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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146629
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20241004BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059650
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】土屋 賢人
(72)【発明者】
【氏名】星山 裕希
(72)【発明者】
【氏名】阿久戸 哲也
(72)【発明者】
【氏名】南部 公理
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BC04
5F136BC05
5F136BC07
5F136FA53
5F136FA63
5F136FA67
(57)【要約】
【課題】高い放熱性を有すると共に、柔軟性と絶縁性を担保できる熱伝導性樹脂シートを提供することを課題とする。
【解決手段】平均粒径が60μm未満のフィラー(A)と、平均粒径が60μm以上のフィラー(B)とを含有する熱伝導性樹脂シートであって、前記熱伝導性樹脂シートの熱伝導率が8W/m・K以上であり、前記フィラー(A)の含有量が40~80体積%であり、前記フィラー(B)の配合量が1~10体積%である、熱伝導性樹脂シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が60μm未満のフィラー(A)と、平均粒径が60μm以上のフィラー(B)とを含有する熱伝導性樹脂シートであって、
前記熱伝導性樹脂シートの熱伝導率が8W/m・K以上であり、
前記フィラー(A)の含有量が40~80体積%であり、
前記フィラー(B)の含有量が1~10体積%である、熱伝導性樹脂シート。
【請求項2】
前記熱伝導性樹脂シートの絶縁破壊電圧が3kV/mm以上である、請求項1に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項3】
前記熱伝導性樹脂シートの30%圧縮強度が3000kPa以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項4】
前記熱伝導性樹脂シートが難燃性を有する、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項5】
液状樹脂を含有する、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項6】
前記液状樹脂が液状エラストマー樹脂である、請求項5に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項7】
前記フィラー(A)及び前記フィラー(B)のいずれもが熱伝導性フィラーである、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項8】
前記フィラー(A)及び前記フィラー(B)の少なくともいずれもが非球状フィラーを含有する、請求項7に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項9】
前記フィラー(A)及び前記フィラー(B)の少なくともいずれもが板状フィラーを含有する、請求項8に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項10】
前記熱伝導性樹脂シートの厚さ方向に平行な断面において、前記熱伝導性樹脂シートの表面から深さ0.2mmより内部に存在する非球状フィラーの長手方向と前記熱伝導性樹脂シートの厚さ方向を90°として角度分布を測定したとき、前記角度分布は50~90°の範囲内に角度分布のピークを有する、請求項8又は9に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項11】
前記フィラー(A)が窒化ホウ素、アルミナ及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、かつ前記フィラー(B)が黒鉛である、請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項12】
前記黒鉛が膨張性黒鉛である、請求項11に記載の熱伝導性樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性樹脂シートは、主に、半導体パッケージのような発熱体と、アルミニウムや銅等の放熱体との間に配置して、発熱体で発生する熱を放熱体に速やかに移動させる機能を有する。近年、半導体素子の高集積化や半導体パッケージにおける配線の高密度化によって、半導体パッケージの単位面積当たりの発熱量が大きくなっており、これに伴い、従来の熱伝性樹脂シートに比べ、熱伝導率が向上した、より速やかな熱放散を促すことができる熱伝導性樹脂シートへの需要が高まってきている。
【0003】
熱伝導性を向上させるために、大粒径の黒鉛を使用することが考えられるが、大粒径の黒鉛のみを使用した場合では、圧縮強度が上昇するなどして、熱伝導性樹脂シートが硬くなり、かつ絶縁性が悪化する場合がある。そのため、大粒径の黒鉛と小粒径の黒鉛とを併用して熱伝導性を向上させることが検討されている。例えば、特許文献1には、靭性、熱伝導性に優れた、ポリエステルエラストマーを含まない熱伝導性樹脂組成物として、平均粒子径D50が150~400μmである鱗片状黒鉛(B1)と平均粒子径D50が10~40μmである鱗片状黒鉛(B2)を含有する熱伝導性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、厚み方向にも面方向にも熱伝導性が高い放熱材として、粒子径30~50μmの第一の発泡黒鉛と粒子径200~250μmの第二の発泡黒鉛から構成された混合発泡黒鉛とを含む放熱材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/200711号
