(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146633
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
B23F 5/02 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B23F5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059657
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】大西 洋一
(72)【発明者】
【氏名】竹下 慧
(72)【発明者】
【氏名】黒川 泰浩
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡易な構成で、複数の工具による加工が可能な歯車加工装置を提供する。
【解決手段】第1工具及び第2工具は、当該各工具の軸方向に間隔をあけて移動不能に固定され、前記各工具が、前記被加工歯車と噛み合って加工を行うように構成され、前記ワーク支持ユニットは、前記工具支持ユニットに対し、前記被加工歯車の軸方向に沿う第1方向に相対的に移動可能となっており、前記ワーク支持ユニットは、前記被加工歯車に対し、前記工具を近接離間する第2方向に相対的に移動可能となっており、前記工具支持ユニットは、前記基台上で垂直方向に延びる垂直軸周りに回転可能となっており、前記制御部は、前記第1工具及び前記第2工具の一方を、前記被加工歯車を加工する加工用工具として設定し、前記加工用工具を前記被加工歯車と噛み合う位置に移動させた上で、当該被加工歯車の加工を行うように構成されている。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
前記基台上に配置され、内歯車状の第1工具及び第2工具を有する工具支持ユニットと、
前記基台上に配置され、被加工歯車を回転自在に支持するワーク支持ユニットと、
前記工具支持ユニット及び前記ワーク支持ユニットの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記第1工具及び前記第2工具は、当該各工具の軸方向に間隔をあけて移動不能に固定され、
前記各工具が、前記被加工歯車と噛み合って加工を行うように構成され、
前記ワーク支持ユニットは、前記工具支持ユニットに対し、前記被加工歯車の軸方向に沿う第1方向に相対的に移動可能となっており、
前記ワーク支持ユニットは、前記被加工歯車に対し、前記工具を近接離間する第2方向に相対的に移動可能となっており、
前記工具支持ユニットは、前記基台上で垂直方向に延びる垂直軸周りに回転可能となっており、
前記制御部は、
前記第1工具及び前記第2工具の一方を、前記被加工歯車を加工する加工用工具として設定し、
前記加工用工具を前記被加工歯車と噛み合う位置に移動させた上で、当該被加工歯車の加工を行うように構成されている、歯車加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記加工用工具が、前記被加工歯車と対向するように前記ワーク支持ユニットを相対的に前記第1方向に移動するための移動距離を決定し、
前記加工用工具と前記被加工歯車とが噛み合うように、前記ワーク支持ユニットを相対的に前記第2方向に移動するための移動距離を決定し、
前記加工用工具の軸線と前記被加工歯車の軸線とが平行になるように、前記工具支持ユニットを相対的に前記垂直軸周りに回転するための回転角度を決定する、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記ハウジングにおいて、前記第1工具と前記第2工具との間の軸方向の中心位置に仮想的な工具が配置されているとして、前記仮想的な工具と前記被加工歯車との噛み合いを初期設定として規定し、
前記第1方向の移動距離、前記第2方向の移動距離、及び前記回転角度は、前記初期設定を基準に決定される、請求項2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、少なくとも1回の加工が終了する毎に、前記第1方向の移動距離、前記第2方向の移動距離、及び前記回転角度を算出するように構成されている、請求項2または3に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の歯車加工装置で行われる歯車加工方法であって、
