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特開2024-146605酸化スズ含有分散液とその製造方法、膜形成用塗布液及び膜付き基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146605
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】酸化スズ含有分散液とその製造方法、膜形成用塗布液及び膜付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20241004BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059608
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】港 康佑
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA08
4J037CB21
4J037CB23
4J037CC14
4J037CC15
4J037DD02
4J037DD05
4J037DD07
4J037DD23
4J037DD24
4J037FF02
4J037FF11
4J038CD021
4J038CF021
4J038HA166
4J038JC30
4J038JC35
4J038KA06
4J038KA09
4J038NA01
4J038NA20
4J038PB08
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】導電性と透明性を両立する塗膜を形成できる分散液および塗布液を提供する。
【解決手段】
本発明の分散液は、酸化スズ含有粒子が焼結した二次粒子と、スルホ基またはスルホニル基を有するとともに炭素数が6以上の分散剤と、有機溶媒とを含んでいる。二次粒子の平均粒子径が170~700nmであり、二次粒子の表面積1nmに対して1.0×1015個以上1.0×1017個未満のスルホ基またはスルホニル基が分散液中に含まれている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズ含有粒子が焼結した二次粒子と、スルホ基またはスルホニル基を有する分散剤と、有機溶媒とを含む分散液であって、
前記二次粒子の平均粒子径が170~700nmであり、
前記分散剤の炭素数が6以上であり、
前記分散液中に、前記分散剤中のスルホ基またはスルホニル基が、前記二次粒子の表面積1nmに対して1.0×1015個以上1.0×1017個未満となるように含まれることを特徴とする分散液。
【請求項2】
前記酸化スズ含有粒子の結晶子径が5~15nmである請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
固形分濃度が5~40%である請求項1または2に記載の分散液。
【請求項4】
請求項1に記載の分散液と、バインダを含む塗布液。
【請求項5】
請求項4に記載の塗布液を用いて基材上に膜を形成することを特徴とする膜付き基材の製造方法。
【請求項6】
酸化スズ含有粉末前駆体を焼成し、酸化スズ含有粉末を得る第一工程と、
スルホ基またはスルホニル基を有する分散剤と有機溶媒とが存在する溶液中で、前記酸化スズ含有粉末を分散し、酸化スズ含有二次粒子分散液を得る第二工程と備え、
前記第二工程で前記酸化スズ含有二次粒子の平均粒子径を170~700nmに調整することを特徴とする酸化スズ含有分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する酸化スズ含有分散液と、この分散液を用いて調製された膜形成用の塗布液及び膜付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、導電性粒子を含む分散液を用いた塗布液から、導電膜を形成する検討がなされている。このような導電膜はパソコンやカーナビ、タッチパネルなどのディスプレイの帯電防止膜として使用されている。膜の帯電を防止すると埃等のゴミが付着することを防ぐことができる。
【0003】
帯電防止膜に求められる特性としては、高い導電性(低電気抵抗率)を有することは当然ながら、ディスプレイなどの視認性を確保するため、高い透明性も求められる。高い透明性を実現するには粒子が溶媒中、塗膜中で凝集することなく分散していることが重要である。
