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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146613
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20241004BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20241004BHJP
【FI】
B32B3/30
G02B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059620
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(74)【代理人】
【識別番号】100201949
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 久美
(74)【代理人】
【識別番号】100227097
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】中西 美奈水
(72)【発明者】
【氏名】星野 弘気
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2K009AA15
2K009BB24
2K009CC24
4F100AK25B
4F100AK42A
4F100AL05B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA18B
4F100CA23B
4F100CC00B
4F100DD01B
4F100EH46B
4F100GB41
4F100JB06
4F100JB14B
4F100JK12
4F100JK14B
4F100JK16
4F100JN01
4F100JN30
4F100JN30B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】
光学特性、機械特性に優れ、透過鮮明度が高く、外観品質にも優れる積層フィルム、及び、前記積層フィルムを備える外観品質に優れる光学ディスプレイを提供する。
【解決手段】
基材層とコート層とを有する積層フィルムであって、前記コート層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:フィラー、及び、(C)成分:レベリング剤を含有するコート層形成用組成物から形成されてなる層であり、前記コート層の基材層側とは反対側表面に表出する、突起幅が10μm以上である突起の表面形状を、光干渉式表面形状観察装置により測定したときに、下記式(1)で示されるθ(°)の平均値が0.4(°)以上であるか、前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が35以上であることを特徴とする積層フィルム。
【数1】
〔式中、dZ(μm)は、前記突起が存在しない面を基準面としたときに、突起の周縁(地点A)から該突起の中心に向かって水平方向にdX(μm)の地点(地点B)における突起の基準面からの高さを表し、dXは5(μm)であって、前記地点Aから地点Bまでの水平方向の距離を表す。〕
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層とコート層とを有する積層フィルムであって、
前記コート層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:フィラー、及び、(C)成分:レベリング剤を含有するコート層形成用組成物から形成されてなる層であり、
前記コート層の基材層側とは反対側表面に表出する、突起幅が10μm以上である突起の表面形状を、光干渉式表面形状観察装置により測定したときに、下記式(1)で示されるθ(°)の平均値が0.4(°)以上であることを特徴とする積層フィルム。
【数1】
〔式中、dZ(μm)は、前記突起が存在しない面を基準面としたときに、突起の周縁(地点A)から該突起の中心に向かって水平方向にdX(μm)の地点(地点B)における突起の基準面からの高さを表し、dXは5(μm)であって、前記地点Aから地点Bまでの水平方向の距離を表す。
【請求項2】
基材層とコート層とを有する積層フィルムであって、
前記コート層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:フィラー、及び、(C)成分:レベリング剤を含有するコート層形成用組成物から形成されてなる層であり、
前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が35以上であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項3】
前記(B)成分が、アクリル系フィラーである、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.3質量部以上10質量部以下である請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が35以上である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が300以下である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記コート層の基材層側とは反対側表面のヘイズ値が5%以下である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項8】
透過鮮明度が460以上である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の積層フィルムを備える光学ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ディスプレイに好適に使用される、外観品質の高い積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの上にタッチパネルを載せた機器が、情報端末機などとして多く使用されている。例えば、タッチパネルの方式の一つとして知られている抵抗膜式タッチパネルにおいては、透明プラスチックフィルムと基板との間に隙間を設けて、入力面を指やペンなどで押すことで、透明プラスチックフィルムと基板とを部分的に接触させて入力を行う。
【0003】
