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特開2024-146645ストレッチャー用ヒートマット、およびそれを備えたストレッチャー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146645
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ストレッチャー用ヒートマット、およびそれを備えたストレッチャー
(51)【国際特許分類】
   A61F 7/03 20060101AFI20241004BHJP
   A61G 1/04 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
A61F7/08 332A
A61G1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059674
(22)【出願日】2023-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】523122067
【氏名又は名称】CK Company有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100199336
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 和之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 弘教
(57)【要約】
【課題】搬送時における低体温症を抑制し、電力消費を抑えつつ耐久性を高めたストレッチャー用ヒートマット、および、それを備えたストレッチャーを提供する。
【解決手段】ストレッチャー用ヒートマットは、第1方向(X軸方向)に並べられたマット部材11,12,13,14,15と、隣り合うマット断片同士をそれぞれ接続する、可とう性を持つ接続部材C12,C23,C34とを備える。マット断片12、マット断片13およびマット断片14は、患者を載置する表面側で、かつ、背中、臀部および腿部を支持する部分に配置された面状の発熱体H2,H3,H4を有し、所定の温度で発熱する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者を仰向けに載せて搬送するストレッチャー用ヒートマットであって、
それぞれクッション材を有し、第1方向に一列に並べられた板状の複数のマット断片と、
前記複数のマット断片のうち隣り合うマット断片同士をそれぞれ接続する、可とう性を持つ複数の接続部材と、
を備え、
前記複数のマット断片は、
頭部を支持する第1マット断片と、
背中を支持する第2マット断片と、
臀部を支持する第3マット断片と、
腿部を支持する第4マット断片と、を有し、
少なくとも前記第2マット断片、前記第3マット断片および前記第4マット断片は、患者を載置する表面側、かつ、背中、臀部および腿部を支持する部分に配置された面状の発熱体を有し、
前記発熱体を通電させることで、患者を載置する表面の表面温度は所定の温度になる、ストレッチャー用ヒートマット。
【請求項2】
前記複数のマット断片は、脹脛を支持する第5マット断片をさらに有する、請求項1に記載のストレッチャー用ヒートマット。
【請求項3】
前記複数のマット断片は、それぞれ全周を覆う複数のカバー材を有し、
前記複数の接続部材、および前記複数のカバー材は、撥水性または耐水性を持つ、請求項1に記載のストレッチャー用ヒートマット。
【請求項4】
前記複数の接続部材の前記第1方向の長さは、15cm以下であり、
隣り合う2つのマット断片は、前記第1方向に直交する第2方向から視て、前記2つのマット断片を接続する接続部材を屈曲させたときに、近接する角が面取りされている、請求項1から3のいずれかに記載のストレッチャー用ヒートマット。
【請求項5】
ストレッチャー本体と、前記ストレッチャー本体の上面に載置したストレッチャー用ヒートマットと、を備えるストレッチャーであって、
前記ストレッチャー用ヒートマットは、
それぞれクッション材を有し、第1方向に一列に並べられた板状の複数のマット断片と、
前記複数のマット断片のうち隣り合うマット断片同士をそれぞれ接続する、可とう性を持つ複数の接続部材と、
を備え、
前記複数のマット断片は、
頭部を支持する第1マット断片と、
背中を支持する第2マット断片と、
臀部を支持する第3マット断片と、
腿部を支持する第4マット断片と、を有し、
