(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146625
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】不定形耐火物の吹付け施工方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20241004BHJP
F27D 1/10 20060101ALI20241004BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F27D1/16 C
F27D1/10
F27D1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059646
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 利之
(72)【発明者】
【氏名】小原 学
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AB03
4K051BB03
4K051GA05
4K051GA09
4K051LA02
(57)【要約】
【課題】安価な構成で作業者の技量に依存することなく均一な厚さの耐火物層を容易に構築することができる上、耐火物層の表層に、幅および深さの均一なスコアラインを容易に形成可能な吹付け施工方法を提供する。
【解決手段】吹付け施工方法Sは、鉄皮の内周面にアンカーを立設させるアンカー立設工程と、鉄皮の内周面の所定の位置にナットを固着させるナット固着工程と、ナットに羽子板ボルトを螺着させるボルト螺着工程と、幅広な矩形状の板状体を所定の姿勢となるように羽子板ボルトに固着させる板状体固着工程と、隣接した2個のアンカー、および、その間に位置したナットの側方の周囲を覆うように、コンパネからなる閉塞部分を形成するコンパネボックス形成工程と、閉塞部分の外側に不定形耐火物を吹付けるボックス外吹付工程と、閉塞部分の内側に不定形耐火物を吹付けるボックス内吹付工程とを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉を被覆した鉄皮の内周面あるいは外周面に、不定形耐火物を吹付けて耐火物からなる壁体を形成するための吹付け施工方法であって、
炉を被覆した鉄皮の内周面に、複数のアンカーを所定の規則正しい配置で立設させるアンカー立設工程と、
内周面に雌ネジを形成した筒状のナットを、鉄皮の内周面に立設される隣接した2個のアンカーの間に位置するように、鉄皮の内周面に固着させるナット固着工程と、
鉄皮の内周面に固着されたナットに、羽子板ボルトを螺着させるボルト螺着工程と、
ナットに螺着された羽子板ボルトに、幅広な矩形状の板状体を、長手方向がボルトの軸方向に対して直交するように固着させる板状体固着工程と、
前記隣接した2個のアンカー、および、その間に位置した前記ナットの側方の周囲を覆うように、前記板状体を挟むように複数のコンパネを鉄皮の内周面に立設させることによって、コンパネからなる閉塞部分を形成するコンパネボックス形成工程と
形成された閉塞部分の外側に不定形耐火物を吹付けるボックス外吹付工程と、
形成された閉塞部分の内側に不定形耐火物を吹付けるボックス内吹付工程とを有することを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法。
【請求項2】
前記アンカー立設工程が、Y字状のアンカーを、隣接するもの同士の正面の向きが互いに直交するように、鉄皮の内周面上に配置させるものであることを特徴とする請求項1に記載の不定形耐火物の吹付け施工方法。
【請求項3】
前記ナットが、軸方向に長尺な高ナットであることを特徴とする請求項1、または2に記載の不定形耐火物の吹付け施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼炉等の炉の鉄皮の内周面あるいは外周面等の施工対象面に不定形耐火物を吹付けて耐火物層(耐火物壁)を形成するための吹付け施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄用炉、製鋼用炉、非鉄金属工業用炉、石油工業用炉、燃焼炉等の耐火物層(耐火物壁)を形成するための施工方法として、それらの炉を覆う鉄皮の内周面あるいは外周面等の施工対象面に不定形耐火物を吹付ける吹付け施工方法が知られている。かかる吹付け施工方法は、耐火レンガ等の定形耐火物を組み上げる施工方法に比べて、短時間で施工できる上、目地が形成されないという利点もある。また、吹付け施工方法は、不定形耐火物を予め組み付けられた成形型内に流し込む流し込み施工に比べて、作業が容易な上、少量の水分で施工することが可能であるため強度の高い耐火物層を形成することができる、というメリットがある。