ここで、入力時に透明プラスチックフィルムと基板が接触する際、透明プラスチックフィルム上に光の干渉によるニュートンリングが生じるなど、ディスプレイの視認性や外観を悪化させるという問題が存在する。この問題を改善するために、透明プラスチックフィルムの片面又は両面に、微粒子等によって微細な凹凸が形成された層を積層することがなされている(特許文献1~3)。しかしながら、このような微細な凹凸が形成された層を積層すると、一方で、透過鮮明度が低下するという問題が生じた。具体的には、ディスプレイを蛍光灯下等の明るいところに置いた場合に、ディスプレイ表面に粒感(ざらつき)が現われ、ディスプレイの外観(外観品質)が損なわれる場合がある。
【0004】
本発明に関連して、特許文献4には、フィルム表面に概ね平らな部分と傾斜角を有する部分とを混在させ、その拡散反射特性を制御することで、トレードオフの関係にある防眩性と透過写像鮮明性(透過鮮明度)を向上させた光学フィルムが提案されている。しかしながら、得られる光学フィルムの透過鮮明度は満足のいくものとはいい難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-203323号公報
【特許文献2】特開2013-152396号公報
【特許文献3】特開2013-171126号公報
【特許文献4】WO2009/001911号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ディスプレイに積層する積層フィルムであって、ニュートンリングやギラツキの発生を防止するだけでなく、光学特性、機械特性に優れ、透過鮮明度が高く、外観品質に優れる積層フィルム、及び、前記積層フィルムを備える、外観品質に優れる光学ディスプレイを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、基材層とコート層とを有する積層フィルムについて鋭意検討を重ねた。
その結果、
(α)前記コート層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:フィラー、及び、(C)成分:レベリング剤を含有するコート層形成用組成物から形成されてなる層であり、かつ、下記(β1)及び/又は(β2)を満たす積層フィルムは、優れた光学特性、機械特性を有し、透過鮮明度が高く、外観品質に優れるものであり、光学ディスプレイ、特にタッチパネル等に好適に用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
(β1)前記コート層の基材層側とは反対側表面に表出する、突起幅が10μm以上である突起の表面形状を光干渉式表面形状観察装置により測定したときに、後述する式(1)で示されるtanθのθ(°)の平均値が0.4(°)以上である。
(β2)前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が35以上である。
【0008】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔8〕の積層フィルム、及び、〔9〕の光学ディスプレイが提供される。
【0009】
〔1〕基材層とコート層とを有する積層フィルムであって、前記コート層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:フィラー、及び、(C)成分:レベリング剤を含有するコート層形成用組成物から形成されてなる層であり、
前記コート層の基材層側とは反対側表面に表出する、突起幅が10μm以上である突起の表面形状を、光干渉式表面形状観察装置により測定したときに、下記式(1)で示されるθ(°)の平均値が0.4(°)以上であることを特徴とする積層フィルム。
【0010】
【数1】
【0011】
〔式中、dZ(μm)は、前記突起が存在しない面を基準面としたときに、突起の周縁(地点A)から該突起の中心に向かって水平方向にdX(μm)の地点(地点B)における、基準面からの突起の高さを表し、dXは5(μm)であって、前記地点Aから地点Bまでの水平方向の距離を表す。〕
【0012】
〔2〕基材層とコート層とを有する積層フィルムであって、前記コート層が、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:フィラー、及び、(C)成分:レベリング剤を含有するコート層形成用組成物から形成されてなる層であり、
前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が35以上であることを特徴とする積層フィルム。
【0013】
〔3〕前記(B)成分が、アクリル系微粒子である、〔1〕又は〔2〕に記載の積層フィルム。
【0014】
〔4〕前記(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、0.3質量部以上10質量部以下である〔1〕又は〔2〕に記載の積層フィルム。
【0015】
〔5〕前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が35以上である、〔1〕に記載の積層フィルム。
【0016】
〔6〕前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が300以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の積層フィルム。
【0017】
〔7〕前記コート層の基材層側とは反対側表面のヘイズ値が5%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の積層フィルム。
【0018】
〔8〕透過鮮明度が460以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の積層フィルム。
【0019】
〔9〕〔1〕又は〔2〕に記載の積層フィルムを備える光学ディスプレイ。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた光学特性及び機械特性を有し、透過鮮明度が高く、外観品質にも優れる積層フィルムが提供される。このような特性を有する本発明の積層フィルムは、光学ディスプレイ、特にタッチパネルに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、コート層上に表出する、突起幅が10μm以上ある突起Pの平面形状と、θ(°)の関係を示すグラフ図である。
図2図2は、本発明の積層フィルムの表面の突起部分の模式図である。
図3図3は、従来の積層フィルムの表面の突起部分の模式図である。
図4図4は、本発明の積層フィルムを備える光学ディスプレイの一例(一部)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、1)積層フィルム、及び、2)光学ディスプレイ、に項分けして、詳細に説明する。
【0023】
1)積層フィルム
本発明の積層フィルムは、基材層とコート層とを有する積層フィルムである。
【0024】
1.基材層
