度分布を測定した。その結果を表1に示す。
【0226】
(実施例3)
噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程に関して、接触工程を40分間実施した後、第1の噴霧器からラテックスの噴霧を中断し、第1の噴霧器から洗浄水を2MPaの圧力で5秒間噴霧し、再び40分間、第1の噴霧器からラテクスの噴霧を再開し、さらに、第1の噴霧器から洗浄水を2MPaの圧力で5秒間噴霧した。それ以外は、実施例1と同じ方法により、粉粒体を得た。得られた粉粒体の粒度分布を測定した。その結果を表1に示す。
【0227】
(比較例1)
噴霧中断-洗浄-噴霧再開工程を行うことなく、80分間、連続して接触工程を実施した。それ以外は、実施例1と同じ方法により、粉粒体を得た。得られた粉粒体の粒度分布を測定した。その結果を表1に示す。
【0228】
実施例1~3では、第一の製造方法を実施したといえる。また、実施例1~3で使用した洗浄水は、イオン交換水であった。
【0229】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0230】
本発明の一実施形態にかかる粉粒体の製造方法は、連続して実施可能である。そのため、効率的に、粉粒体を提供することができる。それゆえ、本発明の一実施形態に係る製造方法は、熱可塑性樹脂用改質剤の製造の一工程として、好適に利用できる。