(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146602
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】射出装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/53 20060101AFI20241004BHJP
B29C 45/62 20060101ALI20241004BHJP
B22D 17/20 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B29C45/53
B29C45/62
B22D17/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059603
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】519450639
【氏名又は名称】アドヴァンシング・プラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126468
【弁理士】
【氏名又は名称】田久保 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】川崎 孝明
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AC01
4F206AR071
4F206AR12
4F206JA07
4F206JD04
4F206JF01
4F206JF12
4F206JF23
4F206JM01
4F206JN03
4F206JQ31
4F206JQ44
(57)【要約】
【課題】種々の形状のペレットをむらなく効率的に溶融させることができるとともに、MIM材料やCIM材料を含む溶融された材料を迅速に成形型に射出注入し、良好な成形品を効率的に製造することのできる射出装置を提供する。
【解決手段】本発明は、プランジャ形の射出装置に関し、ペレットPを加熱溶融する溶融部16の導入通路36aに、外周面がプランジャ14側からノズル部20側に向かって傾斜する上部円錐部38aを有する押圧部材38を配設し、ペレットPを上部円錐部38aにより導入通路36aの内壁面に押圧させながら加熱溶融させた後、ノズル部20を介して成形型18に射出注入する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペレットが供給される供給口を有するシリンダと、
前記シリンダの内周面に沿って変位し、前記供給口から供給された前記ペレットを押圧するプランジャと、
前記シリンダに連結され、前記プランジャにより押圧されて供給された前記ペレットを加熱溶融する溶融部と、
前記溶融部に連結され、前記溶融部で溶融された前記ペレットを成形型内に射出する射出口を有するノズル部と、を備え、
前記溶融部は、
前記ペレットを前記プランジャ側から前記ノズル部側に導入する導入通路が形成される本体部と、
前記導入通路に配設され、前記プランジャ側から前記ノズル部側に向かって、前記導入通路の中央部から前記導入通路の内周面に徐々に近接する円錐状外周面を有し、前記ペレットを前記導入通路の前記内周面に向けて押圧する押圧部材と、
前記本体部に配設され、前記導入通路に導入された前記ペレットを前記導入通路の前記内周面を介して加熱溶融するための溶融熱を供給する加熱手段と、
を備えることを特徴とする射出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の射出装置において、
前記押圧部材には、前記ノズル部の内周面に密接した状態で、加熱溶融された前記ペレットの滞留域を規制する規制部材が前記ノズル部内に配置されることを特徴とする射出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の射出装置において、
前記シリンダ、前記プランジャ及び前記溶融部を有する複数組の射出装置を選択的に制御する制御部を備えることを特徴とする射出装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の射出装置において、
前記押圧部材は、前記円錐状外周面に接続して前記ノズル部側に配置され、前記導入通路の内周面に当接する円柱状外周面と、前記円柱状外周面に形成され、前記導入通路から前記ノズル部に連通する溝部とを有し、
