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  • 特開-歯車加工装置及び歯車加工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146642
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/20 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B23F5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059669
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】大西 洋一
(72)【発明者】
【氏名】黒川 泰浩
(57)【要約】
【課題】交差角が小さくても、被加工歯車を適切に加工することができる、歯車加工装置及び歯車加工方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る歯車加工装置は、被加工歯車を支持するワーク支持ユニットと、被加工歯車に噛合する内歯車状の工具を支持する工具支持ユニットと、を備え、前記ワーク支持ユニットは、環状のハウジングと、前記ハウジングの内周側に回転自在に配置される環状の工具支持体と、前記工具支持体の内周側に取り付けられる、前記工具と、前記工具の回転軸と前記被加工歯車の回転軸との交差角を形成するために、前記ハウジングを前記ワーク支持ユニットに対して相対的に回転させる回転機構と、を備え、前記工具の回転速度が1500rmp以上、前記交差角が8°未満で、前記被加工歯車の加工を行うように構成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工歯車を支持するワーク支持ユニットと、
被加工歯車に噛合する内歯車状の工具を支持する工具支持ユニットと、
を備え、
前記ワーク支持ユニットは、
環状のハウジングと、
前記ハウジングの内周側に回転自在に取り付けられる、前記工具と、
前記工具の回転軸と前記被加工歯車の回転軸との交差角を形成するために、前記ハウジングを前記ワーク支持ユニットに対して相対的に回転させる回転機構と、
を備え、
前記工具の回転速度が1500rmp以上、前記交差角が8°未満で、前記被加工歯車の加工を行うように構成されている、歯車加工装置。
【請求項2】
前記工具の回転速度が2000rmp以上、前記交差角が6°以下で、前記被加工歯車の加工を行うように構成されている、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記工具と前記被加工歯車との相対すべり速度が、2.0m/s以上である、請求項1または2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記工具の外径が500mm以下である、請求項1または2に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
被加工歯車を支持するワーク支持ユニットと、被加工歯車に噛合する内歯車状の工具を支持する工具支持ユニットと、を備える歯車加工装置による歯車加工方法であって、
前記工具の回転軸と前記被加工歯車の回転軸との交差角を8°未満に設定するステップと、
前記交差角における、前記工具と前記被加工歯車との相対すべり速度が所定速度以上となるように、前記工具の回転速度を1500rmp以上に設定するステップと、
前記被加工歯車を前記工具によって加工するステップと、
を備えている、歯車加工方法。
【請求項6】
前記工具の回転速度を2000rmp以上、前記交差角を6°以下に設定する、請求項5に記載の歯車加工方法。
【請求項7】
前記工具と前記被加工歯車との相対すべり速度が、2.0m/s以上となるように、前記工具の回転速度を1500rmp以上に設定する、請求項5または6に記載の歯車加工方法。
【請求項8】
前記工具の外径が500mm以下である、請求項5または6に記載の歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯車に対する仕上げ加工として、例えばホーニング加工が知られている。これらの加工においては、加工対象となるワーク(被加工歯車)と砥石用歯車とを互いに噛み合わせた状態で、回転させて仕上げ加工を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ホーニング加工を行う歯車加工装置が記載されている。この装置では、加工対象となる歯車は、一対の固定具により軸方向の両端から挟むことで支持されており、この歯車を内歯車状の工具を有する環状の工具に噛み合わせる。そして、この状態で工具と歯車とを連れ周り回転させることにより、歯車の仕上げを行っている。
【0004】
