IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ノリタケカンパニーリミテドの特許一覧

<>
  • 特開-放熱グリス 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146559
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】放熱グリス
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20241004BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20241004BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09K5/14 101E
H01L23/36 D
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059538
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大士
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BC01
5F136FA63
(57)【要約】
【課題】熱伝導性と信頼性に優れるとともに安価な放熱グリスを提供する。
【解決手段】放熱グリス2は、分散媒と、熱伝導性フィラーとを含み、分散媒は非シリコーン系油を含み、熱伝導性フィラーは非球状の酸化アルミニウム粉体を含み、酸化アルミニウム粉体は、タップ密度が0.95~1.30g/cm2であり、平均粒子径をD、α結晶粒子径をdとすると、D/d=10~100を満たす粉体であり、放熱グリスは、さらに分散剤を含み、分散媒は、極性媒体を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と、熱伝導性フィラーとを含む放熱グリスであって、
前記分散媒は非シリコーン系油を含み、前記熱伝導性フィラーは非球状の酸化アルミニウム粉体を含み、
前記酸化アルミニウム粉体は、タップ密度が0.95~1.30g/cm2であり、平均粒子径をD、α結晶粒子径をdとすると、D/d=10~100を満たす粉体であることを特徴とする放熱グリス。
【請求項2】
前記放熱グリスは、分散剤を含み、
前記分散媒は、極性媒体を含むことを特徴とする請求項1記載の放熱グリス。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム粉体は、BET比表面積が1.1~3.5m2/gであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の放熱グリス。
【請求項4】
前記非シリコーン系油は、ポリαオレフィン油であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の放熱グリス。
【請求項5】
前記分散剤は、非イオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項2記載の放熱グリス。
【請求項6】
前記放熱グリスは、分散剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含み、
前記分散媒が、前記非シリコーン系油としてポリαオレフィン油を含み、極性媒体として水を含むことを特徴とする請求項1記載の放熱グリス。
【請求項7】
前記放熱グリスは、ISO22007-2準拠のホットディスク法で測定される熱伝導率が1.2W/m・K以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の放熱グリス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体(半導体素子など)と放熱体(ヒートシンク、筐体など)との間に塗布し熱を伝播させる熱伝導性材料(TIM:Thermal Interface Material)として用いられる放熱グリスに関する。特に、CPU、LSIなどの半導体デバイス、パワートランジスタ、パワーモジュール、バッテリーなどの放熱や、サーミスタ、熱電対などの測定箇所との密着を向上させるために用いられる放熱グリスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、電源装置などにおいて、使用時の発熱量の増大が問題になっている。発生する熱から集積回路などを保護するために、半導体素子などの発熱体から発生した熱を放熱フィン、ヒートシンクなどの放熱体に伝導させて系外に放出することが一般的に行われている。増大する発熱量に対応するため、系内での熱伝導性を向上させ、放熱効率をより高めることが求められている。
【0003】
