(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146506
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】グラファイトシート用樹脂フィルム、グラファイトシートおよびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/42 20060101AFI20241004BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20241004BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B32B27/42 101
C01B32/205
B32B27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059456
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】片山 覚嗣
(72)【発明者】
【氏名】川久保 靖
【テーマコード(参考)】
4F100
4G146
【Fターム(参考)】
4F100AD11
4F100AD11A
4F100AD11B
4F100AK33
4F100AK33B
4F100AK49
4F100AK49A
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4G146AB07
4G146AC01A
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4G146AC22B
4G146AD20
4G146BA15
4G146BA18
4G146BC04
4G146CB19
4G146CB35
(57)【要約】
【課題】優れた熱拡散率を有し、かつ、製造コストが低いグラファイトシートの原料となるグラファイトシート用樹脂フィルムの提供。
【解決手段】単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層が積層されている積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層が積層されている積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルムであって、
前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である、グラファイトシート用樹脂フィルム。
【請求項2】
前記積層構造が、前記非熱可塑性ポリイミド層と前記フェノール樹脂層とが、直接積層されている積層構造である、請求項1に記載のグラファイトシート用樹脂フィルム。
【請求項3】
前記フェノール樹脂層の厚みが1μm超である、請求項1に記載のグラファイトシート用樹脂フィルム。
【請求項4】
前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みが5μm以上である、請求項1に記載のグラファイトシート用樹脂フィルム。
【請求項5】
前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する、隣り合う前記フェノール樹脂層の厚みの比(前記フェノール樹脂層の厚み/前記非熱可塑性ポリイミド層の厚み)が、0.1以上、10.0以下である、請求項2に記載のグラファイトシート用樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のグラファイトシート用樹脂フィルムを原料として含む、グラファイトシート。
【請求項7】
熱拡散率が、2.0cm2/s以上である、請求項6に記載のグラファイトシート。
【請求項8】
厚みが、10μm以上である、請求項6に記載のグラファイトシート。
【請求項9】
密度が0.9g/cm3以上である、請求項6に記載のグラファイトシート。
【請求項10】
請求項1~5の何れか1項に記載のグラファイトシート用樹脂フィルムを2400℃以上の温度で熱処理する工程を含む、グラファイトシートの製造方法。
【請求項11】
非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層を形成して積層体を調製する工程を含むグラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法であって、
前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である、グラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトシート用樹脂フィルム、グラファイトシートおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトシートは、優れた熱伝導性を有することから、コンピュータなどの各種電子機器、電気機器に搭載される半導体素子およびその他の発熱部品などに、放熱用の部材として使用されている。
【0003】
このようなグラファイトシートを製造する方法としては、ポリイミドフィルムに対して、不活性ガス中において、例えば、2400℃以上の高温で熱処理を行い、当該ポリイミドフィルムを構成するポリイミドを炭化・黒鉛化した後、任意で圧延処理を行う方法が知られている。
【0004】
また、近年は、熱輸送の面で有利な膜厚の大きいグラファイトシートの需要が増大している。かかるグラファイトシートの製造方法としては、例えば、原料として、2層以上のポリイミドフィルムが積層してなる積層ポリイミドフィルムを使用する方法が知られている(特許文献1~3、等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2022/158526号パンフレット
【特許文献2】特開2017-114098号公報
【特許文献3】特表2022-512190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の積層ポリイミドフィルムを使用してグラファイトシートを製造する技術は、低い製造コストでグラファイトシートを製造するという点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、熱拡散率に優れ、かつ、製造コストが低いグラファイトシート、および、当該グラファイトシートの原料となるグラファイトシート用樹脂フィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
【0009】
即ち、本発明の一実施形態は、非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層が積層されている積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルムであって、前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である、グラファイトシート用樹脂フィルムに関する。
【0010】
また、本発明の一実施形態は、非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層を形成して積層体を調製する工程を含むグラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法であって、前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である、グラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に係るグラファイトシート用樹脂フィルムによれば、熱拡散率に優れ、かつ、製造コストが低いグラファイトシート、および、当該グラファイトシートの製造に利用できるグラファイトシート用樹脂フィルムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るグラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法における積層体を調製する工程を、プレス機を用いて実施する方法の一例を表す摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0014】
<1.本発明の技術的思想>
グラファイトシートを放熱用の部材として使用するためには、当該グラファイトシートが熱拡散率に優れることが求められる。グラファイトシートの熱拡散率は、当該グラファイトシートの結晶配向性に依存し、当該結晶配向性が高い場合に、グラファイトシートの熱拡散率は向上する。
【0015】
配向性が高いポリイミドフィルムは、炭化・黒鉛化する場合に、結晶化が良好に進行するので、結晶配向性が高く、熱拡散率に優れるグラファイトシートを製造することができる。そのため、従来は、厚みが大きく、結晶配向性の高いグラファイトシートを製造するために、配向性が高いポリイミドフィルムのみから構成される積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルムが原料として使用されてきた。
【0016】
しかしながら、前記配向性が高いポリイミドフィルムのみから構成される積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルムは、コストの面で不利であるとの問題が存在する。
【0017】
製造コストが低いグラファイトシートとしては、例えば、ポリイミドよりも安価な樹脂から構成されるフィルムを原料として製造されるグラファイトシートが考えられる。しかしながら、そのようなグラファイトシートは、熱拡散率が低かった。
【0018】