【0003】
その一方、吹付け施工方法は、形成される耐火物層の厚さが均一になりにくい上、耐火物層の表面に凹凸が形成されやすいため、スクレーパ等の工具を用いてトリミングすることで表面を平滑化して厚さを揃えなければならない事態も起こり得る。それゆえ、作業者の技量に依存して耐火物層の厚さや平滑性にバラツキが生じてしまうこともある。また、不定形耐火物によって形成される耐火物層には、一般的に、熱膨張および熱収縮に伴う応力を吸収する(緩和する)ために、電動カッター等の刃物を用いて、耐火物層の表面際に格子状の長溝(所謂、スコアライン)を形成しなければならないため、従来の吹付け施工方法が、必ずしも簡便であったとは言い難い。
【0004】
そのような吹付け施工方法の不具合を解消するため、出願人らは、不定形耐火物からなる耐火物層の厚みを均一にするとともに、耐火物層の表面にスコアラインを容易に形成するための施工方法として、炉の使用時に焼失する部材をアンカーの上部に固定させた施工用具を、鉄皮の内周面あるいは外周面に固定させた後に、不定形耐火物の吹付けを行う施工方法を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の如き吹付け施工方法は、それまでの吹付け施工方法に比べて、耐火物層の厚みを均一にしやすく、耐火物層の表面へのスコアラインの形成が容易であるものの、未だその効果が十分であるとは言えない。本発明の目的は、従来の吹付け施工方法が有する不具合を解消し、安価な構成で、作業者の技量に依存することなく均一な厚さの耐火物層を容易に形成することができる上、耐火物層の表層に、幅および深さの均一なスコアラインを容易に形成可能な吹付け施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、炉を被覆した鉄皮の内周面あるいは外周面に、不定形耐火物を吹付けて耐火物からなる壁体を形成するための吹付け施工方法であって、炉を被覆した鉄皮の内周面に、複数のアンカーを所定の規則正しい配置で立設させるアンカー立設工程と、内周面に雌ネジを形成した筒状のナットを、鉄皮の内周面に立設される隣接した2個のアンカーの間に位置するように、鉄皮の内周面に固着させるナット固着工程と、鉄皮の内周面に固着されたナットに、羽子板ボルトを螺着させるボルト螺着工程と、ナットに螺着された羽子板ボルトに、幅広な矩形状の板状体を、長手方向がボルトの軸方向に対して直交するように固着させる板状体固着工程と、前記隣接した2個のアンカー、および、その間に位置した前記ナットの側方の周囲を覆うように、前記板状体を挟むように複数のコンパネを鉄皮の内周面に立設させることによって、コンパネからなる閉塞部分を形成するコンパネボックス形成工程と、前記閉塞部分の外側に不定形耐火物を吹付けるボックス外吹付工程と、前記閉塞部分の内側に不定形耐火物を吹付けるボックス内吹付工程とを有することを特徴とするものである。
【0008】
なお、本発明に係る不定形耐火物の吹付け施工方法において吹き付ける不定形耐火物としては、アルミナ質、スピネル質、アルミナ-シリカ質、アルミナ-スピネル質、アルミナ-マグネシア質等の耐火材料を好適に用いることができる。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記アンカー立設工程が、Y字状のアンカーを、隣接するもの同士の正面の向きが互いに直交するように、鉄皮の内周面上に配置させるものであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項1、または2に記載された発明において、前記ナットが、軸方向に長尺な高ナットであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の不定形耐火物の吹付け施工方法(以下、単に、吹付け施工方法という)によれば、炉の鉄皮表面に付設されたアンカーを利用することなく、スコアライン形成用の板材(板状体)を安定した状態で立設させておくことが可能であるので、作業者の技能等にかかわらず、炉の鉄皮の内周面あるいは外周面に、スコアラインの幅や深さが均一な不定形耐火物層を、容易に形成することができる。