【特許文献2】特許第6465368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の熱伝導性樹脂シートでは、柔軟性、熱伝導性及び絶縁性のいずれも十分に向上させることが難しいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、高い放熱性を有すると共に、柔軟性と絶縁性を担保できる熱伝導性樹脂シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、平均粒径が60μm未満のフィラー(A)と、平均粒径が60μm以上のフィラー(B)とを、それぞれ一定の割合に調整して組み合わせて配合したことにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
【0009】
[1]平均粒径が60μm未満のフィラー(A)と、平均粒径が60μm以上のフィラー(B)とを含有する熱伝導性樹脂シートであって、前記熱伝導性樹脂シートの熱伝導率が8W/m・K以上であり、前記フィラー(A)の含有量が40~80体積%であり、前記フィラー(B)の含有量が1~10体積%である、熱伝導性樹脂シート。
[2]前記熱伝導性樹脂シートの絶縁破壊電圧が3kV/mm以上である、[1]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[3]前記熱伝導性樹脂シートの30%圧縮強度が3000kPa以下である、[1]又は[2]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[4]前記熱伝導性樹脂シートが難燃性を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
[5]液状樹脂を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
[6]前記液状樹脂が液状エラストマー樹脂である、[5]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[7]前記フィラー(A)及び前記フィラー(B)のいずれもが熱伝導性フィラーである、[1]~[6]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
[8]前記フィラー(A)及び前記フィラー(B)の少なくともいずれもが非球状フィラーを含有する、[7]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[9]前記フィラー(A)及び前記フィラー(B)の少なくともいずれもが板状フィラーを含有する、[8]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[10]前記熱伝導性樹脂シートの厚さ方向に平行な断面において、前記熱伝導性樹脂シートの表面から深さ0.2mmより内部に存在する非球状フィラーの長手方向と前記熱伝導性樹脂シートの厚さ方向を90°として角度分布を測定したとき、前記角度分布は50~90°の範囲内に角度分布のピークを有する、[8]又は[9]に記載の熱伝導性樹脂シート。
[11]前記フィラー(A)が窒化ホウ素、アルミナ及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、かつ前記フィラー(B)が黒鉛である、[1]~[10]のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シート。
[12]前記黒鉛が膨張性黒鉛である、[11]に記載の熱伝導性樹脂シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い放熱性を有すると共に、柔軟性と絶縁性を担保できる熱伝導性樹脂シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[熱伝導性樹脂シート]
本発明の熱伝導性樹脂シートは、フィラー(A)とフィラー(B)とを含有し、熱伝導率が8W/m・K以上である。熱伝導性樹脂シートの熱伝導率が8W/m・K未満であると、熱伝導性樹脂シートが優れた放熱性を発現することが困難となる。こうした観点から、熱伝導性樹脂シートの熱伝導率は、9W/m・K以上であることが好ましく、10W/m・K以上であることがより好ましく、11W/m・K以上であることがさらに好ましい。熱伝導率は、高ければ高い程よいが、実用的には、例えば100W/m・K以下、好ましくは50W/m・K以下である。
熱伝導率は、フィラーの種類及び量などにより調節することができる。
なお、熱伝導率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
本発明の熱伝導性樹脂シートは、フィラー(A)とフィラー(B)とを一定の配合でバランスよく併用することにより、柔軟性と絶縁性を担保しながら、放熱性を高くすることができる。また、フィラー(B)に黒鉛などの一定の導電性を有するフィラーを使用しても、フィラー(A)により熱伝導性樹脂シートに絶縁性を付与することができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0013】