前記円錐状外周面は、前記シリンダの軸線に対する傾斜角度が15~45°の範囲、前記円柱状外周面の前記軸線の方向の長さが前記押圧部材の前記軸線の方向の長さの1/8~1/3の範囲、前記溝部の幅が1~3mmの範囲にそれぞれ設定されることを特徴とする射出装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の射出装置において、
前記プランジャの外周面には、前記シリンダの内周面に当接するOリングが配設されることを特徴とする射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペレットを溶融させて成形型に射出注入するプランジャ形の射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出装置は、例えば、粒状、棒状又は粉末状のペレットを加熱溶融して、所望の形状からなるキャビティを有する金型内に射出注入する装置である。射出装置としては、シリンダ内に供給されたペレットを溶融し、プランジャによって成形金型内に押圧注入するプランジャ形のものが知られている(特許文献1参照)。なお、ペレットとしては、樹脂材料を用いる場合が多いが、MIM(Metal Injection Molding)では樹脂材料と金属材料を混合させた材料が用いられ、CIM(Ceramics Injection Molding)では、樹脂材料とセラミックスを混合させた材料が用いられるが、射出成形は困難である。
【0003】
特許文献1に開示された射出装置では、プランジャを有するシリンダの端部にペレットを加熱溶融するための溶融部が連結されている。溶融部には、外周部に板状ヒータや電磁誘導コイル等の加熱手段が装着され、この加熱手段により発生したジュール熱が溶融部を加熱してペレットを溶融させる。ペレットが供給される溶融部内には、プランジャ側から、溶融されたペレットである溶湯(以下、溶融された樹脂材料、MIM材料、CIM材料等を含め「溶湯」という)が射出されるノズル部側に掛けて、徐々に縮径する複数の円錐形状の通路が設けられており、溶湯は、この通路を介してノズル部から成形金型内に射出注入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の射出装置のペレットは、溶融部から円錐形状の通路の内壁を介して供給されるジュール熱により溶融される。しかしながら、溶融部には、多数の円錐形状の通路が形成されているため、溶融部の質量は、通路の分だけ少なくなる。従って、溶融部は、充分な熱量を蓄積できないために、ペレットを効率的に溶融することは困難である。特に、ペレットが供給される円錐形状の通路の入口側は、溶融部の質量が最も少ない部分であり、供給されたペレットは、この入口側で溶融を開始するが、溶融部は、入口側での蓄熱量が少ないため、ペレットを高い圧力でノズル部側に押圧しても、ペレットの溶融速度が遅く、充分な射出速度を得ることができない。しかも、ペレットは、プランジャに面する多数の通路間の隔壁があるため、ノズル部側へ容易に移動することができない。この場合、大きなペレットや長い形状のペレットは、通路内に入らず、また、この隔壁がペレットに対するプランジャによる押圧力を減少させてしまうため、押圧力がペレットに十分に付与されず、その分、ペレットの溶融速度及び射出速度がさらに低下してしまう。
【0006】
また、板状ヒータや電磁誘導コイル等の加熱手段は、溶融部の外周部に装着され、溶融部を間接的に加熱しているため、溶融部を大きくして熱容量を増加させようとすると、射出装置全体が大型化してしまう。さらに、溶融部は、加熱手段によって外側から加熱されているため、溶融部の中央部分の温度が周辺部分である加熱手段側の温度よりも低くなる。従って、円錐形状の通路間に温度むらが生じ、その温度むらにより温度の低い溶湯の一部が通路内に滞留し、通路の目詰まりが発生する場合がある。また、熱伝導率の高い金属材料やセラミックス等のペレットを使用するMIM、CIM等では、入り口側の隔壁表面で一度溶融したペレットがシリンダ内で溶融拡散した後、再度固化することでプランジャが動かなくなってしまう場合がある。
【0007】
さらにまた、ペレットには、成形品の強度を確保するために繊維状材料を混入させる場合がある。かかる場合には、繊維状材料は、開口面積の小さい通路の入口によって移動が阻害され、溶湯樹脂中に均一に分散しないことや、通路の目詰まりを生じさせることがある。
【0008】
