(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146568
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】固体ルイス酸の再生方法
(51)【国際特許分類】
B01J 38/48 20060101AFI20241004BHJP
B01J 38/60 20060101ALI20241004BHJP
B01J 27/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B01J38/48 B
B01J38/60
B01J27/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059551
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】523118912
【氏名又は名称】株式会社グリーンケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩越万里
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA15
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA44A
4G169BA45A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB14C
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169CB21
4G169CB38
4G169CB67
4G169DA05
4G169GA11
4G169GA14
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、キャラメル化反応生成物で被覆されて活性の低下した固体ルイス酸を再生させる方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、キャラメル化反応生成物で表面を被覆された、グルコース又はフルクトースをヒドロキシメチルフルフラールに変換する固体ルイス酸を酸化剤で処理する。前記酸化剤が、次亜塩素塩であってもよい。また、前記固体ルイス酸が、ルイス酸として機能するアモルファス含水チタン酸化物の表面にリン酸残基が共有結合してなるリン酸化チタン酸化物であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャラメル化反応生成物で表面を被覆された、グルコース又はフルクトースをヒドロキシメチルフルフラールに変換する固体ルイス酸を酸化剤で処理する固体ルイス酸の再生方法。
【請求項2】
前記酸化剤が、次亜塩素塩である請求項1に記載の固体ルイス酸の再生方法。
【請求項3】
前記固体ルイス酸が、ルイス酸として機能するアモルファス含水チタン酸化物の表面にリン酸残基が共有結合してなるリン酸化チタン酸化物である請求項1又は2に記載の固体ルイス酸の再生方法。
【請求項4】
酸化剤で処理後さらにリン酸で処理する請求項3に記載の固体ルイス酸の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース又はフルクトースからヒドロキシメチルフルフラールを合成する場合に用いる固体ルイス酸の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシメチルフルフラール(以下、本明細書において、「HMF」ということがある。)はグルコースを原料として合成できる重要な化学品の中間物質であるが、その合成経路は非常に複雑である。原料であるグルコースは酸触媒の存在下で骨格異性化してフルクトースへと変換される。生成したフルクトースは酸触媒との脱水反応によりヒドロキシメチルフルフラールへと変化するが、ヒドロキシメチルフルフラールは反応系内の酸触媒によって更に逐次的に加水分解されて、有機酸(ギ酸、レブリン酸)になる。そのためにヒドロキシメチルフルフラールを高選択的に製造するための新規な触媒が望まれている。
【0003】
アモルファス含水チタン酸化物を、リン酸で処理することにより、含水チタン酸化物の表面にリン酸残基が共有結合したリン酸化チタン酸化物が得られ、このリン酸化チタン酸化物が、グルコース又はフルクトースをHMFへ変換する固体ルイス酸として知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2012-108472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記リン酸化チタン化合物を用いてグルコース等をHMFに変換する反応は、80~180℃の範囲で行われるため、グルコース等がキャラメル化反応を起こし、キャラメル化反応生成物(多くはフミン酸とされる)が固体ルイス酸を被覆して固体ルイス酸の活性を低下させるという問題があった。
本発明の課題は、キャラメル化反応生成物で被覆されて活性の低下した固体ルイス酸を再生させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、キャラメル化反応生成物で被覆された固体ルイス酸を酸化剤で処理することで再生できることを見いだし、本発明を完成するにいたった。
【0007】
すなわち、本発明は、キャラメル化反応生成物で表面を被覆された、グルコース又はフルクトースをヒドロキシメチルフルフラールに変換する固体ルイス酸を酸化剤で処理する固体ルイス酸の再生方法に関する。
前記酸化剤が、次亜塩素塩であるのが好ましい。
前記固体ルイス酸が、ルイス酸として機能するアモルファス含水チタン酸化物の表面にリン酸残基が共有結合してなるリン酸化チタン酸化物であるのが好ましい。