系内の熱伝導性を向上させるために、熱伝導性に優れる放熱グリスが発熱体と放熱体の間に設けられる。放熱グリスは化学合成オイルなどに熱伝導性フィラー(例えば、無機系粉末)を高充填した液状(ペースト状)の放熱材料である。放熱グリスは、バインダーとなるベースオイル(例えば、低分子量のオイル)にフィラーを充填した材料であり、「オイルコンパウンド」などとも呼ばれる。放熱グリスは、ベースオイルや、フィラーの種類、配合比などを調整することで、その熱伝導性や、流動性などを用途に応じて変更することができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、ベースオイルとして、化学的安定性、熱特性に優れ、温度による粘度変化が小さく、劣化しにくいシリコーン系オイルが主に用いられている熱伝導性組成物が記載されている。
【0005】
非シリコーン系オイルをベースオイルとした放熱グリスとして、例えば、特許文献2には、エステル油などの合成炭化水素油をベースオイルとした高熱伝導性グリースが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、鉱油、合成炭化水素油、ジエステルなどをベースオイルに用い、フィラーとしてアルミナ(酸化アルミニウム)や酸化亜鉛などの金属酸化物、より熱伝導率の高い窒化ホウ素や窒化アルミニウムといった窒化物などの材料を含んだ熱伝導性グリースが記載されている。金属酸化物や、金属窒化物は、熱伝導性や、絶縁性に優れるため、放熱グリス用の熱伝導性フィラーとして一般的に用いられている。
【0007】
金属酸化物のうちアルミナは、化学的安定性、機械的強度、硬度などに優れるため、熱伝導性フィラーとして広く用いられている。例えば、特許文献4には、αアルミナを放熱用フィラーとして用いることが記載されており、特許文献5には、アルミニウム粉末と所定の粒径のアルミナ粉末とをシリコーンオイルに含有させてなるグリースが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5843364号公報
【特許文献2】特開2021-84921号公報
【特許文献3】特許第5944306号公報
【特許文献4】特開2008-127257号公報
【特許文献5】特開2005-170971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
放熱グリスは、高い熱伝導性を得るために、熱伝導性フィラーの高充填化が求められる。また、放熱グリスを発熱体と放熱体との間に挟む際に、熱伝導しやすくするために薄層化しやすさが求められる場合がある。薄層化のためには、放熱グリスは、適度に流動しやすいこと(流動性)が必要である。
【0010】
ここで、特許文献4には、放熱用フィラー用途にαアルミナを用いる場合、樹脂への充填性の点から、粒子形状が均整であってできるだけ球状に近く、また、粒度分布が可及的に狭い(粒径が均一である)ことが求められる旨記載されている。また、特許文献5には、熱伝導性無機粉末の形状は、球形度が高いほどグリースの流動性が高まる旨記載されている。
【0011】
粒径が均一なアルミナや、球状のアルミナは、高純度のアルミニウムを一旦溶融させた後、酸素を含む気流中に供給し高温燃焼させる方法で製造される。そのため、陶磁器用、耐火物用、研磨用などの安価で一般的なアルミナと比べると非常に高価(数十倍の価格)である。また、シリコーン系オイルをベースオイルとする場合、熱や水分などの影響により低分子シロキサンが発生し、揮発した低分子シロキサンが周囲の部品などに再付着して電気回路の接点不良や、光学部品の曇りなどの問題を引きおこす場合がある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、熱伝導性と信頼性に優れるとともに安価な放熱グリスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の熱伝導グリスは、分散媒と、熱伝導性フィラーとを含む放熱グリスであって、上記分散媒は非シリコーン系油を含み、上記熱伝導性フィラーは非球状の酸化アルミニウム粉体を含み、上記酸化アルミニウム粉体は、タップ密度が0.95~1.30g/cm2であり、平均粒子径をD、α結晶粒子径をdとすると、D/d=10~100を満たす粉体であることを特徴とする。
【0014】
上記放熱グリスは、分散剤を含み、上記分散媒は、極性媒体を含むことを特徴とする。また、酸化アルミニウム粉体は、BET比表面積が1.1~3.5m2/gであることを特徴とする。上記非シリコーン系油は、ポリαオレフィン油であることを特徴とする。上記分散剤は、非イオン系界面活性剤であることを特徴とする。
【0015】
上記放熱グリスは、分散剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含み、上記分散媒が、上記非シリコーン系油としてポリαオレフィン油を含み、極性媒体として水を含むことを特徴とする。
【0016】
