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特開2024-146631表面処理用組成液並びに表面処理物質・金属被覆樹脂・樹脂積層体及び樹脂被覆物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146631
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】表面処理用組成液並びに表面処理物質・金属被覆樹脂・樹脂積層体及び樹脂被覆物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20241004BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241004BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241004BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 177/06 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20241004BHJP
   C09D 183/10 20060101ALI20241004BHJP
   C09J 201/02 20060101ALI20241004BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20241004BHJP
   C09J 177/06 20060101ALI20241004BHJP
   C09J 183/10 20060101ALI20241004BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D201/02
B32B27/00 D
B05D7/24 301P
B05D7/24 303E
B05D7/24 302Y
B05D7/24 302U
B05D7/24 302P
B05D5/00 Z
C09D5/00 D
C09D177/06
C09D7/63
C09D183/10
C09J201/02
C09J11/06
C09J177/06
C09J183/10
H05K3/28 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059655
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】520206988
【氏名又は名称】豊光社テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(74)【代理人】
【識別番号】100213883
【弁理士】
【氏名又は名称】大上 雅史
(72)【発明者】
【氏名】楢崎 優
(72)【発明者】
【氏名】安 克彦
(72)【発明者】
【氏名】光田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】倉光 宏
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
4J040
5E314
【Fターム(参考)】
4D075AC53
4D075AE04
4D075BB05Z
4D075BB21Z
4D075BB38Z
4D075BB46Z
4D075BB49X
4D075BB57X
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4D075BB65X
4D075BB65Z
4D075BB69X
4D075BB87Z
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4D075CA47
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4F100AK53A
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4J040JA09
4J040JB02
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5E314GG11
(57)【要約】
【課題】密着性を確保するための表面処理液であって中性から塩基性の領域で使用できる汎用の組成液を提供すること、及び、それを用いためっき又は貼り合わせによる金属被覆樹脂や樹脂積層体の製造方法を提供することである。
【解決手段】1級アミノ基又は2級アミノ基を有する第1の繰り返し単位、並びに、シラノール基、アルコキシシリル基、エポキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれた1以上の官能基を有する第2の繰り返し単位、を具えた重合体と、ビスアジド化合物と、を含む組成液である。当該組成液には、塗布後の加熱又は紫外線の照射により、界面分子結合に係る化学反応が進行するような複数の化合物が含まれる。好ましくは、前記ビスアジド化合物に含まれるアジド基のうち少なくとも2つが、芳香環に直接結合したアジド基である。前記第2の繰り返し単位はポリシロキサン骨格を含むことが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの物質の密着性向上の目的で少なくとも一方の物質に塗布して用いるための組成液であり、
1級アミノ基又は2級アミノ基を有する第1の繰り返し単位、並びに、シラノール基、アルコキシシリル基、エポキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれた1以上の官能基を有する第2の繰り返し単位、を具えた重合体と、
ビスアジド化合物と、
を含む組成液。
【請求項2】
前記第2の繰り返し単位が、シラノール基又はアルコキシシリル基を有する請求項1に記載の組成液。
【請求項3】
めっきの密着性向上の目的でめっきされる物質に塗布して用いるための組成液であり、
1級アミノ基又は2級アミノ基を有する第1の繰り返し単位と、シラノール基又はアルコキシシリル基を有する第2の繰り返し単位と、を具えた重合体
を含む組成液。
【請求項4】
前記重合体が、エポキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれた1以上の官能基を具えた第2の繰り返し単位を有する請求項1、2又は3に記載の組成液。
【請求項5】
前記第2の繰り返し単位がポリシロキサン骨格を含む請求項2又は3に記載の組成液。
【請求項6】
前記重合体がポリエチレンイミン構造を有する請求項1、2又は3に記載の組成液。
【請求項7】
前記ビスアジド化合物に含まれるアジド基のうち少なくとも2つが、芳香環に直接結合したアジド基である請求項1又は2に記載の組成液。
【請求項8】
請求項1、2又は3に記載の組成液を物質の表面に塗布する工程(塗布工程)を有する表面処理物質の製造方法。
【請求項9】
請求項1、2又は3に記載の組成液を樹脂の表面に塗布する工程(塗布工程)と、
前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、
次いで、湿式めっきにより前記表面の上に金属めっき層を形成する工程(めっき工程)と、
を有する金属被覆樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の組成液を樹脂及び金属箔のうち少なくとも一方の表面に塗布する工程(塗布工程)と、
前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、
次いで、前記表面を介して前記の樹脂と金属箔を積層し、加圧して一体化する工程(プレス工程)と、
を有する金属被覆樹脂の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の組成液を第1の樹脂の表面に塗布する工程(塗布工程)と、
前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、
次いで、前記表面の上に第2の樹脂を積層し、加圧して一体化する工程(プレス工程)と、
を有する樹脂積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の組成液を物質の表面に塗布する工程(塗布工程)と、
前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、
次いで、前記表面の上に樹脂のワニスを塗布する工程(樹脂塗布工程)と、
前記ワニスを硬化させる工程(硬化工程)と、
を有する樹脂被覆物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着性向上の目的で物質に塗布して用いる表面処理用の組成液、並びに、当該組成液を用いた、表面処理物質の製造方法、金属被覆樹脂の製造方法、樹脂積層体の製造方法及び樹脂被覆物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つ以上の官能基を有する化合物は、それぞれの官能基の特性を利用して化学結合を形成し得ることから、2つの物質の界面に介在させて化学結合により両物質を結合する界面分子結合(IMB;Interface molecular bonding)のための界面分子結合剤として有用である。界面分子結合剤は2つの物質を化学結合で結合するから、両物質の結合は強く、結合の形成に必ずしも高温を要しない。界面分子結合によれば、粗面化によるアンカー効果に頼ることなく、2つの物質を平坦な界面で結合することができる。また、界面に少量の界面分子結合剤の分子が存在するだけであるから、揮発ガスによる接合脆弱化の問題が生じにくく、環境面でも利点がある。
【0003】
界面分子結合技術は、2つの物質を界面で結合するための、多くのアプリケーションで使用され得る。特に、電気・電子分野に幅広い応用が可能である。例えば、プリント配線板や軽量のスペーサ、半導体試験装置のプローブソケット(試験用治具)、電池極板用樹脂コア金属箔等の、電気・電子デバイスの製造への応用が挙げられる。
【0004】
界面分子結合技術を使用するためには通常、2つ以上の官能基を有する化合物を含む組成液が必要である。本願発明者の一部による特許文献8には、アジド芳香族カルボン酸とアミンポリマーを含み、弱酸性から酸性のpHを示す組成液である組成液が開示されている。この組成液は、樹脂と樹脂、樹脂と金属等の、多様な物質同士の密着性を確保する上で有用であるが、主に弱酸性から酸性のpH領域での使用に適する。また、特許文献9には、芳香族アジド基とアルコキシシリル基を有するシラン化合物モノマーと、アミノ基とアルコキシシリル基を有するシラン化合物モノマーと、が加水分解・脱水縮合してなるシロキサンオリゴマーを含む組成液が開示されている。この組成液も、樹脂と樹脂、樹脂と金属等の、多様な物質同士の密着性を確保する上で有用であるが、製造に高コストを要する。酸性以外の広いpH範囲で使用でき、広い物質の組合せに対して密着性を確保できる組成液が求められている。
【0005】
特許文献1には、エポキシシラン化合物とポリアルキレンイミンを含むプラスチックの表面処理剤の発明が開示されている。この表面処理剤は、2つの物質を結合するための界面分子結合剤でなく、プラスチック表面に硬化物による被覆を形成するための組成液である。また、この表面処理剤はビスアジド化合物を含んでいない。
【0006】
特許文献2には、シラン変性ポリマーアミンを含む殺生物活性を有する組成物の発明が開示されている。当該組成物は、樹脂フィルム等の表面に施与した後には実質的にべたつきを有さないコーティングを形成するためのものであり、2つの物質を結合するための界面分子結合剤でない。また、当該組成物はビスアジド化合物を含んでいない。
【0007】
特許文献3には、プリント回路板を製造する方法が開示されており、基体を多アミンポリマーでコーティングした後、貴金属イオンと接触させることが含まれている。この方法は、接触前にアミノ基に反応性の官能基を含む化合物を使って多アミンポリマーを変性することが特徴である。しかし、この文献には、シラン化合物を使って多アミンポリマーを変性することは記載されておらず、ビスアジド化合物の記載もない。
【0008】
特許文献4には、金属ナノワイヤ等の複合材料の製法であって、水性媒体中で、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの会合体に、エポキシ系アルコキシシランを加えることにより、ポリマーの会合体とシリカの複合体を得る工程と、当該複合体と遷移金属イオンが溶解した溶液とを接触させて、遷移金属イオンを前記ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格に配位結合させる工程と、還元剤により、上記配位結合した遷移金属イオンを還元させる工程と、を含む複合材料の製法の発明が開示されている。しかし、特許文献4には、シラン変性ポリエチレンイミンを含む組成液を、樹脂フィルムの表面など基材のマクロな広がりをもつ表面に無電解めっきを行う際の前処理用の組成液として使用することは記載されず、また、ビスアジド化合物の記載もない。