本発明は、上記の課題を考慮してなされたものであって、種々の形状のペレットをむらなく効率的に溶融させることができるとともに、MIM材料やCIM材料を含む溶融された材料を迅速に成形型に射出注入し、良好な成形品を効率的に製造することのできる射出装置を提供することを目的とする。なお、本発明においては、樹脂の溶融効率が上がることにより低圧成形が可能となり、成形型は金属である必要が無く、樹脂型やシリコン型、石膏や木版等においても適用可能となることから、成形型と称する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る射出装置は、ペレットが供給される供給口を有するシリンダと、前記シリンダの内周面に沿って変位し、前記供給口から供給された前記ペレットを押圧するプランジャと、前記シリンダに連結され、前記プランジャにより押圧されて供給された前記ペレットを加熱溶融する溶融部と、前記溶融部に連結され、前記溶融部で溶融された前記ペレットを成形型内に射出する射出口を有するノズル部と、を備え、前記溶融部は、前記ペレットを前記プランジャ側から前記ノズル部側に導入する導入通路が形成される本体部と、前記導入通路に配設され、前記プランジャ側から前記ノズル部側に向かって、前記導入通路の中央部から前記導入通路の内周面に徐々に近接する円錐状外周面を有し、前記ペレットを前記導入通路の前記内周面に向けて押圧する押圧部材と、前記本体部に配設され、前記導入通路に導入された前記ペレットを前記導入通路の前記内周面を介して加熱溶融するための溶融熱を供給する加熱手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記射出装置において、前記押圧部材には、前記ノズル部の内周面に密接した状態で、加熱溶融された前記ペレットの滞留域を規制する規制部材が前記ノズル部内に配置されることを特徴とする。
【0011】
また、前記射出装置において、前記シリンダ、前記プランジャ及び前記溶融部を有する複数組の射出装置を選択的に制御する制御部を備えることを特徴とする。
【0012】
また、前記射出装置において、前記押圧部材は、前記円錐状外周面に接続して前記ノズル部側に配置され、前記導入通路の内周面に当接する円柱状外周面と、前記円柱状外周面に形成され、前記導入通路から前記ノズル部に連通する溝部とを有し、前記円錐状外周面は、前記シリンダの軸線に対する傾斜角度が15~45°の範囲、前記円柱状外周面の前記軸線の方向の長さが前記押圧部材の前記軸線方向の長さの1/8~1/3の範囲、前記溝部の幅が1~3mmの範囲にそれぞれ設定されることを特徴とする。
【0013】
また、前記射出装置において、前記プランジャの外周面には、前記シリンダの内周面に当接するOリングが配設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の射出装置では、押圧部材の円錐状外周面によってペレットを導入通路の内周面に向けて押圧させることにより、加熱手段により発生した溶融熱を種々の形状のペレットに供給して、MIM材料やCIM材料を含むペレットをむらなく効率的に溶融させることができる。また、溶融部に配置される押圧部材は、プランジャ側に広い開口が確保されているため、ペレットは、目詰まりを起こすことなく導入通路内に容易に導入される。従って、溶融されたペレットは、ノズル部を介して迅速に成形型に射出注入され、良好な成形品を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】溶融部を構成する本体部及び押圧部材の一部破断分解斜視図である。
【
図3】
図3Aは、射出装置に溶融前のペレットを供給した状態の断面図であり、
図3Bは、射出装置に供給されたペレットを溶融させて射出する状態の断面図である。
【
図4】
図4Aは、ペレットの溶融開始時の状態の要部詳細説明図であり、
図4Bは、ペレットの溶融中の状態の要部詳細説明図である。
【
図5】
図5A~
図5Cは、射出成形処理後の射出装置からペレットP等を除去する処理工程の動作説明図であり、
図5Dは、
図5Aの状態からプランジャを上昇させた状態の説明図である。
【
図7】他の実施形態に係る射出装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<射出装置10の構成の説明>
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態の射出装置の断面図である。
図2は、溶融部を構成する本体部及び押圧部材の一部破断分解斜視図である。
【0017】
射出装置10は、シリンダ12、プランジャ14、溶融部16及びノズル部20を備える。シリンダ12は、ペレットPが供給される供給口12aを有する。プランジャ14は、シリンダ12の内周面に沿って上下に変位し、供給口12aから供給されたペレットPを押圧する。溶融部16は、シリンダ12の下端部に連結され、プランジャ14により押圧されて供給されたペレットPを加熱溶融する。ノズル部20は、溶融部16の下端部に連結され、溶融部16で溶融されたペレットP(以下、溶融された樹脂材料、MIM材料、CIM材料等を含め「溶湯M」という)を成形型18内のキャビティ18aに射出する射出口20aを有する。