本発明の積層フィルムが有する基材層として、従来から光学用フィルムとして用いられている公知の樹脂フィルムの中から適宜選択したものを用いることができる。
【0025】
樹脂フィルムを構成する樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビスコース、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、透明性や密着性に優れ、耐熱性、機械的強度にも優れる観点、及び、後述する光学物性を満たし易い観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースがより好ましい。また、SDGsの観点から、上記樹脂フィルムを構成する材料として、バイオマス度の高い材料を用いてもよいし、リサイクル又はリユースが可能な材料や、リサイクル又はリユースされた材料を用いてもよい。
【0026】
基材層は、積層フィルムとした場合において、後述する光学物性を満たすものが好ましく、単層又は2層以上の樹脂フィルムからなるものであってよい。また、基材層表面には、その上にコート層等を形成するに際して、接着性向上のために、コロナ放電処理、酸化処理等の物理的処理を施してもよい。
【0027】
基材層の厚みは、特に限定されないが、タッチパネル用途を考慮すると、25~500μmであることが好ましく、40~400μmであることがより好ましく、60~300μmであることが特に好ましく、80~200μmであることがさらに好ましい。これにより、積層フィルムの耐擦傷性や硬度が高まる傾向がある。
【0028】
2.コート層
本発明の積層フィルムのコート層(本明細書において、「本発明に係るコート層」ということがある。)は、(A)成分:活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)成分:フィラー、及び、(C)成分:レベリング剤を含有するコート層形成用組成物(本明細書において、「本発明に係るコート層形成用組成物」ということがある。)から形成されてなる層であることが好ましい。
【0029】
(1)(A)成分
本発明に係るコート層形成用組成物は、(A)成分として、活性エネルギー線硬化性樹脂(本明細書において、「活性エネルギー線硬化性樹脂」を「(A)成分」ということがある。)を含有することが好ましい。(A)成分は、紫外線、電子線等の活性エネルギー線が照射されることによって、架橋、硬化する性質を有する化合物である。
【0030】
(A)成分としては、従来公知のものの中から選択することができ、活性エネルギー線硬化性の、モノマー、プレポリマー、樹脂又はこれらの2種以上からなる混合物を用いることができる。なかでも、(B)成分との混錬性の観点、及び、光学物性を所望の範囲に調整し易い観点から、多官能(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリレート系プレポリマー、有機無機ハイブリッド樹脂等が好ましい。
【0031】
ここで、(メタ)アクリル系モノマーは、アクリル系モノマー又はメタクリル系モノマーを意味し、(メタ)アクリレート系プレポリマーは、アクリレート系プレポリマー又はメタクリレート系プレポリマーを意味し、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。他の類似用語も同様である。
【0032】
多官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。これらのモノマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
(メタ)アクリレート系プレポリマーとしては、ポリエステルアクリレート系プレポリマー、エポキシアクリレート系プレポリマー、ウレタンアクリレート系プレポリマー、ポリオールアクリレート系プレポリマー等が挙げられる。
【0034】
ここで、ポリエステルアクリレート系プレポリマーは、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸に、アルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシアクリレート系プレポリマーは、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化することにより得ることができる。ウレタンアクリレート系プレポリマーは、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリオールアクリレート系プレポリマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。これらのプレポリマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上述した多官能(メタ)アクリル系モノマーと併用してもよい。
【0035】
有機無機ハイブリッド樹脂は、同一分子内に無機成分と有機成分とが両方存在している樹脂であり、無機成分のもつ硬度、耐熱性、耐候性と、有機成分のもつ柔軟性、軽量性、加工性という両者の優れた特性を併せもつ機能材料である。有機無機ハイブリッド樹脂としては、例えば、シリカ等の無機微粒子に、シランカップリング剤等を介して、(メタ)アクリロイル基、シラノール基、ビニル基、アリル基等の重合性不飽和基を有する有機化合物を結合させて得られる化合物;3官能性シラン化合物を加水分解・重縮合させて得られるシルセスキオキサン化合物;等が挙げられる。なかでも、硬化後のコート層をより強固にするため、無機微粒子に重合性不飽和基を有する有機化合物を結合させて得られる化合物が好ましく、シリカ無機微粒子に重合性不飽和基を有する有機化合物を結合させて得られる化合物がより好ましく、シリカ無機微粒子に(メタ)アクリロイル基を有する有機化合物を結合させて得られる化合物がさらに好ましい。
【0036】
有機無機ハイブリッド樹脂が含有する無機微粒子は、後述するフィラーに該当するものではなく、バインダーとしての機能を有し、形成されるコート層の硬度を向上させるものである。上記無機微粒子の平均粒径は、5~100nmであることが好ましく、10~90nmであることがより好ましく、特に15~80nmであることが好ましく、さらには20~70nmであることが好ましい。これにより、硬化後のコート層の強度が保たれ易くなる。なお、上記無機微粒子の平均粒径は、動的光散乱法によって測定したものである。
【0037】
有機無機ハイブリッド樹脂は、上述した多官能性(メタ)アクリレート系モノマー等の他の活性エネルギー線硬化性成分と混合して使用することも好ましい。有機無機ハイブリッド樹脂が、上述した他の活性エネルギー線硬化性成分と混合して使用される場合、当該活性エネルギー線硬化性成分100質量部に対する有機無機ハイブリッド樹脂の含有量は、好ましくは10~200質量部であり、50~150質量部であることが好ましく、75~125質量部であることが特に好ましい。また、有機無機ハイブリッド樹脂は、オルガノゾル(コロイド状)の形態であることも好ましい。