本発明者は、検討を行う中で、製造コストは低いが、得られるグラファイトシートの熱拡散率が低いと予想されるフェノール樹脂を使用して、複屈折が高い非熱可塑性ポリイミドフィルム上に、当該フェノール樹脂層を積層した積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルムを炭化・黒鉛化したところ、予想に反して、優れた熱拡散率を達成できるグラファイトシートが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
これは、以下に示す作用によるものであると想定される。本発明の一実施形態に係るグラファイトシート用樹脂フィルムは、加熱され、炭化・黒鉛化される際、前記フェノール樹脂層を構成するフェノール系樹脂が熱分解し、その結果、当該フェノール樹脂層は収縮しようとする方向に力が働く。一方、前記フェノール樹脂層が積層している前記非熱可塑性ポリイミド層は、構成する非熱可塑性ポリイミドが、前記フェノール系樹脂よりも、熱的に安定であり、熱分解温度が高いことが知られている。具体的には、通常、前記フェノール系樹脂の「熱分解温度」は、前記非熱可塑性ポリイミドの「熱分解温度」と比較して、10℃以上低温であることが知られている。なお、前記「熱分解温度」は、「熱分解ピーク温度(Tp)」と呼称される、熱重量測定(TG)曲線を、時間で微分して得られる微分熱重量測定(DTG)曲線のピーク位置の温度を意図する。よって、前記フェノール系樹脂が熱分解する際には、前記非熱可塑性ポリイミドは熱分解しないので、前記非熱可塑性ポリイミド層は、その形状が変化しない。従って、当該フェノール樹脂層は、熱分解の際に、前記非熱可塑性ポリイミド層により積層固定されており、その結果、前述の収縮しようとする方向に働く力に反して収縮せず、疑似的に延伸され、その配向性が向上する。その結果、結晶配向性が高く、熱拡散率に優れるグラファイトシートに変化すると考えられる。
【0020】
このような、配向性が低いフェノール樹脂層を含む積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルムから、熱拡散率に優れるグラファイトシートが得られることは、従来知られておらず、驚くべき知見である。
【0021】
<2.グラファイトシート用樹脂フィルム>
以下、本発明の一実施形態に係るグラファイトシート用樹脂フィルム(以下、本樹脂フィルムと称する場合がある。)について詳説する。本樹脂フィルムは、非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層が積層されている積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルムであって、前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である、グラファイトシート用樹脂フィルムである。なお、本明細書中において、前記非熱可塑性ポリイミド層を、「ポリイミドフィルム」とも称する。
【0022】
本樹脂フィルムは、製造コストが低い、フェノール樹脂層を含むことにより、製造コストが低いグラファイトシートを提供することができる。
【0023】
また、前述の通り、本樹脂フィルムにおけるフェノール樹脂層は、前記非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に積層されていることにより、炭化・黒鉛化の際に疑似的に延伸され、その配向性が向上し、熱拡散率に優れるグラファイト層に変化すると考えられる。さらに、本樹脂フィルムにおける前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上であり、配向性が高いことから、炭化・黒鉛化により、熱拡散率に優れるグラファイト層に変化する。よって、本樹脂フィルムから、炭化・黒鉛化により、優れた熱拡散率を備えるグラファイトシートを製造することができる。
【0024】
このように、本樹脂フィルムは、優れた熱拡散率を有し、かつ、製造コストが低いグラファイトシートを提供できるとの効果を奏する。
【0025】
<2.1.非熱可塑性ポリイミド層>
(複屈折)
本樹脂フィルムを構成する前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である。ここで、「単層フィルムにおける複屈折」とは、前記非熱可塑性ポリイミド層を単層として形成したときのその単層の複屈折を意味し、例えば、前記フェノール樹脂層を積層する前の前記非熱可塑性ポリイミド層を対象として複屈折を測定することによって決定することができる。
【0026】
前記非熱可塑性ポリイミド層は、前記フェノール樹脂層を積層した場合であってもその配向性が変化しないことから、その複屈折も実質的に変化しない。よって、積層構造を有する本樹脂フィルムにおいて、前記非熱可塑性ポリイミド層の「単層フィルムにおける複屈折」は、例えば、本樹脂フィルムから前記フェノール樹脂層等を除去した後、残留する前記非熱可塑性ポリイミド層を対象として複屈折を測定することによって決定することができる。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記複屈折は、JIS K0062:1992に記載の方法によって測定することができる。具体的には、前記複屈折は、市販の屈折率測定装置を使用して測定することができ、より詳細には、後述の実施例に記載の方法によって、測定することができる。
【0028】
前記複屈折が高い場合、炭化・黒鉛化により、前記非熱可塑性ポリイミド層が、熱拡散率により優れるグラファイト層に変化するため、前記複屈折が高い方が好ましい。具体的には、前記複屈折は、0.1以上であることがより好ましい。また、通常、前記複屈折は、0.2以下であり得、0.16以下であることが好ましい。
【0029】
(非熱可塑性ポリイミド層の組成)
前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上であり、非熱可塑性ポリイミドを含む層であれば、その組成は、特に限定されない。前記非熱可塑性ポリイミド層は、酸二無水物成分と、ジアミン成分とを、主原料とする非熱可塑性ポリイミドを含むことが好ましい。
【0030】
(酸二無水物成分)
前記酸二無水物成分は、特に限定されない。前記酸二無水物成分は、前記酸二無水物成分の総量100モル%中、ピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」とも称する)を50モル%以上含むことが好ましい。前記酸二無水物成分が含むPMDAの量は、適度な配向性および複屈折を有する前記非熱可塑性ポリイミド層を提供できるとの観点から、前記酸二無水物成分の全量100モル%に対して、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは、90モル%以上である。前記酸二無水物成分が含むPMDAの量は、95モル%以上であってもよく、100モル%であってもよい。
【0031】
前記非熱可塑性ポリイミドは、前記酸二無水物成分として、前記PMDA以外のその他の酸二無水物を含んでもよい。前記その他の酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、「BTDA」と称する)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(以下、「ODPA」と称する)、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、1,1-(ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)およびそれらの類似物を挙げることができる。前記その他の酸二無水物としては、これらの酸二無水物を単独で使用してもよく、これら酸二無水物の複数種類を任意の割合で混合することもできる。
【0032】
前記非熱可塑性ポリイミドの原料である前記酸二無水物成分における、前記その他の酸二無水物の含有量は、前記酸二無水物成分の総量100モル%中、50モル%以下であり得、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは10モル%以下である。
【0033】
(ジアミン成分)
前記非熱可塑性ポリイミドの原料である前記ジアミン成分は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(以下、「ODA」と称する)を50モル%以上含むことが好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態において、適度な配向性および複屈折を有する前記非熱可塑性ポリイミド層を提供できるとの観点から、前記ジアミン成分が含むODAの量は、前記ジアミン成分の全量100モル%に対して、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは、70モル%以上である。前記ジアミン成分が含むODAの量は、80モル%以上であってもよく、90モル%以上であってもよく、95モル%以上であってもよく、100モル%であってもよい。
【0035】
中でも、前記ジアミン成分として、ODAを50モル%以上含み、前記酸二無水物成分として、PMDAを50モル%以上含むことが好ましい。かかる構成によれば、前記非熱可塑性ポリイミド層の配向性および複屈折が向上し、その結果として、最終的に得られるグラファイトシートの熱拡散率が良好となる。
【0036】
前記非熱可塑性ポリイミドは、前記ジアミン成分として、前記ODA以外のその他のジアミンを含んでもよい。前記その他のジアミンとしては、例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、「BAPP」と称する)、p-フェニレンジアミン(PDA)、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’-ジアミノジフェニルシラン、4,4’-ジミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノジフェニルN-メチルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルN-フェニルアミン、1,3-ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を挙げることができる。前記その他のジアミンとしては、これらのジアミンを単独で使用してもよく、これらジアミンの複数種類を任意の割合で使用することもできる。