少なくとも前記第2マット断片、前記第3マット断片および前記第4マット断片は、患者を載置する表面側で、かつ、背中、臀部および腿部を支持する部分に配置された面状の発熱体を有し、
前記発熱体を通電させることで、患者を載置する表面の表面温度は所定の温度になる、ストレッチャー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送時における低体温症を効果的に抑制し、電力消費を抑えつつ耐久性を高めたストレッチャー用ヒートマット、および、それを備えたストレッチャーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、救急搬送の際や病院内等で、患者(病人や怪我人)を手術室や病室等へ搬送するためにストレッチャーが用いられている。しかし、ストレッチャー本体上に普通のマットが設置されているだけだと、特に冬場等ではマットが冷たいため、患者が低体温症になってしまい生命の危機に瀕する危険性がある。また、特に重症患者は体温が低下している場合が多く、電気毛布などを用いて患者を温めるといったことがしばしば行われている。しかし、この場合には、電気毛布の準備など事前に多くの手間と時間が必要となる。
【0003】
これらの対策として、例えば特許文献1には、ヒーター(発熱体)を断熱材とクッション材とで挟んでシーツ等のカバー材に収納した構造の電熱式マット、および、これを備えたストレッチャーが開示されている。これにより、電気毛布などを別途準備する必要なく患者の身体を温めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-093429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の電熱式マットの場合、ヒーターが全面に配置されているため、全身を一律に温めることができるが、効率は悪く電力の消費が大きい。そのため、安定した電源が取れる手術室などしか使えず、搬送中は使えないという問題があった。さらに、上記の電熱式マットでは一枚の大きな断熱材やクッション材を重ねた構成のため、複雑な形状のストレッチャー本体にフィットさせるのが難しく、大きく屈曲させるとその部分に大きな負荷や応力がかかる。また、ストレッチャー本体の変形に伴って電熱マットを何度も同じ箇所で屈曲させると、その部分の耐久性が下がるという問題もあった。
【0006】
本発明の目的は、本発明は、搬送時における低体温症を効果的に抑制し、電力消費を抑えつつ耐久性を高めたストレッチャー用ヒートマット、および、それを備えたストレッチャーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のストレッチャー用ヒートマットは、患者を仰向けに載せて搬送するものであって、
それぞれクッション材を有し、第1方向に一列に並べられた板状の複数のマット断片と、
前記複数のマット断片のうち隣り合うマット断片同士をそれぞれ接続する、可とう性を持つ複数の接続部材と、
を備え、
前記複数のマット断片は、
頭部を支持する第1マット断片と、
背中を支持する第2マット断片と、
臀部を支持する第3マット断片と、
腿部を支持する第4マット断片と、を有し、
少なくとも前記第2マット断片、前記第3マット断片および前記第4マット断片は、患者を載置する表面側で、かつ、背中、臀部および腿部を支持する部分に配置された面状の発熱体を有し、
前記発熱体を通電させることで、患者を載置する表面の表面温度は所定の温度になることを特徴とする。
【0008】
本発明のストレッチャーは、ストレッチャー本体と、前記ストレッチャー本体の上面に載置したストレッチャー用ヒートマットと、を備えるものであって、
前記ストレッチャー用ヒートマットは、
それぞれクッション材を有し、第1方向に一列に並べられた板状の複数のマット断片と、
前記複数のマット断片のうち隣り合うマット断片同士をそれぞれ接続する、可とう性を持つ複数の接続部材と、
を備え、
前記複数のマット断片は、
頭部を支持する第1マット断片と、
背中を支持する第2マット断片と、
臀部を支持する第3マット断片と、
腿部を支持する第4マット断片と、を有し、
少なくとも前記第2マット断片、前記第3マット断片および前記第4マット断片は、患者を載置する表面側、かつ、背中、臀部および腿部を支持する部分に配置された面状の発熱体を有し、
前記発熱体を通電させることで、患者を載置する表面の表面温度は所定の温度になることを特徴とする。
【0009】