【0009】
特許文献5は、基材の高分子表面の変性方法を開示しており、官能基を有する高分子表面にポリアミン化合物と架橋剤を接触させることで、グラフトした架橋ネットワークを形成する方法を示している。この文献では、架橋剤としてエポキシシラン、アクリルオキシシラン、グリシジルアクリレートなどが例示されているが、ビスアジド化合物については言及されていない。また、この文献には、ポリマーと金属被膜との接着性についての記載はあるが、上記変性方法を無電解めっき工程に応用することについての記載はない。
【0010】
特許文献6には、包装用積層フィルムの層間接着に有用な、バリア性を有するポリアミンコーティングの発明が開示されており、コーティングを形成するための組成液にはポリアミン、架橋剤としてアクリルシラン、エポキシシラン、グシリジルアクリレート等が含まれ得るが、ビスアジド化合物の記載はない。
【0011】
特許文献7には、包装用途に有用なバリア特性を持つ、エチレン性不飽和酸、ポリアミン、ビスシランを含むコーティングの発明が開示され、架橋剤としてエポキシシラン、アクリルオキシシラン、グリシジルメタクリレート等を添加することが好ましいと記載されているが、ビスアジド化合物の記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭59-043051号公報
【特許文献2】特表2008-540753号公報
【特許文献3】特開平03-173196号公報
【特許文献4】特許第3978440号公報
【特許文献5】特表2003-512490号公報
【特許文献6】特許第3851354号公報
【特許文献7】特表2004-528395号公報
【特許文献8】特許第7120695号公報
【特許文献9】特開2022-048068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、第1に、めっき、貼り合わせ等における密着性を確保する目的で物質に塗布して用いるための組成液であって、主に中性から塩基性の領域で使用することができ、多様な物質又は物質の組合せに適用可能な組成液を提供することであり、或いは、第2に、上記分散液を用いた、表面処理物質の製造方法、めっき若しくは貼り合わせによる金属被覆樹脂の製造方法、樹脂積層体の製造方法、又は樹脂被覆物質の製造方法を提供することである。上記組成液は塗布後に、加熱により、及び/又は、紫外線の照射により、界面分子結合に係る化学反応が進行するような化合物又は複数の化合物の組合せを含む。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1形態は、2つの物質の密着性向上の目的で少なくとも一方の物質に塗布して用いるための組成液であり、1級アミノ基又は2級アミノ基を有する第1の繰り返し単位、並びに、シラノール基、アルコキシシリル基、エポキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれた1以上の官能基を有する第2の繰り返し単位、を具えた重合体と、ビスアジド化合物と、を含む組成液である。
【0015】
本発明の第2形態は、前記第1形態において、前記第2の繰り返し単位が、シラノール基又はアルコキシシリル基を有する組成液である。
【0016】
本発明の第3形態は、めっきの密着性向上の目的でめっきされる物質に塗布して用いるための組成液であり、1級アミノ基又は2級アミノ基を有する第1の繰り返し単位と、シラノール基又はアルコキシシリル基を有する第2の繰り返し単位と、を具えた重合体、を含む組成液である。
【0017】
本発明の第4形態は、前記第1、第2又は第3形態において、前記重合体が、エポキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれた1以上の官能基を具えた第2の繰り返し単位を有する組成液である。
【0018】
本発明の第5形態は、前記第2又は第3形態において、前記第2の繰り返し単位がポリシロキサン骨格を含む組成液である。
【0019】
本発明の第6形態は、前記第1、第2又は第3形態において、前記重合体がポリエチレンイミン構造を有する組成液である。
【0020】
本発明の第7形態は、前記第1又は第2形態において、前記ビスアジド化合物に含まれるアジド基のうち少なくとも2つが、芳香環に直接結合したアジド基である組成液である。
【0021】
本発明の第8形態は、前記第1、第2又は第3形態に係る組成液を物質の表面に塗布する工程(塗布工程)を有する表面処理物質の製造方法である。
【0022】
本発明の第9形態は、前記第1、第2又は第3形態に係る組成液を樹脂の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、次いで、湿式めっきにより前記表面の上に金属めっき層を形成する工程(めっき工程)と、を有する金属被覆樹脂の製造方法である。
【0023】
本発明の第10形態は、前記第1形態に係る組成液を樹脂及び金属箔のうち少なくとも一方の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、次いで、前記表面を介して前記の樹脂と金属箔を積層し、加圧して一体化する工程(プレス工程)と、を有する金属被覆樹脂の製造方法である。
【0024】
本発明の第11形態は、前記第1形態に係る組成液を第1の樹脂の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、次いで、前記表面の上に第2の樹脂を積層し、加圧して一体化する工程(プレス工程)と、を有する樹脂積層体の製造方法である。
【0025】
本発明の第12形態は、前記第1形態に係る組成液を物質の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、次いで、前記表面の上に樹脂のワニスを塗布する工程(樹脂塗布工程)と、前記ワニスを硬化させる工程(硬化工程)と、を有する樹脂被覆物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一形態によれば、めっき、貼り合わせ等における密着性を確保する目的で物質に塗布して用いるための組成液であって、主に中性から塩基性の領域で使用することができ、多様な物質又は物質の組合せに適用可能な組成液を提供することができる。上記組成液は塗布後に、加熱により、及び/又は、紫外線の照射により、界面分子結合に係る化学反応が進行するような化合物又は複数の化合物の組合せを含んでいる。
本発明の別の一形態によれば、当該分散液を用いた、表面処理物質の製造方法、めっき若しくは貼り合わせによる金属被覆樹脂の製造方法、樹脂積層体の製造方法、又は樹脂被覆物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、界面分子結合メカニズムの説明図である。
図2図2は、表面処理物質の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態や実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の及ぶ範囲において実施される各種の変形形態や変形例をも含むものとして理解されるべきである。
【0029】
<組成液>
本発明の一形態によれば、2つの物質の密着性向上の目的で少なくとも一方の物質に塗布して用いるための組成液であり、1級アミノ基又は2級アミノ基を有する第1の繰り返し単位、並びに、シラノール基、アルコキシシリル基、エポキシ基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれた1以上の官能基を有する第2の繰り返し単位、を具えた重合体と、ビスアジド化合物と、を含む組成液を提供できる。
【0030】
(密着性向上の目的)
「2つの物質の密着性向上の目的で少なくとも一方の物質に塗布」とは、物質と他の物質との界面に、組成液由来の化合物を介在させることにより、密着性を向上させる意である。例えば、2枚の樹脂フィルムが一体的に結合されてなる樹脂フィルム積層体を製造する目的で、又は、樹脂の表面に結合した金属被覆をめっきや貼り合わせによって形成する目的で、或いは、金属やガラス、セラミック等の無機物に結合した樹脂ワニス硬化物の被覆を形成する目的で、本形態に係る組成液を樹脂、金属又は他の無機物に塗布して用いる。
【0031】
(塗布)
ここで、「塗布」とは、刷毛塗り等の方法に限らず、一般に、物質の表面に液を「付着させること」又は「接触状態で存在させること」を言う。好ましくは、「塗布」は、物質の表面に液を付着又は接触させた後に、液の溶媒を乾燥等により除去して、溶質を表面に残存させる工程を含む。
【0032】
(1級アミノ基又は2級アミノ基を有する第1の繰り返し単位)
本組成液は、1級アミノ基(-NH2)又は2級アミノ基(-NH-)を有する第1の繰り返し単位を具えた重合体を含む。当該重合体は、本組成液の塗布と活性化工程の後に、前記物質の表面及び/又はビスアジド化合物と、化学反応により結合を形成し、界面分子結合の形成に寄与する。第1の繰り返し単位の例は、次の式(1)~式(6)のいずれかに示される繰り返し単位である。
【0033】
【化1】
【0034】
式(1)~式(6)の各式において、aは0以上の整数、例えば1以上10以下の整数、好ましくは1以上4以下の整数、より好ましくは1であり、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、H原子、置換若しくは非置換のアルキル基(例えば炭素数が1以上25以下、又は、1以上5以下)又はアリール基(例えばフェニル基若しくはベンジル基)、Z-は溶液中の陰イオンを表したもので前記重合体には含まれない。好ましくは各式において、R1、R2及びR3のうち、少なくとも1つはH原子である。
【0035】
式(1)~式(6)の各式において、R1、R2及びR3で表されるアルキル基、アリール基は1つ以上の置換基を有し得る。適切な置換基としては、例えば4級アンモニウム基であるカチオン基、又は、例えば1級、2級若しくは3級アルキルもしくはアリールアミンであるアミン基等が挙げられる。他の適切な置換基の例としては、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルキル基、アリール基、ポリ(エチレンイミン)などのポリ(アルキレンイミン)等が挙げられる。
【0036】
第1の繰り返し単位は、好ましくは、ポリ低級アルキレンイミン([Cm2mNH]n,mは1以上4以下の整数、nは2以上の整数)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンからなる群から選択される1以上の重合体に含まれる繰り返し単位であり、更に好ましくは、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンからなる群から選択される1以上の重合体に含まれる繰り返し単位である。
【0037】
(第2の繰り返し単位)
本組成液は、シラノール基、アルコキシシリル基、エポキシ基、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する第2の繰り返し単位を具えた重合体を含む。当該重合体は、上記第2の繰り返し単位を具えるゆえ、より広い範囲の物質に対して、本組成液の塗布と活性化工程の後に、前記物質の表面及び/又はビスアジド化合物と、化学反応により結合を形成し、界面分子結合の形成に寄与することができる。
第2の繰り返し単位としては、例えば、第1の繰り返し単位の例である式(1)~式(6)の各式において、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つが、式
-Z1-Q1
で表される基に置き換えられた繰り返し単位が挙げられる。ここで、Z1は2価の連結基であり、Q1は、シラノール基若しくはアルコキシシリル基を含む基、エポキシ基、アクリロイル基又はメタクリロイル基である。
「シラノール基若しくはアルコキシシリル基を含む基」は、式
-Si(R43
で表される基であり、ここで、3つのR4はそれぞれ独立に、水素原子、ОH基、炭素数4以下のアルキル基、炭素数4以下のアルコキシ基、フェニル基、フェニルオキシ基、ベンジル基及びベンジルオキシ基からなる群から選ばれた基であり、かつ、3つのR4のうち少なくとも1つはO原子を含む。「シラノール基若しくはアルコキシシリル基を含む基」の例としては、トリメトキシシリル基やトリエトキシシリル基、トリシラノール基等が挙げられる。
1は、置換又は非置換の直鎖アルキレン基であり、かつ、式
-(CR56b
で表される基(ただし、bは1以上25以下の整数、好ましくは1以上10以下の整数、より好ましくは1以上5以下の整数。複数のR5、R6はそれぞれ独立に、H原子、アルキル基(炭素数が1以上10以下、又は、1以上5以下)又はアリール基(炭素数が9以下、又は、フェニル基若しくはベンジル基)である。)、又は、上記式