少なくとも前記第1工具及び前記第2工具の一方を、前記被加工歯車を加工する加工用工具として設定するステップと、
前記加工用工具を前記被加工歯車と噛み合う位置に移動させた上で、当該被加工歯車の加工を行うステップと、
を備えている、歯車加工方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の歯車加工装置のコンピュータで実行される歯車加工プログラムであって、
前記第1工具及び前記第2工具の少なくとも一方を、前記被加工歯車を加工する加工用工具として設定するステップと、
前記加工用工具を前記被加工歯車と噛み合う位置に移動させた上で、当該被加工歯車の加工を行うステップと、
を実行させる、歯車加工プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置、歯車加工方法、及び歯車加工プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ホーニング加工を行う歯車加工装置が記載されている。この装置では、被加工歯車であるワークを、主軸台と心押し台からなるワーク支持ユニットにより軸方向の両端から挟むことで支持し、両固定具の間に配置された、内歯車状の工具を有する環状の工具支持ユニットをワークに噛合させている。そして、この状態で工具支持ユニットの工具を回転させることにより、ワークと工具とを連れ周りさせ、ワークの加工を行っている。
【0003】
上記の歯車加工装置では、工具支持ユニットのハウジングに2つの工具を設け、これらが軸方向に移動可能に支持されている。そして、加工を行う際には、いずれか一方の工具をハウジングの軸方向の中央付近に移動し、歯車の加工を行っている。これにより、2つの工具を用いることができるため、例えば、段取時間を短縮したり、あるいは種類の異なる工具を設けることで複数種の加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この構成では、ハウジング内で工具を移動させるための機構が必要になり、装置の構造が複雑になるおそれがある。本発明は、上記問題を解決するためなされたものであり、簡易な構成で、複数の工具による加工が可能な歯車加工装置、歯車加工方法、及び歯車加工プログラムを提供することを目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る歯車加工装置は、基台と、前記基台上に配置され、内歯車状の第1工具及び第2工具を有する工具支持ユニットと、前記基台上に配置され、被加工歯車を回転自在に支持するワーク支持ユニットと、前記工具支持ユニット及び前記ワーク支持ユニットの駆動を制御する制御部と、を備え、前記第1工具及び前記第2工具は、当該各工具の軸方向に間隔をあけて移動不能に固定され、前記各工具が、前記被加工歯車と噛み合って加工を行うように構成され、前記ワーク支持ユニットは、前記工具支持ユニットに対し、前記被加工歯車の軸方向に沿う第1方向に相対的に移動可能となっており、前記ワーク支持ユニットは、前記被加工歯車に対し、前記工具を近接離間する第2方向に相対的に移動可能となっており、前記工具支持ユニットは、前記基台上で垂直方向に延びる垂直軸周りに回転可能となっており、前記制御部は、前記第1工具及び前記第2工具の一方を、前記被加工歯車を加工する加工用工具として設定し、前記加工用工具を前記被加工歯車と噛み合う位置に移動させた上で、当該被加工歯車の加工を行うように構成されている。
【0007】
上記歯車加工装置において、前記制御部は、前記加工用工具が、前記被加工歯車と対向するように前記ワーク支持ユニットを相対的に前記第1方向に移動するための移動距離を決定し、前記加工用工具と前記被加工歯車とが噛み合うように、前記ワーク支持ユニットを相対的に前記第2方向に移動するための移動距離を決定し、前記加工用工具の軸線と前記被加工歯車の軸線とが平行になるように、前記工具支持ユニットを相対的に前記垂直軸周りに回転するための回転角度を決定する用に構成することができる。
【0008】
