(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146529
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物、電子機器装置及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241004BHJP
C08K 5/372 20060101ALI20241004BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241004BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20241004BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20241004BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20241004BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/372
C08K3/013
C08L63/00 C
C08G59/40
C09K5/14 101E
H01L23/36 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059495
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加須榮 旭
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
5F136
【Fターム(参考)】
4J002AA021
4J002BC031
4J002CC031
4J002CD001
4J002CD021
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002CD141
4J002CH071
4J002CM041
4J002DA017
4J002DA027
4J002DA077
4J002DA097
4J002DE077
4J002DE147
4J002DF017
4J002DJ007
4J002DK007
4J002EV066
4J002EV086
4J002FA057
4J002FD017
4J002FD146
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002GQ05
4J036AC02
4J036AD08
4J036AE05
4J036AF06
4J036AF08
4J036AG07
4J036AH01
4J036AH07
4J036DD02
4J036DD05
4J036FA03
4J036FA04
4J036FA05
4J036JA07
4J036JA08
4J036JA15
5F136BC07
5F136FA52
5F136FA61
5F136FA71
(57)【要約】
【課題】高い熱伝導性を有する硬化物を含む熱伝導性材料を得ることができ、かつその熱伝導性の低下が抑制されうる熱伝導性樹脂組成物、その熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む電子機器装置及び半導体装置を提供する。
【解決手段】熱伝導性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機フィラー(C)とを含有する。硬化剤(B)は、分子中にジスルフィド結合を有する芳香族化合物(B1)を含む。熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との合計に対する芳香族化合物(B1)の割合が、40質量%超である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機フィラー(C)とを含有し、
前記硬化剤(B)は、分子中にジスルフィド結合を有する芳香族化合物(B1)を含み、
前記熱硬化性樹脂(A)と、前記硬化剤(B)との合計に対する前記芳香族化合物(B1)の割合が、40質量%超である、
熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族化合物(B1)は、ジフェニルジスルフィド化合物(b1)を含み、
前記ジフェニルジスルフィド化合物(b1)は、分子中に式(1)で示される構造を有し、かつ分子末端に前記熱硬化性樹脂(A)と反応する反応基を有し、
【化1】
式(1)において、nは、置換基Xの数を表し、nはそれぞれ独立して、0以上4以下の整数であり、Xはそれぞれ独立してアルキル基である、
請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂(A)が、エポキシ樹脂(A1)を含み、
前記反応基は、ヒドロキシル基及びアミノ基のうち少なくとも一方を含む、
請求項2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(A1)は、25℃において流動性を有する、
請求項3に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機フィラー(C)は、熱伝導性フィラー(C1)を含み、
前記熱伝導性フィラー(C1)の熱伝導率は、15W/m・K以上である、
請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱伝導性フィラー(C1)の体積割合は、前記熱伝導性樹脂組成物全体に対して、30体積%以上90体積%以下である、
請求項5に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
25℃における粘度が3000Pa・s以下のペースト状である、
請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
電子部品と、前記電子部品を覆う外殻部材と、前記電子部品と前記外殻部材との間に介在する熱伝導層とを備え、