<フィラー(A)>
フィラー(A)の平均粒径は60μm未満であり、その含有量は、熱伝導性樹脂シート全量を基準として40~80体積%である。フィラー(A)の含有量が、40体積%未満であると、フィラー(B)の割合が相対的に高くなり、熱伝導性樹脂シートに優れた柔軟性や絶縁性を付与することが困難となる。また、フィラー(B)の割合が高くなることで、フィラーの充填率を高くすることができず、優れた放熱性を付与することも困難となる。他方、フィラー(A)の含有量が80体積%を超えると、小粒径のフィラーが多くなることで、熱伝導性樹脂シートに優れた放熱性を付与することが困難となる。
以上の観点から、フィラー(A)の含有量は、熱伝導性樹脂シート全量を基準として、42~70体積%であることが好ましく、45~65体積%であることがより好ましい。
【0014】
フィラー(A)の平均粒径は、放熱性、柔軟性、絶縁性をバランスよく良好にする観点から、50μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましい。フィラー(A)の平均粒径は、特に限定されず、例えば1μm以上であるが、一定の粒径を有することにより、熱伝導性樹脂シートに優れた放熱性を付与する観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上である。
なお、フィラー(A)の平均粒径は、体積基準による累積粒度分布における50%粒径(D50)を測定して求めることができる。体積基準での累積粒度分布は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて求められる。レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置としては、マイクロトラック社製、「MT3300EXII」等が挙げられる。後述するフィラー(B)の平均粒径についても同様である。
【0015】
<フィラー(B)>
フィラー(B)の平均粒径は60μm以上であり、その含有量は、熱伝導性樹脂シート全量を基準として1~10体積%である。フィラー(B)の含有量が1体積%未満であると、フィラー(B)が極端に少なく含有されることとなり、優れた放熱性を付与することが困難となる。他方、フィラー(B)の含有量が10体積%を超えると、大粒径のフィラーが多くなり、熱伝導性樹脂シートに優れた柔軟性を付与することが困難となる。また、大粒径フィラーが多くなると、フィラーに基づきボイドが生じやすくなり絶縁破壊が起こって絶縁性が確保しにくくなり、また、フィラー(B)に黒鉛などの導電性を有するフィラーを使用する場合には、フィラー(B)そのものにより絶縁性が低下しやすくなる。さらに、フィラー全体の充填率を高くできず、優れた放熱性を付与することも困難となる。
以上の観点から、フィラー(B)の含有量は、熱伝導性樹脂シート全量を基準として、2~9.5体積%であることが好ましく、3~8体積%であることがより好ましい。
【0016】
フィラー(B)の平均粒径は、放熱性、柔軟性などの観点から、65μm以上であることが好ましく、140μm以上であることがより好ましい。また、フィラー(B)の平均粒径は、熱伝導性樹脂シートを薄膜化したり、優れた柔軟性や絶縁性を付与したりしやすくする観点から、好ましくは1000μm以下、より好ましくは700μm以下である。
【0017】
フィラー(A)、(B)は、いずれも熱伝導性フィラーであるとよい。熱伝導性フィラーの熱伝導率は、特に限定されないが、例えば10W/(m・K)以上であり、好ましくは15W/(m・K)以上、より好ましくは20W/(m・K)以上、さらに好ましくは50W/(m・K)以上である。
また、熱伝導性フィラーの熱伝導率は、例えば2000W/m・K以下であり、好ましくは1000W/m・K以下であり、より好ましくは800W/m・K以下である。
なお、フィラーの熱伝導率は、例えば、クロスセクションポリッシャーにて切削加工したフィラー断面に対して、株式会社ベテル製サーマルマイクロスコープを用いて、周期加熱サーモリフレクタンス法により測定することができる。
【0018】
フィラー(A)、(B)は、球状フィラーでも非球状フィラーでもよいが、熱伝導性樹脂シートに優れた放熱性を付与しやすくする観点から、フィラー(A),(B)のいずれかが非球状フィラーを少なくとも含有することが好ましい。
ここで、非球状フィラーとしては、例えば、鱗片状、薄片状などの板状フィラー、針状フィラー、繊維状フィラー、樹枝状フィラー、不定形状フィラー、凝集フィラーなどが挙げられる。中でも、熱伝導性樹脂シートの放熱性を良好とする観点から、板状フィラーが好ましい。
ここで、「球状」とは、アスペクト比が1.0~2.0、好ましくは1.0~1.5の形状であることを意味し、必ずしも真球であることを意味しない。なお、球状フィラーの場合のアスペクト比は、長径/短径比を意味する。また、「非球状」とは、上記球状以外の形状、すなわちアスペクト比が2を超える形状を意味する。非球状フィラーは、一般的に、樹脂の流動などにより、一方向に沿って配向することができるフィラーである。非球状フィラーのアスペクト比の上限は、特に限定されず、例えば1000、好ましくは200である。
【0019】
フィラー(A)は、球状フィラーでも非球状フィラーでもよいが、板状フィラー及び球状フィラーの少なくともいずれかを含むことが好ましい。フィラー(A)としてこれらの形状のフィラーを使用することで、柔軟性、放熱性をバランスよく向上しやすくなる。