上記歯車加工装置において、前記制御部は、前記ハウジングにおいて、前記第1工具と前記第2工具との間の軸方向の中心位置に仮想的な工具が配置されているとして、前記仮想的な工具と前記被加工歯車との噛み合いを初期設定として規定し、前記第1方向の移動距離、前記第2方向の移動距離、及び前記回転角度は、前記初期設定を基準に決定することができる。
【0009】
上記歯車加工装置において、前記制御部は、少なくとも1回の加工が終了する毎に、前記第1方向の移動距離、前記第2方向の移動距離、及び前記回転角度を算出するように構成することができる。
【0010】
本発明に係る歯車加工方法は、上述した歯車加工装置で行われる歯車加工方法であって、少なくとも前記第1工具及び前記第2工具の一方を、前記被加工歯車を加工する加工用工具として設定するステップと、前記加工用工具を前記被加工歯車と噛み合う位置に移動させた上で、当該被加工歯車の加工を行うステップと、を備えている。
【0011】
本発明に係る歯車加工プログラムは、上述した歯車加工装置のコンピュータで実行される歯車加工プログラムであって、前記第1工具及び前記第2工具の少なくとも一方を、前記被加工歯車を加工する加工用工具として設定するステップと、前記加工用工具を前記被加工歯車と噛み合う位置に移動させた上で、当該被加工歯車の加工を行うステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る歯車加工装置によれば、簡易な構成で、複数の工具による加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る歯車加工装置の一実施形態を示す正面図である。
【
図11】スペーサと第1工具をY方向から見た投影図(a)、スペーサと第1工具をX方向から見た投影図(b)である。
【
図12】スペーサと第1工具をY方向から見た投影図(a)、第1工具とワークとをX方向から見た投影図(b)、第1工具とワークとをZ方向から見た投影図((c)~(e))である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る歯車加工装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1、
図2、及び
図3は、それぞれ本実施形態に係る歯車加工装置の正面図、平面図、及び側面図である。なお、以下の説明では、
図1の左右をX軸方向、
図1の上下をZ軸、
図2の上下をY軸方向と称し、これを基準に説明をしていく。
【0015】
<1.歯車加工装置の概要>
図1~
図3に示すように、本実施形態に係る歯車加工装置は、被加工歯車であるワークを砥石により歯面を仕上げるための装置であり、基台1上に配置された工具支持ユニット2及びワーク支持ユニット3を備えている。工具支持ユニット2は、環状に形成され工具(砥石)が固定されたハウジング21を有しており、その軸方向が、概ねX軸方向に向くように配置されて、ワークWと噛合するようになっている。ワーク支持ユニット3は、ワークWを挟持する主軸台31と心押し台32とで構成されており、これらは、工具支持ユニット2を挟んで、基台1の両側に配置されている。また、この歯車加工装置には、工具支持ユニット2及びワーク支持ユニット3等の歯車加工装置の各種の駆動を制御する制御部が設けられている。以下、これらの構成について詳細に説明する。
【0016】
<1-1.ワーク支持ユニット>
次に、ワーク支持ユニット3について説明する。
図1及び
図2に示すように、ワーク支持ユニット3は、上述した主軸台31と、心押し台32とで構成されており、これらは、X軸方向に互いに近接離間し、ワークWを回転自在に挟持するようになっている。主軸台31は、基台1上に配置された支持ブロック33上に配置されており、この支持ブロック33が、Y軸方向に配置されたレール34上を移動可能となっている。Y軸方向の移動については、支持ブロック33に連結されたナット(図示省略)に、ボールねじ(図示省略)を螺合し、このボールねじを基台1に配置されたモータ332で駆動することで行われる。
【0017】
本実施形態の場合、支持ブロック33は、断面三角形状に形成されており、主軸台31が配置される支持面331が工具6との噛み合い位置から離れるにしたがって上方へ傾斜している。この支持面331には、X軸方向に配置されたレール35が配置されており、このレール35に沿って主軸台31がX軸方向に移動可能となっている。