また、ワークを加工するためには、ワークの回転軸と工具の回転軸とが交差するように交差角を形成する必要がある。そのために、工具は、直径方向に延びる軸周りに回転するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-18080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年は、加工対象となる歯車が多岐に亘り、例えば、複数の歯車が共通の回転軸で連結された多段ギアの加工が行われている。このような多段ギアを加工する際には、一方の歯車を加工中に工具が他方の歯車に干渉しないようにしなければならない。そのためには、交差角を小さくする必要があるが、交差角を小さくすると、加工のために必要な相対すべり速度を得ることができないおそれがあり、それによって被加工歯車を適切に加工できない可能性があった。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、交差角が小さくても、被加工歯車を適切に加工することができる、歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係る歯車加工装置は、被加工歯車を支持するワーク支持ユニットと、被加工歯車に噛合する内歯車状の工具を支持する工具支持ユニットと、を備え、前記ワーク支持ユニットは、環状のハウジングと、前記ハウジングの内周側に回転自在に配置される環状の工具支持体と、前記工具支持体の内周側に取り付けられる、前記工具と、前記工具の回転軸と前記被加工歯車の回転軸との交差角を形成するために、前記ハウジングを前記ワーク支持ユニットに対して相対的に回転させる回転機構と、を備え、前記工具の回転速度が1500rmp以上、前記交差角が8°未満で、前記被加工歯車の加工を行うように構成されている。
【0008】
本発明の第2の観点に係る歯車加工装置は、上記第1の観点に係る歯車加工装置において、前記工具の回転速度が2000rmp以上、前記交差角が6°以下で、前記被加工歯車の加工を行うように構成されている。
【0009】
本発明の第3の観点に係る歯車加工装置は、上記第1または第2の観点に係る歯車加工装置において、前記工具と前記被加工歯車との相対すべり速度が、3.5m/s以上である。
【0010】
本発明の第4の観点に係る歯車加工装置は、上記第1から第3のいずれかの観点に係る歯車加工装置において、前記工具の外径が500mm以下である。
【0011】
本発明の第5の観点に係る歯車加工方法は、被加工歯車を支持するワーク支持ユニットと、被加工歯車に噛合する内歯車状の工具を支持する工具支持ユニットと、を備える歯車加工装置による歯車加工方法であって、前記工具の回転軸と前記被加工歯車の回転軸との交差角を8°未満に設定するステップと、前記交差角における、前記工具と前記被加工歯車との相対すべり速度が所定速度以上となるように、前記工具の回転速度を1500rmp以上に設定するステップと、前記被加工歯車を前記工具によって加工するステップと、を備えている。
【0012】
本発明の第6の観点に係る歯車加工方法は、上記第5の観点に係る歯車加工方法において、前記工具の回転速度を2000rmp以上、前記交差角を6°以下に設定する。
【0013】
本発明の第8の観点に係る歯車加工方法は、上記第5または第6の観点に係る歯車加工方法において、前記工具と前記被加工歯車との相対すべり速度が、2.0m/s以上となるように、前記工具の回転速度を1500rmp以上に設定する。
【0014】
本発明の第9の観点に係る歯車加工方法は、上記第5から第7のいずれかの観点に係る歯車加工方法において、前記工具の外径が500mm以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、交差角が小さくても、被加工歯車を適切に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る歯車加工装置の斜視図である。
図2図1の正面図である。
図3図1の平面図である。
図4図1の工具ユニットの側面図である。
図5図1の工具ユニットの斜視図である。
図6図4におけるハウジングの部分断面図である。
図7】加工対象となる多段ギアの一例を示す側面図である。
図8】相対すべり速度の算出方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る歯車加工装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1図2、及び図3は、それぞれ本実施形態に係る歯車加工装置の斜視図、正面図、及び平面図である。なお、以下の説明では、図1の左右をX軸方向または左右方向、図1の上下をZ軸または上下方向、図2の上下をY軸方向または前後方向と称し、これを基準に説明をしていく。但し、本発明はこれらの方向に限定されるものではない。
【0018】