【0037】
前記非熱可塑性ポリイミドの原料である前記ジアミン成分における、前記その他のジアミンの含有量は、前記ジアミン成分の総量100モル%中、50モル%以下であり得、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは10モル%以下である。
【0038】
前記非熱可塑性ポリイミドは、実質的に当モル量の前記酸二無水物成分と、前記ジアミン成分と、を原料とする非熱可塑性ポリイミドである。なお、本明細書において、実質的に等モル量とは、それぞれ異なる2種類以上の物質(例えば、前記酸二無水物成分と前記ジアミン成分)のモル量の比率が、100:98~100:102の範囲内であり、好ましくは100:100であることを意図する。
【0039】
(非熱可塑性ポリイミド層の物性)
前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、5μm以上である場合、本樹脂フィルムを炭化・黒鉛化する際、前記フェノール樹脂層が、前記非熱可塑性ポリイミド層により、より好適に積層固定されることによって、熱拡散率により優れるグラファイト層に変化し得る。
【0040】
前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みが大きすぎる場合、前記非熱可塑性ポリイミド層の生産性の低下およびコストの増加等の問題が発生するおそれがある。そのため、前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みは、75μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0041】
<2.2.フェノール樹脂層>
本樹脂フィルムを構成する前記フェノール樹脂層は、フェノール系樹脂を含む層であれば特に限定されない。前記フェノール樹脂層は、1種類のフェノール系樹脂を含んでいてもよく、2種類以上のフェノール系樹脂を含んでいてもよい。なお、本樹脂フィルムを構成する前記フェノール樹脂層に含まれるフェノール系樹脂は、硬化されている状態、部分硬化された状態または未硬化の状態であり得る。
【0042】
フェノール系樹脂を含む層の複屈折は、一般的には、前記非熱可塑性ポリイミド層よりも低いことが知られている。よって、フェノール系樹脂を含む積層構造を備えるグラファイトシート用樹脂フィルムを炭化・黒鉛化させて得られるグラファイトシートは、通常は、熱拡散率が低い。しかしながら、本樹脂フィルムを構成する前記フェノール樹脂層は、前述の通り、前記非熱可塑性ポリイミド層に積層固定されており、炭化・黒鉛化される際に、疑似延伸され、配向性が向上し、熱拡散率に優れるグラファイト層に変化する。それゆえに、本樹脂フィルムを原料として用いることにより、優れた熱拡散率を有し、かつ、製造コストが低いグラファイトシートを提供することができる。
【0043】
(フェノール樹脂層の組成)
前記フェノール樹脂層における前記フェノール系樹脂の含有量は、前記フェノール樹脂層全体の重量に対して、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。なお、前記フェノール樹脂層が2種類以上のフェノール系樹脂を含む場合には、それぞれのフェノール系樹脂の含有量の合計が、前記フェノール樹脂層における前記フェノール系樹脂の含有量となる。
【0044】
ここで、フェノール系樹脂とは、フェノール類とアルデヒド化合物とが重合してなる重合体を意味する。
【0045】
前記フェノール系樹脂を構成する単量体であるフェノール類は、特に限定されず、例えば、フェノール、クレゾール、等を挙げることができる。
【0046】
前記フェノール系樹脂を構成する単量体であるアルデヒド化合物は、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、等を挙げることができる。
【0047】
フェノール系樹脂は、一般にノボラック樹脂とレゾール樹脂とに大別されるが、ノボラック樹脂およびレゾール樹脂の双方を使用することができる。また、ノボラック樹脂およびレゾール樹脂とは異なる他のフェノール系樹脂を使用することもできる。前記ノボラック樹脂の具体例としては、例えば、フェノライト(DIC製)、等を挙げることができる。前記レゾール樹脂の具体例としては、例えば、スミライトレジン(住友ベークライト製)、等を挙げることができる。前記他のフェノール系樹脂の具体例としては、例えば、ベルパール(登録商標)(エア・ウォーター・ベルパール社製)、等を挙げることができる。
【0048】
前記フェノール樹脂層は、本発明の目的を損なわない範囲にて、有機リン系化合物および無機粒子などの添加剤を含み得る。
【0049】
(フェノール樹脂層の物性)
前記フェノール樹脂層の厚みは、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。前記フェノール樹脂層の厚みが、100μm以下である場合、本樹脂フィルムを炭化・黒鉛化する際、前記フェノール樹脂層が、前記非熱可塑性ポリイミド層により、より好適に積層固定されることによって、より強く疑似延伸され、熱拡散率により優れるグラファイト層に変化し得る。
【0050】
前記フェノール樹脂層の厚みは、1μm超であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。前記フェノール樹脂層の厚みが1μm超であることにより、熱拡散率の面で有利な厚みの大きいグラファイトシートを好適に製造することができる。
【0051】
また、前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する隣り合う前記フェノール樹脂層の厚みの比(フェノール樹脂層の厚み/非熱可塑性ポリイミド層の厚み)は、0.1以上、10.0以下であることが好ましく、0.2以上、8.0以下であることがより好ましい。ここで、前記非熱可塑性ポリイミド層に「隣り合う前記フェノール樹脂層」とは、複数の非熱可塑性ポリイミド層および複数のフェノール樹脂層が積層されている場合、非熱可塑性ポリイミド層とフェノール樹脂層とが隣り合う部分における、当該隣り合う1層の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する、1層のフェノール樹脂層の厚みの比を意図する。本樹脂フィルムに、非熱可塑性ポリイミド層とフェノール樹脂層とが隣り合う部分が複数存在する場合は、少なくとも1つの部分における、当該隣り合う1層の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する、1層のフェノール樹脂層の厚みの比が、前記範囲内であることが好ましく、すべての部分における、1層の非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する、1層のフェノール樹脂層の厚みの比が、前記範囲内であることがより好ましい。なお、「隣り合う」とは、本樹脂フィルムにおいて、前記非熱可塑性ポリイミド層と前記フェノール樹脂層とが、直接積層されている場合、及び、後述する接着層を介して積層されている場合を含む趣旨である。
【0052】
前記(フェノール樹脂層の厚み/非熱可塑性ポリイミド層の厚み)の比が10.0以下であることにより、前記フェノール樹脂層を、熱拡散率により優れるグラファイト層に変化させることができる。また、前記(フェノール樹脂層の厚み/非熱可塑性ポリイミド層の厚み)の比が0.1以上であることにより、熱拡散率の面で有利な厚みの大きいグラファイトシートを好適に製造し、かつ、当該グラファイトシートの製造コストを低下させることができる。
【0053】
前記非熱可塑性ポリイミド層の前記フェノール樹脂層側の表面における算術平均粗さ(Ra)、及び、前記フェノール樹脂層の前記非熱可塑性ポリイミド層側の表面における算術平均粗さ(Ra)は、特に限定されない。また、前記非熱可塑性ポリイミド層の表面、および/または前記フェノール樹脂層の表面に対して、接着性を向上させるための処理を行ってもよい。
【0054】
<2.3.本樹脂フィルムの構造>
本樹脂フィルムは、前記非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層が積層されている積層構造を有していればよく、その構造は特に限定されない。本樹脂フィルムにおける前記積層構造は、前記非熱可塑性ポリイミド層と前記フェノール樹脂層とが、接着層等の他の層が存在せず、直接積層されている積層構造であることが好ましい。
【0055】
前記積層構造は、前記非熱可塑性ポリイミド層と前記フェノール樹脂層とが、直接積層されている積層構造であることにより、熱拡散率により優れるグラファイトシートに変化させることができる。
【0056】
前記積層構造は、前記非熱可塑性ポリイミド層と前記フェノール樹脂層の他に、別の非熱可塑性ポリイミド層および別のフェノール樹脂層等を含んだ3層構造または4層構造であってもよく、あるいは、さらに別の層を備えたものであってもよい。本樹脂フィルムにそれぞれ複数含まれる、非熱可塑性ポリイミド層およびフェノール樹脂層は、それぞれ同じ非熱可塑性ポリイミド層およびフェノール樹脂層であっても異なっていてもよい。
【0057】
<3.グラファイトシート>