【0012】
請求項2に記載の吹付け施工方法によれば、炉の鉄皮の内周面あるいは外周面に形成される不定形耐火物層が、鉄皮の内周面あるいは外周面から剥がれにくいものとなる。
【0013】
請求項3に記載の吹付け施工方法によれば、ボルト螺着工程におけるナットへの羽子板ボルトの螺着作業がより簡易なものとなるので、非常に容易にかつ効率的に不定形耐火物層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】吹付け施工方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図2】吹付け施工方法の工程を示す説明図である(aは斜視図であり、bは平面図である)。
【
図4】吹付け施工方法の工程を示す説明図である(aは斜視図であり、bは平面図である)。
【
図5】羽子板ボルトを示す説明図(正面図)である。
【
図6】吹付け施工方法の工程を示す説明図である(aは斜視図であり、bは平面図である)。
【
図7】吹付け施工方法の工程を示す説明図である(aは斜視図であり、bは平面図である)。
【
図8】吹付け施工方法の工程を示す説明図である(aは斜視図であり、bは平面図である)。
【
図9】吹付け施工方法の工程を示す説明図(平面図)である。
【
図10】吹付け施工方法の工程を示す説明図(平面図)である。
【
図11】吹付け施工方法の工程を示す説明図(平面図)である。
【
図12】吹付け施工方法によって形成された耐火物層を示す説明図である(aは平面図であり、bはaにおけるA-A線断面図である)。
【
図13】吹付け施工方法に用いるコンパネ結合体の変更例を示す説明図(平面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る吹付け施工方法を利用して炉(燃焼炉等)の内周面に不定形耐火物からなる耐火物層(耐火物壁)を形成する工事の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
<吹付け施工方法の工程>
図1は、吹付け施工方法の工程を示したものであり、吹付け施工方法Sは、以下の(a)~(g)の各工程を順次実施するものである。
a.アンカー立設工程と、
b.ナット固着工程
c.ボルト螺着工程
d.板状体固着工程
e.コンパネボックス形成工程
f.ボックス外吹付工程
g.ボックス内吹付工程
以下、各工程について順に説明する。
【0017】
<a.アンカー立設工程>
吹付け施工方法Sにおいては、まず、炉(燃焼炉)を被覆した(外周を覆った)鉄皮の内周面に、複数のアンカーを所定の規則正しい配置で立設させるアンカー立設工程を実施する。
図2は、アンカー立設工程において、鉄皮1の内周面(略水平な面)にアンカー2,2・・を立設した様子を示したものであり、
図3は、アンカー2を示したものである。鉄皮1に立設するアンカー2は、下端際を軸部(上下方向の中央部分)に対して直角に屈曲させ、上側の部分を軸部に対して同一面内で約120°の角度を成すように、下端際と反対側に屈曲させた金属(鉄)製の長尺部材2aと、上側の部分を下側の部分に対して約120°の角度を成すように屈曲させた金属(鉄)製の短尺部材2bとによって構成されている。そして、アンカー2は、長尺部材2aの下端際および上側の各屈曲部分と、短尺部材2bの上側の屈曲部分とが同一面内に配置され、かつ、長尺部材2aの上側の屈曲部分と、短尺部材2bの上側の屈曲部分とで120°の角度のV字を形成するように、短尺部材2bを長尺部材2aに溶接することによって一体的に形成されている。
【0018】
アンカー立設工程においては、上記の如く形成されたY字状のアンカー2,2・・を、長尺部材2aの軸部(上下方向の中央部分)が鉄皮1の表面と直交するように、長尺部材2aの下端際の部分を鉄皮1の内周面に溶接する。また、
図2の如く、各アンカー2,2・・の長尺部材2aの軸部が、前後左右の長さが等しい格子点に位置し、かつ、隣接するアンカー2,2同士の正面の向きが互いに直交するように、各アンカー2,2・・を鉄皮1の内周面上に配置させる(なお、
図2等における破線は、アンカー2,2・・の配置状体を分かり易くするための仮想線である)。また、そのようにアンカー2,2・・を鉄皮1の内周面に溶接する際には、隣接するアンカー2,2・・の長尺部材2aの軸部同士の間隔を、200mm~250mmに調整するのが好ましい。
【0019】
<b.ナット固着工程>