従来の電熱式マットの場合、発熱体が全面に配置されているため、全身を一律に温めることができるが、効率は悪く電力の消費が大きい。そのため、安定した電源が取れる手術室などしか使えず、搬送中は使えないという問題があった。一方、上記構成によれば、人体の中で生命維持活動にとって重要な箇所(背中)や、体温を高めるのに効果的な太い血管などがある箇所(臀部や腿部)を支持する部分のみに、面状の発熱体が配置されている。この構成によれば、無駄な電力消費を抑えつつ、効果的に生命維持活動に必要な体温の確保が可能となる。
【0010】
また、発熱体が患者を載置する表面から離れた位置に配置されている場合には、患者の体温を上げるまである程度の時間が必要になる。本発明では、面状の発熱体が、患者を載置する表面側に配置されており、患者を載置する表面から発熱体まで距離が短いため、通電してから極めて短時間で所定の温度まで上昇させることができる。
【0011】
従来の電熱式マットでは一枚の大きな断熱材やクッション材を重ねた構成のため、曲がり難い。つまり、複雑な形状に変形するストレッチャー本体にフィットさせるのが難しく、大きく屈曲させると部分的に大きな負荷や応力がかかる。また、ストレッチャー本体の変形に伴って電熱マットを何度も同じ箇所で屈曲させると、その部分の部材の耐久性が下がってしまう。本発明では、可とう性を有する接続部材によって、複数のマット断片を連結する構造となっている。マット断片は硬く屈曲させるのは難しいが、この構成によれば、接続部材を曲げることで、従来の電熱式マットよりも任意の形状への変形が容易となり、耐久性にも優れたマットを実現できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、 本発明は、搬送時における低体温症を効果的に抑制し、電力消費を抑えつつ耐久性を高めたストレッチャー用ヒートマット、および、それを備えたストレッチャーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(A)はストレッチャー用ヒートマット100の平面図であり、図1(B)は発熱体H2,H3,H3の位置を示したストレッチャー用ヒートマット100の平面図である。
図2図2(A)はストレッチャー用ヒートマット100の正面図であり、図2(B)はストレッチャー用ヒートマット100の底面図である。
図3図3(A)はストレッチャー用ヒートマット100の左側面図であり、図3(B)はストレッチャー用ヒートマット100の右側面図である。
図4図4(A)は第2マット断片12の断面図であり、図4(B)は第3マット断片13の断面図である。
図5図5は、第4マット断片14の断面図である。
図6図6は、ストレッチャー用ヒートマット100を載せたストレッチャー300の斜視図である。
図7】。図7(A)はストレッチャーに足を上げた状態で患者3を載せたときのストレッチャー用ヒートマット100の正面図であり、図7(B)はストレッチャーに上半身を起こした状態で患者3を載せたときのストレッチャー用ヒートマット100の正面図である。
図8図8は、上半身を起こした状態で患者3を載せたときの従来の電熱式マット101の断面図である。
図9図9は、ストレッチャー用ヒートマット100の表面の温度上昇計測試験の結果を示した図である。
図10図10は、サーモスタットを36℃に設定した状態で、ストレッチャー用ヒートマット100の表面が36℃に到達した後の利用時計測試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以降、図を参照して具体的な例を挙げて、本発明を実施するための形態を示す。なお、各図において、各部の長さ・厚み等は誇張して図示しており、実際の寸法とは一致しない場合がある。また、本発明を実施するための形態において、記載した寸法はあくまでも例示であり、その数値のみに限定されるものではない。
【0015】
《第1の実施形態》
図1(A)はストレッチャー用ヒートマット100の平面図であり、図1(B)は発熱体H2,H3,H4の位置を示したストレッチャー用ヒートマット100の平面図である。図1(B)では、構造を分かりやすくするため、発熱体H2,H3,H4をドットパターンで示している。
【0016】