また、フィラー(B)は、球状フィラーでも非球状フィラーでもよいが、非球状フィラーであることが好ましく、板状フィラーであることがより好ましい。非球状フィラー、特に板状フィラーを使用することで、放熱性を向上しやすくなる。
【0020】
フィラー(A)、(B)としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。
窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ホウ素ナノチューブ、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。
酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)(酸化アルミニウムの水和物(ベーマイトなど)を含む。)、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。また、酸化物として、チタン酸バリウムなどの遷移金属酸化物などや、さらには、金属イオンがドーピングされている、例えば、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズなどが挙げられる。
【0021】
水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
金属としては、例えば、銅、金、ニッケル、錫、鉄、または、それらの合金が挙げられる。
炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ダイヤモンド、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノホーン、カーボンマイクロコイル、ナノコイルなどが挙げられる。
【0022】
フィラー(A)、(B)は、導電性フィラー、絶縁性フィラーのいずれでもよいが、熱伝導性樹脂シートの絶縁性を確保する観点から、フィラー(A)、(B)の少なくともいずれかが絶縁性フィラーであることが好ましい。また、絶縁性フィラーをフィラー(A)として、かつ導電性フィラーをフィラー(B)として含有してもよい。これにより、熱伝導性樹脂シートの熱伝導性を向上させつつ、絶縁性を確保しやすくなる。
ここで、導電性フィラーは、導電率が高く、電気抵抗率が例えば108[Ω・m]未満のフィラーであるとよい。また、絶縁性フィラーは、電気抵抗率が例えば108[Ω・m]以上のフィラーであるとよい。
【0023】
上記した中では、フィラー(A)は、窒化ホウ素、アルミナ及び水酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種であることが好ましく、窒化ホウ素及びアルミナから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
また、フィラー(B)は、黒鉛であることが好ましく、膨張性黒鉛であることがより好ましい。フィラー(A)、(B)は、それぞれ1種単独で含有していてもよいし、少なくともいずれかを、2種以上併用して含有していてもよい。
【0024】
膨張性黒鉛は、一定温度以上に加熱されると膨張する黒鉛である。本発明では、フィラー(B)として膨張性黒鉛を使用することで熱伝導性樹脂シートに難燃性を付与しやすくなる。
膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、無機酸と、強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。無機酸としては濃硫酸、硝酸、セレン酸等が挙げられる。強酸化剤としては濃硝酸、過硫酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。上記のように酸処理して得られた膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和処理してもよい。
膨張性黒鉛は、板状フィラーであることが好ましい。また、膨張性黒鉛のアスペクト比は、好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、そして通常は1000以下、好ましくは200以下である。熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比がこれら下限値以上であると、難燃性及び熱伝導率の両方を向上させやすくなる。
【0025】
(角度分布)
本発明の熱伝導樹脂シートの厚さ方向に平行な断面において、本発明の熱伝導性樹脂シートの深さ0.2mmより内部に存在する非球状フィラーの長手方向と熱伝導性樹脂シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、角度分布は50~90°の範囲内に角度分布のピークを有することが好ましい。上述の角度分布が55~90°の範囲内に角度分布のピークを有することにより、非球状フィラーは概ね厚さ方向に配向し、熱伝導性樹脂シートの熱伝導率をさらに向上させることができる。このような観点から、上述の角度分布のピークは55~90°の範囲内にあることがより好ましく、58~90°の範囲内にあることがさらに好ましく、60~90°の範囲内にあることがよりさらに好ましい。なお、本発明の熱伝導性樹脂シートの深さ0.2mmより内部に存在する非球状フィラーとは、本発明の熱伝導樹脂シートの非球状フィラーから、熱伝導シート樹脂の表面から深さ0.2mmに存在する非球状フィラーを除いたものであるともいえる。表面のフィラーは、スライスなどにより倒れることがあるので、内部のフィラーを観察することで、非球状フィラーの配向性を高い精度で確認できる。