前記熱伝導層が、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む、
電子機器装置。
【請求項9】
半導体素子と、前記半導体素子を覆うリッドと、前記半導体素子と前記リッドとの間に介在する熱伝導層とを備え、
前記熱伝導層が、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性樹脂組成物、電子機器装置及び半導体装置に関し、より詳しくは、電子機器装置等に用いて有用な熱伝導性材料を作製することができる熱伝導性樹脂組成物、その熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む電子機器装置及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルキル基導入シリコーンオイル(A成分)と、α-オレフィン(B成分)と、熱伝導性フィラー(D成分)とを少なくとも含み、シリコーンゲル(C成分)を含んでもよい放熱シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の課題は、高い熱伝導性を有する硬化物を含む熱伝導性材料を得ることができ、かつその熱伝導性の低下が抑制されうる熱伝導性樹脂組成物、その熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む電子機器装置及び半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る熱伝導性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機フィラー(C)とを含有する。前記硬化剤(B)は、分子中にジスルフィド結合を有する芳香族化合物(B1)を含む。前記熱硬化性樹脂(A)と、前記硬化剤(B)との合計に対する前記芳香族化合物(B1)の割合が、40質量%超である。
【0006】
本開示の一態様に係る電子機器装置は、電子部品と、前記電子部品を覆う外殻部材と、前記電子部品と前記外殻部材との間に介在する熱伝導層とを備える。前記熱伝導層が、前記の熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む。
【0007】
本開示の一態様に係る半導体装置は、半導体素子と、前記半導体素子を覆うリッドと、前記半導体素子と前記リッドとの間に介在する熱伝導層とを備える。前記熱伝導層が、前記の熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高い熱伝導性を有する硬化物を含む熱伝導性材料を得ることができ、かつその熱伝導性の低下が抑制されうる熱伝導性樹脂組成物、その熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む電子機器装置及び半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る電子機器装置を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)概要
本開示の熱伝導性樹脂組成物(以下、組成物(X)ともいう)を完成するに至った経緯について説明する。
【0011】
トランジスタ、コンピュータのCPU(中央演算処理装置)等の電子・電気部品と放熱器(sシンク)との間に熱伝導性材料(Thermal Interface Material:TIM)を配置することで、電子・電気部品から発生する熱を放熱器に伝導させることが行われている。また、電子・電気部品の高集積化などに伴い、電子・電気部品からの発熱量は益々増大する傾向にあり、このため、各電子・電気部品が発する熱を熱伝導性材料で効率良く伝導させることが求められている。
【0012】
しかし、発明者の調査によると、熱伝導性材料が電子・電気部品等からの発熱によって繰り返し加熱されることで、熱伝導性材料の内部にクラックが発生し、それにより熱伝導性材料の熱伝導性が低下することがある。
【0013】
そこで、発明者は、熱伝導性の高められた熱伝導性材料を作製することができ、かつその熱伝導性の低下が抑制されうる熱伝導性樹脂組成物を得ることができるよう、鋭意研究を行った結果、本開示に至った。
【0014】
(2)実施形態
実施形態について説明する。なお、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一部に過ぎない。また、下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下において参照する図は、いずれも模式的な図であり、図中の構成要素の寸法比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0015】
まず、組成物(X)の概要について、説明する。上記の通り、組成物(X)は、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機フィラー(C)とを含有する。硬化剤(B)は、分子中にジスルフィド結合を有する芳香族化合物(B1)(以下、単に芳香族化合物(B1)ともいう)を含む。そして、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との合計に対する芳香族化合物(B1)の割合が、40質量%超である。これにより、熱伝導性の高い熱伝導性材料を作製でき、かつその熱伝導性材料の高められた熱伝導性の低下が抑制されうる。
【0016】
これについて詳しく説明すると、組成物(X)は、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機フィラー(C)とを含有する。これにより、組成物(X)から作製された熱伝導性材料の熱伝導性が高められうる。
【0017】