上記の如く、アンカー立設工程において、鉄皮1の内周面にアンカー2,2・・を規則正しく配設(立設)した後には、
図4の如く、鉄皮1の内周面の所定の位置に、内周面に雌ネジを形成した筒状のナット3,3・・を固着させる(溶接する)。ナット3としては、軸線方向に長尺な(半径方向より長尺な)高ナットを好適に用いることができる。また、ナット3は、隣接するアンカー2,2の各軸部(長尺部分2aの中央部分)の中点に位置し、かつ、軸方向(ナット3の高さ方向)が鉄皮1の内周面と直交するように、下端の外周を鉄皮1の内周面に溶接する。なお、そのようにナット3を鉄皮1の内周面に溶接する際には、後から容易に取り外しができるようにポイント溶接とするのが好ましい。そして、概ね6~8個のアンカー2,2・・に対してナットが1個存在するように、ナット3,3・・を散点状に鉄皮1の内周面に溶接する。
【0020】
<c.ボルト螺着工程>
そして、上記の如く、ナット3,3・・を、鉄皮1の内周面の所定の位置に散点状に立設した後には、それらのナット3,3・・に、羽子板ボルト4,4・・を螺着させる。
図5は、羽子板ボルト4を示したものである。羽子板ボルト4は、金属(鉄)によって一体的に形成されており、長尺な(縦長な)矩形状の板状部4aの下端に、略円柱状のボルト本体4bが連設されている。そして、板状部4aの右側には、3つのネジ挿通孔4c,4c・・が、上下の同一線上に等間隔に穿設されており、板状部4aの左側には、3つのネジ挿通孔4c,4c・・が、右側のネジ挿通孔4c,4c・・と互い違いになるように(左側の隣り合う2つのネジ挿通孔4c,4c・・の中間に、右側のネジ挿通孔4c,4c・・が位置するように)、上下の同一線上に等間隔に穿設されている。また、ボルト本体4bの下側の外周には、ナット3の内周面に螺刻された雌ネジと螺合する雄ネジが形成されている。そして、ナット3,3・・に羽子板ボルト4,4・・を螺着させる際には、羽子板ボルト4の板状体4aの板面が、隣接したY字状のアンカー2,2の軸部同士を繋ぐ仮想線に対して直交するように配置させる。
【0021】
<d.板状体固着工程>
上記の如く羽子板ボルト4,4・・をナット3,3・・に螺着させた後には、
図6の如く、それらの羽子板ボルト4,4・・の板状部4aに、幅広な矩形状の板状体5を、長手方向が羽子板ボルト4の軸方向に対して直交するように固着させる(ネジ挿通孔4c,4c・・を利用して木ネジ等により螺着させる)。そのように各羽子板ボルト4,4・・の板状部4aに螺着させた幅広な矩形状の板状体5によって、施工後に、スコアラインが形成されることになる。なお、この場合の板状体5としては、木質板を好適に用いることができる。また、羽子板ボルト4の板状部4aに板状体5を螺着させる際には、板状体5の上端縁と羽子板ボルト4の板状部4aの上端縁とを揃える(合致させる)ように螺着させるのが好ましい(
図6(a)参照)。
【0022】
<e.コンパネボックス形成工程>
上記の如く各羽子板ボルト4,4・・の板状部4aに板状体5を螺着させた後には、1個の羽子板ボルト4(およびナット3)、および、その羽子板ボルト4を挟んで隣接した2個のアンカー2,2の側方の周囲を覆い、かつ、板状体5を挟むように、6枚のコンパネ(木質材、合成樹脂等からなる板体)を立設することによってコンパネボックス(閉塞部分)を形成する。
【0023】
図7は、コンパネボックスを形成した状態を示したものであり、コンパネボックスBを形成する際には、まず、3枚の矩形状のコンパネ6.6・・をコ字状(平面視コ字状)になるように接合させて、コンパネ結合体Cを形成する。しかる後、そのコンパネ結合体Cを、開放側の左右両側のコンパネ6,6の外側の端縁の上部が板状体5の表面と接合するように配置させて、鉄皮1の内周面に溶接することによって立設する。
【0024】
また、そのようにコンパネ結合体Cを鉄皮の内周面に立設する際には、
図8の如く、金属(鉄)製のL字状のアングル7,7を用い、アングル7,7の片面(側面)を、コンパネ結合体Cを構成するコンパネ6,6の下端縁際に螺着するとともに、アングル7,7の他面(下面)を、鉄皮1の内周面に溶接(ポイント溶接)する方法を好適に用いることができる。加えて、そのようにアングル7,7を利用して、コンパネ結合体Cを鉄皮1の内周面に溶接する場合には、コンパネ結合体Cの左右両側のコンパネ6,6の内側に、それぞれ、1個あるいは複数個のアングル7を固着させることによって、コンパネ結合体Cの左右両側のコンパネ6,6を鉄皮1の内周面に溶接するのが好ましい(なお、