図2(A)はストレッチャー用ヒートマット100の正面図であり、図2(B)はストレッチャー用ヒートマット100の底面図である。図3(A)はストレッチャー用ヒートマット100の左側面図であり、図3(B)はストレッチャー用ヒートマット100の右側面図である。図4(A)は第2マット断片12の断面図であり、図4(B)は第3マット断片13の断面図である。図5は、第4マット断片14の断面図である。図6は、ストレッチャー用ヒートマット100を載せたストレッチャー300の斜視図である。図7(A)はストレッチャーに足を上げた状態で患者3を載せたときのストレッチャー用ヒートマット100の正面図であり、図7(B)はストレッチャーに上半身を起こした状態で患者3を載せたときのストレッチャー用ヒートマット100の正面図である。図8は、上半身を起こした状態で患者3を載せたときの従来の電熱式マット101の断面図である。
【0017】
図6に示すように、ストレッチャー300は、ストレッチャー本体200と、ストレッチャー本体200の上面に載置したストレッチャー用ヒートマット100とを備える。本発明の「ストレッチャー」は、自立歩行や車椅子での移動が困難な患者(病人や怪我人、老人等)を仰向けの状態で載せて、手術室や病院、施設等に搬送(移動)するために用いられる器具であり、例えば消防救急車用のストレッチャーである。本発明の「ストレッチャー用ヒートマット」は、上記のストレッチャーの上に載せるための専用のマットである。より具体的には、ストレッチャー用ヒートマット100は、FERNO(登録商標)社製のエクスチェンジモデルおよびモンディアルモデル専用のマットであり、両モデルのストレッチャーに載置可能である。さらに、FERNO(登録商標)社製のスカッドメイトモデルにも対応可能である。
【0018】
ストレッチャー用ヒートマット100は、クッション材を有する板状の複数のマット断片と、曲げやすく可とう性を持った複数の接続部材C12,C23,C34,C45を備える。図1(A)等に示すように、複数のマット断片の平面形状は長方形である。複数のマット断片は、第1マット断片11、第2マット断片12、第3マット断片13、第4マット断片14、および第5マット断片15を有する。ストレッチャー用ヒートマット100は、表面S1および裏面S2を有する。図7(A)、図7(B)および図8に示すように、表面S1は患者3を載置する面であり、裏面S2はストレッチャー本体に接する面である。
【0019】
図7(A)および図7(B)等に示すように、ストレッチャー用ヒートマット100に患者3を載せたときに、第1マット断片11は頭部を支持する部材であり、第2マット断片12は背中を支持する部材である。また、第3マット断片13は臀部を支持する部材であり、第4マット断片14は腿部を支持する部材であり、第5マット断片15は脹脛を支持する部材である。
【0020】
図1(A)等に示すように、第1マット断片11、第2マット断片12、第3マット断片13、第4マット断片14、第5マット断片15は、X軸方向(第1方向)にこの順番で一列に並べられている。接続部材C12は、隣り合う第1マット断片11と第2マット断片12を接続(連結)している。接続部材C23は、隣り合う第2マット断片12と第3マット断片13を接続している。接続部材C34は、隣り合う第3マット断片13と第4マット断片14を接続している。接続部材C45は、隣り合う第4マット断片14と第5マット断片15を接続している。なお、接続部材C12,C23,C34,C45の第1方向の長さは15cm以下である。
【0021】
第1マット断片11の外形寸法は、例えば図1(A)において上下方向(Y軸方向)の長さが460mm、左右方向(X軸方向)の長さが175mm、厚み(Z軸方向の厚み)が55mmである。第2マット断片12の寸法は、例えば図1(A)において上下方向の長さが460mm、左右方向の長さが490mm、厚みが55mmである。第3マット断片13の寸法は、例えば図1(A)において上下方向の長さが460mm、左右方向の長さ190mm、厚み55mmである。第4マット断片14の寸法は、図1(A)において上下方向の長さが460mm、左右方向の長さが370mm、厚みが55mmである。第5マット断片15の寸法は、図1(A)において上下方向の長さが390mm、左右方向の長さが520mm、厚みが55mmである。
【0022】
複数のマット断片(第1マット断片11、第2マット断片12、第3マット断片13、第4マット断片14、および第5マット断片15)は、クッション材、カバー材等を有する。クッション材は、適度な弾力性を持つ部材であり、例えばウレタンである。カバー材は、マット断片の全周を覆っている部材であり、撥水性または耐水性を持つ。クッション材の密度は例えば30.0±2.4kg/mであり(JIS.K7222)、硬さは25%圧縮時130±23N、40%圧縮時140±24Nである(JIS.K6400)、反発弾性は42%以上である(JIS.K6400-3)。なお、カバー材および接続部材は、通気性素材ではなく、貫通孔も無く、メッシュ加工もされていない。