<1.歯車加工装置の概要>
図1図3に示すように、本実施形態に係る歯車加工装置は、基台1上に配置された工具ユニット2及びワーク支持ユニット3を備えている。工具ユニット2は、環状に形成され工具4が固定された環状のハウジング21を有しており、その軸方向が、概ねX軸方向に向くように配置されて、ワークWである歯車と噛合するようになっている。ワーク支持ユニット3は、ワークWを挟持する主軸台31と心押し台32とで構成されており、これらは、工具ユニット2を挟んで、基台1のX軸方向の両側に配置されている。
【0019】
まず、ワーク支持ユニット3について説明する。図1図3に示すように、ワーク支持ユニット3は、上述した主軸台31と、心押し台32とで構成されており、これらは、X軸方向に互いに近接離間し、ワークWを回転自在に挟持するようになっている。
【0020】
次に、主軸台31について説明する。主軸台31は、工具ユニット2を挟んで基台1上の左側に配置された第1支持フレーム311上に配置されている。第1支持フレーム311上には、両レール312に支持されY軸方向に傾斜して移動可能な第1支持ブロック313が配置されている。この第1支持ブロック313の下面にはナット(図示せず)が連結されており、このナットに、レール312と平行に延びるボールネジ(図示せず)が螺合している。このボールネジには、モータ316が連結されている。したがって、モータ316によりボールネジが回転すると、これによって、第1支持ブロック313が第1支持フレーム311の傾斜面310に沿ってY軸方向に移動する。
【0021】
第1支持ブロック313の上面には、X軸方向に平行に延びる一対のレール317が配置されており、これらレールに沿って主軸台31がX軸方向に移動可能となっている。主軸台31の下面にはナット(図示せず)が連結されており、このナットに、レール317と平行に延びるボールネジ(図示せず)が螺合している。このボールネジは、モータ3190が連結されている。したがって、モータ3190によりボールネジが回転すると、これによって、主軸台31が、第1支持ブロック313上をX軸方向に移動する。
【0022】
主軸台31の先端には、X方向に突出しワークWを支持する軸部材3101が回転自在に設けられており、内蔵されているモータ(図示省略)によって回転駆動する。
【0023】
次に、心押し台32について説明する。心押し台32も主軸台31と同様に構成されている。すなわち、心押し台32は、工具ユニット2を挟んで基台1上の右側に配置された第2支持フレーム321上に配置されている。第2支持フレーム321上には、両レール322に支持されY軸方向に傾斜して移動可能な第2支持ブロック323が配置されている。この第2支持ブロック323の下面にはナット(図示せず)が連結されており、このナットに、レール322と平行に延びるボールネジ(図示せず)が螺合している。このボールネジは、モータ326が連結されている。したがって、モータ326によりボールネジが回転すると、これによって、第2支持ブロック323が第2支持フレーム321の傾斜面320に沿ってY軸方向に移動する。
【0024】
第2支持ブロック323の上面には、X軸方向に平行に延びる一対のレール327が配置されており、これらレール327に沿って心押し台32がX軸方向に移動可能となっている。心押し台32の下面にはナット(図示せず)が連結されており、このナットに、レール327と平行に延びるボールネジ(図示せず)が螺合している。このボールネジは、モータ3290が連結されている。したがって、モータ3290によりボールネジが回転すると、これによって、心押し台32が、第2支持ブロック323上をX軸方向に移動する。
【0025】
また、心押し台32の先端には、ワークWを支持する軸部材3201が回転自在に設けられており、主軸台31の軸部材3101との間で、ワークWを挟持するようになっている。主軸台31と心押し台32とは、一体的にX軸方向及びY軸方向に移動するように制御されており、両者がワークWを狭持した状態でX軸方向及びY軸方向に移動し、ワークWを工具ユニット2の工具に対して近接離間するようになっている。
【0026】
次に、工具ユニット2について、図4及び図5を詳細に説明する。図4図1の工具ユニットの側面図、図5図1の工具ユニットの斜視図である。図4及び図5に示すように、工具ユニット2のハウジング21は、環状に形成されており、ワークWに対して交差角を形成したりクラウニングを施すために、Y軸方向に移動可能で、且つYZ平面内でY軸と傾斜する回転軸S周りに回転可能となっている。そのため、工具ユニット2は、基台1上に配置され、上述したハウジング21を支持する支持体23を備えている。また、ハウジング21は、上述した回転軸Sの両端で、支持体23によって回転可能に支持されている。すなわち、ハウジング21の回転軸Sの両端には、前端側に第1軸端部材41が取り付けられ、後端側に第2軸端部材42が取り付けられている。そして、これら第1及び第2軸端部材41,42が支持体23によって、支持されている。以下、支持体23について詳細に説明する。