-(CR56b
で表される基の左端、右端及び任意の隣接するC原子の間から選ばれた1か所又は2か所又は3か所に、重複を許して1個ないし3個の挿入基が挿入された基であり、当該挿入基は、-O-、-(C=O)-、-(C=O)NR-、-NR(C=O)-、-(C=O)O-、-O(О=C)-、-C(OH)-、及び、-NR-からなる群からそれぞれ独立して選ばれる。Rは、H原子、置換若しくは非置換のアルキル基(炭素数が1以上10以下、又は、1以上5以下)又はアリール基(炭素数9以下、又は、フェニル基若しくはベンジル基)である。ここで、Rで表されるアルキル基又はアリール基は、1つ以上の置換基を有し得る。適切な置換基としては、例えば4級アンモニウム基であるカチオン基、又は、例えば1級、2級若しくは3級の、アルキルアミンもしくはアリールアミンであるアミン基等が挙げられる。他の適切な置換基の例としては、ヒドロキシ基、アルコキシ基又はアルキル基(炭素数が1以上10以下、又は、1以上5以下)、アリール基(炭素数が9以下、又は、フェニル基若しくはベンジル基)、ポリ(エチレンイミン)などのポリ(アルキレンイミン)等が挙げられる。
【0038】
第2の繰り返し単位の別の例としては、例えば、第1の繰り返し単位の例である式(1)~式(6)の各式において、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つが、式
-Z1-*-Q1
で表される基に置き換えられた繰り返し単位が挙げられる。ここで、Z1とQ1は上記と同様の基を表し、*は、シロキサンポリマー(若しくはオリゴマー)又は有機ポリマー(若しくはオリゴマー)を表す。
このように、第2の繰り返し単位がポリマー又はオリゴマーを有する本組成液の1つの形態においては、組成液に含まれる重合体の側鎖が、末端に官能基Q1を具えたポリマー又はオリゴマーを有するゆえ、界面で向き合う2つの物質の表面間の距離の、ミクロに見た場合の場所による差を吸収しつつ架橋して、界面分子結合における密着性を安定的に確保することができる利点がある。なお、本形態の組成液は概ね、第2の繰り返し単位がシロキサンポリマーを含む場合には2つの物質の少なくとも一方が無機材料である界面分子接合に適し、第2の繰り返し単位が有機ポリマーを含む場合には2つの物質の少なくとも一方が有機材料である界面分子接合に適する。
【0039】
(本発明に係る重合体の具体例)
本発明に係る重合体は必ず、第1の繰り返し単位を有する。第1の繰り返し単位は1級アミノ基又は2級アミノ基を有する。第2の繰り返し単位はそれ以外の官能基を有するものの総称であり、重合体内に複数種類の第2の繰り返し単位が存在し得る。
第2の繰り返し単位がトリメトキシシリル基を有し、かつ、上記重合体がポリエチレンイミン構造を有する重合体の具体例として、次の化合物(以下、「化合物ET」と呼ぶ。)がある。(n,mは自然数、又は、構成比を表す正の実数。以下も同じ。)
【0040】
【化2】
【0041】
また、メタクリロイル基を有する第2の繰り返し単位と、エポキシ基を有する第2の繰り返し単位と、をともに具え、かつ、上記重合体がポリエチレンイミン構造を有する重合体の具体例として、次の化合物(以下、「化合物ETG」と呼ぶ。)がある。
【0042】
【化3】
【0043】
また、トリメトキシシリル基を有する第2の繰り返し単位と、メタクリロイル基を有する第2の繰り返し単位と、エポキシ基を有する第2の繰り返し単位と、をともに具え、かつ、上記重合体がポリエチレンイミン構造を有する重合体の具体例として、次の化合物(以下、「化合物ETMX」と呼ぶ。)がある。
【0044】
【化4】
【0045】
(重合体の製法)
本組成液に含まれる、第1の繰り返し単位を具えた重合体の製法は公知であり、例えば、特開2016-047849号公報及び同文献が引用する特許文献等に開示されている。
本組成液に含まれる、第1の繰り返し単位及び第2の繰り返し単位を具えた重合体は、例えば、後ほど合成例において示すように、まず、第1の繰り返し単位を具えた重合体を作製した後、エポキシシラン化合物やエポキシアクリレート化合物と反応させて、当該重合体に含まれる1級アミノ基又は2級アミノ基の一部を、修飾することにより作製することができる。
上記反応に用いるエポキシシラン化合物としては、限定されるものではないが、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
上記反応に用いるエポキシアクリレート化合物としては、限定されるものではないが、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0046】
(重合体の構造)
本組成液に含まれる、第1の繰り返し単位及び第2の繰り返し単位を具えた重合体は、直鎖構造、分岐構造、デンドリマー構造のいずれであってもよい。また、エピクロロヒドリン等の二官能性架橋剤で架橋されていてもよい。
【0047】
(重合体の重量平均分子量)
本組成液に含まれる、第1の繰り返し単位及び第2の繰り返し単位を具えた重合体の重量平均分子量は、本組成液の塗布ムラを抑制する観点から、20000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、1500以下であることが更に好ましい。また、前記重量平均分子量は、界面で向き合う2つの物質の表面間の距離の、ミクロに見た場合の場所による差を吸収しつつ架橋し、界面分子結合における密着性を確保する観点から、好ましくは200以上であり、より好ましくは450以上であり、更に好ましくは900以上である。なお、本明細書において、重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)により計測されるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0048】
本組成液において、上記重合体は、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
(重合体の濃度)
本組成液において、上記重合体の濃度は、界面分子結合における密着性を確保する観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。また、前記濃度は、塗布ムラを抑制する観点から、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。なお、2種類以上の上記重合体を組み合わせて用いる場合、「上記重合体の濃度」は、各種の上記重合体の濃度の和を意味する。
【0050】
(ビスアジド化合物)
本組成液はビスアジド化合物を含む。本明細書において「ビスアジド化合物」とは、一分子内に、当該分子の異なる末端に位置するアジド基(-N3)を2つ以上有する化合物を意味する。アジド基は、アジ化物イオン(N3 -)由来の基であってもよい。なお、2つのアジド基が「異なる末端に位置する」とは、2つのアジド基が一分子内の同じ原子に直接的に結合していないことを言う。ビスアジド化合物は、アジド基を含むことにより、加熱又は光の照射の結果、活性種としてナイトレンを生じさせることができる。80~160℃程度の低温の加熱又は紫外線の中でも長波長の260~365nm程度の波長の光の照射によっても、ナイトレンの生成を促進することができるという観点から、ビスアジド化合物は、置換又は非置換の芳香族基(芳香環)を含むことが好ましく、当該芳香環はアジド基に直接結合していることがより好ましく、アジド基に直接結合した当該芳香環が置換又は非置換のベンゼン環であることが更に好ましい。本組成液がビスアジド化合物を含むことにより、ビスアジド化合物と前記重合体との結合反応、及び/又は、ビスアジド化合物と本組成液が塗布された物質若しくは当該物質に積層された他の物質との結合反応を促進することができ、これにより、本組成液が塗布された物質と当該物質に積層された他の物質との密着性を向上させることができる。
【0051】
2つの芳香環を有するビスアジド化合物で、かつ、本組成液の成分として好ましいものを、2つのアジド基の間の距離(ここで、「距離」とは、2つのアジド基を連結する原子の並びに含まれる原子の数の最小値を意味する。例えば、ジアジドメタンにおいて、2つのアジド基は1つのC原子を介して連結されているから、2つのアジド基の間の「距離」は1である。)が小さい順に例示すると、
3,3’-ジアジドジフェニルスルホン、3,3’-ジアジドジフェニルスルフィド、
3,3’-ジアジドジフェニルジスルフィド、4,4’-ジアジドビフェニル、
4,4’-ジアジドジフェニルエーテル、4,4’-ジアジドベンゾフェノン、4,4’-ジアジドジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアジドジフェニルメタン、4,4’-ジアジドジフェニルスルホン、4,4’-ジアジドジフェニルスルフィド、
4,4’-ジアジドスチルベン、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホン酸(二ナトリウム塩)、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホニルアミド、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホニル-N-(p-メトキシフェニル)アミド、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホニル-N-(p-ヒドロキシエチルフェニル)アミド、4,4’-ジアジドスチルベン-2,2’-ジスルホニル-N-(p-ヒドロキシフェニル)アミド、4,4’-ジアジドジフェニルジスルフィド、
4,4’-ジアジドカルコン、4,4’-ジアジドカルコン-2-スルホン酸(ナトリウム塩)、
2,6-ビス(4’-アジドベンジリデン)シクロヘキサノン、2,6-ビス(4’-アジドベンジリデン-2’-スルホン酸(ナトリウム塩))シクロヘキサノン、2,6-ビス(4’-アジドベンジリデン)-4-メチルシクロヘキサノン、2,6-ビス(4’-アジドベンジリデン)-4-エチルシクロヘキサノン、1,3-ビス(4’-アジドベンジリデン)-2-プロパノン、1,3-ビス(4’-アジドベンジリデン-2’-スルホン酸(ナトリウム塩))-2-プロパノン、4,4’-ジアジドベンジリデンアセトン、2,5-ビス(4’-アジドベンジリデン-2’-スルホン酸(ナトリウム塩))シクロペンタノン、
2,6-ビス(4’-アジドシンナミリデン)シクロヘキサノン、2,6-ビス(4’-アジドシンナミリデン)-4-メチルシクロヘキサノン、1,3-ビス(4’-アジドシンナミリデン)-2-プロパノン、等が挙げられる。
【0052】
3つ以上の芳香環又は縮合環を有するビスアジド化合物で、かつ、本組成液の成分として好ましいものを、2つのアジド基の間の距離が小さい順に例示すると、
2,7-ジアジド-9H-フルオレン-9-オン、6-アジド-2-(4'-アジドスチリル)ベンゾイミダゾール、1,4-ビス(3’-アジドスチリル)ベンゼン、1,4’-アジドベンジリデン-3-α-ヒドロキシ-4”-アジドベンジルインデン、等が挙げられる。
【0053】
本組成液において、ビスアジド化合物は、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ベンゼン環に直接結合したアジド基を2つ有するビスアジド化合物で、本発明の実施に好適な化合物の一例として、2,6-ビス(4’-アジドベンジリデン)-4-メチルシクロヘキサノン(以下、「BABMC」と呼ぶ。)の構造式を次に示す。
【0055】
【化5】
【0056】
(ビスアジド化合物の合成)
上記のようなビスアジド化合物の合成方法は特に限定されないが、例えば、芳香族化合物に対して、(1)アジ化ナトリウムを用いてアジド基を導入、(2)トシルアジドやトリフルオロメタンスルホニルアジドを用いてアジド基を導入、(3)銅触媒を用いたカップリング反応によりアジド基を導入、等の公知の方法により得ることができる。また、上記ビスアジド化合物の多くは市場で入手可能である。
【0057】
(ビスアジド化合物の濃度)
本組成液におけるビスアジド化合物の濃度は、界面分子結合における密着性を確保する観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。また、前記濃度は、塗布ムラを抑制する観点から、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。なお、2種類以上のビスアジド化合物を組み合わせて用いる場合、「ビスアジド化合物の濃度」は、各種のビスアジド化合物の濃度の和を意味する。
【0058】
(本組成液の溶媒)