【0023】
第2マット断片12、第3マット断片13および第4マット断片14は、面状の発熱体および断熱材をさらに有する。具体的には、第2マット断片12は、クッション材BC12、カバー材PL12、発熱体H2および断熱材TC12を有する。発熱体H2はクッション材BC12の表面に載置されており、断熱材TC12は発熱体H2上に載置されている。図4(A)に示すように、発熱体H2は、クッション材BC12と断熱材TC12の間に挟まれており、それらの全周がカバー材PL12で覆われている。第3マット断片13は、クッション材BC13、カバー材PL13、発熱体H3および断熱材TC13を有する。発熱体H3はクッション材BC13の表面に載置されており、断熱材TC13は発熱体H3上に載置されている。図4(B)に示すように、発熱体H3は、クッション材BC13と断熱材TC13の間に挟まれており、それらの全周がカバー材PL13で覆われている。第4マット断片14は、クッション材BC14、カバー材PL14、発熱体H4および断熱材TC14を有する。発熱体H4はクッション材BC14の表面に載置されており、断熱材TC14は発熱体H4上に載置されている。図5に示すように、発熱体H4は、クッション材BC14と断熱材TC14の間に挟まれており、それらの全周がカバー材PL14で覆われている。
【0024】
図1(A)、図2(A)、図4(A)、図4(B)および図5に示すように、面状の発熱体H2,H3,H4は、患者を載置する表面S1側、かつ、背中や臀部や腿部を支持する部分に配置されている。本明細書において「患者を載置する表面側に配置される」とは、表面S1から(裏面S2に向かって)、マット断片のZ軸方向の厚み(表面S1から裏面S2までの厚み)の1/3以下の位置に配置されていることを言う。
【0025】
発熱体H2,H3,H4は、通電させることでジュール熱を発生させる電熱ヒーターである。図1(B)に示すように、発熱体H2は、サーモスタットT2および導線CL2を介して接点1に接続されている。発熱体H3は、サーモスタットT3および導線CL3を介して接点1に接続されている。発熱体H4は、サーモスタットT4および導線CL4を介して接点1に接続されている。図示省略するが、接点1は、例えばシガーソケットプラグ(12V電源)である。シガーソケットプラグ12V電源に接続されている。
【0026】
発熱体H2,H3,H4は、患者の体温が35℃~37℃を維持できるよう所定の温度で発熱する。具体的には、第2マット断片12、第3マット断片13および第4マット断片14の表面S1の温度が34℃~38℃(所定の温度)となるよう調整されている。また、サーモスタットT2,T3,T4の設定温度、および断熱材TC12,TC13,TC14の厚みや材質によって、発熱体H2,H3,H4で長時間熱を発生したとしても、患者の体温が上がり過ぎないよう調整されている。具体的には、患者の体温が36.5℃(36℃~36.8℃)であることが好ましい。サーモスタットT2,T3,T4は、例えば36℃でOFFとなるよう設定されている。断熱材TC12,TC13,TC14の厚み(Z軸方向の厚み)は、例えば5mm(2mm~1cmの範囲内)である。
【0027】
図2(A)、図7(A)および図7(B)等に示すように、隣り合う第1マット断片11および第2マット断片12は、Y軸方向(第2方向)から視て、接続部材C12を屈曲させたときに、近接する角(第1マット断片11および第2マット断片12の表面S1側、かつ、接続部材C12に近接する角)が面取りされている。隣り合う第2マット断片12および第3マット断片13は、Y軸方向から視て、接続部材C23を屈曲させたときに、近接する角(第2マット断片12および第3マット断片13の表面S1側、かつ、接続部材C23に近接する角)が面取りされている。隣り合う第3マット断片13および第4マット断片14は、Y軸方向から視て、接続部材C34を屈曲させたときに、近接する角(第3マット断片13および第4マット断片14の表面S1側、かつ、接続部材C34に近接する角)が面取りされている。
【0028】
本発明のストレッチャー用ヒートマット100、および、それを備えるストレッチャー300によれば、次のような効果を奏する。
【0029】