本発明の一実施形態には、本樹脂フィルムを原料として含むグラファイトシート(以下、本グラファイトシートと称する)も含まれる。本グラファイトシートは、本樹脂フィルムを原料として含むため、結晶配向性が高く、優れた熱拡散率を有する。また、本樹脂フィルムは製造コストが低いフェノール樹脂層を含む。よって、本グラファイトシートは、その製造コストが低い。なお、本明細書において、本グラファイトシートとは、後述する圧延工程に供する前のグラファイトシート(圧延前のグラファイトシート)および圧延工程に供した後のグラファイトシート(圧延後のグラファイトシート)、の両方を意図するが、特に言及のない場合は、圧延後のグラファイトシートを意図する。
【0058】
本グラファイトシートの密度は、0.90g/cm3以上であることが好ましく、1.10g/cm3以上であることがより好ましく、1.30g/cm3以上であることがさらに好ましく、1.50g/cm3以上であることがよりさらに好ましい。密度の上限は特に限定されないが、通常、2.20g/cm3以下である。密度が0.90g/cm3以上であるグラファイトシートは、効率的な放熱を実現することができる。また、複数の本グラファイトシートを、樹脂層を介して積層して立方体や直方体などのブロック状の形状としたグラファイトプレートとすることもできる。当該グラファイトプレートは、ワイヤーソーなどを用いて所望の形状の異方性グラファイトが作製可能である。なお、グラファイトシートの密度の測定方法は、後述する実施例に記載の通りである。
【0059】
(熱伝導率)
本明細書において、グラファイトシートの熱伝導率は、グラファイトシートの熱拡散率により評価することができる。本グラファイトシートの熱拡散率は、2.0cm2/s以上であればよく、4.0cm2/s以上であることが好ましく、7.0cm2/s以上であることがより好ましく、8.0m2/s以上であることがさらに好ましく、9.0cm2/s以上であることがよりさらに好ましい。熱拡散率が4.0cm2/s以上であるグラファイトシートは、熱伝導率に優れるものである。
【0060】
前記熱拡散率は、JIS R7240:2018に記載の方法を用いて測定される。前記熱拡散率の測定方法の具体例としては、例えば、後述する実施例の(熱拡散率)の欄に記載された方法を挙げることができる。
【0061】
本グラファイトシートの厚みの下限は、効率的な放熱を可能とする観点から、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また、圧延後のグラファイトシートの厚みの上限としては、少ないスペースに配置が可能であるとの観点から、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0062】
<4.グラファイトシートの製造方法>
本発明の一実施形態に係るグラファイトシートの製造方法(以下、本グラファイトシートの製造方法と称する場合がある)は、本樹脂フィルムを熱処理し、グラファイトシートを提供できる限り特に限定されず、本樹脂フィルムを2400℃以上に熱処理する工程を含む方法であることが好ましい。以下、本グラファイトシートの製造方法について詳説する。以下の説明において、本樹脂フィルムについては、前記<2.グラファイトシート用樹脂フィルム>項の記載および後述の<5.グラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法>項の記載が適宜援用される。
【0063】
本グラファイトシートの製造方法は、本樹脂フィルムを不活性ガス雰囲気下や減圧下で熱処理する、いわゆる高分子熱分解法であることが好ましい。具体的には、本樹脂フィルムを1000℃程度の温度で予備加熱し、炭素化された本樹脂フィルムを得る炭化工程と、炭化工程で作製された炭素化された本樹脂フィルムを2400℃以上の温度で熱処理(加熱)し、グラファイト化する黒鉛化工程を含む方法であることが好ましい。さらに、黒鉛化工程で得られたグラファイトシートを圧延する圧延工程を含んでもよい。なお、本グラファイトシートの製造方法において、炭化工程と黒鉛化工程とは連続して行ってもよく、炭化工程を終了させた後、別途、黒鉛化工程のみを単独で行っても構わない。
【0064】
(炭化工程)
炭化工程は、本樹脂フィルムを、1000℃程度の温度まで熱処理して炭素化(炭化)する工程である。炭化工程における本樹脂フィルムの炭化方法は特に限定されず、例えば、枚葉状の本樹脂フィルムを炭化してもよく、ロール状の本樹脂フィルムをロール状のまま炭化してもよく、ロール状の本樹脂フィルムからフィルムを繰り出して連続的に炭化してもよい。炭化工程は、真空雰囲気下、減圧下もしくは不活性ガス中で行うことが好ましく、不活性ガスとしては窒素が好適に用いられる。なお、本明細書において、炭化工程により得られる炭素化した本樹脂フィルムを、炭素質フィルムと称する場合がある。
【0065】
(黒鉛化工程)
黒鉛化工程は、炭化工程で得た炭素質フィルムを、2400℃以上の温度で熱処理して黒鉛化し、圧延前のグラファイトシートを得る工程である。黒鉛化工程において、熱処理する際の温度(最高温度)としては、例えば、得られるグラファイトシートの熱拡散率が良好となることから、2400℃以上、2600℃以上、2800℃以上、2900℃以上、または3000℃以上が好ましい。最高温度の上限は特に限定されないが、黒鉛化炉中の黒鉛部材の昇華を抑制できることから、3300℃以下であることが好ましく、3200℃以下であることがより好ましい。なお、黒鉛化工程は、減圧下もしくは不活性ガス中で行われるが、不活性ガスとしてはアルゴン、またはヘリウムが好適に使用できる。
【0066】
黒鉛化工程では、枚葉状の炭素質フィルムを黒鉛化してもよく、ロール状の炭素質フィルムをロール状のまま黒鉛化してもよく、ロール状炭素質フィルムからフィルムを繰り出して連続的に黒鉛化してもよい。
【0067】
黒鉛化工程において、最高温度まで炭素質フィルムを加熱する際の昇温速度は特に限定されないが、生産性よくグラファイトシートを提供する観点から、0.2℃/min以上が好ましく、0.3℃/min以上がより好ましく、0.4℃/min以上がさらに好ましく、0.5℃/min以上がよりさらに好ましい。
【0068】
(圧延工程)
圧延工程は、黒鉛化工程により得られた圧延前のグラファイトシートを、圧延する工程である。圧延前のグラファイトシートは、黒鉛化工程により生じるアウトガスの影響等により発泡した状態であり、実使用には不適な過剰な厚みを有する場合があるが、圧延工程を行うことによって、当該グラファイトシートの厚みを調整でき、また、柔軟性を付与することができる。圧延工程において、グラファイトシートを圧延する方法は特に限定されず、例えば、金属ロールおよび樹脂ロールなどを用いて圧延するロール圧延、並びに、プレス等が挙げられる。圧延工程は、製造したグラファイトシートを室温に冷却した状態で行ってもよく、黒鉛化工程と連続して行ってもよい。
【0069】
<5.グラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法>
本発明の一実施形態に係るグラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法(以下、本樹脂フィルムの製造方法と称する場合がある)は、非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層を形成して積層体を調製する工程を含むグラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法であって、前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である、グラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法である。
【0070】
本樹脂フィルムの製造方法は、前記積層体を調製する工程を含む方法であれば、特に限定されない。本樹脂フィルムの製造方法は、例えば、予め、前記非熱可塑性ポリイミド層を準備し、当該非熱可塑性ポリイミド層上にて、硬化前のフェノール樹脂層を形成すると共に、当該硬化前のフェノール樹脂層を加熱して硬化させて、本樹脂フィルムを製造する方法である。
【0071】
予め、前記非熱可塑性ポリイミド層を準備する方法としては、前記非熱可塑性ポリイミド層として、複屈折が0.095以上である市販の非熱可塑性ポリイミドフィルムを使用する方法、並びに、イミド化促進剤を含むポリアミド酸溶液を加熱してポリアミド酸をイミド化する化学イミド化法(ケミカルキュア)、および、イミド化促進剤を使用せずに、ポリアミド酸溶液を加熱してイミド化する熱イミド化法(熱キュア)に、調製されるポリイミドフィルム(非熱可塑性ポリイミド層)の配向性を向上させ得る他の既知の操作を組み合わせる方法にて、前記非熱可塑性ポリイミド層を予め調製する方法を採用してもよい。
【0072】
前記非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層を形成して積層体を調製する方法としては、特に限定されず、例えば、以下の(a)~(c)に示す方法を採用することができる。
(a)前記非熱可塑性ポリイミド層の面上に、前記フェノール系樹脂の粒子(フェノール系樹脂粒子)を均一に散布した後、熱プレスを用いて、当該フェノール系樹脂粒子を、前記非熱可塑性ポリイミド層の一方の面上に押し広げて、硬化前のフェノール樹脂層を形成すると共に、当該硬化前のフェノール樹脂層を加熱して硬化させ、積層体を調製する方法。
(b)前記非熱可塑性ポリイミド層の面上に、前記フェノール系樹脂を含む塗工液を塗布して塗工層を形成した後、当該塗工層を加熱して、フェノール樹脂層を形成して積層体を調製する方法。
(c)前記非熱可塑性ポリイミド層の面上に、別途調製したフェノール樹脂層を熱圧着して、積層体を調製する方法。
【0073】
以下、(a)~(c)に示す方法を、例に挙げて、グラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法について説明する。
【0074】