そして、組成物(X)が、特定の官能基を有する芳香族化合物(B1)を、特定の割合で含有している。このため、組成物(X)から作製される熱伝導性材料の高められた熱伝導性が維持されうる。なお、芳香族化合物(B1)を、特定の割合で含有することにより、組成物(X)から作製される熱伝導性材料による上記の効果は、正確には明らかにはされていないが、以下のような理由によると考えられる。
【0018】
組成物(X)の硬化物を含む熱伝導性材料は、一旦温度が上昇し、その後冷却する際に、クラックが発生することがある。これに対し、組成物(X)が上記のようなジスルフィド結合を有する芳香族化合物(B1)を含有するので、組成物(X)の硬化物も組成構造中にジスルフィド結合が存在し、組成物(X)を硬化させて作製された熱伝導性材料は、クラックが発生する際に、ジスルフィド結合の開裂が起こりうる。そして、そのクラックが発生した熱伝導性材料が再度温度上昇した場合に、開裂したジスルフィド結合の再結合が生じうる。すなわち、ジスルフィド結合を有する芳香族化合物(B1)を含有する組成物(X)から作製された熱伝導性材料は、傷やクラックが生じたとしても、その熱伝導性材料を通常の方法で使用する場合に、傷やクラックが修復されうる、自己修復機能を有しうる。
【0019】
ここで、特開2006-028476号公報には、半導体封止に用いられる半導体封止用樹脂組成物に関し、ジフェニルジスルフィドを含ませることが記載されている。しかし、特開2006-028476号公報には、その半導体封止用樹脂組成物の硬化物と、リードフレームとの密着性を高めるために、ジフェニルジスルフィド化合物が適用されたものであることが記載されており、また、その半導体封止用樹脂組成物の硬化物が自己修復しうることに関しては記載されていなかった。加えて、特開2006-028476号公報には、その半導体封止用樹脂組成物に対するジフェニルジスルフィドの含有量を0.01~1質量%程度とすることが記載されていた。つまり、特開2006-028476号公報に記載の半導体封止用樹脂組成物は、自己修復性を充分に発揮できる程度にジフェニルジスルフィドを含むものではなかった。
【0020】
これに対し、本開示の組成物(X)は、芳香族化合物(B1)を、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との合計に対して特定の割合、すなわち40質量%超で含んでいる。これにより、組成物(X)の硬化物の自己修復機能が充分に確保されうる。その結果、組成物(X)の硬化物を含む熱伝導性材料は熱伝導性が低下することなく維持されうる。このような機序により、組成物(X)から作製された熱伝導性材料では熱伝導性の低下が抑制されうる。
【0021】
上記の通り、組成物(X)は、熱伝導性材料を作製するために用いられうる。その熱伝導性材料は、例えば、電子機器装置1が備える電子部品3と、その電子部品3を覆う外殻部材4との間に介在するようにして使用される(
図1参照)。そして、その熱伝導性材料を介して、電子機器装置1の内部で発生した熱を電子機器装置1の外部へ円滑に移動させることができる。なお、組成物(X)の用途は、電子機器装置1に設置されることのみに限定されない。組成物(X)は、種々の用途に適用されうる。
【0022】
(2.1)成分
組成物(X)の成分の詳細について説明する。
【0023】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂(A)は、加熱により反応性を示す官能基を有する。熱硬化性樹脂(A)が有する官能基は、例えば、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基及びアリル基等よりなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0024】
熱硬化性樹脂(A)の分子形態は、その硬化反応性が損なわれなければ特に制限はなく、例えば、モノマー、オリゴマー及びプレポリマー等が好ましい形態として挙げられる。特に、熱硬化性樹脂(A)が、モノマー及びオリゴマーのうち少なくとも一方を含有する場合、組成物(X)の粘度は低められうる。
【0025】
熱硬化性樹脂(A)は、例えば、エポキシ樹脂(A1)、フェノール樹脂、スチレン系樹脂、ビスマレイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂及びベンゾオキサジン樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。これらの中で、熱硬化性樹脂(A)は、エポキシ樹脂(A1)を含むことが好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂(A1)は、例えばグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂及びオレフィン酸化型(脂環式)エポキシ樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む。より具体的には、エポキシ樹脂(A1)は、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のアルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂等のブロム含有エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタンやイソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;並びにフタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む。
【0027】