【0018】
円筒状のシリンダ12の上端部には、ギア22a、22bを介してサーボモータ24が連結される。サーボモータ24は、モータ制御部26により制御される。ギア22aには、シリンダ12の軸線に沿ってシリンダ12内に配置されるボールねじ28が連結される。ボールねじ28には、変位部材30が螺合する。変位部材30には、シリンダ12の内周面に沿って変位する円筒状のプランジャ14が連結される。プランジャ14の下端部外周には、シリンダ12の内周面に摺接するOリング32が装着される。ペレットPの供給口12aは、シリンダ12の上下方向の略中間部分に配置される。ペレットPの供給量及び供給タイミングは、ペレット供給制御部34により制御される。
【0019】
溶融部16は、本体部36、押圧部材38及び加熱手段40を有する。本体部36の形状は、肉厚な円筒形状である。押圧部材38は、本体部36の中央部に形成されペレットPをプランジャ14側からノズル部20側に導入する導入通路36aに配設される。加熱手段40は、本体部36の内部に複数配設される。
【0020】
本体部36は、加熱手段40によって発生されたジュール熱を導入通路36aに導入されたペレットPに効率的に伝達すべく、熱伝導率の大きい材料によって形成されることが好ましい。また、本体部36の体積は、中央部に形成された導入通路36aの容積の3~10倍に設定することにより、蓄熱量を充分に確保することができる。
【0021】
押圧部材38は、上部円錐部38a、円柱部38b、溝部38c及び下部円錐部38dを有する。
【0022】
上部円錐部38aは、プランジャ14側からノズル部20側に向かって、導入通路36aの中央部から導入通路36aの内周面に徐々に近接する円錐状外周面を有する。上部円錐部38aの円錐状外周面の導入通路36aの軸線に対する傾斜角度θは、θ=15~45°の範囲に設定することにより、ペレットPを導入通路36aの内壁面に効果的に押圧させることができる。
【0023】
円柱部38bは、上部円錐部38aの下部に一体的に形成される。また、円柱部38bは、外径が本体部36の導入通路36aの内径に略等しくなるように設定される。円柱部38bの高さは、上部円錐部38a及び円柱部38bの全高の1/8~1/3倍に設定することが好ましい。
【0024】
下部円錐部(規制部材)38dは、円柱部38bの下部に一体的に形成される。下部円錐部38dは、ノズル部20の内周面に密接した状態でノズル部20内に配置され、加熱溶融されたペレットPのノズル部20内の滞留域を規制する規制部材である。
【0025】
溝部38cは、溶融されたペレットPの溶湯Mが通過する通路であり、円柱部38b及び下部円錐部38dの外周面に所定間隔で複数形成される。円柱部38b及び下部円錐部38dの外周面に形成される溝部38cの幅は、1~3mmの範囲に設定することが好ましい。円柱部38bの外周面に形成された溝部38cに連通して下部円錐部38dの外周面に形成される複数の溝部38cは、円柱部38b側から徐々に接近し、下部円錐部38dの下端部において合流する。
【0026】
加熱手段40は、ジュール熱を発生させてペレットPを溶融させるものであり、ヒータ制御部42により制御される。加熱手段40は、例えば、本体部36の軸線方向と平行に配置される棒状ヒータである。加熱手段40は、具体的には、ニクロム線のような発熱体をコイル状に巻回し、絶縁体で被覆して金属パイプに収容した棒状ヒータであるカートリッジヒータを使用することができる。
【0027】
本実施形態に係る射出装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その動作について
図3、
図4に基づいて説明する。
【0028】
<射出装置10の動作の説明>
図3Aは、射出装置10に溶融前のペレットPを供給した状態の断面図であり、
図3Bは、射出装置10に供給されたペレットPを溶融させて射出する状態の断面図である。
図4Aは、ペレットPの溶融開始時の状態の要部詳細説明図であり、
図4Bは、ペレットPの溶融中の状態の要部詳細説明図である。
【0029】
先ず、モータ制御部26は、プランジャ14の下端部がペレットPの供給口12aよりも上に位置する状態となるようにサーボモータ24を駆動する(
図1参照)。この状態において、ペレット供給制御部34は、ホッパ等を介して供給口12aから所定量のペレットPをシリンダ12内に供給する。シリンダ12内に供給されたペレットPは、