【0027】
図4に示すように、この支持体23は基台1上をY軸方向に移動可能な基部231と、この基部231の前端部に設けられ、ハウジング21の第1軸端部材41を支持する第1支持部232と、基部231の後端部に設けられ、ハウジング21の第2軸端部材42を支持する第2支持部233と、を備えている。基部231は、側面視において、上方に向かって傾斜した前端面2311、この前端面2311に連続し円弧状に形成された中央面2312、及び中央面2312の後端に連続し上方に向かって傾斜した後端面2313を有しており、これらの面が、前方から後方へこの順で並んでいる。前端面2311と後端面2313の傾斜角度は、ワーク支持ユニット3の傾斜面と同じである。この構成において、後端面2313は、前端面2311よりも高い位置にあり、前端面2311には第1支持部232が取り付けられ、後端面2313に第2支持部233が取り付けられる。
【0028】
そして、ハウジング21の第1軸端部材41が第1支持部232によって回転可能に支持されるとともに、第2軸端部材42が第2支持部233によって回転自在に支持される。これにより、ハウジング21は、上記傾斜角度で延びる回転軸S周りに回転可能となっており、ハウジングを回転軸S周りに回転させることで、工具4の回転軸とワークWの回転軸とが交差する交差角を形成することができる。なお、中央面2312の円弧形状は、ハウジング21に外周面に沿うようにしたものである。
【0029】
次に、ハウジング21を含む、工具ユニット2における工具の取付構造等について、図6を参照しつつ説明する。図6図4におけるハウジングの部分断面図である。
【0030】
図6に示すように、工具ユニット2は、全体として環状のハウジング21と、このハウジング21の内周側に一対のベアリング241、242を介して回転自在に設けられた工具支持体25と、この工具支持体25の内周面に取り付けられた、内歯車状の工具4と、を備えている。また、工具ユニット2には、工具支持体25をハウジング21に対して回転させるためのモータ(図示せず)が設けられている。したがって、工具支持体25がモータによって回転することで、工具4がハウジング21内で回転する。以下、各部材について、詳細に説明する。
【0031】
<2.加工条件の設定>
次に、加工条件の設定について説明する。本実施形態においては、例えば、図7に示すような複数の歯車が一体化された多段ギアを加工対象とする。図7に示す多段ギアは、第1ギア81と、この第1ギア81よりも外径の小さい第2ギア82が共通の回転軸83によって、所定間隔をおいて連結されている。そのため、例えば、第2ギア82を加工する際には、図7に示すように、ワークWと第2ギア82との交差角θが大きいと、工具4が第1ギア81と干渉するおそれがある。したがって、交差角θは、工具ユニット2の設置スペースを考慮すると、できるだけ小さいことが好ましい。
【0032】
しかしながら、交差角θが小さいと、工具4ねじれとワークWねじれとの相対すべり速度が小さくなり、適切な加工を行えないおそれがある。図8に示すように、相対すべり速度Vsは、工具速度Vcとワーク速度Vgのベクトルの差から算出される。以下の表1は、工具4の回転速度が一般的な1000rpmである場合の加工条件の例である。この例では、交差角θが11°、相対すべり速度が3.70m/sであり、適切な加工を行えることが確認されている。しかしながら、この条件における交差角θ(11°)では、工具4と第1ギア81とが干渉してしまうため、交差角θを小さくする必要があるが、交差角θが小さくなると相対すべり速度(以下の表の加工すべり速度)が小さくなってしまう。例えば、交差角を4°に設定すると、相対すべり速度が1.26m/sになり、十分な加工が行えないことが確認されている。そこで、本実施形態では、工具4の回転速度を大きくすることで、加工に必要な相対すべり速度が得られるようにしている。
【表1】
【0033】
加工に際しては、まず、多段ギアにおいて第2ギア82の加工中に工具4が第1ギア81に干渉しないように、交差角θを決定する。このような交差角θとしては、例えば、8°未満が好ましく、6°以下がさらに好ましく、4°以下が特に好ましい。そして、決定された交差角θにおいて、所定の相対すべり速度が得られるような工具4の回転速度を算出する。工具4の回転速度は、所定の相対すべり速度が得られれば特には限定されないが、交差角θが小さい場合には、1500rpm以上が好ましく、2000rpm以上がさらに好ましく、2500rpm以上がより好ましく、3000rpm以上が特に好ましい。すなわち、工具の回転速度が高くなるほど、すべり速度を大きくすることができる。所定の相対すべり速度は、ワークWを適切に加工できる限りは特には限定されないが、例えば、2.0m/s以上が好ましく、3.0m/s以上であることがより好ましく、4.0m/s以上であることがさらに好ましく、5.0m/s以上であることが特に好ましい。