図1に示すように、主軸台31の移動は、支持ブロック33に設けられたモータ333によって行われる。そして、主軸台31の先端には、X方向に突出しワークWを支持する軸部材311が回転自在に設けられており、内蔵されているモータ(図示省略)によって回転駆動する。
【0018】
心押し台32も同様に構成されており、基台1上をレール37を介してY軸方向に移動可能なテーブル36上に配置されている。テーブル36の移動は、
図2に示すように、基台1上に配置されたモータ((図示省略))、ボールねじ(図示省略)、ナット(図示省略)によって行われる。心押し台32自身もテーブル36上に配置されたレール38を介してテーブル36上をX軸方向に移動可能となっている。また、心押し台32の先端には、ワークWを支持する軸部材321が回転自在に設けられており、主軸台31の軸部材311との間で、ワークWを挟持するようになっている。主軸台31と心押し台32とは、一体的にY軸方向に移動するように制御されており、両者がワークWを狭持した状態でY軸方向に移動し、ワークWを工具支持ユニット2の工具に近接離間するようになっている。
【0019】
<1-2.工具支持ユニット>
まず、工具支持ユニットについて、
図4を詳細に説明する。
図4は
図1のA-A線断面図である。工具支持ユニット2のハウジング21は、ワークWに交差角を形成したりクラウニングを施すために、Y軸周り、及びZ軸周りに回転可能となっている。そのため、工具支持ユニット2は、基台1上に配置され、上述したハウジング21を支持する支持体23を備えている。
図4に示すように、この支持体23は基台1上をZ軸周りに回転可能な基部231と、この基部231の両端からそれぞれ上方に延びる支持柱232、233とを有し、本実施形態の場合では、全体としてU字型に形成されている。ここでは、
図4の右側に配置される支持柱を第1支持柱232、左側に配置される支持柱を第2支持柱233と称する。そして、ハウジング21には、径方向外方へY軸方向にそれぞれ反対方向へ突出する第1軸部材234(
図4の右側)及び第2軸部材235(
図4の左側)が取り付けられており、各支持柱232、233に回転自在に支持されている。これにより、両支持柱232、233の間に配置されたハウジング21は、両軸部材234,235を中心にY軸周りに回転可能となっている。
【0020】
次に、ハウジング21のY軸周りの回転を駆動する駆動機構について、
図5も参照しつつ説明する。
図5は
図3のB-B線断面図である。
図4に示すように、第1軸部材234の端部には、はすば歯車236が取り付けられている。また、
図5に示すように、第1支持柱232の内部には、はすば歯車236と噛み合うネジ歯車237が設けられている。このネジ歯車237は、上下方向に延びる回転軸238に取り付けられており、この回転軸238はモータ239によって回転駆動されるようになっている。したがって、モータ239を駆動すると、ネジ歯車237が回転し、これに伴ってはすば歯車236が第1軸部材234とともに回転する。これにより、ハウジング21がY軸周りに回転する。
【0021】
続いて、ハウジング21のZ軸周りの回転機構について、
図6も参照しつつ説明する。
図6は、
図4のC-C線断面図である。
図4に示すように、支持体23は、ハウジング21を支持するものであるが、支持体23の基部231は、ハウジング21の下部に沿うように、円弧状に形成されている。これに対応するように、基台1において支持体23が配置される箇所には、支持体23を配置するための凹部11が形成されている。この凹部11には、上方へ突出する円柱状の軸部材12が取り付けられており、この軸部材12は、支持体23の基部231の下面に形成された貫通孔2311に回転自在に嵌め込まれている。また、貫通孔2311の上面は蓋部材2312によって閉じられている。軸部材12は、ハウジング21の中心からずれた位置に設けられており、工具6とワークWとが噛み合う位置Qのほぼ真下に設けられている。したがって、ハウジング21は、工具6とワークWとが噛み合う位置を通る垂直軸P周りに回転するようになっている。また、
図4及び