図3Aに示されるように、シリンダ12内と、導入通路36aに配設されている押圧部材38の上部円錐部38aの周囲とに充填される。この場合、押圧部材38は、上部円錐部38aの頂点側がプランジャ14側となるように配置され、導入通路36aの上部に広い開口面積が確保されている。そのため、ペレットPは、大きな形状や長い形状のものであっても導入通路36a内に容易に充填される。また、例えば、ペレットPが繊維状材料を含んでいる場合であっても、繊維状材料は、溶湯Mから分離されることがなく、適度に混在された状態を維持して充填される。
【0030】
次いで、ヒータ制御部42は、溶融部16の本体部36に配設された加熱手段40を駆動制御する。加熱手段40が駆動制御されると、
図4Aに示されるように、加熱手段40により発生したジュール熱Hは、本体部36を加熱し、導入通路36aに充填されているペレットPを加熱溶融する。この場合、ペレットPは、
図4Bに示されるように、導入通路36aの内壁面側から加熱溶融される。なお、加熱手段40は、本体部36の内部に配設されているため、ジュール熱Hは、外部に放出されずに、本体部36を介して効率的にペレットPに供給され、ペレットPが迅速に加熱溶融される。
【0031】
ペレットPの加熱溶融が完了すると、モータ制御部26は、サーボモータ24を駆動して
図3Bに示される状態からプランジャ14を下降させる。
【0032】
プランジャ14は、ペレットPに対して所定の押圧力Fを付与する。シリンダ12の軸線方向からペレットPに付与された押圧力Fは、押圧部材38の上部円錐部38aの円錐状外周面に沿った押圧力に分圧される。この円錐状外周面に沿った押圧力の分力は、ペレットPを導入通路36aの内壁面に押圧する。この結果、ペレットPは、導入通路36aの内壁面に押圧密着され、極めて効率的に加熱溶融される。
【0033】
ペレットPが加熱溶融された溶湯Mは、押圧部材38の円柱部38b及び下部円錐部38dの外周面に形成されている複数の溝部38cを介してノズル部20の射出口20aから成形型18のキャビティ18aに射出注入される。この場合、ノズル部20の中には、押圧部材38の下部に下部円錐部38dが配置されているため、余分な溶湯Mがノズル部20内で滞留することがなく、無駄なく且つ温度を低下させずに成形型18に迅速に供給される。この結果、所望の成形品が効率的に製造される。
【0034】
ここで、例えば、次の成形品を製造するために成形型18の交換等を行う際、射出装置10内に残っている溶湯Mが垂れ落ち、成形型18の湯口回りや作業台等を汚してしまうことが懸念される。しかしながら、射出装置10では、プランジャ14の下端部外周部にOリング32が配設されており、シリンダ12内の気密性が確保されている。そのため、射出装置10は、例えば、成形型18を交換する際、後述する
図5Dに示されるように、プランジャ14をペレットPの供給口12aの手前まで引き上げてシリンダ12内に負圧を発生させることにより、溶湯Mの垂れ落ちを確実に回避することができる。
【0035】
<射出成形処理後のペレットP等を除去する処理工程に関する説明>
次に、射出成形処理が終了した後、射出装置10には、一部が溶融したペレットP及び溶湯M(以下、「ペレットP等」という)が残留している。このペレットP等を除去する処理工程につき、
図5A~
図5Cに基づいて説明する。
図5A~
図5Cは、射出成形処理後の射出装置からペレットP等を除去する処理工程の動作説明図である。具体的には、
図5Aは、射出成形処理が終了した射出装置10の状態を示す第1工程、
図5Bは、第2工程、
図5Cは、第3工程の説明図である。
【0036】
射出成形処理が終了した直後は、プランジャ14が溶融部16に最接近した下端部に位置している。溶融部16の導入通路36aには、ペレットP及び溶湯Mが残留しており、ノズル部20内には、溶湯Mが残留している。つまり、第1工程として、
図5Aに示されるように、射出装置10は、残留しているペレットP等を除去する所定の場所まで移動される。
【0037】
さらに、モータ制御部26は、第2工程として、
図5Bに示されるように、プランジャ14を供給口12aよりも上の位置となるように矢印方向に上昇させる。このとき、シリンダ12内には、供給口12aから外気が流入する。そして、モータ制御部26は、第3工程として、
図5Cに示されるように、再びプランジャ14を矢印方向に下降させると、外気が圧縮されペレットP等を加圧し、シリンダ12内に残留していたペレットP等がノズル部20を介して外部に排出される。
【0038】