本組成液は溶媒を含む。当該溶媒としては、上記重合体及びビスアジド化合物を溶解することができればよく、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、セルソルブ、カルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(以下、「SF」と呼ぶ)等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、オクタデカン等の脂肪族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、フタル酸メチル等のエステル、テトラヒドロフラン(THF)、エチルブチルエーテル、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のエーテル、水等を用いることができる。これらの中でも、アルコール、エーテル及び水が好ましい。溶媒は、1種のみを用いてもよく、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
(本組成液のpH)
本組成液の25℃におけるpHは、11.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましく、9.0以下であることが更に好ましい。また、同pHは、7.0以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8.0以上であることが更に好ましい。本組成液のpHが上記の条件を満たすことにより、大気雰囲気での本組成液の化学的安定性が確保され、かつ、塗布後の界面分子結合の形成が促進される。なお、本明細書において、組成液のpHは、25℃においてpH試験紙(UNIVERSAL試験紙,アドバンテック東洋株式会社製)で測定される値を意味し、その測定誤差は±0.5程度である。
【0060】
(物質)
本組成液を用いた積層体の製法等に供せられる2つの物質は、同一の材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。各物質は、複数の材料から構成されるものであってもよい。各物質は、塗膜等が表面に形成されたものであってもよい。各物質は、複数の材料からなる物体の一部であってもよい。各物質を構成する材料としては、例えば、樹脂、エラストマー等の有機材料や、ガラス、セラミック、金属、シリコンウェハ、めっき下地(触媒)等の無機材料が挙げられる。
【0061】
本明細書における「樹脂」としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、汎用樹脂、エンジニアリング樹脂、スーパーエンジニアリング樹脂等が挙げられる。汎用樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、アクリロニトリル・スチレン(AS)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられる。エンジニアリング樹脂としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE(変性PPO))、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、超高分子量ポリエチレン(U-PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。スーパーエンジニアリング樹脂としては、例えば、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリイミド(PI)、変性ポリイミド(MPI)、熱硬化性ポリイミドが挙げられる。また、熱硬化性樹脂の商品形態としては、例えば、ポリイミド等のCステージ(硬化)シートや、ビルドアップシート、プリプレグ、ダイボンドシート、ACF(異方性導電シート)等のBステージ(未硬化)シートや、導電性又は絶縁性の、コンパウンド、ペースト又はインク等のAステージ材料等が挙げられる。
【0062】
エストラマーとしては、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0063】
金属としては、例えば、銅、銀、金、ニッケル、アルミニウム等が挙げられる。
【0064】
ガラスとしては、例えば、一般ソーダガラス(白板ガラス等)、硼珪酸ガラス、鉛ガラス、フリント系ガラス、光学ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0065】
セラミックとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、フォルステライト、ステアタイト、コージライト、サイアロン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、ムライト、マイカ等が挙げられる。
【0066】
2つの物質の形状としては特に限定されない。本発明に係る組成液を塗布する物質の具体的形状としては、例えば、板状、シート状、膜状、管状、柱状、紐状、不定形の塊状、その他所定形状に成形された任意の形状等が挙げられる。
本発明のいくつかの形態においては、組成液を塗布する物質(表面処理を行う物質)は、非繊維状の基材であることが好ましい。繊維とは、例えば、紐状の固体であって、その直径の最大値が0.1mm未満であり、かつ、長さが前記直径の最大値の10倍を超える固体である。当該形態の組成液を、塗布する物質の形状が紐状の場合には、その直径の最大値は0.1mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましい。また、その長さは、直径の最大値の10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。このように非繊維状の物質に対して表面処理を行うことで、2つの物質の結合体を効率的に得ることができる。
【0067】
(シラノール基又はアルコキシシリル基と物質の結合性)
アルコキシシリル基は、加水分解又は加溶媒分解によりシラノール基を生成する。
シラノール基は、カルボキシ基とはシリルエステル化によりSi-О結合を形成することができ、また、ヒドロキシ基とはシランカップリング反応によりSi-О結合を形成することができる。
上記第2の繰り返し単位がシラノール基又はアルコキシシリル基を有するような、本組成液の形態は、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基を有する樹脂等の物質の界面分子結合に有用である。また、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基は、後述する前処理工程を施した各種の物質の表面に形成されるので、当該形態の組成液は、前処理工程を施した各種の物質の界面分子結合に有用である。
カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基を有する樹脂としては、例えば、ポリアリルアミン(PAA)等があげられる。
【0068】
(1級アミノ基又は2級アミノ基と物質の結合性)
1級アミノ基又は2級アミノ基は、カルボキシ基とはアミド化によりC-N結合を形成することができ、また、エポキシ基とは開環アミノ化によりC-N結合を形成することができ、更に、エステル基-(C=О)О-とはトランスアミド化によりC-N結合を形成することができる。
本組成液は、上記第1の繰り返し単位が1級アミノ基又は2級アミノ基を有するから、カルボキシ基、エポキシ基又はエステル基を有する樹脂等の物質の界面分子結合に有用である。また、カルボキシ基は、後述する前処理工程を施した各種の有機材料の表面に形成されるので、当該形態の組成液は、前処理工程を施した各種の有機材料の界面分子結合に有用である。前処理工程を施した各種の有機材料としては、大気プラズマ処理した有機材料やアルカリ処理したポリイミド(PI)等が挙げられる。
カルボキシ基を有する樹脂の例は、上記の通りである。
エポキシ基を有する樹脂としては、例えば、各種のエポキシ樹脂等があげられる。
エステル基を有する樹脂としては、例えば、液晶ポリマー(LCP)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等があげられる。
【0069】
(エポキシ基と物質の結合性)
エポキシ基は、カルボキシ基とはエステル化によりC-О結合を形成することができ、また、ヒドロキシ基とはエーテル化によりC-О結合を形成することができ、更に、アミノ基とは開環アミノ化によりC-N結合を形成することができ、加えて、エポキシ基とは開環重合によりC-C結合を形成することができる。
上記第2の繰り返し単位がエポキシ基を有するような、本組成液の形態は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基又はエポキシ基を有する樹脂等の物質の界面分子結合に有用である。また、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基は、後述する前処理工程を施した各種の物質の表面に形成されるので、当該形態の組成液は、前処理工程を施した各種の物質の界面分子結合に有用である。
カルボキシ基又はヒドロキシ基を有する樹脂の例、及び、エポキシ基を有する樹脂の例は、上記の通りである。
アミノ基を有する樹脂としては、例えば、ポリアリルアミン(PAA)、アミノ基を持つように変性した各種の樹脂等があげられる。
【0070】
(アクリロイル基又はメタクリロイル基と物質の結合性)
アクリロイル基又はメタクリロイル基は、アミノ基とアザマイケル付加によりC-N結合を形成することができる。
上記第2の繰り返し単位がアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するような、本組成液の形態は、アミノ基を有する樹脂等の物質の界面分子結合に有用である。
アミノ基を有する樹脂の例は、上記の通りである。
【0071】
(アジド基と物質の結合性)
アジド基は、加熱又は光の照射により窒素分子を脱離して、ナイトレンとなる。
アジド基(ナイトレン)は、アルケニル基(-CH=CH-)とアジリジン化によりC-N結合を形成することができ、また、メチレン基(-CH2-)とC-Hアミノ化によりC-N結合を形成することができ、更に、メチル基(-CH3)と水素引抜型アミノ化によりC-N結合を形成することができ、加えて、フェニル基と[2+1]付加環化反応によりC-N結合を形成することができる。
アジド基はまた、アルケニル基(-CH=CH-)と[3+2]付加環化反応によりトリアゾール環を形成して、C-N結合を形成することができる。
ビスアジド化合物を含む本組成液の形態は、アルケニル基、メチレン基、メチル基又はフェニル基を有する樹脂等の物質の界面分子結合に有用である。
アルケニル基を有する樹脂としては、例えば、ABS樹脂や重合末端に二重結合が存在するポリオレフィン等が挙げられる。
メチレン基を有する樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)等が挙げられる。
メチル基を有する樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)等が挙げられる。
フェニル基を有する樹脂としては、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
本組成液の当該形態が含むビスアジド化合物が有する少なくとも2つのアジド基は各々、上記の通り、第1の繰り返し単位及び第2の繰り返し単位を具えた重合体とC-N結合を形成することができるから、当該ビスアジド化合物は当該重合体の架橋剤として働いて、任意の2つの物質の界面分子結合を強固にする。
【0072】
(界面分子結合メカニズム)
本発明における界面分子結合のメカニズムを検証することは容易ではないが、本組成液を介在させた界面で、およそ図1に模式的に示すような化学結合が生じているものと推測される。図1は、物質2、物質4及び物質5を積層してなる積層体1において、物質2と物質4の界面に本組成液に係る縮合物層3を介在させた様子を示す。物質4と物質5は、物質2と物質4の接合と同様に界面分子結合により接合していてもよく、或いは、例えば高温プレスなどの他の方法で接合していてもよい。図中、A1~A4は、本組成液に係るビスアジド化合物由来の部分を表し、P1とP2は、本組成液に係る第1の繰り返し単位及び第2の繰り返し単位を具えた重合体(以下、アミンポリマーと呼ぶ。)を表す。P1は直鎖状、P2は分岐状のアミンポリマーである。
物質2と物質4の表面には元々、又は前処理工程で生じた、OH基、カルボキシ基、カルボニル基、1級アミノ基又は2級アミノ基等の官能基が存在する。アミンポリマーP1及びP2に含まれるアミノ基、シラノール基、エポキシ基、アクリロイル基等の官能基は、上記表面の官能基と反応して結合を形成する。