(a)従来から、救急搬送の際や病院内等で、患者を手術室や病室等へ搬送するためにストレッチャーが用いられている。しかし、ストレッチャー本体に普通のマットが設置されているだけだと、特に冬場等ではマットが冷たいため、患者が低体温症になってしまい生命の危機に瀕する危険性がある。また、特に重症患者は体温が低下している場合が多く、電気毛布などを用いて患者を温めるといったことがしばしば行われている。しかし、この場合には、電気毛布の準備など事前に多くの手間と時間が必要となる。一方、本発明のストレッチャー用ヒートマット100は、患者を載せる表面S1側に発熱体が配置されている。この構成のヒートマットおよびそれを備えるストレッチャーを用いることで、身体を温めるために電気毛布等を別途準備する手間が省け、迅速かつ容易に患者の低体温症を抑制できる。
【0030】
(b)図8に示す従来の電熱式マット101の場合、発熱体H1(電熱ヒーター)が全面に配置されているため、全身を一律に温めることができるが、効率は悪く電力の消費が大きい。そのため、安定した電源が取れる手術室などしか使えず、搬送中は使えないという問題があった。
【0031】
生命の維持にとって重要な臓器が集中する上半身は人体の中でも大切な部位である。中でも脊髄が通っている背骨は非常に重要であり、この部位の温度が下がると、自律神経が乱れて各臓器の機能低下が起こって呼吸も浅くなり、結果的に生命維持活動に支障が出ることが知られている。さらに、臀部(特に骨盤の中心に位置する仙骨)や腿部にも、太い神経である坐骨神経や多数の血管が通っている。これらの理由から、胸や腹などを温めるよりも、背中や臀部などを温める方が低体温症を効果的に抑制できる。本発明のストレッチャー用ヒートマット100では、人体の中で生命維持活動にとって重要な箇所(背中)と、体温を高めるのに効果的な太い血管などがある箇所(臀部や腿部)を支持する部分のみに、面状の発熱体H2,H3,H4が配置されている。この構成によれば、無駄な電力消費を抑えつつ、効果的に生命維持活動に必要な体温の確保が可能となる。
【0032】
なお、ストレッチャー用ヒートマット100が備える接点1は、シガーソケットプラグ(12V電源)である。この構成によれば、救急車内のシガーソケットに接点1を挿し込むことで、救急車での搬送中にも体温調整が可能となる。また、上述したように消費電力が従来に比べて少なくなるため、停車中でも長時間の使用が可能となる。
【0033】
(c)発熱体が患者を載置する表面から離れた位置に配置されている場合(図8の従来の電熱式マット101を参照)には、患者の体温を上げるまである程度の時間が必要になる。本発明のストレッチャー用ヒートマット100では、面状の発熱体H2,H3,H4が、患者を載置する表面S1側に配置されている。この構成によれば、患者を載置する表面S1から発熱体H2,H3,H4まで距離が短いため、通電してから極めて短時間で所定の温度まで上昇させることができる。
【0034】
なお、表面S1と発熱体との間に断熱材が無いと、長時間の利用によって低温火傷を生じやすくなる。そのため、発熱体H2,H3,H4の上に断熱材を設けることが望ましい。但し、発熱体の上に設ける断熱体はある程度薄い方が好ましく、断熱材TC12,TC13,TC14の厚み(Z軸方向の厚み)は2mm~1cmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは、断熱材TC12,TC13,TC14の厚みは5mmである。
【0035】
さらに、本発明のストレッチャー用ヒートマット100に長時間、患者を載置させた場合の影響(安全性評価)のため、[イ]発熱体H2,H3,H4側の表面の「温度上昇計測試験」と、[ロ]サーモスタット36℃設定での「利用時計測試験」を行った。図9は、ストレッチャー用ヒートマット100の表面の温度上昇計測試験の結果を示した図である。図10は、サーモスタットを36℃に設定した状態で、ストレッチャー用ヒートマット100の表面が36℃に到達した後の利用時計測試験の結果を示した図である。
【0036】
[イ]図9に示すように、「温度上昇計測試験」では、サーモスタットを切った状態で、12分間、発熱体H2,H3,H4を発熱させたときの表面の温度を計測し、その後、人が載ってから12分間(患者搬送時)の表面の温度を計測した。発熱体H2,H3,H4は、切替スイッチによって発熱温度をHiとLoの2段階で切り替えられる。この「温度上昇計測試験」で示されたように、サーモスタット無しでも、搬送時において急激な温度上昇はなく、(切替スイッチがLoの場合でも)表面は37℃ほどであり、低温火傷になる温度(一般的に44℃以上)まで上昇することもなかった。
【0037】