【0004】
特許文献1には、1~50nmの平均粒子径を有する一次粒子が集合した、スズ含有金属酸化物粒子と、分散剤と、溶媒とを含む塗布液が開示されている。この塗布液に含まれる粒子は二次粒子径が2~100nmと小さいため、この分散液を用いた塗布液からなる膜は透明性が高い。
【0005】
特許文献2には、帯電防止性能、ヘーズ、透明性、強度、耐擦傷性、硬度等に優れた透明被膜を得るために、表面にスルホン酸基を有する無機酸化物粒子と、マトリックス形成成分とを含む帯電防止膜形成用組成物が開示されている。無機酸化物粒子表面にスルホン酸基を有しているため、この粒子を含む膜の導電性は高い。また、粒子径が5~50nmと小さいため透明性に優れている。
【0006】
ここで、一般的に、導電性フィラーを用いた導電膜において、電気抵抗を発生させる因子としては、フィラー内の抵抗(バルク抵抗)、フィラー同士の界面での抵抗(粒界抵抗)がある。バルク抵抗はフィラーの材質によって大きく異なり、粒界抵抗は電気が流れる経路(導電パス)中で粒子界面が増えるほど増大する。また、粒界に入り込んだ分散剤の存在により、更に粒界抵抗が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-511575号公報
【特許文献2】特開2007-106936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
引用文献1に記載のスズ含有金属酸化物粒子を含有する塗布液は、塗膜とした際に高い透明性を示すが、平均粒子径が小さいため、塗膜が目的とする導電性を示すために必要な量の粒子を添加すると、膜中の粒子数が多くなる。結果として、粒子同士の接点が多くなり、粒界抵抗が増大するため、膜の抵抗が高くなる。仮に、塗膜中の粒界抵抗を低減するために、二次粒子径を大きくすると、二次粒子の比表面積が小さくなるため、二次粒子表面に吸着できない分散剤が分散液または塗布液中に多く存在することになり、塗膜とした際粒子間に分散剤が入り込み粒界抵抗を増加させるため、膜の導電性が低下する。
【0009】
引用文献2に記載の粒子は、粒子径が5~50nmと小さい粒子のため、透明性に優れた膜が得られる。しかし、比表面積が大きいため、粒子を分散液中に安定に分散させるためには多量の分散剤が必要であり、多量の分散剤は分散剤同士が化学結合することで粒子表面を分散剤の層が厚く覆うため、塗膜にした際の粒界抵抗が高くなりやすい。
【0010】
そこで、本発明の目的は、導電性と透明性を両立する塗膜を形成できる分散液および塗布液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の分散液は、酸化スズ含有粒子が焼結した二次粒子(以下、酸化スズ含有二次粒子と称す)と、スルホ基またはスルホニル基を有する分散剤と、有機溶媒と、を含む分散液である。前記二次粒子の平均粒子径は170~700nmであり、分散剤の炭素数が6以上、分散剤中のスルホ基またはスルホニル基が酸化スズ二次粒子の表面積1nmに対して、1.0×1015個以上1.0×1017個未満含まれている。このような組成の分散液を含む塗布液から得られる膜は、高い導電性を示し、透明性も高い。
【0012】
また、分散液の製造方法は、酸化スズ含有粉末と、分散剤と、有機溶媒を混合し、懸濁液を調製する工程(混合工程)と、懸濁液を分散することにより酸化スズ含有二次粒子の分散液を調製する工程(分散工程)を備える。分散工程で酸化スズ含有二次粒子の平均粒子径を170~700nmに調整する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の分散液は、酸化スズ含有粒子が焼結した二次粒子と、スルホ基またはスルホニル基を有するとともに炭素数が6以上の分散剤と、有機溶媒とを含んでいる。二次粒子の平均粒子径が170~700nmであり、二次粒子の表面積1nmに対して1.0×1015個以上1.0×1017個未満のスルホ基またはスルホニル基が分散液中に含まれている。
【0014】
平均粒子径が170~700nmの酸化スズ含有二次粒子を用いることにより、高い透明性と良好な導電性を備えた膜が得られる。平均粒子径が200nm未満であると、透明性の高い分散液が得られるが、導電性が低くなる。一方、700nmを超えると、導電性は向上するが、透明性が低下する。
【0015】