【0038】
(2)(B)成分
本発明に係るコート層形成用組成物は、(B)成分として、フィラー(本明細書において、「フィラー」を「(B)成分」ということがある。)を含有することが好ましい。
フィラーを用いることにより、コート層の表面に凹凸形状を形成し、ヘイズ値等の光学物性を、所望の値に調整することが容易となる。フィラーとしては、特に制限されず、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、クレー、タルク、二酸化チタン等からなる無機系フィラー;アクリル系樹脂、アクリル-スチレン系共重合体、メラミン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、エポキシ樹脂等からなる有機系フィラー;無機と有機との中間的な構造を有するケイ素含有化合物からなる有機無機系フィラー;等が挙げられる。これらのフィラーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
これらの中でも、本発明に用いるフィラーとしては、コート層の表面に偏在しやすく、良好な光学特性が発揮されやすくなる観点から、有機系フィラーが好ましく、アクリル系樹脂からなるアクリル系フィラーがより好ましい。
【0040】
フィラーの形状としては、球状等の定形であっても、形状が特定されない不定形であってもよい。本発明の効果がより得られやすい観点から、定形であることが好ましく、球状であることがより好ましく、真球状であることがさらに好ましい。
【0041】
フィラーの平均粒径は、0.1~10μmであることが好ましく、0.5~8μmであることがより好ましく、1~6μmであることが特に好ましく、2~4μmであることがさらに好ましい。フィラーの平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0042】
フィラーの屈折率は、1.2~1.7であることが好ましく、1.3~1.6であることがより好ましく、1.35~1.5であることが特に好ましい。これにより、所望の光学特性を有し易くなる。
【0043】
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対し、0.005~10質量部であることが好ましく、0.01~5質量部であることがより好ましく、0.02~3質量部であることがさらに好ましい。これにより、本発明の効果が得られやすくなる。
【0044】
(3)(C)成分
本発明に係るコート層形成用組成物は、(C)成分として、レベリング剤(本明細書において、「レベリング剤」を「(C)成分」ということがある。)を含有することが好ましい。これにより、形成されるコート層のθ(°)やクルトシスを所望の範囲に調整し易くなり、外観品質に優れる光学ディスプレイを得ることが可能となる。
【0045】
レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、アクリル系レベリング剤、ビニル系レベリング剤等が挙げられる。なかでも、レベリング性が高く、用いる他の成分との相溶性に優れ、形成されるコート層のθ(°)やクルトシスを所望の範囲に調整し易くなる観点等から、シリコーン系レベリング剤及びフッ素系レベリング剤が好ましい。
【0046】
シリコーン系レベリング剤としては、ポリジメチルシロキサン又は変性ポリジメチルシロキサン等が好ましく挙げられる。フッ素系レベリング剤としては、パーフルオロアルキル基又はフッ素化アルケニル基を主鎖又は側鎖に有する化合物等が好ましく挙げられる。レベリング剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.3~10質量部であることが好ましく、0.4~8質量部であることがより好ましく、0.5~6質量部であることがさらに好ましく、0.6~4質量部であることがさらに好ましく、0.7~3質量部であることが特に好ましい。これにより、後述するレベリング効果を十分に得ることができ、形成されるコート層のθ(°)やクルトシスを所望の範囲に調整し易くなる。得られるコート層は、所望の光学物性を発揮しつつ、外観品質の優れたものとなる。
【0048】
(3)その他の成分
本発明に係るコート層形成用組成物は、前記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分以外に、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、光重合開始剤等が好ましく挙げられる。
【0049】
光重合開始剤を用いることにより、コート層を形成する際、光線照射量を少なくし、重合硬化時間を短縮することができる。特に、活性エネルギー線として紫外線等の活性光を照射して架橋させる場合には、光重合開始剤を存在させることが好ましい。
【0050】
光重合開始剤としては、特に制約はなく、従来公知のものを使用することができる。例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、p-フェニルベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、p-ジメチルアミノ安息香酸エステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等が挙げられる。光重合開始剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
光重合開始剤を用いる場合、その配合割合は、(A)成分100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.2~10質量部であることがより好ましく、0.5~5質量部であることがさらに好ましい。これにより、コート層が所望の耐擦傷性及び硬度を発揮し易くなる。
【0052】
本発明に係るコート層形成用組成物には、さらに、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、光安定剤、消泡剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、分散剤等の他の添加剤を、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で適宜配合することもできる。
【0053】
(4)コート層の形成
本発明に係るコート層は、本発明に係るコート層形成用組成物を、基材層又は基材層上に積層されたその他の層の表面に塗布し、得られた塗膜に活性エネルギー線を照射して、塗膜を硬化させることにより形成することが好ましい。