また、前記固体ルイス酸が前記リン酸化チタン酸化物である場合に、酸化剤で処理後さらにリン酸で処理するのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固体ルイス酸の再生方法を用いれば、キャラメル化反応生成物で被覆されて活性の低下した固体ルイス酸であっても、繰返し何度でも使用して糖類からHMFを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のキャラメル化反応生成物で表面を被覆された、グルコース又はフルクトースをHMFに変換する固体ルイス酸の再生方法は、前記固体ルイス酸を酸化剤で処理するものである。
【0010】
前記再生方法に供される固体ルイス酸は、グルコース又はフルクトースをHMFに変換できるものであれば特に限定されないが、具体的には、ルイス酸として機能するアモルファス含水チタン酸化物、又は前記アモルファス含水チタン酸化物の表面にリン酸残基が共有結合してなるリン酸化チタン酸化物が挙げられる。前記アモルファス含水チタン酸化物は、水溶液中で加水分解して酸化物を形成する有機チタン化合物を、水と、酸触媒又は塩基触媒と共に反応させることにより得ることができる。
【0011】
前記有機チタン化合物としては、水酸化チタン、チタン酸、三塩化チタン、四塩化チタン、四臭化チタン、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン等の無機チタン化合物;テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン等のチタンアルコキシド化合物;チタンアシレート化合物;ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、イソプロポキシ(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン、ヒドロキシビス(ラクタト)チタン等のチタンキレート化合物;シュウ酸チタン、四酢酸チタン等の有機酸チタン化合物;水溶性チタン錯体などが挙げられる。中でも、チタン塩化物、チタンシュウ酸塩、及びチタンアルコキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
【0012】
前記チタンアルコキシド中のアルコキシ基は、それを構成する炭素原子の数が、好ましくは1~6、より好ましくは2~4である。アルコキシ基は直鎖状、分岐状、または環状のいずれでもよい。
【0013】
前記加水分解反応において用いられる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。加水分解反応において用いられる塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。前記加水分解反応時の温度は、好ましくは10~100℃、より好ましくは20~30℃である。加水分解反応に要する時間は、反応温度や反応スケールなどに応じて適宜設定できるが、好ましくは0.5時間~48時間、より好ましくは10時間~24時間である。
【0014】
前記リン酸化チタン酸化物は、前記アモルファス含水チタン酸化物をリン酸で処理することによって得ることができる。前記リン酸処理は、前記アモルファス含水チタン酸化物をリン酸水溶液に浸漬し、撹拌することにより行うことができる。この際の温度は、好ましくは10℃以上100℃未満、より好ましくは20℃以上30℃以下である。反応時間は、反応温度や反応スケール等に応じて適宜設定できるが、好ましくは1時間~96時間、より好ましくは24時間~72時間である。
【0015】
前記固体ルイス酸は、金属元素がドープされていてもよいし、金属元素を含む化合物で被覆されていてもよい。金属元素としては、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ケイ素、亜鉛、セリウム、鉄、タングステン、モリブデン、ヴァナジウム等が挙げられる。
【0016】
また、前記固体ルイス酸は、必要に応じてバインダと混合して成形体とすることもできる。前記バインダとして、具体的には、モルデナイト、シャバサイト、エリオナイト、フェリエライト、フォージャサイト、レビン、ZSM-5、ゼオライトA、ゼオライトβ、FU-1、Rho、ZK-5、RUB-3、RUB-13、NU-3、NU-4、NU-5、NU-10、NU-13、NU-23、MCM-22などの結晶質アルミノシリケートモレキュラーシーブ;SAPO-5、SAPO-11、SAPO-17、SAPO-18、SAPO-26、SAPO-31、SAPO-33、SAPO-34、SAPO-35、SAPO-42、SAPO-43、SAPO-44、SAPO-47、SAPO-56などの結晶質シリコアルミノホスフェートモレキュラーシーブ;カオリナイト、セリサイト、タルク、雲母(白雲母、金雲母、黒雲母、紅雲母、バナジン雲母、クロム雲母、フッ素雲母等)、モンモリロナイト、セピオライト、アタパルジャイト、スメクタイトなどのの粘土化合物類;シリカ、アルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア、ジルコニア、イットリア;ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、パーメチルポリシラン、カーボンブラック等が挙げられる。中でも、ポリテトラフルオロエチレン、酸化アルミニウム、シリコーン、シリカ、パーメチルポリシラン、及びカーボンブラックからなる群から選ばれる少なくとも一つが、好ましく挙げられる。
【0017】
前記バインダの量は、成形体を製造できる限り特に限定されないが、固体ルイス酸100質量部に対して、好ましくは10~100質量部、より好ましくは10~50質量部、さらに好ましくは10~20質量部である。
【0018】