酸化スズ含有粒子の結晶子径は5~15nmが好ましい。結晶子径が5nm以上であると、酸化スズ粒子の結晶性が高いため粒子自体の導電性が高く、得られる膜の導電性が高い。また、15nm以下であると粒子自体の透明性が高く、得られる膜の透明性も高くなる。つまり、上記範囲の結晶子径であると酸化スズ含有粒子を含む分散液を用いた塗布液から形成される膜は透明性と導電性を両立する。
【0016】
[酸化スズ含有粒子(一次粒子)]
酸化スズ含有粒子の平均粒子径は20~40nmが好ましい。一次粒子径が上記範囲にあることで、これらが焼結した二次粒子も塗膜にした際の透明性が高くなる。つまり、一次粒子径が170~700nmの粒子であると、光が塗膜を通過する際に散乱され、透明性が低下する。一方、本発明の粒子は、上述のような平均粒子径が小さな粒子が焼結した二次粒子であるため、膜にした際単に上記範囲の粒子径である粒子を含む膜よりも塗膜を通過する際の光の散乱が抑えられ、結果として透明性の高い導電性膜が得られる。
【0017】
酸化スズ含有粉末として、例えば特開平6-76636や特願昭62-51008等に記載の方法で製造された酸化スズ含有粉末が使用できる。また、酸化スズ含有粉末を調製する方法として、スズイオン溶液を中和する方法、加熱水中へ塩化スズ溶解させた溶液を加えて加水分解する方法が挙げられる。以下、中和する方法について説明する。酸化スズに酸を加えることによりイオン化した後、塩基を用いてこのイオンを中和する。これにより、酸化スズの沈降物を得る。これを乾燥し、焼成することにより、酸化スズ含有粉末が得られる。中和するとき、三酸化アンチモンもイオン化し、スズイオンと一緒に中和する(共沈する)ことができる。共沈すると、アンチモンを酸化スズ含有粉末にドープすることができる。調製する酸化スズ粒子全量に対して、2~12質量%のアンチモンをドープすると、酸化スズ粒子の導電性が高くなる。
【0018】
[分散剤]
本発明において、分散剤とは界面活性剤、カップリング剤などを示す。界面活性剤とは具体的に、1つの分子内に親水性の部位と疎水性の部位を有する物質である。またカップリング剤とは、1つの分子内に有機官能基とアルコキシ基を有する金属アルコキシドである。
【0019】
本発明の分散液に用いられる分散剤はスルホ基またはスルホニル基を含む。詳細は不明だが、分散剤がこれらの官能基を有することにより、粒子表面に極めて薄い水和層を形成し、電気が流れやすくなることが考えられる。これにより、膜にした際の膜中の粒子間の粒界抵抗の上昇を抑えられ、透明かつ導電性が高い、膜が得られる。
【0020】
本発明に用いられる分散剤は、デカンスルホン酸などの界面活性剤や、有機鎖中にスルホ基またはスルホニル基を有するチタネートカップリング剤などが挙げられる。
【0021】
前記分散剤は、分子中のスルホ基またはスルホニル基が前記二次粒子の表面積1nmに対して、1.0×1015個以上1.0×1017個未満となるよう分散液中に含まれる。この範囲の含有量であると、酸化スズ粒子を上述の二次粒子径の範囲の大きさに分散液中に均一に分散させつつ、膜にした際に粒界抵抗の増加を抑制できるまた、上記範囲よりも多く分散剤を添加すると、酸化スズ含有二次粒子の表面に吸着した分散剤の分子鎖同士が絡み合うことで粒子が凝集してしまい、分散性が低下することや、上述の二次粒子径の範囲より小さい粒子径の分散液が得られることおよび膜にした際に粒子間に分散剤が多く含まれることにより導電性が低下する。
【0022】
ここで、粒子の表面積は式「4πr」(πは円周率、rは遠心沈降式によって測定した体積平均粒子径を2で割ったもの)より算出した値である。
【0023】
また、上記分散剤の炭素数は6以上である。6未満であると分子鎖が短すぎて、分散剤としての機能を発揮できず、分散液中で粒子が凝集し、結果として膜にした際の膜の透明性が低下する。好ましい炭素数は6~18である。この範囲の炭素数であると、分散液中の粒子の分散性と、膜にした際の膜の導電性と透明性を両立することができる。
【0024】
[有機溶媒]
ここで使用する有機溶媒は、塗布後に乾燥工程等によって除去でき、分散剤を溶解できるものであればよい。アルコール、グリコール、グリコールエーテル類、ケトン、または芳香族炭化水素系等が挙げられる。具体的には、イソプロピルアルコール、ブタノール、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノンが例示できる。
【0025】
[その他の成分]