図6に示すように、基台1の凹部11におけるY軸方向の両端部には、円弧状の摺動プレート13がそれぞれ配置されており、この摺動プレート13上に支持体23の基部231の両端部が載っている。基部231の両端部の下面には、複数のローラ2313が取り付けられており、摺動プレート13上を転がるようになっている。このような摺動プレート13及びローラ2313によって、支持体23は、基台1上を円滑に回転することができる。
【0022】
続いて、支持体23のP軸周りの回転を駆動する駆動機構(支持体駆動機構)(同上)について、
図7及び
図8も参照しつつ説明する。
図7は
図4のD-D線断面図、
図8は
図6からの動作図である。
図6に示すように、支持体23の基部231の端部(
図7の左側)にはブラケット24を介して、円筒状の回転部材25が回転自在に取り付けられている。この回転部材25は、ブラケット24に取り付けられた上下方向に延びる軸部材241に回転可能に嵌まっている。そして、この回転部材25は、一対のアームを有する挟持部材26によりX軸方向から挟まれている。この挟持部材26はX方向に延びるレール261上を移動可能になっている。また、基台1の端部(
図6の右側)には、ブラケット271を介してモータ27が取り付けられており、このモータ27によってX軸方向に延びるボールネジ28が回転駆動される。ボールネジ28にはナット29が螺合しており、このナット29が、上述した挟持部材26に固定されている。
【0023】
この構成によって、モータ27が駆動すると、ボールネジ28が回転し、これに伴って、
図8に示すように、ナット29が挟持部材26とともにX方向に移動する。挟持部材26は、回転部材25を挟持しているため、回転部材25もX方向に移動する。このとき、回転部材25は、ブラケット24を介して支持体23に固定されているため、回転部材25の移動により、支持体23は、軸部材12を中心に角度αだけ揺動されることになる。なお、回転部材25は、挟持部材26に挟まれているだけであり、完全に固定されているわけではないので、ナット29の直線運動が揺動運動に変換されるとき、回転部材25は、挟持部材26のアームの間において、Y軸方向にわずかに移動可能であるため、支持体23はスムーズに揺動運動を行う。
【0024】
次に、ハウジングについて
図9を参照しつつ、説明する。
図9はハウジングの断面図である。
図9に示すように、ハウジング21は、環状に形成されており、その内周面に一対のベアリング201が配置されている。そして、このベアリング201には、ブラケット202を介して内歯車状の第1工具61及び第2工具62とスペーサ63とが固定されている。したがって、これら第1工具61及び第2工具62とスペーサ63とは、ベアリング201を介してハウジング21の軸方向周りに対して回転可能となっている。スペーサ63は、環状に形成され、ハウジング21の軸方向の中央付近に固定されている。そして、スペーサ63を挟んで第1工具61及び第2工具62が着脱自在に固定されている。
【0025】
図示を省略するが、本実施形態では、各工具61,62及びスペーサ63は、モータにより回転するようになっている。そのため、ブラケット202の外周面には環状のロータ部が固定されている。また、ハウジング21の内壁面には、ロータ部と対向する位置にステータ部が配置されており、これらロータ部及びステータ部により、ブラケット202が各工具61,62及びスペーサ63とともに回転するようになっている。さらに、工具61,62の回転位置は、ブラケット202に固定される環状の磁気メモリ付スケールと、ハウジング21に固定される磁気エンコーダとで検出可能となっている。
【0026】
<1-3.制御部>
続いて、制御部4について、
図9を参照しつつ説明する。
図9に示すように、制御部4は、CPU41,RAM(図示省略)、及び記憶部42を有するPLCや汎用のコンピュータによって構成することができ、歯車加工装置の各種の駆動を制御するようになっている。
【0027】
記憶部42には、後述するように、2つの加工具61,62の少なくともいずれかにより加工を行うための制御プログラム421、工具の形状等の情報を有する工具データ422、工具支持ユニット2及びワーク支持ユニット3等の装置に関する装置データ423、が記憶されている。その他、この制御部4の記憶部42には、ワークWの加工を始め、歯車加工装置を駆動するための各種のデータが記憶されている。また、制御部4には、タッチパネル、キーボード等の入力手段とディスプレイ等の表示手段を有する操作パネル5が接続されており、この操作パネル5を通じて、歯車加工装置の操作を行うようになっている。
