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  • 特開-低熱膨張ブロック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146615
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】低熱膨張ブロック
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/16 20060101AFI20241004BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B35/16
C04B38/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059635
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 大介
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019FA15
(57)【要約】
【課題】熱伝導性に優れる低熱膨張ブロックを提供すること。
【解決手段】本発明の低熱膨張ブロックは、粒子径100μm以上の粉末よりなる粗粒粉と、粒子径10μm以上100μm未満の粉末よりなる中粒粉と、粒子径10μm未満の粉末よりなる微粒粉と、よりなる溶融シリカ粉末を焼成してなる低熱膨張ブロックであって、前記微粒粉の少なくとも一部がSiC粉末に置換され、かつ前記SiC粉末が、全体を100mass%としたときに、25~50mass%で含有することを特徴とする低熱膨張ブロック。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径100μm以上の粉末よりなる粗粒粉と、粒子径10μm以上100μm未満の粉末よりなる中粒粉と、粒子径10μm未満の粉末よりなる微粒粉と、よりなる溶融シリカ粉末を成形・焼成してなる低熱膨張ブロックであって、
前記微粒粉の少なくとも一部がSiC粉末に置換され、かつ前記SiC粉末が、全体を100mass%としたときに、25~50mass%で含有することを特徴とする低熱膨張ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、原料粉末を焼成してなるものであり、一般的に耐熱性を有する材料として知られている。セラミックスブロックは高い強度を有しており、高温で使用される部材に用いられる。近年は、耐熱性を備えた高強度の部材としての利用、例えば、被成形物を加熱した状態で成形する成形型や載置台への利用が増加している。
成形型として利用する場合、被成形物の寸法精度を保つために、低熱膨張性である溶融石英主体のシリカブロックが用いられる。例えば、熱膨張率の小さい溶融石英を主体とする耐熱性を備えた高強度の調合耐火物が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56-78476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被成形物を加熱した状態で成形することから、セラミックスブロックにおいては、耐熱性だけでなく、熱伝導性が高いことが求められている。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、セラミックスよりなるブロックであって、熱伝導性に優れる低熱膨張ブロックを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明の低熱膨張ブロックは、粒子径100μm以上の粉末よりなる粗粒粉と、粒子径10μm以上100μm未満の粉末よりなる中粒粉と、粒子径10μm未満の粉末よりなる微粒粉と、よりなる溶融シリカ粉末を成形・焼成してなる低熱膨張ブロックであって、前記微粒粉の少なくとも一部がSiC粉末に置換され、かつ前記SiC粉末が、全体を100mass%としたときに、25~50mass%で含有することを特徴とする。
本発明の低熱膨張ブロックは、溶融シリカにSiC粉末を混合してなることで、熱伝導性が向上する。そして、SiC粉末を25~50mass%で含有することで、熱膨張率が過剰に大きくなることが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】試料A~Gの低熱膨張ブロックの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態を用いて本発明を具体的に説明する。
【0008】
[実施形態]
