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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146576
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】融雪量推定方法および水位予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20241004BHJP
   G01W 1/10 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
G01W1/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059559
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 剛
(57)【要約】
【課題】融雪時期における河川の長時間先の水位を予測することができる、融雪量推定方法および水位予測方法を提供する。
【解決手段】河川の流域における融雪量を推定する融雪量推定方法であって、予測地点よりも上流側の流域内における気温分布画像を、時間の経過に対応付けて複数準備する分布画像準備工程(ステップS31)と、前記気温分布画像ごとに代表値を求め、予め決められた期間の前記代表値を累積した累積気温を算出する累積値算出工程(ステップS32)と、累積気温と累積融雪量との相関式に基づいて、前記累積値算出工程で算出した前記流域における前記累積気温から当該流域の累積融雪量を算出する累積融雪量算出工程(ステップS33)とを有する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川の流域における融雪量を推定する融雪量推定方法であって、
予測地点よりも上流側の流域内における気温分布画像を、時間の経過に対応付けて複数準備する分布画像準備工程と、
前記気温分布画像ごとに代表値を求め、予め決められた期間の前記代表値を累積した累積気温を算出する累積値算出工程と、
累積気温と累積融雪量との相関式に基づいて、前記累積値算出工程で算出した前記流域における前記累積気温から当該流域の累積融雪量を算出する累積融雪量算出工程と、を有する、
ことを特徴とする融雪量推定方法。
【請求項2】
前記分布画像準備工程では、予測地点よりも上流側の流域内または流域近傍の複数地点で測定した気温に基づいて、当該流域における気温分布画像を時間の経過に対応付けて複数作成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の融雪量推定方法。
【請求項3】
前記分布画像準備工程では、降水量および風速の分布画像をさらに準備し、
前記累積値算出工程では、降水量分布画像および風速分布画像ごとにそれぞれの代表値を求め、累積降水量および累積風速を算出し、
前記累積融雪量算出工程では、累積気温、累積降水量および累積風速と、累積融雪量との相関式に基づいて、当該流域の累積融雪量を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の融雪量推定方法。
【請求項4】
前記累積値算出工程では、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、気温の代表値、降水量の代表値および風速の代表値を累積させ、気温の代表値が摂氏0度よりも低い場合にこれらの代表値を累積させない、
ことを特徴とする請求項3に記載の融雪量推定方法。
【請求項5】
前記累積融雪量算出工程における相関式は、
ΣSnow=ΣTemp×w1+ΣRain×w2+ΣWind×w3+w0
ΣSnow:融雪量の累積値、ΣTemp:気温の累積値、ΣRain:降雨の累積値、ΣWind:風速の累積値、w1,w2,w3,w0:係数
である、ことを特徴とする請求項3に記載の融雪量推定方法。
【請求項6】
前記相関式の係数は、説明変数を累積気温、累積降水量および累積風速とし、目的変数を累積融雪量とした多変量解析または機械学習によって求めたものであり、
前記多変量解析または機械学習に用いる前記累積気温、前記累積降水量および前記累積風速は、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、気温の代表値、降水量の代表値および風速の代表値を累積させたものであり、
前記多変量解析または機械学習に用いる前記累積融雪量は、
予測地点よりも上流側の流域内または流域近傍の複数地点で測定した積雪量に基づいて、当該流域における積雪量分布画像を時間の経過に対応付けて複数準備する分布画像準備工程と、
前記積雪量分布画像ごとに代表値を求め、時間的に連続する代表値の差を融雪量の代表値とし、予め決められた期間の前記代表値を累積した累積融雪量を算出する累積値算出工程と、により求めたものであり、
前記累積値算出工程では、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、融雪量の代表値を累積させ、気温の代表値が摂氏0度よりも低い場合に当該代表値を累積させない、
ことを特徴とする請求項5に記載の融雪量推定方法。
【請求項7】
河川の水位を予測する水位予測方法であって、
河川の流域の累積融雪量と前記河川の水位上昇量との相関式に基づいて、請求項1に記載の融雪量推定方法によって求めた累積融雪量から当該河川での融雪による水位上昇量を算出する水位上昇量算出工程と、
水位予測に関する物理モデルによって求めた河川の水位の予測値と、前記水位上昇量算出工程で求めた前記水位上昇量とに基づいて、当該河川における融雪の影響を含めた水位の予測値を求める水位予測工程と、を有する、