(a)の方法は、フェノール系樹脂として、常温で固体のフェノール系樹脂を使用する場合に採用することができる。以下、(a)の方法の一例を、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、対向する1対のプレス板1が備えられ、かつ、下方のプレス板1の下側にシリンダ6を備えるプレス機を用いる。下方のプレス板1上に、ステンレス鋼(SUS)板2を配置し、当該SUS板2上に、保護フィルム5を配置し、当該保護フィルム5上に、非熱可塑性ポリイミド層3を配置する。続いて、当該非熱可塑性ポリイミド層3上に、フェノール系樹脂粒子4を均一に散布する。さらに続いて、当該フェノール系樹脂粒子4上に、非熱可塑性ポリイミド層3’を配置し、当該非熱可塑性ポリイミド層3’上に、保護フィルム5を配置し、当該保護フィルム5上に、SUS板2を配置する。その後、前記シリンダ6を上方(
図1中の矢印の方向)に移動させることにより、上方の前記SUS板2と、上方のプレス板1とが接触するように、下方のプレス板1を上方に移動させる。続いて、フェノール系樹脂粒子4に対して、加熱しながら、圧力を加えることで、フェノール系樹脂粒子4が押し広げられ、フェノール系樹脂粒子4は硬化前のフェノール樹脂層に変化する。その結果、非熱可塑性ポリイミド層3/硬化前のフェノール樹脂層/別の非熱可塑性ポリイミド層3’の積層体が調製される。また、(a)の方法においては、硬化前のフェノール樹脂層に対して、加熱しながら、圧力を加えることが含まれ得る。
【0075】
(a)の方法において、フェノール系樹脂粒子4および前記硬化前のフェノール樹脂層に対して、加熱しながら、圧力を加える方法としては、例えば、前記上方のプレス板1および/または前記下方のプレス板1の温度(以下、「熱プレス設定温度」と称する)を高温に制御しながら、圧力を加える方法を挙げることができる。前記「熱プレス設定温度」としては、前記非熱可塑性ポリイミド層3、前記別の非熱可塑性ポリイミド層3’、前記フェノール系樹脂粒子4、および、前記硬化前/硬化後のフェノール樹脂層を熱分解することなく、前記フェノール系樹脂粒子4を好適に押し広げて硬化することができる温度を適宜設定して採用することができる。前記「熱プレス設定温度」は、例えば、50℃~250℃、好ましくは100℃~200℃である。
【0076】
(a)の方法において、フェノール系樹脂粒子4および/または前記硬化前のフェノール樹脂層に対して加えられる前記圧力は、(a)の方法に使用する部材および本樹脂フィルムを構成する各層が破損することなく、前記フェノール系樹脂粒子4を好適に押し広げて硬化することができる大きさの圧力を適宜設定して採用することができる。また、前記圧力を加える方式は、加える圧力の大きさを徐々に増大させる方式であることが、前記部材の破損を好適に防止できるとの観点から好ましい。なお、前記フェノール系樹脂粒子4および/または前記硬化前のフェノール樹脂層に所定の大きさの荷重を加えることにより、前記フェノール系樹脂粒子4および/または前記硬化前のフェノール樹脂層に対して圧力を加えることができる。前記荷重の大きさは、例えば、
図1に示すプレス機を用いて、(a)の方法を実施する場合には、シリンダ6のシリンダ圧力を調整することにより、制御することができる。以下、加える圧力を増大させるために、加える荷重の大きさを増大させる場合の最終的な荷重の大きさを、「設定荷重」と称する。前記「設定荷重」は、前記部材を構成する物質の種類および厚み等によって適宜選択すればよいが、例えば、1kgf~10000kgf、好ましくは10kgf~5000kgfである。
【0077】
(a)の方法において、前記熱プレスを行う際に発生し得る気泡を抑制するとの観点から、前記部材を加熱して予熱を行った上で、熱プレスを行うことが好ましい。所定の熱プレス設定温度で所定の時間予熱後、加える荷重の大きさを徐々に増大させ、当該荷重の大きさが設定荷重に達した後、所定の時間当該荷重の大きさを設定荷重のまま保持する操作を行うことが好ましい。
【0078】
前記保護フィルム5としては特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムおよびゴムシート等を採用することができる。また、前述の熱プレスにおいて、保護フィルム5を使用しなくともよい。
【0079】
(b)の方法における塗工液は、前記フェノール系樹脂を含み、液体状の前記フェノール系樹脂からなる塗工液であってもよく、前記フェノール系樹脂が溶媒に溶解してなる塗工液であってもよい。
【0080】
前記塗工液が、前記フェノール系樹脂が溶媒に溶解してなる塗工液である場合、当該溶媒は、前記非熱可塑性ポリイミド層に悪影響を与えることなく、前記フェノール系樹脂を溶解できればよく、特に限定されない。前記溶媒の具体例は、例えば、メタノール、等を使用することができる。前記溶媒は、前述の溶媒のうちの1種類でもよく、2種類以上の溶媒の混合物であってもよい。
【0081】
前記塗工液を前記非熱可塑性ポリイミド層上に塗布する方法としては、特に限定されず、一般に塗工液を基材上に塗布する方法として既知の方法の中から適当な方法を選択して採用することができる。
【0082】
(b)の方法において、前記塗工層を加熱することにより、前記非熱可塑性ポリイミド層の面上に、前記フェノール樹脂層が形成され、前記積層体が調製される。なお、前記析出するフェノール系樹脂はその少なくとも一部が硬化されていてもよい。その場合の加熱条件は、前記フェノール系樹脂の少なくとも一部を硬化し、および/または、前記塗工層から前記溶媒を除去できるように適宜調整すればよく、加熱温度が、例えば、30℃~400℃、好ましくは50℃~350℃であり、加熱時間が、例えば、5分~120分、好ましくは10分~60分である条件を採用することができる。
【0083】
前記方法にて調製された前記積層体に対して、前記非熱可塑性ポリイミド層の前記硬化前のフェノール樹脂層が積層した面と反対側の表面上に、前記塗工液を塗布して、前述の方法と同じ方法で、前記フェノール樹脂層を形成することによって、当該非熱可塑性ポリイミド層の両面上に、硬化前のフェノール樹脂層が積層された構造を有する積層体を得ることができる。
【0084】
(c)の方法において、硬化前のフェノール樹脂層を別途調製する方法としては、特に限定されず、例えば、以下に示す方法を採用することができる。
・(a)の方法および(b)の方法において、非熱可塑性ポリイミド層の代わりに別の基材を使用して、当該別の基材上に、前記フェノール樹脂層が積層してなる別の積層体を調製する。その後、前記別の積層体において、前記別の基材から前記フェノール樹脂層を剥がして、当該フェノール樹脂層を調製する。
【0085】
前記別の基材は特に限定されず、例えば、離型フィルム、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。
【0086】
(c)の方法における前記熱圧着の方法は、前記非熱可塑性ポリイミド層および前記別途調製されたフェノール樹脂層において、破損等が発生しなければ、特に限定されない。前記熱圧着の方法としては、例えば、前記非熱可塑性ポリイミド層および前記別途調製されたフェノール樹脂層が積層してなる積層体に対して、当該積層体の温度を、50℃~200℃、好ましくは80℃~120℃に制御した上で、当該積層体の両面から0.1kgf~100kgf、好ましくは1kgf~10kgfの圧力を加える方法を採用することができる。
【0087】
(a)、(b)および(c)の方法において、前記非熱可塑性ポリイミド層の代わりに、非熱可塑性ポリイミド層の前駆体であるゲルフィルムを使用することもできる。
【0088】
前記積層体を調製する工程にて調製される積層体におけるフェノール樹脂層は、硬化が不完全である場合がある。その場合には、前記積層体を調製する工程の後に、前記積層体におけるフェノール樹脂層をさらに加熱することにより、当該フェノール樹脂層を完全に硬化させる工程(以下、「追加硬化工程」と称する)を実施してもよい。前記積層体におけるフェノール樹脂層をさらに加熱する方法としては、特に限定されず、例えば、前記積層体全体を、オーブン等を用いて加熱する方法を挙げることができる。
【0089】
本樹脂フィルムの製造方法は、前記積層体を調製する工程および前記追加硬化工程以外の工程として、例えば接着層等の他の層を、本樹脂フィルム内に形成する工程を適宜含み得る。前記他の層を形成する方法としては、当業者が一般的に使用する既知の方法から適宜選択した方法を採用することができる。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0091】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下の発明を包含する。
<1>非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層が積層されている積層構造を有するグラファイトシート用樹脂フィルムであって、
前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である、グラファイトシート用樹脂フィルム。
<2>前記積層構造が、前記非熱可塑性ポリイミド層と前記フェノール樹脂層とが、直接積層されている積層構造である、<1>に記載のグラファイトシート用樹脂フィルム。
<3>前記フェノール樹脂層の厚みが1μm超である、<1>または<2>に記載のグラファイトシート用樹脂フィルム。
<4>前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みが5μm以上である、<1>~<3>の何れか1つに記載のグラファイトシート用樹脂フィルム。
<5>前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みに対する、隣り合う前記フェノール樹脂層の厚みの比(前記フェノール樹脂層の厚み/前記非熱可塑性ポリイミド層の厚み)が、0.1以上、10.0以下である、<2>~<4>の何れか1つに記載のグラファイトシート用樹脂フィルム。