上記放熱グリスは、ISO22007-2準拠のホットディスク法で測定される熱伝導率が1.2W/m・K以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱伝導グリスは、分散媒が非シリコーン系油を含み、熱伝導性フィラーが非球状の酸化アルミニウム粉体を含むので、信頼性に優れるとともに、安価である。また、酸化アルミニウム粉体は、タップ密度が0.95~1.30g/cm2であり、平均粒子径をD、α結晶粒子径をdとすると、D/d=10~100を満たす粉体であるので、フィラー同士が接触しやすく熱伝導性に優れる。
【0018】
放熱グリスは、分散剤を含み、分散媒は、極性媒体を含むので、非球状の酸化アルミニウム粉体を含む熱伝導性フィラーでも高充填できる。また、非シリコーン系油は、ポリαオレフィン油であるので、より安価である。分散剤は、非イオン系界面活性剤であるので、熱伝導性フィラーをより高充填できる。
【0019】
放熱グリスは、分散剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含み、分散媒が、非シリコーン系油としてポリαオレフィン油を含み、極性媒体として水を含むので、熱伝導性フィラーの分散性と、極性の異なる分散媒同士の混和性に優れ、熱伝導性フィラーを一層高充填できる。
【0020】
放熱グリスは、ISO22007-2準拠のホットディスク法で測定される熱伝導率が1.2W/m・K以上であるので、種々の放熱用途に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の放熱グリスの使用例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の熱伝導グリスは、分散媒と熱伝導性フィラーと分散剤とを含む。本明細書において、「放熱グリス」とは、発熱体で発生した熱を効率的に系外に伝導させて放出するために使用するペースト状の組成物である。本発明において、放熱グリスのベースには、組成物に流動性を付与する分散媒が用いられる。該ベースに熱伝導性フィラーを均一に分散させてペースト状にすることができる。また、必要に応じて、熱伝導性フィラーを分散媒中に分散させる分散剤を用いることができる。熱伝導性フィラーは、増ちょう剤として作用しうる。以下に、各成分について説明する。
【0023】
(熱伝導性フィラー)
熱伝導性フィラーは、微粉化処理がされていない非球状の酸化アルミニウム(Al23)の粉体を含む。熱伝導性フィラーの形状は、非球状であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、不定形状、扁平形状、繊維形状、金平糖形状などが挙げられる。ここで、非球状の酸化アルミニウム粉体は、具体的には、六角板状の酸化アルミニウム結晶粒子であるα結晶粒子(αアルミナ)を表面に有する酸化アルミニウム粒子の集合体である。酸化アルミニウム粒子の内部は、αアルミナでもよいし、α結晶系以外の結晶系のアルミナや、アモルファス状のアルミナでもよい。
【0024】
熱伝導性フィラーは非球状の酸化アルミニウム粉体を主成分として含むことが好ましい。熱伝導性フィラーが酸化アルミニウムを主成分として含むとは、熱伝導性フィラー中で酸化アルミニウム粉体を最も多くの質量含むことを意味する。酸化アルミニウム粉体の熱伝導性フィラー中の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0025】
酸化アルミニウム粉体は、平均粒子径をD、α結晶粒子径をdとすると、D/d=10~100を満たす粉体である。D/dは、例えば、10~95が好ましく、10~50がより好ましく、10~20がさらに好ましい。また、D/dは、例えば、30~100が好ましく、50~100がより好ましく、90~100がさらに好ましい。D/dが10~100である場合、酸化アルミニウム粉体の表面に、放熱グリス中で隣接する酸化アルミニウム粉体同士が接触しやすい凹凸が形成されることで、酸化アルミニウム粉末同士の接点が多数形成されやすく熱伝導性に優れる。平均粒子径Dは、体積基準の50%粒子径を意味し、レーザー散乱法粒度測定器により測定することができる。α結晶粒子径dは、走査電子顕微鏡で非球状の酸化アルミニウム粉体表面を撮影したSEM写真より選出した20個のα結晶粒子の画像解析により算出することができる。なお、α結晶粒子であることは、六角板状の形状から判断できる。
【0026】
酸化アルミニウム粉体は全てがα結晶化していてもよいし、一部がα結晶化していてもよい。α結晶化率は焼成条件や使用する原料により異なり、酸化アルミニウム粒子の熱伝導性を向上させる観点からは、α結晶化率が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。酸化アルミニウム粉体のα結晶化率は、XRD分析により求めることができる。
【0027】