【0054】
本発明に係るコート層形成用組成物は、適当な溶媒中に、上述した必須成分としての(A)成分~(C)成分、及び、所望によりその他の成分を加え、これらの成分を溶解又は分散させることにより調製することが好ましい。
【0055】
用いる溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール(IBA)、n-オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ペンタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)等のセロソルブ類;3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1-エトキシ-2-プロパノール等のグリコールエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
溶媒の使用量は、本発明に係るコート層形成用組成物が、塗膜形成に適した状態(濃度、粘度)となるように、適宜決定することができる。溶媒を用いる場合、その使用量は、(A)成分100質量部に対して、10~500質量部であることが好ましく、30~300質量部であることがより好ましく、50~200質量部であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明に係るコート層形成用組成物を、基材層又は基材層上に積層されたその他の層の表面に塗工する方法としては、特に制約はなく、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等の従来公知の方法を採用することができる。塗膜は、40~120℃で、30秒から5分程度乾燥させることが好ましい。
【0058】
次いで、活性エネルギー線を照射して塗膜を硬化させ、コート層を形成することができる。塗膜を硬化させる際に用いる活性エネルギー線としては、紫外線;電子線;半導体レーザー、アルゴンレーザー、He-Cdレーザー等のレーザー光;α線、β線、γ線、中性子線、X線、加速電子線のような電離性放射線;等が挙げられる。これらの中でも、活性エネルギー線としては、比較的簡便な装置を用いて発生させることができることから、紫外線、電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。
【0059】
活性エネルギー線として紫外線を用いる場合、紫外線源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、ブラックライトランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。
【0060】
紫外線の光量は、50~1,000mJ/cmであることが好ましく、100~700mJ/cmであることがより好ましい。また、紫外線の照度は通常100~1000mW/cmであることが好ましく、200~700mW/cmであることがより好ましい。照射時間は、通常1秒から1時間であり、照射温度は、通常20~100℃である。
【0061】
電子線照射は、電子線加速器等によって行うことができる。電子線の照射量は、10~1000kradが好ましい。
【0062】
活性エネルギー線の照射は、空気雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下にて行うことができる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。
【0063】
得られるコート層の膜厚は、0.1~30μmであることが好ましく、0.2~20μmであることがより好ましく、0.5~10μmであることが特に好ましく、1~7μmであることがさらに好ましく、中でも2~5μmであることが好ましい。これにより、所望の範囲のθ(°)やクルトシスを有するコート層が形成され易く、得られるコート層は、本発明の効果を発揮しやすくなる。なお、コート層の膜厚が0.1μm未満となると、実使用上必要な硬度を得ることが困難となる場合がある。
【0064】
本発明に係るコート層は、下記(β1)及び/又は(β2)の要件を満たすものであるのが好ましい。
〈(β1)の要件〉
本発明に係るコート層においては、前記コート層の基材層側とは反対側表面に、(B)成分のフィラーに由来して突起が表出する。このうち、突起幅が、10μm以上、好ましくは、(フィラーの平均粒径(μm)+10)μm以上である突起の表面形状を、光干渉式表面形状観察装置により測定したときに、下記式(1)で示されるθ(°)の平均値が0.4(°)以上となることが好ましい。
【0065】
【数2】
【0066】
式中、dZ(μm)は、前記突起が存在しない面を基準面としたときに、突起の周縁(地点A)から該突起の中心に向かって水平方向にdX(μm)の地点(B地点)における、基準面からの突起の高さを表し、dXは5(μm)であって、前記地点Aから地点Bまでの水平方向の距離を表す。図1に、コート層上に表出する、突起幅が10μm以上である突起Pの断面形状と、θ(°)の関係を示した模式図を示す。前記突起幅とは、突起の周縁(A地点)から、水平方向に最も遠い位置にある突起の周縁(C地点)までの距離(μm)をいう。また、本発明において、「θ(°)の平均値」は、突起幅が10μm以上である任意の3つの突起につき、光干渉式表面形状観察装置により測定した上記式(1)で示されるθの値の平均値をいう。
【0067】
本発明に係るコート層は、θ(°)の平均値が、0.4(°)以上となるものが好ましく、0.5(°)以上となるものがより好ましく、0.8(°)以上となるものがさらに好ましく、1.2(°)以上となるものが特に好ましく、中でも1.6(°)以上となるものが好ましく、2(°)以上となるものが最も好ましい。当該θ(°)の平均値の上限値は、通常90(°)未満である。得られる積層フィルムに求められる光学物性や硬度等との両立の観点からは、20(°)以下となるものが好ましく、15(°)以下となるものがより好ましく、10(°)以下となるものがさらに好ましく、6(°)以下となるものが特に好ましく、中でも3(°)以下となるものが好ましい。
【0068】
(β1)の要件を満たすコート層を有する本発明の積層フィルムは、蛍光灯下等の明るいところに置いた場合に、表面に粒感(ざらつき)が現われにくくなり、外観品質に優れたものとなりやすい。
【0069】
〈(β2)の要件〉
本発明に係るコート層においては、前記コート層の基材層側とは反対側表面のクルトシス(Rku)が、35以上であるものが好ましく、38以上であるものがより好ましく、45以上であるものがさらに好ましく、55以上であるものが特に好ましく、中でも65以上であるものが好ましく、70以上であるものが最も好ましい。当該クルトシス(Rku)の上限値は、特に限定されないが、得られる積層フィルムに求められる光学物性や硬度等との両立の観点から、300以下となるものが好ましく、250以下となるものがより好ましく、200以下となるものがさらに好ましく、150以下となるものが特に好ましく、中でも100以下となるものが好ましく、90以下となるものが最も好ましい。