<6><1>~<5>の何れか1つに記載のグラファイトシート用樹脂フィルムを原料として含む、グラファイトシート。
<7>熱拡散率が、2.0cm2/s以上である、<6>に記載のグラファイトシート。
<8>厚みが、10μm以上である、<6>または<7>に記載のグラファイトシート。
<9>密度が0.9g/cm3以上である、<6>~<8>の何れか1項に記載のグラファイトシート。
<10><1>~<5>の何れか1つに記載の樹脂フィルムを2400℃以上の温度で熱処理する工程を含む、グラファイトシートの製造方法。
<11>非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層を形成して積層体を調製する工程を含むグラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法であって、
前記非熱可塑性ポリイミド層は、単層フィルムにおける複屈折が0.095以上である、グラファイトシート用樹脂フィルムの製造方法。
【実施例0092】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【0093】
<評価方法>
実施例および比較例における各評価方法について、以下説明する。
【0094】
(厚み)
実施例1~12に記載の非熱可塑性ポリイミド層の厚みを以下に示す方法によって測定した。前記非熱可塑性ポリイミド層において、当該非熱可塑性ポリイミド層の4つの角のそれぞれから対角線に沿って中央に向かい7mm進んだ4箇所および中央の1箇所の厚みを(株)ミツトヨ製マイクロメーター型番MDC―PX(測定面径φ6.3mm)を用いて測定した。ここで、「対角線」とは、前記非熱可塑性ポリイミド層のそれぞれの角から対角に位置する角に引いた直線であり、2本存在する。また、「中央」とは、前記2本の対角線の交点の位置を示す。そして、得られた計5箇所の厚みの測定値の平均値を、前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みとした。なお、角とは、測定対象である前記非熱可塑性ポリイミド層が長方形の場合、その頂点を意図する。
【0095】
また、比較例1に記載のグラファイトシート用樹脂フィルム、すなわちフェノール樹脂層の厚みを、上に示す前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法によって測定した。
【0096】
さらに、実施例1~7、10および11に記載の、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構造を備えるグラファイトシート用樹脂フィルムの厚みを上に示す前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法によって測定した。その後、前記グラファイトシート用樹脂フィルムの厚みから、当該樹脂フィルムを構成する非熱可塑性ポリイミド層の厚みを引き、その差を算出した。その結果、算出された差を、前記グラファイトシート用樹脂フィルムを構成するフェノール樹脂層の厚みとした。
【0097】
さらに、実施例8および9に記載の、フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層の構造を備えるグラファイトシート用樹脂フィルム、並びに、実施例12に記載の、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構造を備えるグラファイトシート用樹脂フィルムの厚みを上に示す前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法によって測定した。その後、前記グラファイトシート用樹脂フィルムの厚みから、当該樹脂フィルムを構成する非熱可塑性ポリイミド層の厚みを引き、その差を算出した。ここで、前記グラファイトシート用樹脂フィルムを構成する2つのフェノール樹脂層のそれぞれの厚みは同一であると仮定し、算出された差の1/2を、1つの前記フェノール樹脂層の厚みとした。
【0098】
さらに、実施例13~24および比較例2に記載のグラファイトシートの厚みを、後述の密度測定用サンプルの調製方法と同一の方法で調製された測定用サンプルに対して、上に示す前記非熱可塑性ポリイミド層の厚みの測定方法と同一の方法を実施することにより、測定した。
【0099】
(複屈折)
実施例1~12にて使用した非熱可塑性ポリイミド層の複屈折を以下に示す方法にて測定した。測定された複屈折を、実施例1~12に記載のそれぞれの非熱可塑性ポリイミド層における「単層フィルムにおける複屈折」とした。
【0100】
前記複屈折をメトリコン社製の屈折率・厚み測定システム(型番:2010 プリズムカプラ)を使用して測定した。測定は、23℃の雰囲気下、波長594nmの光源を用い、TEモードとTMモードとで、それぞれのモードにおける屈折率を測定し、「(TEモードにおける屈折率の値)―(TMモードにおける屈折率の値)」を複屈折として測定した。
【0101】
(密度)
実施例13~24および比較例2に記載のグラファイトシートの中央部を、縦:30mm、横:30mmの正方形型に切り抜き、密度測定用サンプルを得た。前記密度測定用サンプルの体積(単位:cm3)を、(密度測定用サンプルの体積)=(密度測定用サンプルの縦の長さ)×(密度測定用サンプルの横の長さ)×(グラファイトシートの厚み)の式に基づき算出した。続いて、前記密度測定用サンプルの重量(単位:g)を、重量計(商品名:電磁式はかり、製造会社:研精工業株式会社)を用いて測定した。測定された前記密度測定用サンプルの重量を、前記密度測定用サンプルの体積で除して、グラファイトシートの密度(単位:g/cm3)を算出した。ここで、「中央部」とは、グラファイトシートにおいて、幅方向において中央であって、かつ、長手方向においても中央である部分を示す。
【0102】
(熱拡散率)
グラファイトシートの面方向の熱拡散率を以下に示す方法によって測定した。実施例1~12および比較例1に記載のグラファイトシートのそれぞれを、30mm×30mmの正方形型に切り抜き、熱拡散率測定用サンプルを得た。前記熱拡散率測定用サンプルのそれぞれについて、(株)ベテル社の「サモウェーブアナライザTA3」を用い、23℃の雰囲気下で10~75Hzの条件下で測定することにより、それぞれのグラファイトシートの熱拡散率(単位:cm2/s)を求めた。なお、熱拡散率測定用サンプルは、グラファイトシートの中央部を切り抜き、作製した。ここで、「中央部」とは、グラファイトシートにおいて、幅方向において中央であって、かつ、長手方向においても中央である部分を示す。
【0103】
(熱分解温度の測定)
比較例1にて作製された、フェノール樹脂層からなる比較用グラファイトシート用樹脂フィルム(1)、実施例において、非熱可塑性ポリイミド層として使用された、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)および市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルAH、厚さ12.5μm)のそれぞれから、10mg分のフィルムを秤量して切り出し、熱分解温度測定用サンプル1、熱分解温度測定用サンプル2および熱分解温度測定用サンプル3を得た。前記熱分解温度測定用サンプル1、熱分解温度測定用サンプル2および熱分解温度測定用サンプル3のそれぞれに対して、熱分析装置(日立ハイテクサイエンス(SII)社製、EXSTAR6000シリーズTG/DTA6300)を用いて、窒素フロー下(フロー速度:400mL/min)、35~1000℃まで、10℃/minの速度で昇温させるとの条件で加熱を行い、熱分解温度の測定を実施した。その結果、前記フェノール樹脂層を構成するフェノール系樹脂の熱分解温度は、543℃であることが分かった。また、前記市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)を構成するポリイミドの熱分解温度は、608℃であることが分かった。さらに、前記市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルAH、厚さ12.5μm)を構成するポリイミドの熱分解温度は、605℃であることが分かった。なお、前記フェノール樹脂層を構成するフェノール系樹脂は、実施例1~12にて作製されたグラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)におけるフェノール樹脂層を構成するフェノール系樹脂と同一であり、その熱分解温度も同一である。また、実施例において、非熱可塑性ポリイミド層として使用された、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ25μm)においても、当該ポリイミドフィルムを構成するポリイミドは、ポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)と同一であり、その熱分解温度も同一である。さらに、実施例において、非熱可塑性ポリイミド層として使用された、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルAH、厚さ25μm)においても、当該ポリイミドフィルムを構成するポリイミドは、ポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルAH、厚さ12.5μm)と同一であり、その熱分解温度も同一である。
【0104】
[実施例1]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