【0034】
こうして、交差角θと工具4の回転速度が決定すれば、後述するように、ワークWの加工を行う。なお、工具4の回転速度は、工具4の外径(工具径)が小さいほど、歯車加工装置への負荷が小さくなるため、高く設定しやすい。したがって、工具径は500mm以下が好ましく、400mm以下がさらに好ましく、350mm以下がより好ましい。
【0035】
以下、工具径毎の加工条件の例を挙げる。表2~表5は工具径が400mm、表6は工具径が350mm、表7は工具径が300mmのときの加工条件の設定の例を示している。
【表2】
【0036】
なお、加工滑り速度は、図8を参照とし、以下の式で算出することができる。
Vs=Vg*sinθ-Vc*sinθ
【0037】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0038】
例えば、表1と表2とを比べると、工具4の回転速度を3000rpmにすると、交差角が4°であっても、回転速度が1000rpmである場合と同程度の相対すべり速度が得られていることが分かる。
【0039】
<3.歯車加工装置の動作>
次に、上記のように構成された歯車加工装置の動作について説明する。まず、図2に示すように、ワークWを主軸台31の軸部材3101に取り付けた後、主軸台31及び心押し台32を互いに近接させ、ハウジング21の内方でワークWを挟持する。また、設定した交差角を形成するように、ハウジング21を回転軸S周りに回転させる。この状態で、主軸台31の軸部材3101をワークWとともに回転させる。これと並行して、モータ(図示せず)を駆動し工具ユニット2の工具4をワークWと同期するように、回転させる。続いて、主軸台31及び心押し台32を一体的にY軸方向に移動させ、ワークWを工具4に近接させる。そして、ワークWと工具4とを噛み合わせ、連れ廻りさせることで、ワークWの加工を行う。なお、ワークWと工具4とを同期して回転させることもできる。また、必要に応じて支持体23とともにハウジング21をY軸方向に移動させるとともに、主軸台31及び心押し台32をX方向に移動させることで、ワークWにクラウニングを施す。また、このような加工作業と同時に、工具4とワークWとの噛み合わせ部分に切削油を噴射し、加工部位の冷却、潤滑、切り屑除去を行う。こうして、所定時間加工を行った後、各モータの駆動を停止し、加工されたワークWを取り外す。なお、クラウニングの方法は、歯車加工装置の構成によって相違し、例えば、工具ユニットを垂直方向の軸周りに揺動させながら、主軸台31及び心押し台32をX方向に移動させることでもね行うことができる。
【0040】
<4.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、ワークWの形状による制限から、交差角θを小さくしなければならない場合であっても、工具4の回転速度を高くすることで、所望の相対すべり速度を得ることができるため、ワークWを適切に加工することができる。また、工具4の回転速度が高くなると、加工時間が短くなるという利点もある。
【0041】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜、組合せ可能である。
【0042】
上記実施形態では、多段ギアを加工対象としているが、これに限定されるものではなく、多段ギア以外の通常のギアを加工することもできる。例えば、歯車加工装置が設置された環境により、回転軸S周りのハウジング21の回転角度に制限があり、交差角を大きくできない場合にも、本発明を適用することができる。
【0043】
上記実施形態で示した歯車加工装置は、一例であり、少なくとも交差角を形成できるような回転機構が設けられていれば,特には限定されない。例えば、ワーク支持ユニット3においては、主軸台31と心押し台32とでワークWを狭持しているが、主軸台31のみでワークWを支持するような形態であってもよい。
【0044】
また、上記実施形態で説明した工具ユニットの構成は一例であり、内歯車状の工具を支持する工具支持体、ハウジングが設けられていればよく、その他の構成は適宜変更可能である。例えば、モータ以外の駆動部で工具を回転させてもよい。上述した工具ユニット2のハウジング21は、回転軸Sの両端で支持体23によって回転自在に支持されているが、回転軸の片側の端部でのみ回転自在に支持されていてもよい。
【0045】
また、工具ユニット2及びワーク支持ユニット3の少なくとも一方が移動し、歯車を加工できればよいため、これらの移動機構についても特には限定されない。
【符号の説明】
【0046】
2 工具ユニット
21 ハウジング
3 ワーク支持ユニット
4 工具
W ワーク(被加工歯車)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8