本形態の低熱膨張ブロックは、粒子径100μm以上の粉末よりなる粗粒粉と、粒子径10μm以上100μm未満の粉末よりなる中粒粉と、粒子径10μm未満の粉末よりなる微粒粉と、よりなる溶融シリカ粉末を焼成してなる。
【0009】
溶融シリカ粉末は、溶融シリカを主成分とする粒子よりなる粉末である。溶融シリカは、石英ガラスとも称される物質である。一般的には、高純度のケイ石質材を溶融材としたガラス状の非晶質材よりなるものである。特に、溶融シリカは、1000℃での熱間線膨張率が約0.05%と低い材料である。なお、溶融シリカを主成分とするとは、溶融シリカの含有割合が最も多く含まれる状態を示し、好ましくは溶融シリカのみからなる。
【0010】
溶融シリカは、熱膨張性が低い材料である。溶融シリカの主成分の溶融石英は、SiCよりも熱間線膨張率が小さな材料である。つまり、高温にさらされたときの体積変化をより小さくする。このため、本形態の低熱膨張ブロックは、組織のぜい弱化や亀裂の発生が抑えられ、熱衝撃による損傷が生じにくくなり、耐熱性が向上する。
【0011】
本形態において粗粒粉とは粒子径100μm以上の粉末をいう。中粒粉とは粒子径10μm以上100μm未満の粉末をいう。微粒粉とは粒子径10μm未満の粉末をいう。なお、これらの境界値(特に微粒粉の上限値)は、本形態における値であり、当業者の技術常識の範囲で変更してもよい。
そして、本形態の低熱膨張ブロックは、微粒粉の少なくとも一部がSiC粉末に置換され、かつSiC粉末が、全体を100mass%としたときに、25~50mass%で含有する。
【0012】
SiC粉末は、SiCを主成分とする粒子よりなる粉末である。SiCは熱伝導率が270(W/m・K)と高い材料であり、SiC粉末を含有することで、低熱膨張ブロックの熱伝導性が向上する。なお、SiCを主成分とするとは、SiCの含有割合が最も多く含まれる状態を示し、好ましくはSiCのみからなる。
【0013】
SiC粉末は、低熱膨張ブロック全体を100mass%としたときに、25~50mass%で含有する。SiC粉末が25mass%以上で含有することで、低熱膨張ブロックの熱伝導性が向上する。SiC粉末が25mass%未満となると、熱伝導性の向上の効果が得られにくくなる。また、SiC粉末が50mass%を超えると、低熱膨張ブロックの熱膨張率が大きくなり、変形を生じやすくなる。また、熱衝撃性が低下する。
【0014】
SiC粉末は、微粒粉の少なくとも一部を置換する。ここで、微粒粉の一部を置換するSiC粉末は、粒子径10μm未満の粉末(微粒粉の粒度分布に含まれる粒子径の粉末)である。微粒粉の少なくとも一部がSiC粉末に置換することで、低熱膨張ブロックにおける粗粒粉、中粒粉、微粒粉の分散性が向上する。
【0015】
SiC粉末は、溶融シリカ粉末のうち、粒子径の小さい粉末(微粒粉側の粉末)を置換することが好ましい。SiC粉末は、粗粒粉を置換しないことが好ましい。SiC粉末が粗粒粉を置換すると、得られる低熱膨張ブロックでは、粒子径100μm以上のSiC粒子が偏在するようになる。
SiC粉末は、溶融シリカ粉末のうち、粒子径の小さい粉末(微粒粉側の粉末)側から置換することが好ましい。粒子径の小さい粉末側から置換することで、SiC粉末が粗粒粉を置換することが抑えられる。粒子径の小さい粉末(微粒粉側の粉末)側から置換とは、SiC粉末により置換される場合、最初に微粒粉の粉末が置換され、続いて中粒粉の粉末が置換され、最後に粗粒粉の粉末が置換される状態を示す。
【0016】
本形態の低熱膨張ブロックは、少なくとも一部の溶融シリカ粉末がSiC粉末に置換してなる混合粉末を成形・焼成してなる。焼成条件は、混合粉末粒子が焼結可能な条件であれば限定されない。例えば、大気雰囲気下、1000℃×6時間の条件で加熱して焼成することができる。混合粉末の成形は、成形可能な方法であれば限定されず、例えば、混合粉末よりなるキャスタブルを調製し、所定の形状の成形型に投入して行うことができる。
【0017】
本形態の低熱膨張ブロックは、混合粉末に含まれるSiC粉末の粒度分布を測定したときに、粒子径10μm未満の範囲(微粒粉の粒子径の範囲)にピークを持つことが好ましい。この範囲に粒度分布のピークを持つことで、上記の効果を発揮するために十分な量の微粒粉を有することとなる。ここで、ピークを持つとは、少なくとも一つの鋭いピークを持つことを示すものであり、この粒子径の範囲に複数のピークを備えていてもよい。
【0018】
本形態の低熱膨張ブロックは、熱伝導率が0.6(W/m・K)以上であることが好ましく、0.8(W/m・K)以上であることがより好ましい。熱伝導率がこの範囲になることで、SiC粉末の置換の効果がより確認できる。
【0019】
本形態の低熱膨張ブロックは、熱膨張率が0.1(%)以下であることが好ましく、0.09(%)以下であることがより好ましい。ここで、熱膨張率は、600℃での熱膨張率を示す。熱膨張率がこの範囲になることで、SiC粉末の置換の効果がより確認できる。