【0028】
<2.ワークと工具との噛み合わせのための制御>
次に、制御部4によるワークWと工具61,62との噛み合わせのための制御について説明する。本実施形態に係る歯車加工装置では、2つの工具61,62が設けられているため、少なくともいずれか一方を選択する。選択された工具を加工用工具と称することがある。以下では、
図9に示す左側の第1工具61が加工用工具として選択され、この工具によりワークを加工する例について説明する。
【0029】
一般的には、工具はハウジング21の軸方向の中央に配置されているため、中央に配置されている工具とワークとが噛み合うように加工のための各種の設定されている。すなわち、工具とワークWとのX方向、Y方向、及びZ軸周りの位置関係が設定されている。以下、この位置関係に関する設定を初期設定と称することとする。これに対して、本実施形態では、ハウジング21の中央に配置されたスペーサ63を挟んで2つの工具61,62が配置されているため、いずれかの工具61,62を選択した場合には、選択された加工用工具とワークに関する、X方向、Y方向、及びZ軸周りの3つの位置関係の調整が必要となる。以下、この調整について、
図11及び
図12を参照しつつ説明する。
図11(a)はスペーサと第1工具をY方向から見た投影図、
図11(b)はスペーサと第1工具をX方向から見た投影図、
図12(a)はスペーサと第1工具をY方向から見た投影図、
図12(b)は第1工具とワークとをX方向から見た投影図、
図12(c)~
図12(e)は第1工具とワークとをZ方向から見た投影図である。
【0030】
一般的には工具はハウジング21の軸方向の中央に配置されているが、本実施形態では、ハウジング21の中央にスペーサ63が配置されているため、このスペーサ63の位置に工具が配置されているとして上述した初期設定がなされている。したがって、以下では、第1工具61を加工用工具としたときに、初期設定からどのように調整を行えばよいかについて説明する。なお、以下の調整は、上述した制御プログラムにより実行される。
【0031】
まず、X方向の調整について説明する。
図11(a)に示すように、初期設定ではワークWがスペーサ63と対向する位置で噛み合わせを行うように設定されているが、これを第1工具61と対向する位置に位置決めする必要がある。すなわち、初期設定としてスペーサ61と対向する仮想位置のワークW’を、第1工具61と対向させるため、ワークWを相対的にX方向に移動させる。このとき、スペーサ63の軸方向の中央線L0と、第1工具61の軸方向の中央線L1との距離をK、交差角をφとすると、X方向の移動量Xaは、以下の式(1)により算出される。
Xa=K/cosφ (1)
【0032】
こうしてワークをXaだけ相対的に移動させると、
図11(b)に示す位置にワークWが移動する。
図11(b)は、第1工具61及びスペーサ63をX方向から見たときの投影図である。ワークWが
図11(b)に示す位置にあると、第1工具61とワークWとの噛み合い量が大きすぎるため、ワークWの切り込み量をYaだけ小さくする必要がある。
【0033】
まず、第1工具61の軸心は、スペーサ63の軸心よりもZa高い位置にある。Zaは以下の式(2)により算出される。
Za=K/sinφ (2)
【0034】
次に、
図11(b)に示すように、
図11(a)でX方向に移動した後のワークWの軸心S0と第1工具61の軸心S1との距離Bとすると、Y方向の移動距離Yaは、以下の式(3)の関係を有するため、この式(3)からYaが算出される。そして、ワークWをYaだけ第1工具61から離すと、第1工具61に対するワークWの切り込み量が適切になる。
Ya
2=B
2-Za
2 (3)
【0035】
続いて、
図12を参照しつつ、第1工具61とワークWの位置関係を説明する。ハウジング21は、Z軸周りに回転しているため、
図12(a)~
図12(c)に示すように、第1工具61のスペーサ63側の端面(以下、内側端面という)と、内側端面と反対側の端面(以下、外側端面という)とはX方向に対して平行ではなく、交差している。そのため、ワークWの歯と第1工具61の歯とは平行に接触していない。そのため、この状態で加工を行うと、歯幅方向の削り量が一定にならない。これに対して、