ことを特徴とする水位予測方法。
【請求項8】
前記水位上昇量算出工程における相関式は、
ΔWL=ΣSnow×a+b
ΔWL:融雪による水位上昇量、ΣSnow:融雪量の累積値、a,b:係数
であり、
前記水位予測工程では、
WL(Pred_new)=WL(Pred)+ΔWL
WL(Pred):物理モデルによる予測値、ΔWL:融雪による水位上昇量、WL(Pred_new):融雪を考慮した水位
によって河川の水位の予測値を算出する、
ことを特徴とする請求項7に記載の水位予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融雪量推定方法および水位予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の影響により豪雨災害が増加しており、河川では外水、内水氾濫に依る被害が増えている。河川工事においても、水位の上昇により作業員や建設資機材(重機や資材)への被害(流出、沈没など)が発生する可能性がある。そのため、河川工事において事前に水位を予測し工事関係者に周知することは、作業員や建設資機材(重機や資材)を守る上で重要である。
従来から、河川工事現場に対して出水警報システムを適用することが行われている。従来の出水警報システムの構成例を図18に示す。図18に示す出水警報システムでは、気象庁から雨に関する情報を取得し、また、国土交通省から河川に関する情報を取得し、これらの情報を解析することによって河川の水位を予測する。予測した河川の水位や予測に基づく警報は、インターネットや携帯メールなどを介して工事地点にいる工事関係者に通知される。従来の出水警報システムでは、水理公式に基づいた物理モデル(水位予測モデル)により河川水位を予測している。物理モデルとしては、例えば(1)「数値モデル」、(2)「回帰モデル」、(3)「累積雨量モデル」、(4)「保存則モデル」などの物理モデルが利用される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
「数値モデル」は、予測地点より上流の水位や降雨分布、土地利用、標高を入力値として分布型流出解析により工事地点の水位を求める物理モデルである。「回帰モデル」は、予測地点より上流の観測所水位と予測地点の水位の回帰式を求め、回帰式から予測地点の水位を予測する物理モデルである。「累積雨量モデル」は、予測地点より上流の流域内における雨量と予測地点の水位の関係から出水の有無を判断する物理モデルである。「保存則モデル」は、予測地点より上流の流域内における雨量と予測地点の水位の関係から予測地点の水位を予測する物理モデルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-045290号公報
【特許文献2】特開2008-015916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先述した水位予測モデルのうち、数値モデルや保存則モデルは、雨を入力値として水位を1時間ごとに予測している。そのため、雨以外の要因で発生する融雪に伴う水位上昇の予測が困難であるという課題を有している。図19は、融雪時期における水位予測が困難であることを示した事例であり、融雪時において数値モデルを用いて水位予測をした予測結果例である。図19には、日本国内の水位観測所における実測水位が示されている。この水位観測所では、2022年3月に融雪に伴う洪水が発生したが、降雨がなかったため数値モデルの予測値は上昇せず、実測値と乖離した。融雪に伴う水位上昇は気づかないうちに発生することが一般にあるため、国や地方自治体は、住民に対して注意喚起を促している。河川工事においても急な水位上昇は工事の安全を脅かすため、融雪に伴う水位を予測することは安全管理上きわめて重要である。そのため、河川工事では、融雪時期の水位変動を精度よく予測することが求められている。
【0006】
河川工事に伴う融雪時期の水位変動を精度よく予測するためには、長時間先の水位予測をすることが必要であり、長時間先の水位を予測するためには、天気予報で得られる気温、降水量、風速などの予報値を用いる必要がある。
しかしながら、従来からある融雪の推定方法では、融雪時期における長時間先の水位予測を行うことが難しかった。図20は、融雪の推定方法に関する既往の研究内容を大別したものである。熱収支法やタンクモデル法において、天気予報で入手できない項目の予報値(例えば、大気放射など)を入力値とする必要がある場合、所定の精度で長時間先の水位予測を行うことは困難である。また、積算温度法は、天気予報で得られる温度のみを用いる手法であるが、地点(特定の一点)の融雪量を推定する方法であり、予測地点より上流域(面)の融雪量を対象とした推定方法ではない。つまり、積算温度法では、流域内の融雪量の推定を行うことができず、そのため、河川の水位予測を行うことができない。
このような観点から、本発明は、融雪時期における河川の長時間先の水位を予測することができる、融雪量推定方法および水位予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る融雪量推定方法は、河川の流域における融雪量を推定する融雪量推定方法である。この融雪量推定方法は、分布画像準備工程と、累積値算出工程と、累積融雪量算出工程とを有する。
分布画像準備工程では、予測地点よりも上流側の流域内における気温分布画像を、時間の経過に対応付けて複数準備する。累積値算出工程では、前記気温分布画像ごとに代表値を求め、予め決められた期間の前記代表値を累積した累積気温を算出する。累積融雪量算出工程では、累積気温と累積融雪量との相関式に基づいて、前記累積値算出工程で算出した前記流域における前記累積気温から当該流域の累積融雪量を算出する。