図8においては、コンパネ結合体Cの左右両側のコンパネ6,6の内側に、それぞれ、1個ずつ、アングル7,7を固着させて、コンパネ結合体Cの左右両側のコンパネ6,6を鉄皮1の内周面に溶接させた状態が示されている)。
【0025】
また、羽子板ボルト4に固定された板状体5の裏面側においても、同様なコンパネ結合体Cを、開放側の左右両側のコンパネ6,6の外側の端縁の上部が板状体5の裏面と接合するように配置させて、鉄皮1の内周面に溶接することによって立設する。さらに、そのように板状体5の裏面側においてコンパネ結合体Cを鉄皮1の内周面に立設する際には、板状体5の裏面側に固定されるコンパネ結合体Cの開放側の左右両側のコンパネ6,6の外側の端縁を、板状体5の表面側に固定されるコンパネ結合体Cの開放側の左右両側のコンパネ6,6の外側の端縁に合致させる。そのように、2つのコンパネ結合体C,Cを、板状体5を挟んで対峙させた状態で鉄皮1の内周面に溶接することによって、前後に幅広で上面を開放した直方状体のコンパネボックス(閉塞部分)Bを形成する(
図7参照)。
【0026】
<f.ボックス外吹付工程>
そして、上記の如く、羽子板ボルト4、および、その羽子板ボルト4を挟んで接した2個のアンカー2,2の側方の周囲を覆うようにコンパネボックス(閉塞部分)Bを形成した後には、
図9の如く、そのコンパネボックスBの外側に、不定形耐火物(キャスタブル等)を吹付けることによって所定の厚みの耐火物層(耐火物壁)D
1を形成する(
図9における斜線部分)。なお、そのように不定形耐火物を吹き付ける際には、不定形耐火物の表面が羽子板ボルト4に固定された板状体5の上端縁と同一の高さになるように(すなわち、一定の厚みになるように)吹付ける。また、吹付け作業は、人手によって行うことも可能であるし、圧送ポンプ等の機械を用いて行うことも可能である。そして、コンパネボックスBの外側の部分への不定形耐火物の吹付け作業を行った後には、十分に時間を掛けて、形成された耐火物層D
1を養生させる。
【0027】
そして、コンパネボックス(閉塞部分)Bの外側に形成された耐火物層D
1が硬化した後には、
図10の如く、羽子板ボルト4と板状体5とを分離させ(木ネジを取り外し)、羽子板ボルト4およびナット3を、鉄皮1の内周面から取り外す。なお、ナット3は、鉄皮1の内周面にポイント溶接されているので、溶接部分を再度加熱することによって容易に取り外すことができる。さらに、板状体5の表面および裏面を挟み込んでコンパネボックスBを形成している一対のコンパネ結合体C,Cも、鉄皮1の内周面から取り外す。なお、コンパネ結合体C,Cを鉄皮1の内周面から取り外す際には、アングル7,7・・と一緒に取り外す(すなわち、溶接部分を再度加熱して鉄皮1の内周面からアングル7,7・・を取り外す)ことも可能であるし、アングル7,7・・をコンパネ結合体C,Cと分離する(木ネジによる螺着状態を解除する)ことによって、コンパネ結合体C,Cのみを鉄皮1の内周面から取り外すことも可能である。そのように、鉄皮1の内周面から羽子板ボルト4およびナット3を取り外し、一対のコンパネ結合体C,Cを取り外すことによって、板状体5のみが、コンパネボックスB(正確には、コンパネボックスBによって形成された空洞部分)の内部を横断し、コンパネボックスBの左右の耐火物層D
1によって把持された状態となる(
図10参照)。
【0028】
<g.ボックス内吹付工程>
上記の如く、コンパネボックスBの外側に耐火物層D
1を形成し、コンパネボックスBの内部の羽子板ボルト4およびナット3を鉄皮1の内周面から取り外すとともに、一対のコンパネ結合体C,Cを取り外した後には、
図11の如く、コンパネボックスB(正確には、コンパネボックスBによって形成された空洞部分)の内部に、不定形耐火物(コンパネボックスBの外部に吹き付けたキャスタブルと同じもの)を吹付けることによって耐火物層D
2を形成する(
図11における斜線部分)。なお、そのように不定形耐火物を吹き付ける際には、コンパネボックスBの外部に不定形耐火物を吹き付けたときと同じように、不定形耐火物の表面が板状体5の上端縁と同一の高さになるように(すなわち、一定の厚みになるように)吹付ける。そして、コンパネボックスBの内部への不定形耐火物の吹付け作業を行った後には、十分に時間を掛けて、形成された耐火物層D
2を養生させることによって一連の吹付け作業を完了する。
【0029】
図12は、上記a~gの工程からなる吹付け施工方法Sによって形成された耐火物層D
1,D