前記固体ルイス酸の成形体は、例えば、バインダと固体ルイス酸とを、必要に応じて水とともに、混練し、成形し、乾燥し、必要に応じて焼成することによって得ることができる。また、混練は、加圧下に行うことが好ましい。前記混練は作業性の点からニーダー等の混練機を用いて連続的に行うのが好ましい。前記乾燥は水分の除去ができる限り、その条件は制限されないが、例えば、80℃~150℃の温度範囲で、1~10時間で行うことができる。前記乾燥後、所望のサイズに揃えて、必要に応じて、前記焼成を行う。焼成温度、時間は固体ルイス酸成形体の種類によって異なる。焼成は、例えば、400℃~700℃で1~10時間の条件で行うことができる。
【0019】
前記固体ルイス酸の成形体は、必要に応じて、粉末、顆粒、ペレット、薄膜、ナノチューブ等の形状とすることができる。各形状の成形体は、例えば、押出成形法、圧縮成形法(例えば、打錠成形法など)、圧延成形法、噴霧乾燥法等によって得ることができる。
【0020】
前記固体ルイス酸の成形体のより具体的な例として、テトラエトキシシランなどのバインダ前駆体、前記有機チタン化合物、及びリン酸又はそれの前駆体とを混ぜ合わせて液状またはスラリー状にし、これをキャスティング、スラッシュ成形、塗布などし、次いで加水分解させる方法、テトラエトキシシランなどのバインダ前駆体と前記有機チタン化合物とを混ぜ合わせて液状またはスラリー状にし、これをキャスティング、スラッシュ成形、塗布などし、次いで加水分解させ、これにリン酸処理を施す方法等が挙げられる。
【0021】
前記キャラメル化反応とは、糖類が引き起こす酸化反応等により生じる現象であり、多種多様な化合物を含む褐色化合物が前記キャラメル化反応生成物である。
【0022】
前記酸化剤は、特に限定されないが、具体的には、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、無水過安息香酸等の過酸化物;酸素、オゾン等の酸素類;四酸化二窒素、三酸化二窒素、一酸化二窒素等の無機窒素化合物;ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ一硫酸ナトリウム、ペルオキシ酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等のペルオキソ酸及びペルオキソ酸塩;F2、Cl2、Br2、I2、塩化鉄(FeCl3)等のハロゲン及びその化合物;過マンガン酸、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸及び過マンガン酸塩;無水クロム酸、二塩化二酸化クロム、クロム酸ナトリウム、重クロム酸ナトリウム、塩化クロム酸ナトリウム等のクロム化合物;二酸化鉛、酢酸鉛等の鉛化合物;酢酸水銀等の水銀化合物;酢酸ビスマス等の金属酢酸塩;硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸銅等の硝酸塩;次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、次亜ヨウ素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、ヨウ素酸水素ナトリウム等のハロゲン化酸及びハロゲン化酸塩などが挙げられる。中でも、前記ハロゲン化酸、又はハロゲン化酸塩が好ましく、次亜塩素酸塩がさらに好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。前記酸化剤は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
前記酸化剤は、水に溶解して水溶液として使用するのが好ましい。前記水溶液の濃度は、特に限定されないが、1.0~30質量/体積%が好ましく、3.0~10.0質量/体積%の範囲がさらに好ましい。
【0024】
前記固体ルイス酸を前記酸化剤で処理する方法は、特に制限されないが、具体的には、前記固体ルイス酸を酸化剤水溶液中に浸漬させる方法、記固体ルイス酸を酸化剤水溶液中で撹拌させる方法、記固体ルイス酸が入った酸化剤水溶液に超音波を照射する方法、前記固体ルイ酸が充填されているカラムに酸化剤水溶液を通液する方法等が挙げられる。前記処理は、室温、又は加熱条件下で行う。加熱条件は100℃未満であれば特に制限されないが、50~90℃の範囲が好ましく、60~80℃の範囲がさらに好ましい。
【0025】
前記固体ルイス酸が、リン酸化チタン酸化物である場合には、前記酸化剤で処理後さらにリン酸で処理するのが好ましい。リン酸で処理する工程は、前記アモルファス含水チタン酸化物をリン酸で処理する方法と同様の方法が挙げられる。
【0026】
次に、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は、実施例に限定されるものではない。
【0027】
<製造例>
チタンテトライソプロポキシド20mlを蒸留水100mlに加え、室温下で3時間攪拌した。これから白色沈殿物をろ過によって取り出し、1.0M塩酸水溶液200mlに添加し、1時間攪拌して、酸化物骨格の縮合を促進させた。このろ過、添加および撹拌(縮合)をさらに2回(合計3回)繰り返した。得られた沈殿物を中性になるまで蒸留水で洗浄し、次いで80℃のオーブンで乾燥させて、アモルファス含水チタン酸化物を得た。
このアモルファス含水チタン酸化物をリン酸水溶液(0.1M)に添加し、室温下で48時間撹拌した。白色固形物を濾過によって取り出し、中性になるまで蒸留水で洗浄して、固体ルイス酸1を得た。
【実施例0028】
Φ7.6mm高さ150mmの円筒形カラムに前記固体ルイス酸触媒を充填し、145℃に温度を保持し、10%グルコース溶液を通液した。5時間反応させたところ、平均79.2mM/hのHMFを得た。その後、褐色の物体が付着するため、触媒活性が著しく低下したため、次亜塩素酸ナトリウム溶液を16時間通液し、蒸留水を24時間洗浄通液したのち、1Mリン酸溶液を48時間通液し、10%グルコース溶液を通液したのち、再度反応を行った。
その結果、95.6mM/hのHMFを得ることができ、使用前触媒と遜色のない活性を得ることができた。