以上のように、導入通路36a及びノズル部20内に残留していたペレットP等は、確実に外部に排出されるため、例えば、ペレットPの材料を交換するための専用のパージ材等を用いることなく、射出装置10に異なる種類の材料からなるペレットPを供給し、速やかに次の成形処理に移行することができる。
【0039】
<本体部36の変形例の説明>
図6A~
図6Dは、溶融部16を構成する本体部36の変形例の斜視図を示す。
図6Aに示される本体部44は、直方体形状の本体部44の中央部に導入通路44aが形成され、導入通路44aの軸線と略平行に加熱手段40が配設されている。
図6Bに示される本体部46は、直方体形状の角部が切り欠かれ、その中央部に導入通路46aが形成され、導入通路46aの軸線と略平行に加熱手段40が配設されている。
図6Cに示される本体部48は、ノズル部20が装着される下方向に向かって縮径される円錐台形状であって、中央部に導入通路48aが形成され、導入通路48aに徐々に接近するように傾斜させた状態で加熱手段40が配設されている。
図6Dに示される本体部50は、直方形状の本体部50の中央部に導入通路50aが形成され、導入通路50aの軸線と略直交する方向に加熱手段40が配設されている。これらの本体部36、44、46、48、50は、射出装置10が設置される場所や射出装置10の構成に応じて適宜選択される。
【0040】
射出装置10は、ペレットPが供給される供給口12aを有するシリンダ12と、前記シリンダ12の内周面に沿って変位し、前記供給口12aから供給された前記ペレットPを押圧するプランジャ14と、前記シリンダ12に連結され、前記プランジャ14により押圧されて供給された前記ペレットPを加熱溶融する溶融部16と、前記溶融部16に連結され、前記溶融部16で溶融された前記ペレットPを成形型18内に射出する射出口20aを有するノズル部20と、を備え、前記溶融部16は、前記ペレットPを前記プランジャ14側から前記ノズル部20側に導入する導入通路36aが形成される本体部36と、前記導入通路36aに配設され、前記プランジャ14側から前記ノズル部20側に向かって、前記導入通路36aの中央部から前記導入通路36aの内周面に徐々に近接する円錐状外周面38aを有し、前記ペレットPを前記導入通路36aの前記内周面に向けて押圧する押圧部材38と、前記本体部36に配設され、前記導入通路36aに導入された前記ペレットPを前記導入通路36aの前記内周面を介して加熱溶融するための溶融熱を供給する加熱手段40と、を備える。
【0041】
射出装置10によれば、押圧部材38の上部円錐部38aによってペレットPを導入通路36aの内周面に向けて押圧させることにより、加熱手段40により発生した溶融熱をペレットPに供給して、ペレットPをむらなく効率的に溶融させることができる。また、押圧部材38は、プランジャ14側に広い開口が確保されているため、ペレットPは、その大きさにかかわらず目詰まりを起こすことなく容易に導入通路内に導入される。従って、溶融されたペレットPは、ノズル部20を介して迅速に成形型18に射出注入され、良好な成形品を効率的に製造することができる。
【0042】
射出装置10において、前記押圧部材38には、前記ノズル部20の内周面に密接した状態で、加熱溶融された前記ペレットPの滞留域を規制する規制部材である下部円錐部38dが前記ノズル部20内に配置される。
【0043】
射出装置10において、前記押圧部材38は、前記円錐状外周面38aに接続して前記ノズル部20側に配置され、前記導入通路36aの内周面に当接する円柱状外周面38bと、前記円柱状外周面36bに形成され、前記導入通路36aから前記ノズル部20に連通する溝部38cとを有し、前記円錐状外周面38aは、前記シリンダ12の軸線に対する傾斜角度θが15~45°の範囲、前記円柱状外周面38bの前記軸線の方向の長さが前記押圧部材38の前記軸線の方向の長さの1/8~1/3の範囲、前記溝部38cの幅が1~3mmの範囲にそれぞれ設定される。
【0044】
射出装置10において、前記プランジャ14の外周面には、前記シリンダ12の内周面に当接するOリング32が配設される。
【0045】
<射出装置の他の実施形態の説明>
次に、射出装置10の他の実施形態である射出装置60について、
図7に基づいて説明する。
図7は、他の実施形態に係る射出装置60の断面図を示す。
【0046】