ビスアジド化合物由来の部分A1は、ビスアジド化合物の一端のアジド基が分解して生じたナイトレンにより、物質4の表面とラジカル結合する。A1の他端は、アミンポリマーP1とラジカル結合する。同様に、ビスアジド化合物由来の部分A2の一端は、物質4の表面とラジカル結合し、A2の他端は、アミンポリマーP2とラジカル結合する。ビスアジド化合物由来の部分A3の一端は、物質2の表面とラジカル結合し、A3の他端は、アミンポリマーP2とラジカル結合する。ビスアジド化合物由来の部分A4の一端は、アミンポリマーP1とラジカル結合し、A4の他端は、アミンポリマーP2とラジカル結合する。このように、本組成液に係るビスアジド化合物は、2つの物質とアミンポリマーどうしを、相互に架橋して結合を形成する。
なお、図1には示していないが、アミンポリマーP1及びP2が有する官能基どうしの反応により、P1とP2、或いは、P2の分岐鎖どうしが、結合を形成することがあり得る。例えば、P1とP2がシラノール基を有する場合には、シロキサン結合により、P1とP2が結合することがあり得る。他に、例えば、エポキシ基とアミノ基、或いは、(メタ)アクリロイル基とアミノ基等の反応により、アミンポリマーどうしの結合が形成され得る。
【0073】
<表面処理物質の製造方法>
図2のフロー図を参照して、本発明の一形態によれば、上記いずれかの形態の組成液を物質の表面に塗布する工程(塗布工程(S2))を具える表面処理物質の製造方法を提供することができる。本製造方法は、前処理工程S1と、活性化工程と、を具えることが好ましい。活性化工程は、前記組成液が塗布された前記物質の表面を加熱する工程(加熱活性化工程(S4))と、前記組成液が塗布された前記物質の表面に紫外線を照射する工程(UV活性化工程(S6))と、を含み得る。本製造方法は、活性化後洗浄工程(S8)を具えることができる。
【0074】
(塗布工程)
塗布工程(S2)では、ポリイミドフィルム等の物質に本組成液等の処理液を塗布する。ここで「塗布する」とは、当該物質の表面に処理液を「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことを言う。塗布する方法としては、従来公知のコーティング方法、例えば、刷毛塗り方式、インクジェット方式、グラビアコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレードコート方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式が挙げられる。本組成液を塗布したときの塗膜の厚さ(ウェット膜厚)の下限は、表面処理物質と他の物質(物質や金属)との密着性を確保する観点から、例えば0.5μmが好ましく、1.5μmがより好ましく、5μmが更に好ましい。同じく塗膜の厚さ(乾燥膜厚)の下限は、例えば1nmが好ましく、3nmがより好ましく、10nmが更に好ましい。一方、この塗膜の厚さ(ウェット膜厚)の上限は、塗布容易性及び塗布ムラ抑制の観点から、例えば500μmが好ましく、150μmがより好ましく、50μmが更に好ましい。同じく塗膜の厚さ(乾燥膜厚)の上限は、例えば1μmが好ましく、300nmがより好ましく、100nmが更に好ましい。ディップコート方式を用いた場合の浸漬時間としては、例えば3秒以上60秒以下が好ましい。「塗布」は、物質の表面の一部に対して行われてもよいし、物質の表面の全面に対して行われてもよい。また、物質がフィルム状若しくはシート状の場合、「塗布」は、物質の表又は裏の片面に対してのみ行われてもよいし、物質の表及び裏の両面に対して行われてもよい。
なお、「塗布」の後には通常、処理液を塗布した物質の表面を、大気雰囲気での自然乾燥、風乾、又は40℃~70℃程度の温風吹付等により乾燥させる工程(乾燥工程)が行われる。上記の塗布工程及び乾燥工程により、本組成液が含有する、アミンポリマー及びビスアジド化合物が、上記物質の表面に配置される。
【0075】
(加熱活性化工程)
加熱活性化工程(S4)では、本組成液を塗布した物質の表面を加熱する。加熱により、当該表面は、他の物質との加熱圧着や金属めっき等の接合に適した状態となる。加熱時の物質の表面の温度は、例えば80~160℃、好ましくは90℃~120℃であり、物質の表面がその温度に保たれる時間は、例えば30秒~60分、好ましくは5~20分である。加熱活性化工程において生じている現象の解析は困難であるが、およそ次のような現象が生じているものと推測される。加熱処理によりビスアジド化合物が有するアジド基が分解されてN2分子が離脱し、ナイトレンが生成して、ビスアジド化合物が樹脂や金属等の物質及びアミンポリマーとの結合に適した状態になるであろう。また、加熱により、アミンポリマーが有する各種の官能基が、ビスアジド化合物及び樹脂や金属等の物質との結合に適した状態になるであろう。ビスアジド化合物とアミンポリマーは互いに結合し、物質とも結合して、物質の表面で縮合物の極めて薄い層を形成するであろう。このようにして、加熱活性化工程では、物質の表面に密着した縮合物の極めて薄い層が形成され、当該縮合物の表面は、別の樹脂や金属等の物質との結合に適した状態になると考えられる。
【0076】
(UV活性化工程)
上記の加熱活性化工程では、加熱によりビスアジド化合物が有するアジド基が分解したのであるが、UV活性化工程においては、紫外線の照射処理によりビスアジド化合物が有するアジド基が分解されてN2分子が離脱し、ナイトレンが生成して、ビスアジド化合物が樹脂や金属等の物質及びアミンポリマーとの結合に適した状態になると考えられる。照射する紫外線の波長は、密着性の確保及び紫外線によるポリイミドフィルム等の樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは260~420nm、更に好ましくは330~365nmである。紫外線光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ及びUV-LEDのいずれを用いてもよい。
本組成液中のアミンポリマーが(メタ)アクリロイル基のような光感応性の官能基を有する場合には、紫外線の照射処理により、アミンポリマーが樹脂や金属等の物質及びビスアジド化合物との結合に適した状態になると考えられる。
本発明においては、UV活性化工程に加えて、上記の加熱活性化工程を行ってもよい。その場合、加熱活性化工程とUV活性化工程の順序は問わず、いずれが先でもよいし、同時に行ってもよい。又、塗布工程と加熱活性化工程とUV活性化工程を、副生成物除去のための活性化後洗浄処理工程(S8)等の他の処理と組み合わせて、或いは、組み合わせることなく、任意の順序で反復適用してもよい。結合に寄与しない副生成物を洗浄除去することで、密着性を向上させることができる。
【0077】
(前処理工程)
本発明の一形態によれば、本発明のいずれかの形態に係る組成液を物質の表面に塗布する工程の前に、前記物質に対して、洗浄処理、酸処理、アルカリ処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、ケイ酸化炎処理(「イトロ処理」とも呼ばれる。)及び脱フッ素化処理からなる群より選ばれる1つ以上の前処理を行う工程(前処理工程(S1))を更に具える、表面処理物質の製造方法を提供することができる。
前処理工程は、ポリイミドフィルム等の物質の表面に前処理を行う工程であり、後の塗布工程及び乾燥工程において物質の表面に配置される、ビスアジド化合物及びアミンポリマーが、当該表面に固定され易くする目的で、並びに、さらに後の加熱活性化工程及び/又はUV活性化工程を効率的に行う目的で実施する。前処理工程を実施することにより、物質は、その表面にOH基、カルボキシ基、カルボニル基、1級アミノ基又は2級アミノ基等の官能基が存在する活性化された状態となり、ビスアジド化合物及びアミンポリマーと結合を形成し易くなる。前処理工程としては、洗浄処理、酸処理、アルカリ処理、当該物質の表面にコロナ放電照射を行うコロナ放電処理、当該物質の表面をアルゴンプラズマ、酸素プラズマ又は大気プラズマ等のプラズマで処理するプラズマ処理、紫外線照射処理、及び、当該物質の表面をシラン化合物等のカップリング剤を混入した燃焼ガスの燃焼炎にさらすケイ酸化炎処理(イトロ処理)からなる群から選ばれた1以上の処理を行うことができる。1つの処理のみを実施してもよく、これらの処理の複数を組み合わせて実施してもよい。
【0078】
<金属被覆樹脂の製造方法(湿式めっき)>
本発明の一形態によれば、本発明のいずれかの形態に係る組成液を樹脂の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、次いで、湿式めっきにより前記表面の上に金属めっき層を形成する工程(めっき工程)と、を有する金属被覆樹脂の製造方法を提供できる。
本形態では、塗布工程及び活性化工程を経た樹脂の表面に、例えば、無電解めっき、蒸着又はスパッタリングにより金属被覆を形成する(シード層形成工程)。その後、当該金属被覆を電解めっきにより厚膜化してもよい(電解めっき工程)。金属被覆は表面全体に形成してもよく、フォトリソグラフィー等の公知の手法によりパターン状に形成してもよい。本形態により製造される金属被覆樹脂は、フレキシブル金属張積層板やプリント配線板として好適である。処理時間や処理コストの観点から、無電解めっき、蒸着又はスパッタリングにより形成される金属被覆の厚みは、好ましくは0.1~2μm、より好ましくは0.2~1μmである。金属被覆を電解めっきにより厚膜化する場合には、厚膜化後の金属被覆の厚みは、好ましくは0.2~50μm、より好ましくは0.5~20μmである。無電解めっきされる金属は、例えば、Cu、Niなどである。蒸着又はスパッタにより形成される金属被覆の金属は、例えば、Al、Cr、Sn、Ti、Cu、In、Au、Pt、Agなどである。また、金属被覆が電解めっきにより形成された層を含む場合、電解めっきされる金属は、例えば、Cu,Ni,Ag,Pd,Au,Pt,Zn,Cr,Sn,Biなどである。金属被覆は、金属単体でもよく、合金であってもよい。本方法で得られる金属被覆樹脂の、樹脂とめっき金属との間の密着性向上のため、好ましくは、シード層形成工程及び/又は電解めっき工程の後で、100℃~250℃の温度で5~60分間のアニール処理を行う。
【0079】
<金属被覆樹脂の製造方法(金属箔の貼り合わせ)>
本発明の一形態によれば、本発明のいずれかの形態に係る組成液を樹脂及び金属箔のうち少なくとも一方の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、次いで、前記表面を介して前記の樹脂と金属箔を積層し、加圧して一体化し、金属被覆樹脂を得る工程(プレス工程)と、を有する金属被覆樹脂の製造方法を提供できる。貼り合わせる金属箔の厚みは、好ましくは0.2~50μm、より好ましくは0.5~20μmである。金属箔を構成する金属は、例えば、Cu,Ni,Ag,Pd,Au,Pt,Zn,Cr,Sn,Bi,Al、Ti、Inであり、特に、Cu,Ag,Au,Pt,Al等が挙げられる。金属箔は、金属単体でもよく、合金であってもよい。金属箔の、樹脂と貼り合わせる表面は、粗化されていても、無粗化であってもよい。本形態により製造される金属被覆樹脂は、フレキシブル金属張積層板やプリント配線板として好適である。
上記プレス工程は、樹脂又は金属箔の、本組成液により表面処理が行われた表面を介して、樹脂と金属箔を重ね合わせる工程(重ね合わせ工程)と、力を加えることにより、両者が一体的に結合される工程(加圧工程)を具える。加圧工程では、例えば、大気雰囲気下、窒素雰囲気下あるいは真空中で、平板プレス、ロールプレス等を行う。生産性向上及び加工コスト低減の観点からは、大気雰囲気下での平板プレス又はロールプレスが好ましい。製造される金属被覆樹脂の品質安定性の観点からは、窒素雰囲気下又は真空中でのプレスが好ましい。プレス圧力は1~100MPaが好ましく、20~70MPaであることが更に好ましい。一般にプレス圧力が大きいほど製造される金属被覆樹脂の密着強度が大きくなり好ましいが、プレス圧力が大きすぎると支持体を破損するおそれがある。上記の圧力を加える時間は、例えば5~60分、より好ましくは10~20分である。加圧工程においては、同時に加熱を行うことが好ましい。加圧工程における前記樹脂の温度は、その耐熱温度を越えない範囲内とする。前記温度は、例えば40℃以上350℃以下、好ましくは120℃以上250℃以下、より好ましくは150℃以上230℃以下である。
【0080】
<樹脂積層体の製造方法>
本発明の一形態によれば、本発明のいずれかの形態に係る組成液を第1の樹脂の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、次いで、前記表面の上に第2の樹脂を積層し、加圧して一体化する工程(プレス工程)と、を有する樹脂積層体の製造方法を提供できる。樹脂の形状としては、例えば、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂ブロック等が挙げられる。