酸化アルミニウム粉体の平均粒子径Dは、例えば、10~200μmが好ましく、30~150μmがより好ましく、30~110μmがさらに好ましい。平均粒子径Dは、分散性と薄層化の観点からは、10~100μmが好ましく、20~70μmがより好ましく、30~60μmがさらに好ましく、30~50μmが一層好ましい。平均粒子径Dが10μm以上である場合、製造コストを低下させることができる。また、平均粒子径Dが200μm以下である場合、均一に分散しやすくなる。
【0028】
酸化アルミニウム粉体のα結晶粒子径dは、例えば、0.1~20μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましく、1~7μmがさらに好ましく、2~6μmが一層好ましい。酸化アルミニウム粉体同士の接触を増やす観点から、酸化アルミニウム粉体の形状は、金平糖形状が好ましく、α結晶粒子が金平糖形状の突起部分となるように粒子表面を全体的に覆っていることが特に好ましい。
【0029】
酸化アルミニウム粉体は、タップ密度が0.95~1.30g/cm2である。タップ密度は、例えば、0.95~1.25g/cm2が好ましく、0.95~1.20g/cm2がより好ましく、0.95~1.15g/cm2がさらに好ましい。タップ密度が0.95~1.30g/cm2である場合、隣接する酸化アルミニウム粉体の表面凹凸同士が接触しやすいと考えられ、熱伝導性に優れる。タップ密度は、JISR9301-2-3:1999に準拠して測定することができる。
【0030】
BET比表面積は、例えば、0.5~20.0m2/gとできる。BET比表面積は、例えば、0.8~4.0m2/gが好ましく、1.1~3.5m2/gがより好ましく、1.1~2.0m2/gがさらに好ましい。BET比表面積は、窒素ガス吸着法により測定される値である。
【0031】
酸化アルミニウム粉体としては、例えば、標準アルミナA-11(日本軽金属株式会社製、以下同じ)、標準アルミナA-12、標準アルミナA-13、標準アルミナA-14、標準アルミナSA-11、標準アルミナSA-12、標準アルミナSA-13、標準アルミナSA-14などを挙げることができる。また、酸化アルミニウム粉体としては、例えば、アルミナA-21(住友化学株式会社製、以下同じ)、アルミナA-25、アルミナA-26、アルミナA-210などを挙げることができる。これらの酸化アルミニウム粉体は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
放熱グリス中での熱伝導性フィラーの含有量は、例えば、20~80質量%とできる。熱伝導性フィラーの含有量は、25~70質量%であることが好ましく、35~60質量%であることがより好ましい。熱伝導性フィラーの含有量が25質量%以上である場合、熱伝導性を効果的に向上できる。また、熱伝導性フィラーの含有量が70質量%以下である場合、熱伝導性フィラーの分散性を十分に確保することができ、放熱グリスの流動性を確保しやすい。
【0033】
熱伝導性フィラーは、非球状の酸化アルミニウム粉体1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、熱伝導性フィラーは、非球状の酸化アルミニウム粉体を含めば、他のフィラーを含むことは特に制限されず、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物、金属炭窒化物、金属水酸化物、窒素化合物、黒鉛などをさらに含んでもよい。
【0034】
酸化アルミニウム粉体以外の熱伝導性フィラーの平均粒子径は、例えば、10~200μmが好ましく、30~150μmがより好ましく、50~110μmがさらに好ましい。平均粒子径が10μm以上である場合、製造コストを低下させることができる。平均粒子径が200μm以下である場合、均一に分散しやすくなる。ここでの平均粒子径は、体積基準の50%粒子径を意味し、レーザー散乱法粒度測定器により測定することができる。
【0035】
(分散媒)
分散媒は、非シリコーン系油を含む。非シリコーン系油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリαオレフィン油(PAO油)、アルキルベンゼン油などの合成炭化水素油、エステル油、エーテル油、フッ素油などが挙げられる。これらの非シリコーン系油は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらの中でも合成油が好ましく、特に、合成炭化水素油、エーテル油、およびエステル油から選ばれる少なくとも1つの油であることが好ましい。
【0036】
合成炭化水素油としては、PAO油がより好ましい。PAO油は、α-オレフィンまたは異性化されたα-オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセンなどが挙げられる。
【0037】
エステル油としては、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、ブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油などが挙げられる。