なお、本発明の熱伝導性樹脂シートの深さ0.2mmより内部に存在する非球状フィラーの長手方向と熱伝導性樹脂シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布は、後述の実施例に記載された方法で測定された値である。
【0026】
(樹脂)
熱伝導性樹脂シートに含有される樹脂としては、液状樹脂及び固体樹脂のいずれも用いることができる。樹脂は、1種を単独で使用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、樹脂としては、液状樹脂と固体樹脂との双方を用いることができる。樹脂として液状樹脂と固体樹脂とを併用する場合、液状樹脂と固体樹脂との質量比は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で調整できる。
なお、液状樹脂は、23℃、1気圧で液状の樹脂であり、固体樹脂は、23℃、1気圧で固体の樹脂である。
樹脂は、液状樹脂を含むことが好ましい。液状樹脂を含むことで、熱伝導性樹脂シートに優れた柔軟性を付与しやすくなる。液状樹脂としては、液状エラストマー樹脂、液状シリコーン樹脂、液状アクリル樹脂等を使用することができ、これらの中では、液状エラストマー樹脂を使用することが好ましい。
【0027】
液状エラストマー樹脂としては、例えば、液状アクリロニトリルブタジエンゴム、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴム、液状エチレン-プロピレンゴム、液状天然ゴム、液状ポリブタジエンゴム、液状ポリイソプレンゴム、液状スチレンブタジエンゴム、又はこれらの水素添加物等が挙げられる。これらの中では、液状ポリブタジエンゴム、液状ポリイソプレンゴム、及び液状スチレンブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、中でも、液状ポリブタジエンゴム及び液状スチレンブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。液状ポリブタジエンゴムや液状ポリイソプレンなどを使用した場合には、熱伝導性樹脂シートに優れた柔軟性を付与しやすくなり、また、液状スチレンブタジエンゴムなどのスチレン骨格を有する樹脂を使用した場合には、熱伝導性樹脂シートが柔らかくなりすぎず、熱伝導性樹脂シートの良好な取り扱い性を担保しやすくなる。
【0028】
液状エラストマー樹脂の25℃における粘度は、好ましくは1~400Pa・sであり、より好ましくは10~100Pa・sである。液状エラストマー樹脂を2種以上混合して使用する場合は、混合した後の粘度が上記のとおりであることが好ましい。液状エラストマー樹脂の粘度が上記上限値以下であると、熱伝導性樹脂シートに優れた柔軟性を付与しやすくなる。また、液状エラストマー樹脂の粘度が上記下限値以上であると、熱伝導性樹脂シートに一定のコシが付与され、取り扱い性を良好にしやすくなる。
液状エラストマー樹脂の粘度は、例えば、樹脂50gを、25℃で、B型粘度計(東洋産業株式会社製)で測定した値である。
【0029】
液状シリコーン樹脂としては、好ましくはシリコーンオイルである。シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル、並びにアミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等の変性シリコーンオイルが挙げられる。これらの中でもストレートシリコーンオイルが好ましい。
液状シリコーン樹脂は、1種のみを用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0030】
液状アクリル樹脂は、好ましくは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルから選択される1種以上を含むモノマー成分の重合体が挙げられ、より好ましくはアクリル酸エステルを含むモノマー成分の重合体である。アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
液状アクリル樹脂は、1種のみを用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0031】
熱伝導性樹脂シートにおける樹脂の含有量は、8~60体積%であることが好ましく、20~55体積%であることがより好ましく、25~50体積%であることがさらに好ましい。樹脂の含有量が上記下限値以上であると、熱伝導性樹脂シートに優れた柔軟性及び絶縁性を付与しやすくなる。また、樹脂の含有量が上記上限値以下であると、フィラーを高充填しやすくなるため、熱伝導性樹脂シートに優れた放熱性を付与しやすくなる。
【0032】
本発明の熱伝導性樹脂シート中の樹脂全量基準で、液状樹脂の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。液状樹脂の含有量を大きくすることで、熱伝導性樹脂シートの柔軟性を向上しやすくなる。この場合、液状樹脂は、液状エラストマー樹脂であることがさらに好ましい。
【0033】
(その他の成分)
本発明の熱伝導性樹脂シートには、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、分解温度調整剤などの熱伝導性樹脂シートに一般的に使用する添加剤を配合されてもよい。
【0034】
(30%圧縮強度)