本発明の分散液を用いた塗布液には、必要に応じてその他の成分を添加してもよい。例えば、シリカ粒子を含む塗布液を用いて膜を形成すると、膜の導電性が高く、且つ膜のヘーズが低くなる。これは、酸化スズ粒子がシリカ粒子の周りに沿った状態で存在することにより、導電パスが形成され易くなるためであると考えられる。また、塗布液がシリカ粒子を含むと、膜表面が滑り易くなるため、最表面に用いた際には耐擦傷性の向上等の効果や基材を重ねた際の膜同士の貼りつきを防ぎ易くなる。そのため、膜付き基材の取り扱いが容易になる。
【0026】
<塗布液>
上述の酸化スズ含有二次粒子分散液に、バインダを添加することにより、塗布液が調製される。この分散液にバインダを添加しても、酸化スズ含有二次粒子は凝集し難い。凝集しても、塗布液に超音波を照射することにより、再分散する。
【0027】
超音波を照射する前に、上述の分散剤を追加で添加することにより、酸化スズ粒子の再分散が促進される。分散剤の種類は、既に分散液に含まれている分散剤と同じ種類でも、異なる種類でもよい。
【0028】
[バインダ]
バインダは、有機溶媒に溶解でき、導電膜を形成できるものであればよい。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などが挙げられる。複数種類のバインダを混合して用いてもよい。
【0029】
[塗布液用有機溶媒]
塗布液には必要に応じて、膜にするための濃度調整、乾燥速度の抑制、粘度や表面張力の調整を目的とする有機溶媒を添加してもよい。添加する有機溶媒は、分散剤とバインダを溶解できれば、分散液由来の有機溶媒と同じ種類でも、異なる種類でもよい。
【0030】
基材上に上述の塗布液を塗布し、乾燥することにより、膜付基材を製造できる。基材は均一な液膜を形成可能で、乾燥温度に耐えられるものであればよい。塗布方法として、バーコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法、グラビアコート法、スリットコート法、加圧塗布法等が挙げられる。平均膜厚は、用途に応じて適宜選択できる。平均膜厚は50nm以上だと、静電気による急激な電圧変化を抑制し易い。平均膜厚は80nm以上が好ましい。平均膜厚が1000nm以下であると、透明性が高くなる。平均膜厚は300nm以下が好ましい。
【0031】
<塗布液の製造方法>
以下、塗布液の製造方法について説明する。
【0032】
まず、酸化スズ含有粉末前駆体を焼成し、酸化スズ含有粉体を調製する[第一工程]。次に、スルホ基またはスルホニル基を有する分散剤と有機溶媒存在下で、平均粒子径が170nm~700nmとなるように酸化スズ含有粉体を分散し、酸化スズ含有二次粒子分散液を調製する[第二工程]。その後、バインダを添加することにより、塗布液を調製する[第三工程]。
【0033】
《第一工程》
酸化スズ粉末前駆体を焼成し、酸化スズ含有粉末を得る。焼成温度は400℃~700℃が好ましい。この焼成温度であると、酸化スズ含有粒子の結晶性が向上する。
【0034】
《第二工程》
酸化スズ含有粉末と、分散剤と、有機溶媒を混合し、酸化スズ含有粉末の懸濁液を調製する。ここでは分散剤として、スルホ基またはスルホニル基を有する分散剤を混合する。このような分散剤であれば、分散された酸化スズ二次粒子が再凝集することなく、有機溶媒に分散し易くなる。分散剤を有機溶媒に混合・溶解し、分散剤溶液を調製した後、酸化スズ含有粉末と分散剤溶液を混合することが好ましい。この方法であれば、分散工程において、酸化スズ含有二次粒子の表面に分散剤が均一に処理される。酸化スズ含有二次粒子の平均粒子径を170~700nmとなるように分散する。酸化スズ含有二次粒子の平均粒子径が170nm以上のとき、膜にした際に高い導電性が得られる。一方、酸化スズ粒子の平均粒子径が700nm以下であることにより、膜にした際の透明性が低くなる。
【0035】
ビーズミル等の媒体ミル、高速撹拌機、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ジェットミル等の湿式粉砕機を用いて、酸化スズ含有粉末を粉砕することができる。特に、ビーズミルを用いると、懸濁液中の酸化スズ含有粉末を分散し易い。ビーズミルを用いる場合、分散時間や周速、ビーズの充填率は使用するビーズミルの装置の規模や形状によって適宜調整する必要がある。ビーズ径は周速に応じて適宜調整する。使用するビーズがガラスやジルコニアであると、入手が容易である。使用するビーズがジルコニアやアルミナ等の無機酸化物であると、酸化スズ含有粉末に与えるエネルギーが高いため、酸化スズ含有粉末を分散し易い。分散後、ステンレス金網等を用いて分散液を濾過すると、粗大粒子を除去できる。