【0038】
エーテル油としては、例えば、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油、ポリフェニルエーテル油などが挙げられる。
【0039】
分散媒の放熱グリス中の含有量は、10~70質量%であることが好ましく、15~60質量%であることがより好ましく、20~50質量%であることがさらに好ましく、20~40質量%であることが一層好ましい。分散媒の含有量が10質量%以上である場合、放熱グリスが適度な流動性を有し、優れた塗布性や密着性を付与できる。これにより、発熱体と放熱体との間隙へ放熱グリスを塗布しやすくなる。分散媒の含有量が70質量%以下である場合、分散媒と熱伝導性フィラーとの分離を抑制しやすい。
【0040】
非シリコーン系油の動粘度(40℃)は、特に制限されるものではないが、50~2000mm2/sであることが好ましく、50~1000mm2/sであることがより好ましく、100~600mm2/sであることがさらに好ましく、200~600mm2/sであることが一層好ましく、300~500mm2/sであることが特に好ましい。
【0041】
放熱グリスは、シリコーン系油を実質的に含まないことが好ましい。シリコーン系油が含まれていると、低分子シロキサンが発生する場合がある。揮発した低分子シロキサンが周囲の部品などに付着すると二酸化ケイ素となり、電気回路の接点不良を引き起こすおそれがある。シリコーン系油の放熱グリス中の含有量は、1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0042】
分散媒は、さらに極性媒体を含むことが好ましい。極性媒体としては、例えば、水、アルコール類などの水酸基を有するプロトン性極性媒体、エーテル類、カーボネート類、アセトン、アセトニトリルなどの非プロトン性の極性媒体が挙げられる。水としては、例えば、純水、蒸留水、水道水などを用いることができ、純水または蒸留水を用いることが好ましい。アルコール類としては、例えば、1価アルコール、2価アルコール、3価アルコールなどが挙げられる。1価アルコールとしては、例えば、炭素数1~12のアルコール(例えば、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール)が挙げられる。2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。3価アルコールとしては、例えば、グリセリンが挙げられる。エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフランなどが挙げられる。カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0043】
これらの極性媒体は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。極性媒体としては、低コストであるとともに、揮発後の再付着による上記問題が起こりにくいことから、水が特に好ましい。水の極性媒体中の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0044】
また、極性媒体としては、エチレングリコールを好ましく用いることができる。エチレングリコールの極性媒体中の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが一層好ましい。極性媒体がエチレングリコールを含む場合、放熱グリス動粘度を比較的高くできるとともに、沸点が比較的高いことに起因して揮発しにくいため、再付着問題が起こりにくい。
【0045】
極性媒体の分散媒中の含有量は、20~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、60~80質量%であることがさらに好ましい。極性媒体の含有量が20~90質量%である場合、非シリコーン系油との乳化がされやすく、熱伝導性フィラーの分散状態が良好となりやすい。その結果、熱伝導性効果を効率的に得ることができる。特に、分散媒が、非シリコーン系油と極性媒体のみからなり、極性媒体の含有量が60~80質量%である場合、非シリコーン系油は、連続相としての極性媒体中に油滴として分散(水中油型)しやすく、熱伝導性フィラーの分散性に特に優れる。
【0046】
(分散剤)
放熱グリスは、分散剤を含むことが好ましい。分散剤を含有させることにより、非シリコーン系油などの非極性媒体と、極性媒体とを均一に混合することができ、熱伝導性フィラーの分散媒中への均一な分散も可能となる。
【0047】
分散剤としては、例えば、石鹸類、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、高分子系界面活性剤などが挙げられ、好ましくは、非イオン系界面活性剤が挙げられる。これらの分散剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0048】