2を示したものであり、耐火物層D
1,D
2の表層際には、同一厚みで同一の高さの板状体5,5・・が格子状に配置された状態で埋め込まれていることによって、スコアラインL,L・・が形成された状態になっている。すなわち、当該燃焼炉の使用によって、板状体5,5・・は燃焼して焼失するため、板状体5,5・・の埋設部分が、熱膨張および熱収縮による応力集中を吸収する(緩和する)ための溝(空洞部分)として機能する。
【0030】
<吹付け施工方法による効果>
吹付け施工方法Sは、上記の如く、a.アンカー立設工程、b.ナット固着工程、c.ボルト螺着工程、d.板状体固着工程、e.コンパネボックス形成工程、f.ボックス外吹付工程、g.ボックス内吹付工程の各工程を順次実施するものである。したがって、吹付け施工方法Sによれば、鉄皮1の表面に付設されたアンカー2,2・・を利用することなく、スコアラインL,L・・を形成するための板材(板状体5,5・・)を安定した状態で立設させておくことができるので、作業者の技能等にかかわらず、鉄皮1の内周面あるいは外周面に、スコアラインL,L・・の幅や深さが均一な耐火物層D1,D2を、容易に形成することができる。
【0031】
また、吹付け施工方法Sは、a.アンカー立設工程が、Y字状のアンカー2,2・・を、隣接するもの同士の正面の向きが互いに直交するように、鉄皮1の内周面上に配置させるものであるため、鉄皮1の内周面に形成される耐火物層D1,D2を、鉄皮1の内周面から剥がれにくいものとすることができる。
【0032】
さらに、吹付け施工方法Sは、b.ナット固着工程、c.ボルト螺着工程等において使用されるナット3,3・・が、軸方向に長尺な高ナットであるので、ナット3,3・・への羽子板ボルト4,4・・の螺着作業や板状体5,5・・の向きの調整作業が簡易であるため、非常に容易にかつ効率的に耐火物層D1,D2を形成することができる。
【0033】
<吹付け施工方法の変更例>
本発明に係る吹付け施工方法は、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、アンカー立設工程、ナット固着工程、ボルト螺着工程、板状体固着工程、コンパネボックス形成工程、ボックス外吹付工程、ボックス内吹付工程等の各工程の内容を必要に応じて、適宜変更することができる。
【0034】
たとえば、コンパネボックス形成工程は、上記実施形態の如く、平面視コ字状の2個一対のコンパネ結合体を板状体を挟んで向かい合わせて鉄皮の内周面に固定するものに限定されず、
図13(a)の如く、平面視L字状の2個一対のコンパネ結合体C’,C’を板状体5を挟んで向かい合わせて鉄皮1の内周面に固定するものや、
図13(b)の如く、平面視半円状(あるいは半楕円状)の2個一対のコンパネ結合体C”,C”を板状体5を挟んで向かい合わせて鉄皮1の内周面に固定するもの等に変更することも可能である。
【0035】
また、本発明に係る吹付け施工方法は、上記実施形態の如く、板状体として木質材を用いるものに限定されず、板状体として合成樹脂板等(たとえば、発泡樹脂板等)を用いるものに変更することも可能である。さらに、本発明に係る不定形耐火物の吹付け施工方法は、上記実施形態の如く、コンパネとして木質材を用いるものに限定されず、コンパネとして合成樹脂板等(たとえば、ポリエチレン樹脂板等)を用いるものに変更することも可能である。
【0036】
さらに、本発明に係る吹付け施工方法は、上記実施形態の如く、吹き付ける不定形耐火物としてキャスタブルを用いるものに限定されず、吹き付ける不定形耐火物の種類を必要に応じて適宜変更することができる。
【0037】
加えて、本発明に係る吹付け施工方法は、上記実施形態の如く、Y字状のアンカーを用いるものに限定されず、V字状のアンカー等のY字状と異なる形状のアンカーを用いるものに変更することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る吹付け施工方法は、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、炉の内周面あるいは外周面に不定形耐火物を吹き付けて耐火物層(耐火物壁)を形成するための方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
S・・吹付け施工方法
1・・鉄皮
2・・アンカー
3・・ナット
4・・羽子板ボルト
5・・板状体
6・・コンパネ
7・・アングル
C,C’,C”・・コンパネ結合体
D1,D2・・耐火物層