非熱可塑性ポリイミド層として、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)から切り出した50mm角の大きさのポリイミドフィルムを使用した。フェノール系樹脂として、市販のフェノール系樹脂(エア・ウォーター・ベルパール社製、製品名:ベルパール(登録商標)S899)を使用した。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートとして、市販のPTFEシート(日東電工社製、製品名:ニトフロンフィルムNo.900UL、0.05mmt)から切り出した10cm角の大きさのPTFEシートを使用した。ステンレス鋼(SUS)板として、材料がSUS304である、厚み2mmであり、大きさが20cm角のSUS板を使用した。
【0105】
SUS板、PTFEシートおよび非熱可塑性ポリイミド層をこの順に積層して、SUS板/PTFEシート/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える積層体A(1)を調製した。前記積層体A(1)における非熱可塑性ポリイミド層の面上に、フェノール系樹脂0.1gを、散布した後、均一になるように広げた。均一になるように広げた前記フェノール系樹脂の上に、さらに、非熱可塑性ポリイミド層、PTFEシート、SUS板をこの順に積層して、SUS板/PTFEシート/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール系樹脂/非熱可塑性ポリイミド層/PTFEシート/SUS板との構成を備える積層体B(1)を調製した。
【0106】
株式会社神藤金属工業所製圧縮成型機AYSR-10を用いて、前記積層体B(1)における最表面を構成する2つの前記SUS板から内部に向かう方向に圧力を加えて、熱プレスを行い、グラファイトシート用樹脂フィルムを製造した。具体的には、前記圧縮成型機AYSR-10の2つのプレス板の温度を180℃とした。続いて、前記圧縮成型機AYSR-10の2つのプレス板のうちの一方のプレス板上に、前記積層体B1を置き、1分間前記積層体B1を加熱して予熱を行った。前記予熱後、前記圧縮成型機AYSR-10のもう一方のプレス板と、前記積層体B(1)における前記一方のプレス板と接しているSUS板と反対側に位置するSUS板とが接するように、前記圧縮成型機AYSR-10のプレス板を動かし、前記積層体B(1)における最表面を構成する2つのSUS板から内部に向かう方向に段階的に荷重を加え、当該積層体B(1)を構成する前記フェノール樹脂に圧力を加えた。この際、加える荷重の大きさを徐々に増大させるように、前記積層体B(1)に荷重を加えた。(以下、この操作を「初期プレス操作」と称する)。その後、加える荷重の大きさが255.75kgfに到達した時点で、荷重の大きさを下げ、前記もう一方のプレス板を、前記積層体B(1)における前記一方のプレス板と接しているSUS板と反対側に位置するSUS板から離した(以下、「解放操作」と称する)。続いて、設定荷重1023kgfに対して、それぞれ、「初期プレス操作」と同一の方法にて、2/4、3/4、4/4の荷重に到達するまで、この順番でプレスを行い、それぞれのプレスの終了の際に、都度、解放操作を行った。最後のプレスにて、加える荷重が、4/4の荷重、すなわち設定荷重に到達した後は、解放操作を行う前に、加える荷重を設定荷重のまま、10分間保持した。残りのプレスにおいては、加える荷重が、2/4の荷重または3/4の荷重に到達した時点で、解放操作を行った。前述の操作により、積層体C(1)を得た。積層体C(1)は、前記SUS板/前記PTFEシート/前記非熱可塑性ポリイミド層/部分的に硬化されたフェノール樹脂層/前記非熱可塑性ポリイミド層/前記PTFEシート/前記SUS板との構成を備えていた。
【0107】
得られた積層体C(1)を、冷却水の流れたプレートで挟み込み、室温まで冷却した後、大気雰囲気オーブン中に入れ、加熱温度180℃で60分加熱した後、加熱温度200℃で60分加熱する加熱して、追加硬化工程を実施した。その結果、前記積層体C(1)中の硬化前のフェノール樹脂層におけるフェノール系樹脂が完全に硬化された。続いて、追加硬化工程後の積層体C(1)から、前記SUS板および前記PTFEシートを剥離して、グラファイトシート用樹脂フィルムを得た。得られたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(1)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(1)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0108】
[実施例2]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
前記フェノール系樹脂の使用量を、0.1gから0.2gに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(2)とする。
【0109】
[実施例3]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
前記フェノール系樹脂の使用量を、0.1gから0.5gに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(3)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(3)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0110】
[実施例4]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
前記フェノール系樹脂の使用量を、0.1gから1.0gに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(4)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(4)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0111】
[実施例5]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
非熱可塑性ポリイミド層として、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)の代わりに、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルAH、厚さ12.5μm)を使用したこと以外は、実施例2と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(5)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(5)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0112】
[実施例6]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
非熱可塑性ポリイミド層として、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)の代わりに、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ25μm)を使用したこと以外は、実施例2と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(6)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(6)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0113】
[実施例7]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
非熱可塑性ポリイミド層として、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)の代わりに、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルAH、厚さ25μm)を使用したこと以外は、実施例2と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(7)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(7)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0114】
[実施例8]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
実施例1と同一の方法にて、SUS板/PTFEシート/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える積層体A(1)を調製した。前記積層体1における非熱可塑性ポリイミド層の面上に、フェノール系樹脂0.2gを、散布した後、均一になるように広げた。均一になるように広げた前記フェノール系樹脂の上に、さらに、PTFEシート、SUS板をこの順に積層して、SUS板/PTFEシート/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール系樹脂/PTFEシート/SUS板との構成を備える積層体B(8’)を調製した。
【0115】
積層体B(1)の代わりに、積層体B(8’)を使用したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、熱プレスを実施し、樹脂フィルム(8’)を作製した。樹脂フィルム(8’)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層の構成を備える。
【0116】