また、エポキシ樹脂(A1)は、常温、具体的には25℃において流動性を有することが好ましい。この場合、組成物(X)の粘度が低められうる。これにより、組成物(X)の塗布性を向上させることができる。ここで、エポキシ樹脂(A1)が流動性を有するとは、エポキシ樹脂(A1)が液状又はペースト状であることを意味し、かつエポキシ樹脂(A1)が複数種の成分を含む場合には、複数種の成分の混合物であるエポキシ樹脂(A1)全体が流動性を有することを意味する。好ましくは、エポキシ樹脂(A1)の粘度が25℃において、3000Pa・s以下である。なお、エポキシ樹脂(A1)の粘度については、E型回転粘度計を用いて、測定条件を、温度25℃、回転数0.3rpm、測定時間200秒とすることにより測定される。また、組成物(X)の「塗布性」とは、組成物(X)をディスペンス装置等の塗布装置から吐出し、組成物(X)を任意の場所に塗布することのされやすさを意味する。
【0028】
更に、エポキシ樹脂(A1)は、常温(25℃)で流動性を有するビスフェノール型エポキシ樹脂のモノマー及びオリゴマーのうち少なくとも一方を含むことが特に好ましく、この場合、組成物(X)の粘度がより低められうる。また、このビスフェノール型エポキシ樹脂は、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂等よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0029】
なお、熱硬化性樹脂(A)は、1種類の成分のみを含有していてもよく、2種類以上の成分を含有していてもよい。
【0030】
(硬化剤)
組成物(X)は、上記の通り、成分として硬化剤(B)を含有する。この硬化剤(B)は、熱硬化性樹脂(A)と反応しうる。これにより、組成物(X)を硬化させることができる。
【0031】
硬化剤(B)は、例えば、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、シリル基、炭素-炭素二重結合(-C=C-)等よりなる群から選択される1種以上の官能基を有する。この場合、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との反応性が向上しうる。特に、熱硬化性樹脂(A)が、エポキシ樹脂(A1)を含む場合、硬化剤(B)は、ヒドロキシル基及びアミノ基のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。この場合、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との反応性がより向上しうる。これにより、組成物(X)の硬化性がより高められうる。なお、硬化剤(B)が有する官能基は、分子中のいずれの位置に配置されていても構わないが、分子末端に位置していることが好ましい。硬化剤(B)が有する官能基が、分子末端に配置されていることにより、組成物(X)の硬化性は高まりうる。
【0032】
組成物(X)がエポキシ樹脂(A1)を含有する場合、エポキシ樹脂(A1)に対する硬化剤(B)の当量比は、エポキシ樹脂(A1)と、硬化剤(B)との反応性を考慮して適宜設定しうる。具体的には、エポキシ樹脂(A1)に対する硬化剤(B)の当量比は、0.6以上1.5以下であることが好ましく、0.7以上1.2以下であればより好ましい。
【0033】
硬化剤(B)は、上記の通り、分子中にジスルフィド結合(-S-S-)を有する芳香族化合物(B1)を特定の割合で含む。これにより、組成物(X)の硬化物に、傷やクラックが生じても、その硬化物に自己修復が起こりうるため、硬化物の熱伝導性の低下が抑制されうる。これにより、組成物(X)の硬化物を含む熱伝導性材料の熱伝導性の低下が抑制されうる。つまり、組成物(X)から作製される熱伝導性材料の熱伝導性の低下が抑制されうる。
【0034】
芳香族化合物(B1)は、例えば、モノマー、オリゴマー及びプレポリマーよりなる群から選択される少なくとも1種を含む。特に、芳香族化合物(B1)は、モノマーを含むことが特に好ましい。この場合、組成物(X)の粘度が低められうる。また、芳香族化合物(B1)が有するジスルフィド結合は1つのみでもよく、2つ以上であってもよい。なお、ジスルフィド結合は、芳香族化合物(B1)が有する芳香環の炭素原子と、直接結合していてもよく、直接結合していなくてもよい。
【0035】
また、上記の分子中にジスルフィド結合(-S-S-)を有する芳香族化合物(B1)は、ジフェニルジスルフィド化合物(b1)を含むことが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物の熱伝導性の低下がより抑制されうる。
【0036】
ジフェニルジスルフィド化合物(b1)は、例えば、分子中に式(1)で示される構造を有し、かつ分子末端に熱硬化性樹脂(A)と反応する反応基を有する。
【0037】
【0038】
式(1)において、nは、式(1)中の芳香環に結合している置換基Xの数を表し、nはそれぞれ独立して、0以上4以下の整数であり、Xはそれぞれ独立してアルキル基である。このアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐を有するものでもよい。また、アルキル基の炭素数は、1以上であれば特に上限は制限されないが、分子量増大による粘度上昇や立体障害による反応性への影響を考慮すると上限は20以下が好ましい。なお、nが0の場合、式(1)中の芳香環は、置換基を有さない。この場合、式(1)中の芳香環の炭素原子のいずれにも、水素原子が結合している。また、ジフェニルジスルフィド化合物(b1)が有する反応基は、硬化剤(B)が有する官能基と同じであってよく、例えば、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、シリル基及び炭素-炭素二重結合(-C=C-)等よりなる群から選択される1種以上を含む。
【0039】