非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン硬化ひまし油などを挙げることができる。特に、非イオン系界面活性剤としては、非球状の酸化アルミニウム粉体を含む熱伝導性フィラーの分散性と、極性が大きく異なる分散媒とを含む場合の分散媒同士の混和性の観点から、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。
【0049】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は、好ましくは10~24であり、好ましくは12~18である。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの例としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンジステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンジイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンジラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどが挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンジステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンジイソステアレートが好ましい。また、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンジステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレートがより好ましい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
これら非イオン系界面活性剤は、市販品として入手可能であり、より具体的には、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートとして、例えば、レオドール(花王株式会社製、以下同じ)TW-L120、レオドールTW-L106、レオドールスーパーTW-L120などが挙げられる。また、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテートとして、例えば、レオドールTW-P120が挙げられる。また、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートとして、例えば、レオドールTW-S120、レオドールTW-S106、レオドールスーパーTW-S120などが挙げられる。また、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレートとして、例えば、レオドールTW-S320Vなどが挙げられる。また、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートとしては、例えば、レオドールTW-O120、レオドールTW-O106、レオドールスーパーTW-O120、エマゾール(花王株式会社製、以下同じ)O-105Rなどが挙げられる。また、ポリオキシエチレンソルビタントリオレートとして、例えば、レオドールTW-O320などが挙げられる。また、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビットとして、例えば、レオドール430、レオドール440、レオドール460などが挙げられる。
【0051】
非イオン系界面活性剤のHLBは、好ましくは3.0~16.0であり、好ましくは5.0~15.0であり、好ましくは8.0~13.0である。
【0052】
分散剤の放熱グリス中の含有量は、1~20質量%であることが好ましく、3~12質量%であることが好ましい。分散剤の含有量が1質量%以上の場合、十分な分散性を得ることができる。また、分散剤の含有量が20質量%以下である場合、熱伝導性フィラーを十分な量配合しやすくなる。
【0053】
放熱グリスは、上記の構成成分に加えて、任意の成分を含むことができる。任意成分としては、例えば、金属石鹸などの増ちょう剤、極圧添加剤、酸化防止剤、防錆剤、摩擦緩和剤、防食剤、固体潤滑剤などが挙げられる。放熱グリスは、組成中に水などの極性媒体を含む場合、防錆剤を含むことが好ましい。任意成分の放熱グリス中の含有量は、例えば、0.1~15質量%であり、好ましくは0.5~5質量%である。
【0054】