[ロ]図10に示すように、「利用時計測試験」では、サーモスタットを36℃に設定し、切替スイッチHiにした状態でヒートマットの表面温度が36℃に到達してからの温度変化を計測した。この「利用時計測試験」で示されたように、表面温度が36℃に到達してから3分ほどで、表面温度が36℃以下まで低下することが分かった。[イ][ロ]の試験結果から示されるように、搬送時において、患者への身体への負担は少なく、安全性に問題がないことが分かった。
【0038】
(d)従来の電熱式マット101では一枚の大きな断熱材TC1やクッション材BC1を重ねた構成のため、曲げ難い。つまり、複雑な形状に変形するストレッチャー本体にフィットさせるのが難しく、大きく屈曲させるとその部分(例えば、図8の屈曲部BN1,BN2)に大きな負荷や応力がかかる。また、ストレッチャー本体の変形に伴って電熱マットを何度も同じ箇所で屈曲させると、その部分の部材(断熱材TC1やクッション材BC1等)の耐久性が下がってしまう。本発明のストレッチャー用ヒートマット100では、可とう性を有する接続部材C12,C23,C34,C45によって、複数のマット断片を連結する構造となっている。マット断片は硬く屈曲させるのは難しいが、この構成によれば、接続部材C12,C23,C34,C45を曲げることで、図8に示す従来の電熱式マット101よりも任意の形状への変形が容易となり、耐久性に優れたマットを実現できる。つまり、複雑な形状に変形するストレッチャー本体でもマットを容易にフィットさせることができる。
【0039】
また、複数のマット断片を一つずつストレッチャー本体200上に載置していくと、大きな手間と時間が必要になる。一方、この構成によれば、複数のマット断片が連結して一つになっているため、持ち運びが容易なマットを実現できる。
【0040】
(e)また、本発明において、接続部材C12,C23,C34,C45のX軸方向の長さは、15cm以下である。また、上述したように、隣り合う2つのマット断片は、Y軸方向から視て、2つのマット断片を接続する接続部材を屈曲させたときに、近接する角が面取りされている。この構成によれば、接続部材を曲げたときに隣り合うマット断片同士の角が当たらないため、接続部材C12,C23,C34,C45の屈曲させる(ストレッチャー用ヒートマット100を曲げる)のが容易となる。なお、接続部材C12,C23,C34,C45のX軸方向の長さが15cmよりも大きい場合には、接続部材を屈曲させても隣り合うマット断片が接触し難くなるため、面取りは不要である。但し、接続部材C12,C23,C34,C45のX軸方向の長さが15cmよりも大きい場合には、長尺になり過ぎるため、ストレッチャー用ヒートマット100の持ち運びが難しくなる。
【0041】
(f)発熱体が全面に配置された従来の電熱式マット101の場合、屈曲させることで一部分のみの温度が局所的に高まってしまうことがあり(図8中の屈曲部BN1を参考)、これが低温火傷の原因となる虞がある。一方、本発明では、可とう性を持つ接続部材のみを曲げてストレッチャー用ヒートマット100を所定の形状に変形させるのに対して、発熱体は曲がり難いマット断片のみに配置されている。この構成によれば、面状の発熱体を大きく屈曲させる必要がないため、一部分のみ温度が局所的に高まることは少ない。このため、ストレッチャー用ヒートマット100の安全性が高まる。
【0042】
(g)本発明では、発熱体が、患者の体温が34℃から38℃を維持できるよう所定の温度で発熱する。具体的には、発熱体を通電させることで、(例えば12分後)患者を載置する表面S1の表面温度が34℃~36℃(所定の温度)になるよう調整されている。あまりに体温が上がって血行が良くなり過ぎると、逆に身体への負荷がかかってしまうため、表面S1の表面温度はこの範囲が好ましい。
【0043】
(h)ストレッチャー用ヒートマットの弾力性が低く変形しやすいと、ストレッチャーに患者を載せたときに、身体が沈み込み無理な体制となって、(負荷が集中することで)身体を痛める原因にもなる。また、身体が沈み込み過ぎると、圧迫されて血行障害も起き得る。一方、本発明のストレッチャー用ヒートマット100では、複数のマット断片に分割されている上に、クッション材が適度な弾力性となっている。具体的には、クッション材BC12,BC13,BC14の硬さは例えば130±23N(25%圧縮:JIS.K6400-2)、または140±24N(40%圧縮:JIS.K6400-2)であり、密度は例えば30.0±2.4kg/m(JIS.K7222)である。この構成によれば、患者をストレッチャーに載置した際に、身体が沈み込み過ぎるのを防げるため、身体を痛めることや血行障害の発生を抑制できる。