また、ジフェニルジスルフィド化合物(b1)は、例えば、4,4’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィド等の芳香族ジスルフィドジオール;4,4’-ジアミノジフェニルジスルフィド(4,4’-ジチオアニリン)等の芳香族ジスルフィドジアミン;及び2,2’-ジカルボキシジフェニルジスルフィド等の芳香族ジスルフィドジカルボン酸等よりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む。そして、熱硬化性樹脂(A)がエポキシ樹脂(A1)を含む場合、ジフェニルジスルフィド化合物(b1)は、4,4’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィド及び4,4’-ジアミノジフェニルジスルフィドのうちいずれか一方を含むことが特に好ましい。言い換えれば、熱硬化性樹脂(A)がエポキシ樹脂(A1)を含む場合、ジフェニルジスルフィド化合物(b1)が有する反応基は、ヒドロキシル基及びアミノ基のうち少なくとも一方を含むことが特に好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物を含む熱伝導性材料の熱伝導性の低下が特に抑制されながら、かつ熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との反応性が特に向上しうる。
【0040】
なお、硬化物(B)は、芳香族化合物(B1)以外のジスルフィド結合を有する化合物を、更に含んでもよい。芳香族化合物(B1)以外のジスルフィド結合を有する化合物としては、例えば、ジスルフィド結合を有する脂肪族化合物等が挙げられる。
【0041】
熱硬化性樹脂(A)と硬化剤(B)との合計に対する芳香族化合物(B1)の割合は、40質量%超である。この場合、組成物(X)の硬化物には、自己修復が起こりうる。これにより、組成物(X)の硬化物の高められた熱伝導性が維持されうる。また、熱硬化性樹脂(A)と硬化剤(B)との合計に対する芳香族化合物(B1)の割合は、40質量%超である場合、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との反応性が高まりうる。これにより、組成物(X)の硬化性が高まりうる。なお、熱硬化性樹脂(A)がエポキシ樹脂(A1)を含む場合、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との反応性は特に高まりうる。
【0042】
熱硬化性樹脂(A)と硬化剤(B)との合計に対する芳香族化合物(B1)の割合は、41質量%超であることがより好ましく、43質量%超であることが更に好ましい。また、熱硬化性樹脂(A)と硬化剤(B)との合計に対する芳香族化合物(B1)の割合の上限値は、特に限定されないが、組成物(X)の硬化物の自己修復機能が飽和することなく、かつ熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との反応性が良好であり、組成物(X)の硬化性が充分に確保されていることが好ましい。そのような上限値は、例えば、70質量%以下であってもよく、65質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよい。
【0043】
なお、硬化剤(B)は、1種類の成分のみを使用してもよく、2種類以上の成分を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
(無機フィラー)
組成物(X)は、上記の通り、成分として、無機フィラー(C)を含有する。この無機フィラー(C)は熱伝導性フィラー(C1)(以下、第1の無機フィラー(C1)ともいうことがある)を含むことが好ましい。熱伝導性フィラー(C1)は、高い熱伝導性を有しうる。これにより、組成物(X)の硬化物に高い熱伝導性を付与しうる。
【0045】
上記の通り、熱伝導性フィラー(C1)は高い熱伝導性を有しうる。熱伝導性フィラー(C1)の熱伝導率は、例えば、25℃で15W/m・K以上であり、好ましく、25℃で20W/m・K以上である。
【0046】
熱伝導性フィラー(C1)は、例えば、銀、アルミニウム及び銅等の金属;酸化アルミニウム、酸化亜鉛及び酸化マグネシウム等の金属酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素及び窒化ホウ素等の窒化物;炭化ケイ素等の炭化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;炭酸マグネシウム及び無水炭酸マグネシウム等の炭酸塩;並びにグラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ及びダイヤモンド等の炭素系材料等よりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む。また、熱伝導性フィラー(C1)は、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムのうち少なくとも一方を含むことが好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物の熱伝導性がより高められうる。なお、これらの成分は、1種のみが使用されてもよく、2種以上が組み合わされて、使用されてもよい。
【0047】
熱伝導性フィラー(C1)の体積割合は、組成物(X)全体に対して、30体積%以上90体積%以下であることが好ましい。熱伝導性フィラー(C1)の体積割合は、組成物(X)全体に対して、30体積%以上である場合、組成物(X)の硬化物の熱伝導性が特に高められうる。また、熱伝導性フィラー(C1)の体積割合は、組成物(X)全体に対して、90体積%以下である場合、組成物(X)の流動性が確保されうる。これにより、組成物(X)の塗布性が高められうる。熱伝導性フィラー(C1)の体積割合は、組成物(X)全体に対して、40体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることが更に好ましい。
【0048】
なお、無機フィラー(C)は、第1の無機フィラー(C1)(熱伝導性フィラー(C1))とは異なる第2の無機フィラー(C2)を含んでいてもよい。すなわち、無機フィラー(C)は、第1の無機フィラー(C1)のみを含んでいてもよく、第1の無機フィラー(C1)を含み、かつ第2の無機フィラー(C2)を含んでいてもよい。第2の無機フィラー(C2)としては、具体的には、タルク、マイカ、カオリン、珪藻土、シリカ、チタニア、ゼオライト等の無機化合物粉末、ガラス繊維等が挙げられる。なお、これらの成分は、1種のみが使用されてもよく、2種以上が組み合わされて、使用されてもよい。