上記プレス工程は、2つの樹脂を、本組成液により表面処理が行われた表面を介して、重ね合わせる工程(重ね合わせ工程)と、力を加えることにより、両者が一体的に結合される工程(加圧工程)を具える。加圧工程では、例えば、大気雰囲気下、窒素雰囲気下あるいは真空中で、平板プレス、ロールプレス等を行う。生産性向上及び加工コスト低減の観点からは、大気雰囲気下での平板プレス又はロールプレスが好ましい。製造される樹脂積層体の品質安定性の観点からは、窒素雰囲気下又は真空中でのプレスが好ましい。プレス圧力は1~100MPaが好ましく、20~70MPaであることが更に好ましい。一般にプレス圧力が大きいほど製造される積層体の密着強度が大きくなり好ましいが、プレス圧力が大きすぎると支持体を破損するおそれがある。上記の圧力を加える時間は、例えば5~60分、より好ましくは10~20分である。前記加圧工程においては、同時に加熱を行うことが好ましい。加圧工程における前記樹脂フィルムの温度は、その耐熱温度を越えない範囲内とする。前記温度は、例えば40℃以上350℃以下、好ましくは120℃以上250℃以下、より好ましくは150℃以上230℃以下である。
【0081】
<樹脂被覆物質の製造方法>
本発明の一形態によれば、本発明のいずれかの形態に係る組成液を物質の表面に塗布する工程(塗布工程)と、前記表面を加熱し、又は、前記表面に紫外線を照射する工程(活性化工程)と、次いで、前記表面の上に樹脂のワニスを塗布する工程(樹脂塗布工程)と、前記ワニスを硬化させる工程(硬化工程)と、を有する樹脂被覆物質の製造方法を提供できる。
本形態では、本組成液に係る塗布工程及び活性化工程を経た物質の表面に、樹脂のワニスを塗布して硬化させることにより、樹脂被覆物質を製造する。樹脂のワニスは、熱硬化性又はUV硬化性の樹脂からなることが好ましい。本形態により製造される樹脂被覆物質は、密着性に優れる。本形態の変形形態においては、樹脂のワニスは導電性フィラーを含有していて、物質の上にパターン状に塗布(印刷)され、前記硬化工程を経て得られる樹脂被覆物質はパターン状の導電部を具える。
【0082】
(ポリイミド)
樹脂の中でも、ポリイミドは高い耐熱性を有する熱硬化性樹脂であり、-269℃の低温から+300℃の高温まで広い温度領域にわたって物性変化が極めて少ないために、電気・電子分野での利用が拡大している。電気分野では、例えば、産業用モーターのコイルや超伝導電線の絶縁等に用いられ、電子分野では、例えば、フレキシブルプリント基板のベースフィルム、軽量なスペーサ、半導体試験装置のプローブソケット(試験用治具)等に利用されている。
【0083】
本発明において樹脂として使用されるポリイミドは、公知の物質であり、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分を主成分として用いて重縮合反応により得ることができる。ポリイミドフィルムは一般に、溶媒中でジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させて得られるポリアミド酸溶液を、支持体に塗布、乾燥してグリーンフィルムとなし、さらに高温熱処理して脱水閉環反応を行わせることによって得られる。原料として用いるジアミン成分及びテトラカルボン酸二無水物成分は、樹脂フィルム積層体や金属被覆樹脂の用途に応じて求められる諸特性を考慮の上、適宜最適なものが選択される。
【0084】
ポリアミド酸を構成するテトラカルボン酸二無水物成分としては、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族テトラカルボン酸二無水物類や、脂環式テトラカルボン酸二無水物類、脂肪族テトラカルボン酸二無水物類を用いることができる。中でも、芳香族テトラカルボン酸二無水物類、脂環式テトラカルボン酸二無水物類が好ましい。耐熱性の観点からは芳香族テトラカルボン酸二無水物類がより好ましく、光透過性の観点からは脂環式テトラカルボン酸二無水物類がより好ましい。
【0085】
芳香族テトラカルボン酸二無水物類としては、特に限定されないが、前記ビスアジド化合物がベンゼン環を有する場合には、前記ビスアジド化合物との親和性及び結合容易性の観点から、ベンゼン環又は置換基を具えたベンゼン環を有する酸二無水物であることが好ましく、ベンゼン環又は置換基を具えたベンゼン環以外の芳香環を有しない酸二無水物であることがより好ましい。
【0086】
ベンゼン環又は置換基を具えたベンゼン環以外の芳香環を有しない芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,4,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、
p-テルフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、m-テルフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、
p-クアテルフェニル-3,4,3''',4'''-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェニル)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物が挙げられる。
【0087】
ベンゼン環又は置換基を具えたベンゼン環以外の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-3,7-ジヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,5-ジヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0088】
脂環式テトラカルボン酸二無水物類としては、例えば、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1-カルボキシメチル-シクロペンタン-2,3,5-カルボン酸-2,6:3,5-二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0089】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物類としては、例えば、エタン-1,1,2,2-テトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、プロパン-1,1,3,3-テトラカルボン酸二無水物、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0090】
テトラカルボン酸二無水物成分は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0091】
ポリアミド酸を構成するジアミン成分としては、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族ジアミン類や、脂環式ジアミン類、脂肪族ジアミン類を用いることができる。中でも、芳香族ジアミン類、脂環式ジアミン類が好ましい。耐熱性の観点からは芳香族ジアミン類がより好ましく、光透過性の観点からは脂環式ジアミン類がより好ましい。
【0092】
芳香族ジアミン類としては、特に限定されないが、前記ビスアジド化合物がベンゼン環を有する場合には、前記ビスアジド化合物との親和性及び結合容易性の観点から、ベンゼン環又は置換基を具えたベンゼン環を有する芳香族ジアミンであることが好ましく、ベンゼン環又は置換基を具えたベンゼン環以外の芳香環を有しない芳香族ジアミンであることがより好ましい。
【0093】
ベンゼン環又は置換基を具えたベンゼン環以外の芳香環を有しない芳香族ジアミンとしては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,6-ジヒドロキシ-1,3-フェニレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、
3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニル-ジフルオロメタン、ビス(2-メチル-4-アミノフェニル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノフェニル)メタン、ビス(2-エチル-4-アミノフェニル)メタン、ビス(3-エチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-チオジアニリン、3,3’-チオジアニリン、4,4’-スルホニルジアニリン、3,3’-スルホニルジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノ-1’-メトキシベンズアニリド、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)n-ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)n-ペンタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン、1,2-ビス[2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ]エタン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2-ジメチルプロパン、5-アミノ-1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、3,7-ジアミノ-ジメチルジベンゾチオフェン-5,5-ジオキシド、2,6-ジアミノアントラキノン、2,7-ジアミノアントラキノン、1,4-ジアミノアントラキノン、1,5-ジアミノアントラキノン、
1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、
9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセンが挙げられる。
【0094】
ベンゼン環又は置換基を具えたベンゼン環以外の芳香環を有する芳香族ジアミンとしては、例えば、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、1,4-ジアミノナフタレンが挙げられる。
【0095】
脂環式ジアミン類としては、例えば、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノ-2,6-ジメチルシクロヘキシル)メタンが挙げられる。
【0096】
脂肪族ジアミン類としては、例えば、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,8-ジアミノオクタン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが挙げられる。
【0097】
ジアミン成分は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0098】
本発明において樹脂として使用するポリイミドフィルムとしては、耐熱性の観点から芳香環を含むものが好ましく、非熱可塑性であるか熱可塑性であるかを問わず、特にその種類は限定されないが、具体的に例を挙げると、例えば、東レ・デュポン株式会社製のカプトンシリーズ、宇部興産株式会社製のユーピレックスシリーズ、鐘淵化学工業株式会社製のアピカルシリーズ、日東電工株式会社製のU-フィルムシリーズ、ゼノマックスジャパン株式会社製のゼノマックスシリーズ等の非熱可塑性のポリイミドフィルムを好適に用いることができる。前記ビスアジド化合物及び前記アミンポリマーがベンゼン環を有する場合には、親和性及び密着性確保の観点から、ベンゼン環を含むポリイミドからなるフィルム、特に芳香環としてベンゼン環のみを含むポリイミドからなるフィルムを好適に用いることができる。高耐熱性用途のフィルムを構成するポリイミドのガラス転移点温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上である。また、ポリイミドフィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、12.5μm、25μm、30μm、40μm、50μm、75μm、100μm、125μm、250μm等が挙げられる。
【実施例0099】
<合成例1> (化合物ETの合成例)
ガラス反応器中に、1gのポリエチレンイミン(商品名:エポミン(登録商標),品番:SP-012,株式会社日本触媒製,平均分子量:1200,アミン価:19mmоl/g,アミン比:1級アミノ基35%,2級アミノ基35%,3級アミノ基30%)の液体を19gの3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(以下では「SF」と呼ぶ。)に溶解した。ガラス反応器を乾燥窒素によりパージして、攪拌しながら内部温度を150℃まで上昇させた。内部温度が150℃に達するとすぐに、9gのSF中に1gの3-(グリシドキシ)プロピルトリメトキシシランを含む溶液を30分間に亘り滴下した。次いで、混合物を150℃にて更に3時間攪拌した。この後、ガラス反応器中の反応バッチをゆっくりと冷却した。有効成分6.7%の薄黄色の溶液が得られた。