前記分布画像準備工程では、予測地点よりも上流側の流域内または流域近傍の複数地点で測定した気温に基づいて、当該流域における気温分布画像を時間の経過に対応付けて複数作成してもよい。
本発明に係る融雪量推定方法においては、天気予報として取得が容易な気温の予報値を用いて流域内の融雪量を推定することができる。そのため、流域内の長時間先の融雪量を予測することが可能である。また、融雪量推定方法で推定した融雪量を用いることで、融雪時期における河川の長時間先の水位を予測することも可能である。
【0008】
前記分布画像準備工程では、降水量および風速の分布画像をさらに準備してもよい。その場合、前記累積値算出工程では、降水量分布画像および風速分布画像ごとにそれぞれの代表値を求め、累積降水量および累積風速を算出する。また、前記累積融雪量算出工程では、累積気温、累積降水量および累積風速と、累積融雪量との相関式に基づいて、当該流域の累積融雪量を算出する。
前記累積値算出工程では、例えば、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、気温の代表値、降水量の代表値および風速の代表値を累積させ、気温の代表値が摂氏0度よりも低い場合にこれらの代表値を累積させないようにする。
前記累積融雪量算出工程における相関式は、例えば、
ΣSnow=ΣTemp×w1+ΣRain×w2+ΣWind×w3+w0
ΣSnow:融雪量の累積値、ΣTemp:気温の累積値、ΣRain:降雨の累積値、ΣWind:風速の累積値、w1,w2,w3,w0:係数、である。
このようにすると、より精度の高い融雪量の予測を行うことができる。
【0009】
前記相関式の係数は、説明変数を累積気温、累積降水量および累積風速とし、目的変数を累積融雪量とした多変量解析または機械学習によって求めたものであってよい。
前記多変量解析または機械学習に用いる前記累積気温、前記累積降水量および前記累積風速は、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、気温の代表値、降水量の代表値および風速の代表値を累積させたものである。
また、前記多変量解析または機械学習に用いる前記累積融雪量は、分布画像準備工程と、累積値算出工程とにより求めたものである。分布画像準備工程では、予測地点よりも上流側の流域内または流域近傍の複数地点で測定した積雪量に基づいて、当該流域における積雪量分布画像を時間の経過に対応付けて複数準備する。累積値算出工程では、前記積雪量分布画像ごとに代表値を求め、時間的に連続する代表値の差を融雪量の代表値とし、予め決められた期間の前記代表値を累積した累積融雪量を算出する。前記累積値算出工程では、例えば、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、融雪量の代表値を累積させ、気温の代表値が摂氏0度よりも低い場合に当該代表値を累積させない。
【0010】
本発明に係る水位予測方法は、河川の水位を予測する水位予測方法である。この水位予測方法は、水位上昇量算出工程と、水位予測工程とを有する。
水位上昇量算出工程では、河川の流域の累積融雪量と前記河川の水位上昇量との相関式に基づいて、上述した融雪量推定方法によって求めた累積融雪量から当該河川での融雪による水位上昇量を算出する。水位予測工程では、水位予測に関する物理モデルによって求めた河川の水位の予測値と、前記水位上昇量算出工程で求めた前記水位上昇量とに基づいて、当該河川における融雪の影響を含めた水位の予測値を求める。
前記水位上昇量算出工程における相関式は、
ΔWL=ΣSnow×a+b
ΔWL:融雪による水位上昇量、ΣSnow:融雪量の累積値、a,b:係数
であり、
前記水位予測工程では、
WL(Pred_new)=WL(Pred)+ΔWL
WL(Pred):物理モデルによる予測値、ΔWL:融雪による水位上昇量、WL(Pred_new):融雪を考慮した水位
によって河川の水位の予測値を算出してもよい。
本発明に係る水位予測方法においては、天気予報として取得が容易な気温の予報値を用いて河川の水位を予測することができる。そのため、融雪時期における河川の長時間先の水位を予測することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、融雪時期における河川の長時間先の水位を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る水位予測方法の工程を示したフロー図である。
図2】河川および流域のイメージ図である。
図3】融雪量の推算式の構築に関する工程を示したフローチャートの例示である。
図4】気象分布画像のイメージ図である。
図5】水位上昇量と融雪量との関係式の構築に関する工程を示したフローチャートの例示である。
図6A】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6B】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6C】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6D】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6E】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6F】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6G】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6H】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6I】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6J】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6K】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図6L】融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。