【0049】
(硬化促進剤)
組成物(X)は、成分として硬化促進剤を含有していてもよい。この場合、組成物(X)の硬化性がより高められうる。硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン等のリン化合物又はイミダゾール等のアミン化合物等が挙げられる。なお、硬化促進剤は、1種の硬化促進剤が単独で用いられてもよく、2種以上の硬化促進剤が併用されてもよい。
【0050】
(分散剤)
組成物(X)は、成分として、分散剤を含有していてもよい。分散剤は、市販品を用いることができる。市販品の具体例としては、例えばマリアリム SC-050K(日油株式会社製)等が挙げられる。なお、分散剤は、1種の分散剤が単独で用いられてもよく、2種以上の分散剤が併用されてもよい。
【0051】
(添加剤)
組成物(X)は、本開示の効果を損なわない範囲内であれば、上記の、熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)、無機フィラー(C)、分散剤及び硬化促進剤以外の、添加剤を含有していてもよい。添加剤は、例えば、カップリング剤、顔料、難燃剤、着色剤、及び接着促進剤等よりなる群から選択される少なくとも1種を含有してもよい。
【0052】
(2.2)物性
(自己修復)
上記の通り、組成物(X)の硬化物は傷やクラックが入っても、自己修復により、傷やクラックのない状態に修復しうる。この組成物(X)の硬化物の自己修復は、例えば、組成物(X)の硬化物が加熱されることによって生じうる。具体的には、組成物(X)の硬化物がそのガラス転移温度以上で加熱されることによって、組成物(X)の硬化物の自己修復が生じうる。
【0053】
(粘度)
組成物(X)はペースト状であることが好ましく、そのため25℃における粘度が低いことが好ましい。より具体的には、組成物(X)は25℃でペースト状であることが好ましい。そして、組成物(X)の25℃における粘度が3000Pa・s以下であることが好ましく、2000Pa・s以下であることが好ましい。この場合、組成物(X)の塗布性が特に高まりうる。また、組成物(X)の25℃における粘度の下限値は、特に限定されていないが、例えば、50Pa・s以上である。この場合、組成物(X)の塗布性を確保しながら、かつ組成物(X)の取り扱い性が容易になりうる。なお、組成物(X)の粘度は、E型粘度計(東機産業株式会社製、型番:RC-215)を使用し、温度を25℃、回転数を0.3rpm、測定時間200秒間の条件で測定したものである。
【0054】
(熱抵抗)
上記の通り、組成物(X)の硬化物は、高い熱伝導性を有しうる。例えば、組成物(X)の硬化物の熱伝導性は、熱抵抗値を指標として評価することができる。
【0055】
例えば、組成物(X)の硬化物の厚みが150μmであるときのプレス圧の方向の熱抵抗が、2.0K/W以下であることが好ましく、1.5K/W以下であることがより好ましい。この場合、この組成物(X)の硬化物を含む熱伝導性材料は優れた熱伝導性を発現でき、熱を効率良く伝達しうる。
【0056】
なお、熱抵抗の測定方法に関しては、後掲の実施例の欄に詳しく示す。
【0057】
(2.3)応用例
(熱伝導性材料)
本実施形態では、熱伝導性材料は、組成物(X)を加熱することにより硬化させて作製することができる。つまり、組成物(X)の硬化物を含む熱伝導性材料が得られる。
【0058】
本実施形態に係る組成物(X)は、例えば半導体素子等の電子部品3のような発熱体と、ヒートシンク7のような放熱体との間に介在させた状態で硬化させて使用することで電子部品3からヒートシンク7への放熱を促進することができる熱伝導性材料を作製することができる。つまり、本実施形態に係る熱伝導性材料により、電子機器装置1が備える電子部品3と、外殻部材4との間に介在する熱伝導層5を形成することができる(
図1参照)。また、本実施形態に係る熱伝導性材料は、電子機器装置1の中でも特に半導体装置に好適に適用され、半導体装置が備える半導体素子とリッドとの間に介在する熱伝導層5として使用することができる。
【0059】
また、組成物(X)から熱伝導性材料を作製する場合、熱伝導性材料を配置したい箇所において組成物(X)を配置し、加熱硬化させるとよい。また利用用途に応じて所定の形状の部材に成形することも可能であり、例えば、組成物(X)をプレス成形、押出し成形、カレンダー成形等の適宜の方法で膜状に成形する、若しくはディスペンサーで膜状に成形し、加熱硬化させることで、膜状の熱伝導性材料を作製することもできる。
【0060】
なお、組成物(X)から熱伝導性材料を作製する方法は、上記の方法のみに限定されず、用途や目的に合わせて種々の作製方法を採用することができる。
【0061】
(電子機器装置)
上記の通り、組成物(X)から作製された熱伝導性材料は、
図1に示すような電子機器装置1から発生する熱を、電子機器装置1の外部へ伝達するための熱伝導層5を作製するために使用することがでる。具体的には、電子機器装置1は、電子部品3と、その電子部品3を覆う外殻部材4と、電子部品3と外殻部材4との間に介在している熱伝導層5とを備えている。この熱伝導層5は、組成物(X)から作製された熱伝導性材料から作製されている、つまり、組成物(X)の硬化物を含む。そのため、その熱伝導層5は、熱伝導性が特に高められており、電子機器装置1から生じる熱を、その熱伝導層5を通じて、外殻部材4に好適に伝達することができる。これにより、電子機器装置1の内部で発生した熱を外部に放熱することができる。
【0062】
更に、熱伝導層5は、組成物(X)から作製された熱伝導性材料からなるため、高い熱伝導性を有し、かつ高い自己修復機能を有しうる。このため、熱伝導層5に傷やクラックが生じたとしても、通常の使用において、その熱伝導層5には自己修復が起こりうる。これにより、熱伝導層5は、傷やクラックのない状態に修復されうる。このように、熱伝導層5は、熱伝導性が傷やクラックによって低下することを防止されうる。