【0044】
(i)カバー材PL12,PL13,PL14および接続部材C12,C23,C34,C45が撥水性または耐水性を持っていないと、患者の血液や汗、吐瀉物等がマットに接触した場合に、クッション材や断熱材等の奥まで染み込んでしまい、不衛生なだけでなく、感染症の原因になる虞がある。一方、本発明のストレッチャー用ヒートマット100は、カバー材PL12,PL13,PL14および接続部材C12,C23,C34,C45が撥水性または耐水性を持っており、複数のマット断片がそれぞれカバー材で全周が覆われている。カバー材PL12,PL13,PL14および接続部材C12,C23,C34,C45は、通気性素材ではなく、貫通孔やメッシュ加工部分はないため、簡単には水分を通さない。この構成によれば、患者の血液等が接触した場合でも拭くだけで衛生的な状態を維持できる。
【0045】
《その他の実施形態》
以上に示した実施形態では、複数のマット断片の平面形状が長方形である例を示したが、この構成に限定されるものではない。複数のマット断片の平面形状は、本発明の作用・効果を奏する範囲で適宜変更が可能である。複数のマット断片の平面形状は、多角形や楕円形等であってもよい。なお、本明細書において「板状」とは、扁平形状のことであり、例えば、一辺または直径(長軸と短軸がある場合は、長軸直径)が厚みの5倍以上である形状のことを言う。また、マット断片の表面S1および裏面S2は、平面に限定されず、多少の凹凸があってもよく、曲面であってもよい。さらに、複数のマット断片の寸法は、以上に示した実施形態に限らず、本発明の作用・効果を奏する範囲において適宜変更が可能である。
【0046】
なお、以上に示した各実施形態では、発熱体H2,H3,H4の平面形状が長方形である例を示した、この構成に限定されるものではない。マット断片全面に配置されていなければ、発熱体の平面形状は適宜変更が可能であり、例えば多角形、円形、楕円形、L字形、H字形、クランク形などでもよい。面状の発熱体は、最低限、背骨や臀部、腿部を支持する部分に配置される形状であればよい。
【0047】
なお、ストレッチャー用ヒートマット100では、接点1がシガーソケットプラグである事例を示したが、これに限定されるものではない。接点1は、例えばUSBコネクタ(3.7V~5V電源)等で、USB端子やモバイルバッテリーに挿して利用してもよい。モバイルバッテリー等に接続することで、電源の無い屋外でも利用できる(患者の体温の低下を防ぐことのできる)ヒートマット付きストレッチャーを実現できる。特に、屋外での救急搬送にヒートマットを用いる際は、どれくらい屋外で待機するか分からない場合もあるため、長時間の使用にも耐えるよう消費電力は極力小さい方が好ましい。したがって、本発明のストレッチャー用ヒートマット100は、発熱体が全面に配置された従来の電熱式マットよりも、屋外での救急搬送に適している。さらに、接点1は、スイッチを介して電源に接続されていてもよく、切替スイッチを介して電源に接続されていてもよい。切替スイッチで、電源を供給する発熱体の組み合わせを切り替えてもよい(発熱体H2,H3,H4のいずれか一つのみ、発熱体H2,H3、発熱体H2,H4、発熱体H3,H4等)。また、切替スイッチで、発熱体H2,H3,H4の電熱抵抗の直列/並列を切り替えて温度(発熱量)を変更してもよい。さらに、接点1に電圧調整器を接続して、温度調整をすることも可能である。
【0048】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 …接点
3 …患者
11 …第1マット断片
12 …第2マット断片
13 …第3マット断片
14 …第4マット断片
15 …第5マット断片
C12,C23,C34,C45 …接続部材
H1,H2,H3,H4 …発熱体
T2,T3,T4 …サーモスタット
CL2,CL3,CL4 …導線(リード線)
BC1,BC12,BC13,BC14 …クッション材
TC1,TC12,TC13,TC14 …断熱材
PL1,PL12,PL13,PL14 …カバー材
BN1,BN2 …屈曲部
S1 …(患者を載置する)表面
S2 …裏面
100 …ストレッチャー用ヒートマット
101 …電熱式マット
200 …ストレッチャー本体
300 …ストレッチャー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10