図7A】出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。
図7B】出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。
図7C】出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。
図7D】出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。
図7E】出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。
図7F】出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。
図7G】出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。
図7H】出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。
図8】出水イベントの集計結果を表形式にまとめたものである。
図9】融雪量と水位上昇量の関係を示すグラフである。
図10】融雪量を考慮した河川の水位予測方法に関する工程を示したフローチャートの例示である。
図11】繁田観測所上流での累積気温と累積融雪量の関係を示したグラフであり、(a)は2011年のグラフであり、(b)は2012年のグラフであり、(c)は2013年のグラフであり、(d)は2014年のグラフであり、(e)は2015年のグラフであり、(f)は2016年のグラフである。
図12】繁田観測所上流での累積気温と累積融雪量の関係を示したグラフであり、(a)は2017年のグラフであり、(b)は2018年のグラフであり、(c)は2019年のグラフであり、(d)は2020年のグラフであり、(e)は2021年のグラフであり、(f)は2022年のグラフである。
図13】累積気温と累積融雪量の相関式を示す図である。
図14】融雪量の実測値と積算温度法で得られた相関式に基づく融雪量の推定値とを比較したものである。
図15】重回帰分析で得られた係数をまとめたものである。
図16】融雪量の実測値と重回帰分析で得られた相関式に基づく融雪量の推定値とを比較したものである。
図17】本発明の実施形態に係る水位予測方法を用いて水位予測をした予測結果である。
図18】従来の出水警報システムの構成例である。
図19】融雪時において数値モデルを用いて水位予測をした予測結果例である。
図20】融雪の推定方法に関する既往の研究をまとめたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるにすぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0014】
図1を参照して、実施形態に係る水位予測方法につい説明する。図1は、水位予測方法の工程を示したフロー図である。図1に示すように、実施形態に係る水位予測方法は、大きく分けて、次の4つの工程で構成される。
(第1工程)水位予測地点および水理学・河川工学などに基づいた水位予測に関する物理モデル(式(A))の選定
(第2工程)融雪量の推算式(式(B))の構築
(第3工程)水位上昇量と融雪量との関係式(式(C))の構築
(第4工程)融雪量を考慮した河川の水位予測式(式(D)=式(A)+式(C))を用いた水位予測の実施
第1工程~第3工程は、河川の水位予測を実施するための準備工程であり、第4工程で用いる水位予測式(式(D))を第1工程~第3工程で構築する。第4工程では、第1工程~第3工程で構築した水位予測式(式(D))を用いて、特定の時点での河川の水位を予測する。以下で各工程の詳細を説明する。
【0015】
≪第1工程:水位予測地点および水理学・河川工学などに基づいた水位予測に関する物理モデル(式(A))の選定≫
第1工程では、水位予測を行う地点を選定する。水位予測地点は、河川の任意の場所に設定することが可能である。
また、第1工程では、水理学・河川工学などに基づいた水位予測に関する物理モデル(式(A))を選定する。物理モデル(式(A))は、融雪に伴う水位上昇が考慮されていないものであってよく、一般的に知られている物理モデルを用いることが可能である。ここでの物理モデルは、例えば、数値モデル、回帰モデル、累積雨量モデル、保存則モデルなどであってよい。図1に示すように、第4工程での河川の水位予測に用いる水位予測式(式(D))は、第1工程で選定する物理モデル(式(A))と、第3工程で構築する水位上昇量と融雪量との関係式(式(C))を組み合わせたものである。水位上昇量と融雪量との関係式(式(C))は、融雪に伴う水位上昇の影響を求めることが可能なので、第1工程で選定する物理モデル(式(A))は、融雪に伴う水位上昇が考慮されていないものであってよい。
【0016】
≪第2工程:融雪量の推算式(式(B))の構築≫