射出装置60は、2組の射出装置62A及び62Bを組み合わせて構成される。射出装置62Aは、サーボモータ64により駆動されシリンダ66内を移動するプランジャ68を有し、シリンダ66の下端部には、溶融部70が装着される。シリンダ66には、ペレットPを供給する供給口66aが配設される。溶融部70を構成する本体部72の内部には、加熱部74が配設されるとともに、本体部72の中央部に形成された導入通路72aに押圧部材76が配設される。押圧部材76は、プランジャ68側が円錐形状となる上部円錐部76aと、上部円錐部76aの下部に配設される円柱部76bと、円柱部76bに形成される複数の溝部76cとを有する。溶融部70の下端部には、溶湯Mを成形型18のキャビティ18aに射出注入するためのノズル部78が装着される。
【0047】
射出装置62Bは、射出装置62Aと同様に構成される。溶融部70を構成する本体部72及びノズル部78は、射出装置62Aと共通である。
【0048】
射出装置60は、射出装置62A、62Bの各サーボモータ64を選択的に制御するモータ制御部26と、射出装置62A、62Bへ選択的にペレットPを供給するペレット供給制御部34と、溶融部70を制御するヒータ制御部42とを備える。
【0049】
以上のように構成される射出装置60は、以下のように動作させることができる。
【0050】
先ず、モータ制御部26は、射出装置62Aのサーボモータ64を駆動し、射出装置62Aのプランジャ68を射出装置62Bのプランジャ68よりも先に下降させてペレットPに押圧力を付与し、射出装置62Aの溶融部70で加熱溶融されたペレットPの溶湯Mが成形型18のキャビティ18aに射出注入される。次いで、モータ制御部26は、射出装置62Aによる射出処理の開始から所定時間経過後、射出装置62Bのサーボモータ64を駆動し、射出装置62Bのプランジャ68を下降させてペレットPに押圧力を付与し、射出装置62Bの溶融部70で加熱溶融されたペレットPの溶湯Mが成形型18のキャビティ18aに射出注入される。一方、射出装置62Aは、射出装置62Bから溶湯Mがキャビティ18aに射出注入されている間にプランジャ68を上昇させ、ペレット供給制御部34がシリンダ66内に次のペレットPを供給する。
【0051】
以上の動作を交互に繰り返すことにより、射出装置60は、成形型18に対して溶湯Mを連続的に射出注入することができる。この結果、容量の大きな成形品を効率的に製造することができる。
【0052】
なお、本発明は、上述の実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0053】
上述の実施形態では、押圧部材38を構成する上部円錐部38a、円柱部38b及び下部円錐部38dは、一体的に形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、下部円錐部38dを別体として円柱部38bの下部に連結させるようにしてもよい。また、押圧部材38は、ノズル部20内に残留するペレットP等を容易に排出できる場合や、ノズル部20内に滞留する溶湯Mが少ない場合には、下部円錐部38dを省略してもよい。
【0054】
また、上述した他の実施形態において、射出装置60は、2組の射出装置62A、62Bにより構成されているが、設置場所やコストの面で許容できるのであれば、射出装置の構成数はこれに限定されるものではない。例えば、射出装置60を3組以上の射出装置で構成してもよい。
【0055】
また、シリンダ12の材質は、溶融したペレットから発生するガスによって腐食されにくい材料であれば、限定されるものではない。例えば、シリンダ12として、ステンレス系の鋼材や、クロムメッキした鉄系の素材で形成しても良い。
【0056】
さらに、ノズル部20の材質は、熱伝導率の高い材料であれば、限定されるものではない。例えば、ノズル部20として、ステンレス、真鍮、銅、ベリリウム鋼等で形成しても良い。
【0057】
また、Oリング32は、耐熱性の高い材料であれば、限定されるものではない。例えば、Oリング32として、シリコンで形成しても良い。
【0058】
また、押圧部材38の材質は、耐熱性の高い材料であれば、限定されるものではない。例えば、押圧部材38として、金属、セラミックス、ガラス等で形成しても良い。
【符号の説明】
【0059】
10、60、62A、62B…射出装置
12、66…シリンダ
12a…供給口
14、68…プランジャ
16、70…溶融部
18…成形型
18a…キャビティ
20、78…ノズル部
22a、22b…ギア
24、64…サーボモータ
26…モータ制御部
28…ボールねじ
30…変位部材
32…Oリング
34…ペレット供給制御部
36、44、46、48、50、72…本体部
36a、72a…導入通路
38、76…押圧部材
38a、76a…上部円錐部
38b、76b…円柱部
38c、76c…溝部
38d…下部円錐部
40、74…加熱手段
42…ヒータ制御部