【0070】
クルトシス(Rku)は、粗さ形状の尖り度合い(尖度)を示すパラメータであり、その値が大きいほど、凸部が急峻な形状であることを表す。本発明において、クルトシス(Rku)の値は、JIS B0601に準拠して、光干渉式表面形状観察装置により、異なる3箇所で測定した値の平均値をいう。本発明に係るコート層は、クルトシス(Rku)が上記値であることで、蛍光灯下等の明るいところに置いた場合に、表面に粒感(ざらつき)が現われにくくなり、外観品質に優れたものとなりやすい。
【0071】
上述の通り、本発明に係るコート層においては、表面に現れる(B)成分由来の突起形状は、裾野が狭く突起の勾配が大きく、尖度の大きい形状となっている。これは、(A)成分の樹脂中で、(C)成分のレベリング剤が(B)成分のフィラーを取り囲むように作用しているためと考えられる。
【0072】
その様子を図2に示す。また、図3には、従来の積層フィルムの模式図を示す。図2、3において、1a、1bはコート層を、2a、2bは基材層を、3a、3bはフィラーを、4はレベリング剤を示す。図2に示すように、本発明に係るコート層1aにおいては、レベリング剤4が、樹脂中で、フィラー3aを取り囲むように作用し、突起の裾野の広がりを抑え、図3のコート層1bに比べて、尖り度合の高い突起が現れると考えられる。本発明の積層フィルムは、このような表面を有することで、透過鮮明度が高く、かつ、外観品質にも優れるものとなると考えられる。
【0073】
(5)その他の層
本発明の積層フィルムは、その他の層として、目的に応じて、ハードコート層、光学調整層、プライマー層、粘着剤層等を設けることができる。中でも、その他の層としては、ハードコート層が好ましく、本発明の積層フィルムにおいて、基材層の、コート層を有する面とは反対の面側に備えられることが好ましい。当該ハードコート層は、タッチパネルの最表面、すなわち、手指またはタッチペン等が直接触れる面に設けられることが好ましい。これにより、本発明の積層フィルムのタッチパネルの耐久性が向上する。
【0074】
プライマー層は、本発明の積層フィルムにおいて、基材層とコート層との間に設けられることがある。これにより、基材層とコート層との密着性を高める役割を果たす。プライマー層は、例えば、基材層の表面に、ポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールと、ポリイソシアネートとよりなる反応型の塗工液を、0.5~2g/m塗工して形成することができる。
【0075】
粘着剤層は、本発明の積層フィルムにおいて、基材層の、コート層を有する面とは反対の面側に備えられることがある。これにより、ITO膜等の透明導電膜に良好に貼合する役割を果たす。当該粘着剤層を構成する粘着剤としては特に限定されず、所定の透明性を有する、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤等の公知の粘着剤を使用することができる。なお、本発明の積層フィルムが粘着剤層を備える場合には、当該粘着剤層の表面に剥離フィルムが積層されてもよい。当該剥離フィルムは、粘着剤層表面を保護する役割を有し、その使用時において剥離除去されるものである。剥離フィルムは、その剥離面(粘着剤層と接する面)において所望の剥離性を有するものであれば特に限定されず、公知の剥離フィルムを使用することができる。
【0076】
(6)表面保護シート
本発明の積層フィルムは、使用時までコート層の表面を保護する等の目的で、該コート層上に表面保護シートを有していてもよい。表面保護シートは使用時に剥離除去されるものである。表面保護シートとしては、従来公知の樹脂フィルムが用いられることが好ましい。
【0077】
(7)層構成
本発明の積層フィルムの層構成の例としては、次のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、以下においては、次の記号を用いている。
BL:基材層
コート:コート層
PL:プライマー層
HC:ハードコート層
RF:剥離フィルム
AL:粘着剤層
SP:表面保護シート
【0078】
BL/コート、BL/コート/SP、HC/BL/コート、HC/BL/コート/SP、BL/PL/コート、BL/PL/コート/SP、HC/BL/PL/コート、HC/BL/PL/コート/SP、RF/AL/BL/コート、RF/AL/BL/コート/SP、RF/AL/BL/PL/コート、RF/AL/BL/PL/コート/SP
【0079】
3.積層フィルムの特性
(1)全光線透過率
本発明の積層フィルムの全光線透過率は、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率の上限値は、通常100%である。これにより、得られるディスプレイの表示画像が視認性に優れたものとなる。全光線透過率は、JIS K 7361-1に準拠して、ヘイズメーターを用いて測定することができる。
【0080】
(2)ヘイズ値
本発明の積層フィルムのコート層表面のヘイズ値は、5%以下であることが好ましい。さらに、0.1~5%であることがより好ましく、0.3~5%であることがさらに好ましく、0.5~3%であることが特に好ましい。これにより、得られるディスプレイの表示画像の視認性が優れたものとなる。ヘイズ値は、JIS K 7136:2000に準拠して、ヘイズメーターを用いて測定することができる。
【0081】
(3)透過鮮明度
本発明の積層フィルムの透過鮮明度は、460以上であることが好ましく、465以上であることがより好ましい。透過鮮明度の上限値は、特に制限されないが、通常500である。透過鮮明度は視認性の指標となり、この値が上記範囲を満たすことで、良好な表示画質(視認性)が得られ易くなる。透過鮮明度は、JIS K 7374に準拠して、写像性試験機を用いて、透過モードで、コート層側から光を照射し、5クシの写像性合計値(クシ幅:0.125mm、0.25mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を算出することにより求めることができる。
【0082】
(4)水接触角
本発明の積層フィルムにおいて、コート層表面の水接触角は、50~120°であることが好ましく、60~110°であることがより好ましく、70~100°であることが特に好ましく、78~92°であることがさらに好ましく、中でも80~88°であることが好ましい。これにより、得られる積層フィルムはITO加工が好適に行うことができるとともに、所望の光学特性を満たし易い。また、得られるディスプレイの外観を良好に保持しやすくなる。水接触角は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0083】