第2工程では、融雪量の推算式を構築する。ここで、融雪に伴う河川の水位上昇量を求めるためには、流域全体の融雪量を考慮する必要があるが、従来の積算温度法(図20参照)は、地点(特定の一点)の融雪量を推定する方法である。そのため、従来の積算温度法では、流域内の融雪量の推定を行うことができない。そこで、本実施形態では、領域内の気温の代表値を求め、その代表値を加算することによって気温の累積値(「累積気温」と称する)を求める。代表値は、流域全体の影響が反映された値であり、例えば統計的手法によって求めた統計量(平均値や総和など)である。そして、その累積気温と流域の累積融雪量との相関式を構築し、その相関式を用いて融雪に伴う河川の水位上昇量を予測する。
【0017】
また、本実施形態では、融雪への寄与度が高い降水量や風速を考慮する。そのため、領域内の降水量および風速の代表値を求め、その代表値を加算することによって降水量および風速の累積値(「累積降水量」、「累積風速」と称する)を求める。そして、累積気温、累積降水量および累積風速と、流域の累積融雪量との相関式を多変量解析などの手法を用いて構築し、その相関式を用いて融雪に伴う河川の水位上昇量を予測する。つまり、従来の積算温度法の拡張版として、融雪への寄与度が高い降水量や風速を追加する。
【0018】
図2および図3を参照して、融雪量の推算式(式(B))の構築について説明する。図2は、河川および流域(「集水域」とも呼ばれる)のイメージ図である。図3は、融雪量の推算式(式(B))の構築に関する工程を示したフローチャートの例示である。
図2では、河川を符号K1で表し、海を符号K2で表し、水位予測地点を符号K3で表し、水位予測地点K3よりも上流側の流域を符号K4で表している。流域は、例えば国土交通省が公開している流域図に基づくものであってよい。水位予測地点K3の位置によって着目する流域K4の範囲は変化し、例えば図2に示す水位予測地点K3よりも上流側の位置の水位予測を行う場合には、着目する流域K4の範囲は狭くなり、一方、図2に示す水位予測地点K3よりも下流側の位置の水位予測をする場合には、着目する流域K4の範囲は広くなる。なお、図2に示す河川K1は、青森県を流れる岩木川であり、水位予測地点K3は、繁田観測所の位置である。
【0019】
図3に示す通り、融雪量の推算式(式(B))の構築に関する工程は、「分布画像準備工程(ステップS11)」、「累積値算出工程(ステップS12)」および「多変量解析工程(ステップS13)」で構成される。
<分布画像準備工程(ステップS11)>
水位予測地点K3(図2参照)よりも上流側の流域内における気温分布画像、降水量分布画像、風速分布画像および積雪量分布画像を、時間の経過に対応付けて複数準備する。第三者から気温分布画像、降水量分布画像、風速分布画像および積雪量分布画像を取得してもよいし、観測値からこれらの気象分布画像を作成してもよい。気象分布画像を作成する場合、例えば、水位予測地点K3よりも上流側の流域K4内または流域K4近傍の複数地点で測定した気温、降水量、風速および積雪量に基づいて、当該流域K4における気温分布画像、降水量分布画像、風速分布画像および積雪量分布画像を、時間の経過に対応付けて複数作成する。例えば、融雪時期(例えば、3~5月)における1時間ごとの観測値(例えば、AMeDAS観測値)を取得し、当該期間における1時間ごとの気温分布画像、降水量分布画像、風速分布画像および積雪量分布画像を作成する。
【0020】
ステップS11の工程の処理を図2のイメージ図を参照して説明する。例えば、水位予測地点K3よりも上流側の流域K4内または流域K4近傍にあり、かつ、気温、降水量、風速および積雪量の観測値がそろっている観測地点J1~J6を選定し、各観測地点J1~J6における1時間ごとの気温、降水量、風速および積雪量の観測値を取得する。そして、取得した観測値を空間補間することによって、水位予測地点K3よりも上流側の流域K4における気温、降水量、風速および積雪量の気象分布画像を作成する。空間補間は、観測値などの既知のデータを用いて、周辺のデータを予測する際に用いる手法である。空間補間によって流域K4を含む範囲Mの気象分布画像を作成した後で、流域K4の範囲を抜き取ることで流域K4の気象分布画像を作成してもよい。ステップS11の工程で作成される気象分布画像のイメージを図4に示す。図4では、2011年3月1日1時における気温分布画像を示しているが、同様に他の時刻の気温分布画像が作成される。また、気温分布画像と同様に、降水量、風速および積雪量の気象分布画像が作成される。
【0021】
<累積値算出工程(ステップS12)>
次に、気温、降水量、風速および積雪量の気象分布画像ごとに代表値を求め、予め決められた期間の代表値を累積した累積気温、累積降水量および累積風速、ならびに積雪量の代表値に基づいた累積融雪量を算出する。気象分布画像の代表値は、流域K4全体の影響が反映された値であり、例えば統計的手法によって求めた統計量(平均値や総和など)である。
例えば、1時間ごとに作成した気温分布画像の各々から、流域K4における気温の代表値を求め、それら代表値を加算することによって気温の累積値(累積気温)を求める。ここで、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、気温の代表値を累積させ、気温の代表値が摂氏0度よりも低い場合に、その代表値を累積させないのがよい。摂氏0度よりも低い場合では、摂氏0度以上の場合に比べて温度と融雪量との間の相関性が認められなかったためである。
【0022】
また、1時間ごとに作成した降水量分布画像および風速分布画像の各々から、流域K4における降水量分布画像および風速分布画像の代表値を求め、それら代表値を加算することによって降水量の累積値(累積降水量)および風速の累積値(累積風速)を求める。