本発明の熱伝導性樹脂シートは、30%圧縮強度が3000kPa以下であることが好ましく、2900kPa以下であることがより好ましく、2000kPa以下であることがさらに好ましく、1500kPa以下であることがよりさらに好ましい。30%圧縮強度が上記上限値以下であると、熱伝導性樹脂シートに優れた柔軟性を付与できていることとなる。また、このように優れた柔軟性が付与できると、フィラーを一定方向に配向しやすくなることで、放熱性も向上しやすくなる。
他方で、本発明の熱伝導性樹脂シートの30%圧縮強度は、熱伝導性樹脂シートに一定のコシを付与し、取り扱い性を良好にしやすくする観点からは、通常100kPa以上であり、好ましくは200kPa以上、より好ましくは500kPa以上である。
30%圧縮強度は、熱伝導性樹脂シートを構成する樹脂の種類、架橋の有無、熱伝導性フィラーの種類及び量などにより調節することができる。
なお、30%圧縮強度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
(絶縁破壊電圧)
本発明の熱伝導性樹脂シートは、絶縁破壊電圧が3kV/mm以上であることが好ましく、3.2kV/mm以上であることがより好ましく、4kV/mm以上であることがさらに好ましい。絶縁破壊電圧が上記下限値以上であると、放熱性を良好に維持しつつ、優れた絶縁性を発現することができる。絶縁破壊電圧は、高ければ高い程よく、上限は特に限定されないが、実用的には、例えば20kV/mm以下、好ましくは15kV/mm以下である。
なお、絶縁破壊電圧は、後述する実施例に記載の測定方法により得ることができる。
【0036】
(難燃性)
本発明の熱伝導性樹脂シートは、難燃性を有することが好ましい。例えば、UL94規格の20mm垂直燃焼試験によって評価した場合に、UL94V-2で合格と評価されることが好ましく、UL94V-0で合格と評価されることがより好ましい。
ここで、UL94規格の20mm垂直燃焼試験は、幅13.0mm、長さ125mmの試験片の一端をクランプに垂直に取り付け、試験片の他端に対し、20mm炎による10秒間の接炎を2回行って、試験片の燃焼挙動を評価する試験である。試験結果は、V-0、V-1、V-2およびNot(難燃性なし)という4つの燃焼性分類のいずれに当てはまるかを判定した結果である。
【0037】
[熱伝導性樹脂シートの製造方法]
本発明の熱伝導性樹脂シートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下に説明するように、混練工程、積層工程、及びスライス工程を含む方法により製造することができる。
【0038】
(混練工程)
フィラー(A)、(B)、樹脂及び添加剤などを混練して、熱伝導性樹脂組成物を作製する。
前記の混練は、例えば、フィラー(A)、(B)と樹脂とを、プラストミル等の二軸スクリュー混練機や二軸押出機等を用いて、加熱下において混練することが好ましく、これにより、熱伝導性フィラーが樹脂中に均一に分散された熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
次いで、該熱伝導性樹脂組成物をプレスすることにより、シート状の樹脂層(熱伝導性樹脂層)を得ることができる。
【0039】
(積層工程)
積層工程では、混練工程で得た樹脂層を積層してn層構造の積層体を作製する。積層方法としては、例えば、混練工程で作製した樹脂層をx分割して積層し、x層構造の積層体を作製後、必要に応じて、熱プレスを行い、その後、更に、必要に応じて、分割と積層と上述の熱プレスを繰り返して、幅がDμmでn層構造の積層体を作製する方法を用いることができる。
このように、複数回の成形を行う場合には、各回における成形圧を、1回の成形で行う場合に比べて、小さくすることができるため、成形に起因する積層構造の破壊等の現象を回避することができる。
その他の積層方法として、例えば、多層形成ブロックを備える押出機を用い、上述の多層形成ブロックを調製して、共押出し成形により、n層構造で、かつ、厚さDμmの積層体を得る方法を用いることもできる。
具体的には、第1の押出機及び第2の押出機の双方に混練工程で得た熱伝導性樹脂組成物を導入し、第1の押出機及び第2の押出機から熱伝導性樹脂組成物を同時に押出す。第1の押出機及び第2の押出機から押出された熱伝導性樹脂組成物は、フィードブロックに送られる。フィードブロックでは、第1の押出機及び上記第2の押出機から押出された熱伝導性樹脂組成物が合流する。それによって、熱伝導性樹脂組成物が積層された2層体を得ることができる。次に、2層体を多層形成ブロックへと移送し、押出し方向に平行な方向であり、かつ積層面に垂直な複数の面に沿って2層体を複数に分割後、積層して、n層構造で、厚みDμmの積層体を作製することができる。このとき、1層当たりの厚み(D/n)は、多層形成ブロックを調整して所望の値とすることができる。
【0040】
(スライス工程)
積層工程で得た積層体を積層方向に対して平行方向にスライスすることにより、熱伝導性樹脂シートを作製することができる。これにより、熱伝導性樹脂シートの厚さ方向が積層方向に対して垂直である熱伝導性樹脂シートを得ることができる。これにより、熱伝導性非球状フィラーの長手方向を熱伝導性樹脂シートの厚さ方向に概ね配向させることができる。
【0041】
(その他工程)
熱伝導性樹脂シートの製造方法においては、樹脂を架橋する工程を行ってもよい。架橋は、例えば、電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する方法、有機過酸化物を用いる方法等により行えばよい。シート面(シート表面)に電離性放射線を照射することが好ましく、電離性放射線の中でも、電子線が好ましい。電子線照射を行う場合の加速電圧は、例えば、200~700kVが好ましく、250~600kVがより好ましい。電子線照射の照射量は200~800kGyが好ましく、250~700kGyがより好ましい。