図12(d)に示すように、ワークWの歯と第1工具61の歯が平行になるように、ハウジング21をZ軸周りに回転される。この回転により、ワークWと第1工具61とが離れるため、
図12(e)に示すように両者のY方向の距離を再度調整する。
【0036】
こうして、ワークWを第1工具61で加工する際の噛み合い位置の調整が完了する。一方、ワークWを第2工具62で加工する際には、上記とは反対側にワークWを第2工具62に対して相対的に移動すればよい。
【0037】
以上のような噛み合い位置の調整は、ワークの加工毎に行われる。以下の表1は、1回目~3回目の加工における噛み合い位置の調整の例を示す表である。このように制御部4では、1回の加工毎に噛み合い位置の調整を行った上で、加工を行うようにしているが、この調整は、例えば、2回毎、3回毎など、適宜変更可能である。なお、この表1に示すデータは、工具データ422及び装置データ423として記憶部42に記憶されている。
【表1】
【0038】
表1はドレス加工を実施するたびに、工具支持ユニット2の旋回軸であるY軸を変化させた加工時の、最終の各軸の座標を示している。ドレス加工を行うたびにY軸の位置(補正前交差角Θ(Y))が変化し、ワークとの歯数が異なった場合、ワーク加工時のY軸位置(補正後交差角(Y))が求まる。その値に対して、Y軸旋回中心がオフセットしている分、各軸の補正を入れて加工位置(補正後加工開始位置(Z),補正後加工中心座標(X))とする。表中の0→3は、ワーク加工時の補正した際の各軸位置になり、本位置での加工中はドレスを実施するまでは、変化しない。
【0039】
加工を行う際には、例えば、以下の表2に示すような事項を操作パネル5によって入力した上で、加工を行う。
【表2】
【0040】
なお、上述した移動距離は、加工開始時に1回算出すれば、次の加工からは1度算出した結果を採用して、移動を行うこともできる。
【0041】
<3.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、2つの工具61,62をハウジング21に固定した上で、制御部4によって、一方の工具61,62とワークWの噛み合い位置を制御することができる。そのため、従来例のような工具を移動させるための機構が不要になり、装置の構成を簡素化することができる。これにより、例えば、2段ギアなどの複数の歯車を有するギアの加工を、工具の交換を行うことなく、行うことができる。また、同じ工具を設けた場合には、工具の交換を行うことなく、長時間に亘る加工が可能となる。
【0042】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0043】
(1)例えば、上記実施形態では、工具支持ユニット2を固定し、ワーク支持ユニット3を工具支持ユニット2に近接させることで、加工を行っているが、これとは反対に、ワーク支持ユニット3を固定し、工具支持ユニット2を移動させても良い。また、ワーク支持ユニット3においては、主軸台31と心押し台32とでワークWを狭持しているが、主軸台31のみでワークWを支持するような形態であってもよい。
【0044】
(2)上記実施形態では、工具支持ユニット2のハウジングの中にビルトインのモータを配置しているが、工具支持ユニット2の外部にモータを配置し、ギアやモータなどの機構を介して工具支持ユニット2内の工具61,62を回転させることもできる。
【0045】
(3)上記実施形態では、スペーサ63が配置されている位置に仮想的な工具が配置されているとして、この仮想的な工具とワークWとの噛み合い位置を基準に、第1工具61又は第2工具62とワークWとの噛み合い位置を調整しているが、これに限定されない。すなわち、仮想的な工具の位置は、スペーサ63が配置されている位置に限定されず、他の位置であってもよい。
【0046】
(4)各工具は、一連の加工の間、使用し続けることもできるし、例えば、2回の加工を第1工具61と第2工具62を使用して行うこともできる。
【符号の説明】
【0047】
2 工具支持ユニット
21 ハウジング
23 支持体
25 回転部材
3 ワーク支持ユニット
4 制御部
61 第1工具
62 第2工具