また、1時間ごとに作成した積雪量分布画像の各々から、流域K4における積雪量分布画像の代表値を求め、時間的に連続する二つの代表値の差を融雪量の代表値とし、それら代表値を加算することによって融雪量の累積値(「累積融雪量」と称する)を求める。
なお、降水量、風速および融雪量の累積については、気温と同様に、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、降水量、風速および融雪量の代表値を累積させ、気温の代表値が摂氏0度よりも低い場合に、それらの代表値を累積させないのがよい。
【0023】
<多変量解析工程(ステップS13)>
次に、多変量解析や機械学習などの手法によって融雪量の推算式(式(B))を求める。
・ΣSnow=ΣTemp×w1+ΣRain×w2+ΣWind×w3+w0 ・・式(B)
ここで、「ΣSnow:融雪量の累積値、ΣTemp:気温の累積値、ΣRain:降雨の累積値、ΣWind:風速の累積値、w1,w2,w3,w0:係数」である。w1,w2,w3は、重み値として採用している。
【0024】
以下では、融雪量の推算式(式(B))を重回帰分析により求める場合を例示して説明する。重回帰分析とは、目的変数と説明変数の関係を式(1)のようにモデル化し、説明変数(式(1)のxi)によって目的変数(式(1)のy)を求める式を構築する方法である。式(1)の説明変数に乗じるwiが重みに相当する。
・y=w0+w11+w22+w33+・・・+wnn ・・式(1)
重回帰分析は、複数のxiとyの組合せを用いて、yに最も近くなるwiの値を数学的な手法(Lagrangeの未定乗数法等)から求める。本実施形態では、重回帰分析の説明変数(入力データ)を累積気温、累積降水量および累積風速とし、目的変数(出力データ)を累積融雪量とする。累積気温、累積降水量、累積風速および累積融雪量は、例えば、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に累積させたものである。
【0025】
重回帰分析で得られた式は、以下の式(2)に示す通りである。
・y=w1x1+w2x2+w3x3+w0 ・・式(2)
ここで、「y:累積融雪量、x1:累積気温、x2:累積降水量、x3:累積風速、w1,w2,w3,w0:重回帰分析の係数(重み)」である。式(2)を抽象化したものが、上述した式(B)である。
【0026】
≪第3工程:水位上昇量と融雪量との関係式(式(C))の構築≫
図1に示す第3工程では、水位上昇量と融雪量との関係式を構築する。具体的には、融雪量の推算式(式(B))から出力される融雪量の累積値(累積融雪量)を入力した場合に、融雪による河川の水位上昇量が求められる関係式を構築する。水位上昇量と融雪量との関係式を求める手法は特に限定されない。例えば、線形回帰式による関係式は、以下の式(C)のようになる。
・ΔWL=ΣSnow×a+b ・・式(C)
ここで、「ΔWL:融雪による水位上昇量、ΣSnow:融雪量の累積値、a,b:係数」である。
【0027】
図5を参照して、水位上昇量と融雪量との関係式(式(C))の構築について説明する。図5は、水位上昇量と融雪量との関係式(式(C))の構築に関する工程を示したフローチャートの例示である。
図5に示す通り、水位上昇量と融雪量との関係式(式(C))の構築に関する工程は、「出水イベント選定工程(ステップS21)」、「出水イベント情報の取得工程(ステップS22)」、「相関式の構築工程(ステップS23)」で構成される。
【0028】
最初に、水位予測地点K3(図2参照)で発生した融雪に伴う出水イベントを選定する(ステップS21)。例えば、融雪が多い融雪期間において、降水量が少ないのに河川の水位が高い場合に融雪に伴う出水イベントが発生したと判定し、当該判定した出水イベントを選定する。この条件に合致するものの中から幾つかを適宜選んで出水イベントとして選定してもよい。
2011年~2022年の3~5月において、青森県の五所川原、碇ヶ関、弘前の3つの観測地点での降水量と、繁田観測所の水位との関係を図6Aないし図6Lに示す。図6Aないし図6Lは、融雪期間における降水量と水位の関係を示したグラフである。図6Aは2011年のグラフであり、図6Bは2012年のグラフであり、図6Cは2013年のグラフであり、図6Dは2014年のグラフであり、図6Eは2015年のグラフであり、図6Fは2016年のグラフである。また、図6Gは2017年のグラフであり、図6Hは2018年のグラフであり、図6Iは2019年のグラフであり、図6Jは2020年のグラフであり、図6Kは2021年のグラフであり、図6Lは2022年のグラフである。
図6Aないし図6Lにおいて、横軸は、年月日であり、縦軸は、降水量または水位である。図6Aに示すように、水位のグラフ(図6Aの符号G1)は、下辺を基準としており、上方に向かって水位の値が大きくなっている。図6Aに示すように、降水量のグラフ(図6Aの符号G2)は、上辺を基準としており、下方に向かって降水量の値が大きくなっている。図6A以外(図6Bないし図6L)についても同様である。
【0029】
図6Aないし図6Lの中から、例えば3つの観測地点の降水量が「5mm/h」以下であり、繁田観測所の水位が「1.5m」を超えていたイベントの幾つかを融雪に伴う出水イベントとして選定する。具体的には、図6Bの符号E0,E1で示すイベント、図6Dの符号E2で示すイベント、図6Eの符号E3で示すイベント、図6Hの符号E4,E5で示すイベント、図6Lの符号E6,E7で示すイベントの合計8つを出水イベントとして選定する。選定した出水イベント(合計で8つ)の詳細を図7Aないし図7Hに示す。