続いて、非熱可塑性ポリイミド層の代わりに樹脂フィルム(8’)を使用し、樹脂フィルム(8’)における非熱可塑性ポリイミド層のフェノール樹脂層が積層した面と反対側の面上にフェノール系樹脂を散布したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、熱プレスおよび追加硬化工程を実施し、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(8)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(8)は、フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層の構成を備える。
【0117】
[実施例9]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
非熱可塑性ポリイミド層として、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI、厚さ12.5μm)の代わりに、市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルAH、厚さ25μm)を使用したこと以外は、実施例8と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(9)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(9)は、フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層の構成を備える。
【0118】
[実施例10]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
前記フェノール系樹脂の使用量を、0.1gから0.2gに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(10)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(10)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0119】
[実施例11]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
前記フェノール系樹脂の使用量を、0.1gから0.2gに変更したこと以外は、実施例5と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(11)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(11)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0120】
[実施例12]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
前記フェノール系樹脂の使用量を、0.1gから0.2gに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、熱プレスを実施し、樹脂フィルム(12’)を作製した。樹脂フィルム(12’)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0121】
続いて、一方の非熱可塑性ポリイミド層の代わりに樹脂フィルム(12’)を使用し、樹脂フィルム(12’)における一方の非熱可塑性ポリイミド層のフェノール樹脂層が積層した面と反対側の面上にフェノール樹脂を散布したこと以外は、樹脂フィルム(12’)を作製した方法と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。詳細には、SUS板/PTFEシート/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール系樹脂/非熱可塑性ポリイミド層/PTFEシート/SUS板の構成を備える積層体D(12)を調製し、当該積層体D(12)を対象として、実施例1と同一の方法にて、熱プレスおよび追加硬化工程を実施し、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。なお、前記積層体D(12)における非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の部分は、樹脂フィルム(12’)である。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、グラファイトシート用樹脂フィルム(12)とする。グラファイトシート用樹脂フィルム(12)は、非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層/フェノール樹脂層/非熱可塑性ポリイミド層の構成を備える。
【0122】
[比較例1]
(グラファイトシート用樹脂フィルムの作製)
非熱可塑性ポリイミド層を使用しないこと、および、フェノール系樹脂の使用量を、0.1gから0.2gに変更したこと以外は、実施例1と同一の方法にて、グラファイトシート用樹脂フィルムを作製した。作製されたグラファイトシート用樹脂フィルムを、比較用グラファイトシート用樹脂フィルム(1)とする。比較用グラファイトシート用樹脂フィルム(1)は、フェノール樹脂層のみからなる構成を備える。
【0123】
[実施例13~24、比較例2]
(グラファイトシートの作製)
実施例1~12および比較例1で作製されたグラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)および比較用グラファイトシート用樹脂フィルム(1)のそれぞれに対して、以下の操作を行った。
・グラファイトシート用樹脂フィルムを、サイズ:60mm×60mm、厚み:200μmの黒鉛シート(東洋炭素製Perma-Foil PF)で挟み込み、積層シートを得た。この時、グラファイトシート用樹脂フィルムと、黒鉛シートとは、1枚ずつ交互に積層した。得られた積層シートを、窒素雰囲気下にて、1000℃まで昇温し加熱処理して炭化させた。その後、炭化処理後の積層シートを、2900℃まで熱処理温度を昇温させ加熱処理することにより、黒鉛化されたグラファイトシート用樹脂フィルム、すなわちグラファイトシートを作製した。
【0124】
作製されたグラファイトシートをそれぞれ、グラファイトシート(1)~(12)および比較用グラファイトシート(1)とする。
【0125】
[結果]
実施例1~12で使用した非熱可塑性ポリイミド層の複屈折を、前述の方法を用いて測定した結果を、以下の表1に示す。
【0126】
【0127】
表1に示すように、実施例1~12で使用した非熱可塑性ポリイミド層の複屈折は、0.095以上である。また、前述の通り、実施例1~12で作製されたグラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)は、非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に、フェノール樹脂層が積層されている積層構造を有する。よって、前記グラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)は、本願発明の一実施形態に係るグラファイトシート用樹脂フィルムである。
【0128】
実施例1~12および比較例1で作製されたグラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)および比較用グラファイトシート用樹脂フィルム(1)の層構成、並びに、非熱可塑性ポリイミド層およびフェノール樹脂層の厚みを以下の表2に示す。表2中、「NPI」は、非熱可塑性ポリイミド層としての市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルNPI)を表し、「AH」は、非熱可塑性ポリイミド層としての市販のポリイミドフィルム(カネカ製、製品名:アピカルA)を表し、「PF」はフェノール樹脂層を示す。なお、グラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)が、2つの非熱可塑性ポリイミド層および/または2つのフェノール樹脂層を有する場合、それぞれの非熱可塑性ポリイミド層の厚みは全て同一であり、それぞれのフェノール樹脂層の厚みは同一であると見なして、1つの非熱可塑性ポリイミド層および/または1つのフェノール系樹脂層の膜厚を算出した。
【0129】
また、前記グラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)における(フェノール樹脂層の厚み/非熱可塑性ポリイミド層の厚み)の比を算出し、その値を以下の表2に示す。なお、グラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)が、2つのフェノール樹脂層を有する場合、それぞれのフェノール樹脂層について算出された前記比の値は同一であった。
【0130】
【0131】
実施例13~24および比較例2で作製されたグラファイトシート(1)~(12)および比較用グラファイトシート(1)の物性値を前述の方法で測定した結果を、以下の表3に示す。
【0132】
【0133】
表3に示す通り、比較例2にて作製された、フェノール樹脂層のみからなる比較用グラファイトシート用樹脂フィルム(1)を原料とする比較用グラファイトシート(1)は、その熱拡散率が非常に低い。一方、実施例13~24にて作製されたグラファイトシート(1)~(12)は、フェノール樹脂層を含むグラファイトシート用樹脂フィルム(1)~(12)を原料としているにもかかわらず、その熱拡散率は高い。また、フェノール樹脂層は、非熱可塑性ポリイミド層と比較して、製造コストが低いことが知られている。
【0134】
以上のことから、本発明の一実施形態に係るグラファイトシート用樹脂フィルムを原料として使用することにより、優れた熱拡散率を有し、かつ、製造コストが低いグラファイトシートを提供できることが分かった。