【0042】
また、熱伝導性樹脂シートは、一方の面又は両面に粘着材を設けて使用してもよい。この場合、熱伝導性樹脂シートは、粘着材を介して、電子機器の筐体などの各部品に接着することが可能になる。
粘着材は、感圧接着性を有する部材であり、少なくとも粘着剤層を備えるものであればよく、熱伝導性樹脂シートの表面に積層された粘着剤層単体からなるものであってもよいし、熱伝導性樹脂シートの表面に貼付された両面粘着シートであってもよいが、粘着剤層単体であることが好ましい。なお、両面粘着シートは、基材と、基材の両面に設けられた粘着剤層とを備えるものである。両面粘着シートは、一方の粘着剤層を熱伝導性樹脂シートに接着させるとともに、他方の粘着剤層を他の部品に接着させるために使用する。
粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に制限はなく、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤等を用いることができる。粘着材の厚さは、5μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは7μm以上150μm以下である。また、粘着材の上には、さらに離型紙等の剥離シートが貼り合わされて、使用前に離型紙により粘着剤層を保護してもよい。
【0043】
さらに、粘着剤層を備える熱伝導性樹脂シートは、粘着剤層にフィルムを貼り付けて使用してもよい。フィルム層を有することで、熱伝導性樹脂シートの強度が上がり、取り扱いが容易になる。
フィルム層を構成するフィルムとしては、特に制限は無く、例えば、PETフィルム、OPPフィルム、CPPフィルム等を用いることが出来る。フィルム層の厚さは、5μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上25μm以下である。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0045】
[各種物性]
各種物性については、以下の方法により、測定及び評価を実施した。
【0046】
(熱伝導率)
ASTM-D5470に準拠し、熱伝導率測定装置(Mentor Graphics社製 商品名「DynTIM S」)を用いて、23℃環境下で熱伝導率を測定した。
【0047】
(絶縁破壊電圧)
実施例、比較例で作製した熱伝導性樹脂シート(1.5cm×1.5cm)をφ12.5mmの球状電極により挟み、電極荷重4.9N(500gf)の状態で電圧をかけていき測定を実施した。熱伝導性樹脂シートが絶縁破壊を起こした電圧を絶縁破壊電圧とした。
【0048】
(燃焼試験)
UL94規格の20mm垂直燃焼試験を、明細書に記載の手順で行い、以下の表1に示す判定基準に従い、燃焼試験の結果を評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
(30%圧縮強度)
JIS K6767-7.2.3(JIS2009)に準拠して測定した。このときのサンプル寸法は、2mm×20mm×20mmであった。結果を表2に示す。
【0051】
(非球状フィラーの長手方向と熱伝導性樹脂シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布)
X線CT装置で熱伝導性樹脂シートの表面から深さ0.2mmの領域を撮影し、再構成して熱伝導性樹脂シートの表面から深さ0.2mmの領域の3次元像を得た。得られた画像のうち、MD方向に対して垂直な断面での断層像を取り出し、画像解析によって窒化ホウ素及び黒鉛を抽出、その配向を解析した。
【0052】
1)X線CT装置
使用装置:リガク株式会社製 商品名「高分解能3DX線顕微鏡 nano3DX」
測定条件:ターゲット モリブデン
使用レンズ 540nm
ビニング 2
露光時間 20秒
撮影枚数 1000枚
サンプル形状:2.5mm×2.5mm×サンプル厚み
なお、撮影で得られる視野は直径1.8mm×高さ1.3mmの円柱状であった。
また、サンプルの切断面を避けて撮影した。
さらに、MDがy軸、TDがx軸、厚さ方向がz軸になるようにサンプルをセットした。
なお、「TD」は、後述の積層体の積層方向である。「MD」はTDに直交しかつシートに平行な方向である。なお、TDは、厚さ方向に対して垂直な方向であれば、積層方向でなくてもよい。
【0053】
2)画像解析
画像解析ソフト:Thermo Fisher Scientific社製 Avizo 2019.3 なお、拡張機能として、XFiberを使用した。
X線CT装置で得られた画像を以下の手順で解析した。
(i)画像連結:複数視野に渡るサンプルの場合は画像を連結する。
(ii)水平修正:Transform Editorを使用し、サンプルの表面が画像中で水平になるように調整し、Resample Transformed Imageを適用した。なお、Resample Transformed Imageでは、Modeをextendedに変更し、その他の条件は初期値とした。
(iii)測定スライス抽出:水平修正した画像にSegmentation Editorを使用し、xz平面(MD方向に対し垂直な断面)のスタック画像の中から中心部の一枚を全面選択しマスク画像とした。
(iv)2値化:水平修正した画像にInteractive Thresholdingを適用、マスク画像は前述のものを使用した。閾値は、窒化ホウ素及び黒鉛のみが抽出されるよう調整した。
(v)配向解析:2値化した画像に、Cylinder Correlationを適用した。なお、Cylinder Correlationの条件は以下のとおりであった。
・Cylinder Length:30