【実施例0020】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
(実施例)
実施例として、以下の配合を持つ混合粉末を十分に湿式混合して試料A~Gのキャスタブルを調製し、所定量の水を添加してモルタルミキサーで混練し、振動台上で所定の型枠内に流し込み、48時間自然養生後に脱枠し、110℃で24時間乾燥した。その後、大気雰囲気下、1000℃×6時間の条件で加熱・焼成して試料A~Gのセラミックスブロック(低熱膨張ブロック)を製造した。
試料Aの混合粉末は、粗粒粉:35mass%,中粒粉:25mass%,微粒粉:40mass%の溶融シリカ粉末のみからなる粉末である。本試料は、基準試料に相当する。
【0021】
試料Bの混合粉末は、粗粒粉:10mass%,中粒粉:25mass%,微粒粉:40mass%の溶融シリカ粉末、及び粗粒粉:25mass%,中粒粉:0mass%,微粒粉:0mass%のSiC粉末からなる粉末である。
【0022】
試料Cの混合粉末は、粗粒粉:15mass%,中粒粉:10mass%,微粒粉:25mass%の溶融シリカ粉末、及び粗粒粉:20mass%,中粒粉:15mass%,微粒粉:15mass%のSiC粉末からなる粉末である。
【0023】
試料Dの混合粉末は、粗粒粉:0mass%,中粒粉:5mass%,微粒粉:20mass%の溶融シリカ粉末、及び粗粒粉:35mass%,中粒粉:20mass%,微粒粉:20mass%のSiC粉末からなる粉末である。
【0024】
試料Eの混合粉末は、粗粒粉:35mass%,中粒粉:25mass%,微粒粉:15mass%の溶融シリカ粉末、及び粗粒粉:0mass%,中粒粉:0mass%,微粒粉:25mass%のSiC粉末からなる粉末である。
【0025】
試料Fの混合粉末は、粗粒粉:25mass%,中粒粉:10mass%,微粒粉:15mass%の溶融シリカ粉末、及び粗粒粉:10mass%,中粒粉:15mass%,微粒粉:25mass%のSiC粉末からなる粉末である。
【0026】
試料Gの混合粉末は、粗粒粉:15mass%,中粒粉:5mass%,微粒粉:5mass%の溶融シリカ粉末、及び粗粒粉:20mass%,中粒粉:20mass%,微粒粉:35mass%のSiC粉末からなる粉末である。
試料A~試料Gの混合粉末に含まれるSiC粉末の粒度分布を測定し(N=3)、測定結果を表1に示した。粒度分布の測定は、測定装置を用いて行った。
【0027】
【表1】
【0028】
製造した試料A~Gのセラミックスブロックの熱伝導率、熱膨張率、気孔率、嵩比重、曲げ強さ、圧縮強さを測定し、測定結果を表2に示した。また、試料A~Gのセラミックスブロックの断面写真を撮影し、図1に示した。
熱伝導率は、熱伝導率測定装置を使用し、レーザフラッシュ法により測定した。熱伝導率の測定温度は常温から1000℃の範囲で設定し、アルゴン雰囲気下で測定を行った。なお、表2には、600℃での値を記載した。
熱膨張率は、熱膨張計を用いて常温から1000℃までの間の伸びを計測し、50℃における長さに対する百分率を表した。(表2には600℃の値を記載)
気孔率はJIS-R-2205(水中重量法)に準じた方法によって測定した。
嵩比重はJIS-R-2205に準じた方法によって測定した。
圧縮強さはJIS-R-2206に準じた方法によって測定した。
曲げ強度はJIS-R-2213に準拠に準じた方法によって測定した。
【0029】
【表2】
【0030】
図1に示したように、SiC粉末の置換割合が増加するほど、SiC粉末由来の粒子(黒い点)が多く確認できる。特に、試料Bのブロックでは、SiC粉末由来の粒子(黒い点)が偏在していることが確認できた。一方、試料E~Fでは、SiC粉末由来の粒子(黒い点)が微細な状態で均一に分散していることが確認できた。
表2に示したように、SiC粉末の置換割合が増加するほど、熱伝導率が高くなる。また、SiC粉末の置換を微粒粉で行うと、粗粒粉の場合と比較して熱膨張率を低く抑えることができる。
一方、気孔率及び嵩比重は、大きな変化は確認できない。
SiC粉末の置換を多量に粗粒粉で行うと、曲げ強度及び圧縮強度が大きく上昇する。
【0031】
以上のように、SiC粉末が25~50mass%で含有するように、粗粒粉を置換することなく微粒粉側から置換した試料E~Fのセラミックスブロック(低熱膨張ブロック)は、高い熱伝導率と低い熱膨張率とを有するブロックとなっている。試料E~Fのセラミックスブロック(低熱膨張ブロック)は、これらの特性から、試料E~Fのセラミックスブロック(低熱膨張ブロック)は、被成形物を加熱した状態で成形する成形型や載置台への利用に好適な材料となっている。
図1