【実施例0036】
[実施例1]
以下、分散液および塗布液の調製方法を具体的に示す。他の実施例や比較例の分散液および塗布液の調製条件も併せて表1に示す。
【0037】
《酸化スズ含有粉末調製》
まず、以下のように酸化スズ含有粉末を調製した。スズ酸カリウム153gを水343gに溶解させた。これに吐酒石9.3gを加え、溶解させた。これを硝酸とともに、50℃の温水にpHを8.5に保持するように、12時間かけて添加した。これにより、酸化スズ粉体前駆体水分散液を得た。この酸化スズ粉体前駆体水分散液から酸化スズ粉体前駆体を濾別し、洗浄した。その後、100℃で5時間乾燥し、さらに550℃で3時間焼成することにより、酸化スズ含有粉末を得た。得られた粒子の結晶子径は10.4nmであった。
【0038】
結晶子径の測定は、酸化スズ含有粉末をリガク社製のRINT(登録商標)1400(X線構造解析装置)を用いた。PDXLを用いて回折ピークのパターンを解析し、Scherrerの式(D=K×λ/(β×cosθ))を用いて、回折ピークの半値幅から、粒子の結晶子径を算出した。Dは結晶子サイズ(nm)、Kはシェラー定数、λはX線の波長(nm)、βは回折線幅の広がり(rad)、θはブラッグ角(rad)である。
【0039】
《酸化スズ含有二次粒子分散液調製》
次に、酸化スズ含有粉末と、分散剤と、有機溶媒を混合し、懸濁液を調製した。分散剤としてスルホコハク酸ジオクチルナトリウム塩(富士フィルム和光純薬株式会社製、有効成分96%)1.7gと、有機溶媒としてシクロヘキサノン(林純薬工業社製)74.5gとを混合した。これを10分間撹拌することにより、分散剤溶液を調製した。この分散剤溶液76.2gと、酸化スズ含有粉末45.7gとを500mLのガラスビーカー中で混合することにより、懸濁液を調製した。
【0040】
前記懸濁液121.9gにガラスビーズBZ-06(アズワン社製、ビーズ径は0.5mmφ)230gを加えた。バッチ式ビーズミル イージーナノRMBII型を用いて、懸濁液中の酸化スズ含有粉末を分散することにより、酸化スズ含有二次粒子を調製した。酸化スズ含有二次粒子の平均粒子径が190nm(表1に記載の酸化スズ粒子の平均粒子径)となるまで分散を続けた(他の実施例および比較例でも、酸化スズ含有二次粒子の平均粒子径が、表1に記載の平均粒子径となるまで、分散を続けた)。ビーズミルの周速は12m/sとした。網目44μmのステンレス金網を用いて、懸濁液からガラスビーズを分離した。これにシクロヘキサノンを加えることにより、酸化スズ含有二次粒子分散液(固形分濃度35.0質量%)を調製した。
【0041】
酸化スズ含有二次粒子の平均粒子径は、分散液と有機溶媒を使用して、固形分濃度が0.3%になるように希釈し、遠心沈降寸法測定器BI-DCP(Brookhaven Instruments Corporation製)を用いて測定した。
【0042】
《塗布液調製》
シクロヘキサノン85.0gにバインダとして塩化ビニル―酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学工業社製ソルバインC(登録商標))15.0gを溶解し、バインダ溶解液とした。このバインダ溶解液16.7gを撹拌中の酸化スズ含有二次粒子分散液21.4gに添加し、塗布液前駆体とした。この塗布液前駆体を5分間撹拌した後、シクロヘキサノン6.9gとプロピレングリコールモノメチルエーテル(林純薬工業社製)を添加した。さらに、60分間撹拌した後、超音波分散機(カイジョー社製 Horn type 5281型)を用いて超音波を60秒間照射し、ステンレス金網を用いて濾過することで塗布液を調製した。
【0043】
《塗布》
バーコーター法により、ポリエステルフィルム(東洋紡社製コスモシャイン(登録商標)A4360)上にこの塗布液を塗布した。25℃、50RH%の条件で20分間塗布液を乾燥することにより、膜付基材を得た。この膜付基材の表面抵抗と光学特性を以下のように測定した。他の実施例および比較例の測定結果も併せて表1に示す。
【0044】
<評価>
(1)表面抵抗
表面抵抗測定機(日東精工アナリテック社製ハイレスターUX MCP-HT800)を用いて膜の表面抵抗を測定した。