・Anguler Sampling:5
・Mask Cylinder Radius:2.5
・Outer Cylinder Radius:1.5
・Inner Cylinder Radius:0
・その他は初期値
(vi)Cylinder Correlationを適用した画像に対し、Trace Correlation Linesを適用し、結果をXML形式で保存した。なお、Trace Correlation Linesの条件は以下の通りであった。
・Minimum Seed Correlation:65
・Minimum Continuation Quality:65
・Direction Coefficient:0.15
・Minimum Distance:1
・Minimum Length:30
・Length:10
・Angle:37
・Minimum Step Size(%):10
(vii)出力されたデータのOrientation ThetaはZ軸(熱伝導性樹脂シートの厚さ方向)に対する抽出したフィラーの長手方向の角度を示し、抽出したフィラーの長手方向が熱伝導性樹脂シートの厚さ方向(z軸)に沿っている場合は90°となり、直交する場合は0°となる。すなわち、シートの面方向に平行の場合には、0°となる。このOrientation Thetaのデータを用いて、抽出したフィラーの長手方向と熱伝導性樹脂シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を算出し、角度分布のピーク位置を求めた。
(viii)これらの解析を、熱伝導性樹脂シートの表面から深さ0.2mmの領域、及び熱伝導性樹脂シートの深さ0.2mmより内部の領域で行った。
【0054】
[使用成分]
各実施例及び比較例で使用した成分は、以下の通りである。
【0055】
(樹脂)
・液状ポリブタジエンゴム(水添実施グレード、クラレ社製、商品名「L-1203」)、粘度 35Pa・s
・液状スチレンブタジエンゴム(クラレ社製、商品名「L-SBR-870」)、粘度 350Pa・s
・液状ポリイソプレン(クラレ社製、商品名「LIR-30」)、粘度 70Pa・s
【0056】
(フィラー(A))
・窒化ホウ素(1)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、商品名「PT-110」)、平均粒径40μm、鱗片状フィラー(非球状)、アスペクト比30
・窒化ホウ素(2)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、商品名「PT-180」)、平均粒径8μm、凝集フィラー(非球状)
・アルミナ(住友化学社製、商品名「AA-18」)、平均粒径20μm、多面形状(球状)
・水酸化マグネシウム(神島化学社製、商品名「マグシーズW」)、平均粒径3.3μm、球状フィラー
【0057】
(フィラー(B))
・膨張性黒鉛(1)(富士黒鉛社製、商品名「42S160」)、平均粒径600μm、板状(非球状)
・膨張性黒鉛(2)(富士黒鉛社製、商品名「EXP-100S」)、平均粒径150μm、板状(非球状)
・膨張性黒鉛(3)(富士黒鉛社製、商品名「EXP-200S」)、平均粒径70μm、板状(非球状)
【0058】
(その他の添加剤)
・サリチル酸誘導体(ADEKA社製、商品名「アデカスタブCDA-1」)
・N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン(大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック White」)
【0059】
[実施例1]
液状ポリブタジエンゴム100質量部、窒化ホウ素(1)315質量部、窒化ホウ素(2)92質量部、膨張性黒鉛(1)38質量部、水酸化マグネシウム53質量部、サリチル酸誘導体2質量部、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン0.5質量部からなる混合物を溶融混練後、プレスすることにより厚さ0.5mm、幅80mm、奥行き80mmのシート状の樹脂層を得た。次に積層工程として、得られた樹脂層を16等分して重ねあわせて総厚さ8mm、幅20mm、奥行き20mmの16層からなる積層体を得た。次いで積層方向に平行にスライスし、厚さ2mm、幅8mm、奥行き20mmの熱伝導性樹脂シートを得た。該熱伝導性樹脂シートの積層体を構成する樹脂層の1層の厚みは0.5mmであった。この熱伝導性樹脂シートについて、表2に記載の各項目を測定、評価した。
【0060】
[実施例2~8、比較例1~2]
表2のとおりに組成を変更した以外は、実施例1と同様にして熱伝導性樹脂シートを得て、得られた熱伝導性樹脂シートについて、表2の各項目を測定、評価した。
【0061】
【表2】
【0062】
以上の実施例から明らかな通り、各実施例で作製した、本発明の要件を満たす熱伝導性樹脂シートは、熱伝導率が高くて放熱性に優れていただけでなく、黒鉛を使用していたにもかかわらず絶縁破壊電圧も高くて絶縁性にも優れていた。また、30%圧縮強度が低く抑えられ、柔軟性にも優れていた。さらに、UL94規格の20mm垂直燃焼試験において、UL94V-2又はUL94V-0で合格となり、難燃性にも優れていた。
【0063】
これに対し、比較例1で作製した熱伝導性樹脂シートは、熱伝導率は高かったものの、UL94規格の20mm垂直燃焼試験の結果がNotとなり、難燃性を有しない結果となった。また、比較例2で作製した熱伝導性樹脂シートは、熱伝導率は高かったものの、絶縁破壊電圧が低くなり、絶縁性に劣る結果となった。さらに、30%圧縮強度が高く、柔軟性にも劣っていた。