(5)鉛筆硬度
本発明の積層フィルムにおいて、コート層表面の鉛筆硬度は、B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましく、F以上であることが特に好ましく、H以上であることがさらに好ましい。また、当該鉛筆硬度の上限値は、特に限定されないが、タッチパネルのタッチ感を好適にする観点から、通常9H以下であることが好ましく、7H以下であることがより好ましく、5H以下であることが特に好ましく、3H以下であることが特に好ましく、2H以下であることがさらに好ましい。これにより、耐擦傷性に優れ、外観品質の高いディスプレイが得られやすくなる。鉛筆硬度は、JIS K 5600に準拠して、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0084】
(6)耐擦傷性
本発明の積層フィルムにおいて、コート層表面は、耐擦傷性に優れる点でハードコート性を有する。これにより、ディスプレイにおいて使用された際に、ディスプレイの外観品質が保持されやすくなるとともに、タッチパネルのタッチ感が好適なものとなり易い。耐擦傷性に優れることは、スチールウールを用いた耐擦傷性の試験において外観変化がないことで確認することができる。具体的には、コート層表面について、JIS K5600-5-10に準じて、#0000のスチールウールを用いて、250g/cmの荷重で10cm、10往復擦った後、当該表面に生じる傷の本数で確認することができる。当該耐擦傷性の試験において、コート層表面に、確認される傷の本数は、10本以下であることが好ましく、3本以下であることがより好ましく、0本であることが特に好ましい。
【0085】
(7)表面張力
本発明の積層フィルムにおいて、コート層表面の表面張力は、好ましくは15~50mN/mであり、より好ましくは18~42mN/mであり、特に好ましくは20~30mN/mであり、さらに好ましくは22~25mN/mであり、中でも23~24mN/mであることが好ましい。これにより、前述した水接触角を満たし易くなって、得られる積層フィルムのコート層表面にITO加工を良好に行うことができる。また、光学物性を良好に満たし易くなり、特に、得られるディスプレイの外観を良好に保持しやすくなる。
表面張力は、「JIS K6768:1999」のぬれ張力試験方法に準拠して測定することができる。
【0086】
(8)外観品質
本発明の積層フィルムは、外観品質に優れるものである。すなわち、蛍光灯下等の明るいところに置いた場合であっても、表面に粒感(ざらつき)が現われにくい。そのため、ディスプレイに使用された場合、ディスプレイを蛍光灯下等の明るいところに置いた場合にも、表面に粒感(ざらつき)が現われにくくなり、外観品質の優れたものとなる。外観品質に優れることは、実施例に記載の方法で確認することができる。
【0087】
4.積層フィルムの使用
本発明の積層フィルムは、上述の通り、光学特性、機械特性に優れ、透過鮮明度が高く、外観品質に優れるものである。従って、例えば、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等の各種光学ディスプレイ、特に、タッチパネル(ディスプレイ)の外観品質を向上させるため等に好適に使用される。
【0088】
例えば、本発明の積層フィルムは、抵抗膜式タッチパネル構成部材の透明導電膜〔ITO(酸化インジウムスズ)膜〕に積層されて好適に用いられる。本発明の積層フィルムを使用したタッチパネルの一例〔タッチパネルの一部〕を示す断面模式図を図4に示す。図4において、10は本発明の積層フィルムを示し、10aは基材層を示し、10bはコート層を示し、11a、11bはITO膜を示し、12はドットスペーサを示し、13は透明基板を示し、14は液晶ディスプレイ(LCD)を示す。矢印は、タッチパネル表面に対し、指、ペン等により押圧する方向を示す。本発明の積層フィルム10の表面(指、ペン等により押圧する面)には、ハードコート層が積層されるのが好ましい。本発明の積層フィルムをこのように積層することで、得られるタッチパネルは、蛍光灯下等の明るいところに置いた場合でも、最表面に粒感(ざらつき)が現われにくくなり、外観品質の優れたものとなる。
【0089】
2)光学ディスプレイ
本発明の光学ディスプレイは、本発明の積層フィルムを備えるものである。
【0090】
例えば、図4に示すように、タッチパネルのITO膜11aと、本発明の積層フィルムのコート層10bとを、直接、又は粘着剤層等の他の層を介して貼り合わせる(積層する)ことにより、本発明の積層フィルムを備える光学ディスプレイを得ることができる。
【0091】
得られる本発明の光学ディスプレイの表面は、本発明の積層フィルムを備えることにより、蛍光灯下等の明るいところに置かれた場合にも粒感(ざらつき)が現れにくく、外観品質に優れるものである。
【0092】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0093】
なお、本明細書において、「α~β」(α、βは任意の数値)と記載した場合、特に断らない限り「α以上β以下」の意と共に、「好ましくはαより大きい」或いは「好ましくはβより小さい」の意も包含するものである。また、「α以上」(αは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはαより大きい」の意を包含し、「β以下」(βは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはβより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0094】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
(A)成分の活性エネルギー線硬化型化合物として、ナノシリカ含有ウレタンアクリレート〔商品名:オプスターZ7530、荒川化学工業社製(下記表中「A1」と示す。)〕50質量部(固形分換算値;以下同じ)、及び、ナノシリカを含まない多官能アクリレート〔商品名:ビームセット575CB、荒川化学工業社製(下記表中「A2」と示す。)〕50質量部、(B)成分のフィラーとして、架橋ポリメタクリル酸メチル〔商品名:テクポリマーSSK-103、平均粒径3.0μm、屈折率:1.49、粒子形状:真球状、積水化成社製(下記表中「B1」と示す。)〕0.025質量部、(C)成分としてシリコーン系レベリング剤〔商品名:SH28、ダウ・東レ社製(下記表中「C1」と示す。)〕0.5質量部、並びに光重合開始剤〔商品名:PI-150、大日精化工業社製〕3質量部を、溶媒を使用して均一に混合し、コート層形成用組成物を調製した。