この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料の3-(グリシドキシ)プロピルトリメトキシシランのシグナルは検出されなかったゆえ、反応は完了したものと判断した。生成した目的化合物においては、原料のポリエチレンイミンが含んでいた1級又は2級のアミノ基の、モル比率にして約31.8%がシラン変性を受けたものと推定できる。この化合物を、以下では「化合物ET」と呼ぶ。(式(7)を参照。)
【0100】
<実施例1> (組成液ETBAの作製例)
「ビスアジド化合物」として2,6-ビス(4’-アジドベンジリデン)-4-メチルシクロヘキサノン(商品名:BAC-M,東洋合成工業株式会社製、以下では「BABMC」と呼ぶ。)の粉末を安息香酸メチルに溶解させ2%溶液に調整した。この2%調整した溶液と「1級アミノ基又は2級アミノ基を有する繰り返し単位と、シラノール基又はアルコキシシリル基を有する繰り返し単位と、を具えた重合体」として上で合成した化合物ETを、各々所要質量だけ秤量し、エタノールに混合して、淡黄色の組成液を得た。各成分の濃度(組成液全体に占める質量%。以下では単に「%」と記載する。)は、上記ビスアジド化合物0.2%、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETBA」と呼ぶ。
【0101】
<実施例1’> (組成液ETの作製例)
上で合成した化合物ETを、所要質量だけ秤量し、エタノールに溶解して、淡黄色の組成液を得た。成分の濃度は、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ET」と呼ぶ。
【0102】
<合成例2> (化合物ETGの合成例)
ガラス反応器中に、1gのポリエチレンイミン(同上)の液体を19gのSFに溶解した。ガラス反応器を乾燥窒素によりパージして、攪拌しながら内部温度を150℃まで上昇させた。内部温度が150℃に達するとすぐに、9gのSF中に0.5gのグリシジルメタクリレートを含む溶液を30分間に亘り滴下した。次いで、混合物を150℃にて更に3時間攪拌した。この後、ガラス反応器中の反応バッチをゆっくりと冷却した。有効成分5.1%の淡黄色の溶液が得られた。
この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料のグリシジルメタクリレートのシグナルは検出されなかったゆえ、反応は完了したものと判断した。生成した目的化合物においては、原料のポリエチレンイミンが含んでいた1級又は2級のアミノ基の、モル比率にして約26.5%が変性を受けたものと推定できる。IR分析により、生成した化合物においてエポキシ基とアクリロイル基(又はメタクリロイル基)の比率は約1:7と推定された。この化合物を、以下では「化合物ETG」と呼ぶ。(式(8)を参照。)
【0103】
<実施例2> (組成液ETGBAの作製例)
「ビスアジド化合物」としてBABMCの粉末を安息香酸メチルに溶解させ2%溶液に調整した。この2%調整した溶液と「1級アミノ基又は2級アミノ基を有する繰り返し単位と、エポキシ基を有する繰り返し単位と、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する繰り返し単位と、を具えた重合体」として上で合成した化合物ETGを、各々所要質量だけ秤量し、エタノールに混合して、淡黄色の組成液を得た。各成分の濃度は、上記ビスアジド化合物0.20%、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETGBA」と呼ぶ。
【0104】
<実施例2’> (組成液ETGの作製例)
上で合成した化合物ETGを、所要質量だけ秤量し、エタノールに溶解して、淡黄色の組成液を得た。成分の濃度は、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETG」と呼ぶ。
【0105】
<合成例3> (化合物ETMXの合成例)
ガラス反応器中に、1gのポリエチレンイミン(同上)の液体を19gのSFに溶解した。ガラス反応器を乾燥窒素によりパージして、攪拌しながら内部温度を150℃まで上昇させた。内部温度が150℃に達するとすぐに、4.5gのエタノール中に0.5gの3-(グリシドキシ)プロピルトリメトキシシランを含む溶液を30分間に亘り滴下し、次いで、4.5gのエタノール中に0.25gのグリシジルメタクリレートを含む溶液を30分間に亘り滴下した。更に、混合物を150℃にて3時間攪拌した。この後、ガラス反応器中の反応バッチをゆっくりと冷却した。有効成分5.9%の淡黄色の溶液が得られた。
この溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、原料の3-(グリシドキシ)プロピルトリメトキシシラン及びグリシジルメタクリレートのシグナルは検出されなかったゆえ、反応は完了したものと判断した。生成した目的化合物においては、原料のポリエチレンイミンが含んでいた1級又は2級のアミノ基の、モル比率にして約29.1%が変性を受けたものと推定できる。IR分析により、生成した化合物においてエポキシ基とアクリロイル基(又はメタクリロイル基)の比率は約1:8と推定された。この化合物を、以下では「化合物ETMX」と呼ぶ。(式(9)を参照。)
【0106】
<実施例3> (組成液ETMXBAの作製例)
「ビスアジド化合物」としてBABMCの粉末を安息香酸メチルに溶解させ2%溶液に調整した。この2%調整した溶液と「1級アミノ基又は2級アミノ基を有する繰り返し単位と、シラノール基又はアルコキシシリル基を有する繰り返し単位と、エポキシ基を有する繰り返し単位と、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する繰り返し単位と、を具えた重合体」として上で合成した化合物ETMXを、各々所要質量だけ秤量し、エタノールに混合して、淡黄色の組成液を得た。各成分の濃度は、上記ビスアジド化合物0.20%、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETMXBA」と呼ぶ。
【0107】
<実施例3’> (組成液ETMXの作製例)
上で合成した化合物ETMXを、所要質量だけ秤量し、エタノールに混合して、淡黄色の組成液を得た。成分の濃度は、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETMX」と呼ぶ。
【0108】
<合成例4> (化合物ETX(有機鎖型)の合成例)
ガラス反応器中に、1gのポリエチレンイミン(同上)の液体を19gのSFに溶解した。ガラス反応器を乾燥窒素によりパージして、攪拌しながら内部温度を150℃まで上昇させた。内部温度が150℃に達するとすぐに、9gのSF中に1gの、エポキシ基とエトキシシリル基を有する有機鎖型のシランカップリング剤(品番:X-12-981S,信越化学工業株式会社製,エポキシ当量:290g/モル)を含む溶液を30分間に亘り滴下した。次いで、混合物を150℃にて3時間攪拌した。この後、ガラス反応器中の反応バッチをゆっくりと冷却した。有効成分6.7%の薄黄色の溶液が得られた。
この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、X-12-981Sのシグナルは検出されなかったゆえ、反応は完了したものと判断した。生成した目的化合物においては、原料のポリエチレンイミンが含んでいた1級又は2級のアミノ基の、モル比率にして約25.9%がシラン変性を受けたものと推定できる。この化合物を、以下では「化合物ETX(有機鎖型)」と呼ぶ。
【0109】
<実施例4> (組成液ETXBA(有機鎖型)の作製例)
「ビスアジド化合物」としてBABMCの粉末を安息香酸メチルに溶解させ2%溶液に調整した。この2%調整した溶液と「1級アミノ基又は2級アミノ基を有する繰り返し単位と、シラノール基又はアルコキシシリル基を有する繰り返し単位と、を具えた重合体」として上で合成した化合物ETX(有機鎖型)を、各々所要質量だけ秤量し、エタノールに混合して、淡黄色の組成液を得た。各成分の濃度は、上記ビスアジド化合物0.20%、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETXBA(有機鎖型)」と呼ぶ。
【0110】
<実施例4’> (組成液ETX(有機鎖型)の作製例)
上で合成した化合物ETX(有機鎖型)を、所要質量だけ秤量し、エタノールに溶解して、淡黄色の組成液を得た。成分の濃度は、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETX(有機鎖型)」と呼ぶ。
【0111】
<合成例5> (化合物ETKR(無機鎖型)の合成例)
ガラス反応器中に、1gのポリエチレンイミン(同上)の液体を19gのSFに溶解した。ガラス反応器を乾燥窒素によりパージして、攪拌しながら内部温度を150℃まで上昇させた。内部温度が150℃に達するとすぐに、9gのSF中に3gの、エポキシ基とメトキシシリル基を有する無機鎖型(ポリシロキサン骨格)のシランカップリング剤(品番:KR-517,信越化学工業株式会社製,エポキシ当量:830g/モル)を含む溶液を30分間に亘り滴下した。次いで、混合物を150℃にて3時間攪拌した。この後、ガラス反応器中の反応バッチをゆっくりと冷却した。有効成分12.5%の淡黄色の溶液が得られた。
この溶液を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、KR-517のシグナルは検出されなかったゆえ、反応は完了したものと判断した。生成した目的化合物においては、原料のポリエチレンイミンが含んでいた1級又は2級のアミノ基の、モル比率にして約27.2%が、シラン変性を受けたものと推定できる。この化合物を、以下では「化合物ETKR(無機鎖型)」と呼ぶ。
【0112】
<実施例5> (組成液ETKRBA(無機鎖型)の作製例)
「ビスアジド化合物」としてBABMCの粉末を安息香酸メチルに溶解させ2%溶液に調整した。この2%調整した溶液と「1級アミノ基又は2級アミノ基を有する繰り返し単位と、シラノール基又はアルコキシシリル基を有する繰り返し単位と、を具えた重合体」として上で合成した化合物ETKR(無機鎖型)を、各々所要質量だけ秤量し、エタノールに混合して、淡黄色の組成液を得た。各成分の濃度は、上記ビスアジド化合物0.20%、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETKRBA(無機鎖型)」と呼ぶ。
【0113】
<実施例5’> (組成液ETKR(無機鎖型)の作製例)
上で合成した化合物ETKR(無機鎖型)を、所要質量だけ秤量し、エタノールに溶解して、淡黄色の組成液を得た。成分の濃度は、上記重合体0.60%であり、pH試験紙で測定した組成液のpHは8.0であった。この組成液を、以下では「組成液ETKR(無機鎖型)」と呼ぶ。
【0114】
<比較例1> (溶液IMB-KPの作製例)
特許文献9の記載に従って、化合物IMB-KPの1%エタノール溶液を作製した。pHは約4.5であった。化合物IMB-KPは、シロキサンオリゴマーであり、アミノ基とアルコキシシリル基とアジドフェニル基を有している。この溶液を、以下では「溶液IMB-KP」と呼ぶ。
【0115】
<比較例2> (組成液IMB-8の作製例)
特許文献8の記載に従って、4-アジド安息香酸0.10%、ポリエチレンイミン0.
10%、無水マレイン酸0.15%のSF溶液を作製した。pHは約4.0であった。この溶液を、以下では「組成液IMB-8」と呼ぶ。
【0116】
各組成液(又は溶液)を構成する化合物が有する官能基を表にまとめると次の通りである。
【表1】
【0117】
<実施例6-1>
(表面処理樹脂の製造)
樹脂として、3cm×6cmサイズのポリイミドフィルム(商品名「カプトン200H」、厚み50μm、東レ・デュポン株式会社製)2枚を用意し、それぞれアセトンで洗浄後、片面にアルゴンプラズマ処理(アルゴン流量100mL/分,5分,200W)を施した(前処理工程)。次いで、バーコーターを用いて、予め調製した組成液ETGBA(各成分の濃度は、ビスアジド化合物0.05%、重合体0.4%)をウェット膜厚25μmで、アルゴンプラズマ処理を施した面に塗布した(塗布工程)。その後、2枚のポリイミドフィルムを100℃の恒温槽で10分間保持した(加熱活性化工程)。
(樹脂積層体の製造)
これら表面処理済みの2枚のポリイミドフィルムを、表面処理がなされた面どうしが対向するようにして重ね合せ、上下に添えたクッション板を介して、平板プレス機でプレス温度200℃、プレス時間5分、プレス圧力27.2MPaで加熱圧着してポリイミドフィルム積層体(樹脂積層体)を作製した(加圧工程)。このポリイミドフィルム積層体を250℃のオーブンに投入して30分間放置した(アニール工程)。
(ピール強度の測定)