図7Aないし図7Hは、出水イベントにおける水位と積雪深の関係を示したグラフである。図7Aは出水イベントE0の情報であり、図7Bは出水イベントE1の情報であり、図7Cは出水イベントE2の情報であり、図7Dは出水イベントE3の情報であり、図7Eは出水イベントE4の情報であり、図7Fは出水イベントE5の情報であり、図7Gは出水イベントE6の情報であり、図7Hは出水イベントE7の情報である。
図7Aないし図7Hにおいて、横軸は、時刻であり、縦軸は、領域内の積雪深または水位である。図7Aないし図7Hでは、破線で水位を示す、実線で積雪深を示している。
【0030】
次に、選定した出水イベントに関する情報を取得する(ステップS22)。例えば、図7Aないし図7Hに示すグラフを参照し、融雪の開始および終了の時刻ならびに積雪深を確認する。また、水位上昇の開始および終了の時刻ならびに水位を確認する。図7Aないし図7Hから取得した情報を図8に示す。図8は、出水イベントの集計結果を表形式にまとめたものである。
続いて、出水イベントの集計結果に基づいて相関式を構築する(ステップS23)。例えば、図8に示す集計結果の「融雪量(cm)」と「水位上昇量(m)」との相関性から、融雪量(cm)に「0.0937」をかけて水位上昇量(m)を求める式を得ることができる(図9参照)。図9は、融雪量と水位上昇量の関係を示すグラフである。これにより、水位上昇量と融雪量との関係式(式(C)の係数「a」は、「0.0937」でとなり、係数「b」は、「0.00」となる。なお、融雪量と水位上昇量との相関性は、河川の特性、流域の特性、水位予測地点の位置などにより決定され、例えば河川ごとに係数「a,b」は異なる。
【0031】
≪第4工程:融雪量を考慮した河川の水位予測式(式(D))を用いた水位予測の実施≫
図1に示す第4工程では、融雪量を考慮した河川の水位予測式(式(D))を用いて、河川の水位予測を実施する。水位予測式(式(D))は、図1に示す第1工程で選定した物理モデル(式(A))と、第2工程で構築した融雪量の推算式(式(B))および第3工程で構築した水位上昇量と融雪量との関係式(式(C))とを組み合わせたものである。
・WL(Pred_new)=WL(Pred)+ΔWL ・・式(D)
ここで、「WL(Pred):物理モデルによる予測値、ΔWL:融雪による水位上昇量、WL(Pred_new):融雪を考慮した水位」である。
【0032】
図10を参照して、第4工程における水位予測について説明する。図10は、融雪量を考慮した河川の水位予測方法に関する工程を示したフローチャートの例示である。
図10に示す通り、水位予測方法に関する工程に関する工程は、「分布画像準備工程(ステップS31)」、「累積値算出工程(ステップS32)」、「累積融雪量算出工程(ステップS33)」、「水位上昇量算出工程(ステップS34)」、「河川の水位予測工程(ステップS35)」で構成される。
【0033】
<分布画像準備工程(ステップS31)>
水位予測地点K3(図2参照)よりも上流側の流域内における気温分布画像、降水量分布画像および風速分布画像を、時間の経過に対応付けて複数準備する。第三者から気温分布画像、降水量分布画像および風速分布画像を取得してもよいし、観測値からこれらの気象分布画像を作成してもよい。気象分布画像を作成する場合、例えば、水位予測地点K3よりも上流側の流域K4内または流域K4近傍の複数地点で測定した気温、降水量および風速に基づいて、当該流域K4における気温分布画像、降水量分布画像および風速分布画像を、時間の経過に対応付けて複数作成する。なお、予報値を用いて気温分布画像、降水量分布画像および風速分布画像を作成してもよい。予報値を用いることで、長時間先の水位を予測することができる。第三者が提供する気象分布画像は、例えば気象庁や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が公表するものである。
【0034】
<累積値算出工程(ステップS32)>
次に、気温、降水量および風速の気象分布画像ごとに代表値を求め、予め決められた期間の代表値を累積した累積気温、累積降水量および累積風速を算出する。気象分布画像の代表値は、流域K4全体の影響が反映された値であり、例えば統計的手法によって求めた統計量(平均値や総和など)である。
例えば、1時間ごとに作成した気温分布画像の各々から、流域K4における気温の代表値を求め、それら代表値を加算することによって気温の累積値(累積気温)を求める。また、同様に、1時間ごとに作成した降水量分布画像および風速分布画像の各々から、流域K4における降水量分布画像および風速分布画像の代表値を求め、それら代表値を加算することによって降水量の累積値(累積降水量)および風速の累積値(累積風速)を求める。ここで、気温の代表値が摂氏0度以上の場合に、気温、降水量および風速の代表値を累積させ、気温の代表値が摂氏0度よりも低い場合に、その代表値を累積させないのがよい。摂氏0度よりも低い場合では、摂氏0度以上の場合に比べて温度と融雪量との間の相関性が認められたかったためである。
【0035】
<累積融雪量算出工程(ステップS33)>
次に、ステップS13(図3参照)で得られた推算式(式(B))を用いて、流域で発生する将来の融雪量を計算する。具体的には、ステップS32で求めた気温の累積値(累積気温)、降水量の累積値(累積降水量)および風速の累積値(累積風速)を融雪量の推算式(式(B))に代入し、気象項目値を累積した期間に対応する融雪量を計算する。
【0036】
<水位上昇量算出工程(ステップS34)>
次に、ステップS23(図5参照)で求めた関係式(式(C))を用いて、流域での融雪に基づく水位上昇量を求める。具体的には、ステップS33で計算した融雪量を関係式(式(C))に代入し、水位予測地点K3(図2参照)での水位上昇量を計算する。