【0045】
(2)光学特性
ヘーズメーター(スガ試験機社製HZ-V3)を用いて膜付基材のヘーズを測定した。
【0046】
[実施例2]
《酸化スズ含有二次粒子分散液調製》
実施例1と同様にして調製した酸化スズ含有粉末と、分散剤溶液調製に用いる有機溶媒としてMEK(林純薬工業社製)74.5gと、分散剤としてプレンアクト(登録商標)KR-9SA(味の素ファインテクノ株式会社製、有効成分80%)2.0gとを混合した。これを10分間撹拌することにより、分散剤溶液を調製した。この分散剤溶液76.5gと、酸化スズ含有粉末45.7gとを500mLのガラスビーカー中で混合することにより、懸濁液を調製した。
【0047】
次に懸濁液122.2gにガラスビーズBZ-06 230gを加え、酸化スズ粒子の平均粒子径が380nmになるまで分散したこと以外は実施例1と同様にして酸化スズ粒子を調製した。網目44μmのステンレス金網を用いて、懸濁液からガラスビーズを分離した。これにMEKを加えることにより、酸化スズ含有二次粒子分散液(固形分濃度35.0質量%)を調製した。
【0048】
《塗布液調製》
MEK70.0gにバインダとしてアクリル樹脂(クラレ社製クラリティ(登録商標)LA2270)30.0gを溶解し、バインダ溶解液とした。このバインダ溶解液13.88gを撹拌中の分散液27.0gに添加し、5分間撹拌した。3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたシリカゾル(溶媒はMIBK、SiO濃度37%、SEMで測定した平均粒子径が140nm)3.75gをシリカ粒子として酸化スズ含有二次粒子分散液に添加し、塗布液前駆体とした。この塗布液前駆体を5分間撹拌した後、追加の分散剤としてプライサーフ(登録商標)A212C(第一工業製薬社製)0.15gを添加した。この分散液を5分間撹拌した。上記混合溶媒5.22gを分散液に添加した。さらに、60分間撹拌した後、超音波分散機(カイジョー社製 Horn type 5281型)を用いて超音波を60秒間照射し、ステンレス金網を用いてこの分散液を濾過することにより塗布液を調製したこと以外は実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0049】
[実施例3]
分散時に、平均粒子径670nmとなるまで分散を続けたこと以外は、実施例1と同様に分散液、塗布液および膜付基材を得た。
【0050】
[実施例4]
分散時に、平均粒子径280nmとなるまで分散を続けたこと以外は、実施例2と同様に分散液、塗布液および膜付基材を得た。
【0051】
[実施例5]
分散時、懸濁液125.2gにスルホコハク酸ジオクチルナトリウム塩を5.0g添加し、平均粒子径280nmとなるまで分散を続けたこと以外は実施例1と同様に分散液、塗布液および膜付基材を得た。
【0052】
[比較例1]
分散時に、平均粒子径が130nmとなるまで分散を続けた。それ以外は、実施例2と同様に分散液、塗布液および膜付基材を得た。
【0053】
[比較例2]
分散時、懸濁液121.8gに、分散剤としてリン酸エステル型アニオン系界面活性剤プライサーフA212Cを1.6g添加して、平均粒子径が230nmとなるまで分散を続けたこと以外は、実施例1と同様に分散液、塗布液および膜付基材を得た。
【0054】
[比較例3]
分散時、懸濁液を125.0gに、分散剤としてプレンアクトTTSを4.8g添加して、平均粒子径が530nmとなるまで分散を続けたこと以外は実施例1と同様に分散液、塗布液および膜付基材を得た。
【0055】
[比較例4]
分散時、懸濁液119.9gに、分散剤としてプレンアクト38Sを1.7g添加し、平均粒子径が630nmとなるまで分散を続けたこと以外は実施例2と同様に分散液、塗布液および膜付基材を得た。
【0056】
[比較例5]
分散時、懸濁液を128.5gに、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム塩を8.3g添加し、平均粒子径310nmとなるまで分散を続けたこと以外は実施例2と同様に分散液、塗布液および膜付基材を得た。
【0057】
[比較例6]
分散剤をメタンスルホン酸(富士フィルム和光純薬工業株式会社製)1.7gにしたこと以外は実施例1と同様に分散液を調製しようとしたが、分散液が増粘し、後工程に進めなかった。
【0058】
【表1】