自然冷却後、30mm幅のポリイミドフィルム積層体に対し、90°の剥離強度試験を行った。縦型電動計測スタンドMX2-500N(株式会社イマダ製)にフォースゲージZTA-50Nを取り付け、90°剥離のピール強度試験機を構成した。剥離速度は50mm/分とした。全長6cmのうち、両端の1cmを除く4cm分についてピール強度を連続的に計測し、その平均値を求めた。
【0118】
<実施例6-2及び6-3>
樹脂として、以下の、3cm×6cmサイズのポリイミドフィルム2枚を用いることを除いては、実施例6-1と同様にしてポリイミドフィルム積層体を作成し、ピール強度の平均値を計測した。
実施例6-2 商品名「カプトンEN-Y」、厚み50μm、東レ・デュポン株式会社製、(Lоw-CTE)
実施例6-3 商品名「ゼノマックス」、厚み38μm、ゼノマックスジャパン株式会社製、(高耐熱,Lоw-CTE)
【0119】
<比較例6-1乃至6-3>
組成液ETGBAの代わりに組成液IMB-8を用いることを除いては、それぞれ、実施例6-1乃至6-3と同様にしてポリイミドフィルム積層体を作成し、ピール強度の平均値を計測した。
【0120】
(測定結果)
ピール強度(平均値)の測定結果は次の通りである。
実施例 比較例
番号 2つの樹脂 組成液ETGBA 組成液IMB-8
6-1 カプトンH200 母材破壊 母材破壊
6-2 カプトンEN-Y 6.0N/3cm 1.5N/3cm
6-3 ゼノマックス 27.0N/3cm 0.0N/3cm
(考察)
実施例6-1乃至6-3からわかるように、本発明に係る組成液ETGBAは、ポリイミド樹脂全般について密着が得られる。一方、比較例6-1乃至6-3からわかるように、組成液IMB-8はカプトン200Hでしか密着が得られない。なお、「母材破壊」とは、90°剥離のピール強度試験の際に、塗布した組成液に由来する縮合物層の内部で剥離が生じたのではなく、母材(ポリイミドフィルム)が破壊されて剥離が生じたことを意味する。「母材破壊」は、2つの物質どうしの界面分子結合に係る接合が強固であることを示すものである。
【0121】
<実施例6-1’>
実施例6-1における加熱活性化工程の代わりに、風乾及びUV活性化工程を実施することを除いては、実施例6-1と同様にして、ポリイミドフィルム積層体を作製してピール強度の平均値を計測した。UV活性化工程においては、UV照射装置から被照射エネルギー1000mJ/cm2で塗布面に紫外線を照射した。
その結果、実施例6-1と同様に、母材破壊が生じるほどの密着が得られた。
【0122】
<実施例7-1>
(めっきによる金属被覆樹脂の製造)
実施例6-1と同じポリイミドフィルム1枚を用意し、その片面に実施例6-1と同じ組成液を用いて、実施例1と同様の表面処理を施した。ただし、加熱活性化処理は160℃,10分に変更した。
次いで、表面処理済みの表面処理ポリイミドフィルムを試料として、無電解めっき工程を実施した。無電解めっき工程においては、試料をプレディップ液に浸漬するプレディップ処理と、続いて、試料をインデューサーAM(奥野製薬工業株式会社製)に浸漬する触媒付与処理と、続いて、試料をOPC-150クリスターRW(奥野製薬工業株式会社製)に浸漬するアクセラレータ処理と、続いて、試料に銅の無電解めっきを施す無電解めっき処理と、続いて、めっき応力を低減するために、試料を30分間100℃の温度に保つ無電解めっき後アニール処理と、が実施された。無電解めっきのめっき厚は0.1μmであった。
次いで、厚付けめっきのために、試料に電解銅めっきを施す電解めっき処理工程が実施された。めっき皮膜の膜厚は20μmであった。続いて、めっき応力を低減するために、試料を30分間150℃の温度に保つ電解めっき後アニール処理を実施した。こうして、金属被覆ポリイミドフィルムを得た。その後、金属被覆ポリイミドフィルムを10mm幅に裁断し、実施例6-1と同様にしてピール強度(平均値)を測定した。なお、上記の触媒付与処理に用いた溶液は、アルカリ性のPd触媒含有溶液であり、微細配線の形成に適したものである。
【0123】
<実施例7-2乃至7-5>
実施例7-1で用いた組成液ETGBAの代わりに、本発明に係る別の組成液である、組成液ET、ETBA、ETMXBA又はETKRBAを用いることを除いては、実施例7-1と同様にして、めっきによる金属被覆ポリイミドフィルムを作製し、ピール強度(平均値)を計測した。
【0124】
<比較例7-1及び7-2>
実施例7-1で用いた組成液ETGBAの代わりに、比較例に係る別の組成液等である、組成液IMB-8又は溶液IMB-KPを用いることを除いては、実施例7-1と同様にして、めっきによる金属被覆ポリイミドフィルムを作製し、ピール強度(平均値)を計測した。
【0125】
(測定結果)
ピール強度(平均値)の測定結果は次の通りである。
記号 組成液等 樹脂 ピール強度
実施例7-1 ETGBA カプトンH200 4.3N/cm
実施例7-2 ET 同上 3.5N/cm
実施例7-3 ETBA 同上 6.0N/cm
実施例7-4 ETMXBA 同上 5.0N/cm
比較例7-1 IMB-8 同上 4.5N/cm
比較例7-2 IMB-KP 同上 3.5N/cm
(考察)
これらの5件の実施例は、2つの比較例と同等かそれ以上の密着性を示している。組成液ETとETBAの比較から、組成液にビスアジド化合物を添加することで密着性が向上することが分かる。また、組成液ETBA、ETMXBA及びETGBAの比較から、シラノール基がめっきの密着性を向上させることが分かる。比較例7-2は、組成液のpHが約4.5で酸性側のため、アルカリPdめっきでの密着が弱いと推察される。対して、5件の実施例は、pHが約8.0でアルカリ側であるため、微細配線向きのアルカリPdめっきとの相性が良い。
【0126】
<実施例7-1’乃至7-4’>
実施例7-1乃至7-4における加熱活性化工程の代わりに風乾及びUV活性化工程を実施すること、樹脂としてカプトンH200の代わりに2軸配向ポリプロピレン(OPP)を使用すること、及び、電解アニールの条件を100℃,60分に変更することを除いては、実施例7-1乃至7-4と同様にして、ОPPフィルム積層体を作製した。UV活性化工程においては、UV照射装置から被照射エネルギー1000mJ/cm2で塗布面に紫外線を照射した。これらを順に、実施例7-1’乃至7-4’と呼ぶ。
その結果、実施例7-1乃至7-4と同様に、良好なめっき付き性が確認された。
【0127】
<実施例8-1>
(貼り合わせによる金属被覆樹脂の製造)
6cm×3cmのサイズの下記のポリイミドフィルム1枚と、無粗化銅箔を用意した。
実施例8-1 商品名「カプトンEN」、厚み25μm、東レ・デュポン株式会社製、(Lоw-CTE)
無粗化銅箔、厚み12μm、表面粗さSa0.19μm、福田金属箔粉工業株式会社製
ポリイミドフィルムの片面に実施例7-1と同じ組成液を用いて、実施例7-1と同様の表面処理を施した。上記銅箔には表面処理を施さなかった。
次いで、上記表面処理ポリイミドフィルムと銅箔の貼り合わせ工程を実施した。表面処理ポリイミドフィルムの表面処理が施された面に上記銅箔を重ねて、上下に添えたクッション板を介して、平板プレス機でプレス温度230℃、プレス時間5分、プレス圧力58.3MPaで加熱圧着して金属被覆ポリイミドフィルムを作製した(加圧工程)。自然冷却後、アニール工程を実施しないで、金属被覆ポリイミドフィルムを10mm幅に裁断してから、実施例6-1と同様にしてピール強度を測定した。
【0128】
<実施例8-2乃至8-4>
実施例8-1で用いた組成液ETGBAの代わりに、本発明に係る別の組成液である、組成液ETBA、組成液ETMXBA又は組成液ETXBAを用いることを除いては、実施例8-1と同様にして、貼り合わせによる金属被覆ポリイミドフィルムを作製し、ピール強度(平均値)を計測した。
【0129】
<比較例8-1及び8-2>
実施例8-1で用いた組成液ETGBAの代わりに、比較例に係る別の組成液等である、組成液IMB-8又は溶液IMB-KPを用いることを除いては、実施例8-1と同様にして、貼り合わせによる金属被覆ポリイミドフィルムを作製し、ピール強度(平均値)を計測した。
【0130】
<実施例8-5及び8-6>
実施例8-1で用いた樹脂(ポリイミドフィルム「カプトンEN」)の代わりに、別のポリイミドフィルム「ゼノマックス」を用いることを除いては、実施例8-1と同様にして、貼り合わせによる金属被覆ポリイミドフィルムを作製し、ピール強度(平均値)を計測した。
【0131】
<比較例8-3及び8-4>
比較例8-1及び8-2で用いたポリイミドフィルム「カプトンEN」の代わりに、ポリイミドフィルム「ゼノマックス」を用いることを除いては、比較例8-1及び8-2と同様にして、それぞれ、貼り合わせによる金属被覆ポリイミドフィルムを作製し、ピール強度(平均値)を計測した。
【0132】
(測定結果)
ピール強度(平均値)の測定結果は次の通りである。
記号 組成液等 樹脂 ピール強度
実施例8-1 ETGBA カプトンEN 6.0N/cm
実施例8-2 ETBA カプトンEN 7.0N/cm
実施例8-3 ETMXBA カプトンEN 7.0N/cm
実施例8-4 ETXBA カプトンEN 7.0N/cm *)
実施例8-5 ETKRBA カプトンEN 6.8N/cm
比較例8-1 IMB-8 カプトンEN 0.0N/cm
比較例8-2 IMB-KP カプトンEN 8.0N/cm
実施例8-5 ETBA ゼノマックス 4.5N/cm
実施例8-6 ETXBA ゼノマックス 5.0N/cm
比較例8-3 IMB-8 ゼノマックス 0.0N/cm
比較例8-4 IMB-KP ゼノマックス 3.5N/cm
*)実施例8-4は、サンプルの一部で15.0N/cmの強密着が見られた。
(考察)
比較例の組成液IMB-8は密着性が悪いが、溶液IMB-KPは高い密着性を示す。本発明に係る実施例は、カプトンENでは、比較例に係る溶液IMB-KPより若干低いものの、同程度の密着性を示す。また、本発明に係る実施例は、ゼノマックスでは、比較例に係る溶液IMB-KPより高い密着性を示す。側鎖に有機鎖を有する繰り返し単位を具える重合体を含む組成液を用いる実施例8-4では、サンプルの一部で強密着が見られた。
【0133】
(塗布膜厚依存性)
実施例8-3において、ポリイミドフィルムに組成液ETMXBAを塗布する際の塗布膜厚(wet厚)とピール強度との関係を調べた。結果は、次の通りである。
塗布膜厚(wet厚) ピール強度
1.5μm 3.5N/cm
7.0μm 6.0N/cm
12.0μm 6.0N/cm
25.0μm 6.0N/cm
塗布膜厚が7μm未満の場合、塗布膜厚が薄いほど、ピール強度は減少する。一方、塗布膜厚が7μm以上25.0μm以下の場合には、ピール強度は変化しない。
【0134】
<実施例9> (樹脂被覆物質の製造)
(表面処理)
シリコンウェハを用意し、エタノールで洗浄した。次いで、バーコーターを用いて、予め調製した組成液ETBA(各成分の濃度は、ビスアジド化合物0.05%、重合体0.4%)をウェット膜厚25μmで、シリコンウェハの片面に塗布した(塗布工程)。その後、当該シリコンウェハを100℃の恒温槽で10分間保持した(加熱活性化工程)。
(樹脂被覆物質の製造)
ポリイミドワニス(ユピアAT、宇部興産製、固形分濃度18±1%、粘度5±1Pa・s、溶剤NMP、熱硬化条件350℃20分)を用意し、シリコンウェハの上記塗布面にスピンコート(1500rpm、20秒)した。続いて、ポリイミドワニスの推奨熱硬化条件で熱処理を行い、ポリイミドワニスを硬化させた。その後、生じた塗膜に1mm幅5×5マスでカットを入れ、テープ剥離試験(クロスカット試験)を行って、格子の密着数(=25- 剥離数) を確認した。密着数は25、塗膜の膜厚は33μmであった。
【0135】
<比較例9-1及び9-2>
実施例9と同じシリコンウェハーを用意し、組成液ETBAの代わりに下記のような組成液等を用いること(或いは全く組成液等を用いないこと)を除いては、実施例9と同様に、シリコンウェハー上に塗膜を形成した。その後、テープ剥離試験で塗膜の密着性を確認した。結果は次の通りであり、本発明に係る組成液ETBAにおいて、比較例9-1と同程度の密着性向上効果が確認できた。
(結果)
記号 組成液等 膜厚 密着数
実施例9 ETBA 33μm 25
比較例9-1 IMB-KP 29μm 25
比較例9-2 なし 20μm 0
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の組成液は、主に中性から塩基性のpH領域で使用でき、界面分子結合により多様な物質同士の密着性を向上させることができるから、多くのアプリケーションで使用され得る。特に、電気・電子分野に幅広い応用が可能である。例えば、プリント配線板や軽量のスペーサ、半導体試験装置のプローブソケット(試験用治具)、電池極板用樹脂コア金属箔等の、電気・電子デバイスの製造への応用が挙げられる。
【符号の説明】
【0137】
1 積層体
2,4,5 物質
3 縮合物層
A1~A4 ビスアジド化合物由来部分
P1,P2 重合体(ポリマーアミン)
S1 前処理工程
S2 塗布工程
S4 加熱活性化工程
S6 UV活性化工程
S8 活性化後洗浄処理工程
S3,S5,S7,S9 分岐判断ステップ
図1
図2