【0096】
基材層としてのPETフィルム(商品名:ルミラーPET125U403、厚み:125μm、東レ社製)上に、前記コート層形成用組成物をマイヤーバーで塗布して塗膜を形成した。そして、70℃に保持したオーブンに1分間投入して乾燥させた。次いで、窒素雰囲気下で、紫外線照射装置(アイグランテージECS-401GX型、アイグラフィックス社製)を用い、光源としての高圧水銀灯により、照度:200mW/cm、光量:250mJ/cmの照射条件で紫外線照射を行い、前記塗膜を硬化させて、膜厚1.5μmのコート層を有する積層フィルム(積層フィルム1)を作製した。
【0097】
積層フィルム1のコート層表面につき、前記式(1)で示されるθ(°)と、クルトシス(Rku)を測定した。θ(°)の平均値は0.59(°)であり、クルトシス(Rku)は38.1であった。ここで、θ(°)の平均値は、コート層上の、突起幅が10μm以上ある任意の3つの突起につき、光干渉式表面形状観察装置(日立ハイテクサイエンス社製)により測定した値の平均値をいう。また、クルトシス(Rku)は、コート層上の3箇所につき、JIS B0601に準拠して、光干渉式表面形状観察装置(日立ハイテクサイエンス社製)により測定した値の平均値をいう。
【0098】
(実施例2~6、比較例1~6)
実施例1において、(A)成分、(B)成分、(C)成分、光重合開始剤を、下記表1に示す種類のものを下記表1に示す量を用いて、実施例1と同様にして、積層フィルム2~6、1r~6rを作製した。得られた積層フィルム2~6、1r~6rにつき、コート層表面の、前記式(1)で示されるθ(°)の平均値と、クルトシス(Rku)を、実施例1と同様にして測定(算出)した。結果を下記表1に示す。
【0099】
下記表1中、C2~C5は以下を示す。
C2:フタージエント602A(フッ素系レベリング剤、ネオス社製)
C3:メガファックRS-90(フッ素系界面活性剤、DIC社製)
C4:X-62-5408(エポキシ変性シリコーン樹脂、信越化学工業社製)
C5:BYK-3550(シリコーン系レベリング剤、BYK社製)
【0100】
【表1】
【0101】
得られた積層フィルム1~6、1r~6rにつき、以下の試験を行った。
【0102】
〔外観品質〕
積層フィルム1~6、1r~6rを、黒色板上に、コート層側の面が黒色板に接するように配置した。そして、黒色板上に配置された状態の積層フィルムを蛍光灯下に置いて、外観を目視にて観察し、以下のように評価した。結果を下記表2に示す。
◎:粒感がほとんど感じられず、良好な外観である。
〇:粒感がわずかに感じられるが、光学ディスプレイに用いるのに許容可能なレベルの外観である。
×:粒感が感じられ、光学ディスプレイに用いるには許容できない外観である。
【0103】
〔全光線透過率〕
積層フィルム1~6、1r~6rにつき、JIS K 7361-1に準拠して、ヘイズメーター(「NDH-5000」、日本電色工業社製)を用いて、ブランクで補正後に、コート層側から光を照射して、全光線透過率(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0104】
〔ヘイズ値〕
積層フィルム1~6、1r~6rにつき、JIS K 7136:2000に準拠して、ヘイズメーター(「NDH-5000」、日本電色工業社製)を用いて、ブランクで補正後に、コート層側から光を照射して、ヘイズ値(%)を測定した。結果を表2に示す。
【0105】
〔透過鮮明度〕
積層フィルム1~6、1r~6rにつき、JIS K 7374に準拠して、写像性試験機(「ICM-1T」、スガ試験機社製)を用いて、透過モードでコート層側から光を照射し、5クシの写像性合計値(クシ幅:0.125mm、0.25mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を算出し、当該算出値を透過鮮明度とした。結果を表2に示す。
【0106】
〔水接触角〕
積層フィルム1~6、1r~6rにつき、コート層表面の水接触角を測定した。すなわち、積層フィルムの基材層側表面にガラス板を貼付し、その後、当該ガラス板付積層フィルムを、ガラス板側を下にして、接触角計(「DH350試験台」、KYOWA社製)の試験台上に設置した。次いで、上記ガラス板付積層フィルムのコート層表面に、2μLの水を滴下し、滴下直後の接触角(°)を上記接触角計により測定し、これを水接触角(°)とした。結果を表2に示す。
【0107】
〔鉛筆硬度〕
積層フィルム1~6、1r~6rにつき、コート層表面の鉛筆硬度を、JIS K 5600に準拠して測定した。すなわち、鉛筆芯の硬度の異なる鉛筆(「三菱鉛筆UNI」、三菱鉛筆社製)を、750gの荷重をかけながら、45°の角度で7mm移動させたときの表面の傷付き具合を目視にて観察した。これを各5回実施し、4回以上表面に傷がつかなかった最も硬い鉛筆芯の硬さを鉛筆硬度とした。結果を表2に示す。
【0108】
〔耐擦傷性〕
積層フィルム1~6、1r~6rにつき、コート層表面の耐擦傷性を評価した。すなわち、コート層表面を、JIS K5600-5-10に準拠して、#0000のスチールウールを用いて、250g/cmの荷重で10cmの摺動距離にて10往復擦った。次いで、コート層表面における傷の有無を、3波長蛍光灯の下で目視にて確認し、下記基準に沿って評価した。結果を表2に示す。
◎:確認される傷の本数が0本
○:確認される傷の本数が1~3本
△:確認される傷の本数が4~10本
×:確認される傷の本数が11本以上
【0109】
<表面張力>
積層フィルム1~6、1r~6rにつき、JIS K6768:1999のぬれ張力試験方法に準拠して、コート層の表面張力(mN/m)を測定した。
【0110】
【表2】
【0111】
表2から、本発明の積層フィルム(積層フィルム1-6)は、外観品質に優れ、透過鮮明度が460以上であり、全光線透過率が高く、硬度、耐擦傷性に優れるものであることが分かる。
【0112】
一方、比較例の前記θ及びクルトシス(Rku)の小さい積層フィルム1r~6rは、硬度を有し耐擦傷性には優れるものの、透過鮮明度に劣り、外観品質に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上、詳述したように、本発明の積層フィルムは、透過鮮明度が高く、優れた光学特性、機械特性を有しながら、外観品質にも優れるものである。よって、高い外観品質が求められるタッチパネル等の光学ディスプレイに好適に適用されることが期待される。
【符号の説明】
【0114】
1a、1b・・・コート層
2a、2b・・・基材層
3a、3b・・・フィラー
4・・・レベリング剤
10・・・積層フィルム
10a・・・基材層
10b・・・コート層
11a、11b・・・ITO膜
12・・・ドットスペーサ
13・・・透明基板
14・・・LCD
図1
図2
図3
図4