【0037】
<河川の水位予測工程(ステップS35)>
次に、第1工程(図1参照)で選定した物理モデルを用いて、融雪に伴う水位上昇を考慮しない水位を予測する。物理モデルの入力データは、物理モデルの種類によって異なり、物理モデルの入力データは別途取得する。なお、分布画像準備工程(ステップS31)で用いた情報を用いて、物理モデルによる水位予測を行ってもよい。
そして、物理モデルによって別途求めた予測値に、ステップS34で求めた水位上昇量を加算して、最終的な水位予測値とする。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る融雪量推定方法によれば、天気予報として取得が容易な気温の予報値を用いて流域内の融雪量を推定することができる。そのため、流域内の長時間先の融雪量を予測することが可能である。また、融雪量推定方法で推定した融雪量を用いることで、融雪時期における河川の長時間先の水位を予測することも可能である。
また、本実施形態に係る融雪量推定方法では、気温に加えて、天気予報として取得が容易な降水量および風速の予報値を用いて流域内の融雪量を推定することで、より精度の高い融雪量の予測を行うことができる。
【0039】
(効果検証のためのシミュレーション)
本実施形態に係る水位予測方法(融雪量推定方法を含む)の効果を検証するために、実際の観測値を用いた水位予測のシミュレーションを行ったので説明する。シミュレーションでは、青森県を流れる岩木川の繁田観測所を水位予測地点(図2の符号K3)として選定し、「2011年~2022年の3~5月」における1時間ごとのAMeDAS観測値(積雪量、気温、降水量および風速)を用いた。気象分布画像の作成では、「2011年~2022年の3~5月」における1時間ごとのAMeDAS観測値を線形補完することによって流域内の気象分布画像を作成した(図4参照)。気象分布画像の代表値は、平均値とし、気象項目値の累積では、各年の3月1日の1時をスタートとして、気温の代表値が摂氏0度以上の場合の代表値を累積した。
【0040】
図11および図12に、積算温度法により求めた、繁田観測所上流の累積気温と累積融雪量の関係を示す。図11の(a)は2011年のグラフであり、(b)は2012年のグラフであり、(c)は2013年のグラフであり、(d)は2014年のグラフであり、(e)は2015年のグラフであり、(f)は2016年のグラフである。また、図12の(a)は2017年のグラフであり、(b)は2018年のグラフであり、(c)は2019年のグラフであり、(d)は2020年のグラフであり、(e)は2021年のグラフであり、(f)は2022年のグラフである。図11および図12では、累積気温が5,000度までの範囲を示している。
【0041】
図11および図12から分かるように、各年とも累積気温の上昇ともに累積融雪量が増加している。累積融雪量の増加のパターンは、累積気温がおおむね「2,000~5,000度」付近でみられる「(ア)融雪量の急激な上昇期間」と、「3,000~8,000度」の間でみられる「(イ)融雪量の緩やかな上昇期間」と、「8,000度」以降にみられる「(ウ)融雪量が一定値の期間(積雪無し期間)」とに分類できる。
「(ア)融雪量の急激な上昇期間」について、累積気温と累積融雪量の相関式を求めたところ、各年でばらつきがみられるものの正の相関があることを確認した(図13参照)。図13は、累積気温と累積融雪量の相関式を示す図である。
また、図13で求めた相関式から融雪量を推定し、実際の融雪量と比較したものを図14に示す。図14は、融雪量の実測値と相関式に基づく融雪量の推定値とを比較したものである。図14に示すように、領域内の累積気温から累積融雪量を推定できることが確認できる。
【0042】
実施形態で説明した通り、重回帰分析で得られる相関式は、以下の式(2)に示す通りである。
・y=w1x1+w2x2+w3x3+w0 ・・式(2)
ここで、「y:累積融雪量、x1:累積気温、x2:累積降水量、x3:累積風速、w1,w2,w3,w0:重回帰分析の係数(重み)」である。
また、各変数の値は、図15に示す表の通りであった。図15は、重回帰分析で得られた係数をまとめたものである。
【0043】
重回帰分析により求めた融雪量の推定値と実際の融雪量を比較した結果を図16に示す。積算温度法で得られた結果(図14参照)では、R2が約「0.59」であったのに対し、重回帰分析により求めた結果(図16参照)では、R2が約「0.83」となっており、重回帰分析によって相関性が向上している(R2が「1.0」に近づいている)。
最後に、重回帰分析で得られた求めた水位上昇量の式(図16参照)を用いて水位上昇量を求め、数値モデルの予測値に加算して水位予測値とした。図17は、本発明を用いて水位を予測した結果であり、予測水位と実測水位がおおむね同程度となっている。本結果から分かるように、本発明は融雪に伴う水位上昇量を適切に表現していることが確認できる。
【符号の説明】
【0044】
K1 河川
K2 海
K3 水位予測地点
K4 流域
J1~J6 観測地点
S11 分布画像準備工程
S12 累積値算出工程
S13 多変量解析工程
S21 出水イベント選定工程
S22 出水イベント情報の取得工程
S23 相関式の構築工程
S31 分布画像準備工程
S32 累積値算出工程
S33 累積融雪量算出工程
S34 水位上昇量算出工程
S35 河川の水位予測工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図6J
図6K
図6L
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20