【0063】
また、上記の通り、組成物(X)から作製された熱伝導性材料は、電子機器装置1の中でも、特に半導体装置に好適に使用される。具体的には、電子機器装置1である半導体装置は、電子部品3である半導体素子と、その半導体素子を覆う外殻部材4であるリッドと、その半導体素子とリッドとの間に介在する熱伝導層5を備える。なお、この熱伝導層5は、組成物(X)から作製された熱伝導性材料からなり、組成物(X)の硬化物を含む。
【0064】
電子機器装置1の構成についてより詳しく説明する。
【0065】
電子機器装置1は、基板2と、電子部品3と、電子部品3を覆う外殻部材4と、電子部品3と外殻部材4との間に介在する組成物(X)の硬化物を含む熱伝導層5とを備える。
【0066】
基板2は、例えばマザー基板、パッケージ基板、又はインターポーザー基板等が挙げられる。基板2の材質は、例えばガラスエポキシ製、ポリイミド製、ポリエステル製、又はセラミック製等が挙げられる。
【0067】
電子部品3は、例えばトランジスタ及びダイオード等の能動素子;抵抗器、キャパシタ、インダクタ、リアクトル、メモリスタ及び変圧器等の受動素子;CPU、MPU、ドライバIC並びにメモリ等よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。また、電子部品3は、半導体素子であってもよく、半導体素子は、例えば、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ及びモジュール等よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。更に、複数の電子部品3が、基板2に搭載されていてもよい。この場合、電子部品3の厚みが互いに異なっていてもよい。
【0068】
上記の通り、外殻部材4は、電子部品3を覆うように基板2に搭載されている。外殻部材4は、例えば、リッド等の電子機器装置1の筐体であり、熱伝熱性の高い部材である。電子機器装置1は、ヒートスプレッダと、ヒートシンク7とを備えていてもよく、本実施形態では、このヒートスプレッダ及びヒートシンク7は、電子機器装置1が備える外殻部材4に配置されていることが好ましいが、特に限定されない。例えば、ヒートスプレッダ及びヒートシンク7は、基板2の外殻部材4が搭載されている側と反対側の面に配置されてもよい。この場合、基板2と、ヒートシンク7との間に、ヒートスプレッダが介在しうる。更に、ヒートスプレッダとヒートシンク7との間には熱伝導層8が介在していてもよく、この熱伝導層8は、組成物(X)から作製される熱伝導性材料であってもよい。
【0069】
電子機器装置1が備える熱伝導層5は、例えば、次のような方法で作製される。まず、電子部品3と、その外側に位置する外殻部材4との間の間隙に組成物(X)を充填し、加熱することによって硬化させる。このような方法で、電子部品3と、その外側に位置する外殻部材4との間の隙間に、組成物(X)の硬化物を含む熱伝導層5が作製されうる。なお、本実施形態では、組成物(X)は、常温、具体的には25℃でペースト状であることが好ましく、この場合、組成物(X)をディスペンサー装置で容易に塗布することができる。これにより、電子部品3と、その外側に位置する外殻部材4との間の間隙に組成物(X)を容易に充填することができる。
【0070】
また、組成物(X)を膜状に成形し、続いて、膜状の組成物(X)をその組成に応じた条件で加熱し硬化させることで、膜状の熱伝導性材料が得られるが、その膜状の熱伝導性材料を電子部品3と、外殻部材4との間に介在させることによって、熱伝導層5が作製されてもよい。
【0071】
(3)まとめ
上記の実施形態から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0072】
本開示の第一の態様の熱伝導性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機フィラー(C)とを含有する。硬化剤(B)は、分子中にジスルフィド結合を有する芳香族化合物(B1)を含む。熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との合計に対する芳香族化合物(B1)の割合が、40質量%超である。
【0073】
第一の態様によれば、高い熱伝導性を有する硬化物を含む熱伝導性材料を得ることができ、かつその熱伝導性の低下が抑制されうる熱伝導性樹脂組成物を提供することができる。
【0074】
本開示の第二の態様の熱伝導性樹脂組成物は、第一の態様において、芳香族化合物(B1)は、ジフェニルジスルフィド化合物(b1)を含む。ジフェニルジスルフィド化合物(b1)は、分子中に式(1)で示される構造を有し、かつ分子末端に熱硬化性樹脂(A)と反応する反応基を有する。
【0075】
【0076】
式(1)において、nは、置換基Xの数を表し、nはそれぞれ独立して、0以上4以下の整数であり、Xはそれぞれ独立してアルキル基である。
【0077】
第二の態様によれば、組成物(X)の硬化物の熱伝導性の低下がより抑制されうる。
【0078】
本開示の第三の態様の熱伝導性樹脂組成物は、第二の態様において、熱硬化性樹脂(A)が、エポキシ樹脂(A1)を含む。反応基は、ヒドロキシル基及びアミノ基のうち少なくとも一方を含む。
【0079】
第三の態様によれば、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)との反応性がより向上しうる。これにより、組成物(X)の硬化性がより高まりうる。
【0080】
本開示の第四の態様の熱伝導性樹脂組成物は、第三の態様において、エポキシ樹脂(A1)は、25℃において流動性を有する。
【0081】
第四の態様によれば、組成物(X)の粘度が低められうる。これにより、組成物(X)の塗布性を向上させることができる。
【0082】