本発明の放熱グリスは、ISO22007-2準拠のホットディスク法で測定される熱伝導率が1.2W/m・K以上であることが好ましく、1.4W/m・K以上であることがより好ましい。熱伝導率は、熱伝導性フィラーの含有率によって調整できる。また、グリスの粘度は、例えば、10~1000Pa・sとできる。粘度は、20~500Pa・sが好ましく、特に100~300Pa・sであることが好ましい。粘度が20~500Pa・sの場合、薄層化できるとともに、グリスが発熱体と放熱体の間から流れ出しにくい。グリスの粘度が20~500Pa・sで、熱伝導率が1.2W/m・K以上の場合、例えば、半導体デバイス用の薄層塗布、バッテリーパックのポッティングなど幅広い用途に用いることができる。本発明の放熱グリスは、安価に製造できるため、使用量が多くなりやすいバッテリー用途に特に好適である。
【0055】
本発明の放熱グリスの用途の一例について、図1を用いて説明する。図1は、放熱グリスの使用例として、電子機器に適用した場合を示す模式断面図である。図1に示すように、電子機器1において、放熱グリス2は、回路基板3上に設けられた発熱体である発熱性電子部品4と、放熱体であるヒートシンク5との間隙に挟まれて両方に密着した形で使用される。放熱グリス2を上記間隙に挟まれた状態にする方法は特に制限されず、例えば、注入、ディスペンス塗布、印刷塗布、スプレー塗布、ローラー塗布、はけ塗りなどの方法を用いることができる。
【実施例0056】
以下に実施例を記載するが、なんらこれに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1~3、比較例1~3)
放熱グリスを調製し、各サンプルについて熱伝導性の評価を行った。なお、比較例3として、市販のシリコーン系放熱グリスである信越化学工業株式会社製の放熱オイルコンパウンドG777も評価した。
【0058】
放熱グリスの調製に用いた原料を以下に示す。これらの原料を、軟膏壺内で樹脂スパチュラによって十分に混錬して均一化し、放熱グリスを得た。
(A)熱伝導性フィラー
(A-1)標準アルミナA-14(日本軽金属株式会社製、α結晶被覆タイプ)
(A-2)標準アルミナA-12(日本軽金属株式会社製、α結晶被覆タイプ)
(A-3)標準アルミナA-11(日本軽金属株式会社製、α結晶被覆タイプ)
(A-4)微粉アルミナSA-32(日本軽金属株式会社製、微粉タイプ)
(A-5)アルミナAA18(住友化学株式会社製、球状タイプ)
(B)分散媒
(B-1)SYNTONPAO40(Chemtura Corporation社製、ポリαオレフィン、動粘度(40℃)400mm2/s)
(B-2)蒸留水
(C)分散剤
(C-1)レオドールTW-S320V(花王株式会社製、非イオン系界面活性剤)
【0059】
<熱伝導性>
熱伝導性の評価は、ホットディスク法熱物性測定装置TPS-500S(京都電子工業株式会社製)による熱伝導率測定により行った。測定は、各サンプル数gずつを平板状にラップに包み、折りたたんでプローブを挟む形で測定した。
【0060】
表1に、各サンプルの組成と熱伝導率の測定結果を示す。なお、以下の表において各原料A~Cの数値は、放熱グリスの組成全体に対する質量%を意味する。
【0061】
【表1】
【0062】
表面にα結晶粒子を有し、タップ密度0.95~1.30g/cm2、平均粒子径D/α結晶粒子径d=10~100である非球状の標準アルミナA-14、12、11を含むサンプル(実施例1~3)は、微粉アルミナSA32を含む比較例1や、球状タイプのアルミナであるAA18を含む比較例2よりも高い1.2W/m・K以上の優れた熱伝導率を示した。また、実施例1~3は、分散媒としてシリコーン油を用いていないことから、シリコーン系油をベースとする比較例3のような低分子シロキサン揮発のおそれもなく、信頼性により優れると考えられる。
【0063】
実施例1~3のように、粒子表面にα結晶が多数存在して表面凹凸を有するフィラーを用いることで、フィラー同士の接点(接触面積)が増え、従来から使用され高価な球状タイプのアルミナや微粉タイプのアルミナよりも熱伝導率が高くなったと考えられる。アルミナ粒子の表面凹凸とタップ密度との関係は、表面凹凸が少なくなるとタップ密度は大きくなり、表面凹凸が多くなるとタップ密度が小さくなると考えられる。また、表面凹凸とD/dとの関係は、表面凹凸が細かくなるとD/dが大きくなり、表面凹凸が粗くなるとD/dが小さくなると考えられる。
【0064】
上記実施例の組成とすることで、標準アルミナA-14などの比較的安価な熱伝導性フィラーを用いても、球状アルミナなどの比較的高価なものを用いた場合よりも熱伝導性に優れる放熱グリスを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の放熱グリスは、熱伝導性と信頼性に優れるとともに安価なため、種々の用途に好適に利用できる。特に、市場の伸びが期待される非シリコーン系放熱グリス分野において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 電子機器
2 放熱グリス
3 回路基板
4 発熱性電子部品
5 ヒートシンク
図1