本開示の第五の態様の熱伝導性樹脂組成物は、第一から第四のいずれか一の態様において、無機フィラー(C)は、熱伝導性フィラー(C1)を含む。熱伝導性フィラー(C1)の熱伝導率は、15W/m・K以上である。
【0083】
第五の態様によれば、組成物(X)から、より熱伝導性の高い熱伝導性材料が作製されうる。
【0084】
本開示の第六の態様の熱伝導性樹脂組成物は、第五の態様において、熱伝導性フィラー(C1)の割合は、組成物(X)全体に対して、30体積%以上90体積%以下である。
【0085】
第六の態様によれば、組成物(X)の硬化物の熱伝導性が特に高まりうる。
【0086】
本開示の第七の態様の熱伝導性樹脂組成物は、第一から第六のいずれか一の態様において、25℃における粘度が3000Pa・s以下のペースト状である。
【0087】
第七の態様によれば、組成物(X)の塗布性が高まりうる。
【0088】
本開示の第八の態様の電子機器装置(1)は、電子部品(3)と、電子部品(3)を覆う外殻部材(4)と、電子部品(3)と外殻部材(4)との間に介在する熱伝導層(5)とを備える。熱伝導層(5)が、第一から第七のいずれか一の態様の熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む。
【0089】
第八の態様によれば、熱伝導性が高められながら、かつ高められた熱伝導性が維持されうる熱伝導性材料を含む電子機器装置(1)が得られうる。
【0090】
本開示の第九の態様の半導体装置は、半導体素子と、半導体素子を覆うリッドと、半導体素子とリッドとの間に介在する熱伝導層とを備える。熱伝導層が、第一から第七のいずれか一の態様の熱伝導性樹脂組成物の硬化物を含む。
【0091】
第九の態様によれば、熱伝導性が高められながら、かつ高められた熱伝導性が維持されうる熱伝導性材料を含む半導体装置が得られうる。
【実施例0092】
以下、本実施形態のより具体的な実施例について説明する。なお、本実施形態は下記の実施例のみには制限されない。
【0093】
1.熱伝導性樹脂組成物の作製方法
実施例1~6及び比較例1~3の熱伝導性樹脂組成物を作製する方法について説明する。
【0094】
[成分]
実施例1~6及び比較例1~3の熱伝導性樹脂組成物を作製するために用いた成分について、以下に示した。また、表1~表2に示す割合で、各成分を混合することで熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0095】
(熱硬化性樹脂)
エポキシ樹脂:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、製品名エピクロン830S、粘度3000~4500mPa・s(25℃))。
【0096】
(硬化剤)
ジスルフィド結合を有する芳香族化合物1:4,4’-ジチオアニリン(東京化成工業株式会社製)。
【0097】
ジスルフィド結合を有する芳香族化合物2:ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド(東京化成工業株式会社製)。
【0098】
ジスルフィド結合を有する脂肪族化合物:ジチオジプロピオン酸(東京化成工業株式会社製)。
【0099】
(無機フィラー)
熱伝導性フィラー1:アルミナ(住友化学株式会社製、製品名アドバンストアルミナAA-5、中心粒径6.6μm、熱伝導率35W/m・K)。
【0100】
熱伝導性フィラー2:アルミナ(住友化学株式会社製、製品名アドバンストアルミナAA-05、中心粒径0.58μm、熱伝導率35W/m・K)。
【0101】
熱伝導性フィラー3:窒化アルミニウム(株式会社燃焼合成製、製品名AN-HF50LGL-HTZ、平均粒径50μm、熱伝導率170W/m・K)。
【0102】
(硬化促進剤)
硬化促進剤1:トリフェニルホスフィン(東京化成工業株式会社製)。
【0103】
(分散剤)
分散剤1:分散剤(日油株式会社製、製品名マリアリム SC0505K)。
【0104】
2.評価
「1.樹脂組成物の作製方法」に記載した方法に従って、作製した各実施例及び比較例の樹脂組成物を、次の各試験により評価した。
【0105】
(1)粘度
組成物の粘度を、測定装置として東機産業株式会社製のE型粘度計(型番RC-215)を用い、測定温度25℃、回転数0.3rpm、測定時間200秒の条件で測定した。
【0106】
(2)熱抵抗
熱伝導性樹脂組成物を、厚み1mmの銅製のプレート2枚の間に充填し、挟んだ状態でプレス圧1060kPaの条件で直圧プレスし、熱伝導性樹脂組成物が厚み150μmとなるように調節した。この状態のまま120℃で3時間、乾燥機内で硬化させて、熱伝導性樹脂組成物の硬化物である厚み150μmのシート状のサンプルを作製した。このプレス圧1060kPaの状態で、室温下における、プレス圧の方向のサンプルの熱抵抗を、メンターグラフィック社製のDynTIM Testerを用いて測定した。なお、この熱抵抗を熱伝導性の指標として評価した。
【0107】
(3)自己修復性評価
サンプルの厚みを厚み500μmとした以外は「(2)熱抵抗」と同様にして、熱伝導性樹脂組成物の硬化物であるシート状のサンプルを作製した。続いて、シート状のサンプルの表面にカッターナイフにて長さ20mm程の切り溝をつけた。この切り溝はサンプルを貫通しないよう深さ50~100μmとした。そして、サンプルを120℃で10分間加熱した際に、その傷が修復されるかどうかを、拡大器を使って目視によって確認し、その確認結果を以下の基準により判定した。
・A:加熱後に切り溝がサンプル表面まで閉じて修復された
・B:加熱後に切り溝がサンプル表面まで閉じるには至らなかったが内部途中まで固着修復されていた
・C:加熱後に切り溝はそのままであった
【0108】
【0109】
【0110】
表1に示されるように、実施例1~6では好適な熱抵抗が得られているとともに、自己修復性の発現が確認された。一方、表2に示されるように比較例1~3では自己修復性が確認されなかった。なお、比較例3では、粘度が大きくて安定した計測ができず、サンプル製作もできなかった。